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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108041
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】無線送信装置および無線送信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20240802BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H04B7/06 950
H04B1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012298
(22)【出願日】2023-01-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 総務省「電波資源拡大のための研究開発 ~100GHz以上の高周波数帯通信デバイスに関する研究開発~」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】丹治 康紀
(72)【発明者】
【氏名】金子 友哉
【テーマコード(参考)】
5K060
【Fターム(参考)】
5K060CC04
5K060HH16
5K060HH22
5K060JJ21
5K060KK04
(57)【要約】
【課題】複数の入力信号によるMIMOをより簡易な回路構成で実現することを可能にする。
【解決手段】
複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重するレイヤー多重と、ビームフォーミング処理を含むプリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、前記複数のベースバンド信号を生成し、前記複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換し、複数の直交変調器を用いて、局部発振器により出力される搬送波と、前記複数のアナログ信号とを使用して、前記複数のアナログ信号の各々によって前記搬送波を変調して、前記アナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成し、前記複数の送信信号をそれぞれ複数のアンテナ素子を介して空中に放射する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重するレイヤー多重と、ビームフォーミングを含むプリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、前記複数のベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部と、
前記複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換する複数の信号変換手段と、
局部発振器により出力される搬送波と、前記複数のアナログ信号とを使用して、前記複数のアナログ信号の各々によって前記搬送波を変調して、前記複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成する複数の直交変調器と、
前記複数の送信信号をそれぞれ空中に放射する複数のアンテナ素子と
を備える無線送信装置。
【請求項2】
前記ベースバンド信号生成部は、前記複数のベースバンド信号を生成するための行列を前記複数の入力信号に乗算することで、前記複数のベースバンド信号を生成する、
請求項1に記載の無線送信装置。
【請求項3】
前記複数の直交変調器の各々は、
前記搬送波を第一の分配信号および第二の分配信号に分配する分配器と、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とを乗算する第一のミキサと、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とを乗算する第二のミキサと、
前記第二のミキサの出力信号の位相を前記第一のミキサの出力信号の位相に対して90度移相させた信号と、前記第一のミキサの出力信号とを合成する合成器と
を備える、請求項1または請求項2に記載の無線送信装置。
【請求項4】
前記複数の直交変調器の各々は、
前記搬送波を90度異なる位相の第一の分配信号および第二の分配信号に分配する分配器と、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とを乗算する第一のミキサと、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とを乗算する第二のミキサと、
前記第一のミキサの出力信号と前記第二のミキサの出力信号とを合成する合成器と
を備える、請求項1または請求項2に記載の無線送信装置。
【請求項5】
複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重するレイヤー多重と、ビームフォーミング処理を含むプリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、前記複数のベースバンド信号を生成し、
前記複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換し、
