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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108089
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】弾性波デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240802BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012377
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】518453730
【氏名又は名称】三安ジャパンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171077
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 健
(72)【発明者】
【氏名】熊 四輩
(72)【発明者】
【氏名】塩井 伸一
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA14
5J097AA21
5J097BB11
5J097BB15
5J097DD28
5J097EE08
5J097EE09
5J097FF04
5J097FF05
5J097GG07
5J097HA03
5J097HA04
5J097JJ04
5J097JJ06
5J097JJ09
5J097KK09
5J097KK10
(57)【要約】
【課題】より温度特性が高く、かつ、よりスプリアスが抑制された弾性波デバイスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】高音速基板と、前記高音速基板の主面上に形成された中音速層と、前記中音速層の主面上に直接または他の層を介して形成された圧電基板とを備え、前記高音速基板と前記中音速層の間において、前記高音速基板の主面から前記中音速膜の主面の方向に向かうに従い漸次音速が下がる弾性波デバイス。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高音速基板と、
前記高音速基板の主面上に形成された中音速層と、
前記中音速層の主面上に直接または他の層を介して形成された圧電基板と
を備え、
前記高音速基板と前記中音速層の間において、前記高音速基板の主面から前記中音速層の主面の方向に向かうに従い漸次音速が下がる弾性波デバイス。
【請求項2】
前記中音速層と前記圧電基板の間に形成された低音速層を備える請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記高音速基板は、サファイア基板からなる請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記中音速層は、多結晶層からなる請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記高音速基板と前記中音速層の界面は凹凸形状である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記高音速基板の他の主面上に形成された第2中音速層を備える請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えるモジュール。
【請求項8】
サファイア基板を研磨する工程と、
酸化マグネシウムを前記研磨されたサファイア基板の主面上に配置する工程と、
前記サファイア基板と前記酸化マグネシウムとを密着させ、加熱処理により多結晶スピネル層を形成する工程と、
前記酸化マグネシウムを除去し、前記多結晶スピネル層を研磨する工程と、
前記多結晶スピネル層上に圧電基板を形成する工程と、を含む弾性波デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記酸化マグネシウムは平均粒径が1μm~25μmの粉末体である請求項8に記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記酸化マグネシウムは前記サファイア基板の他の主面上にも配置され、前記多結晶スピネル層は前記サファイア基板の他の主面上にも形成される請求項8に記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記多結晶スピネル層を形成する工程は、1500℃~1600℃の温度にて、加熱処理を0.1時間~10時間行う請求項8に記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記酸化マグネシウムは平均粒径が1μm~25μmの粉末体であり、1300℃~1600℃の温度にて、加熱処理を10時間~48時間行う請求項8に記載の弾性波デバイスの製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性波デバイスおよびその製造方法に関する。詳しくはSH波を用いる弾性表面波デバイス、例えば、フィルタ、デュプレクサまたはマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンを代表とする移動通信端末の高周波通信用システムにおいて、通信に使用する周波数帯以外の不要な信号を除去するために、高周波フィルタ等が用いられている。
