(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108044
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】構造物に組み込まれた部材の3次元測量方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/06 20060101AFI20240802BHJP
G01C 11/02 20060101ALI20240802BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G01C15/06 T
G01C11/02
G01C15/00 103E
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012302
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】306033025
【氏名又は名称】日本鉄塔工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100221752
【弁理士】
【氏名又は名称】古川 雅与
(72)【発明者】
【氏名】本田 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】ドニ スプラプト
(57)【要約】
【課題】高建造物の測量において、測量対象部材まで昇塔せずとも、地上から簡便に短時間で高精度測量を可能とする部材の3次元測量方法を提供する。
【解決手段】構造物の範囲等から、測量対象部材とは異なる高さ座標値を有する複数箇所を基準点として選択する第1のステップと、写真画像データ測定機を用いて、前記各基準点を含む範囲と測量対象部材について写真画像データを取得する第2のステップと、3次元測定機を用いて、3次元座標値化した基準点座標値を取得する第3のステップと前記写真画像データより撮像点群データを得る第4のステップと、前記撮像点群データ中の較正点3次元座標値に対して、前記基準点座標値を適用した較正を行って較正済撮像点群データを得る第5のステップと、較正済撮像点群データから測量対象点間距離を演算する第6のステップとからなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に組み込まれた部材を3次元測量する方法であって、
測量対象部材が組み込まれた構造物の範囲及びその周辺の位置から、測量対象部材とは異なる高さ座標値を有する少なくとも1つの箇所を含む複数の箇所をそれぞれ基準点として選択する第1のステップと、
写真画像データ取得手段を備えた写真画像データ測定機を用いて、第1のステップで選択された各基準点をそれぞれ含む範囲と測量対象部材の全部若しくは一部を含む範囲について、写真画像データを取得する第2のステップと、
所望の測定点の3次元座標値を直接取得するための3次元測定機を用いて、第1のステップで選択された各基準点を3次元座標値化した基準点座標値をそれぞれ取得する第3のステップと、
第2のステップで取得した写真画像データをデータ処理することにより、取得された写真画像データの範囲内の構造物及び測量対象部材の形状を3次元座標値化した撮像点群データを得る第4のステップと、
前記複数の基準点のうちの少なくとも3点を較正点として選択し、第4のステップで得た撮像点群データ中の当該較正点のそれぞれの位置に対応する較正点3次元座標値に対して、第3のステップで得た基準点座標値をそれぞれ適用して較正を行うことにより、較正済撮像点群データを得る第5のステップと、
任意の複数の測量対象点を選択し、較正済撮像点群データから当該測量対象点間の距離を演算する第6のステップと
からなる、部材の3次元測量方法。
【請求項2】
前記基準点は、予め設定された安全高度高さより高層に設定される高層基準点と、前記安全高度高さより低層に設定される低層基準点を含む、請求項1に記載の部材の3次元測量方法。
【請求項3】
前記基準点は、レーザー光を反射する反射点を有するターゲット又は光波を反射する反射点を有するプリズムであって、
前記3次元測定機は、測量対象に対してレーザー光を照射、又は測量対象に対して光波を照射することで、前記反射点における3次元座標値を取得する3次元走査装置である、請求項1又は2に記載の部材の3次元測量方法。
【請求項4】
前記ターゲットは、高度を変えながら各基準点の位置へ移動するための移動手段を備える、請求項3に記載の部材の3次元測量方法。
【請求項5】
前記ターゲットは、各基準点の位置へ移動するための移動手段として、測定対象部材が組み込まれた構造物に備え付けられた機構を利用した昇降手段を備える、請求項3に記載の部材の3次元測量方法。
【請求項6】
前記写真画像測定機は、UAVである、請求項3に記載の部材の3次元測量方法。
【請求項7】
前記基準点は、前記高層基準点が設定された鉛直方向軸とは異なる鉛直方向軸上に設定される低層基準点を更に含む、請求項2に記載の3次元測量方法。
【請求項8】
システム
構造物に組み込まれた部材を3次元測量するシステムであって、
測量対象部材が組み込まれた構造物及びその周辺に予め設定された複数の基準点のそれぞれを含む範囲と、測量対象部材の全部若しくは一部を含む範囲について写真画像データを取得するための写真画像データ測定機と、
前記基準点のそれぞれの3次元座標値を直接取得可能な3次元測定機と、
前記写真画像データ測定機により取得された写真画像データをデータ処理することにより、取得された写真画像データの範囲内の構造物及び測量対象部材の形状を3次元座標値化した撮像点群データを取得すると共に、
前記基準点の中から予め選択された少なくとも3点の較正点を用いて、
前記撮像点群データ中の当該較正点のそれぞれの位置に対応する較正点3次元座標値に対して、前記3次元測定機により取得された前記基準点それぞれの基準点3次元座標値を適用して較正を行うことにより取得された較正済撮像点群データに基づいて、
選択された任意の複数の測量対象点間の距離を演算するための演算装置と
からなる、部材の3次元測量システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄塔や橋脚などの建築構造物の測量を行う技術に関するもので、特に建築構造物に組み込まれた部材を離れた位置から測量できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
