(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108088
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】高炉用出銑口の開孔システム
(51)【国際特許分類】
C21B 7/12 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
C21B7/12 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012376
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】594086152
【氏名又は名称】株式会社丸和技研
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000200091
【氏名又は名称】川惣電機工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523033338
【氏名又は名称】株式会社キョクエイ
(74)【代理人】
【識別番号】100179165
【弁理士】
【氏名又は名称】宇都宮 将之
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 文康
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】砂原 公平
(72)【発明者】
【氏名】熊岡 尚
(72)【発明者】
【氏名】中濱 和久
(72)【発明者】
【氏名】牛越 悟
【テーマコード(参考)】
4K015
【Fターム(参考)】
4K015DA01
(57)【要約】
【課題】
出銑口を削孔中の雰囲気温度やビット温度を測定しながら開孔することを可能とする開孔ビット及び開孔ロッド、これらを用いた出銑開孔機を提供することである。
【解決手段】
開孔ビットおよびパイプロッドからなり、
前記開孔ビット及びパイプロッドの内部に熱電対部を設けた高炉用出銑口の開孔システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開孔ビットおよびパイプロッドからなり、
前記開孔ビット及びパイプロッドの内部に熱電対部を設けた高炉用出銑口の開孔システム。
【請求項2】
前記熱電対部はシース、スリーブ及び補助導線からなり、
当該熱電対部は少なくとも前記スリーブが熱電対保護部の内部に設けられ、
少なくとも1以上の弾性体を前記スリーブの周囲に設けて支持することを特徴とする請求項1に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【請求項3】
前記熱電対部はシース、スリーブ及び補助導線からなり、
当該熱電対部は少なくとも前記スリーブが熱電対保護部の内部に設けられ、
前記開孔ビットの先端面と前記シースの先端部の距離が3mmから8mmの厚みを有し、
少なくとも1以上の弾性体を前記スリーブの周囲に設けて支持することを特徴とする請求項2に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【請求項4】
前記熱電対部はシース、スリーブ及び補助導線からなり、
当該熱電対部は少なくとも前記スリーブが熱電対保護部の内部に設けられ、
前記熱電対保護部が、熱電対カバー、熱電対カバー蓋、熱電対カバー底、スリーブストッパー、第1の弾性体と第2の弾性体からなり、
熱電対カバーの先端側から、熱電対カバー蓋、第1の弾性体、スリーブストッパー第2の弾性体、熱電対カバー底の順で形成されることを特徴とする請求項2又は3に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【請求項5】
前記熱電対カバーの後端部に前記第2の弾性体、前記スリーブストッパーの順にセットし、当該状態で前記補償導線を前記熱電対カバーの先端側の開口部より通し、前記スリーブの後端部を前記スリーブストッパーの位置に設け、前記第1の弾性体を熱電対カバーの内部にスリーブの周囲に設けて支持し、熱電対カバー蓋を熱電対カバーの先端部に設け、
前記第1の弾性体の長さが前記スリーブの長さより長いことを特徴とする請求項4に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【請求項6】
前記熱電対部はシース、スリーブ及び補助導線からなり、
当該熱電対部は少なくとも前記スリーブが熱電対保護部の内部に設けられ、
前記熱電対保護部が、熱電対カバー頭部、熱電対カバー端部、熱電対カバー蓋、熱電対カバー底、ばねスペーサー、第1の円錐形状の弾性体と第2の円錐形状の弾性体からなり、
前記熱電対カバーは熱電対カバー頭部と熱電対カバー端部から形成し、
前記熱電対カバーの先端側から、熱電対カバー蓋、第1の円錐形状の弾性体、ばねスペーサー、第2の弾性体、熱電対カバー底の順で形成されることを特徴とする請求項2又は3に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【請求項7】
前記補助導線をパイプロッドの後端部よりパイプロッドの外に出して異形スリーブに設置した送信機を有する送信機ユニットに接続することを特徴とする請求項2に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【請求項8】
前記異形スリーブの上下に切り欠き部を設け、当該上下の切り欠き部に送信機固定板を載置して前記異形スリーブを上下で挟み込み上下の送信機固定板の間には送信機固定板スペーサーを設置して送信機固定ボルトで固定し、
前記送信機固定板の上部には異形スリーブと送信機固定板の間に緩衝ゴムを挟んで設置し、
