(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107978
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】画像解析装置、画像解析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240802BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240802BHJP
G06T 7/11 20170101ALI20240802BHJP
【FI】
A61B6/03 370A
A61B6/03 360T
A61B6/03 360J
G06T7/00 612
G06T7/00 350B
G06T7/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012199
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡村 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 克浩
【テーマコード(参考)】
4C093
5L096
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA26
4C093CA18
4C093DA06
4C093FD03
4C093FD11
4C093FF16
4C093FF19
4C093FF23
4C093FG18
5L096AA06
5L096AA09
5L096BA06
5L096BA13
5L096EA16
5L096FA32
5L096FA33
5L096FA69
5L096GA34
5L096HA11
(57)【要約】
【課題】胸腺量を定量的に評価する。
【解決手段】画像解析装置が、身体の胸部の断面を撮像した複数の断面画像を含む医療画像の入力を受け付ける画像入力部と、予め収集した断面画像に胸腺評価領域を示す正解ラベルが付与された学習データを用いて学習された領域分割モデルに複数の断面画像それぞれを入力することで、当該断面画像に含まれる胸腺評価領域を認識する画像認識部と、複数の断面画像それぞれに関する認識結果に基づいて胸腺評価領域の量を推定する領域推定部と、胸腺評価領域の量に基づいて胸腺組織の量を推定する組織量推定部と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の胸部の断面を撮像した複数の断面画像を含む医療画像の入力を受け付けるように構成されている画像入力部と、
予め収集した断面画像に胸腺評価領域を示す正解ラベルが付与された学習データを用いて学習された領域分割モデルに前記複数の断面画像それぞれを入力することで、当該断面画像に含まれる前記胸腺評価領域を認識するように構成されている画像認識部と、
前記複数の断面画像それぞれに関する認識結果に基づいて前記胸腺評価領域の量を推定するように構成されている領域推定部と、
前記胸腺評価領域の量に基づいて胸腺組織の量を推定するように構成されている組織量推定部と、
を備える画像解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像解析装置であって、
前記胸腺評価領域は、前縦隔のうち頭側境界面と尾側境界面との間の領域であり、
前記頭側境界面は、左腕頭静脈が大動脈又は腕頭動脈の腹側を通過する水平断面であり、
前記尾側境界面は、上行大動脈と肺動脈幹が左右に冠状面に平行に並ぶ水平断面である、
画像解析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像解析装置であって、
前記組織量推定部は、前記医療画像における前記胸腺組織の画素値に基づいて、前記胸腺組織の量を推定するように構成されている、
画像解析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像解析装置であって、
前記組織量推定部は、M
Xを前記胸腺組織の画素値の平均とし、M
Yを脂肪組織の画素値の平均とし、^M
Zを前記胸腺評価領域の画素値の平均とし、^v
Xを前記胸腺組織の体積とし、^v
Zを前記胸腺評価領域の体積とし、次式により前記胸腺組織の量を推定するように構成されている、
【数4】
画像解析装置。
【請求項5】
請求項3に記載の画像解析装置であって、
前記組織量推定部は、M
Xを前記胸腺組織の画素値の平均とし、M
Yを脂肪組織の画素値の平均とし、^M
Zを前記胸腺評価領域の画素値の平均とし、^v
Xを前記胸腺組織の体積とし、^v
Zを前記胸腺評価領域の体積とし、aを任意の正の実数とし、次式により前記胸腺組織の量を推定するように構成されている、
【数5】
画像解析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の画像解析装置であって、
前記画像認識部は、異なる学習データを用いて学習された複数の領域分割モデルに前記断面画像をそれぞれ入力し、前記複数の領域分割モデルそれぞれの認識結果を統合するように構成されている、
画像解析装置。
【請求項7】
請求項6に記載の画像解析装置であって、
前記複数の領域分割モデルそれぞれにより認識された前記胸腺評価領域の画素値の分布に基づいて前記医療画像の画素値を補正するように構成されている画像補正部をさらに備える、
画像解析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の画像解析装置であって、
前記胸腺組織の量と予め定めた標準量との比較結果を出力するように構成されている結果出力部をさらに備える、
画像解析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の画像解析装置であって、
前記結果出力部は、前記医療画像の被写体となった人物の年齢及び性別に応じた前記標準量との差、又は、前記胸腺組織の量が前記人物の性別において前記標準量となる年齢を出力するように構成されている、
画像解析装置。
【請求項10】
コンピュータが、
身体の胸部の断面を撮像した複数の断面画像を含む医療画像の入力を受け付ける手順と、
予め収集した断面画像に胸腺評価領域を示す正解ラベルが付与された学習データを用いて学習された領域分割モデルに前記複数の断面画像それぞれを入力することで、当該断面画像に含まれる前記胸腺評価領域を認識する手順と、
前記複数の断面画像それぞれに関する認識結果に基づいて前記胸腺評価領域の量を推定する手順と、
前記胸腺評価領域の量に基づいて胸腺組織の量を推定する手順と、
を実行する画像解析方法。
【請求項11】
コンピュータに、
身体の胸部の断面を撮像した複数の断面画像を含む医療画像の入力を受け付ける手順と、
