(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107770
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】冷却シート、その製造方法、および、その使用方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20240802BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20240802BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H01L23/46 A
E04B1/76 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011866
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】只野 智史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 顕一
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】浅田 隆利
【テーマコード(参考)】
2E001
5F136
【Fターム(参考)】
2E001DD04
2E001GA24
2E001HD11
5F136BC07
5F136CC31
5F136FA01
5F136FA51
5F136FA55
5F136GA35
(57)【要約】
【課題】効率的な冷却を容易に実行可能な冷却シート等を提供する。
【解決手段】実施形態は、冷却対象物を冷却するための冷却シートであって、基板部と凸部とを備える。凸部は、冷却対象物を冷却する際に基板部において冷却対象物に対面する面に複数が隙間を介在して設けられている。基板部および複数の凸部は、ハイドロゲルを用いて形成されている。そして、冷却シートは、冷却対象物を冷却する際に複数の凸部の先端部分が冷却対象物に接触したときに、外部と、複数の凸部の間に介在する隙間との間が連通して構成されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象物を冷却するための冷却シートであって、
基板部と、
前記冷却対象物を冷却する際に前記基板部において前記冷却対象物に対面する面に複数が隙間を介在して設けられている凸部と
を備え、
前記基板部および前記複数の凸部は、ハイドロゲルを用いて形成され、
前記冷却対象物を冷却する際に前記複数の凸部の先端部分が前記冷却対象物に接触したときに、外部と、前記複数の凸部の間に介在する前記隙間との間が連通して構成されている、
冷却シート。
【請求項2】
前記基板部および前記複数の凸部は、前記ハイドロゲルとして、ポリアクリルアミドを含む、
請求項1に記載の冷却シート。
【請求項3】
前記複数の凸部は、前記基板部において前記冷却対象物に対面する面の面積のうち、60%以下の面に設けられている、
請求項1に記載の冷却シート。
【請求項4】
前記複数の凸部は、金属部材が内部に埋め込まれている、
請求項1に記載の冷却シート。
【請求項5】
前記基板部および前記複数の凸部は、吸湿性の塩を含む、
請求項1に記載の冷却シート。
【請求項6】
前記吸湿性の塩は、臭化リチウムと塩化カルシウムと塩化リチウムとの少なくとも1つである、
請求項5に記載の冷却シート。
【請求項7】
前記基板部および前記複数の凸部において、前記吸湿性の塩の含有割合は、10質量%以上50質量%以下である、
請求項5に記載の冷却シート。
【請求項8】
請求項2に記載の冷却シートの製造方法であって、
モノマーと架橋剤と重合開始剤とを含む未架橋溶液Lを調整する工程と、
前記未架橋溶液Lをテンプレートに流し込む工程と、
前記テンプレートに流し込まれた前記未架橋溶液Lに含まれる前記モノマーを重合させることによって、前記基板部および前記複数の凸部を構成するポリアクリルアミドを作製する工程と
を有し、
前記未架橋溶液Lは、前記モノマーとして、8質量%以上18質量%以下のアクリルアミドを含み、前記架橋剤として、0.00005質量%以上0.002質量%以下のメチレンビスアクリルアミドを含み、前記重合開始剤として、0.0002質量%以上0.0008質量%以下の2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、または、0.0005質量%以上0.002質量%以下の2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩を含む、
冷却シートの製造方法。
【請求項9】
前記基板部および前記複数の凸部を構成するポリアクリルアミドを、フリーズキャスティング法により作製する、
