(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107969
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】パワートレイン制御方法及びパワートレイン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/00 20060101AFI20240802BHJP
F16H 61/14 20060101ALI20240802BHJP
F16H 59/14 20060101ALI20240802BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20240802BHJP
F16H 59/72 20060101ALI20240802BHJP
F16H 59/74 20060101ALI20240802BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20240802BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
F02D29/00 C
F16H61/14 601Z
F16H59/14
F16H59/42
F16H59/72
F16H59/74
F16H61/02
F16H63/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012184
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慎平
【テーマコード(参考)】
3G093
3J053
3J552
【Fターム(参考)】
3G093BA02
3G093EA02
3G093FA08
3J053CA00
3J053CB26
3J053DA01
3J053DA06
3J053DA14
3J053EA01
3J053FA03
3J552MA07
3J552MA12
3J552MA26
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA70
3J552RC16
3J552UA02
3J552UA08
3J552VA32W
3J552VA34W
3J552VA43Z
3J552VA48W
3J552VC01W
3J552VC02W
(57)【要約】
【課題】走行中におけるダンパのバネ定数の変化に起因する振動を抑制する。
【解決手段】駆動源と変速機とがロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して連結され、トルクコンバータ内に、捩じれ角度に応じてバネ定数が変化し、トルクコンバータの出力軸とロックアップクラッチとの間で捩じれを許容するダンパ機構が設けられているパワートレインを制御するパワートレイン制御方法において、ロックアップクラッチが締結状態である場合に、駆動源からダンパ機構への入力トルクとしての、駆動源の出力トルクと駆動源の燃焼次数に応じたトルク振動成分の片振幅との和が、バネ定数が変化する捩じれ角度におけるトルクである変化点トルクより小さくなる駆動源の出力トルクの上限値である上限トルクを設定し、駆動源の出力トルクを上限トルク以下に制限する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と変速機とがロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して連結され、
前記トルクコンバータ内に、捩じれ角度に応じてバネ定数が変化し、前記トルクコンバータの出力軸と前記ロックアップクラッチとの間で捩じれを許容するダンパ機構が設けられているパワートレインを制御するパワートレイン制御方法において、
前記ロックアップクラッチが締結状態である場合に、
前記駆動源から前記ダンパ機構への入力トルクとしての、前記駆動源の出力トルクと前記駆動源の燃焼次数に応じたトルク振動成分の片振幅との和が、前記バネ定数が変化する捩じれ角度におけるトルクである変化点トルクより小さくなる前記駆動源の出力トルクの上限値である上限トルクを設定し、
前記駆動源の出力トルクを前記上限トルク以下に制限するトルク制限を行うことを特徴とするパワートレイン制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパワートレイン制御方法において、
前記駆動源から前記ダンパ機構への入力トルクを算出する際に、前記駆動源の出力トルクと前記駆動源の燃焼次数に応じたトルク振動成分の片振幅とを加えるだけでなく、そこから変速機オイルポンプのフリクション分のトルクであるフリクショントルクの絶対値を差し引く、パワートレイン制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載のパワートレイン制御方法において、
