(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107745
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/34 20060101AFI20240802BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
F16C33/34
F16C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011834
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 直哉
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA14
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA43
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA04
3J701BA06
3J701BA09
3J701EA03
3J701FA31
3J701GA01
3J701GA60
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB16
3J701XB17
(57)【要約】
【課題】外径面と面取り部とが交わる部位である面取り接続部付近の剥離を有効に防止できる転がり軸受を提供する。
【解決手段】軸方向端部に面取り部を有する転動体を備えた転がり軸受である。転動体外径面と面取り部とが交わる部位が剥離防止構造とされる。剥離防止構造は、交わる部位が連続な曲線で形成されることにより構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向端部に面取り部を有する転動体を備えた転がり軸受であって、
転動体外径面と前記面取り部とが交わる部位が剥離防止構造とされ、前記剥離防止構造は、転動体外径面を表す関数と面取り部を表す関数の端点の位置が交わる部位にて一致し、且つ交わる部位において微分可能である連続な曲線で形成されることにより構成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記転動体の前記面取り部のドロップ量が、面取り部における転動体外径面に沿った面取り長さの1/20の位置で前記面取り長さの2%以下であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記転動体の前記面取り部のドロップ量が、面取り部における転動体外径面に沿った面取り長さの1/10の位置で前記面取り長さの4%以下であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記転動体の前記面取り部のドロップ量が、面取り部における転動体外径面に沿った面取り長さの1/20の位置で前記面取り長さの2%以下であるとともに、前記面取り部における外径面に沿った面取り長さの1/10の位置で前記面取り長さの4%以下であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記転動体に、表面粗さを低下させる加工が施されてなることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
軸方向端部に面取り部を有する転動体を備えた転がり軸受であって、
転動体外径面と前記面取り部とが交わる部位が剥離防止構造とされ、前記転動体外径面にはクラウニングが形成されるとともに、表面粗さを低下させる加工が施されて、前記転動体の前記面取り部のドロップ量が、前記面取り部のクラウニング部方向に沿った面取り長さの1/20の位置でクラウニング部方向に沿った面取り長さの2%以下とすることによって、前記剥離防止構造を構成することを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、特に、軸方向端部に面取り部を有する転動体を備えた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、異物混入下でも十分な寿命(耐久性)を確保できるころ軸受の製造方法が開示されている(特許文献1)。この特許文献1のころ軸受の製造方法は、容器(バレル)内で各ころを衝突させる硬化処理に先立って、これら各ころも軸方向両端縁にR状の面取り部を形成する面取り加工を施すものである。このように、面取り加工を施すことによって、これら各ころの軸方向両端縁とこれら各ころの転動面とが衝突しても、この転動面に損傷を生じにくくでき、必要な硬度並びに強靭、疲労強度を十分に確保できるというものである。