予め収集した断面画像に胸腺評価領域を示す正解ラベルが付与された学習データを用いて学習された領域分割モデルに前記複数の断面画像それぞれを入力することで、当該断面画像に含まれる前記胸腺評価領域を認識する手順と、
前記複数の断面画像それぞれに関する認識結果に基づいて前記胸腺評価領域の量を推定する手順と、
前記胸腺評価領域の量に基づいて胸腺組織の量を推定する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像解析装置、画像解析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば医療又は医学の分野において、種々の医療画像が診断又は治療に用いられている。従来、医療画像の評価は医療者等の知見に基づいて行われていた。近年、医療画像を撮影すると同時に臓器や病変等を同定及び区分する医療機器が利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、様々な医療画像から肝臓組織境界を自動的に識別する肝臓境界識別装置が開示されている。また、例えば、特許文献2には、ニューラルネットワークを用いて医療画像を腫瘍領域と非腫瘍領域とに分類する画像分割装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-127831号公報
【特許文献2】特表2022-518583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、周囲の組織との境界が不明瞭な組織を評価することは困難である。例えば、胸腺は周囲の組織との境界が不明瞭な組織であることが知られている。従来の医療現場では、医療者等が自身の知見に基づいて医療画像を観察又は計測することで、胸腺の萎縮又は過形成を判定しており、定量的な評価は行われていない。
【0006】
本発明の一態様は、上記のような技術的課題に鑑みて、胸腺組織の量を定量的に評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様による画像解析装置は、身体の胸部の断面を撮像した複数の断面画像を含む医療画像の入力を受け付ける画像入力部と、予め収集した断面画像に胸腺評価領域を示す正解ラベルが付与された学習データを用いて学習された領域分割モデルに複数の断面画像それぞれを入力することで、当該断面画像に含まれる胸腺評価領域を認識する画像認識部と、複数の断面画像それぞれに関する認識結果に基づいて胸腺評価領域の量を推定する領域推定部と、胸腺評価領域の量に基づいて胸腺組織の量を推定する組織量推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、胸腺組織の量を定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】胸腺評価システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】コンピュータのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】モデル学習装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】画像解析装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】学習方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】解析方法の一例を示すフローチャートである。
【
図11】医療画像の認識の流れの一例を示すブロック図である。
【
図13】胸腺組織の認識精度の一例を示すグラフである。
【
図14】胸腺組織の認識精度の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
[実施形態]
従来、医療又は医学において、種々の医療画像が撮像され、診断や治療効果の判定に用いられてきた。医療画像の評価は医療者等の眼による観察に基づいて行われてきた。近年では、医療画像を撮影すると自動的に臓器や病変等の特定の領域を同定及び区分する医療機器が利用されている。医療画像から自動的に特定の領域を同定及び区分し、医療画像と共に出力する機能は、自動セグメンテーション(automatic segmentation)等と呼ばれる。
【0012】
従来技術では、周囲の臓器との境界が不明瞭な領域に対する高精度な自動セグメンテーションは実現されていない。また、自動セグメンテーションの結果は、本来該当しない領域が同定領域に含まれてしまったり、該当するはずの領域が同定領域から外れてしまったりする等、一定の誤りが含まれることがある。しかしながら、自動セグメンテーションの結果として得られた領域に対して、画素値の分析をロバストに行う手法は確立されていない。
【0013】
胸腺は、心臓の前面に存在する臓器であり、免疫細胞(T細胞)を産生する重要な免疫器官である。胸腺は加齢に伴って萎縮し、脂肪に置換されてゆく。加齢性胸腺萎縮は免疫老化を引き起こし、高齢者において感染症、がん、心血管疾患等の様々な疾患が起こりやすくなる原因とされる。また、胸腺の過形成(異常な細胞増殖)や胸腺腫(胸腺の良性腫瘍)は免疫系の異常と関連しており、自己免疫疾患、内分泌疾患、血液疾患等の原因となる。さらに、胸腺癌(胸腺の悪性腫瘍)は希少疾患であるが、非常に予後が悪く、早期発見が重要である。
【0014】
医療画像上で自動的に胸腺組織の量(以下、「胸腺量」とも呼ぶ)を評価することは困難である。その理由として、胸腺組織が、周囲の組織と連続しており、境界が不明瞭な領域であることが挙げられる。医療現場で胸腺の萎縮又は過形成を判定する際には、放射線科医等が医療画像を視覚的に観察したり、特定の部分の長さや画素値を手動で計測したりする。このような判断は時間を要する上に、放射線科医等の知見や技能に影響を受けるため客観性を欠く。血液検査を用いて胸腺萎縮を間接的に評価する技術が存在するが、特殊な機器を必要とし高価であるため、一般には普及しておらず、一部の専門機関においてのみ実施されている。
【0015】
本発明の一実施形態は、医療画像に基づいて身体における胸腺量を評価する胸腺評価システムである。本実施形態における胸腺評価システムは、身体の胸部を撮像した医療画像を学習済みの領域分割モデルに入力することで、当該身体における胸腺量を推定する。また、本実施形態における胸腺評価システムは、胸腺量の推定値を予め解析済みの標準的な胸腺量(以下、「標準量」とも呼ぶ)と比較することで、胸腺量を評価した評価結果を出力する。
【0016】
