(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107815
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】管理装置、管理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/60 20180101AFI20240802BHJP
【FI】
G16H20/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011934
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】尾川 英明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】松岡 賢司
(72)【発明者】
【氏名】倉重 規夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 栄治
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】食事者に最適な温度で飲食物を提供する。
【解決手段】管理装置1は、食事者に提示する飲食物を選択する選択部42と、選択部42により選択された飲食物を摂取している食事者の温度感覚を推定する推定部43と、推定部43により推定された食事者の温度感覚に基づいて、食事者に対応する飲食物の温度範囲を示す温度範囲情報を調整する調整部44とを備え、選択部42は、温度範囲情報が示す温度範囲内の飲食物を選択することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食事者に提示する飲食物を選択する選択部と、
前記選択部により選択された前記飲食物を摂取している前記食事者の温度感覚を推定する推定部と、
前記推定部により推定された前記食事者の温度感覚に基づいて、前記食事者に対応する前記飲食物の温度範囲を示す温度範囲情報を調整する調整部と
を備え、
前記選択部は、前記温度範囲情報が示す温度範囲内の前記飲食物を選択する
ことを特徴とする管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の管理装置において、
前記推定部は、前記飲食物の摂取前と前記飲食物の摂取後の前記食事者の顔の温度差に基づいて、前記食事者の感情を推定する
ことを特徴とする管理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の管理装置において、
前記温度範囲情報は、前記食事者の属性に応じたものである
ことを特徴とする管理装置。
【請求項4】
食事を管理する管理装置の管理方法において、
食事者に提示する飲食物を選択する選択ステップと、
選択された前記飲食物を摂取している前記食事者の温度感覚を推定する推定ステップと、
推定された前記食事者の温度感覚に基づいて、前記食事者に対応する前記飲食物の温度範囲を示す温度範囲情報を調整する調整ステップと
を備え、
前記選択ステップは、前記温度範囲情報が示す温度範囲内の前記飲食物を選択する
ことを特徴とする管理方法。
【請求項5】
入出力装置と情報を授受可能なコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、
食事者に提示する飲食物を選択する選択ステップと、
選択された前記飲食物を摂取している前記食事者の温度感覚を推定する推定ステップと、
推定された前記食事者の温度感覚に基づいて、前記食事者に対応する前記飲食物の温度範囲を示す温度範囲情報を調整する調整ステップと
を備え、
前記選択ステップは、前記温度範囲情報が示す温度範囲内の前記飲食物を選択する
ことを特徴とする処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理装置、管理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
受容者の挙動から受容者が商品又は飲料を要求するタイミングを推定し、そのタイミングに合わせて飲食物を加熱等する技術が存在する(特許文献1)。
【0003】
