(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107760
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】リグニン変性フェノール樹脂の製造方法、フェノール樹脂組成物の製造方法、レジンコーテッドサンドの製造方法、フェノール樹脂炭化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 8/20 20060101AFI20240802BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20240802BHJP
B22C 1/22 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C08G8/20 A
C08L61/06
B22C1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011853
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】312005186
【氏名又は名称】リグナイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085604
【弁理士】
【氏名又は名称】森 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇
(72)【発明者】
【氏名】西田 伸司
(72)【発明者】
【氏名】武田 信輔
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌信
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚暉
【テーマコード(参考)】
4E092
4J002
4J033
【Fターム(参考)】
4E092AA45
4E092BA02
4E092BA09
4J002CC071
4J002DA027
4J002EU186
4J002FD017
4J002FD146
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4J033CA02
4J033CA03
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4J033CA11
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4J033CA13
4J033CA16
4J033CA19
4J033CA26
4J033CC04
4J033CC11
4J033HB01
4J033HB09
(57)【要約】
【課題】リグニンを用いてフェノール樹脂を製造するにあたって、硬化速度の速いフェノール樹脂を得ることができるリグニン変性フェノール樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】リグニンと、フェノール類と、アルデヒド類を反応させてリグニン変性フェノール樹脂を製造する。この際に酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれる触媒の存在下で反応させることによって、リグニンを効率よく反応させることができると共に、硬化速度が速いリグニン変性フェノール樹脂を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンと、フェノール類と、アルデヒド類を、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれる触媒の存在下で反応させることを特徴とするリグニン変性フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を含有して調製することを特徴とするフェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を耐火骨材に被覆することを特徴とするレジンコーテッドサンドの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を炭化処理することを特徴とするフェノール樹脂炭化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンを原料の一つとするリグニン変性フェノール樹脂の製造方法に関するものであり、またこのリグニン変性フェノール樹脂を用いたフェノール樹脂組成物、レジンコーテッドサンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂の一つとしてフェノール樹脂が広く使用されている。フェノール樹脂はフェノールなどのフェノール類と、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とを、各種の触媒の存在下で反応させることによって製造するのが一般的である。そしてフェノール樹脂は電気部品、自動車部品、日用品等を成形する成形材料などに汎用されており、また鋳型材料のような特殊分野においても使用されている。
【0003】
一方、近年では地球環境保護などの観点から石油資源の使用量を低減することが要求されており、石油資源に代替して植物由来の材料を用いることが検討されている。このような植物由来の材料の一つとしてリグニンが注目されている。フェノール樹脂は主として石油資源を原料とするが、フェノール樹脂の原料の一つとして植物由来のリグニンを使用することが注目されているのである。
【0004】
リグニンは植物からパルプを製造する際に排出される廃液に含まれるものであり、この廃液から回収して使用することができる。そしてこのリグニンと、フェノール類と、アルデヒド類をシュウ酸などの酸触媒下で反応させることによって、リグニンを原料の一つとするリグニン変性フェノール樹脂を得ることができるものである(例えば特許文献1,特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-156601号公報
