(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107818
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】ビタミン濃度の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20240802BHJP
G01N 33/52 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N33/52 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011937
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 渉
(72)【発明者】
【氏名】森田 伸友
(72)【発明者】
【氏名】三木 聖雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】横石 里紗
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA03
2G043DA02
2G043DA06
2G043EA01
2G043KA02
2G043KA03
2G043KA09
2G043LA02
2G043NA01
2G043NA11
2G045BB03
2G045BB41
2G045CA25
2G045DA57
2G045GC15
(57)【要約】
【課題】簡易な方法で精度よく血中のビタミン濃度を測定することのできる方法を提供する。
【解決手段】この方法は、検査対象動物内の血液中に含まれるビタミン濃度を測定する方法であって、検査対象動物から採取された血液と、生理食塩水と、脂溶性ビタミンを抽出する抽出溶媒とを含み、エタノールを含まない混合液を得る工程(a)と、混合液を撹拌する工程(b)と、混合液又は混合液の上清が収容された測定容器を光源と受光器との間の光路上に配置し、光源から測定容器に向けて光を照射して受光器で受光した光強度を測定する工程(c)と、光強度に基づいて液中のビタミン濃度を算定する工程(d)とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象動物内の血液中に含まれるビタミン濃度を測定する方法であって、
前記検査対象動物から採取された血液と、生理食塩水と、脂溶性ビタミンを抽出する抽出溶媒とを含み、エタノールを含まない混合液を得る工程(a)と、
前記混合液を撹拌する工程(b)と、
前記工程(b)の実行後に、前記混合液又は前記混合液の上清が収容された測定容器を光源と受光器との間の光路上に配置し、前記光源から前記測定容器に向けて光を照射して、前記受光器で受光した光強度を測定する工程(c)と、
前記光強度に基づいて前記血液中のビタミン濃度を算定する工程(d)とを有することを特徴とする、ビタミン濃度の測定方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒は、非極性溶媒及び/又は極性非プロトン性溶媒であることを特徴とする、請求項1に記載のビタミン濃度の測定方法。
【請求項3】
前記工程(a)は、
前記血液を前記生理食塩水で希釈する工程(a1)と、
前記工程(a1)で得られた希釈血液と前記抽出溶媒とを混合する工程(a2)とを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のビタミン濃度の測定方法。
【請求項4】
前記工程(b)は、前記混合液が収容された収容容器を振盪する工程であり、
前記工程(b)の後、前記収容容器内に収容されている前記混合液の上清を抽出して前記測定容器に分注する工程(e)を有し、
前記工程(c)は、前記測定容器内に収容された前記上清に向けて前記光源から光を照射する工程であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のビタミン濃度の測定方法。
【請求項5】
前記工程(b)は、前記収容容器を水平方向に振盪する工程であることを特徴とする、請求項4に記載のビタミン濃度の測定方法。
【請求項6】
前記工程(a)の前に、非ヒト動物である前記検査対象動物から前記血液を採取する工程(f)を有し、
前記工程(f)、前記工程(a)、前記工程(b)、及び前記工程(c)が、前記検査対象動物が存在する敷地内で行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載のビタミン濃度の測定方法。
【請求項7】
前記生理食塩水は、リン酸緩衝生理食塩水であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のビタミン濃度の測定方法。
【請求項8】
前記工程(c)は、前記光源から発せられた300nm~350nmの波長域に属する励起光を前記測定容器内に収容された液体に照射し、前記液体から発せられた400nm~600nmの波長域に属する蛍光を前記受光器で受光する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のビタミン濃度の測定方法。
【請求項9】
前記検査対象動物は、肥育牛であり、
