IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社木原製作所の特許一覧

特開2024-107967乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム
<>
  • 特開-乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム 図1
  • 特開-乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム 図2
  • 特開-乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム 図3
  • 特開-乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム 図4
  • 特開-乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム 図5
  • 特開-乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム 図6
  • 特開-乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム 図7
  • 特開-乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107967
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   F26B 21/04 20060101AFI20240802BHJP
   F26B 21/08 20060101ALI20240802BHJP
   F26B 21/10 20060101ALI20240802BHJP
   F26B 3/02 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
F26B21/04 A
F26B21/08
F26B21/10
F26B3/02
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012181
(22)【出願日】2023-01-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】594189279
【氏名又は名称】株式会社木原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】中川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】木原 康博
(72)【発明者】
【氏名】木原 利昌
【テーマコード(参考)】
3L113
【Fターム(参考)】
3L113AA01
3L113AC45
3L113AC46
3L113AC48
3L113AC49
3L113AC51
3L113AC56
3L113AC67
3L113BA18
3L113CA08
3L113CA09
3L113CB27
3L113DA24
(57)【要約】
【課題】水分を含んで厚みのある食品等の被乾燥物に対し、乾燥時の重量歩留まり(乾燥に伴う質量残存率)を高精度で求めることが可能な乾燥状態シミュレーション装置を提供する。
【解決手段】乾燥状態シミュレーション装置1は、被乾燥物の密度から球殻を形成する等価球を概念してその等価球半径を計算する被乾燥物解析部8と、乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析部9と、物質移動係数を用いて被乾燥物と気体間の第1の水移動量と球殻の最外球殻と気体間の第2の水移動量を計算する水移動量解析部10と、被乾燥物の球殻毎の水分内部拡散を計算して密度を更新する水分内部拡散解析部11と、を有し、被乾燥物解析部8は第2の水移動量と更新された密度を用いて等価球半径を更新し、更新された密度と更新された等価球半径を用いて被乾燥物の重量歩留まりを計算する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションする装置であって、前記被乾燥物の密度から球殻を形成する等価球を概念してその等価球半径を計算する被乾燥物解析部と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析部と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算し、この第1の水移動量を用いて前記球殻の最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する水移動量解析部と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を更新する水分内部拡散解析部と、を有し、前記被乾燥物解析部は前記第2の水移動量と更新された前記密度を用いて前記等価球半径を更新し、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算することを特徴とする乾燥状態シミュレーション装置。
【請求項2】
乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションする方法であって、前記被乾燥物の密度から球殻を形成する等価球を概念してその等価球半径を計算する被乾燥物解析工程と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析工程と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算する第1の水移動量解析工程と、前記第1の水移動量を用いて前記球殻の最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する第2の水移動量解析工程と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を更新する水分内部拡散解析工程と、前記第2の水移動量と更新された前記密度を用いて前記等価球半径を更新する等価球半径更新工程と、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算する重量歩留まり解析工程と、を有することを特徴とする乾燥状態シミュレーション方法。
【請求項3】
乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションするために、コンピュータによって実行されるプログラムであって、前記被乾燥物の密度から球殻を形成する等価球を概念してその等価球半径を計算する被乾燥物解析工程と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析工程と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算する第1の水移動量解析工程と、前記第1の水移動量を用いて前記球殻の最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する第2の水移動量解析工程と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を更新する水分内部拡散解析工程と、前記第2の水移動量と更新された前記密度を用いて前記等価球半径を更新する等価球半径更新工程と、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算する重量歩留まり解析工程と、を有することを特徴とする乾燥状態シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実やキノコあるいは野菜等あるいは肉や魚等の食品に対して空気の循環による乾燥状態をシミュレーションする乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドライフルーツや魚の干物をはじめとする乾燥食品は保存食品としてのみならず日常的に広く食されており、その乾燥技術も研究・開発されてきた。
例えば、特許文献1には「乾燥装置」という名称で、小魚等の被乾燥物を収容した複数のセイロを配設し、そのセイロ内部に低相対湿度、高温の湿り空気を流すことで被乾燥物を乾燥させる装置が開示されている。
この発明では、セイロ内での温度や湿度に加えて被乾燥物の表面温度を制御することで小魚の品質を維持しながら乾燥させている。