【特許文献2】特開2020-55888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしリグニンは反応性が低く、リグニンによる変性を十分に進行させることは難しいものであって、リグニンの一部はフェノール樹脂中にフィラーとして含有されているに過ぎないことがあり、リグニンによるフェノール樹脂の変性効果を十分に得ることは難しい。
【0007】
また上記のようにして得られたリグニン変性フェノール樹脂は、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を添加して硬化させることができるが、硬化速度が遅いという問題を有する。そしてこのように硬化速度が遅いとフェノール樹脂を成形して各種部品を製造するにあたって成形サイクルが長くなって、生産性等に問題が生じることになるものであった。またフェノール樹脂を珪砂等の耐火骨材と混合し、これを型に充填して鋳型を成形するにあたって、フェノール樹脂の硬化速度が遅いと、成形された鋳型を脱型する際に欠けや崩れ等が発生し易いため取り出し時間が長くなって作業効率が低下するという問題などが発生することになる。従って、硬化速度の速いリグニン変性フェノール樹脂が求められるものである。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、リグニンで変性したフェノール樹脂を製造するにあたって、硬化速度の速いフェノール樹脂を得ることができるリグニン変性フェノール樹脂の製造方法を提供することを目的とするものであり、またこのように製造したリグニン変性フェノール樹脂を用いてフェノール樹脂組成物、レジンコーテッドサンド、フェノール樹脂炭化物を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るリグニン変性フェノール樹脂の製造方法は、リグニンと、フェノール類と、アルデヒド類を、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれる触媒の存在下で反応させることを特徴とするものである。
【0010】
リグニンとフェノール類とアルデヒド類を反応させるにあたって、触媒として上記の酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛を用いることによって、リグニンはフェノール類やアルデヒド類に良好に反応し、リグニンで変性されたフェノール樹脂を製造することができるものであり、しかも硬化速度の速いリグニン変性フェノール樹脂を得ることができるものである。
【0011】
本発明に係るフェノール樹脂組成物の製造方法は、上記の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を含有して調製することを特徴とするものである。
【0012】
この発明によれば、硬化速度の速いフェノール樹脂組成物を得ることができ、フェノール樹脂組成物を成形材料として用いて成形品などを成形するにあたって、リグニン変性フェノール樹脂の硬化速度が速いために、短い成形サイクルで効率良く成形を行なうことができるものである。
【0013】
また本発明に係るレジンコーテッドサンドの製造方法は、上記の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を耐火骨材に被覆することを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、レジンコーテッドサンドを型に充填して加熱することによって鋳型を製造するにあたって、リグニン変性フェノール樹脂の硬化速度が速いために、鋳型に欠けや崩壊等が生じることなく取り出す時間を短縮できるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リグニンとフェノール類とアルデヒド類を反応させるにあたって、触媒として酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛を用いることによって、リグニンで変性されたフェノール樹脂を製造することができ、しかも硬化速度の速いリグニン変性フェノール樹脂を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】鋳型を成形する試験に用いる型の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
リグニンは、グアイアシルリグニン(G型)、シリンギルリグニン(S型)、p-ヒドロキシフェニルリグニン(H型)などの基本骨格からなる高分子フェノール性化合物であって、天然物(天然リグニン)として植物全般に含まれている。植物から工業的に取り出したリグニンとしては、例えば、原料としての植物材料(リグノセルロース)からパルプをソーダ法、亜硫酸法、クラフト法などによって製造する際に排出される廃液(黒液)中に含まれるソーダリグニン、サルファイトリグニン、クラフトリグニンなどが知られている。
【0019】
このようなリグニンとして具体的には、木本系植物由来リグニン、草本系植物由来リグニンが挙げられる。木本系植物由来リグニンとしては、例えば、針葉樹(例えば、スギなど)に含まれる針葉樹系リグニン、例えば、広葉樹に含まれる広葉樹系リグニンなどが挙げられる。木本系植物由来リグニンは、H型の基本骨格を含まない。より具体的には、木本系植物由来リグニンのうち、針葉樹系リグニンはS型の基本骨格を含まず、G型の基本骨格を有している。また、広葉樹系リグニンはG型の基本骨格およびS型の基本骨格を有している。
【0020】
また草本系植物由来リグニンとしては、例えば、イネ科植物(麦わら、稲わら、とうもろこし、タケなど)に含まれるイネ系リグニンなどが挙げられる。草本系植物由来リグニンは、H型、G型およびS型の全ての基本骨格を有している。本発明においてリグニンとしては上記の各種のものを単独で使用する他、2種類以上を併用することもできる。
