(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108005
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂製複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240802BHJP
B32B 5/10 20060101ALI20240802BHJP
B32B 1/00 20240101ALI20240802BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20240802BHJP
D02G 3/26 20060101ALI20240802BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20240802BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20240802BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
B29B11/16
B32B5/10
B32B1/00 Z
B32B5/28
D02G3/26
B29C70/10
B29C70/50
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012239
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】八塚 優
(72)【発明者】
【氏名】深沢 英範
(72)【発明者】
【氏名】石井 ▲徳▼
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4F205
4L036
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB10
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4F072AL01
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL16
4F072AL17
4F100AA37
4F100AG00
4F100AG00A
4F100AK01
4F100AK01A
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4F100AK03
4F100AK03A
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4F100AK07
4F100AK07B
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4F100AK42
4F100AK42B
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4F100AK46A
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4F205HB02
4F205HC03
4F205HF05
4L036MA04
4L036PA21
4L036PA26
4L036PA28
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】曲げ強力に優れた、繊維強化樹脂製複合体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明では、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層を少なくとも備え、前記強化層は、SZ撚りが付与され、前記SZ撚りの反転角度は、180°以上720°以下である、繊維強化樹脂製複合体を提供する。また、前記繊維強化樹脂製複合体の製造方法であって、SZ撚りを、反転角度180°以上720°以下で付与する工程を少なくとも有する、繊維強化樹脂製複合体の製造方法も提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層を少なくとも備え、
前記強化層は、SZ撚りが付与され、
前記SZ撚りの反転角度は、180°以上720°以下である、繊維強化樹脂製複合体。
【請求項2】
前記SZ撚りのピッチ幅は800mm以下である、請求項1に記載の繊維強化樹脂製複合体。
【請求項3】
前記強化層の最外層を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の被覆層を更に備える、請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂製複合体。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の繊維強化樹脂製複合体を用いた成形品。
【請求項5】
熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層を少なくとも備え、前記強化層は、SZ撚りが付与され、前記SZ撚りの反転角度は、180°以上720°以下である、繊維強化樹脂製複合体の製造方法であって、
SZ撚りを、反転角度180°以上720°以下で付与する工程を少なくとも有する、繊維強化樹脂製複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製複合体及びその製造方法に関する。より詳しくは、曲げ強力に優れた、繊維強化樹脂製複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化用繊維を合成樹脂で結着した繊維強化樹脂製物品は、強度が高く且つ軽量であるという点から、金属製物品に代わる材料として、自動車部材、電子部品、農林資材、建築材、家具等の幅広い分野で利用されている。この繊維強化樹脂の技術を使用した製品の一つであるガラスロービング等の長繊維束を強化用繊維とし、樹脂をマトリックスとするパイプ、ロッド、線状物等も古くから各種産業分野で使用されている。
