IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三五の特許一覧

<>
  • 特開-バーリング加工方法 図1
  • 特開-バーリング加工方法 図2
  • 特開-バーリング加工方法 図3
  • 特開-バーリング加工方法 図4
  • 特開-バーリング加工方法 図5
  • 特開-バーリング加工方法 図6
  • 特開-バーリング加工方法 図7
  • 特開-バーリング加工方法 図8
  • 特開-バーリング加工方法 図9
  • 特開-バーリング加工方法 図10
  • 特開-バーリング加工方法 図11
  • 特開-バーリング加工方法 図12
  • 特開-バーリング加工方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107823
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】バーリング加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 19/08 20060101AFI20240802BHJP
   B21C 1/22 20060101ALI20240802BHJP
   B21D 28/28 20060101ALI20240802BHJP
   B21D 28/10 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
B21D19/08 D
B21C1/22 Z
B21D28/28
B21D28/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011943
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 大貴
(72)【発明者】
【氏名】角田 司
【テーマコード(参考)】
4E048
4E096
【Fターム(参考)】
4E048EA02
4E048KA04
4E096EA16
(57)【要約】
【課題】バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成することができるバーリング加工方法を提供する。
【解決手段】周壁に穿設された下穴を有する筒状部材の内部に所定の形状を有する成形型である第1型を配置する第1工程と、筒状部材の内部から外部へと下穴を通して第1型を引き抜くことにより下穴の周縁部を筒状部材の外方へと引き起こして枝部を形成する第2工程と、を含むバーリング加工方法において、第2工程の途中の時点である第1時点から第2工程の完了時点である第2時点に到るまで枝部の先端面を第1型とは異なる成形型である第2型に当接させることにより枝部の軸方向における変形を規制する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁に穿設された下穴を有する筒状部材の内部に所定の形状を有する成形型である第1型を配置する第1工程と、前記筒状部材の内部から外部へと前記下穴を通して前記第1型を引き抜くことにより前記下穴の周縁部を前記筒状部材の外方へと引き起こして枝部を形成する第2工程と、を含むバーリング加工方法であって、
前記第2工程の途中の時点である第1時点から前記第2工程の完了時点である第2時点に到るまで前記枝部の先端面を前記第1型とは異なる成形型である第2型に当接させることにより前記枝部の軸方向における変形を規制する、
ことを特徴とする、バーリング加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたバーリング加工方法であって、
前記第2工程において、前記下穴よりも大きい最大径を有する前記第1型を前記枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く加工である直線引き抜き加工を、異なる外径を有する複数の前記第1型の各々について、外径が小さい第1型から外径が大きい第1型へと第1型を入れ替える毎に順次行う、
ことを特徴とする、バーリング加工方法。
【請求項3】
請求項1に記載されたバーリング加工方法であって、
前記第2工程において、前記下穴よりも小さい最大径を有する前記第1型を前記枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を、前記第1型の公転径を大きくする毎に順次行う、
ことを特徴とする、バーリング加工方法。
【請求項4】
請求項1に記載されたバーリング加工方法であって、
前記第2工程において、前記下穴よりも小さい最大径を有する前記第1型を前記下穴の周縁部の一部に当接させながら前記枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く加工である割出し引き抜き加工を、前記枝部の前記軸の周りに割出しする毎に前記下穴の周縁部の一部に対して順次行う、
ことを特徴とする、バーリング加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載されたバーリング加工方法であって、
前記第2工程において、前記割出し引き抜き加工を行った後に、前記下穴よりも大きい最大径を有する前記第1型を前記枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く加工である直線引き抜き加工及び/又は前記下穴よりも小さい最大径を有する前記第1型を前記枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を行う、
ことを特徴とする、バーリング加工方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載されたバーリング加工方法であって、
前記第2工程において、前記第1時点よりも前の所定の時点である第3時点において前記枝部の先端部分を前記下穴の径方向における外側に向かって屈曲させて前記下穴の径方向における内側に向かって凸状の形状を有する部分である環状凸部を形成する加工であるフレア加工を行った後に、前記第1型によって前記環状凸部を押圧することにより、前記枝部の前記先端面を前記第2型に当接させる、
ことを特徴とする、バーリング加工方法。
【請求項7】
請求項6に記載されたバーリング加工方法であって、
前記第3時点において、前記第1型及び前記第2型の何れとも異なる成形型である第3型によって前記枝部の前記先端部分を押圧することにより前記環状凸部を形成する、
ことを特徴とする、バーリング加工方法。
【請求項8】
請求項6に記載されたバーリング加工方法であって、
前記第3時点において、前記枝部の前記先端部分に対向する位置において前記枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転する前記第1型の公転径を増大させて前記枝部の前記先端部分を当該第1型によって押圧することにより前記環状凸部を形成する、
ことを特徴とする、バーリング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーリング加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば配管の分岐等を目的として、筒状部材の周壁(側面)に枝部(分岐部)を塑性加工によって形成することが知られている。図11は、塑性加工によって枝部が形成された筒状部材の一例を示す写真である。このような枝部を形成するための方法として、所謂「バーリング加工」が知られている。バーリング加工とは、筒状部材の周壁又は板状部材に形成された下穴(開口)の周縁部を引き起こす方法である。
