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特開2024-108107ドレッシング用組成物、及びドレッシング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108107
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】ドレッシング用組成物、及びドレッシング方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/017 20120101AFI20240802BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
B24B53/017 Z
B24B53/017 A
H01L21/304 622M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178144
(22)【出願日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2023011854
(32)【優先日】2023-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】安藤 順一郎
【テーマコード(参考)】
3C047
5F057
【Fターム(参考)】
3C047AA22
3C047AA34
3C047EE04
3C047EE18
5F057AA14
5F057AA37
5F057BA15
5F057CA12
5F057EC29
(57)【要約】
【課題】研磨パッドのドレッシング処理を行った直後から、磁気ディスク基板等の基板の研磨において、所望の表面精度を有する磁気ディスク基板を得ることが可能なドレッシング用組成物の提供を課題とする。
【解決手段】ドレッシング用組成物は、研磨パッドのドレッシングに使用されるドレッシング用組成物であって、界面活性剤と、水とを含有し、界面活性剤は、主鎖中に芳香族基を有する繰り返し単位と、前記繰り返し単位と結合されるスルホン酸基及び/またはスルホン酸塩基とを分子中に有する陰イオン界面活性剤である。更に、陰イオン界面活性剤は、ナフタレンスルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、及びこれらの塩からなる群の中から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッドのドレッシングに使用されるドレッシング用組成物であって、
界面活性剤と、
水と
を含有し、
前記界面活性剤は、
主鎖中に芳香族基を有する繰り返し単位と、
前記繰り返し単位と結合されるスルホン酸基及び/またはスルホン酸塩基と
を分子中に有する陰イオン界面活性剤であるドレッシング用組成物。
【請求項2】
前記陰イオン界面活性剤は、
ナフタレンスルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、及びこれらの塩からなる群の中から選択される少なくとも一つである請求項1に記載のドレッシング用組成物。
【請求項3】
前記陰イオン界面活性剤は、
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、及びメチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物からなる群の中から選択される少なくとも一つである請求項2に記載のドレッシング用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のドレッシング用組成物を用いるドレッシング方法であって、
ドレッシング対象の研磨パッドのパッド表面に前記ドレッシング用組成物を供給する組成物供給工程と、
前記ドレッシング用組成物の供給された前記パッド表面をダイヤモンドドレッサーによってドレッシングするドレッシング工程と
を具備するドレッシング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレッシング用組成物、及びドレッシング方法に関する。詳しくは、シリコン半導体、化合物半導体、SAWデバイス、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品、酸化物材料等のセラミック部品、ガラスレンズ、或いはプラスチックレンズ等の光学部品等の研磨に使用される研磨パッドのドレッシング処理のためのドレッシング用組成物、及びドレッシング方法に関する。更に詳しくは、磁気ディスク基板の研磨に使用される研磨パッドのドレッシング処理のためのドレッシング用組成物、及び当該ドレッシング用組成物を用いた研磨パッドのドレッシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高精度な表面性能(表面性状)が要求される磁気ディスク基板や半導体基板等の種々の基板の製造プロセスにおいて、研磨機に固定された研磨パッドを使用し、研磨対象となる基板の基板表面を研磨し、平滑化するための研磨工程が実施されている。