【0003】
ここで、例えば、特許文献1には、連続強化繊維と熱可塑性樹脂を含む連続繊維強化樹脂複合材料であって、前記連続繊維強化樹脂複合材料の任意の式で表される界面被覆率変化指数が0.8~1.2であることを特徴とする連続繊維強化樹脂複合材料が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含み、内層における結晶相の(010)面の半値全幅が1.00以上であり、前記(010)面の強度が40000以下である、ことを特徴とする連続繊維強化樹脂複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-167223号公報
【特許文献2】特開2022-167478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術で製造された繊維強化樹脂複合材料は、曲げ強力が低く、座屈等による機械特性の低下が問題となっていた。したがって、更なる曲げ強力の改善を行う必要があった。
【0007】
そこで、本発明では、このような実情に鑑み、曲げ強力に優れた、繊維強化樹脂製複合体及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らが鋭意実験検討を行った結果、繊維強化樹脂製複合体のうち、強化層の構造に着目することで、曲げ強力に優れた、繊維強化樹脂製複合体及びその製造方法が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明では、まず、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層を少なくとも備え、前記強化層は、SZ撚りが付与され、前記SZ撚りの反転角度は、180°以上720°以下である、繊維強化樹脂製複合体を提供する。
本発明に係る繊維強化樹脂製複合体では、前記SZ撚りのピッチ幅は800mm以下であってもよい。
本発明に係る繊維強化樹脂製複合体は、前記強化層の最外層を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の被覆層を更に備えていてもよい。
また、本発明では、前記繊維強化樹脂製複合体を用いた成形品も提供する。
【0010】
更に、本発明では、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層を少なくとも備え、前記強化層は、SZ撚りが付与され、前記SZ撚りの反転角度は、180°以上720°以下である、繊維強化樹脂製複合体の製造方法であって、SZ撚りを、反転角度180°以上720°以下で付与する工程を少なくとも有する、繊維強化樹脂製複合体の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、曲げ強力に優れた、繊維強化樹脂製複合体及びその製造方法を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る繊維強化樹脂製複合体1(被覆層12あり)の一実施形態の参考端面図である。
【
図2】Iは、本発明に係る繊維強化樹脂製複合体1(被覆層12なし)の一実施形態の拡大図であり、IIは、IのA-A間部分拡大図である。
【
図3】本発明に係る製造方法の概略を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
1.繊維強化樹脂製複合体1
図1は、本発明に係る繊維強化樹脂製複合体1(被覆層12あり)の一実施形態の参考端面図である。本発明に係る繊維強化樹脂製複合体1(以下、単に「本発明に係る複合体1」とも称する。)は、強化層11を少なくとも備える。また、必要に応じて、1又は2以上の被覆層12と、を備えていてもよい。
【0015】
本発明に係る複合体1の形状としては、例えば、略円筒状又は略多角筒状とすることができる。「略円筒状」とは、具体的には、その断面が円形、又は楕円形などの扁平形状となる形状をいう。「略多角筒状」とは、具体的には、その断面が三角形、四角形などの多角形となる形状をいう。
【0016】
本発明に係る複合体1は、曲げ強力に優れていることから、金属製物品に代わる材料として、これまで以上に、自動車部材、電子部品、農林資材、建築材、家具等の幅広い分野で利用されることが期待できる。また、3Dプリンタのフィラメント材料や、該材料を用いた成形体等へ転用されることも期待できる。
以下、各層について、詳細に説明する。
【0017】
(1)強化層11
強化層11は、
図1に示すように、熱可塑性樹脂111を含浸させた強化用繊維束112により形成される層である。強化用繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたものは、一般的に、繊維強化熱可塑性樹脂(FRTP)と称される。
【0018】
<強化層11に用いられる熱可塑性樹脂111>