【0021】
リグニンは、アルカリ法(ソーダ法)、亜硫酸法、クラフト法など方法によって植物からパルプを製造する際に、排出される廃液(黒液)中に含まれる。例えばアルカリ法において排出される廃液(黒液)には、アルカリリグニンが含有され、亜硫酸法において排出される廃液(黒液)には、サルファイトリグニンが含有され、クラフト法において排出される廃液(黒液)には、クラフトリグニンが含有される。そして廃液(黒液)中に含まれるリグニンを析出・沈殿させ、これを濾過することによって、固形分としてリグニンを得ることができる。
【0022】
上記のようにして得られるリグニンは未変性のリグニンであるが、リグニンを酸(カルボン酸など)で変性して得られる酸変性リグニンを挙げることもできる。酸変性リグニンのなかでもカルボン酸変性リグニンが好ましい。
【0023】
カルボン酸変性リグニンにおいて、カルボン酸としては、カルボキシ基を1つ有するカルボン酸(単官能カルボン酸)が挙げることができ、例えば飽和脂肪族単官能カルボン酸、不飽和脂肪族単官能カルボン酸、芳香族単官能カルボン酸などが挙げられる。
【0024】
飽和脂肪族単官能カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸などが、不飽和脂肪族単官能カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、リノール酸などが、芳香族単官能カルボン酸としては、安息香酸、2-フェノキシ安息香酸、4-メチル安息香酸などが挙げられる。これらカルボン酸は1種を単独で使用する他、2種類以上を併用することもできる。カルボン酸としては飽和脂肪族単官能カルボン酸が好ましく、なかでも酢酸が好ましい。
【0025】
カルボン酸変性リグニンの製造は、特に制限されないものであり、従来から知られている方法に準拠して行なうことができる。例えば、リグニンの原料となる植物材料(例えば、針葉樹、広葉樹、イネ科植物など)を、カルボン酸(例えば酢酸)を用いて蒸解することによって、リグニンの脂肪族水酸基をカルボン酸で変性し、パルプ廃液中にカルボン酸変性リグニンを得ることができる。
【0026】
蒸解は、例えば、リグニンの原料となる植物材料と、カルボン酸および無機酸(例えば塩酸、硫酸など)とを混合し、反応させることによって行なうことができる。カルボン酸の配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、500質量部以上、好ましくは900質量部以上であり、且つ30000質量部以下、好ましくは15000質量部以下である。また無機酸の配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上であり、且つ10質量部以下、好ましくは5質量部以下である。
【0027】
蒸解の反応条件は、大気圧下で、反応温度が30℃以上、好ましくは50℃以上であり、且つ400℃以下、好ましくは250℃以下である。また反応時間が、0.5時間以上、好ましくは1時間以上であり、且つ20時間以下、好ましくは10時間以下である。
【0028】
このような蒸解によって、パルプが得られるとともに、パルプ廃液としてカルボン酸変性リグニンが得られる。そして濾過などの分離方法によってパルプを分離して、濾液(パルプ廃液)を回収し、必要により、未反応のカルボン酸をロータリーエバポレーター、減圧蒸留などの方法により除去(留去)する。その後、大過剰の水を添加してカルボン酸変性リグニンを沈殿させ、濾過することによって、固形分としてカルボン酸変性リグニンを得ることができる。
【0029】
上記のようにして得られるリグニンを、フェノール類と、アルデヒド類と縮合反応させることによって、リグニンで変性されたフェノール樹脂を製造することができる。尚、本発明ではリグニンとして、特開2017-197517号公報、特開2021-123716号公報に開示されるようなポリエチレングリコールなどのグリコールで変性された改質リグニンを使用する必要はなく、「リグニン」として市販され使用されているものであればよい。
【0030】
上記のフェノール類としては、フェノールの他にフェノールの誘導体を用いることができる。フェノール誘導体としては、例えばm-クレゾール、レゾルシノール、3,5-キシレノールなど3官能性のもの、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o-クレゾール、p-クレゾール、p-ter-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノール、p-ノニルフェノール、2,4-又は2,6-キシレノールなどの2官能性のo-又はp-置換のフェノール類などを挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなどを用いることもできる。フェノール類としてはこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを併用することもできる。
【0031】
また上記のアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもでき、その他アルデヒドの一部あるいは大部分をフルフラールやフルフリルアルコールに置き換えたものを用いることも可能である。これらから1種を選択して用いる他、複数種のものを併用することもできる。
【0032】
