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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108080
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/47 20060101AFI20240802BHJP
   G03G 15/043 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
B41J2/47 101M
G03G15/043
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012365
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 和剛
【テーマコード(参考)】
2C362
2H076
【Fターム(参考)】
2C362AA03
2C362AA13
2C362AA32
2C362BA04
2C362BA60
2C362BA67
2C362BA71
2C362BB15
2C362CA09
2C362CA13
2C362CA14
2H076AB05
2H076AB06
2H076AB09
2H076AB12
2H076AB75
2H076AB76
2H076DA05
2H076DA11
2H076DA15
2H076DA17
2H076DA18
2H076DA19
(57)【要約】
【課題】 電子的な濃度補正とボウ補正を行う場合に相反則不軌の影響による濃度段差の発生を抑制できる画像形成装置等を提供する。
【解決手段】 画像データに基づき複数の発光素子から出射するマルチビームを像担持体表面上に走査する電子写真方式の画像形成装置において、画像データを電子的にボウ補正するボウ補正部と、ボウ補正された画像の濃度段差を濃度平滑処理により滑らかにする濃度平滑処理部と、ボウ補正された画像を面跨ぎ露光セグメントの光量補正によって濃度補正する濃度補正処理部と、ボウ補正、濃度平滑処理された画像データ及び濃度補正された制御信号に基づき、光ビーム発光部の複数の発光素子の発光を制御する発光素子ドライバ制御部と、を備えた画像形成装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データに基づき複数の発光素子から出射するマルチビームを像担持体表面上に走査する電子写真方式の画像形成装置において、
画像データを電子的にボウ補正するボウ補正部と、
ボウ補正された画像の濃度段差を濃度平滑処理により滑らかにする濃度平滑処理部と、
ボウ補正された画像を面跨ぎ露光セグメントの光量補正によって濃度補正する濃度補正処理部と、
ボウ補正、濃度平滑処理された画像データ及び濃度補正された制御信号に基づき、光ビーム発光部の複数の発光素子の発光を制御する発光素子ドライバ制御部と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記面跨ぎ露光セグメントの光量補正はPDM方式の光量補正であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記濃度補正処理部は、濃度補正のセグメント数を濃度平滑処理のセグメント数より多くすることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記面跨ぎ露光セグメントの光量補正は少なくとも端側発光素子のいずれかの光量補正であることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
相反則不軌の影響を受ける端側の発光素子の調整ピッチに応じて、濃度補正量を変動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項6】
画像データに基づき複数の発光素子から出射する光ビームを像担持体表面上に走査する電子写真方式の画像形成装置の制御方法において、
画像データを電子的にボウ補正するボウ補正工程と、
ボウ補正された画像の濃度段差を濃度平滑処理により滑らかにする濃度平滑処理工程と、
ボウ補正された画像を面跨ぎ露光セグメントの光量補正によって濃度補正する濃度補正処理工程と、
ボウ補正、濃度平滑処理された画像データ及び濃度補正された制御信号に基づき、光ビーム発光部の複数の発光素子の発光を制御する発光素子ドライバ制御工程と、
