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特開2024-107828クロロプレン系ラテックス組成物、クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法、及び水性接着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107828
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】クロロプレン系ラテックス組成物、クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法、及び水性接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 11/02 20060101AFI20240802BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240802BHJP
   C08F 36/18 20060101ALI20240802BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20240802BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20240802BHJP
   C09J 111/00 20060101ALI20240802BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240802BHJP
   C09J 151/06 20060101ALI20240802BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20240802BHJP
   C09J 133/02 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C08L11/02
C08L29/04 B
C08F36/18
C08F2/24
C09J11/08
C09J111/00
C09J11/06
C09J151/06
C09J129/04
C09J133/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011949
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】永岡 洪太
(72)【発明者】
【氏名】外川 翔太
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AC091
4J002BE022
4J002BE023
4J002GJ01
4J002HA07
4J011AA05
4J011KA16
4J011KB08
4J011KB14
4J011KB29
4J040CA141
4J040DD021
4J040DD022
4J040DF011
4J040DL041
4J040DL061
4J040GA07
4J040JA02
4J040JB05
4J040KA38
4J040KA43
4J040LA01
4J040LA06
4J040LA07
4J040MA02
4J040MA04
4J040MA05
4J040MA08
4J040MA10
4J040NA05
4J040NA12
4J040PA30
4J100AJ02Q
4J100AS07P
4J100CA04
4J100DA44
4J100EA07
4J100EA09
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA20
4J100JA03
(57)【要約】
【課題】貯蔵安定性、機械的安定性、さらには、高温保管後の機械的安定性に優れる クロロプレン系ラテックス組成物、該クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法、及び該クロロプレン系ラテックス組成物を含む水性接着剤を提供する。
【解決手段】本発明によれば、クロロプレン系共重合体とポリビニルアルコールを含むクロロプレン系ラテックス組成物であって、前記クロロプレン系共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位とカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含み、前記ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、前記ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である、クロロプレン系ラテックス組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン系共重合体とポリビニルアルコールを含むクロロプレン系ラテックス組成物であって、
前記クロロプレン系共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位とカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含み、
前記ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、
前記ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である、
クロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールHは、けん化度が60~99mol%である、請求項1に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項3】
前記クロロプレン系共重合体は、前記クロロプレンに由来する単量体単位、前記カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位及び前記ポリビニルアルコールに由来する構造を含むグラフト共重合体を含む、請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項4】
前記クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、前記クロロプレンに由来する単量体単位を100質量部としたとき、前記カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を0.01~5.0質量部含む、請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項5】
前記クロロプレン系共重合体は、前記クロロプレン系共重合体を100質量部としたとき、前記ポリビニルアルコールに由来する構造を0.3~5.0質量部含む、請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項6】
前記クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、前記ポリビニルアルコールの量及び前記ポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量を100質量部としたとき、前記ポリビニルアルコールLの量及び前記ポリビニルアルコールLに由来する構造の量の合計量が、50~99質量部である、請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項7】
HLB値が3~10である界面活性剤を含む、請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項8】
前記クロロプレン系ラテックス組成物を100質量部としたとき、前記界面活性剤を0.04~0.36質量部含有する、請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤がノニオン系界面活性剤を含む、請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項10】
前記クロロプレン系ラテックス組成物を100質量部としたとき、前記クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、前記ポリビニルアルコールの量と前記グラフト共重合体に含まれるポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量が0.3~5.0質量部である、請求項3に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項11】
前記カルボキシル基を含むビニル単量体がα,β-不飽和カルボン酸を含む、請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
【請求項12】
クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法であって、
前記製造方法は、クロロプレン単量体及びカルボキシル基を含むビニル単量体を含む原料単量体を重合する重合工程を含み、
前記重合工程では、ポリビニルアルコールを添加し、
前記ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、
前記ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である、製造方法。
【請求項13】
前記重合工程では、前記原料単量体の少なくとも一部を重合開始後に分添する、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記重合工程において、重合停止時の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径と、前記原料単量体の分添開始直後の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径との差が、400nm以下である、請求項12又は請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
原料単量体の分添終了時の重合溶液のB型粘度計で測定した粘度が250mPa・s以下であり、
