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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107848
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】開孔機の冷却方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/12 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
C21B7/12 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011998
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594086152
【氏名又は名称】株式会社丸和技研
(71)【出願人】
【識別番号】000200091
【氏名又は名称】川惣電機工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523033338
【氏名又は名称】株式会社キョクエイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】砂原 公平
(72)【発明者】
【氏名】熊岡 尚
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 文康
(72)【発明者】
【氏名】中濱 和久
(72)【発明者】
【氏名】牛越 悟
【テーマコード(参考)】
4K015
【Fターム(参考)】
4K015DA08
(57)【要約】
【課題】出銑口を開孔機で開孔する際に、霧状の冷却水であるミストにより開孔ビットを冷却する方法であって、開孔ビットの損耗を効果的に防止し良好な出銑を達成できる開孔機の冷却方法を提供する。
【解決手段】出銑口の開孔作業における開孔機の冷却方法であって、前記開孔機の開孔ビットの温度を、前記開孔ビット内に配置される温度センサで測定し、前記開孔ビットに形成されるブロー孔から霧状の冷却水であるミストを噴射して前記開孔ビットを冷却し、前記開孔ビットの測定温度を所定温度以下に維持することを特徴とする開孔機の冷却方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出銑口の開孔作業における開孔機の冷却方法であって、
前記開孔機の開孔ビットの温度を、前記開孔ビット内に配置される温度センサで測定し、
前記開孔ビットに形成されるブロー孔から霧状の冷却水であるミストを噴射して前記開孔ビットを冷却し、前記開孔ビットの測定温度を所定温度以下に維持することを特徴とする開孔機の冷却方法。
【請求項2】
前記ミストの流量を調整して、前記測定温度を所定温度以下に維持することを特徴とする請求項1に記載の開孔機の冷却方法。
【請求項3】
前記測定温度が上昇している場合に、前記ミストの流量を増やすことを特徴とする請求項2に記載の開孔機の冷却方法。
【請求項4】
前記開孔ビットの周囲の出銑口温度毎の、前記開孔ビットの測定温度と前記ミストの流量との相関関係に基づいて、前記ミストの流量を調整することを特徴とする請求項2または3に記載の開孔機の冷却方法。
【請求項5】
前記所定温度は、前記開孔ビットの耐熱温度であることを特徴とする請求項1に記載の開孔機の冷却方法。
【請求項6】
前記所定温度は、前記開孔ビットの耐熱温度から余裕温度だけ低い温度であることを特徴とする請求項1に記載の開孔機の冷却方法。
【請求項7】
前記余裕温度が100℃であることを特徴とする請求項6に記載の開孔機の冷却方法。
【請求項8】
前記温度センサによる測定位置は、前記開孔ビットの回転中心軸方向において、前記開孔ビットの先端表面から3mm以上8mm以下内部の位置であることを特徴とする請求項1に記載の開孔機の冷却方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の出銑作業に用いる開孔機の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の出銑滓作業では、高炉の出銑口を開孔機により掘削し開孔することにより、炉内に滞留する溶銑・溶滓を排出する。炉床部側面には鉄皮で覆われていない耐火物壁である出銑口が形成され、そこに炉内と炉外を繋ぐ溶銑が通過するための2.5~4.0m程度の長さを有する貫通孔が設けられる。貫通孔には前回の出銑終了時に孔を閉塞するマッド材(不定形耐火物)が圧入され、それが炉内の熱で焼成されている。次の出銑の際には、マッド材の焼成物を開孔機で取り除いて開孔する。