複数の直交変調器を用いて、局部発振器により出力される搬送波と、前記複数のアナログ信号とを使用して、前記複数のアナログ信号の各々によって前記搬送波を変調して、前記複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成し、
前記複数の送信信号をそれぞれ複数のアンテナ素子を介して空中に放射する、
無線送信方法。
【請求項6】
前記複数のベースバンド信号を生成するための行列を前記複数の入力信号に乗算することで、前記複数のベースバンド信号を生成する、
請求項5に記載の無線送信方法。
【請求項7】
前記複数の直交変調器の各々は、
前記搬送波を第一の分配信号および第二の分配信号に分配し、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とを乗算し、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とを乗算し、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号の位相を、前記第一の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号の位相に対して90度移相させた信号と、前記第一の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号とを合成する、
請求項5または請求項6に記載の無線送信方法。
【請求項8】
前記複数の直交変調器の各々は、
前記搬送波を90度異なる位相の第一の分配信号および第二の分配信号に分配し、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とを乗算し、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とを乗算し、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号と前記第二の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号とを合成する、
請求項5または請求項6に記載の無線送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線送信装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
通信速度を高める通信技術として、MIMO(Multiple Input Multiple Output)方式の通信技術が知られている。MIMOが採用された無線送信装置は、信号データを複数の高周波の送信信号に変換して、アンテナアレーを構成する複数のアンテナ素子からそれぞれ無線送信する。それにより、同時に送信可能なデータ量が増加するため、通信速度を向上させることができる。
【0003】
このとき、この無線送信装置は、初期状態において複数の送信信号のそれぞれの位相及び振幅を略同一に制御している。即ち、無線送信装置は、複数の送信信号のそれぞれの位相及び振幅を、初期整列させている。さらに、この無線送信装置は、ビームフォーミング技術を採用している場合には、複数の送信信号のそれぞれの位相及び振幅を制御することで電波に指向性を持たせている。それにより、一定空間内の電波の再利用率を向上させたり不要な干渉を防いだりすることができるため、電波の利用効率及び品質を向上させることができる。
【0004】
近年、無線送信装置は、例えば数十から百を超えるような多数のアンテナ素子を用いたMIMO及びビームフォーミング技術を採用することで、通信速度をさらに向上させたり、電波の利用効率及び品質をさらに向上させたりすることが求められている。ここで、多数のアンテナ素子を用いたMIMOのことを、特にMassive MIMOと呼ぶ。
【0005】
また、関連技術としては、特許文献1から特許文献3に記載された技術がある。
【0006】
図7に、MIMOが採用された無線送信装置110の一般的な構成例を示す。無線送信装置110は、デジタルビームフォーミングを行う。無線送信装置110は、ベースバンド信号生成部111、デジタルアナログ変換器(DAC:Digital Analog Converter)112-1~112-M(Mは、1以上の自然数。以下、同じ。)、周波数変換器113-1~113-M、増幅器114-1~114-M、バンドパスフィルタ115-1~115-M、アンテナ素子116-1~116-Mおよび局部発振器117を含む。無線送信装置110では、局部発振器117により生成された信号(LO(Local Oscillator)信号)と、ベースバンド信号とが周波数変換器113-jに入力され、周波数変換器113-jは、ベースバンド信号を高周波信号へ変換する。
【0007】
しかし、図7に示される無線送信装置110は、アンテナ素子と同じ数の周波数変換器やバンドパスフィルタを含む。そのため、無線送信装置110を構成する回路が複雑となり、無線送信装置110全体の消費電力が多くなる、といった課題がある。
【0008】
一方、単純な構成でビームフォーミングが可能な方法として、アナログビームフォーミングがある。図8に、アナログビームフォーミングが採用された無線送信装置120の構成例を示す。無線送信装置120は、ベースバンド信号生成部121、デジタルアナログ変換器122、周波数変換器123、バンドパスフィルタ124、可変利得増幅器125-1~125-N(Nは、1以上の自然数。以下、同じ。)、可変位相器126-1~126-N、高周波増幅器127-1~127-N、アンテナ素子128-1~128-Nおよび局部発振器129を含む。この構成では、周波数変換器やバンドパスフィルタの数が図7に示される無線送信装置110の構成例に対して少なくなっている。
