(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107922
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20240802BHJP
【FI】
H02P21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012117
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 遼
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA02
5H505BB06
5H505DD05
5H505FF01
5H505JJ03
5H505JJ18
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL42
(57)【要約】
【課題】低速域で誘導電動機をセンサレス制御できる電動機制御装置を提供する。
【解決手段】実施形態は、誘導電動機に出力する電流にもとづいて、前記誘導電動機の速度推定値を算出するためのパラメータを演算し、前記速度推定値および速度基準にもとづいて、前記誘導電動機を速度制御するセンサレス制御部と、前記誘導電動機をフリーラン運転した場合に、前記誘導電動機が駆動する負荷の速度の演算に利用される属性情報が設定された材料情報等設定部と、前記速度基準があらかじめ設定された低速域以内の場合に、前記属性情報にもとづいて、フリーラン運転とした場合の減速レートを演算し、低速域内速度基準として前記センサレス制御部に出力する減速時間等演算部と、前記速度基準が前記低速域以内の場合に、前記パラメータをリセットするリセット指令を前記センサレス制御部に出力するリセット指令部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機に接続され、前記誘導電動機に出力する電流にもとづいて、前記誘導電動機の速度推定値を算出するためのパラメータを演算し、演算された前記速度推定値および速度基準にもとづいて、前記誘導電動機を速度制御するセンサレス制御部と、
前記誘導電動機をフリーラン運転した場合に、前記誘導電動機が駆動する負荷の速度の演算に利用される属性情報が設定された材料情報等設定部と、
前記速度基準を監視し、前記速度基準があらかじめ設定された低速域以内の場合に、前記属性情報にもとづいて、フリーラン運転とした場合の前記誘導電動機の減速レートを演算し、低速域内速度基準として前記センサレス制御部に出力する減速時間等演算部と、
前記速度基準が前記低速域以内の場合に、前記パラメータをリセットするリセット指令を前記センサレス制御部に出力するリセット指令部と、
を備え、
前記リセット指令部は、前記減速レートにもとづいてリセット指令を継続するリセットタイマの時間を設定する電動機制御装置。
【請求項2】
前記リセット指令部は、前記速度基準がゼロクロスする場合には、前記リセットタイマの時間を、前記速度基準が前記低速域外から前記低速域以内となった時刻から、前記減速レートにもとづいて算出された前記速度基準がゼロクロスする時刻までの期間を含むように設定された請求項1記載の電動機制御装置。
【請求項3】
誘導電動機に接続され、前記誘導電動機に出力する電流にもとづいて、前記誘導電動機の速度推定値を算出するためのパラメータを演算し、演算された前記速度推定値および速度基準にもとづいて、前記誘導電動機を速度制御するセンサレス制御部と、
前記速度基準の入力を許可し、許可しない場合には前記速度基準をゼロに設定する起動指令を前記センサレス制御部に出力する起動指令部と、
を備え、
前記起動指令部は、前記速度基準が前記低速域外から前記低速域以内となった時刻から、少なくとも前記速度基準がゼロクロスするまでの時刻までの期間において、前記起動指令の出力を停止する電動機制御装置。
【請求項4】
前記パラメータを監視し、前記パラメータがあらかじめ設定された適正な範囲となるまでの期間では、前記センサレス制御部をインタロックする停止監視部をさらに備えた請求項3記載の電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、誘導電動機の速度センサレス制御のための電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機の速度センサレス制御は、速度が0付近の極低速域、特に速度の極性が反転する速度ゼロクロスにおいては、誘導電動機に出力される電流の電流検出がうまくいかないことがある。その場合には、誘導電動機の電流値を使用する制御パラメータ演算も正しい値を示さない。そのため、速度ゼロクロス時に誘導電動機が失速し、やがて制御装置が過電流でトリップするという問題がある。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1には、速度ゼロクロス時の脱調防止のために速度基準を補正する技術が記載されている。より具体的には、速度基準とスリップ周波数との関係が不安定領域の領域外となるように、速度基準は補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