上記のようにリグニンとフェノール類とアルデヒド類とを反応させるにあたって、反応は触媒の存在下で行なわれる。ここで、この反応触媒としては特許文献1、2に記載されるように酸触媒を用いるのが一般的である。例えば特許文献1では酸触媒としてシュウ酸等の有機酸が使用されている。また特許文献2では酸触媒としてシュウ酸等の有機酸やリン酸等の無機酸が使用されている。しかし特許文献1,2のようにリグニンとフェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下で反応させる方法では、既述のように、リグニンは反応性が低く、リグニンによるフェノール樹脂の変性は十分に進行しない。また得られたリグニン変性フェノール樹脂はノボラック樹脂であってヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を添加して硬化させることができるが、硬化速度が遅いという問題を有する。そこで反応触媒について種々検討した結果、リグニンの反応性を高めてリグニンで変性したフェノール樹脂を容易に得ることができ、しかもリグニン変性フェノール樹脂の硬化速度を向上できることが、本発明者によって見出された。
【0033】
すなわち本発明は反応触媒として、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれるものを用いるものである。これらは1種を単独で用いる他、複数種を併用することもできる。
【0034】
反応触媒の配合量は、特に制限されるものではないが、フェノール類100質量部に対して0.05~10質量部の範囲が好ましく、下限は0.1質量部以上であることがより好ましく、上限は5質量部以下であることより好ましい。
【0035】
またリグニンの配合量は、特に制限されるものではないが、フェノール類100質量部に対して2~300質量部の範囲が好ましい。下限は5質量部以上であることがより好ましく、また上限は200質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
またアルデヒド類の配合量は、特に制限されるものではないが、フェノール類100質量部に対して5~35質量部の範囲が好ましい。下限は10質量部以上であることがより好ましく、上限は30質量部以下であることがより好ましい。
【0037】
リグニンとフェノール類とアルデヒド類とを上記の触媒の存在下反応させるにあたって、反応条件は特に制限されるものではないが、大気圧下で、反応温度を50~200℃の範囲に、反応時間を1~20時間の範囲に設定するのが好ましい。反応温度の下限は80℃以上であることがより好ましく、上限は190℃以下であることがより好ましい。また反応時間の下限は2時間以上であることがより好ましく、上限は15時間以下であることがより好ましい。
【0038】
上記のようにして得られるリグニンで変性したフェノール樹脂はノボラック型フェノール樹脂であり、必要に応じて硬化剤と混合して加熱することによって、硬化させることができる。この硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミンを代表例として挙げることができるが、その他、イミダゾール等のアミン類や、多官能のエポキシ樹脂、レゾール型フェノール樹脂例えばヘキサメチレンテトラミン、などを用いることができるものであり、これらは1種を単独で使用する他、複数種を併用することもできる。また硬化剤の配合量は用途などに応じて任意に設定される。
【0039】
そして本発明のリグニン変性フェノール樹脂に硬化剤を配合したフェノール樹脂組成物は、例えば接着剤などとして使用することができる。またリグニン変性フェノール樹脂に硬化剤の他、各種の添加剤を配合して混合あるいは混錬することによって、各種の用途に使用するフェノール樹脂組成物を得ることができる。添加剤としては、木粉、パルプ、繊維等の充填剤(フィラー)、可塑剤、安定剤、着色剤、離型剤、滑剤など任意のものを用途に応じて配合することができる。例えばこのフェノール樹脂組成物を成形材料として用いて、トランスファー成形や圧縮成形などの方法で成形品を成形することができるものであり、電気部品、自動車部品、建築材料、日用品など各種の分野で使用することができる。
【0040】
また本発明において、上記のようして得たリグニン変性フェノール樹脂を、鋳造の分野において鋳型を製造する際のバインダーとして使用することができる。例えば、リグニン変性フェノール樹脂を珪砂等の耐火骨材と混錬し、この混錬物を高温に熱された型に充填し、型による加熱でフェノール樹脂を硬化させた後、型から脱型することによって、耐火骨材をフェノール樹脂バインダーで結合して造型された鋳型を得ることができる。リグニン変性フェノール樹脂を耐火骨材と混錬するにあたっては、硬化剤やその他必要に応じて各種の添加剤を添加するようにしてもよい。
【0041】
あるいはフェノール樹脂で耐火骨材の表面を被覆することによって、フェノール樹脂からなる固体のバインダー層を耐火骨材の表面に形成したレジンコーテッドサンド(RCS)を調製することができる。
【0042】
レジンコーテッドサンドの流動性を良くするために、バインダー層に滑剤が含有されるようにしてもよい。滑剤としては、パラフィンワックスやカルナバワックス等の脂肪族炭化水素系滑剤、高級脂肪族系アルコール、エチレンビスステアリン酸アマイドやステアリン酸アマイド等の脂肪族アマイド系滑剤、金属石けん系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、複合滑剤などを用いることができるが、なかでも金属石けん系滑剤が好ましい。金属石けん系滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどや、これらを複数種組み合わせたものを用いることができる。
【0043】
耐火骨材の表面にフェノール樹脂からなる固体のバインダー層を被覆してレジンコーテッドサンドを調製する方法としては、ホットコート法、コールドコート法、セミホットコート法、粉末溶剤法などがある。
【0044】
ホットコート法は、110~180℃に加熱した耐火骨材に固形のフェノール樹脂を混合し、耐火骨材による加熱で固形のフェノール樹脂等を溶融させることによって、溶融したフェノール樹脂で耐火骨材の表面を濡らして被覆させ、この後、この混合を保持したまま冷却することによって、粒状でさらさらしたレジンコーテッドサンドを得る方法である。あるいは、110~180℃に加熱した耐火骨材に、水などの溶剤にフェノール樹脂等を溶解又は分散させて混合し、溶剤を揮散させることによってレジンコーテッドサンドを得ることもできる。
