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特開2024-107682ブラケットおよび車両用スライドドア構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107682
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】ブラケットおよび車両用スライドドア構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/06 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
B60J5/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011733
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】大堀 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】大井 宏一郎
(57)【要約】
【課題】ブラケットの剛性を確保しつつ、電着塗装工程のサイクルタイムの増加を抑制するブラケットを提供する。
【解決手段】
車両に設けられるロアアーム30とスライダー40とを連結するヒンジブラケット50であって、互いに間隔を空けて対向する第1プレート51および第2プレート52と、閉断面部53とを有し、ヒンジブラケット50は、第1取付位置93にロアアーム30が取り付けられ、第2取付位置94にスライダー40が取り付けられるように構成され、ヒンジブラケット50において第1取付位置93と第2取付位置94は第1方向に離間しており、閉断面部53は、第1プレート51における第1方向に直交する第2方向の両端部514,515と、第2プレート52における第2の方向の両端部524,525とがそれぞれ接合されて形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる第1部材と第2部材とを連結するブラケットであって、
互いに間隔を空けて対向する第1プレートおよび第2プレートと、
閉断面部と、を有し、
前記ブラケットは、第1取付位置に前記第1部材が取り付けられ、第2取付位置に前記第2部材が取り付けられるように構成され、前記ブラケットにおいて前記第1取付位置と前記第2取付位置は第1方向に離間しており、
前記閉断面部は、前記第1プレートにおける前記第1方向に直交する第2方向の両端部と、前記第2プレートにおける前記第2の方向の両端部とがそれぞれ接合されて形成されている、ブラケット。
【請求項2】
前記第1取付位置は前記ブラケットの前記第1方向の一端側に位置し、前記第2取付位置は前記ブラケットの前記第1方向の他端側に位置し、
前記第1取付位置において、前記第1プレートと前記第2プレートは第1スペーサを介して互いに接合され、
前記第2取付位置において、前記第1プレートと前記第2プレートは第2スペーサを介して互いに接合されている、請求項1に記載のブラケット。
【請求項3】
前記ブラケットは、前記第1取付位置に加えて、前記第1取付位置と前記第2取付位置の間の第3取付位置に前記第1部材が取り付けられるように構成され、前記第3取付位置は前記閉断面部に位置する、請求項2に記載のブラケット。
【請求項4】
前記第2プレートは、前記第1方向の前記一端側から前記他端側に向かうにしたがって前記第1プレートとの間隔が小さくなるように傾斜した傾斜部と、前記傾斜部よりも前記一端側の第1平坦部と、前記傾斜部よりも前記他端側の第2平坦部とを有する、請求項3に記載のブラケット。
【請求項5】
前記第1取付位置は前記ブラケットの前記第1方向の一端側に位置し、前記第2取付位置は前記ブラケットの前記第1方向の他端側に位置し、
前記第1取付位置は前記閉断面部に位置し、
前記第2取付位置において、前記第1プレートと前記第2プレートはスペーサを介して互いに接合されている、請求項1に記載のブラケット。
【請求項6】
前記閉断面部は、前記第1プレートの前記両端部と前記第2プレートの前記両端部とが接合された接合部と、前記第1プレートと前記第2プレートとの間隔が一定である中間部と、前記中間部から前記接合部に向かって前記第1プレートと前記第2プレートとの間隔が徐々に小さくなるように前記第1プレートおよび前記第2プレートがそれぞれ湾曲した湾曲部とを含む、請求項1に記載のブラケット。
【請求項7】
車体の側面のドア開口部を開閉するためのドア本体と、
前記ドア開口部の下縁に沿って前記車体に配置されたスライドレールと、
前記ドア本体の下部から前記スライドレールに向かって延びるロアアームと、
前記スライドレールに沿って移動可能に案内されるスライダーと、
を有する車両用スライドドア構造であって、
請求項1から6のいずれか一項に記載のブラケットを有し、
前記第1部材は前記ロアアームであり、前記第2部材は前記スライダーであり、