【0009】
また、特許文献3には、回路構成を簡素化する技術として、アナログビームフォーミングにおける可変利得増幅器および可変位相器の代わりに直交変調器を使用するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-158111号公報
【特許文献2】特開平11-340871号公報
【特許文献3】国際公開第2016/013143号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらの技術は、入力信号が一つである場合の技術である。入力信号が複数ある場合にこの技術を適用すると、図9のように複雑になり、回路構成の簡素化の利点が薄れてしまう。図9は、特許文献3に記載の技術が適用され、入力信号が複数ある無線送信装置の構成例を示す図である。なお、図9に示す無線送信装置130は、ベースバンド信号生成部131、デジタルアナログ変換器122-1~122-M、周波数変換器123-1~123-M、バンドパスフィルタ124-1~124-Mを含む。また、無線送信装置130は、さらに、直交変調器135-j-i(jは1~Mの自然数、iは1~Nの自然数、以下、同じ。)、増幅器127-j-i、アンテナ素子128-j-iおよび局部発振器129を含む。
【0012】
本発明の目的は、上述した課題を鑑み、複数の入力信号によるMIMOをより簡易な回路構成で実現することを可能にする無線送信装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様において、無線送信装置は、複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重するレイヤー多重と、ビームフォーミング処理を含むプリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、前記複数のベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部と、前記複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換する複数の信号変換手段と、局部発振器により出力される搬送波と、前記複数のアナログ信号とを使用して、前記複数のアナログ信号の各々によって前記搬送波を変調して、前記複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成する複数の直交変調器と、前記複数の送信信号をそれぞれ空中に放射する複数のアンテナ素子とを備える。
【0014】
また、本発明の他の態様において、無線送信方法は、複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重するレイヤー多重と、ビームフォーミング処理を含むプリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、前記複数のベースバンド信号を生成し、前記複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換し、複数の直交変調器を用いて、局部発振器により出力される搬送波と、前記複数のアナログ信号とを使用して、前記複数のアナログ信号の各々によって前記搬送波を変調して、前記複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成し、前記複数の送信信号をそれぞれ複数のアンテナ素子を介して空中に放射する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記態様によれば、複数の入力信号によるMIMOをより簡易な回路構成で実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一の実施形態の無線送信装置の構成例を示す図である。
図2】本発明の第一の実施形態の無線送信装置の動作フローの例を示す図である。
図3】本発明の第二の実施形態の無線送信装置の構成例を示す図である。
図4】本発明の第二の実施形態の無線送信装置に含まれる直交変調器の構成例を示す図である。
図5】本発明の第二の実施形態の無線送信装置の他の構成例を示す図である。
図6】本発明の第二の実施形態の無線送信装置の他の構成例を示す図である。
図7】MIMOが採用された一般的な無線送信装置の構成例を示す図である。
図8】アナログビームフォーミングが採用された無線送信装置の構成例を示す図である。
図9】特許文献3に記載の技術が適用され、入力信号が複数ある無線送信装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態について説明する。第一の実施形態における無線送信装置10の具体的な一例が、後述する第二の実施形態における無線送信装置20である。
【0018】
図1に、本実施形態の無線送信装置10の構成例を示す。無線送信装置10は、ベースバンド信号生成部11、信号変換手段12-j(jは1からMの整数)、直交変調器13-jおよびアンテナ素子14-jを含む。
【0019】