本実施形態における医療画像の一例は、コンピュータ断層撮影(CT; Computed Tomography)による画像(以下、「CT画像」とも呼ぶ)である。医療画像の他の例は、核磁気共鳴画像(MRI; Magnetic Resonance Imaging)(以下、「MRI画像」とも呼ぶ)、陽電子放出断層撮影(PET; Positron Emission Tomography)による画像(以下、「PET画像」とも呼ぶ)、18F-フルオロデオキシグルコースPETによる画像(以下、「FDG-PET画像」とも呼ぶ)等である。
【0017】
本実施形態における医療画像は、身体の軸位断面を所定の間隔で撮像した複数の2次元画像データ(以下、「断面画像」とも呼ぶ)からなる3次元画像データである。撮像間隔は、例えば、2~5ミリメートル程度である。例えば、人体の胸部を撮像した場合、CT画像には数十枚から百数十枚程度の断面画像が含まれる。なお、3次元の医療画像から胸腺組織を認識する際には、医療画像に含まれる各断面画像を1枚ずつ撮影順に従って順次認識する。
【0018】
本実施形態における胸腺評価システムは、境界の不明瞭な領域に対する自動セグメンテーションの精度を向上させ、自動セグメンテーションの結果として得られた領域に対して画素値の解析をロバストに行うことを目的とする。さらに、本実施形態における胸腺評価システムは、自動セグメンテーションを胸腺に相当する領域に対して適用し、胸腺萎縮、胸腺過形成及び胸腺老化度(胸腺年齢)等を自動で定量的に評価することを目的とする。胸腺萎縮、胸腺過形成及び胸腺老化度等を定量的に評価できると、これらの診断を行う手法を確立することが可能となる。
【0019】
<胸腺評価システムの全体構成>
本実施形態における胸腺評価システムの全体構成を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における胸腺評価システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【0020】
図1に示されているように、本実施形態における胸腺評価システム1は、画像取得装置2、モデル学習装置3及び画像解析装置4を含む。画像取得装置2、モデル学習装置3及び画像解析装置4は、LAN(Local Area Network)又はインターネット等の通信ネットワークN1を介してデータ通信可能に接続されている。
【0021】
画像取得装置2は、身体の断面を撮像した医療画像を取得する撮影機器である。本実施形態における画像取得装置2は、人間の身体の胸部の軸位断面を所定の間隔で撮像し、複数枚の断面画像を含む医療画像を取得する。画像取得装置2は、例えば、CT装置、MRI装置又はPET装置等の医療用撮像装置である。
【0022】
モデル学習装置3は、医療画像から胸腺評価領域(以下、TRQ(Thymic Region for Quantification)とも呼ぶ)を認識する領域分割モデルを学習するパーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ等の情報処理装置である。モデル学習装置3は、予め収集した断面画像(以下、「学習画像」とも呼ぶ)に胸腺評価領域を示す正解ラベルが付与された学習データを用いて、領域分割モデルを学習する。
【0023】
画像解析装置4は、学習済みの領域分割モデルに基づいて医療画像に撮像されている胸腺量を評価するパーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ等の情報処理装置である。画像解析装置4は、画像取得装置2により取得された医療画像(以下、「対象画像」とも呼ぶ)を、モデル学習装置3により学習された領域分割モデルに入力することで、対象画像に撮像されている身体の胸腺量を推定する。また、画像解析装置4は、胸腺量の推定値と標準量とを比較することで、胸腺量を評価した評価結果を出力する。
【0024】
なお、
図1に示した胸腺評価システム1の全体構成は一例であって、用途や目的に応じて様々なシステム構成例があり得る。例えば、画像取得装置2、モデル学習装置3又は画像解析装置4の1つ以上が、胸腺評価システム1に複数台含まれていてもよい。例えば、モデル学習装置3又は画像解析装置4は、複数台のコンピュータにより実現してもよいし、クラウドコンピューティングのサービスとして実現してもよい。
図1に示す画像取得装置2、モデル学習装置3、画像解析装置4のような装置の区分は一例である。例えば、モデル学習装置3及び画像解析装置4は、それぞれが備えるべき機能を兼ね備えるスタンドアローンのコンピュータにより実現してもよい。
【0025】
<胸腺評価システムのハードウェア構成>
本実施形態における胸腺評価システム1に含まれる各装置のハードウェア構成を、
図2を参照しながら説明する。
【0026】
≪コンピュータのハードウェア構成≫
本実施形態におけるモデル学習装置3及び画像解析装置4は、例えばコンピュータにより実現される。
図2は、本実施形態におけるコンピュータのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0027】
図2に示されているように、本実施形態におけるコンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、HDD(Hard Disk Drive)504、入力装置505、表示装置506、通信I/F(Interface)507及び外部I/F508を有する。CPU501、ROM502及びRAM503は、いわゆるコンピュータを形成する。コンピュータ500の各ハードウェアは、バスライン509を介して相互に接続されている。なお、入力装置505及び表示装置506は外部I/F508に接続して利用する形態であってもよい。
【0028】
CPU501は、ROM502又はHDD504等の記憶装置からプログラムやデータをRAM503上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500全体の制御や機能を実現する演算装置である。
【0029】
ROM502は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。ROM502は、HDD504にインストールされている各種プログラムをCPU501が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する主記憶装置として機能する。具体的には、ROM502には、コンピュータ500の起動時に実行されるBIOS(Basic Input/Output System)、EFI(Extensible Firmware Interface)等のブートプログラムや、OS(Operating System)設定、ネットワーク設定等のデータが格納されている。
【0030】
