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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107729
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】スタック成形体
(51)【国際特許分類】
   B65D 21/032 20060101AFI20240802BHJP
   A47G 19/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
B65D21/032
A47G19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011814
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 利房
【テーマコード(参考)】
3B001
3E006
【Fターム(参考)】
3B001AA01
3B001BB10
3B001CC22
3E006AA01
3E006BA08
3E006CA01
3E006CA05
3E006DA04
3E006DB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カップ形状を有していると共に、積み重ねやすい形態に周状側壁が形成され、介護用食器としての適性に優れ、スプーンに乗せられた食品量の調整が容易に行い得る形状を有したスタック成形体を提供する。
【解決手段】底壁1と底壁周縁から立ち上がっている周状側壁3とからなり、周状側壁の上端には、水平フランジ7が全周にわたって形成されており、周状側壁の上端での内径Dが、底壁の外径Dよりも大きく設定されており、立ち上がり角θ1で下方から外方に向かって底壁の周縁から延びている第一の傾斜壁11と、立ち上がり角θ2で下方から外方に向かって底壁の周縁から延びている第二の傾斜壁13とが、周状側壁に形成されており、立ち上がり角θ2は、θ1よりも小さく、第一の傾斜壁の上端に外方に延びている水平段差15が形成されており、第二の傾斜壁の上端Qは、内方上方または垂直方向上方に向かって延びている折り返し壁に連なっている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と底壁周縁から立ち上がっている周状側壁とからなり、該周状側壁の上端には、外方を指向する水平フランジが全周にわたって形成されていると共に、
前記周状側壁の上端での内径Dが、前記底壁の外径Dよりも大きく設定されているカップ形状のスタック成形体において、
下記条件(イ)~(ハ)を満足する側断面を有していることを特徴とするスタック成形体。
(イ)前記周状側壁の一方の側には、立ち上がり角θ1で下方から外方に向かって前記底壁周縁から延びている第一の傾斜壁を有しており(イ1)、且つ前記周状側壁の他方の側には、立ち上がり角θ2で下方から外方に向かって前記底壁周縁から延びている第二の傾斜壁を有しており(イ2)、該立ち上がり角θ2は、前記立ち上がり角θ1よりも小さいこと(イ3);
(ロ)前記第一の傾斜壁の上端に外方に延びている水平段差が形成されており(ロ1)、該水平段差の外方側端部が、内方上方または垂直方向上方に延びている立設壁を介して前記水平フランジに連なっており(ロ2)、且つ前記第二の傾斜壁の上端は、内方上方または垂直方向上方に向かって延びている折り返し壁に連なっており(ロ3)、該折り返し壁の上端が前記水平フランジに連なっていること(ロ4);
(ハ)前記水平フランジと前記第二の傾斜壁の上端との高低差Δhは、前記水平フランジと前記水平段差との高低差Δhの2倍の値よりも小さく設定されており(ハ1)、且つ、前記第二の傾斜壁の上端での外径Dと前記周状側壁の上端での内径Dとには、以下のような関係式を満たすこと(ハ2);
2Δh>Δh≧Δhの場合、D≧D (ハ2a)
Δh<Δhの場合、D<D (ハ2b)
【請求項2】
前記側断面において、前記立設壁と水平段差とがなす角αは、80~90度の範囲にある請求項1に記載のスタック成形体。
【請求項3】
前記側断面において、前記折り返し壁と第二の傾斜壁とがなす角βは、20~40度の範囲にある請求項1に記載のスタック成形体。
