(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108053
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240802BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20240802BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20240802BHJP
C22C 38/44 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C22C38/00 302B
C21D8/02 D
C22C38/54
C22C38/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012313
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】荒尾 亮
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼本 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐也
(72)【発明者】
【氏名】平出 隆志
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA01
4K032CA02
4K032CB02
4K032CD02
4K032CD03
4K032CD05
4K032CD06
4K032CF01
4K032CF02
(57)【要約】
【課題】高強度を確保しつつ、厚鋼板の板厚によらず、極低温靭性が鋼板内でばらつくことなく安定して高い鋼板を提供する。
【解決手段】所定の成分組成を有し、鋼板の表面から板厚方向に1/4深さの位置において、Mnが質量%で1%未満かつNi量が質量%で11%以下であるγ相が体積分率で0.5%以上3.0%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.01~0.15%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.05~0.60%、
Ni:6.0~7.5%、
Cr:0.01~1.00%、
Mo:0.05~0.50%、
P :0.03%以下、
S :0.005%以下、および
N :0.0010~0.0080%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼板の表面から板厚方向に1/4深さの位置において、Mnが質量%で1%未満かつNi量が質量%で11%以下であるγ相が体積分率で0.5%以上3.0%以下である、鋼板。
【請求項2】
前記成分組成が、さらに、質量%で、
Al:0.008~0.10%、
Cu:0.40%以下、
Nb:0.05%以下、
V :0.05%以下、
Ti:0.03%以下、および
B :0.0030%以下
からなる群より選択される1または2以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ca:0.007%以下、
REM:0.010%以下、および
Mg:0.070%以下
からなる群より選択される1または2以上を含有する、請求項1または2に記載の鋼板。
【請求項4】
請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼素材を、900℃以上1200℃以下の加熱温度に加熱し、
加熱された前記鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板に、板厚1/4位置おける温度で550℃以下300℃以上の温度域における平均冷却速度が1℃/s以上、冷却停止温度が板厚1/4位置における温度で300℃以下である第1の加速冷却を施し、
前記第1の加速冷却後の熱延鋼板に、板厚1/4位置における温度でAc1点+10~40℃の温度域に加熱する2相域加熱を施し、
前記2相域加熱後の熱延鋼板に、板厚1/4位置における温度での平均冷却速度が1℃/s以上、冷却停止温度が300℃以下である第2の加速冷却を施し、
前記第2の加速冷却後の熱延鋼板に対して、焼戻し温度が板厚1/2位置における温度で500℃以上650℃以下である焼戻処理を施して、請求項1に記載のγ相の体積分率を有する極低温用高張力厚鋼板とする、極低温用高張力厚鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の成分組成を有する鋼素材を、900℃以上1200℃以下の加熱温度に加熱し、
加熱された前記鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板に、板厚1/4位置おける温度で550℃以下300℃以上の温度域における平均冷却速度が1℃/s以上、冷却停止温度が板厚1/4位置における温度で300℃以下である第1の加速冷却を施し、
前記第1の加速冷却後の熱延鋼板に、板厚1/4位置における温度でAc1点+10~40℃の温度域に加熱する2相域加熱を施し、