【0003】
また、従来には、ころにクラウニング部を設け、このクラウニング部の表面粗さを、クラウニング部を除く部分の表面粗さと同等以上にした円筒ころがある(特許文献2)。このように、構成することによって、表面剥離などの表面損傷がころおよび支持対象部品に発生するのを抑制できるというものである。
【0004】
さらに、従来には、特許文献3に記載されているように、長寿命かつ高い耐久性を有する円すいころ軸受が提案されている。この場合の円すいころ軸受は、内輪軌道面に接触する接触部クラウニングと、内輪軌道面に接触しない非接触部クラウニングを設け、接触部クラウニングと非接触部クラウニングの形状は互いに異なる関数で表され、かつ両者が滑らかに接続される曲線(連続する曲線)となっており、非接触部クラウニングの曲率が接触部クラウニングの曲率より小さいように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-14126号公報
【特許文献2】特許第4075364公報
【特許文献3】特開2021-105451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、円筒ころ軸受や円すいころ軸受のころには、転動面となる部分と軸方向両端縁が交わる部分に面取りを設ける(以下、面取り部と呼称)。この面取り部は、鍛造加工(冷間圧造加工、ヘッダー加工)や旋削加工でころの熱処理前に形成するのが一般的であり、また、特許文献1に記載のように、バレル研磨加工でもって、面取り部を加工していた。
【0007】
ところで、ころ軸受の使用時において、面取り部は内外輪の転動面と接触しない場合が多い。これは、特許文献2や特許文献3に記載されているように、ころ軸受の内外輪の転動面端部近傍やころの端部近傍にクラウニングが設けられることがあり、このような軸受を通常の荷重(設計時に想定している荷重)で使用する場合には軌道輪ところの転動接触面の端部は直接接触しないためである。しかしながら、ころにクラウニングを設けることは加工工数の増加や生産性の低下につながり、原価の上昇を招く。
【0008】
クラウニングを設けない場合や、
図21に示すように、クラウニングがあっても荷重条件によってはころの転動面の端部まで軌道輪の軌道面に接触する場合がある。この場合、
図20のように、転動面2やころ1の弾性変形により、面取り部4が軌道面3aに接触する可能性もある。このとき、面取り部4の表面性状が適切でないと軌道輪3の軌道面3aと油膜を介さずに接触(金属接触)する可能性があり、軌道輪3の表面起点損傷が発生するリスクがある。
【0009】
また、
図21のようにころ1の転動面2と面取り部4の境界5(以下、面取り接続部と呼称)が不連続な形状になっている場合には接続部が連続な形状になっている場合と比較してエッジ応力が上昇するため、軌道輪3およびころの端部に離が発生するリスクが増加する。
【0010】
そこで、本願では、外径面と面取り部とが交わる部位である面取り接続部付近の剥離を有効に防止できる転がり軸受を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の転がり軸受は、軸方向端部に面取り部を有する転動体を備えた転がり軸受であって、転動体外径面と前記面取り部とが交わる部位が剥離防止構造とされ、前記剥離防止構造は、転動体外径面を表す関数と面取り部を表す関数の端点の位置が交わる部位にて一致し、且つ交わる部位において微分可能である連続な曲線で形成されることにより構成されていることをものである。
【0012】
本発明の第1の転がり軸受は、転動体において、転動体外径面と前記面取り部とが交わる部位が、連続な曲線で形成されることにより剥離防止構造とされるので、転動体外径面と前記面取り部とが交わる部位である面取り接続部付近の剥離を有効に防止できる。しかも、交わる部位が連続な曲線で形成されることにより、相手面(軸受内輪や軸受外輪の軌道面)の損傷(主に表面の圧痕形成、接触面下の塑性変形および組織変化)を防ぐことができる。
