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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010806
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】梁継手部の設計方法及び柱梁接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20240118BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
E04B1/30 K
E04B1/58 505P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112316
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
(72)【発明者】
【氏名】木村 慧
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 喜章
(72)【発明者】
【氏名】八尋 幸光
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 渡
(72)【発明者】
【氏名】入江 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐亮
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC01
2E125AC15
2E125AF01
2E125AF03
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG12
2E125AG41
2E125BA02
2E125BB02
2E125BB22
2E125BD01
2E125BE02
2E125CA05
(57)【要約】
【課題】梁継手部に含まれるフランジ継手部において、フランジ1つ当たりの高力ボルトの数を低減させる梁継手部の設計方法を提供する。
【解決手段】柱10と、複数の梁15と、接合部20と、梁継手部25と、複数の支圧板30と、を備える柱梁接合構造35における梁継手部の設計方法であって、複数の梁は、ウェブ18及びフランジ16,17をそれぞれ有し、接合部を構成する柱が有するコンクリート11の支圧抵抗によって複数の梁に作用する応力が低減される効果と、複数の梁及び支圧板によって囲まれた領域に形成される圧縮ストラットの反力に複数の支圧板が抵抗することによって生じる複数の梁の軸力と、を考慮して、梁継手部に含まれるフランジ継手部に作用する軸力であるフランジ軸力を算出し、梁継手部の設計を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の柱と、前記柱に接合される鉄骨造の複数の梁と、前記柱に前記梁が接合された接合部と、前記複数の梁それぞれの材軸方向の一端が突き合わされ、鋼板及び高力ボルトにより接合された状態で前記柱に内包された梁継手部と、前記複数の梁におけるそれぞれの前記材軸方向の少なくとも1か所に設置され、前記柱に接触又は内包される複数の支圧板と、を備える柱梁接合構造における梁継手部の設計方法であって、
前記複数の梁は、ウェブ及びフランジをそれぞれ有し、
前記接合部を構成する前記柱が有するコンクリートの支圧抵抗によって前記複数の梁に作用する応力が低減される効果と、前記複数の梁及び前記支圧板によって囲まれた領域に形成される圧縮ストラットの反力に前記複数の支圧板が抵抗することによって生じる前記複数の梁の軸力と、を考慮して、前記梁継手部に含まれるフランジ継手部に作用する軸力であるフランジ軸力を算出し、前記フランジ継手部の設計を行う、梁継手部の設計方法。
【請求項2】
(1)式から(4)式を満たすように設定された前記梁継手部に含まれる前記フランジ継手部において、(5)式から(7)式より得られる降伏耐力Nが、(8)式より得られる前記フランジ軸力Nas以上となるように設計する、請求項1に記載の梁継手部の設計方法。
ただし、D:前記柱のせい、D:前記複数の梁のせい、Dbpl:前記複数の支圧板間の距離、tbpl:前記複数の支圧板それぞれの厚さ、B:前記柱の幅、B:前記複数の梁の前記フランジの幅、n:前記フランジ継手部における前記フランジ1つ当たりの前記高力ボルトの数、qboy:前記高力ボルト1本あたりのすべり耐力、Asp:前記鋼板における前記材軸方向に直交する断面積であって、前記高力ボルト用のボルト孔による断面欠損を差し引いた断面積、σspy:前記鋼板の降伏強度、Z:前記複数の梁の断面係数、σby:前記複数の梁の降伏強度、d:前記複数の梁の一対の前記フランジの板厚中心間の距離である。
【数1】
【請求項3】
(11)式から(14)式を満たすように設定された前記梁継手部に含まれる前記フランジ継手部において、(15)式から(18)式より得られる終局耐力Nが、(19)式より得られる前記フランジ軸力N以上となるように設計する、請求項1又は2に記載の梁継手部の設計方法。