送電用鉄塔や通信鉄塔等の建築構造物に使用されている部材は、規格品だけではなく、個別に設計・製造された部材が使用されている場合がある。また、ある程度広く普及した規格品等が部材として使用されている場合でも、建立から長い期間が経過している建築構造物では、建立当時の資料等が紛失している等の事情により、使用されている部材の詳細が不明となってしまっていることもある。このため、鉄塔等の建築構造物の部材について、経年変化や腐食等により交換の必要が生じたときには、作業員がその部材が配置されている箇所まで実際に登って、対象部材の採寸を直接行う必要があった。しかし、鉄塔等の高い建築構築物における高所作業は、作業員の墜落や測定機器等の落下といった、人的・物的被害の危険性を常に内包することとなる。このため、従来から、交換を必要とする部材が配置されている箇所まで作業員が実際に昇塔等することなく、例えば地上から交換対象部材の形状や大きさを計測する方法の開発が強く望まれていた。
【0003】
このように離れた場所から物体の大きさ等を測量する方法として従来から広く用いられている方法としては、レーザースキャナやレーザートラッカーを用いたレーザー光照射によって測定点の3次元座標値を得ることで物体の形状等を測量する方法や、トータルステーションのように光波を照射(発射)することで、測定機に戻ってきた光を解析して測定点までの距離を測量する方法がある。
【0004】
しかし、いずれの方法も測定機器から測定対象点までの距離が長い場合には、測定精度が低下してしまう傾向がある。ここで、測定対象が鉄塔のような高い建造物である場合を考えると、測定対象点までの距離を少しでも短くするためには、できるだけ測量対象となる鉄塔に近づいて測定することとなる。しかし、鉄塔の真下近くまで接近した場合には、必然的に地上から鉄塔を見上げる形での測定となってしまう。鉄塔を下から見上げる形で測定を行おうとする場合、主柱材、水平材、斜材、腕金(アーム)、さらに、対角材、対辺材、補助材等の部材が組み合わされて構成されている鉄塔では、計測対象である部材が他の部材の陰となってしまい対象部材の全貌が掴めないことが多い。特に支柱や部材が入り組んだ鉄塔では、測定機器を別の場所に移動させたとしても、また別の死角が生じる等の干渉が避けられない。このように、レーザートラッカーを用いて地上から計測を行おうしても、地上からでは対象部材の目的とする箇所にレーザーを照射することができず、完全な計測ができないことが多い。
【0005】
この問題を解決するために、ドローンに代表されるUAVにカメラを搭載して写真撮影を行い、得られた写真画像データから点群データを生成することで、計測対象である部材の大きさや形状等を計測する方法もあるが、写真画像から作成された点群データのみではかなり計測誤差が生じる。また、LiDARを搭載したUAVからレーザー光を目的の箇所に照射して計測する方法も考えられる。LiDARは、物体にレーザ光を照射し戻ってきた波長や戻ってくるまでの時間から物体の形状や距離を測定する技術であるが、それのみでは十分な測量精度が得られないのが実情である。すなわち、LiDARによる計測は、写真画像から点群データを生成する方法に比べれば確かに精度が上がるが、UAVに搭載できるLiDAR等では計測精度に限界があるため、交換部材を作成するために必要なミリメートル単位での精度までは期待できないのが現状である。そこで、これらの問題を解決する方法として、UAVによる計測データと地上からレーザートラッカーを用いて計測したデータを組合せて計測を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された測量システム等は、地上に設置されたレーザースキャナでは、直接レーザー光を照射することができない構造物の上面に位置する測定箇所を測量するものである。具体的には、構造物の上面と側面の境界部を含む領域について、側面側(すなわち、レーザースキャナを設置した側)からレーザー走査することにより取得される第1の点群データに対して、上方の空中からカメラを備えた無人航空機による撮影を行って取得された画像データから生成される第2の点群データを重畳させることで、地上からレーザー光を照射できない構造物上面の測量を行うものである。しかし、このように点群データに点群データを重畳させるためには、それぞれ点群データを作成する必要がある。特に、精度が求められる第2点群データを作成するためには、目的物に対してレーザー走査(すなわち、広範囲に対するスキャニング)を行う必要があり、測定時間が長くなり作業効率が劣るという問題がある。また、特許文献1に開示された着想は、地上からでは視認できない測定箇所のできるだけ近い範囲に対してレーザー走査を行うというものである。このような着想によって測量を行おうとしても、上面と側面の境界部(すなわち、角部やエッジ部分)や平面な側部は、形状的にレーザー走査による測定で精度が得にくい条件であるため、実際には期待したほどの精度が得難いのが現実である。このように特許文献1で開示された方法は適用できる構造物が限られるという問題があった
【0008】
本発明はかかる実情を鑑み、鉄塔のように建材が入り組んでいるために測定対象部材の全貌を地上から把握できないような建築構造物であっても、簡便な構成を用いて、比較的短時間で高精度の測定結果を得ることができる3次元測量方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明の部材の3次元測量方法は、構造物に組み込まれた部材を3次元測量する方法であって、測量対象部材が組み込まれた構造物の範囲及びその周辺の位置から、測量対象部材とは異なる高さ座標値を有する少なくとも1つの箇所を含む複数の箇所をそれぞれ基準点として選択する第1のステップと、写真画像データ取得手段を備えた写真画像データ測定機を用いて、第1のステップで選択された各基準点をそれぞれ含む範囲と測量対象部材の全部若しくは一部を含む範囲について、写真画像データを取得する第2のステップと、所望の測定点の3次元座標値を直接取得するための3次元測定機を用いて、第1ステップで選択された各基準点を3次元座標値化した基準点座標値をそれぞれ取得する第3のステップと、第2のステップで取得した写真画像データをデータ処理することにより、取得された写真画像データの範囲内の構造物及び測量対象部材の形状を3次元座標値化した撮像点群データを得る第4のステップと、前記複数の基準点のうちの少なくとも3点を較正点として選択し、第4のステップで得た撮像点群データ中の当該較正点のそれぞれの位置に対応する較正点3次元座標値に対して、第3のステップで得た基準点座標値をそれぞれ適用して較正を行うことにより、較正済撮像点群データを得る第5のステップと、任意の複数の測量対象点を選択し、較正済撮像点群データから当該測量対象点間の距離を演算する第6のステップとからなることを特徴とする。
【0010】