また、特許文献2には本願出願人によって「循環式乾燥機とその乾燥方法及びその乾燥制御プログラム」という名称で、果実等の植物を主とした被乾燥物を乾燥室内に収容し空気と外気を換気させながら循環させて効率的かつ高品質に乾燥させる技術が開示されている。
一方、特許文献3には、食品ではないが溶剤濃度分布及び塗液温度分布を考慮した三成分系塗液に関する塗工乾燥シミュレーション方法が開示されている。
この発明では、溶剤とポリマを含む塗液の溶剤乾燥速度は実績値で求めるものの、Regular Regime理論やFlory-Huggins理論、流速比較法等を用いることで乾燥速度を高精度で計算することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-107852号公報
【特許文献2】特開2019-148361号公報
【特許文献3】特開2009-233663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された発明では、試行錯誤や経験に基づく乾燥条件を設定条件として、被乾燥物の品質を維持しながら効率的な乾燥を実行するものであるため、被乾燥物の種類等によってそれぞれ試行錯誤を繰り返し、乾燥条件を求めなければならないという課題があった。
また、その量やサイズのバラツキも乾燥条件に影響を与えるため、同一の被乾燥物であったとしても乾燥に対する客観的で定量的な判断結果を得ることが難しい可能性があるという課題もあった。
また、特許文献3に開示された発明では、均質な塗液を薄く塗布した平面状の基材を対象としているため、シミュレーションが適用される技術分野や対象物が限定されてしまうという課題があった。特に水分を含み厚みのある食品では適用が難しく、シミュレーション精度を高めることが難しいという課題があった。
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、水分を含んで厚みのある食品等の被乾燥物に対し、その密度から球殻を形成する等価球を概念して、その内部での水分の拡散、空気と被乾燥物間の水移動量及び空気中に移動した水分を計算して、乾燥に供する空気の相対湿度と被乾燥物の密度を修正し、等価球の半径を修正することで乾燥時の重量歩留まり(乾燥に伴う質量残存率)を高精度で求めることが可能な乾燥状態シミュレーション装置とその方法及びそのプログラムを提供することを目的としている。
なお、本願において被乾燥物の重量歩留まりとは、乾燥に伴う水分蒸発によって初期の質量からどの程度減少して質量が残存しているかという質量残存率[質量%]を意味している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、第1の発明である乾燥状態シミュレーション装置は、乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションする装置であって、前記被乾燥物の密度から球殻を形成する等価球を概念してその等価球半径を計算する被乾燥物解析部と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析部と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算し、この第1の水移動量を用いて前記球殻の最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する水移動量解析部と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を更新する水分内部拡散解析部と、を有し、前記被乾燥物解析部は前記第2の水移動量と更新された前記密度を用いて前記等価球半径を更新し、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算することを特徴とするものである。
第1の発明において、環境パラメータとは熱伝導率、比熱、密度、粘度、拡散係数、流速等、乾燥庫内の被乾燥物と気体間の物質拡散係数の計算に必要な被乾燥物及び周囲の気体に関する物性値や寸法等の物理量を意味している。
【0006】
第2の発明である乾燥状態シミュレーション方法は、乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションする方法であって、前記被乾燥物の密度から球殻を形成する等価球を概念してその等価球半径を計算する被乾燥物解析工程と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析工程と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算する第1の水移動量解析工程と、前記第1の水移動量を用いて前記球殻の最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する第2の水移動量解析工程と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を更新する水分内部拡散解析工程と、前記第2の水移動量と更新された前記密度を用いて前記等価球半径を更新する等価球半径更新工程と、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算する重量歩留まり解析工程と、を有することを特徴とするものである。
【0007】
第3の発明である乾燥状態シミュレーションプログラムは、乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションするために、コンピュータによって実行されるプログラムであって、前記被乾燥物の密度から球殻を形成する等価球を概念してその等価球半径を計算する被乾燥物解析工程と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析工程と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算する第1の水移動量解析工程と、前記第1の水移動量を用いて前記球殻の最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する第2の水移動量解析工程と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を更新する水分内部拡散解析工程と、前記第2の水移動量と更新された前記密度を用いて前記等価球半径を更新する等価球半径更新工程と、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算する重量歩留まり解析工程と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明に係る乾燥状態シミュレーション装置においては、水分を含んで厚みのある食品等の被乾燥物を球殻を形成する等価球として概念することで、水分の内部拡散と球殻の最外球殻の表面から空気中に移動する水分量の計算を可能にすることが可能である。また、空気中に移動する水分量から密度の減少を計算しながら概念した等価球の半径を更新することで、被乾燥物の乾燥による収縮をシミュレーションすることが可能である。したがって、最外球殻表面積の縮小をシミュレーションすることも可能となり、空気中に移動する水分量が最外球殻表面積の縮小によって減少するという現象もシミュレーションすることが可能である。
以上のようなことから、第1の発明においては水分を含んで厚みのある食品等の被乾燥物の乾燥時の重量歩留まりを高精度で求めることが可能である。
【0009】
第2の発明に係る乾燥状態シミュレーション方法は第1の発明を方法発明として捉えたものであるので、その効果は第1の発明と同様である。
【0010】
第3の発明に係る乾燥状態シミュレーションプログラムは第2の発明をプログラム発明として捉えたものであるので、その効果は第2の発明と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置、その方法及びそのプログラムが想定する乾燥機のシステム構成図である。
図2】本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置、その方法及びそのプログラムが想定する被乾燥物の構造概念図である。
図3】水分を含む食品を被乾燥物とした場合の乾燥に伴う含水率[質量%]の理想的な経時変化を示す概念図である。
図4】水分を含む食品を被乾燥物とした場合の乾燥に伴う乾燥庫入口空気の乾球温度と湿球温度の理想的な経時変化を示す概念図である。
図5】本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置のシステム構成図である。
