(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107912
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】自動分析方法及び自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/76 20060101AFI20240802BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20240802BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240802BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20240802BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G01N21/76
G01N35/08 A
G01N1/10 C
G01N1/00 101G
G01N33/543 541A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012098
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】田渕 達也
【テーマコード(参考)】
2G052
2G054
2G058
【Fターム(参考)】
2G052AA30
2G052AA32
2G052AD06
2G052AD29
2G052CA04
2G052CA19
2G052FC05
2G052FC07
2G052FC11
2G052GA21
2G052HC09
2G052HC22
2G054AA01
2G054AA07
2G054AB02
2G054AB05
2G054BA03
2G054BB20
2G054CA21
2G054CE02
2G054EA01
2G054EB12
2G054FA08
2G054FA25
2G054FA37
2G054FB07
2G054FB08
2G054GB10
2G054GE05
2G054JA01
2G054JA11
2G058BB02
2G058BB10
2G058CC05
2G058DA09
2G058EA14
2G058GA12
(57)【要約】
【課題】測定対象物及び標識物質と複合体を形成する磁性の固相担体を電極部上に均一な状態で捕捉して、測定精度を高めることができる自動分析方法及び自動分析装置を提供する。
【解決手段】本発明の自動分析方法は、導入管99により測定部60の流路60a内に反応液を導入する反応液導入ステップと、導入管99が空中の空気を吸引して流路60a内に供給することにより、反応液が導入された流路60a内の液流中に気泡を導入する気泡導入ステップとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する固相担体を含む試薬と、測定対象物を含む検体及び標識物質を含む試薬とを混合した反応液を測定部の流路に送液し、前記固相担体に前記測定対象物及び前記標識物質が結合した複合体を前記測定部内の電極部に磁気的に捕捉して電気化学発光法により測定することによって、所定の検査項目に関して測定情報を得る自動分析方法であって、
導入管により前記流路内に前記反応液を導入する反応液導入ステップと、
前記導入管が空中の空気を吸引して前記流路内に供給することにより、前記反応液が導入された前記流路内の液流中に気泡を導入する気泡導入ステップと、
を含むことを特徴とする自動分析方法。
【請求項2】
前記気泡導入ステップは、前記電極部に前記複合体が捕捉された後、前記電気化学発光の前に、前記気泡を前記流路内に導入することを特徴とする請求項1に記載の自動分析方法。
【請求項3】
前記気泡導入ステップは、前記流路内に導入された気泡を前記複合体と接触するように前記電極部上にわたって通過させることにより、前記複合体が均一な状態で前記電極部上に捕捉されるようにすることを特徴とする請求項2に記載の自動分析方法。
【請求項4】
磁性を有する固相担体を含む試薬と、測定対象物を含む検体及び標識物質を含む試薬とを混合した反応液を測定部の流路に送液し、前記固相担体に前記測定対象物及び前記標識物質が結合した複合体を前記測定部内の電極部に磁気的に捕捉して電気化学発光法により測定することによって、所定の検査項目に関して測定情報を得る自動分析装置であって、
前記流路内に前記反応液を導入する導入管と、