前記2相域加熱後の熱延鋼板に、板厚1/4位置における温度での平均冷却速度が1℃/s以上、冷却停止温度が300℃以下である第2の加速冷却を施し、
前記第2の加速冷却後の熱延鋼板に対して、焼戻し温度が板厚1/2位置における温度で500℃以上650℃以下である焼戻処理を施して、請求項1に記載のγ相の体積分率を有する極低温用高張力厚鋼板とする、極低温用高張力厚鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板およびその製造方法に関し、特に、幅広い板厚範囲に亘って安定的に優れた極低温靭性を確保できる極低温用厚鋼板およびその製造方法に関する。本発明の鋼板は、例えば、船舶用および陸上用の液化ガス貯蔵用タンクなどの、極低温環境下で使用される構造物用鋼に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
液化ガス貯蔵用タンクなどの構造物に熱間圧延された鋼板が用いられる際には、使用環境が極低温となるため、鋼板の強度のみならず、極低温下における靱性(極低温靭性)に優れていることが要求される。例えば、液化天然ガスの貯蔵用タンクに熱間圧延された鋼板が使用される場合には、液化天然ガスの沸点である-164℃以下の極低温下で優れた靱性を確保する必要がある。鋼材の極低温靱性が劣ると、極低温貯蔵用構造物としての安全性を維持できなくなるおそれがあるため、適用される鋼板に対する極低温靱性の向上に対する要求は高い。
ここで、タンクの容積が比較的小さい船舶用途では、厚鋼板の中でも比較的板厚が小さい鋼材が要求され、タンクの容積が比較的大きい陸上用途では、板厚がより大きい鋼材が要求される。この要求に対して、従来、7%Ni、又は9%Ni鋼板が使用されてきた。
【0003】
7~9%Ni鋼板は、例えば、特許文献1、2に提案されている。
特許文献1では、質量%で、Ni:5.0超~10.0%未満と、所定量のC、Si、Mn、Alとを含有する極低温用厚鋼板が開示されている。そして、特許文献1の厚鋼板では、板厚6~50mmに亘り、単位面積当たりの吸収エネルギーvE-196℃の平均値が1.25J/mm2以上である。
また、特許文献2では、質量%で、Ni:7.0~10.5%と、所定量のC、Si、Mn、Alとを含有する低温用Ni含有鋼が開示されている。そして、特許文献2の鋼では、板厚30~60mmに亘り、吸収エネルギーvE-196℃の平均値が150J以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-219848号公報
【特許文献2】特開2011-214099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが7%Ni鋼の厚鋼板について鋭意調査した結果、製造した鋼板で極低温靭性がばらつく問題が判明した。そして、この極低温靭性のばらつきは、残留γ(残留オーステナイト)の安定度および量のばらつきに起因するとの知見を得た。これは、鋼板内に安定度の低い残留γが一定量以上存在することで極低温下における衝撃試験においてマルテンサイトに変態し易く、靭性を劣化させたものと推察される。
なお、本明細書において、残留γが安定であるとは、残留オーステナイトが-196℃下で一定量以上のひずみを与えてもマルテンサイト組織に変態され難い傾向をいう。逆に、残留γが不安定であるとは、残留オーステナイトが-196℃下でひずみによりマルテンサイト組織に変態され易い傾向をいう。
【0006】
しかしながら、特許文献1および2では、極低温靭性について、いずれも吸収エネルギーの平均値を検討しているにすぎず、鋼板内での極低温靭性のばらつきについては何ら検討していない。
【0007】
本発明は係る問題に鑑みなされたものであり、高強度を確保しつつ、厚鋼板の板厚によらず、極低温靭性が鋼板内でばらつくことなく安定して高い鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、7%Ni鋼板の成分組成および組織に関して鋭意研究を行い、以下の知見を得た。
(1)極低温靭性のばらつきを抑制するには、-196℃での衝撃試験においてひずみによりマルテンサイトへ変態するγが応力緩和することで脆性破壊発生を抑制する効果を得ることが重要である。ただし、ひずみでマルテンサイトへ変態してしまう残留γ量が一定量以上になると、吸収エネルギーが低下、すなわち靭性が低下する。
(2)極低温化でのひずみに対する残留γの安定性には、残留γ相を形成する合金濃度、特にMn量とNi量の影響が大きい。
【0009】
さらに、本発明者らは、上記(1)で述べた極低温下でのひずみに対して不安定なγ組織となる要件を、以下のように知見した。すなわち、
(3)鋼板中のγ組織において、Mnの濃度が1質量%以下かつNiの濃度が11質量%以下であると極低温下でひずみを与えた際に安定してマルテンサイト変態を起こし、靭性の向上に寄与する。濃度が高すぎる場合、ひずみを与えてもマルテンサイト変態せず、靭性の向上に寄与しない。
(4)(3)で示した安定性の低いγから変態したマルテンサイトは体積分率で3%超存在していると、衝撃試験における吸収エネルギーを低下させる。一方でγ相の体積分率が0.5%未満ではγの変態にともなう脆性破壊発生抑制の効果が得られず、靭性は向上しない。