ただし、D:前記柱のせい、D:前記複数の梁のせい、Dbpl:前記複数の支圧板間の距離、tbpl:前記複数の支圧板それぞれの厚さ、B:前記柱の幅、B:前記複数の梁の前記フランジの幅、n:前記フランジ継手部における前記フランジ1つ当たりの前記高力ボルトの数、qbou:前記高力ボルト1本あたりの最大せん断耐力、Asp:前記鋼板における前記材軸方向に直交する断面積であって、前記高力ボルト用のボルト孔による断面欠損を差し引いた断面積、σspu:前記鋼板の引張強さ、Ans,f:前記フランジ1枚におけるはしぬけ破断の有効断面積、σfu:前記フランジの引張強さ、Ans,sp:前記鋼板におけるはしぬけ破断の有効断面積の合計、Zbp:前記複数の梁の塑性断面係数、σby:前記複数の梁の降伏強度、d:前記複数の梁の一対の前記フランジの板厚中心間の距離、α:前記複数の梁の塑性化後の耐力上昇率である。
【数2】
【請求項4】
鉄筋コンクリート造の柱と、前記柱に接合される鉄骨造の複数の梁と、前記柱に前記梁が接合された接合部と、前記複数の梁それぞれの材軸方向の一端が突き合わされ、鋼板及び高力ボルトにより接合された状態で前記柱に内包された梁継手部と、前記複数の梁におけるそれぞれの前記材軸方向の少なくとも1か所に設置され、前記柱に接触又は内包される複数の支圧板と、を備える柱梁接合構造であって、
前記複数の梁は、ウェブ及びフランジをそれぞれ有し、
(21)式から(24)式を満たすように設定された前記梁継手部に含まれるフランジ継手部において、
(25)式から(27)式より得られる降伏耐力Nが、(28)式より得られるフランジ軸力Nas以上となり、
(29)式から(32)式より得られる終局耐力Nが、(33)式より得られるフランジ軸力N以上となる、柱梁接合構造。
ただし、D:前記柱のせい、D:前記複数の梁のせい、Dbpl:前記複数の支圧板間の距離、tbpl:前記複数の支圧板それぞれの厚さ、B:前記柱の幅、B:前記複数の梁の前記フランジの幅、n:前記フランジ継手部における前記フランジ1つ当たりの前記高力ボルトの数、qboy:前記高力ボルト1本あたりのすべり耐力、Asp:前記鋼板における前記材軸方向に直交する断面積であって、前記高力ボルト用のボルト孔による断面欠損を差し引いた断面積、σspy:前記鋼板の降伏強度、Z:前記複数の梁の断面係数、σby:前記複数の梁の降伏強度7、d:前記複数の梁の一対の前記フランジの板厚中心間の距離である。
bou:前記高力ボルト1本あたりの最大せん断耐力、Asp:前記鋼板における前記材軸方向に直交する断面積であって、前記高力ボルト用のボルト孔による断面欠損を差し引いた断面積、σspu:前記鋼板の引張強さ、Ans,f:前記フランジ1枚におけるはしぬけ破断の有効断面積、σfu:前記フランジの引張強さ、Ans,sp:前記鋼板におけるはしぬけ破断の有効断面積の合計、Zbp:前記複数の梁の塑性断面係数、σby:前記複数の梁の降伏強度、d:前記複数の梁の一対の前記フランジの板厚中心間の距離、α:前記複数の梁の塑性化後の耐力上昇率である。
【数3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁継手部の設計方法及び柱梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な鉄筋コンクリート造の柱と鉄骨造の梁との接合部では、柱に梁を貫通させている(例えば、特許文献1及び2参照)。そして、接合部の外側で梁継手部を設けている。この場合には、梁継手部を接合部内に設ける場合よりも継手数が増加し、コストや施工性の低下につながる。
一方で、接合部内にボルトによる1つの梁継手部を剛接合で形成している接合部構造も存在している(例えば、特許文献3参照)。しかし、剛接合となる条件が不明確であり、通常の純鉄骨製の梁継手部とは異なる、柱梁接合部内の応力状態を反映した梁継手部の設計方法が必要といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6442314号公報
【特許文献2】特開2017-155464号公報
【特許文献3】特許第2836488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1から3に開示された柱梁接合構造では、梁継手部に含まれる1つ当たりのフランジを接合する高力ボルトの数が多く、接合部を構成するのに多大な労力が必要になる。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、接合部近傍における梁継手部の数を抑えるとともに、梁継手部に含まれるフランジ継手部1つ当たりの高力ボルトの数を低減させる梁継手部の設計方法及び柱梁接合構造を提供することを目的とする。
ここで言う接合部近傍とは、接合部、及び接合部から突出している梁の両方を含む範囲を示している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、鉄筋コンクリート造の柱と、前記柱に接合される鉄骨造の複数の梁と、前記柱に前記梁が接合された接合部と、前記複数の梁それぞれの材軸方向の一端が突き合わされ、鋼板及び高力ボルトにより接合された状態で前記柱に内包された梁継手部と、前記複数の梁におけるそれぞれの前記材軸方向の少なくとも1か所に設置され、前記柱に接触又は内包される複数の支圧板と、を備える柱梁接合構造における梁継手部の設計方法であって、前記複数の梁は、ウェブ及びフランジをそれぞれ有し、前記接合部を構成する前記柱が有するコンクリートの支圧抵抗によって前記複数の梁に作用する応力が低減される効果と、前記複数の梁及び前記支圧板によって囲まれた領域に形成される圧縮ストラットの反力に前記複数の支圧板が抵抗することによって生じる前記複数の梁の軸力と、を考慮して、前記継手部に含まれる前記フランジ継手部に作用する軸力であるフランジ軸力を算出し、前記梁継手部の設計を行う。
ここで言うフランジ継手部とは、梁継手部に含まれる、フランジにおいて高力ボルトにより接合された部分を意味する。
