(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107754
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011844
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】瀧 泰洋
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609BB03
5H609BB19
5H609PP02
5H609PP05
5H609PP06
5H609PP09
5H609QQ01
5H609QQ08
(57)【要約】
【課題】小型で、冷媒が漏れる可能性を低減できる回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機1は、ケース10に収容されており、径方向内側に向かって突出した複数の歯部と、隣接する歯部間に設けられるスロットを有するステータコア21と、複数のスロットに収容され、ステータコア21の軸方向外側にコイルエンド部42を有するコイル40と、ステータコア21の径方向内側に回転軸2の軸方向に沿って設けられたロータ30と、を備え、コイル40に対向してスロットに配置されたスロット配置部、及びスロット配置部からステータコア21の軸方向外側に突出する環状の突出部52を有する樹脂体50と、を備え、コイルエンド部42が、突出部52とケース10とで囲まれた空間5に収容されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに収容されている回転電機であって、
径方向内側に向かって突出した複数の歯部と、隣接する前記歯部間に設けられるスロットを有するステータコアと、
複数の前記スロットに収容され、前記ステータコアの軸方向外側にコイルエンド部を有するコイルと、
前記ステータコアの前記径方向内側に回転軸の軸方向に沿って設けられたロータと、を備え、
前記コイルに対向して前記スロットに配置されたスロット配置部、及び前記スロット配置部から前記ステータコアの前記軸方向外側に突出する環状の突出部を有する樹脂体と、を備え、
前記コイルエンド部が、前記突出部と前記ケースとで囲まれた空間に収容されている回転電機。
【請求項2】
前記ケースは、前記ケースの内壁から前記軸方向に沿って前記ステータコア側に突出した凸部を有し、
前記突出部と前記凸部との間に、第1シール部材が設けられている請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記突出部は、前記歯部の先端部よりも前記径方向内側に突出する径方向突出部を含む請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記突出部は、前記ステータコアの軸方向端面よりも前記軸方向外側に突出する軸方向突出部を含む請求項2又は3に記載の回転電機。
【請求項5】
前記樹脂体の前記軸方向の他方側と前記ケースの前記他方側の内壁との間に環状の区画部材が設けられ、
前記他方側のコイルエンド部が、前記他方側の前記樹脂体と前記区画部材と前記ケースとで囲まれた空間に収容されている請求項1又は2に記載の回転電機。
【請求項6】
前記樹脂体は、前記ステータコアの前記他方側から前記ケースの前記他方側の前記内壁に向かって突出する環状の第2突出部を有し、
前記区画部材と前記第2突出部との間に環状の第2シール部材が設けられている請求項5に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車等の車両用駆動装置には、回転電機が利用されている。このような回転電機は運転に応じて、ステータのコイルに電流が流れ、ジュール熱によりコイルが発熱する。そこで、コイルを冷却する技術が検討されてきた。このような技術として、例えば下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には回転電機のステータ構造について記載されている。この回転電機は、円筒状のステータコアに対して、コイルが巻き回して形成されたステータと、当該ステータに対してエアギャップを介して配置されたロータとを有する。