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特開2024-107972辛味受容体及び/又は苦味受容体の応答増強剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107972
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】辛味受容体及び/又は苦味受容体の応答増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240802BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20240802BHJP
   A23L 11/00 20210101ALN20240802BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 C
A23L27/10 C
A23L11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012187
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 名苗
(72)【発明者】
【氏名】岡本 姫佳
(72)【発明者】
【氏名】富 研一
【テーマコード(参考)】
4B020
4B047
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LC02
4B020LG01
4B020LG09
4B020LK03
4B020LK05
4B020LK06
4B020LK12
4B020LP11
4B047LB09
4B047LF02
4B047LF07
4B047LF08
4B047LF10
4B047LG06
4B047LG14
4B047LG26
4B047LG28
4B047LG40
4B047LG45
4B047LG46
4B047LG47
4B047LG48
4B047LG49
4B047LG70
(57)【要約】
【課題】
本発明は、辛味受容体や苦味受容体の応答感度を上げることができる新規な素材を提供することを目的とする。
【解決手段】
豆類由来の水溶性多糖類が、ヒトの辛味受容体活性化物質やヒトの苦味受容体活性化物質による、ヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体の応答を増強することを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆類由来の水溶性多糖類を有効成分とするヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の応答増強剤。
【請求項2】
豆類由来の水溶性多糖類が、大豆またはエンドウ豆由来である、請求項1記載の応答増強剤。
【請求項3】
さらにヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質を含有する、請求項1または2記載の応答増強剤。
【請求項4】
豆類由来の水溶性多糖類と、ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質とを併用してヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体と接触することを含む、ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の応答増強方法。
【請求項5】
豆類由来の水溶性多糖類が、大豆またはエンドウ豆由来である、請求項4記載の応答増強方法。
【請求項6】
ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数の値が正である、請求項4または5記載の応答増強方法。
【請求項7】
ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数の値が1以上である、請求項4または5記載の応答増強方法。
【請求項8】
請求項1または2記載の応答増強剤と、ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質とを併用してヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体と接触することを含む、飲食品の辛味及び/又は苦味を増強させる方法。
【請求項9】
ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数の値が正である、請求項8記載の飲食品の辛味及び/又は苦味を増強させる方法。
【請求項10】
ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数の値が1以上である、請求項8記載の飲食品の辛味及び/又は苦味を増強させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、辛味受容体及び/又は苦味受容体の応答増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの味覚には味覚受容体が関与しており、その味の表現のため様々な味覚受容体と物質に関する研究がなされてきた。基本の五味と言われる、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味にはそれぞれ対応する味覚受容体が存在する。五味の味覚受容体は舌の表面の味蕾を構成する味細胞に存在し、味物質を感知する。また五味以外にも辛味は辛味受容体により知覚される。辛味受容体は舌の内部や全身の感覚神経に発現し、温度刺激や酸によっても活性化される。酸味や塩味はイオンチャネル型の受容体で検知される。甘味、苦味、うま味は受容体で検知されたのち、Gタンパク質共役型受容体を経てシグナル伝達される。受容体の研究の進歩に伴い、これら味覚受容体を刺激する、味物質による刺激を増強する物質の研究も進められている。