【0007】
この発明では、発明者等は、柱、複数の梁、接合部、梁継手部、及び複数の支圧板を備える柱梁接合構造において、鋭意検討の結果、接合部において、以下の2つの事項を考慮して梁継手部の設計をした。すなわち、第1事項は、接合部を構成する柱が有するコンクリートによる支圧抵抗によって、複数の梁に作用する応力が低減される効果である。第2事項は、複数の梁及び複数の支圧板によって囲まれた領域に形成される圧縮ストラットの反力に支圧板が抵抗することによって生じる複数の梁の軸力である。
そして、これら2つの事項を考慮して、梁継手部に含まれるフランジ継手部に作用するフランジ軸力を算出し、梁継手部の設計を行う。これにより、接合部近傍における梁継手部の数を1つに抑えるとともに、梁継手部に含まれるフランジ継手部1つ当たりの高力ボルトの数を低減させることができる。
【0008】
(2)本発明の態様2は、(1)式から(4)式を満たすように設定された前記梁継手部に含まれる前記フランジ継手部において、(5)式から(7)式より得られる降伏耐力Nが、(8)式より得られる前記フランジ軸力Nas以上となるように設計する、前記(1)に記載の梁継手部の設計方法であってもよい。
ただし、D:前記柱のせい、D:前記複数の梁のせい、Dbpl:前記複数の支圧板間の距離、tbpl:前記複数の支圧板それぞれの厚さ、B:前記柱の幅、B:前記複数の梁の前記フランジの幅、n:前記フランジ継手部における前記フランジ1つ当たりの前記高力ボルトの数、qboy:前記高力ボルト1本あたりのすべり耐力、Asp:前記鋼板における前記材軸方向に直交する断面積であって、前記高力ボルト用のボルト孔による断面欠損を差し引いた断面積、σspy:前記鋼板の降伏強度、Z:前記複数の梁の断面係数、σby:前記複数の梁の降伏強度、d:前記複数の梁の一対の前記フランジの板厚中心間の距離である。
【0009】
【数1】
【0010】
この発明では、(1)式から(4)式を満たすように設定された柱梁接合構造において、(5)式から(8)式を用いて、梁継手部に含まれるフランジ継手部の降伏耐力Nがフランジ軸力Nas以上となり、柱梁接合構造が降伏する前にフランジ継手部が降伏しないように設計することができる。
【0011】
(3)本発明の態様3は、(11)式から(14)式を満たすように設定された前記梁継手部に含まれる前記フランジ継手部において、(15)式から(18)式より得られる終局耐力Nが、(19)式より得られる前記フランジ軸力N以上となるように設計する、(1)又は(2)に記載の梁継手部の設計方法であってもよい。
ただし、D:前記柱のせい、D:前記複数の梁のせい、Dbpl:前記複数の支圧板間の距離、tbpl:前記複数の支圧板それぞれの厚さ、B:前記柱の幅、B:前記複数の梁の前記フランジの幅、n:前記フランジ継手部における前記フランジ1つ当たりの前記高力ボルトの数、qbou:前記高力ボルト1本あたりの最大せん断耐力、Asp:前記鋼板における前記材軸方向に直交する断面積であって、前記高力ボルト用のボルト孔による断面欠損を差し引いた断面積、σspu:前記鋼板の引張強さ、Ans,f:前記フランジ1枚におけるはしぬけ破断の有効断面積、σfu:前記フランジの引張強さ、Ans,sp:前記鋼板におけるはしぬけ破断の有効断面積の合計、Zbp:前記複数の梁の塑性断面係数、σby:前記複数の梁の降伏強度、d:前記複数の梁の一対の前記フランジの板厚中心間の距離、α:前記複数の梁の塑性化後の耐力上昇率である。
【0012】
【数2】
【0013】
この発明では、(11)式から(14)式を満たすように設定された柱梁接合構造において、(15)式から(19)式を用いて、梁継手部に含まれるフランジ継手部の終局耐力Nがフランジ軸力N以上となり、柱梁接合構造が最大耐力を発揮する前に、前記フランジ継手部の破断によって柱梁接合構造が崩壊しないように設計することができる。
【0014】
(4)本発明の態様4は、鉄筋コンクリート造の柱と、前記柱に接合される鉄骨造の複数の梁と、前記柱に前記梁が接合された接合部と、前記複数の梁それぞれの材軸方向の一端が突き合わされ、鋼板及び高力ボルトにより接合された状態で前記柱に内包された梁継手部と、前記複数の梁におけるそれぞれの前記材軸方向の少なくとも1か所に設置され、前記柱に接触又は内包される複数の支圧板と、を備える柱梁接合構造であって、前記複数の梁は、ウェブ及びフランジをそれぞれ有し、(21)式から(24)式を満たすように設定された前記梁継手部に含まれるフランジ継手部において、(25)式から(27)式より得られる降伏耐力Nが、(28)式より得られるフランジ軸力Nas以上となり、(29)式から(32)式より得られる終局耐力Nが、(33)式より得られるフランジ軸力N以上となる。
【0015】
ただし、D:前記柱のせい、D:前記複数の梁のせい、Dbpl:前記複数の支圧板間の距離、tbpl:前記複数の支圧板それぞれの厚さ、B:前記柱の幅、B:前記複数の梁の前記フランジの幅、n:前記フランジ継手部における前記フランジ1つ当たりの前記高力ボルトの数、qboy:前記高力ボルト1本あたりのすべり耐力、Asp:前記鋼板における前記材軸方向に直交する断面積であって、前記高力ボルト用のボルト孔による断面欠損を差し引いた断面積、σspy:前記鋼板の降伏強度、Z:前記複数の梁の断面係数、σby:前記複数の梁の降伏強度、d:前記複数の梁の一対の前記フランジの板厚中心間の距離である。