RAM503は、電源を切るとプログラムやデータが消去される揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。RAM503は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等である。RAM503は、HDD504にインストールされている各種プログラムがCPU501によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0031】
HDD504は、プログラムやデータを格納している不揮発性の記憶装置の一例である。HDD504に格納されるプログラムやデータには、コンピュータ500全体を制御する基本ソフトウェアであるOS、及びOS上において各種機能を提供するアプリケーション等がある。なお、コンピュータ500はHDD504に替えて、記憶媒体としてフラッシュメモリを用いる記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive等)を利用するものであってもよい。
【0032】
入力装置505は、ユーザが各種信号を入力するために用いるタッチパネル、操作キーやボタン、キーボードやマウス、音声等の音データを入力するマイクロホン等である。
【0033】
表示装置506は、画面を表示する液晶や有機EL(Electro-Luminescence)等のディスプレイ、音声等の音データを出力するスピーカ等で構成されている。
【0034】
通信I/F507は、通信ネットワークに接続し、コンピュータ500がデータ通信を行うためのインタフェースである。
【0035】
外部I/F508は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、ドライブ装置510等がある。
【0036】
ドライブ装置510は、記録媒体511をセットするためのデバイスである。ここでいう記録媒体511には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する媒体が含まれる。また、記録媒体511には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等が含まれていてもよい。これにより、コンピュータ500は外部I/F508を介して記録媒体511の読み取り及び/又は書き込みを行うことができる。
【0037】
なお、HDD504にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記録媒体511が外部I/F508に接続されたドライブ装置510にセットされ、記録媒体511に記録された各種プログラムがドライブ装置510により読み出されることでインストールされる。あるいは、HDD504にインストールされる各種プログラムは、通信I/F507を介して、通信ネットワークとは異なる他のネットワークよりダウンロードされることでインストールされてもよい。
【0038】
<胸腺評価システムの機能構成>
本実施形態における胸腺評価システムに含まれる各装置の機能構成を、
図3乃至
図6を参照しながら説明する。
【0039】
≪モデル学習装置の機能構成≫
図3は、モデル学習装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3に示されているように、本実施形態におけるモデル学習装置3は、学習データ記憶部10、学習データ分割部11、モデル学習部12及びモデル出力部13を備える。
【0040】
学習データ記憶部10は、例えば、
図2に示されているHDD504を用いて実現される。学習データ分割部11、モデル学習部12及びモデル出力部13は、例えば、
図2に示されているHDD504からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。
【0041】
学習データ記憶部10には、領域分割モデルを学習するための学習データが記憶されている。学習データは、予め収集した学習画像に胸腺評価領域を示す正解ラベルが付与されたデータである。学習画像は、画像取得装置2により取得した医療画像に含まれる断面画像であってもよいし、その他の手法により収集した断面画像であってもよい。正解ラベルは、学習画像の各画素が胸腺評価領域に含まれるか否かを示す真偽値を含む2次元データである。正解ラベルは、学習画像から胸腺評価領域を抽出するマスクとして機能する。
【0042】
胸腺評価領域は、胸腺組織が存在し得る胸腺相当領域のうち、解剖学的基準に基づいて定義された領域である。胸腺相当領域は、胸腺が存在する部位及び胸腺が存在していた部位を合わせた領域の全部又は大部分を含む領域である。胸腺は加齢性萎縮によって徐々に脂肪組織に置き換わる。胸腺が存在していた部位とは、脂肪組織に置き換わる前に胸腺が占めていた領域を意味する。
【0043】
例えば、CT画像は、各画素点にX線を吸収する度合いを示すCT値を持つ3次元画像データである。小児の胸部を撮像したCT画像では、胸腺は高いCT値を持つ領域として観察されるが、成人又は高齢者の胸部を撮像したCT画像では、胸腺の存在していた部位は、脂肪組織と胸腺組織とが混合したCT値の低い領域として観察される。そのため、胸部CT画像において、CT値等の画像的特徴を評価することで、胸腺の萎縮又は過形成を定量的に評価できる。胸腺相当領域は、心臓の周囲、前胸部、頸部の軟部組織と連続しており、明確な境界を持たない。そのため、胸腺組織を定量的に評価するためには、対象とする解析範囲を明確な解剖学的基準を設けて定義することが重要である。
【0044】
本実施形態における胸腺評価領域は、前縦隔のうち、比較的頭頂に近い側に位置する軸位断面(以下、「頭側境界面」とも呼ぶ)と、比較的頭頂から遠い側に位置する軸位断面(以下、「尾側境界面」とも呼ぶ)とで区分される領域である。頭側境界面は、左腕頭静脈が大動脈又は腕頭動脈の腹側を通過する水平断面とする。尾側境界面は、上行大動脈と肺動脈幹が左右に冠状面に平行に並ぶ水平断面とする。
【0045】
上記で定義される胸腺評価領域は、画像的特徴を良好に捉えることが可能であり、かつ血管や骨等の画像評価のバイアスの原因となる構造物を含まない。そのため、本実施形態における胸腺評価領域は、胸腺量を定量的に評価するために適切な範囲である。
【0046】
本実施形態における学習データについて、
図4及び
図5を参照しながら説明する。
図4は、医療画像の一例を示す図である。
図4に示す例は、人間の胸部を撮像したCT画像の一例である。
図5は、学習データの一例を示す図である。
図5に示す例は、
図4に示した医療画像P1に正解となる胸腺評価領域R1を示す正解ラベルを重畳した学習データである。
図4及び
図5に示されているように、学習データでは、学習画像である医療画像P1に対して、胸腺評価領域R1に含まれる画素を塗り潰したマスクが正解ラベルとして付与される。
【0047】