【0003】
開孔機は、長尺のドリルや錐、または金棒を使用して、焼成したマッド材を概ね数十mm程度の径で掘削、開孔する機械である。出銑口の開孔機のドリルや錐の先端にビットが設けられており、ビットの回転により焼成物を掘削する。ドリルや錐は掘削中に温度が上昇して強度が低下し、損傷する可能性がある。このため、ドリルや錐は内部を中空とし、この中空部に空気、窒素などのブロー気体と蒸気を混合させたミストを流通させ、ビットの先端から噴出させることによってドリルや錐本体および先端のビットの冷却を図っている。
【0004】
ビットや錐本体の冷却を目的として、錐から高圧水蒸気を噴射する技術(特許文献1)や、錐からのブロー気体に水を添加して冷却能力を上げる技術(特許文献2)が開示されている。また、さらに冷却能力を上昇させるために、ブロー気体の代りに高圧水を使用する技術(特許文献3)や、出銑孔深度が深いところでミスト量を増加させる方法(特許文献4)も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭48-19413号公報
【特許文献2】特開昭58-224104号公報
【特許文献3】特開平9-13113号公報
【特許文献4】特開2001-271106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3に開示されている技術のように高温の掘削孔内部へ水を直接送ると、高温となるビットや錐内面で水の沸騰が生じ、この沸騰で生じた水蒸気が水と錐内面との間の接触を邪魔する膜沸騰の状態となる。そうすると、錐本体あるいはビットの冷却効果が悪化し、送給する水のほとんどは錐先端から出銑口内部へ出たところで、耐火物との接触により沸騰し、それにより極めて大きな衝撃が発生する。このため冷却水の量を増やすことができず、結果的には錐本体やビットの冷却効果を向上させることが困難となる恐れがある。
【0007】
これに対して特許文献1に示された水蒸気の噴射技術や特許文献2に示された技術は、添加水が霧状にブロー気体へ分散するため錐本体内面での膜沸騰状態を避けることができ、また、切削孔内部でも水の沸騰する範囲が広がるため、衝撃的な沸騰を回避することができる。しかし、この技術においても、添加する水の量を増加しすぎると出銑口の深度の浅い部位を掘削している間、出銑口内で水が十分蒸発せずに、樋へ流出して樋内に水たまりが生じる。そして出銑口の開孔後に樋に流出する溶銑滓によって突沸する恐れがある。また、一方で、添加する水の量を抑制しておくと出銑口深度の深い部位において錐やビットの冷却効果があまりなく、ビットの損耗などによる掘削能力の低下が生じて開孔に時間が掛かる。またこの場合、無理に錐を推進させながら開孔することとなるため、出銑口内部の壊れや横穴が発生することが懸念される。
【0008】
また、特許文献4の技術では、錐内部を流通するブロー気体に水を添加するとともに、開孔途中で添加する水の量を増加させるものであるが、開孔途中の出銑口内の熱的状況は出銑口深さ、掘削時の硬さ、マッドの焼成状況、横穴状況、或いは銑滓の温度、液物性、炉床部湯流れ状況により都度変化するため、水量を増加させる深さを誤ると炉内に大量の水を入れることになり、炉冷えを誘発することになりかねない。
【0009】
そこで本発明は、出銑口を開孔機で開孔する際に、霧状の冷却水であるミストにより開孔ビットを冷却する方法であって、開孔ビットの損耗を防止し良好な出銑を達成できる開孔機の冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
(1) 出銑口の開孔作業における開孔機の冷却方法であって、
前記開孔機の開孔ビットの温度を、前記開孔ビット内に配置される温度センサで測定し、
前記開孔ビットに形成されるブロー孔から霧状の冷却水であるミストを噴射して前記開孔ビットを冷却し、前記開孔ビットの測定温度を所定温度以下に維持することを特徴とする開孔機の冷却方法。
【0012】
(2) 前記ミストの流量を調整して、前記測定温度を所定温度以下に維持することを特徴とする上記(1)に記載の開孔機の冷却方法。
【0013】
(3) 前記測定温度が上昇している場合に、前記ミストの流量を増やすことを特徴とする上記(2)に記載の開孔機の冷却方法。
【0014】
(4) 前記開孔ビットの周囲の出銑口温度毎の、前記開孔ビットの測定温度と前記ミストの流量との相関関係に基づいて、前記ミストの流量を調整することを特徴とする上記(2)または(3)に記載の開孔機の冷却方法。
【0015】