重合停止時の重合溶液のB型粘度計で測定した粘度が50mPa・s以上である、請求項12又は請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1又は請求項2に記載のクロロプレン系ラテックス組成物を含有する水性接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン系ラテックス組成物、クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法、及び水性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン系ラテックスは、土木建築、合板、家具、靴、ウェットスーツなどを製造する際に用いられる水性接着剤、労働作業用手袋、実験用手袋、医療用手袋、ゴム糸、風船などの浸漬成形品の材料、土木分野や建築分野における防水用塗膜の材料など、様々な分野で利用されている。
【0003】
特許文献1には、クロロプレンとエチレン系不飽和カルボン酸を、保護コロイド作用のある水溶性高分子の存在下で乳化重合して得られたポリクロロプレンラテックス組成物が開示されている。また、特許文献2には、クロロプレン単独、またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体を、HLB値が14~19のポリオキシエチレンアルキルエーテルと、ポリビニルアルコールの存在下で乳化重合して得られたポリクロロプレン系ラテックス組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3294910号公報
【特許文献2】特開2005-008859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリビニルアルコールを乳化剤として使用して製造されたクロロプレン系ラテックス組成物は、粘着性に優れているため、例えば、水性接着剤として利用される。しかしながら、乳化剤としてポリビニルアルコールを使用して製造されたクロロプレン系ラテックス組成物は、ポリビニルアルコール以外の乳化剤を使用したクロロプレンラテックスに比べて、保存安定性や機械的安定性が低い傾向があり、特に、輸送中の振動や、撹拌機やポンプによる機械的剪断力が加わったりすると、凝集物が生成する場合があった。
【0006】
例えば、特許文献1の実施例に示されるように、重合度が高いポリビニルアルコールを乳化剤として使用した場合、製造時に重合溶液が増粘し、攪拌効率が低下して均一に除熱できなくなり、局所的に重合が進行して凝集物が発生する場合があった。また、得られるクロロプレン系ラテックス組成物の貯蔵安定性も悪かった。また、特許文献2の実施例に示されるように、重合度が小さいポリビニルアルコールのみを乳化剤として用いた場合、重合後期の保護コロイド性が不十分となり、重合中の凝集物発生、缶付着の増加につながる場合があった。さらに、得られたクロロプレン系ラテックス組成物の保護コロイド性が低い為、高温環境下で長期保管すると凝集物が発生しやすくなる等、保存安定性、機械的安定性、及び/又は長期保管後の機械的安定性に課題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、貯蔵安定性、機械的安定性、さらには、高温保管後の機械的安定性に優れるクロロプレン系ラテックス組成物、該クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法、及び該クロロプレン系ラテックス組成物を含む水性接着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、クロロプレン系共重合体とポリビニルアルコールを含むクロロプレン系ラテックス組成物であって、前記クロロプレン系共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位とカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含み、前記ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、前記ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である、クロロプレン系ラテックス組成物が提供される。
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、クロロプレン系共重合体とポリビニルアルコールを含むクロロプレン系ラテックス組成物において、ポリビニルアルコールとして、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを用いることによって、得られるクロロプレン系ラテックス組成物の貯蔵安定性、機械的安定性、さらには、高温保管後の機械的安定性が向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明に係るクロロプレン系ラテックス組成物の貯蔵安定性が向上するメカニズムはおおむね以下のようなものであると推測される。すなわち、クロロプレン系共重合体の重合初期では、クロロプレン単量体を含むコロイドが合一及び再分散を繰り返し、各コロイド中の開始剤濃度が均一になることが好ましく、このような状態を形成するには、比較的重合度が低く、けん化度が低いポリビニルアルコールが適していると考えられる。一方、重合後期では、重合体粒子の凝集を防ぐため、保護コロイド性が高いポリビニルアルコール、すなわち、比較的重合度が高いポリビニルアルコールが存在することが好ましいと考えられる。
本発明によれば、ポリビニルアルコールとして、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも併用することによって、重合初期にコロイドの合一及び再分散の活性化をはかることができ、かつ、重合後期に重合体粒子の凝集を防ぐことができ、粒子径、粒子の分散、粘度等の特性が制御された、貯蔵安定性、機械的安定性、さらには、高温保管後の機械的安定性に優れるクロロプレン系ラテックス組成物が得られると考えられる。なお、上記推測メカニズムは本発明を限定するものではない。
【0011】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
[1]クロロプレン系共重合体とポリビニルアルコールを含むクロロプレン系ラテックス組成物であって、前記クロロプレン系共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位とカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含み、前記ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、前記ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である、クロロプレン系ラテックス組成物。
[2]前記ポリビニルアルコールHは、けん化度が60~99mol%である、[1]に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[3]前記クロロプレン系共重合体は、前記クロロプレンに由来する単量体単位、前記カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位及び前記ポリビニルアルコールに由来する構造を含むグラフト共重合体を含む、[1]又は[2]に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[4]前記クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、前記クロロプレンに由来する単量体単位を100質量部としたとき、前記カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を0.01~5.0質量部含む、[1]から[3]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[5]前記クロロプレン系共重合体は、前記クロロプレン系共重合体を100質量部としたとき、前記ポリビニルアルコールに由来する構造を0.3~5.0質量部含む、[1]から[4]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[6]前記クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、前記ポリビニルアルコールの量及び前記ポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量を100質量部としたとき、前記ポリビニルアルコールLの量及び前記ポリビニルアルコールLに由来する構造の量の合計量が、50~99質量部である、[1]から[5]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[7]HLB値が3~10である界面活性剤を含む、[1]から[6]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[8]前記クロロプレン系ラテックス組成物を100質量部としたとき、前記界面活性剤を0.04~0.36質量部含有する、[1]から[7]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[9]前記界面活性剤がノニオン系界面活性剤を含む、[1]から[8]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[10]前記クロロプレン系ラテックス組成物を100質量部としたとき、前記クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、前記ポリビニルアルコールの量と前記グラフト共重合体に含まれるポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量が0.3~5.0質量部である、[3]から[9]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[11]前記カルボキシル基を含むビニル単量体がα,β-不飽和カルボン酸を含む、[1]から[10]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物。
