(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107975
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】診断システム及び診断方法
(51)【国際特許分類】
H04L 43/12 20220101AFI20240802BHJP
【FI】
H04L43/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012195
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】福島 直人
(72)【発明者】
【氏名】新留 光治
(57)【要約】
【課題】診断テスターと車載システムとがダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を行う場合であっても、車載カメラからの映像データを診断テスターへストリーミング転送可能とする。
【解決手段】診断テスター10は、ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を用いて、自身の接続先情報を与えるとともに、ダイアグ通信とは異なる通信であって、診断テスター10との直接的な通信経路を介した通信を行うように、第3ECU23に要求する。この要求に応じて、第3ECU23は、診断テスター10の接続先情報に基づいて、診断テスター10と直接的に通信を行うことが可能な通信経路を定め、当該通信経路を介して、診断テスター10に車載カメラ25の映像データのストリーミング転送を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断テスター(10)と、車両に搭載された少なくとも1つの制御装置(21~24)を含む車載システム(20)とを備える診断システムであって、
前記診断テスターは、前記車載システムと所定のダイアグ通信規格に従う通信を行うように構成され、
少なくとも1つの前記制御装置は、車載カメラ(25)からの映像データを入力するように構成され、
前記診断テスターは、前記ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を用いて、前記診断テスターの接続先情報を与えるとともに、前記ダイアグ通信とは異なる通信であって、前記診断テスターと直接的な通信経路を介した通信を行うように、少なくとも1つの前記制御装置に要求するものであり、
少なくとも1つの前記制御装置は、前記診断テスターからの直接的な通信経路を介した通信の実行要求に応じて、前記診断テスターの接続先情報に基づいて、前記診断テスターと直接的に通信を行うことが可能な通信経路を定め、当該通信経路を介して、前記診断テスターに前記車載カメラの映像データのストリーミング転送を行う、診断システム。
【請求項2】
前記車載システムは、複数の前記制御装置(21~24)を含み、
複数の前記制御装置の内の1つの制御装置は、前記診断テスターと他の前記制御装置とのダイアグ通信規格に従う通信を中継するゲートウェイ制御装置(21)であり、
前記診断テスターと少なくとも1つの前記制御装置との直接的な通信は、前記ゲートウェイ制御装置によって中継されることなく実行される、請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
少なくとも1つの前記制御装置は、前記診断テスターの接続先情報に基づく通信経路を介して、自身の接続先情報を前記診断テスターに送信し、
前記診断テスターと少なくとも1つの前記制御装置は、互いの接続先情報に基づいて相互に通信を行うことにより、直接的に通信を行うことが可能な通信経路を確立する、請求項1に記載の診断システム。
【請求項4】
少なくとも1つの前記制御装置は、前記診断テスターからの直接的な通信の実行要求に応じて、前記車載カメラの映像データのストリーミング転送を開始する、請求項1乃至3のいずれかに記載の診断システム。
【請求項5】
少なくとも1つの前記制御装置は、前記診断テスターからの直接的な通信の実行要求とは別に、前記診断テスターから送信される転送要求に応じて、前記車載カメラの映像データのストリーミング転送を開始する、請求項1乃至3のいずれかに記載の診断システム。
【請求項6】
少なくとも1つの前記制御装置は、前記診断テスターから、ダイアグ通信規格に従う通信を用いて送信される、直接的な通信経路の遮断要求に応じて、前記診断テスターとの直接的な通信経路を遮断する、請求項1乃至3のいずれかに記載の診断システム。