【0013】
前記転動体の前記面取り部のドロップ量が、面取り部における転動体外径面に沿った面取り長さの1/20の位置で前記面取り長さの2%以下に設定することができる。このように設定することにより、連続な曲線を安定して形成することができる。
【0014】
前記転動体の前記面取り部のドロップ量が、面取り部における転動体外径面に沿った面取り長さの1/10の位置で前記面取り長さの4%以下であるように設定することも可能である。このように設定することにより、連続な曲線をより安定して形成することができる。
【0015】
前記転動体の前記面取り部のドロップ量が、面取り部における転動体外径面に沿った面取り長さの1/20の位置で前記面取り長さの2%以下であるとともに、面取り部における転動体外径面に沿った面取り長さの1/10の位置で前記面取り長さの4%以下であるように設定できる。このように設定することにより、連続な曲線をより安定してより滑らかに形成することができる。
【0016】
前記転動体に、表面粗さを低下させる加工が施されてなるものであってもよい。このように、表面粗さを低下させる加工が施されたものでは、相手面(軸受内輪や軸受外輪である軌道輪における転動接触面)のマイクロピッチングなどの表面起点損傷の発生を抑制することが可能である。ここで、マイクロピッチングは、周期的な接触応力の繰り返しによって生じる表面粗さ上における塑性流れによって、接触した表面に発生する微細なピッチングである。また、ピッチングとは材料が疲労破壊を起こし斑点状の微孔が生じる損傷のことである。
【0017】
本発明の第2の転がり軸受は、軸方向端部に面取り部を有する転動体を備えた転がり軸受であって、転動体外径面と前記面取り部とが交わる部位が剥離防止構造とされ、前記転動体外径面にはクラウニングが形成されるとともに、表面粗さを低下させる加工が施されて、前記転動体の前記面取り部のドロップ量が、面取り部のクラウニング部方向に沿った面取り長さの1/20の位置でクラウニング部方向に沿った面取り長さの2%以下とすることによって、前記剥離防止構造を構成するものである。
【0018】
本発明の第2の転がり軸受は、面粗さを低下させる加工が施されて、転動体の面取り部のドロップ量が、面取り部のクラウニング部方向に沿った面取り長さの1/20の位置で前記面取り長さの2%以下としているので、転動体外径面と面取り部とが交わる部位が不連続な曲線であっても、転動体外径面と前記面取り部とが交わる部位である面取り接続部付近の剥離を防止できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、転動体外径面と面取り部とが交わる部位である面取り接続部付近の剥離を防止でき、耐久性に優れた転がり軸受を提供できる。しかも、相手面(軸受内輪や軸受外輪の軌道面)の損傷(主に表面の圧痕形成、接触面下の塑性変形および組織変化)を防ぐことができ、軸受全体の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る転がり軸受の簡略断面図である。
【
図2】クラウニング部を有さないころと軌道輪との関係を示す簡略図である。
【
図4】クラウニング部を有するころと軌道輪との関係を示す簡略図である。
【
図5】本発明に係る他の転がり軸受の簡略断面図である。
【
図6】試験片Aの面取り部の寸法を示す簡略図である。
【
図7】試験片Aの面取り部のドロップ量を示す図である。
【
図8】試験片Bの面取り部の寸法を示す簡略図である。
【
図9】試験片Bの面取り部のドロップ量を示す図である。
【
図15】試験片A-1の相手材の試験後の表面写真である。
【
図16】試験片A-2の相手材の試験後の表面写真である。
【
図17】試験片A-3の相手材の試験後の表面写真である。
【
図18】試験片B-1の相手材の試験後の表面写真である。
【
図19】試験片B-2の相手材の試験後の表面写真である。
【
図20】従来の欠点を示すころと軌道輪との関係を示す簡略図である。
【
図21】従来の他の欠点を示すころと軌道輪との関係を示す簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施形態を
