(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107941
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】撮像レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20240802BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012149
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】蓬田 祥寿
(72)【発明者】
【氏名】柴田 裕輝
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA02
2H087KA03
2H087LA01
2H087PA05
2H087PA06
2H087PA19
2H087PA20
2H087PB08
2H087QA03
2H087QA07
2H087QA19
2H087QA21
2H087QA26
2H087QA32
2H087QA37
2H087QA42
2H087QA45
2H087RA04
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA44
(57)【要約】
【課題】 広角域においても充分に広いイメージサークルを維持し、かつ色被りが生じる問題を回避するなど、レンズ全体のコンパクト化及び高性能化を実現する。
【解決手段】 三枚のレンズL1…L3により構成した前レンズ群Gfと、五枚のレンズL4…L8により構成した後レンズ群Grとを備え、光学全長をLA,全系の焦点距離をfとしたとき、1.5<〔LA/f〕<1.9を満たすとともに、前レンズ群Gfの最も物体OBJ側に位置するレンズ面から前レンズ群Gfの最も像IMG側に位置するレンズ面までの距離をTf,後レンズ群Grの最も物体OBJ側に位置するレンズ面から後レンズ群Grの最も像IMG側に位置するレンズ面までの距離をTrとしたとき、1.7<〔Tr/Tf〕<2.3を満たす光学系100を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のレンズにより構成し、かつ開口絞りに対して物体側に配した前レンズ群,及び複数のレンズにより構成し、かつ開口絞りに対して像側に配した後レンズ群とを備える撮像レンズにおいて、三枚のレンズにより構成した前記前レンズ群と、五枚のレンズにより構成した前記後レンズ群とを備え、光学全長をLA,全系の焦点距離をfとしたとき、
1.5<〔LA/f〕<1.9 … (条件1)
を満たすとともに、前記前レンズ群の最も物体側に位置するレンズ面から前記前レンズ群の最も像側に位置するレンズ面までの距離をTf,前記後レンズ群の最も物体側に位置するレンズ面から前記後レンズ群の最も像側に位置するレンズ面までの距離をTrとしたとき、
1.7<〔Tr/Tf〕<2.3 … (条件2)
を満たす光学系を備えることを特徴とする撮像レンズ。
【請求項2】
前記前レンズ群及び前記後レンズ群を構成する正レンズの屈折率をnd,バックフォーカスをBF〔mm〕,前記後レンズ群の最も像側に位置するレンズ面より像高の最も高い位置に結像する光束の中心線を延長し、光軸との交点から結像面までの距離をX〔mm〕としたとき、
nd>1.83 … (条件3)
X>32 … (条件4)
BF>17 … (条件5)
を満たすことを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項3】
前記前レンズ群は、物体側から順に、一枚の負レンズを用いた単レンズと、物体側に位置する正レンズと像側に位置する負レンズを接合した第一接合レンズにより構成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項4】
前記第一接合レンズは、前記正レンズの屈折率をndpf,前記負レンズの屈折率をndnfとしたとき、
ndpf>ndnf … (条件6)
を満たすことを特徴とする請求項3記載の撮像レンズ。
【請求項5】
前記後レンズ群は、物体側に配することにより凹面となるレンズ面を有する負レンズと像側に配した正レンズを接合した第二接合レンズを、最も物体側に配してなることを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項6】