前記脂溶性ビタミンは、ビタミンAであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のビタミン濃度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミン濃度の測定方法に関し、特に血中のビタミン濃度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、畜産分野では、飼育牛を初めとする家畜の栄養状態を把握するために、血中のビタミン濃度を測定することが行われている。
【0003】
飼育牛の血中ビタミンAの濃度の測定方法としては、従来、HPLC法が広く利用されてきた。しかしながら、HPLC法では、装置等が大型で測定が大がかりとなることから、通常、獣医等が肥育現場で採取した血液サンプルが検査機関等に送られ、検査機関において測定される。そのため、検体である血液の採取からビタミンA濃度の測定結果が得られるまでに時間がかかってしまい、適切なタイミングで肥育牛のビタミンAの制御ができないという課題があった。
【0004】
このような事情により、血液を採取した時点から、あまり時間をかけずに肥育牛の血中ビタミンAの濃度を認識できる技術が求められている。
【0005】
特許文献1には、家畜より抽出された血液に、エタノール等のたんぱく変性液とヘキサン等の脂溶成分抽出溶媒とを混合して撹拌した後、遠心分離して得られる脂溶成分抽出液層の吸光度測定を行うことで、脂溶成分抽出液層に抽出されているビタミンA量を測定する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、家畜より抽出された血液に、エタノールは混合せずに、ヘキサン等の脂溶成分抽出溶媒を混合して撹拌し、抽出溶媒の上清に光を照射して蛍光強度を測定することで、ビタミンA濃度を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-230447号公報
【特許文献2】特開2019-219317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された方法を行うには、遠心分離工程が不可欠である。遠心分離工程を行うに際しては、前処理が必要となったり、専用の装置が必要となる等、採血した現場で簡便に行うには不向きである。
【0009】
これに対し、上記特許文献2に記載された方法によれば、遠心分離工程は不要となるため、採血した現場でビタミン濃度の測定を行うことが可能となる。
【0010】
しかしながら、本発明者らの鋭意研究によれば、上記特許文献2の方法では、血中のビタミン濃度を測定するのに十分な量を抽出溶媒に溶解させることが難しいことが確認された。抽出溶媒に対する脂溶性ビタミンの溶解量が少ない場合、受光器側で受光される蛍光の強度が低くなるため、血中ビタミン濃度の多寡に応じた蛍光強度の変化が小さくなる。このことは、血中のビタミン濃度を高精度に測定することを難しくさせる。
【0011】
特許文献2の方法であっても、極めて大きな運動量で混合液を撹拌させることができれば、抽出溶媒に対する脂溶性ビタミンの溶解量を高めることが可能である。高い運動量の下で撹拌できる装置として、三次元方向の撹拌が可能なボルテックルミキサーが知られている。しかし、この装置は、高々数分程度の利用が想定されており、数十分~1時間程度の撹拌を行うことは、装置の故障のおそれもあり不向きである。
【0012】
仮に、極めて高価な専用の装置が準備できれば、短時間の撹拌処理によって抽出溶媒に対する脂溶性ビタミンの溶解量を高めることができる可能性はある。しかし、このような装置を準備することは容易ではなく、採血した現場で簡易な方法でビタミン濃度を測定する、という目的には沿わない。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑み、簡易な方法で精度よく血中のビタミン濃度を測定できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、検査対象動物内の血液中に含まれるビタミン濃度を測定する方法であって、
前記検査対象動物から採取された血液と、生理食塩水と、脂溶性ビタミンを抽出する抽出溶媒とを含み、エタノールを含まない混合液を得る工程(a)と、
前記混合液を撹拌する工程(b)と、
前記工程(b)の実行後に、前記混合液又は前記混合液の上清が収容された測定容器を光源と受光器との間の光路上に配置し、前記光源から前記測定容器に向けて光を照射して、前記受光器で受光した光強度を測定する工程(c)と、
前記光強度に基づいて前記血液中のビタミン濃度を算定する工程(d)とを有することを特徴とする。
【0015】
本明細書における「血液」とは、動物から採取され、血球分離処理が行われていない血液を指す。
【0016】
工程(a)で得られた混合液は、血液と生理食塩水とを含む。言い換えれば、血液が生理食塩水によって希釈されている。この結果、単なる血液と比較して、粘性が低下する。以下の説明において、生理食塩水が混合された血液を、生理食塩水が混合されていない血液と区別する必要がある場合には、前者を「希釈血液」と称し、後者を「原血液」と称することがある。
【0017】
