IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アズビル株式会社の特許一覧

特開2024-107894微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム
<>
  • 特開-微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム 図1
  • 特開-微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム 図2
  • 特開-微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム 図3
  • 特開-微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム 図4
  • 特開-微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム 図5
  • 特開-微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム 図6
  • 特開-微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム 図7
  • 特開-微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107894
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3577 20140101AFI20240802BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240802BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/64 Z
G01N33/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012070
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 倫男
【テーマコード(参考)】
2G043
2G059
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA17
2G043CA03
2G043EA01
2G043EA13
2G043FA03
2G043KA02
2G043KA03
2G043NA01
2G059AA05
2G059BB05
2G059EE01
2G059EE07
2G059FF02
2G059FF04
2G059HH02
2G059HH03
2G059PP01
(57)【要約】
【課題】微生物汚染を早期に発見すること。
【解決手段】微生物汚染監視装置10は、測定部12aと演算部12bと記憶部13とを備える。測定部12aは、測定対象の吸光度を定期的に測定する。演算部12bは、測定部12aで測定した吸光度の変化割合を演算する。記憶部13は、測定部12aで測定された吸光度及び演算部12bで演算された変化割合を記憶する。また、演算部12bは、演算された変化割合と記憶部13に記憶される過去の変化割合とを比較して、演算された変化割合が記憶部13に記憶される過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の微生物の監視において、
測定対象の吸光度を定期的に測定する測定部と、
前記測定部で測定した吸光度の変化割合を演算する演算部と、
前記測定部で測定された吸光度及び前記演算部で演算された変化割合を記憶する記憶部と、
を有し、
前記演算部は、前記演算された変化割合と前記記憶部に記憶される過去の変化割合とを比較して、前記演算された変化割合が前記記憶部に記憶される過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定する
ことを特徴とする微生物汚染監視装置。
【請求項2】
前記測定部は、前記吸光度の代わりに前記測定対象の蛍光強度を測定し、
前記演算部は、前記測定部で測定した蛍光強度の変化割合を演算し、
前記記憶部は、前記測定部で測定された蛍光強度及び前記演算部で演算された変化割合を記憶する
ことを特徴とする請求項1に記載の微生物汚染監視装置。
【請求項3】
前記微生物汚染が広がる兆候の判定結果を外部に送信する送信部をさらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載の微生物汚染監視装置。
【請求項4】
前記測定部は、波長200nm以上400nm以下の波長に対する前記吸光度を測定する