前記送信機ユニットは送信機を送信機保護カバーによって保護し、
当該送信機保護カバーは送信機固定板に送信機固定ナットによって固定し、
当該送信機保護カバーと前記送信機の間には断熱材が形成されることを特徴とする、
請求項7に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【請求項9】
前記送信機ユニットが、熱電対部で測定したデータを無線によって送信できるシステムを有する請求項8に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鉱炉の出銑のための開孔作業をしながら、削孔先端部の雰囲気温度、削孔作業中のビット温度や開孔瞬間の炉内の溶銑温度の測定を可能とする、開孔ビット及びパイプロッド、これらを用いた出銑口開孔システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
銑鉄を製造する高炉は、高温で鉄鉱石を溶かした溶鉄を取り出す出銑を行うために、一般的には炉下部に設けた出銑口を開孔する必要がある。溶鉄を排出していない際の出銑口は、不定形耐火物(マッド)で充填して封鎖しているためである。この出銑口の開孔作業は、開孔ビットをパイプロッドの先端に固定し、出銑口開孔機に装着した後、回転や打撃等により開孔する。この開孔作業の際に用いる開孔ビット及びパイプロッド、これらを用いた出銑口開孔システムは種々の形状のものが使用されており、出銑口の開孔方法も様々なものが提案されている。
【0003】
溶鉱炉の出銑口を開孔する方法としては、出銑口の不定形耐火物(マッド)を、出銑口開孔機の先端に取り付けられた開孔ビットを旋回させることにより掘削する方法が知られている。この様な開孔方法は一般的ではあるが、開孔ビットの温度が上がることにより当該開孔ビットが消耗することがあり不定形耐火物(マッド)を掘削することが困難となる課題がある。
【0004】
この様な課題を解決するため、開孔ビットを冷却することにより開孔作業を改善することを目的とする技術が開示されている。例えば、開孔ビットと開孔ビットを取り付けるためのパイプロッド内部に高圧水を通過させて冷却し、ビットの先端から水(液状、ミスト状等も含む、以下同じ)を噴出して砕削屑を除去する方法が知られている(特許文献1)
【0005】
また、出銑口を開孔するに当り錐内部を流通するブロー気体に水を添加するとともに、穿孔途中で添加する水の量を増加することにより、ビットの損耗量が抑制され、開孔速度が速くなり、開孔時間の短縮ができるようにする。また、横孔による溶銑滓の滲み出しも大量のミストにより凝固させてそのまま堀り進むことができるようにし、横孔発生比率も低減させる方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-13113号公報
【特許文献2】特開2001-271106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、添加する水の量を増加しすぎると出銑口の深度の浅い部位を掘削している間出銑口内で水が十分蒸発せずに、樋へ流出して樋内に水たまりが生じるため、出銑口開口後に流出する溶銑滓が突沸するという危険があった。また、そのために、添加する水の量を抑制しておくと出銑口深度の深い部位において錐やビットの冷却効果があまりなく、ビットの損耗などによる掘削能力の低下が生じて開口に時間が掛かる。またこの場合、無理に錐を推進させながら開口することとなるため、出銑口内部の壊れや横穴の発生を十分に抑え切れないといった課題があった。
【0008】
また、上記特許文献2に開示された技術は、錐内部を流通するブロー気体に水を添加するとともに、開口途中で添加する水の量を増加させるが、このような開口途中の出銑口内の熱的状況は出銑口深さ、掘削時の硬さ、マッドの焼成状況、横穴状況、或いは銑滓の温度、液物性、炉床部湯流れ状況により都度変化するため、水量を増加させる深さを誤ると、炉内に大量の水を入れることになり、炉冷えを誘発することになりかねないといった課題があった。
【0009】
上述の通り、溶鉱炉の出銑口を開孔する技術として冷却することを主眼にした開孔方法は開示されているが、出銑口を削孔中の雰囲気温度やビット温度を測定しながら開孔する方法は開示されていない。このようなことができる開孔ビット及び開孔ロッド、これらを用いた出銑口開孔システムは開示されていない。
【0010】
そこで、本発明の主たる課題は、出銑口を削孔中の雰囲気温度やビット温度を測定しながら開孔することを可能とする開孔ビット及びパイプロッド、これらを用いた出銑口開孔システムを提供することである。出銑口を削孔中の雰囲気温度やビット温度を測定しながら開孔することにより、出銑口内の熱的状況が迅速に把握することができ、冷却条件や掘削条件の調整に反映することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の(1)~(9)に関する。
(1)開孔ビットおよびパイプロッドからなり、前記開孔ビット及びパイプロッドの内部に熱電対部を設けた高炉用出銑口の開孔システム。
(2)前記熱電対部はシース、スリーブ及び補助導線からなり、当該熱電対部は少なくとも前記スリーブが熱電対保護部の内部に設けられ、少なくとも1以上の弾性体を前記スリーブの周囲に設けて支持することを特徴とする前記(1)に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