前記ブラケットの前記第1取付位置には前記ロアアームが固定され、前記ブラケットの前記第2取付位置には前記スライダーが回転可能に取り付けられている、車両用スライドドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラケットおよび車両用スライドドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の生産においては、一般に、金属部品の防食を目的として電着塗装が行われる。電着塗装工程では、電着塗料の入った電着槽に自動車ボディを浸漬し、電圧を印加することで電着塗料を電着させる。その後、自動車ボディを乾燥炉へ搬送して乾燥焼き付け処理を行うことで、自動車ボディに電着塗膜を形成する。自動車ボディ全体を電着槽に浸漬することで、まんべんなく塗装を行うことができる。
【0003】
ところで、自動車ボディはさまざまな部品から構成されており、自動車ボディの板厚は均一ではない。例えば、特許文献1には、車両用スライドドアのロアアーム周辺構造が開示されている。特許文献1に記載のロアアーム周辺構造は、スライドドアのロアアームを、ドア開口部に設けられたロアレールに追従して移動するスライダーに連結するヒンジブラケットを有している。ヒンジブラケットはロアアームとスライダーとをいう2つの部材を連結する部材であり、通常、剛性を確保するために他の部位よりも厚肉となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6344646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した乾燥焼き付け処理において電着塗料を完全に焼き付かせるためには、自動車ボディを目標温度まで昇温させる必要がある。自動車ボディの厚肉部は、薄肉部に比べて伝熱しにくく昇温速度が遅い。そのため、厚肉部は薄肉部に比べて目標温度に昇温するまでに長時間を要し、サイクルタイムの増加につながってしまう。
【0006】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両に設けられる2つの部材を連結するブラケットの剛性を確保しつつ、電着塗装工程のサイクルタイムの増加を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、車両に設けられる第1部材と第2部材とを連結するブラケットであって、互いに間隔を空けて対向する第1プレートおよび第2プレートと、閉断面部と、を有し、前記ブラケットは、第1取付位置に前記第1部材が取り付けられ、第2取付位置に前記第2部材が取り付けられるように構成され、前記ブラケットにおいて前記第1取付位置と前記第2取付位置は第1方向に離間しており、前記閉断面部は、前記第1プレートにおける前記第1方向に直交する第2方向の両端部と、前記第2プレートにおける前記第2の方向の両端部とがそれぞれ接合されて形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブラケットの剛性を確保しつつ、電着塗装工程のサイクルタイムの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る車両用スライドドア構造を車両内側から見た斜視図である。
図2図2は、図1の車両用スライドドア構造の前方下部を拡大して示す拡大斜視図である。
図3図3は、図2のヒンジブラケットとその周辺を示す図である。
図4図4は、図3のヒンジブラケットの斜視図である。
図5図5は、図4のヒンジブラケットの分解図である。
図6図6は、図4のヒンジブラケットの側面図である。
図7図7は、図4のヒンジブラケットのA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態に係るブラケットおよび車両用スライドドア構造について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の形態による車両用スライドドア構造を車両内側からみた図であり、図2は、図1の車両用スライドドア構造の前方下部の拡大斜視図である。なお、図面において、矢印Frは車両前後方向における前方を示し、矢印Upは車両上下方向における上方を示す。また、矢印Inは車幅方向の内側を示している。
【0011】
本実施の形態による車両用スライドドア構造は、車体の側面のドア開口部を開閉するためのスライド式のサイドドア(スライドドア)の構造である。図1および図2に示すように、車両用スライドドア構造は、スライドドア1のドア本体10と、ドア開口部(不図示)の下縁に沿って車体(不図示)に配置されたスライドレール20と、ドア本体10の下部からスライドレール20に向かって延びるロアアーム30と、スライドレール20に沿って移動可能に案内されるスライダー40と、ヒンジブラケット50とを備えている。
【0012】
ヒンジブラケット50は、車両に設けられる部材であるロアアーム(第1部材)30とスライダー(第2部材)40とを連結する金属部品のブラケットとして構成されている。
【0013】