【0003】
高周波フィルタ等には、弾性表面波(SAW:Surface acoustic wave)素子等を有する弾性波デバイスが用いられている。SAW素子は、圧電基板上に一対の櫛型電極を有するIDT(Interdigital Transducer)を形成した素子である。
【0004】
例えば、弾性表面波デバイスは、以下のように製造される。まず、弾性波を伝搬させる圧電基板とこの圧電基板よりも小さな熱膨張係数を持つ支持基板とを接合した多層膜基板を作成する。次に、その多層膜基板にフォトリソグラフィ技術を用いて多数のIDT電極を形成し、その後、ダイシングにより所定のサイズに切り出して弾性表面波デバイスとする。この製造方法では、多層膜基板を利用することにより、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化が支持基板により抑制されるため、弾性波デバイスとしての周波数特性が安定化する。
【0005】
例えば、特許文献1などにより、弾性波デバイスの温度特性を改善するため、圧電基板にヤング率が高く線膨張係数が小さいサファイア基板などの支持基板を貼り合わせて、温度変化による伸縮を抑制することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-278610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示のように、弾性波デバイスの温度特性を改善するため、圧電基板にヤング率が高く線膨張係数が小さいサファイア基板などの支持基板を貼り合わせて、温度変化による伸縮を抑制することが知られている。しかしながら、このような支持基板は、特に高周波側にスプリアスが生じ、フィルタ特性に劣る。
【0008】
また、サファイア基板ほどの温度特性改善効果はないが、スプリアスが生じにくい支持基板としてスピネルなどの多結晶基板を用いることが知られている。しかしながら、サファイア基板のような温度特性は実現できない。
【0009】
本開示は、上述の課題を解決するためになされた。本開示の目的は、より温度特性が高く、かつ、よりスプリアスが抑制された弾性波デバイスおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示にかかる弾性波デバイスは、
高音速基板と、
前記高音速基板の主面上に形成された中音速層と、
前記中音速層の主面上に直接または他の層を介して形成された圧電基板と
を備え、
前記高音速基板と前記中音速層の間において、前記高音速基板の主面から前記中音速層の主面の方向に向かうに従い漸次音速が下がる弾性波デバイスとした。
【0011】
前記中音速層と前記圧電基板の間に形成された低音速層を備えることが、本開示の一形態とされる。
【0012】
前記高音速基板は、サファイア基板からなることが、本開示の一形態とされる。
【0013】
前記中音速層は、多結晶層からなることが、本開示の一形態とされる。
【0014】
前記高音速基板と前記中音速層の界面は凹凸形状であることが、本発明の一形態とされる。
【0015】
前記高音速基板の他の主面上に形成された第2中音速層を備えることが、本発明の一形態とされる。
【0016】
前記弾性波デバイスを備えるモジュールが、本発明の一形態とされる。
【0017】
本開示にかかる弾性波デバイスの製造方法は、
サファイア基板を研磨する工程と、
酸化マグネシウムを前記研磨されたサファイア基板の主面上に配置する工程と、
前記サファイア基板と前記酸化マグネシウムとを密着させ、加熱処理により多結晶スピネル層を形成する工程と、
前記酸化マグネシウムを除去し、前記多結晶スピネル層を研磨する工程と、
前記多結晶スピネル層上に圧電基板を形成する工程と、
を含む弾性波デバイスの製造方法とした。
【0018】
前記酸化マグネシウムは平均粒径が1μm~25μmの粉末体であることが、本開示の一形態とされる。
【0019】
前記酸化マグネシウムは前記サファイア基板の他の主面上にも配置され、前記多結晶スピネル層は前記サファイア基板の他の主面上にも形成されることが、本開示の一形態とされる。
【0020】
前記多結晶スピネル層を形成する工程は、1500℃~1600℃の温度にて、加熱処理を0.1時間~10時間行うことが、本開示の一形態とされる。
【0021】
前記酸化マグネシウムは平均粒径が1μm~25μmの粉末体であり、1300℃~1600℃の温度にて、加熱処理を10時間~48時間行うことが、本開示の一形態とされる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、より温度特性が高く、かつ、よりスプリアスが抑制された弾性波デバイスおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施の形態1にかかる弾性波デバイス1を示す断面図である。
図2図2は、実施の形態1にかかる弾性波デバイス1のデバイスチップ5を示す断面図である。
図3図3は、実施の形態1にかかる弾性波デバイス1の弾性波素子の例を示す図である。