ステータコアの両端面から突出するコイルエンドの両側位置に、コイルエンドを覆う冷媒ケースが設けられている。冷媒ケースは、ステータコアに固定されており、鉛直最上部に形成された冷媒流入口と、鉛直最下部に形成された冷媒排出口とを有する。冷媒排出口には、冷媒排出量調整弁が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-244659号公報(〔0022〕-〔0023〕段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の回転電機は、モータケース内にコイルエンド部を覆う冷媒ケースを搭載しているため、その分、モータケースを大きくする必要があり、回転電機のサイズアップの要因となる。また、冷媒を冷媒ケース内に溜めるには、冷媒ケースとステータコアとの間にシール部材が必要となり、この部分での冷媒の漏れをケアする必要がある。更に、冷媒流入口及び冷媒排出口にも、シール部材が必要となる。したがって、シール部材を設けている箇所の数に応じて、冷媒が漏れる可能性が増大することから、シール部材の設計を慎重に行う必要がある。
【0006】
そこで、小型で、冷媒が漏れる可能性を低減できる回転電機が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた、ケースに収容されている回転電機の特徴構成は、径方向内側に向かって突出した複数の歯部と、隣接する前記歯部間に設けられるスロットを有するステータコアと、複数の前記スロットに収容され、前記ステータコアの軸方向外側にコイルエンド部を有するコイルと、前記ステータコアの前記径方向内側に回転軸の軸方向に沿って設けられたロータと、を備え、前記コイルに対向して前記スロットに配置されたスロット配置部、及び前記スロット配置部から前記ステータコアの前記軸方向外側に突出する環状の突出部を有する樹脂体と、を備え、前記コイルエンド部が、前記突出部と前記ケースとで囲まれた空間に収容されている点にある。
【0008】
このような特徴構成によれば、コイルエンド部を収容可能な空間を、樹脂体とケースとで形成することができる。例えば樹脂体を用いずにコイルエンド部を収容する空間を形成する回転電機においては、当該空間を形成するための空間形成部材が必要となるが、本回転電機では、樹脂体を用いずにコイルエンド部を収容する空間を形成できるので、空間形成部材を使用しない分、部品点数を削減できる。また、これにより、部材の管理工数も削減できる。更には、空間形成部材を用いなくてよいので、シール部材の数を低減することができる。また、空間を形成することによる部材の大型化を抑制できるので、小型で、且つ、冷媒が漏れる可能性の低い回転電機を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る回転電機は、コイルを冷却することができるように構成される。以下、本実施形態の回転電機1について説明する。なお、回転電機1とは、電動機及び発電機の双方を含む総称であって、電動機及び発電機の一方に限定されるものではない。
【0011】
1.回転電機の構成
図1には、回転電機1の縦断面図が示される。
図1に示されるように、回転電機1は、ケース10に収容されており、ステータコア21と、ロータ30と、コイル40と、樹脂体50と、第1シール部材60と、区画部材70と、第2シール部材80とを備えて構成される。
【0012】
図1に示されるように、ケース10には、回転軸2が挿通される。以下では、理解を容易にするために、回転軸2の軸心Xに沿う方向を軸方向とし、軸心Xの中心から遠ざかる方向を径方向として説明する。また、この軸方向に沿う一方側をX1側とし(単に「軸方向一方側X1」と称することもある)、軸方向に沿う他方側をX2側として(単に「軸方向他方側X2」と称することもある)説明する。
【0013】
ケース10は、本体部11とカバー12とを有する。本体部11は、内部に軸方向視が円形の収容室13が形成される筒状部14と、当該筒状部14の軸方向一方側X1に壁部15が設けられる。壁部15は、中央部に回転軸2が挿通される貫通孔16が形成されている。筒状部14と壁部15とは、一体で形成されてもよいし、別体で形成されてもよい。筒状部14における軸方向他方側X2の端部に、径方向外側に向かって突出するフランジ部17が設けられている。