ベースバンド信号生成部11は、レイヤー多重と、プリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、複数の入力信号から複数(M個)のベースバンド信号を生成する。レイヤー多重は、複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重することである。プリコーディングは、ビームフォーミング処理を含む。
【0020】
複数の信号変換手段12-1~12-Mは、複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換する。
【0021】
複数の直交変調器13-1~13-Mは、局部発振器により出力される搬送波と、複数のアナログ信号とを使用して、複数のアナログ信号の各々によって搬送波を変調して、複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成する。
【0022】
複数のアンテナ素子14-1~14-Mは、複数の送信信号をそれぞれ空中に放射する。
【0023】
次に、図2に、本実施形態の無線送信装置10の動作フローの例を示す。
【0024】
ベースバンド信号生成部11は、複数の入力信号から複数(M個)のベースバンド信号を生成する(ステップS101)。
【0025】
複数の信号変換手段12-1~12-Mは、複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換する(ステップS102)。
【0026】
複数の直交変調器13-1~13-Mは、搬送波と複数のアナログ信号とを使用して、複数のアナログ信号の各々によって搬送波を変調して、前記複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成する(ステップS103)。
【0027】
複数のアンテナ素子14-1~14-Mは、複数の送信信号をそれぞれ空中に放射する(ステップS104)。
【0028】
以上で説明したように、本発明の第一の実施形態では、無線送信装置10は、ベースバンド信号生成部11、信号変換手段12-j、直交変調器13-jおよびアンテナ素子14-jを含む。ベースバンド信号生成部11は、レイヤー多重と、プリコーディングと、をデジタル処理で行うことによって、複数の入力信号から複数(M個)のベースバンド信号を生成する。レイヤー多重は、複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重することである。プリコーディングは、ビームフォーミング処理を含む。複数の信号変換手段12-1~12-Mは、複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換する。複数の直交変調器13-1~13-Mは、局部発振器により出力される搬送波と、複数のアナログ信号とを使用して、複数のアナログ信号の各々によって搬送波を変調して、複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成する。複数のアンテナ素子14-1~14-Mは、複数の送信信号をそれぞれ空中に放射する。
【0029】
これにより、無線送信装置10では、レイヤー多重がデジタル処理で行われる。これによって、レイヤー多重がフロントエンドで行われる場合に比べて、回路構成を簡素化することができる。また、無線送信装置10は、周波数変換器の代わりに直交変調器13-jを含む。これによって、LOリークやイメージ波を低減するためのバンドパスフィルタが不要になる、または、バンドパスフィルタに対する要求性能が緩和される。そのため、複数の入力信号によるMIMOをより簡易な回路構成で実現することが可能になる。
【0030】
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。第一の実施形態における無線送信装置10の具体的な一例が、第二の実施形態における無線送信装置20である。
【0031】
図3に、本実施形態の無線送信装置20の構成例を示す。無線送信装置20は、ベースバンド信号生成部21、フロントエンド部27-1~27-Mおよび局部発振器26を含む。また、フロントエンド部27-j(jは1からMの整数)は、信号変換手段22-j、直交変調器23-j、増幅器25-jおよびアンテナ素子24-jを含む。なお、局部発振器26は、無線送信装置20の外部にあってもよい。
【0032】
無線送信装置20は、たとえば、Massive MIMOやビームフォーミング技術が採用された携帯電話基地局(特に第5世代の携帯電話用基地局)等である。無線送信装置20は、アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子(24-1~24-M)を介して複数の送信信号を無線送信する。無線送信装置20は、第5世代/第6世代移動通信システム、衝突防止、イメージングや監視などを用途としたレーダーシステム、無線LAN(Local Area Network)、ボディスキャナー等における無線送信装置であってもよい。
【0033】
ベースバンド信号生成部21は、複数(L個)の入力信号から複数(M個)のベースバンド信号を生成する。ベースバンド信号生成部21は、レイヤー多重とプリコーディングとを行う。レイヤー多重は、L個の入力信号をM個のベースバンド信号へ多重することである。また、プリコーディングとは、無線送信装置20から出力された送信信号を受信する受信装置(不図示)と無線送信装置20との間の伝送路の情報に基づいて、ベースバンド信号を調整する処理である。プリコーディングは、ビームフォーミングの処理を含む。ビームフォーミングの処理でベースバンド信号が調整されることによって、無線送信装置20から出力される送信信号の位相および振幅が調整される。
