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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107798
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】遺伝子改変非ヒト動物
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20240101AFI20240802BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240802BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240802BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240802BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N5/071
C12Q1/04
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011904
(22)【出願日】2023-01-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) 開催日 2022年2月11日 集会名、開催場所 第25回アディポサイエンス・シンポジウム(現地開催とオンライン開催とのハイブリッド開催) 開催場所:千里ライフサイエンスセンター(大阪府豊中市新千里東町1-4-2) (その2) 発行日 2022年2月11日 刊行物 第25回アディポサイエンス・シンポジウム 要旨集 (その3) ウェブサイトの掲載日 2022年2月11日 ウェブサイトのアドレス https://westmice-jtb.box.com/s/ub7e6wp15y7mw0pp473mpk3kage9n58o (その4) 開催日 2022年5月12日(現地開催期間:2022年5月12日から2022年5月14日)(オンデマンド配信期間:2022年6月1日から2022年6月30日) 集会名、開催場所 第65回日本糖尿病学会年次学術集会(現地開催とライブ配信とのハイブリッド開催) 開催場所:神戸ポートピアホテル(兵庫県神戸市中央区港島中町6-10-1) 神戸国際展示場(兵庫県神戸市中央区港島中町6-11-1) 神戸国際会議場(兵庫県神戸市中央区港島中町6-9-1) (その5) ウェブサイトの掲載日 2022年4月26日 ウェブサイトのアドレス https://site.convention.co.jp/65jds/ https://site.convention.co.jp/65jds/program/ https://site.convention.co.jp/65jds/wp/wp-content/uploads/2022/04/program.pdf (その6) 発行日 2022年5月12日 刊行物 第65回日本糖尿病学会年次学術集会 ポケットプログラム
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その7) 発行日 2022年4月30日 刊行物 第65回日本糖尿病学会年次学術集会 抄録集 (その8) ウェブサイトの掲載日 2022年4月26日 ウェブサイトのアドレス http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=65 (その9) 開催日 2022年12月3日 集会名、開催場所 第33回分子糖尿病学シンポジウム(現地開催とオンライン開催とのハイブリッド開催) 開催場所:KDDI維新ホール(山口県山口市小郡令和1丁目1-1) (その10) ウェブサイトの掲載日 2022年11月30日 ウェブサイトのアドレス http://www.wakayamanet.or.jp/mol-dm/information.html http://www.wakayamanet.or.jp/mol-dm/33th_program.pdf?1125 (その11) 開催日 2023年1月28日(開催期間:2023年1月27日~28日) 集会名、開催場所 第26回アディポサイエンス・シンポジウム(現地開催とオンライン開催とのハイブリッド開催) 開催場所:千里ライフサイエンスセンター(大阪府豊中市新千里東町1-4-2) (その12) 発行日 2023年1月27日 刊行物 第26回アディポサイエンス・シンポジウム 要旨集 参加者のみにメールでPDFデータを送付
(71)【出願人】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森野 勝太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅原 礼知安
(72)【発明者】
【氏名】藤田 征弘
(72)【発明者】
【氏名】久米 真司
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ61
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS28
4B063QX01
4B065AA91X
4B065AA91Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物及び当該遺伝子改変非ヒト動物を利用した治療及び予防薬候補物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物、並びにmiR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物に被験物質を投与する工程、及び被験物質が投与された前記非ヒト動物の表現型を評価する工程を含む、老化に伴う疾患及び/又は不安に関する疾患の治療及び/又は予防薬候補物質のスクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項2】
前記非ヒト動物が、げっ歯類動物又はマカク属動物である、請求項1に記載の非ヒト動物。
【請求項3】
前記非ヒト動物が、マウス、ラット、又はアカゲザルである、請求項1に記載の非ヒト動物。
【請求項4】
対応する野生型非ヒト動物と比較して、寒冷耐性、寿命延長、加齢変化抑制作用、運動能力、及び抗不安関連行動からなる群から選択される少なくとも1種が向上している、請求項1~3のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の非ヒト動物に発生する、受精卵。
【請求項6】
miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物に被験物質を投与する工程、及び
被験物質が投与された前記非ヒト動物の表現型を評価する工程
を含む、老化に伴う疾患及び/又は不安に関する疾患の治療及び/又は予防薬候補物質のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記老化に伴う疾患が、筋骨格系の変化、神経変性疾患、心血管疾患、代謝疾患、悪性腫瘍、及び皮膚疾患からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子改変非ヒト動物に加えて、対応する野生型非ヒト動物を使用する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