bou:前記高力ボルト1本あたりの最大せん断耐力、Asp:前記鋼板における前記材軸方向に直交する断面積であって、前記高力ボルト用のボルト孔による断面欠損を差し引いた断面積、σspu:前記鋼板の引張強さ、Ans,f:前記フランジ1枚におけるはしぬけ破断の有効断面積、σfu:前記フランジの引張強さ、Ans,sp:前記鋼板におけるはしぬけ破断の有効断面積の合計、Zbp:前記複数の梁の塑性断面係数、σby:前記複数の梁の降伏強度、d:前記複数の梁の一対の前記フランジの板厚中心間の距離、α:前記複数の梁の塑性化後の耐力上昇率である。
【0016】
【数3】
【0017】
この発明では、発明者等は、柱、複数の梁、接合部、梁継手部、及び複数の支圧板を備える柱梁接合構造において、鋭意検討の結果、(21)式から(24)式を満たすように設定された柱梁接合構造で、以下のように構成することを見出した。すなわち、(25)式から(27)式より得られる降伏耐力Nが、(28)式より得られるフランジ軸力Nas以上となる構成する。(29)式から(32)式より得られる終局耐力Nが、(33)式より得られるフランジ軸力N以上となるように構成する。
このように構成することにより、接合部近傍における梁継手部の数を1つに抑えるとともに、梁継手部に含まれるフランジ継手部1つ当たりの高力ボルトの数を低減させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の継手部の設計方法及び柱梁接合構造では、接合部近傍における梁継手部の数を抑えるとともに、梁継手部に含まれるフランジ継手部1つ当たりの高力ボルトの数を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の柱梁接合構造が用いられる建築物の一部を透過した斜視図である。
図2】同柱梁接合構造の実験装置の概要を示す正面図である。
図3図2中の切断線A1-A1の断面図である。
図4図2中の要部拡大図である。
図5図4中の切断線A2-A2の断面図である。
図6図4中の切断線A3-A3の断面図である。
図7図4中の切断線A4-A4の断面図である。
図8】はしぬけ破断する前のスプライスプレートを模式的に示す平面図である。
図9】はしぬけ破断した後のスプライスプレートを模式的に示す平面図である。
図10】梁の端部に外力を作用させたときに柱梁接合構造に作用する内部応力等を示す図である。
図11】柱梁接合構造の梁の端部に外力を作用させたときの層間変形角に対する層モーメントの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る梁継手部の設計方法及び柱梁接合構造の一実施形態を、図1から図11を参照しながら説明する。
まず、本実施形態の柱梁接合構造が用いられる建築物について説明する。
【0021】
〔1.建築物の構成〕
図1に示すように、建築物1は、複数の柱10と、複数の梁15と、接合部20と、梁継手部25と、複数の支圧板30と、を備える。なお、図1では、複数の柱10のうちの1つを示している。なお、柱10、一対の梁15、接合部20、梁継手部25、及び一対の支圧板30で、柱梁接合構造35を構成する。
【0022】
柱10は、鉄筋コンクリート造であり、上下方向に沿って延びている。複数の柱10は、互いに間隔を開けて配置されている。
柱10は、コンクリート11と、複数の主筋(鉄筋)12と、複数のせん断補強筋(鉄筋)13と、を有する。
例えば、コンクリート11は、上下方向に延びる角柱状である。コンクリート11の設計基準強度は、21N/mm(ニュートン毎平方ミリメートル。21MN/m)以上60N/mm以下であることが好ましい。コンクリート11の設計基準強度は、30N/mm以上60N/mm以下であることがより好ましい。
複数の主筋12及び複数のせん断補強筋13は、コンクリート11に埋設されている。複数の主筋12は、コンクリート11の表面近くに配置され、上下方向に延びている。せん断補強筋13は、環状に形成され、複数の主筋12を囲むように配置されている。
【0023】
本実施形態では、梁15は、鉄骨造であり、H形鋼製である。梁15は、水平面に沿って延びている。
梁15は、一対のフランジ16,17及びウェブ18を有する。フランジ16,17及びウェブ18は、それぞれ鋼板により形成されている。フランジ16,17は、それぞれ水平面に沿うように配置され、互いに上下方向に対向している。フランジ16は、フランジ17よりも上方に配置されている。
ウェブ18は、フランジ16とフランジ17との間に配置されている。ウェブ18は、フランジ16の幅方向の中心及びフランジ17の幅方向の中心にそれぞれ接合されている。
複数の梁15の端部は、柱10のコンクリート11に埋設されることにより、柱10にそれぞれ接合されている。
【0024】
一対(複数)の梁15それぞれの材軸方向の一端が、突き合わされている。以下では、一対の梁15の一方を梁15Aとも言い、一対の梁15の他方を梁15Bとも言う。
一対の梁15それぞれの材軸方向の端部は、ウェブのスプライスプレート21、フランジのスプライスプレート(鋼板)22、ウェブ高力ボルト23、及びフランジ高力ボルト(高力ボルト)24により互いに接合されている。一対の梁15それぞれの材軸方向の端部、フランジのスプライスプレート22、及びフランジ高力ボルト24により、前記梁継手部25が構成される。
より詳しく説明すると、一対の梁15それぞれのウェブ18が、突き合わされている。そして、突き合わされた状態の一対のウェブ18が、一対のウェブのスプライスプレート21によりウェブ18の厚さ方向に挟まれ、ウェブ18のボルト孔(不図示)及びウェブのスプライスプレート21のボルト孔(不図示)を通したウェブ高力ボルト23及びナット(不図示)により締結されている。
