(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107708
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】光センサ材料、およびそれを用いた光センサ
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20240802BHJP
C07C 255/51 20060101ALI20240802BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20240802BHJP
H10K 30/20 20230101ALI20240802BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240802BHJP
【FI】
H10K30/60
C07C255/51
H10K30/86
H10K30/20
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011782
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】北澤 大輔
【テーマコード(参考)】
3K107
4H006
5F149
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107BB01
3K107CC03
3K107CC43
3K107DD59
3K107DD72
3K107DD73
3K107DD74
4H006AA03
4H006AB92
5F149AB11
5F149BA05
5F149FA02
5F149FA05
5F149XA43
5F149XA51
5F149XA54
(57)【要約】 (修正有)
【課題】暗電流値が小さい光センサを提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される構造を含む光センサである。
一般式(1)中、R
1~R
6は同一でも異なっていても良く、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子およびハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれる基を表す。ただしR
1~R
6のうち少なくとも1つはシアノ基またはハロゲン原子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有する、光センサ材料。
【化1】
(一般式(1)中、R
1~R
6は同一でも異なっていても良く、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子およびハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれる基を表す。ただしR
1~R
6のうち少なくとも1つはシアノ基またはハロゲン原子である。)
【請求項2】
陽極と、陰極と、それらの間に備わる有機層と、を有し、光を電気信号に変換する光センサであって、前記有機層が下記一般式(1)で表される化合物を含む、光センサ。
【化2】
(一般式(1)中、R
1~R
6は同一でも異なっていても良く、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子およびハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれる基を表す。ただしR
1~R
6のうち少なくとも1つはシアノ基またはハロゲン原子である。)
【請求項3】
前記有機層が、前記陽極側から順に正孔輸送層、光起電力層および電子輸送層を有し、前記一般式(1)で表される化合物が、前記陽極と前記正孔輸送層の間にバッファー層として含まれるか、前記正孔輸送層中にドープされて含まれる、請求項2に記載の光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光センサ材料、およびそれを用いた光センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)やビッグデータが注目を集めており、それを支える様々なデータを取得するセンシング技術の重要度が増している。センシング技術には様々な方式が存在するが、中でも、光センシングは、対象波長を選択することによりセンシング対象を変更することができるなど、多様な用途展開が可能であり、有用性が高いセンシング技術である。
【0003】
光センサは、一般に、光を電気エネルギーに変換する光起電力素子と発光素子とを独立に備える。光センサは、発光素子からの光を対象物に照射し、対象物を透過もしくは反射した光を光起電力素子で受光してセンシングする。この技術は生体検知センサとして、例えば、緑色光や赤色光、近赤外光を用いることにより、生体からの入射光または反射光を電気エネルギーに変換することで、指紋や静脈の形状、血中酸素濃度などの生体情報を検知することが可能である。これらの機能をディスプレイ等に組み込むことで、指紋をマルチスキャンするような性能を付与することが可能となる。さらに、基板や発光素子、受光素子を主に有機物で形成することにより、薄型でフレキシブルなデバイスを構成することが可能である(例えば非特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「アドバンスド マテリアルス(Advanced Materials)」、2016年、28巻、4766頁
