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特開2024-107755反応溶媒の選定方法及び金属粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107755
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】反応溶媒の選定方法及び金属粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F9/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011848
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】登峠 雅之
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA05
4K017BA06
4K017BA10
4K017CA07
4K017EJ01
4K017FB11
(57)【要約】
【課題】本発明は、金属化合物の粒子を金属粒子にする反応に用いられる反応溶媒の代替溶媒を容易に見出すことができる反応溶媒の選定方法、及び、前記反応溶媒を用いる金属粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】前記反応を正常に進行させる既知の反応溶媒を構成する被代替溶媒を、2種以上の溶媒で構成される代替溶媒に変更するために、ハンセン溶解度パラメータ距離Raが3.0以下となるように前記代替溶媒を決定し、該代替溶媒を含む前記反応溶媒とする、反応溶媒の選定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物の粒子を金属粒子にする反応に用いられる反応溶媒の選定方法であって、
前記反応を正常に進行させる既知の反応溶媒を構成する被代替溶媒を、2種以上の溶媒で構成される代替溶媒に変更するために、下記式(1)により求められるハンセン溶解度パラメータ距離Raが3.0以下となるように前記代替溶媒を決定し、該代替溶媒を含む前記反応溶媒とする、反応溶媒の選定方法。
Ra=4×(δdp1-δda1+(δpp1-δpa1+(δhp1-δha1・・・(1)
[上記式(1)において、
Raは、ハンセン溶解度パラメータ空間における前記被代替溶媒と前記代替溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離であり、
δdp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δhp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項であり、
δda1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpa1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δha1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項である。]
【請求項2】
金属化合物の粒子と、請求項1に記載の選定方法で選定した反応溶媒と、分散剤とを含む反応液に、キャビテーションを生じさせて金属粒子を得る、金属粒子の製造方法。
【請求項3】
前記被代替溶媒がトルエンであり、前記金属が銀である、請求項2に記載の金属粒子の製造方法。
【請求項4】
前記金属化合物が酸化銀である、請求項3に記載の金属粒子の製造方法。
【請求項5】
前記分散剤がドデシルアミンである、請求項3又は4に記載の金属粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物の粒子を金属粒子にする反応に用いられる反応溶媒の選定方法及び前記反応溶媒を用いる金属粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子は、電子機器等の各種製品を構成するための重要な材料である。また、金属粒子は、電子機器の小型化にともない、その配線材料や接合材料等の新たな用途展開が期待されており、その重要性が高まっている。
【0003】
従来、金属粒子の製造方法では、金属化合物を金属に変換する反応を用いる方法が採用されている。例えば、特許文献1には、エタノールとトルエンとで構成される反応溶媒に酸化銀の粉末を分散させ、超音波を照射することによって酸化銀を銀に還元し、銀粒子を得る方法が記載されている。特許文献1に記載されているように、金属粒子の製造では、反応を正常に進行させるために大量の溶媒が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-65265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来この種の反応に汎用されてきた溶媒が使用できなくなる可能性があり、少なくとも使用の低減を求められる可能性がある。例えば、特許文献1で用いられているトルエンは、廃液となった際の環境負荷が大きく、使用を低減することが好ましい。
【0006】
しかしながら、反応を正常に進行させる溶媒に代替する溶媒(代替溶媒)の探索は困難である。また、単一の溶媒からなる適切な代替溶媒への変更は、溶媒の種類が有限であるがゆえに不可能な場合がある。
【0007】