(3)前記熱電対部はシース、スリーブ及び補助導線からなり、当該熱電対部は少なくとも前記スリーブが熱電対保護部の内部に設けられ、前記開孔ビットの先端面と前記シースの先端部の距離が3mmから8mmの厚みを有し、少なくとも1以上の弾性体を前記スリーブの周囲に設けて支持することを特徴とする前記(2)に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
(4)前記熱電対部はシース、スリーブ及び補助導線からなり、当該熱電対部は少なくとも前記スリーブが熱電対保護部の内部に設けられ、前記熱電対保護部が、熱電対カバー、熱電対カバー蓋、熱電対カバー底、スリーブストッパー、第1の弾性体と第2の弾性体からなり、
熱電対カバーの先端側から、熱電対カバー蓋、第1の弾性体、スリーブストッパー第2の弾性体、熱電対カバー底の順で形成されることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
(5)前記熱電対カバーの後端部に前記第2の弾性体、前記スリーブストッパーの順にセットし、当該状態で前記補償導線を前記熱電対カバーの先端側の開口部より通し、前記スリーブの後端部を前記スリーブストッパーの位置に設け、前記第1の弾性体を熱電対カバーの内部にスリーブの周囲に設けて支持し、熱電対カバー蓋を熱電対カバーの先端部に設け、
前記第1の弾性体の長さが前記スリーブの長さより長いことを特徴とする前記(4)に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
(6)前記熱電対部はシース、スリーブ及び補助導線からなり、当該熱電対部は少なくとも前記スリーブが熱電対保護部の内部に設けられ、前記熱電対保護部が、熱電対カバー頭部、熱電対カバー端部、熱電対カバー蓋、熱電対カバー底、ばねスペーサー、第1の円錐形状の弾性体と第2の円錐形状の弾性体からなり、前記熱電対カバーは熱電対カバー頭部と熱電対カバー端部から形成し、前記熱電対カバーの先端側から、熱電対カバー蓋、第1の円錐形状の弾性体、ばねスペーサー、第2の弾性体、熱電対カバー底の順で形成されることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
(7)前記補助導線をパイプロッドの後端部よりパイプロッドの外に出して異形スリーブに設置した送信機を有する送信機ユニットに接続することを特徴とする前記(2)に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
(8)前記異形スリーブの上下に切り欠き部を設け、当該上下の切り欠き部に送信機固定板を載置して前記異形スリーブを上下で挟み込み上下の送信機固定板の間には送信機固定板スペーサーを設置して送信機固定ボルトで固定し、前記送信機固定板の上部には異形スリーブと送信機固定板の間に緩衝ゴムを挟んで設置し、前記送信機ユニットは送信機を送信機保護カバーによって保護し、当該送信機保護カバーは送信機固定板に送信機固定ナットによって固定し、当該送信機保護カバーと前記送信機の間には断熱材が形成されることを特徴とする、前記(7)に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
(9)前記送信機ユニットが、熱電対部で測定したデータを無線によって送信できるシステムを有する前記(8)に記載の高炉用出銑口の開孔システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、削孔途中の開孔ビットや先端部の雰囲気温度データを取得することが可能となり、削孔時に開孔ビットが高温とならないための対策であるミスト量等の温度依存に対する定量的な評価が可能となる。また、開孔直後の溶鉱炉内の溶銑温度を測定することが可能となり、以下に示すような溶鉱炉の各種操業管理に効果的な温度データを取得することが可能になる。これにより、きめ細かな炉熱管理と迅速な炉熱調整アクションの判断や、長時間休風立ち上げ時の開孔判断が容易となる。さらに、開口中のミスト供給によるビット冷却の温度を制御するため、ミスト量だけでなく、前進速度の低下による温度上昇抑制などの開口速度の調整や、出銑孔内の横穴(マッドの焼成状況、または炉内溶銑滓流れ状況による局所定な熱負荷等による溶銑滓の出銑口内へのモレ)が生じたとき、或いはその前兆をビット温度で捉えた場合の開口速度の調整にも有効的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態の出銑開孔システムの概要図である。
【
図2】本発明の実施形態で用いたパイプロッド先端部の加工状況と熱電対保護部の設置方法を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態で用いた熱電対部を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態で用いた熱電対保護部を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態で用いた熱電対保護部に熱電対部を取り付ける方法と取り付けた状態を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態で用いた出銑開孔機の先端部の熱電対部と開孔ビットとパイプロッドの取付状態を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態の熱電対部と開孔ビットとパイプロッドを有する出銑開孔機を用いて打撃による開孔作業を行った際の熱電対部3及び熱電対カバー11内部の状態を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態の出銑開孔システムにかかる送信機の取り付け状態を示す図である。
【
図9】本発明の第2の本実施形態の出銑開孔機の先端部の熱電対部と開孔ビットとパイプロッドの取付状態を示す図である。