【非特許文献2】「アドバンスド サイエンス(Advanced Science)」、2021年、8巻、2002418頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ディスプレイの大画面化のため、画面の縁(ベゼル)を小さくするベゼルレス化が進んでいる。ディスプレイのベゼルレス化に伴い、画面内にセンシング素子を設けることができ、高い光電変換効率の発現と共に非センシング時の低電流化(暗電流の低減)が求められている。そこで、本発明は、暗電流低減に寄与する光センサ材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成をとる。
[1]下記一般式(1)で表される構造を有する光センサ材料。
【0007】
【0008】
一般式(1)中、R1~R6は同一でも異なっていても良く、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子およびハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれる基を表す。ただしR1~R6のうち少なくとも1つはシアノ基またはハロゲン原子である。
[2]陽極と、陰極と、それらの間に備わる有機層と、を有し、光を電気信号に変換する光センサであって、前記有機層が下記一般式(1)で表される化合物を含む、光センサ。
【0009】
【0010】
(一般式(1)中、R1~R6は同一でも異なっていても良く、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子およびハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれる基を表す。ただしR1~R6のうち少なくとも1つはシアノ基またはハロゲン原子である。)
[3]前記有機層が、前記陽極側から順に正孔輸送層、光起電力層および電子輸送層を有し、前記一般式(1)で表される化合物が、前記陽極と前記正孔輸送層の間にバッファー層として含まれるか、前記正孔輸送層中にドープされて含まれる、[2]に記載の光センサ。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、暗電流値が小さな光センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る光センサの一例を示した断面概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る光センサの別の一例を示した断面概略図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る光センサの別の一例を示した断面概略図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る光センサの別の一例を示した断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定さ れるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0014】
<光センサ材料>
本発明の実施の形態に係る光センサ材料は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0015】
【0016】
R1~R6は同一でも異なっていても良く、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子およびハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれる基を表す。ただしR1~R6のうち少なくとも1つはシアノ基またはハロゲン原子である。
【0017】
蒸着への利用と素子作製時の他の分子との配向性の観点から、R1~R6の少なくとも1つは、置換もしくは非置換のアリール基および置換もしくは非置換のヘテロアリール基が好ましい。中でも、R1、R3およびR5がそれぞれ独立に置換もしくは非置換のアリール基または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、R2、R4およびR6がそれぞれ独立にシアノ基またはハロゲン原子であることがより好ましい。
【0018】
一般式(1)で表される化合物は、R1~R6のうち少なくとも1つがシアノ基またはハロゲン原子であるという特徴をもち、その特徴により分子のHOMO-LUMO準位が極めて深くなる。このような化合物を、陽極と陰極とそれらの間に備わる有機層とを有する光センサの有機層に用いることで、当該化合物を含む層が隣接する有機層との界面で負電荷を帯電しやすくなる。そのため、光センサにおける内蔵電位が大きくなり、センサが受光していないときの暗電流が低減するという効果が得られると考えられる。
【0019】
この効果を高める観点から、一般式(1)で表される化合物は、R1~R6のうち少なくとも1つがシアノ基またはハロゲン原子であり、残りが、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基およびハロゲン化アリール基からなる群より選ばれることが好ましい。中でも、R1、R3およびR5がそれぞれ独立にハロゲン化アリール基であり、R2、R4およびR6がそれぞれ独立にシアノ基またはハロゲン原子であることがさらに好ましい。