(5)鋼板の製造過程において、γ+αの2相域加熱を行い、この2相域加熱時の保持温度を母材平均組成から計算されるAc1温度+10~40℃の領域にすることでMnおよびNiの濃化量を低く抑えやすく、ひずみにより変態しやすいγ相を、適量生成させることができる。
【0010】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
1.質量%で、
C :0.01~0.15%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.05~0.60%、
Ni:6.0~7.5%、
Cr:0.01~1.00%、
Mo:0.05~0.50%、
P :0.03%以下、
S :0.005%以下、および
N :0.0010~0.0080%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼板の表面から板厚方向に1/4深さの位置において、Mnが質量%で1%未満かつNi量が質量%で11%以下であるγ相が体積分率で0.5%以上3.0%以下である、鋼板。
【0012】
2.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Al:0.008~0.10%、
Cu:0.40%以下、
Nb:0.05%以下、
V :0.05%以下、
Ti:0.03%以下、および
B :0.0030%以下
からなる群より選択される1または2以上を含有する、上記1に記載の鋼板。
【0013】
3.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ca:0.007%以下、
REM:0.010%以下、および
Mg:0.070%以下
からなる群より選択される1または2以上を含有する、上記1または2に記載の鋼板。
【0014】
4.上記1~3のいずれか一つに記載の成分組成を有する鋼素材を、900℃以上1200℃以下の加熱温度に加熱し、
加熱された前記鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板に、板厚1/4位置おける温度で550℃以下300℃以上の温度域における平均冷却速度が1℃/s以上、冷却停止温度が板厚1/4位置における温度で300℃以下である第1の加速冷却を施し、
前記第1の加速冷却後の熱延鋼板に、板厚1/4位置における温度でAc1点+10~40℃の温度域に加熱する2相域加熱を施し、
前記2相域加熱後の熱延鋼板に、板厚1/4位置における温度での平均冷却速度が1℃/s以上、冷却停止温度が300℃以下である第2の加速冷却を施し、
前記第2の加速冷却後の熱延鋼板に対して、焼戻し温度が板厚1/2位置における温度で500℃以上650℃以下である焼戻処理を施して、請求項1に記載のγ相の体積分率を有する極低温用高張力厚鋼板とする、鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高強度を確保しつつ、厚鋼板の板厚によらず、鋼板内で一様に極低温靭性に優れた鋼板およびその製造方法を提供することができる。本発明の鋼板を、液化ガス貯蔵用タンクなどの、極低温環境で使用される鋼構造物に供することにより、該鋼構造物の安全性を向上させることができ、産業上格段の効果をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態を示すものであって、本発明はこれに限定されない。
【0017】
[成分組成]
本発明の鋼板は、所定の成分組成を有する。また、本発明の鋼板の製造に用いる鋼素材も、上記所定の成分組成を有することが好ましい。以下、この成分組成に含まれる各元素について説明する。なお、特に断らない限り、本明細書において、各元素の含有量の単位としての「%」は「質量%」を意味する。
【0018】
C:0.01%以上0.15%以下
Cは、鋼板の強度を向上させる効果を有する元素である。この効果を得るために、C含有量を0.01%以上、好ましくは0.03%以上とする。一方、C含有量が0.15%を超えると、鋼板の極低温靭性が低下する。そのため、C含有量は0.15%以下、好ましくは0.12%以下とする。
【0019】
Si:0.01%以上0.50%以下
Siは、鋼板の強度向上に寄与する元素であり、脱酸剤としての作用を有する元素でもある。これらの効果を発現させるために、Si含有量は0.01%以上とする。一方、Si含有量が過剰に高くなると、靭性が低下する。そのため、Si含有量は0.50%以下、好ましくは0.30%以下とする。
【0020】
Mn:0.05%以上0.60%以下
Mnは、鋼の焼き入れ性を高め、鋼板の高強度化に有効な元素である。この効果を得るため、Mnは0.05%以上添加する。一方、0.60%を超えてMnを含有する場合、焼き戻し脆化感受性が高まり、かつ、靭性のばらつきが出始めるため、0.60%以下に制限する。具体的には、Mn量が0.60%を超えると、γ組織中のMn濃度が高くなり、靭性確保に寄与しないγが生成しやすくなる。Mn量は、好ましくは0.40%未満、より好ましくは0.30%以下、更に好ましくは0.20%未満、一層好ましくは、0.17%未満とする。