初代細胞又は株化細胞に被験物質を添加し、miR-494若しくはその類縁体の存在下、又はmiR-494産生促進剤の存在下に培養する工程、及び
前記細胞の表現型を評価する工程
を含む、miR-494阻害剤候補物質のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子改変非ヒト動物、治療及び予防薬候補物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
microRNA(miRNA)は15-25塩基長の1本鎖RNA分子でありヒトを含む真核生物において、遺伝子の転写後発現調節に関与する。ヒトゲノムには1,000以上のmiRNAがコードされていると考えられている。miRNAは細胞内に生成されたmRNAに対して塩基配列の相同性により結合する。標的となる遺伝子の非翻訳領域である3’UTRを認識して、標的mRNAを不安定化するとともに翻訳抑制を行うことでタンパク質産生を抑制する。miRNAによる転写後調節は、発生、細胞増殖、細胞分化、アポトーシス、代謝といった広範な生物学的プロセスを微調整していることが知られている。
【0003】
また、細胞から血中に分泌されているエクソソームと呼ばれる脂質膜によって守られた粒子内にはmiRNAが存在することが知られており、miRNAは生成された細胞のみならず、血流によって遠隔地の臓器や組織へも運ばれ、その局所細胞での生理機能の調整も行っていると考えられている。
【0004】
miR-494はマウス、ラットといったげっ歯類とヒトで塩基配列が種を超えて保存されており、ヒトやげっ歯類由来の培養細胞やがん細胞を用いた実験で、細胞分化、癌化、代謝の調節を行っていることが明らかとなっている。ヒトの血中にもmiR-494が検出され、癌患者での上昇などの報告がある。
【0005】
本発明者らは、これまで、miR-494がミトコンドリア機能を抑制することを報告している(非特許論文1-4)。
【0006】
microRNAを活性化したり抑制したりする方法としてmicroRNA mimicや、microRNA阻害薬が試薬として発売されており、培養細胞を用いた場合は、費用や実験精度に問題は無い。しかしながら、これらの試薬を動物に長期にわたり投与するには莫大な資金が必要なうえに、microRNA阻害薬の阻害作用を評価するにはマーカーとなる標的遺伝子を同定する必要があり、全身投与の前に十分なスクリーニングが必要である。また、一般にmicroRNAの標的は1つのmicroRNAにつき100遺伝子以上あると言われており、生体に及ぼす多様な影響を事前に確認することは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yamamoto H, Morino K, et al. MicroRNA (miRNA)-494 regulates mitochondrial biogenesis in skeletal muscle through mitochondrial transcriptional factor A (mtTFA) and forkhead box j3 (Foxj3). Am J Physiol Endocrinol Metab. 303:E1419-27, 2012
【非特許文献2】Iwasaki H, Imamura T, Morino K, Shimosato T, Tawa M, Ugi S, Sakurai H, Maegawa H, Okamura T. MicroRNA-494 plays a role in fiber type-specific skeletal myogenesis in human induced pluripotent stem cells. Biochem Biophys Res Commun. 468:208-13, 2015
【非特許文献3】Lemecha M, Morino K, Imamura T, Iwasaki H, Ohashi N, Ida S, Sato D, Sekine O, Ugi S, Maegawa H. MiR-494-3p regulates mitochondrial biogenesis and thermogenesis through PGC1-α signalling in beige adipocytes. Sci Rep. 8:15096, 2018
【非特許文献4】Iwasaki H, Ichihara Y, Morino K et al. MicroRNA-494-3p inhibits formation of fast oxidative muscle fibres by targeting E1A-binding protein p300 in human-induced pluripotent stem cells. Sci Rep. 11:1161, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物及び当該遺伝子改変非ヒト動物を利用した治療及び予防薬候補物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のように、本発明者らはこれまで、miR-494がミトコンドリア機能を抑制することを報告してきた。しかしながら、これまでの研究は、主として培養細胞を用いた研究であり、必ずしもin vivoでの生理現象を表現したデータではなかった。そこで、本発明者らは、miR-494全身ノックアウトマウスを作製することにより、細胞間相互作用も含めた生体内でのmiR-494の役割が検証できると考えた。そして、miR-494の役割を検証するために、CRISPR-Cas9を用いてmiR-494ノックアウトマウスを作製することを試みた。
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、CRISPR-Cas9を用いてmiR-494ノックアウトマウスを作製することに成功し、miRNA-494発現の抑制が寒冷耐性の改善を来すこと、高齢マウスの実験により、miR-494ノックアウトマウスはコントロールマウスに比して有意に長寿であり、行動実験から抗不安関連行動を示すこと、運動機能の低下に対して抵抗性を示すことなどの知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の遺伝子改変非ヒト動物、受精卵、遺伝子改変非ヒト動物の製造方法及びスクリーニング方法を提供するものである。
【0012】
項1.miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物。
項2.前記非ヒト動物が、げっ歯類動物又はマカク属動物である、項1に記載の非ヒト動物。
項3.前記非ヒト動物が、マウス、ラット、又はアカゲザルである、項1に記載の非ヒト動物。
項4.対応する野生型非ヒト動物と比較して、寒冷耐性、寿命延長、加齢変化抑制作用、運動能力、及び抗不安関連行動からなる群から選択される少なくとも1種が向上している、項1~3のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
項5.項1~4のいずれか一項に記載の非ヒト動物に発生する、受精卵。