前記変速機の油温を取得し、
前記油温が低いほど前記フリクショントルクの絶対値を大きな値にする、パワートレイン制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載のパワートレイン制御方法において、
前記駆動源の回転速度を取得し、
前記回転速度が高いほど前記駆動源の燃焼次数に応じたトルク成分の片振幅を小さな値にする、パワートレイン制御方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のパワートレイン制御方法において、
前記出力トルク及び回転速度から定まる前記駆動源の運転点が、前記出力トルクが前記上限トルクより大かつ前記回転速度が動力伝達経路の捩じれ共振を励起する範囲であるトルク制限領域に入ったら、前記トルク制限領域に滞在する滞在時間の計測を開始し、
前記滞在時間が閾値に達したら前記トルク制限を開始する、パワートレイン制御方法。
【請求項6】
駆動源と変速機とがロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して連結され、
前記トルクコンバータ内に、捩じれ角度に応じてバネ定数が変化し、前記トルクコンバータの出力軸と前記ロックアップクラッチとの間で捩じれを許容するダンパ機構が設けられている、パワートレインを制御するパワートレイン制御装置において、
前記ロックアップクラッチが締結状態である場合に、
前記駆動源から前記ダンパ機構への入力トルクとしての、前記駆動源の出力トルクと前記駆動源の燃焼次数に応じたトルク振動成分の片振幅との和が、前記バネ定数が変化する捩じれ角度におけるトルクである変化点トルクより小さくなる前記駆動源の出力トルクの上限値である上限トルクを設定し、前記駆動源の出力トルクを前記上限トルク以下に制限するトルク制限を行う制御部を備えることを特徴とするパワートレイン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートレインの制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロックアップクラッチおよび出力軸の間において捩じれを許容するダンパを有するトルクコンバータを介して駆動源と変速機とが連結されるパワートレインが知られている。また、ダンパとして、複数種類のコイルスプリングを用いて、ロックアップクラッチが係合状態である場合の駆動源の出力トルク、すなわちダンパが捩じれる角度に応じて、ダンパにおけるバネ定数が変化するものが知られている。
【0003】
特許文献1には、上述した構成のパワートレインに関し、走行中にダンパのバネ定数が変化することによる振動の増大を抑制するために、ダンパにおけるバネ定数が変化する出力トルクよりも出力トルクが大きくなり得る運転状態において出力トルクを低減する制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、駆動源からダンパに入力されるトルクは駆動源の出力トルクだけではなく、例えば駆動源の燃焼次数のトルク変動成分もある。しかし、上記文献に記載の制御では駆動源の出力トルク以外の成分を考慮していないので、音振性能の観点から振動抑制のためにトルクダウンを行うべき状況においてトルクダウンがなされないおそれがある。つまり、上記文献の制御には、振動抑制について改善の余地がある。
【0006】
そこで本発明は、走行中にダンパのバネ定数が変化することで振動が増大し得る状況で、より確実に振動の増大を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、駆動源と変速機とがロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して連結され、トルクコンバータ内に、捩じれ角度に応じてバネ定数が変化し、トルクコンバータの出力軸とロックアップクラッチとの間で捩じれを許容するダンパ機構が設けられているパワートレインを制御するパワートレイン制御方法が提供される。この方法では、ロックアップクラッチが締結状態である場合に、駆動源からダンパ機構への入力トルクとしての、駆動源の出力トルクと駆動源の燃焼次数に応じたトルク振動成分の片振幅との和が、バネ定数が変化する捩じれ角度におけるトルクである変化点トルクより小さくなる駆動源の出力トルクの上限値である上限トルクを設定し、駆動源の出力トルクを上限トルク以下に制限するトルク制限を行う。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、走行中にダンパのバネ定数が変化することで振動が増大し得る状況で、より確実に振動の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、車両のパワートレインの概略構成図である。