請求項8に記載の冷却シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の冷却シートの使用方法であって、
前記冷却対象物を冷却する際に、前記基板部および前記複数の凸部を構成するハイドロゲルに、冷却水を供給する、
冷却シートの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却シート、その製造方法、および、その使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、電動機、建材、太陽光パネル等の物体は、100℃前後の温度になる発熱体である。このような発熱体を効率的に冷却するための冷却方法が求められている。例えば、ファンを用いた強制空冷や、循環水による水冷が、冷却方法として知られている。しかし、上記の冷却方法では、導入コストが高く、大型化が容易でない。
【0003】
上記の他に、ハイドロゲル(含水高分子ゲル)を用いて冷却を行うことが提案されている。ハイドロゲルは、水を内部に含有するゲルである。ハイドロゲルを用いて発熱体などの冷却対象物を冷却するときには、冷却対象物の熱が、ハイドロゲルに吸収され、ハイドロゲルに含有する水を気化するための気化熱として利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6862208号
【特許文献2】特許第5504000号
【特許文献3】登実第3057457号
【特許文献4】特開2017-131272号公報
【特許文献5】特開2002-294891号公報
【特許文献6】特開2018-536728号公報
【特許文献7】特開2016-124955号公報
【特許文献8】特開2008-201811号公報
【特許文献9】特開2020-093761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来においてハイドロゲルを用いた冷却方法では、冷却性能が十分に持続されずに、効率的な冷却を実行することが容易でなかった。具体的には、冷却対象物にハイドロゲルを貼り付けたときには、ハイドロゲルにおいて貼り付け面とは反対側の面が気化面になる。ハイドロゲルの冷却性能の持続時間を長くするためには、ハイドロゲルの厚みを厚くする必要がある。このとき、ハイドロゲルにおいては、貼り付け面と気化面との間の距離が長くなるため、冷却を十分に実行することが困難になる場合がある。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、効率的な冷却を容易に実行可能な、冷却シート、その製造方法、および、その使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態は、冷却対象物を冷却するための冷却シートであって、基板部と凸部とを備える。凸部は、冷却対象物を冷却する際に基板部において冷却対象物に対面する面に複数が隙間を介在して設けられている。基板部および複数の凸部は、ハイドロゲルを用いて形成されている。そして、冷却シートは、冷却対象物を冷却する際に複数の凸部の先端部分が冷却対象物に接触したときに、外部と、複数の凸部の間に介在する隙間との間が連通して構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、効率的な冷却を容易に実行可能な、冷却シート、その製造方法、および、その使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、第1実施形態に係る冷却シート10を模式的に示す斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、第1実施形態において、冷却シート10を用いて冷却対象物50を冷却するときの様子を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る冷却シート10の製造方法を示すフロー図である。
【
図3A】
図3Aは、第1実施形態に係る冷却シート10の製造方法において、流し込み工程(ST20)の様子を模式的に示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、第1実施形態に係る冷却シート10の製造方法において、流し込み工程(ST20)の様子を模式的に示す断面図である。
【
図3C】
図3Cは、第1実施形態に係る冷却シート10の製造方法において、重合工程(ST30)の様子を模式的に示す断面図である。
【
図3D】
図3Dは、第1実施形態に係る冷却シート10の製造方法において、重合工程(ST30)の様子を模式的に示す断面図である。
【
図3E】