【
図10】本発明の第2の本実施形態で用いた熱電対保護部を構成する部品を示す図である。
【
図11】本発明の第2の本実施形態で用いたパイプロッドに熱電対保護部と熱電対部を取り付ける方法と取り付けた状態を示す図である。
【
図12】本発明の第2の本実施形態で用いた熱電対保護部の詳細図を示す図である。
【
図13】本発明の第1の本実施形態によるビット測温結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参酌して説明する。
図1の(a)(b)は本実施形態で使用した出銑口開孔機を示すものである。
図1(a)はシャンクロッドがオスねじタイプ、
図1(b)はシャンクロッドがメスねじタイプのものを示す。
図1においては、シャンクロッドがオスねじタイプとメスねじタイプの2つを示したが、いずれの場合でも本発明を実施することができるものであり、特に断りがない限り本実施形態ではシャンクロッドがオスねじタイプであるものを使用したものである。
図1において、1は開孔ビット、2はパイプロッド、3は熱電対部、4は補償導線、5は送信機、6はシャンクロッド、7は異形スリーブ、8はジョイントアダプター、70は送信機ユニット、80はねじ部を示す。
【0015】
図1では出銑開孔機の部品であるシャンクロッド6に、異形スリーブ7を介してパイプロッド2をねじ部80で締結し、パイプロッド2の先端部に開孔ビット1をねじ部80で締結した状態を示す。パイプロッド2の先端部に熱電対部3を設置し、パイプロッド2内に補償導線4を通してパイプロッド2の後端部(もしくは補助導線取り出し口を設けた場所)より当該補償導線4をパイプロッド2の外部に引き出し、異形スリーブ7に設置した送信機ユニット70(内部に送信機5を備える。)に補償導線4を接続して、送信機5から無線で図示しない受信機に熱電対部3で測定した温度データを送信する。当該熱電対部3は温度測定部となる。当該接続方法については
図1(a)のシャンクロッドオスねじタイプのものを説明したが、
図1(b)のシャンクロッドメスねじタイプのものに関しては、ジョイントアダプター8を介してパイプロッド2をねじ部80で締結してもよい。この場合、
図1(b)に示すようにジョイントアダプター8に送信機ユニット70を固定する。本実施形態では、送信周期が100~300msecの小型送信機を使用したが特に限定されるものではなく、熱電対部3で測定した温度データを送信できるものであれば問題なく使用できる。送信機ユニット70の取付方法の一例については
図8を用いて後述するが、送信機ユニットはパイプロッド2に取付けてもよく、送信機の取付場所は限定するものではない。
補償導線4を送信機5に接続する方法は、上記に示した方法ではなく、例えば、パイプロッド2と異形スリーブ7またはジョイントアダプター8との接触部でデータの通信をし、異形スリーブ7またはジョイントアダプター8の内部を通して、外部に設置されている送信機と接続してもよい。また、回転体内部に配置された熱電対からデータを取り出すために、本実施では送信機を使用しているが、送信機を使用しなくても、回転運動をするシャンクロッド6と削岩機本体の間を、スリップリングを用いて測温データの通信ができる構造を構築すれば、特に方法等は限定されるものではない。
【0016】
図2は本発明の実施形態で用いた出銑開孔機の先端部の詳細図を示す。
図2(a)において、1は開孔ビット、2はパイプロッド、3は熱電対部、4は補償導線、18は第1のばね、19は第2のばね、90は熱電対保護部を示し、熱電対保護部90と熱電対部3からなるユニットをパイプロッド2の中空部に取付け、パイプロッド2の先端に開孔ビット1をねじ部80で締結した状態を示す。
図2(b)は開孔ビット1、
図2(c)はパイプロッド2の先端部の加工要領、
図2(d)はパイプロッド2の先端部に、熱電対保護部90と熱電対部3からなるユニットを取り付けた状態を示す。
図2(b)は、開孔ビット1を示しており、シース差込穴20を設けている。
図2(c)はパイプロッド2の先端部に熱電対保護部90を取り付けるための加工要領である。パイロッドの内径はdであるが、熱電対保護部90が中心に収まるように、パイプロッド中空部をd1とd2の内径に加工を施す。d1は熱電対カバー11の外径より0.3mm程度大きくなるように加工し、d2は熱電対カバー蓋12の外径より0.5mm程度大きく加工を施す。この状態のパイプロッド2の中空部に先端側(出銑口側)から補償導線4を入れ込むように挿入していき、
図2(d)に示す通り最終的に熱電対カバー蓋12の最先端側で止まるまで差し込むことによりパイプロッド2に取り付ける。この状態にシース差込穴20を設置した開孔ビット1をねじ部80で締結した状態が
図2(a)となる。なお、本実施形態で使用した開孔ビット1は60~80mm程度の径を有する仕様で、パイプロッド2の径はφ35~45mm程度のものである。本実施形態で使用する開孔ビット1は
図2に示すように開孔ビット及びその周辺温度の測定用の熱電対部3のシース9を差し込むためのシース差込穴20をパイプロッド2の中心軸の略延長線上になるように形成した。
当該シース差込穴20の形状は特に限定されるものではないが、シース先端部と開孔ビットの先端面(チップが取り付けられる面)との距離Xは、3mm~8mm程度の厚みを設けるようにすることが好ましい。3mm以下ではビット前面が摩耗して、シース差込穴20まで摩耗が達し、ビット前面に穴が開いてしまう可能性が高くなる。8mm以上では開孔ビット前面との温度差が大きくなり、正確な開孔時の温度が測定できないことが発生する場合がある。これは数値計算による非定常熱伝導解析結果による。数値計算では、開孔ビット1の温度は20℃とし、開孔ビット1の前面表面が200℃とした時の開孔ビット1の温度変化を求めた。温度測定個所は、開孔ビット1の回転中心上とし、開孔ビット前面表面から、3mm、5mm、8mm、10mmとした。計算結果を表1に示す。この表より、開孔ビット前面表面が200℃となって5秒後の各温度は、3mmで159℃、5mmで134℃、8mmで105℃、10mmで82℃となり、30秒後の各温度は、3mmで181℃、5mmで169℃、8mmで154℃、10mmで140℃となった。これらの結果より、5秒後の10mmの位置では、温度が100℃以下になってしまうことから、より先端に近い位置とし、最大でも8mm程度にした方がよい。
