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特開2024-107761リグニン変性フェノール樹脂の製造方法、フェノール樹脂組成物の製造方法、レジンコーテッドサンドの製造方法
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  • 特開-リグニン変性フェノール樹脂の製造方法、フェノール樹脂組成物の製造方法、レジンコーテッドサンドの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107761
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】リグニン変性フェノール樹脂の製造方法、フェノール樹脂組成物の製造方法、レジンコーテッドサンドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/20 20060101AFI20240802BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20240802BHJP
   B22C 1/22 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C08G8/20 A
C08L61/06
B22C1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011855
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】312005186
【氏名又は名称】リグナイト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100085604
【弁理士】
【氏名又は名称】森 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇
(72)【発明者】
【氏名】西田 伸司
(72)【発明者】
【氏名】武田 信輔
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌信
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚暉
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 肇
(72)【発明者】
【氏名】米川 盛生
【テーマコード(参考)】
4E092
4J002
4J033
【Fターム(参考)】
4E092AA45
4E092BA02
4E092BA04
4E092BA09
4J002CC071
4J002DA027
4J002EU186
4J002FD017
4J002FD146
4J002GJ01
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
4J033CA02
4J033CA03
4J033CA05
4J033CA11
4J033CA12
4J033CA13
4J033CA16
4J033CA19
4J033CA26
4J033CC04
4J033CC11
4J033HB01
4J033HB09
(57)【要約】
【課題】グリコール類により改質されたリグニンを用いてフェノール樹脂を製造するにあたって、硬化速度の速いフェノール樹脂を得ることができるリグニン変性フェノール樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】グリコール類により改質された改質リグニンと、フェノール類と、アルデヒド類を反応させてフェノール樹脂を製造する。この際に酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれる触媒の存在下で反応させることによって、硬化速度が速いリグニン変性フェノール樹脂を得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール類により改質された改質リグニンと、フェノール類と、アルデヒド類を、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれる触媒の存在下で反応させることを特徴とするリグニン変性フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
上記のグリコール類により改質された改質リグニンが、ポリエチレングリコールにより改質された改質リグニンであることを特徴とする請求項1に記載のリグニン変性フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を含有して調製することを特徴とするフェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を、耐火骨材に被覆することを特徴とするレジンコーテッドサンドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンを原料の一つとするリグニン変性フェノール樹脂の製造方法に関するものであり、またこのリグニン変性フェノール樹脂を用いたフェノール樹脂組成物、レジンコーテッドサンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂の一つとしてフェノール樹脂が広く使用されている。フェノール樹脂はフェノールなどのフェノール類と、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とを、各種の触媒の存在下で反応させることによって製造するのが一般的である。そしてフェノール樹脂は電気部品、自動車部品、日用品等を成形する成形材料などに汎用されており、また鋳型材料のような特殊分野においても使用されている。
【0003】
一方、近年では地球環境保護などの観点から石油資源の使用量を低減することが要求されており、石油資源に代替して植物由来の材料を用いることが検討されている。このような植物由来の材料の一つとしてリグニンが注目されている。フェノール樹脂は主として石油資源を原料とするが、フェノール樹脂の原料の一つとして植物由来のリグニンを使用することが注目されているのである。