[12]クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法であって、前記製造方法は、クロロプレン単量体及びカルボキシル基を含むビニル単量体を含む原料単量体を重合する重合工程を含み、前記重合工程では、ポリビニルアルコールを添加し、前記ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、前記ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である、製造方法。
[13]前記重合工程では、前記原料単量体の少なくとも一部を重合開始後に分添する、[12]に記載の製造方法。
[14]前記重合工程において、重合停止時の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径と、前記原料単量体の分添開始直後の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径との差が、400nm以下である、[12]又は[13]に記載の製造方法。
[15]原料単量体の分添終了時の重合溶液のB型粘度計で測定した粘度が250mPa・s以下であり、重合停止時の重合溶液のB型粘度計で測定した粘度が50mPa・s以上である、[12]から[14]のいずれか一項に記載の製造方法。
[16][1]から[11]のいずれか一項に記載のクロロプレン系ラテックス組成物を含有する水性接着剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、貯蔵安定性、機械的安定性、さらには、高温保管後の機械的安定性に優れるクロロプレン系ラテックス組成物、該クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法、及び該クロロプレン系ラテックス組成物を含む水性接着剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を例示して本発明について詳細な説明をする。本発明は、これらの記載によりなんら限定されるものではない。以下に示す本発明の実施形態の各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0014】
1.クロロプレン系ラテックス組成物
本発明に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、クロロプレン系共重合体、ポリビニルアルコールを含む。クロロプレン系共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位とカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含む。また、ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である。以下、各構成要素について詳説する。
【0015】
1.1 クロロプレン系共重合体
本発明に係るクロロプレン系共重合体は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(以下クロロプレンと称する)に由来する単量体単位と、カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含む。また、後述のように、本発明に係るクロロプレン系共重合体は、ポリビニルアルコールに由来する構造を含んでいても良い。
【0016】
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基を含むビニル単量体は、α,β-不飽和カルボン酸を含むものとできる。α,β-不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、3-ブテン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸;マレイン酸モノメチル、フマル酸モノメチル、イタコン酸モノメチルなどの不飽和ジカルボン酸のモノエステル;不飽和多価カルボン酸;及び不飽和多価カルボン酸のエステルを挙げることができ、(メタ)アクリル酸及びそのエステルを含むことが好ましく、メタクリル酸を含むことがより好ましい。
【0017】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位、カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位、及び、ポリビニルアルコールに由来する構造を含むグラフト共重合体を含むことができる。
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位とカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含む重合体と、ポリビニルアルコールがグラフト共重合し、クロロプレン単量体単位の周囲にポリビニルアルコール構造が存在することにより、より安定して水中に分散し、貯蔵安定性及び機械的安定性がより高められると考えられる。
なお、本発明の一実施形態に係るグラフト共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位とカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含む枝鎖、並びにポリビニルアルコールに由来する構造を含む幹鎖を含むものと推測される。
【0018】
上記したように、本発明に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレンに由来する単量体単位、及び、カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を含む重合体を意味する。また、本発明に係るクロロプレン系共重合体は、ポリビニルアルコールとグラフト共重合したグラフト共重合体と、ポリビニルアルコールとグラフト共重合していない共重合体(ポリビニルアルコール構造を有しない共重合体)の両方を含む。
【0019】
本発明に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレン、カルボキシル基を含むビニル単量体、及びポリビニルアルコール以外の他の化合物(例えば、単量体)に由来する構造を含むこともできる。他の単量体としては、例えば、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、エチレン、不飽和ニトリル(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、硫黄等を挙げることができる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
例えば、市販品のクロロプレンには不純物として少量の1-クロロ-1,3-ブタジエンが含まれる場合がある。このような少量の1-クロロ-1,3-ブタジエンを含む2-クロロ-1,3-ブタジエンを、本発明に係るクロロプレンとして用いることもできる。
【0020】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレン系共重合体中のクロロプレン及びカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位の合計100質量%に対し、上記クロロプレン、カルボキシル基を含むビニル単量体、及びポリビニルアルコール以外の他の化合物に由来する単量体単位を30質量%以下含むことができる。他の化合物に由来する構造の含有量は、例えば、0、5、10、15、20、25、30質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。上記数値範囲内とすることにより、得られるクロロプレン系共重合体は、クロロプレン等に由来する特性を損なわずに、他の単量体を共重合させたことによる効果を発現することができる。
【0021】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレン単量体単位、及び、カルボキシル基を含むビニル単量体単位からなるグラフト共重合していない共重合体、並びに、クロロプレン単量体単位、カルボキシル基を含むビニル単量体単位、及びポリビニルアルコールに由来する構造からなるグラフト共重合体からなるものとすることもできる。
【0022】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレン系共重合体を100質量部としたとき、クロロプレンに由来する単量体単位を95~99.97質量部含むことが好ましい。クロロプレンに由来する単量体単位の含有量は、例えば、95、96、97、98、99、99.9、99.97質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0023】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、クロロプレンに由来する単量体単位を100質量部としたとき、カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位を0.01~5.0質量部含むことが好ましい。カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位の含有量は、例えば、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0024】
なお、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、添加したカルボキシル基を含むビニル単量体の一部を、クロロプレン系共重合体に含まれない状態、すなわち、遊離した状態で含んでいても良い。遊離した、カルボキシル基を含むビニル単量体については後述する。
【0025】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレン系共重合体を100質量部としたとき、ポリビニルアルコールに由来する構造、(すなわち、グラフト共重合体中のポリビニルアルコール構造)を、0.3~5.0質量部含むことが好ましい。ポリビニルアルコールに由来する構造の含有量は、例えば、0.3、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
