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  • 特開-樹脂コンクリートパネル構造体 図1
  • 特開-樹脂コンクリートパネル構造体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107899
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】樹脂コンクリートパネル構造体
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
E21D11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012076
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】593132814
【氏名又は名称】キザイテクト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511272990
【氏名又は名称】株式会社光計画設計事務所
(71)【出願人】
【識別番号】322000410
【氏名又は名称】合同会社アシストワーク
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉村 敏子
(72)【発明者】
【氏名】天井 真未
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155AA04
2D155KA00
2D155LA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】樹脂コンクリートパネルを用いた内面補強覆工において、H形鋼製支保工、補強鉄筋、及び補強鋼板を組み合わせて一体化した耐久性補強構造に拠らなくとも、十分な耐久性構造を得られる、溶接金網により補強された樹脂コンクリートパネル構造体を提供すること。
【解決手段】既設コンクリート構造物内面と樹脂コンクリートパネル背面を貼り合わせる内面補強工法に使用する樹脂コンクリートパネル構造体10であって、樹脂コンクリートパネル20と、樹脂コンクリートパネル20面に沿って配置された溶接金網30と、樹脂コンクリートパネル20と既設コンクリート構造物内面に注入する裏込めグラウト注入材40を備えることを特徴とする樹脂コンクリートパネル構造体10とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート構造物内面と樹脂コンクリートパネル背面を貼り合わせる内面補強工法に使用する樹脂コンクリートパネル構造体であって、
樹脂コンクリートパネルと、
前記樹脂コンクリートパネル面に沿って配置された溶接金網と、
前記樹脂コンクリートパネルと前記既設コンクリート構造物内面に注入する裏込めグラウド注入材を備えることを特徴とする樹脂コンクリートパネル構造体。
【請求項2】
前記溶接金網は、断面積φ3.12mm~φ3.28mmであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂コンクリートパネル構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルやボックス・カルバート等の既設コンクリート構造物内面の補強工法に使用する(溶接金網により補強された)樹脂コンクリートパネル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
経年劣化したトンネル等を補強や耐久性を向上させて延命措置を図る既設構造物が増加している。更に、既設構造物を取り壊すことなく改修できる方法が望まれている。その対策として、樹脂コンクリートパネルを用いた内面補強覆工が既設構造物を壊すことなく改修でき、従来の機能を損なわない方法として採用が増えている。樹脂コンクリートパネルは、圧縮強度は100N/mm以上と大きな値を持つが、引張強度が小さく、曲げ強度が30N/mm2程度と小さいため、補強構造としての構造計算をクリアーするためには、樹脂コンクリートパネル設置時に、H形鋼や鉄筋等を併用する必要があった。そのため、樹脂コンクリートパネルにH形鋼製支保工、補強鉄筋及び補強鋼板を組み合わせて一体化した補強構造が多く提案されている。
【0003】
しかしながら、H形鋼製支保工、補強鉄筋及び補強鋼板を組み合わせて一体化した補強構造にするには、樹脂コンクリートパネルの設置に先立ち、H形鋼製支保工など多数の資材を設置する必要があり、設置コスト面で問題があったし、H形鋼からなる固定鋼材がトンネルの内壁面から中心方向へ向かって出っ張ると、その分、トンネルの流路面積が縮小されてしまうという問題もあった。かかる状況から、H形鋼や鉄筋等を併用しなくても補強構造としての構造計算をクリアーする既設コンクリート構造物内面の補強工法が望まれていた。
【0004】