【
図2】
図2は、ダンパ機構の捩じれ角度と駆動源の出力トルクとの関係の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、駆動源の出力トルクの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、ダンパ機構に入力されるトルクについて説明するための図である。
【
図5】
図5は、駆動源の出力トルクの他の例を示す図である。
【
図6】
図6は、トルク制限の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図6の制御ルーチンによって設定された上限トルクを示す図である。
【
図8】
図8は、
図7の破線円VIIIで囲んだ部分の拡大図である。
【
図9】
図9は、変形例に係る方法で設定された上限トルクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は車両のパワートレインの概略構成図である。車両はエンジンENGと、スロットルバルブTVと、変速機TMと、コントローラ100とを備える。変速機TMはトルクコンバータTCと、前後進切替機構SWMと、バリエータVAとを有する構成とされる。なお、本実施形態ではエンジンENGがガソリンエンジンの場合について説明するが、ディーゼルエンジン等の他の内燃機関であってもよい。
【0012】
エンジンENGは車両の駆動源を構成する。エンジンENGの動力は変速機TMを介して駆動輪DWへと伝達される。換言すれば、変速機TMはエンジンENGと駆動輪DWとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。
【0013】
スロットルバルブTVはエンジンENGに対して設けられる。スロットルバルブTVはエンジンENGの吸入空気量を調節する。スロットルバルブTVではスロットル開度THが低いほど弁体により吸気通路が狭くされる。スロットルバルブTVは電子制御式のスロットルバルブとされる。
【0014】
変速機TMは自動変速機であり、本実施形態ではベルト無段変速機とされる。変速機TMは変速比IPを有する。変速比IPは変速機TMの変速機構の入力回転速度を出力回転速度で除算して得られる値であり、本実施形態ではバリエータVAの変速比が変速比IPを構成する。変速機TMは例えば、ステップ的な態様で変速を行うステップ自動変速機とされてもよい。
【0015】
トルクコンバータTCは流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータTCではロックアップクラッチLUを締結することで、動力伝達効率が高められる。以下、ロックアップクラッチLUが締結された状態をロックアップ状態ともいう。
【0016】
また、トルクコンバータTCの出力軸25とロックアップクラッチLUとの間には、ロックアップクラッチLUと出力軸25との相対的な回転(以下、これを「捩じれ」ともいう。)を許容するダンパ機構24が設けられている。ダンパ機構24は、例えばバネ定数の異なる複数種類のコイルスプリングを備え、ロックアップ状態におけるエンジンENGの出力トルクに応じて(つまりダンパ機構24の捩じれ角度に応じて)ダンパ機構24全体としてのバネ定数が変化するよう構成されている。バネ定数が異なる複数種類のコイルスプリングに替えて、1つのコイルスプリング内に異なるバネ定数の部分があるバリアブルレート式のスプリングを用いてもよい。なお、上述したバネ定数が変化する構成は周知なので、詳細な説明は省略する。
【0017】
図2は、ロックアップ状態におけるダンパ機構24の捩じれ角度とエンジンENGの出力トルクとの関係の一例を示す図である。図示する通り、捩じれ角度がゼロからA[rad]までの範囲ではバネ定数がk1で、A[rad]以上になるとバネ定数がk1より大きいk2になるようにダンパ機構24は構成されている。換言すると、エンジンENGの出力トルクがT1より大きくなると、ダンパ機構24のバネ定数が変化する。
【0018】
前後進切替機構SWMはエンジンENGとバリエータVAとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。前後進切替機構SWMは、入力される回転の回転方向を切り替えることで車両の前後進を切り替える。前後進切替機構SWMは、前進レンジ選択の際に係合される前進クラッチFWD/Cと、リバースレンジ選択の際に係合される後進ブレーキREV/Bとを備える。前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bを解放すると、変速機TMがニュートラル状態、つまり動力遮断状態になる。
