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  • 特開-焼成用セッター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107933
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】焼成用セッター
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20240802BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20240802BHJP
【FI】
C04B41/87 R
H01G13/00 351A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012135
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
【テーマコード(参考)】
5E082
【Fターム(参考)】
5E082AB03
5E082BC38
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082MM12
5E082MM24
(57)【要約】
【課題】焼成体を剥がすことが可能であり、なおかつ、基材からのコーティング層の剥離を抑制することができるセッターを提供すること。
【解決手段】基材と基材の少なくとも一部に備えられたコーティング層とを有するセッターであり、コーティング層の主成分がカルシウム、ジルコニウム、アルミニウムおよび酸素を有し、コーティング層において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.2~0.28であるセッター。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と前記基材の少なくとも一部に備えられたコーティング層とを有するセッターであり、
前記コーティング層の主成分がカルシウム、ジルコニウム、アルミニウムおよび酸素を有する、
前記コーティング層において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.2~0.28であるセッター。
【請求項2】
前記基材では、前記基材のコーティング層に接している面から前記基材の厚みの10%の範囲の所定範囲において主成分がアルミニウムである請求項1に記載のセッター。
【請求項3】
前記コーティング層において、ジルコニウム、カルシウム、アルミニウムおよびハフニウムに対するアルミニウムのモル比が0.05~0.2である請求項1に記載のセッター。
【請求項4】
前記コーティング層において、ジルコニウム、カルシウム、アルミニウムおよびハフニウムに対するアルミニウムのモル比が0.05~0.2である請求項2に記載のセッター。
【請求項5】
前記コーティング層において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.22~0.26である請求項1に記載のセッター。
【請求項6】
前記コーティング層におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するアルミニウムのモル比をCAlとし、
前記所定範囲におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するアルミニウムのモル比をSAlとしたとき、SAl-CAlは0.70~0.85の範囲である請求項1に記載のセッター。
【請求項7】
前記コーティング層におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するケイ素のモル比をCSiとし、
前記所定範囲におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するケイ素のモル比をSSiとしたとき、
前記CSiが0.002~0.02であり、
前記SSiが0.05~0.25である請求項1に記載のセッター。
【請求項8】
前記コーティング層の厚みは50~250μmである請求項1に記載のセッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成用セッターに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック電子部品などの焼成体を焼成する方法として、焼成体がセットされているセッターを加熱室に配置することにより焼成体を焼成する方法が挙げられる。この際、セッターから焼成体を剥がすことが困難になる場合がある。
【0003】
このため、セッターの基材の表面にコーティング層を形成することがある。たとえば、特許文献1には、ジルコン酸塩を含有するコーティング層を有するセッターを用いてBaTiO3を主成分とする焼成体を焼成する旨が開示されている。
【0004】
近年は(Sr,Ba)Nb26系の焼成体が開発されていることから、(Sr,Ba)Nb26系の焼成体を剥がすことが可能なセッターの開発が求められている。
【0005】
この他、セッターにおいて、基材に形成されたコーティング層が基材から剥離しにくいことも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-111566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、焼成体を剥がすことが可能であり、なおかつ、基材からのコーティング層の剥離を抑制することができるセッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るセッターは、