を含むことを特徴とする画像形成装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は画像形成装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザダイオード等の光源から射出される光ビームを走査光学系によって感光体ドラム(像担持体)上に結像させて、感光体ドラム表面に静電潜像を形成する電子写真方式の画像形成装置が知られている。
【0003】
この種の画像形成装置において、感光体ドラムには、与えられる総光量が同じでも光量と露光時間の関係が異なると潜像形成状態が異なる相反則不軌の現象が生じる。すなわち、ごく短時間に露光した場合は、比較的長い時間をかけて露光した場合に比べ、総露光量が等しいにもかかわらず感光体の電位変化量が少なくなる、相反則不軌が生じる。これがマルチビーム走査光学系の場合、画像濃度ムラとなって現れてくる。
【0004】
従来、特許文献1では、この相反則不軌による画像の濃度ムラに対処するため、光源には主走査方向、副走査方向に発光点を多数個配置したVCSEL(垂直共振器型面発光レーザ)を使い、ある走査周波数以上になるように多重露光し、濃度段差をわからなくする手法が開示されている。しかしながら、この特許文献1の技術では、32ビーム等のビーム数が膨大になり、駆動させるシステムが複雑になっていた。また、コストが大幅に上昇していた等の課題があった。
【0005】
特許文献2では、相反則不軌による濃度ムラに対処するため、m回目主走査とm+1回目主走査の重合ラインに現像されるトナー量を算出し、m+1回目走査の第1番目の光量とm回目走査の第N番目の光量を調整し、相反則不軌の影響を低減させる画像形成装置を提案していたが、以下の課題があった。
【0006】
特許文献2の技術では、電子的なボウ補正を行う場合、濃度補正とボウ補正の部分倍率補正、濃度補正回路の非同期性の影響を受け、濃度補正とボウ補正の同期を容易に実現できず、ボウ補正の境目でスジ画像が発生しやすかった。また、さまざまなばらつきを考慮した精度の高い濃度補正を容易に実現できず、ボウ補正の境目で濃度段差が発生しやすかった。
【0007】
特許文献3には、画像形成における種々の原因に基づく色ズレ抑制のために、レジストマークを形成し、正規の位置に対するズレ量を検出することで、画像書き込み位置を補正する画像形成装置が開示されていたが、これは、ボウ補正自体の手段を述べたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-176094号公報
【特許文献2】特開2007-237400号公報
【特許文献3】特開2000-112206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、電子的な濃度補正とボウ補正を行う場合に相反則不軌の影響による濃度段差の発生を抑制できる画像形成装置等を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、画像データに基づき複数の発光素子から出射するマルチビームを像担持体表面上に走査する電子写真方式の画像形成装置において、画像データを電子的にボウ補正するボウ補正部と、ボウ補正された画像の濃度段差を濃度平滑処理により滑らかにする濃度平滑処理部と、ボウ補正された画像を面跨ぎ露光セグメントの光量補正によって濃度補正する濃度補正処理部と、ボウ補正、濃度平滑処理された画像データ及び濃度補正された制御信号に基づき、光ビーム発光部の複数の発光素子の発光を制御する発光素子ドライバ制御部と、を備えたことを特徴とする画像形成装置である。
【0011】
また、本開示は、画像データに基づき複数の発光素子から出射する光ビームを像担持体表面上に走査する電子写真方式の画像形成装置の制御方法において、画像データを電子的にボウ補正するボウ補正工程と、ボウ補正された画像の濃度段差を濃度平滑処理により滑らかにする濃度平滑処理工程と、ボウ補正された画像を面跨ぎ露光セグメントの光量補正によって濃度補正する濃度補正処理工程と、ボウ補正、濃度平滑処理された画像データ及び濃度補正された制御信号に基づき、光ビーム発光部の複数の発光素子の発光を制御する発光素子ドライバ制御工程と、を含むことを特徴とする画像形成装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、電子的なボウ補正を行ったとしても、相反則不軌の影響を受けて、ハーフトーン画像に濃度段差が発生しないように、画像データに濃度平滑処理及び濃度補正を行って、濃度段差を抑制できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る光走査装置を搭載した画像形成装置の外観図である。
図2】画像形成装置及び光走査装置の制御ブロック図である。