図3Eは、第1実施形態に係る冷却シート10をフリーズキャスティング法で作製したときの状態を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の変形例1-1において、冷却シート10を用いて冷却対象物50を冷却するときの様子を模式的に示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、第1実施形態の変形例1-3に係る冷却シート10の製造方法の様子を模式的に示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは、第1実施形態の変形例1-3に係る冷却シート10の製造方法の様子を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る冷却シート10を示す断面図である。
【
図7】
図7は、「平衡温度」の測定を行うときの様子を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、「平衡温度」の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
[A]冷却シート10の構成等
図1Aは、第1実施形態に係る冷却シート10を模式的に示す斜視図である。
図1Bは、第1実施形態において、冷却シート10を用いて冷却対象物50を冷却するときの様子を模式的に示す断面図である。
【0011】
図1Aおよび
図1Bに示すように、本実施形態の冷却シート10は、基板部11と凸部12とを備え、凸部12の先端部分が冷却対象物50に接触した状態で冷却対象物50の冷却が実行される。本実施形態において、冷却対象物50は、パワーデバイス、電動機、建材、太陽光パネル等の物体であって、例えば、100℃前後の温度になる発熱体である。
【0012】
以下より、本実施形態の冷却シート10を構成する各部について順次説明する。
【0013】
[A-1]基板部11
基板部11は、例えば、矩形状の板状体である。基板部11は、冷却対象物50を冷却する際に冷却対象物50に対面する面を含む(
図1B参照)。
【0014】
基板部11は、ハイドロゲルを用いて形成されている。本実施形態では、基板部11は、ハイドロゲルとしてポリアクリルアミドを含むように構成されている。
【0015】
[A-2]凸部12
凸部12は、冷却対象物50を冷却する際に基板部11において冷却対象物50に対面する面に設けられている。
【0016】
凸部12は、ハイドロゲルを用いて形成されている。本実施形態では、凸部12は、基板部11と同様に、ハイドロゲルとしてポリアクリルアミドを含むように構成されている。
【0017】
凸部12は、複数であって、複数の凸部12のそれぞれの間に隙間SPが介在するように、複数の凸部12が基板部11の面に配置されている。凸部12は、例えば、円柱形状であって、複数の凸部12が、例えば、千鳥状に並んでいる。ここでは、冷却対象物50を冷却する際に複数の凸部12の先端部分が冷却対象物50に接触したときに、外部と隙間SPとの間が連通した状態になるように、凸部12が構成されている。
【0018】
[B]冷却シート10の使用方法/作用
本実施形態の冷却シート10の使用方法および作用について説明する。
【0019】
冷却シート10を用いて冷却対象物50の冷却を実行する際には、
図1Bに示すように、冷却シート10を構成する基板部11のうち凸部12が設けられた面の側を冷却対象物50に貼り付ける。これにより、冷却シート10を構成する凸部12の先端部分が冷却対象物50に接触した状態になる。
【0020】
このとき、冷却対象物50の熱が冷却シート10に伝達する。冷却対象物50の熱は、冷却シート10において気化熱として利用される。このため、冷却シート10においては。基板部11および凸部12を構成するハイドロゲルに含まれる水が気化する。
【0021】
本実施形態の冷却シート10では、基板部11において外部に露出された面が気化面として機能する。この他に、本実施形態の冷却シート10では、凸部12において外部に露出された面が気化面として機能する。そして、本実施形態の冷却シート10では、複数の凸部12の先端部分が冷却対象物50に接触したときに、複数の凸部12の間に介在する隙間SPが外部に連通した状態になる。つまり、隙間SPは、開放空間である。このため、凸部12の気化面から気化した水(水蒸気)が隙間SPを介して外部へ排出される。
【0022】
このように、本実施形態では、冷却シート10の気化面と冷却対象物50との間が近いため、冷却性能を向上させることができる。また、本実施形態では、冷却シート10の気化面の面積が大きく、冷却シート10を構成するハイドロゲルが厚い場合であっても冷却性能の低下がないので、ハイドロゲルの厚みを調整することで、冷却持続時間を任意に設計することができる。