(5) 前記所定温度は、前記開孔ビットの耐熱温度であることを特徴とする上記(1)に記載の開孔機の冷却方法。
【0016】
(6) 前記所定温度は、前記開孔ビットの耐熱温度から余裕温度だけ低い温度であることを特徴とする上記(1)に記載の開孔機の冷却方法。
【0017】
(7) 前記余裕温度が100℃であることを特徴とする上記(6)に記載の開孔機の冷却方法。
【0018】
(8) 前記温度センサによる測定位置は、前記開孔ビットの回転中心軸方向において、前記開孔ビットの先端表面から3mm以上8mm以下内部の位置であることを特徴とする上記(1)に記載の開孔機の冷却方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、出銑口を開孔機で開孔する際に、霧状の冷却水であるミストにより開孔ビットを冷却する方法であって、開孔ビットの損耗を防止し良好な出銑を達成できる開孔機の冷却方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る開孔機の構成の一例を示す図である。
図2】開孔ビットの測定温度(℃)とミストの流量(L/分)との関係を出銑口温度毎に示すグラフである。
図3】熱電対による開孔ビットの測定温度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の開孔機の冷却方法について説明する。本実施形態の開孔機の冷却方法は、出銑口の開孔作業における開孔機の冷却方法であって、前記開孔機の開孔ビットの温度を、前記開孔ビット内に配置される温度センサで測定し、前記開孔ビットに形成されるブロー孔から霧状の冷却水であるミストを噴射して前記開孔ビットを冷却し、前記開孔ビットの測定温度を所定温度以下に維持することを特徴とする。
【0022】
本実施形態の開孔作業を行う開孔機を説明する。図1は、本実施形態に係る開孔機の構成の一例を示す。本実施形態の開孔機は、開孔ロッド2及び開孔ロッド2の先端に配置される開孔ビット1を回転させて、出銑口に充填されたマッドを掘削して開孔作業を行う。開孔ビット1の先端部には掘削のための超硬チップ1aが複数配置されている。図1においては、開孔ビット1部分は径方向中心位置での断面を示している。また、図1においては、開孔ロッド2より後方の異径スリーブやシャンクロッド等は省略している。開孔機は公知の油圧式開孔機等で構成されればよい。なお、図1に示した開孔ビット1の形状は一例であり、本実施形態の方法を適用する開孔ビットの形状は当該形状に限定されない。
【0023】
そして本実施形態の開孔機は、霧状の冷却水であるミストを内部に流通させて開孔ビット1の先端側から噴射して冷却する冷却機構と、開孔ビット1の温度を測定する温度センサを有する。
【0024】
冷却機構について説明する。冷却機構は例えばミスト流路4と、ブロー孔6と、ミスト供給部10などで構成される。ミスト流路4は、開孔ロッド2内に形成されるミストが流通する流路である。ミスト流路4には、配管等を介して接続されるミスト供給部10からミストが供給され、ブロー孔6に向けてミストが流通する。ミストの流通によって、内部からも開孔ロッド2や開孔ビット1が冷却される。
【0025】
ブロー孔6は、開孔ビット1に形成されるミストの噴射孔である。噴射されるミスト及びその蒸発熱によって、開孔ビット1や開孔ロッド2の先端部が冷却される。ブロー孔6はミスト流路4と接続されており、ミスト流路4を流れるミストがブロー孔6から開孔ビット1の開孔方向前方に向けて噴射される。
【0026】
ブロー孔6は、例えば開孔ビット1の先端側の側面(外周面)に形成されてもよいし(図1のブロー孔6a)や、前面に形成されてもよい(ブロー孔6b)。また、側面のブロー孔6aや前面のブロー孔6bは複数形成されてもよい。本実施形態では、一例としてビット前方の側面に等間隔で3か所ブロー孔6aが形成され、前面1か所にブロー孔6bが形成された開孔ビット1を示している。ブロー孔6の径は、例えば10mm程度とすることができる。なお、ブロー孔6からミストやミスト生成のために供給されるエアが噴射されることにより、掘削時に発生するくり粉を排出する機能も有する。
【0027】
ミスト供給部10は、ミストを生成して開孔機に供給する。ミスト供給部10は、圧縮空気などの圧縮気体に対して冷却水を添加することでミストを生成する装置であり、公知の装置を用いることができる。ミスト供給部10は、ミストの流量を所望の量に調整することができる。圧縮気体は、窒素などでもよい。
【0028】