【請求項7】
少なくとも1つの前記制御装置は、前記診断テスターから、直接的な通信経路を介して送信される、直接的な通信経路の遮断要求に応じて、前記診断テスターとの直接的な通信経路を遮断する、請求項3に記載の診断システム。
【請求項8】
前記診断テスターと前記車載システムとは、有線又は無線にて通信する、請求項1乃至3のいずれかに記載の診断システム。
【請求項9】
診断テスター(10)を用いて、車両に搭載された少なくとも1つの制御装置(21~24)を含む車載システム(20)の診断を行う診断方法であって、
前記診断テスターと前記車載システムとは、所定のダイアグ通信規格に従う通信を行うように構成され、
少なくとも1つの前記制御装置は、車載カメラ(25)からの映像データを入力するように構成され、
前記診断テスターから、前記ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を用いて、前記診断テスターの接続先情報を与えるとともに、前記ダイアグ通信とは異なる通信であって、前記診断テスターと直接的な通信経路を介した通信を行うように、少なくとも1つの前記制御装置に要求するステップと、
少なくとも1つの前記制御装置において、前記診断テスターからの直接的な通信の実行要求に応じて、前記診断テスターの接続先情報に基づいて、前記診断テスターと直接的に通信を行うことが可能な通信経路を定め、当該通信経路を介して、前記診断テスターに前記車載カメラの映像データのストリーミング転送を行うステップと、を備える診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、診断テスターと、車両に搭載された少なくとも1つの制御装置を含む車載システムとを備える診断システム、及び診断テスターを用いて、車両に搭載された少なくとも1つの制御装置を含む車載システムの診断を行う診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、複数の制御装置を含む車載制御システムと、複数の診断ツールとを備える保守支援システムが開示されている。この保守支援システムでは、複数の制御装置の内の1つの制御装置が、ゲートウェイ制御装置として、例えば、1つの診断ツール及び他の制御装置との間においてCAN(登録商標)に準拠した通信を提供する。さらに、ゲートウェイ制御装置は、他の診断ツールとの間でEthernet(登録商標)に準拠した通信を提供する。ゲートウェイ制御装置は、他の診断ツールと複数の制御装置間における異種通信規格間の通信において、データを中継するゲートウェイ機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の車載システムは、車両近傍の環境を認識するなどの目的のため、車載カメラを備える場合がある。車載システムが車載カメラを含む場合、車載カメラから診断テスターへ映像データをストリーミング転送して、診断テスターにおいて、車載カメラが正常に映像データを出力できているかを確認するニーズが生じ得る。
【0005】
しかしながら、診断テスターと車載システムとが、例えばISO14229-1などに規定されるダイアグ通信規格に従って診断データ等の通信を行う場合、一般的に、ダイアグ通信は映像データのストリーミング転送に対応していない。このため、診断テスターは、ダイアグ通信を介して、車載カメラからストリーミング転送された映像データを取得することは困難である。
【0006】
本開示は、上述した点に鑑みてなされたものであり、診断テスターと車載システムとがダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を行う場合であっても、車載カメラからの映像データを診断テスターへストリーミング転送可能とした診断システム及び診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示による診断システムは、診断テスター(10)と、車両に搭載された少なくとも1つの制御装置(21~24)を含む車載システム(20)とを備え、
診断テスターは、車載システムと所定のダイアグ通信規格に従う通信を行うように構成され、
少なくとも1つの制御装置は、車載カメラ(25)からの映像データを入力するように構成され、
診断テスターは、ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を用いて、診断テスターの接続先情報を与えるとともに、当該ダイアグ通信とは異なる通信であって、診断テスターとの直接的な通信経路を介した通信を行うように、少なくとも1つの制御装置に要求するものであり、