図1~
図19に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る転がり軸受の簡略断面図を示し、この転がり軸受は円筒ころ軸受であって、外径面に軌道面10を有する一方の軌道輪を構成する内輪11と、内径面に軌道面12を有する他方の軌道輪を構成する外輪13と、内輪11の軌道面10と外輪13の軌道面12との間に介装される転動体としての円筒ころ14と、円筒ころ14を保持する保持器15とを備える。この図例の円筒ころ軸受は、外輪13の内径面に一対の鍔部16,16を有し、内輪11の外径面に鍔部を有さない、いわゆるNUタイプの円筒ころ軸受である。
【0022】
この軸受においては、
図2に示すように、軸方向端部に面取り部20を有するものであって、転動体外径面(ころ外径面)と面取り部20とが交わる部位21が剥離防止構造Mとされている。この場合、交わる部位21を連続な曲線で形成することにより、剥離防止構造Mを構成している。ここで、連続な曲線とは,交わる部位21において転動体外径面を表す関数と面取り部20を表す関数の端点の位置が一致しており、かつ交わる部位21において微分可能であることを意味する。
【0023】
この場合、転動体(ころ14)の面取り部20のドロップ量Daが、面取り部20の軸方向面取り長さ(面取り部20におけるころ外径面17に沿った面取り長さL)の1/20の位置でこの面取り長さの2%以下であったり、さらには、面取り長さの0.5%以下であったりする。すなわち、面取り部20の外径面に沿った長さをLとしたときに、L/20の位置で、ドロップ量Da2がL×0.02以下であったり、ドロップ量Da2がL×0.005以下であったりする。ここで、面取り部20におけるころ外径面17に沿ったとは、
図3に示す外径面に沿った方向の延長線EをX軸方向とすると、ドロップ量Daとは、X軸方向と直交するY軸方向の長さである。
【0024】
また、面取り部の軸方向面取り長さ(面取り部20におけるころ外径面17に沿った面取り長さ)の1/10の位置で、面取り長さの4%以下であったり、面取り長さの1%以下であったりする。すなわち、面取り部20の外径面に沿った長さをLとしたときに、ドロップ量Da1がL×0.04以下であったりする。ドロップ量Da1がL×0.01以下であったりする。ドロップ量Daも、X軸方向と直交するY軸方向の長さである。
【0025】
このようにドロップ量Daを設定することによって、交わる部位21を連続な曲線で形成することができる。特に、L/10の位置でのドロップ量Da1と、L/20の位置でのドロップ量Da2とを設定するのが好ましく、L/10の位置でのドロップ量Da1の設定のみであっても、L/20の位置でのドロップ量Da2のみであってもよい。
【0026】
また、ころ14は、バレル加工やラッピング加工等で、面取り部20の表面性状の改善(表面粗さの低下)を図るのが好ましい。ここで、バレル加工とは、バレル(タンブラー)と称する容器内に砥材とワークと工作液を入れて、回転または振動させて表面の仕上げを行う加工のことである。このため、バレル加工機には、回転バレル研磨機、機振動バレル研磨機、および遠心バレル研磨機等がある。これらのいずれを用いてもよい。また、ラッピング加工とは、遊離砥粒(研磨剤)を含んだ状態で摺動運動(すりあわせ)を行い、加工物を微少切削しながら研磨することによって、加工物をより平坦に仕上げていく遊離砥粒加工である。
【0027】
本発明によれば、交わる部位21が連続な曲線で形成されることにより、転動体外径面(ころ外径面17)と面取り部20とが交わる部位21である面取り接続部付近の剥離を有効に防止でき、耐久性に優れた転がり軸受を提供できる。
【0028】
転動体(ころ14)の面取り部20のドロップ量Daが、面取り部20のころ外径面17に沿った面取り長さLの1/20の位置でこの取り長さの2%以下であるように設定することにより、連続な曲線を安定して形成することができる。
【0029】
転動体(ころ14)の面取り部20のドロップ量Daが、面取り部20のころ外径面17に沿った面取り長さLの1/10の位置でこの面取り長さLの4%以下であるように設定することも可能である。このように設定することにより、連続な曲線をより安定して形成することができる。
【0030】