【0034】
ベースバンド信号生成部21は、たとえば、DSP(Digital Signal Processor)にて実現される。ベースバンド信号生成部21は、ベースバンド信号の生成を、デジタル処理によって行う。
【0035】
より具体的には、ベースバンド信号生成部21は、下記数式(数1)のように、L個の入力信号(L行のベクトルx)に対してM行L列の行列wを乗算することで、M個のベースバンド信号(M行のベクトルy)を生成する。行列wは、複数の入力信号から複数のベースバンド信号を生成するための行列である。これによって、レイヤー多重とプリコーディングとが実現される。ベースバンド信号生成部21は、伝送路の情報に基づいて、行列wの各要素wijを制御する。
【0036】
【数1】

このように、本実施形態では、レイヤー多重は、フロントエンドではなく、ベースバンド信号生成部21で行われる。レイヤー多重がフロントエンドで行われると、図9のように回路が複雑になる。本実施形態では、ベースバンド信号生成部21でレイヤー多重を行うことで、回路を簡素化している。
【0037】
信号変換手段22-jは、ベースバンド信号生成部21から入力されたベースバンド信号をアナログ信号に変換する。信号変換手段22-jは、たとえば、デジタルアナログ変換器(DAコンバータ)である。信号変換手段22-jは、ベースバンド信号生成部21で生成されたM個のベースバンド信号のうち、j番目のベースバンド信号を、アナログ信号に変換する。アナログ信号は、搬送波の同相成分(I(In-phase)成分)用信号と、直交成分(Q(Quadrature)成分)用信号とを含む。
【0038】
局部発振器26は、搬送波を直交変調器23-jへ出力する。搬送波は、直交変調器23-jでの変調に使用される。搬送波は、無線送信装置20が送信信号の送信に使用する周波帯の中心周波数の正弦波である。
【0039】
直交変調器23-jは、局部発振器26により出力される搬送波と、信号変換手段22-jから入力されるアナログ信号とを使用して、アナログ信号によって搬送波を変調して、送信信号を生成する。このとき、直交変調器23-jの入力端子には搬送波が、変調端子にはアナログ信号が入力される。直交変調器23-jは、アナログ信号によって、送信信号の振幅と位相とを制御する。
【0040】
ベースバンド信号生成部21において生成されるベースバンド信号は、ビームフォーミング処理が施されている。そのため、信号変換手段22-jから直交変調器23-jに入力されるアナログ信号にも、ビームフォーミング処理が施されている。このアナログ信号を変調に使用するので、直交変調器23-jで行われる変調処理は、ビームフォーミング処理を兼ねる。
【0041】
図4に直交変調器23-jの構成例を示す。直交変調器23-jは、分配器231-j、第一のミキサ232-j、第二のミキサ233-jおよび合成器234-jを含む。
【0042】
分配器231-jは、たとえば、局部発振器26から入力される搬送波を同相の第一の分配信号および第二の分配信号に分配する。第一のミキサ232-jは、第一の分配信号と、信号変換手段22-jから入力されるアナログ信号(I成分用)とを乗算して出力する。第二のミキサ233-jは、第二の分配信号と、信号変換手段22-jから入力されるアナログ信号(Q成分用)とを乗算して出力する。合成器234-jは、第二のミキサ233-jの出力信号の位相を第一のミキサ232-jの出力信号の位相に対して90度移相させる。そして。合成器234-jは、第一のミキサ232-jの出力信号と、90度移相させた第二のミキサ233-jの出力信号とを合成し、送信信号を出力する。
【0043】
なお、上記では、分配器231-jが搬送波を同相の第一の分配信号および第二の分配信号に分配し、合成器234-jが第二のミキサ233-jの出力信号の位相を90度移相させる場合について説明したが、これに限られない。分配器231-jが90度異なる位相の第一の分配信号および第二の分配信号に搬送波を分配し、合成器234-jが、第一のミキサ232-jの出力信号と第二のミキサ233-jの出力信号とを同相にて合成する構成であってもよい。
【0044】
無線送信装置が図7の無線送信装置110のように構成される場合、局部発振器117により生成された信号(LO信号)と、デジタルアナログ変換器112-jから出力されたアナログ信号とが周波数変換器113-jに入力される。そして、周波数変換器113-jは、アナログ信号を高周波信号へ変換する。しかし、周波数変換器113-jでは、LOリークやイメージ波が発生する。そのため、無線送信装置110は、LOリークやイメージ波を取り除くためのバンドパスフィルタ115-jを含む。これに対し、本実施形態の無線送信装置20は、周波数変換器の代わりに、直交変調器を含む。直交変調器では、入力される搬送波と、出力される送信信号との周波数が同一である。これにより、LOリークやイメージ波の影響を低減できる。そのため、無線送信装置20では、バンドパスフィルタが不要になる、または、バンドパスフィルタに対する要求特性が緩和される。
【0045】
増幅器25-jは、直交変調器23-jから入力された送信信号を、送信出力電力まで増幅する。
【0046】
アンテナ素子24-jは、増幅器25-jで増幅された送信信号を空中に放射する。
【0047】