【0003】
研磨工程に使用される研磨パッドは、研磨工程での使用開始前にパッド表面の凹凸を平坦化する目的でドレッシングと呼ばれる処理を一般的に行っている。ドレッシング処理を行うことは、研磨工程の開始からある程度早い段階で所望の研磨性能を発揮する目的で実施されている。かかるドレッシングの処理は、ダイヤモンドドレッサー等の周知のドレッシング装置を用い、パッド表面に純水を供給しながらパッド表面を平坦化し、所望の表面状態に調整するものである。
【0004】
このようなドレッシング処理は、上記のような研磨工程での使用開始前、換言すれば、研磨パッドのメーカーから供給され、未使用の状態の研磨パッドに対して実施される以外に、研磨工程を所定期間実施し、砥粒残渣や研磨屑の付着により、パッド表面に目詰まりが発生し、要求される研磨性能を研磨パッドが発揮しなくなった場合でも実施されている。
【0005】
特に、近年において磁気ディスク基板等の基板が搭載されるハードディスクは、小型化及び大容量化の性能向上が求められている。その結果、使用される基板自体においても高性能化が求められており、基板表面の表面性能の高度化が要求されている。
【0006】
すなわち、基板の研磨工程において、基板表面の粗さ(凹凸)の低減化、基板表面のうねりの低減化、及びスクラッチ(傷)等の基板表面欠陥の低減化がそれぞれにおいて高いレベルで要求されている。加えて、研磨工程の実施によって起因する、基板表面に付着する砥粒の残渣や研磨屑の残渣の低減化も求められている。
【0007】
ここで、磁気ディスク基板等の基板の表面精度を向上させるためには、一般的には、開孔径が小さく、かつ、硬質の研磨パッドを採用することが行われている。しかしながら、このような研磨パッドを使用した場合、研磨剤組成物に含まれる砥粒(研磨粒子)や研磨によって生じた研磨屑の一部が研磨パッドの開孔部に滞留したり、或いはパッド表面に付着したりする可能性が高くなる。その結果、長時間に亘って研磨工程を連続的に実施する場合、研磨パッドのパッド表面に汚れが発生したり、或いは目詰まりを引き起こしたりする等の不具合を生じることが知られている。
【0008】
その結果、研磨工程において基板の基板表面の品質精度にバラツキが生じる可能性があった。そのため、定期的に研磨パッドに対してドレッシング処理を施したり、或いは、新しい研磨パッドに交換したりする作業を行う必要があった。
【0009】
例えば、研磨パッドの目詰まりを防止しつつ、かつ、ドレッシング処理の頻度や回数を少なくする目的のための研磨パッド用目詰まり防止剤組成物が提案されている(特許文献1参照)。具体的に説明すると、水酸基(-OH基)またはチオール基(-SH基)を有する炭素数2~20のカルボン酸、炭素数1~20のモノカルボン酸、炭素数2~20のジカルボン酸、炭素数2~3のα-アミノ酸、炭素数3~10のエノール系有機酸、及びこれらの塩等を研磨パッド用目詰まり防止剤として磁気ディスク基板を研磨する際に使用される研磨剤組成物に含有させるものが提案されている。
【0010】
更に、磁気ディスク基板の研磨において、上下定盤の間にパッドドレッシング装置を押圧挟持しつつ、高圧水噴射ノズルから高圧水を噴射させ、更に吸引ノズルを作動させながら下定盤を回転させることにより、研磨パッドのパッド表面をドレッシングするドレッシング方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0011】
一方、化学機械研磨(CMP研磨)において、研磨パッドをドレッシングするドレッシング方法として、研磨パッドとドレッシング装置との間にアンモニア水またはクエン酸水溶液等の薬液を供給し、目詰まりの要因となっている銅(銅酸化物)を主成分とする膜を薬液によって溶解し除去するドレッシング方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0012】
更に、化学機械研磨による被研磨面の平坦化において、研磨加工時間の経過に伴って研磨パッドのパッド表面が摩耗等により劣化し、研磨速度が低下するのを防ぐ目的でダイヤモンドドレッサーを用いて研磨パッドのドレッシングを行う際に、ダイヤモンドドレッサーからのダイヤモンド砥粒の脱落を防ぐためにドレッシング中或いはドレッシング開始前に研磨パッド上にpHを調製した薬液を供給する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0013】