ドア本体10は、スライダー40がスライドレール20に沿って移動することにより、ドア開口部を開閉するように構成されている。例えば、ドア本体10が車両後方へスライドすることによりドア開口部が開放され、ドア本体10が車両前方へスライドすることによりドア開口部が閉鎖される。
【0014】
ロアアーム30は、ヒンジブラケット50を介してドア本体10をスライダー40に連結するための部材である。ロアアーム30は、車両上下方向に延びる基端部31と、基端部31の下端から車幅方向内側に斜め前方に延びるアーム部32とを有している。基端部31とアーム部32とは一体的に形成されている。ロアアーム30の中央領域には、補強用のビード33が形成されている。ロアアーム30の基端部31の側縁には車幅方向外側に突出したフランジ部34が形成され、アーム部32の側縁には車両下方に突出したフランジ部35が形成されている。
【0015】
ロアアーム30の基端部31は、ドア本体10に沿って配置され、複数のボルト、図2に示す例では3つのボルト36によってドア本体10に固定されている。ロアアーム30のアーム部32の先端領域の車両下方側の面には、ボルト90,91によってヒンジブラケット50が固定されている。ヒンジブラケット50の車幅方向外側および車両前方側は、部分的にアーム部32のフランジ部35によってカバーされている。ヒンジブラケット50の詳細な構成については、後述する。
【0016】
スライダー40は、車両上下方向に延びるヒンジ軸92を介してヒンジブラケット50に回転可能に取り付けられている。スライダー40は、ヒンジブラケット50においてアーム部32によってカバーされていない領域に取り付けられている。
【0017】
スライダー40は、図3に示すように、取付部41と、スライド部42とを有している。取付部41は、スライダー40をヒンジブラケット50に取り付けるための部分であり、上板部43と、下板部44と、上板部43と下板部44の間に延び、これらを接続する縦壁部45とを有している。ヒンジブラケット50は、上板部43と下板部44の間に配置されている。ヒンジ軸92は、上板部43、ヒンジブラケット50、および下板部44を貫通してスライダー40の取付部41に軸支されている。ヒンジ軸92を介したスライダー40とヒンジブラケット50との取付構造については、詳細な説明は省略する。
【0018】
スライド部42は、取付部41の端部から車幅方向内側に延びる部分であり、図示は省略するが、間隔を空けて2つのスライド部42が設けられている。各スライド部42には、スライドレール20に沿って移動するガイドローラ46が設けられている。2つのスライド部42の間には、スライドドア1の荷重を支える荷重ローラ47が取り付けられている。
【0019】
スライドレール20は、ドア開口部の下縁に沿って配置され、図1に示すように、車両前方に向かうに従い、車幅方向内側に傾斜して延びている。図2に示すように、スライドレール20は、ガイドローラ46をレール幅方向の両側でガイドするとともに、スライドドア1の荷重を支えながら荷重ローラ47が路面に沿って走行可能となるように構成されている。
【0020】
上述した車両用スライドドア構造において、ロアアーム30とスライダー40とを連結するヒンジブラケット50は、ドア開口部を開閉するためのスライドドア1の荷重を支えるために剛性を確保する必要がある。
【0021】
しかし、剛性を確保するためにヒンジブラケット50を他の部位よりも厚肉に構成すると、電着塗装工程の乾燥焼き付け処理においてヒンジブラケット50が目標温度に昇温するまでに長時間を要することになってしまう。すなわち、厚肉板部品は薄肉板部品よりも伝熱しにくく昇温速度が遅いため、乾燥焼き付け処理において電着塗膜が部品表面に焼き付きにくい傾向にある。電着塗膜が完全に焼き付かないと、市場において錆の不具合が生じる可能性がある。一方、電着塗膜を完全に焼き付けるために乾燥焼き付け処理における目標温度を上昇させると、エネルギー消費量および二酸化炭素の発生量の増大につながり、環境負荷が高まってしまう。
【0022】
そこで、本実施の形態においては、ヒンジブラケット50を、厚肉板部品ではなく、2枚の分割板形状として形成する。以下に、ヒンジブラケット50の構成について詳細に説明する。
【0023】
図4から図6に、ヒンジブラケット50の斜視図、分解図、および側面図をそれぞれ示し、図7に、図4のA-A断面図を示す。図4から図7において、矢印Xはヒンジブラケットの50の長手方向に相当する第1方向を示し、矢印Yはヒンジブラケット50の幅方向に相当する第2方向を示し、矢印Zはヒンジブラケット50の厚さ方向に相当する第3方向を示している。
【0024】
上述したように、ヒンジブラケット50は、ロアアーム(第1部材)30とスライダー(第2部材)40とを連結するブラケットであり、第1取付位置93にロアアーム30が取り付けられ、第2取付位置94にスライダー40が取り付けられるように構成されている。なお、ロアアーム30は第1の取付位置93に加えて、第3の取付位置95においてもヒンジブラケット50に取り付けられる。
【0025】