【0004】
リグニン(工業リグニン)は主に植物からパルプを製造する際に排出される廃液(黒液)に含まれるものであり、この黒液から回収して使用することができる。そしてこのリグニンと、フェノール類と、アルデヒド類を酸触媒下で反応させることによって、リグニンを原料の一つとするリグニン変性フェノール樹脂を得ることができるものである(例えば特許文献1,特許文献2等参照)。
【0005】
しかしクラフトリグニン、酢酸変性リグニンなどのリグニンは反応性が低く、リグニンによる変性を十分に進行させることが難しいものであって、リグニンの多くはフェノール樹脂中にフィラーとして含有されているに過ぎないことがあり、リグニンによる変性作用でフェノール樹脂を改質する効果はあまり期待できないのが現状である。
【0006】
そこでリグニンとして改質リグニンを使用することが検討されている。例えば特許文献3ではリグニンとしてポリエチレングリコールで改質(変性)したリグニンを用い、この改質リグニン(変性リグニン)と、フェノール類と、アルデヒド類とを、シュウ酸など酸触媒下で反応させることによって、グリコール改質のリグニンで変性されたフェノール樹脂を製造することが提案されている。
【0007】
上記のポリエチレングリコールなどグリコールで改質されたリグニンは反応性が高く、フェノール類やアルデヒド類と良好に反応し、リグニンで変性されたフェノール樹脂を効率良く得ることができるものであり、このようにして得られたリグニン変性フェノール樹脂は耐熱性や柔軟性などの特性に優れるということが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-156601号公報
【特許文献2】特開2020-55888号公報
【特許文献3】特開2021-123716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3の発明では上記のようにグリコールで改質したリグニンと、フェノール類と、アルデヒド類とを、シュウ酸などの酸触媒下で反応させることによって、耐熱性や柔軟性などの特性に優れたフェノール樹脂を得ることができる。このようにして得たフェノール樹脂は、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を添加して硬化させることができるが、硬化速度に問題があって十分に速い硬化速度を得ることが難しいものであった。
【0010】
このように硬化速度が遅いと、フェノール樹脂を成形して各種部品を製造するにあたって成形サイクルが長くなり、生産性等に問題が生じることになる。またフェノール樹脂を珪砂等の耐火骨材と混合し、これを型に充填して鋳型を成形するにあたって、フェノール樹脂の硬化速度が遅いと、成形された鋳型を脱型する際に欠けや崩れ等が発生し易いため取り出し時間が長くなって作業効率が低下するという問題などが発生することになる。従って、硬化速度の速いフェノール樹脂が求められるものである。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、グリコール類で改質された改質リグニンを用いてフェノール樹脂を製造するにあたって、硬化速度の速いフェノール樹脂を得ることができるリグニン変性フェノール樹脂の製造方法を提供することを目的とするものである。またこのように製造したリグニン変性フェノール樹脂を用いてフェノール樹脂組成物、レジンコーテッドサンドを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るリグニン変性フェノール樹脂の製造方法は、グリコール類により改質された改質リグニンと、フェノール類と、アルデヒド類を、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれる触媒の存在下で反応させることを特徴とするものである。
【0013】
グリコール類により改質された改質リグニンとフェノール類とアルデヒド類を反応させるにあたって、触媒として上記の酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれる化合物を用いることによって、硬化速度の速いフェノール樹脂を得ることができるものである。
【0014】
また本発明は、上記のグリコール類により改質された改質リグニンが、ポリエチレングリコールにより改質された改質リグニンであることを特徴とするものである。
【0015】
ポリエチレングリコールにより改質された改質リグニンを用いてフェノール樹脂を製造することによって、耐熱性や柔軟性などの特性がより優れたフェノール樹脂を得ることができるものである。
【0016】
本発明に係るフェノール樹脂組成物の製造方法は、上記の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を含有して調製することを特徴とするものである。
【0017】
この発明によれば、耐熱性や柔軟性などの特性に優れ且つ硬化速度の速いフェノール樹脂組成物を得ることができるものであり、フェノール樹脂組成物を成形材料として用いて成形を行なうにあたって、耐熱性や柔軟性などの特性に優れた成形品を短い成形サイクルで効率良く成形することができるものである。
【0018】
また本発明に係るレジンコーテッドサンドの製造方法は、上記の方法で得られたリグニン変性フェノール樹脂を、耐火骨材に被覆したことを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、レジンコーテッドサンドを型に充填して加熱することによって鋳型を製造するにあたって、耐衝撃性等に優れた鋳型を製造することができるものであり、また硬化速度が速いために、鋳型に欠けや崩壊等が生じることなく成形する時間を短縮できるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、グリコール類により改質された改質リグニンとフェノール類とアルデヒド類を反応させるにあたって、触媒として上記の酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれる化合物を用いることによって、硬化速度の速いリグニン変性フェノール樹脂を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ポリエチレングリコールで改質したリグニンの化学構造式の一例を示す図である。