ウェブ高力ボルト23(ボルト孔)は、材軸方向及び梁15の高さ方向に碁盤目状に配置されている。
【0025】
一対の梁15それぞれのフランジ16が、突き合わされている。そして、突き合わされた状態の一対のフランジ16が、複数のフランジのスプライスプレート22によりフランジ16の厚さ方向に挟まれ、フランジ16のボルト孔(不図示)及びフランジのスプライスプレート22のボルト孔22a(図8参照)を通したフランジ高力ボルト24及びナット(不図示)により締結されている。フランジ高力ボルト24(ボルト孔22a)は、材軸方向及び梁15の幅方向に碁盤目状に配置されている。
フランジ17についても、フランジ16と同様である。こうして、一対の梁15が互いに接合されている。
梁継手部25は、柱10に内包されている(柱10のコンクリート11内に配置されている)。
【0026】
各支圧板30は、鋼板等により形成されている。各支圧板30は、梁15の材軸方向の端部におけるフランジ16,17及びウェブ18に溶接等により設置されている。この例では、支圧板30は、梁15における材軸方向の1か所に設置されている。なお、支圧板30は、梁15における材軸方向の2か所以上に設置されていてもよい。
支圧板30は、柱10のコンクリート11の外面に接触している。なお、支圧板30は、柱10のコンクリート11に内包されてもよい。
前記接合部20は、柱10に一対の梁15が接合された部分である。
柱梁接合構造35では、接合部20内における梁継手部25の数は、1である。
【0027】
次に、以上のように構成された柱梁接合構造35における梁継手部の設計方法(以下、単に設計方法と言う)を確認するために行った実験結果について説明する。
【0028】
〔2.梁継手部の設計方法を確認する実験〕
本発明では、梁継手部25に含まれるフランジ継手部16aにおいて、1つ当たりのフランジ16を接合するフランジ高力ボルト24の数を低減させることが、課題である。なお、ここで言うフランジ継手部16aとは、梁継手部25に含まれる、フランジ16においてフランジ高力ボルト24により接合された部分を意味する。フランジ16に代えて、フランジ17を対象にしてもよい。この課題を解決するために、以下に説明する実験を行った。
図2から図4に、柱梁接合構造35の実験を行うのに用いた実験装置100を示す。なお、図2から図4では、コンクリート11の一部を透過して示す。図2及び図3では、複数の主筋12及び複数のせん断補強筋13を示していない。
【0029】
図2に示すように、実験装置100は、保持部101,102と、図示しない負荷部と、を有する。
保持部101は、柱10の上端部を保持する。その上で、保持部101には、柱10の降伏軸力の10%に相当する軸力を、柱10の上端部から下端部の方向に導入する。保持部102は、柱10の下端部を保持する。保持部102は、前記軸力の作用によって柱10の材軸方向に変位しないように拘束されている。
負荷部は、一対の梁15における柱10とは反対側の端部に、上下方向に沿う外力を作用させる。具体的には、負荷部は、梁15Aの端部に上方に向かう外力F1を作用させると同時に、梁15Bの端部に下方に向かう外力F1を作用させる。また、負荷部は、梁15Aの端部に下方に向かう外力F2を作用させると同時に、梁15Bの端部に上方に向かう外力F2を作用させる。負荷部は、外力F1及び外力F2を交互に作用させる。
この例では、負荷部は、地震による外力を模擬する。
【0030】
なお、図5から図7に、図2中の切断線A2-A2,A3-A3,A4-A4の断面図をそれぞれ示す。実験に用いられている柱梁接合構造35の柱10が、複数の主筋12及び複数のせん断補強筋13を有することが分かる。
ここで、柱梁接合構造35の諸元、物性等を以下のように規定する。なお、以下に説明する長さ等の単位には、長さに対しては「m」といった、SI単位が好ましく用いられる。
【0031】
図3に示すように、柱10のせいを、Dと規定する。柱10の幅を、Bと規定する。せいD及び幅Bは、それぞれ柱10が延びる方向に直交する柱10の長さである。
梁15のせいを、Dと規定する(図2参照)。梁15のフランジ16,17の幅(梁15の幅)を、Bと規定する。
一対の支圧板30それぞれの厚さを、tbplと規定する。図2に示すように、一対の支圧板30間の距離を、Dbplと規定する。
梁15の一対のフランジ16,17の板厚中心間の距離(フランジ16の厚さの中心とフランジ17の厚さの中心との距離)を、dと規定する。
梁15の断面係数を、Zと規定する。梁の塑性断面係数を、Zbpと規定する。
【0032】
フランジ継手部16aにおけるフランジ161つ当たりのフランジ高力ボルト24の数を、nと規定する。具体的には、数nは、梁15Aのフランジ16を接合するフランジ高力ボルト24の数である。この数nは、例えば、梁15Bのフランジ16を接合するフランジ高力ボルト24の数と、一致する。
【0033】
梁15の降伏強度を、σbyと規定する。フランジ16の引張強さを、σfuと規定する。
フランジのスプライスプレート22の降伏強度を、σspyと規定する。フランジのスプライスプレート22の引張強さを、σspuと規定する。
フランジ高力ボルト24の1本あたりのすべり耐力を、qboyと規定する。フランジ高力ボルト24の1本あたりの最大せん断耐力を、qbouと規定する。
梁15の塑性化後の耐力上昇率を、αと規定する。
【0034】