学習データは、データ拡張(Data Augmentation)が行われていてもよい。データ拡張は、画像の回転に加えて、ランダムイレーシングを行うとよい。ランダムイレーシングは、画像にランダムな矩形領域を重畳することでマスクする手法である。
【0048】
本実施形態では、ランダムイレーシングにおいて、医療画像の情報は消去するが、消去した画素に対応する正解ラベルの情報は削除しない。すなわち、ランダムな矩形領域でマスクした学習画像に、元の学習画像に付与されていた正解ラベルをそのまま付与した新たな学習データを追加することで、データ拡張を行う。
【0049】
ランダムイレーシングでは矩形領域の大きさをランダムに決定するが、矩形領域のサイズは画像全体に対して4分の1以下とするとよい。また、学習効率を上げるために、正解ラベルが付与されている学習画像と、正解ラベルが付与されていない学習画像とが同数になるようにデータ拡張を行うとよい。
【0050】
図3に戻って説明する。学習データ分割部11は、学習データ記憶部10に記憶されている学習データから複数の部分学習データを抽出する。学習データ分割部11は、少なくとも一部が他の部分学習データと異なるように各部分学習データを抽出する。部分学習データは、例えば、公知の交差検証で用いられるデータ分割手法により抽出することができる。
【0051】
モデル学習部12は、学習データ分割部11により抽出された部分学習データを用いて、領域分割モデルを学習する。モデル学習部12は、複数の部分学習データそれぞれに対応する複数の領域分割モデルを学習する。
【0052】
本実施形態における領域分割モデルは、ResNetを基礎としたニューラルネットワークである。ResNetは、深層学習に基づく畳み込みニューラルネットワークである。領域分割モデルのネットワーク構造は上記に限定されず、画像から特定の領域を認識可能な機械学習モデルであれば、どのようなものでもよい。
【0053】
モデル出力部13は、モデル学習部12により生成された複数の領域分割モデルを出力する。モデル出力部13から出力された領域分割モデルは、画像解析装置4に送られ、画像解析装置4が備える記憶部に記憶される。
【0054】
≪画像解析装置の機能構成≫
図6は、画像解析装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図6に示されているように、本実施形態における画像解析装置4は、モデル記憶部20、標準量記憶部21、画像入力部22、画像認識部23、画像補正部24、領域推定部25、組織量推定部26及び結果出力部27を備える。
【0055】
モデル記憶部20及び標準量記憶部21は、例えば、
図2に示されているHDD504を用いて実現される。画像入力部22、画像認識部23、画像補正部24、領域推定部25、組織量推定部26及び結果出力部27は、例えば、
図2に示されているHDD504からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。
【0056】
モデル記憶部20には、モデル学習装置3により学習された複数の領域分割モデルが記憶される。
【0057】
標準量記憶部21には、解析済みの標準量を示す情報が予め記憶されている。本実施形態における標準量は、年齢及び性別の組合せにおける標準的な胸腺量を示す情報である。
【0058】
本実施形態における標準量は、基準集団において、年齢及び性別を独立変数とし、胸腺量を従属変数とする回帰モデルを適用することで解析することができる。回帰モデルは、例えば、平滑化加法分位点回帰モデル(smooth additive quantile regression model)を用いることができる。標準量は、例えば、年齢及び性別の組合せにおける分散、パーセンタイル、四分位範囲等の統計量である。また、標準量に基づいて、胸腺量からZスコア又はロバストZスコアを算出し、年齢及び性別について標準化してもよい。これにより、年齢及び性別に応じた平均的な胸腺の萎縮度を0として、相対的な値を計算することが可能となる。
【0059】
画像入力部22は、評価対象とする対象画像の入力を受け付ける。画像入力部22は、画像取得装置2が送信した対象画像を受信することで、対象画像の入力を受け付けてもよい。画像入力部22は、ユーザの操作により入力装置505に入力された対象画像を受け付けてもよい。
【0060】
画像認識部23は、画像入力部22により受け付けられた対象画像から胸腺評価領域を認識する。画像認識部23は、モデル記憶部20から読み出した学習済みの領域分割モデルに、対象画像に含まれる各断面画像を入力することで、当該断面画像に含まれる胸腺評価領域を示す認識結果を計算する。認識結果は、対象画像の各画素が胸腺評価領域に含まれるか否かを示す真偽値を含む2次元データである。認識結果は、対象画像から胸腺評価領域を抽出するマスクとして機能する。
【0061】
本実施形態における認識結果について、
図7を参照しながら説明する。
図7は、認識結果の一例を示す図である。
図7に示す例は、
図4に示した医療画像を学習済みの領域分割モデルに入力することで、当該領域分割モデルから出力された認識結果である。
図7に示されているように、領域分割モデルでは、対象画像である医療画像P2の各画素のうち胸腺評価領域R2に含まれる画素を塗り潰したマスクが認識結果として出力される。
【0062】
図6に戻って説明する。画像認識部23は、モデル記憶部20に記憶されている複数の領域分割モデルそれぞれに断面画像を入力し、各領域分割モデルから出力された認識結果を取得する。画像認識部23は、各領域分割モデルから出力された複数の認識結果を統合することで、胸腺評価領域の認識結果(以下、「統合認識結果」とも呼ぶ)を生成する。
【0063】
画像補正部24は、画像認識部23により生成された複数の認識結果に基づいて、対象画像の画素値を補正する。画像補正部24は、複数の領域分割モデルから出力された複数の認識結果それぞれについて、当該認識結果が示す胸腺評価領域の画素値の分布に基づいて、画素値の代表値を計算する。画像補正部24は、各領域分割モデルの認識結果に対応する複数の代表値を統合した統合代表値に基づいて、対象画像の画素値を補正する。
【0064】
領域推定部25は、画像認識部23により生成された統合認識結果に基づいて、胸腺評価領域の量を推定する。領域推定部25は、各断面画像から認識された胸腺評価領域を結合することで、3次元の胸腺評価領域を推定し、当該胸腺評価領域の量(例えば、体積)を計算することができる。
【0065】
組織量推定部26は、領域推定部25により推定された胸腺評価領域の量に基づいて、胸腺量を推定する。組織量推定部26は、医療画像における胸腺組織の画素値に基づいて、胸腺評価領域に含まれる胸腺組織の量(例えば、体積)を計算する。
【0066】