ことを特徴とする請求項1に記載の微生物汚染監視装置。
【請求項5】
前記測定部は、励起波長200nm以上450nm以下及び蛍光波長350nm以上750nm以下の条件における前記蛍光強度を測定する
ことを特徴とする請求項2に記載の微生物汚染監視装置。
【請求項6】
微生物汚染監視装置で実行される水中の微生物の監視における微生物汚染監視方法であって、
測定対象の吸光度を定期的に測定する測定工程と、
前記測定工程で測定した吸光度の変化割合を演算する演算工程と、
前記測定工程で測定された吸光度及び前記演算工程で演算された変化割合を記憶する記憶工程と、
を含み、
前記演算工程は、前記演算された変化割合と前記記憶工程によって記憶される過去の変化割合とを比較して、前記演算された変化割合が前記記憶工程によって記憶される過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定する
ことを特徴とする微生物汚染監視方法。
【請求項7】
水中の微生物の監視において、
測定対象の吸光度を定期的に測定する測定手順と、
前記測定手順で測定した吸光度の変化割合を演算する演算手順と、
前記測定手順で測定された吸光度及び前記演算手順で演算された変化割合を記憶する記憶手順と、
をコンピュータに実行させ、
前記演算手順は、前記演算された変化割合と前記記憶手順によって記憶される過去の変化割合とを比較して、前記演算された変化割合が前記記憶手順によって記憶される過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定する
ことを特徴とする微生物汚染監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法、及び微生物汚染監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物衛生法では、加湿器、冷却水塔、冷却管等の空調設備に対し、微生物汚染除去の目的も含めて、1か月に1回以上の点検を義務付けている。そして、一般的に、空調設備には微生物汚染を監視する装置は取り付けられていないため、空調設備の点検は目視で行われる。
【0003】
また、従来技術により、微生物は水中の溶存有機物を栄養源として生育し、生育した微生物によりバイオフィルムが形成されることや、水の光の吸収及び蛍光は、水中の溶存有機物に応じて変化することが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】加藤善盛 白潟良一 地紙満 “紫外吸光度法による水質判定に関する研究”水質汚濁研究、1979年、第2巻、第1号、p.45-55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術では、微生物汚染を早期に発見することができない場合があるという課題があった。例えば、従来の空調設備に対する目視の点検では、微生物汚染が進みバイオフィルムが形成された後でなければ微生物汚染を発見することが難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の微生物汚染監視装置は、水中の微生物の監視において、測定対象の吸光度を定期的に測定する測定部と、測定部で測定した吸光度の変化割合を演算する演算部と、測定部で測定された吸光度及び演算部で演算された変化割合を記憶する記憶部とを有し、演算部は、演算された変化割合と記憶部に記憶される過去の変化割合とを比較して、演算された変化割合が記憶部に記憶される過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、微生物汚染を早期に発見することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る微生物汚染監視装置を含む微生物汚染監視方法の概要を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る微生物汚染監視装置の構成例を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る吸光度測定処理による加湿水の吸光スペクトルの具体例を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る吸光度測定処理による加湿水の吸光スペクトルと加湿水の微生物数との関係を示す図である。
図5図5は、実施形態に係る蛍光強度測定処理による加湿水の蛍光スペクトルの具体例を示す図である。
図6図6は、実施形態に係る蛍光強度測定処理による加湿水のある励起-蛍光波長における蛍光強度と加湿水の微生物数との関係を示す図である。