この技術によれば、乳児の動きを監視し、乳児の動きが大きくなった時に、もうすぐ起きてミルクを欲しがるタイミングと認識し、事前に哺乳瓶を温めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飲食物をおいしく感じることができる飲食物の温度は、食事者ごとに異なる。そのため、食事者は、摂取する際、例えば熱いと感じたら、飲食物を放置して食事者の好み温度範囲内に収まるのを待つか息を吹きかけて冷ますことができる。
【0006】
しかしながら、例えば、幼児や障害により意思疎通が困難な要介護者は、当該対応をとることが困難であることから、補助者から食事の支援を受ける際、食事者となる要介護者は飲食物が自分にとって適温であるかを補助者に伝えることができず、補助者が食事者の好みの温度範囲を把握することができない場合がある。そのため、結果として、食事者が快適な食事をすることができない場合がある。
【0007】
上述した特許文献1の技術では、食事者の好みに合わせて飲食物の温度を調整することができない。
【0008】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、食事者の好みの温度範囲の飲食物を、食事者に提供することを可能にする管理装置、管理方法、およびプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面の管理装置は、食事者に提示する飲食物を選択する選択部と、選択部により選択された飲食物を摂取している食事者の温度感覚を推定する推定部と、推定部により推定された食事者の温度感覚に基づいて、食事者に対応する飲食物の温度範囲を示す温度範囲情報を調整する調整部とを備え、選択部は、温度範囲情報が示す温度範囲内の飲食物を選択することを特徴とする。
【0010】
本発明の一側面の管理方法は、食事を管理する管理装置の管理方法において、食事者に提示する飲食物を選択する選択ステップと、選択された飲食物を摂取している食事者の温度感覚を推定する推定ステップと、推定された食事者の温度感覚に基づいて、食事者に対応する飲食物の温度範囲を示す温度範囲情報を調整する調整ステップとを備え、選択ステップは、温度範囲情報が示す温度範囲内の飲食物を選択することを特徴とする。
【0011】
本発明の一側面のプログラムは、入出力装置と情報を授受可能なコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、食事者に提示する飲食物を選択する選択ステップと、選択された飲食物を摂取している食事者の温度感覚を推定する推定ステップと、推定された食事者の温度感覚に基づいて、食事者に対応する飲食物の温度範囲を示す温度範囲情報を調整する調整ステップとを備え、選択ステップは、温度範囲情報が示す温度範囲内の飲食物を選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明よれば、食事者に最適な温度で飲食物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、管理装置1の外観構成および利用例を示す図である。
【
図2】
図2は、管理装置1の内部構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、管理装置1の動作を説明するための前半のフローチャートである。
【
図4】
図4は、管理装置1の動作を説明するための後半のフローチャートである。
【
図5】
図5は、管理装置1の温度範囲調整処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[一実施の形態]
図1は、本発明の一実施の形態の管理装置1の外観構成および利用例を示す図である。
【0015】
食事者Aは、意思表示が困難な要介護者であり、テーブルに配膳された複数の飲食物Wを摂取するのに、補助者Bの支援を必要とする。
【0016】
管理装置1は、
図1の例では、テーブル上に設置することが容易なタブレット型コンピュータである。管理装置1は、設置状態において、食事者Aや補助者Bが見ることのできる位置に表示部5が配置される構成となっており、表示部5には、複数の飲食物Wの中から、食事者Aが次に摂取すべき飲食物に関する情報が提示される。
【0017】