図3】光走査装置のレーザ発光部及びレーザドライバの信号伝達経路の回路図である。
図4】光走査装置の信号処理及び信号の流れを概略的に説明する図である。
図5】電子的なボウ補正の説明図である。
図6】ボウ補正の副作用の説明図である。
図7】濃度段差の原因を説明する、相反則不軌のイメージ図である。
図8】濃度段差の原因を説明する、濃淡イメージ図である。
図9】濃度平滑処理及び濃度補正の説明図である。
図10】濃度平滑処理の説明図である。
図11】PDMシェーディングのイメージ図である。
図12】重ね合わせ回路の構成説明図である。
図13】アナログ光量補正信号(Vsw)の変化の様子の説明図である。
図14】濃度補正時のセグメント数の説明図である。
図15】レーザダイオードの調整ピッチに応じた濃度補正値の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照して本開示の一実施形態について説明する。
【0015】
なお、以下の実施形態は、本開示を説明するための一例であり、特許請求の範囲に記載した発明の技術的範囲が、以下の記載に限定されない。
【0016】
[1. 実施形態]
まず、実施形態に係る画像形成装置10の構成について説明する。図1は、実施形態に係る光走査装置200を搭載した画像形成装置10の外観図、図2は、画像形成装置10及び光走査装置200の制御ブロック図である。
【0017】
[1.1 全体構成]
画像形成装置10は、図1に示すように、画像形成装置10の上部に原稿読取部112を備えて原稿の画像を読み取り、電子写真方式により画像を出力する情報処理装置である。画像形成装置10には、多機能プリンタ(Multifunction Printer)を例に挙げることができる。
【0018】
画像形成装置10は、図2の制御系図に示すように、主に、制御部100と、画像入力部110と、原稿読取部112と、画像処理部120と、画像形成部130と、操作部140と、表示部150と、記憶部160と、通信部170とを備え、光走査装置200の機能も有する。
【0019】
[1.2 画像形成装置10]
図2に示すように、制御部100は、画像形成装置10の全体を制御するための機能部である。
【0020】
そして、制御部100は、各種プログラムを読み出して実行することにより各種機能を実現しており、例えば1又は複数の演算装置(例えば、CPU(Central Processing Unit))等により構成されている。
【0021】
画像入力部110は、画像形成装置10に入力される画像データを読み取るための機能部である。そして、画像入力部110は、原稿の画像を読み取る機能部である原稿読取部112と接続され、原稿読取部112から出力される画像データを入力する。
【0022】
また、画像入力部110は、USBメモリや、SDカード等の記憶媒体から画像データを入力してもよい。また、他の端末装置と接続を行う通信部170により、他の端末装置から画像データを入力してもよい。
【0023】
原稿読取部112は、コンタクトガラス(不図示)に載置された原稿を光学的に読み取り、画像処理部120へスキャンデータを渡す機能を有する。
【0024】
画像形成部130は、画像データに基づく出力データを記録媒体(例えば記録用紙)に形成するための機能部である。例えば、図1に示すように、給紙トレイ122から記録用紙を給紙し、画像形成部130において記録用紙の表面に画像が形成された後に排紙トレイ124から排紙される。画像形成部130は、電子写真方式を利用した電子写真プロセスを利用したレーザプリンタにより構成されている。
【0025】
画像形成部130の電子写真プロセスは、後述する光走査装置200によって、感光体ドラム(像担持体)(図示省略)表面に画像データに対応するレーザビーム(レーザ光に相当)を走査して静電潜像を形成し、その静電潜像をトナーによって現像し、現像したトナー像を記録媒体上に転写し及び定着して画像を形成するものである。
【0026】
画像処理部120は、原稿読取部112で読み込まれた画像データに基づき、設定されたファイル形式(TIFF,GIF,JPEG等)に変換する機能を有する。そして、画像処理が施された画像データに基づき出力画像を形成する。
【0027】
操作部140は、ユーザによる操作指示を受け付けるための機能部であり、各種キースイッチや、接触による入力を検出する装置等により構成されている。ユーザは、操作部140を介して、使用する機能や出力条件を入力する。
【0028】
表示部150は、ユーザに各種情報を表示するための機能部であり、例えばLCD(Liquid crystal display)等により構成されている。
【0029】