【請求項4】
前記側断面において、前記第一の傾斜壁の立ち上がり角θ1と、前記第二の傾斜壁の立ち上がり角θ2との差Δθは、5~15度の範囲にある請求項1に記載のスタック成形体。
【請求項5】
前記側断面において、前記水平フランジの幅w1は、前記水平段差の幅w2よりも大きい請求項1の記載のスタック成形体。
【請求項6】
食器として使用される請求項1~5の何れかに記載のスタック成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積み重ねての保管が可能なスタック性を有するスタック成形体に関するものであり、特に介護用の食器として好適なスタック性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、底壁と底壁周縁から立ち上がっている周状側壁とからなるカップ形状を有している成形体は、カップ内空間に種々の物を収容できるため、容器或いは食器などとして広く使用されている。
【0003】
ところで、このような形態の成形体において、周状側壁の一部に、上方にいくに従い内方に屈曲している返しを有する屈曲部を形成した形態のものが知られている(特許文献1,2参照)。このような形態の成形体は、幼児用或いは介護用の食器として好適に使用される。即ち、料理などを入れた場合、屈曲部側に料理をスプーンで寄せやすく、しかも料理を掬いやすいので、料理を残さずに食べ易くなるという利点がある。
【0004】
しかしながら、上記のような成形体は、上端に内方に向かって屈曲している返しが存在しているため、積み重ねて保管することができないという問題があった。また、上端の開口径を底壁の径よりも大きくしてスタック性(積み重ね性)を付与することもできるが、この場合においても、返しの存在により、積載物が傾いて不安定となってしまう。
【0005】
また、本出願人の特許出願に係る特許文献3には、
「底壁と底壁周縁から立ち上がっている周状側壁とからなり、全体としてカップ形状を有しているスタック性成形体(スタック成形体)において、
前記周状側壁の上部には、該スタック性成形体の底部を含む下方部分が通過し得る大きさの上部水平開口を有しており、
前記周状側壁の中間部には、前記スタック性成形体の底部を含む下方部分の通過が阻止されるような水平形状を有している中間水平開口が形成されていること」
という基本構造を有しているスタック成形体が開示されており、さらに、このスタック成形体は、側断面でみたとき、前記周状側壁は、上方にいくに従い内方に縮経した形状の返しを有する返し領域が形成されている。このような返し領域が形成されている特許文献3のスタック成形体は、スタック性が大きく改善されているばかりか、該成形体を食器として使用したとき、該食器(スタック成形体)に収容されている食品をスプーンで掬いやすいという利点がある。
【0006】
しかるに、介護用食器の分野では、スプーンに乗せられた食品を一部落とし、食品の量を少なくするように調整しなければならないことがある。特許文献3のスタック成形体は、スプーンに乗せられた食品量(スプーン1回分の食取量)を調整するには、不適当な形状となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3168528号
【特許文献2】特開2002-240858号公報
【特許文献3】特開2021-151892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、底壁と底壁周縁から立ち上がっている周状側壁とからなり、全体としてカップ形状を有していると共に、積み重ねやすい形態に周状側壁が形成されているばかりか、介護用食器や離乳食用食器としての適性に優れ、食器内部の食品をスプーンで掬いやすい上に、スプーンに乗せられた食品量の調整も容易に行い得るような形状を有しているスタック成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、底壁と底壁周縁から立ち上がっている周状側壁とからなり、該周状側壁の上端には、外方を指向する水平フランジが全周にわたって形成されていると共に、
前記周状側壁の上端での内径Dが、前記底壁の外径Dよりも大きく設定されているカップ形状のスタック成形体において、