そこで、複数種の溶媒を組み合わせる方法が考えられる。しかしながら、それらの組み合わせや混合比などの条件は数多く設定可能であるため、代替溶媒に変更した各反応条件が正常に反応を進行させるかを実験によって確認することは、膨大な労力、時間、及びコストを要するという問題がある。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、金属化合物の粒子を金属粒子にする反応に用いられる反応溶媒の代替溶媒を容易に見出すことができる反応溶媒の選定方法、及び、前記反応溶媒を用いる金属粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために種々の手法を検討した結果、当該反応の代替溶媒の選定においてはハンセン溶解度パラメータを指標にできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の一態様に係る反応溶媒の選定方法は、金属化合物の粒子を金属粒子にする反応に用いられる反応溶媒の選定方法であって、
前記反応を正常に進行させる既知の反応溶媒を構成する被代替溶媒を、2種以上の溶媒で構成される前記代替溶媒に変更するために、下記式(1)により求められるハンセン溶解度パラメータ距離Raが3.0以下となるように前記代替溶媒を決定し、該代替溶媒を含む前記反応溶媒とする。
Ra=4×(δdp1-δda1+(δpp1-δpa1+(δhp1-δha1・・・(1)
[上記式(1)において、
Raは、ハンセン溶解度パラメータ空間における前記被代替溶媒と前記代替溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離であり、
δdp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δhp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項であり、
δda1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpa1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δha1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項である。]
【0011】
前記ハンセン溶解度パラメータ距離Raを3.0以下とする代替溶媒は、当該反応を正常に進行させることができる。そして、上記式(1)に代入すべき被代替溶媒及び代替溶媒の各項の値はデータベース等から困難なく得ることができるため、当該反応を正常に進行させる代替溶媒を容易に見出すことができる。
【0012】
本発明の一態様に係る金属粒子の製造方法は、
金属化合物の粒子と、上記の選定方法で選定した反応溶媒と、分散剤とを含む反応液に、キャビテーションを生じさせて金属粒子を得る。
【0013】
かかる構成によれば、上記のハンセン溶解度パラメータ距離Raを3.0以下とする代替溶媒を用いることによって、当該反応を比較的速やかに進行させることができるため、金属粒子の生産性を高めることができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る金属粒子の製造方法は、前記被代替溶媒がトルエンであり、前記金属が銀である。
【0015】
かかる構成によれば、環境負荷の高いトルエンの使用を回避しつつ、各種製品の材料として重要な銀を得ることができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る金属粒子の製造方法は、前記金属が銀の場合には前記金属化合物が酸化銀であり、好ましくは、前記分散剤がドデシルアミンである。
【0017】
かかる構成によれば、当該反応を速やかに進行させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、本発明によれば、当該反応に用いられる反応溶媒の代替溶媒を容易に見出すことができる反応溶媒の選定方法、及び、前記反応溶媒を用いる金属粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例において製造した各銀粒子について、XRDチャートによって比較するものである。
図2】実施例において製造した各銀粒子について、電子顕微鏡写真によって比較するものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る反応溶媒の選定方法について説明する。
【0021】
本実施形態の反応溶媒は、金属化合物の粒子から金属粒子を製造するための製造方法の原料として用いられるものである。すなわち、本実施形態の選定方法は、前記製造方法の一工程をなしている。よって、以下では、本実施形態の選定方法について、前記製造方法を例示しながら説明することとする。
【0022】
本実施形態に係る製造方法は、出発原料である金属化合物の粒子を金属粒子にする還元反応のための反応溶媒を選定する準備工程と、該反応溶媒を用いて前記還元反応を実施し、目的物である金属粒子を得る反応工程とを備える。
【0023】
本実施形態の準備工程では、初めに、反応を正常に進行させることが確認されている既知の反応条件についての情報を得る。本明細書において、反応の正常な進行とは、反応開始後16時間以内に原料の金属化合物が消失することを意味するものとし、その時間は10時間以内であることが好ましく、5時間以内であることがより好ましい。なお、反応における金属化合物の消失は、反応液に含まれる粒子をX線回折法によって判別する。具体的には、粒子を含んだ反応液から適量をシャーレ等のガラス製の平皿に移したあと、常温で数時間乾燥させ、溶媒をほとんど含まない固形状態又は粉末状態にする。常温での乾燥が困難な場合は、大気中で100℃程度に加温して乾燥してもよい。そのようにして乾燥した固形状態又は粉末状態のものをすみやかにXRD装置で測定する。XRD測定で得られるX線回折パターンにおいて、金属化合物粒子に由来する回折ピークが金属粒子に由来する回折ピークに対して判別できない程度に減少した時点で、金属化合物の粒子が消失して金属粒子に変化したものとみなす。