前記第二接合レンズは、前記正レンズの屈折率をndpr,前記負レンズの屈折率をndnrとしたとき、
ndpr>ndnr … (条件7)
を満たすことを特徴とする請求項5記載の撮像レンズ。
【請求項7】
前記後レンズ群は、像側から順に、非球面レンズ,負レンズを配して構成することを特徴とする請求項1又は5記載の撮像レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーレスカメラ等に使用する交換レンズとして用いて好適な撮像レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミラーレスカメラ等に使用する交換レンズ(撮像レンズ)は、マウントの大口径化等によりバックフォーカスや後玉径の制約が少なくなり、レンズタイプのバリエーションが広がっているとともに、撮像素子における写真フイルムと同等サイズの大型化及び写真フイルム以上の高性能化(高精細化)が進んでいる。また、カメラ本体の小型化により、交換レンズにも小型化が求められ、ユーザサイドからは、ある程度の明るさと広い画角を有するとともに、高性能を確保した小型コンパクトな交換レンズが望まれており、この種のレンズとして、特許文献1に開示される小型の大口径広角レンズ及び特許文献2に開示される結像レンズも提案されている。
【0003】
しかし、これら従来のレンズは、ある程度の明るさ(F2.0程度)と広い画角(74゜程度)を確保し、加えて高いレンズ性能、即ち、良好な収差特性及び解像度を有するとともに、レンズ全体の小型コンパクト化の実現は容易でなく、特に、小型コンパクト化を実現する場合、レンズ性能の一部を犠牲にせざるを得ない課題が存在した。
【0004】
そこで、本出願人は、これらの課題を解決するための撮像レンズを、特許文献3により提案した。この撮像レンズは、二枚の正レンズ及び少なくとも二枚の負レンズにより構成した前レンズ群と、物体側から順に、両凹レンズと両凸レンズの接合レンズ,正レンズ,負レンズ,負の単レンズにより構成した後レンズ群とを備え、後レンズ群の焦点距離をf2,レンズ全系の焦点距離をfa,最も物体側のレンズ面から像面までの距離をLT,前レンズ群の二枚の正レンズにおけるd線での屈折率をndとしたとき、2.00<〔LT/fa〕<2.25,0.4<〔f2/LT〕<1.6,nd>1.83の各条件を満たすように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-352060号公報
【特許文献2】特開2014-59466号公報
【特許文献3】特開2022-100641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献3に記載の撮像レンズは、フルサイズのイメージサークルを確保したまま更なる小型コンパクト化を実現するには、像側に位置する最終レンズから最大像高まで到着する光線の角度が大きくなり、デジタルカメラで撮像した場合には、本来の色に対して特定の色に傾いてしまう、いわゆる色被りと呼ばれる問題を生じやすくなるなど、更なる改善すべき課題も残されていた。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した撮像レンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するため、複数枚のレンズL1…により構成し、かつ開口絞りSTOに対して物体OBJ側に配した前レンズ群Gf,及び複数のレンズL4…により構成し、かつ開口絞りSTOに対して像IMG側に配した後レンズ群Grとを備える撮像レンズ1を構成するに際して、三枚のレンズL1,L2,L3により構成した前レンズ群Gfと、五枚のレンズL4,L5,L6,L7,L8により構成した後レンズ群Grとを備え、光学全長をLA,全系の焦点距離をfとしたとき、1.5<〔LA/f〕<1.9(条件1)を満たすとともに、前レンズ群Gfの最も物体OBJ側に位置するレンズ面(i=1)から前レンズ群Gfの最も像IMG側に位置するレンズ面(i=5)までの距離(前群長)をTf,後レンズ群Grの最も物体OBJ側に位置するレンズ面(i=7)から後レンズ群Grの最も像IMG側に位置するレンズ面(i=15(14))までの距離(後群長)をTrとしたとき、1.7<〔Tr/Tf〕<2.3(条件2)を満たす光学系100を備えることを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、前レンズ群Gf及び後レンズ群Grを構成する正レンズ(L2,L5,L6)の屈折率をnd,バックフォーカスをBF〔mm〕,後レンズ群Grの最も像IMG側に位置するレンズ面(i=15(14))より像高の最も高い位置に結像する光束の中心線を延長し、光軸Dcとの交点から結像面までの距離をX〔mm〕としたとき、nd>1.83(条件3),X>32(条件4),BF>17(条件5)を満たすことが望ましい。