【0014】
カバー12は、筒状部14の軸方向他方側X2の開口部分に設けられる。カバー12には、中央部に回転軸2が挿通される貫通孔18が形成されている。本実施形態では、カバー12は、軸方向長が本体部11の軸方向長よりも短く構成される。カバー12は、軸方向一方側X1の端部に、径方向外側に向かって突出するフランジ部19が設けられている。カバー12は、フランジ部17及びフランジ部19の夫々に設けられた穴部(図示せず)にネジ(図示しない)が挿通され、ナット(図示しない)により締結固定される。なお、ケース10のフランジ部17とカバー12のフランジ部19との固定は、振動溶着等であってもよい。
【0015】
図2には、
図1のII-II線におけるステータコア21の断面図が示される(ロータ30及び回転軸2は省略している)。
図2に示されるように、ステータコア21は、円板状の電磁鋼板を積層して筒状(本実施形態では円筒状)に構成される。ステータコア21は、径方向内側に複数の歯部22が形成されている。歯部22は、円筒状のステータコア21の径方向中央部側に向かって突出する凸状体からなる。複数の歯部22は、ステータコア21の周方向に沿って形成される。複数の歯部22のうち、互いに隣接する2つの歯部22の間の溝部は、後述するコイル40を構成する導体41が挿通されるスロット23として利用される。
【0016】
ステータコア21は、ケース10に固定される。ステータコア21を、ケース10に固定する場合、ケース10にステータコア21を溶着固定してもよいし、ケース10にステータコア21を例えばボルトにより締結固定してもよいし、嵌合してもよい。本実施形態では、ステータコア21は円筒状に構成されており、ステータコア21の外周面が筒状部14の内周面に当接する状態で液密的に固定される。
【0017】
図1に戻り、ロータ30は、円板状の電磁鋼板を積層して構成されたロータコア31と、永久磁石32とを有する。ロータ30の径方向中央部には、当該ロータ30と共に一体で回転する回転軸2が挿通される。したがって、ロータ30は柱状(本実施形態では円柱状)に構成されており、回転軸2の軸方向に沿って設けられる。ロータ30は、回転軸2よりも径方向外側の部分に、周方向に沿って複数の永久磁石32が設けられる。
【0018】
図1に示されるように、回転軸2は軸方向一方側X1が軸受3を介して壁部15に対して回転可能に支持され、軸方向他方側X2が軸受4を介してカバー12に対して回転可能に支持される。したがって、ロータ30は、ケース10に対して回転軸2によって軸支される。ロータ30は、このように回転軸2によって軸支された状態で、ステータコア21の径方向内側に設けられる。
【0019】
ステータコア21のスロット23には、コイル40が収容される。すなわち、複数のスロット23には、コイル40を構成する導体41(本実施形態では板状の導体)がステータコア21の軸方向に沿って挿通して設けられる。スロット23とは、複数の歯部22のうち、互いに隣接する2つの歯部22の間に形成される溝部である。したがって、ステータコア21には、ステータコア21の軸方向に沿って貫通した状態で複数のスロット23が設けられる。導体41は、このスロット23に挿通された状態で絶縁性を確保するように、表面が絶縁材料で被覆されている。なお、導体41は上述したように板状の導体であってもよいし、ケーブルであってもよい。
【0020】
導体41は、ステータコア21の軸方向外側において、2つの導体41同士が電気的に接続される。具体的には、導体41は、回転電機1の相構成に応じて導体41同士が接続される。これにより、導体41が複数の歯部22に巻回された状態となりコイル40が形成される。なお、導体41同士の接続は、互いの絶縁材料が剥がされ、この剥がされた箇所において行われる。導体41同士が接続された後、絶縁材料が剥がされた箇所は、改めて絶縁材料により被覆される。このような導体41同士が接続される部分はコイルエンド部42に相当し、コイルエンド部42はステータコア21の軸方向外側に設けられる。ステータコア21とコイル40とでステータ20が構成される。
【0021】