【0023】
したがって、本実施形態の冷却シート10を用いることによって、効率的な冷却を容易に実行可能である。特に、本実施形態の冷却シート10は、ハイドロゲルとしてポリアクリルアミドを含み、ハイドロゲルが水を十分に保持可能であるため、より効率的な冷却を実現可能である。
【0024】
上記の観点から、本実施形態の冷却シート10では、複数の凸部12は、基板部11において冷却対象物50に対面する面の面積のうち、60%以下の面に設けられていることが好ましい。例えば、円柱形状の凸部12を、N個、設ける場合、円柱形状の凸部12の底面の面積S12と、基板部11において冷却対象物50に対面する面の面積S11とが、「S11/S12≦0.6」の関係を満たすことが好ましい。上記の上限値を超える場合には、凸部12の気化面から気化した水が外部へ排出されにくくなる場合がある。
【0025】
また、本実施形態の冷却シート10では、円柱形状の凸部12は、基板部11の面において自立した状態を保持するために、例えば、外径が2mm以上であって、高さが10mm以下であることが好ましい。凸部12は、円柱形状以外に、角柱形状(四角柱形状等)であってもよく、四角柱形状の凸部12は、基板部11の面において自立した状態を保持するために、例えば、幅が2mm以上であって、高さが10mm以下であることが好ましい。凸部12の形状は、上記に限らず、凸部12を構成するハイドロゲルの材質等に応じて、任意に変更可能である。
【0026】
また、本実施形態の冷却シート10において基板部11および凸部12を構成するハイドロゲルは、水を包含する孔のポーラス径が、1マイクロメートル以上200マイクロメートル以下の範囲にあることが好ましい。この場合には、毛細管力の効果を奏することができる。なお、「ポーラス径(r)」は、走査型電子顕微鏡像の画像処理によって測定される値である。画像の2値化から孔の輪郭を定義し、その孔の断面積(S)を求める。ポーラス径(r)は以下の式で計算される。
【0027】
r=(S/4π)1/2
【0028】
[C]冷却シート10の製造方法
本実施形態の冷却シート10(
図1A、
図1B参照)を製造する製造方法について説明する。
【0029】
図2は、第1実施形態に係る冷却シート10の製造方法を示すフロー図である。
【0030】
図2に示すように、本実施形態の冷却シート10を作製する際には、調整工程(ST10)と流し込み工程(ST20)と重合工程(ST30)とを順次実行する。各工程の詳細について順次説明する。
【0031】
[C-1]調整工程(ST10)
調整工程(ST10)では、冷却シート10において基板部11および凸部12を構成するハイドロゲルを形成するための未架橋溶液Lを調整する。未架橋溶液Lは、モノマーと架橋剤と重合開始剤とを含む溶液である。
【0032】
ここでは、モノマーは、アクリルアミドである。モノマーであるアクリルアミドの含有割合は、未架橋溶液Lにおいて、8質量%以上18質量%以下であることが好ましい。上記の含有割合が上限値を超える場合には、ハイドロゲルの膨潤率(水の吸収率)が減少する場合があり、上記の含有割合が下限値よりも小さい場合には、ハイドロゲルの剛性が不足する場合がある。
【0033】
架橋剤は、メチレンビスアクリルアミドである。架橋剤であるメチレンビスアクリルアミドの含有割合は、未架橋溶液Lにおいて、0.00005質量%以上0.002質量%以下であることが好ましい。上記の含有割合が上限値を超える場合には、ハイドロゲルの膨潤率(水の吸収率)が減少する場合があり、上記の含有割合が下限値よりも小さい場合には、ハイドロゲルの剛性が不足する場合がある。
【0034】
重合開始剤は、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、または、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩である。
【0035】
重合開始剤である2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンの含有割合は、未架橋溶液Lにおいて、0.0002質量%以上0.0008質量%以下であることが好ましい。上記の含有割合が上限値を超える場合には、ハイドロゲルの膨潤率(水の吸収率)が減少する場合があり、上記の含有割合が下限値よりも小さい場合には、ハイドロゲルの剛性が不足する場合がある。
【0036】
これに対して、重合開始剤である2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩の含有割合は、未架橋溶液Lにおいて、0.0005質量%以上0.002質量%以下であることが好ましい。上記の含有割合が上限値を超える場合には、ハイドロゲルの膨潤率(水の吸収率)が減少する場合があり、上記の含有割合が下限値よりも小さい場合には、ハイドロゲルの剛性が不足する場合がある。