【0021】
Ni:6.0%以上7.5%以下
Niは、鋼板の極低温靭性の向上に極めて有効な元素である。具体的には、Ni量が6.0%に満たないと、γ相が生成しにくく、γ量を0.5体積%以上とすることができない。また、Ni含有量が6.0%未満になると、鋼板強度も低下する。したがって、Ni含有量を6.0%以上とする。一方で、Niは高価な元素であるため、その含有量が高くなるにつれて鋼板コストが高騰する。したがって、本発明においては、Ni含有量を7.5%以下とする。
【0022】
Cr:0.01%以上1.00%以下
Crは、極低温靭性を大きく損なうことなく鋼板の強度を向上させることができる元素である。上記の効果を得るには、Cr含有量を0.01%以上とし、好ましくは0.30以上%とする。しかし、Cr含有量が1.00%を超えると鋼板の極低温靭性が低下する。そのため、Cr含有量は1.00%以下とする。
【0023】
Mo:0.05%以上0.50%以下
Moは、Crと同様に、極低温靭性を大きく損なうことなく鋼板の強度を向上させることができる元素である。Mo量が0.05%に満たない場合、所望の強度および靭性を確保するのが難しく、特に強度を得ることができない。特に本発明では、Mn量を抑えて極低温靭性のばらつきを抑制することに起因して強度が低下し易い場合であっても、所定量のMoを併用することにより所望の強度を確保することができる。したがって、Mo含有量は0.05%以上とし、好ましくは0.10%超とする。一方、Mo含有量が0.50%を超えると極低温靭性がかえって低下する。そのため、Mo含有量は0.50%以下とし、好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.25%以下とする。
【0024】
P:0.03%以下
Pは、不可避的不純物であり、鋼板の極低温靭性に悪影響を及ぼす有害な元素である。例えば、鋼板を溶接して溶接構造物とした際に健全な母材および溶接継手を得るためには、Pの含有量を可能な限り低減することが好ましい。そのため、P含有量は0.03%以下に抑制する。また、極低温靭性の観点からは、P含有量は低ければ低いほどよいため、下限は特に限定されず、0%であってもよいが、その場合にも不可避不純物として含有することは許容される。一方、過度の低減はコスト増の原因となるため、コストの観点からは、P含有量の下限は0.001%とすることが好ましい。
【0025】
S:0.005%以下
Sは、鋼中でMnSを形成し極低温靭性を著しく劣化させるため、0.005%を上限とし、可能なかぎり低減することが望ましい。S含有量は、好ましくは0.002%以下とする。一方、S含有量は低ければ低いほどよいため、下限は特に限定されず、0%であってよいが、その場合にも不可避不純物として含有することは許容される。
【0026】
N:0.0010%以上0.0080%以下
Nは、鋼中で析出物を形成し、その含有量が0.0080%を超えると、母材の靭性低下の原因となる。但し、Nは、AlNを形成することにより母材の細粒化に寄与する元素でもあり、このような効果はN含有量を0.0010%以上とすることにより得られる。したがって、N含有量は0.0010%以上0.0080%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0020%以上とし、好ましくは0.0060%以下とする。
【0027】
本発明の一実施形態における成分組成は、上記所定量の元素に加え、残部がFe及び不可避不純物からなるものとすることができる。
【0028】
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成が、任意に、Al、Cu、Nb、V、TiおよびBからなる群より選択される1または2以上を、好ましくは以下に記す量でさらに含有することができる。
【0029】
Al:0.008%以上0.10%以下
Alは、脱酸剤に含まれる元素である。Al含有量が0.008%未満では脱酸剤としての効果が乏しい。また、Alは、AlNを形成することにより母材の細粒化に寄与する元素でもある。そのため、Alを含有させる場合は、Al含有量を0.008%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.02%以上とする。一方、Al含有量が0.10%を超えると鋼の清浄性が損なわれる。そのため、Al含有量は0.10%以下が好ましく、より好ましくは0.05%以下とする。
【0030】
Cu:0.40%以下
Cuは、焼入れ性向上により鋼板の強度を高める効果を有する元素である。しかし、Cu含有量が0.40%を超えると、鋼板の極低温靭性が低下することに加え、鋳造後の鋼素材(スラブ)表面の性状が悪化する。したがって、Cuを添加する場合、Cu含有量を0.40%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.30%以下とする。一方、Cu含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るには、Cu含有量を0.10%以上とすることが好ましい。
【0031】
Nb:0.05%以下