例えば、塩味増強に関して、塩分の過剰摂取を予防するため、少ない塩分濃度でも塩味を強く感じる塩味増強剤について味覚受容体の応答を用いた研究が行われている。また、甘味増強に関して、糖の過剰摂取を予防するため、自然な甘味を付与する甘味料のスクリーニングに関して、こうした味覚受容体の応答を用いた研究が行われている。
【0003】
ヒトの味覚において辛味を増強する物質として、ヤマモモ抽出物(特許文献1)、ポリゴジアール及びイソチオシアネート類(特許文献2)、キナ酸又はキナ酸誘導体(特許文献3)に関する技術がある。また、苦味を増強する物質としてオタネニンジン抽出液(特許文献4)、2-O-α-D-ガラクトピラノシル-1-デオキシノジリマイシン(特許文献5)、ファゴミン(特許文献6)に関する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-78416号公報
【特許文献2】特開2020-196775号公報
【特許文献3】特開2009-072208号公報
【特許文献4】特開2022-55455号公報
【特許文献5】特開2021-136990号公報
【特許文献6】特開2021-106575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
辛味受容体、苦味受容体に対する活性化物質は、高価なものが多く、また天然物が多い故にその生産量や気候変動によって価格が乱高下しやすい。従って、食品や化粧品に大量に配合することは価格的に難しいという課題がある。
また、辛味成分や苦味成分は揮発および劣化のしやすい性質を保有し、加工及び流通の段階で減衰するという問題もある。この対策として、消費時の力価を想定し予め製造時に多く配合するという対策が取られる場合もあり、コストアップにつながっている。
その他、刺激物に分類される辛味成分や苦味成分の摂取量を制限しつつ、嗜好性の高い商品の開発技術が市場では強く望まれている。一方、強すぎる苦味は好まれないものの、適度な苦味は嗜好が多様化する中、ニーズが高まっており、ビールやお茶、コーヒーなど嗜好性の高い飲食品において求められる。
従って、本発明は、辛味受容体や苦味受容体の応答感度を上げることができる新規な素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、豆類由来の水溶性多糖類が、ヒトの辛味受容体活性化物質やヒトの苦味受容体活性化物質による、ヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体の応答を増強することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は
(1)豆類由来の水溶性多糖類を有効成分とするヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の応答増強剤、
(2)豆類由来の水溶性多糖類が、大豆またはエンドウ豆由来である、(1)記載の応答増強剤、
(3)さらにヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質を含有する、(1)または(2)記載の応答増強剤、
(4)豆類由来の水溶性多糖類と、ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質とを併用してヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体と接触することを含む、ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の応答増強方法、
(5)豆類由来の水溶性多糖類が、大豆またはエンドウ豆由来である、(4)記載の応答増強方法、
(6)ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数の値が正である、(4)または(5)記載の応答増強方法、
(7)ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数の値が1以上である、(4)または(5)記載の応答増強方法、
(8)(1)または(2)記載の応答増強剤と、ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質とを併用してヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体と接触することを含む、飲食品の辛味及び/又は苦味を増強させる方法、
(9)ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数の値が正である、(8)記載の飲食品の辛味及び/又は苦味を増強させる方法、
