(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107778
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】支援システムおよび支援方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/27 20200101AFI20240802BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20240802BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
G06F30/27
G05B19/418 Z
C21D9/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011876
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 憩太
(72)【発明者】
【氏名】駒井 伸好
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠暉
【テーマコード(参考)】
3C100
4K042
5B146
【Fターム(参考)】
3C100AA22
3C100AA57
3C100BB05
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB27
3C100BB33
4K042AA25
4K042BA01
4K042DA05
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042EA02
4K042EA03
5B146AA10
5B146DC01
5B146DC03
5B146DJ01
(57)【要約】
【課題】予測精度の向上を図ることができる支援システムおよび支援方法を提供する。
【解決手段】本開示の支援システムは、対象部品の成分組成と製造条件とのうち少なくとも一方に関する設定内容を含む入力情報が入力された場合に、対象部品の特性に関する予測値を出力するように機械学習が行われた予測モデルを用いて、設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報に基づき、2つ以上の入力情報に対応する2つ以上の予測値を取得する予測値取得部と、2つ以上の入力情報に含まれる設定内容と、2つ以上の予測値とに基づき、設定内容と特性との関係を示す回帰式を導出する回帰式導出部と、回帰式に基づき、目標とする特性に対応する設定内容を取得する設定内容取得部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象部品の成分組成と製造条件とのうち少なくとも一方に関する設定内容を含む入力情報が入力された場合に、前記対象部品の特性に関する予測値を出力するように機械学習が行われた予測モデルを用いて、前記設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報に基づき、前記2つ以上の入力情報に対応する2つ以上の予測値を取得する予測値取得部と、
前記2つ以上の入力情報に含まれる前記設定内容と、前記2つ以上の予測値とに基づき、前記設定内容と前記特性との関係を示す回帰式を導出する回帰式導出部と、
前記回帰式に基づき、目標とする前記特性に対応する前記設定内容を取得する設定内容取得部と、
を備えた支援システム。
【請求項2】
前記設定内容は、前記対象部品に関する熱処理温度を含み、
前記特性は、前記対象部品の強度である、
請求項1に記載の支援システム。
【請求項3】
前記入力情報は、前記設定内容に加え、前記対象部品の成分組成と、前記対象部品に関する熱処理時間とを含む、
請求項2に記載の支援システム。
【請求項4】
前記回帰式導出部は、前記設定内容と前記特性との一般的な関係に基づき項の次数が設定された単項式または多項式である数式を用いて、前記2つ以上の入力情報に含まれる前記設定内容と前記2つ以上の予測値とに基づき前記数式に含まれる定数の値を決定することで前記回帰式を導出する、
請求項1または請求項2に記載の支援システム。
【請求項5】
前記回帰式導出部は、予め設定された第1数式を用いて前記回帰式を導出した場合において、前記回帰式が示す前記設定内容と前記特性との関係が所定条件を満たさない場合は、前記第1数式とは項の次数が異なる第2数式を用いて前記回帰式を導出し直す、
請求項1または請求項2に記載の支援システム。
【請求項6】
前記回帰式導出部は、予め設定された第1数式を用いて前記回帰式を導出した場合において、前記回帰式が示す前記設定内容と前記特性との関係が所定条件を満たさない場合は、前記所定条件が満たされないことを報知する、
請求項1または請求項2に記載の支援システム。
【請求項7】
前記予測値取得部は、前記設定内容が互いに異なる3つ以上の入力情報に基づき、前記3つ以上の入力情報に対応する3つ以上の予測値を取得し、
前記3つ以上の入力情報は、前記設定内容として第1設定内容を含む第1入力情報と、前記設定内容として第2設定内容を含む第2入力情報と、前記設定内容として第3設定内容を含む第3入力情報とを含み、
前記設定内容は、前記対象部品に関する実績データが所定量未満である第1領域と、前記対象部品に関する実績データが前記所定量以上である第2領域から選択可能であり、
前記第1設定内容は、前記第1領域から選択され、
前記第2設定内容および前記第3設定内容は、前記第2領域から選択される、
請求項1または請求項2に記載の支援システム。
【請求項8】
前記予測値取得部は、前記設定内容である設定値が互いに異なる3つ以上の入力情報に基づき、前記3つ以上の入力情報に対応する3つ以上の予測値を取得し、
前記3つ以上の入力情報は、前記設定値として第1設定値を含む第1入力情報と、前記設定値として第2設定値を含む第2入力情報と、前記設定値として第3設定値を含む第3入力情報とを含み、
前記第1設定値、前記第2設定値、前記第3設定値は、この順に大きくなり、
前記第1設定値と前記第2設定値との差である第1差分と、前記第2設定値と前記第3設定値との差である第2差分とが異なる、
請求項1または請求項2に記載の支援システム。
【請求項9】
1つ以上のコンピュータが、
対象部品の成分組成と製造条件とのうち少なくとも一方に関する設定内容を含む入力情報が入力された場合に、前記対象部品の特性に関する予測値を出力するように機械学習が行われた予測モデルを用いて、前記設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報に基づき、前記2つ以上の入力情報に対応する2つ以上の予測値を取得し、
前記2つ以上の入力情報に含まれる前記設定内容と、前記2つ以上の予測値とに基づき、前記設定内容と前記特性との関係を示す回帰式を導出し、
前記回帰式に基づき、目標とする前記特性に対応する前記設定内容を取得する、