なお、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、添加したポリビニルアルコールの一部を、クロロプレン系共重合体にグラフト共重合していない状態、すなわち、遊離した状態で含む。遊離した、ポリビニルアルコールについては後述する。
【0027】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系共重合体は、クロロプレン及びカルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位、ポリビニルアルコールに由来する構造を上記量含有することによって、さらに、カルボキシル基を含むビニル単量体の一部及びポリビニルアルコールの一部を遊離した状態で含むことにより、より貯蔵安定性、機械的安定性、高温保管後の機械的安定性に優れ、初期剥離強度、常態剥離強度、耐水強度、及び耐熱接着力等の接着特性に優れる接着剤を得ることができるクロロプレン系ラテックス組成物となる。
【0028】
1.2 カルボキシル基を含むビニル単量体
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、添加したカルボキシル基を含むビニル単量体の一部を、クロロプレン系共重合体に含まれない状態、すなわち、遊離した状態(単量体の状態)で含んでいても良い。
【0029】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、クロロプレンに由来する単量体単位を100質量部としたとき、遊離した状態の、カルボキシル基を含むビニル単量体を0.01~5質量部含むことができる。カルボキシル基を含むビニル単量体の含有量は、例えば、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0030】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、添加したカルボキシル基を含むビニル単量体を100質量部とした時、35~75質量部を遊離した状態で含むことができる。遊離した状態のカルボキシル基を含むビニル単量体は、例えば、35、40、45、50、55、60、65、70、75質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0031】
1.3 ポリビニルアルコール
本発明に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、添加したポリビニルアルコールの一部をクロロプレン系共重合体(グラフト共重合体)に含まれない状態、すなわち、遊離した状態で含む。ここで、ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である。
【0032】
<ポリビニルアルコールL>
本発明に係るポリビニルアルコールLは、重合度が450未満である。ポリビニルアルコールLの重合度は、例えば、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、410、420、430、440、445であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0033】
本発明に係るポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である。ポリビニルアルコールLのけん化度は、例えば、76、78、80、82、84、86、88、90mol%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0034】
<ポリビニルアルコールH>
本発明に係るポリビニルアルコールHは、重合度が450~1200である。ポリビニルアルコールHの重合度は、例えば、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0035】
本発明に係るポリビニルアルコールHは、けん化度が60~99mol%であることが好ましい。ポリビニルアルコールHのけん化度は、例えば、60、65、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、99mol%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0036】
上記したように、本発明に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも併用することによって、重合初期にコロイドの合一及び再分散の活性化をはかることができ、かつ、重合後期に重合体粒子の凝集を防ぐことでき、粒子径、粒子の分散、粘度等の特性が制御された、貯蔵安定性に優れるクロロプレン系ラテックス組成物が得られると考えられる。
また、本発明の一実施形態によれば、少なくとも上記2種類のポリビニルアルコールを含むことにより、貯蔵安定性、機械的安定性、高温保管後の機械的安定性に優れ、かつ、初期剥離強度、常態剥離強度、耐水強度、及び耐熱接着力等の接着特性に優れる接着剤を得ることができるクロロプレン系ラテックス組成物となると考えられる。
【0037】
なお、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、ポリビニルアルコールL及びポリビニルアルコールH以外のポリビニルアルコールを含んでいても良い。本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、ポリビニルアルコールL及びポリビニルアルコールH以外のポリビニルアルコールを含まなくても良い。
【0038】
本発明の一実施形態では、クロロプレン系ラテックス組成物を100質量部としたとき、クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、ポリビニルアルコールの量(遊離したポリビニルアルコール)とグラフト共重合体に含まれるポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量が0.3~5.0質量部であることが好ましい。クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、(遊離)ポリビニルアルコールの量とグラフト共重合体に含まれるポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量は、0.3、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0039】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、クロロプレン系共重合体を100質量部としたとき、グラフト共重合していない、遊離した状態のポリビニルアルコールを0.3~5.0質量部含むことが好ましい。遊離ポリビニルアルコールの含有量は、例えば、0.3、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0040】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、添加したポリビニルアルコールを100質量部とした時、40~90質量部を遊離した状態で含むことができる。添加したポリビニルアルコールを100質量部とした時、遊離ポリビニルアルコールは、例えば、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0041】
本発明の一実施形態では、クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、ポリビニルアルコール(遊離したポリビニルアルコール)の量及びポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量を100質量部としたとき、ポリビニルアルコールL(遊離したポリビニルアルコールL)の量及び前記ポリビニルアルコールLに由来する構造の量の合計量が、50~99質量部であることが好ましい。ポリビニルアルコールLの量及び前記ポリビニルアルコールLに由来する構造の量の合計量は、例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、ポリビニルアルコールの量及びポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量に対するポリビニルアルコールLの量及び前記ポリビニルアルコールLに由来する構造の量の合計量、すなわち、クロロプレン系ラテックス組成物に添加するポリビニルアルコールLとポリビニルアルコールHの比を調整することにより、貯蔵安定性、機械的安定性、高温保管後の機械的安定性により優れるクロロプレン系ラテックス組成物となり、初期剥離強度、常態剥離強度、耐水強度、及び耐熱接着力等の接着特性により優れる接着剤を得ることができる。
【0042】
本発明の一実施形態では、クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、ポリビニルアルコール(遊離したポリビニルアルコール)の量及びポリビニルアルコールに由来する構造の量の合計量を100質量部としたとき、ポリビニルアルコールL(遊離したポリビニルアルコールL)の量及び前記ポリビニルアルコールLに由来する構造の量、並びにポリビニルアルコールH(遊離したポリビニルアルコールH)の量及び前記ポリビニルアルコールHに由来する構造の量の合計量が、50~100質量部であることが好ましく、例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0043】
1.4 界面活性剤
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、界面活性剤を含むことができる。本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、HLB値が3~10である界面活性剤を含むことが好ましい。
【0044】