更に詳細に説明すると、ドレッシング装置として一般的に使用されるダイヤモンドドレッサーは、ダイヤモンド砥粒と、当該ダイヤモンド砥粒を固着する、蒸着法で形成されたNi膜からなる砥粒固着材とを有して構成されている。そのため、酸化剤を含む腐食性の高い研磨剤組成物を使用した化学機械研磨の場合、ドレッシング中にダイヤモンド砥粒の脱落が生じ易く、被研磨面に傷が発生する等の問題が生じることがあった。
【0014】
そのため、pHを9~12の範囲に予め調製した水酸化カリウム水溶液(KOH水溶液)を滴下ノズルから研磨パッド上に供給することで、Ni膜の腐食を生じさせることなく、ダイヤモンド砥粒の脱落を防止することができる。
【0015】
また、半導体製造のために使用される、ステンレス鋼等の金属製支持材の表面に形成されたダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素、及び炭化ケイ素等の砥粒が固着された金属固着層と、金属固着層を被覆する被覆層とを備えた研磨パッド用ドレッサーが提案されている(特許文献5参照)。
【0016】
更に詳細に説明すると、かかる研磨パッド用ドレッサーによれば、砥粒の平均粒径を3~200μmとし、金属固着層をNi系ろう材で構成し、被覆層の厚さを1μm以上の結晶質クロムめっき層とするものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2003-3156号公報
【特許文献2】特開2000-42899号公報
【特許文献3】特開2000-301455号公報
【特許文献4】特開2001-179603号公報
【特許文献5】特開2022-19382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記した研磨パッド用目詰まり防止剤組成物やドレッシング方法、或いはドレッサー等は、ドレッシング処理を実施した後でも、所定の研磨時間、或いは研磨回数を経た後に、ようやく要求されるうねりやスクラッチ等が低減された基板が得られることが多かった。すなわち、研磨工程の開始直後或いは開始からかなり早い段階で所望の表面状態を得ることができなかった。そのため、研磨時間が多く必要となったり、研磨コストが余計にかかったりする等の問題があった。
【0019】
そこで、本願発明は上記実情に鑑み、特に生産性向上等の観点から、研磨パッドのドレッシング処理を行った直後或いは研磨開始からかなり早い段階で、所望の表面状態や表面精度を有する基板の研磨が可能な研磨パッドのドレッシング用組成物及びドレッシング方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願発明者は、上記課題に対して鋭意検討した結果、以下に示すドレッシング用組成物及びドレッシング方法を採用することにより、上記課題を解決することを見出した。
【0021】
[1] 研磨パッドのドレッシングに使用されるドレッシング用組成物であって、界面活性剤と、水とを含有し、前記界面活性剤は、主鎖中に芳香族基を有する繰り返し単位と、前記繰り返し単位と結合されるスルホン酸基及び/またはスルホン酸塩基とを分子中に有する陰イオン界面活性剤であるドレッシング用組成物。
【0022】
[2] 前記陰イオン界面活性剤は、ナフタレンスルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、及びこれらの塩からなる群の中から選択される少なくとも一つである前記[1]に記載のドレッシング用組成物。
【0023】
[3] 前記陰イオン界面活性剤は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、及びメチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物からなる群の中から選択される少なくとも一つである前記[2]に記載のドレッシング用組成物。
【0024】
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のドレッシング用組成物を用いるドレッシング方法であって、ドレッシング対象の研磨パッドのパッド表面に前記ドレッシング用組成物を供給する組成物供給工程と、前記ドレッシング用組成物の供給された前記パッド表面をダイヤモンドドレッサーによってドレッシングするドレッシング工程とを具備するドレッシング方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明のドレッシング用組成物及びドレッシング方法は、ドレッシング処理後に実施される磁気ディスク基板等の基板の研磨工程において、当該研磨工程の初期段階、すなわち、開始直後または開始直後から所定の研磨時間(または研磨回数)を経ることで、基板表面におけるうねり及びスクラッチ等を低減化した高い表面精度の研磨を実施することが可能となり、研磨工程における研磨コスト等の生産性を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.ドレッシング方法