基材と前記基材の少なくとも一部に備えられたコーティング層とを有するセッターであり、
前記コーティング層の主成分がカルシウム、ジルコニウム、アルミニウムおよび酸素を有し、
前記コーティング層において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.2~0.28である。
【0009】
本発明に係るセッターによれば、セッターから焼成体を剥がすことが可能であり、なおかつ基材からのコーティング層の剥離を抑制することができる。
【0010】
前記基材では、前記基材のコーティング層に接している面から前記基材の厚みの10%の範囲の所定範囲において主成分がアルミニウムであってもよい。
【0011】
これにより、基材およびコーティング層の両方にアルミニウムが含まれることとなるため、相互作用により、基材にコーティング層が良好に接合する。その結果、基材からのコーティング層の剥離を効果的に抑制することができる。
【0012】
好ましくは、前記コーティング層において、ジルコニウム、カルシウム、アルミニウムおよびハフニウムに対するアルミニウムのモル比が0.05~0.2である。
【0013】
これにより、基材にコーティング層がより良好に接合することから、基材からのコーティング層の剥離をより効果的に抑制することができる。
【0014】
また、ジルコニウム、カルシウム、アルミニウムおよびハフニウムに対するアルミニウムのモル比が上記の範囲内である場合には、上記の範囲を上回る場合に比べて、セッターから焼成体を剥がすことが容易である。
【0015】
好ましくは、前記コーティング層において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.22~0.26である。
【0016】
前記コーティング層におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウムおよびハフニウムに対するアルミニウムのモル比をCAlとし、
前記基材の前記所定範囲におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するアルミニウムのモル比をSAlとしたとき、SAl-CAlは0.70~0.85であることが好ましい。
【0017】
これにより、基材にコーティング層がより良好に接合することから、基材からのコーティング層の剥離をより効果的に抑制することができる。
【0018】
前記コーティング層におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するケイ素のモル比をCSiとし、
前記所定範囲におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するケイ素のモル比をSSiとしたとき、
前記CSiが0.002~0.02であってもよく、
前記SSiが0.05~0.25であってもよい。
【0019】
これにより、基材およびコーティング層の両方にケイ素が含まれることとなるため、相互作用により、基材にコーティング層が良好に接合する。その結果、基材からのコーティング層の剥離をより効果的に抑制することができる。
【0020】
前記コーティング層の厚みは50~250μmであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るセッターの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態に係るセッター4の全体構成について説明する。図1に、セッター4の断面図を示す。
【0023】
セッター
図1に示すように、本実施形態に係るセッター4は、基材6と、コーティング層8と、を備えている。被焼成体2はセッター4のコーティング層8が形成された面に配置されている。被焼成体2は焼成された後、焼成体2となる。
【0024】
本実施形態では、セッター4の形状および寸法は特に限定されない。形状は、平板状または円盤状などであってもよい。セッター4の厚みは1~10mmであってもよい。
【0025】
基材6に含まれる成分は特に限定されない。基材6に含まれる成分としては、たとえばアルミニウムおよびケイ素などが挙げられる。基材6としてはムコライト、コランダムまたはムコライトとコランダムとの混合物を用いることができる。基材6には、この他ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムなどが含まれていてもよい。
【0026】
本実施形態に係る基材6では、基材6のコーティング層8に接している面から基材6の中心に向かって基材6の厚みの10%の範囲を所定範囲6aとしてもよく、基材6のコーティング層8に接している面から基材6の中心に向かって基材6の厚みの20%の範囲を所定範囲6aとすることが好ましく、基材6のコーティング層8に接している面から基材6の中心に向かって基材6の厚みの100%の範囲を所定範囲6aとすることがより好ましい。
【0027】
所定範囲6aの主成分はアルミニウムであってもよい。ここで「所定範囲6aの主成分」とは、所定範囲6aに含まれる酸素以外の元素のうちモル比で0.75~0.95を占める元素であり、好ましくは0.80~0.90を占める元素である。