図2】鋳型を成形する型の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
本発明においてリグニン(工業リグニン)としては、グリコール類で改質(変性ともいう)された改質リグニン(変性リグニンともいう)を使用する。改質に用いるグリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコールを高分子化したものを用いるのが好ましく、なかでもポリエチレングリコールを用いるのが最適である。
【0024】
グリコール類としてポリエチレングリコールを用いる場合、その数平均分子量は、100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは400以上であり、且つ1000以下、好ましくは900以下、より好ましくは800以下、さらに好ましくは600以下である。尚、数平均分子量は、公知のゲルパーミエーションクロマトグラム法によりポリエチレングリコール換算分子量として求めることができる。
【0025】
リグニンは、グアイアシルリグニン(G型)、シリンギルリグニン(S型)、p-ヒドロキシフェニルリグニン(H型)などの基本骨格からなる高分子フェノール性化合物であって、天然物(天然リグニン)として植物全般に含まれている。植物から工業的に取り出したリグニン(工業リグニン)としては、例えば、原料としての植物材料(リグノセルロース)からパルプをソーダ法、亜硫酸法、クラフト法などによって製造する際に排出される廃液(黒液)中に含まれるソーダリグニン、サルファイトリグニン、クラフトリグニンなどが知られている。
【0026】
リグニンとして具体的には、木本系植物由来リグニン、草本系植物由来リグニンが挙げられる。木本系植物由来リグニンとしては、例えば、針葉樹(例えば、スギなど)に含まれる針葉樹系リグニン、例えば、広葉樹に含まれる広葉樹系リグニンなどが挙げられる。木本系植物由来リグニンは、H型の基本骨格を含まない。より具体的には、木本系植物由来リグニンのうち、針葉樹系リグニンは、S型の基本骨格を含まず、G型の基本骨格を有している。また、広葉樹系リグニンは、G型の基本骨格およびS型の基本骨格を有している。
【0027】
また草本系植物由来リグニンとしては、例えば、イネ科植物(麦わら、稲わら、とうもろこし、タケなど)に含まれるイネ系リグニンなどが挙げられる。草本系植物由来リグニンは、H型、G型およびS型の全ての基本骨格を有している。本発明においてリグニンとしては上記の各種のものを単独で使用する他、2種類以上を併用することもできる。
【0028】
改質リグニンを調製するにあたっては、特に制限されるものではないが、特開2017-197517号公報に開示される方法や、特開2021-123716号公報に開示される方法に従って行なうことができる。
【0029】
例えば、リグニンを含有する植物材料(リグノセルロース)を、ポリエチレングリコールなどのグリコール類を用いて蒸解することによって、グリコール類で改質した改質リグニンを得ることができる。
【0030】
蒸解は、リグニンを含有する植物材料と、ポリエチレングリコールなどのグリコール類と、酸触媒としての無機酸(例えば、塩酸、硫酸など)とを混合し、反応させることによって行なうことができる。
【0031】
ポリエチレングリコールを用いて蒸解を行なう場合、ポリエチレングリコールの配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、200質量部以上、好ましくは、300質量部以上であり、且つ1000質量部以下、好ましくは600質量部以下である。また無機酸の配合割合は、ポリエチレングリコール100質量部に対して、0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上であり、且つ2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。
【0032】
蒸解の反応条件は、常圧下で、反応温度が120℃以上、好ましくは130℃以上であり、且つ180℃以下、好ましくは150℃以下である。反応時間は、60分以上であり、且つ240分以下、好ましくは120分以下である。
【0033】
そして蒸解の反応終了後、アンモニア、水酸化ナトリウムなどのアルカリを適宜の割合で添加し、pHを調整して、改質リグニンを溶液に抽出させる。pH調整は、pHが8以上、好ましくは10以上、より好ましくは10.5以上であり、且つ14以下になるように行なう。
【0034】
このようにして、固形成分としてパルプが得られるとともに、溶液成分(パルプ廃液)にポリエチレングリコールで改質した改質リグニンが得られる。次いで、濾過、プレス、遠心分離など任意の分離方法によって、溶液成分(パルプ廃液)から固形成分(パルプ)を分離し、溶液成分(パルプ廃液)を回収する。この後、塩酸や硫酸などの無機酸を添加してpH調整をし、改質リグニンを析出させるとともに沈殿させる。pH調整は、pHが1.5以上であり、且つ5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下になるように行なう。
【0035】
上記のようにして、ポリエチレングリコールなどのグリコール類で改質した改質リグニンを沈殿させることができ、そして得られた沈殿物を濾過、プレス、遠心分離などの任意の方法で回収することにより、固形分として改質リグニンを得ることができる。ここで図1はグリコール類としてポリジエチレングリコールで改質した改質リグニンの化学構造式の一例を示すものである。図1にみられるように、リグニンにポリエチレングリコールなどのグリコール類が縮合することによってリグニンは改質されるものである。
【0036】
上記のようにして得られる改質リグニンと、フェノール類と、アルデヒド類とを縮重合反応させることによって、改質リグニンで変性されたフェノール樹脂を製造することができる。