【0003】
バーリング加工においては、下穴を通してパンチ状の剛体型を引き抜く「直線引き抜き方式」(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)及び下穴に挿入された回転子を公転させながら下穴を拡径させつつバーリング部(枝部)を形成する「回転引き抜き(インクリメント)方式」(例えば、特許文献3乃至特許文献5を参照)が一般的に採用されている。
【0004】
図12は、直線引き抜き方式によるバーリング加工の一例を示す模式的な断面図である。図12に例示するように、周壁に穿設された下穴11を有する筒状部材10がダイス20にセットされ、所定の形状を有する成形型30が筒状部材10の内部に配置されている。成形型30は、下穴11を通して駆動装置40と接続されている。そして、黒塗りの矢印によって示すように、駆動装置40により下穴11を通して成形型30を引き抜くことにより、下穴11の周縁部を引き起こして、枝部を形成することができる。
【0005】
直線引き抜き方式及び回転引き抜き方式の何れにおいても、最終的に形成されるバーリング部の内径よりも小さい内径を有する下穴を筒状部材又は板状部材に開けておき、下穴を大径化しつつ下穴の周縁部を引き起こしてバーリング部を形成していく。従って、下穴の周縁部を構成する材料がバーリング部の形成に供されることになるため、形成されたバーリング部の薄肉化及び高さのバラツキを免れない。また、バーリング加工前の筒状部材又は板状部材の肉厚及び/又は下穴の形状におけるバラツキに起因して、バーリング部の肉厚及び高さにバラツキが生ずる。このような問題は筒状部材又は板状部材の肉厚が小さい場合に特に顕著となる。
【0006】
図13は、直線引き抜き方式によるバーリング加工の実行に伴って下穴の周縁部が引き起こされる様子の一例を示す有限要素法によるシミュレーション図である。図13の(a)は周壁に穿設された下穴11を有する筒状部材10がダイスにセットされ、形型30が筒状部材10の内部に配置された状態を、図13の(b)は駆動装置により下穴11を通して成形型30が引き上げられて下穴11の周縁部が引き起こされ始めた状態を、図13の(c)は成形型30の引き抜きによる枝部の形成が完了する時点における状態を、それぞれ示している。当該シミュレーションの結果、図13の(c)において白抜きの矢印によって指し示すように、筒状部材の軸方向における枝部の両端の部位の減肉が最も大きいことが判った。
【0007】
上記のようにバーリング部の形状をバーリング加工の結果としての成り行き(出来合い)に任せるのではなくバーリング部の形状を所望の形状に正確に合致させたい場合、当該技術分野においてはバーリング部の端面(頂面)を成形型によって軸に沿って押し下げて端面の高さ並びにバーリング部の寸法及び形状を整えることが行われている。
【0008】
上記「直線引き抜き方式」においては、例えば、バーリング加工によって形成されたバーリング部にバーリングパンチが挿入された状態においてバーリング部の先端面を押圧パンチによって軸方向に押圧することによりバーリング部を増肉させる技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、バーリング加工によって形成されたバーリング部を径方向(肉厚方向)における寸法がバーリング部の肉厚よりも大きい空間を有する型に保持した状態においてバーリング部の開放端を軸方向に強圧することにより厚肉化されたハブとする技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0009】
これらの従来技術によればバーリング部を増肉させることができるものの、何れの技術においてもバーリング加工後にバーリング部を増肉させる二次加工が必要であり、成形工程及び成形装置の複雑化並びに成形コストの増大を招く懸念がある。更に、筒状部材又は板状部材の肉厚が小さい場合においては、上記のようにバーリング部の端面を軸方向に押圧する際にバーリング部の座屈及び/又は破損が生ずる虞があり、増肉が困難である。
【0010】
一方、上記「回転引き抜き方式」においては、加工ツール(ニップルローラ又は旋回へら)と型との間にバーリング部を挟み込んで成形したり(例えば、特許文献3及び特許文献4を参照)、バーリング加工中にロードセルによって検出される加工力に基づいて加工工具の回転速度と引上げ速度との比を制御したり(例えば、特許文献5を参照)する技術が知られている。これらの従来技術によればバーリング部の形状精度の向上及び肉厚歪みの低減が可能であるものの、バーリング部を増肉させるものではない。
【0011】
以上のように、当該技術分野においては、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成することができるバーリング加工方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第6920922号公報
【特許文献2】特許第4405034号公報
【特許文献3】特許第3769062号公報
【特許文献4】特開平7-178481号公報
【特許文献5】特開平9-164432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述したように、当該技術分野においては、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成することができるバーリング加工方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、バーリング加工により筒状部材の周壁に枝部を形成する工程において枝部の先端面を所定の型に当接させて枝部の軸方向における変形を規制することにより上記課題を解決することができることを見出した。
【0015】
具体的には、本発明に係るバーリング加工方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、以下に列挙する第1工程及び第2工程を含むバーリング加工方法である。
【0016】
第1工程は、周壁に穿設された下穴を有する筒状部材の内部に所定の形状を有する成形型である第1型を配置する工程である。
第2工程は、筒状部材の内部から外部へと下穴を通して第1型を引き抜くことにより下穴の周縁部を筒状部材の外方へと引き起こして枝部を形成する工程である。
【0017】
更に、本発明方法においては、第2工程の途中の時点である第1時点から第2工程の完了時点である第2時点に到るまで枝部の先端面を第1型とは異なる成形型である第2型に当接させることにより枝部の軸方向における変形を規制する。
【発明の効果】
【0018】
上記のように、本発明方法においては、バーリング加工により筒状部材の周壁に枝部を形成する工程において枝部の先端面が所定の型に当接することにより枝部の軸方向における変形が規制される。従って、本発明方法によれば、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成することができる。
【0019】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施態様に係るバーリング加工方法(第1方法)に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。