下記条件(イ)~(ハ)を満足する側断面を有していることを特徴とするスタック成形体が提供される。
(イ)前記周状側壁の一方の側には、立ち上がり角θ1で下方から外方に向かって前記底壁周縁から延びている第一の傾斜壁を有しており(イ1)、且つ前記周状側壁の他方の側には、立ち上がり角θ2で下方から外方に向かって前記底壁周縁から延びている第二の傾斜壁を有しており(イ2)、該立ち上がり角θ2は、前記立ち上がり角θ1よりも小さいこと(イ3);
(ロ)前記第一の傾斜壁の上端に外方に延びている水平段差が形成されており(ロ1)、該水平段差の外方側端部が、内方上方または垂直方向上方に延びている立設壁を介して前記水平フランジに連なっており(ロ2)、且つ前記第二の傾斜壁の上端は、内方上方または垂直方向上方に向かって延びている折り返し壁に連なっており(ロ3)、該折り返し壁の上端が前記水平フランジに連なっていること(ロ4);
(ハ)前記水平フランジと前記第二の傾斜壁の上端との高低差Δhは、前記水平フランジと前記水平段差との高低差Δhの2倍の値よりも小さく設定されており(ハ1)、且つ、前記第二の傾斜壁の上端での外径Dと前記周状側壁の上端での内径Dとには、以下のような関係式を満たすこと(ハ2);
2Δh>Δh≧Δhの場合、D≧D (ハ2a)
Δh<Δhの場合、D<D (ハ2b)
【0010】
本発明のスタック成形体は、次の態様を好適に採用することができる。
(1)前記側断面において、前記立設壁と水平段差とがなす角αは、80~90度の範囲にあること。
(2)前記側断面において、前記折り返し壁と第二の傾斜壁とがなす角βは20~40度の範囲にあること。
(3)前記側断面において、第一の傾斜壁の立ち上がり角θ1と、第二の傾斜壁の立ち上がり角θ2との差Δθは、5~15度の範囲にあること。
(4)前記側断面において、前記水平フランジの幅w1は、前記水平段差の幅w2よりも大きいこと。
(5)食器として使用されること。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスタック成形体は、全体としてカップ形状を有しており、周状側壁の上端に、外方を指向する水平フランジが全周にわたって形成されているという基本形状を有しており、該周状側壁の上端での内径Dが、底壁の外径Dよりも大きく設定されている。即ち、2つ或いはそれ以上の数の成形体を積み重ねることが可能となっている。
【0012】
上記のような基本形状に加え、本発明では、さらに、前記(イ)~(ハ)の構成が採用されており、左右非対称の側面形状を有しているため、この成形体を互い違いにして積み重ねることにより、数多くの成形体を安定に積み重ねることができるばかりか、成形体内に収容された食品(料理)をスプーンで掬ったとき、第2の傾斜壁の上端に連なる折り返し壁の部分で、スプーンで寄せた食品をスプーンに載せることにより掬いやすくなり、またスプーン内に食品を載せすぎた場合においても、スプーン内に掬われた食品を拭い落とすことができ、スプーン内の食品量を食するのに適した量に調整することが可能となる。
【0013】
このように、本発明のスタック成形体は、介護用食器や離乳食用食器としての適性とスタック性との両方に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のスタック成形体の上方から見た斜視図。
図2図1のスタック成形体の底面図。
図3図1の成形体のA-A側断面図(図2参照)であり、(a)は、場所等を示す引照数字を加入した図であり、(b)は大きさを示す符号を加入し、一部の引照数字を省略した図。
図4図1の成形体のA-A側面図。
図5図1の成形体の2つを互い違いの逆向きで積み重ねたときの積み重ね状態を示す側断面図であり、(a)は、場所等を示す引照数字を加入した図であり、(b)は大きさを示す符号を加入し、一部の引照数字を省略した図。
図6】本発明の他の一例についての側断面図。
図7図6の成形体について、2つの積み重ね状態を示す側断面図。