本発明のドレッシング方法は、本発明のドレッシング用組成物(詳細は後述する。)を用いるものであって、ドレッシング対象の研磨パッドのパッド表面に当該ドレッシング用組成物を供給する組成物供給工程と、ドレッシング用組成物の供給されたパッド表面をダイヤモンドドレッサーによってドレッシングするドレッシング工程とを具備するものである。
【0027】
ここで、本発明のドレッシング方法は、新しい研磨パッドの使用開始時に行うだけでなく、パッド表面が砥粒残渣や研磨屑の付着により汚れた状態になった時に、表面を削り取ることにより新しい開孔部を表出させる目的でも実施される。
【0028】
特に、新しい研磨パッドの使用開始時のドレッシングは以下の目的で行われる。磁気ディスク基板の粗研磨に使用する研磨パッドは、パッドメーカーからの出荷段階でパッド表面層の気泡が開孔処理されていることが多いが、研磨パッド表面のうねりを無くして平坦性を向上させるためにドレッシングを行う。
【0029】
磁気ディスク基板の仕上げ研磨に使用する研磨パッドは、パッドメーカーからの出荷段階でパッド表面層の気泡が開孔処理されていないことが多いので、例えば、粗い固定砥粒を接合したドレッサーを用いて開孔処理を行い、その後、細かい固定砥粒を接合したドレッサーを用いてうねりを無くして平坦性を向上させるドレッシングを行う。
【0030】
仕上げ研磨に使用する研磨パッドの場合、ドレッシングによってパッド表面全体が開孔処理されると、研磨パッドの全面に均一な光沢が見られるようになる。
【0031】
使用開始時にドレッシングを行った研磨パッドも、研磨回数を重ねるにつれて砥粒残渣や研磨屑等がパッド表面の開孔部に付着し、開孔部が目詰まりするようになる。その結果、研磨性能が低下し、研磨後の基板表面のうねり悪化やスクラッチ増大を引き起こすようになる。そこでドレッシングを行うことでパッド表面に新しい開孔部を表出させる。
【0032】
2.ドレッシング用組成物
本発明のドレッシング用組成物は、研磨パッドのドレッシングに使用されるものであり、
界面活性剤と、水とを含有し、界面活性剤は、主鎖中に芳香族基を有する繰り返し単位と、前記繰り返し単位と結合されるスルホン酸基及び/またはスルホン酸塩基とを分子中に有する陰イオン界面活性剤であることを特徴とするものである。
【0033】
本発明のドレッシング用組成物を構成する界面活性剤は、陰イオン界面活性剤であり、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸、変性リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物、及びアミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物を列挙することができる。
【0034】
特に、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物の中でナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、及びメチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレンスルホン酸系化合物、或いは、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、及びそれらの塩であるものが特に好ましい。一方、ナフタレンスルホン酸系化合物の中でもナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、及びそれらの塩であるものが特に好ましい。
【0035】
上述した界面活性剤の例として、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の一般式を化1に、リグニンスルホン酸系化合物の一例の一般式を化2に、芳香族アミノスルホン酸系化合物の一例としてアミノベンゼンスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物の一般式を化3にそれぞれ化学構造式として下記に示す(ここで、化1~化3において、Mは、水素または塩基を示す。)。
【0036】
【化1】