図6】本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション方法のフロー図である。
図7】本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置を用いてニンジンの輪切りの重量歩留まり[質量%]を解析した結果を示すグラフである。
図8】本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置を用いてニンジンの輪切りの重量歩留まり[質量%]を解析した際の等価球半径の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置について図1図6を参照しながら説明する。
まず、図1を参照しながら本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置が想定する乾燥機のシステム構成図について説明する。
図1において、乾燥機40は乾燥庫41の内部に載荷棚45が配列されており、果実やキノコあるいは野菜等の食品あるいは肉や魚を被乾燥物46として載置し、空気51aを循環させて乾燥させる。図1において、ヒーター43によって加熱された乾燥庫入口空気51は、乾燥庫41に供給され、載荷棚45上の被乾燥物46を乾燥させた後、乾燥庫41から乾燥庫出口空気47として送出される。
なお、本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置が想定する乾燥機40において、乾燥庫入口空気51は乾燥庫41の下方から上方へと移動するように記載されているが、乾燥庫41内での気流については被乾燥物46の周囲に均一に分布するものとする。
【0013】
乾燥庫41への入口温度として乾燥庫入口空気51の乾球温度と湿球温度をそれぞれ乾球温度データ27と湿球温度データ28として用いる。
被乾燥物46から移動する水分によって湿り気を帯びた乾燥庫出口空気47は、その一部が排気口44から排出される排出空気49として、吸気口42aに設けられたダンパ42を介して外部から吸入される外気48と交換され混合空気50となり、ヒーター43によって加熱されることで再び乾燥庫入口空気51として乾燥庫41に供給される。
なお、図1には乾燥機40内部の空気を循環させる送風機の記載を省略しているが、乾燥庫41内の乾燥環境を均質にするために送風機は実際の乾燥機40においても必要であり、乾燥環境に応じて必要な循環風量を可能とする送風機が乾燥機40内に設置されている想定である。また、送風機の循環風量は乾燥シミュレートの仕様に応じて設定されるので、一定とすることも可能であり、時間や他のパラメーター、例えば乾球温度データ27、湿球温度データ28の値に応じて変更することも可能である。
【0014】
次に図2を参照しながら、本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置が想定する被乾燥物46の構造について説明する。
図2は本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置が想定する被乾燥物の構造概念図である。
図2において、被乾燥物46は、果実やキノコあるいは野菜等の食品あるいは肉や魚の密度と同一の密度・同一厚みの複数層を形成する球殻58から構成される等価球46aとして概念される。また、乾燥庫41内の空気51aに接する表面の球殻58を最外球殻59とし、球殻58の厚みをdr、等価球半径をrとしている。また、本願では球殻58の数をnとするので、等価球半径rはnとdrの積で表現できる。
乾燥状態シミュレーション装置では、
(1)乾燥に伴う等価球46a内部の水分の拡散を解析し、
(2)球殻58の最外球殻59から乾燥庫41内の空気51aへ水移動量を解析し、さらに、
(3)乾燥庫41内の空気51aへの水移動によって最外球殻59の質量が減少することから、質量減少した最外球殻59の質量と最外球殻59以外の質量変動のない球殻58の質量の和とタイムステップをインクリメントする前の質量の和との比で新たな等価球半径rを解析する。
そして、(1)に戻って、新たな半径rを有する等価球内部での水の拡散を解析する。このように等価球46a内部の水分の拡散に基づいて等価球半径rを解析することで、等価球46aの乾燥による収縮が解析可能であり、水分を含んで厚みを有する果実やキノコあるいは野菜等の食品あるいは肉や魚が収縮しながら乾燥される状態を精度高くシミュレートすることが可能である。
本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置では、解析の1つのタイムステップ中で、乾燥庫入口空気51が乾燥庫41内に流入して被乾燥物46を乾燥させて湿気を帯びた後、乾燥庫出口空気47として乾燥庫41から排出され外気48を取り込み排出空気49を放出してヒーター43で温められるまでを実行する。そして、タイムステップを1つインクリメントして乾燥庫入口空気51として再度乾燥庫41内流入する。
したがって、乾燥庫41の空気51aは被乾燥物46の乾燥前であれば空気51aに相当し、乾燥後であれば乾燥庫出口空気47に相当する。
【0015】
次に、果実やキノコあるいは野菜等の食品あるいは肉や魚の乾燥状態の経時変化について図3及び図4を参照しながら説明する。
図3は、水分を含む食品を被乾燥物とした場合の乾燥に伴う含水率[質量%]の理想的な経時変化を示す概念図である。
図3において、符号52で示されているのが被乾燥物の含水率曲線であり、縦軸は左側の含水率[質量%]が対応している。この曲線では初期の含水率を100質量%として、その後の乾燥工程での減少の変化を表現している。また、符号55で示されているのは被乾燥物温度曲線であり、縦軸は右側の被乾燥物温度[℃]が対応している。
また、横軸はすべての曲線に共通の時間であり、右に向かって進んでいる。上部に示されるギリシャ数字はIが材料予熱期、IIが恒率乾燥期、IIIが減率乾燥1期、IVが減率乾燥2期と呼ばれる乾燥過程を示している。
材料予熱期(I)では、水分を含んで湿潤な材料(被乾燥物)が温・湿度一定の定常乾燥条件下におかれると、その温度は乾燥条件と平衡した温度に到達する。そして周囲の空気から熱を受けるときは、被乾燥物の温度(品温)は近似的にその周囲空気の湿球温度となる。その温度に到達するまでが材料予熱期である。この材料予熱期では周囲空気によって水分が失われ始めるため含水率曲線52が下降する。一方、被乾燥物温度曲線55は周囲空気の湿球温度となる。
【0016】
次に、恒率乾燥期(II)は被乾燥物の表面に水(自由水)のある状態であり、この期間では品温(被乾燥物温度曲線55)は湿球温度と近似してほぼ一定にあり、受熱はすべて水分蒸発に使用されるので、含水率曲線52は一定速度で減少する。
被乾燥物の表面に水分が不足して内部からの水分(間隙水)移動、内部拡散が蒸発に追い付かなくなっていくが、それが減率乾燥1期(III)である。恒率乾燥期と減率乾燥1期の境界における含水率が限界含水率53であり、この減率乾燥1期では、含水率曲線52の傾きが緩やかになり下降してくる。また、被乾燥物温度曲線55は徐々に上昇していく。
さらに、被乾燥物の組織の内部にある特に繊維質のような固い組織内部では水分(分子水、膠状水)移動が遅いため、含水率曲線52の傾きはさらに緩やかになり、被乾燥物温度曲線55の傾きも緩やかになる。ただし、すぐに含水率は0に近づくことはなく時間を要するが、乾燥条件と平衡した平衡含水率54に到達する。この時期を減率乾燥2期(IV)という。
【0017】
次に、図4を参照しながら被乾燥物の乾燥状態に影響を与える乾燥庫入口空気の乾球温度と湿球温度の推移について説明する。
図4は、水分を含む食品を被乾燥物とした場合の乾燥に伴う乾燥庫入口空気の乾球温度と湿球温度の理想的な経時変化を示す概念図である。
図4において、符号56で示されているのが乾燥庫入口乾球温度曲線であり、符号57で示されているのが乾燥庫入口湿球温度曲線である。時間を横軸、温度[℃]を縦軸としている。これらの曲線で表現される温度は、それぞれ前述の乾球温度データ27と湿球温度データ28となる。なお、図4にも図3で示した限界含水率53と平衡含水率54に対応する乾球温度と湿球温度を同じ符号で示している。
また、図4の材料予熱期(I)では、乾球温度も湿球温度も上昇し、恒率乾燥期(II)では、乾球温度も湿球温度も略一定に制御される。前述のとおり、恒率乾燥期では自由水の蒸発のために熱量が使用されるので、品温(被乾燥物温度曲線55)は湿球温度と近似してほぼ一定となる。よって、図3の被乾燥物温度曲線55と図4の乾燥庫入口湿球温度曲線57は略一致することになる。
【0018】