図8】従来公知(特許文献3)のスタック成形体について、2つの成形体の積み重ね状態を示す側断面図であり、(a)は同じ向きで積み重ねたときの積み重ね状態を示し、(b)は逆向きで積み重ねたときの積み重ね状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1図5を参照して、全体として20で示す本発明のスタック成形体は、円形の底壁1と、底壁1の周縁から立ち上がっている周状側壁3とからなっており、全体としてカップ形状を有している。
底壁1の底面(裏面)は、基本的には、フラットな面であってよいが、図の例では、中央部に上げ底1aが形成されており、上げ底1aの周囲には、上方から見ると、凹んだ接地部1bが形成されることとなる。この上げ底1aを大面積に形成すると、接地部1bの幅が狭くなり、接地部1bにより形成されている凹んだ部分に入り込んだ料理を掬い上げることが困難となるおそれがあるので、上げ底1a(或いは接地部1b)は、このような不都合が生じない程度の大きさとすべきである。
【0016】
更に上げ底1aの段差高さが高すぎると、スプーンで掬う際に引っ掛かりを生じて掬いにくくなり、また上げ底1aの段差は接地部1bにより形成されている凹部に入り込んだ料理をスプーンで掬う際のガイドとなるため、段差高さが低すぎる場合にも掬いにくくなり、注意が必要である。
【0017】
周状側壁3は、基本的には、同一高さに形成されており、この上端面が水平方向に連なって上部に水平な開口5が形成されている(図3参照)。さらに、周状側壁3の上端には、全周にわたって水平方向外方に延びている水平フランジ7が設けられている。この水平フランジ7は、把手として利用されるものであるが、成形体20の利用形態や材質等によっては、ヒートシールによるシール箔の融着固定などに利用することもできる。また、水平フランジ7の一部が大面積に形成され、持ちやすくなるような形態とすることもできる。
【0018】
また、周状側壁3の上端での内径D(水平開口5の内径に相当)は、底壁1(上げ底部1a及び接地部1b)の外径Dよりも大きく設定されている。従って、このような形態のスタック成形体20は、その底壁1を、他の成形体20の水平開口5内に侵入させて積み重ねることが可能となっている。
【0019】
上記の様な基本形態を有するスタック成形体20において、本発明では、次の条件(イ)~(ハ)を満足することが必須であり、これらの条件を満足する本発明のスタック成形体20は、その左右非対称となっている側面及び側断面形状を有している。
【0020】
条件(イ);
先ず、図2の底面図におけるA-A側断面図を示す図3及びA-A側面を示す図4を参照して、かかる側断面形状および側面形状においては、通常、底壁1の周縁は、R(曲率部)を介して周状側壁3の下端に連なっているが、特に図3に示されているように、周状側壁3の一方の側には、立ち上がり角θ1で下方から外方に向かって前記底壁1の周縁から延びている第一の傾斜壁11を有している(イ1)。
尚、図3では、判り難くなることを回避するため、場所を示す引照数字を加入した図3(a)と、大きさを示す符号を加入した図3(b)とに分けて側断面が示されている。
【0021】
また、周状側壁3の他方の側には、立ち上がり角θ2で下方から外方に向かって底壁1の周縁から延びている第二の傾斜壁13を有している(イ2)。
【0022】
さらに、上記の様な第1の傾斜壁11及び第2の傾斜壁13において、立ち上がり角θ2は、立ち上がり角θ1よりも小さく設定されている(イ3)。
即ち、θ2<θ1である。
尚、本発明において、立ち上がり角とは、周状側壁3と水平面(接地面)とがなす角度を意味する。
【0023】
即ち、図3に示されている側断面及び図4に示されている側面は、立ち上がり角θ1が大きい第1の傾斜壁11と立ち上がり角θ2が小さな第2の傾斜角13とが周状側壁3に形成されていることから理解されるように、左右非対称の形状となっている。
【0024】
本発明では、上記の様な左右非対称の側断面或いは側面形状を利用して、下記の条件(ロ)及び(ハ)を満足するように、各種の形状や大きさを設定することにより、積み重ね性を大きく向上させ、さらには、介護用食器としての適性が高められている。
【0025】
条件(ロ);
かかる条件では、先ず、前記第一の傾斜壁11の上端には、外方に延びている水平段差15が形成されている(ロ1)。この水平段差15は、スタック段差とも呼ばれ、この水平段差15の存在により、安定した積み重ね形状が確保されると共に、この成形体20を積み重ねた時の段差(スタック段差)の大きさが調整される。