【0037】
【化2】
【0038】
【化3】
【0039】
また、それぞれを塩とした場合の対イオンとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、モノエタノールアミン等の一級アミン塩、ジエタノールアミン等の二級アミン塩、トリエタノールアミン等の三級アミン塩、テトラメチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0040】
ドレッシング用組成物中の陰イオン界面活性剤の含有量は、0.0001~50質量%であることが好ましく、0.0001~10質量%であることがより好ましく、0.001~6質量%であることがさらに好ましい。0.0001質量%未満の場合、研磨パッドの全面に均一なドレッシングがなされないことで、例えば仕上げ研磨に使用する研磨パッドの場合はドレッシング後の研磨パッドの全面に均一な光沢が得られない可能性がある。均一なドレッシングがなされていない研磨パッドの場合、その後の研磨において初期段階の研磨抵抗が高くなってしまい、その結果、研磨後の基板表面のうねり、スクラッチ、表面欠陥の低減効果が無くなる可能性がある。50質量%を超えると、その後の研磨において研磨速度が低下する可能性がある。
【0041】
本発明のドレッシング用組成物のpH値(25℃)の範囲は、好ましくは4.0を超えて13.0未満の範囲である。ドレッシング用組成物のpH値(25℃)が4.0を超えることにより、ドレッシングに使用するドレッサー(ドレッシング装置)へのダメージを抑制することができる。
【0042】
磁気ディスク基板の研磨は一般的に粗研磨、仕上げ研磨と多段研磨が行われるが、本発明のドレッシング用組成物は粗研磨、仕上げ研磨いずれの研磨に使用する研磨パッドのドレッシングにおいても使用することができる。
【0043】
このドレッシング用組成物は、研磨パッドのドレッシングに好適であるばかりでなく、磁気ディスク基板の粗研磨工程と仕上げ研磨工程の間の中間リンス時のリンス液としても、また粗研磨工程の途中に加えるリンス液としても、仕上げ研磨工程の途中に加えるリンス液としても、さらには仕上げ研磨工程後の最終リンス液としても用いることができる。
【0044】
これらのリンス処理に使われるリンス液は一般的には純水が使用されるが、リンス液をドレッシング用組成物に置き換えることで、リンス時に生じる研磨対象基板と研磨パッドの間の摩擦抵抗の低減にも有用である。
【0045】
3.研磨パッド
磁気ディスク基板の研磨において用いる研磨パッドとしては、ウレタン組成物を硬化発泡させることにより作成された多孔質パッド、フェルト状繊維質シートに熱可塑性ポリウレタン樹脂を主体とする重合体の溶液を含侵させることにより作成された不織布パッド、不織布、或いはフィルム状シート等のベース層の上にポリウレタンを主体とする高分子材料の微孔質表面層があるスェードパッド等が挙げられる。中でも磁気ディスク基板の研磨には、スェードパッドが好適に使用される。
【0046】
一般的に、磁気ディスク基板の粗研磨に使用する研磨パッドは、スェードパッドの微孔質表面層の気泡が開孔処理された状態でパッドメーカーから出荷されることが多く、磁気ディスク基板の仕上げ研磨に使用する研磨パッドは、開孔処理されていない状態でパッドメーカーから出荷されることが多い。
【0047】
4.ドレッサー
研磨パッドの表面を削り取ることにより、目詰まり等の汚れの無い新しいパッド表面を表出させる目的で用いるドレッサーとしては、固定砥粒としてダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム等を電着、或いはろう付け等により接合させたものが用いられる。これらの中でもダイヤモンド砥粒を固定砥粒とするダイヤモンドドレッサーが好適に用いられる。
【0048】
一般的に、ドレッシングに使用されるドレッサーとしては、粗い固定砥粒を接合させたドレッサーは研磨パッドの開孔処理を目的に使用され、細かい固定砥粒を接合させたドレッサーは研磨パッド表面のうねりを無くし平坦性を向上させる目的で使用される。
【0049】
5.研磨機
磁気ディスク基板の研磨には通常の研磨機を用いることができる。片面研磨機も両面研磨機も使用できるが、両面研磨機が好適に用いられる。
【0050】
6.研磨方法
本発明のドレッシング用組成物は、シリコン半導体、化合物半導体、SAWデバイス、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品、酸化物材料等のセラミック部品、ガラスレンズ、或いはプラスチックレンズ等の光学部品等の研磨に使用される研磨パッドのドレッシングに使用することができる。その中でもアルミニウム磁気ディスク基板やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨の前に行うドレッシングにおいて好適に使用される。特に無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク(以下アルミディスク)の研磨の前の使用に適している。