項6.非ヒト動物の細胞において、ゲノム編集によりmiR-494遺伝子にノックアウト変異を導入する工程を含む、miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物の作製方法。
項7.前記非ヒト動物が、げっ歯類動物又はマカク属動物である、項6に記載の方法。
項8.前記非ヒト動物が、マウス、ラット、又はアカゲザルである、項6に記載の方法。
項9.miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物に被験物質を投与する工程、及び
被験物質が投与された前記非ヒト動物の表現型を評価する工程
を含む、老化に伴う疾患及び/又は不安に関する疾患の治療及び/又は予防薬候補物質のスクリーニング方法。
項10.前記非ヒト動物が、げっ歯類動物又はマカク属動物である、項9に記載の方法。
項11.前記非ヒト動物が、マウス、ラット、又はアカゲザルである、項9に記載の方法。
項12.前記老化に伴う疾患が、筋骨格系の変化、神経変性疾患、心血管疾患、代謝疾患、悪性腫瘍、及び皮膚疾患からなる群から選択される少なくとも1種である、項9~11のいずれか一項に記載の方法。
項13.遺伝子改変非ヒト動物に加えて、対応する野生型非ヒト動物を使用する、項9~12のいずれか一項に記載の方法。
項14.初代細胞又は株化細胞に被験物質を添加し、miR-494若しくはその類縁体の存在下、又はmiR-494産生促進剤の存在下に培養する工程、及び
前記細胞の表現型を評価する工程
を含む、miR-494阻害剤候補物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0013】
miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物が提供される。この遺伝子改変非ヒト動物を使用することにより、長期間miR-494が抑制された場合の全身の生体反応を確認することができる上に、各臓器の標的遺伝子を特定することが可能となる。
【0014】
本発明により、miR-494の長期間の抑制は成長や生殖に負の影響を与えておらず、寿命延長や抗加齢効果を示していることが明らかとなり、寒冷耐性、寿命延長、加齢変化抑制作用、運動能力、及び抗不安関連行動などに関連する病態解明、これらの病態の予防法開発、治療法開発等に有用と考えられる。一例として、本発明の遺伝子改変非ヒト動物を用いることにより、老化に伴う疾患の治療薬候補物質のスクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ゲノム編集によりマウス第12染色体に存在するmir-494遺伝子をノックアウトした実験の結果を示す図である。左:実験の概略図、右:野生型とノックアウトマウスのDNAジェノタイピングの結果を示す写真。
図2】4~6週齢のマウスの皮下脂肪組織(sWAT:subcutaneous white adipose tissue)、褐色脂肪組織(iBAT:interscapular brown adipose tissue)で成熟型のmiR-494遺伝子発現(miR-494-3p)をRT-qPCRで確認した結果を示すグラフである。値は平均±SE、各群n=8、Mann-Whitney U検定。
図3】12週齢のmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスを示す写真である。
図4】miR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの摂取量と20週例までの体重を示すグラフである。左:摂取量を示すグラフ、値は平均±SE、各群n=24、ns:有意差無し、右:体重を示すグラフ、値は中央値±95%CI、各群n=6、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
図5】12~18週齢(Young)のmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスのエネルギー消費量(上)と活動量(下)を示すグラフである。値は平均±SE、WT:n=10、KO:n=12、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
図6】12~18週齢(Young)のmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの呼吸商RQを示すグラフである。値は平均±SE、WT:n=10、KO:n=12、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
図7】18週齢のmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの精巣上体周囲(内臓)脂肪(eWAT)、皮下脂肪(sWAT)及び肩甲骨間褐色脂肪(iBAT)の重量(右上)と脂肪滴サイズ分布(下)に関する測定結果を示す図である。脂肪滴サイズ分布は左からeWAT、sWAT、iBATである。各群n=6、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
図8】16週齢のmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの4℃寒冷暴露下の直腸温の測定結果を示すグラフである。値は中央値±95%CI、各群n=6、Two-way ANOVA、Sidak’s test。
図9】17週齢のmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスのβ3アゴニスト(CL316,243)による脂肪組織特異的な熱産生の測定結果を示す図である(上は実験の概略図)。温熱的中性域(30℃)で実施。Y軸は酸素消費量(VO)であり、値は平均±SE、各群n=6、*P<0.05、ns:有意差無し、左:Mann-Whitney U検定、右:Two-way ANOVA、Sidak’s test。
図10】miR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの白色脂肪細胞に分化させた初代培養脂肪細胞の観察結果を示す図である。左:蛍光顕微鏡写真(BODIPY=脂肪滴;Mitotracker=ミトコンドリア;DAPI=核)、中央:Mitotracker/DAPI比を示すグラフ、各群n=48、値は中央値±95%CI、右:mtDNAコピー数、値は平均±SE、各群n=4、Mann-Whitney U検定。
図11】miR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスのベージュ脂肪に分化させた初代培養脂肪細胞のミトコンドリア機能の測定結果を示すグラフである。Y軸は酸素消費速度(OCR)であり、値は平均±SE、各群n=4又は5、Mann-Whitney U検定。
図12】miR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスのブドウ糖又はパルミトイルカルニチンを添加した場合のベージュ脂肪に分化させた初代培養脂肪細胞のミトコンドリア機能の測定結果を示すグラフである。Y軸は酸素消費速度(OCR)であり、値は平均±SE、各群n=4又は5、Mann-Whitney U検定。