原血液と抽出溶媒とを単に混合して撹拌した場合、原血液の粘性が高いため、原血液を抽出溶媒に分散させるためには、極めて高い運動量の下で長時間にわたって撹拌処理を行う必要がある。これに対し、本発明においては、撹拌対象となる混合液は、希釈血液と抽出溶媒とを含む。希釈血液は、原血液よりも粘性が低いため、比較的低い運動量で短時間の撹拌処理であっても、希釈血液を抽出溶媒内に十分に分散させることができる。このため、汎用的な撹拌器具を用いて、血中のビタミンを抽出溶媒内に効率的に溶解させることができる。
【0018】
なお、本発明者らの鋭意研究の結果、血液にエタノールを混合した場合、受光器側で受光された光強度とビタミン濃度の相関性に個体差が生じやすいことが確認された。言い換えれば、特許文献1に記載された方法の場合、ビタミンAの濃度を高精度に測定できない可能性がある。
【0019】
これに対し、本発明の方法においては、血中のビタミン濃度の測定に際し、血液にエタノールを混合する工程が行われない。この点においても、本発明によれば、検査対象動物の血中のビタミン濃度を精度よく測定することが可能である。
【0020】
検査対象動物としては、畜産動物又は魚類が挙げられる。畜産動物とは、乳製品、肉、卵、皮革等の畜産物を得る目的で繁殖・飼育される家畜、家禽を指す。より具体的には、畜産動物には、牛(肉牛、乳牛)、豚、馬、羊、山羊、鶏、ダチョウ、ラクダ、アヒル等が含まれる。畜産動物は、典型的には、牛、豚、又は馬であり、より典型的には牛(飼育牛)である。
【0021】
前記抽出溶媒としては、血中の脂溶性ビタミンを溶解できる性質を有している物質が利用できる。詳細には、前記抽出溶媒は、非極性溶媒及び/又は極性非プロトン性溶媒とすることができる。誘電率50以下の非極性溶媒とするのが好ましい。
【0022】
前記非極性溶媒としては、誘電率50以下の溶媒とするのが好ましく、例えばアルカン、シクロアルカン、芳香族化合物、クロロホルム、酢酸エチル、及び塩化メチレンからなる化合物群に属する1種以上とすることができる。アルカンであれば、特にC5~C12アルカン、なかでもノルマルヘキサン(n-ヘキサン)を使用することが好ましい。シクロアルカンであれば、特にシクロヘキサンを使用することが好ましい。芳香族化合物であれば、特に、トルエン及び/又はベンゼンを使用することが好ましい。
【0023】
前記極性非プロトン性溶媒としては、例えば、ニトリル、ケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、及びエーテルからなる化合物群に属する1種以上とすることができる。ニトリルであれば、特にアセトニトリルを使用することが好ましい。ケトンであれば、特にアセトンを使用することが好ましい。エーテルであれば、特にジエチルエーテルを使用することが好ましい。
【0024】
前記脂溶性ビタミンは、典型的には、ビタミンAが挙げられるが、その他の対象としては、ビタミンD、ビタミンE、又はビタミンKが挙げられる。
【0025】
前記生理食塩水は、好適には、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)等が利用できる。
【0026】
前記工程(a)は、前記血液(すなわち原血液)を前記生理食塩水で希釈する工程(a1)と、前記工程(a1)で得られた希釈血液と前記抽出溶媒とを混合する工程(a2)とを含むものとしても構わない。
【0027】
前記工程(b)は、前記混合液が収容された収容容器を振盪する工程であり、
前記工程(b)の後、前記収容容器内に収容されている前記混合液の上清を抽出して前記測定容器に分注する工程(e)を有し、
前記工程(c)は、前記測定容器内に収容された前記上清に向けて前記光源から光を照射する工程としても構わない。
【0028】
測定容器は、光源から発せられた光を透過する材料であって、自家蛍光が少ない材料が好適に利用される。より詳細には、測定容器の素材として、例えば、石英ガラス、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂等が利用できる。
【0029】
前記工程(b)は、前記収容容器を水平方向に振盪する工程としても構わない。上述したように、収容容器内には粘性の低下した希釈血液と抽出溶媒との混合液が収容されているため、極めて強い運動量の下で三次元的に撹拌しなくても、抽出溶媒内に血液を分散させることができる。
【0030】
前記ビタミン濃度の測定方法は、前記工程(a)の前に、非ヒト動物である前記検査対象動物から前記血液を採取する工程(f)を有し、
前記工程(f)、前記工程(a)、前記工程(b)、及び前記工程(c)が、前記検査対象動物が存在する敷地内で行われるものとしても構わない。
【0031】
この方法によれば、獣医が検査対象動物から血液を採取した現場近くで、血中ビタミン濃度の測定を行うことができる。なお、工程(d)についても、同敷地内で行われるものとしても構わない。また、別の方法として、工程(c)で得られた光強度に関する情報がいったん別の場所に保管された演算装置に送信されて演算が行われた後、同演算装置から前記敷地内に存在する端末に演算結果が送信されるものとしても構わない。いずれの場合においても、獣医が検査対象動物から血液を採取した現場近くで、血中ビタミン濃度の測定結果を認識することができるため、必要に応じて、獣医が測定結果に基づき検査対象動物に対して措置を行うことができる。
【0032】