ことを含む支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、支援システムおよび支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所望の特性を有する金属材料の設計を計算機により支援する設計支援方法が開示されている。当該設計支援方法は、前記金属材料の成分組成及び製造条件を含む設計条件と前記金属材料の特性値とを関連付けた過去の実績データに基づき構築されて、前記設計条件から前記特性値を予測する予測モデルを用いて、前記所望の特性が得られる前記設計条件を探索する探索ステップと、前記探索ステップにより探索された、前記所望の特性に対応する前記設計条件のうち、少なくとも成分組成及び製造条件を提示する提示ステップとを含んでいる。前記探索ステップにおいては、異なる複数の学習データセットに基づく複数の予測値のばらつきが低減するように前記設計条件を探索している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような設計支援方法の分野では、予測精度の更なる向上が期待されている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、予測精度の向上を図ることができる支援システムおよび支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る支援システムは、対象部品の成分組成と製造条件とのうち少なくとも一方に関する設定内容を含む入力情報が入力された場合に、前記対象部品の特性に関する予測値を出力するように機械学習が行われた予測モデルを用いて、前記設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報に基づき、前記2つ以上の入力情報に対応する2つ以上の予測値を取得する予測値取得部と、前記2つ以上の入力情報に含まれる前記設定内容と、前記2つ以上の予測値とに基づき、前記設定内容と前記特性との関係を示す回帰式を導出する回帰式導出部と、前記回帰式に基づき、目標とする前記特性に対応する前記設定内容を取得する設定内容取得部と、を備える。
【0007】
本開示に係る支援方法は、1つ以上のコンピュータが、対象部品の成分組成と製造条件とのうち少なくとも一方に関する設定内容を含む入力情報が入力された場合に、前記対象部品の特性に関する予測値を出力するように機械学習が行われた予測モデルを用いて、前記設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報に基づき、前記2つ以上の入力情報に対応する2つ以上の予測値を取得し、前記2つ以上の入力情報に含まれる前記設定内容と、前記2つ以上の予測値とに基づき、前記設定内容と前記特性との関係を示す回帰式を導出し、前記回帰式に基づき、目標とする前記特性に対応する前記設定内容を取得する、ことを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、予測精度の向上を図ることができる支援システムおよび支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るタービン翼の製造工程を概念的に示す図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る支援装置の機能ブロック図である。
【
図3】実際に取得された試験片の特性と予測モデルにより予測された試験片の特性との関係を示す図である。
【
図4】実績データの数のヒストグラムの一例および回帰式の一例を示す図である。
【
図5】本開示の第1実施形態に係る支援装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本開示の第1実施形態に係る設定内容取得部が取得した設定内容に基づき製造された複数の対象部品の特性の分布、および支援システムを用いずに製造された複数の対象部品の特性の分布の一例を示す図である。
【
図7】本開示の第2実施形態に係る支援装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本開示の実施形態に係るコンピュータの構成を示すハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、支援システムおよび支援方法を実施するための形態を説明する。
【0011】
<支援システムの第1実施形態>
支援システム1は、例えば蒸気タービンなどのロータが有する長翼(以下、タービン翼100と称する)の製造方法に含まれる複数の工程のうち、1つ以上の工程における処理の少なくとも一部を支援する自動化システムである。はじめに、本実施形態におけるタービン翼100の製造方法S0について説明する。
【0012】
(タービン翼の製造方法)
図1に示すように、タービン翼100の製造方法S0は、例えば、調達工程S1と、鍛造工程S2と、熱処理工程S3と、強度試験工程S4と、仕上げ工程S5とを含む。
【0013】
(調達工程)
調達工程S1では、タービン翼100を形成するための材料を調達する。以下、タービン翼100を形成するための材料を「母材X」と称する。母材Xは、例えば材料メーカなどから納入される。調達工程S1では、例えば、納入された母材Xに対して所定の受入検査などが実行される。母材Xは、所定の形状を成している。母材Xの成分組成は、例えば、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)などの複数の単体元素、およびこれら単体元素のうち2つ以上が互いに結合したものなどを含む。結合したものには、合金が含まれる。母材Xの成分組成は、「対象部品の成分組成」の一例である。
【0014】
(鍛造工程)
鍛造工程S2では、調達工程S1で調達された母材Xを鍛造することで、母材Xをタービン翼100の形状にする。具体的には、鍛造工程S2では、例えばプレス機などの鍛造機を用いて母材Xを変形させることでタービン翼100の外形を形成する。タービン翼100は、「対象部品」の一例である。
【0015】
(熱処理工程)
熱処理工程S3では、鍛造工程S2で鍛造されたタービン翼100に対して所定の温度および時間の熱処理を実行する。本実施形態では、熱処理工程S3は、例えば、溶体化熱処理工程S3aと、安定化熱処理工程S3bと、時効熱処理工程S3cとを含む。溶体化熱処理工程S3a、安定化熱処理工程S3b、時効熱処理工程S3cは、この順に実行される。
【0016】
溶体化熱処理工程S3aでは、鍛造工程S2で形成されたタービン翼100に対して所定の温度帯で所定の時間をかけた熱処理を実行することで、熱処理中に現れるタービン翼100中の、合金を含む析出物を母相に溶かし込む。具体的には、溶体化熱処理工程S3aでは、所定の炉のなかにタービン翼100を収容し、例えば1000℃以上、1400℃未満の温度帯で所定の時間(例えば数時間)をかけて、タービン翼100に対して熱処理を実行する。
【0017】