Nbは、析出強化により鋼板の強度を高める有効な元素である。しかし、Nb含有量が過剰に高くなると、鋼板の極低温靭性が低下する。そのため、Nbを添加する場合、Nb含有量を0.05%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.03%以下とする。一方、Nb含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るには、Nb含有量を0.010%以上とすることが好ましい。
【0032】
V:0.05%以下
Vは、Nb同様、析出強化により鋼板の強度を高める有効な元素である。しかし、V含有量が過剰に高くなると、鋼板の極低温靭性が低下する。そのため、Vを添加する場合、V含有量を0.05%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.04%以下とする。一方、V含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るには、V含有量を0.010%以上とすることが好ましい。
【0033】
Ti:0.03%以下
Tiは、鋼板を溶接して溶接構造物とする際、母材の機械的特性を低下させることなく溶接部の靭性を高める効果を有する元素である。したがって、Ti含有量を0.03%以下とすることが好ましい。
【0034】
B:0.0030%以下
Bは微量添加で焼入れ性を高める元素である。この効果を有効に発揮させるために、Bを0.0003%以上含有することができる。一方、Bの含有量が0.0030%を超えると靭性が劣化する。このため、Bを含有させる場合は、その含有量を0.0030%以下とすることが好ましい。
【0035】
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成が、任意に、Ca、REM、およびMgからなる群より選択される1または2以上を、好ましくは以下に記す量でさらに含有することができる。
【0036】
Ca:0.007%以下
Caは、鋼中の介在物の形態を制御することで鋼板の極低温靭性を向上させる効果を有する元素である。しかし、Caが過剰になると鋼の清浄性を損なう。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量を0.007%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.004%以下とする。一方、Ca含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るには、0.001%以上とすることが好ましい。
【0037】
REM:0.010%以下
REM(希土類金属)は、Ca同様、鋼中の介在物の形態を制御することで鋼板の極低温靭性を向上させる効果を有する元素である。しかし、REMが過剰になると鋼の清浄性を損なう。そのため、REMを添加する場合、REM含有量を0.010%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.008%以下とする。一方、REM含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るには、REM含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素を単独でまたは組み合わせて含有させることができる。なお、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
【0038】
Mg:0.070%以下
Mgは、CaやREM同様、鋼中の介在物の形態を制御することで、鋼板の極低温靭性を向上させる作用を有する元素である。しかし、Mgが過剰になると、鋼の清浄性を損なう。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.070%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.004%以下とする。一方、Mg含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るにはMg含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
【0039】
[ミクロ組織]
本発明の鋼板は、鋼板の表面から板厚方向に1/4深さの位置(「(1/4)t」と記すことがある。)における、Mnが質量%で1%未満かつNi量が質量%で11%以下であるγ相が体積分率で0.5%以上3.0%以下であることを特徴とする。鋼板中に上記所定組成のγが所定量存在することにより、靭性のばらつきがなく安定し、かつ高い極低温靱性を実現することができる。ここで、上記γ相の体積分率は、例えばX線回折試験によりα-Feおよびγ-Feの回折強度を求めることで算出することができる。
【0040】
そして、上記所定のγの特性を得るためには、γ中のMn濃度が1質量%未満であり、γ中のNiの平均濃度が11質量%以下であることが必要となる。鋼板におけるγ中のMn濃度およびNi濃度が上記好適範囲内に低ければ、極低温下におけるひずみで変態するγを生成させ易い。
【0041】