すなわち、操作部140は、画像形成装置10を操作するためのユーザインターフェースを提供し、表示部150には、画像形成装置の各種設定メニュー画面やメッセージが表示される。
【0030】
なお、画像形成装置10は、図1に示すように、操作部140の構成として、操作パネル141と、表示部150とが一体に形成されているタッチパネルを備えてもよい。この場合において、タッチパネルの入力を検出する方式は、例えば、抵抗膜方式、赤外線方式、電磁誘導方式、静電容量方式といった、一般的な検出方式であればよい。
【0031】
記憶部160は、画像形成装置10の動作に必要な制御プログラムを含む各種プログラムや、読み取りデータを含む各種データやユーザ情報が記憶されている機能部である。記憶部160は、例えば、不揮発性のROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等により構成されている。また、半導体メモリであるSSD(Solid State Drive)を備えてもよい。
【0032】
通信部170は、外部の装置と通信接続を行う。通信部170としてデータの送受信に用いられる通信インターフェース(通信I/F)が設けられている。通信I/Fにより、画像形成装置10でのユーザによる操作によって、画像形成装置10の記憶部に格納されるデータを、ネットワークを介して接続される他のコンピュータ装置へデータの送受信をすることができる。
【0033】
[1.3 光走査装置200]
図2に示すように、画像形成装置10には光走査装置200が搭載されている。
【0034】
また、図3は、光走査装置200におけるレーザ走査ユニット220aからレーザドライバ210への信号伝達経路の説明図を示す。
【0035】
図2図3に示すように、光走査装置200は、複数のレーザ発光素子(半導体レーザ素子(LD:Laser Device))を備え複数ビームのレーザ光(「マルチビーム」に相当)を発光するレーザ発光部200aと、レーザ発光部200aを制御するレーザドライバ210と、画像データに基づきレーザ発光部200aから出射するマルチビームを感光体ドラム(図示省略)上に走査する光走査部220と、画像データを電子的にボウ補正するボウ補正部230と、ボウ補正された画像の濃度段差を濃度平滑処理により滑らかにする濃度平滑処理部240と、ボウ補正された画像を面跨ぎ露光セグメントの光量補正によって濃度補正する面跨ぎ露光セグメント光量補正部(濃度補正処理部)250と、画像にシェーディング補正処理を行うシェ―デング補正部300と、ボウ補正、濃度平滑処理された画像データ及び、濃度補正された制御信号に基づきレーザドライバ210に制御信号を送信して、レーザ発光部(LD)200aに設けられた複数のレーザ発光素子の発光を制御するレーザドライバ制御部270と、を備えている。
【0036】
レーザ発光部200aは複数のレーザ発光素子からなり、フォトダイオード(PD)からなる光量検出部280によってレーザ発光素子の出力光量を検出する。
【0037】
基準クロック信号発生部200mは、制御の基準クロック信号を発生する、BD(Beam Detect)センサ200kは光ビームの走査領域の始端側に備えられ、感光体ドラムに静電潜像を書き込むタイミングを制御するものである。なお、図3において、Vccは電源電圧である。
【0038】
図3に示すように、ボウ補正部230、濃度平滑処理部240、面跨ぎ露光セグメント光量補正部(濃度補正処理部)250、シェーディング補正部300、レーザドライバ制御部270は、光走査装置200に搭載された電子的な制御構成のレーザ走査ユニット220a(LSU:レーザスキャニングユニット)が制御部100の指令信号に基づき制御されて実現される。各部の詳細は後に詳述する。
【0039】
[1.4 制御の内容]
図4は、光走査装置200の信号処理及び信号の流れを概略的に説明する図である。
図4に示すように、ボウ補正前の画像は、ボウ補正部230にてボウ補正処理され、ボウ補正後の画像は濃度平滑処理部240にて濃度平滑処理され、処理後の画像(画像データ)は、レーザ走査ユニット220aで所要の処理がされてレーザドライバ(LDD)210に入力される。
【0040】
面跨ぎ露光セグメント光量補正部250においては、ボウ補正部230によってボウ補正された画像データに基づき光量補正値算出部250aが面跨ぎ露光セグメントの光量補正値を算出し、PDM生成部250bによって光量補正値をPDM信号化し、その光量補正値をフィルタ回路290bにおいてアナログ信号に変換し、その後、重ね合わせ回路260に入力する。なお、面跨ぎ露光セグメントの光量補正値は、後述する図7図8にて説明するように、複数レーザ発光素子が発光するマルチビーム方式の発光部において、端部素子からの露光が相反則不軌によって濃くなる現象を補正するためのものである。例えば、図4中に※の欄に記すように、8ビームのレーザ発光素子(LD1~LD8)の場合、端部の発光素子LD1/LD8が光量補正のため光量補正値が算出され、それ以外の発光素子LD2~LD7の光量補正値は0となる。