管理装置1には、撮影部2が設けられており、撮影部2は、管理装置1がテーブルに配置された状態で、テーブル上の飲食物Wおよび食事者Aを撮影することができる。
【0018】
管理装置1には、測定部3が設けられており、測定部3は、管理装置1がテーブルに配置された状態で、テーブル上の飲食物Wおよび食事者Aの顔の温度を測定できる。
【0019】
なお、
図1に示す管理装置1の外観は一例であり、管理装置1の構造は多様に考えられる。例えば、撮影部2や測定部3は、管理装置1とは別に配置され、撮影部2や測定部3からの情報をBluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)等の無線通信または有線通信で取得することもできる。
【0020】
ここで、食事における飲食物の温度の重要性について、一般的な知見を示す。医食同源というように、快適な食事は健康の維持、増進にかかせないものである。この快適な食事の基本として、温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに食べるのがよいとされている。一般に、温かいものは60~70℃、冷たいものは5~12℃が適当な温度範囲とされている。また、温かいスープやシチュー、熱々のラーメンや豚まん、冷たい冷奴、冷えたジュースやビール等のように、所定の適温で摂取することで、特に美味しいと感じることができる飲食物も少なくない。このように、食事の際の飲食物の温度は、美味しいと感じることができ且つ健康にもよい食事を実現するために重要な要素となっている。
【0021】
そこで、管理装置1は、まず、食事者が、一回の食事で摂取すべき複数の飲食物(以下、適宜、摂取対象飲食物と称する)において摂取する順番の優先順位を決定する。そして管理装置1は、飲食物について食事者の温度範囲を示す温度範囲情報6a(
図2)を参照し、食事者の温度範囲内であって、摂取の順番に応じた飲食物を、推奨飲食物として、表示部5を介して提示する。補助者Bは、食事者Aに対して、管理装置1により提示された推奨飲食物の摂取を支援する。ここで、食事者の温度範囲とは、食事者が好む温度範囲など食事者に対応する飲食物の温度範囲をいう。
【0022】
また管理装置1は、例えば、推奨飲食物の摂取前と推奨飲食物の摂取後の食事者の顔の温度に基づいて、食事者の主観的温度感覚を推定し、その主観的温度感覚に基づいて食事者の温度範囲情報6aを更新する。このように温度範囲情報6aを更新することにより、食事者の温度範囲を調整し、食事者の好みの温度の食事を提示することができる。その結果、食事者は快適な食事をとることができる。ここで、主観的温度感覚とは、食事者が感じる温度感覚をいい、具体的には、飲食物が熱すぎる、冷たすぎる、適温であるといった感覚である。
【0023】
(管理装置1の内部構成)
図2は、管理装置1の内部構成を示すブロック図である。管理装置1は、撮影部2、測定部3、制御部4、表示部5、および記憶部6を含んで構成されている。
【0024】
撮影部2は、例えば、ビデオカメラであり、テーブル上に配膳された飲食物および食事者を撮影し、当該飲食物および食事者を含む画像情報を生成し、制御部4に供給する。
【0025】
測定部3は、超音波センサ、赤外線センサ、または遠赤外線センサ等の温度センサであり、食事者の顔や飲食物の表面温度を測定し、測定結果を制御部4に供給する。
【0026】
制御部4は、例えばMCU(Micro Controller Unit)である。制御部4は、記憶部6に記憶された図示せぬ制御用アプリケーションプログラムを実行することで、管理装置1全体を制御するとともに、画像認識部41、選択部42、推定部43、調整部44、および咀嚼判定部45として機能する。
【0027】
画像認識部41は、撮影部2による撮影画像に基づいて、食事者や飲食物を認識する。
【0028】
選択部42は、画像認識部41により認識された食事者が、一回の食事で摂取すべき摂取対象飲食物において摂取する順番の優先順位を決定する。そして選択部42は、記憶部6に記憶されている温度範囲情報6aを参照し、食事者が好む温度であって、優先順位の順番に応じた飲食物を、推奨飲食物として選択する。選択部42は、選択した推奨飲食物を、表示部5を介して提示する。
【0029】
推定部43は、測定部3により測定された、推奨飲食物の摂取前と摂取後の食事者の顔の温度に基づいて、食事者の主観的温度感覚を推定する。