【0037】
未架橋溶液Lにおいて、溶媒は、例えば、水である。
【0038】
[C-2]流し込み工程(ST20)
流し込み工程(ST20)では、未架橋溶液Lをテンプレート80(モールド)に流し込む。
【0039】
図3Aおよび
図3Bは、第1実施形態に係る冷却シート10の製造方法において、流し込み工程(ST20)の様子を模式的に示す断面図である。
【0040】
流し込み工程(ST20)では、
図3Aに示すように、冷却シート10の形状に対応したキャビティSP80が形成されているテンプレート80(モールド)を準備する。そして、
図3Bに示すように、テンプレート80に形成されたキャビティSP80に未架橋溶液Lを流し込む。
【0041】
[C-3]重合工程(ST30)
重合工程(ST30)では、テンプレート80に流し込まれた未架橋溶液Lに含まれるモノマーを重合させる。これにより、基板部11および複数の凸部12を構成するハイドロゲルが作製される。
【0042】
図3Cおよび
図3Dは、第1実施形態に係る冷却シート10の製造方法において、重合工程(ST30)の様子を模式的に示す断面図である。
【0043】
重合工程(ST30)では、
図3Cに示すように、テンプレート80のキャビティSP80に流し込まれた未架橋溶液Lに、紫外線UVを照射する。例えば、テンプレート80のキャビティSP80において基板部11が形成される側から、紫外線UVの照射を実行する。これにより、未架橋溶液Lに含まれるモノマーの重合が開始され、ポリアクリルアミドからなる高分子ゲルが生成される。その結果、
図3Dに示すように、テンプレート80のキャビティSP80において、基板部11および複数の凸部12が作製される。そして、ポリアクリルアミドからなる高分子ゲルをイオン交換水に浸漬して完全に膨潤させることによって、ハイドロゲルを形成することで、冷却シート10を完成させる。
【0044】
ここでは、フリーズキャスティング法によって、基板部11および複数の凸部12を構成するポリアクリルアミドを作製することが好ましい。フリーズキャスティング法では、テンプレート80のキャビティSP80に流し込まれた未架橋溶液Lに紫外線を照射する前に(
図3C参照)、未架橋溶液Lを凍結させる。ここでは、未架橋溶液Lの温度が-5℃以下になるように未架橋溶液Lを冷却することによって、未架橋溶液Lの凍結を実行する。そして、凍結された未架橋溶液Lに紫外線UVを照射する(
図3C参照)。
【0045】
フリーズキャスティング法では、未架橋溶液Lの凍結によって氷晶が形成される。このため、フリーズキャスティング法では、その氷晶の配向およびサイズを制御することによって、ポリアクリルアミドであるハイドロゲルの網目形状を変更可能である。
【0046】
図3Eは、第1実施形態に係る冷却シート10をフリーズキャスティング法で作製したときの状態を示す断面図である。
図3Eでは、冷却シート10を構成する基板部11と凸部12との一部を模式的に示している。
【0047】
本実施形態では、基板部11と凸部12とが並ぶ厚み方向に、ハイドロゲルの網目形状を構成する孔Hが連通するように、フリーズキャスティング法によってハイドロゲルの形成を行う。ここでは、基板部11の側から凸部12の側へ向かうに伴って氷晶の幅を小さくする。これにより、孔Hの断面積が基板部11の側から凸部12の側へ向かうに伴って小さくなるように、ハイドロゲルが形成される(基板部11の側から凸部12の側へ向かうに伴って孔径が小さくなる)。その結果、ハイドロゲルに含有する水分は、毛細管現象によって、冷却対象物50に拡散して供給され易くなるので、効率的な冷却を更に容易に実行可能である。なお、
図3Eは、断面図であるため、孔Hのそれぞれが独立しているように図示されているが、実際には、孔Hが連結されている。
【0048】
[D]変形例
上記実施形態の変形例について説明する。
【0049】
[D-1]変形例1-1
図4は、第1実施形態の変形例1-1において、冷却シート10を用いて冷却対象物50を冷却するときの様子を模式的に示す断面図である。
【0050】
図4に示すように、冷却対象物50を冷却する際には、基板部11および複数の凸部12を構成するハイドロゲルに、冷却媒体CFを供給してもよい。例えば、冷却媒体CFに基板部11を浸漬させることによって、基板部11に冷却媒体CFを供給する。基板部11に供給された冷却媒体CFは、毛細管現象によって、基板部11から複数の凸部12に供給される。これにより、冷却を長期間に渡って実行可能である。冷却媒体CFは、例えば、水である。この他に、冷却媒体CFは、ハイドロゲルの材質等に応じて、アルコールなどの極性溶媒であってもよい。
