(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107766
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】被覆材の固定構造及び被覆材固定具
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240802BHJP
E02B 3/14 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
E02D17/20 103A
E02D17/20 103B
E02B3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011862
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598022956
【氏名又は名称】株式会社大同機械
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】小林 竜太
(72)【発明者】
【氏名】地引 千紘
(72)【発明者】
【氏名】萩森 大佑
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸伯
(72)【発明者】
【氏名】松山 典弘
【テーマコード(参考)】
2D044
2D118
【Fターム(参考)】
2D044DB02
2D044DB07
2D044DB08
2D118DA01
2D118GA15
2D118GA22
2D118GA37
(57)【要約】
【課題】本発明は、展張された被覆材30を法面Aに埋設された排水構造物70を利用して簡易な手段によって法面Aに固定できる被覆材30の固定構造Bを提供する。
【解決手段】被覆材30の固定構造Bは、法面Aに展張された被覆材30の固定構造である。被覆材30の固定構造Bは、法面Aの上部及び/または下部に埋設された排水構造物70に埋め込まれる埋込部82と、埋込部82の上面に突出する保持部84と、を備える被覆材固定具80と、保持部84に保持される固定ロッド40と、固定ロッド40に一端が固定される被覆材30と、を備える。排水構造物70は、法面Aの横方向Xに沿って延びるように配置されて少なくとも溝を形成し、被覆材固定具80は、排水構造物70の両側面(71a,72a)に接触する2つの側部(82a,82b)と、2つの側部(82a,82b)同士を連結する連結部(82c,82d)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に展張された被覆材の固定構造であって、
前記法面の上部及び/または下部に埋設された排水構造物に埋め込まれる埋込部と、前記埋込部の上面に突出する保持部と、を備える被覆材固定具と、
前記保持部に保持される固定ロッドと、
前記固定ロッドに一端が固定される前記被覆材と、
を備え、
前記排水構造物は、前記法面の横方向に沿って延びるように配置されて少なくとも溝を形成し、
前記被覆材固定具は、前記排水構造物の両側面に接触する2つの側部と、前記2つの側部同士を連結する連結部と、を備えることを特徴とする、被覆材の固定構造。
【請求項2】
法面に展張された被覆材の一端が固定される固定ロッドを保持する保持部と、
前記保持部が固定された埋込部と、
を備え、
前記埋込部は、法面の上部及び/または下部に埋設される排水構造物に埋め込まれて当該排水構造物の両側面に接触する2つの側部と、前記2つの側部同士を連結する連結部と、を備えることを特徴とする、被覆材固定具。
【請求項3】
請求項2に記載の被覆材固定具において、
前記連結部は、前記2つの側部の上端同士を連結する上部連結部と、前記2つの側部の下端同士を連結する下部連結部と、を含み、
前記埋込部は、前記2つの側部と前記上部連結部と前記下部連結部とで略四角形の枠体を構成し、
前記保持部は、前記上部連結部の上面における法面に近い位置から突出することを特徴とする、被覆材固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面に展張された被覆材の固定構造及び被覆材固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川の堤防や道路端等の法面を保護するための被覆材としていわゆるブルーシート等の合成樹脂製の被覆材で法面を覆う工事が行われている。
【0003】
このような法面の工事は、傾斜面における作業となるため、被覆材を持ち運んだり、展張したりするのは容易ではない。そのため、巻回された被覆材を搭載する移動可能な台車からロープで被覆材を法面の上へ引き上げて展張する技術が知られている(特許文献1,2)。そして、ロープで被覆材を引き上げるために、被覆材の先端に棒状の部材を挟み込んで固定する押え金具をロープと連結する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59-112846号公報