温度センサについて説明する。温度センサは、例えば熱電対12である。熱電対12は、シース13、スリーブ14、補償導線15と、送信器16などで構成される。熱電対12としては、測定し得る温度域に対応した熱電対を用いることが好ましい。シース13は、開孔ビット1の温度を検出する部分である。シース13は、開孔ビット1内に形成されるシース差込孔に差し込まれて配置される。シース差込孔は、開孔ビット1の内部において前面(先端面)付近まで延びて形成され、差し込まれたシース13の先端部は、その前面付近の位置で開孔ビット1の温度を測定する。これにより、開孔ビット1の内部において、最も温度が高くなりやすい開孔ビット1の先端部外表面の温度に近い温度を、開孔作業を行いながら測定することができる。なお、少なくともシース13の温度測定点である先端部は、開孔ビット1の径方向中央(回転中心)の位置にあることが好ましい。シース13の先端部より後方の部分や、スリーブ14や、補償導線15は、ブロー孔6やミスト流路4を避けた位置を通って、開孔ビット1や開孔ロッド2内に配置される。
【0029】
スリーブ14は、シース13と補償導線15とを接続する部分である。補償導線15は送信器16に接続される。送信器16は、熱電対12の測定信号を温度に変換する機能と、測定温度を外部機器に送信する機能などを有する。送信器16は測定温度を無線又は有線によって外部機器に送信し、例えば作業者がオペレータルーム等の離れた場所で開孔ビット1の温度を確認できる。
【0030】
なお、開孔ビット1は、出銑口開孔の掘削時に振動、衝撃を受け、掘削が進むと炉内溶銑の輻射熱を受ける。したがって、これらの振動、衝撃及び輻射熱から温度センサを保護するために、開孔ビット1は耐振動性、耐衝撃性及び耐熱性を備えた構造(例えば、特開平8-21768号公報参照)とすることが望ましい。
【0031】
次に、本実施形態の開孔機の冷却方法について説明する。本実施形態の冷却方法は、上述のような開孔ビット1や開孔ロッド2を備える開孔機において、熱電対12で開孔ビット1の温度を測定しながら開孔作業を行い、ミスト供給部10からミストを供給してブロー孔6から噴射して測定温度を所定温度以下に維持するものである。
【0032】
ここで、開孔ビット1の「所定温度」は開孔ビット1の強度を維持できる耐熱温度とすることができる。より具体的には、開孔ビット1の超硬チップ1aの硬度を維持できる耐熱温度とすることができる。耐熱温度は開孔ビット1やその超硬チップ1aの材質や構造等によって異なるが、例えば開孔ビット1の超硬チップ1aの高温硬さが、常温での硬さの80%となる温度とすることができる。高温硬さは例えばロックウェル硬さである。この耐熱温度以下であれば、開孔ビット1の超硬チップ1aの硬さは常温時の80%以上となるので、十分な強度を維持できる。具体的な耐熱温度としては、例えば高炉の開孔作業に通常用いられる開孔ビット1の場合、400℃とすることができる。
【0033】
開孔ビット1が所定温度以下、つまり、耐熱温度以下に維持されれば、開孔ビット1の強度が維持され、強度低下によるビット先端の損耗、摩耗が抑制される。また、損耗が抑制されることで、開孔速度が低下することや、開孔径が大きくなってしまうことも防止され、円滑に開孔作業を進行でき、良好な出銑を達成できる。一方、耐熱温度を超えると、開孔ビット1の強度が低下しビット先端が摩耗して、開孔速度の低下や、開孔径が大きくなるなどの現象が起こり、横穴の発生にもつながり得るため好ましくない。
【0034】
また、上記耐熱温度に対して余裕温度を設定してもよい。この場合「所定温度」は耐熱温度から余裕温度だけ低い温度である。上記の通り耐熱温度を超えると、開孔ビット1の強度が低下し好ましくないので、余裕温度を設定すれば、開孔ビット1の温度が耐熱温度を超えることをより確実に防ぐことができる。例えば、開孔ビット1の耐熱温度が400℃で、余裕温度を100℃に設定した場合には、耐熱温度より100℃だけ低い300℃を所定温度とすることができる。最適な余裕温度は、開孔機の仕様、温度測定位置、開孔条件などによって異なり、経験則等に基づき適宜設定されればよいが、本実施形態のようにミストで冷却する方式の開孔ビット1であれば、100℃程度に設定すればよい。
【0035】
ミストの噴射は、開孔ビット1の測定温度が所定温度以下に維持されるように行う。具体的には、測定温度に基づいてミストの流量を調整し、測定温度が所定温度以下を維持するようにする。例えば、測定温度が上昇している場合に、ミストの流量を増やすことができる。ミストの流量を増やすことには、ミストの噴射を行っていない状態から、測定温度に基づいてミストの噴射を開始する場合も含む。また、測定温度が上昇して所定温度に近づき、その後も上昇の継続が予測される場合に、ミストの流量を増やしてもよい。また、測定温度の上昇速度が許容される速度よりも速い場合に、ミストの流量を増やしてもよい。また、測定温度が低下して所定温度までの温度差に余裕がある場合には、ミストの流量を減らしてもよい。