界面活性剤のHLB値は、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、本発明において、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値とは、Daviesの理論によるHLB値を意味し、HLB値=Σ(親水基の基数)-Σ(親油基の基数)+7で表される。
【0045】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、クロロプレン系ラテックス組成物100質量部に対して、界面活性剤を0.04~0.36質量部含有することができる。界面活性剤の含有量は、例えば、0.04、0.06、0.08、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.32、0.34、0.36質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
重合初期に、HLB値が特定の範囲である界面活性剤が特定量存在することで、単量体の乳化状態が良好となり、より微細な単量体のミセルがより多く存在する状態となり、重合進行に伴うラテックスの粒子径の増大が抑えられ、得られるクロロプレン系ラテックス組成物の貯蔵安定性及び機械的安定性がより増大すると考えられる。
【0046】
HLB値が3~10である界面活性剤は、特に限定するものではなく、公知のアニオン系、ノニオン系、カチオン系の界面活性剤を使用することができるが、ノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、脂肪酸アルカノールアミド及び脂肪酸エステルのうち少なくとも一つを含むことが好ましい。具体的には、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル類、グリセロールモノステアレート等のグリセロールの脂肪酸エステル類、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
なお、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、HLB値が3~10である界面活性剤以外の界面活性剤を含んでいても良い。この場合、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる界面活性剤を100質量%とした時、HLB値が3~10である界面活性剤を70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことが好ましい。本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、HLB値が3未満、10以上である界面活性剤を含まないこともできる。
【0048】
なお、上述の、クロロプレン系ラテックス組成物に含まれる、クロロプレン単量体に由来する単量体単位の量、カルボキシル基を含むビニル単量体に由来する単量体単位の量、ポリビニルアルコールに由来する構造、遊離したカルボキシル基を含むビニル単量体の量、遊離したポリビニルアルコールの量等の各成分の量は、クロロプレン系ラテックス組成物製造時の製造条件、具体的には、各原料の仕込み量や重合条件等を調整することで制御することができる。また、各含有量は、実施例の記載の方法で、分析値及び仕込み量から算出することができる。
【0049】
1.5 クロロプレン系ラテックス組成物の物性
<貯蔵安定性>
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、該クロロプレン系ラテックス組成物235gを胴径19.5cm、容積225mlのガラス容器に入れ40℃で保管した際に、容器の底に2mm以上沈殿するか、又は、金網に残った凝固物を125℃で1時間乾燥した凝固物が、クロロプレン系ラテックス組成物の固形分に対して0.005%以上となるまでの期間が、6週間以上であることが好ましく、8週間以上であることがより好ましい。貯蔵安定性は、具体的には実施例に記載の方法で評価することができる。
【0050】
<機械的安定性>
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、機械的安定性が、0.10%以下であることが好ましい。機械的安定性は、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。機械的安定性は、実施例に記載の方法で評価することができる。
【0051】
<40℃で8週間保管後の機械的安定性>
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、40℃で8週間保管後の機械的安定性が、1.50%以下であることが好ましい。機械的安定性は、例えば、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、1.00、1.10、1.20、1.30、1.40、1.50%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。40℃で8週間保管後の機械的安定性は、実施例に記載の方法で評価することができる。
【0052】
本発明に係るクロロプレン系ラテックス組成物の貯蔵安定性、機械的安定性、40℃で8週間保管後の機械的安定性は、用いるポリビニルアルコールの種類及び各ポリビニルアルコールの配合量、並びに、界面活性剤のHLB及び含有量を調整し、かつ、重合工程を適切に制御し、例えば、重合溶液における粒子径や粘度を適切に制御することによって調整することができる。
【0053】
2 クロロプレン系ラテックス組成物の製造方法
本発明に係るクロロプレン系ラテックス組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法で製造することができる。本発明に係るクロロプレン系ラテックス組成物の製造方法は、クロロプレン単量体及びカルボキシル基を含むビニル単量体を含む原料単量体を重合する重合工程を含む。重合工程では、ポリビニルアルコールを添加し、ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である。
【0054】
2.1 重合工程
本発明に係る重合工程では、クロロプレン単量体、カルボキシル基を含むビニル単量体を含む原料単量体を重合する。本発明に係る原料単量体は、クロロプレン及びカルボキシル基を含むビニル単量体を含む。また、本発明に係る原料単量体は、さらに、クロロプレン及びカルボキシル基を含むビニル単量体以外の他の単量体を含むことができる。他の単量体としては、「クロロプレン、カルボキシル基を含むビニル単量体、及びポリビニルアルコール以外の他の化合物」として列挙した化合物を挙げることができる。
【0055】
<原料単量体>
本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始までに、重合工程に使用する原料単量体の少なくとも一部を重合容器に仕込む。
本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始までに、重合工程に使用するカルボキシル基を含むビニル単量体のすべてを重合容器に仕込むことができる。
【0056】
本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始までに重合工程に使用する原料単量体の一部を重合容器に仕込み、重合開始後に原料単量体の少なくとも一部を添加できる。本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始後に重合工程に使用するクロロプレンの少なくとも一部を添加することができる。
クロロプレンの少なくとも一部を重合開始までに、残りのクロロプレンを重合開始後に添加する場合、残りのクロロプレンは1回又は複数回に分けて分割添加することもでき、一定の流量で連続添加することもできる。一例として、クロロプレンの分添は、重合率が、1~30%に達したときに開始することができ、重合率が5~25%に達した時開始することが好ましい。
重合開始後に原料単量体の少なくとも一部を添加する場合、重合工程で使用する原料単量体100質量部のうち、70質量部以下を、重合開始後に添加することができる。この場合、重合開始後に添加する原料単量体の量は、例えば、0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70質量部とでき、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。一例として、原料単量体、特にはクロロプレンの分添は、3~8時間かけて連続的に行うことができ、4~7時間かけて連続的に行うことが好ましい。原料単量体の配合は、得られるクロロプレン系共重合体が上記した組成となるよう調整することが好ましい。
【0057】
<乳化剤>
本発明に係る重合工程では、ポリビニルアルコールを添加する。本発明に係る重合工程では、さらに界面活性剤を添加しても良い。ポリビニルアルコール及び界面活性剤は乳化剤として機能する。ポリビニルアルコールは、重合度が450未満であるポリビニルアルコールLと、重合度が450~1200であるポリビニルアルコールHを少なくとも含み、ポリビニルアルコールLは、けん化度が76~90mol%である。
【0058】
ポリビニルアルコールL及びポリビニルアルコールHについては上記したとおりである。
ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコールL及びポリビニルアルコールH)の添加量は、得られるクロロプレン系ラテックス組成物が上記した組成となるよう調整することが好ましい。
具体的には、重合工程で使用する原料単量体100質量部に対して、ポリビニルアルコールを、1.0~5.0質量部添加することが好ましい。ポリビニルアルコールの添加量は、例えば、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0059】
重合工程で使用するポリビニルアルコールの合計100質量部としたとき、重合工程で使用するポリビニルアルコールLの合計量は、50~99質量部であることが好ましい。重合工程で使用するポリビニルアルコールLの合計量は、例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0060】