安定化熱処理工程S3bでは、溶体化熱処理工程S3aで熱処理されたタービン翼100に対して所定の温度帯で所定の時間をかけた熱処理を実行することで、タービン翼100を形成する組織を全体的に安定化させる。具体的には、安定化熱処理工程S3bでは、所定の炉のなかにタービン翼100を収容し、例えば800℃以上、1000℃未満の温度帯で所定の時間(例えば数時間)をかけて、タービン翼100に対して熱処理を実行する。安定化熱処理工程S3bを経ることで、タービン翼100中には所定の析出物が析出する。当該析出物は、少なくともニオブ炭化物(NbC)などの合金を含む。安定化熱処理工程S3bでは、タービン翼100中にニオブ炭化物が析出することで、タービン翼100を形成する組織が安定化する。
【0018】
時効熱処理工程S3cでは、安定化熱処理工程S3bで熱処理されたタービン翼100に対して所定の温度帯で所定の時間をかけた熱処理を実行することで、タービン翼100全体の機械的強度を上昇させる。具体的には、時効熱処理工程S3cでは、所定の炉のなかにタービン翼100を収容し、例えば安定化熱処理工程S3bで用いられる温度帯よりも低い温度帯(例えば800℃未満)で所定の時間(例えば数時間)をかけて、タービン翼100に対して熱処理を実行する。時効熱処理工程S3cで熱処理されることで、所定の析出物が析出し、タービン翼100全体の硬度が上昇する。当該析出物は、少なくとも銅(Cu相)などを含む。
【0019】
(強度試験工程)
強度試験工程S4では、例えば、1回の熱処理工程S3を経た複数(一群)のタービン翼100のうち一部のタービン翼100を抜き取りして、抜き取りしたタービン翼100の機械的強度を計測するとともに、機械的強度の計測結果に基づき上記複数のタービン翼100全体に対する合否判定を行う。具体的には、強度試験工程S4では、例えば、抜き出したタービン翼100の一部(例えば端部)を試験片Wとして取得する(取り外す)。
【0020】
強度試験工程S4では、例えば試験装置などを用いて、取得した試験片Wに対して強度試験を実行する。すなわち、試験装置は、試験片Wの機械的強度を計測する。当該試験片Wは、「対象部品」の一例である。試験装置は、例えば試験片Wに対して所定の引張試験などの強度試験を実施可能である。試験装置は、例えば、強度試験の結果である試験片Wの特性(特性値)を後述の支援装置20に送信する。本実施形態では、特性は、例えば、試験片Wの強度(単位:MPa)を示す0.2%耐力である。本明細書中に記載の「0.2%耐力」は、引張試験で試験片Wに引張荷重を加えた際に試験片Wの塑性変形量が0.2%に達したときの応力の大きさを意味する。なお、試験装置は、有線または無線通信により支援装置20に接続されている。
【0021】
次いで、強度試験工程S4では、強度試験工程S4を実行することで試験片Wから求められた特性が、予め定められた管理値幅(管理範囲)に含まれるか否かに基づき、上記複数(一群)のタービン翼100に対する合否判定を行う。強度試験工程S4で合格(適合)と判定された複数のタービン翼100は、仕上げ工程S5に送られる。なお、強度試験工程S4で不合格(不適合)と判定された複数のタービン翼100は、例えば、熱処理工程S3における時効熱処理工程S3cに再び送られてよい。
【0022】
(仕上げ工程)
仕上げ工程S5では、強度試験工程S4で合格と判定された複数のタービン翼100に対して仕上げ加工を実行する。具体的には、仕上げ工程S5では、例えば、タービン翼100の一部または全部の表面を研削加工(研磨)することによりタービン翼100を仕上げる。以上説明した一連の工程を経ることにより、タービン翼100が製造される。なお、仕上げ加工を終えた複数のタービン翼100は、例えば、回転軸に形成された翼取付溝などに取り付けられる(組み立てられる)。
【0023】
(支援システムの構成)
次に、支援システム1について説明する。
図2に示すように、支援システム1は、例えば、入力用装置10と、支援装置20と、表示用装置30とを備えている。
【0024】
(入力用装置)
入力用装置10は、タービン翼100の製造に関する設定内容を含む複数の入力情報を支援装置20に入力する(送信する)。ここでいう「設定内容」は、例えば、調達工程S1で調達された母材Xの成分組成(母材Xに含まれるC、Si、Mn、Nb、・・・の各割合)、およびタービン翼100の製造条件を含む。当該製造条件は、例えば、熱処理工程S3の各工程(溶体化熱処理工程S3a、安定化熱処理工程S3b、時効熱処理工程S3c)で実行されるタービン翼100の熱処理にかける時間(熱処理時間)、およびタービン翼100の熱処理の温度帯の中心温度(熱処理温度)などを含む。本明細書中に記載の「熱処理の温度帯の中心温度」は、例えば、炉の設定温度(設定値)などである。本実施形態では、入力用装置10は、設定内容が互いに異なる4つの入力情報を支援装置20に送信する。また入力用装置10は、タービン翼100に関して目標とする特性値(例えば目標とする0.2%耐力)を示す情報を支援装置20に送信する。
【0025】
入力用装置10は、例えば有線または無線通信により支援装置20に接続されている。なお、上記入力情報は、例えば、タービン翼100の製造や設計に係るオペレータ(以下、単にオペレータと称する)などにより、インターフェースを介して入力用装置10に設定されてよい。
【0026】
設定内容が互いに異なる4つの入力情報の一例を下記表1に示す。
【0027】
【0028】
表1中に示すCに対応する「〇.〇〇(%)」、Siに対応する「×.××(%)」、Mnに対応する「△.△△(%)」、およびNbに対応する「□.□□(%)」は、母材Xのなかでの割合(質量比や体積比)を示しており、各入力情報で同一の割合を示す。溶体化時間に対応する「t1(時間)」は、溶体化熱処理工程S3aで実行されるタービン翼100の熱処理にかける時間を示しており、各入力情報で同一の時間を示す。安定化時間に対応する「t2(時間)」は、安定化熱処理工程S3bで実行されるタービン翼100の熱処理にかける時間を示しており、各入力情報で同一の時間を示す。時効時間に対応する「t3(時間)」は、時効熱処理工程S3cで実行されるタービン翼100の熱処理にかける時間を示しており、各入力情報で同一の時間を示す。溶体化温度に対応する「Ta(℃)」は、溶体化熱処理工程S3aで実行される熱処理の温度帯の中心温度を示しており、各入力情報で同一の温度を示す。安定化温度に対応する「Tb(℃)」は、安定化熱処理工程S3bで実行される熱処理の温度帯の中心温度を示しており、各入力情報で同一の温度を示す。時効温度に対応する「Tc1(時間)、Tc2(時間)、Tc3(時間)、Tc4(時間)」のそれぞれは、時効熱処理工程S3cで実行される熱処理の複数の温度帯の各中心温度を示している。なお、表1中に示すt1、t2、およびt3の大小関係、Ta、Tb、およびTc1~Tc4の大小関係、ならびにTc1~Tc4の大小関係は、例えば、下記式(i)、(ii)、および(iii)で表される。
t3>t1>t2>0 …(i)