【0019】
バリエータVAは自動変速機構であり、プライマリプーリPRIと、セカンダリプーリSECと、プライマリプーリPRI及びセカンダリプーリSECに巻き掛けられたベルトBLTとを有するベルト無段変速機構を構成する。プライマリプーリPRIにはプライマリプーリPRIの油圧であるプライマリ圧Ppriが、セカンダリプーリSECにはセカンダリプーリSECの油圧であるセカンダリ圧Psecが、後述する油圧制御回路11からそれぞれ供給される。
【0020】
変速機TMはメカオイルポンプ21と、電動オイルポンプ22と、モータ23とをさらに有する。メカオイルポンプ21は油圧制御回路11に油を圧送する。メカオイルポンプ21はエンジンENGの動力により駆動される機械式オイルポンプである。電動オイルポンプ22はメカオイルポンプ21とともに、或いは単独で油圧制御回路11に油を圧送する。電動オイルポンプ22はメカオイルポンプ21に対して補助的に設けられる。モータ23は電動オイルポンプ22を駆動する。電動オイルポンプ22はモータ23を有して構成されると把握されてもよい。
【0021】
変速機TMは油圧制御回路11と、変速機コントローラ12とをさらに有する。油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成され、メカオイルポンプ21や電動オイルポンプ22から供給される油を調圧して変速機TMの各部位に供給する。変速機コントローラ12は変速機TMを制御するためのコントローラであり、エンジンENGを制御するためのエンジンコントローラ13と相互通信可能に接続される。エンジンコントローラ13はスロットルバルブTVのほか、燃料噴射量や点火時期を制御することでエンジンENGを制御する。エンジンコントローラ13から変速機コントローラ12には例えば、エンジンENGのトルクを表す出力トルク信号が入力される。
【0022】
エンジンコントローラ13は変速機コントローラ12とともに、車両のエンジン始動装置であるコントローラ100を構成する。コントローラ100は例えば、変速機コントローラ12、エンジンコントローラ13等の統合制御を司る統合コントローラをさらに有した構成とされてもよい。
【0023】
コントローラ100には各種センサ・スイッチを示すセンサ・スイッチ群40からの信号が入力される。センサ・スイッチ群40は例えば、車速VSPを検出する車速センサ、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ、エンジンENGの回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ、スロットル開度THを検出するスロットル開度センサ、ブレーキ液圧を検出するブレーキセンサを含む。
【0024】
センサ・スイッチ群40はさらに例えば、プライマリ圧Ppriを検出するプライマリ圧センサ、セカンダリ圧Psecを検出するセカンダリ圧センサ、プライマリプーリPRIの入力側回転速度である回転速度Npriを検出するプライマリ回転速度センサ、セカンダリプーリSECの出力側回転速度である回転速度Nsecを検出するセカンダリ回転速度センサ、変速レバーの操作位置を検出する位置センサ、変速機TMの油温を検出する油温センサを含む。回転速度Npriは例えば、プライマリプーリPRIの入力軸の回転速度であり、回転速度Nsecは例えば、セカンダリプーリSECの出力軸の回転速度である。
【0025】
変速機コントローラ12にはこれらの信号が直接入力されるか、エンジンコントローラ13等を介して入力される。変速機コントローラ12はこれらの信号に基づき変速機TMの制御を行う。変速機TMの制御はこれらの信号に基づき油圧制御回路11や電動オイルポンプ22を制御することで行われる。油圧制御回路11は変速機コントローラ12からの指示に基づき、ロックアップクラッチLU、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/B、プライマリプーリPRI、セカンダリプーリSEC等の油圧制御を行う。
次に、エンジンENGのトルク制限について説明する。
【0026】
ロックアップ状態での走行中にダンパ機構24のバネ定数が変化すると、ダンパ機構24の弾性力が変化する。この弾性力の変化に起因して振動が発生するおそれがある。特に、エンジンENGの回転速度が捩じれ共振が励起される回転数領域においては振動が大きくなる。そこで、この振動を抑制するために、上限トルクを設定してエンジンENGの出力トルクを制限することが知られている。