図7図7は、実施形態に係る処理手順を示すフローチャートである。
図8図8は、ハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願に係る微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法及び微生物汚染監視プログラムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本願に係る微生物汚染監視装置、微生物汚染監視方法及び微生物汚染監視プログラムが限定されるものではない。
【0010】
〔1.微生物汚染監視方法の概要〕
図1は、本実施形態に係る微生物汚染監視装置を含む微生物汚染監視方法の概要を示す図である。図1の例では、本実施形態に係る微生物汚染監視装置10を含む加湿器の構成例を示しており、微生物汚染監視装置10は、加湿器内の加湿水23の吸光度を測定し、微生物汚染の兆候を外部の受信部20に送信し、受信部20と接続される表示部21が当該微生物汚染の兆候に関する情報を表示する。
【0011】
また、加湿器は、加湿水23を散水ノズル24によって微細なミスト状に変化させ、ミスト状となった水の粒子を、送風ダクト22を通して送り込む風によって、加湿の対象となる室内へ送り込み、室内の湿度を上昇させることができる。
【0012】
微生物汚染監視装置10は、測定対象の吸光度を定期的に測定し、測定した吸光度の変化割合を演算する。そして、測定された吸光度及び演算された変化割合を記憶した後、演算された変化割合が記憶された過去の変化割合と比較して、演算された変化割合が記憶された過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定する。
【0013】
微生物汚染監視装置10は、まず、測定対象の吸光度を定期的に測定する。例えば、微生物汚染監視装置10は、測定対象である加湿水23の波長200nmにおける吸光度を1日に1回等の予め決められた周期で定期的に測定する。そして、微生物汚染監視装置10は、測定した吸光度の変化割合を演算する。例えば、微生物汚染監視装置10は、今回の測定した吸光度と前回に測定した吸光度との差を、今回の測定時の時間と前回の測定時の時間との差で割った値を、吸光度の変化割合として演算する。
【0014】
そして、微生物汚染監視装置10は、測定された吸光度及び演算された変化割合を記憶する。例えば、微生物汚染監視装置10は、測定された吸光度と演算された変化割合とを、測定に使用した波長や、加湿器の運転開始から測定時までの時間等とともに記憶する。
【0015】
その後、微生物汚染監視装置10は、演算された変化割合と記憶された過去の変化割合とを比較して、演算された変化割合が記憶された過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定する。例えば、微生物汚染監視装置10は、今回の測定値について演算された変化割合と、前回の測定値に対して演算された変化割合とを比較して、今回の測定値について演算された変化割合が、前回の測定値に対して演算された変化割合より小さい場合に、加湿水23について微生物汚染が広がる兆候と判定する。
【0016】
〔2.微生物汚染監視装置10の構成〕
次に、図2を参照し、図1に示した微生物汚染監視装置10の構成を説明する。図2は、実施形態に係る微生物汚染監視装置の構成例を示す図である。図2に示すように、実施形態に係る微生物汚染監視装置10は、通信部11と、制御部12と、記憶部13とを有する。
【0017】
通信部11は、例えば、NIC(Network Interface Card)等によって実現される。通信部11は、例えば、微生物汚染監視装置10の監視対象である空調設備の使用者や管理者が所有する、外部の受信部20と有線又は無線で接続され、情報の送受信を行う。
【0018】
記憶部13は、例えば、RAM(Random Access Memory)やハードディスク等の記憶装置によって実現され、制御部12による各種処理に必要なデータ及びプログラムを格納する。また、記憶部13は、測定部12aで測定された吸光度及び演算部12bで演算された変化割合を記憶する。
【0019】
例えば、記憶部13は、測定部12aによって測定された吸光度と演算部12bによって演算された変化割合とを、測定に使用した波長についての情報や、加湿器の運転開始から測定時までの時間等の情報とともに記憶する。
【0020】
また、記憶部13は、測定部12aで測定された蛍光強度及び演算部12bで演算された変化割合を記憶してもよい。
【0021】
例えば、記憶部13は、測定部12aによって測定された蛍光強度と演算部12bによって演算された変化割合とを、測定に使用した波長についての情報や、加湿器の運転開始から測定時までの時間等の情報とともに記憶する。