【0020】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示す。また、ハロゲン化アルキル基とは、アルキル基の少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された基を示す。アルキル基の炭素数は、原料入手の容易性や蒸着安定性の観点から、1以上20以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上6以下がさらに好ましい。ここで、アルキル基の炭素数には、置換基の炭素数は含めないこととし、この点は、以下の記載にも共通する。
【0021】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などの芳香族炭化水素基を示す。また、ハロゲン化アリール基とは、アリール基の少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された基を示す。
【0022】
アリール基は、中でも、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、チオアルキル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができる。アリール基の環形成炭素数は、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。また、フェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。
【0023】
ヘテロアリール基とは、例えば、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示す。ただし、ナフチリジニル基とは、1,5-ナフチリジニル基、1,6-ナフチリジニル基、1,7-ナフチリジニル基、1,8-ナフチリジニル基、2,6-ナフチリジニル基、2,7-ナフチリジニル基のいずれかを示す。
【0024】
ヘテロアリール基は置換基を有していても有していなくてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、シアノ基、エステル基、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、チオアルキル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、アリール基等を挙げることができる。ヘテロアリール基の環形成炭素数は、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0025】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を示す。
【0026】
一般式(1)で表される構造の例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
<光センサ>
本発明の実施の形態に係る光センサは、陽極と、陰極と、それらの間に備わる有機層と、を有し、有機層が上述の一般式(1)で表される化合物を含む。本発明の実施の形態に係る光センサは、好ましくは、生体情報を検知するための光センサとして適用することが可能であり、より具体的には、生体からの入射光または反射光を電気エネルギーに変換することで生体情報を検知する光センサとして適用することが可能である。
【0065】
有機層には、正孔取り出し層、正孔輸送層、光起電力層、電子輸送層、電子取り出し層などが含まれる。本発明の実施の形態に係る光センサは、有機層として少なくとも光起電力層を含むことが好ましく、少なくとも正孔輸送層、光起電力層および電子輸送層を含むことが好ましい。
【0066】
本発明の実施の形態に係る光センサは、基板上に、陽極、正孔輸送層、光起電力層、電子輸送層、陰極をこの順に有することが好ましい。この時、一般式(1)で表される化合物は、上記に挙げたいずれか2種の層(ここでの「層」には陽極および陰極も含む)の間に層として含まれるか、もしくはいずれかの層の中にドープされて含まれることが好ましい。
【0067】
一般式(1)で表される化合物は、陽極と光起電力層との間に含まれることが好ましく、陽極と正孔輸送層の間にバッファー層として含まれるか、正孔輸送層中にドープされて含まれることがより好ましい。これにより、光センサにおける暗電流値がより大きく低下するからである。その詳細な理由は不明であるが、以下のように考えられる。一般式(1)で表される化合物のLUMO準位は、一般的な有機材料のHOMO準位と同等かそれよりも深いため、隣接有機層との電荷移動錯体形成能力が従来材料と比較して大きい。このため、一般式(1)で表される化合物からなる層もしくはそれをドープして含む層(以下、これらを総称して「一般式(1)含有層」という)」の有機界面側がより負に帯電しやすく、結果的に内蔵電位が大きくなる。このような作用によって光センサにおける暗電流値が低下するものと考えられる。
【0068】
図1に、本発明の実施の形態に係る光センサの一例の断面概略図を示す。基板1上に、陽極2、一般式(1)で表される化合物で形成される層(以下、バッファー層3)、光起電力層4、陰極5をこの順に有する。
【0069】
図2に、本発明の実施の形態に係る光センサの別の一例の断面概略図を示す。基板1上に、陰極5、光起電力層4、バッファー層3、陽極2をこの順に有する。