前記工程(c)としては、ビタミンが溶解された抽出溶媒から発せられた蛍光の強度を測定する第一の方法を採用しても構わないし、ビタミンが溶解された抽出溶媒を透過した光の強度を測定する第二の方法を採用しても構わない。第一の方法では、光源から発せられた光とは異なる波長の光を受光して、その強度が測定される。第二の方法では、光源から発せられた光と同波長の光を受光し、光源から出射された時点の強度と、受光時の強度との差が検知される。
【0033】
第一の方法が採用される場合、前記工程(c)は、前記光源から発せられた300nm~350nmの波長域に属する励起光を前記測定容器内に収容された液体に照射し、前記液体から発せられた400nm~600nmの波長域に属する蛍光を前記受光器で受光する工程を含むものとしても構わない。
【0034】
ここで、測定容器内に収容される液体が、工程(b)の後に混合液の上清を抽出して分注された液体である場合、前記工程(c)において、測定容器内に収容された液体のどの領域に対して励起光を照射しても構わない。また、測定容器内に収容される液体が、工程(b)の後に混合液そのものである場合には、前記工程(c)において、測定容器内に収容された混合液のうちの、少なくとも上清が存在する領域に対して励起光が照射される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、簡易な方法で精度よく血中のビタミン濃度を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】ビタミン濃度の測定方法の一実施形態の手順を模式的に示すフローチャートである。
【
図2】ビタミン濃度の測定方法の一実施形態の手順を模式的に示す別のフローチャートである。
【
図3】分析装置の構造の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図4】分析装置の構造の別の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図5】分析装置の構造の更に別の一例を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係るビタミン濃度の測定方法の実施形態につき、図面を参照して説明する。
【0038】
図1は、ビタミン濃度の測定方法の一実施形態の手順を模式的に示すフローチャートである。以下の説明では、適宜
図1内のステップ番号が参照される。
【0039】
(ステップS1:採血)
まず、血中のビタミン濃度を測定する対象となる動物(検査対象動物)の血液が採取される。検査対象動物としては、典型的には飼育牛であるが、他の家畜等であっても構わない。通常、この工程は獣医によって行われる。
【0040】
採取される血液の量は任意である。ただし、ビタミン濃度の測定に最低限必要な量以上であればよく、逆に、多すぎると検査対象動物に対して過度な負担を強いる可能性もある。かかる観点から、採取される血液の量は、1μL~10mLとするのが好ましく、5μL~2mLとするのがより好ましい。
【0041】
ステップS1で得られた血液は、ステップS2で得られた液体と区別する観点で、「原血液」と称されることがある。
【0042】
ステップS1は、工程(f)に対応する。
【0043】
(ステップS2:血液の希釈)
採取された血液(原血液)が生理食塩水によって希釈される。生理食塩水としては、典型的にはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が利用できる。
【0044】
このステップは、原血液の粘性を低下させる目的で行われる。言い換えれば、原血液の粘性が低下できる範囲内であれば、本発明において原血液の希釈率は限定されない。ただし、あまりに生理食塩水を入れすぎると、後述するステップS4の後に、抽出溶媒の上清が生成されにくくなる上、単純に液体の量が多くなるため、取り扱いの困難性が高まるおそれがある。かかる観点から、希釈後の血液濃度は、20体積%~80体積%とするのが好ましく、30体積%~70体積%とするのがより好ましく、40体積%~60体積%とするのが特に好ましい。
【0045】
希釈に際しては、一般的な方法を利用することができる。例えば、原血液が収容された収容容器に、所定量の生理食塩水を添加した後、撹拌するものとしても構わない。また、所定量の生理食塩水が収容された収容容器に、原血液を添加した後、撹拌するものとしても構わない。更に、空の収容容器に、原血液と所定用の生理食塩水を投下した後、撹拌するものとしても構わない。
【0046】
ステップS2によって得られた希釈血液は、原血液と比べて粘性が低下する。このステップS2は、工程(a1)に対応する。
【0047】
(ステップS3:抽出溶媒を混合)
ステップS2で得られた希釈血液と、脂溶性ビタミンを抽出する溶媒(抽出溶媒)とが混合される。抽出溶媒は、血中の脂溶性ビタミンを溶解できる性質を有している物質である。詳細には、前記抽出溶媒は、非極性溶媒及び/又は極性非プロトン性溶媒とすることができる。
【0048】
このステップは、後述する撹拌工程で混合液を撹拌させることで、血中に含まれる脂溶性ビタミンを抽出溶媒に溶解させるための前処理として行われる。言い換えれば、血中に含まれる脂溶性ビタミンを、血中ビタミン濃度の測定に必要な量以上、抽出溶媒側に溶解させることができる限り、本発明において抽出溶媒の混合量は限定されない。