前記導入管の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記導入管が空中の空気を吸引して前記流路内に供給することにより、前記反応液が導入された前記流路内の液流中に気泡が導入されるように、前記導入管の動作を制御することを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電極部に前記複合体が捕捉された後、前記電気化学発光の前に、前記気泡が前記流路内に導入されるように、前記導入管及び前記電極部の動作を制御することを特徴とする請求項4に記載の自動分析装置。
【請求項6】
前記測定部は、前記流路内に導入された前記気泡が前記電極部上にわたって通過する際に前記電極部に捕捉された前記複合体と接触するように構成されることを特徴とする請求項5に記載の自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿などのサンプル(検体)を種々の試薬と反応させてその反応過程、反応経過、反応結果等を測定することにより様々な検査項目に関して測定情報を得ることができる自動分析方法及び自動分析装置に関し、特に、電気化学発光法による測定の精度向上に寄与し得る自動分析方法及び自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固分析装置や、免疫測定法を用いた分析装置など、血液や尿などの生体サンプルを種々の試薬と反応させてその反応過程や反応結果を測定することにより様々な検査項目に関して測定情報を得ることができる自動分析装置は、従来から様々な形態のものが知られている。例えば、そのような自動分析装置は、サンプルとしての検体を検体容器から反応容器に分注し、その分注した検体に検査項目に応じた試薬を分注混合させて各種の測定及び分析を行なう。具体的には、例えば、臨床検査用の自動分析装置では、試料と試薬とを一定量分注して反応させた後、この反応液の一定時間内又は一定時間後の発光量や吸光度を測定し、測定結果(測光結果)に基づき測定対象物質の濃度や活性値等の検査値を求める。
【0003】
反応液(測定対象物を含む)の発光量の測定に関しては、電気化学発光法による測定が知られている。この方法では、まず最初に、磁性粒子(磁性を有する固相担体)を含む試薬と検体、標識物質含む試薬とを混合した反応液(したがって、測定対象物と固相担体、標識物質とを結合させてできた複合体を含む液体)を、測定部を構成するフローセルの流路に流し込んで、磁場により流路の一部に複合体を捕捉する。この場合、磁場は、フローセルの流路を挟んで対向する作用電極と対向電極とから成る電極部の部位で、流路の外壁に磁石を接触させることにより発生される。そして、この磁石による磁気的な吸引により、測定対象物を捉えた磁性粒子のみが電極部に吸着捕捉されて残る。その後、この捕捉状態で例えば磁石を離脱させることにより磁場を除去した後、電極部に電圧を印加することで、標識物質の電気化学発光が発生することにより、光子の数を計測するなどして、測定対象物(測定対象成分)を定性的又は定量的に測定する。
【0004】
ところで、このような電気化学発光による測定では、電極部に捕捉される磁性粒子を均一な状態にすることにより測定精度が向上することが知られている。そのため、従来から、フローセルの流路内での送液方法に工夫がなされてきた(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。また、このような測定では、フローセルの流路中に存在する気泡が、測定値に影響を与える要因として、排除されるべきものであった(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-300752号公報
【特許文献2】特開2016-156673号公報
【特許文献3】特開2010-256050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のどのような方法でも、磁性粒子を電極部上に均一な状態で捕捉することは難しかった。これは、磁石をあらかじめ電極部下に待機させ、磁石により磁性粒子を捕捉するため、送液方法をどのように工夫しても、電極と液が早い段階で接触する位置、つまり液の流れ方向に対して上流側に磁性粒子が多く集まるとともに、磁力線により磁性粒子が上下に積み重なった不均一な積層状態で電極部上に捕捉されるからである。このような状態では、電気化学発光時に下層の発光が上層の発光によって妨げられて精度良い測定値が得られなくなる。したがって、測定精度の更なる向上のための新たな手法が求められている。