結果出力部27は、組織量推定部26により推定された胸腺量に関する情報を出力する。胸腺量に関する情報は、例えば、胸腺量の推定値と標準量記憶部21から読み出した標準量との比較結果である。胸腺量の推定値と標準量との比較結果は、例えば、対象画像の被写体となった人物(患者)の年齢及び性別に応じた標準量との差、又は患者の性別において標準的な胸腺量が胸腺量の推定値となる年齢(胸腺年齢)等である。
【0067】
<胸腺評価システムの処理手順>
本実施形態における胸腺評価システム1が実行する胸腺評価方法の処理手順を、
図8乃至
図12を参照しながら説明する。本実施形態における胸腺評価方法は、モデル学習装置3が実行する学習方法(
図8参照)及び画像解析装置4が実行する解析方法(
図10参照)を含む。
【0068】
≪学習方法≫
図8は、本実施形態における学習方法の一例を示すフローチャートである。学習方法は、学習データに基づいて領域分割モデルを学習する方法である。
【0069】
ステップS1において、モデル学習装置3の学習データ分割部11は、学習データ記憶部10に記憶されている学習データを読み出す。次に、学習データ分割部11は、読み出した学習データから複数の部分学習データを抽出する。続いて、学習データ分割部11は、抽出した複数の部分学習データをモデル学習部12に送る。
【0070】
図9は、部分学習データの一例を示す図である。
図9に示されているように、学習データD1は、まず、3以上の所定の数(
図9の例では5個)の部分データE1~E5に等分される。次に、部分データE1~E5のうち、部分データE1を除いた残りの部分データE2~E5を含む部分学習データF1が生成される。続いて、部分データE2を除いた残りの部分データE1、E3~E5を含む部分学習データF2が生成される。同様にして、部分データE3,E4,E5をそれぞれ除いた部分学習データF3,F4,F5が生成される。このようにして、学習データ分割部11は、学習データD1から部分学習データF1~F5を抽出することができる。
【0071】
図8に戻って説明する。ステップS2において、モデル学習装置3のモデル学習部12は、学習データ分割部11から部分学習データを受け取る。次に、モデル学習部12は、部分学習データに対応する領域分割モデルのパラメータに初期値を設定する。パラメータの初期値は、予め定めた値を設定してもよいし、ランダムな値を設定してもよい。
【0072】
ステップS3において、モデル学習装置3のモデル学習部12は、部分学習データから学習に用いる学習画像を選択する。ステップS4において、モデル学習装置3のモデル学習部12は、選択した学習画像を領域分割モデルに入力することで、当該学習画像に含まれる胸腺評価領域を認識する。
【0073】
ステップS5において、モデル学習装置3のモデル学習部12は、学習画像に含まれる胸腺評価領域の認識結果と、選択した学習画像に付与された正解ラベルとの誤差を計算する。ステップS6において、モデル学習装置3のモデル学習部12は、誤差逆伝播法等に従って、認識結果と正解ラベルとの誤差に基づいて、領域分割モデルのパラメータを更新する。
【0074】
ステップS7において、モデル学習装置3のモデル学習部12は、学習が完了したか否かを判定する。学習が完了したか否かは、モデルパラメータが収束したか否か、又は所定の繰り返し回数を超過したか否か等により判定すればよい。学習が完了していない場合(NO)、モデル学習部12はステップS3に処理を戻す。その後、モデル学習部12は、異なる学習画像についてステップS3からS7の処理を繰り返し実行する。学習が完了した場合(YES)、モデル学習部12は学習済みの領域分割モデルをモデル出力部13に送る。
【0075】
ステップS2からステップS7までの処理は、学習データ分割部11により抽出された複数の部分学習データそれぞれについて実行される。これにより、すべての部分学習データについて、当該部分学習データに対応する学習済みの領域分割モデルが生成される。
【0076】
ステップS8において、モデル学習装置3のモデル出力部13は、モデル学習部12から学習済みの領域分割モデルを受け取る。次に、モデル出力部13は、受け取った学習済みの領域分割モデルを画像解析装置4に送信する。
【0077】
画像解析装置4は、モデル学習装置3から学習済みの領域分割モデルを受信する。次に、画像解析装置4は、受信した学習済みの領域分割モデルをモデル記憶部20に記憶する。
【0078】
≪解析方法≫
図10は、本実施形態における解析方法の一例を示すフローチャートである。解析方法は、学習方法で生成した学習済みモデルを用いて対象画像を解析する方法である。
【0079】
ステップS11において、画像取得装置2は、医療者等であるユーザの操作に応じて、評価対象とする対象画像を取得する。次に、画像取得装置2は、取得した対象画像を画像解析装置4に送信する。
【0080】
画像解析装置4では、画像入力部22が、画像取得装置2から対象画像を受信する。次に、画像入力部22は、受信した対象画像の入力を受け付け、画像認識部23に送る。
【0081】
ステップS12において、画像解析装置4の画像認識部23は、画像入力部22から対象画像を受け取る。次に、画像認識部23は、モデル記憶部20から複数の領域分割モデルを読み出す。続いて、画像認識部23は、受け取った対象画像に含まれる各断面画像を複数の領域分割モデルそれぞれに入力する。これにより、画像認識部23は、複数の領域分割モデルから出力された複数の認識結果を取得する。画像認識部23は、取得した複数の認識結果を画像補正部24に送る。
【0082】
さらに、画像認識部23は、複数の領域分割モデルそれぞれの認識結果を統合する。これにより、対象画像に含まれる胸腺評価領域の統合認識結果が生成される。認識結果の統合は、複数の認識結果を入力とし、これらを最適化した認識結果を出力する機械学習モデルを用いて行うことができる。この機械学習モデルは、例えば、ロジスティック回帰又はランダムフォレストにより実装することができる。画像認識部23は、取得した統合認識結果を領域推定部25に送る。
【0083】
ステップS13において、画像解析装置4の画像補正部24は、画像認識部23から複数の認識結果を受け取る。次に、画像補正部24は、複数の認識結果それぞれについて、当該認識結果が示す胸腺評価領域の画素値の分布を抽出する。続いて、画像補正部24は、抽出した画素値の分布に基づいて画素値の代表値を計算する。
【0084】
次に、画像補正部24は、複数の認識結果それぞれに対応する画素値の代表値を統合する。これにより、複数の画素値の代表値を統合した統合代表値が生成される。続いて、画像補正部24は、統合代表値に基づいて、対象画像の画素値を補正する。画像補正部24は、補正した対象画像を領域推定部25に送る。
【0085】