また、前記基準点は、予め設定された安全高度高さより高層に設定される高層基準点と、
前記安全高度高さより低層に設定される低層基準点を含んでもよい。
【0011】
また、前記基準点は、レーザー光を反射する反射点を有するターゲット又は光波を反射する反射点を有するプリズムであって、前記3次元測定機は、測量対象に対してレーザー光を照射、又は測量対象に対して光波を照射することで、前記反射点における3次元座標値を取得する3次元走査装置であってもよい。
【0012】
また、前記ターゲットは、高度を変えながら各基準点の位置へ移動するための移動手段を備えてもよく、ターゲットは、各基準点の位置へ移動するための移動手段として、測定対象部材が組み込まれた構造物に備え付けられた機構を利用した昇降手段を備えてもよい。さらに、前記写真画像測定機は、UAVであってもよい。
【0013】
さらに、上記目的を達成するために、本願発明の部材の3次元測量システムは、構造物に組み込まれた部材を3次元測量するシステムであって、測量対象部材が組み込まれた構造物及びその周辺に予め設定された複数の基準点のそれぞれを含む範囲と、測量対象部材の全部若しくは一部を含む範囲について写真画像データを取得するための写真画像データ測定機と、前記基準点のそれぞれの3次元座標値を直接取得可能な3次元測定機と、前記写真画像データ測定機により取得された写真画像データをデータ処理することにより、取得された写真画像データの範囲内の構造物及び測量対象部材の形状を3次元座標値化した撮像点群データを取得すると共に、前記基準点の中から予め選択された少なくとも3点の較正点を用いて、前記撮像点群データ中の当該較正点のそれぞれの位置に対応する較正点3次元座標値に対して、前記3次元測定機により取得された前記基準点それぞれの基準点3次元座標値を適用して較正を行うことにより取得された較正済撮像点群データに基づいて、選択された任意の複数の測量対象点間の距離を演算するための演算装置とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉄塔のように高い建造物の測量を行う場合でも、測量対象部材が存在する箇所まで実際に昇塔する必要がなく、測量者が地上から簡便に、比較的短時間で高精度の測量を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】実施の形態に係る撮像点群データの一例を示す図
【
図4】測量対象部材に対する基準点選択の一例を示す模式図
【
図5】測量対象部材に対する写真画像データ取得箇所の一例を示す模式図
【
図6】第4の実施形態における基準点設置の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の3次元測量方法について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の測量方法のブロック図であり、
図2は、本発明の測量方法に用いる機器等を含むシステム全体の構成を示す概略図である。
【0017】
最初に、本発明の3次元測量方法の概要を説明する。本発明の3次元測量方法は、
図1に示すように以下のステップよりなる。
(第1のステップ) :複数の基準点を選択する。
(第2のステップ) :選択された各基準点を含む範囲及び測量対象部材の写真画像データを取得する。
(第3のステップ) :3次元測定機により、選択された基準点の3次元座標値をそれぞれ取得する。
(第4のステップ) :第2のステップで取得した写真画像データを演算することによって、写真画像データを点群データに変換して撮像点群データを取得する。
(第5のステップ) :第4のステップで取得した撮像点群データ中の各基準点に該当する点(位置)を、第3のステップで取得した3次元座標値で較正を行い、較正済撮像点群データを算出する。
(第6のステップ) :第5のステップで取得した較正済撮像点群データ上の測量対象部材の範囲内にある任意の2点を選択しその2点間の距離を算出することで、測量対象部材の測量を行う。
【0018】
本発明の測量方法に用いられるシステムの概要を
図2に示す。測量対象となる部材Sが組み込まれている建築構造物1に対して、任意の複数箇所を基準点5(5a、5b、5c・・・)として選択する。次に、当該基準点5a、5b、5c・・・をそれぞれ含む範囲及び測量対象部材Sについて写真画像測定機2により写真撮影を行うことで写真画像データを取得する。また、各基準点に対して3次元測定機3を用いた測定を行うことで、基準点それぞれの3次元座標値を取得する。得られた写真画像データ及び基準点の3次元座標値は、演算処理装置4に送られる。演算処理装置4にインストールされた画像処理ソフト(SfM(Structure from Motion)ソフト)により、写真画像データは例えば
図3に示したような3Dモデリングされた点群データ(撮像点群データ)に変換される。次に、この撮像点群データに対して、3次元測定機3によって取得した、各基準点の3次元座標値を用いた較正を行う。3以上の基準点に対して較正を行うことにより、写真画像データより得られた撮像点群データの全体を較正することができる。説明の便宜のため、較正後のデータを較正済撮像点群データと称する。そして、画像処理ソフト上で、この較正済撮像点群データ上の任意の2点を選択することで、当該2点間の距離がソフト上で演算される。これにより、対象部材の所望箇所の大きさを正確に測量することが可能となり、任意の2点の選択を繰り返すことによって対象部材全体の正確な形状及び大きさを算出することも容易にできる。本発明の測量方法によれば、部材の大きさや形状をmm単位の誤差内で測量できるため、測量結果から交換部材を作成するための設計図を作ることも可能となる。このように、本発明の測量方法によれば、例えば、部材が高所に配置されている等の理由により部材の配置された場所まで作業員が安全に到達することが困難であるような場合でも、作業員が実際に高所作業を行うことなく、地上から測量を行うことが可能となるため、極めて安全であり、同時に、測量にかかる費用や時間を削減できる共に作業効率の向上に繋がる。
【0019】
本発明の測量方法は、測量の対象となる建築構造物や部材の種類に特に制限はなく、どのような対象に対しても測量が可能である。離れた位置から遠隔的に測量できることから高所作業することなく高精度の測量が可能となるメリットを最大限に活かすならば、鉄塔、橋梁、ビルディング、煙突等の高層建築物を特に好ましく測量対象とすることができる。また、測量対象部材の一部が他の部材の陰となってしまう等により、地上からでは対象部材の全体に対して測量のためのレーザー照射が難しい位置にある部材であっても、正確に測量することが可能である。このため、鉄塔のように、様々な部材が入り組んで配置されている構造物を特に好ましく測量対象とすることができる。