強化層11に用いられるマトリックス樹脂しての熱可塑性樹脂111としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイソブチレン(PB)等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PENp)、液晶ポリエステル(LCP)等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン(PS)、アクリロ二トリル-スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル-アクリル-スチレン樹脂(AAS)、アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン(AES)等のスチレン系樹脂;ウレタン樹脂等が挙げられる。また、その他にも、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)等が挙げられる。また、本発明では、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明では、これらの中でも特に、ポリカーボネート、アクリロニトリル-スチレン樹脂、ポリプロピレン、及びポリビニルアルコールからなる群より選ばれるいずれか1種以上であることが好ましく、ポリカーボネート及び/又はアクリロニトリル-スチレン樹脂であることがより好ましい。
【0020】
<強化用繊維束112>
強化用繊維束112としては、例えば、連続長繊維束、繊維編組物(例えば、織物、編物、組物など)の形態を有する基材であることが好ましい。これらを用いることで、連続含浸性、被覆層の連続形成性が確保でき、生産性に優れた被覆層を有する繊維強化樹脂製複合体1の製造が可能となる。
【0021】
強化用繊維束112を構成する繊維としては、例えば、オレフィン系繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル(LCP)繊維等の有機繊維;ガラス繊維;炭素繊維等の無機繊維;チラノ繊維等のセラミック繊維;ボロン繊維、銅、ステンレス等の金属繊維;アモルファス繊維等を用いることができる。また、本発明では、これらの混織物等を用いることもできる。本発明では、これらの中でも特に、ガラス繊維及び/又は炭素繊維を用いることが好ましい。
【0022】
ガラス繊維としては、例えば、ガラス繊維モノフィラメント、ガラス繊維ストランド、ガラス繊維ロービング、ガラス繊維ヤーン等の長繊維を用いることができる。本発明では、これらの中でも特に、ガラス繊維ロービング及び/又はガラス繊維ヤーンを用いることが好ましい。また、ガラス繊維織物、ガラス繊維組物、ガラス繊維編物等のガラス繊維編組物をも用いることができる。
【0023】
なお、ガラス繊維は、エポキシシランカプリング剤、アクリルシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理を行ったものでもよい。また、ガラス繊維のガラス組成としては、例えば、Eガラス、Sガラス、Cガラス等が挙げられる。本発明では、これらの中でも特に、Eガラスが好ましい。また、ガラス繊維モノフィラメントの断面は略円形であってもよく、略楕円形等の扁平形状でもよい。
【0024】
ガラス繊維ロービングとしては、例えば、直径3μm以上100μm以下のガラス繊維モノフィラメントが100本以上5000本以下束ねられたガラス繊維束を、3本以上500本以下更に束ねたものが好ましい。
【0025】
炭素繊維としては、コールタールピッチや石油ピッチを原料にした「ピッチ系」と、ポリアクリロニトリルを原料とする「PAN系」と、セルロース繊維を原料とする「レーヨン系」の3種類があり、本発明では、どの炭素繊維も用いることができる。
【0026】
強化用繊維束112は、必要に応じて、周知の方法により所望の尺長に織り上げるか、組み上げるか、又は編み上げるか等の方法により調製しておくことができ、或いは、長尺のものをロールに巻き取って使用してもよい。また、強化用繊維への樹脂の含浸性を高めるためや、強化用繊維中の水分を除去させるために、強化用繊維束112を加熱してもよい。
【0027】
強化用繊維(束)112の体積含有率は、強化層11全体に対して20%以上80%以下であることが好ましく、40%以上60%以下であることがより好ましい。体積含有率が20%より低くなると、強化用繊維による補強効果が低くなる。逆に、体積含有率が80%を超えると、樹脂量が少ないために、曲げ強力に悪影響を生じる。
【0028】
<強化層11における撚り>
図2のIは、本発明に係る繊維強化樹脂製複合体1(被覆層12なし)の一実施形態の拡大図であり、
図2のIIは、IのA-A間部分拡大図である。
図2のIにおいて、本発明に係る複合体1は、左右に連続するものとし、その長さは特に限定されない。本発明において、強化層11は、SZ撚りが付与された状態である。すなわち、S撚り(時計周りの方向への螺旋)とZ撚り(半時計周りの方向への螺旋)とが付与されており、付与されたS撚り及びZ撚りは、好ましくは一定の周期で、且つ、所定の反転角度で形成されている。
【0029】
撚りを付与する位置については、含浸槽出口であれば、どこの工程であってもよいが、例えば、後述する本発明に係る製造方法における工程にて行うことができる。また、撚りを付与する方法についても、従来公知の方法に基づいて行うことができ、特に限定されない。
【0030】
本発明において、付与するSZ撚りの反転角度は、180°以上720°以下であることを特徴とする。これにより、曲げ強力に優れた繊維強化樹脂製複合体1を提供できる。また、反転角度は、180°以上450°以下が好ましく、180°以上405°以下がより好ましく、180°以上360°以下が更に好ましい。反転角度を180°以上450°以下とすることで、曲げ強力のみならず、耐熱曲げ性能にも優れた繊維強化樹脂製複合体1を提供できる。
【0031】