【0022】
制御部12は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等によって、微生物汚染監視装置10内部の記憶装置に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、制御部12は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路により実現される。制御部12は、測定部12aと、演算部12bとを有し、必要に応じて、送信部12cとを有してもよい。
【0023】
測定部12aは、測定対象の吸光度を定期的に測定する。そして、測定部12aは、測定した吸光度を記憶部13に格納する。例えば、測定部12aは、測定対象である加湿器内の加湿水について、任意の波長における吸光度を定期的に測定し、測定した吸光度を記憶部13に格納する。
【0024】
ここで、定期的にとは、監視対象の空調設備の使用者や管理者によって予め決められた周期で測定対象の吸光度を測定する測定周期を意味し、測定周期は、空調設備の種類や、測定対象の水質及び水の汚れ方の傾向等に基づき設定されるものとする。
【0025】
また、測定部12aは、吸光度の代わりに測定対象の蛍光強度を測定してもよい。例えば、測定部12aは、測定対象である加湿器内の加湿水について、任意の励起波長・蛍光波長における蛍光強度を測定し、測定した蛍光強度を記憶部13に格納する。
【0026】
さらに、測定部12aは、波長200nm以上400nm以下の波長に対する吸光度を測定してもよい。例えば、測定部12aは、測定対象の加湿器内の加湿水等について、波長200nm以上400nm以下の任意の波長についての吸光度を測定し、測定した吸光度を記憶部13に格納する。
【0027】
また、測定部12aは、励起波長200nm以上450nm以下及び蛍光波長350nm以上750nm以下の条件における蛍光強度を測定してもよい。例えば、測定部12aは、測定対象の加湿器内の加湿水等について、励起波長200nm以上450nm以下及び蛍光波長350nm以上750nm以下の条件における蛍光強度を測定し、測定した蛍光強度を記憶部13に格納する。
【0028】
演算部12bは、測定部12aで測定した吸光度の変化割合を演算する。例えば、演算部12bは、測定した吸光度や、測定時の運転時間等を下記(1)式に代入し、前回時の測定時の吸光度と今回の測定時の吸光度とから導き出される直線の傾きである、吸光度の変化割合を演算する。
【0029】
【数1】
【0030】
なお、上記(1)式における「t(n)」は、n回目の測定における測定対象の空調装置の運転時間であり、「A(n)」は、運転時間「t(n)」における吸光度であり、「a(n)」は、運転時間「t(n-1)からt(n)」の間の吸光度の変化割合(傾き)である。
【0031】
また、演算部12bは、演算された変化割合と記憶部13に記憶される過去の変化割合とを比較して、演算された変化割合が記憶部13に記憶される過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定する。
【0032】
例えば、演算部12bは、上記(1)式によって演算された今回の測定時「t(n-1)からt(n)」の吸光度の変化割合「a(n)」と、記憶部13に記憶されている前回の測定時「t(n-2)からt(n-1))」の吸光度の変化割合「a(n-1)」とを下記(2)式に代入し、下記(2)式が成り立つ場合に微生物汚染が広がる兆候と判定する。
【0033】
【数2】
【0034】
なお、上記(2)式における「y」は、予め設定された任意の値であり、測定対象の水質や水の汚れ方の傾向等から最適な値を検討し、それぞれの測定対象に応じて設定されるものとする。
【0035】
また、上記(1)式及び(2)式の判定式はあくまで例であり、測定対象の水質や水の汚れ方の傾向、測定機の性能や測定機の数値の算出方法等の違いにより、現場ごとに最適な判定式及び測定間隔を検討するものとする。また、検討するための情報は、装置の試運転をした際の情報を取得したり、予め測定対象の地域ごとの水質のデータを取得してもよい。
【0036】
さらに、演算部12bは、測定部12aで測定した蛍光強度の変化割合を演算してもよい。例えば、演算部12bは、測定した蛍光強度や、測定時の運転時間等を上記(1)式に代入し、前回時の測定時の蛍光強度と今回の測定時の蛍光強度とから導き出される直線の傾きである、蛍光強度の変化割合を演算する。なお、上記(1)式における「A(n)」は、運転時間「t(n)」における蛍光強度を示し、「a(n)」は、運転時間「t(n-1)からt(n)」の間の蛍光強度の変化割合(傾き)を示す。