【0024】
本実施形態の既知の反応条件は、反応溶媒に関する条件を含む。すなわち、前記既知の反応条件における反応溶媒は、当該反応を正常に進行させることが確認されている既知の反応溶媒である。反応溶媒に関する条件は、該反応溶媒を構成する溶媒の種類、及び、溶媒が複数の場合はその混合比を含む。本実施形態の既知の反応溶媒は、2種以上の溶媒からなる混合溶媒である。より具体的には、本実施形態の既知の反応溶媒は、還元性を有する第1の溶媒(還元性溶媒)と、非還元性の第2の溶媒(非還元性溶媒)とを少なくとも含む混合溶媒である。
【0025】
前記第1の溶媒(還元性溶媒)としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-エチルヘキシルアルコール等の炭素数10以下、好ましくは炭素数8以下の1価のアルコール系溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール等の多価のアルコール系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド等のアミド系溶媒、ジエチルアミン、トリエチルアミン、オクチルアミン、オレイルアミン等のアミン系溶媒が挙げられる。
【0026】
前記第2の溶媒(非還元性溶媒)としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭素数5以上10以下の飽和炭化水素、シクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の炭素数5以上10以下の環状飽和炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン、ハロゲン化ナフタレン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン等の芳香族炭化水素、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、アジピン酸ジエチル、安息香酸ベンジル等のエステル系溶媒、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエテール系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。
【0027】
次に、本実施形態の準備工程では、前記既知の反応溶媒を構成する複数の溶媒のうちの少なくとも1種を代替溶媒に変更するために、該代替溶媒を含む新規の反応溶媒を準備する。なお、以下では、前記既知の反応溶媒を構成する複数の溶媒のうちの少なくとも1種、すなわち、代替溶媒に代替される該少なくとも1種を被代替溶媒と称する。
【0028】
本実施形態の準備工程では、下記式(1)により求められるハンセン溶解度パラメータ距離Raを指標として、前記代替溶媒を決定する。
Ra=4×(δdp1-δda1+(δpp1-δpa1+(δhp1-δha1・・・(1)
なお、上記式(1)において、
Raは、ハンセン溶解度パラメータ空間における前記被代替溶媒と前記代替溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離であり、
δdp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δhp1は、前記被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項であり、
δda1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpa1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δha1は、前記代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項である。
【0029】
選定に用いる溶媒群を構成する溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、多くの場合、既存のデータベースから得ることができる。また、データベースにHSP値が登録されていない溶媒を用いる場合には、HSP値を計算するためのコンピュータソフトウェアを用いることにより、その化学構造に基づく計算によって当該溶媒のHSP値を得ることができる。また、本実施形態の代替溶媒のように2種以上の溶媒からなる混合溶媒のHSP値の各項は、各溶媒の項に混合溶媒全体に対する該溶媒の体積割合を乗じた値の和として算出することができる。
【0030】
そして、本実施形態では、上記式(1)により求められるハンセン溶解度パラメータ距離Raが3.0以下となるように、前記代替溶媒を構成する溶媒の種類、及び、前記代替溶媒を構成する溶媒の混合比を決定する。前記新規の反応溶媒による反応を速やかに進行させる上では、前記ハンセン溶解度パラメータ距離Raは、1以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。一方、前記代替溶媒の選択の幅を狭くし過ぎないようにする上では、前記ハンセン溶解度パラメータ距離Raは、0.1以上が好ましい。
【0031】