撚りを付与する際に、撚りのピッチ幅としては、800mm以下であることが好ましく、500mm以下であることがより好ましく、300mm以下であることが更に好ましく、200mm以下であることが特に好ましい。撚りのピッチ幅が800mmより大きいと、含浸させた熱可塑性樹脂の軟化によって、曲げたときFRTPロッド補強繊維の外周側と内周側の張力差が要因で座屈や白化が生じる。なお、撚りピッチ幅の下限値としては、例えば、50mm以上であり、取り扱い性の観点から、100mm以上が好ましい。
【0032】
(2)被覆層12
本発明に係る繊維強化樹脂製複合体1は、
図1に示すように、前記強化層11の最外側を熱可塑性樹脂により被覆する1又は2以上の層である。なお、
図1では、被覆層12が1層の場合を描写しているが、本発明においては、被覆層12は2層以上であってもよい。被覆層12が2層以上である場合の構造としては、例えば、強化層11を覆う第1の被覆層12の一部又は全部を第2以上の被覆層12で順に覆う構造等が挙げられる。
【0033】
<被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂>
被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイソブチレン(PB)等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PENp)、液晶ポリエステル(LCP)等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン(PS)、アクリロ二トリル-スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル-アクリル-スチレン樹脂(AAS)、アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン(AES)等のスチレン系樹脂;ウレタン樹脂等が挙げられる。また、その他にも、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)等が挙げられる。また、本発明では、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明では、これらの中でも特に、ポリカーボネート及び/又はポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。また、本発明では、前記最外側を被覆する熱可塑性樹脂(被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂)は、強化用繊維束112へ含浸させた熱可塑性樹脂111(強化層11に用いられる熱可塑性樹脂111)の溶融開始以下であるか、又は前記最外側を被覆する熱可塑性樹脂の溶融開始温度が、200℃以下であることが好ましい。被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂の溶融開始温度がマトリックス樹脂の溶融開始温度より高いと被覆を行った際に、強化用繊維と熱可塑性樹脂の複合体が軟化により物性に悪影響がある。ただし、溶融開始温度が200℃以下の熱可塑性樹脂であれば、たとえマトリックス樹脂の溶融開始以上であったとしても、冷却が短時間で行えることから、物性への影響がほとんどないため、悪影響を及ぼすことがない。
【0035】
2.繊維強化樹脂製複合体1を用いた成形品
本発明に係る成形品は、本発明に係る繊維強化樹脂製複合体1を用いた繊維構造物であり、例えば、樹脂同士の接点が熱接合された不織布、ネット状物、編物、及び織物からなる群より選ばれる少なくとも一種以上の布帛で構成された構造物等が挙げられる。前記樹脂同士の接点としては、例えば、繊維強化樹脂製複合体1の強化層11に用いられる熱可塑性樹脂同士の接点、繊維強化樹脂製複合体1の被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂同士の接点、及び強化層11に用いられる熱可塑性樹脂と被覆層12に用いられる熱可塑性樹脂との接点からなる群より選ばれるいずれか1以上とすることができる。また、前記繊維構造物に対し、他のウェブ、織物、編物、不織布等を、必要に応じて、積層してもよい。更に、前記繊維構造物に樹脂を含浸して固化させた後、本発明に係る成形品としてもよい。
【0036】
3.繊維強化樹脂製複合体1の製造方法
図3は、本発明に係る製造方法の概略を模式的に示す図である。本発明に係る製造方法は、上述した本発明に係る繊維強化樹脂製複合体1の製造方法であって、SZ撚りを、反転角度180°以上720°以下で付与する工程を少なくとも有する。また、必要に応じて、他の工程を行ってもよい。
以下、本発明に係る製造方法について、詳細に説明する。
【0037】
(1)繊維強化用繊維束Fを引取可能とする工程
本工程は必須の工程ではないが、本発明に係る製造方法において行われてもよい。具体的には、繊維強化用繊維束Fを所要本数クリール10より引き出し、必要に応じて、繊維強化用繊維束Fに張力調整手段を介して、未昇温の予熱装置内に通し(不図示)、繊維強化用繊維束F群を引出し、冷却水を満たしていない冷却槽を経て(不図示)、引取装置20により繊維強化用繊維束F群を引取可能とする。
【0038】
(2)SZ撚りを、反転角度180°以上720°以下で付与する工程
本工程では、繊維強化用繊維束Fに熱可塑性樹脂を含浸した後、熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化用繊維束Fに対し、SZ撚りを、反転角度180°以上720°以下で付与する。具体的には、引取装置20を駆動して、繊維強化用繊維束F群を所定の速度で引取りながら、繊維強化用繊維束Fに対して張力調整手段を介して1本当たり所定の張力を負荷し、予熱装置を昇温して繊維強化用繊維束Fを加熱しつつ溶融押出機30を駆動して、含浸槽40に熱可塑性樹脂を供給し、含浸槽40内にて各繊維強化用繊維束Fと溶融した熱可塑性樹脂を接触させ、各強化用繊維束Fに熱可塑性樹脂を含浸させて、含浸槽40内絞りで径を整えながら、大気圧下若しくは加圧下にて繊維強化用繊維束Fを線状物として押出する。次いで、該線条物に対して、SZ撚りを付与する。なお、作製される強化層11全体に対する前記強化用繊維の体積含有率は、従来公知の方法により、当業者により適宜自由に設定されるが、本発明では、20%以上80%以下であることが好ましく、40%以上60%以下であることがより好ましい。