【0045】
コールドコート法は、フェノール樹脂を水やメタノールなどの溶剤に分散乃至溶解して液状になし、これを耐火骨材に添加して混合し、溶剤を揮発させることによって、レジンコーテッドサンドを得る方法である。
【0046】
セミホットコート法は、上記の溶剤にフェノール樹脂を分散乃至溶解した液を、50~90°Cに加熱した耐火骨材に添加して混合し、溶剤を揮発させることによってレジンコーテッドサンドを得る方法である。
【0047】
粉末溶剤法は、固形のフェノール樹脂を粉砕し、この粉砕物を耐火骨材の粒子に添加してさらに水やメタノールなどの溶剤を添加し、これを混合して溶剤を揮発させることによって、レジンコーテッドサンドを得る方法である。
【0048】
以上のいずれの方法においても、耐火骨材の表面を常温(30℃)で固形のコーティグ層を被覆した、粒状でさらさらして流動性のあるレジンコーテッドサンドを得ることができるが、作業性などの点においてホットコート法が好ましい。また上記のように耐火骨材にフェノール樹脂を混合する際に、必要に応じて硬化剤や、耐火骨材とフェノール樹脂とを親和させるためのシランカップリング剤など各種のカップリング剤や、また黒鉛等の炭素質材料などを配合することもできる。
【0049】
このように調製したレジンコーテッドサンドを用いて鋳型を製造するにあたっては、上記と同様の方法で、すなわちレジンコーテッドサンドを高温に熱された型に充填し、型による加熱で耐火骨材のバインダー層のフェノール樹脂を硬化させた後、型から脱型することによって、耐火骨材をフェノール樹脂バインダーで結合して造型された鋳型を得ることができる。
【0050】
またレジンコーテッドサンドは粒状であるので、型にレジンコーテッドサンドを充填した状態でレジンコーテッドサンドの粒子間には気体が通過する空隙が形成される。そこで、型にレジンコーテッドサンドを充填した後、型内に過熱蒸気などの水蒸気を吹き込むことによって、型内のレジンコーテッドサンドを加熱することができる。
【0051】
すなわち、型に吹き込み口と排気口を形成しておき、吹き込み口から型内に水蒸気を吹き込むと、水蒸気は型内に充填されたレジンコーテッドサンドの間を通過して排気口から排出される。そしてこの際に、レジンコーテッドサンドの表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気から潜熱がレジンコーテッドサンドに奪われて水蒸気は凝縮するが、水蒸気は高い潜熱と顕熱を有するので、水蒸気が凝縮する際に伝熱されるこの潜熱でレジンコーテッドサンドの温度は100℃付近にまで急速に上昇する。このように水蒸気の潜熱の伝熱によってレジンコーテッドサンドが100℃付近にまで加熱される時間は、水蒸気の温度や吹き込み流量、型内のレジンコーテッドサンドの充填量などで変動するが、通常、3~30秒程度の短時間である。このように、極めて短い時間で型内のレジンコーテッドサンドを加熱してフェノール樹脂を硬化させ、短い加熱時間で鋳型を成形することが可能になるものである。
【0052】
また本発明において、上記のようして得たリグニン変性フェノール樹脂を炭化処理することによって、フェノール樹脂炭化物を得ることができる。例えば、フェノール樹脂に必要に応じて硬化剤その他の添加剤を混合し、加熱して硬化させることによって、フェノール樹脂硬化物を得る。このとき、硬化させる際に板状など任意の形状に成形するようにしてもよい。あるいは硬化物を粉砕して所定の粒度の粒状物にしてもよい。
【0053】
このフェノール樹脂の硬化物を酸素を遮断した雰囲気で加熱して焼成することによって、フェノール樹脂炭化物を得ることができるものである。この焼成をさらに進めて賦活させることによって、賦活化されたフェノール樹脂炭化物を得ることができる。
【0054】
ここで、フェノール樹脂の硬化物を焼成して炭化させることによって炭化物を得た後に、炭化物をさらに焼成して賦活させるというように、炭化の処理と賦活の処理を二段階の焼成で行なって賦活されたフェノール樹脂炭化物を得るようにしてもよく、あるいは炭化と賦活を同時に進行させて一段階の焼成で賦活されたフェノール樹脂炭化物を得るようにしてもよい。酸素を遮断した雰囲気は、フェノール樹脂炭化物が酸化されない雰囲気であればよく、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスや窒素ガス雰囲気にすることが好ましいが、フェノール樹脂炭化物をコークスで囲んだ状態で焼成することで酸素を遮断する雰囲気を作ることも可能である。
【0055】
賦活は水蒸気や二酸化炭素などの賦活ガスを用いたガス賦活法で行なうことも可能であるが、賦活剤として水酸化カリウム(KOH)を用いた薬品賦活法で行なうのが好ましい。賦活剤としてKOHを用いて焼成する場合、炭化と賦活を同時に進行させて一段階で焼成の処理することが可能になるものである。そしてこのように賦活剤としてKOHを用いることによって、細孔のメソ孔を発達させて比表面積をより増加させたフェノール樹脂炭化物を得ることができるものである。
【0056】
焼成条件は、特に制限されるものではないが、炭化と賦活を一段階の焼成で行なう場合は、加熱温度を400~1000℃の範囲、加熱時間を0.5~3時間の範囲に設定するのが望ましい。また炭化と賦活を二段階の焼成で行なう場合は、炭化処理の段階での焼成条件は、加熱温度を200~800℃の範囲、加熱時間を0.5~3時間の範囲に、賦活処理での段階の焼成条件は、加熱温度を500~1000℃の範囲、加熱時間を0.5~3時間の範囲に設定するのが望ましい。
【0057】
上記のようにフェノール樹脂を焼成して、炭化すると共に賦活することによって、活性炭として使用できるフェノール樹脂炭化物を得ることができるものである。そしてこのフェノール樹脂炭化物にあって、賦活した炭化物には細孔が形成されるために比表面積が極めて大きくなり、ガス吸着能など吸着能力を高く得ることができるものである。