【0027】
図3はエンジンENGの出力トルクの一例を示す図である。図中の横軸はエンジンENGの回転速度、縦軸はエンジンENGの出力トルクをそれぞれ示している。図中の実線Aは出力トルク、実線Bは従来知られた方法による上限トルクをそれぞれ示している。トルクT1はダンパ機構24のバネ定数が変化するトルク(以下、変化点トルクT1ともいう。)である。回転速度NE1~NE2は、捩じれ共振が励起される回転速度範囲である。
【0028】
図示する通り、回転速度がNE1~NE2の範囲内では、出力トルクの上限が変化点トルクT1を超えないように制限されている。これは、捩じれ共振が励起される回転速度範囲内(NE1~NE2)でダンパ機構24のバネ定数が変化しないようにするためである。なお、NE1~NE2の範囲外で上限トルクを制限しないのは、仮に振動が発生しても共振による振動の増大が起き難いからである。
【0029】
しかし、実際の車両においてエンジンENGからダンパ機構24に入力されるのはエンジンENGの出力トルクだけではなく、エンジンENGの燃焼次数に応じたトルク振動成分(以下、「トルク振動成分Tcv」ともいう。)や、メカオイルポンプ21のフリクション分のトルク(以下、「フリクショントルクTfr」ともいう。)もある。つまり、エンジンENGからダンパ機構24に入力されるのは、
図4に示すように、エンジンENGの出力トルクTengにフリクショントルクTfrを加えたものと、トルク振動成分Tcvの片振幅(以下、単に「片振幅」ともいう。)Thaとの和(以下、これを合計トルクTtotalともいう。)ということになる。合計トルクTtotalを式で表すと式(1)のようになる。なお、フリクショントルクTfr及びトルク振動成分Tcvはシミュレーション等で予め調べておく。
Ttotal=Teng+Tfr+Tha ・・・(1)
【0030】
なお、フリクショントルクTfrは負の値なので、式(1)を絶対値で表すと式(2)のようになる。
|Ttotal|=|Teng|-|Tfr|+|Tha| ・・・(2)
【0031】
そして、合計トルクTtotalが変化点トルクT1を超えるとダンパ機構24のバネ定数が変化する。したがって、上述したようにエンジンENGの出力トルクが変化点トルクT1を超えないように制限しても、実際にダンパ機構24に入力されるトルクが変化点トルクT1を超えるおそれがある。その一例を
図5に示す。
【0032】
図5は、エンジンENGの出力トルクの他の例を示す図である。この例では、エンジン回転速度がNE1~NE2の範囲でエンジンENGの出力トルクTengが変化点トルクT1を超えることがないので、従来の方法では出力トルクTengが制限されることはない。しかし、回転速度NE3~NE2の範囲では合計トルクTtotalが変化点トルクT1を超えているので振動が増大するおそれがある。また、フリクショントルクTfrを考慮していない場合には、合計トルクTtotalが変化点トルクT1を超えていないのにトルク制限を実行してしまうおそれがある。
【0033】
そこで本実施形態では、トルク制限を適切に行うことで振動をより確実に抑制するため、以下に説明する方法によるトルク制限を行う。
【0034】
図6は、本実施形態で行うトルク制限の制御ルーチンを示すフローチャートである。この制御ルーチンは予め定められた周期で繰り返し実行される。
【0035】
ステップS100において、コントローラ100はロックアップ状態か否かを判定し、ロックアップ状態の場合はステップS110の処理を実行し、そうでない場合は今回のルーチンを終了する。
【0036】
ステップS110において、コントローラ100はエンジン回転速度がトルクダウン指令範囲にあるか否かを判定し、トルクダウン指令範囲にある場合はステップS120の処理を実行し、そうでない場合は今回のルーチンを終了する。ここでいうトルクダウン指令範囲とは、捩じれ共振が励起される回転速度範囲(上記のNE1~NE2)である。
【0037】
ステップS120において、コントローラ100はエンジンENGの上限トルクTlimupを設定する。具体的には上限トルクTlimupを式(3)により設定する。
Tlimup=T1-(Tha+Tfr) ・・・(3)
【0038】
ここで、片振幅Thaは
図5に示す通り回転速度が高くなるほど小さくなる。ただし、演算の簡略化のために一定の値(例えばトルクダウン指令範囲の片振幅Tha平均値)を用いてもよい。
【0039】
また、フリクショントルクTfrは変速機TMの油温に応じて変化するが、ここでは油温が所定温度(例えば、通常使用において到達し得る最高油温)のときの値を用いる。なお、油温に応じてフリクショントルクTfrを変化させる場合については後述する。