速度センサレス制御では、速度基準の補正には速度推定値が使用され、速度推定値演算には誘導電動機に出力される電流の電流値が使用される。上述のように、極低速域においては、電流値が適切に検出されていない場合があるので、速度推定値の演算結果は適切な値でないとの問題がある。また、一般的なセンサレス制御では、極低速時に電流検出がうまくいかないことを考慮して、極低速域でセンサレス制御を一時的に中止する機能を設けている場合も多いが、特許文献1に記載の手法は、このようなセンサレス制御には適用できないとの問題もある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、低速域で安定して誘導電動機をセンサレス制御できる電動機制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、誘導電動機に接続され、前記誘導電動機に出力する電流にもとづいて、前記誘導電動機の速度推定値を算出するためのパラメータを演算し、演算された前記速度推定値および速度基準にもとづいて、前記誘導電動機を速度制御するセンサレス制御部と、前記誘導電動機をフリーラン運転した場合に、前記誘導電動機が駆動する負荷の速度の演算に利用される属性情報が設定された材料情報等設定部と、前記速度基準を監視し、前記速度基準があらかじめ設定された低速域以内の場合に、前記属性情報にもとづいて、フリーラン運転とした場合の前記誘導電動機の減速レートを演算し、低速域内速度基準として前記センサレス制御部に出力する減速時間等演算部と、前記速度基準が前記低速域以内の場合に、前記パラメータをリセットするリセット指令を前記センサレス制御部に出力するリセット指令部と、を備える。前記リセット指令部は、前記減速レートにもとづいてリセット指令を継続するリセットタイマの時間を設定する。
【発明の効果】
【0008】
実施形態によれば、低速域で安定して誘導電動機をセンサレス制御できる電動機制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る電動機制御装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】
図2(a)は、第1の実施形態に係る電動機制御装置の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
図2(b)は、比較例に係る電動機制御装置の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
【
図3】第2の実施形態に係る電動機制御装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図4】第2の実施形態に係る電動機制御装置の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電動機制御装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、電動機制御装置10は、センサレス制御部13と、材料情報等設定部21と、減速時間等演算部22と、リセット指令部23と、速度基準演算部24と、を備える。電動機制御装置10は、n台の誘導電動機1-1~1-nに接続されており、速度基準演算部24によって演算された速度基準に追従するように誘導電動機1-1~1-nをセンサレスで速度制御する。ここで、「n」は2以上の整数(自然数)である。なお、
図1の例および後述する
図3の例では、電動機制御装置は、n台の誘導電動機を速度制御するとしているが、電動機制御装置が速度制御する誘導電動機は1台であってももちろんかまわない。
【0012】
センサレス制御部13は、誘導電動機1-1~1-nに出力される出力電流IMを検出し、センサレス制御のための各種パラメータを演算し、演算されたパラメータを用いて、速度推定値を演算する。演算されるパラメータは、たとえば、すべり周波数ωsや電動機2次電圧E2q、E2d等である。センサレス制御部13は、速度基準が、あらかじめ設定された低速域以内となった場合には、センサレス制御部13で演算した各種パラメータをリセットして、誘導電動機1-1~1-nをフリーランで運転する。また、センサレス制御部13は、通常の運転状態では、速度推定値が速度基準に追従するように誘導電動機1-1~1-nを速度制御する。通常の運転状態とは、速度基準があらかじめ設定された低速域外における運転状態である。
【0013】
なお、速度センサレス制御には、どのようなパラメータを用いて、速度推定値を演算するかに関して、さまざまな方式が提案されている。本実施形態や
図3および
図4に関連して説明する第2の実施形態においては、速度センサレス制御の方式を問わずに適用することが可能であり、センサレス制御部13は、周知の構成とすることができる。
【0014】