【特許文献2】特開平9-59991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、合成樹脂製の被覆材を展張された状態で法面に固定する手段は、複数の土嚢を被覆材上に置くことが一般的であり、足場の安定しない場所で重い土嚢を置く作業は作業効率が低い。
【0006】
そこで、本発明は、法面に埋設された排水構造物を利用して展張された被覆材を簡易な手段によって法面に固定できる被覆材の固定構造及び被覆材固定具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[1]本発明に係る被覆材の固定構造の一態様は、
法面に展張された被覆材の固定構造であって、
前記法面の上部及び/または下部に埋設された排水構造物に埋め込まれる埋込部と、前記埋込部の上面に突出する保持部と、を備える被覆材固定具と、
前記保持部に保持される固定ロッドと、
前記固定ロッドに一端が固定される前記被覆材と、
を備え、
前記排水構造物は、前記法面の横方向に沿って延びるように配置されて少なくとも溝を形成し、
前記被覆材固定具は、前記排水構造物の両側面に接触する2つの側部と、前記2つの側部同士を連結する連結部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
[2]本発明に係る被覆材固定具の一態様は、
法面に展張された被覆材の一端が固定される固定ロッドを保持する保持部と、
前記保持部が固定された埋込部と、
を備え、
前記埋込部は、法面の上部及び/または下部に埋設される排水構造物に埋め込まれて当該排水構造物の両側面に接触する2つの側部と、前記2つの側部同士を連結する連結部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
[3]上記被覆材固定具の一態様において、
前記連結部は、前記2つの側部の上端同士を連結する上部連結部と、前記2つの側部の下端同士を連結する下部連結部と、を含み、
前記埋込部は、前記2つの側部と前記上部連結部と前記下部連結部とで略四角形の枠体を構成し、
前記保持部は、前記上部連結部の上面における法面に近い位置から突出することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る被覆材の固定構造及び被覆材固定具によれば、法面に埋設された排水構造物を利用して展張された被覆材を簡易な手段によって法面に固定できるので、被覆材の固定作業が効率的である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】被覆材の展張作業を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る被覆材の固定構造を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】本実施形態に係る被覆材固定具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
1.被覆材の展張作業
図1を用いて、被覆材30の展張作業について説明する。
図1は、被覆材30の展張作業を模式的に示す斜視図である。
【0015】
図1に示すように、被覆材30を法面Aに展張する被覆材展張装置10を法面Aの展張位置に配置する。被覆材展張装置10は、少なくとも法面Aの上部に固定される2つの滑車62と、法面Aの下部に配置されて2つの滑車62を介して2本のロープ20を巻き上げる巻上機(11,12)と、法面Aの下部に配置されて巻回された被覆材30を設置する操出部14と、操出部14と2つの滑車62の間で2本のロープ20のそれぞれに固定される一対の取付具50と、を備える。
【0016】
被覆材30は、法面Aを覆って法面Aを保護することができる。被覆材30は、例えば施工対象である法面Aの縦方向Yの長さよりも長く、巻芯に巻回された状態で施工現場に運び込まれる。巻回状態の被覆材30(以下、「巻回被覆材32」)は、法面Aの下部に配置された操出部14に回転可能に支持される。巻回被覆材32は、例えば金属製の円筒ロッドの周りに巻き回される。巻回被覆材32の先端34は、被覆材30の幅よりも僅かに長い固定ロッド40に固定される。巻回被覆材32の中心の円筒ロッドは、固定ロッド40と同じ材質及び形状を有するものであってもよい。
【0017】
被覆材30は、シート状またはネット状の形態であることができ、施工性を考慮して柔軟に変形可能であることが好ましい。また、被覆材30の材質は限定されないが、天然素材、合成樹脂及び金属などを採用できる。天然素材としては、例えば綿、麻、絹などの天