【0051】
本発明のドレッシング用組成物を用いるドレッシングが適している研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物(例えばアルミディスク)の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦り付ける方法がある。
【0052】
例えば、アルミディスクのおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤及び下定盤それぞれに研磨パッドを貼り付けた両面研磨機を用いる方法がある。この方法では、上定盤及び下定盤に貼り付けた研磨パッドでアルミディスクを挟み込み、研磨面と研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミディスクのおもて面と裏面を研磨する。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0054】
(1)ドレッシング用組成物の調製方法
実施例1~10、比較例1~3の研磨パッドのドレッシングで使用したドレッシング用組成物は、表1及び表2に記載の材料を、表1及び表2に記載の含有量で含んだドレッシング用組成物である。
【0055】
・実施例1及び実施例10
30L容器に25℃の純水19.6kgを投入し、これにナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(第一工業製薬株式会社製、ラベリンFM-45:有効濃度45質量%の水溶液)を1.4kg加えて、攪拌機で10分間攪拌し、均一溶液とした後、公称0.04μmフィルターでフィルタリングしたものを実施例1及び実施例10のドレッシング用組成物とした。なお、実施例10のドレッシング用組成物は、後述する(2-2)磁気ディスク基板の粗研磨時の研磨パッドのドレッシング条件を変化させた場合に使用するためのものである。
【0056】
・実施例2
30L容器に25℃の純水20.533kgを投入し、これにナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(第一工業製薬株式会社製、ラベリンFM-45:有効濃度45質量%の水溶液)を0.467kg加えて、攪拌機で10分間攪拌し、均一溶液とした後、公称0.04μmフィルターでフィルタリングしたものを実施例2のドレッシング用組成物とした。
【0057】
・実施例3
30L容器に25℃の純水20.953kgを投入し、これにナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(第一工業製薬株式会社製、ラベリンFM-45:有効濃度45質量%の水溶液)を47g加えて、攪拌機で10分間攪拌し、均一溶液とした後、公称0.04μmフィルターでフィルタリングしたものを実施例3のドレッシング用組成物とした。
【0058】
・実施例4~9
30L容器に25℃の純水19.6kgを投入し、これにナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(第一工業製薬株式会社製、ラベリンFM-45:有効濃度45質量%の水溶液)をそれぞれ表1に記載された含有量となるように加えて、攪拌機で10分間攪拌し、均一溶液とした後、公称0.04μmフィルターでフィルタリングしたものをそれぞれ実施例のドレッシング用組成物とした。
【0059】
・比較例1及び比較例3
純水を用意し、これを比較例1及び比較例3のドレッシング用組成物とした。なお、比較例3のドレッシング用組成物は、後述する(2-2)磁気ディスク基板の粗研磨時の研磨パッドのドレッシング条件を変化させた場合に使用するためのものである。
【0060】
・比較例2
30L容器に25℃の純水20.533kgを投入し、これにp-トルエンスルホン酸ナトリウム(キシダ化学株式会社製、試薬特級の固体を有効濃度45質量%となるように調整した水溶液)を0.467kg加えて、攪拌機で10分間攪拌し、均一溶液とした後、公称0.04μmフィルターでフィルタリングしたものを比較例2のドレッシング用組成物とした。
【0061】
(2―1)研磨パッドのドレッシング条件(磁気ディスク基板の仕上げ研磨時:実施例1~9、比較例1,2)
研磨機 :スピードファム株式会社製 9B両面研磨機