例えば、耐力上昇率αには、日本建築学会編、「鋼構造接合部設計指針」、丸善出版株式会社、p.97に記載された継手の接合部係数αを用いることができる。なお、継手の接合部係数αは、鋼種類及び継手の最大耐力を決める破壊形式に応じて、1.10~1.30の値をとる。
【0035】
なお、この実験では、距離dを0.459m(459mm)とした。
実験は、柱10のせいD、梁15のせいD、支圧板30間の距離Dbpl、支圧板30の厚さtbpl、柱10の幅B、梁15のフランジ16、17の幅Bが、(41)式から(44)式の下限値となるように設定された柱梁接合構造35における梁継手部25に対して行った。
【0036】
【数4】
【0037】
(41)式、(42)式、及び(44)式の条件の下限値は、柱梁接合構造35において、コンクリート11の支圧抵抗によって梁15及び梁継手部25に作用する応力が低減される効果が最も小さい条件と考えられる。また、(43)式の条件の下限値は、支圧板30が圧縮ストラットの反力に抵抗するために必要な板厚の最小値である。すなわち、(41)式から(44)式の条件を満たす柱梁接合構造であれば、本発明に記載のコンクリート11による応力低減効果を得ることができ、かつ支圧板30においても圧縮ストラットの反力に対して十分な抵抗能力を有していると考えられる。
【0038】
ここで、(41)式、(42)式、及び(44)式の左辺の意味するところについて述べる。(41)式あるいは(42)式の左辺は、梁15のせいDに対する柱10のせいD、あるいは支圧板30間の距離Dbplの比である。この値が大きくなれば、柱10に対する梁15の埋め込み長さが増加するため、梁15からコンクリート11に伝達される支圧応力が大きくなると考えられる。すなわち、梁15に作用する応力の低減効果が大きくなると言える。
(44)式の左辺は、梁15のフランジ16、17の幅Bに対する柱10の幅Bの比である。この値が大きくなれば、フランジ16、17の外面幅方向に配置されるコンクリート11の量が増加するため、梁15からコンクリート11に伝達される支圧応力が大きくなると考えられる。すなわち、梁15に作用する応力の低減効果が大きくなると言える。
【0039】
ここで、図8及び図9を用いて、フランジのスプライスプレート22のはしぬけ破断に説明する。
図8に示すはしぬけ破断する前のフランジのスプライスプレート22において、以下のように規定する。フランジのスプライスプレート22における材軸方向に直交する断面積であって、材軸方向においてフランジ高力ボルト24用のボルト孔22aによる断面欠損を差し引いた断面積を、Aspと規定する。断面積Aspは、材軸方向に直交するスプライスプレート22の幅方向において、ボルト孔22aが形成されていない範囲R1,R2,R3全体に対応する断面積である。断面積Aspは、フランジのスプライスプレート22における材軸方向に直交する最小断面積とも言える。
例えば、柱10に対して梁15Aが材軸方向に引張られると、図9に示すように、スプライスプレート22において、フランジ高力ボルト24に対して材軸方向に対応する部分22bが、材軸方向に破断する。この破断を、はしぬけ破断と言う。
ここで、フランジ16の1枚におけるはしぬけ破断の有効断面積を、Ans,fと規定する。フランジのスプライスプレート22からボルト孔22aが抜ける向きのフランジのスプライスプレート22の端から、材軸方向に並べられたボルト孔22aのうち、この端から最も離間したボルト孔22aの中心までの距離を、R4と規定する。ボルト孔22aが、材軸方向に直交(交差)する方向に並べられた列数を、nと規定する。このとき、有効断面積Ans,fは、(R4×2n×(フランジ16の厚さ))のように定義される。スプライスプレート22におけるはしぬけ破断の有効断面積の合計を、Ans,spと規定する。有効断面積の合計Ans,spは、(R4×2n×(フランジのスプライスプレート22の厚さ))のように定義される。
【0040】
梁15A,15Bの端部に外力F1を作用させたときに、柱梁接合構造35に作用する内部応力等を、図10に示す。
外力F1により、柱10に一対の梁15が接合された接合部20に、フェイスモーメントMが作用する。このフェイスモーメントMにより、梁15A,15Bのフランジ16に継手引張力N16、梁15A,15Bのフランジ17に継手引張力N17が作用する。接合部20に、せん断力Qが作用する。
【0041】
ここで図11に、柱梁接合構造35の層間変形角に対する層モーメントMの変化を示す。図11において、横軸は柱梁接合構造35の層間変形角(rad)を表し、縦軸は層モーメントM(kN・m)を表す。
柱梁接合構造35を繰り返し変形させると、柱10のコンクリート11にひび割れが生じ、支圧破壊やせん断破壊により層モーメントが低下する。このため、繰り返し数が多くなるのに従い、層モーメントMが小さくなる。
柱梁接合構造35では、○(白抜きの丸)印の状態で降伏耐力となり、△(白抜きの三角)印の状態で最大耐力となる。なお、前記降伏耐力は、実験で得られた層モーメントと層間変形角の関係における接線剛性が、初期剛性の3分の1に低下した時点の耐力、として算出している。
【0042】
柱梁接合構造35が降伏耐力に達したときの実験結果では、外力F1によるフェイスモーメントMは、221.1kN・m(ニュートンメートル)であった。梁15A,15Bのフランジ16側のフランジ継手部16aに作用する継手引張力N16は、202.6kNであった。梁15A,15Bのフランジ17側のフランジ継手部17aに作用する継手引張力N17は、152.2kNであった。