Ta>Tb>Tc1,Tc2,Tc3,Tc4>0 …(ii)
Tc4>Tc3>Tc2>Tc1 …(iii)
【0029】
したがって、4つの入力情報に含まれる設定内容が示す時効熱処理工程S3cでの熱処理温度(設定値)は、互いに異なっている。以下、4つの熱処理温度のそれぞれを、「第1熱処理温度Tc1」、「第2熱処理温度Tc2」、「第3熱処理温度Tc3」、「第4熱処理温度Tc4」と称する。また、第1熱処理温度Tc1を「第1設定値」と称し、第2熱処理温度Tc2を「第2設定値」と称し、第3熱処理温度Tc3を「第3設定値」と称し、第4熱処理温度Tc4を「第4設定値」と称する場合がある。すなわち、第1熱処理温度Tc1(第1設定値)、第2熱処理温度Tc2(第2設定値)、第3熱処理温度Tc3(第3設定値)、第4熱処理温度Tc4は、この順に高くなる。第1熱処理温度Tc1(第1設定値)は、上記設定内容としての「第1設定内容」の一例である。第2熱処理温度Tc2(第2設定値)は、上記設定内容としての「第2設定内容」の一例である。第3熱処理温度Tc3(第3設定値)は、上記設定内容としての「第3設定内容」の一例である。第4熱処理温度Tc4(第4設定値)は、上記設定内容としての「第4設定内容」の一例である。また、第1設定内容としての第1熱処理温度Tc1(第1設定値)を含む入力情報を「第1入力情報」と称し、第2設定内容としての第2熱処理温度Tc2(第2設定値)を含む入力情報を「第2入力情報」と称し、第3設定内容としての第3熱処理温度Tc3(第3設定値)を含む入力情報を「第3入力情報」と称し、第4設定内容としての第4熱処理温度Tc4(第4設定値)を含む入力情報を「第4入力情報」と称する。すなわち、4つの入力情報は、第1入力情報、第2入力情報、第3入力情報、および第4入力情報を含む。言い換えれば、4つの入力情報は、第1設定値、第2設定値、第3設定値、および第4設定値を含む。
【0030】
(支援装置)
支援装置20は、入力用装置10から受信した入力情報を処理することで支援情報を生成する。本実施形態では、支援装置20は、生成した支援情報を表示用装置30に送信する。
図2に示すように、支援装置20は、例えば、情報取得部21と、予測値取得部22と、第1回帰式導出部23(回帰式導出部)と、判定部24と、第2回帰式導出部25(回帰式導出部)と、設定内容取得部26と、記憶部27とを備えている。
【0031】
(情報取得部)
情報取得部21は、入力用装置10から入力情報(第1入力情報~第4入力情報)、および目標とする特性値(例えば目標とする0.2%耐力)を示す情報を受け付けることで取得する。情報取得部21は、設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報を取得する。本実施形態では、情報取得部21は、設定内容(時効熱処理工程S3cでの熱処理温度)が互いに異なる4つの入力情報を取得する。情報取得部21は、設定内容が互いに異なる4つの入力情報を予測値取得部22、第1回帰式導出部23、および第2回帰式導出部25に送る。また、情報取得部21は、目標とする特性値を示す情報を設定内容取得部26に送る。
【0032】
(予測値取得部)
予測値取得部22は、情報取得部21から受け付けた、設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報から、2つ以上の入力情報に対応する2つ以上の予測値を取得する。ここでいう「予測値」は、試験片Wの特性に関する予測値である。本実施形態では、予測値取得部22は、情報取得部21から受け付けた、設定内容が互いに異なる4つの入力情報(第1入力情報~第4入力情報)を用いて、これら4つの入力情報に対応した4つの予測値を取得する。
【0033】
予測値取得部22は、情報取得部21から受け付けた1つの入力情報が入力された場合に、当該入力情報に対応する1つの予測値を出力するように機械学習が行われた学習済みモデルを用いて、予測値を取得する。以下、予測値取得部22が複数の予測値の取得に用いる学習済みモデルを「予測モデルM」と称する。予測モデルMは、例えば記憶部27に予め記憶されている。本実施形態では、予測値取得部22は、記憶部27に記憶されている予測モデルMに情報取得部21から受け付けた入力情報を順次に4つ入力することで、入力された入力情報に対応する予測値(上記入力に対する出力)を順次に4つ取得する。本実施形態では、予測値は、試験片Wの特性の予測値であり、試験片Wの0.2%耐力の予測値である。予測モデルMには、例えば回帰型の機械学習モデルが採用される。一例として、予測モデルMは、例えば、決定木系の機械学習アルゴリズムである。予測値取得部22は、取得した4つの予測値(後述の代表値、
図4参照)を第1回帰式導出部23および第2回帰式導出部25に送る。
【0034】
試験装置により実際に取得された試験片Wの特性(以下、観測値と称する場合がある)と、上述の学習が済んだ予測モデルMにより予測された試験片Wの特性(予測値)との関係を、複数のプロットを用いて
図3に一例として示す。
図3中に示すプロットは、発明者らによる解析により得られた結果である。
図3中に示す実線は、観測値と予測値とが互いに一致した点の集合であり、「±3SE」で示された両矢印は、全標本のデータから求められた標準誤差(SE:Standard Error)の3倍の範囲(2つの点線に挟まれた領域)を示している。
図3中に示す結果より、観測値と、予測モデルMによる予測値とが概ね一致していることが把握される。
【0035】
予測値取得部22が取得する4つの予測値と、取得した4つの予測値の各々に対応した複数の入力情報の一例を下記表2に示す。
【0036】
【0037】
表2中に示す「〇.〇〇(%)」、「×.××(%)」、「△.△△(%)」、および「□.□□(%)」は、母材Xの成分組成を示しており、各入力情報で同一の割合を示す、各入力情報で同一の割合を示す。安定化時間に対応する「t1(時間)」は、溶体化熱処理工程S3aで実行されるタービン翼100の熱処理にかける時間を示しており、各入力情報で同一の時間を示す。安定化時間に対応する「t2(時間)」は、安定化熱処理工程S3bで実行されるタービン翼100の熱処理にかける時間を示しており、各入力情報で同一の時間を示す。時効時間に対応する「t3(時間)」は、時効熱処理工程S3cで実行されるタービン翼100の熱処理にかける時間を示しており、各入力情報で同一の時間を示す。溶体化温度に対応する「Ta(℃)」は、溶体化熱処理工程S3aで実行される熱処理の温度帯の中心温度を示しており、各入力情報で同一の温度を示す。安定化温度に対応する「Tb(℃)」は、安定化熱処理工程S3bで実行される熱処理の温度帯の中心温度を示しており、各入力情報で同一の温度を示す。時効温度に対応する「Tc1(℃)、Tc2(℃)、Tc3(℃)、Tc4(℃)」は、上記予測モデルMにより予測された4つの予測値の各々に対応した、時効熱処理工程S3cで実行される熱処理の温度帯の中心温度を示している。特性の予測値に対応する「σ1(MPa)、σ2(MPa)、σ3(MPa)、σ4(MPa)」は、予測モデルMにより予測された4つの予測値(0.2%耐力)を示している。なお、表2中に示すσ1~σ4の大小関係は、例えば、下記式(iv)で表される。