少なくとも1つの制御装置は、診断テスターからの直接的な通信の実行要求に応じて、診断テスターの接続先情報に基づいて、診断テスターと直接的に通信を行うことが可能な通信経路を定め、当該通信経路を介して、診断テスターに車載カメラの映像データのストリーミング転送を行うように構成される。
【0008】
また、本開示による診断方法は、診断テスター(10)を用いて、車両に搭載された少なくとも1つの制御装置(21~24)を含む車載システム(20)の診断を行うものであって、
診断テスターと車載システムとは、所定のダイアグ通信規格に従う通信を行うように構成され、
少なくとも1つの制御装置は、車載カメラ(25)からの映像データを入力するように構成され、
診断テスターから、ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を用いて、診断テスターの接続先情報を与えるとともに、当該ダイアグ通信とは異なる通信であって、診断テスターとの直接的な通信経路を介した通信を行うように、少なくとも1つの制御装置に要求するステップと、
少なくとも1つの制御装置において、診断テスターからの直接的な通信の実行要求に応じて、診断テスターの接続先情報に基づいて、診断テスターと直接的に通信を行うことが可能な通信経路を定め、当該通信経路を介して、診断テスターに車載カメラの映像データのストリーミング転送を行うステップと、を備える。
【0009】
上述した診断システム及び診断方法によれば、診断テスターは、所定のダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を用いて、自身の接続先情報を与えるとともに、ダイアグ通信とは異なる通信であって、診断テスターとの直接的な通信経路を介した通信を行うように、少なくとも1つの制御装置に要求する。この要求に応じて、少なくとも1つの制御装置は、診断テスターの接続先情報に基づいて、診断テスターと直接的に通信を行うことが可能な通信経路を定め、当該通信経路を介して、診断テスターに車載カメラの映像データのストリーミング転送を行う。従って、車載カメラからの映像データは、ダイアグ通信ではなく、診断テスターと少なくとも1つの制御装置との直接的な通信を介して、診断テスターへストリーミング転送することが可能となる。
【0010】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0011】
また、上記した本開示の特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る診断システムの構成を示す構成図である。
【
図2】診断テスターと第3ECUとの間の直接的な通信経路を確立するため、診断テスター、第1ECU、及び第3ECUの間でやり取りされる信号を示す図である。
【
図3】診断テスターと第3ECUとの間の直接的な通信経路を切断するため、診断テスター、第1ECU、及び第3ECUの間でやり取りされる信号を示す図である。
【
図4】変形例による、診断テスターと第3ECUとの間の直接的な通信経路を切断するため、診断テスター、第1ECU、及び第3ECUの間でやり取りされる信号を示す図である。
【
図5】変形例による、診断テスターと第3ECUとの直接的な通信経路を介して、映像データのストリーミング転送を行うため、診断テスター、第1ECU、及び第3ECUの間でやり取りされる信号を示す図である。
【
図6】変化例による、診断システムの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本開示の好ましい実施形態について説明する。なお、同一又は類似の構成については、複数の図面に渡って同じ参照番号を付与することにより、説明を省略する場合がある。
【0014】
図1は、実施形態に係る診断システム100の構成を示す構成図である。
図1に示すように、診断システム100は、診断テスター10と、車両に搭載された車載システム20とを有する。
【0015】
車載システム20は、車両に搭載された各種の車載機器(例えば、エンジン、エアコン、ブレーキシステム、ステアリングシステム、インフォテインメントデバイスなど)の動作を制御するための複数の電子制御装置(ECU)21~24を有している。なお、
図1には、第1ECU21、第2ECU22、第3ECU23、‥、第nECU24を含む複数のECU21~24を示しているが、ECUの数は、1つであっても良い。