鋼板中に存在するγ(オーステナイト)は衝撃試験におけるひずみを受けて変態することで応力緩和の効果を発揮し脆性破壊の発生を抑制する。かかる効果を安定して得るためには、体積分率で0.5%以上が必要である。一方で、γが過度に多量に存在する場合、変態したマルテンサイトがき裂伝播時の吸収エネルギーを低下させるため靭性が低下する。以上を鑑み、γ体積分率は、0.5体積%以上である必要があり、3.0体積%以下である必要がある。γ体積分率は、好ましくは0.8体積%以上2.7%以下である。
【0042】
また、鋼板の組織は、ベイナイト及びマルテンサイトの合計が面積率で85%以上であることが好ましい。上記のとおり、ベイナイト+マルテンサイトを主体とした組織であれば、優れた極低温靭性を確保しつつ、十分な強度をも得やすいからである。ここで、ベイナイトとマルテンサイトとの比率は、任意で問題ない。
ここで、マルテンサイトとベイナイトとを主体とした組織とは、マルテンサイトとベイナイトとの合計が、面積率で、50%超であることを指す。
【0043】
鋼板の板厚は特に限定されず、任意の厚さとすることができるが、6mm以上とすることが好ましく、50mm以下とすることが好ましい。特に、従来、極低温靭性が鋼板内でよりばらつき易かった板厚の小さな鋼板においても、極低温靭性のばらつきを良好に抑制し、本願の効果をより享受できる観点からは、板厚を30mm未満とすることができる。
【0044】
[機械的特性]
(引張強さ)
鋼板の引張強さの下限は、特に限定されず任意の値とすることができるが、700MPaとすることが好ましく、720MPaとすることがより好ましい。一方、引張強さの上限についても特に限定されず任意の値とすることができるが、930MPaとすることが好ましく、900MPaとすることがより好ましい。
なお、引張強さは、後述する実施例に記載した方法で測定することができる。
【0045】
(極低温靱性)
鋼板の靱性は、-196℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-196℃)が、フルサイズシャルピー衝撃試験において、250J以上であることが好ましく、280J以上であることがより好ましく、350J以下であってもよい。
【0046】
[製造方法]
次に、本発明の鋼板を好適に製造可能な製造方法の一例について説明する。なお、以下の説明においては、特に断らない限り、温度は板厚中央の温度を指すものとする。板厚中央の温度は、例えば、放射温度計で測定した鋼板の表面温度から、伝熱計算により求めることができる。
【0047】
製造方法の具体的な一例として、下記(1)~(7)の工程を順次行うことにより、本発明の鋼板を好適に製造することができる。
(1)鋼素材の加熱
(2)熱間圧延
(3)第1の加速冷却
(4)2相域加熱
(5)第2の加速冷却
(6)焼き戻し
(7)空冷
【0048】
(1)鋼素材の加熱
まず、上述した成分組成を有する鋼素材を、900℃以上1200℃以下の温度に加熱することが好ましい。鋼素材の製造方法は、とくに限定されないが、例えば、上述した成分組成を有する溶鋼を常法により溶製し、鋳造することにより製造することができる。溶製は、転炉、電気炉、誘導炉等、任意の方法により行うことができる。また、鋳造は、生産性の観点から連続鋳造法で行うことが好ましいが、造塊-分解圧延法により行うこともできる。鋼素材としては、例えば、鋼スラブを用いることができる。
ここで、鋼素材の加熱は、鋳造などの方法によって得た鋼素材を一旦冷却した後に行ってもよいし、また、得られた鋼素材を冷却することなく直接、加熱に供してもよい。
【0049】
鋼素材の加熱温度が900℃未満であると、鋼素材の変形抵抗が高いため、後続の熱間圧延における圧延機への負荷が増大し、熱間圧延を行うことが困難となる。そのため、鋼素材の加熱温度は900℃以上とすることが好ましい。一方、鋼素材の加熱温度が1200℃より高いと、鋼の酸化が顕著となり、酸化による酸化膜を除去することによるロスが増大する結果、歩留まりが低下する。そのため、鋼素材の加熱温度は1200℃以下とすることが好ましい。
【0050】
(2)熱間圧延
上記加熱の後、加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とすることができる。熱延鋼板の最終板厚は特に限定されないが、上述したように、6mm以上とすることが好ましく、50mm以下とすることが好ましい。
【0051】
(3)第1の加速冷却
上記熱間圧延後の熱延鋼板に、加速冷却(第1の加速冷却)をすることができる。第1の加速冷却では、鋼板の板厚(1/4)tの位置における温度で550℃以下300℃以上の温度域における平均冷却速度が1℃/s以上であることが好ましく、冷却停止温度が(1/4)tにおける温度で300℃以下であることが好ましい。このような条件で第1の加速冷却をすることにより、熱延鋼板が良好に焼入れされ、マルテンサイトとベイナイトとを主体とした所望の組織を得やすい。
【0052】