ヒンジブラケット50において、第1取付位置93と第2取付位置94はX方向(第1方向)に離間している。すなわち、第1取付位置93はX方向の一端側に位置し、第2取付位置94はX方向の他端側に位置している。第3取付位置95は第1取付位置93と第2取付位置94の間に位置している。ヒンジブラケット50は、平面視で略平行四辺形状に形成されており、また、X方向に延びる一方の側縁が湾曲し、第3取付位置95が設けられたX方向の中間領域でY方向における幅が狭くなっている。
【0026】
図4から図6に示すように、ヒンジブラケット50は、互いに間隔を開けて対向する第1プレート51および第2プレート52と、第1プレート51と第2プレートとが接合されて形成された閉断面部53とを有する。
【0027】
第1プレート51と第2プレート52は、第1取付位置93において第1スペーサ54を介して互いに接合され、第2取付位置94において第2スペーサ55を介して互いに接合されている。例えば、第1プレート51と第1スペーサ54および第2スペーサ55とは接着により接合され、第2プレート52と第1スペーサ54および第2スペーサ55とは溶接又は接着により接合される。
【0028】
第1プレート51と第2プレート52は、Z方向に投影した場合の投影面積が実質的に同じである2枚の鋼板から形成されている。第1プレート51と第2プレート52は適切な厚さの薄板鋼板からなり、例えば板厚を約2mmとすることができる。
【0029】
第1プレート51は、第1取付位置93に貫通孔511が形成され、第2取付位置94に貫通孔512が形成され、第3取付位置95に貫通孔513が形成されている。第1取付位置93の貫通孔511および第3取付位置95の貫通孔513には、それぞれ、ロアアーム30を固定するためのボルト90,91が挿通される。第2取付位置94の貫通孔512には、スライダー40を回転可能に軸支するためのヒンジ軸92が挿通される。
【0030】
第1プレート51は、X方向の中間領域において、Y方向の両端部514,515に向かって車両下方に、すなわち第2プレート52に近づくように湾曲するように形成されている。
【0031】
第2プレート52は、第1取付位置93に貫通孔521が形成され、第2取付位置94に貫通孔522が形成され、第3取付位置95に貫通孔523が形成されている。第1取付位置93の貫通孔521および第3取付位置95の貫通孔523には、それぞれ、ロアアーム30を固定するためのボルト90,91が挿通される。第2取付位置94の貫通孔522には、スライダー40を回転可能に軸支するためのヒンジ軸92が挿通される。
【0032】
第2プレート52は、X方向の中間領域において、Y方向の両端部524,525に向かって車両上方に、すなわち第1プレート51に近づくように湾曲するように形成されている。
【0033】
第2プレート52は、さらに、X方向の一端側から他端側に向かって車両上方に、すなわち第1プレートに近づくように湾曲して形成されている。具体的には、第2プレート52は、X方向の一端側から他端側に向かうにしたがって第1プレート51との間隔が小さくなるように傾斜した傾斜部526と、傾斜部526よりもX方向の一端側の第1平坦部527と、傾斜部526よりも他端側の第2平坦部528とを有する。なお、傾斜部526は、第1プレート51と第2プレート52との間隔が徐々に変化するものであれば、直線状に形成されてもよいし、湾曲するように形成されてもよい。
【0034】
第1平坦部527は第1取付位置93および第3取付位置95を含み、第2平坦部528は第2取付位置94を含む。したがって、第1取付位置93における第1プレート51と第2プレート52との間隔は、第2取付位置94における第1プレート51と第2プレート52との間隔よりも大きい。換言すると、第1取付位置93に配置される第1スペーサ54のZ方向の寸法は、第2取付位置94に配置される第2スペーサ55のZ方向の寸法よりも大きい。
【0035】
例えば、第1プレート51と第2プレート52の板厚を約2mmとした場合、第1取付位置93における第1プレート51と第2プレート52との間隔を約6.5mm、第2取付位置94における第1プレート51と第2プレート52との間隔を約2mmとすることができる。この場合、図6に示すように、第1取付位置93におけるヒンジブラケット50の厚さT1は約10.5mm、第2取付位置94におけるヒンジブラケット50の厚さT2は約6mmとなる。
【0036】
閉断面部53は、第1プレート51の両端部514,515と、第2プレート52の両端部524,525とがそれぞれ接合されて形成されている。閉断面部53における第1プレート51および第2プレート52の断面は、それぞれ図7に示すように、略ハット形状に形成されている。
【0037】
具体的には、閉断面部53は、第1プレート51と第2プレート52とがそれぞれ接合された接合部531,532と、第1プレート51と第2プレート52との間隔が一定である中間部533と、第1プレート51および第2プレート52がそれぞれ湾曲した湾曲部534,535とを含む。
【0038】