図13】miR-494ノックアウトマウス及び野生型マウス由来のベージュ脂肪に分化させた初代培養脂肪細胞にmiR-494mimicを補充し、ミトコンドリア機能を測定した結果を示すグラフである。左:βアドレナリンアゴニスト刺激後の酸素消費量、右:脂肪酸を基質とした時の酸素消費量、値は平均±SE、各群n=4又は5、Mann-Whitney U検定。
図14】miR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの生存率を示すグラフである。各群n=23、ログランク検定。
図15】長期間(96週以上)飼育したmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスを示す写真である。
図16】長期間(96週以上)飼育したmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスのエネルギー消費量(左)と活動量(中央)と呼吸商(右)とを示すグラフである。値は平均±SE、WT:n=6、KO:n=8、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
図17】長期間(96週以上)飼育したmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの体重と脂肪組織量を示すグラフである。左:体重を示すグラフ、値は中央値±95%CI、各群n=6、ns:有意差無し、右:脂肪組織量を示すグラフ、値は平均±SE、各群n=3、ns:有意差無し、Shaprio-Wilk検定。
図18】長期間(96週以上)飼育したmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの直腸温の測定結果を示すグラフである。左:自由摂食下の直腸温、値は中央値±95%CI、Young:各群n=6、Aged:各群n=10、#P<0.05、****P<0.0001、####:p<0.0001、ns:有意差無し、Two-way ANOVA、Tukey’s test、右:食事摂取後12時間の直腸温推移、値は平均±SE、各群n=11、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
図19】長期間飼育したmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスの握力の測定結果を示すグラフである。Young(12~18週齢)、各群n=8-9、Middle-aged(75~85週齢)、各群n=8-10、Aged(96週齢以上)各群n=11、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
図20】長期間飼育したmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスのオープンフィールド試験の結果を示す図である。Young(12~18週齢)、Middle-aged(75~85週齢)、Aged(96週齢以上)。
図21】長期間飼育したmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスのオープンフィールド試験の結果を示すグラフである。Young(12~18週齢):各群n=5、Middle-aged(75~85週齢):各群n=5、Aged(96週齢以上):各群n=12、左:移動時間、右:移動距離、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
図22】長期間飼育したmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスのオープンフィールド試験の結果(中心部滞在時間)を示すグラフである。Young(12~18週齢):各群n=5、Middle-aged(75~85週齢):各群n=5、Aged(96週齢以上):各群n=12、ns:有意差無し、Mann-Whitney U検定。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
(1)定義
塩基配列の「同一性」とは、2以上の対比可能な塩基配列の、お互いに対する塩基配列の一致の程度をいう。したがって、ある2つの塩基配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性は高い。塩基配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTA、BLASTを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。
【0018】
本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、2本鎖DNA、1本鎖DNA(センス鎖又はアンチセンス鎖)、及びそれらの断片が含まれる。また、本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
【0019】
また、本発明において「miRNA」は、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、RISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与する15~25塩基の非コーディングRNAを意味するものとする。「miRNA」は特定の塩基配列で表される「miRNA」だけではなく、当該「miRNA」の前駆体(pri-miRNA、pre-miRNA)や、当該「miRNA」と生物学的機能が同等であるmiRNAも包含する。
【0020】
(2)遺伝子改変非ヒト動物
本発明は、その一実施態様として、miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物(本明細書において、「本発明の遺伝子改変非ヒト動物」と称することもある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0021】
非ヒト動物としては、その生物種は特に限定されない。通常、実験動物として使用される動物であれば制限されず、非ヒト脊椎動物が好ましく、中でも、マウス、ラット、モルモットなどのげっ歯類、カニクイザル、アカゲザル等のマカク属動物が好ましく、マウス、ラット及びアカゲザルが特に好ましい。
【0022】
miRNAは、公知のデータベース(例えば、miRBase:http://www.mirbase.org/)でその塩基配列等を特定することができる。非ヒト動物の各種において、miR-494の塩基配列は公知である、或いは公知のmiR-494の塩基配列に基づいて(例えば、これらとの同一性解析等により)容易に決定することができる。
【0023】
一例として、マウスのmiR-494(mmu-miR-494-5p、mmu-miR-494-3p)は、配列番号1及び2に記載の塩基配列(miRBaseAccessionNo.MIMAT0017215、MIMAT0003182)を有するものであり、生物学的機能が同等である限り配列番号1及び2の塩基配列を有するmiRNAの変異体であってもよい。また、mmu-miR-494-5p、mmu-miR-494-3pは、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「mmu-mir-494」(miRBaseAccessionNo.MI0003532、配列番号3)が知られている。マウスのmiR-494をコードする遺伝子はマウス第12染色体に存在する。