図2】第1方法に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴を通して筒状部材の内部から外部へと第1型が引き抜かれることにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと引き起こされて枝部が形成される過程の途中で枝部の先端面が第2型に当接して枝部の軸方向における変形が規制される様子の一例を示す模式図である。
図3】第2型の構成のもう1つの例を示す模式的な斜視図(a)及び断面図(b)である。
図4】本発明の第2実施態様に係るバーリング加工方法(第2方法)に含まれる第2工程において、異なる外径を有する複数の第1型を用意し、外径が小さい第1型から外径が大きい第1型へと第1型を入れ替える毎に直線引き抜き加工を順次行うことにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと逐次的に引き起こされて枝部が形成される様子の一例を示す模式図である。
図5】本発明の第3実施態様に係るバーリング加工方法(第3方法)に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を第1型の公転径を大きくする毎に順次行うことにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと逐次的に引き起こされて枝部が形成される様子の一例を示す模式図である。
図6】本発明の第4実施態様に係るバーリング加工方法(第4方法)に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を下穴の周縁部の一部に当接させながら枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く加工である割出し引き抜き加工を枝部の軸の周りに割出しする毎に下穴の周縁部の一部に対して順次行うことにより下穴の周縁部に沿って逐次的に下穴の周縁部が筒状部材の外方へと引き起こされて枝部が形成される様子の一例を示す模式図である。
図7】変形例に係る第4方法に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。
図8】本発明の第5実施態様に係るバーリング加工方法(第5方法)に含まれる第2工程において行われるフレア加工により枝部の先端部分が下穴の径方向における外側に向かって押し広げられてフレア状の形状となり環状凸部が形成される様子の一例を示す模式的な断面図である。
図9】本発明の第6実施態様に係るバーリング加工方法(第6方法)に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴を通して筒状部材の内部から外部へと第1型が引き抜かれることにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと引き起こされて枝部が形成される過程の途中で枝部の先端面が第2型に当接して枝部の軸方向における変形が規制される様子の一例を示す模式図である。
図10】本発明の第7実施態様に係るバーリング加工方法(第7方法)に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を第1型の公転径を大きくする毎に順次行うことにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと逐次的に引き起こされて枝部が形成される様子の一例を示す模式図である。
図11】塑性加工によって枝部が形成された筒状部材の一例を示す写真である。
図12】直線引き抜き方式によるバーリング加工の一例を示す模式的な断面図である。
図13】直線引き抜き方式によるバーリング加工の実行に伴って下穴の周縁部が引き起こされる様子の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るバーリング加工方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0022】
〈構成〉
図1は、第1方法に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。図1に示すように、第1方法は、以下に列挙する第1工程及び第2工程を含むバーリング加工方法である。
【0023】
ステップS10において行われる第1工程は、周壁に穿設された下穴を有する筒状部材の内部に所定の形状を有する成形型である第1型を配置する工程である。より詳しくは、筒状部材の周壁に沿った形状を有するダイスにセットされた筒状部材の周壁に穿設された下穴に対向する位置に第1型が配置され、第1型を引き抜くことができるようにダイスに形成された貫通孔及び下穴を通して駆動装置と第1型とが接続される。
【0024】
ステップS20において行われる第2工程は、筒状部材の内部から外部へと下穴を通して第1型を引き抜くことにより下穴の周縁部を筒状部材の外方へと引き起こして枝部を形成する工程である。
【0025】
第1方法によるバーリング加工に付される筒状部材を構成する材料は、バーリング加工によって塑性流動して枝部を形成することが可能である限り、特に限定されない。斯かる材料の具体例としては、例えば、鉄、銅及びアルミニウム等の金属並びに複数種の金属を含んでなる合金等を挙げることができる。
【0026】
第1型の構成は、筒状部材の内部から外部へと下穴を通して引き抜かれる際に下穴の周縁部に当接して下穴の周縁部を筒状部材の外方へと引き起こすことが可能である限り、特に限定されない。斯かる第1型の形状としては、例えば、第1型が引き抜かれる向き及び形成されるべき枝部の径方向における外向きの両方における成分が正の値である法線ベクトルを有する平面又は曲面を有しており、下穴を通して引き抜かれる際に当該平面又は曲面が下穴の周縁部に当接することが可能な形状等を挙げることができる。
【0027】
上記のような形状を有する立体の具体例としては、例えば球体、楕円体及び円錐体等を挙げることができる。また、下穴を通して引き抜かれる際に下穴の周縁部に当接する部分が斯かる立体の一部に対応する形状を有しており、その他の部分が他の形状を有していてもよい。尚、第1型は、筒状部材の内部から外部へと下穴を通して第1型を引き抜くための駆動装置と第1型とを接続するための連結部(例えば、ステー等)を備える必要がある。
【0028】
また、第1型を構成する材料は、筒状部材の周壁に穿設された下穴の周縁部をバーリング加工によって塑性流動させて枝部を形成することが可能である限り、特に限定されない。従って、第1型を構成する材料は、筒状部材を構成する材料よりも硬い材料によって構成されることが好ましい。斯かる材料の具体例としては、例えば鋼鉄等の金属を挙げることができる。
【0029】
更に、第1方法においては、第2工程の途中の時点である第1時点から第2工程の完了時点である第2時点に到るまで枝部の先端面を第1型とは異なる成形型である第2型に当接させることにより枝部の軸方向における変形を規制する。
【0030】
図2は、第1方法に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴を通して筒状部材の内部から外部へと第1型が引き抜かれることにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと引き起こされて枝部が形成される過程の途中で枝部の先端面が第2型に当接して枝部の軸方向における変形が規制される様子の一例を示す模式図である。尚、図2は、下穴の全体を示すものではなく、図12において太い破線によって囲まれた部分に対応する下穴の片側の周縁部の近傍の拡大図である。