然繊維を用いることができる。合成樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(PEs)、塩化ビニル(PVC)などを用いることができる。金属としては、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅などを用いることができる。また、被覆材30は、異なる材質を組み合わせて複合化してもよく、例えば、法面Aを長期間にわたって保護するために耐候性に優れた材質を用いることが好ましく、例えば被覆材30の表面を耐候性に優れた材質でコーティングしてもよい。被覆材30が不透水性のシート状、例えば、主にポリエチレンを用いたいわゆるブルーシートであれば、比較的安価で汎用性に優れると共に法面Aを雨水から保護することができる。また、被覆材30が透水性のシート状、例えば長繊維不織布であれば、法面Aを補強すると共に排水性が要求される法面Aに用いることができる。また、被覆材30がネット状であれば、例えば、軟弱地盤表層処理や落石防止ネットなどに利用できる。
【0018】
法面Aは、傾斜面であり、例えば道路や住宅造成での盛土や切土によって造られた人工傾斜面や山などの自然傾斜面を含み、また例えば河川堤防や護岸の側面を含む。法面Aは、被覆材30によって覆われて保護されて雨水の浸入や法面Aの損壊が防止される。法面Aの上部は、被覆材30で覆われる部分より上方にある部分であり、作業者が作業しやすい傾斜が少ない平坦な面を有する部分が好ましい。法面Aの下部は、被覆材30で覆われる部分より下方にある部分であり、被覆材展張装置10を設置可能な平坦な面を有することが好ましい。法面Aの上部及び/または下部には、排水構造物70が埋設される。法面Aの上部及び下部には一般にU字溝などの排水構造物70が施工される現場が多いため、当該排水構造物70を利用すればよい。法面Aの上部にある排水構造物70は、法面Aへ雨水が流れ込むことを防止し、法面Aの下部にある排水構造物70は、法面Aを流れてきた雨水を排水する。被覆材展張装置10は、法面Aの下部を法面Aの横方向Xに沿って移動可能であることが好ましい。
【0019】
2つの滑車62は、法面Aの上部に立設された上部固定台60の両端に固定される。上部固定台60は、被覆材30を展張させる際にロープ20の巻上力により法面A側に倒れたり移動して落下したりしないように法面Aの上部に確実に固定される。上部固定台60は、被覆材30を展張した後、次に被覆材30を展張する隣接する展張位置へ移動可能な程度に軽量であることが好ましい。上部固定台60は、例えば、排水構造物70に固定されてもよく、また、複数の被覆材30を展張する予定の範囲にわたって法面Aの横方向Xに沿って連続して延びてもよい。横方向Xに長い上部固定台60の場合には、2つの滑車62を含む一部だけを上部固定台60から一旦取り外して隣接する展張位置で上部固定台60に移動して取り付けてもよい。滑車62には、法面Aの下部にある巻上機との間でロープ20が掛け回される。
【0020】
巻上機は、法面Aの下部に配置された金属フレーム構造の機台16上に固定される。機台16は、図示しない車輪を有し、法面Aの下部を横方向Xに沿って移動可能である。巻上機は、2本のロープ20の一端を巻き上げる第1巻上機11と、2本のロープ20の他端を巻き上げる第2巻上機12と、を含む。
図1の例では第1巻上機11と第2巻上機12を各2機設けたが、左右の巻上用のプーリーを連結すれば各1機でもよい。第1巻上機11及び第2巻上機12は、滑車62から延びるロープ20を手動式または原動機の動力により巻き上げることができる。第1巻上機11は、2本のロープ20を巻き上げることで一対の取付具50を法面Aの上部に移動させることができる。第2巻上機12は、2本のロープ20を巻き上げることで一対の取付具50を法面Aの下部へ移動させることができる。
【0021】
操出部14は、機台16に設けられ、巻回被覆材32を回転可能に支持する。被覆材30の先端34が第1巻上機11の駆動により法面Aの上方へ移動すると、操出部14は巻回被覆材32を軸周りに回転させながら徐々に被覆材30を繰り出す。操出部14は、被
覆材30が巻き回された例えば金属製の円筒ロッドの両端を回転可能に支持するように構成される。また、操出部14は、特許文献1のように巻回被覆材32を2本のフリーロールの上に搭載するように構成してもよい。被覆材30が展張された後は、被覆材30の後端35(
図2)が巻回被覆材32の円筒ロッドに固定された状態で操出部14に残される。
【0022】
固定ロッド40は、被覆材30の先端34が固定される例えば金属製の棒状部材である。固定ロッド40は、例えば建築現場で用いられる単管パイプであってもよい。単管パイプであれば施工現場における汎用性に優れるからである。固定ロッド40は被覆材30の幅と同じか僅かに長く、被覆材30に皺や捩れが生じないように先端34の全幅が固定ロッド40の長さ方向に張った状態で固定される。固定ロッド40に対する被覆材30の先端34の固定は、少なくとも法面Aの上部へ引き上げられる際に固定ロッド40との一体性を維持できる程度に確実に行われる。被覆材30の先端34は固定ロッド40の周りに巻き付けられた状態でクランプする、例えば市販の単管クリップなどが採用できる。固定ロッド40は、被覆材30の先端34を法面Aの上部まで引き上げられた後、後述する被覆材の固定構造Bで説明するように、被覆材30の先端34を固定したまま法面Aの上部に固定される。そして、法面Aの保護期間が終わったら、固定ロッド40を法面Aから取り外し、展張作業とは逆の工程で展張されていた被覆材30を巻回被覆材32に巻き取ることができる。