【0041】
また、シェーディング補正部300においては、補正値設定部300aが予め実験等で得るなどしたシェーディング補正値を設定し、PDM生成部300bでPDM信号化してフィルタ回路290aに入力する。PDM信号のシェーディング補正値をフィルタ回路290aにおいてアナログ信号に変換し、その後、重ね合わせ回路260に入力する。重ね合わせ回路260から、レーザドライバ210の基準信号となる光量補正信号(Vsw)を出力する。
【0042】
以下に各部処理の詳細を説明する。
〔電子的なボウ補正〕
ボウ補正部230が行う電子的なボウ補正について図5に基づき説明する。図5に示すように、電子的なボウ補正は、色毎に異なる曲がり成分を打ち消すように、画像データを副走査方向にセグメント単位でシフトさせることで色ズレを抑制する処理である。
【0043】
詳しくは、図5(a)に示すように、入力された画像データに副走査方向の曲がりがないものでも、実際の光学系の状態等が影響して出力画像に図5(b)に示すような、副走査方向に弓状の曲がりが生じる場合がある。そこで、図5(c)に示すように、画像データには、逆向きに曲がらせるボウ補正をして、図5(d)に示すように、出力画像が直線的になるよう画像をボウ補正する。図5(e)には、ボウ補正する前とボウ補正後の出力画像の例を示している。
【0044】
図6は、ボウ補正の副作用について説明するものである。
図6に示すように、副走査方向に画像をセグメント単位でスライドさせる処理をするだけなので、濃度段差が発生する。図6(a)に示すように、画像の一部を副走査方向に1ライン下にずらすだけ(ズレを符号Lで示す)で濃度段差が発生する。なお、濃度段差は図6(b)に示すように、副走査方向へのレジ調(Ref、1行、2行~の例を示す)によっても発生する。
【0045】
図7は、濃度段差が発生する原因の説明図である。
相反則不軌という、複数のレーザ発光素子を有するマルチビーム方式の発光部において、走査を跨ぐエリアが濃くなる現象により、ディザパターンにおいて、濃くなる分布が変わるため、濃度段差が生じる。
【0046】
例えば、図7では、半導体レーザを4チャンネル(LD1~LD4)使用したマルチビーム走査システムで生じた画像濃度ムラの模式図を示している。LD1とLD2の境界領域は、ほぼ同時に露光されているため、短い時間で強い光量が当たっている。一方、LD4とLD1の境界領域は、始めにLD4が露光した後に、ポリゴン面の異なるLD1が露光することになるのでタイムラグ(時間差)が生じ、結果的に長い時間に弱い光量が当たったことになる。そのような相反則不軌の結果、LD4とLD1の境界領域は他の部分よりも画像濃度が濃くなり、濃度ムラが生じる(学術論文「電子写真における静電潜像計測に関する研究」須原博之著;2015年7月発行参考)。
【0047】
図8は、相反則不軌が影響した、マルチビームにおけるディザパターンについてミクロレベルの濃淡イメージを示すものである。発光素子は8ビーム構成のもの(LD1~LD8)である。
【0048】
図8から、LD8とLD1の境界領域を跨ぐ部分では他の部分よりも画像濃度が濃くなり、濃度ムラが生じていることが理解される。
【0049】
〔濃度平滑処理、及び、PDMシェーディング(ボウ補正用)処理〕
図9は、濃度平滑処理により濃度段差を滑らかにすると同時に、シェーディング処理によって濃度補正する説明図である。シェーディング処理については、好ましくは、PDM(Pulse Density Modulation:パルス密度変調)シェーディングで濃度補正する。
【0050】
図9(a)に示すように、ボウ補正のみ実施されたハーフトーン画像に対して、濃度平滑処理を行い(処理1)、濃度段差を滑らかにする。図9(b)に示すように、濃度平滑処理された画像を逆位相で光量補正してPDMシェーディング処理(ボウ補正用)(面跨ぎ露光セグメントの光量補正)によって濃度補正を行い、濃淡の無い最終濃度の画像を得る。
実施形態において、濃度補正に使用するボウ補正用PDMシェーディング信号は、複数の発光素子の発光タイミングに合わせて相反則不軌による濃度ムラを除去するようにタイミングを合わせて光量補正するように設定したPDM信号による濃度補正信号である。複数の発光素子の発光タイミングに合わせて相反則不軌による濃度ムラを除去するようにタイミングを合わせて光量補正することは、面跨ぎ露光セグメントを光量補正することと同義である。