σ1>σ2>σ3>σ4>0 …(iv)
【0038】
上記予測モデルMは、1つの入力情報が入力されるとともに、当該入力情報に対する正解データである、試験装置により実際に取得された試験片Wの特性が教示される学習ステップが、複数回(例えば数十回以上)繰り返されることで生成される(学習される)。すなわち、予測モデルMは、設定内容としての時効熱処理工程S3cでの熱処理温度(第1熱処理温度Tc1~第4熱処理温度Tc4)が互いに異なる入力情報(第1入力情報~第4入力情報)が順次に入力されるとともに、実際に取得された試験片Wの特性(0.2%耐力)が教示されるステップが繰り返されることで教示されている。
【0039】
ここで、第1熱処理温度Tc1(第1設定値)、第2熱処理温度Tc2(第2設定値)、第3熱処理温度Tc3(第3設定値)、および第4熱処理温度Tc4(第4設定値)の選択のされ方について説明する。当該説明に当たり、試験片Wに関する実績データの数のヒストグラムの一例を
図4に示す。ここでいう「実績データ」は、過去に複数回実行されたタービン翼100の製造における強度試験工程S4で取得された特性を示しており、当該実績データの数は、
図4中における右側の縦軸に基づき示されている。
図4中で横軸に基づき示される「熱処理温度」は、強度試験工程S4の前工程である時効熱処理工程S3cで設定された熱処理温度(設定値)を意味している。また、
図4中に示す「予測値」の複数のプロットは、予測モデルMにより予測された試験片Wの予測値(4つよりも多い)を熱処理温度ごとに等間隔に並べたものである。また、
図4中に示す「代表値」は、上記第1設定値(第1熱処理温度Tc1)、第2設定値(第2熱処理温度Tc2)、第3設定値(第3熱処理温度Tc3)、および第4設定値(第4熱処理温度Tc4)のそれぞれに対応した予測値である。代表値は、後述の回帰式を導出するために選択された試験片Wの特性の予測値である。
【0040】
図4に示すように、設定内容としての第1熱処理温度Tc1~第4熱処理温度Tc4は、第1領域R1および第2領域R2から選択可能である。第1領域R1は、試験片Wに関する実績データの数が所定量V未満である第1量V1で存在し、熱処理温度帯と共に画定された領域である。第1領域R1は、第1熱処理温度Tc1を含み、第2熱処理温度Tc2を含まない。第2領域R2は、試験片Wに関する実績データの数が第1量よりも多い領域である。第2領域R2は、試験片Wに関する実績データの数が所定量V以上の第2量V2で存在する領域であり、熱処理温度帯とともに画定された領域である。第2領域R2は、第2熱処理温度Tc2、第3熱処理温度Tc3、および第4熱処理温度Tc4を含む。第1設定内容は、第1領域R1から選択される。一方、第2設定内容、第3設定内容、および第4設定内容は、第2領域R2から選択される。つまり、本実施形態では、実績データが比較的多い領域(第2領域R2)で相対的に多い数(例えば3点)の予測値を取るとともに、実績データが比較的少ない領域(第1領域R1)で相対的に少ない数(例えば1点)の予測値を取られる。
【0041】
また、第1設定値(第1熱処理温度Tc1)、第2設定値(第2熱処理温度Tc2)、第3設定値(第3熱処理温度Tc3)、第4設定値(第4熱処理温度Tc4)は、この順に大きくなる。また、本実施形態では、第1設定値と第2設定値との差である第1差分と、第2設定値と第3設定値との差である第2差分と、第3設定値と第4設定値との差である第3差分とが異なる。具体的には、第1差分は、第2差分よりも大きい。また、第2差分は、第3差分よりも大きい。すなわち、第1差分、第2差分、第3差分は、この順に小さくなる(第1差分>第2差分>第3差分)。このような差分をつけてとることで、実績データが比較的多い領域(第2領域R2)で相対的に多い数(例えば3点)の予測値を取るとともに、実績データが比較的少ない領域(第1領域R1)で相対的に少ない数(例えば1点)の予測値を取ることができる。
【0042】
(第1回帰式導出部)
図2に戻り、第1回帰式導出部23は、情報取得部21から受け付けた2つ以上の入力情報に含まれる設定内容と、予測値取得部22から受け付けた2つ以上の予測値(代表値)とに基づき、設定内容と特性との関係を示す回帰式を導出する。本実施形態における第1回帰式導出部23は、4つの入力情報に含まれる設定内容のうち時効熱処理工程S3cでの熱処理温度(以下、時効熱処理温度と称する)と、各々の時効熱処理温度に対応する予測値(4つ)とに基づき、回帰式を導出する。具体的には、第1回帰式導出部23は、時効熱処理温度と特性との一般的な関係に基づき各項の次数が設定された2次多項式を用いて、4つの時効熱処理温度と4つの予測値とに基づき2次多項式に含まれる変数係数(後述の材料定数)の値を回帰分析などの方法により決定することで上記回帰式を導出する。ここでいう「一般的な関係」は、例えば、物理現象が反映された関係を意味する。当該2次多項式は、予め設定された「第1数式」の一例である。2次多項式(A:時効熱処理温度)は、例えば、下記式(v)で表される。
A=a
0+a
1σ
y+a
2σ
y^2 …(v)
【0043】
上記式(v)中に示されるa
0、a
1、a
2は、いずれも上記回帰分析により求められる定数(材料定数)を示す。σ
yは、試験片Wの特性を示す。
図4中では、第1回帰式導出部23により導出された回帰式(A)の一例を示している。試験片Wの特性は、
図4中で左側の縦軸に基づき示されている。
【0044】
第1回帰式導出部23は、導出した回帰式を判定部24、第2回帰式導出部25、および設定内容取得部26に送る。なお、上記2次多項式は、記憶部27に予め記憶されている。第1回帰式導出部23は、記憶部27に記憶されている2次多項式を適時に参照することで回帰式の導出を行う。また、第1回帰式導出部23が回帰式の導出に当たって用いる第1数式は、2次多項式に限定されることはなく、例えば1次多項式や3次以上の多項式、単項式などであってもよい。
【0045】
(判定部)
判定部24は、第1回帰式導出部23から受け付けた回帰式が所定条件を満たすか否かを判定する。ここでいう「所定条件」は、物理現象と整合するか否かを判定するための所定条件である。本実施形態では、判定部24が判定に用いる所定条件は、回帰式に含まれる項のうち最も次数が大きい項が負の値であることを示す。すなわち、所定条件を満たす場合、回帰式は上に凸の状態(例えば
図4中に示すような回帰式が右上に凸の状態)を示し、所定条件を満たさない場合、回帰式は下に凸の状態(例えば左下に凸の状態)を示す。すなわち、判定部24は、回帰式が上に凸である場合に、「所定条件を満たす」と判定し、回帰式が下に凸である場合に、「所定条件を満たさない」と判定する。判定部24は、判定の結果を第2回帰式導出部25に送る。
【0046】
(第2回帰式導出部)