本発明の一実施形態では、重合開始時に、ポリビニルアルコールLの少なくとも一部が添加されていることが好ましく、重合開始時に、重合工程で使用するポリビニルアルコールLの半分以上が添加されていることが好ましく、重合開始時に、重合工程で使用するポリビニルアルコールLの全量が添加されていることが好ましい。
本発明の一実施形態では、重合開始時に、ポリビニルアルコールHが添加されていなくても良い。本発明の一実施形態では、重合開始後に、ポリビニルアルコールHの少なくとも一部を添加できる。
【0061】
界面活性剤は、HLB値が3~10であることが好ましい。界面活性剤の種類としては、上記に列挙した界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤の添加量は、得られるクロロプレン系ラテックス組成物中の界面活性剤の量が上記した数値範囲となるよう調整することが好ましい。具体的には、重合工程で使用する原料単量体100質量部に対して、0.15~0.60質量部添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は、例えば、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始前に、重合工程に使用する乳化剤のすべてを重合容器に仕込むことができる。
また、本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始後に重合工程に使用する乳化剤の少なくとも一部を分添することもできる。
【0063】
<pH調整剤>
本発明の一実施形態では、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどが挙げられる。pH調整剤は、2種以上のものを併用してもよい。本発明の一実施形態では、重合停止後、かつ、未反応単量体の除去工程の前に、pH調整剤を添加することができる。本発明の一実施形態では、pH調整剤を添加し、重合溶液のpHを、例えば、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0に調整することができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0064】
<還元剤>
本発明の一実施形態に係る重合工程では、還元剤を添加することができる。還元剤としては、ピロ亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等を挙げることができる。還元剤の添加量は、重合工程で使用する原料単量体100質量部に対して、0.01~3.0質量部とすることができる。
【0065】
<重合開始剤>
本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素等の無機過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物類などを用いることができる。これらの重合開始剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の使用量は、重合工程で使用する原料単量体100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部である。
【0066】
<連鎖移動剤>
本発明の一実施形態に係る重合工程では、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、特に制限はなく、例えば、n-ドデシルメルカプタンやtert-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルム等の公知の連鎖移動剤を使用することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。連鎖移動剤の添加量は、重合工程で使用する原料単量体100質量部に対して、0.001~10質量部とすることができる。
【0067】
本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始まで、重合工程に使用する連鎖移動剤のすべてを重合容器に仕込むことができる。また、本発明の一実施形態に係る重合工程では、重合開始までに重合工程に使用する連鎖移動剤の一部を重合容器に仕込み、重合開始後に連鎖移動剤の少なくとも一部を添加することもできる。一例として、連鎖移動剤の分添は、単量体の分添と同時に開始することができ、重合率が、1~30%に達したときに開始することができ、重合率が5~25%に達した時開始することが好ましい。
連鎖移動剤の少なくとも一部を重合開始までに、残りの連鎖移動剤を重合開始後に添加する場合、残りの連鎖移動剤は1回又は複数回に分けて分割添加することもでき、一定の流量で連続添加することもできる。一例として、単量体の分添と同様に連鎖移動剤の分添は、3~8時間かけて連続的に行うことができ、4~7時間かけて連続的に行うことが好ましい。
重合開始後に連鎖移動剤の少なくとも一部を添加する場合、重合工程で使用する連鎖移動剤100質量部のうち、70質量部以下を、重合開始後に添加することができる。この場合、重合開始後に添加する連鎖移動剤の量は、例えば、0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70質量部とでき、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0068】
<重合温度>
重合温度は、反応を制御しやすい等の観点から0~55℃の範囲であることが望ましい。重合反応をより円滑かつ安全に行なう観点からは、重合温度の下限値を10℃以上、上限値を45℃以下とすることが望ましい。
【0069】
<重合転化率>
重合転化率は50~99.9%の範囲とすることができる。所望の重合転化率に達した後、重合反応を、重合停止剤を加えることにより停止させることができる。
【0070】
<重合停止剤>
重合停止剤としては、例えばジエチルヒドロキシアミン、チオジフェニルアミン、4-tert-ブチルカテコール、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)等がある。添加量は、重合工程で使用する全単量体100質量部に対して0.02~0.1質量部とすることができる。
【0071】
2.2 重合溶液の物性
<粒子径>
本発明に係る製造方法では、重合工程において、重合停止時の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径と、原料単量体の分添開始直後の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径との差が、400nm以下であることが好ましい。重合停止時の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径と、原料単量体の分添開始直後の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径との差は、例えば、50、100、150、200、250、300、350、400nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0072】
重合停止時の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径と、原料単量体の分添開始直後の重合溶液のキュムラント解析により得られた平均粒子径との差が上記数値範囲内となるよう、重合中の重合溶液中の粒子径を制御することによって、貯蔵安定性、機械的安定性、さらには、高温保管後の機械的安定性に優れるクロロプレン系ラテックス組成物を得ることができる。重合中の重合溶液中の粒子径は、原料単量体の配合の割合、量、及び添加のタイミング、並びに乳化剤であるポリビニルアルコール及び界面活性剤の種類及び添加量等を調整することによって、制御することができる。重合溶液のキュムラント解析により得られる平均粒子径は、具体的には実施例に記載の方法で求めることができる。
【0073】
<粘度>
本発明の一実施形態に係る製造方法では、原料単量体の分添終了時の重合溶液のB型粘度計で測定した粘度が250mPa・s以下であり、重合停止時の重合溶液のB型粘度計で測定した粘度が50mPa・s以上であることが好ましい。
【0074】
原料単量体の分添終了時の重合溶液のB型粘度計で測定した粘度は、例えば、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250mPa・sであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。重合工程中の粘度は、重合が進むに連れ高くなる傾向があり、本発明の一実施形態においては、分添終了時の粘度が上記上限以下であることが好ましく、重合工程中の最大粘度が上記上限以下であることが好ましい。分添終了時の粘度、より好ましくは、重合工程中の重合溶液の粘度が一定以下であることにより、撹拌効率が低下することなく、均一に除熱を行うことができ、局所的に重合が進行して凝集物が発生することを防ぐことができる。
【0075】
重合停止時の重合溶液のB型粘度計で測定した粘度は、例えば、50、100、150、200、250mPa・sであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。重合停止時の粘度が一定以上であることにより、例えば、得られたクロロプレン系ラテックス組成物を用いて接着剤を調整する場合、粘度の調整が容易となる。
【0076】
原料単量体の分添終了時及び重合停止時の重合溶液の粘度は、原料単量体の配合の割合、量、及び添加のタイミング、並びに乳化剤であるポリビニルアルコール及び界面活性剤の種類及び添加量等を調整することによって、制御することができる。また、重合溶液の粘度は、具体的には実施例に記載の方法で求めることができる。
【0077】
2.3 未反応単量体の除去工程
本発明の一実施形態に係る製造方法は、未反応単量体の除去工程を含むことができる。未反応単量体の除去工程では、重合終了後の重合溶液から、重合終了後の未反応単量体を、常法のスチームストリッピング法や減圧加熱蒸発法等の方法で除去し、クロロプレン系ラテックス組成物を得ることができる。
【0078】
重合終了時の重合溶液中のクロロプレン系ラテックス組成物の固形分濃度は、例えば20、25、30、35、40、45、50、55、60質量%とすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0079】