前記被代替溶媒の選択では、前記既知の反応溶媒から単一の溶媒を選択してもよい。この場合の前記準備工程の具体例としては、まず、特許文献1の記載から、前記既知の反応溶媒についての情報を抽出する。当該記載から、前記既知の反応溶媒は、エタノールとトルエンとからなることがわかる。次に、該既知の反応溶媒を構成する溶媒の中から、前記被代替溶媒(第1の被代替溶媒)としてのトルエンを選択する。次に、データベースからトルエンのHSP値を取得し、上記式(1)に代入し、下記式(2)を生成する。そして、コンピュータによる演算等によって、下記式(2)で算出されるRa値を3.0以下とする代替溶媒(第1の代替溶媒)を構成する溶媒の種類、及びその混合比を得る。
Ra=4×(18.0-δda1+(1.4-δpa1+(2.0-δha1・・・(2)
【0032】
また、前記被代替溶媒の選択では、前記既知の反応溶媒から2種以上の溶媒を選択してもよい。例えば、前記被代替溶媒は、前記既知の反応溶媒を構成する2種以上の溶媒であってもよく、前記既知の反応溶媒を構成する全ての溶媒であってもよい。
【0033】
また、前記被代替溶媒の選択では、既に選定した代替溶媒をさらに別の代替溶媒に変更してもよい。すなわち、前記被代替溶媒は、上記式(1)に基づいて既に選定した代替溶媒としてもよい。また、前記被代替溶媒は、前記第1の代替溶媒を構成する2種以上の溶媒であってもよく、前記第1の代替溶媒を構成する全ての溶媒であってもよい。この場合、前記準備工程の目的は、前記第1の代替溶媒の2種以上の溶媒のうちの少なくとも1種(第2の被代替溶媒)を第2の代替溶媒に変更することである。そして、前記第2の被代替溶媒を構成する溶媒のHSP値及び必要に応じてその混合比から、前記第2の被代替溶媒のHSP値を得る。次に、上記式(1)に前記第2の被代替溶媒のHSP値を用いて下記式(3)を生成する。そして、下記式(3)により求められるハンセン溶解度パラメータ距離Raが3.0以下となるように、前記第2の代替溶媒を構成する2種以上の溶媒の種類、及び、前記第2の代替溶媒を構成する2種以上の溶媒の混合比を決定する。このようにして、将来的な溶媒(例えば第1の代替溶媒を構成する溶媒)の使用制限や供給不足などの状況を予見して、第2の代替溶媒、第3の代替溶媒・・・第nの代替溶媒を含む新規の反応溶媒を連鎖的に準備しておいてもよい。nは、例えば、2以上10以下である。
Ra=4×(δdp2-δda2+(δpp2-δpa2+(δhp2-δha2・・・(3)
なお、上記式(3)において、
ここでのRaは、ハンセン溶解度パラメータ空間における前記第2の被代替溶媒と前記第2の代替溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離であり、
δdp2は、前記第2の被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpp2は、前記第2の被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δhp2は、前記第2の被代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項であり、
δda2は、前記第2の代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpa2は、前記第2の代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δha2は、前記第2の代替溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項である。
【0034】
また、前記被代替溶媒を構成する溶媒は、前記第1の溶媒(還元性溶媒)であってもよく、前記第2の溶媒(非還元性溶媒)であってもよく、前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の両方であってもよい。前記被代替溶媒としては、環境負荷や人体への影響が比較的大きいと考えられる前記第2の溶媒を選定することが好ましい。
【0035】
前記被代替溶媒としては、環境や人体へ悪影響を及ぼすと考えられている溶媒が好ましい。また、前記代替溶媒のための溶媒群からは、このような溶媒が排除されてもよい。かかる溶媒としては、例えば、動物(特に人)への変異原性が確認されている溶媒が挙げられる。この他、医薬品の残留溶媒ガイドラインにおいて、クラス1に属する溶媒又は該溶媒と同等の濃度限度値の溶媒、当該ガイドラインのクラス2に属する溶媒であってPDE値が15mg/day未満の溶媒又は該溶媒と同等のPDE値の溶媒が排除されてもよい。
【0036】
本実施形態の新規の反応溶媒は、前記第1の溶媒(還元性溶媒)を含む。該還元性溶媒は、前記代替溶媒を構成するものであってもよく、代替されない溶媒を構成するものであってもよい。
【0037】
本実施形態の反応工程では、金属化合物の粒子と、前記準備工程で選定した新規の反応溶媒と、分散剤とを含む反応液に、所定の温度でキャビテーションを生じさせて、前記金属化合物を金属に変換し、金属粒子を得る。
【0038】
前記金属化合物の粒子又は前記金属粒子を構成する金属としては、例えば、銀、金、白金、パラジウム、ルテニウム、スズ、銅、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、インジウム、イリジウム等が挙げられる。
【0039】
前記金属化合物としては、酸化銀等の金属酸化物、酢酸銀等の金属酢酸塩が好ましく、前記金属粒子としては、銀粒子が好ましい。前記金属化合物の粒子の粒子径は、10μm以下が好ましく、1μm未満であることがより好ましい。これによって、粒子径が1μm未満の銀粒子を得ることができる。前記金属粒子の粒子径は、500nm以下が好ましく、200nm以下であることがより好ましい。なお、粒子の粒子径は、電子顕微鏡による拡大観察によって任意50個の粒子の最大径を測定し、それを算術平均することによって求めることができる。