第2回帰式導出部25は、判定部24から受け付けた判定の結果が「所定条件を満たさない」ことを示す場合に、回帰式を導出し直す(再導出する)。第2回帰式導出部25は、情報取得部21から受け付けた2つ以上の入力情報に含まれる設定内容と、予測値取得部22から受け付けた2つ以上の予測値とに基づき、設定内容と特性との関係を示す回帰式を導出する。本実施形態における第2回帰式導出部25は、4つの入力情報に含まれる設定内容のうち時効熱処理温度と、各々の時効熱処理温度に対応する予測値(4つ)とに基づき、回帰式を導出する。具体的には、第2回帰式導出部25は、時効熱処理温度と特性との一般的な関係に基づき各項の次数が設定された1次多項式を用いて、4つの時効熱処理温度と4つの予測値とに基づき1次多項式に含まれる変数係数(材料定数)の値を回帰分析などの方法により決定することで上記回帰式を導出する。当該1次多項式は、予め設定された「第2数式」の一例である。すなわち、第2数式は、上記第1数式とは項の次数が異なる。1次多項式(B:時効熱処理温度)は、例えば、下記式(vi)で表される。
B=a3+a4σy …(vi)
【0047】
式(vi)中に示されるa3、a4は、いずれも上記回帰分析により求められる定数(材料定数)を示す。σyは、試験片Wの特性を示す。第2回帰式導出部25は、導出した回帰式を設定内容取得部26に送る。なお、上記1次多項式は、記憶部27に予め記憶されている。第2回帰式導出部25は、記憶部27に記憶されている1次多項式を適時に参照することで回帰式の導出を行う。また、第2回帰式導出部25が回帰式の導出に当たって用いる第2数式は、1次多項式に限定されることはなく、例えば3次以上の多項式、単項式などであってもよい。
【0048】
(設定内容取得部)
設定内容取得部26は、第1回帰式導出部23または第2回帰式導出部25から受け付けた回帰式に基づき、目標とする試験片Wの特性に対応する設定内容を取得する。ここでいう「目標とする試験片Wの特性」は、例えば、強度試験工程S4で用いられる、予め規定された(許容された)管理値幅の範囲に含まれる特性を意味している。以下、説明の便宜上、目標とする試験片Wの特性を「目標特性」と称する。目標特性には、例えば、上記管理値幅の上限値および下限値の間における真ん中の値などが採用される。設定内容取得部26は、当該目標特性に対応する時効熱処理温度(最適温度)を設定内容として、回帰式から取得する。具体的には、設定内容取得部26は、導出した上記回帰式(上記式(v)または(vi))のσyに目標とする特性(σ)を代入して、設定内容としての時効熱処理温度(AまたはB)を取得する。本実施形態では、設定内容取得部26は、取得した設定内容である時効熱処理温度を、支援情報として表示用装置30に送信する。
【0049】
(表示用装置)
表示用装置30は、設定内容取得部26から受け付けた支援情報としての設定内容(時効熱処理温度)を表示する。表示用装置30は、例えば、タービン翼100の製造や設計に係るオペレータに設定内容を表示するためのディスプレイである。表示用装置30が設定内容を表示することにより、例えばオペレータは、表示された設定内容に基づきタービン翼100を製造することができる。
【0050】
(支援装置の動作)
続いて、
図5を参照して本実施形態における支援装置20の動作の一例について説明する。ただし、以下に説明する処理の順番は、以下の例に限定されず、適宜入れ替えられてもよい。
【0051】
情報取得部21は、入力用装置10から複数の入力情報を受け付けることで取得する(ステップS10)。次いで、予測値取得部22は、予測モデルMを用いて、情報取得部21から受け付けた設定内容が互いに異なる2つ以上(4つ)の入力情報から、2つ以上(4つ)の入力情報に対応する2つ以上(4つ)の予測値を取得する(ステップS11)。次いで、第1回帰式導出部23は、情報取得部21から受け付けた2つ以上(4つ)の入力情報に含まれる設定内容と、予測値取得部22から受け付けた2つ以上(4つ)の予測値とに基づき、設定内容と特性との関係を示す回帰式を導出する(ステップS12)。次いで、判定部24は、第1回帰式導出部23から受け付けた回帰式が所定条件を満たすか否かを判定する(ステップS13)。判定部24による判定の結果が「所定条件を満たす」ことを示す場合(ステップS13:YES)、設定内容取得部26は、目標とする試験片Wの特性に対応する設定内容を支援情報として取得する(ステップS14)。ステップS14の処理が終了した場合、動作を終了する。一方、判定部24による判定の結果が「所定条件を満たさない」ことを示す場合(ステップS13:NO)、第2回帰式導出部25は、回帰式を導出し直す(ステップS15)。ステップS15の処理が終了した場合、ステップS14の処理に進む。
【0052】
以上説明した支援装置20の動作は、タービン翼100の製造・設計段階などで繰り返し実行される。
【0053】
(作用・効果)
予測モデルMを機械学習させるための実績データが少ない領域(例えば
図3中に示した第1領域R1)では、予測モデルMによる、熱処理温度に対する予測値(特性)の精度が低下する場合がある。すなわち、実際に取得される対象部品の特性(観測値)と、対象部品の特性の予測値との間に乖離が生じる場合がある。特に、予測値の予測に決定木系の機械学習アルゴリズムが採用された場合、他の機械学習アルゴリズムと比較して、上記の傾向が顕著に表れる。また、調達された母材Xの材料データには偏りがある場合があり、実績データが取得された時の製造条件とは異なる製造条件下では、予測モデルMによる十分な特性の予測精度が得られない場合がある。
【0054】
上述した支援システム1では、2つ以上の入力情報に含まれる設定内容と、2つ以上の予測値とに基づき、設定内容と特性との関係を示す回帰式を導出し、当該回帰式に基づき、目標とする特性に対応する設定内容が取得される。すなわち、予測モデルMにより出力された予測値を回帰式により再び回帰させている。したがって、実績データがない(または少ない)領域でも、実績データがある(例えば多い)領域の予測結果を反映させて予測値を予測することができる。その結果、実績データがない(または少ない)領域でも特性の予測精度を向上させることができる。
【0055】
また、回帰の結果である回帰式から目標となる特性に応じた設定内容が取得されている。つまり、特性の予測精度が向上した状態で、必要な設定値(熱処理温度)を精度よく見つけることができる。これにより、特定の設定内容に関する実績データが少ない領域でも、実際に取得される特性と、支援装置20が最終的に出力した設定内容に基づき製造された対象部品の特性との間に乖離が生じることを抑制できる。このため、例えば、支援装置20が最終的に出力する設定内容に基づき製造された対象部品の特性を、目標とする特性に近づけることができる。その結果、製造された部品の特性が管理範囲に入りやすく、追加作業の削減や歩留まり向上を期待することができる。
【0056】
図6は、本実施形態に係る支援装置20が最終的に出力する支援情報である設定内容(設定内容取得部26が取得した設定内容)に基づき製造された複数の対象部品の特性の分布(D1)、および支援システム1を用いずに製造された複数の対象部品の特性の分布(D2)の一例を示している。