【0051】
[D-2]変形例1-2
上記の実施形態では、冷却シート10を構成する基板部11および凸部12が、ハイドロゲルからなる場合について説明したが、これに限らない。冷却シート10において、基板部11および凸部12は、ハイドロゲルの他に、吸湿性の塩を含んでもよい。吸湿性の塩は、例えば、ハイドロゲルの内部において分散した状態で存在している。この場合には、ハイドロゲルを形成するためのイオン交換水に吸湿性の塩を添加することで、冷却シート10の作製が実行される。
【0052】
吸湿性の塩は、外気に存在する水分を吸収して保持する。このため、冷却シート10が吸湿性の塩を含む場合には、ハイドロゲルが保持する水分の他に、吸湿性の塩が保持する水分を用いて、冷却対象物50の冷却を実行することができる。したがって、自立的な冷却を長期間に渡って容易に実行可能である。
【0053】
吸湿性の塩は、臭化リチウムと塩化カルシウムと塩化リチウムとの少なくとも1つであることが好ましい。上記の塩は、吸湿性が高いため、自立的な冷却を更に容易に実行可能である。
【0054】
また、基板部11および凸部12において、吸湿性の塩の含有割合は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。上記の含有割合が上限値を超える場合には、基板部11および凸部12の表面における蒸気圧が低下し、冷却性能が低下する場合があり、上記の含有割合が下限値よりも小さい場合には、吸湿性の塩による吸湿が十分でなく、冷却持続時間が低下する場合がある。
【0055】
[D-3]変形例1-3
上記の実施形態では、テンプレート80のキャビティSP80において基板部11が形成される側から、紫外線UVの照射を実行する場合(
図3C参照)について説明したが、これに限らない。必要であれば、テンプレート80のキャビティSP80において凸部12が形成される側から、更に、紫外線UVの照射を実行してもよい。
【0056】
図5Aおよび
図5Bは、第1実施形態の変形例1-3に係る冷却シート10の製造方法の様子を模式的に示す断面図である。
【0057】
本変形例では、
図5Aに示すように、例えば、キャビティSP80が形成された壁部81と、壁部81において基板部11が形成される側に設けられる底板部82とを組み合わせることで構成されるテンプレート80を用いる。そして、上記実施形態の場合と同様に、未架橋溶液Lをテンプレート80に流し込んだ後に、例えば、テンプレート80のキャビティSP80において基板部11が形成される側から、紫外線UVの照射を実行する(
図3B,
図3C参照)。その後、本変形例では、上記実施形態の場合と異なり、
図5Bに示すように、壁部81から底板部82を取り外した状態で、キャビティSP80において凸部12が形成される側から紫外線UVの照射を実行する。これにより、未架橋溶液Lに含有するモノマーの重合を厚み方向において確実に実行可能である。
【0058】
<第2実施形態>
[A]冷却シート10の構成
図6は、第2実施形態に係る冷却シート10を示す断面図である。
図6では、
図1Bと同様に、冷却シート10を用いて冷却対象物50を冷却するときの様子を併せて示している。
【0059】
図6に示すように、本実施形態では、冷却シート10の一部の構成が、第1実施形態の場合(
図1B参照)と異なる。この点、および、これに関する点を除き、本実施形態は、第1実施形態と同様である。このため、重複する事項については、適宜、説明を省略する。
【0060】
図6に示すように、本実施形態の冷却シート10では、複数の凸部12は、金属部材121が内部に埋め込まれている。金属部材121は、凸部12と同様な形状であり、例えば、円柱形状であって、底面の外径が凸部12よりも小さい(例えば、1mm以下)。
【0061】
金属部材121を構成する金属材料は、特に制限されない。
【0062】
[B]作用
本実施形態の冷却シート10において、金属部材121は、凸部12の支持体であって、剛性が低いハイドロゲルで構成される凸部12の形状が、剛性が高い金属部材121によって保持される。また、本実施形態の冷却シート10では、冷却対象物50の熱が金属部材121に伝達するため、熱拡散を促進させることができる。
【0063】
したがって、本実施形態では、効率的な冷却を更に容易に実行可能である。
【実施例0064】
以下より、上記実施形態の実施例について、下記の表を用いて説明する。
【0065】
【0066】
上記の表において、(例1)から(例10)は、実施例に相当し、(例C1)から(例C2)は、比較例に相当する。つまり、(例1)から(例10)は、基板部11と凸部12とを備える冷却シート10を用いて冷却対象物50の冷却を実行する場合に相当する(
図1A,