【0030】
調整部44は、推定部43により推定された食事者の主観的温度感覚に基づいて、記憶部6に記憶されている温度範囲情報6aを更新し、食事者の温度範囲を調整する。
【0031】
咀嚼判定部45は、撮影部2による食事者の映像に基づいて、食事者の咀嚼が終了したか否かを判定する。
【0032】
表示部5は、例えば液晶や有機EL(Electro Luminescence)表示装置などであり、制御部4による制御に基づいて、食事者が次に摂取すべき飲食物に関する情報が提示される。
【0033】
記憶部6は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発メモリを有する。記憶部6は、上述した制御用アプリケーションプログラムと、その実行のために必要な、食事者に関する情報や温度範囲情報6aを含む各種データや、これらの処理により生成された情報を記憶する。
【0034】
(食事支援処理)
次に、管理装置1の食事支援処理について説明する。はじめに、
図3と
図4のフローチャートを参照して、処理の流れを説明し、その後具体例に基づいて説明する。
図3のフローチャートに、処理の開始からステップS4までを記載しており、結合子Aにより連結された
図4のフローチャートに、ステップS5から処理の終了までを記載している。
【0035】
テーブルに摂取対象飲食物が配膳されており、食事者が摂取対象飲食物をこれから摂取する状態(食事を開始する状態)で、ステップS1において、撮影部2は、テーブル上に配膳された摂取対象飲食物および食事者の撮影を開始し、制御部4の画像認識部41は、撮影部2により撮影された画像に基づいて、食事者を特定する。なお、撮影部2により撮影された画像に基づく食事者の特定は、例えば周知のテンプレートマッチングや、エッジ抽出などの手法を用いて行われる。
【0036】
ステップS2において、画像認識部41は、撮影部2により撮影された画像に基づいて、摂取対象飲食物を特定する。撮影部2により撮影された画像に基づく飲食物の特定は、例えば周知のテンプレートマッチングや、エッジ抽出などの手法を用いて行われる。
【0037】
ステップS3において、測定部3は、食事者の顔と摂取対象飲食物の表面温度の測定を開始する。次に、ステップS4において、選択部42は、摂取対象飲食物を摂取する順番となる優先順位を決定する。
【0038】
優先順位の付け方は、様々考えられるが、例えば、選択部42は、味の濃淡を優先して順位をつけることもできる。つまり、画像認識部41は撮影部2による撮影画像に基づいて飲食物を認識するとともに味の濃淡を認識し、選択部42は摂取対象飲食物のうち味の濃いものと薄いものに交互に優先順位を付けて、味の濃いもの(または薄いもの)が連続して選択されないようにしてもよい。また、選択部42は、飲食物に含まれるたんぱく質の割合が高い飲食物または食物繊維が多い飲食物を優先して順位をつけることもできる。たんぱく質や食物繊維を豊富に含む飲食物を食事の最初の段階で摂取すると、血糖値の急激な上昇が抑えられることが知られているため、係る順番で飲食物を摂取することは、健康的な食事の実現につながるからである。
【0039】
次に
図4のステップS5において、選択部42は、摂取対象飲食物のうち、優先順位の最も高い飲食物を推奨飲食物候補として選択する。
【0040】
ステップS6において、選択部42は、ステップS1で特定された食事者の温度範囲情報6aを記憶部6から読み出し、その温度範囲情報6aに基づいて、推奨飲食物候補の温度が食事者の温度範囲内であるか否かを判定する。温度範囲情報6aは、後述するように更新されるが、デフォルトとして、一般的に温製または冷製飲食物を摂取するのによいとされている温度範囲を示す情報となっている。食事の環境(温度、湿度)に応じた温度範囲でもよい。
【0041】
ステップS6で、推奨飲食物候補の温度が食事者の温度範囲内でないと判定した場合、ステップS7において、選択部42は、摂取対象飲食物のうち、推奨飲食物候補として選択されていない飲食物が存在するか否かを判定する。ステップS7で、推奨飲食物候補として選択されていない飲食物が存在すると判定した場合、ステップS8において、選択部42は、次の優先順位の摂取対象飲食物を推奨飲食物候補として選択する。その後、処理はステップS6に戻る。