特許文献1には、「鉄筋や金網を必要とせず、修復工程と表面保護工程とを同時に行って工程の簡略化及び効率化を図ると共に、補修後における耐用年数の長期化を図ること。(特許文献1:要約)」を課題として、「コンクリート構造物の表面を被覆する第1板状体と、第1板状体のコンクリート構造物側の面に貼付された高強度繊維シートとを有する表面被覆型枠を用いたコンクリート構造物の補修方法であって、劣化したコンクリートを撤去する撤去工程と、撤去工程により露出した露出面と高強度繊維シートとが対向するように表面被覆型枠をコンクリート構造物に取り付ける第1取り付け工程と、露出面と表面被覆型枠との間に修復材を注入する注入工程とを含む構成を採る(特許文献1:要約)」コンクリート構造物の補修方法及び表面被覆型枠(特許文献1:発明の名称)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-220899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係るコンクリート構造物の補修方法及び表面被覆型枠(特許文献1:発明の名称)は、第1板状体のコンクリート構造物側の面に貼付された高強度繊維シートを有する表面被覆型枠を用いたコンクリート構造物の補修方法である。樹脂コンクリートパネルの背面に貼付ける高強度繊維シートとして、アラミド繊維シートが採用されている。樹脂コンクリートパネルの背面にアラミド繊維シートを張り付けると、材料費や貼り付け手間のコストが、樹脂コンクリートパネル材料を大きく上回ることになる。依って、鉄筋を配筋し強度アップを図ることになるが、既設覆工面とパネル背面の離隔を最小限に抑えたいため、鉄筋断面ギリギリの離隔しか取れないことになる。その為、裏込めグラウトモルタル注入時に、鉄筋断面とパネルや既設覆工面との離隔が殆ど無い。従って、グラウト材の流れを阻害することにより生じる注入効率不良等により、既設覆工面とパネル間の間隙を完全に充填することが出来ず、裏込めグラウト材の打ち込み不足が発生することになる。結果的に樹脂コンクリートパネルの背面充填不足により、既設覆工材との付着も阻害され構造体としての強度不足が懸念される。
【0007】
本発明の目的は、樹脂コンクリートパネルを用いた内面補強覆工において、H形鋼製支保工、補強鉄筋、及び補強鋼板を組み合わせて一体化した耐震補強構造に拠らなくとも、十分な補強構造を得られる、溶接金網により補強された樹脂コンクリートパネル構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、既設コンクリート構造物内面と樹脂コンクリートパネル背面を貼り合わせる内面補強工法に使用する樹脂コンクリートパネル構造体であって、
樹脂コンクリートパネルと、
前記樹脂コンクリートパネル面に沿って配置された溶接金網と、
前記樹脂コンクリートパネルと前記既設コンクリート構造物内面に注入する裏込めグラウト注入材を備えることを特徴とする樹脂コンクリートパネル構造体であることを特徴とするものである。尚、溶接金網とは普通鉄線(JIS-G-3532)を使用し、縦線と横線を直角に入れ、その交点を電気抵抗溶接して製造している金網のことを言う。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記溶接金網は、断面積φ3.12mm~φ3.28mmである樹脂コンクリートパネル構造体であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る(溶接金網により補強された)樹脂コンクリートパネル構造体は、既設コンクリート構造物内面と樹脂コンクリートパネル背面の隙間に溶接金網を設置するものである。樹脂コンクリートパネルと、樹脂コンクリートパネル面に沿って配置された溶接金網と、樹脂コンクリートパネルと既設コンクリート構造物内面に注入する裏込めグラウト注入材を備えている。
【0011】
本発明の(溶接金網により補強された)樹脂コンクリートパネル構造体は、背面に溶接金網(裏込めグラウト注入材にて樹脂コンクリートパネルと溶接金網が一体化されている)が設置されているために、曲げ強度が強化された構造体となる。本発明により、即ち、溶接金網により補強された樹脂コンクリートパネル構造体により、内面を補強された既存コンクリート構造物は、鉄筋やH形鋼製支保工等の構造材料を用いることなく、構造計算をクリアーできる補強構造が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】樹脂コンクリートパネル構造体を説明するための詳細図である。
図2】樹脂コンクリートパネル構造体による耐震補強工法が施工されたトンネルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る樹脂コンクリートパネル構造体10の一実施形態について、図1図2に基づいて詳細に説明する。図1は、樹脂コンクリートパネル構造体10を説明するための詳細図である。
【0014】
(溶接金網30により補強された)樹脂コンクリートパネル構造体10は、既設コンクリート構造物50(図2参照)内面と、樹脂コンクリートパネル20背面の隙間に溶接金網30を設置する内面補強工法で形成されるものである。樹脂コンクリートパネル構造体10は、樹脂コンクリートパネル20と、樹脂コンクリートパネル20(及び既設コンクリート構造物50)に沿って配置された溶接金網30と、樹脂コンクリートパネル20と既設コンクリート構造物50の隙間に注入する裏込めグラウト注入材40を備えている。
【0015】
<樹脂コンクリートパネル構造体による耐震補強工法>
図2は、本発明に係る(溶接金網30により補強された)樹脂コンクリートパネル構造体10の使用による補強工法により樹脂コンクリートパネル構造体10が設置されたトンネル(既設コンクリート構造物50)の断面図である。
【0016】