【0039】
(3)強化層11作製工程
本工程では、熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化用繊維束FをSZ撚りに付与しながら冷却し、強化層11を作製する。具体的には、撚りが付与された線状物を、風冷、水冷、又はミスト噴射からなる群より選ばれるいずれか1つ以上の方法により冷却し、撚りを賦形し、強化層11を作製する。
【0040】
本工程では、熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化用繊維束FをSZ撚りに付与しながら冷却していることから、強化用繊維束Fへ樹脂含浸を行う前に繊維強化用繊維束Fに撚りを与えた場合と比較して、効率よく撚りを賦形できる。通常、繊維強化用繊維束Fに撚りを与える場合、繊維が絡まるなど加工性が悪い。しかしながら、熱可塑性樹脂を含浸してから固化するまでに撚りを賦形することで、空隙の発生を防ぎより高密度にすることができる。なお、本工程では、撚り機により、更に撚りが付与されてもよい。
【0041】
(4)被覆層12作製工程
本工程では、作製された強化層11の最外層に熱可塑性樹脂を被覆し、被覆層12を作製する。具体的には、溶融押出機30を駆動して、クロスヘッドダイに熱可塑性樹脂を供給し、強化層11の最外層に該熱可塑性樹脂を接触させて、加圧下にて、例えば、ロッド状となるように押出被覆する。次いで、従来公知の方法により冷却固化させて、繊維強化樹脂製複合体1を作製する。作製した本発明に係る複合体1は、
図3に示すように、必要に応じて、引取してもよい。
【実施例0042】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0043】
<繊維強化樹脂製複合体の作製>
実施例1~5、及び7~9については、上述した製造方法に従って作製した。実施例6については、被覆層12作製工程を行わなかった以外は、上述した製造方法に従って作製した。また、比較例1については、SZ撚りを行わなかった以外は、上述した製造方法に従って作製した。比較例2については、SZ撚りの代わりにS撚りを行った以外は、上述した製造方法に従って作製した。比較例3については、SZ撚りの代わりにZ撚りを行った以外は、上述した製造方法に従って製造した。
【0044】
各実施例及び各比較例の、強化用繊維(束)の体積含有率、撚り方向、撚りピッチ、及び作製に用いた樹脂種については、下記表1又は表2に示す。
【0045】
<評価>
作製した各繊維強化樹脂製複合体について、3点曲げ試験、及び耐熱曲げ試験を行った。
【0046】
[3点曲げ試験]
100mm長さにカットした各繊維強化樹脂製複合体(N=5)について、万能試験機を使用し、支点間距離は繊維強化樹脂製複合体(被覆層なし)の直径×20mm、速度5.0mm/minの条件で3点曲げ試験を行い、N=5の平均値を測定値とした。
なお、本発明において、前記直径は、繊維強化樹脂製複合体(被覆層なし)の形状が多角筒状の場合、その断面における外接円の直径と規定する。
【0047】
評価方法としては、得られた測定値を下記の評価と照らし合わせた。
400N≦F:A
350N≦F<400N:B
300N≦F<350N:C
250N≦F<300N:D
F<250:E
【0048】
[耐熱曲げ試験]
試料を繊維強化樹脂製複合体(被覆層なし)の直径の40倍(40D)の直径で半円となるように両端末部を固定して、この試料5本を80℃の乾熱炉内に48時間放置して座屈や折れが発生するかを評価した。
なお、本発明において、前記直径は、上述した通り、繊維強化樹脂製複合体(被覆層なし)の形状が多角筒状の場合、その断面における外接円の直径と規定する。また、前記半円は、前記外接円の40倍の直径における半円と規定する。
【0049】
評価方法としては、得られた各繊維強化樹脂製複合体の状態を下記の評価と照らし合わせた。
座屈(折れや白化など)がない:A
座屈はないが、折れや白化がある:B
座屈がある:C
【0050】
<評価>
各評価結果を、下記表1及び表2に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
<考察>
実施例1~9の繊維強化樹脂製複合体は、比較例1~3の繊維強化樹脂製複合体と比較して、曲げ強力に優れていることが分かった。更には、耐熱曲げ性能にも優れていることが分かった。したがって、熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維束により形成された強化層を少なくとも備え、前記強化層は、SZ撚りが付与され、前記SZ撚りの反転角度は、180°以上720°以下とすることにより、繊維強化樹脂製複合体の長さ方向における方向性が一方向から等方性側に向かうことで、曲げ強力に優れた繊維強化樹脂製複合体が提供できることが分かった。
本発明によれば、曲げ強力に優れた、繊維強化樹脂製複合体及びその製造方法を提供することができる。したがって、本発明に係る複合体は、曲げ強力に優れていることから、金属製物品に代わる材料として、これまで以上に、自動車部材、電子部品、農林資材、建築材、家具等の幅広い分野で利用されることが期待できる。また、3Dプリンタのフィラメント材料や、該材料を用いた成形体等へ転用されることも期待できる。