領域分割モデルにより認識された胸腺評価領域の画素値の分布は、誤り等の要因によって本来の医療画像の特徴を反映しない外れ値や異常値が含まれることがある。そのため、外れ値等の影響を最小限に抑えて画素値の代表値を算出することが必要となる。本実施形態では、画素値の分布が単峰性であることを予め確認しておき、画素値の確率密度関数をカーネル密度推定(KDE; Kernel Density Estimation)等の手法で推定し、その結果得られた分布の最頻値を分布の代表値とする。
【0086】
複数の認識結果に対応する複数の画素値の代表値を統合することで、複数の認識結果全体を通した画素値の代表値(統合代表値)が得られる。統合代表値は、例えば、複数の画素値の代表値の算術平均、重心又は中央値等、複数の値から算出される統計値であってもよい。
【0087】
撮像条件(例えばCT画像の場合、撮像プロトコルや放射線量等)により画素値が変化する場合、画素値や代表値が医療画像中の胸腺組織の性状を正しく反映していない可能性がある。画像の特徴が強く類似しているという前提が医学的に妥当な複数の医療画像があれば、これらを基準として公知のバイアス補正技術を用いて、撮像条件の違いによる結果値のバイアスを補正することができる。バイアス補正の基準とする医療画像は、例えば、同一の患者で短期間のうちに2回以上撮像された医療画像、又は同一とみなせる模型(ファントム)を撮像した複数の医療画像等が挙げられる。バイアス補正技術は、例えば、一般化線形混合モデルやComBat(Combined Association Test)法等の統計的手法を用いることができる。
【0088】
なお、画像補正部24は、複数の画素値の代表値が所定の基準を満たさない場合、統合代表値を計算しなくてもよい。所定の基準は、例えば、複数の画素値の代表値のばらつきが所定の範囲内であること、又は確率密度関数が単峰性であること等である。ばらつきの評価は、例えば、標本分散、不偏分散等の指標を用いて行うことができる。複数の画素値の代表値のばらつきが大きい場合や確率密度関数が多峰性で一意の代表値を計算できない場合、対象画像を解析することに適さない、又は認識結果が誤っている可能性が高い。この場合、医療者等により対象画像及び認識結果の再評価を行い、結果の妥当性を検証するとよい。
【0089】
図11は、胸腺組織の認識の流れ(すなわち、ステップS12及びステップS13における一連の処理)の一例を示すブロック図である。
図11に示されているように、対象画像に含まれる断面画像は複数の領域分割モデルにそれぞれ入力され、各領域分割モデルから胸腺評価領域の認識結果が出力される。認識結果からは胸腺評価領域の画素値の分布が抽出され、その分布に基づいて画素値の代表値が計算される。各認識結果に対応する複数の代表値は統合され、統合代表値が計算される。また、各認識結果に対応する画素値の分布及び画素値の代表値は、認識結果の妥当性の検証に用いられる。このようにして得られた統合代表値は、必要に応じて、断面画像のバイアスを補正するために用いられる。
【0090】
図10に戻って説明する。ステップS14において、画像解析装置4の領域推定部25は、画像認識部23から統合認識結果を受け取る。次に、領域推定部25は、画像補正部24から画素値が補正された対象画像を受け取る。続いて、領域推定部25は、受け取った対象画像及び統合認識結果に基づいて、胸腺評価領域の量を推定する。領域推定部25は、推定した胸腺評価領域の量を組織量推定部26に送る。
【0091】
ステップS15において、画像解析装置4の組織量推定部26は、領域推定部25から胸腺評価領域の量を受け取る。次に、組織量推定部26は、受け取った胸腺評価領域の量に基づいて、胸腺量を推定する。続いて、組織量推定部26は、胸腺量の推定値を結果出力部27に送る。
【0092】
胸腺評価領域は、胸腺組織と脂肪組織とが混ざり合って構成されている。しかしながら、臨床的又は生物学的には胸腺評価領域に含まれる胸腺組織の量が重要である。胸腺組織の量を直接計測することはできないが、胸腺評価領域の量(体積)や画素値の情報から胸腺組織の量(体積)を推定することは可能である。
【0093】
ヒトを含む動物の身体の領域を撮像した医療画像において、画素点ごとに画素値Mが測定可能であるとする。例えば、CT画像においては、CT値がMに該当する。組織XにおけるMと組織YにおけるMがそれぞれ平均して概ねMX,MYであり、体積がそれぞれvX,vYであるとする。組織Xと組織Yとが混ざり合って構成される領域Zについて、そのMが平均して概ねMZであり、その体積がvZであるとする。例えば、ZがTRQ(胸腺評価領域)だとすると、Xが胸腺組織、Yが脂肪組織に該当する。このとき、式(1)(2)が成立することを前提とする。
【0094】
【0095】
式(1)(2)が成立するとき、式(3)(4)が成立する。
【0096】
【0097】
ただし、MXは胸腺組織の画素値の平均であり、MYは脂肪組織の画素値の平均であり、MZは胸腺評価領域の画素値の平均であり、vXは胸腺組織の体積であり、vYは脂肪組織の体積であり、vZは胸腺評価領域の体積であり、aは任意の正の実数である。
【0098】
MX,MYの値が定数として定まっていることを前提とすれば、MZの計測値^MZ及びvZの計測値^vZに基づいて、vXの推定値^vX及びlogavXの推定値^logavXを式(5)(6)により計算できる。なお、「^」は本来直後の文字の真上に記載すべき記号であるが、テキスト記法の制限により直前に記載している。数式中では本来の位置(すなわち、文字の真上)に記載している。
【0099】
【0100】
式(5)で計算された推定値^vX及び式(6)で計算された推定値^logavXは、領域Zに含まれる組織Xの体積vXを推定するための指標として用いることができる。
【0101】
推定値^vX及び推定値^logavXを、Xを胸腺組織とし、Yを脂肪組織とし、Zを胸腺評価領域として計算することで、胸腺組織の体積vXを推定することができる。以下、推定値^vXを推定胸腺体積(ETV; Estimated Thymic Volume)とも呼び、推定値^logavXを推定対数胸腺体積(ELTV; Estimated Log Thymic Volume)とも呼ぶ。
【0102】
ステップS16において、画像解析装置4の結果出力部27は、組織量推定部26から胸腺量の推定値を受け取る。次に、結果出力部27は、標準量記憶部21から標準量を読み出す。続いて、結果出力部27は、受け取った胸腺量の推定値と読み出した標準量とを比較する。そして、結果出力部27は、胸腺量の推定値と標準量との比較結果に基づいて、胸腺の評価結果を生成する。
【0103】
ステップS17において、画像解析装置4の結果出力部27は、胸腺の評価結果を表示装置506等に出力する。結果出力部27は、胸腺の評価結果に加えて、又は胸腺の評価結果に代えて、対象画像に統合認識結果を重畳した画像、胸腺評価領域の形状を示す画像、胸腺評価領域におけるCT値の分布、及び胸腺量の推定値(例えば、ELTV)等のいずれか1つ以上を出力してもよい。