【0049】
ただし後述するように、本実施形態では、混合液を撹拌した後、上清を回収して別の容器(測定容器)に分注される。混合液の量があまりに少ないと、上清を構成する層の量が少なくなり、回収作業が困難になるおそれがある。また、あまりに抽出溶媒を入れすぎると、単純に液体の量が多くなるため、取り扱いの困難性が高まるおそれがある。
【0050】
かかる観点から、希釈血液に対する抽出溶媒の混合比率は、1倍~5倍とするのが好ましく、1.5倍~4.5倍とするのがより好ましく、2倍~3倍とするのが特に好ましい。
【0051】
混合に際しては、一般的な方法を利用することができる。例えば、希釈血液が収容された収容容器に、所定量の抽出溶媒を添加しても構わないし、所定量の抽出溶媒が収容された収容容器に希釈血液を添加しても構わないし、空の収容容器に希釈血液と所定用の抽出溶媒を投下しても構わない。
【0052】
このステップS3が実行されることで、原血液と生理食塩水と抽出溶媒との混合液が得られる。なお、抽出溶媒には、エタノールに代表される極性プロトン性溶媒が含まれていない。
【0053】
ステップS3は、工程(a2)に対応する。
【0054】
なお、ステップS2とステップS3とは、同時に実行しても構わない。すなわち、
図2のステップS3aのように、原血液と生理食塩水と抽出溶媒とを混合するものとしても構わない。この場合、原血液に対して混合される、生理食塩水及び抽出溶媒の量は、それぞれ、上述した比率に基づいて予め定められた量とされる。
【0055】
ステップS2及びステップS3は、まとめて工程(a)に対応する。同様に、ステップS3aも、工程(a)に対応する。
【0056】
(ステップS4:混合液の撹拌)
ステップS3、又はステップS3aで得られた混合液が、撹拌される。典型的には、混合液が収容された収容容器が振盪されることで、収容容器内の混合液が撹拌される。この撹拌工程は、混合液中に含まれる抽出溶媒と血液との接触確率を高めることで、血中の脂溶性ビタミンを抽出溶媒側に溶出させることを目的として行われる。
【0057】
撹拌に際しては、汎用的な装置を利用することができる。例えば、収容容器をシェーカの台座の上に載置して、水平方向に振盪することで実現してもよい。また、三次元的な撹拌が可能な装置(ボルテックスミキサー等)に収容容器をセットして、撹拌しても構わない。
【0058】
ただし、本実施形態の方法では、撹拌される混合液に含まれる血液が希釈されているため、混合液の粘性が低下している。このため、必ずしも高価なボルテックスミキサーのような専用装置を用いて三次元的に激しく振盪する必要はなく、より汎用的なシェーカーを利用することが可能である。例えば、水平方向の振盪であっても、粘性の低い希釈血液が抽出溶媒内で巻き上がりやすくなり、希釈血液と抽出溶媒との接触面を時々刻々と変化させることができる。
【0059】
本発明において、血中ビタミンを抽出溶媒側に十分溶出させることができる限りにおいて、撹拌処理の時間や撹拌に加えられる運動量(撹拌強度)には限定されない。一例として、撹拌振幅3mm、撹拌強度1500rpmの下で、1分~20分とするのが好ましく、3分~15分とするのがより好ましく、5分~15分とするのが特に好ましい。
【0060】
ステップS4は、工程(b)に対応する。
【0061】
(ステップS5:上清を測定容器に分注)
血液は抽出溶媒には溶解しないため、ステップS4が終了した後においても、収容容器内において混合液は複数の層に分かれた状態で存在する。詳細には、底部側に血液層、上部側に抽出溶媒層が存在する。ステップS4を経たことで、血液中に含まれていたビタミンが、抽出溶媒層内に溶解した状態で存在している。つまり、測定容器内の上清部分にビタミンが溶解されている。
【0062】
この上清部分を抽出して、別の容器(測定容器)内に注ぐ処理が行われる。上清の抽出及び分注の処理は、汎用的な方法で行われる。
【0063】
ステップS5は、工程(e)に対応する。
【0064】
(ステップS6:測定容器に光を照射)
ステップS5の実行後、上清が収容された測定容器が、分析装置にセットされる。
図3は、分析装置の構造を模式的に示すブロック図である。
【0065】
分析装置10は、測定容器5内に収容された分析対象液6(ここでは上清)に対して光を照射することで、分析対象液6内のビタミンの濃度、言い換えれば血中ビタミン濃度を測定するための装置である。
【0066】
分析装置10は、光源11及び受光器12を備える。分析装置10は、測定容器5が分析装置10の所定の箇所にセットされることで、光源11から受光器12に向かう光路上に測定容器5が位置するように調整されている。
【0067】
本実施形態の分析装置10は、分析対象液6に対して光源11からの励起光を照射することで、分析対象液6内に含まれるビタミン(励起対象物)が励起され、蛍光(以下、「観測光L2」と称する。)を発する。この観測光L2の強度、より厳密には観測光L2に含まれる特定の波長成分の強度は、励起対象物であるビタミンの濃度に依存する。受光器12は、測定容器5に収容された分析対象液6から発せられた観測光L2を受光して、この受光量を検知する。
【0068】