なお、無線送信装置は、受信機能を備えていてもよい。この場合の無線送信装置30の構成例を図5および図6に示す。図5は、本実施形態の無線送信装置30の構成例である。図6は、本実施形態の無線送信装置30のフロントエンド部37-jの構成例である。
【0048】
無線送信装置30は、ベースバンド信号生成部31、フロントエンド部37-1~37-Mおよび局部発振器26を含む。また、フロントエンド部37-j(jは1からMの整数)は、無線送信装置20のフロントエンド部27-jと同様に、信号変換手段22-j、直交変調器23-j、増幅器25-jおよびアンテナ素子24-jを含む。また、フロントエンド部37-jは、信号変換手段32-j、直交復調器33-j、増幅器35-j、スイッチ38-jおよびスイッチ39-jを含む。スイッチ38-jとスイッチ39-jとは連動して動作し、アンテナ素子24-jの送信と受信とを切り替える。
【0049】
増幅器35-jは、アンテナ素子24-jによって受信された受信信号を所定の電力まで増幅させる。また、直交復調器33-jは、受信信号をアナログ信号に復調する。信号変換手段32-jは、復調されたアナログ信号をベースバンド信号に変換する。また、ベースバンド信号生成部31は、無線送信装置20のベースバンド信号生成部21と同様の処理を行うとともに、MIMOにおける受信に関する処理を行う。
【0050】
なお、無線送信装置20の動作フローに関しては、第一の実施形態の無線送信装置10と同様のため、説明を省略する。
【0051】
以上で説明したように、本発明の第二の実施形態では、無線送信装置20は、ベースバンド信号生成部11、信号変換手段22-j、直交変調器23-jおよびアンテナ素子24-jを含む。ベースバンド信号生成部21は、レイヤー多重と、プリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、複数の入力信号から複数(M個)のベースバンド信号を生成する。レイヤー多重は、複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重することである。プリコーディングは、ビームフォーミング処理を含む。複数の信号変換手段22-1~22-Mは、複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換する。複数の直交変調器23-1~23-Mは、局部発振器により出力される搬送波と、複数のアナログ信号とを使用して、複数のアナログ信号の各々によって搬送波を変調して、複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成する。複数のアンテナ素子24-1~24-Mは、複数の送信信号をそれぞれ空中に放射する。
【0052】
これにより、無線送信装置20では、レイヤー多重がデジタル処理で行われる。これによって、レイヤー多重がフロントエンドで行われる場合に比べて、回路構成を簡素化することができる。また、無線送信装置20は、周波数変換器の代わりに直交変調器23-jを含む。これによって、LOリークやイメージ波を低減するためのバンドパスフィルタが不要になる、または、バンドパスフィルタに対する要求性能が緩和される。そのため、複数の入力信号によるMIMOをより簡易な回路構成で実現することが可能になる。
【0053】
また、ベースバンド信号生成部21は、複数のベースバンド信号を生成するための行列を複数の入力信号に乗算することで、複数のベースバンド信号を生成する。これによって、レイヤー多重とプリコーディングとが実現される。
【0054】
また、複数の直交変調器の各々(23-j)は、分配器231-jと第一のミキサ232-jと第二のミキサ233-jと合成器234-jとを含む。分配器231-jは、搬送波を第一の分配信号および第二の分配信号に分配する。第一のミキサ232-jは、第一の分配信号とアナログ信号とを乗算する。第二のミキサ233-jは、第二の分配信号とアナログ信号とを乗算する。合成器234-jは、第二のミキサ233-jの出力信号の位相を第一のミキサ232-jの出力信号の位相に対して90度移相させた信号と、第一のミキサ232-jの出力信号とを合成する。
【0055】
または、分配器231-jは、搬送波を90度異なる位相の第一の分配信号および第二の分配信号に分配する。第一のミキサ232-jは、第一の分配信号とアナログ信号とを乗算する。第二のミキサ233-jは、第二の分配信号とアナログ信号とを乗算する。合成器234-jは、第一のミキサ232-jの出力信号と第二のミキサ233-jの出力信号とを合成する。これにより、直交変調器の処理を実現することができる。
【0056】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0057】
(付記1)
複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重するレイヤー多重と、ビームフォーミング処理を含むプリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、前記複数のベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部と、
前記複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換する複数の信号変換手段と、
局部発振器により出力される搬送波と、前記複数のアナログ信号とを使用して、前記複数のアナログ信号の各々によって前記搬送波を変調して、前記複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成する複数の直交変調器と、