また、前レンズ群Gfは、物体OBJ側から順に、一枚の負レンズL1を用いた単レンズと、物体OBJ側に位置する正レンズL2と像IMG側に位置する負レンズL3を接合した第一接合レンズJ1により構成できるとともに、この第一接合レンズJ1は、正レンズL2の屈折率をndpf,負レンズL3の屈折率をndnfとしたとき、ndpf>ndnf(条件6)を満たすことが望ましい。一方、後レンズ群Grは、物体OBJ側に配することにより凹面となるレンズ面(i=7)を有する負レンズL4と像IMG側に配した正レンズL5を接合した第二接合レンズJ2を、最も物体OBJ側に配して構成できるとともに、この第二接合レンズJ2は、正レンズL5の屈折率をndpr,負レンズL4の屈折率をndnrとしたとき、ndpr>ndnr(条件7)を満たすことが望ましい。さらに、後レンズ群Grは、像IMG側から順に、非球面レンズL8,負レンズL7を配して構成できる。
【発明の効果】
【0010】
このような構成を有する本発明に係る撮像レンズ1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0011】
(1) 三枚のレンズL1…L3により構成した前レンズ群Gfと、五枚のレンズL4…L8により構成した後レンズ群Grとを備え、光学全長をLA,全系の焦点距離をfとしたとき、1.5<〔LA/f〕<1.9を満たすとともに、前群長の距離をTf,後群長の距離をTrとしたとき、1.7<〔Tr/Tf〕<2.3を満たす光学系100を備えるため、広角域においても良好なイメージサークルを確保し、かつ色被りが生じる問題を回避できるなど、レンズ全体の小型コンパクト化かつ高性能化を実現することができ、特に、デジタルカメラやミラーレスカメラ等に用いて最適な撮像レンズ1(交換レンズ)を提供できる。
【0012】
(2) 好適な態様により、前レンズ群Gf及び後レンズ群Grを構成する正レンズ(L2,L5,L6)の屈折率をnd,バックフォーカスをBF〔mm〕,後レンズ群Grの最も像IMG側に位置するレンズ面より像高の最も高い位置に結像する光束の中心線を延長し、光軸Dcとの交点から結像面までの距離をX〔mm〕としたとき、nd>1.83,X>32,BF>17の各条件を満たすように設定すれば、正レンズ(L2,L5,L6)の屈折率が高くなるため、光学全長LAを短くして小型化に貢献できるとともに、距離X,バックフォーカスFBの条件を満たすことにより、デジタルカメラ等で使用する際に発生しやすい色被りを回避して再現度の高い忠実な像を得ることができる。
【0013】
(3) 好適な態様により、前レンズ群Gfを構成するに際し、物体OBJ側から順に、一枚の負レンズL1を用いた単レンズと、物体OBJ側に位置する正レンズL2と像IMG側に位置する負レンズL3を接合した第一接合レンズJ1により構成すれば、空気間隔を設けた場合に比べて球面収差の変動を小さくできるため、製造難易度を低くできるとともに、レンズの保持機構を簡略化することができる。
【0014】
(4) 好適な態様により、第一接合レンズJ1を、正レンズL2の屈折率をndpf,負レンズL3の屈折率をndnfとしたとき、ndpf>ndnfを満たすように設定すれば、ペッツバール和の補正を的確に行うことができるため、これに基づき非点収差を抑制することができる。
【0015】
(5) 好適な態様により、後レンズ群Grを構成するに際し、物体OBJ側に配することにより凹面となるレンズ面(i=7)を有する負レンズL4と像IMG側に配した正レンズL5を接合した第二接合レンズJ2を、最も物体OBJ側に配して構成すれば、凹面を有する負レンズL4を物体OBJ側に配するため、コマ収差を容易に改善することができるとともに、接合面を有する第二接合レンズJ2を用いることにより、球面収差(又はペッツパール和)を的確に補正することができる。
【0016】
(6) 好適な態様により、第二接合レンズJ2を、正レンズL5の屈折率をndpr,負レンズL4の屈折率をndnrとしたとき、ndpr>ndnrを満たすように設定すれば、ペッツバール和の補正を的確に行うことができるため、これに基づき非点収差を抑制することができる。