次に、減率乾燥1期(III)では、湿球温度は恒率乾燥期と同様に一定であるものの乾球温度は上昇する。これは乾球温度を上げて湿球温度との差を広げることで相対湿度を下げて限界含水率53に到達して蒸発する水分量が少なくなった被乾燥物からの蒸発を促進させるためである。
また、湿球温度を一定としているのは酸化酵素の活性を維持するためである。乾球温度と湿球温度の差を広げて相対湿度を下げる場合には、例えば乾球温度を一定として湿球温度を下げることも考えられるが、その場合は酵素の活性が弱まってしまうので望ましくない。また、湿球温度を逆に上げてしまうと酵素が失活してしまうので、酵素の機能がまだ発揮されている減率乾燥1期では湿球温度を一定にしておくことが望ましい。
さらに、被乾燥物内部の水分が減少し、いわゆる膠状含水率に到達した場合には、もはや酵素機能は不要であり、次の減率乾燥2期(IV)に遷移していく。この減率乾燥2期では、徐々に平衡含水率54に近づいてくるので乾燥の速度を下げていく。乾球温度の上昇率は鈍り、湿球温度も少し上昇させることで、被乾燥物の温度が上昇している場合に加える熱量を抑制することが可能となり、熱効率を高めることが可能である。
【0019】
図5を参照しながら、本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置1について説明する。図5は本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置のシステム構成図である。
本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置は、乾燥庫内で被乾燥物を温風によって乾燥させる場合の乾燥状態、特に式(a)で示される重量歩留まり[質量%]の経時変化をシミュレーション可能とするものである。式(b)は図3を参照して説明した含水率を含めるように変形した重量歩留まりの式である。なお、いずれの式にも含まれる添え字の0は初期値を表している。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
図5において、乾燥状態シミュレーション装置1は、主として、入力部2、出力部3、解析部4に加え、データベース群として被乾燥物データベース5、乾燥庫内データベース6及び解析データベース7から構成されている。なお、図5を説明する際には、既に他の図で示された構成要素については図5に含まれていない場合でも、その符号を付したまま構成要素を説明する場合もある。また、図5以降の図を用いて説明する場合も同様である。
解析部4は被乾燥物解析部8、乾燥庫内解析部9、水移動量解析部10及び水分内部拡散解析部11から構成されており、解析データベース7には解析部4で使用される解析時間上限データ35、解析時間刻みデータ36及び解析結果表示刻みデータ37が読み出し可能に格納されている。なお、解析時間刻みデータ36とは解析においてインクリメントされる時間単位であるタイムステップ(dt[s])を意味している。
また、被乾燥物データベース5には、被乾燥物46に関して予め設定される初期値や解析部4による計算結果に関するデータが格納され、乾燥庫内データベース6には乾燥庫41内で乾燥に供する空気51a(乾燥庫入口空気51及び乾燥庫出口空気47)やヒーター43や送風機等の構成物に関するデータが格納されている。
【0023】
乾燥状態シミュレーション装置1の入力部2は、解析部4で使用される種々データを被乾燥物データベース5、乾燥庫内データベース6及び解析データベース7に格納するために用いられるものである。また、解析中に必要なデータも入力部2を介して解析部4に入力可能となっている。
入力部2の具体例としては、キーボード、マウス、ペンタブレット、光学式の読取装置あるいはコンピュータ等の解析装置や携帯端末等から通信回線を介してデータを受信する受信装置など複数種類の装置のいずれでもあるいは組み合わせでもよく、目的に応じて使い分け可能な装置の採用も考えられる。また、乾燥状態シミュレーション装置1への入力に対するインターフェースのようなものであってもよい。
また、出力部3は、解析部4から計算や解析途中における評価・判断の結果、データ入力を促すための入力画面(インターフェース画面)等の情報について、あるいは各データベースからデータを読み出して外部へ出力するものである。具体的にはCRT、液晶、プラズマあるいは有機ELなどによるディスプレイ装置、あるいはプリンタ装置などの出力装置、さらには外部装置への伝送を行うためのトランスミッタなどの発信装置などが考えられる。もちろん、外部装置への伝送のための出力に対するインターフェースのようなものであってもよい。
なお、被乾燥物データベース5、乾燥庫内データベース6及び解析データベース7は図5では解析部4とのみ接続されているように示されているが、解析部4によらず、入力部2から直接これらのデータベースに入力できてもよいし、逆にこれらのデータベースから直接出力部3に出力できてもよい。
【0024】
乾燥状態シミュレーション装置1は、既に述べたとおりデータベースとして、被乾燥物データベース5、乾燥庫内データベース6及び解析データベース7の3つのデータベースを備えているが、以下、これらのデータベースに格納されるデータについてそれぞれ具体的に説明する。
被乾燥物データベース5には、目標重量歩留まりデータ12が格納されている。この目標重量歩留まりデータ12とは、解析部4の被乾燥物解析部8で計算される重量歩留まり[%]の目標値に関するデータであり、この目標値に到達した場合に被乾燥物解析部8は重量歩留まりの計算を終了するものである。
また、質量データ13とは乾燥庫41に収容される被乾燥物46全体の初期の質量[kg]であり、数量データ14とは被乾燥物46の数を示しており、初期含水率データ15とは乾燥庫41に収容された被乾燥物46の初期の含水率[質量%]である。これらはいずれも設定値であるが、測定値を設定値としてもよい。
被乾燥物密度データ16は被乾燥物46の密度[kg/m3]に関するデータであり、初期の設定値とタイムステップ毎の解析によって更新されるデータの両方を含むものである。等価球半径データ17は図2を参照して説明した等価球半径r[m]に関するデータであり、この等価球半径データ17も初期の設定値とタイムステップ毎の解析によって更新されるデータの両方を含むものである。
被乾燥物温度データ18は被乾燥物46の表面温度(品温)[℃]であり、初期の設定値とタイムステップ毎の解析によって更新されるデータの両方を含むものである。
この被乾燥物温度データ18に対する理想的な値としての想定は被乾燥物温度曲線55となる。さらに、既に説明したとおり、材料予熱期(I)の後半から恒率乾燥期(II)にかけては理想的には乾燥庫入口湿球温度曲線57と同一となり、減率乾燥1期(III)では乾燥庫入口湿球温度曲線57を上回る温度となる(図3及び図4参照)。
【0025】
被乾燥物-乾燥庫内水移動量データ19は被乾燥物46と乾燥庫41内の空気51aとの間での単位時間・単位表面積当たりの水移動量[kg/m2/s]であり、すなわち被乾燥物46から蒸発する単位時間・単位表面積当たりの水分量である。この被乾燥物-乾燥庫内水移動量データ19は設定される初期値はなく、タイムステップ(dt)毎の解析によって得られる数値となる。
水分内部拡散データ20は被乾燥物46の内部で単位体積中に拡散する水分量[kg/m3]である。この水分内部拡散データ20も初期値はなく、タイムステップ(dt)毎の解析によって得られる数値となる。
被乾燥物最外球殻-乾燥庫内水移動量データ21は等価球46aの最外球殻59と乾燥庫41内の空気51aとの間での単位体積における水移動量[kg/m3] である。被乾燥物最外球殻-乾燥庫内水移動量データ21も同様に初期値はなく、タイムステップ(dt)毎の解析によって得られる数値となる。
重量歩留まりデータ22は前述の式(a)で表され、被乾燥物46が乾燥に伴う水分蒸発によって初期の質量からどの程度減少して質量が残存しているかという質量残存率[質量%]のデータである。したがって、初期値は100%である。
【0026】
次に、乾燥庫内データベース6に読み出し可能に格納される個々のデータについて説明する。
まず、湿り空気線図計算データ23は、いわゆる湿り空気線図に示された乾球温度、湿球温度、飽和水蒸気圧、相対湿度、絶対湿度、比エンタルピ、比容積、露点等、湿り空気(水蒸気を含んだ空気)の状態値について、いずれか2つの状態値がわかると、他の状態値が計算可能なように構成された計算データである。この湿り空気線図計算データ23は一対の状態値毎に他の状態値のデータが対応するようなデータベース様のものでもよいし、一対の状態値毎に他の状態値が関数として与えられるような数式様のものでもよい。