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、測定対象物及び標識物質と複合体を形成する磁性の固相担体を電極部上に均一な状態で捕捉して、測定精度を高めることができる自動分析方法及び自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明は、磁性を有する固相担体を含む試薬と、測定対象物を含む検体及び標識物質を含む試薬とを混合した反応液を測定部の流路に送液し、前記固相担体に前記測定対象物及び前記標識物質が結合した複合体を前記測定部内の電極部に磁気的に捕捉して電気化学発光法により測定することによって、所定の検査項目に関して測定情報を得る自動分析方法であって、導入管により前記流路内に前記反応液を導入する反応液導入ステップと、前記導入管が空中の空気を吸引して前記流路内に供給することにより、前記反応液が導入された前記流路内の液流中に気泡を導入する気泡導入ステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
上記構成の自動分析方法によれば、導入管が空中の空気を吸引して流路内に供給することにより、反応液が導入された流路内の液流中に気泡(或いは気体層)を導入するようにしているため、流路内で気泡を断面が真円に近い安定した均一な状態で流通させることができるようになり、また、この均一状態の気泡を、電極部に捕捉された複合体を均一化させる(電極部に捕捉された複合体を電極部上に均一な状態で分布させる)ことに利用することもできるようになる。
【0010】
すなわち、本発明は、従来において流路内から排除されるべき存在であった気泡を逆手に取り、流路内にわざわざ気泡を形成してこの気泡を電極部上における複合体の均一化に利用できるようにしている。この場合、流路に設けられる弁の切り換えによって空気(外気)を流路に導入して流路内に気泡を形成すると、気泡自体がばらつき、安定した均一な気泡が得られない(したがって、気泡により複合体の均一化を実現できない)ことが本発明者らの実験により明らかになっている。本発明者らは、この問題も踏まえ、鋭意工夫を重ねて様々な試験を積み重ねることにより、流路に反応液を導入する導入管自体が空中の空気を吸引して流路内に空気を供給し、反応液が導入された流路内の液流中に(具体的には、後述するように反応液が導入されて電極部上に捕捉された後に流路内の液流中に)気泡を導入することで、安定した均一な気泡を流路内に形成でき、その気泡が電極部における複合体の均一な捕捉に寄与し得ることを突き止めた。
【0011】
また、このような気泡を電極部における複合体の均一化(均一な分布)に寄与させるためには、電極部に複合体が捕捉された後、電気化学発光の前に、気泡を流路内に導入する必要があり、また、流路内に導入された気泡を複合体と接触するように電極部上にわたって通過させることが重要となる。電極部上の複合体と接触する液体中のこのような安定した均一な気泡は、表面張力に起因して、すなわち、液体と気体(気泡)との境界において液体分子同士が分子間力により引き付けあって液体が表面をできるだけ小さくしようとする性質に起因して、電極部通過時に、液体の壁を電極部上の複合体に押し付けてそれを寝かすように作用し、複合体を平滑化して広げる。それにより、電極部上では、流れの上流側から下流側に至るまで全体にわたって複合体が均一に捕捉された状態となる。そのため、複合体が上下に積み重なった不均一な積層状態で電極部上に捕捉されることにより電気化学発光時に下層の発光が上層の発光によって妨げられて精度良い測定値が得られなくなるといった従来の問題を解消できる。
【0012】
なお、上記構成において、「測定対象物」とは、測定部で測定されるべき物質のことであり、検体それ自体又は検体を含む物質を指す。また、上記構成において、「磁性を有する固相担体」としては、磁性粒子を挙げることができる。また、本明細書において、「複合体」とは、測定対象物を測定するために必要となる固相担体、標識物質と測定対象物が結合した物質を指す。固相担体、標識物質、測定対象物の結合はそれぞれ直接、間接を問わず、その結合方法としては、物理吸着、化学結合を用いる方法、抗原抗体反応を用いる方法、ビオチン・アビジン法等の方法を挙げることができる。
【0013】
また、本発明は、前述した自動分析方法と同様の特徴を有して同様の作用効果を奏する自動分析装置も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の自動分析方法及び自動分析装置によれば、導入管が空中の空気を吸引して流路内に供給することにより、反応液が導入された流路内の液流中に気泡(或いは気体層)を導入するようにしているため、弁切り換えなどの複雑な機構を必要とすることなく、簡単な構成で、磁性の固相担体に測定対象物及び標識物質が結合されて成る複合体を電極部上に均一な状態で捕捉して、測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動分析装置の要部構成の概略図である。