本実施形態の分析装置10は、送受信部14を備えている。送受信部14は、電気通信回線2を介してデータの送受信を行う入出力インターフェースである。本実施形態では、受光器12において検知された受光量に関するデータが、送受信部14より電気通信回線2を介して端末40に送信される。
【0069】
ここで、電気通信回線2としては、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)が利用でき、端末40としては、スマートフォン、タブレット型PC、ノート型PC等が利用できる。端末40は、典型的には獣医が保有している端末である。なお、電気通信回線2として、情報の送受信が可能な、有線LAN回線、USB回線といった有線を利用することも可能である。
【0070】
光源11としては、励起対象物を励起させることのできる波長域の光(励起光L1)を発する光源が選択される。一例として、光源11は、ピーク波長が340nmの紫外光を発するLEDである。ただし、光源11はレーザダイオード(LD)であっても構わない。また、光源11から発せられる励起光L1の波長は、測定対象であるビタミンを励起させることのできる波長域であれば、340nmには限定されない。典型的には、励起光L1の波長は、300nm~350nmの波長域に属する。
【0071】
光源11から発せられる励起光L1は、測定容器5の壁を透過して、測定容器5の内側に収容された分析対象液6に照射される。かかる観点から、測定容器5は、励起光L1に対して透過性を示す材料であるのが好ましい。また、受光器12において、分析対象液6から発せられ、測定容器5の壁を透過して進行する蛍光(観測光L2)を受光する観点から、測定容器5は低自家蛍光物質で構成されるのが好ましい。かかる観点から、測定容器5の素材としては、例えば、石英ガラス、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂等が利用できる。
【0072】
分析装置10は、光源11から発せられた励起光L1を、効率的に測定容器5に対して導くことのできるよう、必要に応じてレンズや導光部材を設けるものとしても構わない。同様に、分析装置10は、測定容器5に収容された分析対象液6から発せられた観測光L2を効率的に受光器12に導くことのできるよう、必要に応じてレンズや導光部材を設けるものとしても構わない。
【0073】
更に、分析装置10は、励起光L1が受光器12において受光されることで観測光L2の受光量の測定誤差が生じるのを防止する工夫が施されていても構わない。一例として、分析装置10は、測定容器5と受光器12との間に励起光L1の波長成分をカットするフィルタを設けていても構わない。別の一例として、励起光L1の光軸と観測光L2の光軸とが非平行に構成されることで、励起光L1が受光器12側に直接導かれないような処置が施されていても構わない。後者の場合、励起光L1の光軸と観測光L2の光軸とのなす角度を、90°~170°と設定するのが好適である。上記角度を170°以下とすることで、励起光L1が受光器12に直接入射しないようにすることができる。また、上記角度を90°以上とすることで、光路長を短く維持しつつ、励起光L1を導光するためのユニットと、観測光L2を導光するためのユニットとの物理的な干渉を回避できる。
【0074】
ステップS6が、工程(c)に対応する。
【0075】
(ステップS7:ビタミン濃度の算定)
分析装置10で得られた受光量に関するデータは、上述したように、端末40に送信される。端末40は、送受信部43、演算処理部45、及び検量線記憶部Mcを備える。
【0076】
送受信部43は、電気通信回線2を介してデータの送受信を行う入出力インターフェースである。検量線記憶部Mcは、不揮発性メモリやハードディスク等の汎用の記憶媒体であり、受光器12において受光した観測光L2の強度(上述したように、厳密には特定の波長成分の強度)と、ビタミンの濃度との関係を示す検量線に関するデータを予め記録している。演算処理部13は、受光器12から観測光L2の強度に関する情報が入力されると、検量線記憶部Mcに記録されたデータを読み出して、測定容器5内の分析対象液6に含まれるビタミンの濃度を算出する機能的手段であり、典型的には演算プロセッサである。
【0077】
端末40は、典型的にはモニタを備えており、演算処理部45における演算結果、すなわち、分析対象液6に含まれるビタミンの濃度の値を表示する。
【0078】
ステップS7が、工程(d)に対応する。
【0079】
以上のように、本実施形態の方法によれば、ステップS1で獣医が検査対象動物から採血した現場とほぼ同じ場所(典型的には同じ敷地内)において、残りのステップS2~S7を遅滞なく実行することができる。つまり、採血後、遅滞なく血中のビタミン濃度が算定されるため、獣医は、この血中ビタミン濃度を確認した上で、検査対象動物に対して必要な措置を講じることができる。
【0080】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0081】
〈1〉上記実施形態では、分析装置10で得られた受光量に関するデータが、端末40に送信されて、端末40側でビタミン濃度が算定されるものとした。しかし、分析装置10側で、ビタミン濃度の算定が行われても構わない。具体的には、