【0037】
上記のフェノール類としては、フェノールの他にフェノールの誘導体を用いることができる。フェノール誘導体としては、例えばm-クレゾール、レゾルシノール、3,5-キシレノールなど3官能性のもの、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o-クレゾール、p-クレゾール、p-ter-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノール、p-ノニルフェノール、2,4-又は2,6-キシレノールなどの2官能性のo-又はp-置換のフェノール類などを挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなどを用いることもできる。フェノール類としてはこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを併用することもできる。
【0038】
また上記のアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもでき、その他アルデヒドの一部あるいは大部分をフルフラールやフルフリルアルコールに置き換えたものを用いることも可能である。これらから1種を選択して用いる他、複数種のものを併用することもできる。
【0039】
上記のように改質リグニンとフェノール類とアルデヒド類とを反応させるにあたって、反応は触媒の存在下で行なわれる。ここで、この反応触媒としては特許文献1~3に記載されるように酸触媒を用いるのが一般的である。例えば特許文献1では酸触媒としてシュウ酸等の有機酸が使用されている。また特許文献2では酸触媒としてシュウ酸等の有機酸やリン酸等の無機酸が使用されている。さらに特許文献3では酸触媒としてシュウ酸等の有機酸などが使用されている。
【0040】
しかし特許文献3に記載されるところの、グリコール類で改質(変性)した改質リグニン(変性リグニン)とフェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下で反応させて得られるフェノール樹脂は、既述のように、硬化速度の点で不十分であるが、反応触媒を検討することによって硬化速度を向上できることが本発明者によって見出された。
【0041】
すなわち本発明は反応触媒として、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛から選ばれるものを用いるものである。これらは1種を単独で用いる他、複数種を併用することもできる。
【0042】
反応触媒の配合量は、特に制限されるものではないが、フェノール類100質量部に対して0.05~10質量部の範囲が好ましく、下限は0.1質量部以上であることがより好ましく、上限は5質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
また改質リグニンの配合量は、特に制限されるものではないが、フェノール類100質量部に対して2~300質量部の範囲が好ましい。下限は5質量部以上であることがより好ましく、上限は200質量部以下であることがより好ましい。
【0044】
またアルデヒド類の配合量は、特に制限されるものではないが、フェノール類100質量部に対して5~35質量部の範囲が好ましい。下限は10質量部以上であることがより好ましく、上限は30質量部以下であることがより好ましい。
【0045】
改質リグニンとフェノール類とアルデヒド類とを上記の触媒の存在下反応させるにあたって、反応条件は特に制限されるものではないが、大気圧下で、反応温度を50~200℃の範囲に、反応時間を1~20時間の範囲に設定するのが好ましい。反応温度の下限は80℃以上であることがより好ましく、上限は190℃以下であることがより好ましい。また反応時間の下限は2時間以上であることがより好ましく、上限は15時間以下であることがより好ましい。
【0046】
上記のようにして得られる改質リグニンで変性した変性フェノール樹脂はノボラック型フェノール樹脂であり、必要に応じて硬化剤と混合して加熱することによって、硬化させることができる。この硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミンを代表例として挙げることができるが、その他、イミダゾール等のアミン類や、多官能のエポキシ樹脂、レゾール型フェノール樹脂などを用いることができるものであり、これらは1種を単独で使用する他、複数種を併用することもできる。また硬化剤の配合量は用途などに応じて任意に設定される。
【0047】
そして本発明のリグニン変性フェノール樹脂に硬化剤を配合したフェノール樹脂組成物は、例えば接着剤などとして使用することができる。またリグニン変性フェノール樹脂に硬化剤の他、各種の添加剤を配合して混合あるいは混錬することによって、各種の用途に使用するフェノール樹脂組成物を得ることができる。添加剤としては、木粉、パルプ、繊維等の充填剤(フィラー)、可塑剤、安定剤、着色剤、離型剤、滑剤など任意のものを用途に応じて配合することができる。例えばこのフェノール樹脂組成物を成形材料として用いて、トランスファー成形や圧縮成形などの方法で成形品を成形することができるものであり、電気部品、自動車部品、建築材料、日用品など各種の分野で使用することができる。
【0048】
また本発明において、上記のようして得たリグニン変性フェノール樹脂を、鋳造の分野において鋳型を製造する際のバインダーとして使用することができる。例えば、リグニン変性フェノール樹脂を珪砂等の耐火骨材と混錬し、この混錬物を高温に熱された型に充填し、型による加熱でフェノール樹脂を硬化させた後、型から脱型することによって、耐火骨材をフェノール樹脂バインダーで結合して造型された鋳型を得ることができる。リグニン変性フェノール樹脂を耐火骨材と混錬するにあたっては、硬化剤やその他必要に応じて各種の添加剤を添加するようにしてもよい。
【0049】
あるいはフェノール樹脂で耐火骨材の表面を被覆することによって、フェノール樹脂からなる固体のバインダー層を耐火骨材の表面に形成したレジンコーテッドサンド(RCS)を調製することができる。
【0050】