【0031】
図2の(a)は、第2工程が始まり、図面の上方に向かって第1型30が引き抜かれることにより下穴11の周縁部が筒状部材10の外方へと引き起こされ始めた状態を示す。図2の(b)は、第2工程が進行し、下穴11の周縁部が更に引き起こされて枝部が形成され始めた状態を示す。
【0032】
図2の(c)は、第2工程が更に進行し、下穴11の周縁部が更に引き起こされて枝部の先端面が第2型に間も無く当接しようとしている状態を示す。尚、図2に示す例においては、周壁に穿設された下穴11を有する筒状部材10がセットされるダイス20が第2型としても機能する。具体的には、筒状部材10の下穴11を通して第1型30を引き抜く際に第1型30が通過する貫通孔がダイス20に形成されており、この貫通孔の内壁に一体的に形成された段差部(太い破線によって囲まれた部分)に枝部の先端面が当接する。
【0033】
図2の(d)は、枝部の先端面が第2型(段差)に当接した状態において第2工程が更に進行し、枝部の軸方向(図における上下方向)における変形が規制された状態においてバーリング加工による枝部の形成が完了した状態を示す。図2の(d)に例示するように第1方法においては枝部の軸方向における変形が規制された状態においてバーリング加工により枝部が形成される。従って、前述した従来技術に係るバーリング加工方法におけるようにバーリング加工の成り行きにより枝部の薄肉化及び高さのバラツキが生じたりバーリング加工前の筒状部材の肉厚及び/又は下穴の形状におけるバラツキに起因して枝部の肉厚及び高さにバラツキが生じたりする可能性を低減することができる。
【0034】
ところで、図2に示す例においては、上述したように、筒状部材10の下穴11を通して第1型30を引き抜くためにダイス20に形成された貫通孔の内壁に一体的に形成された段差部が第2型として機能して、当該段差部に枝部の先端面が当接する。しかしながら、第2型の構成は図2に示した例に限定されるものではなく、例えば、筒状部材がセットされるダイスとは別個の部材によって第2型が構成されていてもよい。
【0035】
図3は、第2型の構成のもう1つの例を示す模式的な斜視図(a)及び(a)において太い破線によって囲まれた部分の断面図(b)である。図3に示す例においては、図示しない筒状部材がセットされるダイス20とは別個の部材であって中心部に貫通孔が形成された円盤状の部材であるストッパ型21がダイス20に形成された貫通孔と同軸状にダイス20の筒状部材がセットされる側とは反対側に取り付けられている。ストッパ型21の貫通孔の周縁にはダイス20の貫通孔側に延在する円筒状の部分が形成されており、当該円筒状の部分の先端により、ダイス20の貫通孔の内壁に段差部が形成されている(図3の(b)において太い破線によって囲まれた部分を参照)。当該段差部が第2型として機能して、第2工程において枝部の先端面が当該段差部に当接することにより、枝部の軸方向における変形が規制される。
【0036】
〈効果〉
上記のように、第1方法においては、バーリング加工により筒状部材の周壁に枝部を形成する工程において枝部の先端面が所定の型に当接することにより枝部の軸方向における変形が規制される。従って、第1方法によれば、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成することができる。
【0037】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第2実施形態に係るバーリング加工方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0038】
本明細書の冒頭において述べたように、バーリング加工においては、下穴を通して所定の成形型(第1型)を引き抜く「直線引き抜き方式」及び下穴に挿入された回転子(第1型)を公転させながら下穴を拡径させつつ枝部を形成する「回転引き抜き方式」が一般的に採用されている。また、バーリング加工を始めとする塑性加工においては、素材を一気に最終的な形状に成形するのではなく、少しずつ逐次的に最終的な形状に近付けてゆく手順が採られることが多い。「直線引き抜き方式」及び「回転引き抜き方式」の何れのバーリング加工においても同様である。
【0039】
〈構成〉
そこで、第2方法は、上述した第1方法であって、第2工程において、異なる外径を有する複数の第1型の各々について外径が小さい第1型から外径が大きい第1型へと第1型を入れ替える毎に直線引き抜き加工を順次行うことを特徴とするバーリング加工方法である。直線引き抜き加工とは、当業者に周知であるように、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも大きい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な方向に引き抜くことにより下穴の周縁部を筒状部材の外方へと引き起こして枝部を形成する加工である。
【0040】
図4は、第2方法に含まれる第2工程において、異なる外径を有する複数の第1型を用意し、外径が小さい第1型から外径が大きい第1型へと第1型を入れ替える毎に直線引き抜き加工を順次行うことにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと逐次的に引き起こされて枝部が形成される様子の一例を示す模式図である。
【0041】
尚、図4もまた、第1方法に関する説明において参照した図2と同様に、下穴の全体を示すものではなく、図12において太い破線によって囲まれた部分に対応する下穴の片側の周縁部の近傍の拡大図である。また、図4に示す例においては、外径が小さい第1型(31)及び外径が大きい第1型(32)の2つの第1型を使用するが、例えば筒状部材の構造及び材料、下穴の形状及び大きさ並びに形成しようとする枝部の形状及び大きさ等に応じて、3つ以上の第1型を使用してもよい。更に、図4の(a)及び(b)においては、次に実行される直線引き抜き加工において使用される外径が大きい方の第1型32と外径が小さい方の第1型31との大きさの比較を容易なものとすることを目的として第1型31の下方に第1型32が描かれているが、当然のことながら、このように複数の第1型を筒状部材10の内部に同時に配置する訳ではない。
【0042】
図4の(a)は、第1工程が完了し、周壁に穿設された下穴11を有する筒状部材10の内部に外径が小さい方の第1型31が配置され、第1型31を引き抜くことができるようにダイス20に形成された貫通孔及び下穴11を通して図示しない駆動装置と第1型31とが接続された状態を示す。次に、図4の(b)は、第2工程が始まり、外径が小さい方の第1型31が図面の上方に向かって引き抜かれる(黒塗りの矢印を参照)ことにより、下穴11の周縁部が筒状部材10の外方へと引き起こされ始めた状態を示す。次に、図4の(c)は、外径が大きい方の第1型32が図面の上方に向かって引き抜かれる(黒塗りの矢印を参照)ことにより、下穴11の周縁部が更に引き起こされた状態を示す。この状態において、第2型として機能する段差部に枝部の先端面が当接して軸方向における変形が規制されている。尚、図4においても、図3に示した例と同様に、ダイス20とストッパ型21との組み合わせによって第2型として機能する段差部が構成されている。