第1の加速冷却において、(1/4)tにおける温度で550℃以下300℃以上の温度域における平均冷却速度が1℃/s未満であると、所望の変態組織が得難く、十分な強度を得ることが困難となる。また、不安定なγが鋼中に残存しやすく、その結果、極低温靭性が低下しやすい。一方、平均冷却速度の上限は特に限定されないが、平均冷却速度が200℃/sよりも高いと、鋼板内の各位置における温度制御が困難となり、板幅方向および圧延方向に材質のばらつきが出やすくなる。その結果、引張特性および靭性などの材料特性にばらつきが生じやすくなる。そのため、平均冷却速度は200℃/s以下とすることが好ましい。
【0053】
第1の加速冷却は、特に限定されることなく任意の方法で行うことができる。例えば、空冷および水冷の一方または両方を用いることができる。水冷としては、水を用いた任意の冷却方法(例えば、スプレー冷却、ミスト冷却、ラミナー冷却など)を用いることができる。
【0054】
(4)2相域加熱
次いで、熱間圧延後に冷却された熱延鋼板に対し、2相域加熱を施すことができる。具体的には、冷却された熱延鋼板を、板厚(1/4)tの位置における温度でAc1点+10~40℃の温度域に加熱することが好ましい。2相域加熱時の温度をこの範囲に制御することで、熱延鋼板の組織の一部をベイナイトおよび/またはマルテンサイトから逆変態させ、C、Ni、Mnが濃化した合金濃化相を有するオーステナイトの混合組織とすることが好ましい。ただし、上述のとおり、このオーステナイトの混合組織においては、Mnの濃化を1質量%以下かつNi量を11質量%以下に抑えることが好ましい。
【0055】
2相域加熱での加熱温度がAc1点+10℃未満では、上述の逆変態されたオーステナイトがほとんど得られず、引き続く加速冷却で所望のミクロ組織を得ることが困難となる。その結果、最終的に得られる鋼板において所望の極低温靭性が得難い。一方、2相域加熱での加熱温度がAc1点+40℃を超えると、ベイナイトおよびマルテンサイトの逆変態率が過剰に高くなりやすく、また、逆変態相への過度に合金が濃化する。その結果、靭性に寄与するγが生成しにくく、優れた極低温靭性を確保し難い。
【0056】
なお、Ac1点(Ac1変態点)下記(1)式により求めることができる。
Ac1点(℃)=750.8 - 26.6×C + 17.6×Si - 11.6×Mn - 22.9×Cu - 23×Ni + 24.1×Cr + 22.5×Mo- 39.7×V - 5.7×Ti + 232.4×Nb - 169.4×Al ・・・(1)
ただし、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、当該元素が含有されていない場合は0とする。
【0057】
2相域加熱には、加熱温度を上記のとおり制御できる方法であれば、任意の加熱方法を用いることができる。加熱方法の一例としては、炉加熱が挙げられる。炉加熱には、特に限定されることなく、一般的な熱処理炉を用いることができる。
【0058】
なお、2相域加熱温度に到達した後は、直ちに次の加速冷却を開始してもよいし、2相域加熱温度で任意の時間保持した後に次の加速冷却を開始してもよい。2相域加熱温度での保持を行う場合、保持時間は特に限定されないが、5分以上とすることが好ましい。
【0059】
(5)第2の加速冷却
次いで、上記2相域加熱後の熱延鋼板に、加速冷却(第2の加速冷却)をすることができる。第2の加速冷却では、鋼板の板厚(1/4)tの位置における平均冷却速度が1℃/s以上であることが好ましく、冷却停止温度が(1/4)tにおける温度で300℃以下であることが好ましい。
【0060】
第2の加速冷却において、(1/4)tにおける温度での平均冷却速度が1℃/s未満であると、不安定なγが鋼中に残存しやすく、その結果、最終的に得られる鋼板の極低温靭性が低下する。一方、平均冷却速度の上限は特に限定されないが、平均冷却速度が200℃/sよりも高いと、鋼板内の各位置における温度制御が困難となり、板幅方向および圧延方向に材質のばらつきが出やすくなる。その結果、引張特性および靭性などの材料特性にばらつきが生じやすくなる。そのため、平均冷却速度は200℃/s以下とすることが好ましい。
なお、ここで、平均冷却速度は、第2の加速冷却工程における加速冷却開始から加速冷却停止までの間における単位時間当たりに低下する温度の平均速度を指すものとする。
【0061】
また、第2の加速冷却において、冷却停止温度が、(1/4)tにおける温度で300℃を超えると、不安定なオーステナイトが残存しやすく、極低温靭性が低下しやすい。
【0062】
第2の加速冷却は、特に限定されることなく任意の方法で行うことができる。例えば、空冷および水冷の一方または両方を用いることができる。水冷としては、水を用いた任意の冷却方法(例えば、スプレー冷却、ミスト冷却、ラミナー冷却など)を用いることができる。
(6)焼き戻し
次いで、2相域加熱後に冷却された熱延鋼板に対し、焼き戻しを施すことができる。焼き戻し温度は、500℃以上が好ましく、650℃以下が好ましく、520℃以上630℃以下がより好ましい。焼き戻し温度が500℃未満では、焼き戻しが不十分で靭性が低下しやすい。また、焼き戻し温度が650℃を超えると、強度が低下し、また靭性に寄与しないγが多量に生成するため、靭性も低下しやすい。
【0063】
焼き戻し工程における加熱には、加熱温度を上記の通り制御できる方法であれば、任意の加熱方法を用いることができる。加熱方法の一例としては、炉加熱が挙げられる。前記炉加熱には、特に限定されることなく、一般的な熱処理炉を用いることができる。