【0023】
また、
図2の法面Aの下部の構成に示すように、被覆材30が展張された後の巻回被覆材32から展張された被覆材30を後端35で切断して、先端34の固定に用いた固定ロッド40とは別の固定ロッド40に後端35を固定してもよい。被覆材30の先端34及び後端35は、固定ロッド40に巻き付けて固定してもよいし、被覆材30を折り返して固定ロッド40を挟んだ状態で固定してもよい。
【0024】
固定ロッド40の長手方向の両端は開口し当該長手方向に延びる孔を有する。一対の取付具50は、固定ロッド40の両端の孔に差し込むことで着脱可能に取り付けられる。一対の取付具50は、固定ロッド40と一体化して一本の棒状部材となる。一対の取付具50が固定ロッド40を延長させた形態となることで、固定ロッド40の途中にロープを取り付けた場合より安定して被覆材を引き上げることができる。取付具50は、固定ロッド40を安定してロープ20で引き上げることができれば他の形態であってもよい。
【0025】
2.被覆材の固定構造
図2及び
図3を用いて本実施形態に係る被覆材30の固定構造Bについて詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る被覆材30の固定構造Bを模式的に示す縦断面図であり、
図3は、本実施形態に係る被覆材固定具80の斜視図である。
【0026】
図2及び
図3に示すように、被覆材30の固定構造Bは、法面Aに展張された被覆材30の固定構造Bである。固定構造Bは、法面Aの上部及び/または下部に埋設された排水構造物70に埋め込まれる埋込部82と、埋込部82の上面に突出する保持部84と、を備える被覆材固定具80と、保持部84に保持される固定ロッド40と、固定ロッド40に一端(先端34及び/または後端35)が固定される被覆材30と、を備える。「埋め込まれる」とは、埋込部82の全体が排水構造物70内に収められるだけでなく、埋込部82の少なくとも一部が排水構造物70内に配置されていることも含む。本実施形態では、法面Aの上部及び下部で被覆材30を固定する構造について説明するが、いずれか一方だけに当該固定構造を採用することもできる。被覆材30の先端34及び後端35は、両端が2本の固定ロッド40に固定された状態における被覆材30の先端部分及び後端部分という程度の意味であって、被覆材30の両端の縁のみを指すものではない。
【0027】
排水構造物70は、法面Aの横方向Xに沿って延びるように配置されて少なくとも溝を形成する。排水構造物70は、底壁73と、底壁73の両端部から上方に延びる板状の側壁71,72とを有する。排水構造物70は、例えば水路を形成する溝であり、長手方向に見た端面が例えば略U字状である。
図2では排水構造物70がU字溝である例について説明するが、U字溝に限定されるものではない。排水構造物70は、水路の上方に置く蓋を有していてもよく、その場合には被覆材固定具80を避けて蓋を置くことが好ましい。排水構造物70は、側壁71,72の側部(82a,82b)が接触できる側面71a,72aを有する溝を地表に形成できる構造物であればよい。上端を現して地面に埋設される。当該溝の内側を形成する側壁71の側面71aと側壁72の側面72aは対向する。排水構造物70は、例えばプレキャスト鉄筋コンクリート製または合成樹脂製である。
【0028】
被覆材固定具80は、排水構造物70の両側面71a,72aに接触する2つの側部(82a,82b)と、2つの側部(82a,82b)同士を連結する連結部(82c,82d)と、を備える。被覆材固定具80は、排水構造物70内に収められた状態で被覆材30が風で煽られても抜けない程度の反力が得られるように排水構造物70と接触できればよい。2つの側部(82a,82b)と側面71a及び側面72aとの間には、被覆材固定具80の設置及び取り外しやすさのためにわずかな隙間を有してもよい。
【0029】
図2の上側には法面Aの上部における固定構造Bの例を示し、
図2の下側には法面Aの下部における固定構造Bの例を示す。法面Aの上部及び下部では、排水構造物70内に埋込部82が配置された被覆材固定具80の保持部84から被覆材30が法面Aに向かって延びている。保持部84には固定ロッド40がクランプされて保持される。固定ロッド40には被覆材30の先端34が巻きつけられて固定される。なお、被覆材固定具80の詳細については後述する。
【0030】
複数の例えば2つの被覆材固定具80の埋込部82が排水構造物70の中に間隔を空けて埋め込まれた状態で、保持部84に固定ロッド40の両端付近を保持させると、2つの被覆材固定具80と固定ロッド40とが一体となる。排水構造物70内に配置された被覆材固定具80の保持部84に固定ロッド40を取り付けるだけで被覆材30を法面Aに対して固定できる。1本の固定ロッド40に対する被覆材固定具80の数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。保持部84は固定ロッド40を被覆材30の先端34(後端35)と共に挟み込んで固定することができる。被覆材固定具80は前側部82aと後側部82bが排水構造物70の両側面71a,72aに接触して法面A側への移動が確実に制限される。そのため、法面Aに展張された被覆材30が風などで移動しようとしても被覆材30の先端34または後端35が固定された固定ロッド40の移動が制限されることにより、所定の位置で被覆材30が展張された状態を維持できる。