図4図4は、実施の形態2にかかる弾性波デバイス1のデバイスチップ5を示す断面図である。
図5図5は、弾性波デバイス1の製造方法を説明するための図である。
図6図6は、弾性波デバイス1の第2の製造方法を説明するための図である。
図7図7は、図6の点線で囲われた領域Aを示す図である。
図8図8は、実施の形態3にかかる弾性波デバイス1のデバイスチップ5を示す断面図である。
図9図9は、弾性波デバイス1が適用されるモジュールの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施の形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略される。
【0025】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる弾性波デバイス1を示す断面図である。
【0026】
図1に示すように、弾性波デバイス1は、配線基板3、外部接続端子18、デバイスチップ5、電極パッド9、バンプ15および封止部17を備える。
【0027】
例えば、配線基板3は、樹脂からなる多層基板である。例えば、配線基板3は、複数の誘電体層からなる低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics:LTCC)多層基板である。
【0028】
外部接続端子18は、配線基板3の下面に複数形成される。
【0029】
電極パッド9は、配線基板3の主面に複数形成される。例えば、電極パッド9は、銅または銅を含む合金で形成される。例えば、電極パッド9の厚みは、10μmから20μmである。
【0030】
バンプ15は、電極パッド9のそれぞれの上面に形成される。例えば、バンプ15は、金バンプである。例えば、バンプ15の高さは、10μmから50μmである。
【0031】
配線基板3とデバイスチップ5の間は、空隙16が形成されている。
【0032】
デバイスチップ5は、バンプ15を介して、配線基板3にフリップチップボンディングにより実装される。デバイスチップ5は、複数のバンプ15を介して複数の電極パッド9と電気的に接続される。
【0033】
デバイスチップ5は、弾性波素子50が形成される基板である。例えば、デバイスチップ5の主面において、複数の弾性波素子50を含む、送信用フィルタと受信用フィルタとが形成される。
【0034】
送信用フィルタは、所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成される。例えば、送信用フィルタは、複数の直列共振器と複数の並列共振器からなるラダー型フィルタである。
【0035】
受信用フィルタは、所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成される。例えば、受信用フィルタは、ラダー型フィルタである。
【0036】
デバイスチップ5は、圧電基板11を備える。また、封止部17は、デバイスチップ5を覆うように形成される。例えば、封止部17は、合成樹脂等の絶縁体により形成される。例えば、封止部17は、金属で形成される。
【0037】
封止部17が合成樹脂で形成される場合、当該合成樹脂は、エポキシ樹脂、ポリイミドなどである。好ましくは、封止部17は、エポキシ樹脂を用い、低温硬化プロセスを用いてエポキシ樹脂で形成される。
【0038】
図2は、実施の形態1にかかる弾性波デバイス1のデバイスチップ5を示す断面図である。
【0039】
図2に示すように、デバイスチップ5は、圧電基板11、中音速層12、高音速基板13を備える。圧電基板11上には弾性波素子50が形成されている。
【0040】
圧電基板11は、例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムまたは水晶などの圧電単結晶で形成された基板である。別の例では、圧電基板11は、圧電セラミックスで形成された基板である。
【0041】
圧電基板11の厚みは、例えば、0.3μmから5μmとすることができる。
【0042】
中音速層12は、圧電基板11を伝搬するバルク波よりも高音速のバルク波音速を有し、高音速基板13を伝搬するバルク波よりも低音速のバルク波音速を有する材料により適宜形成することができる。中音速層12は、例えば、スピネルである。中音速層12は、高音速基板13の主面から、圧電基板11と対抗する中音速層12の主面の方向に向かうに従い、漸次音速が下がるように構成されている。中音速層12Aは、中音速層12Bよりも音速が低い。中音速層12Bは、中音速層12Cよりも音速が低い。
【0043】
中音速層12Aは、例えば、定比MgAlのスピネルないしほぼ定比スピネルに近いスピネル層とすることができる。例えば、厚みは10~20μmとすることができる。中音速層12Aは、単結晶スピネルでも多結晶スピネルでもよいが、多結晶スピネルのほうが望ましい。多結晶スピネルのほうが、圧電基板11を伝搬してきたバルク波の反射が散乱して、スプリアスがより抑制されるからである。
【0044】
中音速層12Bは、不定比スピネルであり、定比スピネルに比べて、マグネシウム(Mg)の含有量が少なく、アルミニウム(Al)の含有量が多い。例えば、厚みは10~20μmとすることができる。
【0045】