【0051】
また、逆位相での面跨ぎ露光セグメントの光量補正は、具体的には、ボウ補正と面跨ぎ露光セグメントの光量補正の2つを利かせた状態で画像を出力させ、濃淡差がなくなるように、後述する濃度平滑処理のパターンを選択するようにしている。それによって、結果的にボウ補正及び濃度平滑処理を利かせた画像に対して、面跨ぎ露光セグメントの光量補正が逆位相になる。
濃度補正のイメージとしては、実験的に求めた濃度平滑処理のパターンによってどのような画像に対しても同じように処理し、面跨ぎ露光セグメントの光量補正は、面跨ぎ露光の有無に応じて光量補正していくことになる。仮に、ボウ補正で隣接するセグメント間の副走査方向のスライドがない場合、濃度平滑処理はそのセグメント間において事実上、無効になる。
【0052】
図10は濃度平滑処理の説明図である。
濃度平滑処理は、図10のミクロレベルのイメージで示すように、画像スライドをミクロレベル(図では24000dpi)で何回か往復させて、濃度変化がマクロレベルで滑らかになるようにするものである。なお、「dpi」は一般に解像度の単位であり、「ドット・パー・インチ(Dots Per Inch)」である。
【0053】
なお、ボウ補正のみであると以下の課題が生じるため、ボウ補正の項目でスジ画像が発生しやすいため、濃度平滑処理を行う。すなわち、課題には、部分が倍率補正、濃度補正回路の非同期性の影響を受け、濃度補正とボウ補正の同期を容易に実現できない場合や、さまざまなばらつきを考慮した精度の高い濃度補正を容易に実現できない場合等がある。
【0054】
ここで、前述の図3において、図2のボウ補正部230、濃度平滑処理部240、面跨ぎ露光セグメント光量補正部250、及びシェーディング補正部300の各処理は、レーザ走査ユニット220aが主に実現するが、対応する具体的構成を説明する。
【0055】
図3に示すように、光走査装置200おいて、光走査部220のレーザ走査ユニット(LSU)220aは、制御部100で制御されるものである。
レーザ走査ユニット220aには、基準クロック(200m)やBD信号(200k)が入力される。
【0056】
レーザ走査ユニット220aは,制御部100の制御信号によって、ボウ補正処理部230は画像データに電子的ボウ補正処理を行う。濃度平滑処理部240は、ボウ補正処理された画像に対して制御部100の指令に基づき濃度平滑処理を行う。ボウ補正部230によって電子的にボウ補正された画像について面跨ぎ露光セグメント光量補正部250が相反則不軌に対する濃度補正を行う。シェーディング補正部300が画像のシェーディング補正処理を行う。このためシェ―ディン補正部300がシェ―ディン補正信号Vshadeを作成し、ボウ補正部230が電子的なボウ補正のためのボウ補正信号Vbow等の制御信号(デジタル信号)を作成して、レーザドライバ制御部270がレーザドライバ210に入力される制御信号(ボウ補正、面跨ぎ露光セグメントの光量補正による濃度補正、及びシェーディング補正の信号など)の出力を制御する。レーザドライバ制御部270によって出力された制御信号に基づき、レーザドライバ210は、レーザ発光部200aのマルチビーム発光動作を制御する。
【0057】
レーザ走査ユニット220aは、特定用途向け集積回路(LSUASIC)として構成されている。レーザ走査ユニット220aの集積回路(LSUASIC)には、制御部100から制御信号と、画像データと、水平同期信号HSYNCや、基準クロック信号200mと、BD(Beam Detect)センサ200kの検出信号等が入力される。
【0058】
Vshade信号は、シェーディング用アナログ電圧信号である。
レーザ走査ユニット(LSU)220aのシェーディング補正部300は、補正値設定部300aに設定されたテーブル(EEPROM等の記憶部220bに記憶される)から読みだしたシェーディング補正値を、PDM生成部300bを経てPDM波信号として出力する。そのシェ―デング補正値のPDM波信号は外付けのフィルタ回路290aによってアナログのシェーディング用電圧信号(Vshade)に変換されて、重ね合わせ回路260に入力される。なお、シェーディング補正値は、予め実験等で得られており、記憶部220bのほか、画像形成装置の記憶部160のROM等に記憶される等してもよい。
【0059】
Vbow信号はボウ補正用アナログ電圧信号である。
レーザ走査ユニット(LSU)220aのボウ補正部230がボウ補正用のPDM信号を出力し、外付けのフィルタ回路290bによってアナログのボウ補正用の電圧信号(Vbow)に変換されて重ね合わせ回路260に入力される。