【0058】
従って、賦活したフェノール樹脂炭化物を、乾電池、鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池などの二次電池の電極を形成する炭素材料として使用することができるものである。フェノール樹脂炭化物を電極用炭素材料として用いて電極を作製するにあたっては、例えば、フェノール樹脂炭化物をバインダーと共に溶剤等に分散してスラリー状にし、銅箔等の金属箔にこのスラリーを塗布して乾燥し、プレス成形等することによって行なうことができるものである。さらに、この電極を分極性電極として用い、電解液の界面で形成される電気二重層を形成する電気二重層キャパシタを形成することもできる。このように、本発明のフェノール樹脂炭化物を用いて二次電池用電極や、電気二重層キャパシタ分極性電極を作製することによって、充・放電容量が高い二次電池や電気二重層キャパシタを得ることができるものである。
【0059】
この賦活したフェノール樹脂炭化物は、その高い吸着作用によって水の浄化などに用いることもできる。さらに、消化管内で速やかに有害な吸着対象物質を吸着しないと有害物質が体内に吸収されるので、吸着速度の速い吸着剤が求められているが、フェノール樹脂炭化物は賦活処理によって、単位質量当りの比表面積及び細孔容積を大きくして物理的化学的吸着性能が向上しているのでこれを医薬用の経口吸着炭素剤として使用することができるものである。例えば慢性腎不全治療薬、クローン病など胃腸疾患治療薬、潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群などの治療薬として使用することができる。
【実施例0060】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0061】
(実施例1)
リグニンとして東京化成工業(株)製リグニン(脱アルカリ)「L0045」を用いた。この「L0045」は針葉樹・広葉樹を亜硫酸ナトリウムで処理し、これを脱スルホン化、酸化、加水分解、脱メチル化の処理をして得られたものである。
【0062】
そして反応容器にフェノール120質量部、92%パラホルムアルデヒド20.4質量部、上記のリグニン21.3質量部、反応触媒として酢酸亜鉛0.24質量部、水6.4質量部を仕込み、加熱して60分をかけて沸騰させた。
【0063】
この沸騰を維持して100分間反応させた後、90分をかけて常圧で170℃まで加熱して蒸留することにより脱液し、さらに常圧から93.3kPa減圧して、170℃で30分をかけて減圧蒸留を行なうことにより未反応のフェノールを脱液した。そして溶融状態の反応物を反応容器から専用容器に払い出し、室温になるまで放冷して固化させた。
【0064】
このように固体化したものを粉砕することによって、リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。このリグニン変性フェノール樹脂は、102質量部のフェノール樹脂が21.3質量部のリグニンで変性されているので、リグニン変性率は約20%である。
【0065】
(実施例2)
改質リグニンの仕込み量を35.5質量部に変更した他は、実施例1と同様にして、リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂115質量部を得た。このリグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約30%である。
【0066】
(実施例3)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酢酸マンガン0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂105質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0067】
(実施例4)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酢酸カルシウム0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂101質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0068】
(実施例5)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酢酸鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂105質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0069】
(実施例6)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにホウ酸亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂95質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0070】
(実施例7)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにホウ酸マンガン0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂94質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0071】
(実施例8)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにホウ酸ニッケル0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0072】