継手引張力N16,N17のうち大きい方の値(max(N16,N17))は、202.6kNであった。
このため、梁継手部25に含まれるフランジ継手部16a,17aに作用している偶力モーメントMは、(47)式により求められる。
=max(N16,N17)×d=93.6kN・m ・・(47)
また、フェイスモーメントMに対するフランジ継手部の偶力モーメントMの比率は、(48)式により求められる。
/M=93.6/221.1=0.422 ・・(48)
【0043】
すなわち、この実験により、接合部20を構成する柱10が有するコンクリート11の支圧抵抗によって梁15A,15Bに作用する応力が低減される効果(以下、応力低減効果と言う)が定量化された。応力低減効果では、梁15A,15B及び支圧板30によって囲まれた領域に形成される圧縮ストラットの反力に一対の支圧板30が抵抗することによって生じる複数の梁15A,15Bの軸力を含めて評価されている。
フェイスモーメントMに対して、フランジ継手部16a,17aの偶力モーメントMは約0.43倍(以下、降伏耐力での低減比と言う)以下に低減されることが分かった。
【0044】
一方で、柱梁接合構造35が最大耐力に達したときの実験結果では、外力F1によるフェイスモーメントMは、257.8kN・mであった。梁15A,15Bのフランジ16側のフランジ継手部16aに作用する継手引張力N16は、306.9kNであった。梁15A,15Bのフランジ17側のフランジ継手部17aに作用する継手引張力N17は、167.5kNであった。
継手引張力N16,N17のうち大きい方の値(max(N16,N17))は、306.9kNであった。
このため、梁継手部25に含まれるフランジ継手部16a,17aに作用している偶力モーメントMは、(50)式により求められる。
=max(N16,N17)×d=140.9kN・m ・・(50)
【0045】
また、フェイスモーメントMに対するフランジ継手部16a,17aの偶力モーメントMの比率は、(51)式により求められる。
/M=140.9/257.8=0.546 ・・(51)
フェイスモーメントMに対して、フランジ継手部16a,17aの偶力モーメントMは約0.55倍(以下、最大耐力での低減比と言う)以下に低減されることが分かった。
【0046】
〔3.実験結果の、降伏耐力を算出する式へ適用〕
応力低減効果を考慮しない場合、フランジ継手部16a,17aの降伏耐力を規定する(56)式~(58)式と比較されるフランジ継手部16a,17aに作用する偶力は、(59A)式となると考えられる。
【0047】
【数5】
【0048】
なお、(57)式より得られるNy1は、nのフランジ高力ボルト24の全すべり耐力を意味する。(58)式より得られるNy2は、スプライスプレート22の降伏耐力を意味する。(56)式より得られる降伏耐力Nは、Ny1及びNy2のうち小さい方、すなわち、耐力が小さくて律速される方を意味する。
(59A)式より得られるフランジ軸力Nasは、梁継手部25に含まれるフランジ16側あるいはフランジ17側のフランジ継手部16a,17aに作用する軸力である。
ここで、応力低減効果を考慮すると、フランジ軸力Nasは、(59A)式における係数1が降伏耐力での低減比となり、(59)式となる。
【0049】
【数6】
【0050】
この場合の設計方法では、フランジ軸力Nasを算出し、梁継手部25に含まれるフランジ継手部16a,17aの設計を行う。
より具体的には、設計方法では、(56)式から(58)式より得られる降伏耐力Nが、(59)式より得られるフランジ軸力Nas以上となるように設計する。
(59A)式における係数1が、(59)式では降伏耐力での低減比である0.43になる。このため、この比率に応じて、必要なフランジ高力ボルト24の数nが少なくなる。
【0051】
〔4.実験結果の、最大耐力を算出する式へ適用〕
応力低減効果を考慮しない場合、フランジ継手部16a,17aの最大耐力を規定する(61)式~(64)式と比較されるフランジ継手部16a,17aに作用する偶力は、(65A)式となると考えられる。
【0052】
【数7】
【0053】
なお、(62)式より得られるNu1は、nのフランジ高力ボルト24の全最大せん断耐力を意味する。(63)式より得られるNu2は、フランジのスプライスプレート22の破断耐力を意味する。(64)式より得られるNu3は、フランジのスプライスプレート22のはしぬけ破断の耐力を意味する。(61)式より得られる終局耐力Nは、Nu1、Nu2、及びNu3のうち大きくない方、すなわち、耐力が小さくて律速される方を意味する。
(65A)式より得られるフランジ軸力Nは、梁継手部25に含まれるフランジ16側あるいはフランジ17側のフランジ継手部16a,17aに作用する軸力である。
ここで、応力低減効果を考慮すると、フランジ軸力Nは、(65A)式における係数1が最大耐力での低減比となり、(65)式となる。
【0054】
【数8】
【0055】
この場合の設計方法では、(61)式から(64)式より得られる終局耐力Nが、(65)式より得られるフランジ軸力N以上となるように設計する。
(65A)式における係数1が、(65)式では最大耐力での低減比である0.55になる。このため、この比率に応じて、必要なフランジ高力ボルト24の数nが少なくなる。
【0056】
なお、本実施形態の設計方法において、梁継手部25の設計を行う際には、フランジ軸力Nas,Nを算出するだけでなく、梁継手部25に含まれるウェブ継手部18a(図1参照)に作用するせん断力を考慮してもよい。