また、シース差込穴20の径はシースの種類に応じて対応可能であるが、好ましくは使用するシースの直径(幅)よりも約0.5mm程度大きいことが好ましい。それより小さいと差し込む際にシースが損傷する可能性があり、それ以上だと開孔作業時にシースが振動することによって損傷するだけでなく測定の誤差等が発生する可能性があるためである。なお、本実施形態ではシース差込穴20をパイプロッド2の中心軸の略延長線上になるように形成したが特にそれに限定されるものではなく、溶鉱炉の出銑口の状態や温度測定の条件などに応じてシース9の先端部が開孔ビット1の片方側に傾くようにシース差込穴20を設けても良い。なお、本実施形態ではばねを使用したが、その他の弾性体であっても、本発明に使用することができる。
【0017】
【0018】
図3(a)は本実施形態で用いた熱電対部3を示す図である。熱電対部3は、シース9、スリーブ10、補償導線4からなる。熱電対部3は特に限定されるものではなく市販のものを使用可能であるが、溶鉱炉の出銑口の溶銑温度を測定する場合は、1500℃程度に対応できるRシースを使用し、開孔作業中のビット温度や先端部の雰囲気温度を測定したい場合は、900℃程度に対応できるKシースを使用することが好ましい。シース9と補償導線4をつなぐスリーブ10は耐熱温度が200℃程度であることから、溶銑温度を測定する場合は、スリーブ10は溶銑の温度に耐えられない。そのため、スリーブ10に溶銑がかかる時間を少しでも遅らせるために、シース9の長さは極力長くした方が好ましい。本実施例ではビットの削孔時の温度測定を目的としており、シース9は溶銑がかかる前の温度測定が目的であることから、シース9として70mmのKシースを用いたが、シース9の長さはこれに限定するものではなく、
図3(b)のように、シース9を長くして、補償導線4を短くしてもよい。この場合はシース9に シースストッパー38と設置する。前述の通り、シース9は開孔ビット1のシース差込穴20に差し込むものであり、補償導線4は中空のパイプロッド2の中に通すものである。本実施形態では、シース9は絶縁材料として酸化マグネシウムを使用し、耐熱性を考慮してインコネルケースを被膜材としたが、被膜材の材質はこれに限定するわけではない。パイプロッド2の内部はミストが流れていることから、スリーブ10の端部から水・ガスの侵入防止のために、スリーブ10と補償導線4の接続部は、熱収縮チューブ21を施していが、熱収縮チューブ21を施す必要がない場合もあるため必須のものではない。スリーブ10の内部は通常、エポキシやセメントを使用するが、開孔機の衝撃等を考慮して、エポキシ樹脂を使用することが望ましい。
【0019】
図4は本発明の実施形態で用いた熱電対保護部90を示す図である。本実施形態では、熱電対部3をパイプロッド2の中空部に設置するが、パイプロッド2は開孔時には回転と打撃によって振動するため熱電対部3がパイプロッド内部で振動して破損する恐れや補償導線4のよれや断線の可能性があり、熱電対部3をパイプロッド内径の中心部に固定して設置する必要がある。また、開孔時はパイプロッド2の内部にエアやミストを通す必要があるため、これらを阻害しないように考慮した熱電対固定方法を考慮する必要がある。
図2(a)に示す熱電対部3の固定方法は、
図4に示す熱電対保護部90を用いることにより実施した。熱電対保護部90は、熱電対部3の設置の簡略化等も考慮して、熱電対カバー11を設け、その中に熱電対部3のスリーブ10を固定するために、スリーブストッパー14やばね(第1のばね18及び第2のばね19)を使用した構造とする。熱電対カバー11は略円筒状の部材でありステンレスを素材とするもので、熱電対カバー11の外径はパイプロッド2の先端加工部にしっかりと収まるようにパイプロッド2の加工部の内径d1より0.3mm程度小さくする。熱電対カバー11の内部にはスリーブストッパー14を2つのばねで挟むように設置し、開孔時の振動や衝撃を調節する機能を持たせる。スリーブストッパー14は略円形状の部材であり、ステンレスを素材とするもので、スリーブストッパー14の外径は熱電対カバー11の中空部にしっかりと収まるように熱電対カバー11の内径より0.2mm程度小さくする。さらに、スリーブストッパー14の中央部には補償導線4を支持するための補償導線支持穴17を有する。
【0020】
また、
図2及び
図4に示す通り、熱電対カバー11の先端側はシース9を支持する熱電対カバー蓋12、他方端側は補償導線4を支持する熱電対カバー底13を設けることにより両端部が蓋をされた状態となる。熱電対カバー蓋12は略円筒状の部材であり、ステンレスを素材とするもので、中央部に略円形のシース支持穴を設けて装着時にシース9が振動等でぶれないように支持する。また、熱電対カバー蓋12と熱電対カバー11とは先端側でねじ部80により締結される。熱電対カバー底13は略円形状の部材であり、ステンレスを素材とするもので、中央部に略円形の補償導線支持穴17を設けて装着時に補償導線4が振動等でぶれないように支持する。また、熱電対カバー底13は熱電対カバー11の後端側で溶接によって取り付ける。熱電対カバー底13の外径は、熱電対カバー11の外径と同じ大きさで形成する。これらの熱電対カバー蓋12、熱電対カバー底13、スリーブストッパー14は、エアやミストを通すために、