【0040】
ステップS130において、コントローラ100はエンジンENGの出力トルクTengが上限トルクTlimupより大きいか否かを判定し、大きい場合はタイマーによるカウントを開始してからステップS140の処理を実行し、そうでない場合は今回のルーチンを終了する。
【0041】
ステップS140において、コントローラ100はタイマーでカウントしている時間、予め設定した所定時間(閾値)を超えたか否かを判定する。当該判定は、換言するとエンジンENGの運転点がトルクダウン指令範囲かつ変化点トルクT1以上の領域に滞在している時間が所定時間に達したか否かを判定するものである。所定時間に達したらステップS150の処理を実行し、達していない場合は達するまでステップS140の処理を繰り返す。所定時間については後述する。
【0042】
ステップS150において、コントローラ100はエンジンENGの出力トルクを上限トルクTlimupに制限するトルクダウンを実行する。
【0043】
上記のステップS140において所定時間の経過を待つのは、エンジンENGの出力トルクTengが上限トルクTlimupを超えるとただちに振動が大きくなるわけではないからである。そこで本実施形態では、実際に振動が大きくなるまでに要する時間を予めシミュレーション等により調べておき、これを所定時間として用いる。なお、所定時間は、例えば1秒程度である。
【0044】
このようにトルク制限を開始する前に所定時間を設けると、トルクダウンする時間、つまり動力性能が低下する時間を短縮することができる。したがって、振動抑制のみを目的とするのであれば、ステップS140の処理は必須ではない。
【0045】
図7は、
図5と同じ状況において上記制御ルーチンによって設定された上限トルクTlimupについて説明するための図である。
図8は、
図7の破線円VIIIで囲んだ部分の拡大図である。
図8中のΔ1は回転速度がNE1のときの片振幅ThaとフリクショントルクTfrの和であり、同Δ2は回転速度がNE2のときの片振幅ThaとフリクショントルクTfrの和である。つまり、Δ1及びΔ2は式(3)のTha+Tfrである。
【0046】
図示する通り、上限トルクTlimupは回転速度が高くなるにつれて大きくなっている。これは、回転速度が高くなるほど片振幅Thaが小さくなるためである。そして、トルクダウン指令範囲(NE1~NE2)において、出力トルクTengが変化点トルクT1を超えないが、合計トルクTtotalが変化点トルクT1を超える範囲(NE3~NE2)では出力トルクTengが上限トルクTlimupにより制限されることとなる。これにより合計トルクTtotalが変化点トルクT1を超えることがなくなる。
【0047】
[変形例]
次に、上記実施形態の変形例について説明する。本変形例も上記実施形態と同様に本発明の範囲に属する。
【0048】
本変形例では、上記実施形態では一定値としていたフリクショントルクTfrに替えて、変速機TMの油温に応じたフリクショントルクTfrを用いる。これに伴い、上限トルクTlimupも変速機TMの油温に応じて変化する。
【0049】
図9は、変速機TMの油温が異なる場合の上限トルクTlimupを説明するための図である。
図10は、
図9の破線円IXで囲んだ部分の拡大図である。
図9中の合計トルクTtotal_1、フリクショントルクTfr_1、上限トルクTlimup_1は、それぞれ
図7の合計トルクTtotal、フリクショントルクTfr、上限トルクTlimupと同じものであり、このときの油温をTtm_1とする。
図9中の合計トルクTtotal_2、フリクショントルクTfr_2、上限トルクTlimup_2は、それぞれ変速機TMの油温がTtm_1より低いTtm_2のときの値である。
【0050】
オイルは油温が低いほど抵抗が大きくなるので、フリクショントルクTfrは油温が低いほど小さくなる(絶対値でいうと油温が低いほど大きくなる)。したがって、同じ回転速度で比べると、油温が低いほど式(3)のTha+Tfrが小さくなり、その分、上限トルクTlimupは大きくなる。つまり、油温がTtm_1のときの上限トルクTlimup_1に比べて、油温がTtm_2のときの上限トルクTlimup_2は大きくなる。なお、
図10中のΔ3はフリクショントルクTfr1とTfr2との差である。
【0051】
図9、10に示すように、上限トルクTlimup_2の場合には、トルクダウン指令範囲において出力トルクTengが上限トルクTlimup_2を超えることがない。換言すると、トルクダウン指令範囲において出力トルクTengが制限されることはない。
【0052】