【0026】
上記の水平段差15の外方側端部は、内方上方、または垂直方向(容器軸方向)上方に延びている立設壁17を介して周状側壁3の上端に形成されている水平フランジ7に連なっている(ロ2)。
【0027】
一方、上記の水平段差15は、第二の傾斜壁13の上端には形成されておらず、第二の傾斜壁13の上端Qは、該上端Qから内方上方または垂直方向上方に向かって延びている折り返し壁19に連なっている(ロ3)。
即ち、この傾斜壁13の上端Qから内方上方または垂直方向上方に折り返し壁19が延びているため(即ち、上端Qが折り返し部となっている)、成形体20内に収容された食品(料理)をスプーンで掬いあげたとき、この折り返し壁19の部分で、スプーンで寄せた食品をスプーンに載せることにより掬いやすくなり、またスプーン内に食品を載せすぎた場合においても、スプーンで掬いあげられた食品を拭い落とすことが可能となり、スプーンにより食する食品量(スプーンにより口に入れる1回の食品量)を調整することができ、この成形体20の介護用食器や離乳食用食器としての適性が良好となる。
尚、上記の様な折り返し壁19が形成されている領域は、図1及び図2では、Xで示されている。
【0028】
また、上記折り返し壁19の上端は、周状側壁3の上端に形成されている水平フランジ7に連なっている(ロ4)。
【0029】
条件(ハ);
さらに、本発明においては、先ず、水平フランジと第二の傾斜壁の上端との高低差Δhは、水平フランジと水平段差との高低差Δhの2倍の値よりも小さく設定されている(ハ1)。
即ち、2Δh>Δhである。
水平フランジ7と第二の傾斜壁13の上端Qとの高低差Δhが水平フランジ7と水平段差15との高低差Δhの2倍の値より大きい場合、上下の容器が干渉するため互い違いにスタックができなくなる。
【0030】
本発明の成形体20においては、例えば、2つを積み重ねた状態を示す図5に示されているように、2つの成形体20,20を互い違い(逆向き)に重ねたとき(互い違いスタック)、上に重ねられている成形体20-1に形成されている水平段差15が、下側の成形体20-2に形成されている水平フランジ7の上に載り、且つ上側の成形体20-1の折り返し壁19の下端(折り返し部Q)が、下側の成形体20-2の水平段差15と水平フランジ7との間の部分で位置固定される。
尚、図5においても、判り難くなることを回避するため、図3と同様、場所を示す引照数字を加入した図5(a)と、大きさを示す符号を加入した図5(b)とに分けて積み重ねた状態が示されている。
【0031】
即ち、図5の状態を確保するために、2Δh>Δh≧Δhとなるように側断面形状が設定されている。
この場合、前記第二の傾斜壁13の上端Qでの外径Dと前記周状側壁の上端での内径Dとには、D≧Dのような関係式が成立する(ハ2a)。この結果、複数の成形体20を互い違いの向きで積み重ねることにより、ほぼ直立状態で積み重ねることができ、多数の成形体20を積み重ねることができる。
即ち、図5の形態の成形体20では、下記の条件(ハ2a)が成立している。
2Δh>Δh≧Δh
且つ
≧D
【0032】
一方、本発明の成形体は、図6のような形態を有していることもできる。図6の成形体20を積み重ねた状態は、図7で示される。(尚、図6,7では、引照数字が一部省略されている)。
図6に示す成形体20についても、前述した図1図5に示されている成形体20と同様に、条件(イ)及び(ロ)を満しており、左右非対称となっている側面及び側断面形状を有している。よって、図6の形態でも積み重ね性を大きく向上させ、さらには、介護用食器としての適性が高められている。
【0033】
即ち、図6の成形体では、2つの成形体20,20を互い違い(逆向き)に重ねたとき(互い違いスタック)、図7に示されているように、上に重ねられている成形体20-1に形成されている水平段差15が、下側の成形体20-2に形成されている水平フランジ7の上に載り、且つ上側の成形体20-1の折り返し壁19の下端(折り返し部Q)が、下側の成形体20-2の水平フランジ7より上の部分で位置固定される。
【0034】
この形態では、2Δh>Δhであり、前述した(ハ1)の条件を満足しているが、さらに、Δh<Δh1となっている。