【0016】
複数のECU21~24は、それぞれ、制御対象となっている車載機器の動作や制御に異常が生じた場合、その異常発生時の制御データや関連データを故障データとして保存する機能を有する。また、複数のECU21~24は、制御対象となっている車載機器を正常に制御し得る状態であるかを自己診断する機能を有するものであっても良い。複数のECU21~24は、自己診断を実施した場合、その結果を、自己診断データとして保存しておく。
【0017】
複数のECU21~24は、車内LAN28を介して、相互に通信可能に接続されている。車内LAN28は、例えばイーサネット(Ethernet)、CAN(Controller Area Network、登録商標)、LIN(Local Interconnect Network)、FlexRayなどでありえる。そして、後述するように、ゲートウェイECUである第1ECU21と、他のECU22~24との間で、車内LAN28を介してダイアグ通信を行う際、例えば、UDS(Unified Diagnostic Service)を実現するための独自の内部ダイアグ通信が行われる。
【0018】
上述したように、複数のECU21~24の内の1つのECUである第1ECU21は、ゲートウェイECUとして機能するように構成されている。ゲートウェイECUである第1ECU21は、サービス工場などで車載システム20の診断を行う際、診断テスター10と例えばイーサネットを介して接続される。この際、診断テスター10と第1ECU21とは、例えばイーサネットでUDSを用いるための所定のダイアグ通信規格(例えば、DoIP(Diagnostics over IP))に応じたダイアグ通信を行うように構成される。
【0019】
第1ECU21は、ゲートウェイECUとして、ルーティング処理機能と、プロトコル変換機能とを有する。第1ECU21は、例えば診断テスター10から特定のECUの故障データや自己診断データを要求する通信を受信すると、該当するECUへその通信をルーティングする。その際、第1ECU21は、他のECUとの間でのダイアグ通信のプロトコルが、診断テスター10との間でのダイアグ通信のプロトコルと異なっている場合に、プロトコル変換を行って、診断テスター10と他のECUとの間の通信を中継する。例えば、第1ECU21は、診断テスター10との間のダイアグ通信であるDoIPのプロトコルと、他のECU22~24との間のダイアグ通信である独自の内部ダイアグ通信のプロトコルとのプロトコル変換を行う。このような第1ECU21のルーティング処理機能及びプロトコル変換機能により、診断テスター10は、車両内の様々なECU21~24とダイアグ通信を行うことが可能となる。なお、第1ECU21は、他のECU22~24との間でのダイアグ通信のプロトコルと、診断テスター10との間でのダイアグ通信のプロトコルとが同じである場合には、単に、ルーティング処理機能により、診断テスター10からの通信を、該当するECU22~24にルーティングすれば良い。
【0020】
車載システム20は、車載カメラ25を含む。車載カメラ25は、車両の室内などに取り付けられ、車両周囲の環境を撮影した映像データを出力することができるものである。車載カメラ25から出力される映像データは、車載システム20が、アダプティブクルーズ制御、車線維持制御、自動ブレーキ、自動駐車などの各種のADAS制御を実行するために利用され得る。
図1に示す例では、車載カメラ25から出力される映像データは、第3ECU23に入力されている。
【0021】
診断テスター10は、ダイアグ通信規格に従う通信により各ECU21~24に指示を出して、上述した故障データや自己診断データを含む様々なデータを読み出したり、各ECU21~24の制御対象機器に、通常とは異なる動作をさせてたりして、車載システム20の診断を行うものである。
【0022】
ここで、上述したように、近年、車両に車載カメラ25が搭載されることが増えている。車載システム20が車載カメラ25を含む場合、診断テスター10を用いて車載システム20の診断を行う際、車載カメラ25も診断の対象とすることが好ましい。車載カメラ25が正常に動作しているかを診断するには、例えば、車載カメラ25によって撮影された映像データを診断テスター10にストリーミング転送し、ストリーミング転送された映像データを診断テスター10のディスプレイに表示することが考えられる。このようにすれば、診断テスター10を操作する作業者が、表示された映像データにより、車載カメラ25が正常に動作しているか確認することができるためである。なお、診断テスター10が、ストリーミング転送された映像データに基づいて、車載カメラ25が正常に動作しているか否かを判断することも可能である。