【0024】
本発明が対象とするmiR-494遺伝子は、その活性が著しく損なわれない限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等の塩基変異を有していてもよい。本発明が対象とするmiR-494遺伝子は、例えば、塩基配列が、同種動物の野生型miR-494遺伝子の塩基配列と、例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有する、遺伝子とすることができる。また、本発明が対象とするmiR-494遺伝子は、例えば、塩基配列が、同種動物の野生型miR-494遺伝子の塩基配列と同一であるか又は該塩基配列に対して1もしくは複数個(例えば2~10、好ましくは2~5、より好ましくは2~3個、さらに好ましくは2個)が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列である、遺伝子とすることができる。
【0025】
本発明の遺伝子改変非ヒト動物においては、上記した本発明が対象とするmiR-494遺伝子がノックアウトされている。すなわち、本発明の遺伝子改変非ヒト動物においては、上記した本発明が対象とするmiR-494遺伝子がノックアウトするように、当該miR-494遺伝子に変異が導入されている。
【0026】
ここで、「ノックアウト」とは、miR-494遺伝子の活性及び/又は発現量がバックグラウンド以下であることを示す。miR-494遺伝子の「活性」はmiR-494の本来の活性、タンパク質産生を抑制する活性を示す。なお、miR-494遺伝子の活性及び/又は発現量は、公知の方法に従って測定することが可能である。例えば、miR-494遺伝子の発現量は、後述する実施例に示すとおり、RT-qPCRにより測定することができる。
【0027】
miR-494遺伝子に導入される変異としては、miR-494遺伝子がノックアウトされる変異である限り特に制限されるものではない。当該変異としては、例えばmiR-494をコードする領域における変異、発現制御領域(例えば、プロモーター、アクチベーター、エンハンサー等)における変異、miR-494をコードする領域を欠失させる変異等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはmiR-494をコードする領域を欠失させる変異が挙げられる。
【0028】
また、本発明の遺伝子改変非ヒト動物においては、当該変異を、対の染色体の両方において有する(ホモノックアウトされている)ことが好ましい。
【0029】
本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、対応する野生型非ヒト動物と比較して、寒冷耐性、寿命延長、加齢変化(例えば、脱毛、白髪、しわなどの老化に伴う皮膚変化)抑制作用、運動能力、及び抗不安関連行動からなる群から選択される少なくとも1種が向上している表現型を有する。ここで、「対応する野生型非ヒト動物」とは、比較対象である本発明の非ヒト動物と同系統の動物であることを示す。また、向上の程度は、特に制限されず、例えば、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、又は5倍程度であってもよい。寒冷耐性、寿命延長、加齢変化抑制作用、運動能力、及び抗不安関連行動について評価する方法は特に限定されず、例えば、実施例に記載の方法により評価にすることができる。
【0030】
後述する実施例で示すようにmiR-494遺伝子をノックアウトすることにより、寒冷耐性の改善を来すこと、寿命が延長され、抗不安関連行動を示し、運動機能の低下に対して抵抗性を示すことなどが実証されている。
【0031】
本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、寒冷耐性、寿命延長、加齢変化抑制作用、運動能力、及び抗不安関連行動などに関連する病態解明、これらの病態の予防法開発、治療法開発等に利用することができる。本発明の遺伝子改変非ヒト動物を使用することにより、長期間miR-494が抑制された場合において全身の生体反応を確認することができる上に、各臓器の標的遺伝子を特定することが可能となる。
【0032】
(3)遺伝子改変非ヒト動物の作製方法
本発明の遺伝子改変非ヒト動物の作製方法は、特に制限されず、公知の遺伝子変異動物作製技術を各種利用することができる(例えば、Daisuke Yasuda, Daiki Kobayashi, Noriyuki Akahoshi, Takayo Ohto-Nakanishi, Kazuaki Yoshioka, Yoh Takuwa, Seiya Mizuno, Satoru Takahashi, Satoshi Ishii Lysophosphatidic acid-induced YAP/TAZ activation promotes developmental angiogenesis by repressing Notch ligand Dll4, J Clin Invest. 2019 Jul 23;129(10):4332-4349. doi: 10.1172/JCI121955.に記載の方法など)。一例として、以下の方法が挙げられる。
【0033】
本発明は、その一実施態様において、非ヒト動物の細胞において、ゲノム編集によりmiR-494遺伝子にノックアウト変異を導入する工程を含む、miR-494遺伝子がノックアウトされた遺伝子改変非ヒト動物の作製方法(本明細書において、「本発明の製造方法」と示すこともある。)に関する。
【0034】
変異導入対象の細胞は、特に制限されず、遺伝子改変非ヒト動物作製の効率の観点から、受精卵であることが好ましい。
【0035】
変異の導入方法は、ゲノム編集であり、例えば、標的特異的ヌクレアーゼ、該ヌクレアーゼの発現カセット、及び該ヌクレアーゼのmRNAからなる群より選択される少なくとも1種を含む導入物を細胞に導入する方法が例示される。
【0036】
標的特異的ヌクレアーゼは、ゲノムDNA上の特定部位を特異的に切断して、変異を誘導できるヌクレアーゼである限り特に制限されない。標的特異的ヌクレアーゼとしては、例えばCasタンパク質、TALENタンパク質、ZFNタンパク質等が挙げられる。
【0037】
Casタンパク質を用いるCRISPR/Casシステムは、ヌクレアーゼ(RGN;RNA-guided nuclease)であるCasタンパク質とガイドRNAとを使用する。該システムを細胞内に導入することにより、ガイドRNAが標的部位に結合し、該結合部位に呼び込まれたCasタンパク質によってDNAを切断することができる。
【0038】
TALENタンパク質を用いるTALENシステムは、DNA切断ドメイン(例えばFokIドメイン)に加えて転写活性化因子様(TAL)エフェクターのDNA結合ドメインを含む人工ヌクレアーゼ(TALEN)を使用する。該システムを細胞内に導入することにより、TALENがDNA結合ドメインを介して標的部位に結合し、そこでDNAを切断する。標的部位に結合するDNA結合ドメインは、公知のスキーム(例えばZhang F et al. (2011) Nature Biotechnology 29(2);この論文は、本明細書に参考として援用される)に従って設計することができる。
【0039】