3 接着剤(水性接着剤)
本発明の一実施形態に係る接着剤は、上記のクロロプレン系ラテックス組成物を含む。また、接着剤は水性接着剤とできる。本発明の一実施形態に係る接着剤は、上記のクロロプレン系ラテックス組成物、粘着付与樹脂及び金属酸化物を含むことができる。
【0080】
<粘着付与樹脂>
粘着付与樹脂としては、ロジン樹脂、重合ロジン樹脂、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、テルペンフェノール樹脂、C5留分系石油樹脂、C9留分系石油樹脂、C5/C9留分系石油樹脂、DCPD系石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂などを挙げることができる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
粘着付与樹脂の添加方法は特に限定されるものではないが、接着剤中に樹脂を均一に分散させるために、水性エマルジョンとしてから添加することが好ましい。粘着付与樹脂を水性エマルジョンとするには、トルエン等の有機溶剤に溶解させたものを、乳化剤を用いて水中に乳化/分散させた後、有機溶剤を減圧しながら加熱して取り除く方法と、微粒子に粉砕して乳化/分散させる方法などがある。
【0082】
粘着付与樹脂の添加量(固形分換算)は、接着剤100質量部に対して、10~50質量部とできる。粘着付与樹脂の添加量(固形分換算)は、例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、50質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0083】
<金属酸化物>
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化鉄等を挙げることができる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
金属酸化物の添加量(固形分換算)は、接着剤100質量部に対して、0.1~5質量部とできる。金属酸化物の添加量(固形分換算)は、例えば、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0085】
本発明の一実施形態に係る接着剤は、上記の成分の他に、pH調整剤、可塑剤、充填材、酸化防止剤、顔料、着色剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤、その他の樹脂エマルション(ラテックス)などを適宜含有することができる。
【0086】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物を用いて作製した接着剤は紙、木材、布、皮革、レザー、ゴム、プラスチック、プラスチックフォーム、陶器、ガラス、セラミック、金属などの同種の被着体あるいは異種同士の被着体の接着に使用することができる。
【0087】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、一例として、以下の方法で調製することができる。
【0088】
<接着剤の製造>
クロロプレン系ラテックス組成物100質量部(固形分換算)に、粘着付与樹脂(荒川化学工業社製タマノールE-100)50質量部、金属酸化物(酸化亜鉛:大崎工業社製AZ-SW)1質量部を添加し、スリーワンモータを用いて攪拌する。この溶液の粘度が25℃×30rpmの測定条件で、3000~4000mPa・sとなるように増粘剤(ロームアンドハース社製RM-8W)を添加して接着剤を得る。
【0089】
本発明の一実施形態に係る接着剤は、以下のように調製した接着サンプルについて、以下の特性を有することが好ましい。
<接着サンプルの作製>
得られた接着剤を、帆布(25×150mm)2枚にそれぞれ300g(固形分)/mとなるように刷毛で塗布し、80℃雰囲気下で9分間乾燥し、室温で1分間放置後に塗布面を張り合わせハンドローラーで圧着して接着サンプルを得る。得られた接着サンプルについて、以下の評価を行う。
【0090】
<初期剥離強度>
本発明の一実施形態に係る水性接着剤は、上記接着サンプルをローラー圧着後、室温にて10分間放置したときの、引張り試験機を用いて、引張り速度200mm/minで測定されるT型剥離試験(初期剥離強度)において、3.0N/mm以上であることが好ましい。初期剥離強度は、例えば、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0N/mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0091】
<常態剥離強度>
本発明の一実施形態に係る水性接着剤は、上記接着サンプルを室温にて5日間放置した後、引張り試験機を用いて、引張り速度200mm/minで測定されるT型剥離試験(常態剥離強度)において、5.0N/mm以上であることが好ましい。常態剥離強度は、例えば、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0N/mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0092】
<耐水強度>
本発明の一実施形態に係る水性接着剤は、上記接着サンプルを室温で5日間放置し、さらに、23℃の水中に2日間浸漬した後、引張り試験機を用いて引張り速度200mm/minで測定されるT型剥離試験(耐水強度)において、1.8N/mm以上であることが好ましい。耐水強度は例えば、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0N/mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0093】
<耐熱接着力>
本発明の一実施形態に係る水性接着剤は、上記接着サンプルを室温で5日間放置した後、さらに、80℃雰囲気下に15分間放置し、80℃雰囲気下で200mm/minの速度で測定されるT型剥離試験(耐熱接着力)において、1.2N/mm以上であることが好ましい。耐熱接着力は、例えば、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0N/mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0094】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ラテックス組成物は、上記の配合、具体的には、実施例に記載の配合の接着剤としたときに上記の特性を有することが好ましい。
【実施例0095】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0096】
<クロロプレン系ラテックス組成物の製造>
(実施例1)
内容量10リットルの反応器に、窒素気流下で水106.3質量部、ポリビニルアルコール(a)3.0質量部、ポリビニルアルコール(d)0.5質量部、ノニオン系界面活性剤であるラウリン酸ジエタノールアミド(花王株式会社製、アミノーンL-02、HLB 5.8)0.39質量部を投入し、溶解した。得られた混合液を攪拌しながら、さらに、クロロプレン39.2質量部、メタクリル酸2質量部、及びオクチルメルカプタン0.1質量部を加え、30℃で10分間攪拌した。還元剤として亜硫酸ナトリウム0.1質量部を添加し、開始剤として過硫酸カリウムを用いて、窒素雰囲気下35℃で重合を開始した。重合率が15%に達した時点から、クロロプレン58.8質量部及びオクチルメルカプタン0.15質量部を5時間かけて7.86g/minで連続的に添加した。その後、重合率が98%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。45%ジエタノールアミン水溶液を用いて重合溶液のpHを7.2に調整した後、減圧下で未反応単量体を除去し、クロロプレン系ラテックス組成物を得た。更に水を加えてクロロプレン系ラテックス組成物の固形分が50%になるように調整した。得られたクロロプレン系ラテックス組成物は、クロロプレン系ラテックス組成物100質量部に対して、ノニオン系界面活性剤であるラウリン酸ジエタノールアミドを0.19質量部含む。
【0097】
(実施例2~6、比較例1~10)
重合処方、重合条件を表2、表3、表4に記載のとおりとし、ポリビニルアルコールとして、表1に記載の物性を有するポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様に、クロロプレン系ラテックス組成物を製造した。
【0098】
<重合溶液の物性>
(原料単量体の分添開始直後及び重合停止時の重合溶液の動的光散乱法により得られるキュムラント法で求めた平均粒子径)
原料単量体の分添開始直後及び重合停止後の重合溶液を、固形分濃度が0.01質量%となるように蒸留水で希釈調整し、ELSZ Series(大塚電子株式会社製)によって平均粒子径を求めた。ここで、ラテックスの平均粒子径は、動的光散乱法において、光子相関法で求めた自己相関関数よりキュムラント法で求めた値を用いた。結果を表2、表3、表4に示す。
なお、原料単量体の分添開始直後の重合溶液は、原料単量体の分添開始から3分以内に採取した。また、重合停止後の重合溶液は、重合容器に重合停止剤を添加してから3分以内に採取した。
【0099】
(分添終了時及び重合停止時の重合溶液の粘度)
各実施例及び各比較例について、重合開始から重合停止まで、1時間毎にB型粘度計により重合溶液の粘度を測定した。また、B型粘度計により分添終了時及び重合停止時の重合溶液の粘度を測定した。粘度は以下の条件で測定を行った。
測定機器:東機産業株式会社製「VISCOMETER TVB-20L」
スピンドル・ローター:2M(半径19mm×厚み7mの円盤状)
回転数:30rpm
なお、重合中の粘度は、単量体の分添終了時に最大となった。
【0100】
<クロロプレン系ラテックス組成物の評価>
(クロロプレン系ラテックス組成物100質量部に対する各成分の量)
以下に示す各成分の組成を、仕込み量及び分析値から算出した。
・クロロプレン系共重合体100質量部に対する、グラフト共重合体中(クロロプレン系共重合体中)のポリビニルアルコール構造の量
・クロロプレン系共重合体100質量部に対する、遊離ポリビニルアルコールの量