中音速層12Cは、不定比スピネルであり、中音速層12Bのスピネルに比べて、マグネシウム(Mg)の含有量がさらに少なく、アルミニウム(Al)の含有量がさらに多い。例えば、厚みは10~20μmとすることができる。
【0046】
高音速基板13の主面から中音速層12の主面に向かうに従い、すなわち、中音速層12CからAにかけて、漸次音速が下がる構成となる。本実施の形態においては、3段階に音速が下がる例を示したが、より多段階に音速が下がるように構成してもよい。後述の実施の形態2以降においても同様である。
【0047】
高音速基板13は、圧電基板11を伝搬するバルク波よりも高音速のバルク波音速を有する材料により適宜形成することができる。このような材料としては、圧電基板11を構成する材料に応じて、例えば、サファイア、アルミナ、窒化珪素、アルミナイトライド、酸化アルミニウム、炭化珪素、酸窒化珪素、ダイヤモンドなどで形成することができる。
【0048】
高音速基板13の厚みは、例えば、50μmから200μmとすることができる。
【0049】
次に、図3を用いて、圧電基板11上に形成された弾性波素子の例を説明する。図3は実施の形態1にかかる弾性波デバイスの弾性波素子の例を示す図である。
【0050】
図3に示されるように、IDT(Interdigital Transducer)51と一対の反射器52とは、圧電基板11の主面に形成される。IDT電極51と一対の反射器52は、弾性波(主にSH波)を励振し得るように設けられる。
【0051】
例えば、IDT電極51と一対の反射器52とは、アルミニウムと銅の合金で形成される。例えば、IDT電極51と一対の反射器52とは、アルミニウム、モリブデン、イリジウム、タングステン、コバルト、ニッケル、ルテニウム、クロム、ストロンチウム、チタン、パラジウム、銀などの適宜の金属もしくはこれらの合金で形成される。
【0052】
例えば、IDT電極51と一対の反射器52とは、複数の金属層が積層した積層金属膜により形成される。例えば、IDT電極51と一対の反射器52との厚みは、150nmから450nmである。
【0053】
IDT電極51は、一対の櫛形電極51aを備える。一対の櫛形電極51aは、互いに対向する。櫛形電極51aは、複数の電極指51bとバスバー51cとを備える。
【0054】
複数の電極指51bは、長手方向を合わせて配置される。バスバー51cは、複数の電極指51bを接続する。
【0055】
一対の反射器52の一方は、IDT電極51の一側に隣接する。一対の反射器52の他方は、IDT電極51の他側に隣接する。
【0056】
以上で説明された実施の形態1によれば、より温度特性が高く、かつ、よりスプリアスが抑制された弾性波デバイスを提供することができる。
【0057】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2にかかる弾性波デバイス1のデバイスチップ5を示す断面図である。
図4に示すように、実施の形態2にかかるデバイスチップ5は、圧電基板11と中音速層12の間に配置された低音速層14を備える。
【0058】
低音速層14は、圧電基板11を伝搬するバルク波よりも低音速のバルク波音速を有する材料により適宜形成することができる。このような材料としては、圧電基板11を構成する材料に応じて、例えば、酸化珪素、ガラス、酸窒化珪素、酸化タンタル、また、酸化珪素にフッ素、炭素若しくはホウ素を加えた化合物などで形成することができる。
【0059】
低音速層14の厚みは、例えば、0.5μmから5μmとすることができる。弾性表面波を圧電基板11および低音速層14が積層されている部分に閉じ込めるためには、中音速層12および高音速基板13は厚いほど好ましい。中音速層12および高音速基板13の厚みは、弾性表面波の波長λの0.5倍以上、より好ましくは、1.5倍以上が望ましい。SH波のエネルギーを閉じ込めることにより、Q値を向上させることができる。
【0060】
他の構成は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0061】
以上で説明された実施の形態2によれば、より温度特性が高く、よりスプリアスが抑制され、かつ、Q値が向上した弾性波デバイスを提供することができる。
【0062】
次に、弾性波デバイス1の製造方法について説明する。図5は、弾性波デバイス1の製造方法を説明するための図である。
【0063】
図5(a)に示すように、高音速基板13と酸化マグネシウム基板20を用意する。高音速基板13は、単結晶であるサファイア基板である。サファイア基板の表面の結晶面はC面であり、基板の両面を鏡面研磨加工することが望ましい。また、単結晶であるサファイア以外にも、例えば、多結晶であるアルミナを用いることもできる。酸化マグネシウム基板20は、最純度塩基性炭酸マグネシウムを1300℃で予備焼成することが望ましい。これを3ton/cmの圧力で成形し、1700℃で2時間加熱し、気孔率が12%以下の焼結体とすることが望ましい。これを鏡面研磨加工し、酸化マグネシウム基板20を得る。また、酸化マグネシウム基板20は、電融酸化マグネシウム結晶塊から平滑な(100)壁開面をもつ単結晶によるものでもよい。
【0064】