以下、本発明の測量方法の詳細について各ステップごとに説明する。
【0020】
第1のステップは、測量対象部材Sに対して複数の基準点を選択するステップである。基準点は、測量対象部材が組み込まれた構造物の範囲及びその周辺の位置から、複数の箇所をそれぞれ基準点として選択される。ここで、測量対象部材が組み込まれた構造物の範囲及びその周辺の位置とは、測量の対象となる部材が組み込まれている建築構造物の全範囲内の位置と、位置としては建築構造物の外側であるが、当該建築構造物の周辺に位置する箇所をいう。周辺とは、より具体的には、後のステップで行われる写真画像の取得において、対象となる建築構造物と同じ画像内に撮影することが可能である箇所を指す。このような範囲を例えば鉄塔で示すならば、鉄塔の頂部から脚部の地上部までの鉄塔支柱11やその他の鉄塔部材全ての何れかの箇所に基準点が選択されるとの意であり、更に、当該鉄塔の付近に別に構造物が存在するならば、当該鉄塔と同一画像内に撮影できる箇所であることを条件に、対象となる鉄塔以外の構造物に基準点が選択されてもよいことを意味するものである。
【0021】
このように、測量対象部材が組み込まれた構造物の範囲及びその周辺の位置から選択される複数の基準点は、より具体的には、以下の条件を満たす複数の箇所を基準点として選択することで、誤差がミリメートル(mm)単位という精度で部材の大きさを測量することが可能となる。第1の条件として、基準点は、複数の箇所が選択されると共に、測量対象部材Sの範囲内のみからではなく、少なくとも1つは測量対象部材Sの外に位置する箇所を含むように選択される。このとき、対象部材の外から選択される基準点の少なくとも1つは、測量対象部材とは異なる高さ座標値を有する箇所が選択される。これは換言すれば、測量対象部材より高い位置若しくは低い位置にある箇所を少なくとも1つの基準点として選択することを意味する。第2の条件として、この対象部材の範囲外から選ばれる基準点は、可能な限り互いに離れた位置にある2点を含むことが望ましい。例えば鉄塔に組み込まれた部材を測量する場合、可能であれば、鉄塔の最上部である頂部付近の箇所と、最下部付近、すなわち鉄塔脚部の地上付近の箇所から選択された基準点の両方を含むようにすることが考えられる。本発明の測量方法では、互いに最も離れた位置にある2つの基準点間の距離が大きいほど、測量精度が向上する点で好ましい。
【0022】
また、第3の条件として、基準点は、測量対象部材の範囲内か、又は部材の範囲外であっても部材にできるだけ近い、部材の近傍付近の箇所から選択された基準点を含むことが望ましい。ここで、対象部材の範囲内とは、対象部材の外周(エッジ、縁、角部等)上の位置及びそれより内側の位置を意味する。この条件は、必ずしも対象部材の範囲内に基準点が設定されることまでは要しないが、対象部材のできるだけ近傍に位置する箇所に、少なくとも1点の基準点が設定されることが望ましいことを意味する。また、当然ながら、対象部材の範囲内に1又は複数の基準点が設定されてもよい。ただし、現実的には、測量対象部材Sの両端部分は他の部材との接合部となっている場合も多い。このような部材では、両端部に基準点を設定することが難しいこともある。その場合は、例えば、部材の中間部のように他の箇所と同一形状である部分や、
図4に示すように部材からやや離れた他の部材の箇所(5g、5f)を基準点として選択することもできる。なお、基準点は、例えば建築構造物の表面に現れたボルト14の中心等の特徴的な箇所を選択してもよいし、ターゲットを設置しその位置を基準点としてもよい。以上の点を考慮して、複数の箇所をそれぞれ基準点として選択することが第1のステップとなる。ここで選択された基準点に基づいて、これ以降のステップで実際にデータ取得を行う範囲が決定されることとなる。
【0023】
第2のステップでは、写真画像データ取得手段を備えた写真画像データ測定機2を用いて、第1のステップで選択された各基準点のそれぞれについて、当該基準点を含む範囲及び測量対象部材の全部若しくは一部を含む範囲について、写真画像データを取得する。ここで取得する写真画像データは、いわゆる写真を意味し、後のステップで演算処理装置に読み込む際に、画像処理ソフトで処理できるデータ形式とすることができるならば、どのような画像形式で撮影されたものでもよい。撮影は、測量対象部材が組み込まれている建築構造物のうち、測量を行いたい範囲、及び各基準点を含む範囲について写真撮影を行う。ここで、測量を行いたい範囲とは、具体的には、測量対象部材やその周辺、若しくは、測量対象部材のうち実際に計測値を得たい部分を意味する。よって、部材全体の測量値までは必要ない場合には、必要となる部材の一部の範囲についてのみ写真画像データを取得できればよい。また、基準点を含む範囲とは、基準点とその基準点の周辺を意味する。
【0024】
第2のステップで取得される写真画像データが高解像度であるほど、一般的に、後のステップで生成される点群データの精度が向上する。写真撮影は、
図5に示したP1、P2、P3、P4・・・のように、1の部材に対して一部が重複するオーバーラップ領域を設定しつつ連続的に複数枚で撮影される。1の部材に対する撮影枚数やオーバーラップ率は、SfM(Structure from Motion)ソフトから点群データを生成する際に一般的に設定される条件を用いることができる。尚、基準点の撮影は、全ての基準点を結ぶ範囲を連続的に撮影することが望ましいが、本発明の測量方法では、各基準点を含む範囲について鮮明な写真画像が取得されていれば、基準点と基準点の中間部については撮影枚数を減らしても精度への影響は少ない。更には、その中間部については必ずしも連続的である必要はなく、中間部の写真撮影を省略して、各基準点を含む範囲のみの写真撮影で測量を行うことも可能である。尚、当然ながら、各基準点及びその周辺は可能な限り高解像度で撮影枚数を多くすることが望ましい。また、測量対象部材、特に測量値を得たい範囲についても、可能な限り高解像度で撮影枚数を多くすることが望ましい。正確な測量のためには、演算後に得られた点群データ上で対象部材の形状が明確であることが望ましいため、少なくともその前段階の写真画像上において対象部材および基準点の形状が明確に認識できる写真画像であることが望ましい。このように可能な限り高解像度での写真撮影が望ましくはあるが、本発明の測量方法によれば、一般的なドローン機に搭載されているカメラの標準的な解像度、すなわち72dpi程度の解像度で撮影された写真画像であっても、本発明の測量方法が目的とするmm単位の精度を達成することが可能である。
【0025】