樹脂体50は、樹脂材料を用いて構成され、歯部被覆部51、スロット配置部59、及び突出部52を有する。歯部被覆部51は、ステータコア21の軸方向端面において歯部22を覆う。ステータコア21の軸方向端面とは、円筒状のステータコア21における軸方向一方側X1の面と、円筒状のステータコア21における軸方向他方側X2の面とが相当する。歯部被覆部51は、円筒状のステータコア21における軸方向一方側X1の面に露出している歯部被覆部51と、円筒状のステータコア21における軸方向他方側X2の面に露出している歯部被覆部51とを覆うように設けられる。これにより、軸方向端面において露出していた歯部22が、
図3及び
図4に示されるように樹脂体50で覆われる。
図3は、樹脂体50が設けられたステータコア21を、軸方向一方側X1側から見た図であり、
図4は、樹脂体50が設けられたステータコア21を、軸方向他方側X2側から見た図である。ここで、理解を容易にするために、軸方向一方側X1の歯部被覆部51と軸方向他方側X2の歯部被覆部51とを互いに区別する場合には、軸方向一方側X1の歯部被覆部51を歯部被覆部51Aとし、軸方向他方側X2の歯部被覆部51を歯部被覆部51Bとして説明する。
【0022】
スロット配置部59は、コイル40に対向してスロット23に配置される。
図2に示されるように、スロット配置部59は、スロット23において、導体41(コイル40)の周囲を囲む状態で配置されている。したがって、スロット配置部59は、ステータコア21とコイル40との間に設けられていると共に、スロット開口部(スロット23における開口部)に設けられている。
【0023】
突出部52は、歯部被覆部51及びスロット配置部59からステータコア21の軸方向外側に突出する状態で設けられる。ここで、上述したように、歯部被覆部51A(歯部被覆部51)は、周方向に沿って設けられる複数の歯部22を覆うように設けられており、歯部被覆部51Aも周方向に沿って環状に設けられる。また、スロット配置部59も、ステータコア21の周方向に沿って設けられる。突出部52は、このような周方向に沿って設けられた歯部被覆部51A及びスロット配置部59からステータコア21の軸方向外側に突出する状態で、周方向に沿って環状に設けられる。
【0024】
本実施形態では、突出部52には、径方向突出部53と軸方向突出部54とが含まれる。径方向突出部53は、歯部22の先端部よりも径方向内側に突出して設けられる。歯部22の先端部とは、複数の歯部22の夫々における径方向内側の端部である。径方向内側に突出するとは、回転軸2の軸心Xに近接するように軸心Xに向かって突出することをいう。したがって、径方向突出部53は、複数の歯部22の夫々における径方向内側の端部よりも、回転軸2の軸心Xに近接するように軸心Xに向かって突出して設けられる。
【0025】
軸方向突出部54は、ステータコア21の軸方向端面よりも軸方向外側に突出して設けられる。ステータコア21の軸方向端面とは、ステータコア21における軸方向一方側X1の端面である。軸方向外側に突出するとは、ステータコア21から軸方向一方側X1に向かって突出することをいう。ここで、本実施形態では、軸方向突出部54は、径方向突出部53における径方向内側の端部に設けられる。したがって、軸方向突出部54は、径方向突出部53における径方向内側の端部から、ステータコア21における軸方向一方側X1の端面よりも、ステータコア21から軸方向一方側X1に向かって突出するように設けられる。軸方向突出部54は、
図3に示されるように、ステータコア21における軸方向一方側X1において、径方向突出部53から円筒状に突出した状態で設けられる。
【0026】
上述した歯部被覆部51と、スロット配置部59と、径方向突出部53及び軸方向突出部54を有する突出部52とからなる樹脂体50は、ケース10に収容する前のステータコア21に対して、樹脂インサート成形により構成すると好適である。もちろん、樹脂体50を軸方向に沿って分割された状態で設けておき、ステータコア21に対して軸方向一方側X1から分割された樹脂体50の一方を嵌め込むと共に、ステータコア21に対して軸方向他方側X2から分割された樹脂体50の他方を嵌め込んで構成することも可能である。
【0027】
なお、ステータコア21の内周面にあっては、
図3及び
図4に示されるように、歯部22の先端部が露出し、互いに隣接する2つの歯部22の間のスロット23にのみ樹脂体50が存在するように構成すると好適である。これにより、ロータ30とステータコア21とをより近接することができるので、磁気抵抗を低減することが可能となる。