【
図2】
図1の自動分析装置の結合トラフに導入ノズルが接続された状態を示す断面図である。
【
図3】(a)は、
図1の自動分析装置の結合トラフから導入ノズルが抜き取られた状態を示す断面図、(b)は、抜き取られた導入ノズルの拡大図である。
【
図4】
図1の自動分析装置の測定部の流路内における気泡のサイズを示すための模式的な断面図である。
【
図5】
図1の自動分析装置における測定段階での電極部への磁性粒子及び気泡(均し泡)の一連の流れを示す図である。
【
図6】気泡による電極部での磁性粒子(複合体)の均一化を説明するための概略図である。
【
図7】(a)は、電磁弁切り換えによる気泡(均し泡)の作成タイミングを示す図、(b)は、本発明に係る気泡(均し泡)の作成タイミングを示す図である。
【
図8】(a)は、電磁弁切り換えによって気泡(均し泡)を作成した場合のカウントデータ、(b)は、本発明にしたがって気泡(均し泡)を作成した場合のカウントデータである。
【
図9】気泡サイズを変えて本発明にしたがって気泡(均し泡)を作成した場合のそれぞれのカウントデータである。
【
図10】流速を変えて本発明にしたがって気泡(均し泡)を作成した場合のそれぞれのカウントデータである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1に示される本実施形態の自動分析装置1は、その全体を図示しないが、例えば、血液や尿などの人から採取した検体が分注された反応容器を保持する反応部と、試薬容器内の試薬を反応容器に供給する試薬供給部とを備える。そして、この自動分析装置は、試薬供給部から反応容器に供給される試薬を検体と反応させて反応過程を測定する(試薬と検体とを混合して反応させた反応液を測定する)ことにより所定の検査項目に関して測定情報を得る。具体的には、本実施形態の自動分析装置は、一例として、反応液から得られる測定対象物の一定時間後の発光量を測定し、測光結果に基づき測定対象物質の濃度や活性値等の検査値を求める。
【0017】
測定対象物の発光量の測定に関しては、電気化学発光法を用いる。この方法では、磁性を有する固相担体(本実施形態では磁性粒子)を含む試薬と検体及び標識物質を含む試薬とを混合した反応液(したがって、標識物質と測定対象物及び固相担体を含む複合体を含有する液体)を、測定部を構成するフローセルの流路に流し込む。その後、磁場により流路の一部に複合体を捕捉する。この場合、磁場は、フローセルの流路を挟んで対向する作用電極と対向電極とから成る電極部の部位で、流路の外壁に磁石を接触させることにより発生される。そして、この磁石による磁気的な吸引力により、測定対象物を捉えた磁性粒子が電極部に捕捉されて残る。その後、この捕捉状態で例えば磁石を離脱させることにより磁場を除去した後、電極部に電圧を印加して標識物質の電気化学発光が発生する(磁性粒子及び測定対象物と複合体を形成する標識物質が発光する)ことにより、光子の数を計測して、測定対象物(測定対象成分)を定性的又は定量的に測定する。
【0018】
次に、このような電気化学発光法を用いた測定を実現し得る本実施形態の自動分析装置の構成について
図1を参照して簡単に説明する。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態に係る自動分析装置1は、測定に必要な液体をヒータ24により所望の温度に加温するための加温部50と、加温部50で加温された測定に必要な液体に前述した反応液を注入して測定対象物を含んだ液体とする導入管としての導入ノズル99と、測定対象物を含んだ液体から、磁性粒子に測定対象物及び標識物質が結合されて成る複合体を、電極部70により磁気的に捕捉して、複合体に対して電気化学発光法を用いた測定を行なう測定部60とを備える。測定部60は、フローセルを構成するとともに図示しないヒータによって一定の温度に保たれるようになっており、測定対象物の所定の分析項目に関する測定情報を得る。
【0020】