材料情報等設定部21は、誘導電動機1-1~1-nが駆動する負荷等の材料情報、センサ情報および設定データ等を図示しない主幹制御装置や上位計算機から取得して、これら各種データが設定される。負荷等の材料情報とは、たとえば、誘導電動機1-1~1-nの運転によって、プラントを搬送される鉄鋼製品等の材質および重量のデータ等である。センサ情報とは、たとえば、搬送される鉄鋼製品等がどの工程のどの位置にあるかを検出するための情報を提供するセンサの出力信号のデータ等である。設定データとは、たとえば、テーブルローラを駆動する電動機の定格出力や回転数のデータ、鉄鋼製品等を搬送するテーブルローラの径やGD2や機械ロス等の機械定数のデータ等である。これらのデータは、誘導電動機1-1~1-nをフリーランさせた場合の減速時間、減速速度および減速レートを演算するために用いられる。
【0015】
材料情報等設定部21は、速度基準演算部24の出力に接続されている。材料情報等設定部21の出力は、減速時間等演算部22に接続されている。材料情報等設定部21は、速度基準演算部24から出力された速度基準ωr*を入力し、その時点において、誘導電動機1-1~1-nがフリーラン運転となった場合の負荷等の材料情報、センサ情報および設定データ等を減速時間等演算部22に出力する。
【0016】
減速時間等演算部22は、速度基準演算部24の出力に接続されている。減速時間等演算部22の出力は、リセット指令部23に接続されている。減速時間等演算部22は、速度基準演算部24から出力された速度基準ωr*の値および材料情報等設定部21に設定された材料情報等のデータを用いて、その時点で誘導電動機1-1~1-nがフリーラン運転となった場合の減速時間、減速速度および減速レートを演算する。減速時間等演算部22は、演算した減速時間、減速速度および減速レートを速度基準演算部24およびリセット指令部23に出力する。
【0017】
リセット指令部23は、減速時間等演算部22の出力に接続されている。リセット指令部23の出力は、センサレス制御部13に接続されている。リセット指令部23は、減速時間等演算部22から出力された減速レートにもとづいて、リセットタイマを設定する。リセット指令部23は、センサレス制御部13のパラメータをリセットするリセット指令RSTをセンサレス制御部13に出力する。リセット指令RSTは、リセット指令部23に設定されたリセットタイマの時間分、継続される。リセットタイマは、速度基準ωr*が、減速時間等演算部22にあらかじめ設定された低速域以内において、リセット指令RSTを出力する期間である。
【0018】
速度基準演算部24は、減速時間等演算部22の出力に接続されている。速度基準演算部24の出力は、センサレス制御部13に接続されている。図示しないが、速度基準演算部24は、たとえば主幹制御装置が生成する速度指令を入力し、速度指令にもとづいて、速度基準を演算する。速度基準演算部24は、通常の運転時には、速度指令にもとづいて演算された速度基準をセンサレス制御部13に出力する。通常の運転時とは、演算された速度基準があらかじめ設定された低速域の範囲外の場合である。速度基準演算部24は、演算された速度基準があらかじめ設定された低速域内の場合には、減速時間等演算部22から出力される減速時間、減速速度および減速レートを用いて、低速域での速度基準を演算して、センサレス制御部13に出力する。
【0019】
本実施形態に係る電動機制御装置10の動作について説明する。
図2(a)は、第1の実施形態に係る電動機制御装置の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
図2(a)では、誘導電動機1-1~1-nの速度ωrの時間tに対する値がプロットされている。グラフ図の縦軸が速度ωrであり、横軸が時間tである。各グラフ図において、実線のプロットは速度基準ωr*を表し、破線のプロットはセンサレス制御部13が演算する速度推定値ωreを表している。なお、後述する
図2(b)に関連して説明する比較例に係る電動機制御装置および
図4に関連して説明する第2の実施形態に係る電動機制御装置の動作説明におけるグラフ図についても同様である。
【0020】
図2(a)に示すように、本実施形態に係る電動機制御装置10では、低速域があらかじめ設定されている。
図2(a)では、低速域は、誘導電動機の速度基準ωr*に対する割合で示されており、速度基準ωr*の-A%~+A%である。ここで、「A」は、任意の実数であり、たとえば、低速域は、速度基準ωr*の±数%以内とされる。「A」は、たとえば、電動機制御装置10から誘導電動機へ出力される出力電流の検出精度によって適切な値が設定される。なお、グラフ図では、低速域±A%の範囲を網掛けで示している。
【0021】
本実施形態に係る電動機制御装置10は、主幹制御装置等から供給される速度基準ωr*を監視しており、速度基準ωr*が+A%以下となった場合に、誘導電動機のフリーラン運転時の速度が速度基準ωr*として適用される。フリーラン運転時の速度が0に達すると、通常運転における速度基準ωr*が適用される。
【0022】
具体的には、
図2(a)では、速度基準ωr*は、時間とともに低下し、時刻t1において、+A%まで低下する。時刻t1から時刻t2では、減速時間等演算部22によって演算されたフリーラン運転時の減速レートαによって算出される速度が速度基準ωr*として適用される。時刻t2において、速度基準ωr*が0に達すると、通常運転時の速度基準ωr*が適用される。
【0023】
