(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107882
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】空気比算出装置
(51)【国際特許分類】
F23N 5/00 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
F23N5/00 J
F23N5/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012052
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】伊東 航
【テーマコード(参考)】
3K003
【Fターム(参考)】
3K003EA07
3K003FA04
3K003FA10
3K003GA03
(57)【要約】
【課題】より正確な空気比を算出可能な空気比算出装置を提供することである。
【解決手段】燃焼装置に供給する燃料の発熱量と、前記燃焼装置において燃料を燃焼させることにより発生する排ガス中に含まれる酸素濃度とに基づいて、前記燃料が燃焼する際の空気比を算出する算出手段を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼装置に供給する燃料の発熱量と、前記燃焼装置において燃料を燃焼させることにより発生する排ガス中に含まれる酸素濃度とに基づいて、前記燃料が燃焼する際の空気比を算出する算出手段を備える、空気比算出装置。
【請求項2】
前記算出手段は、理論排ガス量と、理論空気量と、前記排ガス中の水蒸気量とに基づいて、前記空気比を算出する、請求項1に記載の空気比算出装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記発熱量に基づいて、前記理論排ガス量、前記理論空気量、および、前記排ガス中の水蒸気量のうちの少なくともいずれかを算出する、請求項2に記載の空気比算出装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記発熱量を変数とする多項式を用いて、前記理論排ガス量、前記理論空気量、および、前記排ガス中の水蒸気量のうちの少なくともいずれかを算出する、請求項3に記載の空気比算出装置。
【請求項5】
前記発熱量は、前記空気比算出装置に予め記憶された前記燃料に応じた発熱量、または、熱量計によって取得された発熱量である、請求項1~4のいずれかに記載の空気比算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気比算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボイラなどの燃焼装置における現在空気比(m)を、排ガス中の酸素濃度(O2)を用いて、m=21/(21-O2)の式から、簡易的に算出することが行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の算出式は、都市ガスやとLPガス(従来ガス)といった、炭化水素に適合した排ガス中の酸素濃度(排ガスO2濃度)のみに基づく計算式となっており、他の種類のガスや、他の種類のガスとの混焼(例えば水素やアンモニアなど)によっては、実際の排ガス中の酸素濃度が従来ガスと大きく異なる場合がある。そのため、従来の式を用いて算出された現在空気比は、実際と大きく誤差が生じる虞がある。
【0005】
本発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、より正確な空気比を算出可能な空気比算出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の空気比算出装置は、燃焼装置に供給する燃料の発熱量と、前記燃焼装置において燃料を燃焼させることにより発生する排ガス中に含まれる酸素濃度とに基づいて、前記燃料が燃焼する際の空気比を算出する算出手段を備える。
【0007】
上記の構成によれば、排ガス中に含まれる酸素濃度のみならず燃焼装置に供給する燃料の発熱量に基づいて空気比が算出される。これにより、使用する燃料の種類・成分や混合割合などを特定せずとも、より正確な空気比を算出することができる。
【0008】
好ましくは、前記算出手段は、理論排ガス量と、理論空気量と、前記排ガス中の水蒸気量とに基づいて、前記空気比を算出する。
【0009】