【0028】
ここで、本実施形態では、
図1に示されるように、ケース10に、当該ケース10の内壁91から軸方向に沿ってステータコア21側に突出した凸部92が設けられている。ケース10の内壁91とは、ケース10の壁部15における収容室13側を向く面である。本実施形態における凸部92は、突出部52の径方向突出部53に向かって突出するように円環状に設けられる。このとき、凸部92における軸方向他方側X2の面が、径方向突出部53における軸方向一方側X1の面に当接する状態で設けると好適である。
【0029】
また、凸部92における内周面の少なくとも一部が、突出部52の軸方向突出部54の外周面に当接する状態で設けると好適である。本実施形態では、軸方向突出部54は、径方向突出部53側の大径部54Aと当該大径部54Aよりも径方向突出部53から離間した側の小径部54Bとを有する。大径部54Aと小径部54Bとは、同軸心上で、且つ、互いに等しい内径で構成され、小径部54Bの外径が大径部54Aの外径よりも小さく構成される。大径部54Aと小径部54Bとは一体的に連続して設けられ、
図1に示されるように、縦断面が階段状に設けられる。小径部54Bにおける軸方向一方側X1の先端部は、内壁91に当接する状態で設けられると好適である。
【0030】
突出部52と凸部92との間には、第1シール部材60が設けられる。本実施形態では、突出部52における大径部54Aと小径部54Bとの境界部分、すなわち、上述した大径部54Aと小径部54Bとで形成される階段状の部分における角部に設けられる。第1シール部材60は、弾性部材(例えばゴム部材)を用いて環状に形成されたOリングが用いられる。
【0031】
区画部材70は樹脂からなる環状の筒状体で構成され、樹脂体50の軸方向他方側X2とケース10の軸方向他方側X2の内壁93との間に設けられる。本実施形態では、区画部材70は、大径部71と小径部72と径方向突出部73とを有する。大径部71と小径部72とは、軸方向に沿って連続して設けられる。大径部71は、ケース10の軸方向他方側X2に設けられ、小径部72は大径部71よりも軸方向一方側X1に設けられる。大径部71と小径部72とは、同軸心上で、且つ、互いに等しい内径で構成され、小径部72の外径が大径部71の外径よりも小さく構成される。大径部71と小径部72とは一体で連続して設けられ、
図1に示されるように、縦断面が階段状に設けられる。小径部72における軸方向一方側X1の端面は、ロータ30における軸方向他方側X2の端面と対向して設けられる。
【0032】
径方向突出部73は、大径部71における軸方向他方側X2の内周面から径方向内側に突出するように設けられる。本実施形態では、大径部71における軸方向他方側X2の軸方向端面と径方向突出部73における軸方向他方側X2の軸方向端面とが面一で設けられる。径方向突出部73は、カバー12と回転軸2との間に設けられる軸受4を支持するカバー12におけるフランジ部94の外周面まで延出して設けられる。
【0033】
ここで、本実施形態における樹脂体50は、ステータコア21の軸方向他方側X2からケース10の軸方向他方側X2の内壁93に向かって突出する環状の第2突出部55を有する。第2突出部55は、樹脂体50における、軸方向他方側X2の径方向内側の縁部から、ステータコア21の軸方向他方側X2の面よりも外側に向かって円環状に設けられる。したがって、第2突出部55は、軸方向他方側X2の径方向内側の縁部から突出する円筒状部として設けられる。
【0034】
区画部材70と第2突出部55との間には、環状の第2シール部材80が設けられる。本実施形態では、区画部材70における大径部71と小径部72との境界部分、すなわち、上述した大径部71と小径部72とで形成される階段状の部分における角部と、第2突出部55における軸方向他方側X2の端部との間に設けられる。第2シール部材80は、弾性部材(例えばゴム部材)を用いて環状に形成される。
【0035】