【0043】
〈効果〉
上記のように、第2方法においても、上述した第1方法と同様に、バーリング加工により筒状部材の周壁に枝部を形成する工程において枝部の先端面が所定の型に当接することにより枝部の軸方向における変形が規制される。従って、第2方法においても、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成することができる。
【0044】
上記に加えて、第2方法においては、直線引き抜き方式のバーリング加工方法において、異なる外径を有する複数の第1型を用意し、外径が小さい第1型から外径が大きい第1型へと第1型を入れ替える毎に直線引き抜き加工を順次行う。従って、第2方法によれば、枝部の形状を少しずつ逐次的に最終的な形状に近付けてゆくことができるので、加工荷重が過大となったり、過大な加工荷重に起因して枝部が変形及び/又は破損したりする問題を低減することができる。
【0045】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第3実施形態に係るバーリング加工方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0046】
本明細書の冒頭において述べたように、バーリング加工においては、下穴を通して所定の成形型(第1型)を引き抜く「直線引き抜き方式」及び下穴に挿入された回転子(第1型)を公転させながら下穴を拡径させつつ枝部を形成する「回転引き抜き方式」が一般的に採用されている。また、バーリング加工を始めとする塑性加工においては、素材を一気に最終的な形状に成形するのではなく、少しずつ逐次的に最終的な形状に近付けてゆく手順が採られることが多い。「直線引き抜き方式」及び「回転引き抜き方式」の何れのバーリング加工においても同様である。
【0047】
〈構成〉
そこで、第3方法は、上述した第1方法であって、第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を第1型の公転径を大きくする毎に順次行うことを特徴とするバーリング加工方法である。尚、第1型がその支持軸に対して回転(自転)するようにしてもよいが、成形効率が悪化するので、第3方法においては第1型が支持軸に対して(例えば、一体成形等により)回転しないように固定している。このように第3方法においては第1型が回転(自転)すること無く軸の周りを公転するが、通称に従い、本明細書においても当該加工方法を「回転引き抜き加工」と称する。
【0048】
図5は、第3方法に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を第1型の公転径を大きくする毎に順次行うことにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと逐次的に引き起こされて枝部が形成される様子の一例を示す模式図である。尚、図5もまた、第1方法及び第2方法に関する説明においてそれぞれ参照した図2及び図4と同様に、下穴の全体を示すものではなく、図12において太い破線によって囲まれた部分に対応する下穴の片側の周縁部の近傍の拡大図である。
【0049】
図5の(a)は、第1工程が完了し、周壁に穿設された下穴11を有する筒状部材10の内部に下穴11よりも小さい最大径を有する第1型30が配置され、第1型30を引き抜くことができるようにダイス20に形成された貫通孔及び下穴11を通して図示しない駆動装置と第1型30とが接続された状態を示す。次に、図5の(b)は、第2工程が始まり、公転軸AXの周りに第1型30が公転しながら(太い破線の矢印を参照)図面の上方に向かって引き抜かれる(黒塗りの矢印を参照)ことにより、下穴11の周縁部が筒状部材10の外方へと引き起こされ始めた状態を示す。
【0050】
次に、図5の(c)は、より大きい公転径にて公転軸AXの周りに第1型30が公転しながら(太い破線の矢印を参照)図面の上方に向かって引き抜かれる(黒塗りの矢印を参照)ことにより、下穴11の周縁部が更に引き起こされた状態を示す。この状態において、第2型として機能する段差部に枝部の先端面が当接して軸方向における変形が規制されている。尚、図5においても、図3及び図4に示した例と同様に、ダイス20とストッパ型21との組み合わせによって第2型として機能する段差部が構成されている。
【0051】
〈効果〉
上記のように、第3方法においても、上述した第1方法と同様に、バーリング加工により筒状部材の周壁に枝部を形成する工程において枝部の先端面が所定の型に当接することにより枝部の軸方向における変形が規制される。従って、第2方法においても、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成することができる。
【0052】
上記に加えて、第3方法においては、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を第1型の公転径を大きくする毎に順次行う。従って、第3方法によれば、枝部の形状を少しずつ逐次的に最終的な形状に近付けてゆくことができるので、加工荷重が過大となったり、過大な加工荷重に起因して枝部が変形及び/又は破損したりする問題を低減することができる。
【0053】
《第4実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第4実施形態に係るバーリング加工方法(以降、「第4方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0054】
ところで、前述した「直線引き抜き方式」及び「回転引き抜き方式」においては、枝部の引き起こしと下穴の拡径とが1回のストロークにおいて同時に進行する。即ち、下穴の周縁部を構成する材料が枝部の軸方向及び周方向の両方に塑性流動する。従って、このような方式によって形成される枝部の高さには自ずと限界がある。
【0055】
〈構成〉
そこで、第4方法は、上述した第1方法であって、第2工程において、枝部の軸の周りに割出しする毎に下穴の周縁部の一部に対して割出し引き抜き加工を順次行うことを特徴とするバーリング加工方法である。割出し引き抜き加工とは、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を下穴の周縁部の一部に当接させながら枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く加工である。
【0056】
図6は、第4方法に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を下穴の周縁部の一部に当接させながら枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く加工である割出し引き抜き加工を枝部の軸の周りに割出しする毎に下穴の周縁部の一部に対して順次行うことにより下穴の周縁部に沿って逐次的に下穴の周縁部が筒状部材の外方へと引き起こされて枝部が形成される様子の一例を示す模式図である。尚、図6もまた、第1方法乃至第3方法に関する説明においてそれぞれ参照した図2図4及び図5と同様に、下穴の全体を示すものではなく、図12において太い破線によって囲まれた部分に対応する下穴の片側の周縁部の近傍の拡大図である。また、図6においては、枝部の先端面を当接させることにより枝部の軸方向における変形を規制する第2型は省略されている。