【0042】
ステップS7で、推奨飲食物候補として選択されていない飲食物が存在しないと判定された場合、すなわち摂取が完了していない摂取対象飲食物(テーブル上に残っている飲食物)について、推奨飲食物候補として選択されたがすべて温度が食事者の温度範囲外である場合、処理はステップS9に進む。そしてステップS9において、選択部42は、例えば、摂取するためにはもう少し待つべきである旨を、表示部5を介して表示し、食事者や補助者に注意喚起をする。その後、処理は、ステップS5に戻る。なおこの場合、推奨飲食物候補として選択された記録はリセットされる。
【0043】
ステップS6で、推奨飲食物候補の温度が食事者の温度範囲内であると判定した場合、ステップS10において、選択部42は、推奨飲食物候補を、推奨飲食物として特定し、表示部5を介して食事者や補助者に推奨飲食物を提示する。具体的には、推奨飲食物の名前等を示す情報が表示部5に表示される。また表示部5に、テーブルに置かれた飲食物の映像が表示されており、その映像上の推奨飲食物の領域にマーカ等を重畳して表示させることや、推奨飲食物以外の飲食物の部分に対してモザイク処理を施して見難くするなどの処理を施すことにより、補助者が直感的にわかりやすい方法で推奨飲食物を提示することができる。
【0044】
補助者は、表示部5に表示された情報から推奨飲食物を認識し、食事者に対してその推奨飲食物の食事を支援し、食事者は推奨飲食物の摂取を開始する。
【0045】
ステップS11において、咀嚼判定部45は、食事者の咀嚼が終了するまで待機する。咀嚼終了の判定は、食事者を撮影する撮影部2により、上唇中央と下顎先端の距離を認識することにより行われる。当該距離に一定以上の変化が生じた場合、それを一回の咀嚼と判定するため、当該変化が一定時間生じなかった場合、咀嚼が終了したと判定される。この方法は、文献“新野 毅,雨宮 寛敏,芳賀 博英,金田 重郎:動画像処理を用いた咀嚼回数指導システムの提案,第72回全国大会講演論文集(コンピュータと人間社会, pp.765-766(Mar.2010))”に開示されている。
【0046】
ステップS11で、咀嚼が完了したと判定された場合、ステップS12において、選択部42は、摂取対象飲食物の中で推奨飲食物として提示されていない飲食物が存在するか否かを判定し、推奨飲食物として提示されていない飲食物が存在する場合、ステップS5に戻り、それ以降の処理を実行する。
【0047】
ステップS12で、推奨飲食物として提示されていない飲食物が存在しないと判定された場合、すなわち食事が終了した場合、食事支援処理は終了する。
【0048】
次に、上述した食事支援処理を具体的に説明する。
【0049】
例えば、配膳された摂取対象飲食物が、温製の汁物、おかず、主食の場合であって、優先順位が前記した順番である場合について説明する。この場合、最初に、汁物が推奨飲食物候補として選択されるが(ステップS5)、汁物の温度が食事者の温度範囲よりも高いと判定された場合(ステップS6:No)、次に優先順位のおかずが選択される(ステップS8)。そしておかずの温度が食事者の温度範囲内であれば(ステップS6:Yes)、推奨飲食物として提示される(ステップS10)。おかずの摂取が開始され、咀嚼が完了すると(ステップS11:Yes)、次に、主食が推奨飲食物候補として選択される(ステップS12を介するステップS5)。このように、配膳された摂取対象飲食物である、汁物、おかず、主食のすべてが推奨飲食物として提示されるまで(ステップS12:No)、上述した処理が実行される。
【0050】
なお例えば、食事開始のタイミングにおいて、配膳された摂取対象飲食物である、汁物、おかず、および主食の温度が、すべて食事者の温度範囲内でない場合(ステップS7:No)、汁物、おかず、および主食のいずれかが食事者の温度範囲内になるまで待機する旨、注意喚起される(ステップS9)。管理装置1は、配膳された摂取対象飲食物のいずれかについて、食事者の温度範囲内となるように加熱、冷却してもよい。このとき、管理装置1がペルチェ素子を備えて温度を調整してもよいし、管理装置1が管理装置1とは別体の加熱装置や冷却装置の温度を設定することにより温度を調整してもよい。
【0051】
(温度範囲調整処理)
温度範囲調整処理について説明する。