転動体(ころ14)の面取り部20のドロップ量Daが、面取り部20のころ外径面17に沿った面取り長さLの1/20の位置でこの取り長さLの2%以下であるとともに、面取り部20のころ外径面17に沿った面取り長さLの1/10の位置でこの面取り長さLの4%以下であるように設定できる。このように設定することにより、連続な曲線をより安定してより滑らかに形成することができる。
【0031】
転動体(ころ14)に、表面粗さを低下させる加工が施されてなるものであってもよい。このように、表面粗さを低下させる加工が施されたものでは、相手面(軸受内輪や軸受外輪である軌道輪における転動接触面)のマイクロピッチングなどの表面起点損傷の発生を抑制することが可能である。ここで、マイクロピッチングは、周期的な接触応力の繰り返しによって生じる表面粗さ上における塑性流れによって、接触した表面に発生する微細なピッチングである。また、ピッチングとは材料が疲労破壊を起こし斑点状の微孔が生じる損傷のことである。
【0032】
次に、
図4が、ころ14にクラウニング部22を有する場合を示している。この場合、外径面17のクラウニング部22と面取り部20とが交わる部位21aが剥離防止構造Mとされる。また、表面粗さを低下させる加工が施されている。表面粗さを低下させる加工は、前記したバレル加工やラッピング加工等で行うことになる。この場合、クラウニング部22の曲率半径(クラウニング半径)をrとし、面取り部20の曲率半径(面取り半径)をRとしたときに、r=100R~20000R程度としている。
【0033】
また、ドロップ量Dbは、クラウニング部22の延長線E1を基準とする。すなわち、面取り部20のこの延長線Eに沿って長さをL1とし、クラウニング部22と面取り部20とが交わる交点21aからL1/20の位置で、延長線E1からの面取り部20での寸法(ドロップ量Db2)が、L1×0.02以下に設定され、さらには、L1×0.005以下に設定される。この延長線E1は、クラウニング部22を有さない場合のころ外径面17の延長線Eに対して角度(傾き角)θで傾斜している。角度(傾き角)θとして、例えば、0.005°~1.0°程度とされる。このため、クラウニング部22の延長線E1をX´軸方向とした場合、この場合のドロップ量は、このX´軸方向と直交するY´軸方向の長さである。すなわち、延長線E1は、延長線Eに対してθだけ傾斜し、ドロップ方向つまり、Y´軸方向がY軸方向に対して、θだけ傾斜している。
【0034】
面取り部20のこの延長線E1に沿った長さをL1とし、クラウニング部22と面取り部20とが交わる交点21aからL2/10の位置で、延長線E1からの面取り部までの寸法(ドロップ量Db1)が、L1×0.04以下に設定され、さらには、L1×0.01以下に設定される。
【0035】
この場合も、L1/20の位置で、L1×0.02以下に設定されるものと、L1/10の位置で、L1×0.04以下に設定されるものとのいずれかであっても、両方の位置での設定でもよい。
【0036】
このように構成することによって、クラウニング部22を有するものであっても、クラウニング部を有さない
図2に示すころ軸受と同様の作用効果を奏することができる。
【0037】
次に
図5は、円すいころ軸受を示し、この円すいころ軸受は、外周に円錐状の軌道面30を有する内輪31と、内周に円錐状の軌道面32を有する外輪33と、両軌道面30,32間に組込まれた複数の円すいころ34と、この円すいころ34を収容する保持器35とを備える。この場合、内輪31には、小径側鍔部36と大径側鍔部37とが形成されている。
【0038】
この円すいころ34も、
図2に示すように、軸方向端部に面取り部40,40を有するものであって、ころ外径面38と面取り部40,40とが交わる部位41が剥離防止構造Mとされている。この場合、交わる部位41を連続な曲線で形成することにより、剥離防止構造Mを構成している。
【0039】
この場合、円すいころ34の小径側及び大径側においても、交わる部位41を連続な曲線で形成することにより、剥離防止構造Mを構成している。また、転動体(円すいころ34)の面取り部40のドロップ量Daが、面取り部40における外径面38に沿った面取り長さLの1/20の位置で外径面38に沿った面取り長さLの2%以下としたり、さらには、面取り長さLの0.5%以下であったりする。すなわち、面取り部40の外径面38に沿った長さをLとしたときに、L/20の位置で、ドロップ量Da2がL×0.02以下であったり、ドロップ量Da2がL×0.005以下であったりする。