【0057】
図6の(a)は、第2工程において、筒状部材10の周壁に穿設された下穴11の一部に第1型30を当接させながら枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く(黒塗りの矢印を参照)ことにより下穴11の周縁部を主として軸方向に引き起こす割出し引き抜き加工を行っている状態を示す。第4方法においては、このような割出し引き抜き加工を枝部の軸の周りに割出しする毎に下穴11の周縁部の一部に対して順次行う。尚、図6の(a)に示す例においては、下穴11の周縁部の第1型30が当接している部分とは反対側の部分については割出し引き抜き加工による引き起こしは既に完了しており、第1型30が当接している部分も割出し引き抜き加工により反対側の部分と同様に引き起こされる。
【0058】
図6の(b)は、上記のような割出し引き抜き加工を下穴11の周縁部の一部に対して割出しながら行う箇所及び順序の一例を示す模式図である。図6の(b)に示す例においては、図示しない筒状部材の軸方向に平行な長軸を有する楕円形の下穴11の周縁部の8箇所(黒い丸印を参照)に対してP1、P2、P3…P7、P8の順序にて割出し引き抜き加工が行われる。但し、下穴の周縁部に対して割出し引き抜き加工を行う箇所の数及び位置並びに割出し引き抜き加工を行う順序等については、例えば筒状部材の構造及び材料、下穴の形状及び大きさ並びに形成しようとする枝部の形状及び大きさ等に応じて、適宜定めることができる。
【0059】
〈効果〉
以上のように、第4方法に含まれる第2工程においては、下穴の周縁部における個々の部分に第1型を当接させながら枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く割出し引き抜き加工により、下穴の周縁部の個々の部分は主として軸方向に引き起こされる。従って、枝部の引き起こしと下穴の拡径とが1回のストロークにおいて同時に進行する「直線引き抜き方式」及び「回転引き抜き方式」に比べて、下穴の周縁部を構成する材料を枝部の軸方向に優先的に塑性流動させることができる。その結果、「直線引き抜き方式」及び「回転引き抜き方式」に比べて、形成される枝部の高さをより大きくすることができる。
【0060】
〈変形例〉
上記のように、第4方法においては、下穴の周縁部における個々の部分に第1型を当接させながら枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く割出し引き抜き加工により、下穴の周縁部の個々の部分は主として軸方向に引き起こされる。従って、第4方法によれば、「直線引き抜き方式」及び「回転引き抜き方式」に比べて、形成される枝部の高さをより大きくすることができる。しかしながら、第4方法においては下穴の周縁部における有限数の部分に対して割出し引き抜き加工が行われるため、第4方法によって形成される枝部を有する筒状部材の用途によっては、要求される寸法精度を達成することが困難な場合がある。
【0061】
そこで、変形例に係る第4方法は、第2工程において、上述した割出し引き抜き加工を行った後に、その時点における下穴よりも大きい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な方向に引き抜く加工である直線引き抜き加工及び/又はその時点における下穴よりも小さい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工が行われることを特徴とする、バーリング加工方法である。
【0062】
図7は、変形例に係る第4方法に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。図7に例示するように、変形例に係る第4方法に含まれる第2工程(ステップS20)においては、上述した割出し引き抜き加工が先ず行われ(ステップS21)、その後に直線引き抜き加工及び/又は回転引き抜き加工が行われる(ステップS22)。従って、変形例に係る第4方法によれば、高い寸法精度にて枝部を形成することができる。
【0063】
《第5実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第5実施形態に係るバーリング加工方法(以降、「第5方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0064】
前述したように、上述した第1方法乃至第4方法を始めとする本発明に係るバーリング加工方法(本発明方法)においては、バーリング加工により筒状部材の周壁に枝部を形成する工程において枝部の先端面が第2型に当接することにより枝部の軸方向における変形が規制される。従って、本発明方法によれば、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成することができる。斯かる効果をより確実に達成するためには、バーリング加工により筒状部材の周壁に枝部を形成する工程において枝部の先端面を第2型に確実に当接させて、枝部の軸方向における変形をより確実に規制することが好ましい。
【0065】
そこで、第5方法は、上述した第1方法乃至第4方法の何れかであって、第2工程において、枝部の先端面を第2型に当接させ始める時点である第1時点よりも前の所定の時点である第3時点においてフレア加工を行った後に第1型によって環状凸部を押圧することにより枝部の先端面を第2型に当接させることを特徴とするバーリング加工方法である。フレア加工とは、枝部の先端部分を下穴の径方向における外側に向かって屈曲させて環状凸部を形成する加工である。環状凸部とは、下穴の径方向における内側に向かって凸状の形状を有する環状部分である。換言すれば、フレア加工とは、枝部の先端部分を下穴の径方向における外側に向かって押し広げることにより、枝部の先端部分の形状を筒状部材から外側に向かって広がるフレア状の部分(フレア部)とする加工である。尚、本実施形態及び後述する本発明の第6実施形態及び第7実施形態に関する説明において参照する図8乃至図10においてはフレア部の断面の形状が直線状に描かれているが、フレア部の断面の形状は直線状に限定されず、例えば曲面状等の形状であってもよい。
【0066】
図8は、上述したフレア加工により枝部の先端部分が下穴の径方向における外側に向かって押し広げられてフレア状の形状となり、上述した環状凸部が形成される様子の一例を示す模式的な断面図である。尚、図8においては、筒状部材及び枝部の形状の変化を判り易く示すことを目的として筒状部材のみが描かれている。
【0067】
図8の(a)は、周壁に穿設された下穴11を有する筒状部材10の軸方向に垂直な平面による模式的な断面図である。図8の(b)は、第2工程の進行に伴って枝部(太い破線によって囲まれた部分)が形成されている状態を示す模式的な断面図である。図8の(c)は、第3時点においてフレア加工により枝部の先端部分が下穴の径方向における外側に向かって押し広げられてフレア状の形状となり、上述した環状凸部(太い破線によって囲まれた部分)が形成された状態を示す模式的な断面図である。
【0068】
図8の(c)に例示するように下穴の径方向における外側に向かって枝部の先端部分を押し広げて環状凸部を形成しておくことにより、例えば、第1方法に関する説明において参照した図2の(c)から(d)への変化のように、第1型によって環状凸部を押圧することにより枝部の先端面を第2型に確実に当接させて、枝部の軸方向における変形をより確実に規制することができる。