・クロロプレン系共重合体中のクロロプレンに由来する単量体単位100質量部に対する、クロロプレン系共重合体中のカルボキシル基を含むビニル単量体の量
・クロロプレン系共重合体中のクロロプレンに由来する単量体単位100質量部に対する、遊離した、カルボキシル基を含むビニル単量体単位の量
・クロロプレン系ラテックス組成物100質量部に対する、ポリビニルアルコール構造(遊離ポリビニルアルコールを含む)の量
・クロロプレン系ラテックス組成物100質量部に対する、界面活性剤の量
結果を表2、表3、表4に示す。
【0101】
(グラフト共重合体中のポリビニルアルコール構造の量)
グラフト共重合体中のポリビニルアルコール構造の量を以下の方法で算出した。
まず、グラフト共重合していない、遊離ポリビニルアルコールの量を以下の方法で定量し、ポリビニルアルコール仕込み量から、遊離ポリビニルアルコールの量を減じてグラフト共重合体中のポリビニルアルコール構造の量を求めた。
【0102】
・試薬の調製
ホウ酸4gを純水96mLに溶解し、4%ホウ酸水溶液を調製した。
純水約70mLにヨウ化カリウム2.5gを溶解させヨウ化カリウム水溶液を調製した。ヨウ素1.27gを秤量し、予め作製したヨウ化カリウム水溶液に溶解させて、総量が100mLになるまで純水を加え、ヨウ素溶液を調製した。
【0103】
・PVA標準溶液の調製
PVA0.1gを100mLメスフラスコに精秤し、純水を50~60mL加え,ウォーターバス(約95℃)で溶解した。室温に冷却後、純水を標線まで加え、良く混合した。その中より10mL分取して100mLメスフラスコに入れ、純水を標線まで加えてよく混合し、PVA濃度0.1mg/mLの標準溶液を調製した。
【0104】
・検量線の作成
上記の標準溶液を50mLメスフラスコに1、5、10、15、20mL分取し、それぞれに4%ホウ酸水溶液15mLを加え、総量が45mLになるまで純水を加えた。さらにそれぞれに、ヨウ素溶液3mLを加え、純水を標線まで加え、良く混合し、PVA濃度2、10、20、30、40mg/Lの溶液を調製した。ヨウ素を加えないで調整したブランク液を対照にして、分光光度計で波長650nm、セルガラス10mmで吸光度を測定し、濃度-吸光度の検量線を作成した。
【0105】
・測定サンプルの調製
各実施例及び比較例のクロロプレン系ラテックス組成物9gを200mLビーカーに計量し、撹拌しながら純水を171g加え、質量比で20倍に希釈した。上記希釈液100g(50g×2個)をセルに取り、6000rpm×30分の条件で遠心分離操作を行った。50mLメスフラスコに、上記上澄みを1mL分取し、4%ホウ酸水溶液を15mL加え、総量が45mLになるまで純水を加えた。さらに、ヨウ素溶液3mLを加え、純水を標線まで加え、良く混合し、測定サンプルとした。
【0106】
・吸光度の測定
ブランク液を対照にして、分光光度計で波長650nm、セルガラス10mmで吸光度を測定した。測定は、元のクロロプレン系ラテックス組成物を1000倍に希釈(20倍希釈×50倍希釈)して実施したことになる。
【0107】
・PVA濃度、遊離ポリビニルアルコールの量、グラフト共重合体中のポリビニルアルコール構造の量の算出
以下の式で測定サンプルのPVA濃度 Sを算出した。
=ABS×A
:メスフラスコ中のPVA濃度[mg/L]、ABS:吸光度、A:係数(検量線からLotus1-2-3より算出)
続いて、以下の式でクロロプレン系ラテックス組成物中の遊離ポリビニルアルコール濃度を算出した。
=S×C/B
:クロロプレン系ラテックス組成物中の遊離ポリビニルアルコール濃度[g/kg]、B:希釈液量[g]
C:上澄み液量[g]
【0108】
最後に、以下の式でクロロプレン系ラテックス組成物中の遊離ポリビニルアルコール量、グラフト共重合体中のポリビニルアルコール構造の量を算出した。
PVA=L×L
PVA:遊離ポリビニルアルコール量[g]
:クロロプレン系ラテックス組成物の量[kg]
PVA=PVA-PVA
PVA:グラフト共重合体中のポリビニルアルコール構造の量[g]
PVA:ポリビニルアルコール仕込み量[g]
【0109】
得られたPVAを、クロロプレン系ラテックス組成物中のクロロプレン系共重合体の量で除し、クロロプレン系共重合体100質量部に対する、グラフト共重合体中のポリビニルアルコール構造の量を算出した。なお、「クロロプレン系共重合体の量」は、クロロプレン系ラテックス組成物中のクロロプレン単量体単位の量、カルボキシル基を含むビニル単量体単位の量(遊離したカルボキシル基を含むビニル単量体を除く)、ポリビニルアルコール構造の量(遊離したポリビニルアルコールを除く)の合計とした。
【0110】
(カルボキシル基含有ビニル単量体の共重合量)
本発明のクロロプレン系共重合体はゲル分が多く、メタクリル酸共重合量の測定に用いられるH-NMR測定において、測定溶媒に溶解させることができない。従って、PyGC/MS(SIM法)により、メタクリル酸/クロロプレンピーク面積比を算出し、メタクリル酸共重合量が異なる標準サンプル(ゲル分が無くH-NMR測定が可能)について作成した検量線(H-NMRによるメタクリル酸/クロロプレンピーク面積比(MAA共重合量)vsPyGC/MS(SIM法)によるメタクリル酸/クロロプレンピーク面積比)を用いて、メタクリル酸共重合量を算出した。
【0111】
・PyGC/MS(SIM法)に用いる試料の調製
サンプルを凍結乾燥し、エタノール-トルエン共沸混合物(ETA)抽出した。乾燥後の抽出残分をPyGC/MS(SIM法)にて測定した。
【0112】
・PyGC/MS(SIM法)
メタクリル酸:m/z=86、クロロプレン:m/z=91を用い、以下の測定条件で、メタクリル酸/クロロプレンピーク面積比を算出した。
装置:JEOL Jms-Q1050GC
GC カラム:DB-WAX 60m*0.25mm(0.5μm)
カラム温度:100℃(0min)→10℃/min→240℃(11min)
注入口温度:240℃
キャリア―:He 1.0mL/min(Split 1:30)
MS インターフェイス温度:240℃
イオン源温度:250℃
イオン化電流:50μA
イオン化電圧:70eV
検出器電圧:-1200V
イオン化法:EI SIM(m/z:86.91)
Py フロンティア・ラボ製 PY-3030D
熱分解温度:590℃
サンプル量:0.1mg
インターフェイス温度:300℃
【0113】
H-NMR測定に用いる試料の調整
クロロプレン系ラテックス組成物をメタノールとキシレンを用いて精製し、試料を得た。試料約30mgを重クロロホルム約1mLに溶解し、測定を実施した。
【0114】
H-NMR
装置構成:溶液NMR(5mmプローブ使用)
測定条件 分析装置 : 超伝導核磁気共鳴装置 日本電子製ECX-400
観測核 :
測定条件 : Single Pulse
試料管回転数 : 12Hz
測定温度 : 30℃
パルス幅 : 3.5μsec(45°パルス)
繰り返し時間 : 7秒
積算回数 : 128回
【0115】
メタクリル酸/クロロプレンピーク面積比から、クロロプレン系共重合体中のクロロプレンに由来する単量体単位100質量部に対する、クロロプレン系共重合体中のカルボキシル基を含むビニル単量体の量を算出した。また、仕込量からメタクリル酸共重合量を減じ、遊離した、カルボキシル基を含むビニル単量体単位の量を算出した。
【0116】
(貯蔵安定性)
クロロプレン系ラテックス組成物235gを胴径19.5cm、容積225mlのガラス容器に入れ密閉したものを8本用意した。その全てを40℃で保存し、1週間毎にそのうちの一本を取り出し、中のクロロプレン系ラテックスを100メッシュの金網でろ過した。ガラス容器の底に残ったクロロプレン系ラテックス組成物の厚みが2mm以上となるか、金網に残った凝固物を125℃で1時間乾燥した凝固物が、クロロプレン系ラテックス組成物の固形分に対して0.005%以上となるまでの期間を記録した。評価結果を表2、表3、表4に示す。
【0117】
(機械的安定性)
JIS K 6828に準拠してマーロン式試験装置を用い、クロロプレン系ラテックス組成物50gに、荷重10kg、回転数1000rpmのせん断力を10分間加えた際に発生した凝固物の量を評価した。マーロン式試験装置のローター部分に付着した凝固物をSUS80メッシュ金網上に採取し、純水洗浄、減圧乾燥を行って質量を計測した。評価結果を表2、表3、表4に示す。表中の値は、生成した凝固物を乾燥計量して下記の式により算出したものであり、値が小さいほどせん断力に対して安定であることを示す。
機械的安定性(%)=凝固物乾燥質量[g]/50[g]×100
【0118】
(40℃で8週間保管後の機械的安定性)
クロロプレン系ラテックス組成物を、40℃で8週間保管後、上記の方法で機械的安定性を評価した。
【0119】
<接着剤の調製>
各実施例及び比較例のクロロプレン系ラテックス組成物と、粘着付与樹脂(テルペンフェノール、荒川化学工業株式会社製、タマノルE-100(固形分濃度53%))と、金属酸化物(水性亜鉛華、大崎工業株式会社製、AZ-SW(固形分濃度50%))を表2、表3、表4に記載の配合で混合し、接着剤を調製した。
【0120】
<接着剤の評価>
得られた接着剤を、帆布(25×150mm)2枚にそれぞれ300g(固形分)/mとなるように刷毛で塗布し、80℃雰囲気下9分間乾燥し、室温で1分間放置後に塗布面を張り合わせハンドローラーで圧着して接着サンプルを得た。得られた接着サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表2、表3、表4に示す。
【0121】
(初期剥離強度)
得られた接着サンプルをローラー圧着後、室温にて10分間放置した。引張り試験機を用いて、引張り速度200mm/minでT型剥離試験を行った。
【0122】
(常態剥離強度)
得られた接着サンプルを室温にて5日間放置した後、引張り試験機を用いて引張り速度200mm/minでT型剥離試験を行った。
【0123】
(耐水強度)
得られた接着サンプルを室温で5日間放置した後、さらに、23℃の水中に2日間浸漬し、引張り試験機を用いて引張り速度200mm/minでT型剥離試験を行った。
【0124】
(耐熱接着力)
得られた接着サンプルを室温で5日間放置した後、さらに、80℃雰囲気下に15分間放置し、80℃雰囲気下で200mm/minの速度でT型剥離試験を行った。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】