【0017】
(7) 好適な態様により、後レンズ群Grを構成するに際し、像IMG側から順に、非球面レンズL8,負レンズL7を配して構成すれば、最終レンズを通過する光線の入出射特性を非球面により設定できるため、像面湾曲を含む収差補正を良好に行うことができる。しかも、像IMG側から非球面レンズL8,負レンズL7を順に配置した場合、バックフォーカスを短くできるため、レンズ1全体の小型コンパクト化に寄与することができる。加えて、距離Xを短くできる効果もあり、倍率色収差を含む諸収差を良好に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の好適実施形態に係る実施例1の撮像レンズの構成図、
【
図2】同実施例1の撮像レンズの無限遠時の縦収差図、
【
図3】本発明の好適実施形態に係る撮像レンズの各実施例において設定した条件に係わる光学特性と屈折率の一覧表、
【
図4】本発明の好適実施形態に係る実施例2の撮像レンズの構成図、
【
図5】同実施例2の撮像レンズの無限遠時の縦収差図、
【
図6】本発明の好適実施形態に係る実施例3の撮像レンズの構成図、
【
図7】同実施例3の撮像レンズの無限遠時の縦収差図、
【
図8】本発明の好適実施形態に係る実施例4の撮像レンズの構成図、
【
図9】同実施例4の撮像レンズの無限遠時の縦収差図、
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る好適実施形態である実施例1-4を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0020】
まず、本実施形態に係る実施例1の撮像レンズ1について、
図1-
図3及び表1を参照して具体的に説明する。
【0021】
最初に、
図1を参照して、本実施形態(実施例1)に係る撮像レンズ1の光学系100の構成について説明する。なお、
図1中、OBJは物体(側)(被写体(側))を示し、IMGは像(撮像素子)を示している。したがって、物体OBJ側が光軸Dc方向の前方となり、像IMG側が光軸Dc方向の後方となる。また、STOは開口絞りを示す。
【0022】
本実施形態に係る撮像レンズ1(光学系100)は、
図1に示すように、開口絞りSTOに対して物体OBJ側に配した前レンズ群Gf,及び開口絞りSTOに対して像IMG側に配した後レンズ群Grを備え、この前レンズ群Gfと後レンズ群Grがレンズ全系の基本構成となる。したがって、通常、像IMG(撮像素子)の前面に設置される波長カットフィルタや防塵ガラス等の平行平面板の図示は省略した。
【0023】
前レンズ群Gfは、
図1に示すように、物体OBJ側から順に、一枚の負レンズL1となる両凹レンズを用いた単レンズと、物体OBJ側に位置する両凸レンズを用いた正レンズL2と像IMG側に位置して像IMG側が凸面となる負メニスカスレンズを用いた負レンズL3を接合した第一接合レンズJ1を配置して構成する。即ち、前レンズ群Gfは、一枚の単レンズと一枚の接合レンズによる計三枚のレンズL1,L2,L3により構成する。前レンズ群Gfを構成するに際し、このように構成すれば、空気間隔を設けた場合に比べて球面収差の変動を小さくできるため、製造難易度を低くできるとともに、レンズの保持機構を簡略化することができる。
【0024】
また、第一接合レンズJ1の条件設定は、正レンズL2(i=3)の屈折率をndpf、負レンズL3(i=4)の屈折率をndnfとしたとき、次の(条件6)を満たすように設定する。
ndpf>ndnf … (条件6)
【0025】
このような条件に設定すれば、ペッツバール和の補正を的確に行うことができるため、これに基づき非点収差を抑制することができる。
【0026】
一方、後レンズ群Grは、
図1に示すように、両凹レンズを用いた物体OBJ側が凹面となるレンズ面(i=7)を有する負レンズL4と像IMG側に配した両凸レンズを用いた正レンズL5を接合した第二接合レンズJ2を、最も物体OBJ側に配して構成する。このように構成すれば、凹面を有する負レンズL4を物体OBJ側に配するため、コマ収差を容易に改善することができるとともに、接合面を有する第二接合レンズJ2を用いることにより、球面収差又はペッツパール和を的確に補正することができる。
【0027】