図4に示すようにエア穴15を設けて開口した構造とした。エア穴15の形状は特に限定するものではないが、シース支持穴16、補助導線支持穴17の外周に略扇形状となるように3箇所設けた。この様なエア穴15の形状とすることにより、開口面積を確保することが可能となり、シース支持穴16、補償導線支持穴17を設置しながら、強度を得られる構造になっているが、この形状に限定されるものではない。また、熱電対カバー蓋12、熱電対カバー底13、スリーブストッパー14の厚みは、設置スペースに限りがあることと、部材自体の強度を最低限確保するために、5mm程度が好ましい。
【0021】
図5は本発明の実施形態で用いた熱電対保護部90に熱電対部3を取り付ける手順と、取り付けた状態を示す図である。
図5(a)は熱電対カバー11の中に、第2のばね19、スリーブストッパー14の順にセットしておき、この状態で補償導線4を熱電対カバー11の先端側の開口部より通していく。
図5(b)のように、スリーブ10がスリーブストッパー14の位置まで来たら、第1のばね18を熱電対カバー11内にセットし、熱電対カバー蓋12を熱電対カバー11にねじ部80によって設置して、
図5(c)のように、熱電対カバー内に熱電対を固定する。本実施形態で使用したばねは略円筒形状をしており、最外径は熱電対カバー11の内径より少し小さい程度のものを用いた。
【0022】
図6において、本実施形態で熱電対部3と開孔ビット1との取り付け状態及び開孔作業時の状態に関する説明を行う。本実施形態ではシース9の先端部で温度を測定することから、温度測定時にはシース9の先端は常に開孔ビット1に接している必要がある。そのため、
図6(b)に示すように、開孔ビット1をパイプロッド2に螺合した際、開孔ビット1のシース差込穴20の長さと、シース9の長さの関係から、熱電対部3がδ分だけ後端側に押されることになる。この際、第2のばね19が縮むことでばね反力が発生し、シース9の先端を開孔ビット1に接触させることになる。
図6(a)に示す初期の設置状態は、第1のばね18と第2のばね19は、自由長よりも若干縮んだ状態で設置され、スリーブストッパー14を挟んで力が釣り合っている状態とする。本実施形態は、開孔作業中のビット温度を測定することが目的であることから、温度測定時には開孔ビット1とパイプロッド2の全体に回転と打撃が作用する。回転による影響を受けないように、熱電対保護部90によって、熱電対部3をパイプロッド2の中心(回転中心)に設置するようにしている。パイプロッド2の回転中心軸と、熱電対部3の中心軸がずれた場合、パイプロッド2の回転時に熱電対部3は偏芯した状態で回転することにより、熱電対部3に遠心力が働くようになり、これにより熱電対部3が破損する恐れがある。打撃に関しては、打撃による振動で熱電対部3が左右に振動する可能性があり、この衝撃等の影響により熱電対部3が破損する可能性がある。第2のばね19のばね定数は、熱電対部3の振動による慣性力よりもばねの反力が大きくなるように設定するため、パイプロッド2が打撃によって左右に振動しても、熱電対部3は常に開孔ビット1に接触した状態で同期していく。また第1のばね18は、スリーブストッパー14に力を作用させることによって、振動時に熱電対部3にかかる力を緩和させる作用がある。
【0023】
図7は熱電対部3、熱電対保護部90と各種ばねの詳細を示し、ばねの効果について説明する。
図7(a)は、熱電対保護部90の概略図である。先端側のばねを第1のばね18、後端側のばねを第2のばね19とし、第1のばね18と第2のばね19の間にはスリーブストッパー14を設置する。熱電対保護部90の内部寸法をL、スリーブストッパー14の厚みをt、第1のばね18が入る長さをL1、第2のばね19が入る長さをL2とする。第1のばね18と第2のばね19の自由長は、それぞれL1、L2より長いものとする。
図7(b)はパイプロッド2に開孔ビット1をねじ締結した静止状態を示す。開孔ビット1に設けたシース差込穴20と、シース9の長さとの関係で、開孔ビット1をパイプロッド2にねじ締結することで、熱電対部3はδだけ右側に移動する。これにより、第1のばね18はδだけ伸び、第2のばね19はさらにδだけ縮むことになる。第1のばね18がスリーブストッパー14を押さえる力をF1、第2のばね19がスリーブストッパー14を押さえる力をF2とすると、静止時のシース9先端部にかかる力Fは、F=F2―F1となる。
開孔作業時は打撃によって、開孔ビット1、パイプロッド2が左右に振動することになるが、右側(後端側)に振動した時は、
図7(c)に示すように、熱電対部3の質量によって発生する慣性力をFbとすると、シース9の先端部にかかる力Fは、F=F2―F1―Fbとなり、F>0となるように第1のばね18と第2のばね19を設定することで、シール9の先端は開孔ビット1に常に接触していることになる。
次に左側(先端側)に振動した時は、
図7(d)に示すように、熱電対部3の質量によって発生する慣性力をFfとすると、シース9の先端部にかかる力はF=F2―F1+Ffとなり、F>0となるように第1のばね18と第2のばね19を設定することで、シール9の先端は開孔ビット1に常に接触していることになる。
【0024】
ばねの作用について、一例を持って説明する。まず、出銑口開孔機の打撃数は、毎分3000回程度であることから毎秒50回程度となり、開孔ビット1、パイプロッド2は50Hzの周波数で振動していることになる。また出銑口開孔機の振幅は30mm程度であることから、次式より開孔機打撃時の加速度を算出すると1480m/s
2となる。
加速度 a=(B/2×10
-3)/(2πf)
2