上記の構成によれば、空気比の算出に、理論排ガス量と、理論空気量と、排ガス中の水蒸気量とを用いることにより、より正確な空気比を算出することができる。
【0010】
好ましくは、前記算出手段は、前記発熱量に基づいて、前記理論排ガス量、前記理論空気量、および、前記排ガス中の水蒸気量のうちの少なくともいずれかを算出する。
【0011】
上記の構成によれば、燃焼装置に供給する燃料の発熱量に基づいて理論排ガス量、理論空気量、排ガス中の水蒸気量のうちの少なくともいずれかを算出することができる。
【0012】
好ましくは、前記算出手段は、前記発熱量を変数とする多項式を用いて、前記理論排ガス量、前記理論空気量、および、前記排ガス中の水蒸気量のうちの少なくともいずれかを算出する。
【0013】
上記の構成によれば、使用する燃料の発熱量を変数とする多項式を用いて、理論排ガス量、理論空気量、排ガス中の水蒸気量のうちの少なくともいずれかを算出することができる。
【0014】
好ましくは、前記発熱量は、前記空気比算出装置に予め記憶された前記燃料に応じた発熱量、または、熱量計によって取得された発熱量である。
【0015】
上記の構成によれば、予め記憶された発熱量、または、熱量計によって取得された発熱量を用いて、より正確な空気比の算出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】所定の燃焼条件の下において算出された空気比と実際の空気比との誤差を説明するための図である。
図1(A)は、従来法を用いた場合の実際の空気比との誤差を示す一例を説明するための図であり、
図1(B)は、本実施形態の空気比算出装置を用いた場合の実際の空気比との誤差を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態に係る空気比算出装置について説明する。本実施の形態に係る空気比算出装置は、ガスを燃料とするボイラの燃焼における現在空気比の算出に用いられる例について説明する。
【0018】
一般に、ボイラなどの燃焼装置において、燃料ガス(気体燃料)と燃焼用空気とを混合させて燃焼させることが行われている。このようなボイラにおいては、理論空気量(供給する燃料の燃焼に必要な最小の空気量)に対する、実際空気量(実際に燃焼室に供給される空気量)の比が、適正な空気比(例えば1.5)で運転されるように制御される。例えば、実際に燃焼室に供給される空気量が、理論空気量よりも少ない低空気比となった場合には、不完全燃焼となり、煤や未燃ガスを発生させてしまう。一方、高空気比となり、余剰空気量が多くなりすぎてしまっても熱効率が低下する。そのため、何らかの要因(例えば、燃焼状態の変動など)に起因して空気比が変動することを抑制するために、排ガスO2濃度から、現在空気比を算出し、例えば、供給する燃料の流量、あるいは、供給する空気の流量を調整することで、適正な空気比に収束されるようにする制御などが行われていた。
【0019】
しかしながら、従来から用いられている、排ガスO2濃度から現在空気比(従来法においてはmとする)を算出する代表的な算出式(m=21/(21-O2))は、都市ガスや、LPGなどの炭化水素を主成分とした燃料に適した式となっている。例えばメタン(一例として低位発熱量50MJ/kg)などの炭化水素とは燃焼特性(例えば発熱量)が異なる成分の燃料の燃焼(例えば、アンモニアや水素など)と混合(あるいは、炭化水素とは異なる燃焼特性の燃料単体で)させて燃焼させる場合に、同じ空気比(例えば1.5)で燃焼させたとしても、燃焼後の排ガス中に含まれる酸素濃度が異なる(例えば、従来燃料では、排ガスO2濃度が7.5%となるところ、異なる燃料(例えば水素)では8.1%)。そうすると、排ガスO2濃度にのみ基づく従来法を使って現在空気比を算出(供給された空気の余剰分を逆算)した場合、実際の現在空気比と誤差が生じてしまい、安定した燃焼状態を維持することが困難となってしまう。
【0020】
例えば、
図1は、炭化水素と、炭化水素とは発熱量が異なる気体との混合割合(以下、燃料条件ともいう)を変えつつ燃焼させた実験結果の一例である。
図1(A)は、所定の燃焼条件の下で燃焼させた場合に検出される排ガスO2濃度(横軸/O2濃度(O2%))に基づいて、従来の算出式(m=21/(21-O2))を用いて空気比を算出した場合(従来法)の算出結果と、実際の空気比との誤差(縦軸/空気比誤差)を表わしたプロット図である。
図1(A)に示すように、排ガスO2濃度(横軸)が5%前後となる燃焼条件である場合において、従来法では空気比の誤差が5%前後生じている。