図6中に示すグラフは、発明者らによる解析により得られた結果である。
図6に示す結果より、D2に対して、D1の平均が特性の管理値範囲の上限値(σ
u)および下限値(σ
d)の間における真ん中の値に近づいている。また、D2に対して、D1のばらつきが小さく抑えられていることが把握される。つまり、上述した支援システム1を利用することにより、製造された複数の対象部品の特性の分布が適正化されている。
【0057】
<支援システムの第2実施形態>
次に、本開示に係る支援システム1の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、第2回帰式導出部25が、上記の第1実施形態で説明した第2回帰式導出部25と異なっている。
【0058】
本実施形態では、第2回帰式導出部25は、第1実施形態で説明した回帰式の導出動作に加えて、判定部24から受け付けた判定の結果が「所定条件を満たさない」ことを示す場合に、所定条件が満たされないことを報知する。具体的には、第2回帰式導出部25は、例えば、所定条件が満たされない旨を表示用装置30に送信することで報知する。この場合、表示用装置30は、第2回帰式導出部25から受け付けた所定条件が満たされない旨を表示する。表示用装置30が上記旨を表示することにより、例えばオペレータは、設定内容などを変更することができる。
【0059】
図7を参照して本実施形態における支援装置20の動作の一例について説明する。
【0060】
ステップS12の処理に次いで、判定部24は、第1回帰式導出部23から受け付けた回帰式が所定条件を満たすか否かを判定する(ステップS13)。判定部24による判定の結果が「所定条件を満たす」ことを示す場合(ステップS13:YES)、設定内容取得部26は、目標とする試験片Wの特性に対応する設定内容を取得する(ステップS14)。一方、判定部24による判定の結果が「所定条件が満たされない」ことを示す場合(ステップS13:NO)、第2回帰式導出部25は、所定条件が満たされないことを報知する(ステップS16)。そして、ステップS16の処理が終了した場合、例えばオペレータにより選択された別の数式に基づき回帰式を導出し直すことで、目標となる特性に対応する熱処理温度を導出した後、動作を終了する。
【0061】
以上説明した支援装置20の動作は、タービン翼100の製造・設計段階などで繰り返し実行される。
【0062】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成は各実施形態の構成に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内での構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0063】
例えば、上述した支援システム1で導出される設定内容は、熱処理温度に限定されることはなく、熱処理時間などであってもよい。また、支援システム1の対象とする工程は、熱処理工程S3に限らず、鍛造工程S2や、その他の工程の製造条件などであってもよい。また、導出される設定内容は、母材Xの成分組成であってもよい。すなわち、材料選定や材料設計などが対象であってもよい。
【0064】
また、上述した支援システム1の適用対象(対象部品)は、長翼の熱処理に限定されることはない。具体的には、支援システム1の対象部品は、長翼に限定されることはなく、いかなる製品であってもよい。
【0065】
(コンピュータの構成)
図8は、上述した各実施形態に係るコンピュータの構成を示すハードウェア構成図である。コンピュータは、プロセッサと、メインメモリと、ストレージと、インターフェースとを備えている。
【0066】
上述の支援装置20は、1以上のコンピュータに実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージに記憶されている。プロセッサは、プログラムをストレージから読み出してメインメモリに展開し、当該プログラムにしたがって上記処理を実行する。また、プロセッサは、プログラムにしたがって、上述した記憶部27に対応する記憶領域をメインメモリに確保する。プログラムは、コンピュータに発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。また、コンピュータは、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部またはすべてが当該集積回路によって実現されてよい。
【0067】
ストレージの例としては、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどが挙げられる。ストレージは、コンピュータのバスに直接的に接続された内部メディアであってもよいし、インターフェースまたは通信回線を介してコンピュータに接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータに配信される場合、配信を受けたコンピュータが当該プログラムをメインメモリに展開し、上記処理を実行してもよい。上記実施形態では、ストレージは、一時的でない有形の記憶媒体である。また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0068】
<付記>
実施形態に記載の支援システムおよび支援方法は、例えば以下のように把握される。
【0069】
(1)第1の態様に係る支援システム1は、対象部品の成分組成と製造条件とのうち少なくとも一方に関する設定内容を含む入力情報が入力された場合に、前記対象部品の特性に関する予測値を出力するように機械学習が行われた予測モデルMを用いて、前記設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報に基づき、前記2つ以上の入力情報に対応する2つ以上の予測値を取得する予測値取得部22と、前記2つ以上の入力情報に含まれる前記設定内容と、前記2つ以上の予測値とに基づき、前記設定内容と前記特性との関係を示す回帰式を導出する回帰式導出部と、前記回帰式に基づき、目標とする前記特性に対応する前記設定内容を取得する設定内容取得部26と、を備える。
【0070】
これにより、予測モデルMにより出力された予測値を回帰式により再び回帰させている。したがって、例えば実績データがない(または少ない)領域でも、実績データがある(例えば多い)領域の予測結果を反映させて予測することができる。その結果、実績データがない(または少ない)領域でも予測精度を向上させることができる。
【0071】
(2)第2の態様に係る支援システム1は、(1)の支援システム1であって、前記設定内容は、前記対象部品に関する熱処理温度を含み、前記特性は、前記対象部品の強度であってもよい。
【0072】