ZFNタンパク質を用いるZFNシステムは、ジンクフィンガーアレイを含むDNA結合ドメインにコンジュゲートした核酸切断ドメインを含む人工ヌクレアーゼ(ZFN)を使用する。該システムを細胞内に導入することにより、ZFNがDNA結合ドメインを介して標的部位に結合し、そこでDNAを切断する。標的部位に結合するDNA結合ドメインは、公知のスキームに従って設計することができる。
【0040】
標的特異的ヌクレアーゼの中でも、切断部位をより自由に決定できるという観点から、Casタンパク質が好ましい。Casタンパク質としては好ましくはCas9タンパク質が挙げられる。Cas9タンパク質の中でも、例えば、細胞周期依存的Cas9タンパク質(Cell Rep.2016 Feb 16;14(6):1555-1566.)などを使用するもできる。
【0041】
標的特異的ヌクレアーゼ発現カセットは、本発明の製造方法の対象物の細胞内で標的特異的ヌクレアーゼを発現可能なDNAである限り特に制限されない。標的特異的ヌクレアーゼ発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された標的特異的ヌクレアーゼコード配列を含むDNAが挙げられる。また、標的特異的ヌクレアーゼ発現カセットは、これのみで、或いは他の配列(例えば薬剤耐性遺伝子、複製起点等)と共にベクターを構成していてもよい。ベクターの種類は、特に制限されない。
【0042】
標的特異的ヌクレアーゼがCasタンパク質である場合、本発明の製造方法における導入物は、さらに、ガイドRNA発現カセット及びガイドRNAからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0043】
ガイドRNAは、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるものであれば特に制限されず、例えばゲノムDNAの標的部位に結合し、且つCasタンパク質と結合することにより、Casタンパク質をゲノムDNAの標的部位に誘導可能なものを各種使用することができる。
【0044】
ガイドRNAの標的部位への結合には、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列の3’側の12塩基が重要であるといわれている。このため、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列が、標的鎖と完全同一ではない場合、標的鎖と異なる塩基は、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列の3’側の12塩基以外に存在することが好ましい。
【0045】
ガイドRNAは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、miR-494遺伝子を挟む形で2種類のガイドRNAを組み合わせて用いることが好ましい。このようなガイドRNAを使用することでmiR-494遺伝子全体を欠失させることができる。さらに、ドナーベクターを利用してノックアウトを行ってもよい。
【0046】
導入物の細胞への導入方法は、特に制限されず、公知の方法、例えばマイクロインジェクション法、レンチウイルス法、レトロウイルス法等を採用することができる。
【0047】
変異が導入された細胞は、必要に応じて胚へと発生させ、仮親に移植して、産仔を得ることにより、遺伝子改変非ヒト動物を得ることができる。必要により、公知の方法により実際にmiR-494遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物のスクリーニングを行う。スクリーニングは、第2世代、第3世代等で行ってもよい。
【0048】
上記本発明の製造方法の過程で得られた受精卵は、本発明の遺伝子改変非ヒト動物に発生し得る受精卵であり、このような受精卵も本発明の一実施態様である。また、本発明の遺伝子改変非ヒト動物の精子及び/又は卵子を受精させて得られる受精卵も、本発明の遺伝子改変非ヒト動物に発生し得る受精卵であり、このような受精卵も本発明の一実施態様である。これらの受精卵としては、凍結保存状態から生体に発生させることができる限り特に限定されず、受精直後の卵、前核期胚、初期胚、又は胚盤胞等が挙げられる。
【0049】
上記説明以外の事項については、「(2)遺伝子改変非ヒト動物」における説明と同様である。
【0050】
(4)遺伝子改変非ヒト動物の用途
本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、寒冷耐性、寿命延長、加齢変化抑制作用、運動能力、及び抗不安関連行動などに関連する病態解明、これらの病態の予防法開発、治療法開発等に利用することができる。本発明の遺伝子改変非ヒト動物を使用することにより、長期間miR-494が抑制された場合において全身の生体反応を確認することができる上に、各臓器の標的遺伝子を特定することが可能となる。
【0051】
本発明の遺伝子改変非ヒト動物によれば、miR-494の長期間の抑制は成長や生殖に負の影響を与えていない。そのため、長期的な効果及び副作用の確認が可能である。本発明の一実施態様において、本発明の遺伝子改変非ヒト動物を用いた、老化に伴う疾患(例えば、フレイル、サルコペニア、骨粗鬆症、変形性関節症などの筋骨格系の変化、難聴、認知機能、パーキンソン病などの神経変性疾患、心不全、腎不全などの心血管疾患、糖尿病などの代謝疾患、癌、肉腫などの悪性腫瘍、脱毛、白髪、しわなどの皮膚疾患など)、不安に関する疾患(例えば、社会不安障害、パニック障害、パニック発作、強迫性障害、全般性不安障害、広場恐怖、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害)の治療及び/又は予防薬候補物質のスクリーニング方法に関する。
【0052】
スクリーニング方法は、本発明の遺伝子改変非ヒト動物を用いている限り特に限定されず、例えば工程(a)本発明の遺伝子改変非ヒト動物に被験物質を投与する工程、及び(b)被験物質が投与された前記非ヒト動物の表現型を評価する工程を含むことが好ましい。
【0053】
被験物質の種類は治療及び予防薬の候補になり得る限り特に限定されない。例えば、タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物(ヌクレオチド、アミン、糖質、脂質等)、有機低分子化合物、無機低分子化合物、醗酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられる。
【0054】
投与は、公知の方法に従って行うことができる。例えば経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与;経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等が挙げられる。
【0055】
表現型の評価は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、老化に伴う疾患又は不安に関する疾患の病態を表す指標を用いて評価することができる。より具体的には、これらの指標が、被験物質の投与により減少又は増加した場合、老化に伴う疾患又は不安に関する疾患の表現型が治癒又は緩和していると判定することができる。老化に伴う疾患又は不安に関する疾患の表現型が治癒又は緩和していた場合に、前記被験物質を老化に伴う疾患又は不安に関する疾患の治療及び/又は予防薬候補物質と選別することができる。