【0021】
そこで、本実施の形態の空気比算出装置においては、燃料の発熱量に基づいて、以下説明する空気比算出装置の記憶部に記憶された算出用プログラムに基づき、より正確な空気比の算出を行えるようにした。本実施の形態における算出用プログラムは、例えば以下の(式1)および(式2)などの計算処理を行うプログラムである。本実施の形態においては、現在空気比(以下、本発明において算出される空気比は、Rоとする)の推定値は、以下の式により算出される。なお、本実施の形態においては、燃焼特性のうち、炭化水素とは発熱量が異なる気体を燃焼させた場合であっても、より正確な空気比の算出を行うことができる例について説明する。
(式1):
Vai:理論空気量
Vgg:理論排ガス量
Gw:排ガス中水蒸気量
O2dry:乾き排ガスO2濃度
なお、理論空気量(Vai)とは、上述したように供給する燃料の燃焼に必要な最小の空気量のことであり、理論排ガス量(Vgg)とは、燃料の単位体積に対して、理論空気量(Vai)と燃焼反応させたときに理論上発生する排ガス量のことであり、排ガス中水蒸気量(Gw)とは、理論上燃焼させた結果(燃焼反応によって)生成される、排ガス中に含まれる水蒸気量のことである。また、乾き排ガスO2濃度(O2dry)とは、湿り排ガスO2濃度(O2wet)から、水分を除いたものである。なお、湿り排ガスO2濃度(O2wet)とは、水分を含んだ排ガスO2濃度のことであり、排ガスO2センサ(排ガス酸素濃度検出器)などから検出することができる。
【0022】
さらに、本実施の形態においては、乾き排ガスO2濃度(O2dry)は、以下の式2により算出される。
(式2):
O2wet:湿り排ガスO2濃度
【0023】
上述の(式1)および(式2)に用いられる理論空気量(Vai)、理論排ガス量(Vgg)、および、排ガス中水蒸気量(Gw)は、使用する燃料の低位発熱量(Hl)を変数とした多項式(以下、近似多項式ともいう)で近似した値を算出する。燃料の低位発熱量(Hl)を変数とした多項式の比例定数は、発熱量が異なる複数の燃料(あるいは発熱量が異なる複数の燃料を混合させた燃料)各々を燃焼させた場合の燃焼反応式から導出した定数である。例えば、水素(純H2)、アンモニア(純NH3)、メタン(純CH4)、プロパン(純C3H8)、あるいはその他の混合燃料などを包括する範囲で比例定数を定めて定式化する。また、低位発熱量(Hl)は、空気比算出装置に予め記憶された使用する燃料に応じた発熱量の値、あるいは、例えば、熱量計によってリアルタイムに取得された発熱量を用いて算出することができる。なお、理論空気量(Vai)、理論排ガス量(Vgg)、および、排ガス中水蒸気量(Gw)の算出は、算出結果が予め記憶されているものであってもよい。あるいは、近似多項式の計算処理を行うプログラムを算出用プログラムとして予め記憶部に記憶しておき、上述の(式1)および(式2)の算出がされる際、その都度記憶された近似多項式によって算出されるものであってもよい。
【0024】
図1を参照して、従来法によって算出された空気比と、本実施の形態における空気比算出装置の記憶部に記憶された算出用プログラム(修正法)によって算出された空気比との差異を説明する。
図1(B)は、本実施の形態の空気比算出装置(算出用プログラム)を用いた場合(修正法)による算出結果と、実際の空気比との誤差を表わすプロット図である。
図1(B)の修正法における燃焼条件は、
図1(A)の従来法と同一の燃焼条件である。上述したように、排ガスO2濃度(横軸)が5%前後となる燃料条件の場合において、
図1(A)に示すように従来法では空気比の誤差が5%前後生じている。しかし、
図1(B)に示すように、修正法では、空気比の誤差(縦軸)は1%未満である。また、このように算出される空気比に基づいて、排ガスO2濃度5%前後における湿り排ガスO2濃度(O2wet)から、乾き排ガスO2濃度(O2dry)を算出した場合には、従来法では、実際の乾き排ガスO2濃度と、算出される濃度との誤差が、最大で0.8%程度生じることになるが、修正法では、誤差は最大でも0.07%程度に抑制することが可能となる。
【0025】
以上のように、本実施の形態に係る空気比算出装置においては、排ガス中に含まれる酸素濃度(排ガスO2)のみならず、燃焼装置に供給する燃料の発熱量に基づいて空気比(Rо)が算出される。これにより、使用する燃料の種類・成分や混合割合などを特定せずとも、より正確な空気比を算出することができる。