図5(b)に示すように、サファイア基板と、酸化マグネシウム基板20の鏡面研磨加工された面を貼り合わせる。ここで拡散アニール熱処理を行う。発明者らが行った試作の一例によれば、約1600℃で24時間加熱すると、スピネル層が約400μm形成された。拡散アニール熱処理は、支持基板として、所望のサファイア基板の厚みとスピネル層の厚みにより、温度と加熱時間を適宜調整することができる。拡散アニール熱処理は、例えば、1500℃~1800℃で、0.5時間~100時間行う。望ましくは、拡散アニール熱処理は、例えば、1500℃~1600℃で、0.1時間~10時間行う。これにより、不要波を散乱させるのに十分な厚みの多結晶スピネル層を構成しつつ、温度特性を担保するためのサファイア基板の厚みを十分に確保することができる。
【0065】
図5(c)に示すように、拡散アニール熱処理後、サファイア基板と酸化マグネシウム基板20との間にスピネル層が形成される。発明者らの行った試作結果では、酸化マグネシウム基板20に最も近い領域のスピネル層22Aは、実測値で、マグネシウムが18.7830重量パーセント、アルミニウムが48.6800重量パーセント、酸素原子が32.5330重量パーセントであり、定比スピネルとほぼ同等の値となった。なお、ここではマグネシウムの原子量を24.3050、アルミニウムの原子量を26.9810、酸素の原子量を15.9990とし、定比スピネル(MgAl)1molを142.2630とした。
【0066】
酸化マグネシウム基板20に二番目に近い領域のスピネル層22Bは、実測値で、マグネシウムが1.4730重量パーセント、アルミニウムが77.7570重量パーセント、酸素原子が20.7700重量パーセントであった。スピネル層22Bは、マグネシウムが少ない不定比スピネル層であり、音響的性質は定比スピネルよりもサファイアに近く、音速はスピネル層22Aよりも速い。
【0067】
酸化マグネシウム基板20から最も遠い領域のスピネル層22Cは、実測値で、マグネシウムが0.2710重量パーセント、アルミニウムが64.6190重量パーセント、酸素原子が35.1100重量パーセントであった。スピネル層22Cは、スピネル層22Bよりもマグネシウムがさらに少ない不定比スピネル層であり、音響的性質はスピネル層22Bよりもサファイアに近く、音速はスピネル層22Bよりも速い。
【0068】
拡散アニール熱処理後、スピネル層22Aと酸化マグネシウム基板20の界面は、界面破断により容易に剥離することができた。剥離後、スピネル層22Aの表面を研磨加工し、圧電基板11と接合した。所望のデバイス特性を得るよう弾性波素子50を構成し、パッケージ工程を得て、弾性波デバイス1を得た。
【0069】
次に、弾性波デバイス1の第2の製造方法について説明する。図6は、弾性波デバイス1の第2の製造方法を説明するための図である。
【0070】
図6に示すように、高音速基板13と粉末状の酸化マグネシウム31を用意する。高音速基板13と粉末状の酸化マグネシウム31は、加熱処理が可能な加熱炉30内に配置される。高音速基板13は、単結晶であるサファイア基板である。サファイア基板の表面の結晶面はC面であり、基板の両面を鏡面研磨加工している。また、単結晶であるサファイア以外にも、例えば、多結晶であるアルミナを用いることもできる。粉末状の酸化マグネシウム31は、例えば、平均粒径が1μmから25μmとすることができる。サファイア基板を粉末状の酸化マグネシウム31に埋め込み、拡散アニール熱処理を行う。発明者らの試作の一例によれば、約1450℃にて24時間の熱処理を行った結果、スピネル層が約75μm形成された。拡散アニール熱処理は、支持基板として、所望のサファイア基板の厚みとスピネル層の厚みにより、温度と加熱時間を適宜調整することができる。拡散アニール熱処理は、例えば、1300℃~1600℃で、10時間~48時間行う。望ましくは、拡散アニール熱処理は、例えば、1400℃~1500℃で、20時間~28時間行う。これにより、不要波を散乱させるのに十分な厚みの多結晶スピネル層を構成しつつ、温度特性を担保するためのサファイア基板の厚みを十分に確保することができる。
【0071】
図7は、図6の点線で囲われた領域Aを示す図である。図7に示すように、サファイア基板(高音速基板13)の表面に形成されるスピネル層32A~32Cは、凹凸形状となる。粉末状の酸化マグネシウム31は、粒径にばらつきが存在するため、サファイア基板(高音速基板13)の表面に密に存在する箇所と、密に存在しない箇所ができる。粉末状の酸化マグネシウム31が密に存在する箇所は、スピネル化が早く進む。粉末状の酸化マグネシウム31が密に存在しない箇所は、スピネル化が遅く進む。これにより、スピネル層32A~32Cは、凹凸形状となる。これにより、弾性波デバイス1のバルク波がより散乱して、スプリアスを抑制することができる。
【0072】
弾性波デバイス1の第2の製造方法によれば、サファイア基板(高音速基板13)の両面にスピネル層32A~32Cが形成される。すなわち、高音速基板13の両面に中音速層12であるスピネル層32A~32Cが形成される。これにより、例えば1450℃もの高温から常温に戻すステップにおいて、サファイア基板とスピネル層の熱膨張係数の相違から基板が反ることを回避することができる。これにより、平坦性が向上したデバイスチップを備える弾性波デバイスを提供することができる。
【0073】
その後の工程は、上述の弾性波デバイス1の製造方法と同様であるため、説明を省略する。
【0074】
実施の形態3.