さらに、第二接合レンズJ2に対して像IMG側には、単レンズによる正レンズL6を配置し、この正レンズL6に対して像IMG側には、単レンズによる負レンズL7を配置し、この負レンズL7に対して像IMG側には、非球面レンズL8を用いた負レンズを配置する。この場合、正レンズL6は両凸レンズを使用し、負レンズL7及び非球面レンズL8は、それぞれ物体OBJ側が凹面となる負メニスカスレンズを使用する。
【0028】
これにより、後レンズ群Grの全体構成は、像IMG側から順に、非球面レンズL8,負レンズL7,正レンズL6,負レンズL4と正レンズL5を接合した第二接合レンズJ2からなる五枚のレンズL4,L5,L6,L7,L8により構成される。このように、後レンズ群Grを構成するに際し、像IMG側から順に、非球面レンズL8,負レンズL7を配して構成すれば、最終レンズを通過する光線の入出射特性を非球面により設定できるため、像面湾曲を含む収差補正を良好に行うことができる。しかも、像IMG側から非球面レンズL8,負レンズL7を順に配置するため、バックフォーカスを短くでき、レンズ1全体の小型コンパクト化に寄与することができる。また、距離Xを短くできる効果もあり、倍率色収差を含む諸収差を良好に補正することができる。
【0029】
また、第二接合レンズJ2の条件設定は、正レンズL5(i=8)の屈折率をndpr,負レンズL4(i=7)の屈折率をndnrとしたとき、次の(条件7)を満たすように設定する。
ndpr>ndnr … (条件7)
【0030】
このような条件に設定すれば、ペッツバール和の補正を的確に行うことができるため、これに基づき非点収差を抑制することができる。
【0031】
以上の光学系100において、光学条件として以下の(条件1)-(条件5)を設定する。即ち、光学全長をLA,全系の焦点距離をfとしたとき、次の(条件1)を満たすように設定する。
1.5<〔LA/f〕<1.9 … (条件1)
【0032】
また、前レンズ群Gfの最も物体OBJ側に位置するレンズ面(i=1)から前レンズ群Gfの最も像IMG側に位置するレンズ面(i=5)までの距離(前群長)をTf,後レンズ群Grの最も物体OBJ側に位置するレンズ面(i=7)から後レンズ群Grの最も像IMG側に位置するレンズ面(i=15)までの距離(後群長)をTrとしたとき、次の(条件2)を満たすように設定する。
1.7<〔Tr/Tf〕<2.3 … (条件2)
【0033】
さらに、前レンズ群Gf及び後レンズ群Grを構成する正レンズ(L2,L5,L6)の屈折率をnd,バックフォーカスをBF〔mm〕,後レンズ群Grの最も像IMG側に位置するレンズ面より像高の最も高い位置に結像する光束の中心線を延長し、光軸Dcとの交点から結像面までの距離をX〔mm〕としたとき、次の(条件3)-(条件5)を満たすように設定する。
nd>1.83 … (条件3)
X>32 … (条件4)
BF>17 … (条件5)
【0034】
特に、(条件3)-(条件5)の各条件を満たすように設定すれば、正レンズ(L2,L5,L6)の屈折率が高くなるため、光学全長LAを短くして小型化に貢献できるとともに、球面収差及びコマ収差を良好に補正することができる。また、距離X,バックフォーカスFBの条件を満たすことにより、デジタルカメラ等で使用した場合にも、色被りを回避して再現度の高い像を得ることができる。
【0035】
このように、本実施形態(実施例1)に係る撮像レンズ1は、基本的なレンズ構成として、三枚のレンズL1…L3により構成した前レンズ群Gfと、五枚のレンズL4…L8により構成した後レンズ群Grとを有する光学系100を備えるとともに、少なくとも、光学条件として、1.5<〔LA/f〕<1.9(条件1)を満たし、かつ1.7<〔Tr/Tf〕<2.3(条件2)を満たすように設定したため、広角域においても充分に広いイメージサークルを維持し、コンパクトかつ高性能の撮像レンズ1を実現することができる。
【0036】
表1は、上段に、実施例1の撮像レンズ1におけるレンズ全系の「レンズ面データ」を示すとともに、下段に、同撮像レンズ1における「非球面係数」を示す。また、
図3(a)に、レンズ全系の「光学特性」を示すとともに、
図3(b)に、レンズの「屈折率」を示す。
【0037】
【0038】
表1の「レンズ面データ」は、物体OBJ側から数えたレンズ面の面番号をiで示し、この面番号iは、