即ち、2Δh>Δh>Δh
この場合、前記第二の傾斜壁の上端での外径Dと前記周状側壁の上端での内径Dとには、D<Dのような関係式が成立する。
即ち、図6の形態の成形体20では、下記の条件(ハ2b)が成立している。
2Δh>Δh>Δh
且つ
<D
この結果、複数の成形体20を互い違いの向きで積み重ねることにより、ほぼ直立状態で積み重ねることができ、多数の成形体20を積み重ねることができることとなる。
【0035】
尚、かかる成形体20を同方向に積み重ねると、上に重ねられている成形体20-1に形成されている折り返し部Q(第二の傾斜壁13の上端)が下側の成形体20-2の水平フランジ7の上に載った状態となり、上側の成形体20-1の水平段差15は、下側の成形体20-2の水平フランジ7から浮いた状態となってしまうため、積み重ね状態が不安定となり、多数の成形体20を積み重ねることが困難となってしまう。
即ち、本発明の成形体20は、図5及び図7に示されているように互い違いに積み重ねることにより、多くの成形体20を積み重ねることができるという優れたスタック性を発揮することができるのである。
【0036】
また、本発明の成形体20と形態が類似している特許文献3に開示されている介護用食器は、スタック性が本発明とは大きく異なっている。
【0037】
即ち、図8の側断面図に示されているように、全体として30で示す特許文献3の介護用食器は、本願と同様の形態の底壁1を有しており、その一方の周縁部から立ち上がっている第一の傾斜壁11の上端には、水平段差(スタック段差)15が形成されており、この水平段差15の外側端部は、内方且つ上方に向かって延びている立設壁17に連なっており、この立設壁17の上端が、水平フランジ7の内周縁に連なっている。また、底壁1の他方側端部から立ち上がっている第二の傾斜壁13は、本発明の成形体20とは異なり(本発明では、第二の傾斜壁13は、外方に向かって立ち上がっている)、内方に向かって立ち上がっており、その上端が、直接水平フランジ7の内周縁に連なっており、本発明の成形体20のような折り返し壁19は形成されていない。
【0038】
このような形態の介護用食器30は、食器30内に収容されている食品量が少なくなってきた場合にも、内方に立ち上がっている第二の傾斜壁13を利用してスプーンにより食品を掬い易いという利点はあるが、本発明と比較すると、スタック性が十分でない。
【0039】
例えば、この食器30を同方向に積み重ねたとき、図8(a)に示されているように、上に重ねられた食器30-1の水平段差15が、下の食器30-2の水平フランジ7上に載った状態に保持されるが、他方の側では、上の食器30-1の水平フランジ7と下の食器30-2の水平フランジ7との間には、立設壁17の高さに相当する分の空隙Yが形成され、上の食器30-1の水平フランジ7が浮いた状態で保持されることとなる。即ち、このような形態で、食器30を重ねていくと、食器30は第一の傾斜壁11(水平段差15)側に斜めに傾斜して積み重ねられていく(斜めスタック)。このことから理解されるように、食器30の積み重ね形態が、積み重ねる食器30の数が増えるにしたがい不安定になる上に、食器30自体の自重によって倒れてしまうため、自立自体ができず、多数の食器30を積み重ねることができないのである。
【0040】
一方、上記の食器30を逆向きに積み重ねると(互い違いスタック)、図8(b)に示されているように、下の食器30-2の水平フランジ7及び第二の傾斜壁13の上部或いは第1の傾斜壁11の内面の傾斜面の部分に邪魔され(積み重ねに邪魔な部分を干渉部として示す)、上側の食器30-1を下側の食器30-2内に深く侵入させることができない。即ち、スタック段差が大きくなってしまいスタック効率が低下する。このため、互い違いスタックによっても、積み重ねる食器30の数を多くすることができないのである。
【0041】
このように、本発明のスタック成形体20は、特許文献3の介護用食器30と同等の掬いやすさを有している上に、スプーンで掬われた食品を折り返し壁19の部分で拭い落とし易く、スプーン一杯分の食品量を調整し易いという利点を有しているばかりか、互い違いスタックにより、多くの成形体20を安定に積み重ねることができるという利点を有している。このような利点を有する成形体20は、成形体20を製造後、多くの成形体20を積み重ねて搬送し、さらには保管できるなど、工業的にも極めて有利であり、勿論、一般のユーザーにおいては、食器棚に保管し易いという利点がある。