(10)ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数の値が1以上である、(8)記載の飲食品の辛味及び/又は苦味を増強させる方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、豆類由来の水溶性多糖類と、ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体物質とを併用してヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体と接触することにより、ヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体の応答を増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の応答増強剤)
本発明のヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の応答増強剤は、豆類由来の水溶性多糖類を有効成分とする。本発明の応答増強剤は、ヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体を活性化する物質によるヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の応答を増強することができる。
具体的には、ヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体を活性化する物質とは代表的には、苦味物質や辛味物質のことである。その他、味覚として感じる刺激はほぼないにもかかわらず辛味受容体や苦味受容体を活性化するものも含まれる。このようなものとして、例えば、カプシエイトが挙げられ、味覚として感じる刺激はほぼないが、辛味受容体を活性化する物質である。
これらの物質を細胞のヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体に接触したときに、ヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体が応答するが、この際、豆類由来の水溶性多糖類を併用することで、ヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体の応答が増強される。
本発明において、ヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体を活性化する物質は、疎水性の高いものが好ましく、疎水性の度合いはn-オクタノール/水分配係数の値を用いる。n-オクタノール/水分配係数については後述する。
【0010】
(ヒトの辛味受容体及び/またはヒトの苦味受容体)
ヒトの味蕾には基本五味を感じる甘味、酸味、苦味、うま味、塩味のそれぞれに対応する味覚受容体が存在する。味蕾は数十から数百からなる「味細胞」と呼ばれる細胞の集合体である。基本五味以外にも味覚ではないものの辛味を受容する辛味受容体が存在し、口腔内では舌の上皮の内部に、その他皮膚、気管支や消化管にも存在する。
辛味受容体であるTRPチャンネル群は、ヒトでは6つのサブファミリー、27チャネルで構成される。TRPVとして、TRPV1, TRPV2, TRPV3, TRPV4が例示され, TRMPとして、TRPM4, TRPM5, TRPM2, TRPM8が例示され, TRPAとして、TRPA1などが例示される。
苦味受容体として、TAS2Rファミリーがヒトでは25種類があり(TAS2R1、TAS2R3、TAS2R4、TAS2R5、TAS2R7、TAS2R8、TAS2R9、TAS2R10、TAS2R13、TAS2R14、TAS2R16、TAS2R38、TAS2R39、TAS2R40、TAS2R41、TAS2R42、TAS2R43、TAS2R44、TAS2R45、TAS2R46、TAS2R47、TAS2R48、TAS2R49、TAS2R50、TAS2R60)などが例示される。
【0011】
(ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質のn-オクタノール/水分配係数)
物質の性質を表すのにn-オクタノール/水分配係数(以下、logPowと称することがある。)が用いられる。オクタノールと水の2相システムにおいて、ある化合物がオクタノール相に溶解している濃度と、水に溶解している濃度の比として定義される。n-オクタノール/水分配係数の値は対象物質の水への馴染みにくさ(疎水度)を表す指標として有効である。本発明における、n-オクタノール/水分配係数の数値は、例えば、Webサイト上のデータベース「ChemSpider」(URL:http://www.chemspider.com/)でその計算値を入手することができる。
なお、n-オクタノール/水分配係数は以下の計算式により得ることができる。
n-オクタノール/水分配係数=log10(オクタノール相中の物質のモル濃度/水相中の物質のモル濃度)
【0012】
(ヒトの辛味受容体及び/またはヒトの苦味受容体の活性化物質)
本発明において、ヒトの辛味受容体及び/またはヒトの苦味受容体の活性化物質として、以下の物質が例示されるが特にこれらに限定される訳ではない。
ヒトの辛味受容体を活性化させる物質として、カプサイシン(logPow=4.27)、カプシエイト(logPow=4.51)、ジンゲロール(logPow=2.48)、ショウガオール(logPow=3.85)、ピペリン(logPow=2.66)、オイゲノール(logPow=2.20)、サンショオール(logPow=3.73)、アリルイソチオシアネート(logPow=2.15)、カルバクロール(logPow=3.28)、メントール(logPow=3.20)、シネオール(logPow=2.82)、シンナムアルデヒド(logPow=2.12)、アリシン(logPow=1.19)、ジアリルジスルフィド(logPow=3.26)、スピラントール(logPow=3.18)、オルバニル(logPow=7.69)、ノニバミド(logPow=3.43)、レシニフェラトキシン(logPow=5.70)などが例示される。