第1プレート51の一方の端部514と第2プレート52の一方の端部524にはそれぞれフランジ面(接合面)が設けられ、これらのフランジ面が接合されることにより、接合部531が形成されている。同様に、第1プレート51の他方の端部515と第2プレート52の他方の端部525にそれぞれ設けられたフランジ面(接合面)が接合されることにより、接合部532が形成されている。
【0039】
閉断面部53は、中間部533において第1プレート51と第2プレート52との間隔が最も大きくなるように構成されている。一方の湾曲部534は、中間部533から一方の接合部531に向かって第1プレート51と第2プレート52との間隔が徐々に小さくなるように湾曲している。他方の湾曲部535は、中間部533から他方の接合部532に向かって第1プレート51と第2プレート52との間隔が徐々に小さくなるように湾曲している。
【0040】
上述した本実施の形態によるヒンジブラケット50の効果を検証するために、ヒンジブラケット50の第2取付位置94を拘束し、第1取付位置93と第3取付位置95をロアアーム30にボルト90,91で接合し、ロアアーム30を3つのボルト36によりドア本体1へ固定したCAEモデルを作成した。このようなCAEモデルを用いて、ロアアーム30における3つのボルト36の重心位置に車両上方、すなわちZ方向から一定荷重をかけるシミュレーションを行ったところ、本実施の形態によるヒンジブラケット50は、ヒンジブラケットを厚肉板部品として構成した場合に比べて変位が小さく、剛性が高いことが確認された。このように、本実施の形態によるヒンジブラケット50においては、厚肉のヒンジブラケットに比べて、剛性を維持するとともに、軽量化を図ることができる。
【0041】
上述した本実施の形態によるヒンジブラケット50および車両用スライドドア構造においては、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)車両に設けられるロアアーム30とスライダー40とを連結するヒンジブラケット50は、互いに間隔を空けて対向する第1プレート51および第2プレート52と、閉断面部53とを有している。ヒンジブラケット50は、第1取付位置93にロアアーム30が取り付けられ、第2取付位置94にスライダー40が取り付けられるように構成されている。ヒンジブラケット50において第1取付位置93と第2取付位置94は第1方向(X方向)に離間している。閉断面部53は、第1プレート51におけるX方向に直交する第2方向(Y方向)の両端部514,515と、第2プレート52におけるY方向の両端部524,525とがそれぞれ接合されて形成されている。
【0042】
ヒンジブラケット50を第1プレート51と第2プレート52という2枚の薄板から形成することにより、電着塗装工程の乾燥焼き付け処理におけるヒンジブラケット50の昇温性を改善することができる。すなわち、板厚方向の熱流束は板厚の大きさに反比例することから、ヒンジブラケット50を2枚の薄板から形成することにより、厚肉板部品に比べてヒンジブラケット50の昇温速度を速くすることができる。また、2枚の薄板から形成することにより、ヒンジブラケット50を厚肉板部品として構成する場合よりも軽量化することができる。
【0043】
第1プレート51と第2プレート52を互いに間隔を空けて対向するように配置することにより、ヒンジブラケット50全体としての断面を大きくすることができる。これにより、板曲げに対する断面二次モーメントが大きくなり、ヒンジブラケット50の剛性が向上する。また、ヒンジブラケット50が閉断面部53を有するように構成することによっても板曲げに対する断面二次モーメントが大きくなり、ヒンジブラケット50の剛性を向上させることができる。
【0044】
(2)第1取付位置93はヒンジブラケット50のX方向の一端側に位置し、第2取付位置94はヒンジブラケット50のX方向の他端側に位置する。第1取付位置93において、第1プレート51と第2プレート52は第1スペーサ54を介して互いに接合され、第2取付位置94において、第1プレート51と第2プレート52は第2スペーサ55を介して互いに接合されている。これにより、貫通孔511,512、521,522を介してヒンジブラケット50にロアアーム30をボルト締結する際に、応力が集中しやすい貫通孔511,512、521,522の周辺を第1スペーサ54および第2スペーサ55により補強することができ、局所的な応力集中を抑制し、断面変形を抑制することができる。
【0045】
(3)ヒンジブラケット50は、第1取付位置93に加えて、第1取付位置93と第2取付位置94の間の第3取付位置95にロアアーム30を取り付けられるように構成され、第3取付位置95は閉断面部53に位置する。X方向に離間した第1取付位置93と第2取付位置94の間に第3取付位置95と閉断面部53を設けるように構成することにより、X方向に離間した第1取付位置93と第2取付位置94の間の剛性低下を抑制することができる。なお、閉断面部53が第3取付位置95のスペーサの役割を担うため、第3取付位置95には第1プレート51と第2プレート52との間隔を確保するためのスペーサを設置する必要はない。