【0042】
上述した本発明のスタック成形体20において、第一の傾斜壁11や第二の傾斜壁13の立ち上がり角θ1、θ2、水平フランジ7と第二の傾斜壁13の上端Qとの高低差Δh、水平フランジ7と水平段差15との高低差Δh、立設壁17と水平段差15とがなす角α、折り返し壁19と第二の傾斜壁13とがなす角βなどは、前述した下記関係式の条件、
2Δh>Δh≧Δhの場合、D≧D (ハ2a)
Δh<Δhの場合、D<D (ハ2b)
を満足し、成形体20について、十分な数での安定した積み重ねが可能となり、さらには、スプーンで食品を掬ったときに掬いやすく、かつ食品の拭い落としが容易となるように、適宜の範囲に設定される。
【0043】
即ち、第一の傾斜壁11の立ち上がり角θ1は、第二の傾斜壁13の立ち上がり角θ2よりも大きいが、その差Δθは、当然のことながら前記条件を満足するように、この成形体20の大きさ等に応じて適宜の範囲に設定される。例えば、この角度差Δθが必要以上に大きいと、水平フランジ7の内径Dが底壁1の外径Dよりも小さくなってしまい、積み重ねができなくなってしまったり、或いは互い違いにスタックできなくなるなどの問題も生じる。これらのことを考慮して、角度差Δθは設定されるが、一般に使用される介護現場で使用される介護用食器や実生活で使用される離乳食用食器の大きさの場合には、5~15度の範囲内に角度差Δθが設定され、立ち上がり角θ1及びθ2の大きさは、介護用食器や離乳食用食器として使用される成形体20の大きさに応じて、θ1を70~85度の範囲とし、θ2を60~80度の範囲とすることが一般的である。
【0044】
また、通常、水平フランジ7と水平段差15との高低差Δhが、成形体20同士を互い違いに積み重ねたときのスタック段差に相当するものとなる。即ち、この高低差Δhが過度に大きいと、スタック効率が損なわれ、互い違いスタックを採用しても多数の成形体20を積み重ねることが困難となってしまう。従って、安定したスタック性を確保し、互い違いスタックにより数多くの成形体20を安定に積み重ねるという点で、この高低差Δhをできる限り小さくすることが必要であるが、この高低差Δが小さすぎると第二の傾斜壁13の上端Qと水平フランジ7の高低差Δhも小さくなり、所望の掬いやすさや拭い落としやすさが得られない上に、スタック状態の食器同士の取り外しが困難になる恐れがある。よってこれらの機能を損なわない範囲で設定すべきである。
【0045】
さらに、立設壁17は、水平段差15の外方側端部から外方に向かって延びていること、換言すると角αが90度より大きい値であると、互い違いスタックにより成形体20を積み重ねたとき、上側の成形体20-1の水平段差15が、下側の成形体20-2の水平フランジ7上にほとんど載らなくなってしまい、スタック状態が不安定になるおそれがある。また、立設壁17と水平段差15とがなす角αが過度に小さいと、水平フランジ7の内径D(周状側壁3の上端での内径)が小さくなり、前述した不等式条件を満足させにくくなり、スタック性が損なわれるおそれがある。即ち、立設壁17は、水平段差15の外方側端部から内方上方に延びているか或いは垂直方向(容器軸方向)に延びているべきであり、この角度αは、通常、80~90度の範囲に設定される。
【0046】
一方、折り返し壁19は、第二の傾斜壁13の上端Qから内方上方または垂直方向上方に延びていなければならない。内方に向かって延びていることにより、成形体20内に収容されている食品(料理)をスプーンで掬ったとき、このスプーンを第二の傾斜壁13の上方部分から折り返し壁19に沿って接触させていくことにより、スプーンで寄せた食品をスプーンの上に容易に載せることができ、その上スプーンで掬われた食品の一部をスプーンから拭い落とすことが可能となり、スプーン一杯で食する食品量を調整することができる。