ヒトの苦味受容体を活性化させる物質として、カテキン類のエピカテキン(logPow=0.49)、エピカテキンンガレート(logPow=2.67)、エピガロカテキンガレート(logPow=2.08)、テルペノイドのフムロン(logPow=5.14)、イソフムロン(logPow=5.26)、リモニン(logPow=1.66)、ククルビタシン(logPow=3.61)、また、カフェイン(logPow=-0.13)、などが例示される。
本発明のヒトの辛味受容体及び/またはヒトの苦味受容体の活性化物質としては、n-オクタノール/水分配係数(logPow)が正の値のものが好ましく、n-オクタノール/水分配係数の値(logPow)が1以上のものがより好ましく、さらに好ましくは、1.1以上、1.5以上、1.8以上、2以上とすることもできる。上限は好ましくは8以下であり、より好ましくは7.5以下であり、さらに好ましくは、7以下、6.5以下、6以下とすることもできる。
【0013】
(豆類由来の水溶性多糖類)
本発明でいう豆類由来の水溶性多糖類とは、豆類の種子から抽出される水溶性の多糖類を指す。豆類とは特に限定されるものではないが、小豆、緑豆、ササゲ、金時豆、花豆、インゲンマメ、バタービーン、ソラマメ、エンドウ、ヒヨコマメ、イナゴマメ、ナタマメ、ルパン豆、レンズマメ、大豆、落花生、などが例示される。本発明で使用する豆類由来の水溶性多糖類としては、特に水溶性エンドウ多糖類、水溶性大豆多糖類が好ましい。
【0014】
(水溶性エンドウ多糖類)
本発明でいう水溶性エンドウ多糖類とは、エンドウ豆種子から抽出される水溶性の多糖類を指す。好ましくはエンドウ豆種子の子実部から抽出されたものであり、更に好ましくは黄色エンドウの種子から抽出されたものである。その製造法は、例えばWO2012/17682号の明細書に記載される製造例で得ることが出来る。商品名としては「FIPEA-D」(不二製油株式会社製)が例示される。
【0015】
(水溶性大豆多糖類)
本発明でいう水溶性大豆多糖類とは、大豆種子から抽出される水溶性の多糖類を指す。好ましくは大豆種子の子実部から抽出されたものであり、更に好ましくは豆腐や分離大豆蛋白などを生産する場合に副産物として生じるオカラから抽出されたものである。脱脂大豆から得られたオカラを使用するのが更に好ましい。その製造法は、例えばオカラを原料とし、アルカリ性域乃至は弱酸性域の条件下で100℃を超える温度で抽出し、固液分離することにより得られる。商品名としては「ソヤファイブ-S」(不二製油株式会社製)が例示される。
【0016】
(飲食品の辛味及び/又は苦味を増強させる方法)
本発明の応答増強剤と、ヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体の活性化物質と併用してヒトの辛味受容体及び/又はヒトの苦味受容体と接触することにより、辛味活性化物質を含む飲食品の辛味を増強したり、苦味活性化物質を含む飲食品の苦味を増強することが可能である。
本発明において、ヒトの辛味受容体の活性化物質を含む飲食品としては、特に限定はないが、カレー、麻婆豆腐、麻婆茄子、坦々麺、エビチリ、ヤンニョムチキン、トムヤムクン、ガパオライス、パッタイなどの調理品、畜肉類の加工品、キムチなどの漬物、ラー油、ソース類、シーズニングスパイス等の調味料、にんにくや生姜、ワサビ、カラシ、柚子胡椒などがチューブに充填された調味料、ルー、スープ類等を挙げることができる。
また、本発明においてヒトの苦味受容体の活性化物質を含む飲食品としては、特に限定はないが、コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、ウーロン茶、抹茶等の茶類、ワイン、ビール、ジン、ウォッカなどのリキュール類、及びそれらを用いたカクテル類、ノンアルコールビール、発泡酒、第3のビール、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)の果汁や果汁飲料や果汁入り清涼飲料、柑橘類の果肉飲料や果粒入り果実飲料等を挙げることができる。
【実施例0017】
以下に実施例を記載する。尚、例中の%は特に断らない限り重量基準を意味するものとする。
【0018】
〇官能評価サンプル
官能評価サンプルとして、一味唐辛子(エスビー食品株式会社製)の2%溶液、ノンアルコールビール(ドライゼロ:アサヒビール株式会社製)、本わさび、本からし、生にんにく、生しょうが(エスビー食品株式会社製)の10%溶液を調製した。
上記の各種風味評価サンプルに対して、水溶性大豆多糖類(ソヤファイブ-S:不二製油株式会社製)、エンドウ多糖類(FIPEA-D:不二製油株式会社製)をサンプル中1%となるように添加し、多糖類添加により辛味または苦味が増強されるかを官能評価で確認した。
【0019】
〇官能評価
各官能評価サンプルを熟練したパネラー5名で評価した。辛味、苦味の強さを豆類由来の水溶性多糖類を添加していないサンプルと比較して、以下の表1に従って評価し、パネラーの合議により評価を決定した。評価結果を表2に示した。
【0020】
(表1)
【0021】
(表2)
【0022】