【0040】
また、転動体(円すいころ34)の面取り部40のドロップ量Daが、面取り部40における外径面38に沿った面取り長さLの1/10の位置で外径面38に沿った面取り長さLの4%以下としたり、さらには、面取り長さLの1%以下であったりする。すなわち、面取り部40の外径面38に沿った長さをLとしたときに、L/10の位置で、ドロップ量Da1がL×0.04以下であったり、ドロップ量Da1がL×0.01以下であったりする。
【0041】
また、円すいころが、クラウニング部42を有するものであってもよい。この場合、ドロップ量Dは、クラウニング部42の延長線Eを基準とする。すなわち、面取り部40のこの延長線Eに沿って長さをL1とし、クラウニング部42と面取り部40とが交わる交点21aからL1/20の位置で、延長線Eからの面取り部40までの寸法(ドロップ量b2)が、L1×0.02以下に設定され、さらには、L1×0.005以下に設定される。
【0042】
面取り部40のこの延長線Eに沿って長さをL1とし、クラウニング部42と面取り部40とが交わる交点21aからL1/10の位置で、延長線Eからの面取り部40までの寸法(ドロップ量b1)が、L1×0.04以下に設定され、さらには、L1×0.015以下に設定される。
【0043】
この場合も、L1/20の位置でのドロップ量Db2が、L1×0.02以下に設定されるものと、L1/10の位置でのドロップ量Db1が、L1×0.04以下に設定されるものとのいずれかであっても、両方の位置での設定でもよい。
【0044】
このため、
図5に示すような円すいころ軸受であっても、転動体である円すいころ34に対して剥離防止構造Mを設けているので、面取り接続部付近の剥離を防止でき、耐久性に優れた転がり軸受を提供できる。しかも、相手面(軸受内輪や軸受外輪の軌道面)の損傷(主に表面の圧痕形成、接触面下の塑性変形および組織変化)を防ぐことができ、軸受全体の長寿命化を図ることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、転動体としての円筒ころや円すいころに対して、表面粗さを低下させる加工として、バレル加工やラッピング加工以外に、ショットブラスト(投射材と呼ばれる粒体を加工物(ワーク)に衝突させ、ワークの加工等を行う手法)であっても、砥石による研削加工であってもよい。
【0046】
また、円筒ころ軸受として、実施形態では、外輪両鍔付き(NU形)を示したが、これに限らず、内輪両鍔付き(N形)、外輪両鍔付き(NU形)、内輪両鍔付き・外輪片鍔付き(NF形)、内輪片鍔付き・外輪両鍔付き(NJ形)、内輪両鍔のうち片側が別体の鍔輪・外輪両鍔付き(NUP形)など、種々の公知の軸受形式が採用できる。
【0047】
複列円筒ころ軸受であっても、複列円すいころ軸受であってもよく、さらには、針状ころを用いた針状ころ軸受であってもよい。転がり軸受としては、種々の一般機械、電気機械、産業機械、輸送機械又は車両等にも使用可能である。
【実施例0048】
面取り接続部の形状と仕上げ加工を変えたSUJ2製のころ(以下、試験片と呼称)を作製し、転動疲労試験を実施した。試験片寸法は外径(直径)12mm、試験片Aと試験片Bは面取り接続部の形状が異なる。試験片A(A-1~A-3)は、
図6に示すように面取り接続部21が不連続な曲線で構成されている。この場合、面取り部20の面取り長さLを1.2mmとし、面取り部20の曲率半径R=3mmとしている。また、試験片B(B-1、B-2)は、
図8に示すように、面取り接続部21が連続な曲線で構成されている。この場合、面取り部20の面取り長さLを1.5mmとし、面取り部20の曲率半径R=3mmとしている。
【0049】
図6に各試験片Aの面取り接続部の寸法を示し、
図8に各試験片Aの面取り部の形状を示す。
図7に各試験片Bの面取り接続部の寸法を示し、
図9に各試験片Bの面取り部の形状を示す。これらの試験片と、軸受軌道輪を模したφ20mmの相手材を接触させ、転動疲労試験後に相手材の転動接触面の損傷状態を観察した。表1に試験片A-1、試験片A-2,及び試験片A-3の試験条件と試験片の詳細を示す。
【表1】
【0050】