【0070】
図3に、本発明の実施の形態に係る光センサの別の一例の断面概略図を示す。基板1上に、陽極2、バッファー層3、正孔輸送層6、光起電力層4、電子輸送層9、陰極5をこの順に有し、光起電力層4は、正孔輸送層6側のp型半導体層7と、電子輸送層9側のn型半導体層8とを有する。
【0071】
図4に、本発明の実施の形態に係る光センサの別の一例の断面概略図を示す。基板1上に、陽極2、一般式(1)で表される化合物をドープした正孔輸送層10、光起電力層4、電子輸送層9、陰極5をこの順に有し、光起電力層4は、正孔輸送層10側のp型半導体層7と、電子輸送層9側のn型半導体層8とを有する。
【0072】
バッファー層の厚さは、1nm~200nmが好ましく、より好ましくは2nm~50nmである。また、一般式(1)で表される化合物をドープした正孔輸送層におけるドープの割合は、当該正孔輸送層の重量に対して1%~49%、好ましくは1%~30%、より好ましくは1%~10%である。ここで、例えば重量に対して1%であるとは、正孔輸送層に含まれる一般式(1)で表される化合物の全量を集めると正孔輸送層の重量の1%分になる、という意味である。
【0073】
光起電力層は光を電気エネルギーに変換する効果を有する。光起電力層は、p型またはn型半導体材料を含むことが好ましい。光起電力層は、光電変換材料を2種以上含むことが好ましく、光電変換材料としてp型半導体材料(ドナー材料)とn型半導体材料(アクセプター材料)とをそれぞれ含むことがより好ましい。
【0074】
p型半導体材料としては、例えば、ボロンジピロメテン誘導体、アザボロンジピロメテン誘導体、ターチオフェン、クウォーターチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェンなどのオリゴチオフェン化合物、フェニレンビニレン系化合物、p-フェニレン系化合物、ポリフルオレン系化合物、H2フタロシアニン(H2Pc)や銅フタロシアニン(CuPc)などの金属原子を有するフタロシアニン化合物誘導体、サブフタロシアニン化合物誘導体、ポルフィリン化合物誘導体、クマリン化合物誘導体、ローダミン化合物誘導体、スクアリリウム化合物誘導体、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン(TPD)、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン(NPD)等のトリアリールアミン誘導体、4,4’-ジ(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体、2-tert-ブチル-4-(ジシアノメチレン)-6-[2-(1,1,7,7テトラメチルジュロリジン-9-イル)ビニル]-4H-ピラン(DCJTB)化合物誘導体、メロシアニン化合物誘導体、ケトシアニン化合物誘導体、ジインモニウム化合物誘導体などが挙げられる。光起電力層はこれらを2種以上含んでもよい。
【0075】
n型半導体材料としては、例えば、ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(NTCDA)誘導体、ナフタレンテトラカルボシリックジイミド(NTCDI)誘導体、ペリレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(PTCDA)誘導体、ペリレンテトラカルボシリックジイミド誘導体(PTCDI)、ペリレンテトラカルボキシリックビスベンズイミダゾール(PTCBI)誘導体、N,N'-ジオクチル-3,4,9,10-ナフチルテトラカルボキシジイミド(PTCDI-C8H)誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)や2,5-ジ(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)等のオキサゾール誘導体、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、ペリレン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、フェナントロリン誘導体、ボロンジピロメテン誘導体やアザボロンジピロメテン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、フラーレン化合物、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリ-p-フェニレンビニレン系重合体にシアノ基を導入した誘導体(CN-PPV)などが挙げられる。光起電力層はこれらを2種以上含んでもよい。
【0076】
中でも、フラーレン化合物は電荷分離速度と電子移動速度が速いため、好ましく用いられる。フラーレン化合物としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94を始めとする無置換のもの、[6,6]-フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル([6,6]-PCBM)、[5,6]-フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル([5,6]-PCBM)、[6,6]-フェニル C61 ブチリックアシッドヘキシルエステル([6,6]-PCBH)、[6,6]-フェニル C61 ブチリックアシッドドデシルエステル([6,6]-PCBD)、フェニル C71 ブチリックアシッドメチルエステル(PC70BM)、フェニル C85 ブチリックアシッドメチルエステル(PC84BM)などが挙げられる。