リセット指令部23が算出するリセットタイマの時間は、速度基準ωr*が反転して、速度基準の-A%を下回るまでリセット指令RSTを継続する。つまり、
図2(a)では、リセットタイマの時間は、時刻t1から時刻t2までの期間と、時刻t2から時刻t3までの期間の和として算出される。上述したように、時刻t1から時刻t2までの期間は、減速時間等演算部22が算出したフリーラン運転時の減速レートにもとづいて算出される。また、時刻t2から時刻t3までの期間は、減速時間等演算部22が通常の速度基準ωr*で速度基準の-A%に達するまでの期間として算出する。
【0024】
リセット指令部23は、リセットタイマの時間内では、リセット指令RSTを継続してセンサレス制御部13に出力している。リセット指令RSTは、すべり周波数ωsや電動機2次電圧E2q、E2d等を算出するためのパラメータをリセットする。そのため、センサレス制御部13が演算する速度推定値ωreは、リセットタイマの時間内では、ほぼ0となる。時刻t3以降、リセット指令RSTは解除され、速度推定値ωreは、電動機制御装置10から誘導電動機1-1~1-nへ出力される出力電流IMの検出値にもとづいて算出される。時刻t3以降では、誘導電動機1-1~1-nへの出力電流IMが適切に検出されるので、各パラメータも適切に算出され、速度推定値ωreは、速度基準ωr*に追従するように制御される。なお、リセットするパラメータは、すべてのパラメータとしてもよいし、センサレス制御部13が採用する制御方式に応じて適切なものを選択してもよい。
【0025】
図2(b)は、比較例に係る電動機制御装置の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
比較例に係る電動機制御装置では、低速域である速度基準ωr*の±A%以内においても誘導電動機に出力される電流を検出することによって、速度推定値ωreを算出する。時刻t11以降、速度基準ωr*が+A%以下となるので、誘導電動機に出力される電流は適切に検出されないため、誤差の大きい検出値にもとづいて算出される速度推定値ωreは、適切な算出結果が得られない場合がある。そのため、
図2(b)に示すように、速度推定値ωreは、速度基準ωr*から大きく異なる値となり得る。時刻t13において、正常に出力電流を検出し、パラメータを算出するようになっても、それまでの期間に速度推定値ωreの演算結果が適切でない値となった結果、たとえば過電流保護がはたらいて、誘導電動機が停止したり、誘導電動機の速度制御が失速したりする。
【0026】
本実施形態に係る電動機制御装置10の効果について説明する。
本実施形態に係る電動機制御装置10は、材料情報等設定部21、減速時間等演算部22、リセット指令部23および速度基準演算部24を備える。材料情報等設定部21では、ラインを搬送される製品等の属性および位置等により、誘導電動機がフリーラン運転となった場合の減速速度、減速レートおよび減速時間を演算する。誘導電動機のフリーラン運転時の減速レート等により、無制御で誘導電動機が停止させ、その後、速度基準演算部24により供給される通常時の速度基準ωr*によって、誘導電動機を反転させて、低速域を脱出させることができる。
【0027】
速度基準ωr*の低速域内では、センサレス制御部13には、リセット指令RSTがリセットタイマ分、出力される。リセット指令RSTは、センサレス制御部13における速度推定値ωre算出のためのパラメータをリセットする。そのため、速度推定値ωreは、ほぼ0となり、過電流保護を動作させたり、誘導電動機を失速させたりすることがなく、電動機制御装置10は、安定して誘導電動機を制御することができる。
【0028】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る電動機制御装置を例示する模式的なブロック図である。
図3に示すように、本実施形態に係る電動機制御装置210は、センサレス制御部13と、速度基準出力部224と、起動指令部225と、を備える。電動機制御装置210は、停止監視部226をさらに備えてもよい。本実施形態に係る電動機制御装置210は、第1の実施形態に係る電動機制御装置10と同様のセンサレス制御部13を備えており、センサレス制御部13の詳細な説明を省略する。
【0029】
速度基準出力部224は、たとえば図示しない主幹制御装置に接続されており、主幹制御装置から供給される速度指令にもとづいて、速度基準ωr*を演算する。速度基準出力部224は、算出した速度基準ωr*をセンサレス制御部13および起動指令部225に出力する。
【0030】
起動指令部225は、速度基準出力部224の出力に接続されている。
図3の例では、起動指令部225は、停止監視部226の出力にも接続されている。起動指令部225の出力は、センサレス制御部13に接続されている。起動指令部225は、速度基準出力部224から出力される速度基準ωr*を監視し、速度基準ωr*が低速域内であると判定した場合には、停止タイマ分、起動指令EXTの出力を停止する。起動指令EXTとは、誘導電動機の起動を許可する条件となる指令である。つまり、センサレス制御部13は、起動指令EXTを入力すると、速度基準出力部224から出力される速度基準ωr*の値を入力して速度基準ωr*にしたがって動作する。センサレス制御部13は、起動指令EXTの入力が停止されると、速度基準ωr*の入力にかかわらず動作を停止する。この場合において、センサレス制御部13は、速度基準ωr*を0に設定することによって動作を停止する。