ここで、「測定対象物を含んだ液体」とは、例えば、試料(検体)と試薬(校正液)等との混合物(反応液)など、検体を所定の分析項目に関して測定するために必要な状態で測定部60に供給されるべき物性形態のもの全てを指す。また、「測定対象物」とは、測定部60で測定されるべき物質のことであり、検体それ自体又は検体を含む物質を指す。また、本実施形態では、測定に必要な液体(検体を含まない)として、導入ノズル99を洗浄するとともに測定に不要な物質や測定後の物質を洗い流す洗浄液(CC液)と、電気化学発光法による測定で用いられる発光電解液(EB液)とが使用され、したがって、本実施形態の自動分析装置1は、CC液を供給するための液体供給部20と、EB液を供給するための液体供給部22とを有する。
【0021】
本実施形態において、加温部50は、測定に必要な液体が流通する蛇管35を備える温調ブロックから成り、蛇管35をヒータ24により加熱することによって蛇管35内の測定に必要な液体を加温するようになっている。また、この加温部50の蛇管35には供給流路26,27を介して液体供給部20,22が接続されている。
【0022】
また、加温部50と導入ノズル99との間には、4方電磁弁33を伴う結合トラフ34が介挿されている。この場合、4方電磁弁33は、外気に連通するエア取り込み管(図示せず)が接続する第1のポート33aと、蛇管35を経由してCC液用の液体供給部20に連通する連通管31が接続する第2のポート33bと、蛇管35を経由してEB液用の液体供給部22に連通する連通管32が接続する第3のポート33cとを有する。
【0023】
導入ノズル99は、測定対象物を含む反応液の設置箇所に移動して反応液を吸引するとき及び後述する空中での空気を吸引するとき(反応液の吸引及び空気の吸引は別個に又は同時に連続して行なわれても構わない)以外は、
図2に示されるように結合トラフ34に接合しており、導入ノズル99が結合トラフ34に接合(接続)されることにより、加温部50からの測定に必要な液体と導入ノズル99により導入される反応液(測定対象物を含んだ液体)とを接続流路40を介して測定部60の流路60aへ流し込む流通路が形成される(後述するが、導入ノズル99が結合トラフ34から抜き取られた状態が
図3に示される)。そして、反応液(したがって、測定対象物)を吸引した導入ノズル99が結合トラフ34に接合した後に、「測定に必要な液体」が導入ノズル99内を移動することにより反応液と混合して「測定対象物を含んだ液体」となる。
【0024】
また、本実施形態において、フローセルを構成する測定部60は、金属ボックスの周囲を断熱材で保護して構成され、測定対象物を含んだ液体が流通される流路60aと、磁性粒子に測定対象物及び標識物質が結合されて成る複合体を磁気的に捕捉する電極部70とを有する。電極部70は、流路60aを挟んで対向する作用電極71と対向電極72とから成るとともに、作用電極71の側で流路60aの外壁に近接(又は接触)されることにより磁場を発生する磁石73を有する。この磁石73による磁気的な吸引力により、測定対象物を含む磁性粒子(すなわち、複合体)が作用電極71に捕捉されて残る。その後、この捕捉状態で例えば磁石73を離脱させることにより磁場を除去した後、電極部70に電圧を印加して複合体を形成する標識物質の電気化学発光を発生させる(磁性粒子及び測定対象物と複合体を形成する標識物質が発光する)ことにより、光子の数を計測して、測定対象物(測定対象成分)を定性的又は定量的に測定する。
【0025】
なお、測定部60には、測定対象物を含んだ液体の温度を検出する温度センサ75が設けられる。また、測定部60から延びる流路の下流側には、液体供給部20,22から測定に必要な液体を加温部50を通じて測定部60に供給するべく駆動するポンプ(例えばペリスタポンプ)49が介挿されており、その下流側端部には、測定済みの測定対象物を含んだ液体等を廃液として回収するタンク70が設けられている。
【0026】
そして、本実施形態の自動分析装置1は、磁性粒子(複合体)を作用電極71上に均一な状態で捕捉して測定精度の更なる向上を図るための新たな送液手法を実現するべく導入ノズル99、電極部70及びポンプ49の動作を制御する制御部10を備える。具体的に、制御部10は、本実施形態において、導入ノズル99が空中の空気を吸引して流路40,60a内に供給することにより、反応液が導入された流路60a内の液流中に気泡が導入されるように、導入ノズル99の動作を制御するようになっている。この場合、制御部10は、電極部70に複合体が捕捉された後、電気化学発光の前に、気泡が流路60a内に導入されるように、導入ノズル99、電極部70、及び、ポンプ49の動作を制御する。
【0027】
より具体的には、電気化学発光法を用いた測定部60による測定では、導入ノズル99が結合トラフ34に接続されて4方電磁弁33の第3のポート33cが開かれた状態でポンプ49が駆動され、