【0056】
また、スクリーニング方法としては、本発明の遺伝子改変非ヒト動物に加えて対応する野生型非ヒト動物を使用して実施することもできる。そのような方法としては、本発明の遺伝子改変非ヒト動物と、対応する野生型非ヒト動物の表現型を比較することにより、治療及び予防薬候補物質の効果(例えば、遺伝子改変非ヒト動物と同様の表現型を示すか否か、すなわち、遺伝子改変非ヒト動物をコントロールとして使用する)を確認することが挙げられる。
【0057】
選別された被験物質を治療及び/又は予防薬候補物質として、さらなる解析を進めることにより、有用な治療及び/又は予防薬を選別することができる。
【0058】
また、本発明の遺伝子改変非ヒト動物と疾患モデル非ヒト動物とを交配させることで、miR-494の作用を確認することもできる。
【0059】
上記説明以外の事項については、「(2)遺伝子改変非ヒト動物」における説明と同様である。
【0060】
スクリーニング方法の他の実施態様において、初代細胞又は株化細胞に被験物質を添加し、miR-494若しくはその類縁体の存在下、又はmiR-494産生促進剤の存在下に培養する工程、及び
前記細胞の表現型を評価する工程
を含む、miR-494阻害剤候補物質のスクリーニング方法に関する。
【0061】
本発明において「miR-494阻害剤」とは、miR-494の機能を阻害できる化合物全般を意味し、そのような化合物としては、例えば、miR-494の発現を阻害又は抑制する化合物、miR-494の機能若しくは活性を阻害又は低下させる化合物などが挙げられる。
【0062】
初代細胞又は株化細胞としては、精子や卵子などの生殖細胞、生体を構成する体細胞などが挙げられる。体細胞には、幹細胞(多能性幹細胞等)、前駆細胞、がん細胞、生体から分離され人為的に遺伝子改変が成された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞、老化細胞等が含まれる。生体を構成する体細胞としては、例えば、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、周皮細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(たとえば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞(例えば、臍帯血由来のCD34陽性細胞)、単核細胞等が挙げられる。幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、その例としては、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞などが含まれる。多能性幹細胞としては、前記幹細胞のうち、ES細胞、胚性生殖幹細胞、iPS細胞が挙げられる。前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。がん細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞であり、その例としては上記の体細胞の具体例のがん細胞が挙げられる。株化細胞とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞である。初代細胞又は株化細胞としては、本発明の遺伝子改変非ヒト動物由来の初代細胞を使用してもよい。
【0063】
細胞は、ヒトを含む哺乳動物の細胞であり、好ましくはヒトの細胞である。
【0064】
miR-494の類縁体とは、miR-494と生物学的機能及び構造が類似しているものであって、原子又は原子団が別の原子又は原子団と置換された組成を持つ別の化合物を意味する。miR-494の類縁体としては、特に限定されず、天然の誘導体、人工の誘導体のいずれも使用することができる。
【0065】
細胞の培養は、使用する細胞の種類により適切な培養方法を適宜選択し実施することができる。
【0066】
また、細胞の表現型を評価する方法としては、産生されるmiR-494の量を定量することや、miR-494によるシグナル伝達の下流シグナルに関して測定することなどが挙げられる。
【0067】
被験物質の種類としては、上記と同様のものを使用するができる。
【0068】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of.”)。また、本発明は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0069】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0070】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0071】
実施例1
白色脂肪細胞のベージュ化におけるmiR-494の役割を検証する。このために、CRISPR-Cas9を用いてmiR-494ノックアウトマウスを作製した(Daisuke Yasuda, Daiki Kobayashi, Noriyuki Akahoshi, Takayo Ohto-Nakanishi, Kazuaki Yoshioka, Yoh Takuwa, Seiya Mizuno, Satoru Takahashi, Satoshi Ishii Lysophosphatidic acid-induced YAP/TAZ activation promotes developmental angiogenesis by repressing Notch ligand Dll4, J Clin Invest. 2019 Jul 23;129(10):4332-4349. doi: 10.1172/JCI121955.及びCell Rep. 2016 Feb 16;14(6):1555-1566. doi: 10.1016/j.celrep.2016.01.019.に記載の方法に準じて作製した)。マウス第12染色体に存在するmiR-494遺伝子を含む1233bpを挟む形で、5’arm(1483bp)と3’arm(1317bp)を含んだpX330ベクターとをガイドRNA/Cas9発現ベクターとして作製し、それぞれpX330-LeftとpX330-Rightとして受精卵に導入した。ドナーベクターはmiR-494遺伝子の前後をflox配列で挟み、5’arm(1483bp)と3’arm(1317bp)を含むpflox-Mir494ベクターを作製し、B6由来の受精卵に導入した。これらのステップで非相同的末端結合(NHEJ)により標的遺伝子のノックアウトを行った(図1参照)。
【0072】
結果1:
産まれたマウスの尾DNAを用いたgenotypingによりノックアウトマウスでは約1200bp短くなっていることが確認できた(図1)。次に、生後4~6週齢のマウスの皮下脂肪組織(sWAT)、褐色脂肪組織(iBAT)で成熟型のmiR-494遺伝子発現(miR-494-3p)をRT-qPCRで確認したところ、miR-494ノックアウトで発現が極端に低下していることが確認された(図2)。
【0073】
結果2:
上記の方法により作製したmiR-494ノックアウトマウスについて、出生後に野生型マウスと比較したところ、miR-494ノックアウトマウスは問題なく出生し、生後も摂餌量や体重に関して野生型マウスと差が無かった(図3及び4)。
【0074】