図2に記載したように、トンネル等の既設コンクリート構造物50内面は、平面部分11と曲面部分12を有している。即ち、既設コンクリート構造物50内面の場所毎に異なる曲率半径を有している。平面に施工する樹脂コンクリートパネル構造体10は平面状であり、曲面では樹脂コンクリートパネル構造体10は曲面状である。要するに、トンネル等の既設コンクリート構造物50の内面形状に沿った曲率を持つ樹脂コンクリートパネル20が用いられている。
【0017】
樹脂コンクリートパネル構造体10による耐震補強工法は、既設コンクリート構造物50内面(トンネル空間側)と、樹脂コンクリートパネル20背面の隙間に溶接金網30を設置し、その隙間に裏込めグラウト注入材40を注入する工法である。コンクリートアンカーが(既設トンネル等の)既設コンクリート構造物50の内面に予め削孔固定され、この固定されたアンカーを基準に樹脂コンクリートパネル20は配置され、各パネルはSUS皿ボルトによりアンカーと固定されている。アンカーとしては金属拡張式アンカーを用いて、既設コンクリート構造物50に打設されたアンカーに、樹脂コンクリートパネル20に設けた皿穴を通してSUS皿ボルトを締結して固定されている。
【0018】
溶接金網30は、鉄線を直交して配列し、それらの交点を電気抵抗溶接して、格子状にした金網のことを言う。溶接金網は、断面積φ3.12mm~φ3.28mmであり、亜鉛メッキ等の表面防錆処理がなされている。
【0019】
裏込めグラウト注入材40としては、セメントに微粒子混和材を加えた高強度微粒子グラウトモルタルが好ましく用いられる。微粒子グラウトモルタルは長距離圧送性に優れ、特殊添加剤によりブリーディング(コンクリート打設後、コンクリート表面に水が浮き上がる現象)が少なく、長期耐久性にも優れており、好ましく用いられる。
【0020】
<樹脂コンクリートパネル構造体の効果>
本発明の(溶接金網30により補強された)樹脂コンクリートパネル構造体10は、背面に溶接金網30(裏込めグラウト注入材40にて樹脂コンクリートパネル20と溶接金網30が一体化されている)が設置されているために、曲げ強度が強化された構造体となる。本発明により、即ち、溶接金網30により補強された樹脂コンクリートパネル構造体10により、内面を補強された既存コンクリート構造物50は、鉄筋やH形鋼製支保工等の構造材料を用いることなく、構造計算をクリアーできる耐久性補強構造が得られるようになった。
【0021】
従来のトンネルの内巻補強覆工は、トンネル覆工コンクリート内面に沿ってH形鋼製支保工を設置し、この支保工に覆工用樹脂コンクリートパネルを固定する工法であるが、H形鋼などの鋼材によりトンネルの有効径を損なう、即ち、H形鋼からなる固定鋼材がトンネルの内壁面から中心方向へ向かって出っ張ると、その分、トンネルの流路面積が縮小されてしまうという問題もあったが、本発明に係る樹脂コンクリートパネル構造体10は、H形鋼製支保工を設置することが無いのでトンネルの有効径を損なうことが無くなった。
【0022】
樹脂コンクリートパネル20の補強を目的として、樹脂コンクリートパネル20の背面に繊維素材を設置する場合、(繊維素材をパネル裏面に接着設置することに拠る)パネル材料費より高価となりコスト面で不経済である。その為鉄筋を配筋することにより補強構造とするが、既設覆工面及びパネル背面との離隔が殆どないため、裏込めグラウトモルタル(裏込めグラウド注入材40)の注入効率不良が発生し、パネル背面と既設覆工面との間隙が充填不足となる。その結果として強度不足を生じてしまう。
【0023】
ラス金網を設置した場合であっても、設置面が曲面形状のため金網を平滑に設置するためにアンカー固定を相当数打設する必要がある。一般的なアンカー固定数では裏込めグラウトモルタル(裏込めグラウド注入材40)の注入の応力により、金網の網目が乱れたりして裏込めグラウト注入材40が目詰まりを発生し、注入不足により構造強度が低下する。本発明に係る樹脂コンクリートパネル構造体10に使用する溶接金網30であれば、平滑性が高い為アンカー数も所定量で良く裏込めグラウト注入材40の注入効率を妨げないし、裏込めグラウド注入材40の注入時に網目の乱れが無く、注入充填性が高く構造強度を維持することができる。
【0024】
<樹脂コンクリートパネル構造体の変更例>
本発明に係る溶接金網により補強された樹脂コンクリートパネル構造体は、上記した各実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、樹脂コンクリートパネル、溶接金網、裏込めグラウト注入材、既設コンクリート構造物等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係る樹脂コンクリートパネル構造体は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、樹脂コンクリートパネルを用いた内面補強覆工において、H形鋼製支保工、補強鉄筋、及び補強鋼板を組み合わせて一体化した耐久性補強構造に拠らなくとも、十分な耐久性構造を得られる樹脂コンクリートパネル構造体として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
10・・樹脂コンクリートパネル構造物
11・・平面部分
12・・曲面部分
20・・樹脂コンクリートパネル
30・・溶接金網
40・・裏込めグラウト注入材
50・・既設コンクリート構造物
図1
図2