【0037】
送信部12cは、微生物汚染が広がる兆候の判定結果を外部に送信する。例えば、送信部12cは、前述の演算部12bによる微生物汚染が広がる兆候の判定結果を、監視対象の空調設備の使用者や管理者が有する外部の受信部20に送信する。
【0038】
ここで、送信部12cの送信先は、例えば、監視対象の空調設備が設置されている住宅やビルの所有者または使用者であってもよいし、監視対象の空調設備の設備会社または管理会社であってもよい。また、送信部12cは、例えば、微生物汚染が広がる兆候の判定結果の他に、送信先に応じて、吸光度または蛍光強度の推移等の情報を送信してもよい。
【0039】
〔3.実施例〕
ここで、図3から図6を参照し、本実施形態における吸光度測定または蛍光強度測定により、微生物汚染が広がる兆候を検出するに至った実証試験の結果を示す。図3は、実施形態に係る吸光度測定処理による加湿水の吸光スペクトルの具体例を示す図である。図4は、実施形態に係る吸光度測定処理による加湿水の吸光スペクトルと加湿水の微生物数との関係を示す図である。図5は、実施形態に係る蛍光強度測定処理による加湿水の蛍光スペクトルの具体例を示す図である。図6は、実施形態に係る蛍光強度測定処理による加湿水のある励起-蛍光波長における蛍光強度と加湿水の微生物数との関係を示す図である。
【0040】
(3-1.実験方法)
実証試験では、水槽に貯めた水をポンプで水槽内に散水する方式の加湿器を用意し、定期的に加湿水を少量サンプリングし、それぞれ紫外可視分光光度計および蛍光分光光度計で吸光度及び蛍光強度を測定した。また、吸光度または蛍光強度の測定の際に、加湿水を少量サンプリングし、サンプリングした加湿水をフィルターろ過した後、フィルターをR2A寒天培地上25℃で培養して、生育したコロニー数を測定した。
【0041】
(3-2.実験結果)
まず、図3を参照し、測定された加湿水の吸光スペクトルの測定結果について説明する。図3のグラフでは、縦軸が吸光度(Abs.)、横軸が測定に使用した光の波長(nm)であり、それぞれの測定時期における各波長についての吸光度を曲線で表している。例えば、「Day17」(実線)の波長「200nm」における吸光度は「52」であり、同じく「Day17」での波長「210nm」における吸光度は「42」であることを示している。また、「Day17」についての吸光度は、波長の値が大きくなるにつれて吸光度が小さくなっていることを示している。
【0042】
図3の吸光スペクトルの結果により、測定されたそれぞれの時期についての吸光度のグラフは、波長が「200nm」の吸光度が最も高く、波長の値が大きくなるにつれて吸光度は小さくなる挙動を示している。このため、後述する図5による吸光度と微生物数との関係を示したグラフでは、波長「200nm」における吸光度を採用した。
【0043】
次に、図4を参照し、加湿水の吸光スペクトルと加湿水の微生物数との関係について説明する。図4は、測定された波長「200nm」における加湿水の吸光度と測定時期との関係を示すグラフ(鎖線)と、加湿水の微生物のコロニー数(cfu/ml)と測定時期との関係を示すグラフ(実線)を表している。
【0044】
ここで、一例として、「Day12」を基準として、前述した(1)式及び(2)式にそれぞれの吸光度の値を代入した際の演算結果について説明する。図4のグラフにおいて、「Day12」、「Day10」、「Day7」における吸光度の値は、それぞれ「20.7」、「21.2」、「10.9」となっている。そして、上記の吸光度の値を前述した(1)式にそれぞれ代入すると、「a(12)」についての変化割合の演算結果は、下記(3)式の通りになる。
【0045】
【数3】
【0046】
また、同様に「a(10)」についての変化割合の演算結果は、下記(4)式の通りとなる。
【0047】
【数4】
【0048】
その後、演算された「a(12)」についての変化割合と、「a(10)」についての変化割合とを前述した(2)式に代入すると下記(5)式の通りとなる。
【0049】
【数5】
【0050】
上記(5)式の演算結果から、「Day12」で演算した変化割合の方が前回の「Day10」で演算した変化割合よりも小さい結果となっていることがわかる。一方で、「Day10」-「Day12」の微生物のコロニー数の増加率は比較的高いものとなっている。
【0051】
また、「Day7」についても、吸光度の変化割合が減少する一方で、微生物のコロニー数の増加率は比較的高くなっている。したがって、図4のグラフにより、今回の測定時の吸光度の変化割合と過去の変化割合とを比較して、今回の測定時の吸光度の変化割合の方が小さいと判定した場合、微生物のコロニー数が急激に増加し、微生物汚染が広がる兆候があるといえる。
【0052】