図8は、実施の形態3にかかる弾性波デバイス1のデバイスチップ5を示す断面図である。実施の形態3にかかる弾性波デバイス1のデバイスチップ5は、圧電基板11がスピネル層32Aと接する領域と、圧電基板11がスピネル層32Bと接する領域が存在する。ここで、スピネル層32Aは、例えば、定比スピネルとほぼ同等の層とすることができる。スピネル層32Bは、スピネル層32Aよりもマグネシウムが少ない不定比スピネル層であり、音響的性質はスピネル層32Aよりもサファイアに近く、音速はスピネル層32Aよりも速い。スピネル層32Cは、スピネル層32Bよりもマグネシウムがさらに少ない不定比スピネル層であり、音響的性質はスピネル層32Bよりもサファイアに近く、音速はスピネル層32Bよりも速い。
【0075】
実施の形態3にかかる弾性波デバイス1は、例えば、上述の弾性波デバイス1の第2の製造方法により製造することができる。サファイア基板(高音速基板13)上に凹凸形状にスピネル層32A~32Cに形成されるため、スピネル層32A上をスピネル層32Bが露出し、スピネル層32Aが残存するように研磨する。次いで、圧電基板11と貼り合わせればよい。実施の形態3にかかる弾性波デバイス1は、弾性波デバイス1のバルク波がより散乱することで、スプリアスをより抑制することができる。
【0076】
実施の形態4.
図9は、実施の形態1から3にかかる弾性波デバイス1が適用されるモジュールの縦断面図である。なお、実施の形態1の部分と同一又は相当部分には同一符号が付される。当該部分の説明は省略される。
【0077】
図9において、モジュール100は、配線基板130と複数の外部接続端子131と集積回路部品ICと弾性波デバイス1とインダクタ111と封止部117とを備える。
【0078】
複数の外部接続端子18は、配線基板130の下面に形成される。複数の外部接続端子131は、予め設定された移動通信端末のマザーボードに実装される。
【0079】
例えば、集積回路部品ICは、配線基板130の内部に実装される。集積回路部品ICは、スイッチング回路とローノイズアンプとを含む。
【0080】
弾性波デバイス1は、配線基板130の主面に実装される。
【0081】
インダクタ111は、配線基板130の主面に実装される。インダクタ111は、インピーダンスマッチングのために実装される。例えば、インダクタ111は、Integrated Passive Device(IPD)である。
【0082】
封止部117は、弾性波デバイス1を含む複数の電子部品を封止する。
【0083】
以上で説明された実施の形態3によれば、モジュール100は、弾性波デバイス1を備える。このため、より温度特性が高く、かつ、よりスプリアスが抑制された弾性波デバイスを備えるモジュールを提供できる。
【0084】
少なくとも一つの実施形態のいくつかの側面が説明されたが、様々な改変、修正および改善が当業者にとって容易に想起されることを理解されたい。かかる改変、修正および改善は、本開示の一部となることが意図され、かつ、本開示の範囲内にあることが意図される。
【0085】
理解するべきことだが、ここで述べられた方法および装置の実施形態は、上記説明に記載され又は添付図面に例示された構成要素の構造および配列の詳細への適用に限られない。方法および装置は、他の実施形態で実装し、様々な態様で実施又は実行することができる。
【0086】
特定の実装例は、例示のみを目的としてここに与えられ、限定されることを意図しない。
【0087】
本開示で使用される表現および用語は、説明目的であって、限定としてみなすべきではない。ここでの「含む」、「備える」、「有する」、「包含する」およびこれらの変形の使用は、以降に列挙される項目およびその均等物並びに付加項目の包括を意味する。
【0088】
「又は(若しくは)」の言及は、「又は(若しくは)」を使用して記載される任意の用語が、当該記載の用語の一つの、一つを超える、およびすべてのものを示すように解釈され得る。
【0089】
前後左右、頂底上下、横縦、表裏への言及は、いずれも、記載の便宜を意図する。当該言及は、本開示の構成要素がいずれか一つの位置的又は空間的配向に限られるものではない。したがって、上記説明および図面は、例示にすぎない。
【符号の説明】
【0090】
1 弾性波デバイス、 5 デバイスチップ、 11 圧電基板、 12 中音速層、 13 高音速基板、 14 低音速層、 100 モジュール、 111 インダクタ、 117 封止部、 130 配線基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9