これに対し、仮に油温Ttm_2のときにも油温Ttm_1のときのフリクショントルクTfr_1を用いると、上限トルクはTlimup_1となり、トルクダウン指令範囲内に出力トルクが上限トルクTlimup_1により制限される領域がある。つまり、本来はトルク制限の必要がない状況において出力トルクTengを制限することになる。
【0053】
上記の通り本変形例では、変速機TMの油温に応じたフリクショントルクTfrを用いて上限トルクTlimupを設定するので、不必要なトルク制限による動力性能の低下を抑制できる。
【0054】
なお、上記の実施形態及び変形例では上限トルクTlimupを算出する際に、メカオイルポンプ21のフリクション分のトルク(フリクショントルクTfr)を用いたが、演算の簡略化のため、これを省略してもよい。フリクショントルクTfrを用いない場合は、用いる場合に比べて上限トルクTlimupが小さい値になるので、出力トルクTengは制限を受けやすくなる。このため、動力性能への影響はあるものの、振動抑制という目的は果たすことができる。
【0055】
また、上記の実施形態及び変形例では、捩じれ共振が誘起される回転速度領域をトルクダウン指令範囲とし、この範囲でトルク制限を行うこととしているが、他の回転速度範囲でも同様にトルク制限を行うことを禁止するものではない。
【0056】
以上の通り本実施形態では、エンジンENG(駆動源)と変速機TMとがロックアップクラッチLUを有するトルクコンバータTCを介して連結され、トルクコンバータTC内に、捩じれ角度に応じてバネ定数が変化し、トルクコンバータTCの出力軸25とロックアップクラッチLUとの間で捩じれを許容するダンパ機構24が設けられているパワートレインを制御するパワートレイン制御方法が提供される。この制御方法では、ロックアップクラッチLUが締結状態である場合に、エンジンENGからダンパ機構24への入力トルクとしての、エンジンENGの出力トルクTengとエンジンENGの燃焼次数に応じたトルク振動成分の片振幅Thaとの和が、バネ定数が変化する捩じれ角度におけるトルクである変化点トルクT1より小さくなる出力トルクTengの上限値である上限トルクTlimup設定し、出力トルクTengを上限トルクTlimup以下に制限するトルク制限を行う。これにより、走行中にダンパ機構24のバネ定数が変化することに起因する振動を抑制できる。特に、エンジンENGの出力トルクTengだけでなく、燃焼次数に応じたトルク振動成分の片振幅Thaも考慮するので、トルク制限するべき状況でトルク制限が行われない事態を回避して、より確実に振動を抑制できる。
【0057】
本実施形態では、エンジンENGからダンパ機構24への入力トルクを算出する際に、エンジンENGの出力トルクTengとエンジンENGの燃焼次数に応じたトルク振動成分の片振幅Thaとを加えるだけでなく、そこからメカオイルポンプ(変速機オイルポンプ)21のフリクション分のトルクであるフリクショントルクTfrの絶対値を差し引く。これにより、フリクショントルクTfrを考慮しない場合に比べて上限トルクTlimupが大きくなるので、不必要にトルク制限を行うことを回避できる。
【0058】
本実施形態の変形例では、変速機TMの油温を取得し、油温が低いほどフリクショントルクTfrの絶対値を大きな値にする。つまり、フリクショントルクTfrの絶対値が大きいほど上限トルクTlimupが高くなる。これにより、エンジンENGの出力トルクTengが必要以上に制限されることによる動力性能の低下を抑制できる。
【0059】
本実施形態では、エンジンENGの回転速度を取得し、回転速度が高いほどエンジンENGの燃焼次数に応じたトルク成分の片振幅Thaを小さな値にする。これにより、トルク制限するべき状況でトルク制限が行われない事態をより確実に回避できる。
【0060】
本実施形態では、出力トルクTeng及び回転速度から定まるエンジンENGの運転点が、出力トルクTengが上限トルクTlimupより大かつ回転速度がトルクダウン指令範囲(動力伝達経路の捩じれ共振を励起する範囲であるトルク制限領域)に入ったら、当該領域に滞在する滞在時間の計測を開始し、滞在時間が閾値に達したらトルク制限を開始する。例えば、バネ定数の変化に起因する振動が発生してから、乗員が気になる程度に発達するまでの時間を閾値とすれば、トルク制限の開始タイミングを遅らせることができる。これにより、出力トルクTengが制限される時間を短くすることができるので、動力性能の低下を抑制できる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0062】
12 変速機コントローラ(制御部)、 13 エンジンコントローラ(制御部)、24 ダンパ機構、25 出力軸、 100 コントローラ(制御部)、 ENG エンジン(駆動源)、 LU ロックアップクラッチ、 TC トルクコンバータ、 TM 変速機