【0023】
しかしながら、上述したダイアグ通信規格に従うダイアグ通信は、一般的に、映像データのストリーミング転送に対応していない。このため、診断テスター10は、ダイアグ通信を介して、車載カメラ25からストリーミング転送された映像データを取得することは困難である。
【0024】
車載カメラ25の映像データを、診断テスター10へストリーミング転送可能とするため、診断テスター10と、車載カメラ25の映像データを入力する第3ECU23とが、ダイアグ通信とは異なる通信であって、診断テスター10と第3ECU23との間での直接的な通信を行うことが考えられる。ただし、上述したように、診断テスター10と第3ECU23との間のダイアグ通信は、ゲートウェイECUである第1ECU21によって中継される。このため、診断テスター10は、第1ECU21以外のECU22~24の接続先情報(IPアドレス、ポート番号など)を把握していないし、第1ECU21以外のECU22~24も診断テスター10の接続先情報を把握していない。
【0025】
そこで、本実施形態による診断システム100では、診断テスター10がダイアグ通信規格に従うダイアグ通信を用いて、自身の接続先情報を与えるとともに、ダイアグ通信とは異なる通信であって、診断テスター10との直接的な通信を行うように、車載カメラ25からの映像データを入力する第3ECU23に要求するように構成した。さらに、本実施形態による診断システム100では、診断テスター10からの要求に応じて、第3ECU23が、診断テスター10の接続先情報に基づいて、診断テスター10と直接的に通信を行うことが可能な通信経路を定め、当該通信経路を介して、診断テスター10に車載カメラ25の映像データのストリーミング転送を行うように構成した。
【0026】
これにより、車載カメラ25からの映像データは、ダイアグ通信ではなく、診断テスター10と第3ECU23との直接的な通信を介して、診断テスター10へストリーミング転送することが可能となる。
【0027】
以下、診断テスター10と第3ECU23との間で、直接的な通信を行う通信経路を確立するための方法の具体的な一例を、
図2を参照して説明する。
図2は、診断テスター10と第3ECU23との間の直接的な通信経路を確立するため、診断テスター10、第1ECU21、及び第3ECU23の間でやり取りされる信号を示している。なお、
図2には、診断テスター10と第3ECU23との直接的な通信経路が、TCP(Transmission Control Protocol)コネクションとして確立される例が示されている。
【0028】
診断テスター10は、例えば作業者により、映像データのストリーミング転送の実行が指示されると、ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信により、第3ECU23に対して、直接的な通信経路を確立するルーチンの実行要求を送信する。この実行要求には、直接的な通信経路を確立するために必要な診断テスター10の接続先情報(IPアドレス、ポート番号など)が含まれている。例えば、ダイアグ通信規格としてUDSを採用した場合、通信経路確立ルーチンの実行要求には、SID $31 RoutineControlを用いることができる。また、接続先情報は、SID $31 routineControlOptionRecordとして、第3ECU23に伝達することができる。
【0029】
診断テスター10からの通信経路確立ルーチンの実行要求は、ゲートウェイECUである第1ECU21に送信される。第1ECU21は、ルーティング処理機能により、診断テスター10からの通信経路確立ルーチンの実行要求を、該当する第3ECU23にルーティングする。ここまでの処理が、
図2にステップ1として示される処理である。
【0030】
第3ECU23には、TCPコネクションを新たに確立するための確立ルーチンが予め用意されている。第3ECU23は、通信経路確立ルーチンの実行要求を受信すると、予め用意されている確立ルーチンを実行する。この確立ルーチンの実行により、第3ECU23は、受信した実行要求に含まれる診断テスター10の接続先情報を用いて、通信経路を確立するための信号を診断テスター10に送信する。具体的には、第3ECU23は、TCPヘッダのSYNビットが「1」でありACKビットが「0」である信号を送信して、診断テスター10に、TCPコネクションの確立を要求する。この信号には、第3ECU23の接続先情報(IPアドレス、ポート番号など)が含まれている。