ここに、a:加速度(m/s
2)、B:全振幅(mm)、f:周波数(Hz)
熱電対部3の質量は10g程度であることから、開孔機打撃時に熱電対部3が振動することで発生する慣性力Faは、次式のとおりとなる。
慣性力 Fa=m×a=10×10
-3×1480=14.8(kg・m/s
2)≒15N
ここに、Fa:慣性力(N)、m:質量(kg)、a:加速度(m/s
2)
図7(a)は、熱電対保護部90に熱電対部3、第1のばね18、第2のばね19、スリーブストッパー14を設置した状態を示す。熱電対保護部90の内部寸法をL=70mm、スリーブストッパー14の厚みをt=5mmとすると、ばねが入る長さはL1+L2=65mmとなる。使用するばねの一例として、第1のばね18の自由長を55mm、第2のばね19の自由長を20mmとし、いずれもばね定数をk=3N/mmとすると、ばねが縮む量はいずれも同じになることから、ばねの縮み量は5mmとなり、L1=50mm、L2=15mmとなる。ばねの縮み量が5mm、ばね定数はk=3N/mmであるので、ばねによる反力はF1=F2=k×δ=15Nとなる。
図7(b)のように、パイプロッド2に開孔ビット1をセットし、シース9をシース差込穴20に差し込むと、シース9の長さとシース差込穴20との関係から、熱電対部3が押されてδだけ右側に移動する。ここでδ=3mmとすると、スリーブストッパー14も、スリーブ押されてδだけ右に移動するため、ばねの縮み量は第1のばね18は2mm、第2のばね19は8mmとなる。これより、ばねによる反力は、F1=3×2=6N、F2=3×8=24Nとなり、シース先端に働く力は、F=F2-F1=24-6=18Nとなる。
次に
図7(c)のように、右側に振動した時は、熱電対部3の質量による慣性力Fb=Faが発生し、F=F2-F1-Fb=24-6-15=3N>0となり、シース9は開孔ビット1に接触していることが分かる。F<0になると、熱電対部3は振動によって開孔ビット1から離れることになる。
次に
図7(d)に示すように、左側に振動した時は、熱電対部3の質量による慣性力Ff=Faが発生し、F=F2-F1+Ff=24-6+15=33Nとなるが、第1ばね18が存在することで、6N低減することができ、第1ばね18によってスリーブストッパー14による慣性力も低減することができる。
これにより、スリーブストッパー14を挟むように第1のばね18と第2のばね19を設置することで、削孔作業中、熱電対部3のシース9の先端は、常に開孔ビット1に接触するようになり、また、熱電対部3に過剰な力が作用しないようにして、熱電対部3の破損を防ぐことが可能となる。
【0025】
図8は送信機5を異形スリーブ7に設置する状況を示す。異形スリーブ7の上下には、切り欠き部35を設け、送信機固定板25は送信機固定ボルト26で上下挟み込んでいることから、切り欠き部35が、打撃力による前後の振動時にストッパーの役目をすることで、送信機固定板25が前後にずれることはない。送信機固定板25の上側は、送信機5に打撃力の振動が伝わらないように、異形スリーブ7と送信機固定板25の間に緩衝ゴム29を挟んで設置する。上下の送信機固定板25は送信機固定ボルト26によって挟みこむが、この際、送信機固定ボルト26が緩まないように、送信機固定ナット27を使用し、ナット締め付け時はトルク管理を実施する。ボルト締め付け時に送信機固定板25が、締め付け力によって変形する可能性があるため、送信機取付板25の間には、送信機固定板スペーサー28を設置する。送信機5は送信機保護カバー24によって固定されるが、この送信機保護カバー24は送信機固定板25と一緒に送信機固定ナット27によって締め付ける。送信機保護カバー24と送信機5の間には断熱材30を挟み込んで、開孔作業時に、溶銑樋からのふく射熱から送信機5を保護すると同時に、弾力性のある断熱材を使用するため耐衝撃性にも効果がある。開孔直後の溶銑が、送信機部に注がれることもあるので、さらに外側を断熱材で保護することも考えられる。
【0026】
本実施形態での出銑口の開孔方法については従来から実施されている手法が用いられる。例えば、出銑開孔機に支持したパイプロッド2及び開孔ビット1を溶鉱炉の出銑口の中心線に沿って回転させながら前進させて削孔を進め、ある程度削孔が進むと出銑開孔機による打撃力を加えて削孔を進める。出銑開孔機の打撃力と回転力とによって中心線の方向に前進することにより充填マッドを削孔し、パイプロッド中心線の方向に出銑口が開孔される。
【0027】
本実施形態では上述の方法で出銑口を開孔する際のビット温度を測温した。結果の一例として、エア量の調整、削孔時間の違い、削岩機の打撃強さの違い等条件を変えて測定を実施した結果を表2に、グラフを
図13に示す。ビット温度は常温(20℃程度)から、開口作業開始30~130秒後には、210~760℃に達し、開口作業開始80~135秒後で開口直前となり、ビット温度は570~1104℃に達するデータを取得することができた。
【0028】
【0029】
図9は本発明の第2の実施形態で用いた出銑開孔機の先端部の詳細図を示す。
図9(a)において、1は開孔ビット、2はパイプロッド、3は熱電対部、4は補償導線、31は第1の円錐ばね、32は第2の円錐ばね、33はばねスペーサー、90は熱電対保護部を示し、熱電対保護部90と熱電対部3からなるユニットをパイプロッド2に取付け、パイプロッド2の先端に開孔ビット1をねじ部80で締結した状態を示す。ばねスペーサー33は略円柱形状の弾性体であり、両端部の径が略中央部の径より小さい形状である。また、第1の円錐ばね31及び第2の円錐ばね32は弾性体であり、円錐形状のばねであるが、厳密に円錐形状である必要はなく略円錐形状であれば良い。
図9(b)は開孔ビット1、
図9(c)はパイプロッド2先端部の加工要領、