乾燥庫データ24は図1に示される乾燥庫41内の容量計算に用いられる寸法に関するデータ、ヒーターデータ25は図1に示される乾燥機40内に設置されるヒーター43の加熱量[W]に関するデータ、送風機データ26は乾燥機40内に設置される送風機によって送風される際の風速に関するデータの他、ダンパ42によって交換される外気48と排出空気49の割合に関するデータを含んでいる。なお、この送風機データ26における風速[m/s]は乾燥庫データ24を用いることで風量[m3/s]に換算することが可能である。
また、ヒーターデータ25及び送風機データ26は予め設定されるデータであるが、解析の途中で変化するように設定することも可能である。
【0027】
次に、乾球温度データ27と湿球温度データ28は既に説明したとおり、それぞれ乾燥庫41への入口温度としての乾燥庫入口空気51の乾球温度[℃]と湿球温度[℃]であり、それぞれ初期値とタイムステップ(dt)毎の解析によって得られる数値の両方ある。
相対湿度データ29は、乾球温度データ27における飽和水蒸気圧を湿り空気線図計算データ23を用いて計算し、湿球温度データ28とその湿球温度データ28における飽和水蒸気分圧から乾球温度データ27における水蒸気分圧を計算して、乾球温度データ27における水蒸気分圧と飽和水蒸気圧の比として計算される。詳細には計算式を示して後述する。
熱伝導率データ30、比熱データ31及び空気密度データ32は、それぞれ乾燥庫41内に流入する乾燥庫入口空気51の熱伝導率、比熱及び密度に関するデータであり、飽和水蒸気と乾き空気の熱伝導率、比熱及び密度を用いて計算される。
無次元数データ33は、乾燥庫入口空気51のプラントル数Pr、シュミット数Sc、レイノルズ数Re、シャーウッド数Sr、ヌッセルト数Nu等の無次元数である。
【0028】
次に、解析データベース7に読み出し可能に格納される個々のデータについて説明する。
解析時間上限データ35は解析部4による解析時間の上限に関するデータであり、このデータによって解析部4による解析が停止される。
解析時間刻みデータ36は前述のとおり解析部4による収束計算を行う際にインクリメントされるタイムステップ(dt)に関するデータである。
解析結果表示刻みデータ37は解析部4で実行された解析結果を示すための時間間隔に関するデータである。解析時間刻みデータ36におけるタイムステップは微小時間であり、そのタイムステップ毎に解析結果を表示すると大量なデータが表示され煩雑となるため、それよりも長い時間の間隔で表示して見やすくまた解析の効率化を図るものである。
【0029】
乾燥状態シミュレーション装置1の解析部4における解析内容について図5に加えて図6を参照しながら説明する。図6は本発明の実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション方法のフロー図である。
本図は、本願発明の乾燥状態シミュレーション方法及び乾燥状態シミュレーションプログラムに対してはその実行工程を表すものでもあり、この図を参照しながら乾燥状態シミュレーション装置1の解析部4による解析・データ処理の流れを説明することは乾燥状態シミュレーション装置1の実施の形態に対する説明の他、乾燥状態シミュレーション方法及び乾燥状態シミュレーションプログラムの実施の形態について説明することと同義である。なお、図6において、「S」で示す工程に関する記載を囲むようにして破線で示しているのは図5に示される乾燥状態シミュレーション装置1の構成要素であり、符号を同一としている。
図5に示される解析部4の被乾燥物解析部8では被乾燥物46の乾燥状態に関する解析を行い、乾燥庫内解析部9では乾燥庫41内に流入する乾燥庫入口空気51の状態に関する解析を行う。また、水移動量解析部10では被乾燥物46と乾燥庫41に流入する乾燥庫入口空気51との間で移動する水分量の解析を行い、水分内部拡散解析部11では被乾燥物46の内部での水分量の拡散についての解析を行うものである。
具体的には、図6を参照しながら解析の手順を説明しつつ、それぞれの解析部についての説明を行う。
【0030】
図6において、ステップS1は初期条件入力工程である。
このステップS1では、被乾燥物解析部8と乾燥庫内解析部9は、ステップS1以降の解析を行うにあたって予め必要な解析条件や初期設定値を被乾燥物データベース5、乾燥庫内データベース6及び解析データベース7から読み出す。
具体的には、被乾燥物解析部8は被乾燥物データベース5に格納されている目標重量歩留まりデータ12、質量データ13、数量データ14、初期含水率データ15、初期の被乾燥物密度データ16及び解析データベース7に格納されている解析時間上限データ35、解析時間刻みデータ36及び解析結果表示刻みデータ37を読み出す。初期の被乾燥物密度データ16とは簡易に水の密度を採用している。
また、乾燥庫内解析部9は乾燥庫内データベース6に格納されている湿り空気線図計算データ23、乾燥庫データ24、ヒーターデータ25、送風機データ26、乾球温度データ27及び解析データベース7に格納されている解析時間上限データ35、解析時間刻みデータ36及び解析結果表示刻みデータ37を読み出す。
次に、ステップS2は等価球半径計算工程であり、被乾燥物解析部8が等価球46aの半径rの計算を行い、計算結果として得られた半径rを等価球半径データ17として被乾燥物データベース5に読み出し可能に格納する。
また、初期の等価球46aの半径rは概算として、例えば、被乾燥物解析部8は被乾燥物データベース5に格納されている質量データ13を数量データ14で除して1個当たりの被乾燥物46の質量[kg]を求め、乾燥前の被乾燥物46に想定される初期含水率データ15を掛け、水の密度[kg/m3](初期の被乾燥物密度データ16)で割り、球の体積[m3]として求め、その半径を初期の等価球46aの半径r[m]とする。初期の含水率は被乾燥物46の種類によって異なるので被乾燥物46に応じて適宜設定しておくとよい。
ステップS3は乾球温度での飽和水蒸気圧・飽和水蒸気量計算工程であり、乾燥庫内解析部9が式(1)に基づいて乾燥庫入口空気51の乾球温度における飽和水蒸気圧(eT[hPa])、及び式(2)に基づいて乾燥庫入口空気51の乾球温度における飽和水蒸気量(aT[kg])を計算する。なお、式(1)及び後述する式(3)はTetensの式と呼ばれるものである。式(1)~(3)はいずれも湿り空気線図計算データ23に含まれている。
式(1)、(2)において、T[℃]は乾燥庫入口空気51の乾球温度データ27を用いる。
【0031】
【数3】
【0032】
【数4】
【0033】
ステップS4は湿球温度、湿球温度での飽和水蒸気圧・飽和水蒸気量計算工程であり、乾燥庫内解析部9が式(3)に基づいて乾燥庫入口空気51の湿球温度における飽和水蒸気圧(eTw[hPa])の計算、式(4)に基づいて乾燥庫入口空気51の湿球温度における飽和水蒸気量(aTw[kg])の計算を行う。また、式(5)に基づいて乾燥庫入口空気51の湿球温度(Tw[℃])の計算を行い、計算結果を湿球温度データ28として乾燥庫内データベース6に読み出し可能に格納する。式(5)におけるPw[hPa]は乾燥庫入口空気51の水蒸気分圧である。式(4)及び(5)も湿り空気線図計算データ23に含まれている。
【0034】
【数5】
【0035】
【数6】
【0036】
【数7】
【0037】
ステップS5は水蒸気分圧計算工程であり、乾燥庫内解析部9が式(6)に基づいて乾燥庫入口空気51の水蒸気分圧(Pw[hPa])の計算を行う。
なお、式(3)から式(6)は、それぞれ乾燥庫入口空気51の湿球温度における飽和水蒸気圧eTw、乾燥庫入口空気51の湿球温度における飽和水蒸気量aTw、乾燥庫入口空気51の湿球温度Tw、乾燥庫入口空気51の水蒸気分圧Pwの4つの変数を含んでおり、ステップS4とステップS5は式(3)~(6)を用いて収束計算が実行され、それぞれが求められる。式(6)も湿り空気線図計算データ23に含まれている。
【0038】
【数8】
【0039】
ステップS6は相対湿度計算工程であり、乾燥庫内解析部9が式(7)に基づいて乾燥庫入口空気51の相対湿度(φ[%])の計算を行い、計算結果を相対湿度データ29として乾燥庫内データベース6に読み出し可能に格納する。
【0040】
【数9】
【0041】
ステップS7は乾燥庫内空気の物性値計算工程であり、乾燥庫内解析部9が式(8)に基づいて乾燥庫入口空気51の熱伝導率(k[W/m/K])、式(9)に基づいて乾燥庫入口空気51の比熱(Cp[J/kg/K])、式(10)に基づいて乾燥庫入口空気51の密度(ρ[kg/m3])を計算し、それぞれ熱伝導率データ30、比熱データ31、空気密度データ32として乾燥庫内データベース6に読み出し可能に格納する。