また、写真画像データから3Dモデリングされた3次元点群データを得るためには、対象に対してできるだけ多方向から写真撮影を行う必要がある。このような撮影を行うには、ドローン等のUAVにカメラを搭載し、UAVを撮影対象に対して旋回させながら写真撮影を行う方法が好適である。特に、対象部材が高所に位置する場合には、UAV用いて撮影を行うことが好ましい。
【0026】
第3のステップでは、測定点の3次元座標値を直接取得するための3次元測定機3を用いて、第1のステップで選択された各基準点の位置を3次元座標値化した基準点座標値をそれぞれ取得する。例えば、このような3次元測定機としては、レーザー光を目的箇所へ照射し、その反射光を測定することにより目的箇所の3次元座標値を得るレーザートラッカー等がある。この第3のステップは、後のステップで行う点群データの較正のために、較正に用いる基準点の正確な3次元座標値を取得することを目的としている。よって、基準点に対してのみ測定を実施すれば十分である。基準点を含む周辺についてレーザー光走査によるスキャンを行って、そのデータから必要な基準点3次元座標値を取得することも可能であるが、ある範囲の全体についてスキャン走査を行うことは、相応の時間を必要とするため作業効率がよくない。予め選択された基準点のその1点についてのみレーザー光を照射して測定を行うのであればごく短時間で測定を終了することが可能であるため、本発明の方法によれば作業効率に優れた測量が可能となる。
【0027】
ここで、第1のステップから第3のステップまでを実行する順番は必ずしも
図1に示した順番でなければならないという制約はない。先に第3のステップを実行しつつ計測した箇所を基準点として選択することで同時に第1のステップである基準点の選択としてもよいし、各基準点毎に、基準点を選択する第1のステップを行いつつ、同時に第2のステップと第3のステップであるデータ取得を行うようにしてもよい。すなわち、1の基準点について写真画像データ及び3次元座標値を取得した後に、他の基準点についてまた同時に写真画像データ及び3次元座標値を取得し、これを繰り返すことによって、選択された基準点の全てについて写真画像データ及び3次元座標値を取得するようにしてもよい。例えば、ターゲットを設置することなく高精度な3次元座標値の取得が可能なレーザートラッカーを3次元測定機として使用する場合には、建築構造物及び測量対象部材の任意の箇所を基準点として設定することができる。この場合、写真撮影を先に行って出来上がった写真を確認した上で特徴的な箇所や視認容易な箇所、好適な撮影条件でより鮮明に写っている箇所等を基準点として選択し、その基準点に対して実際にレーザー照射を行って3次元座標値を取得する方法を採る事もできる。また、先に測量対象に対してレーザー照射を行って、測量対象上に映ったその照射光を基準点として写真撮影する方法を採ることもできる。この場合、各基準点について、第2のステップと第3のステップが同時に行われ、それを繰り返すことで全ての基準点に対してデータの取得が行われることになる。
【0028】
次に、以上のステップで取得した各データを、演算処理を行うために演算処理装置4へと送る。写真画像データ測定機2及び3次元測定機3から演算処理装置4へのデータの受け渡しは、公知の方法を用いることができる。例えば、SDカード、スマートメディア等の各種記憶媒体を介してもよいし、通信ネットワーク網を利用してクラウドサーバーへ送信する方法でもよい。クラウドサーバーを利用する場合には、当該クラウドサーバー上で後のステップで行う演算処理を行うようにしてもよいし、クラウドサーバーからふたたび通信ネットワークを経由して演算処理装置5へ送信するようにしてもよい。
【0029】
第4のステップでは、演算処理装置5へ送られた、第2のステップで取得された写真画像データから撮像点群データが作成される。この処理は、一般的なSfM(Structure from Motion)ソフトと呼ばれる画像処理ソフトを使用して行うことができる。当該ソフトによれば、写真画像データが複数枚の写真データであっても半自動的に繋ぎ目の合成処理が行われ、例えば
図3のように撮影対象物を3次元座標値でプロットした点の集合で表現された点群データとして3次元モデリング化されたデータに変換される。説明の便宜のために、このように写真画像データから得られた点群データを撮像点群データと称する。当該撮像点群データを用いて、画像処理ソフト上で任意の2点を選択して、その2点間の距離を演算することも可能であるが、その場合にはcm単位の誤差が生じてしまう。特に部材を交換するために、交換部材の設計図作成を目的とする測量の場合、許容される測量誤差はmm単位であるため、この撮像点群データをそのまま使用した測量では目的に全く合致しないことに留意すべきである。
【0030】
第5のステップは、第4のステップで得られた撮像点群データを較正する処理を行うステップである。このステップで、得られた撮像点群データを基準点座標値を用いて較正を行うことで、誤差がmm単位である測量精度を得ることができる。具体的には、第4のステップで取得した撮像点群データの中の当該較正点のそれぞれの位置に対応する較正点3次元座標値に対して、第1のステップで選択された基準点に該当する位置にある点群データを、第3のステップで3次元測定機を用いて取得した基準点座標値で較正を行う。較正を行う基準点の数は、多いほど較正精度が上がる。mm単位の精度を得るためには少なくとも3点以上の基準点を較正することが望ましい。また、写真画像データの解像度や撮影条件等のデータ取得条件、得られた写真画像データの画像品質等によって多少の相違はあるが、mm単位の精度をより確実に得るには、5点以上の基準点を用いて較正することが好ましく、7点以上の基準点を用いて較正を行うことが、より好ましい。
【0031】
ここで説明の便宜のために、第1のステップで選択された基準点のうち、較正を行う基準点を較正点と呼ぶ。第1のステップで選択された基準点の全てを較正点として用いてもよいが、ある程度多めに基準点を選択しておき、第2のステップ及び第3のステップの測定を行った後、第5のステップで較正を行う際に基準点のうちの何点かを較正点として選択してもよい。較正点の選択は、測量対象部材の存在する位置が建築構造物のどの範囲にあるか等の位置関係、測量部材のうちのどの部分を測量するのか、第4のステップで得られた撮像点群データの質等を考慮して選択できる。選択は、データ取得前に予め決定しておいてもよいし、較正を行う際に決定する方法でもよい。較正点の位置を決定するにあたっては、前述した基準点の選択条件と概ね同様であるが、以下の点を考慮して選択されることが好ましい。
1)測量部材の位置に関係なく、可能な限り最も離れた2つの基準点を較正点として選択する。