【0069】
尚、上述したフレア加工を行うための方法は、枝部の先端部分の形状を筒状部材から外側に向かって広がるフレア状として、下穴の径方向における内側に向かって凸状の形状を有する環状部分である環状凸部を形成することが可能である限り、特に限定されない。フレア加工を行うための具体的な方法については、後述する本発明の他の実施形態に関する説明において詳しく述べる。
【0070】
〈効果〉
以上のように、第5方法に含まれる第2工程においては、第1時点よりも前の所定の時点である第3時点において、枝部の先端部分を下穴の径方向における外側に向かって押し広げることにより枝部の先端部分の形状を筒状部材から外側に向かって広がるフレア状とする加工であるフレア加工が行われる。フレア加工により枝部の先端部分が下穴の径方向における外側に向かって屈曲されて環状凸部が形成される。環状凸部は下穴の径方向における内側に向かって凸状の形状を有する部分であり、フレア加工を行った後に第1型によって環状凸部を押圧することにより枝部の先端面を第2型に確実に当接させることができる。従って、第5方法によれば、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成するという本発明の効果をより確実に達成することができる。
【0071】
《第6実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第6実施形態に係るバーリング加工方法(以降、「第6方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0072】
上述したように、第5方法においては、第2工程において枝部の先端面が第2型に当接する前にフレア加工により枝部の先端部分を押し広げてフレア状の形状として環状凸部を形成した後に第1型によって環状凸部を押圧することにより枝部の先端面を第2型に確実に当接させる。これにより、第5方法によれば、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成するという本発明の効果をより確実に達成することができる。
【0073】
フレア加工を行うための方法は、前述したように、枝部の先端部分の形状を筒状部材から外側に向かって広がるフレア状として、下穴の径方向における内側に向かって凸状の形状を有する環状部分である環状凸部を形成することが可能である限り、特に限定されない。以下に説明する第6方法は、フレア加工を行うための具体的な1つの方法を含む。
【0074】
〈構成〉
即ち、第6方法は、上述した第5方法であって、第3時点において第1型及び第2型の何れとも異なる成形型である第3型によって枝部の先端部分を押圧することにより環状凸部を形成することを特徴とするバーリング加工方法である。
【0075】
図9は、第6方法に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴を通して筒状部材の内部から外部へと第1型が引き抜かれることにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと引き起こされて枝部が形成される過程の途中で枝部の先端面が第2型に当接して枝部の軸方向における変形が規制される様子の一例を示す模式図である。尚、図9もまた、第1方法、第2方法及び第3方法に関する説明においてそれぞれ参照した図2図4及び図5と同様に、下穴の全体を示すものではなく、図12において太い破線によって囲まれた部分に対応する下穴の片側の周縁部の近傍の拡大図である。
【0076】
図9に示す例においては、図4を参照しながら説明した第2方法と同様に、外径が小さい第1型31及び外径が大きい第1型32の2つの第1型を用意し、外径が小さい第1型31から外径が大きい第1型32へと第1型を入れ替える毎に直線引き抜き加工を順次行う。尚、前述したように、例えば筒状部材の構造及び材料、下穴の形状及び大きさ並びに形成しようとする枝部の形状及び大きさ等に応じて3つ以上の第1型を使用してもよい。また、図9の(a)及び(b)においては、図4の(a)及び(b)と同様に、次に実行される直線引き抜き加工において使用される外径が大きい方の第1型32と外径が小さい方の第1型31との大きさの比較を容易なものとすることを目的として第1型31の下方に第1型32が描かれているが、当然のことながら、このように複数の第1型を筒状部材10の内部に同時に配置する訳ではない。
【0077】
図9の(a)は、第1工程が完了し、周壁に穿設された下穴11を有する筒状部材10の内部に外径が小さい方の第1型31が配置され、第1型31を引き抜くことができるようにダイス20に形成された貫通孔及び下穴11を通して図示しない駆動装置と第1型31とが接続された状態を示す。次に、図9の(b)は、第2工程が始まり、外径が小さい方の第1型31が図面の上方に向かって引き抜かれる(黒塗りの矢印を参照)ことにより、下穴11の周縁部が筒状部材10の外方へと引き起こされ始めた状態を示す。
【0078】
次に、図9の(c)は、第1時点よりも前の第3時点において形成されている枝部の先端側から第1型31又は第1型32でも第2型(ダイス20とストッパ型21との組み合わせによって構成される段差部)でもない第3型50によって押し広げて枝部の先端部分をフレア状の形状とした状態を示す。図9の(c)に例示する第3型50は、枝部の先端部分に対して凸状に対向する円錐形の押圧面を有する。斯かる第3型50を、図示しない駆動装置によって枝部の軸方向に沿って枝部の先端部分に向かって駆動し(斜線のハッチングが施された矢印を参照)、枝部の先端部分に当接させ、枝部の先端部分を所定の荷重にて押圧させる。これにより、図9の(c)に示すように、枝部の先端部分が押し広げられてフレア状の形状となり、下穴の径方向における内側に向かって凸状の形状を有する環状部分である環状凸部が形成される。即ち、フレア加工が行われる。
【0079】
但し、第3型の構成は、枝部の先端部分を押し広げてフレア状の形状とすることが可能である限り、特に限定されない。斯かる第3型の形状としては、例えば、枝部の先端部分を第3型が押圧する向き及び形成されるべき枝部の径方向における外向きの両方における成分が正の値である法線ベクトルを有する平面又は曲面を有しており、当該平面又は曲面が枝部の先端部分に当接することが可能な形状等を挙げることができる。
【0080】
上記のようにして環状凸部が形成されると、図9の(d)に例示するように、枝部の先端部分から第3型50が離隔され(斜線のハッチングが施された矢印を参照)、ストッパ型21がダイス20に装着されて(白抜きの矢印を参照)、第2型として機能する段差部が形成される。次に、図9の(e)に例示するように、外径が大きい方の第1型32が図面の上方に向かって引き抜かれる(黒塗りの矢印を参照)際に第1型32が環状凸部を押圧することにより、下穴11の周縁部が更に引き起こされると共に、第2型として機能する段差部に枝部の先端面が当接して軸方向における変形が規制される。その後は、枝部の先端面が段差部に当接して軸方向における変形が規制された状態にて直線引き抜き加工が行われる。
【0081】