式(8)において、kw[W/m/K]は水蒸気の熱伝導率、kair[W/m/K]は乾き空気の熱伝導率である。式(9)において、Cpw[J/kg/K]は水蒸気の比熱、Cpair[J/kg/K]は乾き空気の比熱である。式(10)において、ρw[kg/m3]は水蒸気の密度、ρair[kg/m3]は乾き空気の密度である。式(8)~(10)もそれぞれの式に含まれる物性値と共に湿り空気線図計算データ23に含まれている。
【0042】
【数10】
【0043】
【数11】
【0044】
【数12】
【0045】
ステップS8は乾燥庫内空気の無次元数計算工程であり、水移動量解析部10が乾燥庫41の乾燥庫入口空気51と被乾燥物46との間での水移動量を式(16)を用いて計算するための無次元数を、乾燥庫内解析部9が計算する工程である。
具体的には、乾燥庫内解析部9は、式(11)に基づいて乾燥庫入口空気51のプラントル数Pr、式(12)に基づいて乾燥庫入口空気51のシュミット数Sc、式(13)に基づいて乾燥庫入口空気51のレイノルズ数Re、式(14)に基づいて乾燥庫入口空気51のシャーウッド数Srを計算し、乾燥庫内データベース6にそれぞれを無次元数データ33として読み出し可能に格納する。これらの計算では、乾燥庫内解析部9は乾燥庫内データベース6から熱伝導率データ30、比熱データ31及び空気密度データ32を読み出して行う。
式(11)、(12)において、μairは乾き空気の粘度[Pa・s]である。式(11)において、Cpは式(9)で計算した乾燥庫入口空気51の比熱、kは式(8)で計算した乾燥庫入口空気51の熱伝導率である。
式(12)において、D1[m2/s]は乾燥庫41における乾燥庫入口空気51中の水蒸気の拡散係数であり、ρは式(10)で計算した乾燥庫入口空気51の密度である。
式(13)において、v[m/s]は乾燥庫41内の乾燥庫入口空気51の流速である。この流速vは送風機データ26に含まれる送風機流量[m3/s]と乾燥庫データ24に含まれる乾燥庫41の流路断面積[m2]を、乾燥庫内解析部9が読み出して送風機流量を流路断面積で除したデータである。さらに、drは図2にも示している球殻58の厚さであり、nはその球殻58の個数である。
式(14)において、L[m]は代表長さであり本実施の形態の場合は、等価球46aの直径である。また、D2[m2/s]は本来は乾燥庫41内の乾燥庫入口空気51中の水蒸気の拡散係数とすべきであるが、空気中の水蒸気の拡散係数は被乾燥物46内部の水の拡散係数よりもかなり大きいので、本実施の形態では、被乾燥物46内部の水の拡散係数を外挿して用いている。K[m/s]は物質移動係数である。
なお、式(11)~(14)もそれぞれの式に含まれる物性値と共に湿り空気線図計算データ23に含まれている。但し、式(13)の球殻58の厚さdrと球殻58の個数であるn及び式(14)の代表長さL(等価球46aの直径)等の等価球46aに関するデータについては被乾燥物データベース5の等価球半径データ17に含まれており、乾燥庫内解析部9が読み出して、それぞれの式に入力してレイノルズ数Reとシャーウッド数Srを計算する。
【0046】
【数13】
【0047】
【数14】
【0048】
【数15】
【0049】
【数16】
【0050】
次にステップS9は、物質移動係数計算工程であり、水移動量解析部10が乾燥庫41の乾燥庫入口空気51と被乾燥物46との間での水移動量を式(16)を用いて計算するための物質移動係数K[m/s]を、乾燥庫内解析部9が式(15)に基づいて計算し、物質移動係数データ34として乾燥庫内データベース6に読み出し可能に格納する工程である。式(15)は式(14)から変形される式で、シャーウッド数Srと他の無次元数、シュミット数Sc、ヌッセルト数Nu及びレイノルズ数Reの関係式から求められている。
【0051】
【数17】
【0052】
ステップS10は、被乾燥物46と乾燥庫41内の乾燥庫入口空気51間の水移動量計算工程であり、水移動量解析部10が式(16)に基づいて第1の水移動量j[kg/m2/s]を計算し、被乾燥物データベース5に被乾燥物-乾燥庫内水移動量データ19として読み出し可能に格納する。ρは式(10)で計算した乾燥庫入口空気51の密度である。計算の際には水移動量解析部10は乾燥庫内データベース6から空気密度データ32と物質移動係数データ34を読み出して計算する。
式(16)におけるβSは表面積係数(無単位)であり、被乾燥物46の形状が球よりも著しく異なる場合に予め任意に設定可能な数値である。後述するニンジンの輪切りを用いた実施例の場合は球とみなして1としている。球体から著しく異なる場合、例えば薄い被乾燥物46の場合には、単位体積当たりの表面積が大きくなるのでjの値は1よりも大きく適宜設定するとよい。式(16)は水移動量解析部10に格納されている式である。
【0053】
【数18】
【0054】
ステップS11は被乾燥物と乾燥庫内空気の温度差計算工程であり、乾燥庫内解析部9が式(17)、(18)及び(19)に基づいて乾燥庫41の乾燥庫入口空気51の温度Tと被乾燥物46の表面温度Ta[℃]との温度差(TTw[℃])、被乾燥物46を計算する。式(18)において、dTempは、式(19)で表されるとおり、1タイムステップで上昇する被乾燥物46の温度である。式(19)において、aρ[kg/m3]が等価球46aの密度、dT[℃]が1タイムステップ(dt)前の乾燥庫入口空気51と等価球46aの温度差、j[kg/m2/s]は式(16)によって計算されて被乾燥物データベース5に格納されている被乾燥物-乾燥庫内水移動量データ19、Cpa[J/kg/K]は等価球の比熱、Va[m3]は等価球の体積を示している。
なお、乾燥庫内解析部9は式(17)~(19)に基づいて計算された被乾燥物46の表面温度Taを被乾燥物データベース5に被乾燥物温度データ18として読み出し可能に格納する。式(17)~(19)もそれぞれの式に含まれる物性値と共に湿り空気線図計算データ23に含まれている。但し、式(17)のTは乾球温度データ27として、式(19)のCpは比熱データ31として、dTは1タイムステップ前の乾球温度データ27と被乾燥物温度データ18の差分として、aρは被乾燥物密度データ16として、Vaは等価球半径データ17から計算される数値として、乾燥庫内解析部9が被乾燥物データベース5や乾燥庫内データベース6から読み出して計算するものである。
【0055】
【数19】
【0056】
【数20】
【0057】
【数21】
【0058】
ステップS12は、被乾燥物46の水分内部拡散計算工程であり、水分内部拡散解析部11が式(20-1)~(20-3)に基づき有限体積法を用いて水分内部拡散dφ[kg/m3]を計算し、被乾燥物データベース5に水分内部拡散データ20として読み出し可能に格納する。
式(20-1)~(20-3)において、D2[m2/s]は前述のとおり被乾燥物46内部の水の拡散係数であり、dtはタイムステップ、dr[m]は図2にも示している球殻58の厚さであり、dvol[m3]は球殻58の体積であり、aaρ[kg/m3]は被乾燥物46の密度であり、darea[m2]は球殻58の表面積である。但し、aaρ及びdareaにはそれぞれn,ip,imの添え字が付されており、それぞれn=i、ip=i+1、im=i-1を意味している。これらの添え字は球殻58の各々に対するaaρやdareaを意味し、球殻58毎に隣の球殻58との間での水分内部拡散を計算しているためであるが、最外球殻と最内球殻では隣のメッシュがないため、それぞれ式(20-2)と式(20-3)に示されるとおりとなる。
式(20-1)~(20-3)は式に含まれる物性値と共に水分内部拡散解析部11に格納されている。但し、D2は乾燥庫内データベース6に湿り空気線図計算データ23として、dtは解析データベース7に解析時間刻みデータ36として、dr及びdvolは被乾燥物データベース5に等価球半径データ17として含まれており、水分内部拡散解析部11がそれぞれのデータベースから読み出して計算を行う。
なお、水分内部拡散解析部11は球殻58毎に計算されたaaρも被乾燥物密度データ16の一部として読み出し可能に格納する。
【0059】
【数22】
【0060】
ステップS13は、被乾燥物46の密度更新計算工程であり、被乾燥物解析部8が式(21)に基づいて計算し、被乾燥物データベース5に被乾燥物密度データ16として読み出し可能に更新して格納する。
式(21)の右辺aaρは1タイムステップ前の被乾燥物46の密度であり、1タイムステップ中に増加する密度が右辺の第2項で、式(20)で求めたdφであり、これを加えて被乾燥物46の密度を再計算している。
【0061】
【数23】
【0062】