図5の(a)に示されるように液体供給部22からEB液(電解液)が流路40,60aへと供給される。続いて、EB液供給中の所定の段階で、制御部10による制御の下、
図3に示されるように、導入ノズル99が結合トラフ34から離脱され、その後、導入ノズル99は、測定対象物を含む反応液(より具体的には、測定対象物を架橋として磁性粒子と標識物質とで形成される複合体を含む液体)の図示しない設置箇所に移動して反応液を吸引し、再び結合トラフ34に接続することにより、流路40,60a内に反応液を導入する(反応液導入ステップ)。その後、EB液供給中の所定の段階で、制御部10による制御の下、導入ノズル99は、結合トラフ34から再び離脱し、空中の空気を吸引して流路40,60a内に供給することにより、反応液が導入された流路40,60a内の液流中に気泡を導入する(気泡導入ステップ)。
【0028】
特に、本実施形態では、
図3に示されるように、反応液導入ステップの段階で同時に気泡導入ステップを行なうようになっている。すなわち、
図5の(a)に示されるEB液供給中の所定の段階で、制御部10による制御の下、
図3に示されるように、導入ノズル99が結合トラフ34から離脱され、その後、導入ノズル99は、前述したように反応液を吸引した後、そのまま引き続いて、空気中で空気を吸引する。このとき、導入ノズル99は、
図3の(b)に示されるように、反応液R(磁性粒子100)に隣接して空気層A(液中で気泡102を形成する空気層)が存在する吸引状態となる。この吸引状態で、導入ノズル99が結合トラフ34に接続されることにより、
図5の(b)に示されるように、反応液R(したがって、磁性粒子100)の直後に追随して気泡102(以下、電極部70に捕捉された複合体(磁性粒子100)を平滑状態に均す役目を果たすことから、「均し泡」と称する)が流路40,60a内で流れるようになる。空中でこのようにして吸引された空気により形成される均し泡102は、断面が真円に近い安定した均一な状態で流路40,60a内を流通することになる。
【0029】
また、このとき、
図6の(a)に示されるように、測定部60の流路60aを挟んで対向する作用電極71と対向電極72とから成る電極部70の部位では、流路60aの外壁に磁石73を接触させることにより磁場Mが発生されているため、電極部70を流れる反応液R中の磁性粒子100(正確には、前述したように、測定対象物を架橋として磁性粒子と標識物質とで形成される複合体)が磁石73により作用電極71上に磁気的な吸引力によって捕捉される(
図6には、図示を簡単にするため、電極71,72が描かれていない)。
【0030】
また、この捕捉状態では、その直後に追随して流れてくる均し泡102が磁性粒子100(複合体)と接触しながら作用電極71上を通過する(
図6の(b)参照)。作用電極71上の磁性粒子100と接触する液体中のこのような安定した均一な均し泡102は、表面張力に起因して、すなわち、液体と気体(均し泡102)との境界において液体分子同士が分子間力により引き付けあって液体が表面をできるだけ小さくしようとする性質に起因して、電極部70の通過時に、液体の壁を作用電極72上の磁性粒子100に押し付けてそれを寝かすように作用し、磁性粒子100を平滑化して広げる。それにより、作用電極71上では、流れの上流側から下流側に至るまで全体にわたって磁性粒子100が均一に捕捉された状態となる。均し泡102が電極部70を完全に通過し終わった状態が
図5の(c)に、そのように通過して磁性粒子100が均一に平滑化にされた状態が
図6の(c)にそれぞれ示される。
【0031】
このように、流路60a内に導入された均し泡102を磁性粒子100が捕捉された作用電極71上にわたって通過させると、均し泡102が磁性粒子(複合体)100と接触して、磁性粒子100が作用電極71上にわたって均一な状態で分布されるようになる。言い換えると、本実施形態の自動分析装置1は、流路60a内に導入された均し泡102が作用電極71を横切って通過する際に作用電極71上に捕捉された磁性粒子と接触してこれを均一に均すように、均し泡102を形成する導入ノズル99の内径、均し泡102の外径、流路40,60aの内径、電極部70及び磁石73の形態などが設定(構成)されている。一例として、本実施形態の自動分析装置1において、作用電極71上の流路60aの高さは0.5mmに設定され、作用電極71上の流路60aを覆うべき均し泡102の最小直径r(
図4参照)は7.5mmに設定され、均し泡102の体積は20μL~80μLに設定されている。流路の大きさに合わせて均し泡の大きさを変えることが好ましい。
【0032】
前述した
図5の(c)及び