【0031】
停止タイマの時間は、固定値をあらかじめ設定してもよいし、速度基準ωr*が低速域内に入る前の減速レートにもとづいて、演算により設定するようにしてもよい。あるいは、停止タイマの時間は、速度基準出力部224が算出する通常運転での速度基準ωr*が0となる時間を用いて算出するようにしてもよい。
【0032】
停止監視部226は、センサレス制御部13に接続されている。停止監視部226の出力は、起動指令部225に接続されている。停止監視部226は、センサレス制御部13の誘導電動機1-1~1-nに出力される電流の電流値を監視している。停止監視部226は、誘導電動機1-1~1-nへの出力電流値に加えて、あるいは、出力電流値に代えて材料情報やセンサ情報等を監視するようにしてもよい。停止監視部226は、誘導電動機1-1~1-nの出力電流値等を監視して、誘導電動機1-1~1-nの運転状態を判断する。停止監視部226は、誘導電動機1-1~1-nの運転が停止していると判断するまで、起動指令部225にインタロック指令を出力する。つまり、停止監視部226は、誘導電動機1-1~1-nがゼロクロス減速時に一度停止しない場合には、起動指令部225からの起動指令EXTの出力を停止させる。
【0033】
本実施形態に係る電動機制御装置210の動作について説明する。
図4は、本実施形態に係る電動機制御装置210の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
図4では、
図2(a)および
図2(b)で示した場合と同様に、速度ωrには低速域±A%が設定されている。
【0034】
図4に示すように、起動指令部225は、速度基準出力部224から出力された速度基準ωr*を監視し、速度基準ωr*が+A%以下となった場合に、起動指令EXTの出力を停止する。たとえば、停止タイマの時間は、速度基準ωr*が+A%に到達する直前の減速レートを適用して、起動指令部225により算出され、設定される。
【0035】
時刻t21において、起動指令部225は、速度基準ωr*が+A%以下となったと判定する。起動指令部225は、停止タイマの時間を算出して設定し、センサレス制御部13への起動指令EXTの出力を停止する。起動指令部225は、速度基準ωr*が0となる時刻t22を超えた場合には、速度基準出力部224が出力する通常運転時の速度基準ωr*を出力する。つまり、時刻t21から時刻t22の期間では、起動指令部225は、実質的に、速度基準ωr*として0をセンサレス制御部13に設定する。
【0036】
時刻t22から時刻t23の期間では、速度推定演算が開始されるが、時刻t23を超えると、速度基準ωr*は、-A%よりも小さい値となり(絶対値として大きい)、速度推定値ωreは、適切に検出された出力電流にもとづいて算出され、センサレス制御部13は、速度推定値ωreが速度基準ωr*に追従するように速度制御する。
【0037】
本実施形態に係る電動機制御装置210の効果について説明する。
本実施形態に係る電動機制御装置210では、起動指令部225が速度基準ωr*を監視し、速度基準ωr*が低速域以内の場合に起動指令EXTをセンサレス制御部13に出力停止する。そのため、起動指令EXTが出力停止されている停止タイマの時間内では、速度基準ωr*が0に設定される。そのため、速度推定値ωreを強制的に0に設定することができ、誘導電動機の失速を防止することができる。
【0038】
停止監視部226は、速度基準ωr*のほかのセンサレス制御部13内のパラメータを監視し、センサレス制御部13の起動をインタロックする。そのため、より安全にセンサレス速度制御を行うことが可能である。
【0039】
起動指令部225は、センサレス制御部13を適用した電動機制御装置では、起動・停止に関連して多くのシステムに導入されている機能である。本実施形態に係る電動機制御装置210では、これら既存の機能に少ない変更を加えることで、低速域における安定制御を実現できるとのメリットがある。
【0040】
上述の各実施形態における具体例は、記憶装置に格納したプログラムを読み出して、プログラムの各ステップを逐次実行するコンピュータ装置やプログラマブルコントローラ等で実現してもよい。電動機駆動装置をコンピュータ装置等により実現する場合には、上述した各部の一部または全部をプログラムを構成する1つ以上のステップにより実現することが可能である。
【0041】
このようにして、低速域で安定して誘導電動機をセンサレス制御できる電動機制御装置を実現することができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1-1~1-n…誘導電動機、10、210…電動機制御装置、13…センサレス制御部、21…材料情報等設定部、22…減速時間等演算部、23…リセット指令部、24…速度基準演算部、224…速度基準出力部、225…起動指令部、226…停止監視部