ステップS14は、等価球最外球殻と乾燥庫内の空気間の水移動量計算工程であり、等価球46aの最外球殻59と乾燥庫内の空気間の第2の水移動量dρ[kg/m3]は、水移動量解析部10が式(22)に基づいて計算し、被乾燥物データベース5に被乾燥物最外球殻-乾燥庫内水移動量データ21として読み出し可能に格納する。
式(22)において、j[kg/m2/s]は式(16)として計算された第1の水移動量であり、dan[m2]は等価球46aの表面積であり、dvn[m3]は等価球46aの最外球殻59の体積[m3]である。dt[s]はタイムステップであり、anumberは数量データ14である。水分内部拡散解析部11は、第1の水移動量jとして被乾燥物データベース5から被乾燥物-乾燥庫内水移動量データ19を読み出し、danとdvnも等価球半径データ17に含まれるので被乾燥物データベース5から読み出し、dtは解析データベース7から解析時間刻みデータ36を読み出し、anumberも被乾燥物データベース5から読み出して計算を行う。
【0063】
【数24】
【0064】
ステップS15は、相対湿度更新計算工程であり、相対湿度φ[%]は乾燥庫内解析部9が式(23)に基づいて計算し、乾燥庫内データベース6に相対湿度データ29として読み出し可能に格納する。式(23)の右辺φ[%]は1タイムステップ前の相対湿度であり、1タイムステップ中に増加する湿度が右辺の第2項であり、これを加えて相対湿度を再計算している。
式(23)において、dρは式(22)を用いて計算した第2の水移動量で被乾燥物データベース5に被乾燥物最外殻-乾燥庫内水移動量データ21として格納されており、avol1[m3]は等価球46a全体の体積で被乾燥物データベース5の等価球半径データ17に含まれており、aT[kg]は式(2)で求めた乾球温度での飽和水蒸気量であり、V[m3]は乾燥庫41の体積で乾燥庫内データベース6の乾燥庫データ24に含まれている。乾燥庫内解析部9はそれぞれのデータをそれぞれのデータベースから読み出して計算を行う。
【0065】
【数25】
【0066】
ステップS16は等価球半径更新計算工程であり、等価球半径r[m]は被乾燥物解析部8が式(24)及び(25)に基づいて計算し、被乾燥物データベース5に等価球半径データ17として読み出し可能に格納する。
式(24)の右辺r[m]は1タイムステップ前の半径であり、1タイムステップ中に増加する半径の係数が右辺のrの前の位置に示されており、これらの積として等価球46aの半径rを再計算している。
式(24)において、aρ[kg/m3]は等価球46aの密度であり、これは式(21)で計算した被乾燥物46の密度aaρ[kg/m3]に等しいため(式(25))、被乾燥物解析部8は、タイムステップを1つインクリメントした後のaaρとして被乾燥物データベース5の被乾燥物密度データ16を読み出して式(24)のaρに代入して計算する。また、dρ[kg/m3]は式(22)で求めた等価球最外球殻59と乾燥庫41内の空気間の水移動量なので、被乾燥物データベース5から被乾燥物最外殻-乾燥庫内水移動量データ21を読み出し、dvn[m3]は等価球46aの最外球殻59の体積、avol[m3]は等価球46aの体積であり、それぞれ被乾燥物データベース5の等価球半径データ17に含まれるので読み出して計算する。
【0067】
【数26】
【0068】
【数27】
【0069】
ステップS17は重量歩留まり計算工程であり、被乾燥物解析部8は等価球46aの質量の初期質量M[kg]に対する割合α[%]を式(27)を用いて計算し、また、その割合αの計算結果から重量歩留まりα1[%]を式(28)を用いて計算し、α1を重量歩留まりデータ22として被乾燥物データベース5に読み出し可能に格納する。
式(27)において、aaρave[kg/m3]は被乾燥物46の球殻58毎の平均密度、M[kg]は前述のとおり等価球46aの初期質量、dr[m]は図2にも示した球殻58の厚さ、nは球殻58の数である。
aaρaveは、被乾燥物解析部8によって、式(26)を用いて計算されるが、右辺の分子のaaρn[kg/m3]は球殻58毎の密度であり、ステップS12において水分内部拡散解析部11によって計算されたものを被乾燥物データベース5の被乾燥物密度データ16から読み出し、Vaa[m3]は球殻58毎の体積であり被乾燥物データベース5に等価球半径データ17の一部として格納されているので読み出し、球殻58毎に積をとって質量を求めて分母の球殻58全体の体積で除して求めている。
被乾燥物解析部8は、Mを質量データ13として、drとnを等価球半径データ17の一部のデータとして被乾燥物データベース5から読み出して計算する。
式(28)において、αw[%]は被乾燥物46の初期含水率データ15である。
【0070】
【数28】
【0071】
【数29】
【0072】
【数30】
【0073】
次に、ステップS18は重量歩留まりα1が設定値以下となったか否かの判断工程であり、被乾燥物解析部8が被乾燥物データベース5から設定値として目標重量歩留まりデータ12を読み出して、求められたα1と比較してα1が目標重量歩留まりデータ12以下であれば解析を終了し、目標重量歩留まりデータ12以下でなければステップS19に進む工程である。
ステップS19では被乾燥物解析部8が解析データベース7から設定時間として解析時間上限データ35を読み出して、解析開始からの時間と比較して、解析開始からの時間が解析時間上限データ35を経過している場合には解析を終了し、解析時間上限データ35を経過していない場合にはステップS3に戻って解析を続行する。
その際には、乾燥庫内解析部9が、ステップS15で行った相対湿度更新計算後の乾燥庫出口空気47に対して、ダンパ42による外気48の導入及び排気口44による排出空気49の放出による乾燥庫出口空気47に対するエンタルピーの減少とヒーター43によるエンタルピーの増加の計算を行うことで、dT[℃]を求める。このdTの計算をステップS19の後、タイムステップ毎に行い、式(28)に示すとおり、このdTを1タイムステップ前のTに加えて、新たなTとして、ステップS3の計算が実行される。
【0074】
【数31】
【0075】
解析終了後は、解析者からの指示を入力部2から受けることで、解析部4における解析結果やその結果として被乾燥物データベース5、乾燥庫内データベース6に格納されたデータあるいは予め解析データベース7に格納されているデータがそのままあるいはグラフや表に加工されて出力部3を介して出力・表示される。その表示の際には解析データベース7の解析結果表示刻みデータ37を読み出して、グラフにおけるプロット間隔あるいは表における欄の表示間隔に反映させることも可能である。
以上説明したとおり、本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置1では重量歩留まりの計算が実行される。また、以上の説明による各工程の説明は、乾燥状態シミュレーション方法及びコンピュータによって実行される乾燥状態シミュレーションプログラムの実施の形態を説明したことと同義である。
乾燥状態シミュレーション装置1の解析部4によって計算された結果については、解析部4を構成する被乾燥物解析部8、乾燥庫内解析部9、水移動量解析部10及び水分内部拡散解析部11によって、出力部3を介してシミュレーション結果が表示されたり、外部に出力される。その際には、解析部4を構成するそれぞれの解析部は、解析データベース7から解析結果表示刻みデータ37を読み出すことで、すべてのタイムステップ、すなわち解析時間刻みデータ36毎の計算結果を表示等したり、あるいは間引くようにして計算結果を表示するようにしてもよい。
本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置1、乾燥状態シミュレーション方法及び乾燥状態シミュレーションプログラムでは、被乾燥物46を等価球46aなる概念を導入して、内部での水分拡散、等価球46aの最外球殻59から乾燥庫41内への水移動量dρを計算し、乾燥庫41内の相対湿度φや被乾燥物46の密度aaρへの影響、さらに等価球46aの半径rの減少も考慮しながら、被乾燥物46の重量歩留まりを解析することができるため、果実やキノコあるいは野菜等あるいは肉や魚等の水分と厚みを有した食品を被乾燥物46とする場合の乾燥状態をより現実的に高精度でシミュレーションすることが可能である。
【0076】
<実施例>
次に、本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置1を用いて、ニンジンの輪切りを乾燥させた場合の乾燥状態シミュレーションを行い、重量歩留まりの変化を計算した結果について説明する。