図6の(c)に示されるように、均し泡102が電極部70を完全に通過した後、磁性粒子100が作用電極71上に捕捉された状態で、今度は、例えば磁石73を離脱させることにより磁場を除去して、4方電磁弁33の第3のポート33cを閉じ、流路40,60a中におけるEB液の流れを停止させる。その後、続いて、電極部70に電圧を印加し、捕捉された磁性粒子100に結合する標識物質の電気化学発光を発光させる(磁性粒子100及び測定対象物と複合体を形成する標識物質が発光する)ことにより、光子の数を計測するなどして、測定対象物を定性的又は定量的に測定する。
【0033】
このような電気化学発光法を用いた測定が終了したら、今度は、4方電磁弁33の第2のポート33bを開き、
図5の(d)に示されるように、液体供給部20からCC液を流路40,60a内へと供給する。そのようなCC液は、導入ノズル99を洗浄するとともに、作用電極71上の磁性粒子100を洗い流し、電極部70を洗浄する。このとき、先行するEB液とその後に供給されるCC液とを分離するために、CC液の供給前に4方電磁弁33の第1のポート33aを開いて、EE液とCC液との間にEB・CC切替泡を形成してもよい。或いは、CC液供給中に4方電磁弁33の第1のポート33aを断続的に開閉して、CC液と共に細かい泡(CC洗浄泡)を流してもよい。
【0034】
以上のようなCC液による洗浄が完了したら、再び、4方電磁弁33の第3のポート33cが開かれて、次の測定のために流路40,60a内がEB液に置換される。
【0035】
以上のように空中で均し泡102を作成するタイミングを含めて一連の各種液体の経時的な流れを直線的に連続して表わしたものが
図7の(b)に示される。また、これと対比して、
図7の(a)には、4方電磁弁33の切り換えのみによって流路40,60a中に均し泡102’を作成する一連の対応する経時的な流れが示されている。電磁弁33の切り換えのみにより流路40,60a中に導入される均し泡102’は、断面形状が真円から大きく歪む(崩れる)とともに、導入ノズル99により先行して流路40,60aに導入された磁性粒子100の直後にうまく追随できず、ばらばらの不安定の状態で磁性粒子100を通り過ぎて、磁性粒子100をうまく平滑化して均一な状態にすることができない。
【0036】
4方電磁弁33の切り換えのみによって流路40,60a中に均し泡102’を作成した際に得られる測定データ(以下、比較例に係るデータと称する)が
図8の(a)に、導入ノズル99が空気中から直接に空気を吸入して均し泡102を流路40,60a中に導入する本発明に係る前述した手法によって得られる測定データ(以下、本発明に係るデータと称する)が
図8の(b)に示されている(
図8では、便宜上、一点鎖線によって
図8の(a)と
図8の(b)とを区分けしている)。
【0037】
ここで、
図8の(a)(b)の上側のデータは、電極部70に電圧を印加して磁性粒子及び測定対象物と複合体を形成する標識物質が発光した際の光子の数を計測する測定(テスト)を所定回数(
図8の(a)の場合は100回、
図8の(b)の場合は192回)行なって得たカウントデータであり、全測定回数にわたる光子数の平均(カウント平均;mean)を0%として各測定の光子数の%(カウント変動率)をドットでプロットしたものである。これにより、各測定値の平均値からのばらつきが分かる。これらのデータが示すように、比較例に係るデータでは、100回の各測定値がカウント平均から大きくばらついており、特に、±6%以内の許容範囲から大きく逸脱する測定値(飛び値)が3つもあった。これに対し、本発明に係るデータでは、192回の測定値の殆どがカウント平均近くでまとまっており、全てが±6%以内の許容範囲内に収まった。結果的に、±6%を超える飛び値の発生率が3%(比較例)から0%(本発明)に減少し、均し泡の崩れが11%(比較例)から0%(本発明)に減少した。
【0038】
また、
図8の(a)(b)の左下のデータは、標識物質の電気化学発光を発生させるべく電極部70の電極71,72間に印加した電圧(mV)を縦軸に、時間(ms)を横軸にとった電圧波形データである。ここでは、マイナス電流を流しているため、電圧はマイナスにふれている。電極部70上に均し泡102,102’がなければ、インピーダンスが低いため、電圧の絶対値は低いが、電極部70上を均し泡が通過すると、インピーダンスが高くなるため、電圧の絶対値が高くなる。結果として、経時的な電圧波形は、下側に凹む形状となる。これらのデータが示すように、比較例に係るデータでは、均し泡102’の断面形状が真円から大きく歪んでいるため、電圧波形の凹み形状が100回の全てにおいてばらばらであり、円が内接するような凹み形状を成す一定の経路をどれも辿らない。これに対し、本発明に係るデータでは、均し泡102の断面形状がほぼ真円となるため、電圧波形の凹み形状が192回の全てにおいてほぼ安定して均一(ほぼ同じ)であり、円が内接するような凹み形状を成す一定の経路を辿る。