重ね合わせ回路260によってアナログのシェーディング用電圧信号(Vshade)とアナログのボウ補正用の電圧信号(Vbow)が重ね合わされた信号がレーザドライバ210に入力され、マルチビーム発光を制御・補正する。
また、面跨ぎ露光セグメント光量補正部250は、面跨ぎ露光セグメントにおいて光量の補正値を算出する(補正値算出部250a)。算出された光量補正値を、PDM生成部250bを経て図示しないフィルタ回路を経て光量補正信号としてレーザドライバ210に入力し、レーザドライバ210によってマルチビーム発光を制御・補正する。
【0060】
図11は、PDM信号のアナログ変換のイメージを示す。図11のように、レーザ走査ユニット220aから出力されたデジタルのシェーディング用の信号(PDM信号)とボウ補正用の信号(PDM信号)は、それぞれがフィルタ回路290aとフィルタ回路290bによってアナログのシェーディング用電圧信号(Vshade)とボウ補正信号(Vbow)に変換される。
【0061】
図12は、重ね合わせ回路260の基本構成を示す。図12に示すように、アナログ電圧信号のシェーディング用電圧信号(Vshade)、ボウ補正信号(Vbow)が抵抗Ra、Rbを経由して対地抵抗Rcの加算点によって重ね合わされてアナログ基準信号の光量補正信号(Vsw)となり、レーザドライバ210に入力される。なお、符号Gは大地である。
【0062】
レーザドライバ210に入力する光量補正信号(Vsw)は、抵抗Ra、Rb、Rcからなる重ね合わせ回路260により、Vshade信号とVbow信号との重ね合わせの理に基づき下式(1)によって求められる。
Vsw=(Vshade×RbRc+Vbow×RcRa)/(RaRb+RbRc+RcRa) ・・・(1)
【0063】
図13は、レーザドライバ210に入力する、アナログの光量補正信号(アナログ基準信号となる)(Vsw)の変化の様子を示すものである。
【0064】
図13の場合、従来のシェーディングの仕組み(シェーディング設定信号)にボウ補正用PDMシェーディングの仕組みを重ね合わせたシミュレーション波形を示す。
【0065】
図13において、信号[1]が従来のシェーディング設定信号、信号[2]がボウ補正用PDM設定信号、信号[3]がシェーディング設定信号[1]とボウ補正用PDM設定信号[2]を足し合わせた合成信号、信号[4]がレーザドライバ210に入力するアナログの光量補正信号(Vsw)である。
【0066】
図14は、濃度補正とセグメント数の関係について説明するものである。
【0067】
まず、図14(a)に示すように、ボウ補正のみ実施され段差のある画像データ(ハーフトーン画像)を濃度平滑処理して濃度段差を滑らかにし、図14(b)に示すように、ボウ補正/濃度平処理された画像を逆位相で光量補正(濃度補正)する。
【0068】
ここで、濃度補正は、濃度補正のセグメント数はボウ補正/濃度平滑処理のセグメント数よりも多いセグメント数とする。
濃度補正のセグメント数はボウ補正/濃度平滑処理のセグメント数よりも多いセグメント数とする理由について説明する。仮に、図14(c)中に示すように、濃度平滑処理セグメント数=濃度補正セグメント数であると濃度が下がり(符号「D」で示す部分)、ハーフトーンの領域が濃度平滑処理のセグメントの途中で途切れるケースが存在して濃度補正量が狂ってしまうからである。その狂いを防止するため、濃度補正のセグメント数はボウ補正/濃度平滑処理のセグメント数よりも多いセグメント数とすると濃度が上がり(符号「U」で示す)狂いが無くなり、途切れなく濃度補正ができるからである。
【0069】
最終濃度は図14(d)に示すように、濃度補正の狂いが無くなり、途切れなく濃度補正ができるため、ムラの無いハーフトーン画像に濃度補正することが可能になる。
【0070】
図15は、副走査方向に複数のレーザ発光素子(LD)の配列されたマルチビームのレーザ発光部200aにおいて、端側LDの調整ピッチに応じた濃度補正の補正値の説明図である。実施形態では、この濃度補正の補正値によって面跨ぎ露光セグメントにおける光量補正を具体的に行う。
【0071】
相反則不軌という走査を跨ぐエリアが濃くなる現象を補正する必要があるが、端側LDの調整ピッチがバラ付く場合、ピッチに応じた濃度補正が必要になる。例えば8ビームで2400dpi構成の場合、図15の表に示すように、LD8-LD1間の調整ピッチ値(μm)が~7(μm)から~14(μm)について濃度補正値H~Aを決定する。例えば調整ピッチが~9(μm)は補正値Fと、~14(μm)は補正値Aと決定している。
【0072】
[1.5 作用・効果]