表1にニンジンの輪切りを被乾燥物46とした乾燥状態シミュレーションの初期条件等を示す。表1と図5における乾燥状態シミュレーション装置1との対応は、質量が質量データ13、個数が数量データ14、初期含水率が初期含水率データ15、密度が被乾燥物密度データ16、等価球半径が等価球半径データ17、初期被乾燥物温度が被乾燥物温度データ18、乾燥庫容積が乾燥庫データ24、ヒーター出力がヒーターデータ25、送風機風速が送風機データ26、乾球温度が乾球温度データ27、計算上限時間が解析時間上限データ35にそれぞれ該当する。
【0077】
【表1】
【0078】
表1の条件に基づくニンジンの輪切りの乾燥状態シミュレーションによる重量歩留まりの経時変化の結果と、シミュレーションに用いたニンジンの輪切りと同等の被乾燥物を実際に乾燥庫で乾燥させる試験を行った場合の重量歩留まりの経時変化とを比較して表2に示す。乾燥試験は2回実施し、その平均値とシミュレーションの計算結果との偏差も表2に併せて示す。
さらに、実施例としての乾燥状態シミュレーションによる重量歩留まりの経時変化と試験による重量歩留まりの経時変化を併せて図7に示す。
図7において、縦軸は重量歩留まり[%]、横軸は乾燥時間[h]であり、曲線が乾燥状態シミュレーションによる重量歩留まりの経時変化α1を表し、丸点状のプロットは試験データα11、×状のプロットは試験データα12によるものを表している。
図7から実施例の乾燥状態シミュレーションによる重量歩留まりの経時変化と試験による重量歩留まりの経時変化が初期から8時間後の試験データまで概ね一致した傾向を示しており、乾燥状態シミュレーションが精度高く実行されたことが理解できる。
【0079】
【表2】
【0080】
次に、図8は本実施の形態に係る乾燥状態シミュレーション装置1を用いて被乾燥物46をニンジンの輪切りとしてその重量歩留まり[質量%]を解析した際の等価球半径の経時変化を示すグラフである。
図8において、縦軸は等価球半径[m]、横軸は乾燥時間[h]である。
このグラフから乾燥状態シミュレーションで概念された等価球46aの半径が徐々に小さくなっており、被乾燥物46内部の水分量が乾燥庫41内へ放出されることによって等価球46aが収れんする様子が理解できる。
水分を多く含んで厚みを有する果実やキノコあるいは野菜等の食品あるいは肉や魚は乾燥と同時に実際に収縮し、水分が少なくなってくると収れんすることから、図8に示す等価球46aの半径の経時変化においても現実の乾燥のメカニズムとも合致し、このこともあって図7に示される乾燥状態シミュレーションにおける重量歩留まり計算においても試験データによる重量歩留まりとよく一致しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明は被乾燥物の乾燥状態を高精度でシミュレーションし、乾燥機や乾燥制御プログラムの設計支援を可能とするため、乾燥機や乾燥システムあるいは乾燥制御装置の製造やそのプログラムの作成に広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1…乾燥状態シミュレーション装置 2…入力部 3…出力部 4…解析部 5…被乾燥物データベース 6…乾燥庫内データベース 7…解析データベース 8…被乾燥物解析部 9…乾燥庫内解析部 10…水移動量解析部 11…水分内部拡散解析部 12…目標重量歩留まりデータ 13…質量データ 14…数量データ 15…初期含水率データ 16…被乾燥物密度データ 17…等価球半径データ 18…被乾燥物温度データ 19…被乾燥物-乾燥庫内水移動量データ 20…水分内部拡散データ 21…被乾燥物最外球殻-乾燥庫内水移動量データ 22…重量歩留まりデータ 23…湿り空気線図計算データ 24…乾燥庫データ 25…ヒーターデータ 26…送風機データ 27…乾球温度データ 28…湿球温度データ 29…相対湿度データ 30…熱伝導率データ 31…比熱データ 32…空気密度データ 33…無次元数データ 34…物質移動係数データ 35…解析時間上限データ 36…解析時間刻みデータ 37…解析結果表示刻みデータ 40…乾燥機 41…乾燥庫 42…ダンパ 42a…吸気口 43…ヒーター 44…排気口 45…載荷棚 46…被乾燥物 46a…等価球 47…乾燥庫出口空気 48…外気 49…排出空気 50…混合空気 51…乾燥庫入口空気 51a…空気 52…含水率曲線 53…限界含水率 54…平衡含水率 55…被乾燥物温度曲線 56…乾燥庫入口乾球温度曲線 57…乾燥庫入口湿球温度曲線 58…球殻 59…最外球殻
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションする装置であって、同一密度及び同一厚みの層である球殻を最内球殻から最外球殻まで複数の層として形成する等価球を概念し、前記被乾燥物の密度の初期設定値と前記被乾燥物の初期質量から等価球半径の初期設定値を計算する被乾燥物解析部と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析部と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算し、この第1の水移動量を用いて前記最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する水移動量解析部と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を前記初期設定値から更新する水分内部拡散解析部と、を有し、前記被乾燥物解析部は前記第2の水移動量更新され前記密度が減少した前記最外球殻の質量と更新された前記密度による前記最外球殻以外の前記球殻の質量の和と、更新された前記密度による球殻全体の質量との比を乗じることで前記等価球半径を前記初期設定値から更新し、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算することを特徴とする乾燥状態シミュレーション装置。
【請求項2】
乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションする方法であって、同一密度及び同一厚みの層である球殻を最内球殻から最外球殻まで複数の層として形成する等価球を概念し、前記被乾燥物の密度の初期設定値と前記被乾燥物の初期質量から等価球半径の初期設定値を計算する被乾燥物解析工程と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析工程と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算する第1の水移動量解析工程と、前記第1の水移動量を用いて前記最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する第2の水移動量解析工程と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を前記初期設定値から更新する水分内部拡散解析工程と、前記第2の水移動量更新され前記密度が減少した前記最外球殻の質量と更新された前記密度による前記最外球殻以外の前記球殻の質量の和と、更新された前記密度による球殻全体の質量との比を乗じることで前記等価球半径を前記初期設定値から更新する等価球半径更新工程と、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算する重量歩留まり解析工程と、を有することを特徴とする乾燥状態シミュレーション方法。
【請求項3】
乾燥庫内に収容された被乾燥物の乾燥状態をシミュレーションするために、コンピュータによって実行されるプログラムであって、同一密度及び同一厚みの層である球殻を最内球殻から最外球殻まで複数の層として形成する等価球を概念し、前記被乾燥物の密度の初期設定値と前記被乾燥物の初期質量から等価球半径の初期設定値を計算する被乾燥物解析工程と、前記乾燥庫内の気体の環境パラメータを用いて前記被乾燥物に対する物質移動係数を計算する乾燥庫内解析工程と、前記物質移動係数を用いて前記被乾燥物と前記気体間の第1の水移動量を計算する第1の水移動量解析工程と、前記第1の水移動量を用いて前記最外球殻と前記気体間の第2の水移動量を計算する第2の水移動量解析工程と、前記被乾燥物の前記球殻毎の水分内部拡散を計算して前記密度を前記初期設定値から更新する水分内部拡散解析工程と、前記第2の水移動量更新され前記密度が減少した前記最外球殻の質量と更新された前記密度による前記最外球殻以外の前記球殻の質量の和と、更新された前記密度による球殻全体の質量との比を乗じることで前記等価球半径を前記初期設定値から更新する等価球半径更新工程と、更新された前記密度と更新された前記等価球半径を用いて前記被乾燥物の重量歩留まりを計算する重量歩留まり解析工程と、を有することを特徴とする乾燥状態シミュレーションプログラム。