【0052】
上述したように管理装置1は、食事者の温度範囲内の飲食物を推奨飲食物として提示することができるが、飲食物に対する食事者の温度範囲は食事者によって異なり、食事者が意思表示困難な要介護者である場合、飲食物を食べた際の体感温度を明確に伝えることができない。
そこで、管理装置1は、温度範囲調整処理により、温度範囲情報6aを更新することで、食事者に、よりおいしいと感じる温度の飲食物を提示することができる。
【0053】
主観的温度感覚の判定は、文献“Hideaki Kashima, Yuka Hamada, Naoyuki Hayashi, Palatability of Tastes Is Associated With Facial Circulatory Responses, Chemical Senses, Volume 39, Issue 3, March 2014, Pages 243-248”に記載の法則性に基づいて行われる。この文献によれば、鼻の皮膚血流が低下した場合、主観的嗜好度が低下する(不快と感じている)といえる。また、鼻の皮膚血流が一定値以上低下した場合、主観的温度感覚が一定値よりも低下する(冷たすぎると感じている)といえる。また、瞼の皮膚血流が一定値以上上昇した場合、主観的温度感覚が一定値よりも上昇する(熱すぎると感じている)といえる。
【0054】
よって、この原理に基づいて、摂取の一口目など早い段階において、食事前からの食事者の鼻の温度低下量が一定の閾値(以下、第1の閾値と称する)以上である場合、食事者の不快感覚が高まっていると判定することができる。また、摂取の一口目など早い段階において、食事前からの食事者の鼻の温度低下量が第1の閾値よりも大きい一定の閾値(以下、第2の閾値と称する)以上である場合、食事者が摂取した料理を冷たすぎると感じていると判定できる。そして、摂取の一口目など早い段階において、食事前からの食事者の鼻の温度低下量が第1の閾値以上であって、食事前からの瞼の温度上昇量が一定の閾値(以下、第3の閾値と称する)以上である場合、食事者が摂取した料理を熱すぎると感じていると判定できる。なおこの例の場合、温度低下量および温度上昇量は、
図4のステップS10において推奨飲食物が表示部5に表示されたときから、同図のステップS11において咀嚼終了と判定されるまでの最大変化量とする。
【0055】
図5は、温度範囲調整処理の流れを示したフローチャートである。温度範囲調整処理は、例えば、
図4のステップS10で推奨飲食物が提示され、提示された飲食物を食事者が摂取したことを検知すると、推定部43は、ステップS31において、推奨飲食物の摂取前と推奨飲食物の摂取後の食事者の鼻の温度を比較し、食事者の鼻の温度が第1の閾値以上低下しているか否かを判定する。食事者の鼻の温度は、
図3のステップS3で開始された測定部3の測定結果を利用するものとする。
【0056】
ステップS31で、食事者の鼻の温度が第1の閾値以上低下したと判定した場合、ステップS32に進む。ステップS32において、推定部43は、推奨飲食物の摂取前と推奨飲食物の摂取後で、食事者の鼻の温度が第2の閾値(第1の閾値よりも大きな値)以上低下しているか否かを判定する。
【0057】
ステップS32で、食事者の鼻の温度が第2の閾値以上低下したと判定した場合、ステップS33に進む。ステップS33において、推定部43は、食事者が推奨飲食物の温度を冷たいと感じていると認識し、調整部44は、その推定を受けて、記憶部6に記憶されている温度範囲情報6aの温度範囲を、上昇方向に調整する。具体的には、例えば、冷たい飲食物の温度範囲が5~12℃であった場合、8~12℃のように更新される。その後、温度範囲調整処理は終了する。
【0058】
ステップS32で、食事者の鼻の温度が第2の閾値以上低下していないと判定した場合、ステップS34において、推定部43は、推奨飲食物の摂取前と推奨飲食物の摂取後の食事者の瞼の温度を比較し、食事者の瞼の温度が第3の閾値以上上昇したか否かを判定する。ステップS34で、食事者の瞼の温度が第3の閾値以上上昇したと判定した場合、ステップS35において、推定部43は、食事者が推奨飲食物の温度を熱いと感じていると認識し、調整部44は、その推定を受けて、記憶部6に記憶されている温度範囲情報6aの温度範囲を、低下方向に調整する。具体的には、例えば、温かい飲食物の温度範囲が60~70℃であった場合、60~65℃のように更新される。その後、温度範囲調整処理は終了する。