(実施例9)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにナフテン酸亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂90質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0073】
(実施例10)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにナフテン酸鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂92質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0074】
(実施例11)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにナフテン酸コバルト0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂95質量部を得た。このリグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0075】
(実施例12)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにオクチル酸亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0076】
(実施例13)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに安息香酸亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂101質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0077】
(実施例14)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。このリグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0078】
(実施例15)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酸化鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂103質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0079】
(比較例1)
反応容器にフェノール320質量部、92%パラホルムアルデヒド64質量部、上記のリグニン64質量部、反応触媒としてシュウ酸2.9質量部、水20質量部を仕込み、あとは実施例1と同様にしてリグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂320質量部を得た。このリグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0080】
(比較例2)
反応容器にフェノール300質量部、92%パラホルムアルデヒド58質量部、上記のリグニン99質量部、反応触媒としてシュウ酸2.7質量部、水22質量部を仕込み、あとは実施例1と同様にしてリグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂327質量部を得た。このリグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約30%である。
【0081】
上記の実施例1~15、比較例1~2で得たリグニン変性フェノール樹脂について、分子量、軟化点、ゲル化温度を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
分子量の測定は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製「HLC-8400GPC)を用いて行ない、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)をそれぞれポリスチレン換算で求めた。軟化点及びゲル化時間はJIS K 6910に準拠して測定し、ゲル化時間は150℃でのゲル化の時間を求めた。尚、ゲル化時間は、各実施例や比較例の樹脂10gに硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン1.5gを混合したものについて測定を行なった。結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
表1にみられるように、反応触媒として酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛を用いた各実施例のリグニン変性フェノール樹脂は、反応触媒として酸性触媒であるシュウ酸を用いた比較例1~2のリグニン変性フェノール樹脂よりも、ゲル化時間が大幅に短くなっている。従って、反応触媒として酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛を用いることによって、硬化速度の速いリグニン変性フェノール樹脂を製造できることが確認された。
【0085】
次に、上記のようにして得た実施例1~15及び比較例1~2のリグニン変性フェノール樹脂を用い、この各リグニン変性フェノール樹脂20質量部に硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを2質量部配合してクラッシュミキサーで粉砕混合し、これにさらに充填剤として伊藤黒鉛工業(株)製黒鉛「X-100」を80質量部配合することによって、実施例16~30、比較例3~4のフェノール樹脂組成物(成形材料)を調製した。
【0086】