次に、図5を参照し、測定された加湿水の蛍光スペクトルの測定結果について説明する。図5では、測定された、それぞれの時期における加湿水の、励起波長(縦軸)「200nm」~「450nm」、蛍光波長(横軸)「350nm」~「750nm」についての3次元蛍光スペクトルの解析画像を示している。例えば、「Day10」の励起波長「280nm」-蛍光波長「300nm」における蛍光強度は、白色に近い色が付されており、蛍光強度の測定値が高いことを示している。
【0053】
そして、図5に示した蛍光スペクトルの測定結果についてPARAFAC解析を行ったところ、第1主成分として励起波長「360nm」―蛍光波長「450nm」が計算されたため、後述する図6による蛍光強度と微生物数との関係を示したグラフでは、励起波長「360nm」―蛍光波長「450nm」における蛍光強度を採用した。
【0054】
なお、本実施例では、3次元蛍光スペクトルの測定結果についてPARAFAC解析を行い、計算された第1主成分の蛍光強度のピークを採用しているが、例えば、図5の3次元蛍光スペクトルの測定結果の画像から、ある特定の励起波長―蛍光波長についてのピークを目視で判断し、その励起波長―蛍光波長についての蛍光強度のピークを採用してもよい。
【0055】
次に、図6を参照し、測定された加湿水のある励起-蛍光波長における蛍光強度と加湿水の微生物数との関係について説明する。図6は、測定された、励起波長「360nm」―蛍光波長「450nm」における加湿水の蛍光強度と測定時期との関係を示すグラフ(点線)と、加湿水の微生物のコロニー数(cfu/ml)と測定時期との関係を示すグラフ(実線)を表している。
【0056】
ここで、図6のグラフについても、前述の(1)式及び(2)式に、吸光度の代わりに蛍光強度の測定値を代入することで、変化割合の演算と、演算した変化割合と記憶された変化割合との比較を行う。その結果、図4の吸光度のグラフと同様に「Day5」-「Day7」及び「Day10」-「Day12」において演算された蛍光強度の変化割合は減少する一方で、微生物のコロニー数の増加率は比較的高いものとなっている。
【0057】
したがって、図6のグラフにより、今回の測定時の蛍光強度の変化割合と過去の変化割合とを比較して、今回の測定時の蛍光強度の変化割合の方が小さいと判定した場合、微生物のコロニー数が急激に増加し、微生物汚染が広がる兆候があるといえる。
【0058】
〔4.微生物汚染監視装置による処理の一例〕
次に、図7を用いて、微生物汚染監視装置10よる処理について説明する。図7は、実施形態に係る処理手順を示すフローチャートである。
【0059】
微生物汚染監視装置10が、測定対象を検知した場合(ステップS101;Yes)、測定部12aは、測定対象の吸光度または蛍光強度を定期的に測定する(ステップS102)。一方、微生物汚染監視装置10が、測定対象を検知していない場合(ステップS101;No)、微生物汚染監視装置10は測定対象を検知するまで待機する。
【0060】
その後、演算部12bは、測定された吸光度または蛍光強度の変化割合を演算する(ステップS103)。そして、記憶部13は、測定された吸光度又は蛍光強度と演算された変化割合とを記憶する(ステップS104)。その後、演算した変化割合が記憶された過去の変化割合よりも小さいか否かを判定する(ステップS105)。
【0061】
演算した変化割合が記憶された過去の変化割合よりも小さい場合(ステップS105;Yes)、送信部12cは、微生物汚染が広がる兆候を外部に送信して(ステップS106)、工程を終了する。一方、演算した変化割合が記憶された過去の変化割合よりも大きい場合(ステップS105;No)、微生物汚染監視装置10は、ステップS102に戻り処理を継続する。
【0062】
〔5.実施形態の効果〕
前述してきたように、本実施形態に係る微生物汚染監視装置10は、水中の微生物の監視において、測定対象の吸光度を定期的に測定する測定部12aと、測定部12aで測定した吸光度の変化割合を演算する演算部12bと、測定部12aで測定された吸光度及び演算部12bで演算された変化割合を記憶する記憶部13とを有し、演算部12bは、演算された変化割合と記憶部13に記憶される過去の変化割合とを比較して、演算された変化割合が記憶部13に記憶される過去の変化割合より小さい場合には、微生物汚染が広がる兆候と判定する。
【0063】
これにより、微生物汚染監視装置10は、測定対象の吸光度を定期的に測定し、測定した吸光度の変化割合と記憶された過去の変化割合とを比較することで、微生物汚染を早期に発見することができるという効果を奏する。
【0064】