図1に示した符号(数字)に一致する。これに対応して、レンズ面の曲率半径R(i)、軸上面間隔D(i)、レンズの屈折率nd(i)、レンズのアッベ数νd(i)をそれぞれ示す。nd(i)及びνd(i)はd線(587.6〔nm〕)に対する数値である。軸上面間隔D(i)は相対向する面と面間のレンズ厚或いは空気空間を示す。なお、曲率半径R(i)と面間隔D(i)の単位は〔mm〕である。面番号のOBJは物体、STOは開口絞り、IMGは像の位置を示す。曲率半径R(i)のInfinityは平面であり、面番号iの後にAが付いた面は面形状が非球面であることを示す。屈折率nd(i)とアッベ数νd(i)の空欄は空気であることを示す。
【0039】
また、表1の「非球面係数」は、面の中心を原点とし、光軸Dc方向をZとした直交座標系(X,Y,Z)において、Zは数1により表される。数1において、Rは中心曲率半径、A4,A6,A8,A10,A12は、それぞれ4次,6次,8次,10次,12次の非球面係数、Hは光軸上の原点からの距離である。なお、表1において、「E」は「×10」を意味する。
【0040】
【0041】
実施例1は、
図3に示すように、光学全長LAは51.73〔mm〕となり、全系の焦点距離fは28.50〔mm〕となるため、LA/fは1.82となり、1.5<〔LA/f〕<1.9(条件1)を満たす。また、前レンズ群Gfの最も物体OBJ側に位置するレンズ面(i=1)から前レンズ群Gfの最も像IMG側に位置するレンズ面(i=5)までの距離(前群長)Tfは10.30〔mm〕となり、後レンズ群Grの最も物体OBJ側に位置するレンズ面(i=7)から後レンズ群Grの最も像IMG側に位置するレンズ面(i=15)までの距離(後群長)Trは18.29〔mm〕となるため、Tr/Tfは1.78となり、1.7<〔Tr/Tf〕<2.3(条件2)を満たす。
【0042】
一方、表1及び
図3に示すように、前レンズ群Gf及び後レンズ群Grを構成する正レンズL2(i=3),L5(i=8),L6(i=10)の各屈折率ndは、それぞれ1.88300,1.88300,1.88300となり、いずれもnd>1.83(条件3)を満たす。また、後レンズ群Grの最も像IMG側に位置するレンズ面より像高の最も高い位置に結像する光束の中心線を延長し、光軸Dcとの交点から結像面までの距離Xは32.94〔mm〕となり、X>32(条件4)を満たす。さらに、バックフォーカスBFは18.10〔mm〕となり、BF>17(条件5)を満たしている。
【0043】
他方、表1に示すように、第一接合レンズJ1の正レンズL2(i=3)の屈折率ndpfは1.88300となり、負レンズL3(i=4)の屈折率ndnfは1.72825となるため、ndpf>ndnf(条件6)を満たすとともに、第二接合レンズJ2の正レンズL5(i=8)の屈折率ndprは1.88300となり、負レンズL4(i=7)の屈折率ndnrは1.75520となるため、ndpr>ndnr(条件7)を満たしている。
【0044】
このように、実施例1は、(条件1)-(条件7)の全てを満たしている。
図2に、実施例1の撮像レンズ1における無限遠時に対応する縦収差図を示す。各縦収差図は、左側から、球面収差(656.3nm,587.6nm,435.8nm)、非点収差(587.6nm)、歪曲収差(587.6nm)を示す。各スケール(1目盛)は、±0.25mm,±0.25mm,±2.5%である。
【0045】
実施例1の撮像レンズ1は、
図3に示すように、焦点距離fが28.5mm,Fナンバが2.55であるとともに、画角は75.4゜,最大像高Yは21.63mmとなる。また、
図2から明らかなように、いずれの縦収差も、良好な収差特性、即ち、撮像性能(光学性能)が得られていることを確認できる。
この相違点及び表2に示す細部のレンズ面データを除いて、他の基本的構成は、実施例1と同じになる。即ち、開口絞りSTOに対して物体OBJ側に配し、かつ三枚のレンズL1…L3により構成した前レンズ群Gfと、開口絞りSTOに対して像IMG側に配し、かつ五枚のレンズL4…L8により構成した後レンズ群Grとを備えるとともに、光学条件として、(条件1)-(条件7)を設定する点は同じになる。
他方、表2に示すように、第一接合レンズJ1の正レンズL2(i=3)の屈折率ndpfは1.90043となり、負レンズL3(i=4)の屈折率ndnfは1.75520となるため、ndpf>ndnf(条件6)を満たすとともに、第二接合レンズJ2の正レンズL5(i=8)の屈折率ndprは1.88300となり、負レンズL4(i=7)の屈折率ndnrは1.69895となるため、ndpr>ndnr(条件7)を満たしている。