試験片A-1、試験片A-2,及び試験片A-3は、試験片中央での圧力Pmaxを3200MPaとし、試験回数を106回とし、相手負荷回数を(3×105)回とし、潤滑材をタービン油(VG56)を使用し、油膜パラメータΛを3以上とし、面取り接続部を不連続とし、L/20位置でのドロップ量を、-0.0352mm(Lの2.93%)とし、L/10位置でのドロップ量を、-0.0729mm(Lの6,07%)とした。試験片A-1はヘッダ加工のままで、試験片A-2はショットブラスト加工を行い、試験片A-3はラッピング加工を行った。また、試験片A-1の面取り部の表面粗さRaを0.8μmとし、試験片A-2の面取り部の表面粗さRaを1.3μmとし、試験片A-3の面取り部の表面粗さRaを0.7μmとした。相手材の軌道面の表面粗さRaを0.04μmとした。
【0051】
また、表2に試験片B-1、及び試験片B-2の試験条件と試験片の詳細を示す。
試験片B-1、及び試験片B-2は、試験片中央での圧力Pmaxを3200MPaとし、試験回数を10
6回とし、相手負荷回数を(3×10
5)回とし、潤滑材をタービン油(VG56)を使用し、油膜パラメータΛを3以上とし、面取り接続部を連続とし、L/20位置でのドロップ量を、-0.00091mm(Lの0.06%)とし、L/10位置でのドロップ量を、-0.00375mm(Lの0.25%)とした。試験片B-1は研削加工を行い、試験片B-2はショットブラスト加工を行った。また、試験片B-1の面取り部の表面粗さRaを0.2μmとし、試験片B-2の面取り部の表面粗さRaを1.3μmとした。相手材の軌道面の表面粗さRaを0.04μmとした。
【表2】
【0052】
図10に試験片A-1の試験後の表面写真を示し、
図11に試験片A-2の試験後の表面写真を示し、
図12に試験片A-3の試験後の表面写真を示している。これらの表面写真からわかるように、試験片A-1、A-2では面取り接続部付近に長さ200μm以上の離が発生した。試験片A-3には20μm程度の微小離が散見されるが、転動部品としての機能に支障を来すものではないと考える。なお、試験片A-3で大きい剥離が発生しなかったのは、ラッピング加工によって面取り接続部の角が取れて応力集中が緩和されたためである。
【0053】
図13に試験片B-1の試験後の面取り接続部近傍の表面写真を示し、
図14に試験片B-2の試験後の面取り接続部近傍の表面写真を示す。試験片B-1、B-2には離は発生しなかった。試験片B-1、B-2で離が発生しなかったのは、面取り接続部が連続的な曲線で形成されているため、応力集中が緩和されたためである。
【0054】
図15に試験片A-1の相手材の試験後の表面写真を示し、
図16に試験片A-2の相手材の試験後の表面写真を示し、
図17に試験片A-3の相手材の試験後の表面写真を示している。また、
図18に試験片B-1の相手材の試験後の表面写真を示し、
図19に試験片B-2の相手材の試験後の表面写真を示す。各観察箇所は試験片の面取り接続部が接触する位置の近傍である。
【0055】
試験片A-1、A-2を使用した試験では、相手材の表面に面取り部の接触によって塑性変形(圧痕)と面荒れが生じていた。この面荒れは負荷回数の増加とともに亀裂に変化し、最終的に離に至る。試験片A-3を使用した試験では、相手材の表面に面取り部の接触によって塑性変形(圧痕)が生じていたが、亀裂の発生は認められなかった。
【0056】
試験片B-1を使用した試験では高面圧に起因する塑性変形(圧痕)がわずかに発生しているが、面荒れは生じていない。試験片B-2を使用した試験では高面圧に起因する塑性変形(圧痕)がわずかに発生しており、かつ表面起点損傷につながる微小き裂の発生が認められた。圧痕深さは(試験片B-1、B-2)<(試験片A-1、A-2、A-3)であった。
【0057】
以下、試験結果についてまとめると、
(イ)面取り接続部を試験片B-1、B-2のような連続的な曲線で形成すれば相手面( 軸受内外輪の軌道面)の圧痕形成を最小限にすることができる。
(ロ)少なくとも、試験片A-3のようにラッピング加工等によって面取り接続部の不連 続な形状を緩和することで圧痕形成を軽減でき、面取り接続部付近の離を抑制で きる。
(ハ)面取り部の表面粗さを研削やラッピング加工等で低下させることで、相手面(軸受 内外輪の軌道面)のマイクロピッチングなどの表面起点損傷の発生を抑制できる