【0031】
診断テスター10は第3ECU23からの信号を受信すると、受信した信号に含まれている第3ECU23の接続先情報に基づいて、第3ECU23へ信号を送信する。具体的には、診断テスター10は、第3ECU23からのTCPコネクション要求に応答するためACKビットを「1」とし、また、診断テスター10からもTCPコネクションの確立を要求するためSYNビットを「1」としたTCPヘッダの信号を送信する。
【0032】
第3ECU23は、診断テスター10からの信号を受信すると、診断テスター10からのTCPコネクション要求に応答するため、ACKビットを「1」としたTCPヘッダの信号を診断テスター10へ送信する。以上の3ウェイハンドシェイクにより、診断テスター10と第3ECU23との間で、TCPコネクションが確立される。ここまでの処理が、
図2にステップ2として示される処理である。
【0033】
ステップ2でTCPコネクションの確立が完了した後、すなわち、第3ECU23が通信経路確立ルーチンの実行を完了した後、第3ECU23は、ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信により、診断テスター10に対して、通信経路確立ルーチンの実行要求に対する肯定応答を返送する。この処理が、
図2にステップ3として示される処理である。なお、ステップ2までで、TCPコネクションは既に確立されているので、ステップ3の処理は省略されても良い。
【0034】
上述したステップ1からステップ3の処理の後、診断テスター10と第3ECU23とは、確立した通信経路を利用して、車載カメラ25の映像データをストリーミング転送することができる。確立された通信経路による通信は、ダイアグ通信とは異なり、ゲートウェイECUである第1ECU21によって中継されず、診断テスター10と第3ECU23との間で直接的に行われる。従って、映像データのストリーミング転送を行う際に、ゲートウェイECUである第1ECU21の処理負荷が増加することも抑制することができる。
【0035】
なお、第3ECU23は、診断テスター10からの通信経路確立ルーチンの実行要求(直接的な通信経路を介した通信の要求に相当)を、映像データのストリーミング転送の開始指示とみなすことができる。この場合、上述したステップ1からステップ3の処理が完了したことに応じて、第3ECU23は、診断テスター10へ向けて、車載カメラ25の映像データのストリーミング転送を開始することができる。
【0036】
あるいは、第3ECU23は、診断テスター10からの通信経路確立ルーチンの実行要求とは別に、診断テスター10から、ダイアグ通信規格に従う通信、あるいは、直接的な通信経路(TPCコネクション)を介した通信を通じて送信される転送開始要求に応じて、診断テスター10へ向けて、車載カメラ25の映像データのストリーミング転送を開始しても良い。
【0037】
次に、診断テスター10と第3ECU23との間で確立した、直接的な通信経路(TCPコネクション)を切断するための方法の具体的な一例を、
図3を参照して説明する。
図3は、診断テスター10と第3ECU23との間の直接的な通信経路を切断するため、診断テスター10、第1ECU21、及び第3ECU23の間でやり取りされる信号を示している。
【0038】
診断テスター10は、例えば作業者により映像データのストリーミング転送の停止が指示される、ストリーミング転送を開始してから所定の時間が経過するなど、所定の切断条件が成立すると、ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信により、第3ECU23に対して、直接的な通信経路を切断する切断ルーチンの実行要求を送信する。例えば、ダイアグ通信規格としてUDSを採用した場合、切断ルーチンの実行要求の送信にも、接続確立ルーチンの実行要求の場合と同様に、SID $31 RoutineControlを用いることができる。
【0039】
診断テスター10からの切断ルーチンの実行要求は、ゲートウェイECUである第1ECU21に送信される。第1ECU21は、ルーティング処理機能により、診断テスター10からの切断ルーチンの実行要求を、該当する第3ECU23にルーティングする。ここまでの処理が、
図3にステップ1として示される処理である。
【0040】