レジンコーテッドサンドの流動性を良くするために、バインダー層に滑剤が含有されるようにしてもよい。滑剤としては、パラフィンワックスやカルナバワックス等の脂肪族炭化水素系滑剤、高級脂肪族系アルコール、エチレンビスステアリン酸アマイドやステアリン酸アマイド等の脂肪族アマイド系滑剤、金属石けん系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、複合滑剤などを用いることができるが、なかでも金属石けん系滑剤が好ましい。金属石けん系滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどや、これらを複数種組み合わせたものを用いることができる。
【0051】
耐火骨材の表面にフェノール樹脂からなる固体のバインダー層を被覆してレジンコーテッドサンドを調製する方法としては、ホットコート法、コールドコート法、セミホットコート法、粉末溶剤法などがある。
【0052】
ホットコート法は、110~180℃に加熱した耐火骨材に固形のフェノール樹脂を混合し、耐火骨材による加熱で固形のフェノール樹脂等を溶融させることによって、溶融したフェノール樹脂で耐火骨材の表面を濡らして被覆させ、この後、この混合を保持したまま冷却することによって、粒状でさらさらしたレジンコーテッドサンドを得る方法である。あるいは、110~180℃に加熱した耐火骨材に、水などの溶剤にフェノール樹脂等を溶解又は分散させて混合し、溶剤を揮散させることによってレジンコーテッドサンドを得ることもできる。
【0053】
コールドコート法は、フェノール樹脂を水やメタノールなどの溶剤に分散乃至溶解して液状になし、これを耐火骨材に添加して混合し、溶剤を揮発させることによって、レジンコーテッドサンドを得る方法である。
【0054】
セミホットコート法は、上記の溶剤にフェノール樹脂を分散乃至溶解した液を、50~90℃に加熱した耐火骨材に添加して混合し、溶剤を揮発させることによってレジンコーテッドサンドを得る方法である。
【0055】
粉末溶剤法は、固形のフェノール樹脂を粉砕し、この粉砕物を耐火骨材の粒子に添加してさらに水やメタノールなどの溶剤を添加し、これを混合して溶剤を揮発させることによって、レジンコーテッドサンドを得る方法である。
【0056】
以上のいずれの方法においても、耐火骨材の表面を常温(30℃)で固形のコーティグ層を被覆した、粒状でさらさらして流動性のあるレジンコーテッドサンドを得ることができるが、作業性などの点においてホットコート法が好ましい。また上記のように耐火骨材にフェノール樹脂を混合する際に、必要に応じて硬化剤や、耐火骨材とフェノール樹脂とを親和させるためのシランカップリング剤など各種のカップリング剤や、また黒鉛等の炭素質材料などを配合することもできる。
【0057】
このように調製したレジンコーテッドサンドを用いて鋳型を製造するにあたっては、上記と同様の方法で、すなわちレジンコーテッドサンドを高温に熱された型に充填し、型による加熱で耐火骨材のバインダー層のフェノール樹脂を溶融・硬化させた後、型から脱型することによって、耐火骨材をフェノール樹脂バインダーで結合して造型された鋳型を得ることができる。
【0058】
またレジンコーテッドサンドは粒状であるので、型にレジンコーテッドサンドを充填した状態でレジンコーテッドサンドの粒子間には気体が通過する空隙が形成される。そこで、型にレジンコーテッドサンドを充填した後、型内に過熱蒸気などの水蒸気を吹き込むことによって、型内のレジンコーテッドサンドを加熱することができる。
【0059】
すなわち、型に吹き込み口と排気口を形成しておき、吹き込み口から型内に水蒸気を吹き込むと、水蒸気は型内に充填されたレジンコーテッドサンドの間を通過して排気口から排出される。そしてこの際に、レジンコーテッドサンドの表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気から潜熱がレジンコーテッドサンドに奪われて水蒸気は凝縮するが、水蒸気は高い潜熱と顕熱を有するので、水蒸気が凝縮する際に伝熱されるこの潜熱でレジンコーテッドサンドの温度は100℃付近にまで急速に上昇する。このように水蒸気の潜熱の伝熱によってレジンコーテッドサンドが100℃付近にまで加熱される時間は、水蒸気の温度や吹き込み流量、型内のレジンコーテッドサンドの充填量などで変動するが、通常、数秒~数十秒程度の短時間である。このように、極めて短い時間で型内のレジンコーテッドサンドを加熱してフェノール樹脂を硬化させ、短い加熱時間で鋳型を成形することが可能になるものである。
【実施例0060】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0061】
(改質リグニンの製造例)
数平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG)230質量部と、酸触媒としての硫酸0.69質量部(PEG100質量部に対して0.3質量部)を、反応容器に入れて撹拌した。次いで、絶乾スギ木粉46質量部を反応容器に投入し、常圧下140℃に昇温して、撹拌しながら90分反応させた。
【0062】
次いで、反応容器を冷却し、温度が40℃以下になったことを確認した後、水酸化ナトリウム(0.2mol/L)を280質量部投入して、30分間撹拌した。次いで、得られた固形成分(パルプ)をフィルタープレスにより除去し、溶液成分を回収した。
【0063】
次いで、得られた溶液成分に硫酸を添加し、pHを2.0に調整した。これにより、PEGで改質したリグニンの懸濁液を得た。その後、この改質リグニンを遠心分離により回収した。
【0064】
(実施例1)
反応容器にフェノール120質量部、92%パラホルムアルデヒド20.4質量部、上記製造例で得た改質リグニン21.3質量部、反応触媒として酢酸亜鉛0.24質量部、水6.4質量部を仕込み、加熱して60分をかけて沸騰させた。
【0065】
この沸騰を維持して100分間反応させた後、90分をかけて常圧で170℃まで加熱して蒸留することにより脱液し、さらに常圧から93.3kPa減圧して、170℃で30分をかけて減圧蒸留を行なうことにより未反応のフェノールを脱液した。そして溶融状態の反応物を反応容器から専用容器に払い出し、室温になるまで放冷して固化させた。