2)少なくとも1点は、測量対象部材の範囲内又はその周辺に位置する基準点から選択する。
3)複数の基準点が、同一の方向軸座標値を有する場合、少なくとも他の基準点のうちの1点は、当該方向軸座標値が異なる位置を選択する。
【0032】
ここで、3)の条件は、高層基準点(較正点)が設定された鉛直方向軸とは異なる鉛直軸上に更に低層基準点(較正点)を設定することを意味し、例えば鉄塔が測量対象である場合を考えると、同一支柱内で高さのみ異なる複数の位置を基準点(較正点)として選択した場合、少なくとも他の基準点(較正点)のうちの1点は当該支柱とは異なる別の支柱に設けることが好ましいことを意味するものである。更に詳細には、3次元空間を、x軸とy軸を含む平面(xy-平面)を水平面とし、z軸向きはxy-平面に対して鉛直上向きを正とする各座標軸で表現した直交座標系で表す場合において、同一の支柱に設けられる複数の基準点(較正点)は、z座標軸値のみが異なり、x座標値及びy座標値はほぼ同一となるが、例えば別の支柱にも他の基準点(較正点)を設けることで、x座標値及びy座標値のいずれかが異なる基準点(較正点)を含むようにすることが可能となる。これにより、較正の精度をより高めることが可能となる。以上のようにして選択された各較正点について、SfM(Structure from Motion)ソフトを用いて撮像点群データに対して、第3のステップで取得した基準点座標値のうち対応する位置の基準点の3次元座標値を適用させて撮像点群データの較正を行うことで、撮像点群データの全体が較正され、較正済撮像点群データとなる。
【0033】
第6のステップでは、第5のステップで較正された較正済撮像点群データを用いて測量値を得るステップである。測量は、ソフト上で較正済撮像点群データ上の任意の2点を指定することで、当該2点間の距離が演算される。これを繰り返すことで、測量対象部材の全体及び各部の大きさについて正確な測量値を得ることも可能である。
【0034】
次に、本発明の3次元測量方法に用いる各機器について説明する。写真画像データ測定機2は、写真画像データの取得、すなわち写真撮影できるものであれば特に限定されず、広く一般的なカメラを用いることができる。直接、データ処理可能なデータ形式で写真画像データが得られる点で、デジタルカメラを用いることが好ましい。写真画像データ測定機2を設置する位置は、測量対象部材との位置関係を考慮して、測量対象部材及び基準点を詳細に撮影できる位置に設置することが望ましい。写真画像データの取得は、固定された位置からのみである必要はなく、必要に応じて写真画像データ測定機を移動させつつ撮影を行ってもよい。測量対象部材の位置が低高度である場合には、地上に設置された写真画像データ測定機2を用いて撮影してもよい。対象部材が鉄塔の上部に組み込まれている等、高い位置にある場合にはカメラを搭載したUAVを写真画像データ測定機2とすることが極めて望ましい。UAV(Unmanned Aerial Vehicle)は、いわゆるドローンと呼ばれる飛行体(無人航空機)であり、遠隔操作や予めプログラムされた飛行経路を飛行しながら所望の箇所を写真撮影することができる。またこの際には、撮影を行った位置について、UAV搭載のGPS等によって、自動的に位置情報が写真画像データに付与される。また、UAVを使用して空中から撮影を行う方法であれば、測定対象の周りをUAVが旋回しながら撮影することで、3次元点群データを得るのに必要な多方向からの写真画像データの取得も容易である。更に、測定対象部材に対しても、他の部材の陰になる等の死角となる位置を避けて撮影することも容易であるばかりでなく、高い位置にある部材に対しても接近して撮影可能であるため高解像度の詳細な写真画像データを得ることも容易となる。
【0035】
3次元測定機3は、測定したい箇所(測定点)に対してレーザーや光波を照射する等の手段により、測定点の3次元座標値を直接取得できる機器が用いられる。具体的には、LIDAR、レーザースキャナ、トータルステーション、レーザートラッカー等を用いることができる。これらの機器は、レーザー光や光波を対象物へ照射し、対象物で反射した反射光を受光することで、照射から受光までの時間や反射光の位相に基づき対象物までの距離を測定することで、測定点の3次元座標値を取得する。これらの測定機の多くは、正確な反射光を得るために、測定点にターゲットを設置することが必要である。本発明の方法では、ターゲットを設置した測定、ターゲットを置かずにトータルステーションやレーザートラッカーを使用した測定の何れにも対応することができるので、測量対象や測量条件に応じていずれを用いるか適宜選択できる。
【0036】
ターゲットを用いる場合、ターゲットは使用する3次元測定機に合わせた公知の物を使用することができる。例えば、レーザースキャナでは、黒と白に塗り分けられた円形平板状のもの、レーザートラッカーでは、内部が鏡面となった真球構造により、照射されるレーザー光入射角度に関わらず常に中心でレーザー光を反射することで球中心座標を測定できるリフレクターが一般的に使用される。鉄塔のような高層構造物を測量する場合、3次元測量機から目標となるターゲットまでの距離を可能な限り短くしようとすると、必然的に高層構造物に近い場所に測定機を設置することとなる。この場合、高層構造物の頂部付近を測量しようとするとレーザー光がターゲットに対して真下方向から照射されることとなって照射角度が鈍角となるためエネルギー密度の低下に伴う精度低下を招き易くなる。しかし、リフレクターでれば、レーザー光を受ける角度に関わらず常に中心から光を反射することができるため、このような場合でも精度の低下を招き難いメリットがある。また、一定の既知間隔で十字を印した較正用パネルを作成して使用することもできる。これらのターゲットを設置して測量を行う場合、ターゲットは昇降機構を用いて構造物の所望の位置へ配置される。昇降機構は、各実施態様に応じて選択できるため、具体的な内容は後述する実施態様の説明の中で詳述する。
【0037】
データ処理機4は、SfMソフト等の使用する画像処理ソフトが動作するのに十分なスペック(CPUプロセッサ、メモリ、グラフィックボード、記憶容量等)を備えたものであれば、一般的なコンピュータを使用することができる。また、第4のステップ以降で使用するソフトは、SfM(Structure From Motion)やMVS(Multi-View Stereo)技術を用いるソフトを使用することができる。このようなソフトとしては、Regard3D、Metashape、FieldReconst、Pix4Dmapper、等が知られている。また、SfM/MVS処理は、オープンソースである、OpenMVG / OpenMVSライブラリを使用し、生成された3DデータをMeshLabを用いて表示する方法も知られている。