【0077】
光起電力層が2種以上の光電変換材料を含む場合、これらは混合されていても積層されていてもよい。電荷分離効率および整流性の観点から、各光電変換材料を含む層が積層されていることが好ましい。このとき、p型半導体材料を含む層が陽極側に位置し、n型半導体材料を含む層が陰極側に位置することが好ましい。また、各光電変換材料を含む層が積層されている場合、積層界面に混合層(i層)を有してもよい。このような構成は“p-i-n構造”と呼ばれており、i層が主に電荷分離を担い、p層とn層がそれぞれ主に正孔輸送と電子輸送を担うことにより、光電変換効率をより高めることができる。
【0078】
各光電変換材料が混合されている場合は、p型半導体材料とn型半導体材料が分子レベルで相溶しているか、もしくは、ナノレベルで相分離していることが好ましい。相分離している場合、相分離構造のドメインサイズは、1nm以上50nm以下が好ましい。
【0079】
光起電力層の厚さは、10nm~500nmが好ましく、より好ましくは20nm~200nmである。光起電力層が積層構造からなる場合、p型半導体材料を含む層とn型半導体特性材料を含む層の厚さはそれぞれ5~495nmが好ましく、より好ましくは10nm~50nmである。積層界面に混合層(i層)を有する場合、i層の厚さは、1nm~100nmが好ましく、より好ましくは5nm~50nmである。
【0080】
本発明の実施の形態に係る光センサにおいては、陽極および/または陰極が光透過性を有することが好ましい。電極の光透過性は、光起電力層に入射光が到達して起電力が発生する程度であれば、特に限定されるものではない。ここで、光透過性とは、[透過光強度(W/m2)/入射光強度(W/m2)]×100(%)で求められる値(これを「光透過度」という)から示される指標である。本発明では、350nm以上の波長において光透過度が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。光透過性を有する電極の厚さは、光透過性と導電性とを有する範囲であればよく、電極素材によって異なるが、20nm~300nmが好ましい。なお、もう一方の電極は、導電性があれば必ずしも光透過性は必要ではなく、厚さも特に限定されない。
【0081】
電極材料としては、一方の電極には仕事関数の絶対値が大きな導電性素材、もう一方の電極には仕事関数の絶対値が小さな導電性素材を使用することが好ましい。
【0082】
仕事関数の絶対値が大きな導電性素材を用いた電極は陽極となる。仕事関数の大きな導電性材料としては、例えば、金、白金、クロム、ニッケルなどの金属や、透明性を有するインジウム、スズ、モリブデンなどの金属酸化物、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などの複合金属酸化物などが好ましく用いられる。
【0083】
陽極の形成方法は、その形成材料に応じて最適な方法を選択することができるが、例えば、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法などが挙げられる。例えば、金属酸化物によって陽極を形成する場合にはスパッタ法、金属によって陽極を形成する場合には蒸着法が好ましく用いられる。
【0084】
仕事関数の絶対値が小さな導電性素材を用いた電極は陰極となる。リチウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、錫や銀、アルミニウムなどや、これらの合金などが好ましく用いられる。これらを2種以上用いた積層体であってもよい。
【0085】
陰極の形成方法は、その形成材料に応じて最適な方法を選択することができるが、例えば、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法などが挙げられる。例えば、金属酸化物によって陰極を形成する場合にはスパッタ法、金属によって陽極を形成する場合には蒸着法が好ましく用いられる。
【0086】
基板としては、例えば、ガラス板、セラミック板、樹脂フィルム、ワニスを硬化した樹脂薄膜、金属製薄板などが挙げられる。これらの中でも、透明であり、加工が容易である観点から、ガラス基板が好適に用いられる。
【0087】
また、主にスマートフォンなどのモバイル機器において、フレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイが増加しており、これらの用途における基板には、樹脂フィルムや樹脂薄膜が好適に用いられる。より具体的には、例えば、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどの耐熱フィルムが挙げられる。
【0088】