前記複数の送信信号をそれぞれ空中に放射する複数のアンテナ素子と
を備える無線送信装置。
【0058】
(付記2)
前記ベースバンド信号生成部は、前記複数のベースバンド信号を生成するための行列を前記複数の入力信号に乗算することで、前記複数のベースバンド信号を生成する、
付記1に記載の無線送信装置。
【0059】
(付記3)
前記複数の直交変調器の各々は、
前記搬送波を第一の分配信号および第二の分配信号に分配する分配器と、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とを乗算する第一のミキサと、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とを乗算する第二のミキサと、
前記第二のミキサの出力信号の位相を前記第一のミキサの出力信号の位相に対して90度移相させた信号と、前記第一のミキサの出力信号とを合成する合成器と
を備える、付記1または付記2に記載の無線送信装置。
【0060】
(付記4)
前記複数の直交変調器の各々は、
前記搬送波を90度異なる位相の第一の分配信号および第二の分配信号に分配する分配器と、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とを乗算する第一のミキサと、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とを乗算する第二のミキサと、
前記第一のミキサの出力信号と前記第二のミキサの出力信号とを合成する合成器と
を備える、付記1または付記2に記載の無線送信装置。
【0061】
(付記5)
複数の入力信号を複数のベースバンド信号へ多重するレイヤー多重と、ビームフォーミング処理を含むプリコーディングとを、デジタル処理で行うことによって、前記複数のベースバンド信号を生成し、
前記複数のベースバンド信号をそれぞれ複数のアナログ信号に変換し、
複数の直交変調器を用いて、局部発振器により出力される搬送波と、前記複数のアナログ信号とを使用して、前記複数のアナログ信号の各々によって前記搬送波を変調して、前記複数のアナログ信号の各々に対応する複数の送信信号をそれぞれ生成し、
前記複数の送信信号をそれぞれ複数のアンテナ素子を介して空中に放射する、
無線送信方法。
【0062】
(付記6)
前記複数のベースバンド信号を生成するための行列を前記複数の入力信号に乗算することで、前記複数のベースバンド信号を生成する、
付記5に記載の無線送信方法。
【0063】
(付記7)
前記複数の直交変調器の各々は、
前記搬送波を第一の分配信号および第二の分配信号に分配し、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とを乗算し、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とを乗算し、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号の位相を、前記第一の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号の位相に対して90度移相させた信号と、前記第一の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号とを合成する、
付記5または付記6に記載の無線送信方法。
【0064】
(付記8)
前記複数の直交変調器の各々は、
前記搬送波を90度異なる位相の第一の分配信号および第二の分配信号に分配し、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とを乗算し、
前記第二の分配信号と前記アナログ信号とを乗算し、
前記第一の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号と前記第二の分配信号と前記アナログ信号とが乗算された信号とを合成する、
付記5または付記6に記載の無線送信方法。
【0065】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0066】
10、20、30 無線送信装置
11、21、31 ベースバンド信号生成部
12-j、22-j、32-j 信号変換手段
13-j、23-j 直交変調器
33-j 直交復調器
14-j、24-j アンテナ素子
25-j、35-j 増幅器
26 局部発振器
27-j、37-j フロントエンド部
38-j、39-j スイッチ
231-j 分配器
232-j 第一のミキサ
233-j 第二のミキサ
234-j 合成器
110、120、130 無線送信装置
111、121、131 ベースバンド信号生成部
112-j、122、122-1~122-M デジタルアナログ変換器
113-j、123、123-1~123-M 周波数変換器
114-1~114-M 増幅器
115-j、124、124-1~124-M バンドパスフィルタ
116-1~116-M、128-1~128-N、128-j-i アンテナ素子
117、129 局部発振器
125-1~125-N 可変利得増幅器
126-1~126-N 可変位相器
127-1~127-N、127-j-i 増幅器
135-j-i 直交変調器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9