【0066】
このように固体化したものを粉砕することによって、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂104質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂は、104質量部のフェノール樹脂が21.3質量部の改質リグニンで変性されているので、リグニン変性率は約20%である。
【0067】
(実施例2)
改質リグニンの仕込み量を35.5質量部に変更した他は、実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂118質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約30%である。
【0068】
(実施例3)
改質リグニンの仕込み量を55.0質量部に変更した他は、実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂140質量部を得た。またこの改質リグニンで変性したフェノール樹脂のリグニン変性率は約40%である。
【0069】
(実施例4)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酢酸マンガン0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂105質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0070】
(実施例5)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酢酸カルシウム0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0071】
(実施例6)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酢酸鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂105質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0072】
(実施例7)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにホウ酸亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂90質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0073】
(実施例8)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにホウ酸マンガン0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂90質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0074】
(実施例9)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにホウ酸ニッケル0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0075】
(実施例10)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにナフテン酸亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂90質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0076】
(実施例11)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにナフテン酸鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂90質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0077】
(実施例12)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにナフテン酸コバルト0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂90質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0078】
(実施例13)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりにオクチル酸亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0079】
(実施例14)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに安息香酸亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0080】
(実施例15)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂102質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0081】
(実施例16)
反応触媒として酢酸亜鉛の代わりに酸化鉛0.24質量部を用い、他は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂105質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0082】
(比較例1)
反応容器にフェノール330質量部、92%パラホルムアルデヒド69質量部、上記製造例で得た改質リグニン38質量部、反応触媒としてシュウ酸3.8質量部、水22質量部を仕込み、加熱して60分をかけて沸騰させた。
【0083】