【0059】
ステップS31で、食事者の鼻の温度が第1の閾値以上低下していないと判定された場合、または、ステップS34で、瞼の温度が第3の閾値以上上昇していないと判定された場合、食事者が推奨飲食物の温度を許容範囲または最適だと感じているとして、温度範囲は調整されずに、温度範囲調整処理は終了する。
【0060】
食事者の鼻の温度が第1の閾値以上低下しても(ステップS31:Yes)、食事者の鼻の温度が第2の閾値以上低下しておらず(ステップS32:No)、また食事者の瞳の温度が第2の閾値以上上昇していない場合(ステップS34:No)、温度範囲情報6aは更新されない。食事者の鼻の温度が第1の閾値以上低下しており、不快感を示しているが、これは食事者の飲食物の嗜好など、温度によるものではない可能性があるためである。なおこの場合、食事者は、飲食物の温度によるものではないが、不快を感じているので、その旨を通知することもできる。つまり、推定部43は、測定部3が測定した食事者の顔の温度について、飲食物の摂取前と摂取後の温度差に基づいて、食事者の感情を推定してもよい。推定部43が推定する感情は、飲食物の温度による感情だけでなく、飲食物の嗜好による感情を含んでもよい。
【0061】
(推奨飲食物候補の他の例)
図3、
図4のフローチャートを参照して説明した食事支援処理では、摂取対象飲食物において摂取する順番の優先順位が決定され(ステップS4)、摂取対象飲食物のうち、優先順位の最も高い飲食物が推奨飲食物候補として選択されたが、推奨飲食物候補は、他の方法で選択されてもよい。
【0062】
例えば、食事者の視線の先にある飲食物を推奨飲食物候補として選択してもよい。食事者の目線の先にある飲食物は、食事者が希望する飲食物であることが多いため、このように選択すれば、食事者の希望に沿って食事を勧めることができる。この場合、まず、画像認識部41は、食事者の目線を認識し、目線の先にある飲食物を特定する。選択部42は、画像認識部41により特定された飲食物を推奨飲食物候補として選択する。
【0063】
また、推奨飲食物候補は、優先順位が最も高い摂取対象飲食物に限らない。例えば、選択部42は、摂取対象飲食物の優先順位を決定することなく推奨飲食物候補を選択してもよい。
【0064】
(温度範囲情報の他の例)
上述では、食事者の温度範囲を、食事者が好む飲食物の温度範囲として説明したが、食事者の温度範囲は、食事者の好む飲食物の温度範囲以外の、食事者の属性に応じた温度範囲とすることができる。よって、
図5を参照して説明した温度範囲調整処理に代えて、または更に加えて、別の方法によっても温度範囲を調整することができる。
【0065】
例えば、食事者の血圧に応じて、食事者の温度範囲を調整することができる。血圧が高い人は、塩分濃度を控えた飲食物を摂取することが一般的に望ましいが、このような食事は美味しい快適な食事を実現できない可能性がある。よって、塩分濃度を控えた飲食物であっても、十分に塩味を感じることができる食事を提供することが望ましい。
【0066】
ここで、人の味覚においては、摂取する飲食物の温度が低いほど、塩味を感じやすくなる傾向にあることが知られている。よって、通常よりも低い温度で飲食物を提供すれば、塩分濃度を控えた飲食物であっても、塩味を感じることができる食事を提供することができる。
【0067】
そこで、調整部44は、例えば血圧が高い食事者の温度範囲について、血圧が正常である食事者の温度範囲によりも、温度を低い方向に調整することができる。
【0068】
また、食事者の嚥下障害レベルに応じて、食事者の温度範囲を調整することができる。嚥下障害レベルが高いとは、嚥下能力が大きく損なわれていることを示し、嚥下障害レベルが低いとは、嚥下能力があまり損なわれていないことを示す。
【0069】
飲食物の温度と体温の差が大きいほど、嚥下反射が誘発されやすいことが知られている。よって、通常よりも体温との差が大きい飲食物を提供すれば、嚥下障害レベルが高い食事者は嚥下しやすくなり、快適な食事を実現できる。
【0070】
そこで、調整部44は、例えば嚥下障害レベルが高い食事者について、嚥下障害レベルが低い食事者の温度範囲よりも、その範囲を広くし、温度範囲の中間部分を食事者の温度範囲から除くように調整することができる。