【0038】
以上、説明したように、本発明の測量方法によれば、数点の較正点について3次元測定機で取得した3次元座標値による較正を行うことで、誤差1mm以下という高精度で測量することができる。本発明の測量方法は、対象部材から離れた位置から測量可能であるため、高層建築物の測量であっても安全に行うことができる。また、本発明の測量方法によれば、3次元測定機を用いた測定は数点の較正点についてのみ行えば十分であることから、時間を要する範囲3D走査(スキャニング)が不要であり、測量時間を大幅に短縮することが可能である。
次に、本発明の測量方法について、いくつかの具体的な実施態様の例を説明する。これまで説明した事項と重複する説明は省略し、各実施形態において特徴的な部分のみを説明する。
【0039】
(第1の実施態様)
例えば、60m程度までの低層建築構造物に組み込まれた測量対象部材を測量する場合には、対象部材に対して十分に近い位置に3次元測定機を設置できることから、ターゲットを置くことなく、直接、部材表面や建築構造物の表面の特徴的な箇所にレーザー光を照射してそこを基準点として選択することができる。この方法は、ターゲットを設置する必要がない点で、より効率的に測量作業を進めることができる。ここで、十分に近い位置とは、使用する3次元測定機の性能によって保障されている、ターゲットなしで測定できる距離内であることを意味する。例えば、60mまでターゲットなしで測量できるレーザートラッカーを3次元測定機として使用する場合には、理論上は、測量対象部材(若しくは一番遠くに位置する基準点)から60m以内の地点にレーザートラッカーを設置できればよいことになるが、部材表面の形状や反射率等により、正確に3次元座標値を得られる距離が異なるため、実際には60mの測量が可能な機種を用いる場合でも、30~40m以内にレーザートラッカーを設置することが望ましい。このような条件を満たす場合、第1のステップで選択される基準点をどこに設定するかについて、ターゲットを設置する場合に比べて自由度が高いため、必ずしも第2のステップや第3のステップに先駆けて第1のステップを実行する必要はない。第2のステップである写真画像データの取得や第4のステップである撮像点群データの取得を先に実行しておき、得られた撮像点群データ上で特徴的な箇所やデータ品質が良い箇所を確認したうえで、そこを基準点として設定し、第3のステップである3次元測定機(レーザートラッカー)による3次元座標値の取得を行ってもよい。また、逆に、最初に第3のステップである3次元測定機(レーザートラッカー等)による3次元座標値の取得を行うこととし、3次元座標値を取得するためのレーザー光照射の測定対象物上の光点に対して、同時に第2のステップである写真撮影を行うようにしてもよい。この方法は、実際に3次元座標値を取得した基準点と撮像点群データ上の基準点をより合致し易い点で効率的である。
【0040】
(第2の実施態様)
現在のレーザートラッカー技術では、ターゲットなしで測定できる距離は最大でも60m程度であるが、測定環境条件等を考慮すれば実際には30~40mが限界となる。これは、鉄塔であれば66kVクラスの高さに該当し、これ以上高い鉄塔を測量する場合には、ターゲットを設置して第3のステップである3次元測定機による測量を行うことが必要となる。この場合、ターゲットは昇降機構を用いて建築構造物の高層へと設置される。本実施態様では、昇降機構として、壁面移動が可能である産業用ロボットを使用することができる。このような壁面移動ロボットとしては、生物の動きから発想を得た様々なタイプの産業ロボットが知られている。例えば、各脚部の先端に吸盤を備え、この吸盤による吸着力を利用して壁面を移動する多足型のものや、主材質が鉄である鉄塔に対しては、壁面側(腹部側)に磁石を備え蛇行して移動するタイプや、キャタピラ型の磁石を備えキャタピラ装甲車の如く進行して昇降するロボットが知られている。本発明においては、ロボットの外側(例示したタイプであれば背面側)にターゲット(リフレクターが望ましい)を取り付けることができるものであれば、どのようなタイプのロボットであっても使用することができる。本発明の測量方法であれば、どこを基準点として設定するかについて自由度が高いため、使用するロボットの特性に合わせて、そのロボットが到達し易い地点を基準点として設定することが可能である。現在、一般的に使用されるレーザートラッカーは、リフレクターを用いれば、160mまで測量が可能である。よって、本実施態様によれば、鉄塔で言えば220kV以上の大型鉄塔であっても測量対象とすることができる。また、本実施態様では、産業用ロボットによりリフレクターを昇降移動させながら、測量し易い箇所を基準点として定め、その箇所について第2のステップである写真画像データの取得と、第3のステップであるレーザートラッカーによる3次元座標値の取得を同時に行う方法を採ることが効率的である。
【0041】
(第3の実施態様)
第2の実施態様は、大型鉄塔も測量対象とできる反面、産業用ロボットを使用するため測量作業の簡便さはやや劣る。すなわち、壁面移動可能な産業用ロボットは高価であること、測量にあたって当該産業用ロボットも現地に持ち込む必要があること、ロボットの垂直方向へ移動についてはやや時間を要することから測量時間も長くなり易い。そこで、本実施態様では、より手軽にリフレクターを昇降させる昇降手段を採用する。具体的には、測量の対象となる建築構造物に備え付けられた機構を利用した昇降手段を備えたターゲットを用いて測量を行う。例えば鉄塔であれば、各鉄塔の支柱11のいずれかに備え付けられているレール(昇降用墜落防止金具取付用レール)13を利用することが可能である。これは、高所作業を行う作業員が墜落防止用のハーネスのフックを通すためのレールであって、地上付近から鉄塔頂部まで延びるレールである。頂部付近にはフックの抜けを防止するストッパーがある。通常、このレール13に咬ませる安全器にハーネスを取り付けることで、作業員の昇降に伴って安全器もレールに接続した状態のまま昇降する。このような安全器としては、レールを挟むように設けられた複数個の車輪(ガイド)により昇降自在であるものが知られている。本実施態様では、この安全器に農業用モノレールのようにモータを取り付けることで車輪(ガイド)を駆動させレールを昇降可能としたものを利用することができる。この安全器にレフレクターを取り付けることで、リフレクターをレールに沿って昇降させることができる。この際、通常使用されるリフレクターは軽量であるため、任意の位置でモータの駆動を停止させれば当該位置にリフレクターを停止させることが可能である。尚、リフレクターに重量がある場合や、より確実に停止させたい場合には、安全器の墜落防止装置と同様の機構を用いた停止や、上述した壁面昇降用の産業ロボットで用いられる吸盤や磁石を併用する等の方法によって、停止能力を補強することもできる。