【0064】
なお、焼き戻し温度に到達した後は、焼き戻し温度で任意の時間保持した後に任意の冷却を開始してもよい。焼き戻し温度での保持を行う場合、保持時間は特に限定されないが、5分以上とすることが好ましい。
【0065】
(7)空冷
焼き戻し後の鋼板は、上述のとおり任意の冷却を施すことができる。冷却方法は特に限定されないが、製造時の作業容易性及びコストの観点からは、空冷を施すことが好ましい。
【実施例0066】
以下に述べる手順で鋼板を製造し、その特性を評価した。
【0067】
まず、表1に示す成分組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によって鋼素材としての鋼スラブ(厚さ:200mm)を製造した。なお、上述した(1)式よって求めたAc1点(℃)を表1に併記する。
【0068】
【0069】
次に、表2に示した条件に従って、得られた鋼素材(スラブ)を加熱し、熱間圧延して、各板厚(最終板厚)を有する熱延鋼板とした。
次いで、表2に示した条件に従って、得られた熱延鋼板に、第1の加速冷却、2相域加熱および第2の加速冷却を含む熱処理を施した。
そして、表2に示した条件に従って、熱処理後の熱延鋼板に、焼き戻しを施した。全ての例において、焼き戻し後に空冷を行い、6mm~50mmの種々の板厚を有する鋼板を得た。
なお、上記各工程における加熱には、熱処理炉を用いた。
【0070】
次に、得られた鋼板のそれぞれについて、ミクロ組織、γ中のMn及びNiの濃度、引張強さ(TS)、および-196℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-196℃)を、以下の手法に従って評価した。
【0071】
[ミクロ組織]
各鋼板から、板厚(1/4)tの位置が観察位置となるように、ミクロ組織観察用の試験片を採取した。この試験片を、圧延方向と垂直な断面が観察面となるよう樹脂に埋め、鏡面研磨した。次いで、ナイタール腐食を実施した後、倍率2000、10000倍の走査型電子顕微鏡で観察して組織の画像を撮影した。得られた画像を解析して、ミクロ組織を同定した。
表2に示すNo.1~33の鋼板のうち、比較例No.3~5を除き、いずれもラス状のミクロ組織を有しており、焼戻しマルテンサイトのみの組織、または焼戻しマルテンサイトおよびベイナイトの混合組織であった。
【0072】
[γ中のMn及びNiの濃度]
各鋼板から、板厚(1/4)tの位置が観察位置となるように、TEM観察用の薄膜試験片を採取し、TEM/EDX測定に供した。電子回折図形からγ組織を特定し、該γ組織のEDXスペクトルを取得し、Mn及びNiの濃度を定量化した。このようにして、Mn、Niそれぞれについて20箇所における濃度を測定し、その測定結果の平均値を、γ中のMn及びNiの平均濃度(質量%)とした。
表2に示すNo.1~33の鋼板のうち、発明例は全て、γ中のMnの平均濃度が1質量%未満であり、かつ、γ中のNiの平均濃度が11質量%以下であった。
【0073】
(引張強さ)
鋼板の板厚(1/4)tの位置から、JIS4号引張試験片を採取した。この引張試験片を用い、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施して、鋼板の引張強さ(TS)を評価した。ここで、TSが700MPaを超えるものを合格とした。結果を表2に示す。
【0074】
(極低温靭性)
鋼板の板厚(1/4)tの位置から、JIS Z 2202の規定に準拠してVノッチ試験片を採取した。このVノッチ試験片を用い、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、-196℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-196℃)を求めた。シャルピー吸収エネルギーは、鋼板の極低温靭性の指標と見なすことができる。シャルピー衝撃試験では、各鋼板について、圧延方向に沿った位置が異なる3本の試験片を採取した。より具体的には、鋼板の圧延方向(長さ方向)の各端から1000mmずつ内側の箇所で各1箇所と、鋼板の圧延方向(長さ方向)の中央部で1箇所との、計3箇所で試験片を採取した。そして、各試験片について1回ずつ、計3回測定を行った。個々の測定結果を表2に示す。
なお、板厚が小さいNo.1、16、21については、ハーフサイズの試験片(サブサイズ試験片)を用いたハーフサイズシャルピー衝撃試験を実施し、その他の例ではフルサイズの試験片を用いたフルサイズシャルピー衝撃試験を実施した。
【0075】
【0076】
表1及び2からわかるとおり、本発明に従う鋼板は高強度であり、かつ、優れた極低温靭性を確保しつつ鋼板内での該靭性のばらつきが良好に抑制されることが確認された。また、この効果は、例えば、厚みが6~25mmと比較的薄い鋼板においても達成された。一方、本発明の範囲を外れる比較例では、3回測定したうちの少なくとも1回におけるシャルピー吸収エネルギーが200Jよりも低かった。つまり、比較例では、極低温靭性が鋼板内でばらつき、極低温靭性の低い部分が生じ、上述の目標性能を満足できなかった。