以下の〔5.〕及び〔6.〕では、このせん断力について説明する。
【0057】
〔5.柱梁接合構造が降伏耐力に達したときのせん断力〕
(71)式から(73)式より得られる、梁継手部25に含まれるウェブ継手部18aの降伏耐力Qが、(74)式より得られる、梁継手部25に含まれるウェブ継手部18aに作用するせん断力Q以上となるように設計する。
【0058】
【数9】
【0059】
ただし、梁継手部25に含まれる1つの梁15に対するウェブ高力ボルト23の数を、nと規定する。ウェブ18の断面積を、Aと規定する。ウェブのスプライスプレート21の降伏強度を、σspwyと規定する。ウェブのスプライスプレート21のボルト孔による欠損を考慮した断面積の合計(ウェブのスプライスプレート21における材軸方向に直交する最小断面積)を、Aspwと規定する。
【0060】
〔6.柱梁接合構造が最大耐力に達したときのせん断力〕
(76)式から(78)式より得られる、梁継手部25に含まれるウェブ継手部18aの最大耐力Qが、(79)式より得られる、梁継手部25に含まれるウェブ継手部18aに作用するせん断力Q以上となるように設計する。
【0061】
【数10】
【0062】
ただし、ウェブのスプライスプレート21の引張強さを、σspwuと規定する。
【0063】
〔7.柱梁接合構造〕
本実施形態の柱梁接合構造35では、(41)式から(44)式を満たすように設定された梁継手部25に含まれるフランジ16側あるいはフランジ17側のフランジ継手部16a,17aにおいて、(56)式から(58)式より得られる降伏耐力Nが、(59)式より得られるフランジ軸力Nas以上となり、(61)式から(64)式より得られる終局耐力Nが、(65)式より得られるフランジ軸力N以上となる。
【0064】
〔8.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の設計方法では、発明者等は、柱10、一対の梁15、接合部20、梁継手部25、及び一対の支圧板30を備える柱梁接合構造35において、鋭意検討の結果、接合部20において、以下の2つの事項を考慮して梁継手部25の設計をした。すなわち、第1事項は、接合部20を構成する柱10が有するコンクリート11による支圧抵抗によって、一対の梁15に作用する応力が低減される効果である。第2事項は、一対の梁15及び一対の支圧板30によって囲まれた領域に形成される圧縮ストラットの反力に一対の支圧板30が抵抗することによって生じる一対の梁15の軸力である。
そして、これら2つの事項を考慮して、梁継手部25に含まれるフランジ継手部16aに作用するフランジ軸力を算出し、梁継手部25の設計を行う。これにより、接合部20近傍における梁継手部25の数を1つに抑えるとともに、梁継手部25に含まれるフランジ継手部16a1つ当たりのフランジ高力ボルト24の数を低減させることができる。
ここで言う接合部20近傍とは、接合部20、及び接合部20から突出している梁15の両方を含む範囲を示している。
【0065】
(56)式から(58)式より得られる降伏耐力Nが、(59)式より得られるフランジ軸力Nas以上となるように設計する場合がある。この場合には、(41)式から(44)式を満たすように設定された梁継手部25において、(56)式から(59)式を用いて、梁継手部25の降伏耐力Nがフランジ軸力Nas以上となり、柱梁接合構造35が降伏する前にフランジ継手部16a,17aが降伏しないように設計することができる。
(61)式から(64)式より得られる終局耐力Nが、(65)式より得られるフランジ軸力N以上となるように設計する場合がある。この場合には、(41)式から(44)式を満たすように設定された梁継手部25において、(61)式から(65)式を用いて、梁継手部25の終局耐力Nがフランジ軸力N以上となり、柱梁接合構造35が最大耐力を発揮する前に、フランジ継手部16a,17aの破断により柱梁接合構造35が崩壊しないように設計することができる。
【0066】
また、本実施形態の柱梁接合構造35では、(41)式から(44)式を満たすように設定された梁継手部25に含まれるフランジ継手部16aにおいて、(56)式から(58)式より得られる降伏耐力Nが、(59)式より得られるフランジ軸力Nas以上となり、(61)式から(64)式より得られる終局耐力Nが、(65)式より得られるフランジ軸力N以上となる。
このように構成することにより、接合部20近傍における梁継手部25の数を1つに抑えるとともに、梁継手部25に含まれるフランジ16あるいはフランジ17のフランジ継手部16a,17aのフランジ高力ボルト24の数を低減させることができる。
さらに、柱梁接合構造35が降伏するよりも前に梁継手部25が降伏することなく、かつ梁継手部25の破断によって柱梁接合構造35が崩壊しないように構成することができる。
【0067】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記第実施形態の設計方法では、(41)式から(65)式は用いられなくてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 柱
11 コンクリート
15 梁
16,17 フランジ
16a,17a フランジ継手部
18 ウェブ
20 接合部
22 スプライスプレート(鋼板)
22a ボルト孔
24 フランジ高力ボルト(高力ボルト)
25 梁継手部
30 支圧板
35 柱梁接合構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11