図1B参照)。これに対して、(例C1)は、冷却シート10を用いずに、冷却対象物50の冷却を実行する場合に相当する。そして、(例C2)は、凸部12が設けられておらず、実質的には基板部11からなる平板状の冷却シートを用いて冷却対象物50の冷却を実行する場合に相当する。
【0067】
上記の表において、「未架橋溶液Lの組成」欄では、未架橋溶液Lを調整するときに用いる材料と、その材料の混合割合(質量%)を示している。
【0068】
上記の表において、「テンプレート形態」欄は、未架橋溶液Lを流し込むテンプレート80の形態について示している。ここで、「テンプレート形態」欄において、「円柱外径(mm)」欄は、冷却シート10を構成する円柱形状の凸部12の円柱外径を示し、「面積率」欄は、基板部11において冷却対象物50に対面する面の面積のうち、複数の凸部12の底面が占める割合を示している。テンプレート80は、表に示す円柱外径の凸部12が、表に示す面積率で存在する冷却シート10を形成するように、キャビティSP80が構成されている。
【0069】
上記の表において、「重合方法」欄は、テンプレート80に流し込まれた未架橋溶液Lに含まれるモノマーを重合させる方法に関して示している。「重合方法」欄において、「凍結」欄が「有」であって「紫外線照射」欄が「有」である場合には、未架橋溶液Lを凍結させた状態で紫外線の照射を行うフリーズキャスティング法によって重合を実施することを意味している。そして、「凍結」欄が「無」であって「紫外線照射」欄が「有」である場合には、未架橋溶液Lの凍結をさせない状態で紫外線の照射を行うことで重合を実施することを意味している。
【0070】
また、上記の表において、「ハイドロゲル網目構造」欄は、各実施例、比較例における冷却シート10のポーラス径(μm)を画像処理によって計測された数値で示している。なお、基板部11および前記複数の凸部12は、ハイドロゲルとして、1μm以上200μm以下のポーラス径を有していると効率的な冷却を行うことができた。
【0071】
上記の表において、「評価結果」欄は、各例において、冷却対象物50の冷却を実行したときの結果を示している。ここでは、「平衡温度」について示している。
【0072】
[1]冷却シート10の形成
各例の冷却シート10を作製した手順について説明する。
【0073】
(例1)
(例1)では、まず、冷却シート10において基板部11および凸部12を構成するハイドロゲルを形成するための未架橋溶液Lを調整した(調整工程(ST10))。本例では、表に示す割合で、モノマーと架橋剤と重合開始剤と溶媒とを混合した。モノマーと架橋剤と重合開始剤と溶媒とのそれぞれは、表に示す物質を用いた。
【0074】
つぎに、未架橋溶液Lをテンプレート80に流し込んだ(流し込み工程(ST20)、
図3Aおよび
図3B参照)。本例では、円柱外径が表に示す値である円柱形状の凸部12が表に示す面積率で存在する冷却シート10を形成するようにキャビティSP80が形成されたテンプレート80を準備し、そのキャビティSP80に未架橋溶液Lを流し込んだ。
【0075】
つぎに、テンプレート80に流し込まれた未架橋溶液Lに含まれるモノマーを重合させた(重合工程(ST30)、
図3Cおよび
図3D参照)。本例では、表に示すように、未架橋溶液Lの凍結をさせない状態で紫外線の照射を行うことで、重合を実施した。紫外線の照射は、5時間、実行した。
【0076】
そして、上記の重合で作製されたゲルをイオン交換水に浸漬し、完全に膨潤させることによって、本例の冷却シート10において基板部11および凸部12を構成するハイドロゲルを完成させた。ここでは、浸漬時間は、12時間以上とした。
【0077】
(例2)から(例6)
(例2)から(例6)では、表に示すように、未架橋溶液Lを調整する際に各材料を混合する割合や材料の種類の一部が、(例1)の場合と異なる。この点を除き、(例2)から(例6)では、(例1)の場合と同様に、冷却シート10の試料を作製した。
【0078】
(例7)
(例7)では、表に示すように、未架橋溶液Lを-5~20℃で凍結させた状態で紫外線の照射を行うフリーズキャスティング法によって、重合を実施した。この点を除き、(例7)では、(例2)の場合と同様に、冷却シート10の試料を作製した。
【0079】
(例8)から(例10)
(例8)から(例10)では、表に示すように、テンプレート80のキャビティSP80の形態が(例7)と異なる。この点を除き、(例8)から(例10)では、(例7)の場合と同様に、冷却シート10の試料を作製した。
【0080】
(例C1)
(例C1)では、冷却シート10の作製を実施しなかった。
【0081】
(例C2)
(例C2)では、表に示すように、(例1)と同様に、未架橋溶液Lを調整した。しかし、(例C2)では、(例1)と異なり、凸部12を含まない形態の冷却シート10を作製した。つまり、(例C2)では、平板状の冷却シートを作製した。