この沸騰を維持して50分間反応させた後、反応触媒としてシュウ酸1.0質量部を追加してさらに70分間反応させた。後は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂314質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約10%である。
【0084】
(比較例2)
反応容器にフェノール320質量部、92%パラホルムアルデヒド64質量部、上記製造例で得た改質リグニン64質量部、反応触媒としてシュウ酸3.8質量部、水20質量部を仕込み、加熱して60分をかけて沸騰させた。
【0085】
この沸騰を維持して50分間反応させた後、反応触媒としてシュウ酸1.0質量部を追加してさらに70分間反応させた。後は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂323質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約20%である。
【0086】
(比較例3)
反応容器にフェノール300質量部、92%パラホルムアルデヒド58質量部、上記製造例で得た改質リグニン99質量部、反応触媒としてシュウ酸3.8質量部、水22質量部を仕込み、加熱して60分をかけて沸騰させた。
【0087】
この沸騰を維持して50分間反応させた後、反応触媒としてシュウ酸1.0質量部を追加してさらに70分間反応させた。後は実施例1と同様にして、改質リグニンで変性されたノボラック型フェノール樹脂330質量部を得た。この改質リグニン変性フェノール樹脂のリグニン変性率は約30%である。
【0088】
上記の実施例1~16、比較例1~3で得たリグニン変性フェノール樹脂について、分子量、軟化点、ゲル化温度を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
分子量の測定は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製「HLC-8400GPC)を用いて行ない、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)をそれぞれポリスチレン換算で求めた。軟化点及びゲル化時間はJIS K 6910に準拠して測定し、ゲル化時間は150℃でのゲル化の時間を求めた。尚、ゲル化時間は、各実施例や比較例の樹脂10gに硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン1.5gを混合したものについて測定を行なった。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1にみられるように、反応触媒として酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛を用いた各実施例のリグニン変性フェノール樹脂は、反応触媒として酸性触媒であるシュウ酸を用いた比較例1~3のリグニン変性フェノール樹脂よりも、ゲル化時間が大幅に短くなっている。従って、反応触媒として酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉛を用いることによって、硬化速度の速いリグニン変性フェノール樹脂を製造できることが確認された。
【0092】
次に、上記のようにして得た実施例1~16及び比較例1~3のリグニン変性フェノール樹脂を用い、この各リグニン変性フェノール樹脂20質量部に硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを2質量部配合してクラッシュミキサーで粉砕混合し、これにさらに充填剤として伊藤黒鉛工業(株)製黒鉛「X-100」を80質量部配合することによって、実施例17~32、比較例4~6のフェノール樹脂組成物(成形材料)を調製した。
【0093】
そして実施例17~32、比較例4~6の各成形材料を成形型に充填し、温度150℃、圧力9.8MPaの条件で加熱加圧して、φ50×10mmの試験片を成形した。このように成形を行なう際に加熱加圧の時間を変え、得られた試験片の状態を観察する成形試験を行なった。成形試験の結果を、脱型の際に欠けのない良好なものを「〇」、端の一部が欠けたものを「△」、成形型の上下型に貼り付いて中央から破断したものを「×」として評価し、表2に示す。尚、表2において「×」より短い時間についての試験は特に必要ないので評価の表示は省略した。
【0094】
【表2】
【0095】
表2にみられるように、各実施例のものは比較例よりも短い時間で成形をすることができるものであり、特に同じリグニン変性率のもので比較するとその傾向が明らかである。よって各実施例のリグニン変性フェノール樹脂は硬化速度が速く短時間で成形が可能になることが確認された。
【0096】
次に、実施例17~32、比較例4~6の各成形材料をヒーターで加熱制御した成形型に充填して成形し、100×100×7mmの成形物を成形した。このときの成形は、成形材料投入時の型温度100℃、圧力9.8MPaで加熱加圧を開始し、型温110℃でガス抜きをしながら160℃に型温が達した時点でヒーターによる加熱を停止し、10分間硬化を進め、その後型温80℃まで冷却して成形型から成形物を取り出す、という条件で行なった。
【0097】
そして得られた成形物から10×100×5mmの試験片を切り出し、曲げ強さ、曲げ弾性率、曲げひずみを測定した。測定は(株)島津製作所製オートグラフ「AGS-10KNX」を用い、JIS K 6911(5.17)に準じて、支点間距離80mm、クロスヘッド速度2.5mm/minの条件で行なった。結果を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3にみられるように、各実施例のものは比較例よりも曲げひずみが小さくなっている傾向がみられる他は、実施例と比較例との間に大きな差はみられないものであり、実施例のものは機械的特性において比較例のものと同等に実用性のあることが確認された。
【0100】