また垂直方向上方に延びていても、成形体20内に収容されている食品(料理)をスプーンで掬ったとき、このスプーンを第二の傾斜壁13の上方部分から折り返し壁19に沿って接触させていくことと手首のわずかなひねりを組み合わせることにより、スプーンで寄せた食品をスプーンの上に容易に載せることができ、その上スプーンで掬われた食品の一部をスプーンから拭い落とすことが可能となり、スプーン一杯で食する食品量を調整することができる。このような折り返し壁19が形成されていないと、スプーンで寄せた食品をスプーンの上に載せる際に使用者はスプーンまたは食器を持つ手首を過度にひねる必要があり、使用者の健康状態によってはこの動作が著しく困難となる。また同時に介護者や介助者がスプーンで掬われた食品の一部をスプーンから拭い落とすことが困難となり、被介護者や乳幼児に適正な量を食べさせることができず、介護用食器や離乳食用食器としての適性が損なわれてしまう。従って、このような折り返し壁19と第二の傾斜壁13とがなす角度β(折り返し角度)は、第二の傾斜壁13の立ち上がり角θ2の大きさに応じて、折り返し壁19が内方上方または垂直方向上方に延びているように設定される。また、この角度βは、過度に大きいと、スタック性が損なわれるばかりか、使用者がスプーンで掬う際にひっかかりを不快に感じることもあるので、通常は、折り返し壁19が内方上方または垂直方向上方に延びていることを条件として、20~40度の範囲に設定される。
【0047】
上述した本発明のスタック成形体20において、全体の大きさによっても異なるが、通常、水平フランジ7の幅w1は、3~30mm程度であり、水平段差15の幅w2は、0.3~5mm程度であり、水平フランジ7の幅よりも小さいことが一般的である。
【0048】
さらに、図1の斜視図及び図2の底面図に示されているように、折り返し壁19が形成されている領域Xは、使用者が折り返し壁19を視認しやすくするために、かつ前述した掬いやすさや拭い落とし性を確保するために、適度な大きさを有していることが必要であり、通常、底壁1の中心Oに対して、90~150度の角度拡がっていることが好適である。また、水平段差15は、半周以上(180度以上)にわたって形成されていることが、スタックの安定の点で好適である。
【0049】
尚、図4の側面図に示されているように、通常、水平段差15及び折り返し壁19は、互いに近づくにつれて幅が小さく、或いは折り返し角度βが小さく且つ第二の傾斜壁13の立ち上がり角θ2が第1の傾斜壁11の立ち上がり角θ1に近づく移行領域Zが形成されており、これにより、成形体20は、全体として滑らかな形態に成形されている。
また、底壁1は、円形となっているが、これを矩形とし、全体として箱型形状とすることもできる。
【0050】
このような形態の成形体20は、特に限定されるものではなく、金属素材を用いて成形されていてもよいが、一般的には、種々の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂により成形され、特に、包装材料分野で広く使用されている熱可塑性樹脂、例えばポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂を用いることが好ましく、コストの点でオレフィン系樹脂により成形されていることが最適である。
【0051】
また、熱可塑性樹脂を用いての成形手段としては、射出成形が一般的であるが、本発明の形態の成形体20では、プラグアシスト成形により安価に製造することができ、これは本発明の大きな利点である。
【0052】
かかるスタック成形体20は、優れたスタック性を有しているため、搬送性や保管性に優れており、種々の用途に使用されるが、特にスプーンで掬われた食品が掬いやすく、かつ拭い落とし性に優れているため、幼児用や老人などのための介護用や離乳食用の食器として好適に使用される。また、かかる成形体20は、その内部に加工食品などを充填し、その上部を、水平フランジ7を利用してのヒートシールによりシールし、食品容器として販売することもできる。
【符号の説明】
【0053】
1:底壁
1a:上げ底
1b:接地部
3:周状側壁
5:上部水平開口
7:水平フランジ
11:第一の傾斜壁
13:第二の傾斜壁
15:水平段差
17:立設壁
19:折り返し壁
20:本発明のスタック成形体
30:従来公知の介護用食器
図1
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図8