【0028】
所定範囲6aにおいて、ジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するアルミニウムのモル比{Al/(Zr+Ca+Al+Si+Hf)}をSAlとする。SAlは0.75~0.95であることが好ましく、0.80~0.90であることがより好ましい。
【0029】
所定範囲6aにおいて、ジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するケイ素のモル比{Si/(Zr+Ca+Al+Si+Hf)}をSSiとする。SSiは0.05~0.25であることが好ましく、0.10~0.20であることがより好ましい。
【0030】
コーティング層8の主成分はカルシウム、ジルコニウム、アルミニウムおよび酸素を有する。ここで「コーティング層8の主成分」とは、コーティング層8に含まれる元素のうちモル比で0.80~1.00を占める元素であり、好ましくは0.90~1.00を占める元素である。
【0031】
コーティング層8において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比{Ca/(Zr+Ca+Hf)}は0.2~0.28であり、好ましくは0.22~0.26である。
【0032】
コーティング層8において、ジルコニウム、カルシウム、アルミニウムおよびハフニウムに対するアルミニウムのモル比(CAl)が0.05~0.2であることが好ましい。
【0033】
コーティング層8におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素およびハフニウムに対するケイ素のモル比{Si/(Zr+Ca+Al+Si+Hf)}をCSiとする。CSiは0.002~0.02であってもよい。
【0034】
CSiが上記の範囲内である場合は、CSiが上記の範囲を上回る場合に比べて、被焼成体2とコーティング層8との反応をより効果的に抑制することができる。
【0035】
コーティング層8におけるジルコニウム、カルシウム、アルミニウムおよびハフニウムに対するアルミニウムのモル比{Al/(Zr+Ca+Al+Hf)}をCAlとする。
【0036】
「SAl-CAl」は0.70~0.85であることが好ましい。
【0037】
コーティング層8の厚みは特に限定されない。コーティング層8の厚みは、たとえば50~250μmであってもよい。
【0038】
セッターの製造方法
次に、図1に示すセッター4の製造方法の一例について説明する。セッター4の製造方法は特に限定されないが、基材6を準備し、基材6の所定範囲6aの表面に、熱処理後にコーティング層8となる塗料を塗布して熱処理することにより製造することができる。以下では具体的に説明する。
【0039】
コーティング層8を構成する成分の粉末を用意する。コーティング層8を構成する成分の粉末としては、各元素の酸化物または焼成により各元素の酸化物を得ることができる各種化合物を用いることができる。コーティング層8を構成する成分の粉末としては、たとえばCaCO3粉末、ZrO2粉末、Al23粉末またはSiO2粉末などが挙げられる。なお、ZrO2粉末にはHfが含まれることがある。
【0040】
コーティング層8を構成する成分の粉末をメディアと、溶媒と、必要に応じて分散剤と、共にボールミルに入れて混合して、乾燥して混合粉を作製した。
【0041】
メディアは特に限定されず、たとえばイットリウム安定化ジルコニアのボールを用いることができる。
【0042】
溶媒は特に限定されず、たとえば水などを用いることができる。
【0043】
分散剤は特に限定されず、たとえばポリアクリル酸アンモニウムを用いることができる。
【0044】
混合粉を仮焼きして仮焼き物を得る。仮焼き雰囲気、温度および時間は特に限定されない。たとえば仮焼き雰囲気を空気中として、仮焼き保持温度を1200~1400℃として、仮焼き保持時間を1~3時間とすることができる。
【0045】
仮焼き物を粉砕して仮焼き粉を得る。
【0046】
仮焼き粉、樹脂、溶剤および分散剤をボールミルで混合して塗料を作製する。
【0047】
樹脂は特に限定されず、たとえばブチラール樹脂、アクリル樹脂、もしくはエチルセルロース樹脂を用いることができる。
【0048】
溶剤は特に限定されず、たとえばアルコール、アセトン、トルエン、もしくはメチルエチルケトン(MEK)を用いることができる。
【0049】
基材6の所定範囲6aの表面に該塗料を塗布して乾燥する。該塗料を塗布して乾燥する工程を繰り返して塗料を重ね塗りしてもよい。重ね塗りの回数により、コーティング層8の厚みを調整することができる。
【0050】
塗料が塗布された基材6を空気中で熱処理してセッター4を得る。熱処理条件は特に限定されない。たとえば熱処理雰囲気を空気中として、熱処理保持温度を1200~1400℃として、熱処理保持時間を1~3時間とすることができる。
【0051】
(Sr,Ba)Nb26系の焼成体を誘電体層として有する積層セラミックコンデンサ(MLCC)が開発されている。しかし、ジルコン酸塩等でコーティングされた従来のセッターに(Sr,Ba)Nb26系の被焼成体を載せて該被焼成体を焼成して焼成体を得る場合に、セッターから焼成体を剥がすことが困難になる場合がある。
【0052】