正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料としては、例えば、オリゴチオフェン化合物、フェニレンビニレン系化合物、p-フェニレン系化合物、ポリフルオレン系化合物、H2フタロシアニン(H2Pc)や銅フタロシアニン(CuPc)など金属原子を含むフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン(TPD)、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン(NPD)等のトリアリールアミン誘導体、4,4’-ジ(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)やN-[1,1’-ビフェニル]-4-イル-9,9-ジメチル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-9H-フルオレン-2-アミン等のカルバゾール誘導体、酸化モリブデン、酸化タングステンなどのp型半導体性を示す金属酸化物が挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。正孔輸送層の厚さは、1nm~200nmが好ましく、より好ましくは5nm~100nmである。
【0089】
正孔取り出し層に用いられる正孔取り出し材料としては、例えば、ヘキサアザトリフェニレン誘導体、トリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)などの電荷移動錯体、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、フッ素化銅フタロシアニン、ポリ4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)などの導電性高分子が挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。正孔取り出し層としては、1nm~200nmが好ましく、より好ましくは5nm~100nmである。
【0090】
電子輸送層および/または電子取り出し層に用いられる電子輸送材料および/または電子取り出し材料としては、例えば、上述のn型半導体材料や、多環芳香族誘導体、スチリル系芳香環誘導体、キノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。電子輸送効率をより向上させる観点から、電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を有する化合物を用いることが好ましい。ここで、電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基は、電子親和力が大きいため、電子を輸送しやすくなり、光電変換効率をより高めることができる。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を有する化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、キナゾリン誘導体、ナフチリジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、フェナンスロイミダゾール誘導体、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体などが挙げられる。また、電子輸送材料が縮合多環芳香族骨格を有していると、ガラス転移温度が向上し、電子移動度が大きいためより好ましい。このような縮合多環芳香族骨格としては、キノリノール錯体、トリアジン誘導体、フルオランテン骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格またはフェナントロリン骨格などが挙げられる。
【0091】
電子輸送層は、電子ドナー性材料を含んでもよい。ここで、電子ドナー性材料とは、電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。電子ドナー性材料の好ましい例としては、Liなどのアルカリ金属、LiFなどのアルカリ金属を含有する無機塩、リチウムキノリノールなどのアルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩、アルカリ土類金属と有機物との錯体、EuやYbなどの希土類金属、希土類金属を含有する無機塩、希土類金属と有機物との錯体などが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。これらの中でも、金属リチウム、希土類金属、リチウムキノリノール(Liq)が好ましい。
【0092】
電子輸送層および電子取出し層の厚さは、1nm~200nmが好ましく、より好ましくは3nm~100nmである。
【0093】
光センサを構成する上記各層の形成方法は、ドライプロセスまたはウェットプロセスのいずれでもよく、例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法、印刷法などが挙げられる。これらの中でも、素子特性の観点から、抵抗加熱蒸着が好ましい。一方、高分子材料を用いる場合は、適当な溶媒を用いたコーティング法が好ましい。
【0094】
本発明の実施の形態に係る光センサは、例えば、環境の明るさに係る照度、リモコンやスイッチに関連する光信号、動植物や自動車等の物体、および、人体、指紋形状、静脈形状、心拍、虹彩等の生体情報を検知することができる。これらの中でも本発明の光センサは生体情報の検知に特に適する。
【0095】