本実施形態における第2シール部材80は、大径部81と小径部82とを有する断面L字状に形成されている。大径部81と小径部82とは、軸方向に沿って連続して設けられる。大径部81は、軸方向他方側X2に設けられ、小径部82は大径部81の軸方向一方側X1に設けられる。大径部81と小径部82とは、同軸心上で、且つ、互いに等しい内径で構成され、小径部82の外径が大径部81の外径よりも小さく構成される。大径部81と小径部82とは一体的に連続して設けられ、
図1に示されるように、縦断面が階段状に設けられる。大径部81は、区画部材70の小径部72に外嵌するように設けられ、小径部82は第2突出部55に内嵌するように設けられる。
【0036】
また、区画部材70とケース10との間には、環状の第3シール部材83が設けられる。本実施形態では、区画部材70の大径部71における軸方向他方側X2の端面に円環状の溝部74が設けられ、この溝部74に第3シール部材83が設けられる。第3シール部材83は、弾性部材(例えばゴム部材)を用いて環状に形成されたOリングが用いられる。
【0037】
以上のように構成することで、軸方向一方側X1のコイルエンド部42が、樹脂体50(歯部被覆部51、スロット配置部59、及び突出部52)とケース10とで液密的に囲まれた空間5に収容される。このとき、
図1に示されるように、ステータコア21の一部を含んで空間5を形成してもよい。この空間5は、周方向に亘って形成される。
【0038】
また、軸方向他方側X2のコイルエンド部43が、軸方向他方側X2の樹脂体50と区画部材70とケース10とで液密的に囲まれた空間6に収容される。本実施形態では、
図1に示されるように、ステータコア21の一部を含んで空間6を形成してもよい。この空間6は、周方向に亘って形成される。
【0039】
コイルエンド部42が設けられる空間5を形成するケース10には、第1冷媒流入口101と第1冷媒流出口102とが設けられる。第1冷媒流入口101と第1冷媒流出口102とは、互いに軸心Xを介して対向するように設けると好適である。また、コイルエンド部43が設けられる空間6を形成するケース10には、第2冷媒流入口103と第2冷媒流出口104とが設けられる。第2冷媒流入口103と第2冷媒流出口104とは、互いに軸心Xを介して対向するように設けると好適である。
【0040】
また、ケース10には、絶縁油や冷却水等で構成される冷媒が導入される導入口201と、冷媒が排出される排出口202が設けられる。導入口201は、ケース10内に設けられた導入連通路203により、第1冷媒流入口101及び第2冷媒流入口103の夫々と連通する。具体的には、導入口201と連通する導入連通路203は、軸方向に沿って軸方向一方側X1から軸方向他方側X2に向かってケース10に設けられ、導入連通路203から径方向内側に向かって分岐する分岐路105により第1冷媒流入口101と連通する。また、導入連通路203は、第2冷媒流入口103の径方向外側において屈曲され、第2冷媒流入口103と連通する。
【0041】
排出口202は、ケース10内に設けられた排出連通路204により、第1冷媒流出口102及び第2冷媒流出口104の夫々と連通する。具体的には、排出口202と連通する排出連通路204は、軸方向に沿って軸方向一方側X1から軸方向他方側X2に向かってケース10に設けられ、排出連通路204から径方向内側に向かって分岐する分岐路106により第1冷媒流出口102と連通する。また、排出連通路204は、第2冷媒流出口104の径方向外側において屈曲しており、第2冷媒流出口104と連通する。
【0042】
排出口202は、ポンプPと熱交換器Eとを介して導入口201に連通する。これにより、ポンプPから吐出された冷媒が熱交換器Eで冷却され、熱交換器Eで冷却された冷媒が回転電機1に導入される。回転電機1に導入された冷媒は、コイルエンド部42及びコイルエンド部43から熱を奪う。熱を奪った冷媒は、ポンプPにより吸い出された回転電機1から排出される。このようにして、回転電機1のコイルエンド部42及びコイルエンド部43に冷媒を供給し、コイル40を冷却することが可能である。
【0043】
2.回転電機の組み付け
次に、回転電機1の組み付けについて説明する。まず、樹脂体50がインサート形成されたステータコア21のスロット23に導体41を巻回し、ステータコア21の軸方向外側において、所定の導体41同士を接続して、コイルエンド部42,43が形成される。この樹脂体50は、ステータコア21の軸方向端面における歯部22から露出するように形成されており、歯部被覆部51、スロット配置部59、及び突出部52も形成されている。