【0039】
また、
図8の(a)(b)の右下のデータは、前述したカウント平均、SD、CV、MAX、MINのそれぞれの値を表にまとめた表データである。ここで、SDは、カウントデータ(各測定の光子数)の標準偏差であり、CVは、カウントデータのばらつき(同時再現性)であり、(SD/カウント平均)×100として計算される。また、MAXは、カウントデータにおける各測定の光子数の%のうち最大のもの、MINは、カウントデータにおける各測定の光子数の%のうち最小のものを示している。これらのデータから、CVが2.44%(比較例)から1.60%(本発明)に減少しているのが分かる。
【0040】
図9は、本発明にしたがって(導入ノズル99による空中吸引によって)作成される均し泡102のサイズを変えて得たカウントデータである。具体的に、
図9の(a)は、均し泡102の流速が1.3mL/分、均し泡102の体積が54.6μLである場合において、上から順に、プロットされたカウントデータ、表データ、電圧波形データをそれぞれ示している。また、
図9の(b)は、均し泡102の流速が1.5mL/分、均し泡102の体積が63μLである場合において、上から順に、プロットされたカウントデータ、表データ、電圧波形データをそれぞれ示している。更に、
図9の(c)は、均し泡102の流速が2.0mL/分、均し泡102の体積が84μLである場合において、上から順に、プロットされたカウントデータ、表データ、電圧波形データをそれぞれ示している。(a)(b)(c)のいずれも、流路に導入される液量は250μLであった。これらのデータは、本発明者らが行なって得た実験結果の一部にすぎないが、均し泡102のサイズが20μL~80μLの範囲では、
図9の(a)(b)に示されるようにCV(同時再現性)が1.6%を下回っており、電圧波形も円が内接するような凹み形状を成す一定の経路を辿ることが全体の実験を通した結果から分かっている。これに対し、均し泡102のサイズが80μLを上回ると、
図9の(c)に示されるように、CVが大きくなり(カウントデータのばらつきが大きくなり)、電圧波形も円が内接するような凹み形状を成す一定の経路をどれも辿らなくなる。また、均し泡102のサイズが20μLを下回ると、CV値は1.6%を下回る良好な結果を示すが、均し泡102による磁性粒子100の広がりが少なくなり(磁性粒子の平滑化がうまくなされず)、カウント値(光子数)が低下する。
【0041】
図10は、本発明にしたがって(導入ノズル99による空中吸引によって)作成される均し泡102の流速を変えて得たカウントデータである。具体的には、粒子径が異なる2種類の磁性粒子(粒子1(平均粒子径3.0μm)及び粒子2(平均粒子径2.8μm))100に関して均し泡102の流速を所定の流速(ここでは、6mL/分であり、これを100%とする)に対して上下で5%、10%ずつ変更した(%が減少するにつれて流速が遅くなり、%が増大するにつれて流速が速くなる)際のカウントデータである。縦軸は、カウント変動率であり、流速100%をカウント変動率0%として示しており、また、横軸は、流速(%)を示している。
【0042】
粒子1に関する
図10の(a)のデータは、標識量が異なる5種類の粒子1に関するもので、ほぼ全てにおいて、流速変化に伴うカウント変動挙動に目立った大きな変化は見られなかった。また、粒子2に関する
図10の(b)のデータも、標識量が異なる5種類の粒子2に関するもので、全てに関し、流速変化に伴うカウント変動挙動に大きな変化は見られなかった。しかしながら、
図10の(a)のデータに関してカウント変動率が-5%を超えた飛び値(図中に〇で示す)が1つ存在したことを考えると、カウント変動率を抑制するべく、均し泡102の流速の変動を±5%内に抑えることが好ましい。
【0043】
以上、本発明を一実施形態について説明してきたが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、加温部や測定部等の構成は前述した構成に限定されない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 自動分析装置
10 制御部
60 測定部
60a 流路
70 電極部
99 導入ノズル(導入管)
100 磁性粒子(複合体)
102 均し泡(気泡)