第3ECU23には、確立したTCPコネクションを切断するための切断ルーチンが予め用意されている。第3ECU23は、切断ルーチンの実行要求を受信すると、予め用意されている切断ルーチンを実行する。この切断ルーチンの実行により、第3ECU23は、通信経路を切断するための信号を診断テスター10に送信する。具体的には、第3ECU23は、TCPヘッダのFINビットが「1」である信号を送信して、診断テスター10に、TCPコネクションの切断を要求する。
【0041】
診断テスター10は第3ECU23からの信号を受信すると、第3ECU23へ信号を返送する。具体的には、診断テスター10は、第3ECU23からのTCPコネクションの切断要求に応答するため、ACKビットを「1」としたTCPヘッダの信号を送信する。さらに、診断テスター10も、第3ECU23へTCPコネクションの切断を要求するため、TCPヘッダのFINビットが「1」である信号を送信する。
【0042】
第3ECU23は、診断テスター10からの信号を受信すると、診断テスター10からのTCPコネクション切断要求に応答するため、ACKビットを「1」としたTCPヘッダの信号を診断テスター10へ送信する。以上により、診断テスター10と第3ECU23との間で、TCPコネクションが切断される。ここまでの処理が、
図3にステップ2として示される処理である。
【0043】
ステップ2でTCPコネクションの切断が完了した後、すなわち、第3ECU23が切断ルーチンの実行を完了した後、第3ECU23は、ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信により、診断テスター10に対して、切断ルーチンの実行要求に対する肯定応答を返送する。この処理が、
図3にステップ3として示される処理である。この第3ECU23からの肯定応答により、診断テスター10は、第3ECU23との直接的な通信経路が切断されたことを確認することができる。
【0044】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態になんら制限されることなく、請求の範囲に記載された本開示の主旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することが可能である。
【0045】
(変形例1)
上述した実施形態では、診断テスター10は、第3ECU23との間の直接的な通信経路を切断するために、第3ECU23に対して、直接的な通信経路を切断する切断ルーチンの実行要求を送信した。しかしながら、診断テスター10は、ダイアグ通信規格に従うダイアグ通信により、切断ルーチンの実行要求ではなく、通信経路確立ルーチンの停止要求を送信することによっても、通信経路を切断することが可能である。
【0046】
この場合、第3ECU23には、通信経路確立ルーチンの実行要求に応じて、
図2のステップ2の処理を実行し、通信経路確立ルーチンの停止要求に応じて、
図3のステップ2の処理を実行することが可能な通信経路確立ルーチンを用意しておく。
【0047】
このようにしても、上述した実施形態と同様に、所望のタイミングで、診断テスター10と第3ECU23との間の直接的な通信経路を確立し、さらに確立した通信経路を遮断することができる。
【0048】
(変形例2)
上述した実施形態、及び上述した変形例1では、診断テスター10が、ダイアグ通信規格に従う通信を用いて、第3ECU23との間の直接的な通信経路を切断する例について説明した。しかしながら、第3ECU23との間の直接的な通信経路の切断は、診断テスター10と第3ECU23との間の直接的な通信経路を介した通信によっても要求することが可能である。
【0049】
例えば、
図4に示すように、診断テスター10は、第3ECU23との間の直接的な通信経路であるTPCコネクションを介して、第3ECU23へTPCコネクションの終了要求を送信することができる。このTPCコネクションの終了要求に応じて、診断テスター10及び第3ECU23は、
図3のステップ2と同様の信号のやり取りを行い、TPCコネクションの切断を完了させることができる。
【0050】
(変形例3)
上述した実施形態では、診断テスター10と第3ECU23との間の直接的な通信経路として、TPCコネクションを用いる例を説明した。しかしながら、診断テスター10と第3ECU23との直接的な通信経路はTPCコネクションに限られない。例えば、診断テスター10と第3ECU23とは、UDP(User Datagram Protocol)に従って、直接的に通信しても良い。