【0044】
また、突出部52の軸方向突出部54の小径部54Bに外嵌するように第1シール部材60が装着されている。このような状態のステータコア21が、ケース10の筒状部14に固定される。そして貫通孔16に軸受3を装着し、回転軸2が挿通されたロータ30が、回転軸2の軸心Xと軸受3の軸心とが一致した状態でステータコア21の径方向内側に設けられる。
【0045】
次に、区画部材70をステータコア21に装着する。このとき、樹脂体50の第2突出部55に第2シール部材80の小径部82が内嵌するように設けられ、第2シール部材80の大径部81に区画部材70の小径部72が内嵌するように区画部材70が設けられており、区画部材70の溝部74に第3シール部材83が装着されている。
【0046】
次に、軸方向他方側X2から貫通孔18に軸受4が設けられたカバー12がケース10に装着され、軸受4の径方向内側から回転軸2が突出した状態となる。この状態で、カバー12のフランジ部19とケース10のフランジ部17とがネジ(図示せず)により締結固定される。以上のようにして回転電機1が組み付けられる。
【0047】
3.その他の実施形態
次に、回転電機1のその他の実施形態について説明する。
【0048】
上記実施形態では、ケース10は、ケース10の内壁91から軸方向に沿ってステータコア21側に突出した凸部92を有し、第1シール部材60が突出部52と凸部92との間に設けられているとして説明した。しかしながら、ケース10の内壁91に凸部92を設けずに構成することも可能である。この場合には第1シール部材60は、突出部52とケース10の内壁91との間に設けるとよい。
【0049】
上記実施形態では、突出部52には、歯部22の先端部よりも径方向内側に突出する径方向突出部53が含まれるとして説明した。しかしながら、突出部52は径方向突出部53を設けずに構成することも可能である。この場合、突出部52は、軸方向突出部54のみが含まれるように構成してもよい。
【0050】
上記実施形態では、突出部52は、ステータコア21の軸方向端面よりも軸方向外側に突出する軸方向突出部54が含まれるとして説明した。しかしながら、突出部52は軸方向突出部54を設けずに構成することも可能である。この場合、突出部52は、径方向突出部53のみが含まれるように構成してもよい。
【0051】
上記実施形態では、樹脂体50の軸方向他方側X2とケース10の軸方向他方側X2の内壁93との間に環状の区画部材70が設けられるとして説明した。しかしながら、区画部材70を設けずに構成することも可能である。この場合には、例えば第2突出部55を更に内壁93側に突出して設け、歯部被覆部51と第2突出部55とケース10とにより空間6を構成するとよい。
【0052】
上記実施形態では、樹脂体50は、ステータコア21の軸方向他方側X2からケース10の軸方向他方側X2の内壁93に向かって突出する環状の第2突出部55を有するとして説明した。しかしながら、樹脂体50は第2突出部55を有さずに構成することも可能である。この場合には、区画部材70と軸方向他方側X2の歯部被覆部51との間に環状の第2シール部材80を設けるとよい。
【0053】
上記実施形態では、樹脂体50が歯部被覆部51を有するとして説明したが、歯部被覆部51を有さずに樹脂体50を構成することも可能である。この場合には、樹脂体50は、スロット配置部59と突出部52とを有するように構成される。
【0054】
なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0055】
4.上記実施形態の概要
以下、上記において説明した回転電機1の概要について説明する。
【0056】
ケース10に収容されている回転電機1は、径方向内側に向かって突出した複数の歯部22と、隣接する歯部22間に設けられるスロット23を有するステータコア21と、複数のスロット23に収容され、ステータコア21の軸方向外側にコイルエンド部42を有するコイル40と、ステータコア21の径方向内側に回転軸2の軸方向に沿って設けられたロータ30と、を備え、コイル40に対向してスロット23に配置されたスロット配置部59、及びスロット配置部59からステータコア21の軸方向外側に突出する環状の突出部52を有する樹脂体50と、を備え、コイルエンド部42が、突出部52とケース10とで囲まれた空間5に収容されている。