次に、上記のようにして得た実施例1~16及び比較例1~3のリグニン変性フェノール樹脂を用いて、レジンコーテッドサンドを製造した。すなわち、145℃に加熱したACI-G珪砂10kgをワールミキサーに入れ、実施例1~16、比較例1~3で得たいずれかのリグニン変性フェノール樹脂200gを投入し、50秒間混錬した。次いで水150gにヘキサメチレンテトラミン30gを溶解したヘキサメチレンテトラミン溶液を投入し(樹脂量に対して硬化剤量15質量%)、砂粒が崩壊するまで混錬した。さらに滑剤としてステアリン酸カルシウム10gを投入し、30分間混錬した後にワールミキサーより排出することによって、実施例33~48、比較例7~9のレジンコーテッドサンドを得た。
【0101】
そしてこの実施例33~48、比較例7~9のレジンコーテッドサンドを用い、JIS-K-6910(1999年)に準じて、型にレジンコーテッドサンドを充填して250℃×60秒の条件で焼成することにより、10×10×60mmの試験片を作製し、この試験片を室温まで放冷した後に、JACT試験法(SM-1)に準じて常温時の曲げ強さを測定した。
【0102】
またJACT試験法(SM-3)に準じて、型にレジンコーテッドサンドを充填して250℃×30秒の条件で焼成することで180×40×5mmの試験片を作製し、型から離型した直後の試験片を支持台に乗せて両端部を支え、10秒後に試験片の中央部に500gの荷重を掛けて3分間放置し、試験片中央部のベンド量(ひずみ量)を測定するベンド試験を行なった。ベンド試験はたわみ試験ともいわれるが、成形した鋳型の硬化性や柔軟性を評価する試験であり、ベンド量が小さいほど硬化性が良好であること、つまり硬化速度が速いことを示す。
【0103】
さらにJIS K 6910(1999年)に準じて、型にレジンコーテッドサンドを充填して250℃×60秒の条件で焼成することで10×10×60mmの試験片を作製し、型から離型して10秒後の試験片についてJACT試験法(SM-1)に準じて温時の曲げ強さを測定した。
【0104】
上記のようにして測定した常温時の曲げ強さ、ベンド量、温時の曲げ強さ(温時強度)の結果を表4に示す。また上記のようにレジンコーテッドサンドを加熱加圧して試験片を作製する際に発生する臭気を嗅ぐ官能試験を行ない、その結果を表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
表4にみられるように、比較例のものはベンド量が大きいかあるいは荷重に耐えきれず破断するのに対して各実施例のベンド量は小さく、各実施例のものは硬化性が良好であって硬化速度が速いことが確認される。また型から取り出して10秒後の温時強度についても、リグニン変性率を考慮すると、各実施例のものは比較例よりも曲げ強さ高いものであり、各実施例のものは硬化性が良好であって硬化速度が速いことが確認される。
【0107】
次に、図2に示す造形型1を用い、この型1のキャビティ2に実施例33~48、比較例7~9のレジンコーテッドサンドを充填して鋳型を造形する試験を行なった。図2の型1のキャビティ2の寸法は、中央キャビティ部2aがφ40×40mm、上方キャビティ部2bがφ30×60mm、側方キャビティ部2cがφ30×35mmである。そして180℃に加熱した型1のキャビティ2内に上部キャビティ部2bからレジンコーテッドサンドをゲージ圧0.1MPaの空気圧で吹き込んで充填し、レジンコーテッドサンドを型1の高温で加熱することによって焼成し、鋳型を成形した。
【0108】
このとき、レジンコーテッドサンドの充填完了から鋳型の取り出しまでの時間(焼成時間)を変えて、成形して得られた鋳型の状態を検査した。欠損のない状態で成形された鋳型の質量は約140gであり、得られた鋳型の質量を測定して、95~100%の場合は造形が良好であり「〇」、70~95%の場合は一部に欠損が発生しており「△」、70%以下の場合は造形不可であり「×」と評価した。結果を表5~6に示す。尚、表5~6において「×」より短い時間、「〇」より長い時間についての試験は特に必要ないので評価の表示は省略した。
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
表5~6にみられるように、各実施例のものは比較例よりも短い焼成時間で鋳型の造形をすることができるものであり、特に同じリグニン変性率のもので比較するとその傾向が顕著である。よって実施例のレジンコーテッドサンドのリグニン変性フェノール樹脂は硬化速度が速く短時間で鋳型の成形が可能になることが確認された。
【0112】
次に図2に示す型1のキャビティ2に実施例33~48、比較例7~9のレジンコーテッドサンドを充填し、キャビティ2に水蒸気を吹き込んで加熱することによって鋳型を造形する試験を行なった。まず180℃に加熱した型1のキャビティ2にレジンコーテッドサンドをゲージ圧0.1MPaの空気圧で吹き込んで充填し、キャビティ1の上方キャビティ部2bの開口を塞ぐプレートの供給口(図示省略)からキャビティ2内に300℃に過熱した水蒸気をゲージ圧力0.1MPaの蒸気圧、60L/hの吹き込み量の条件で吹き込んだ。キャビティ2内に吹き込んだこの水蒸気は型1に設けた通気孔(図示省略)から排気されるようになっている。このようにキャビティ2内のレジンコーテッドサンドを水蒸気で加熱して鋳型を成形した。
【0113】
このとき、水蒸気の吹き込み時間を変えて、成形して得られた鋳型の状態を検査した。欠損のない状態で成形された鋳型の質量は約140gであり、得られた鋳型の質量を測定して、95~100%の場合は造形が良好「〇」、70~95%の場合は一部に欠損が発生「△」、70%以下の場合は造形不可「×」と評価した。結果を表7~8に示す。尚、表7~8において「×」より短い時間、「〇」より長い時間について試験が必要ないものは評価の表示を省略した。
【0114】
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
表7~8にみられるように、各実施例のものは水蒸気の吹き込みが比較例よりも短い時間で鋳型の造形をすることができるものであり、特に同じリグニン変性率のもので比較するとその傾向が顕著である。よって実施例のレジンコーテッドサンドのリグニン変性フェノール樹脂は硬化速度が速く短時間で鋳型の成形が可能になることが確認された。
図1
図2