また、本発明の実施の形態に係る光センサと有機発光素子とを有し、有機発光素子の光を利用して生体情報を取得する表示装置に利用することができる。例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示する有機ELディスプレイの画素の一部を、本発明の実施の形態に係る光センサにより構成することにより、有機ELディスプレイに指紋認証機能を付与することができる。例えば、有機ELディスプレイの有機発光素子から発せられる緑色光がディスプレイに触れた指により反射・散乱された光を、本発明の実施の形態に係る光センサにより受光・光電変換することにより、生体情報を高精度に取得することができる。
【実施例0096】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0097】
(暗電流測定)
各実施例および比較例によって得られた光センサについて、大気中でセンサを黒色シートで覆い、KEITHLEY 2400 (Tektronix社製) を用いて、暗電流値として-3Vにおける電流密度Idarkを測定した。
【0098】
(分光感度ピークの測定)
光センサの分光感度を評価するために、光照射時の電流密度Iphotoと暗電流値Idarkの比である、Iphoto/Idarkを算出した。Iphoto/Idarkが大きければ、光センサとしての感度が高いことが言える。分光感度は各実施例および比較例によって得られた光センサについて、大気中、ガラス基板側から波長400nmから700nmまで1nmごとに単色光を照射し、分光感度測定装置(分光計器(株)製、ハイパーモノライトシステム、SM-250型)を用いて、-3Vの電圧を印加して測定した。
【0099】
(比較例1)
陽極としてITO電極層を125nm有する、46mm×38mmの透明ガラス基板を用意した。この基板を、アルカリ洗浄液(フルウチ化学(株)製、“セミコクリーン”(登録商標)EL56)を純水で10倍希釈した希釈液に浸し、10分間超音波洗浄した後、純水による5分間の超音波洗浄を2度行い、十分に乾燥した。その後、UVオゾン洗浄を30分間行った。
【0100】
以上の基板を、真空蒸着装置((株)エイコー・エンジニアリング製)に設置し、約3×10-3Paまで減圧した。ITO電極層上に、正孔輸送層としてN-[1,1’-ビフェニル]-4-イル-9,9-ジメチル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-9H-フルオレン-2-アミン(厚さ40nm)、p型半導体としてボロンジピロメテン錯体1(厚さ15nm)(化合物[1])、n型半導体としてフラーレン(厚さ15nm)を順に蒸着し、正孔輸送層と光起電力層をそれぞれ形成した。真空蒸着装置を一度大気開放した後、蒸着源を入れ替え、再び約3×10-3Paまで減圧した。光起電力層上に、リチウムキノリナール(厚さ5nm)とアルミニウム(厚さ41nm)を順次蒸着し、電子輸送層と陰極をそれぞれ形成した。得られた積層体を、グローブボックス内において、バリアフィルム(TESA製)により封止し、光センサ素子を得た。
【0101】
得られた光センサについて前述の方法により暗電流を測定したところ、暗電流値の絶対値は6.5×10-3mA/cm2であった。また、前述の方法により分光感度ピークとその時の電流値Iphoto、およびIphoto/Idarkは以下の通りであった。
分光感度ピーク:532nm
Iphoto/Idark:35
ボロンジピロメテン錯体1の構造を以下に示す。
【0102】
【0103】
(比較例2)
ITO電極層上に正孔輸送層を形成する前にヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(厚さ10nm)を形成し、その上に正孔輸送層、光起電力層および電子輸送層を形成したこと、およびアルミニウム陰極の厚さを31nmに変更したこと以外は比較例1と同様にして、光センサを得た。得られた光センサについて前述の方法により暗電流を測定したところ、暗電流値の絶対値は2.8×10-3mA/cm2であった。また、前述の方法により分光感度ピークとその時の電流値Iphoto、およびIphoto/Idarkは以下の通りであった。
分光感度ピーク:532nm
Iphoto/Idark:2.1×102
(実施例1)
ITO電極層上に正孔輸送層を形成する前にラジアレン1(厚さ2nm)(化合物H-1)を形成し、その上に正孔輸送層、光起電力層および電子輸送層を形成したこと、およびアルミニウム陰極の厚さを77nmに変更したこと以外は比較例1と同様にして、光センサを得た。得られた光センサについて前述の方法により暗電流を測定したところ、暗電流値の絶対値は4.0×10-6mA/cm2であった。また、前述の方法により分光感度ピークとその時の電流値Iphoto、およびIphoto/Idarkは以下の通りであった。
分光感度ピーク:532nm
Iphoto/Idark:4.3×103
ラジアレン1の構造を以下に示す。
【0104】
【0105】
(実施例2)
ラジアレン1の層と正孔輸送層を形成する代わりにラジアレン1を正孔輸送材料と共蒸着させ5%ドープの正孔輸送層を形成したこと、アルミニウム陰極の厚さを69nmに変更したこと以外は実施例1と同様にして光センサを得た。
【0106】
得られた光センサについて前述の方法により暗電流を測定したところ、暗電流値は2.0×10-5mA/cm2であった。また、前述の方法により分光感度ピークとその時の電流値Iphoto、およびIphoto/Idarkは以下の通りであった。
分光感度ピーク:534nm
Iphoto/Idark:8.0×103
各実施例と比較例との対比から、本発明の実施の形態に係る光センサ材料を用いることで暗電流を低下させることができ、光センサとしての感度が十分に高いことが分かる。