【0082】
[2]評価結果
表に示すように、各例について、冷却対象物50の冷却を実行したときの「平衡温度」を測定した。
【0083】
図7は、「平衡温度」の測定を行うときの様子を模式的に示す断面図である。
図7では、(例1)から(例11)の冷却シート10を用いて、冷却対象物50の冷却を行う場合を例示している。
【0084】
「平衡温度」の測定を行う際には、
図7に示すように、冷却対象物50の下面に、ヒーター90を設置した。ここでは、冷却対象物50は、アルミニウム合金(A5052P)で形成されている金属ブロック(50*50*30mm)である。そして、ヒーター90は、電圧が100Vの電源に接続したときに、20Wの熱量が発生する機器である。
【0085】
そして、
図7に示すように、冷却対象物50の下面に冷却シート10を設置した。ここでは、冷却シート10を構成する基板部11のうち凸部12が設けられた面の側を冷却対象物50に貼り付けた。これにより、冷却シート10を構成する凸部12の先端部分を冷却対象物50に接触した状態にした。
【0086】
図示を省略しているが、「平衡温度」の測定を行う際には、ヒーター90の下面と冷却対象物50の側面とを断熱材(図示省略)で覆った。また、冷却対象物50に熱電対(図示省略)を貼り付け、熱電対を用いて冷却対象物50の温度を測定した。そして、所定温度の冷却対象物50に冷却シート10を設置し、ヒーター90による加熱を開始した後に、冷却対象物50の温度が平衡状態になる温度を「平衡温度」とした。「平衡温度」の測定は、20℃40%RHの雰囲気下で実行した。
【0087】
(例C1)では、(例1)から(例11)の場合と異なり、冷却シート10を冷却対象物50に貼り付けない状態で、「平衡温度」の測定を実施した。
【0088】
(例C2)では、上述したように、凸部12を含まない平板状の冷却シートを冷却対象物50に貼り付けた状態で、「平衡温度」の測定を実施した。
【0089】
表に示すように、(例C1)の場合よりも、(例C2)の場合の方が、「平衡温度」が低い。この結果から、冷却シートを冷却対象物50に貼り付けることによって、冷却対象物50が更に冷却されることが判る。
【0090】
表に示すように、(例C2)の場合よりも、(例1)から(例10)の場合の方が、「平衡温度」が低い。この結果から、上記した実施形態の場合のように基板部11と凸部12とを備える冷却シート10を用いることで、冷却対象物50が更に冷却されることが判る。
【0091】
表に示すように、(例1)から(例6)の場合、「平衡温度」が同等である。この結果から、冷却シート10において基板部11および凸部12を構成するハイドロゲルの成分を所定範囲にすることで、同様な冷却効果が得られることが判る。
【0092】
表に示すように、(例2)の場合よりも、(例7)の場合の方が、「平衡温度」が低い。この結果から、フリーズキャスティング法によって冷却シート10を作成した方が効率的な冷却を実現可能であることが判る。
【0093】
更に、表に示すように、(例7)の場合よりも、(例8)から(例10)の場合の方が、「平衡温度」が低い。この結果から、円柱外径および面積率を適宜設定することで、更に率的な冷却を実現可能であることが判る。
【0094】
図8は、「平衡温度」の測定結果を示すグラフである。
図8では、(例2)と(例9)と(例C1)の結果を代表例として示している。
図8において、横軸は、冷却対象物50に冷却シート10を設置した時点(0)から経過した時間(min.)を示し、縦軸は、冷却対象物50の温度(℃)を示している。
【0095】
図8に示すように、(例C1)の場合よりも、(例2)および(例9)の場合の方が温度の上昇を長時間に渡って抑制可能である。表に示す結果と同様に、本結果からも、上記した実施形態の場合のように基板部11と凸部12とを備える冷却シート10を用いて冷却対象物50の冷却を行うことで、冷却対象物50を効率的に冷却可能であることが判る。
【0096】
<その他>
なお、本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した実施例以外にも様々な形態で実施することができる。本発明は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、追加、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
10:冷却シート、11:基板部、12:凸部、50:冷却対象物、80:テンプレート、81:壁部、82:底板部、90:ヒーター、121:金属部材、CF:冷却媒体、H:孔、L:未架橋溶液、SP:隙間、SP80:キャビティ、UV:紫外線。