図4に示すように、分析装置10が、演算処理部13と検量線記憶部Mcとを備えているものとしても構わない。この場合、分析装置10に搭載された演算処理部13は、受光器12から観測光L2の強度に関する情報が入力されると、検量線記憶部Mcに記録されたデータを読み出して、測定容器5内の分析対象液6に含まれるビタミンの濃度を算出する。算出結果は、送受信部14から他の装置(例えば端末40)に送信される。
【0082】
〈2〉上記実施形態では、光源11からの励起光L1が分析対象液6に照射されることで、分析対象液6内のビタミンが励起され、この励起によって生じた蛍光(観測光L2)の受光器12における受光強度によって、ビタミン濃度を算定するものとした。しかし、
図5に示すように、光源11から発せられて、分析対象液6を透過した光L3を受光器12において受光するものとしても構わない。
【0083】
この場合、光L3の波長としては、分析対象液6内に含まれるビタミンによって吸収される波長域が選択される。一例として、光L3の波長は400nm~450nmの波長域に属する。検量線記憶部Mcは、受光器12において受光した光L3の強度(厳密にはビタミンによって吸収される波長域の強度)と、ビタミンの濃度との関係を示す検量線に関するデータを予め記録している。この構成においては、受光器12において受光される強度が低いほど、分析対象液6内に含まれるビタミン濃度は高くなる。
【0084】
〈3〉上述したように、混合液を撹拌した後、収容容器内においては、底部側に血液層、上部側に抽出溶媒層が存在する。ここで、上部の抽出溶媒層に向けて光を照射することができれば、ステップS5(上清の分注工程)は省略することが可能である。この場合、収容容器は測定容器5を兼ねる。
【実施例0085】
本発明に係るビタミン濃度の測定方法に関し、以下において実施例を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、この実施例の内容に限定されるものではない。
【0086】
[検証1]
下記実施例1、比較例1、比較例2のそれぞれの方法で蛍光強度を測定し、HPLC法で得られた血中ビタミンA濃度との対比を行った。
【0087】
(実施例1)
以下の手順で各工程が行われた。
【0088】
#1:肥育牛から測定対象となる血液を10mL採取した。この工程は、ステップS1に対応する。
#2:血液(原血液)100μLに、生理食塩水としてのPBSを100μLと、抽出溶媒としてのヘキサンを400μLとを混合することで、希釈血液と抽出溶媒との混合液を得た。この工程は、ステップS2~S3に対応する。
#3:混合液をシェーカー(タイテック社製、MBR-022)を用いて10分間撹拌した。この工程は、ステップS4に対応する。
#4:撹拌後の混合液の上清を200μL抽出して、測定容器に分注した後、分析装置10としての分光蛍光光度計(日立ハイテク社製、FL-2700)を用いて、蛍光強度を測定した。光源11のピーク波長は325nmであり、受光器12で受光した観測光L2の波長域は470nm~560nmとされた。この工程は、ステップS5~S7に対応する。
【0089】
(比較例1)
以下の手順で各工程が行われた。
【0090】
#1a:肥育牛から測定対象となる血液を10mL採取した。
#2a:血液(原血液)100μLに、抽出溶媒としてのヘキサンを1000μLを混合することで、原血液と抽出溶媒との混合液を得た。
#3a:混合液をボルテックスミキサー(Heathrow Scientific社製、VORTEXER)を用いて、2000rpmで10分間撹拌した。
#4a:撹拌後の混合液の上清を400μL抽出して、測定容器に分注した後、分析装置10として試作の小型蛍光光度計を用いて、蛍光強度を測定した。光源11のピーク波長は340nmであり、受光器12で受光した観測光L2の波長域は485nm~555nmとされた。
【0091】
(比較例2)
以下の手順で各工程が行われた。
【0092】
#1b:肥育牛から測定対象となる血液を10mL採取した。
#2b:血液(原血液)100μLに、極性プロトン性溶媒としてのエタノールを125μLを混合して、この第一混合液を得た。
#3b:第一混合液を、比較例1の工程#3aと同様のボルテックスミキサーを用いて10秒間撹拌した。
#4b:撹拌後の第一混合液に、抽出溶媒としてのヘキサンを400μLを混合し、第二混合液を得た。
#5b:第二混合液を、工程#3bと同様のボルテックスミキサーを用いて10秒間撹拌した。
#6b:撹拌後の第二混合液の上清を200μL抽出して、比較例1の#4aと同様の方法で蛍光強度を測定した。
【0093】
(参照例)
飼育牛から測定された血中のビタミンAの濃度を、HPLC法を用いて測定した。HPLC法は、一般にビタミンA濃度の測定に用いられている方法であり、装置等が大型で測定が大がかりであるが、精度の良い測定方法である。そのため、肥育現場での測定には適さないが、比較例1、比較例2及び実施例1の精度を対比する観点で、HPLC法による測定が行われた。
【0094】
(結果)
結果を
図6及び表1に示す。
図6において、左縦軸は比較例1及び比較例2で得られた蛍光強度(相対値)、右縦軸は実施例1で得られた蛍光強度、横軸はHPLC法による測定結果である。表1は、比較例1、比較例2、及び実施例1のそれぞれの結果と、HPLC法による結果との相関係数を示す。
【0095】
【0096】
図6及び表1によれば、比較例1及び比較例2と比べて、実施例1ではHPLC法による結果との相関性が向上しており、高精度な結果が得られていることが分かる。