これに対して、本実施形態に係るセッター4によれば、セッター4から(Sr,Ba)Nb26系の焼成体2を剥がすことが可能である。その理由としては、本実施形態に係るセッター4は、コーティング層8の主成分がカルシウム、ジルコニウムおよびアルミニウムであり、コーティング層8において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.2~0.28であることが考えられる。
【0053】
また、コーティング層8において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.22~0.26であることにより、セッター4と(Sr,Ba)Nb26系の焼成体2との反応を防ぐことができるため、セッター4から(Sr,Ba)Nb26系の焼成体2を容易に剥離することが可能となる。
【0054】
特に、本実施形態に係るセッター4は、積層セラミックコンデンサの素子本体を被焼成体2とした場合に好適に用いることができる。素子本体は単板型セラミックコンデンサの誘電体に比べて、セッターとの接触面積が広いため、セッター4からの剥離がより困難になる場合がある。これに対して、本実施形態に係るセッター4は、素子本体を被焼成体2とした場合であっても、セッター4から被焼成体2を剥離することが可能である。
【0055】
素子本体では単板型セラミックコンデンサの誘電体に比べて、セッター4との接触面積が広くなる理由としては下記の理由が考えられる。単板型セラミックコンデンサの誘電体は誘電体原料粉末とバインダーとの混錬物を金型に入れて、プレスして成型した成型体を被焼成体2として焼成したものである。この製造方法により、単板型セラミックコンデンサの成型体は、表面に多少の凹凸を含む構造となる傾向がある。これに対して、素子本体を構成する誘電体層は、単板型セラミックコンデンサの成型体に比べてより平らであり、なおかつ、誘電体原料粉末がより分散されているグリーンシートを焼成して得られる。このため、素子本体は単板型セラミックコンデンサの誘電体に比べて、表面が平滑であることから、セッター4との接触面積が広くなる傾向となる。
【0056】
さらに、本実施形態に係るセッター4によれば、基材6からのコーティング層8の剥離を抑制することができる。
【0057】
なお、本実施形態に係るセッター4を用いて被焼成体2を焼成する際の条件は特に限定されない。本実施形態に係るセッター4を用いて被焼成体2を焼成する際の焼成保持温度は1200~1350℃であってもよく、1280~1320℃であることが好ましい。焼成雰囲気は空気中であってもよいし、還元雰囲気であってもよい。
【0058】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0059】
たとえば、本実施形態に係るセッター4の被焼成体2は特に限定されない。すなわち、本実施形態に係るセッター4の被焼成体2は(Sr,Ba)Nb26系の被焼成体2に限られず、(Ba,Sr,Ca)(Ti,Zr)O3系などの各種の組成の被焼成体2に対して用いることができる。また、誘電体材料だけでなく、圧電材料などに用いることができる。
【0060】
また、上記では、基材6に塗料を塗布して熱処理することによりコーティング層8を形成する旨を示したが、コーティング層8の形成方法は特に限定されない。たとえば、溶射または各種蒸着法によってコーティング層8を形成してもよい。
【0061】
また、基材6は厚み方向に複数の層を有する多層構造であってもよい。そして、基材6を構成する複数の層のうち最外層が所定範囲6aとなるようにして、最外層が上記した所定範囲6aの各元素の組成範囲を満たすようにしてもよい。
【0062】
また、所定範囲6aに限らず、基材6の全体が上記した所定範囲6aの各元素の組成範囲を満たしていてもよい。
【実施例0063】
以下、本発明の実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0064】
実験1
試料番号1~試料番号11および試料番号21~24では、下記の通り実験を行った。
【0065】
所定範囲6aだけでなく基材6の全体において、アルミニウムを主成分として、アルミニウムおよびケイ素をモル比でAl:Si=9:1で含む基材6を準備した。すなわち、SAlは0.9であり、SSiは0.1であった。
【0066】
コーティング層を構成する成分の粉末としてCaCO3粉末、ZrO2粉末およびAl23粉末を準備した。なお、ZrO2粉末にはHfが含まれていた。CaCO3粉末、ZrO2粉末およびAl23粉末を表1または表2に記載の{Ca/(Zr+Ca+Hf)}モル比および{Al/(Zr+Ca+Al+Hf)}モル比となるように秤量した。
【0067】
上記の原料粉末を混合して、メディアと、溶媒と、分散剤と、共に混合して、乾燥し、混合粉を得た。メディアはイットリウム安定化ジルコニアのボールとし、溶媒は水とし、分散剤はポリアクリル酸アンモニウムとした。
【0068】
混合粉を仮焼きして仮焼き物を得た。仮焼き条件は、雰囲気を空気中として、仮焼き温度を1300℃として、仮焼き時間を2時間とした。
【0069】
仮焼き粉、樹脂、溶剤および分散剤をボールミルで混合して、塗料を得た。
【0070】
基材6の所定範囲6aの表面に該塗料を刷毛にて塗布して乾燥した。該塗料を塗布して乾燥する工程を5回繰り返して塗料を重ね塗りした。
【0071】
塗料が塗布された基材6を空気中で熱処理してセッター4を得た。熱処理保持温度を1300℃として、熱処理保持時間を2時間とした。
【0072】