これらの結果より、logPowが1以上である疎水性の高い物質において、水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類が辛味、苦味を増強する可能性が示唆された。logPowの高い物質において、味覚受容体の応答試験へ進めた。
【0023】
〇受容体の応答評価
ヒト胎児腎由来HEK293T細胞に辛味受容体(hTRPV1)を一過的に発現させ、カルシウム感受性蛍光色素Fluo4-AM(株式会社同仁化学研究所)を負荷し、サンプル投与時の細胞内カルシウム濃度の変化をマイクロプレートリーダー(FlexStation III、モレキュラーデバイスジャパン株式会社製)で測定した。
データは、相対値(ΔF/F0)=(サンプル投与後の最大蛍光値Fmax-サンプル投与前の平均蛍光値F0)/サンプル投与前の平均蛍光値F0)で示した。
多糖類単体が持つ細胞応答の影響を考慮し、多糖類を添加しない場合の応答の1.1倍以上の応答強度が見られた場合、受容体応答が増強されたと判断した。
【0024】
(実施例1~2、比較例1~2)カプサイシン(logPow=4.27)に対するヒトの辛味受容体の応答評価
ヒトの辛味受容体の活性化物質として、0.01 μMカプサイシン(CAP:トウガラシの辛味成分)を使用した。カプサイシンと共に添加した多糖類は、水溶性大豆多糖類(SSPS)1%、水溶性エンドウ多糖類(PPS)0.1%及び1%、プルラン(PUL)1%、デキストリン(DEX)1%である。
また、多糖類自体が細胞応答に影響しない濃度を決定するため、多糖類単体を投与した際の細胞応答を確認した。また得られた刺激応答がhTRPV1由来であることを確認するため、hTRPV1阻害剤であるカプサゼピン(CPZ)を30 μM投与した。多糖類単体のhTRPV1の応答強度の結果を表3に示した。また、多糖類と辛味物質と併用した際のhTRPV1の応答強度の結果を表4に示した。
【0025】
(表3)活性化物質がない状態で、多糖類単体のhTRPV1の応答強度(N=4)
【0026】
(表4)カプサイシンと多糖類を併用した際のhTRPV1の応答強度(N=8)
【0027】
カプサイシンによるヒトの辛味受容体への応答が、水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類の添加により増強されることが認められた。
【0028】
(実施例3~4、比較例3~4)ピペリン(logPow=2.66)に対するヒトの辛味受容体の応答評価
辛味物質として、10 μM ピペリン(PIP:コショウの辛味成分)を使用した以外は実施例1と同様に評価した。応答強度の評価結果を表5に示した。
【0029】
(表5)ピペリンと多糖類を併用した際のhTRPV1の応答強度(N=8)
【0030】
ピペリンによるヒトの辛味受容体への応答が、水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類の添加により増強されることが認められた。プルラン、デキストリンの添加ではヒトの辛味受容体への応答が変化せず、効果がなかった。
【0031】
(実施例5、比較例5)エピカテキンガレート(logPow=2.67)に対するヒトの苦味受容体の応答評価
ヒト胎児腎由来HEK293T細胞にヒトの苦味受容体(hTAS2R39)とGタンパク質を一過的に発現させ、実施例1に記載の方法でカルシウム濃度の変化を測定した。
ヒトの苦味受容体の活性化物質としてエピカテキンガレート(ECg)は300 μMを使用した。エピカテキンガレート共に添加した多糖類は、水溶性大豆多糖類(SSPS)0.3%、プルラン(PUL)1%、デキストリン(DEX)1%である。また多糖類自体が細胞応答に影響しない濃度を決定するため、多糖類単体を投与した際の細胞応答を確認した。多糖類単体のhTAS2R39の応答強度の結果を表6に示した。また、多糖類とヒトの苦味受容体の活性化物質と併用した際のhTAS2R39の応答強度の結果を表7に示した。
【0032】
(表6)活性化物質がない状態で、多糖類単体のhTAS2R39の応答強度(N=4~8)
【0033】
(表7)エピカテキンガレートと多糖類を併用した際のhTAS2R39の応答強度(N=8)
【0034】
エピカテキンンガレートによるヒトの苦味受容体への応答が、水溶性大豆多糖類の添加により増強されることが認められた。
【0035】
(実施例6~7、比較例6~7)エピガロカテキンガレート(logPow=2.08)に対するヒトの苦味受容体の応答評価
ヒトの苦味受容体の活性化物質としてエピガロカテキンガレート(EGCg)は300 μMを使用した。エピガロカテキンガレート共に添加した多糖類は、水溶性大豆多糖類(SSPS)0.3%、水溶性エンドウ多糖類(PPS)0.01%、プルラン(PUL)1%、デキストリン(DEX)1%である。応答強度の評価結果を表8に示した。
【0036】
(表8)エピガロカテキンガレートと多糖類を併用した際のhTAS2R39の応答強度(N=8)
【0037】
エピガロカテキンガレートによるヒトの苦味受容体への応答が、水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類の添加により増強されることが認められた。プルラン、デキストリンの添加ではヒトの苦味受容体への応答が増強せず、効果がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
これまで明らかでなかったヒトの辛味受容体、ヒトの苦味受容体の刺激応答を増強する方法を発見し、ヒトの辛味受容体の活性化物質やヒトの苦味受容体の活性化物質を増やすことなく効率的にヒトの辛味受容体やヒトの苦味受容体への応答を増強することができる。