【0057】
本構成によれば、コイルエンド部42を収容可能な空間5を、樹脂体50とケース10とで形成することができる。例えば樹脂体50を用いずにコイルエンド部42を収容する空間5を形成する回転電機1においては、当該空間5を形成するための空間形成部材が必要となるが、本回転電機1では、樹脂体50を用いずにコイルエンド部42を収容する空間5を形成できるので、空間形成部材を使用しない分、部品点数を削減できる。また、これにより、部材の管理工数も削減できる。更には、空間形成部材を用いなくてよいので、シール部材の数を低減することができる。また、空間5を形成することによる部材の大型化を抑制できるので、小型で、且つ、冷媒が漏れる可能性の低い回転電機1を実現することが可能となる。
【0058】
ここで、ケース10は、ケース10の内壁91から軸方向に沿ってステータコア21側に突出した凸部92を有し、突出部52と凸部92との間に、第1シール部材60が設けられていると好適である。
【0059】
本構成によれば、突出部52と凸部92とにより第1シール部材60を押圧し、液密性を向上することが可能となる。この突出部52は樹脂体50の一部であり、凸部92はケース10の一部であるため、部品点数を少なくできる。
【0060】
また、突出部52は、歯部22の先端部よりも径方向内側に突出する径方向突出部53を含むと好適である。
【0061】
本構成によれば、ステータコア21の径方向内側において、突出部52と凸部92とにより第1シール部材60を押圧することができる。したがって、樹脂体50の弾性を利用して第1シール部材60を押圧できるので、第1シール部材60の液密性をより向上することが可能となる。また、径方向突出部53を設けることにより、コイルエンド部42の収容スペースを確保できる。
【0062】
また、突出部52は、ステータコア21の軸方向端面よりも軸方向外側に突出する軸方向突出部54を含むと好適である。
【0063】
本構成によれば、ステータコア21の軸方向外側において、突出部52と凸部92とにより第1シール部材60を押圧することができる。したがって、樹脂体50の弾性を利用して第1シール部材60を押圧できるので、第1シール部材60の液密性をより向上することが可能となる。
【0064】
また、樹脂体50の軸方向の他方側とケース10の他方側の内壁93との間に環状の区画部材70が設けられ、他方側のコイルエンド部43が、他方側の樹脂体50と区画部材70とケース10と囲まれた空間6に収容されていると好適である。
【0065】
本構成によれば、コイルエンド部43を収容可能な空間を、樹脂体50とケース10と区画部材70とで形成することができる。例えば、この区画部材70は、回転電機1の組み付け時にステータコア21の径方向内側にロータ30を配置した後に設けることができるので、組み付けを容易に行うことが可能となる。
【0066】
また、樹脂体50は、ステータコア21の他方側からケース10の他方側の内壁93に向かって突出する環状の第2突出部55を有し、区画部材70と第2突出部55との間に環状の第2シール部材80が設けられていると好適である。
【0067】
本構成によれば、第2突出部55と区画部材70とにより第2シール部材80を押圧し、液密性を向上することが可能となる。この第2突出部55は樹脂体50の一部であるため、部品点数を少なくできる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示に係る技術は、回転電機に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1:回転電機
2:回転軸
5:空間
6:空間
10:ケース
21:ステータコア
22:歯部
23:スロット
30:ロータ
40:コイル
42:コイルエンド部
43:コイルエンド部
50:樹脂体
52:突出部
53:径方向突出部
54:軸方向突出部
55:第2突出部
59:スロット配置部
60:第1シール部材
70:区画部材
80:第2シール部材
91:内壁
92:凸部
93:内壁
X1:軸方向一方側(軸方向の一方側)
X2:軸方向他方側(軸方向の他方側)