つまり、調整部44は、食事者の属性である血圧や嚥下障害レベルに基づいて、温度範囲情報を調整する。記憶部6はあらかじめ食事者の属性に基づいて温度範囲情報6aを食事者ごとに記憶しておき、画像認識部41は撮影部2により撮影された画像に基づいて食事者を特定し、選択部42は特定した食事者の温度範囲情報6aを用いて飲食物を選択してもよい。調整部44は、特定した食事者の属性に基づいて温度範囲情報6aを調整しなくてもよい。
【0071】
[実施形態の補足説明]
画像認識部41は撮影部2により撮影された画像に基づいて食事者を特定し、記憶部6は調整された温度範囲情報6aを特定した食事者ごとに記憶してもよい。
【0072】
次の食事において、画像認識部41は撮影部2により撮影された画像に基づいて食事者を特定し、選択部42は特定した食事者の温度範囲情報6aを用いて飲食物を選択してもよい。
【0073】
管理装置1は温度計を備え、調整部44は気温が高いほど温度範囲情報6aを低下方向に調整してもよいし、気温が低いほど温度範囲情報6aを上昇方向に調整してもよい。また調整部44は、気温の代わりに気温の変化量に基づいて、温度範囲情報6aを調整してもよい。
【0074】
補助者Bの代わりに、食事を介助するロボットなどの食事介助装置に管理装置1を適用してもよい。
【0075】
上述した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態の順序、フローチャートにおける処理の順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、各図は、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0076】
上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。
【0077】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0078】
[発明のまとめ]
上述した管理装置1は、
食事者に提示する飲食物を選択する選択部42と、
選択部42により選択された飲食物を摂取している食事者の温度感覚を推定する推定部43と、
推定部43により推定された食事者の温度感覚に基づいて、食事者に対応する飲食物の温度範囲を示す温度範囲情報6aを調整する調整部44と
を備え、
選択部42は、温度範囲情報6aが示す温度範囲内の飲食物を選択することができる。
【0079】
このような構成を有するので、優先順位が高い飲食物から順に食事者に提供することができ、さらに温度範囲内の飲食物を選択して食事者に提供することができる。
【0080】
また、推定部43は、飲食物の摂取前と飲食物の摂取後の食事者の顔の温度差に基づいて、食事者の感情を推定する。
【0081】
このような構成を有するので、幼児や障害により意思疎通が困難な要介護者が食事をする場合であっても、食事者の摂取後の反応に応じて、温度範囲をその人の好みに合った範囲に調整することができる。
【0082】
また、温度範囲情報6aは、食事者の血圧に応じたものとすることができる。
【0083】
このような構成を有するので、血圧の高い食事者に対して、塩分濃度を控えた飲食物であっても、塩味を感じることができる食事を提供することができる。
【0084】
また、温度範囲情報6aは、食事者の嚥下障害レベルに応じたものとすることができる。
【0085】
このような構成を有するので、嚥下障害レベルが高い食事者に対して、嚥下反射を誘発しやすい、体温と差の大きい温度の飲食物を提供することができる。
【0086】
幼児や障害により意思疎通が困難な要介護者が食事をする際に、あらかじめ食事者に最適な温度で飲食物を提供することで、快適な食事が可能となり、食事者のQOL(Quality of life)の向上につながる。すなわち本開示は、SDGsの「すべての人に健康と福祉を」の実現に貢献し、ヘルスケア製品・サービスによる価値創出に寄与する事項を含む。
【符号の説明】
【0087】
1…管理装置、2…撮影部、3…測定部、4…制御部、5…表示部、6…記憶部、6a…温度範囲情報、41…画像認識部、42…選択部、43…推定部、44…調整部、45…咀嚼判定部