【0026】
また、本実施の形態に係る空気比算出装置では、空気比(Rо)の算出に、理論排ガス量(Vgg)と、理論空気量(Vai)と、排ガス中の水蒸気量(Gw)とを用いることにより、より正確な空気比を算出することができる。さらに、理論排ガス量と、理論空気量と、前記排ガス中の水蒸気量との算出には、空気比算出装置に予め記憶された発熱量、または、熱量計によって取得された発熱量を変数とする多項式が用いられるため、より正確な空気比の算出を行うことができる。
【0027】
本発明は、上記の実施の形態に限られず、種々の変形、応用が可能である。以下、本発明に適用可能な上記の実施の形態の変形例などについて説明する。
【0028】
上記実施の形態においては、(式1)および(式2)に用いられる理論空気量(Vai)、理論排ガス量(Vgg)、および、排ガス中水蒸気量(Gw)の値について、使用する燃料の低位発熱量(Hl)を変数とした多項式で近似した値を算出することができる例について説明した。しかし、理論空気量(Vai)、理論排ガス量(Vg)、および、排ガス中水蒸気量(Gw)のいずれかを、使用する燃料の低位発熱量(Hl)を用いて算出するようにし、いずれかは低位発熱量(Hl)を用いず算出可能な他の方法(例えば、燃料供給路に設けられたガス分析計によって得られる燃料の混合比率に基づいて算出するなど)によって算出されるものが組合わされていてもよい。
【0029】
上記実施の形態においては、近似多項式に変数として用いられる発熱量は、燃料の低位発熱量(Hl)である例について説明したが、高位発熱量から低位発熱量を換算して変数として用いるものであってもよい。例えば、熱量計によってリアルタイムに取得される高位発熱量から、低位発熱量を換算して、近似多項式に変数として用いてもよい。
【0030】
上記実施の形態における空気比算出装置は、ボイラの燃焼状態の制御に用いられる例について説明した。しかし、これに限らず、気体燃料と空気とを混合させることで燃焼反応を起こし、排気ガスを発生させる装置、設備などであれば、例えば、車や、工業炉などの他の燃焼装置における現在空気比の算出などに用いられてもよい。
【0031】
また、使用する燃料の低位発熱量(Hl)を変数とした近似多項式によって得られた、理論空気量(Vai)、理論排ガス量(Vgg)、および、排ガス中水蒸気量(Gw)等の値の利用方法は、現在空気比(Rо)の推定値の算出を行うものに限られない。例えば、排ガス分析(例えば排ガス分析計の換算機能)に用いられてもよく、一例として、上述の(式2)によって、排ガス中に含まれるO2濃度を算出することで、排ガス中の不純物(例えば、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)など)の濃度を、理論排ガス量に対する濃度に換算されるよう種々の応用ができる。
【0032】
上記実施の形態における空気比算出装置は、使用する燃料の低位発熱量(Hl)を変数とした近似多項式によって得られた、理論空気量(Vai)、理論排ガス量(Vgg)、および、排ガス中水蒸気量(Gw)を用いて、(式2)によって乾き排ガスO2濃度(O2dry)を算出した上で、(式1)によって現在空気比(Rо)を算出する例について説明した。しかし、乾き排ガスO2濃度(O2dry)を検出(あるいは測定)することができる装置が排ガス経路等に設けられている場合には、(式2)を用いず、検出等された乾き排ガスO2濃度(O2dry)と、使用する燃料の低位発熱量(Hl)を変数とした近似多項式によって得られた、理論空気量(Vai)、理論排ガス量(Vgg)、および、排ガス中水蒸気量(Gw)とを用いて、直接(式1)を算出してもよい。
【0033】
上記実施の形態においては、燃料の発熱量に基づく、より正確な空気比の算出は、空気比算出装置の記憶部に記憶されている算出用プログラムに基づいて行われる例について説明した。しかし、これに限らず、例えば、燃焼機器等の外部端末において、本実施の形態における算出用プログラムが記憶されていてもよく、本実施の形態における算出用プログラムと同様の算出方法によって算出された値を、燃焼機器等の制御装置に入力するようにすることで、炭化水素とは燃焼特性が異なる燃料を燃焼させたとしても、当該算出方法によって得られた、より正確な排ガスO2濃度、および、空気比(Rо)に基づいて、燃焼状態が制御されるようにしてもよい。
【0034】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。