尚、第6方法に含まれる第2工程において行われるフレア加工は、上述したような第3型及び第3型を駆動する駆動装置を備える成形設備により行うことが可能であり、「直線引き抜き方式」及び「回転引き抜き方式」の何れのバーリング加工にも適用することができる。但し、後述する本発明の第7実施形態に係るバーリング加工方法(以降、「第7方法」と称呼される場合がある。)におけるように、枝部の先端部分に対向する位置において枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転する成形型の公転径を増大させて枝部の先端部分を当該成形型によって押圧することにより環状凸部を形成する(即ち、フレア加工を行う)こともできる。
【0082】
しかしながら、例えば成形設備の構成の複雑化及び成形コストの増大等の問題を回避する観点からは、第6方法に含まれる第2工程において行われるフレア加工を「直線引き抜き方式」によるバーリング加工に適用し、後述する第7方法に含まれる第2工程において行われるフレア加工を「回転引き抜き方式」によるバーリング加工に適用することが好ましい。
【0083】
〈効果〉
以上のように、第6方法においては、第2工程において枝部の先端面が第2型に当接する前の時点である第3時点においてフレア加工により枝部の先端部分を押し広げてフレア状の形状として環状凸部を形成するフレア加工が第3型によって行われる。その後、第1型を引き抜く際に第1型によって環状凸部が押圧され、枝部の先端面が第2型に確実に当接する。これにより、第6方法によれば、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成するという本発明の効果をより確実に達成することができる。
【0084】
《第7実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第7実施形態に係るバーリング加工方法(第7方法)について説明する。
【0085】
前述したように、フレア加工を行うための方法は、枝部の先端部分の形状を筒状部材から外側に向かって広がるフレア状として、下穴の径方向における内側に向かって凸状の形状を有する環状部分である環状凸部を形成することが可能である限り、特に限定されない。以下に説明する第7方法は、フレア加工を行うための具体的なもう1つの方法を含む。
【0086】
〈構成〉
即ち、第7方法は、上述した第5方法であって、第3時点において、枝部の先端部分に対向する位置において枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転する第1型の公転径を増大させて枝部の先端部分を当該第1型によって押圧することにより環状凸部を形成することを特徴とするバーリング加工方法である。
【0087】
図10は、第7方法に含まれる第2工程において、筒状部材の周壁に穿設された下穴よりも小さい最大径を有する第1型を枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を第1型の公転径を大きくする毎に順次行うことにより下穴の周縁部が筒状部材の外方へと逐次的に引き起こされて枝部が形成される様子の一例を示す模式図である。尚、図10もまた、第1方法乃至第3方法及び第9方法に関する説明においてそれぞれ参照した図2図4図5及び図9と同様に、下穴の全体を示すものではなく、図12において太い破線によって囲まれた部分に対応する下穴の片側の周縁部の近傍の拡大図である。
【0088】
図10に示す例においては、図5を参照しながら説明した第3方法と同様に、筒状部材10の周壁に穿設された下穴11よりも小さい最大径を有する第1型30を枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転させながら引き抜く加工である回転引き抜き加工を第1型30の公転径を大きくする毎に順次行う。
【0089】
図10の(a)は、第1工程が完了し、周壁に穿設された下穴11を有する筒状部材10の内部に下穴11よりも小さい最大径を有する第1型30が配置され、第1型30を引き抜くことができるようにダイス20に形成された貫通孔及び下穴11を通して図示しない駆動装置と第1型30とが接続された状態を示す。その後、第3方法に関する説明において参照した図5の(b)に例示したように、第2工程が始まり、公転軸AXの周りに第1型30が公転しながら図面の上方に向かって引き抜かれることにより、下穴11の周縁部が筒状部材10の外方へと引き起こされ始める。
【0090】
次に、図10の(b)に例示するように、より大きい公転径にて公転軸AXの周りに公転する(太い破線の矢印を参照)第1型30により枝部の先端部分を径方向における外向きに押圧しながら上方に引き抜く(黒塗りの矢印を参照)ことにより、枝部の先端部分を押し広げてフレア状の形状とする。即ち、フレア加工を行うことにより、下穴の径方向における内側に向かって凸状の形状を有する環状部分である環状凸部を枝部に形成する。
【0091】
上記のようにして環状凸部が形成されると、図10の(c)に例示するように、公転軸AXの周りに公転する(太い破線の矢印を参照)第1型30が引き抜かれる(黒塗りの矢印を参照)際に第1型30が環状凸部を押圧することにより、下穴11の周縁部が更に引き起こされると共に、第2型として機能する段差部に枝部の先端面が近付いてゆく。その後、図10の(d)に例示するように、枝部の先端面が段差部に当接して軸方向における変形が規制された状態にて回転引き抜き加工が行われる。
【0092】
尚、第7方法に含まれる第2工程において行われるフレア加工は、上述したような第1型及び第3型を公転させる駆動装置を備える成形設備により行うことが可能であり、「直線引き抜き方式」及び「回転引き抜き方式」の何れのバーリング加工にも適用することができる。但し、前述した本発明の第6実施形態に係るバーリング加工方法(第6方法)におけるように、第3型によって枝部の先端部分を押圧することにより環状凸部を形成する(即ち、フレア加工を行う)こともできる。
【0093】
しかしながら、前述したように、例えば成形設備の構成の複雑化及び成形コストの増大等の問題を回避する観点からは、第6方法に含まれる第2工程において行われるフレア加工を「直線引き抜き方式」によるバーリング加工に適用し、後述する第7方法に含まれる第2工程において行われるフレア加工を「回転引き抜き方式」によるバーリング加工に適用することが好ましい。
【0094】
〈効果〉
以上のように、第7方法においては、第2工程において枝部の先端面が第2型に当接する前の時点である第3時点においてフレア加工により枝部の先端部分を押し広げてフレア状の形状として環状凸部を形成するフレア加工が枝部の軸方向に平行な所定の軸の周りに公転する第1型の公転径を増大させることによって行われる。その後の回転引き抜き加工において第1型を引き抜く際に第1型によって環状凸部が押圧され、枝部の先端面が第2型に確実に当接する。これにより、第7方法によれば、バーリング加工後の二次加工を必要とすること無くバーリング部の肉厚の減少を抑制しつつ所望の形状を精度良く形成するという本発明の効果をより確実に達成することができる。
【0095】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び変形例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び変形例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0096】
10…環状部材
11…下穴
20…ダイス
21…ストッパ型
30,31,32…第1型
40…駆動装置
50…第3型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13