得られたセッター4をハンマーで割り、セッター4の小片を作製した。セッター4の小片をエポキシ樹脂中に埋め込み、耐水研磨紙で研磨し、Al23でバフ研磨し、イオンミリングでフラットミリングを行うことで表面研磨し、セッター4の断面を露出させた。Ptをスパッタリングしたうえで露出しているセッター4の断面を顕微鏡の反射電子像により観察したところ、全ての試料において、基材6とコーティング層8との界面での反応は確認できなかった。したがって、焼成前の基材6の所定範囲6aの組成は焼成後の基材6の所定範囲6aの組成であると推定した。
【0073】
上記のセッター4の断面のコーティング層8の厚み方向および幅方向の中央部付近の組成分析を行った。組成分析はエネルギー分散型X線分光法(EDS)により行った。結果を表1および表2に示す。
【0074】
セッター4に対して下記の方法により「コーティング層剥離試験」を行った。
【0075】
コーティング層剥離試験
セッター4のコーティング層8にスリオンテック製布粘着テープを貼った後、該布粘着テープを剥がして、基材6からコーティング層8が剥離するか否かを確認した。表1および表2において、剥離しない場合を「A」と記載し、剥離する場合を「B」と記載している。
【0076】
被焼成体2として、焼成後に積層セラミックコンデンサの素子本体となるグリーンチップ2を準備した。具体的には、(Sr0.5Ba0.50.9Nb25.9に対して2質量%のBa3Nb6Si426を含む誘電体層と、ニッケルを含む内部電極層と、が交互に積層されたグリーンチップ2を準備した。該グリーンチップ2は内部電極層に挟まれた誘電体層の層数を4層とした4層品であった。なお、グリーンチップ2の積層方向の両端には誘電体層(外装領域)が形成されていた。
【0077】
グリーンチップ2の積層方向に対してセッター4の面方向が略垂直になるように、セッター4のコーティング層8が形成された面にグリーンチップ2を置き、グリーンチップ2を焼成して焼成体2(素子本体2)を得た。焼成条件は焼成保持温度を1300℃として、焼成保持時間を2時間として、還元雰囲気とした。
【0078】
焼成体2を得た後のセッター4に対して下記の方法により焼成体剥離試験を行った。
【0079】
焼成体剥離試験
セッター4上の焼成体2をピンセットで引っ張ると剥がすことができ、なおかつセッター4に色移りしていない場合を「セッター4と焼成体2とが反応しておらず、剥離容易」と判断して「A」と評価した。
【0080】
セッター4上の焼成体2をピンセットで引っ張ると剥がすことができるが、セッター4に色移りしている場合を「セッター4と焼成体2とが反応しているが、剥離可能」と判断して「B」と評価した。
【0081】
セッター4上の焼成体2をピンセットで引っ張っても剥がすことができない場合を「セッター4と焼成体2とが反応しており、剥離不可能」と判断して「C」と評価した。
【0082】
結果を表1および表2に示す。
【0083】
実験2
試料番号31~試料番号35では、コーティング層8にケイ素を含ませた以外は実験1と同様にしてセッター4を得た。
【0084】
実験2では、コーティング層8を構成する成分の粉末としてCaCO3粉末、ZrO2粉末およびAl23粉末の他にSiO2を準備した。CaCO3粉末、ZrO2粉末およびAl23粉末を表3に記載の{Ca/(Zr+Ca+Hf)}モル比、{Al/(Zr+Ca+Al+Hf)}モル比、CAlおよびCSiとなるように秤量した。
【0085】
実験2では、実験1と同様にしてコーティング層8の組成分析、焼成体剥離試験およびコーティング層剥離試験を行った他、後述のセッター破壊後コーティング層剥離試験も行った。
【0086】
セッター破壊後コーティング層剥離試験
セッター4を割り、セッター4の小片を得た。セッター4の小片のコーティング層8にスリオンテック製布粘着テープを貼った後、該布粘着テープを剥がして、基材6からコーティング層8が剥離するか否かを確認した。表4において、剥離しない場合を「A」と記載し、剥離する場合を「B」と記載している。コーティング後のセッター4を割ると、コーティング層8のエッジが露出するので、布粘着テープを剥がしたときに、コーティング層8がより剥がれ易い。すなわち、「セッター破壊後コーティング層剥離試験」は、「コーティング層剥離試験」に比べて、コーティング層8がより剥がれ易い試験である。
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
表1~表4より、コーティング層の主成分がカルシウム、ジルコニウムおよびアルミニウムであり、コーティング層において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.2~0.28である場合(試料番号2~6、8~11、31~35)は、焼成体剥離試験の結果がAまたはBであり、コーティング層剥離試験の結果がAであることから、セッターから焼成体を剥がすことが可能であり、なおかつ基材からのコーティング層の剥離を抑制することができることが確認できた。
【0091】
表1より、コーティング層において、ジルコニウム、カルシウムおよびハフニウムに対するカルシウムのモル比が0.22~0.26であり、ジルコニウム、カルシウム、アルミニウムおよびハフニウムに対するアルミニウムのモル比(CAl)が0.05~0.2である場合(試料番号3~5、8~10)は、焼成体剥離試験の結果がAであることから、セッターから焼成体を容易に剥がすことが可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0092】
2… 焼成体、被焼成体、グリーンチップ、素子本体
4… セッター
6… 基材
6a… 所定範囲
8… コーティング層
図1