【0036】
さらに、ミストの流量を調整する場合に、図2に示す関係に基づいてミスト量を調整してもよい。図2は、開孔ビット1の温度センサ(熱電対12)による測定温度(℃)とミストの流量(L/分)との関係を、出銑口温度毎に示したグラフである。出銑口温度は、開孔作業時の開孔ビット1の周囲の出銑口の温度である。通常、実際の開孔作業において出銑口温度は測定されないが、予め、出銑口温度を測定しながら、開孔ビット1でミストを噴射して開孔作業を行い、ミスト量を変化させた場合の測定温度をプロットして求めた相関関係である。
【0037】
この開孔ビット1の測定温度とミスト量との相関関係に基づきミスト量を調整する方法について説明する。例えば、耐熱温度が400℃で、100℃の余裕温度を設定して所定温度を300℃とした開孔ビット1を用いる場合を例として説明する。例えば、ミストの流量が4L/分で開孔作業を行い、測定温度が300℃まで上昇した場合、図2の相関関係から周囲の出銑口温度が約1000℃であると推測できる。測定温度が300℃を超えることを防ぐために、開孔ビット1の温度を200℃にすることを目標とした場合、図2の関係に基づき、例えばミストの流量を5L/分に変更することで、(出銑口温度がさらに上昇しない限り)開孔ビット1の温度を200℃にすることができる。このように、当該相関関係に基づいてミスト量を調整して噴射して開孔作業を行うことで、開孔ビット1の温度を所定温度以下に維持することができる。
【0038】
ミストの流量の調整処理は、熱電対12の送信器16から出力される測定温度を作業者が確認し、測定温度に基づいてミスト供給部10から供給するミストの流量を手動で調整することにより行うことができる。また、ミスト供給部10から供給するミストの流量を自動制御する制御装置が、上記の方法を実行して、測定温度に基づきミストの流量を調整するようにしてもよい。
【0039】
次に、本実施形態の温度センサによる開孔ビット1の温度の測定位置について説明する。本実施形態では温度センサによる測定位置が、開孔ビット1の回転中心軸方向において、開孔ビット1の先端表面から3mm以上8mm以下内部の位置であることが好ましい。測定位置は、熱電対12のシース13の先端の位置である。図1において、開孔ビット1の先端表面からシース先端の測定位置までの距離をXで示している。以下、開孔ビット1の先端表面から温度の測定位置までの距離Xを「測定距離X」とも記載する。なお、たとえば開孔ビット1の形状が異なる場合には、シース13の先端と、シース先端に最も近いビットの外表面との距離を測定距離Xとして、上記範囲内に測定位置を設定すればよい。
【0040】
測定距離Xが3mm以上8mm以下である場合には、熱電対12の測定温度と開孔ビット1の先端表面の実際の温度との差が比較的小さく(50℃以内)、より正確に温度を把握できるので好ましい。また、熱電対12による測定温度が定常状態になるまでの応答速度も許容される範囲であるため、好ましい。
【0041】
一方、測定距離Xはより短い方が開孔ビット1の表面の温度を正確に測定することが可能であるが、3mm未満の場合には、強度が不足し開孔作業中の打撃力によってビット先端が破損する可能性がある。また、測定距離Xが8mmより大きいと、開孔ビット1の先端表面の実際の温度と測定温度との差が大きくなる。また、8mmより大きいと、熱電対12による測定温度の応答が遅すぎて、開孔ビット1の温度を正確に把握することが難しい。
【0042】
ここで、図3に、熱電対12による開孔ビット1の測定温度の時間変化のグラフを示す。図3の縦軸は開孔ビット1の熱電対12による測定温度(℃)であり、横軸は経過時間(秒)である。経過時間は、開孔ビット1の表面温度(周囲の温度)を200℃とした時点を0とした経過時間である。熱電対12の位置を変えて測定距離Xを3mmから15mmまで変化させてそれぞれ測定を行った。
【0043】
測定距離Xが3mmの位置では5秒後に159℃に達し、30秒後には181℃まで達している。8mmの位置では5秒後に105℃、30秒後には155℃に達しており、温度差も50℃以内であるので、許容範囲内である。一方、15mmの位置では、5秒後に54℃、30秒後でも117℃となり、ビット表面とは100℃近い差がある。また、10mmの位置でも、30秒後に140℃程度であり、50℃超の温度差がある。よって、熱電対12の測定位置(シース13の先端の位置)は、開孔ビット1の先端表面から3~8mmだけビット内部の位置であるのが好ましい。
【0044】