【0051】
図5に、診断テスター10と第3ECU23とがUDPに従って通信し、第3ECU23から診断テスター10に映像データのストリーミング転送を行う場合の、診断テスター10、第1ECU21、及び第3ECU23の間でやり取りされる信号を示す。
【0052】
UDPの場合、TPCとは異なり、コネクションレス型のプロトコルである。そのため、TCPのように、3ウェイハンドシェイクによって互いに通信経路を確立することなく、第3ECU23は、ダイアグ通信規格に従う通信によって診断テスター10から直接的な通信経路を介した通信を行うように要求を受けると、その要求に応じて、映像データのストリーミング転送を開始する。診断テスター10からの要求には、診断テスター10の接続先情報が含まれている。従って、第3ECU23は、その接続先情報に基づいて、診断テスター10への直接的な通信経路を定めることができる。なお、
図5に示す例では、診断テスター10は、直接的な通信経路を介した通信を行うように要求するため、UDSのSID $31 RoutineControlを用いて、第3ECU23にストリーミング転送ルーチンの実行要求を送信している。第3ECU23には、この場合、第3ECU23には、映像データのストリーミング転送を実行するためのストリーミング転送ルーチンが予め用意されている。第3ECU23は、診断テスター10からストリーミング転送ルーチの実行要求を受信すると、予め用意されているストリーミング転送ルーチンの実行を開始する。
【0053】
UDPを採用した場合に、映像データのストリーミング転送を終了させるには、例えば、
図5に示すように、診断テスター10は、ダイアグ通信規格に従う通信によって、ストリーミング転送ルーチンの終了要求を送信すれば良い。第3ECU23は、診断テスター10からストリーミング転送ルーチンの終了要求を受けると、ストリーミング転送ルーチンの実行を終了する。その結果、第3ECU23における映像データのストリーミング転送が終了する。第3ECU23は、ストリーミング転送ルーチンを終了すると、ダイアグ通信規格に従う通信により、診断テスター10に、ストリーミング転送ルーチンの終了要求に対する肯定応答を返送する。
【0054】
(変形例4)
上述した実施形態では、車載システム20は、ゲートウェイECUとして機能する第1ECU21を備えていた。しかしながら、ゲートウェイECUは、設けられなくても良い。
【0055】
ゲートウェイECUが設けられない場合、診断テスター10は、車載システム20内の各ECU21~24と直接的にダイアグ通信規格に従う通信を行う。この場合、診断テスター10は、各ECU21~24と直接的にダイアグ通信規格に従う通信を行うための、各ECU21~24のIPアドレス及びポート番号を含む各ECU21~24の接続先情報を把握している。
【0056】
ただし、ダイアグ通信規格に従う通信は、専用のポート番号を使用して実行されるので、第3ECU23が、診断テスター10へ映像データのストリーミング転送を行う通信は、別のポート番号を使用する必要がある。そのため、診断テスター10は、ダイアグ通信用の接続先情報を用いて、ダイアグ通信規格に従う通信により、第3ECU23に直接的な通信経路の確立を要求する。この要求に応じて、第3ECU23は、ストリーミング転送を行う通信に使用するポート番号を含む接続先情報を診断テスター10に返送する。このような処理を通じて、診断テスター10と第3ECU23とは、ダイアグ通信を行う通信経路とは別の、ストリーミング転送を行うための直接的な通信経路を確立することができる。
【0057】
(変形例5)
上述した実施形態では、診断テスター10と第3ECU23とは、有線接続される例を説明した。しかしながら、診断テスター10と第3ECU23との接続は、有線接続に限られず、無線接続されても良い。
【0058】
例えば、
図6に示すように、車載システム20に、診断テスター10と無線接続するための外部通信装置26を設けることができる。これにより、ゲートウェイECUとしての第1ECU21は、外部通信装置26を介して、診断テスター10と無線通信を行うことが可能となる。また、診断テスター10と第3ECU23との直接的な通信経路も、外部通信装置26と診断テスター10との無線接続を利用して確立することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:診断テスター、20:車載システム、21~24:ECU、25:車載カメラ、26:外部通信装置、28:車内LAN、100:診断システム