これにより、目標となる対象部品の強度(0.2%耐力)を、互いに値が異なる2つ以上の熱処理温度を用いて予測モデルMから取得することができる。当該熱処理温度は、熱処理後の対象部品の強度に影響する。したがって、上記作用をより高精度に実現することができる。
【0073】
(3)第3の態様に係る支援システム1は、(2)の支援システム1であって、前記入力情報は、前記設定内容に加え、前記対象部品の成分組成と、前記対象部品に関する熱処理時間とを含んでもよい。
【0074】
これにより、目標となる対象部品の強度(0.2%耐力)を、熱処理温度、対象部品の成分組成、および熱処理時間を用いて予測モデルMから取得することができる。対象部品の成分組成は、対象部品の強度を規定する。また、熱処理時間は、熱処理後の対象部品の強度に影響する。したがって、予測モデルMに入力される設定内容が増加するため、上記作用をより高精度に実現することができる。
【0075】
(4)第4の態様に係る支援システム1は、(1)から(3)のうちいずれか1つの支援システム1であって、前記回帰式導出部は、前記設定内容と前記特性との一般的な関係に基づき項の次数が設定された単項式または多項式である数式を用いて、前記2つ以上の入力情報に含まれる前記設定内容と前記2つ以上の予測値とに基づき前記数式に含まれる定数の値を決定することで前記回帰式を導出してもよい。
【0076】
これにより、設定内容と特性との一般的な関係に基づき項の次数が設定された数式、すなわち、物理現象が反映された数式を用いて回帰式が導出されている。このため、数式に含まれる定数の値を、設定内容と特性との間に理論上生じる実際の対応関係により示される値に近づけることができる。すなわち、上記作用をより高精度に実現することができる。
【0077】
(5)第5の態様に係る支援システム1は、(1)から(4)のうちいずれか1つの支援システム1であって、前記回帰式導出部は、予め設定された第1数式を用いて前記回帰式を導出した場合において、前記回帰式が示す前記設定内容と前記特性との関係が所定条件を満たさない場合は、前記第1数式とは項の次数が異なる第2数式を用いて前記回帰式を導出し直してもよい。
【0078】
これにより、一度導出した回帰式の所定条件が満たされない場合(導出した回帰式が物理現象に沿わない場合)であっても、項の次数が異なる数式を用いて回帰式が再導出されるため、数式に含まれる定数の値を、設定内容と特性との間に理論上生じる実際の対応関係により示される値に近づけることができる。すなわち、上記作用をより高精度に実現することができる。
【0079】
(6)第6の態様に係る支援システム1は、(1)から(5)のうちいずれか1つの支援システム1であって、前記回帰式導出部は、予め設定された第1数式を用いて前記回帰式を導出した場合において、前記回帰式が示す前記設定内容と前記特性との関係が所定条件を満たさない場合は、前記所定条件が満たされないことを報知してもよい。
【0080】
これにより、例えばオペレータは、回帰式が所定条件を満たしていないことを把握することができるため、オペレータが設定内容を変更することができる。したがって、オペレータにより設定内容が改善されるため、予測モデルMによる予測精度を向上させることができる。言い換えれば、予測モデルMによる予測をオペレータの判断に近づけることができる。
【0081】
(7)第7の態様に係る支援システム1は、(1)から(6)のうちいずれか1つの支援システム1であって、前記予測値取得部22は、前記設定内容が互いに異なる3つ以上の入力情報に基づき、前記3つ以上の入力情報に対応する3つ以上の予測値を取得し、前記3つ以上の入力情報は、前記設定内容として第1設定内容を含む第1入力情報と、前記設定内容として第2設定内容を含む第2入力情報と、前記設定内容として第3設定内容を含む第3入力情報とを含み、前記設定内容は、前記対象部品に関する実績データが所定量V未満である第1領域と、前記対象部品に関する実績データが前記所定量V以上である第2領域R2から選択可能であり、前記第1設定内容は、前記第1領域R1から選択され、前記第2設定内容および前記第3設定内容は、前記第2領域R2から選択されてもよい。
【0082】
これにより、実績データが比較的多い領域(所定量V以上の第2領域R2)で相対的に多い数の設定内容が取られ、実績データが比較的少ない領域(所定量V未満の第1領域R1)で相対的に少ない数の設定内容が取られるため、実績データがない(または少ない)領域で予測精度を向上させることができる。
【0083】
(8)第8の態様に係る支援システム1は、(1)から(6)のうちいずれか1つの支援システム1であって、前記予測値取得部22は、前記設定内容である設定値が互いに異なる3つ以上の入力情報に基づき、前記3つ以上の入力情報に対応する3つ以上の予測値を取得し、前記3つ以上の入力情報は、前記設定値として第1設定値を含む第1入力情報と、前記設定値として第2設定値を含む第2入力情報と、前記設定値として第3設定値を含む第3入力情報とを含み、前記第1設定値、前記第2設定値、前記第3設定値は、この順に大きくなり、前記第1設定値と前記第2設定値との差である第1差分と、前記第2設定値と前記第3設定値との差である第2差分とが異なってもよい。
【0084】
これにより、設定値同士の差分(第1差分)が比較的大きい(設定値同士の間隔が比較的疎である)2つの設定値(第1設定値および第2設定値)と、設定値同士の差分(第2差分)が比較的小さい(設定値同士の間隔が比較的密である)2つの設定値(第2設定値および第3設定値)を入力情報が含んでいる。このため、例えば、実績データがない(または少ない)領域から、第1差分がある2つの設定値の少なくとも一方を取り、実績データがある(例えば多い)領域から、第2差分がある2つの設定値の少なくとも一方を取ることができる。その結果、例えば実績データがない(または少ない)領域でも予測精度を向上させることができる。
【0085】
(9)第9の態様に係る支援方法は、1つ以上のコンピュータが、対象部品の成分組成と製造条件とのうち少なくとも一方に関する設定内容を含む入力情報が入力された場合に、前記対象部品の特性に関する予測値を出力するように機械学習が行われた予測モデルMを用いて、前記設定内容が互いに異なる2つ以上の入力情報に基づき、前記2つ以上の入力情報に対応する2つ以上の予測値を取得し、前記2つ以上の入力情報に含まれる前記設定内容と、前記2つ以上の予測値とに基づき、前記設定内容と前記特性との関係を示す回帰式を導出し、前記回帰式に基づき、目標とする前記特性に対応する前記設定内容を取得する、ことを含む。
【符号の説明】
【0086】
1…支援システム 10…入力用装置 20…支援装置 21…情報取得部 22…予測値取得部 23…第1回帰式導出部 24…判定部 25…第2回帰式導出部 26…設定内容取得部 27…記憶部 30…表示用装置 100…タービン翼 S0…タービン翼の製造方法 S1…調達工程 S2…鍛造工程 S3…熱処理工程 S3a…溶体化熱処理工程 S3b…安定化熱処理工程 S3c…時効熱処理工程 S4…強度試験工程 S5…仕上げ工程 M…予測モデル W…試験片 X…母材