以上の本実施形態によれば、開孔ビット1内に配置される温度センサによって開孔ビット1の温度を測定し、測定温度が所定温度以下に維持されるようにミストを噴射して、開孔ビット1を冷却することができる。従って、開孔ビット1の強度低下を防止し、損耗による掘削能力の低下を抑制することができる。開孔ビット1の過度な温度上昇を防いで掘削能力が維持されることにより、開孔作業中に亀裂や横穴などの発生が抑制され、安定した出銑作業を行うことができ、結果として良好な出銑を達成できる。
【0045】
また、本実施形態によれば、温度センサによる測定位置を、開孔ビット1の回転中心軸方向において、開孔ビットの先端表面から3mm以上8mm以下内部の位置とすることにより、開孔ビットの機械的強度を維持しつつ、開孔ビット1の温度をより正確に測定することができ、さらに良好に開孔ビット1の冷却を行うことができる。
【実施例0046】
実施例を示して開孔機の冷却方法をさらに詳細に説明する。実施例として、小型試験高炉(貫通するまでの掘削距離である開口深度:約1000mm)において、前述の開孔ビット1を備えた開孔機を使用した出銑口の開孔事例を示す。実施例の試験で用いた開孔機は、耐熱温度400℃超になるとビット先端の強度低下が生じるため、100℃の余裕温度を設定し、所定温度を健全な強度が維持できる300℃とした。
【0047】
表1に実施例(実施例1、2及び比較例)の内容及び出銑状況を示す。表1において、出銑口深度は、出銑口の掘削開始位置からの掘削距離である。ビット温度は、熱電対12による開孔ビット1の測定温度である。ビットの最高温度は、測定温度の最高値であり、開孔直前に測定された温度である。開孔深度は、出銑が開始した時点の出銑口深度(掘削距離)である。出銑状況は、横穴などの発生が無く出銑口が貫通して良好な出銑が得られた場合を「〇」、横穴などの発生があり良好な出銑とならなかった場合を「×」として評価した。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例1は、出銑口内の横穴の発生が無く、不活性状態でもない理想的な出銑となった事例である。まず開孔機でミストを噴射していない状態で開孔作業を開始した。出銑口深度が550mm(開孔ビット周囲の出銑口内温度が800℃付近と想定される)となったところで、開孔ビット1の測定温度がスタート時の50℃から150℃まで上昇した。150℃まで上昇した時点(出銑口深度550mm地点)で、流量4リットル/分でミストの噴射を開始し、開孔機の回転数や打撃数の条件を変えることなく掘り進めた。その結果、出銑口深度が960mm付近で良好に出銑が開始した。開孔作業中において、開孔ビット1の測定温度は所定温度である300℃以下で安定しており、開孔ビット1の冷却は十分に維持でき、良好な出銑口が形成された。
【0050】
比較例は、出銑口内部でマッドが焼成されて形成された壁に亀裂が入り、溶銑が亀裂に侵入して横穴が発生した事例である。ミストを噴射していない状態で開孔作業を開始し、出銑口深度が420mmとなったところで、開孔ビット1の測定温度が170℃まで上昇したので流量4リットル/分でミストの噴射を開始したが、測定温度の上昇は継続した。そして測定温度が300℃を超えてもミストの流量は変更せずに開孔作業を続けた。その後、出銑口深度600mm地点で測定温度が1140℃まで急上昇した。出銑口深度は1000mmに達していないが、この地点で出銑口内壁の亀裂から溶銑が侵入して横穴が発生し、測定温度が急上昇したと推測される。深度650mmで測定温度が1200℃を超え、不完全な出銑となった。
【0051】
実施例2では、出銑口深度300mmで開孔ビット1の測定温度が160℃に達したので流量4リットル/分でミストの噴射を導入したが、その後も比較例と同様の速度で測定温度の上昇が継続したため、出銑口深さ600mm地点でミスト流量を7リットル/分に増加させた。その後開孔ビット1の温度上昇が抑制されて300℃以下に維持されたまま開孔作業が進行し、その結果、出銑口深度1000mm付近で出銑となった。
【0052】
以上の実施例により、開孔ビット1の温度を測定して開孔作業を行い、ミストで冷却を行って測定温度を所定温度以下に維持しながら開孔を進めることで、横穴の発生が抑制され、良好な出銑が得られることを確認できた。温度上昇が続く場合に、ミストの流量を調整してさらに増加させることで、確実に開孔ビットの温度を所定温度以下に維持することができた。
【符号の説明】
【0053】
1 開孔ビット
2 開孔ロッド
4 ミスト流路
6 ブロー孔
10 ミスト供給部
12 熱電対
13 シース
14 スリーブ
15 補償導線
16 送信器
図1
図2
図3