【0040】
前記分散剤としては、前記金属に配位する官能基を有するものが好ましい。かかる官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、アセトアセチル基、リン原子含有基、チオール基、チオシアナト基、グリシナト基等が挙げられる。前記分散剤としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノオクタン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン等の炭素数4以上10以下のアルキル鎖を有するアミン系分散剤が好ましい。また、ミリスチン酸、オクタン酸、ステアリン酸等の炭素数4以上18以下のカルボン酸系分散剤、トリフェニルホスフィン等のリン系分散剤、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール等の炭素数2以上12以下のアルキル鎖を有するチオール系分散剤等も好ましく用いることができる。このように、前記分散剤としては、比較的分子量の小さいものが好ましい。
【0041】
前記金属化合物の粒子の質量(m)を基準とした前記新規の反応溶媒の容量(v)は、10~100v/mであることが好ましく、10~50v/mであることがより好ましく、10~30v/mであることがさらに好ましい。これによって、反応を速やかに進行させつつ、無駄な溶媒の使用を減らすことができる。
【0042】
前記金属化合物の粒子の質量(m)を基準とした前記分散剤の容量(v)は、0.1~10v/mであることが好ましく、0.5~5v/mであることがより好ましい。これによって、反応を速やかに進行させつつ、無駄な分散剤の使用を減らすことができる。
【0043】
前記反応液にキャビテーションを生じさせる方法としては、例えば、前記金属化合物の粒子に超音波を照射する方法が挙げられる。超音波の周波数は、5kHz~1000kHzが好ましく、20kHz~200kHzがより好ましく、20kHz~100kHzがさらに好ましい。本実施形態では、上記のX線回折法によって金属化合物の消失が確認されるまで、超音波を継続的に照射する。なお、反応の開始は、所定温度とされた反応液へのキャビテーションの照射を開始した時点とする。
【0044】
本実施形態の金属粒子の製造方法によれば、環境負荷や人体に影響のある溶媒に代替する溶媒を用いる等の代替目的を容易に達成しつつ、金属化合物等の不純物の少ない高純度の金属粒子を得ることができる。そして、かかる高純度の金属粒子は、比較的低温で焼結して焼結体を形成する。また、該焼結体は、体積抵抗値が十分に低減され良好な導電性を示すため、配線材料や接合材料として好適に用いることができる。
【0045】
なお、上記では、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る反応溶媒の選定方法及び金属粒子の製造方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る反応溶媒の選定方法及び金属粒子の製造方法は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る反応溶媒の選定方法及び金属粒子の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[反応溶媒の選定方法]
酸化銀の粉末(粒子)を銀粒子とする反応の反応溶媒として従来使用されているエタノールとトルエンとの混合溶媒のうち、トルエンを被代替溶媒に選定した。そしてHSP値が掲載されているデータベースと、上記式(2)を用いて、ハンセン溶解度パラメータ距離Raを3.0以下とする代替溶媒を複数決定した。決定した代替溶媒は、下記の表1に示したとおりである。
【0048】
[銀粒子の製造例]
1,000mLのビーカーにおいて、10.0gの酸化銀(AgO)粉末(粒子径:1μm以下)、上記で選定した反応溶媒200mL(20v/w)、分散剤としてのドデシルアミン12.5g(1.25v/w)を混合して反応液を作製した。40℃に設定した水槽の中にビーカーを入れて、周波数50kHz、出力200Wで反応液に超音波を照射した。反応の進行について、XRDによって経時的に観察した。なお、表1において、エタノールは代替されない溶媒であり、トルエンは被代替溶媒であり、その他の溶媒は代替溶媒を構成する溶媒である。
【0049】
[銀粒子の評価方法]
得られた銀粒子について、次の評価項目1~3について評価した。結果は、表1及び図1~2に示したとおりである。
評価1:得られた銀粒子をX線回折法により分析し、酸化銀の検出の有無を確認する。
評価2:得られた銀粒子を電子顕微鏡で観察し、未反応の酸化銀粒子の有無や粒子径を確認する。
評価3:得られた銀粒子で作成した分散液をガラス板の上に塗布し、乾燥させた後、250℃、大気圧下で30分加熱し焼成させて焼結体を形成し、焼結体の体積抵抗を抵抗率計(ロレスタGX MCP-T700)で測定する。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果、特に実施例3及び比較例1の評価1と評価2の比較から、Ra値が3.0以下となる代替溶媒を含む反応溶媒によって、16時間以内に酸化銀が検出できなくなり、反応を正常に進行させることができることがわかった。一方、全ての比較例は16時間を超えても酸化銀が残留するため評価3での焼成が困難となり、導電性は確認できなかった。
図1
図2