実施形態に係る画像形成装置は、電子的なボウ補正を行ったとしても、相反則不軌の影響を受けて、ハーフトーン画像に濃度段差が発生しないように、画像データに濃度平滑処理及び濃度補正を行って、濃度段差を抑制することができる。
【0073】
・特徴点1
実施形態は、電子的なボウ補正を行う画像形成装置において、濃度平滑処理により濃度段差を滑らかにすると同時にシェーディング処理によって濃度補正をするものである(図5図10参照)。
【0074】
特徴点1によれば、濃度補正とボウ補正の同期化が不要となり、ボウ補正の境目でスジ状の画像が発生しなくなる(図9参照)。精度の高い濃度補正が不要となり濃度ムラが目立たなくなる。シンプルな回路構成で実現することができる。
【0075】
・特徴点2
濃度補正のシェーディング処理はPDM方式によって行う(図3図11図12図13参照)。
【0076】
特徴点2によれば、PDM生成部250bとフィルタ回路290b等というシンプルな回路構成によって面跨ぎ露光セグメントの光量補正処理による濃度補正を実現することができる。
【0077】
・特徴点3
特徴点3は、特徴点1の構成において、濃度補正のセグメント数を濃度平滑処理のセグメント数より多くする(図14参照)。
【0078】
特徴点3によれば、ハーフトーンの領域が濃度平滑処理のセグメント数の途中で途切れるケースが存在したとしても、濃度補正量が狂わない。
【0079】
・特徴点4
特徴点4は、特徴点1の構成において、相反則不軌の影響を受ける端側LDの調整ピッチに応じて、濃度補正量を可変させる(図15参照)。
【0080】
特徴点4によれば、相反則不軌の影響度合いに応じた濃度補正が可能となる。
【0081】
以上、実施形態について説明してきたが、具体的な構成は実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【0082】
また、実施形態において、各装置で動作するプログラムは、上述の実施形態の機能を実現するように、CPU等を制御するプログラム(コンピュータを機能させるプログラム)である。そして、これら装置で取り扱われる情報は、その処理時に一時的に一時記憶装置(例えばRAM)に蓄積され、その後、各種ROMやHDDの記憶装置に格納され、必要に応じてCPUによって読み出し、修正・書き込みが行われる。
【0083】
ここで、プログラムを格納する記録媒体としては、半導体媒体(例えばROMや不揮発性メモリカード等)、光記録媒体・光磁気記録媒体(例えば、DVD(Digital Versataile Disc)、MO(magneto Optical Disc)、MD(Mini Disc)、CD(Compact Disc)、Blu-ray(登録商標) Disc等)の光記録媒体、磁気記録媒体(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク等)等の非一時的記録媒体であればいずれでもよい。
【0084】
また、ロードしたプログラムを実行することにより、上述の実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、オペレーティングシステムあるいは他のアプリケーションプログラム等と共同して処理することにより、本開示の機能が実現される場合もある。
【0085】
また、プログラムを市場に流通させる場合、可搬型の記憶装置にプログラムを格納して流通させたり、インターネット等のネットワークを介して接続されるサーバコンピュータに転送したりすることができる。この場合、サーバコンピュータの記憶装置も本発明に含まれるのはもちろんである。
【0086】
また、上述した実施形態における各装置の一部又は全部を典型的には集積回路であるLSI(Large Scale Integration)として実現してもよい。各装置の各機能ブロックは個別にチップ化してもよいし、一部又は全部を集積してチップ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路又は汎用プロセッサーで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0087】
10 画像形成装置
200 光走査装置
200a レーザ発光部
210 レーザドライバ(LDD)
220 光走査部
220a レーザ走査ユニット
230 ボウ補正部
240 濃度平滑処理部
250 面跨ぎ露光セグメント光量補正部
260 重ね合わせ回路
270 レーザドライバ制御部
290a フィルタ回路
290b フィルタ回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15