【0046】
(4)第2プレート52は、X方向の一端側から他端側に向かうにしたがって第1プレート51との間隔が小さくなるように傾斜した傾斜部526と、傾斜部526よりも一端側の第1平坦部527と、傾斜部526よりも他端側の第2平坦部528とを有する。傾斜部526を設けることにより、第1プレート51と第2プレート52の間隔が変化する部分における局所的な応力集中を抑制し、設計領域や要求性能に応じて剛性の維持と軽量化を満足させることができる。なお、第2プレート52の第2平坦部528は第1平坦部527に比べて第1プレート51に近く、第2平坦部528の車両下方には空間が形成されている。この空間内にスライダー40の下板部44が配置され、ヒンジ軸92を介してヒンジブラケット50に取り付けられているので、車両上下方向においてヒンジブラケット50とスライダー40とをコンパクトに接続することができる。
【0047】
(5)閉断面部53は、第1プレート51の両端部514,515と第2プレート52の両端部524,525とが接合された接合部531,532と、第1プレート51と第2プレートとの間隔が一定である中間部533と、中間部533から接合部531,532に向かって第1プレート51と第2プレート52との間隔が徐々に小さくなるように第1プレート51および第2プレート52がそれぞれ湾曲した湾曲部534,535とを含んでいる。第1プレート51と第2プレート52の両方を湾曲させて湾曲部534,535を形成することにより、第1プレート51と第2プレート52の一方のみを湾曲させる場合に比べて中間部533と接合部531,532との段差が小さくなり、プレス加工により容易に第1プレート51と第2プレート52を形成することができる。
【0048】
(6)本実施の形態による車両用スライドドア構造は、車体の側面のドア開口部を開閉するためのドア本体10と、ドア開口部の下縁に沿って車体に配置されたスライドレール20と、ドア本体10の下部からスライドレール20に向かって延びるロアアーム30と、スライドレール20に沿って移動可能に案内されるスライダー40と、ヒンジブラケット50とを有する。ヒンジブラケット50の第1取付位置93にはロアアーム30が固定され、第2取付位置94にはスライダー40が回転可能に取り付けられている。本実施の形態によるヒンジブラケット50を用いることにより、車両用スライドドア構造において、サイクルタイムの増加を抑制しながら、ヒンジブラケットの剛性を維持するとともに軽量化を図ることができる。
【0049】
-変形例-
(1)上述した実施の形態においては、ヒンジブラケット50の2箇所、すなわち第1取付位置93と第3取付位置95にロアアーム30を固定した。ただし、これには限定されず、第1取付位置93と第3取付位置95のいずれか1箇所のみでヒンジブラケット50にロアアーム30を固定するように構成してもよい。例えば、閉断面部53に位置する第3取付位置95のみでヒンジブラケット50にロアアーム30を固定することができる。この場合、第3取付位置95と第2取付位置94とはX方向に離間しており、第3取付位置95を、ロアアーム30が取り付けられる第1取付位置とみなすことができる。なお、第3取付位置95をロアアーム30の唯一の取付位置とする場合、ヒンジブラケット50における閉断面部53よりもX方向の一端側の領域はそのまま維持してもよいし、削除してもよい。
【0050】
(2)上述した実施の形態においては、ヒンジブラケット50をロアアーム30とスライダー40とを連結する部品として説明した。ただし、これには限定されず、車両に設けられるロアアーム30とスライダー40以外の2つの部材を連結するために、ヒンジブラケット50を用いることもできる。例えば、車両のドアまたはフードのヒンジとして、上述したヒンジブラケット50を用いてもよい。この場合も、サイクルタイムの増加を抑制しながら、剛性を維持しつつ、軽量化を満足することができる。
【0051】
(3)上述した実施の形態においては、ヒンジブラケット50の形状、第1プレート51と第2プレート52の板厚、および第1プレート51と第2プレート52の間隔について、具体的な形状および寸法を例示したが、これらの具体的な形状および寸法には限定されず、ヒンジブラケット50の設計領域や要求性能に応じて適切な形状および寸法を選択することができる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 ドア本体
20 スライドレール
30 ロアアーム
40 スライダー
50 ヒンジブラケット
51 第1プレート
514,515 両端部
52 第2プレート
524,525 両端部
526 傾斜部
527 第1平坦部
528 第2平坦部
53 閉断面部
531,532 接合部
533 中間部
534,535 湾曲部
54 第1スペーサ
55 第2スペーサ
93 第1取付位置
94 第2取付位置
95 第3取付位置(第1取付位置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7