そして実施例16~30、比較例3~4の各成形材料を成形型に充填し、温度150℃、圧力9.8MPaの条件で加熱加圧して、φ50×10mmの試験片を成形した。このように成形を行なう際に加熱加圧の時間を変え、得られた試験片の状態を観察する成形試験を行なった。成形試験の結果を、脱型の際に欠けのない良好なものを「〇」、端の一部が欠けたものを「△」、成形型の上下型に貼り付いて中央から破断したものを「×」として評価し、表2に示す。尚、表2において「×」より短い時間についての試験は特に必要ないので評価の表示は省略した。
【0087】
【0088】
表2にみられるように、各実施例のものは比較例よりも短い時間で成形をすることができるものであり、特に同じリグニン変性率のもので比較するとその傾向が明らかである。よって実施例のリグニン変性フェノール樹脂は硬化速度が速く短時間で成形が可能になることが確認された。
【0089】
次に、実施例16~30、比較例3~4の各成形材料をヒーターで加熱制御した成形型に充填して成形し、100×100×7mmの成形物を成形した。このときの成形は、成形材料投入時の型温度100℃、圧力9.8MPaで加熱加圧を開始し、型温110℃でガス抜きをしながら160℃に型温が達した時点でヒーターによる加熱を停止し、10分間硬化を進め、その後型温80℃まで冷却して成形型から成形物を取り出す、という条件で行なった。
【0090】
そして得られた成形物から10×100×5mmの試験片を切り出し、曲げ強さ、曲げ弾性率、曲げひずみを測定した。測定は(株)島津製作所製オートグラフ「AGS-10KNX」を用い、JIS K 6911(5.17)に準じて、支点間距離80mm、クロスヘッド速度2.5mm/minの条件で行なった。結果を表3に示す。
【0091】
【0092】
表3にみられるように、各実施例のものは比較例と同等な機械的物性を有するものであり、硬化速度を速めたにもかかわらず実用的な物性を有することが確認された。
【0093】
次に、上記のようにして得た実施例1~15及び比較例1~2のリグニン変性フェノール樹脂を用いて、レジンコーテッドサンドを製造した。すなわち、145℃に加熱したACI-G珪砂10kgをワールミキサーに入れ、実施例1~15、比較例1~2で得たいずれかのリグニン変性フェノール樹脂200gを投入し、50秒間混錬した。次いで水150gにヘキサメチレンテトラミン30gを溶解したヘキサメチレンテトラミン溶液を投入し(樹脂量に対して硬化剤量15質量%)、砂粒が崩壊するまで混錬した。さらに滑剤としてステアリン酸カルシウム10gを投入し、30分間混錬した後にワールミキサーより排出することによって、実施例31~45、比較例5~6のレジンコーテッドサンドを得た。
【0094】
そしてこの実施例31~45、比較例5~6のレジンコーテッドサンドを用い、JIS-K-6910(1999年)に準じて、型にレジンコーテッドサンドを充填して250℃×60秒の条件で焼成することにより、10×10×60mmの試験片を作製し、この試験片を室温まで放冷した後に、JACT試験法(SM-1)に準じて常温時の曲げ強さを測定した。
【0095】
またJACT試験法(SM-3)に準じて、型にレジンコーテッドサンドを充填して250℃×30秒の条件で焼成することで180×40×5mmの試験片を作製し、型から離型した直後の試験片を支持台に乗せて両端部を支え、10秒後に試験片の中央部に500gの荷重を掛けて3分間放置し、試験片中央部のベンド量(ひずみ量)を測定するベンド試験を行なった。ベンド試験はたわみ試験ともいわれるが、成形した鋳型の硬化性や柔軟性を評価する試験であり、ベンド量が小さいほど硬化性が良好であること、つまり硬化速度が速いことを示す。
【0096】
さらにJIS K 6910(1999年)に準じて、型にレジンコーテッドサンドを充填して250℃×60秒の条件で焼成することで10×10×60mmの試験片を作製し、型から離型して10秒後の試験片についてJACT試験法(SM-1)に準じて温時の曲げ強さを測定した。
【0097】
上記のようにして測定した常温時の曲げ強さ、ベンド量、温時の曲げ強さ(温時強度)の結果を表4に示す。
【0098】
【0099】
表4にみられるように、同じリグニン変性率で比較すると、比較例のものはベンド量が大きいかあるいは荷重に耐えきれず破断するのに対して各実施例のベンド量は小さく、各実施例のものは硬化性が良好であって硬化速度が速いことが確認される。また型から取り出して10秒後の温時強度についても、同じリグニン変性率で比較すると、各実施例のものは比較例よりも曲げ強さ高いものであり、各実施例のものは硬化性が良好であって硬化速度が速いことが確認される。
【0100】
次に、
図1に示す造形型1を用い、この型1のキャビティ2に実施例31~45、比較例5~6のレジンコーテッドサンドを充填して鋳型を造形する試験を行なった。
図2の型1のキャビティ2の寸法は、中央キャビティ部2aがφ40×40mm、上方キャビティ部2bがφ30×60mm、側方キャビティ部2cがφ30×35mmである。そして180℃に加熱した型1のキャビティ2内に上部キャビティ部2bからレジンコーテッドサンドをゲージ圧0.1MPaの空気圧で吹き込んで充填し、レジンコーテッドサンドを型1の高温で加熱することによって焼成し、鋳型を成形した。このとき、レジンコーテッドサンドの充填完了から鋳型の取り出しまでの時間(焼成時間)を変えて、成形して得られた鋳型の状態を検査した。欠損のない状態で成形された鋳型の質量は約140gであり、得られた鋳型の質量を測定して、95~100%の場合は造形が良好であり「〇」、70~95%の場合は一部に欠損が発生しており「△」、70%以下の場合は造形不可であり「×」と評価した。結果を表5~6に示す。尚、表5~6において「×」より短い時間、「〇」より長い時間についての試験は特に必要ないので評価の表示は省略した。
【0101】
【0102】
【0103】
表5~6にみられるように、各実施例のものは比較例よりも短い焼成時間で鋳型の造形をすることができるものであり、実施例のレジンコーテッドサンドのリグニン変性フェノール樹脂は硬化速度が速く短時間で鋳型の成形が可能になることが確認された。