【0042】
また、鉄塔の墜落防止金具取付用レール13を利用した、より簡便な昇降機構としては、レールに繋げるフックを備えたリフレクターをドローンやバルーンの浮力を利用して昇降させる方法がある。リフレクターには地上部まで到達するワイヤー等が取り付けられ、地上からワイヤーの長さを調整することでリフレクターを所望の位置に留めることができ、頂部まで測定が終了した後は、このワイヤーを巻き戻すことで地上まで降ろすことができる。尚、レール頂部付近には通常、フック抜け落ち防止のストッパーが設置されているため、操作ミスによるリフレクター損失の心配もない。本方法は、風の影響を受けやすい等のデメリットはあるが、測量時の天候条件が良ければ、比較的安価で手軽に測量できるメリットがある。
【0043】
第3の実施態様のような鉄塔のレール13を利用した昇降機構を利用する場合、より簡便に測量を行えるメリットがあるが、通常の鉄塔において当該レールは4本の支柱のうちの1本のみにしか備え付けられていない。従って、本方法による場合には、基準点としてリフレクターを設置できるのは、1の支柱の範囲、すなわち、ほぼ同一の水平面座標値(x-y面座標値)におけるz軸座標値(すなわち高さ)が異なるのみである上下方向の範囲内に限られてしまう。測量対象部材が組み込まれた位置によっては、これでも十分な測量精度が得られるが、より測量精度を上げるためには、別の支柱(x軸座標値又はy軸座標値が異なる位置)にもリフレクターを設置することが望ましい。そこで、本実施態様では、鉄塔の支柱のうちレールが備わっている1本については、上述のレールを利用した昇降手段を用いてリフレクターを昇降させることで、鉄塔頂部から地上付近までの範囲内の様々な高さ位置に基準点を設置した測定を行い、当該レールのある支柱とは異なる他の支柱(すなわちレールが設置されていない支柱)のいずれかについては予め設定された安全高度高さの範囲内にリフレクターを設置し、それを基準点の1つとして測定を行う。ここで、安全高度高さとは、地上に居る作業員が人手でリフレクターを設置できる高さ、すなわち手の届く高さ、若しくは、万が一、作業員が落下したとしても重大な事故とはならない高さ、すなわち低層の梯子でリフレクターを取付けできる高さの範囲で、現場の諸条件等を考慮して予め設定される高さを意味する。現場の条件により異なるが、概ね、1.5m以下の高さまでに設定される。
図2においては、リフレクター5a、5b、5c、5d(5bについては符号を図示せず)がレールのある支柱の範囲内で昇降手段を用いて異なる高さに設定された基準点であり、5eが安全高度高さの範囲内でレールのない支柱に設置された基準点である。測量対象部材の位置や条件、すなわち明瞭な写真画像データが取得できる位置条件であるか等により異なるが、概ね、昇降手段を用いて設置される基準点として5~6点、他の支柱の安全高度高さの範囲内に人手で設置される基準点として1~2点程度のリフレクターを設置することで本発明の測量方法の目的であるmm単位に誤差範囲での測量が可能である。この第3の実施形態によれば、複数の基準点の設置及び測定が、比較的容易かつ迅速に行えるため、作業効率及び作業コストの点でも優れた測量が可能である。尚、レールのある支柱とは異なるx-y座標値を有する位置に設置される他の基準点は、必ずしも支柱に設置する必要はなく、レールのある支柱からできるだけ離れた位置にある設置条件の好ましい位置に設置されれば十分であることは言うまでもない。
【0044】
(第4の実施形態)
66kVクラス(30m)程度の小規模鉄塔を測量する場合には、基準点として
図6に示したような較正パネルを使用する方法を採用することもできる。本実施形態は、既知である鉄塔脚部12の開き(広大)と脚部の地上付近に設置される較正パネルを利用して、第5のステップで実行される、撮像点群データの較正を行うものである。例えば、
図6(a)に示したように、鉄塔の支柱脚部12それぞれの地上付近にリフレクターを設置して基準点(較正点)とすることができる。また、鉄塔であれば、脚部の広大は規定値として決まっているため、このようなターゲットを設置せずに鉄塔脚部の所望の箇所を基準値として設定することも可能である。66kvクラスの鉄塔であれば、測量対象部材が高層にあるような場合でも、このように地上部付近に基準点を設定するのみで、本発明の測量方法を適用可能であるため、例えば鉄塔上方部に他の基準点を設定する必要がない。この実施態様によれば、基準点の設置について、特別な機構等を必要とすることなく地上に設置するのみで足りるため、測量作業全体を簡便に効率的に行うことができる。また更に、基準点として、複数のターゲットを予め決められた間隔(距離)で正確に配置した較正パネルを使用することも可能である。このような較正パネルの具体的な例を
図6(b)(c)に示した。
図6(b)は、パネル上に一定の間隔でリフレクターを複数個設置して基準点としたもの、
図6(c)は、パネルに一定の間隔で十字を印し基準点としたものである。このように基準点間の正確な距離が既知である較正パネルを用いる場合、その設置場所は、第2のステップで行う写真画像データの取得において測量対象構造物と同時に写真撮影できる位置であればどこにでも置くことができる。このため、測量対象物がある場所の環境条件等に左右されず極めて自由度の高い測量作業を行うことが可能である。尚、本実施態様により測量を行う場合も、他の実施態様と同様に、各基準点間の間隔は可能な限り広くする方が測量精度は向上する。また、本実施態様によれば、3次元測定機としてレーザートラッカーのような高精度のものを準備できないときでも、トータルステーションを使用した測量で実務上十分な測量精度が期待できる。
【0045】
以上のように、本発明の測量方法によれば、離れた位置から遠隔的に測量対象物の正確な大きさや形状を測量できるため、高所作業を行うことなく極めて安全に測量することができる。また、測定に時間を要するレーザー走査測定が不要であるため、作業効率およびコスト面においても優れた測量方法である。尚、上記実施の形態等において主に鉄塔を対象に測量する場合について説明したが、本発明は他の構造物に対しても実施できるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 建築構造物
11 支柱
12 支柱(脚部)
13 墜落防止金具取付用レール
2 写真画像データ測定機
3 3次元測定機
4 データ処理装置
5 基準点(ターゲット)
S 測量対象部材