【0104】
図12は、本実施形態における評価結果の一例を示す図である。
図12に示されているように、本実施形態における評価結果は、例えば、年齢と推定対数胸腺体積(ELTV)とを軸とする2次元平面に、各年齢における標準値(5%~95%)を示し、対象患者のデータに対応するマーカーを示したグラフである。各年齢における中央値(50%)よりも推定対数胸腺体積が少ないほど、胸腺萎縮が強いことを表している。また、各年齢における中央値(50%)よりも推定対数胸腺体積が有意に多い場合、胸腺過形成が生じている可能性がある。なお、ここでは中央値を基準として胸腺量を評価する例を示したが、平均値を基準として胸腺量を評価してもよい。
【0105】
図12に示した例は、患者の年齢及び性別に応じた標準値との差を示す評価結果である。この例では、対象画像から推定された胸腺量と患者の年齢との交点にマーカーを示している。この評価結果によれば、マーカーのy座標とその年齢の平均値のy座標との差から、患者の胸腺量が、患者の年齢及び性別における平均値とどの程度相違しているかを把握することができる。
【0106】
評価結果は、患者の性別における胸腺量の中央値と胸腺量の推定値とが一致する年齢を示してもよい。この場合、対象画像から推定された胸腺量と中央値を示す曲線との交点にマーカーを示せばよい。マーカーのx座標から、胸腺量の中央値が胸腺量の推定値と一致する年齢(胸腺年齢又は胸腺老化度)を把握することができる。
【0107】
<胸腺組織の認識精度>
本実施形態における胸腺組織の認識精度について、
図13及び
図14を参照しながら説明する。
図13は、本実施形態における胸腺評価領域のCT値を示す図である。
図14は、本実施形態における胸腺評価領域の体積を示す図である。
【0108】
図13は、画像解析装置4により特定された胸腺評価領域のCT値(推定値)と、正解ラベルが示す胸腺評価領域のCT値(正解値)とをプロットしたグラフである。領域分割モデルによる胸腺組織の認識結果が異なる組織を含む場合、CT値に差が生じるため、CT値の正解値と推定値との差が小さければ、適切に胸腺組織を認識していることを意味する。
図13に示されているように、本実施形態により特定された胸腺評価領域のCT値は正解ラベルが示す胸腺評価領域のCT値と高い相関を示している。したがって、
図13のグラフには、本実施形態により高い精度で胸腺評価領域を特定できていることが示されている。
【0109】
図14は、画像解析装置4により特定された胸腺評価領域の体積(推定値)と、正解ラベルが示す胸腺評価領域の体積(正解値)とをプロットしたグラフである。
図14に示されているように、本実施形態により特定された胸腺評価領域の体積は正解ラベルが示す胸腺評価領域の体積と高い相関を示している。したがって、
図14のグラフには、本実施形態により高い精度で胸腺評価領域を特定できていることが示されている。
【0110】
<応用例>
本実施形態における胸腺評価システム1により出力される評価結果は、胸腺過形成、胸腺腫又は胸腺癌を診断するために用いることができる。例えば、胸腺評価システム1により出力される評価結果を学習データとして、胸腺評価領域の大きさ、形状、CT値の分布、もしくは推定対数胸腺体積等の胸腺量を入力とし、胸腺過形成、胸腺腫又は胸腺癌が存在する確率を出力する機械学習モデルを学習することができる。この機械学習モデルは、例えば、ロジスティック回帰又はランダムフォレストにより実装することができる。応用例の機械学習モデルによる推定結果によれば、胸腺過形成、胸腺腫又は胸腺癌の診断を補助することができる。
【0111】
<実施形態の効果>
本実施形態における画像解析装置4は、胸腺評価領域を示す正解ラベルが付与された学習データを用いて学習された領域分割モデルに基づいて、対象画像に含まれる胸腺評価領域を認識し、認識結果に基づいて推定された胸腺評価領域の量に基づいて胸腺量を推定する。胸腺組織は周囲の組織との境界が不明瞭であるため、予め定めた胸腺評価領域を認識することで、定量的な胸腺量が得られる。したがって、本実施形態における画像解析装置4によれば、胸腺量を定量的に評価することができる。
【0112】
本実施形態における画像解析装置4は、胸腺評価領域を、前縦隔のうち頭側境界面と尾側境界面との間の領域とし、頭側境界面を、左腕頭静脈が大動脈又は腕頭動脈の腹側を通過する水平断面とし、尾側境界面を、上行大動脈と肺動脈幹が左右に冠状面に平行に並ぶ水平断面とする。上記の胸腺評価領域は、明確な解剖学的基準に従って定義されており、画像的特徴を良好に捉えることが可能である。また上記の胸腺評価領域は、血管や骨等の画像評価のバイアスの原因となる構造物を含まない。したがって、本実施形態における画像解析装置4によれば、精度よく定量的な胸腺量を推定することができる。
【0113】
本実施形態における画像解析装置4は、医療画像における胸腺組織の画素値に基づいて、胸腺組織の量を推定する。特に、本実施形態における画像解析装置4は、胸腺組織の画素値の平均と脂肪組織の画素値の平均とに基づいて胸腺評価領域の量(体積)から胸腺組織の量(体積)を計算する。したがって、本実施形態における画像解析装置4によれば、精度よく定量的な胸腺量を推定することができる。
【0114】
本実施形態における画像解析装置4は、異なる学習データを用いて学習された複数の領域分割モデルによる認識結果を統合する。領域分割モデルの認識結果は誤りを含み得るが、複数の領域分割モデルによる認識結果を統合することで、認識結果の精度が向上する。したがって、本実施形態における画像解析装置4によれば、医療画像から精度よく胸腺組織を認識することができる。
【0115】
本実施形態における画像解析装置4は、胸腺量の推定値と予め定めた標準量との比較結果を出力する。特に、本実施形態における画像解析装置4は、患者の年齢及び性別に応じた標準量との差、又は、胸腺量の推定値が患者の性別において標準量となる年齢を出力する。したがって、本実施形態における画像解析装置4によれば、胸腺の萎縮又は過形成を判断するための情報を効率的に得ることができる。
【0116】
[補足]
上記で説明した実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)や従来の回路モジュール等の機器を含むものとする。
【0117】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 胸腺評価システム
2 画像取得装置
3 モデル学習装置
4 画像解析装置
10 学習データ記憶部
11 学習データ分割部
12 モデル学習部
13 モデル出力部
20 モデル記憶部
21 標準量記憶部
22 画像入力部
23 画像認識部
24 画像補正部
25 領域推定部
26 組織量推定部
27 結果出力部