【0097】
比較例1では、原血液とヘキサンとの混合液がボルテックスミキサーを用いて激しく撹拌された。しかし、血液の粘性が高いことから、血中のビタミンAがヘキサン内に十分に分散されず、結果の精度が相対的に低くなったものと考えられる。
【0098】
比較例2では、原血液にエタノールが混合されているため、血中のビタミンAがエタノール側に一時的に取り込まれた状態となる。その後、ヘキサンが混合されて撹拌されることで、比較例1と比べて、原血液よりも粘性が低い溶媒内に存在するビタミンAが、ヘキサン側に溶出しやすくなったものと考えられる。
【0099】
一方で、エタノールは、水にも油にも溶けやすいことから、血中のビタミンA以外の夾雑物(阻害物質:例えばβカロテン等)も混入しやすい。この結果、その後にヘキサンが混合されて撹拌されたことで、ビタミンA以外の夾雑物もヘキサン側に存在することとなる。この状態で励起光が照射されると、夾雑物由来の蛍光が生じ、ビタミンA由来の蛍光に重畳する。このため、比較例2よりは精度が高いものの依然として十分な精度の結果が得られているとはいえない。
【0100】
これに対し、実施例1によれば、HPLC法の結果との相関係数が0.90であり、ほぼHPLC法と同等の精度の結果が得られたと結論付けられる。この理由としては、比較例2のようにエタノールを用いていないためビタミンA以外の夾雑物がヘキサン側に溶出されなかったこと、及び、原血液にPBSが混合されたことで血液の粘性が低下されたため、血中のビタミンAを効率的にヘキサン側に溶出できたことが考えられる。
【0101】
[検証2]
6頭の飼育牛を用いて、比較例2及び実施例1と同様の方法で検証を行った。結果を
図7に示す。
【0102】
図7によれば、原血液にエタノールとヘキサンとを混合した混合液を用いて分析した比較例2の結果には、飼育牛による個体差が生じていることが分かる。これに対し、原血液をPBSで希釈してヘキサンと混合した混合液を用いて分析した実施例1の結果は、飼育牛の個体の相違にかかわらず、ほぼ直線上に現れており、結果に個体差が生じにくいことが示唆される。
【0103】
比較例2の方法を用いた検証結果が、飼育牛の個体差を生じやすい理由は、検証1で述べたように、ヘキサン側に夾雑物が溶出されやすく、この夾雑物の多寡が飼育牛の個体に依存するためであると推察される。
【0104】
[検証3]
比較例1の方法において、撹拌工程#3aにおける撹拌速度を変化させたときの、受光器側で受光された蛍光強度の変化を測定した。結果を
図8に示す。
【0105】
図8によれば、撹拌速度が1500rpmでは十分な蛍光強度が得られておらず、高S/N比の下で検出するには、1700rpm程度の高速回転を行う必要があることが示唆される。
【0106】
図9は、撹拌速度1700rpmの下でボルテックスミキサーを振動させた状態で、3軸方向の加速度を計測し、その時間変化をグラフ化したものである。厳密には、
図9では、1秒間にわたる各軸方向の加速度の平均値を算定した上で、この平均値の時間変化がグラフに表記されている。
図9によれば、1700rpmもの高速でボルテックスミキサーを回転させると、3軸方向の加速度が時々刻々と変化し、安定しないことが分かる。このことは、ボルテックスミキサーを用いて高速に撹拌した場合、撹拌状況の再現性を得るのが難しいことを示唆するものである。
【0107】
検証3によれば、比較例1の方法で蛍光強度を検知するためには、ボルテックスミキサーを用いて極めて高速に振盪させる必要があるが、その速度が極めて高速であることから再現性が得られないことが示唆される。言い換えれば、比較例1の方法では実用性に欠けることが示唆される。
【0108】
[検証4]
実施例1の方法において、混合工程#2で混合されるヘキサンの量を異ならせたときの、受光した蛍光強度への影響を検証した。具体的には、ヘキサンの混合量を400μLとしたときと、1000μLとしたときの2パターンの比較を行った。なお、ヘキサンの混合量以外の条件は、実施例1と共通とした。結果を
図10に示す。
【0109】
図10によれば、ヘキサンの混合量が少ない方が、受光した蛍光強度が高いことが分かる。一方で、ヘキサンの混合量を400μLとしたときと、1000μLとしたときのいずれにおいても、HPLC法による結果との相関性が高いことが確認された。
【0110】
[検証5]
実施例1の方法において、撹拌工程#3における撹拌時間を異ならせたときの、受光した蛍光強度への影響を検証した。具体的には、撹拌時間を、5分、10分、15分、及び20分の4パターンの比較を行った。なお、各データの取得に際しては、6頭の飼育牛に対してそれぞれ週に1回のペースで#1~#4を実行し、これを3週にわたって行った。つまり、撹拌時間毎に、18サンプルずつ準備された。結果を
図11に示す。
【0111】
図11によれば、撹拌時間が5分と短い場合であっても、HPLC法による結果に対して高い相関性が得られており、高精度の測定結果が得られていることが分かる。また、撹拌時間を20分と長くしても、撹拌時間が5分の場合と比べて、HPLC法の結果に対する相関性が大きく向上するわけではないことも確認された。言い換えれば、本発明の方法によれば、撹拌時間を5分程度という短い時間に設定しても、血中ビタミン濃度を精度よく得られることが分かる。