【0031】
本実施形態に係る被覆材の固定構造Bによれば、法面Aに埋設された排水構造物70を利用して展張された被覆材30を簡易な手段によって法面Aに固定できるので、被覆材30の固定作業が効率的である。また、展張された被覆材30を撤去する際にも保持部84から固定ロッド40を取り外すだけでよく、被覆材固定具80も排水構造物70から上方へ引き抜くだけでよいので撤去作業が効率的である。さらに、従来の土嚢による固定であれば撤去時に土嚢を固定する杭の復旧も必要であるが、固定構造Bであれば杭を用いていないので原状回復が容易である。
【0032】
3.被覆材固定具
図2及び
図3に示すように、本実施形態に係る被覆材固定具80は、法面Aに展張された被覆材30の一端(34,35)が固定される固定ロッド40を保持する保持部84と、保持部84が固定された埋込部82と、を備える。
【0033】
埋込部82は、法面Aの上部または下部に埋設される排水構造物70に埋め込まれて当該排水構造物70の両側面(71a,72a)に接触する2つの側部(82a,82b)と、2つの側部(82a,82b)同士を連結する連結部(82c,82d)と、を備える。埋込部82は、排水構造物70内に埋め込まれることで風などによる被覆材30の移動を制限できればよく、
図2の例のように排水構造物70に全体が埋め込まれるものに限らず、一部だけが埋め込まれる形態であってもよい。埋込部82の材質は、排水構造物70内で変形しにくい材質であればよく、合成樹脂製、木質製、プレキャストコンクリート造、金属製のいずれであってもよい。例えば、法面Aの保護期間が長い場合には対向性に優れたプレキャストコンクリート造や金属製であることが好ましく、施工性を考慮するのであれば軽量な合成樹脂製や木質製が好ましい。
【0034】
連結部(82c,82d)は、例えば、2つの側部(82a,82b)の上端同士を連結する上部連結部82cと、2つの側部(82a,82b)の下端同士を連結する下部連結部82dと、を含む。2つの側部は、法面Aに近い方が前側部82aであり、法面Aから遠い方が後側部82bである。前側部82aと後側部82bは、排水構造物70内における埋込部82の前後の移動及び保持部84を中心とした回転移動を制限するように排水構造物70の側面71a,72aに接触できる。埋込部82は、例えば、2つの側部(82a,82b)と上部連結部82cと下部連結部82dとで略四角形の枠体を構成する。埋込部82が略四角形の枠体構造であれば、四辺で囲まれた空間は排水構造物70に流れる水を許容するため好ましい。連結部(82c,82d)は、前側部82aと後側部82bの変形を防止できれば一つでもよく、例えば、前側部82aと後側部82bだけで排水構造物70内に立てておくことができれば、底壁73がなくてもよい。
【0035】
保持部84は、上部連結部82cの上面における法面Aに近い位置から突出することが好ましい。保持部84が法面Aに近い位置にあれば、法面Aの方に被覆材30に引っ張られても後側部82bが側面72aを押す力の反力で埋込部82が排水構造物70から抜き出ることを防ぐことができる。保持部84は、被覆材30を巻き付けた状態で固定ロッド40を挟み込んでクランプする形態が好ましく、例えば市販の単管クランプであってもよい。保持部84は固定ロッド40を保持する部分が開閉可能であり、固定ロッド40を挟んだ状態でボルト締めすることで固定ロッド40を保持できる。保持部84の下面は上部連結部82cの上面に固定される。保持部84に少なくとも両端を保持された固定ロッド40は、被覆材固定具80とコ字状に一体化して排水構造物70に固定される。
【0036】
被覆材固定具80によれば、法面Aに埋設された排水構造物70を利用して簡易な手段によって展張された被覆材30を法面Aに固定できるので、被覆材30の固定作業が効率的である。また、法面Aの保護期間が終了した後は、被覆材固定具80を保持部84から取り外して被覆材30を法面Aから回収し、被覆材固定具80を排水構造物70から上方へ抜き出せば容易に撤去でき、効率よく作業することができる。
【0037】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0038】
10…被覆材展張装置、11…第1巻上機、12…第2巻上機、14…操出部、16…機台、20…ロープ、30…被覆材、32…巻回被覆材、34…先端、35…後端、40
…固定ロッド、50…取付具、60…上部固定台、62…滑車、70…排水構造物、71,72…側壁、71a,72a…側面、73…底壁、80…被覆材固定具、82…埋込部、82a…前側部、82b…後側部、82c…上部連結部、82d…下部連結部、84…保持部、A…法面、B…固定構造