図9(d)はパイプロッド2の先端部に、熱電対保護部90と熱電対部からなるユニットを取り付けた状態を示す。
図9(b)は、開孔ビット1を示しており、通常、開孔作業に使用している開孔ビットを使用する。
図9(c)はパイプロッド2の先端部に熱電対保護部90を取り付けるための加工要領である。パイロッドの内径はdであるが、熱電対保護部90が中心に収まるように、パイプロッド中空部をd1とd2の内径に加工を施す。d1は熱電対カバー11の外径より0.3mm程度大きくなるように加工し、d2は熱電対ストッパー34の外径より0.5mm程度大きく加工を施す。この状態のパイプロッド2の中空部に先端側(出銑口側)から補償導線4を入れ込むように挿入していき、
図9(d)に示す通り最終的に熱電対ストッパー34の最先端側で止まるまで差し込むことによりパイプロッド2に取り付ける。この状態に開孔ビット1をねじ部80で締結した状態が
図9(a)となる。なお、本実施形態で使用した開孔ビット1は60~80mm程度の径を有する仕様で、パイプロッド2の径はφ35~45mm程度のものである。本実施形態では出銑開孔機先端部分の雰囲気温度や開口直後の溶銑温度を測定することを目的としている。溶銑温度の測定は、開口直後、開孔ビットが溶銑に接し、ブロー孔22より開孔ビット1の内部に溶銑が入り込み、シース9の先端に溶銑が接触することで、開口直後の溶銑温度の測定が可能となる。
【0030】
図10に本実施形態で使用する部品を示す。熱電対ストッパー34、略円錐形状をした第1の円錐ばね31と第2の円錐ばね32、ばねストッパー33および熱電対カバー11から構成される。熱電対カバー11は、熱電対カバー頭部36と熱電対カバー端部37から構成されている。熱電対カバー11をこのように分割したのは、パイプロッド2の内径加工が、パイプロッド先端部から80mm程度しか加工できないため、第2の実施形態ではパイプロッド内径未加工部に熱電対カバー11が入るように、熱電対カバー端部37を設けた。熱電対カバー端部37の外径は、パイプロッド2の内径dより、1mm程度小さいものとする。
【0031】
図11はこれら構成部品の組み立て順序を示す。
図11(a)は熱電対部3のスリーブ10にばねスペーサー33を設置し、第2の円錐ばね32を補償導線4の後端側から通したのち、熱電対カバー11を補償導線4の後端部から通し、補償導線4をパイプロッド2の中空部に通す。次に
図11(b)のように、熱電対保護部90をパイプロッド2先端部の加工部に差し込む。
図11(c)は第1の円錐ばね31をシース9側から差し込み、熱電対ストッパー34をパイプロッド2の先端部の加工部に差し込む。熱電対保護部90が、パイプロッド2の先端部に収まった状態が、
図11(d)となる。その後、開孔ビット1をパイプロッド2のねじ部80に結合した状態が
図11(e)となる。ばねスペーサー33の両端は、スリーブ10の外径とほぼ同じ内径をしているため、スリーブ10にばねスペーサー33を固定することができ、ばねスペーサー33の中心部は熱電対カバー後端部36の内径とほぼ同じ外径をしていることから、熱電対をパイプロッド2の中心軸と同じ位置に設置することが可能となる。
【0032】
図12に、熱電対部3と熱電対保護部90の拡大図を示す。第1の円錐ばね31と第2の円錐ばね32は円錐形状をしており、径の小さい側の内径は、スリーブ10の外径より小さくしているため、2つの円錐ばねの径の小さい側がスリーブ10に接触することによりストッパーの役割をしている。第1の円錐ばね31の径の大きい側の外径は、熱電対ストッパー34の端部の開口部内径より大きいことから、熱電対ストッパー34で、第1の円錐ばね31を介してスリーブ10の前面を支持している。第2の円錐ばね32の径の大きい側の外径は、熱電対カバー端部36の端部開口部内径より大きいため、熱電対カバー後端部36で、第2の円錐ばね32を介して、スリーブ10の後端部を支持している。これらにより、第1の円錐ばね31と第2の円錐ばね32で、熱電対部3に伝わる打撃による左右の振動を緩和する役割を示す。
【0033】
本実施形態では上述の方法で出銑口を開孔する際の温度を測温した。結果の一例として、開口直後の溶銑温度を測定しており1338℃となった。この時は開口作業開始時、常温(20℃程度)であった温度は、削孔を進めるにつれて徐々に温度が上昇し、30秒程度で160℃程度まで上昇した。その後、1秒程度で1000℃を超える温度に達し、1.7秒後には1338℃に達し、その後測温データはノイズのような値を示したことから、溶銑が熱電対にかかり損失したと考えられ、そのような状態になる瞬間的な温度を溶銑温度とした。出てきた溶銑温度を放射温度計で測定したところ、1326~1448℃の範囲にあり、放射温度計で測定した温度に近いことがわかる。
【符号の説明】
【0034】
1 開孔ビット
2 パイプロッド
3 熱電対部
4 補償導線
5 送信機
6 シャンクロッド
7 異形スリーブ
8 ジョイントアダプター
9 シース
10 スリーブ
11 熱電対カバー
12 熱電対カバー蓋
13 熱電対カバー底
14 スリーブストッパー
15 エア穴
16 シース支持穴
17 補償導線支持穴
18 第1のばね
19 第2のばね
20 シース差込穴
21 熱収縮チューブ
22 ブロー孔
23 ブロー孔枝分かれ部
24 送信機保護カバー
25 送信機固定板
26 送信機固定ボルト
27 送信機固定ナット
28 送信機固定板スペーサー
29 緩衝材
30 断熱材
31 第1の円錐ばね
32 第2の円錐ばね
33 ばねスペーサー
34 熱電対ストッパー
35 異形スリーブ切り欠き部
36 熱電対カバー頭部
37 熱電対カバー端部
38 シースストッパー
70 送信機ユニット
80 ねじ部
90 熱電対保護部
100 出銑口開孔機