結果3:
miR-494ノックアウトマウスについてエネルギー消費量と活動量について代謝ケージを用いて検討した。その結果、12~16週齢時には、野生型マウスと比較してエネルギー消費量に差はなかった。ケージ内でマウスがビームを遮る回数により活動量を測定したが、差が無かった。CO産生量を酸素消費量で除した呼吸商RQの測定により、明期呼吸商が低値で空腹時に脂肪燃焼が増加していることが示唆された(図5及び6)。
【0075】
結果4:
miR-494ノックアウトマウスの脂肪組織について検討した。その結果、12~16週齢時には、野生型マウスと比較して内臓脂肪量(eWAT)の減少と、皮下脂肪細胞(sWAT)と褐色脂肪組織内(iBAT)の脂肪滴縮小化が観察された(図7)。このことから脂肪分解の亢進が示唆された。
【0076】
結果5:
miR-494ノックアウトマウスの寒冷耐性を検討する目的で直腸温について検討した。その結果、12~16週齢時には、4℃に3時間暴露した際の直腸温の低下が、野生型マウスと比して大きく軽減していた(図8)。
【0077】
結果6:
寒冷暴露による熱産生実験では、ふるえによる骨格筋の熱産生が影響する。そこで、熱中性域である30℃の状態でβ3アドレナリン受容体アゴニスト(β3ARa:CL316,243)を腹腔投与することにより脂肪組織特異的な熱産生の効果を検討した。その結果、12~16週齢時には、β3ARa投与に伴う酸素消費量が野生型マウスより多いことが分かった(図9)。このことからmiR-494ノックアウトマウスは非ふるえ熱産生能力が高いことが示唆された。
【0078】
結果7:
4~6週齢のmiR-494ノックアウトマウス及び4~6週齢の野生型マウスより取り出した間質血管細胞を培養し、白色脂肪細胞に分化させた初代培養脂肪細胞を顕微鏡で観察した。その結果、Mitotracker/DAPI比で表されるミトコンドリア密度の増強とミトコンドリアDNAコピー数の増加が観察された(図10)。
【0079】
結果8:
結果7と同様に4~6週齢のmiR-494ノックアウトマウス及び野生型マウスより分化させた初代培養ベージュ脂肪細胞作製した。Extracellular Flux Analyzerでミトコンドリア機能を検討した。その結果、アドレナリンβ受容体アゴニストであるイソプロテレノール(iso)により、miR-494ノックアウトマウス由来の初代培養脂肪細胞で野生型マウス由来の細胞よりも酸素消費が増強した(図11)。
【0080】
結果9:
初代培養ベージュ脂肪細胞の培養液内に、ブドウ糖を入れた場合と脂肪酸であるパルミトイルカルニチンを入れた場合での酸素消費を観察した。その結果、ブドウ糖では大きな差が無かったがmiR-494ノックアウトマウス由来の初代脂肪細胞は野生型マウス由来の細胞よりもパルミトイルカルニチンを入れた際のベースラインでの酸素消費が増強すると同時にFCCPを入れた際に観察される最大酸素消費速度でも増強した(図12)。
【0081】
結果10:
miR-494ノックアウトマウスにmiR-494mimic(Horizon Discovery社miRDIAN microRNA mmu-miR-494-3p mimic:生体のmature miR-494-3pと100%相同性をもったRNA)で補充する実験を行った。その結果:miR-494ノックアウトマウスで上昇したβアドレナリンアゴニスト刺激後の酸素消費量(図13左)や脂肪酸を基質とした時の酸素消費量(図13右)が野生型マウスと同程度まで低下した。
【0082】
考察1:
これまでの結果から、miR-494は脂肪組織のベージュ化を抑制しているため、ノックアウトによりベージュ化の促進と寒冷耐性を獲得していることが分かった。miR-494ノックアウトマウスがこれらの性質をもつメカニズムとしてミトコンドリアの増加、脂肪酸酸化の増加が考えられる。
【0083】
実施例2
miR-494が成体に対して長期的にどの様な影響を与えているのかについて、miR-494阻害薬を用いて検討することは原理的には可能だが、miR-494阻害剤探索には長期間を要すると考えられる。また、microRNAには一般に標的分子が複数あり、臓器によって異なった影響が出ることが予測される。そこで、miR-494ノックアウトマウスを利用して、生体内でmiR-494を長期間抑制した場合に起こる生理作用を観察することとした。そこで、miR-494の長期的な役割を検証するためにノックアウトマウスを長期飼育した。
【0084】
結果11:
マウスの生存期間中央値は野生型マウスが113.7週に対し、miR-494ノックアウトマウスでは146.7週と約1.3倍延長していた(Log-rank test:<0.001)(図14)。死因については明らかではないが、外観からも全体的に老化進行が遅れている印象があった(図15)。マウスの毛並みは整っており、白髪や脱毛もmiR-494ノックアウトマウスで少なかった。
【0085】
結果12:
長期飼育したmiR-494ノックアウトマウスについてエネルギー消費量と活動量について代謝ケージを用いて検討した。その結果、96-110週齢時にはmiR-494ノックアウトマウスは野生型マウスと比較して明期に呼吸商が有意に低く、脂肪燃焼が優位であること、加齢による活動量低下が起こりにくいことがわかった(図16)。
【0086】
結果13:
長期飼育したmiR-494ノックアウトマウスについて体重と内臓脂肪について検討した。その結果、野生型マウスと比較して長期間の飼育においても体重推移に有意差がないが、内臓脂肪量は有意に少ないことが分かった(図17)。
【0087】
結果14:
長期飼育したmiR-494ノックアウトマウスの直腸温について検討した。その結果、加齢による空腹時体温低下は野生型マウスと比較してmiR-494ノックアウトマウスでは軽減されることと、食後体温には大きな差がないことが分かった(Youngは12~16週齢、Agedは96週齢以上)(図18)。
【0088】
結果15:
長期飼育したmiR-494ノックアウトマウスの握力について検討した。その結果、若年齢時においては握力には大きな差を認めなかったが、加齢による握力低下がmiR-494ノックアウトマウスで有意に抑制されていた(Youngは12~18週齢、Middle-agedは75-85週齢、Agedは96週齢以上)(図19)。
【0089】
結果16:
長期飼育したmiR-494ノックアウトマウスについてオープンフィールド試験を行った。その結果、オープンフィールド試験ではMiddle-aged、Agedで低下する活動性が、miR-494ノックアウトマウスでは低下が軽度だった(図20)。歩行距離についても同様で、miR-494ノックアウトマウスでは明らかに運動量が多かった(図21)。中心部滞在時間についてもmiR-494ノックアウトマウスは野生型マウスに比べて長く、不安関連行動が小さいことが示唆された(Youngは12~18週齢、Middle-agedは75~85週齢、Agedは96週齢以上)(図22)。
【0090】
考察2:
これまでの結果から、miR-494ノックアウトマウスの長期的な観察により、寿命の延長が起こること、体重には変化が無いこと、加齢に伴う活動量・握力の低下や体温低下が起こりにくいこと、活動性が高く、不安兆候が少ないことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
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