また、微生物汚染監視装置10の測定部12aは、吸光度の代わりに測定対象の蛍光強度を測定する。これにより、微生物汚染監視装置10は、測定対象の吸光度の他に蛍光強度を測定することによっても、微生物汚染が広がる兆候を判定することができるため、微生物汚染を早期に発見することができるという効果を奏する。
【0065】
さらに、微生物汚染監視装置10は微生物汚染が広がる兆候の判定結果を外部に送信する送信部12cをさらに備える。これにより、微生物汚染監視装置10は、微生物汚染が広がる兆候を、測定対象の空調設備の使用者や管理者に遠隔で知らせることができるという効果を奏する。
【0066】
また、微生物汚染監視装置10の測定部12aは、波長200nm以上400nm以下の光に対する吸光度を測定する。これにより、微生物汚染監視装置10は、測定対象について、波長200nm以上400nm以下に含まれない波長の光に対する吸光度を使用する場合よりも、微生物汚染が広がる兆候の判定を精度良く行うことができるという効果を奏する。
【0067】
さらに、微生物汚染監視装置10の測定部12aは、励起波長200nm以上450nm以下及び蛍光波長350nm以上750nm以下の条件における前記蛍光強度を測定する。これにより、微生物汚染監視装置10は、測定対象について、励起波長200nm以上450nm以下及び蛍光波長350nm以上750nm以下の条件に含まれない波長に対する蛍光強度を使用する場合よりも、微生物汚染が広がる兆候の判定を精度良く行うことができるという効果を奏する。
【0068】
[6.ハードウェア構成]
前述した、実施形態に係る微生物汚染監視装置10は、例えば、図8に示すような構成のコンピュータ1000によって実現される。図8は、ハードウェア構成の一例を示す図である。コンピュータ1000は、CPU1100、RAM1200、ROM1300、補助記憶装置1400、通信I/F(インタフェース)1500、入出力I/F(インタフェース)1600が、バス1800により接続された形態を有する。
【0069】
CPU1100は、ROM1300又は補助記憶装置1400に格納されたプログラムに基づいて動作し、各部の制御を行う。ROM1300は、コンピュータ1000の起動時にCPU1100によって実行されるブートプログラムや、コンピュータ1000のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。
【0070】
補助記憶装置1400は、CPU1100によって実行されるプログラム、および、係るプログラムによって使用されるデータ等を格納する。通信I/F1500は、所定の通信網を介して他の機器からデータを受信してCPU1100へ送り、CPU1100が生成したデータを所定の通信網を介して他の機器へ送信する。
【0071】
CPU1100は、入出力I/F1600を介して、ディスプレイやプリンタ等の出力装置、及び、キーボードやマウス等の入出力装置1700を制御する。CPU1100は、入出力I/F1600を介して、入出力装置1700からデータを取得する。また、CPU1100は、生成したデータについて入出力I/F1600を介して入出力装置1700へ出力する。
【0072】
例えば、コンピュータ1000が本実施形態に係る微生物汚染監視装置10として機能する場合、コンピュータ1000のCPU1100は、RAM1200上にロードされたプログラムを実行することにより、制御部12の機能を実現する。
【0073】
[7.その他]
前述の実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。例えば、各図に示した各種情報は、図示した情報に限られない。
【0074】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の通り構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0075】
前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述してきた実施形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0076】
また、前述してきた「部(section、module、unit)」は、「手段」や「回路」等に読み替えることができる。例えば、制御部は、制御手段や制御回路に読み替えることができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
10 微生物汚染監視装置
11 通信部
12 制御部
12a 測定部
12b 演算部
12c 送信部
13 記憶部
20 受信部
21 表示部
22 送風ダクト
23 加湿水
24 散水ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8