研磨パッド :株式会社FILWEL製 P2用パッド
定盤回転数 :上定盤 -10.0rpm
下定盤 30.0rpm
ドレッサー :ダイヤモンドドレッサー(#320:粗い固定砥粒)
ダイヤモンドドレッサー(#1500:細かい固定砥粒)
ドレッシング圧力 :3kPa
ドレッシング時間 :10分(#320)+10分(#1500)
ドレッシング用組成物流量:1000ml/min
【0062】
(2-2)研磨パッドのドレッシング条件(磁気ディスク基板の粗研磨時:実施例10、比較例3)
研磨機 :スピードファム株式会社製 9B両面研磨機
研磨パッド :株式会社FILWEL製 P1用パッド
定盤回転数 :上定盤 -10.0rpm
下定盤 30.0rpm
ドレッサー :ダイヤモンドドレッサー(#1500:細かい固定砥粒)
ドレッシング圧力 :3kPa
ドレッシング時間 :10分(#1500)
ドレッシング用組成物流量:1000ml/min
なお、(2-1)の研磨パッドとのドレッシング条件とは、研磨パッドとして「P1用パッド」を使用する点、及びドレッサーとして「ダイヤモンドドレッサー(#1500:細かい固定砥粒)」を使用する点で相違している。
【0063】
(3)ドレッシング後の研磨パッドの観察結果(磁気ディスク基板の仕上げ研磨時:実施例1~9、比較例1,2)
実施例1~9:ドレッシング後のパッドを目視で観察したところ全面に均一な光沢あり。電子顕微鏡でパッドの表面を観察したところ、表面の開孔は全面に均一にある。
比較例1,2:ドレッシング後のパッドを目視で観察したところ面内に光沢ムラあり。電子顕微鏡でパッドの表面を観察したところ、表面の開孔にバラツキあり。
【0064】
(4―1)研磨条件(磁気ディスク基板の仕上げ研磨時:実施例1~9、比較例1,2)
上記条件(2-1)で研磨パッドのドレッシングを行った後、無電解ニッケル-リンめっきされた外径97mmのアルミニウム磁気ディスク基板を粗研磨した基板を一回の研磨で10枚、50回の研磨を実施し、計500枚を研磨した。
研磨機 :スピードファム株式会社製、9B両面研磨機
研磨パッド :株式会社FILWEL製 P2用パッド
定盤回転数 :上定盤 -6.7rpm
下定盤 20.0rpm
研磨圧力 :14kPa
研磨時間 :5分
研磨剤組成物供給量 :100ml/min
【0065】
なお、研磨剤組成物として、平均一次粒子径=21nmのコロイダルシリカ5.6質量%、硫酸0.8質量%、過酸化水素0.6質量%、純水93.0質量%を含有するスラリーを研磨に使用した。
【0066】
(4-2)研磨条件(磁気ディスク基板の粗研磨時:実施例10、比較例3)
上記条件(2-2)で研磨パッドのドレッシングを行った後、無電解ニッケル-リンめっきされた外径97mmのアルミニウム磁気ディスク基板を前段研磨、リンス、後段研磨の順に研磨を実施した。一回の研磨で10枚、50回の研磨を実施し、計500枚を研磨した。
【0067】
<前段研磨条件>
研磨機 :スピードファム株式会社製 9B両面研磨機
研磨パッド :株式会社FILWEL製 P1用パッド
定盤回転数 :上定盤 -7.5rpm
下定盤 22.5rpm
研磨剤組成物供給量 :100ml/min
研磨時間 :4.5min
加工圧力 :8kPa
なお、前段研磨では、研磨剤組成物Aとして、平均粒子径=0.4μmのα―アルミナ3.1質量%、中間アルミナ1.3質量%、硫酸1.5質量%、過酸化水素0.9質量%、純水93.2質量%を含有するスラリーを研磨に使用した。
【0068】
<リンス条件>
研磨機 :前段研磨条件と同じ
研磨パッド :前段研磨条件と同じ
定盤回転数 :前段研磨条件と同じ
リンス液供給量 :3L/min
リンス時間 :20sec
加工圧力 :1.5kPa
なお、リンス液には純水を使用した。
【0069】
<後段研磨条件>
研磨機 :前段研磨条件と同じ
研磨パッド :前段研磨条件と同じ
定盤回転数 :前段研磨条件と同じ
研磨剤組成物供給量 :100ml/min
研磨時間 :80sec
加工圧力 :8kPa
なお、後段研磨では、研磨剤組成物Bとして、平均粒子径=50nmのコロイダルシリカ4.0質量%、硫酸0.3質量%、過酸化水素0.3質量%、純水95.4質量%を含有するスラリーを研磨に使用した。
【0070】
(5)研磨後の基板評価方法
(5-1)短波長うねり
実施例1~9及び比較例1,2の短波長うねりを測定した。基板の短波長うねりは、アメテック株式会社製3次元光学プロファイラー New View 8300を使用して測定した。数値は一回の研磨で使用した10枚の基板のうち1枚2面の平均値である。
(短波長うねり)
レンズ :10倍 Mirau型
ZOOM :1.0倍
Measurement Type :Surface
Measure Mode :CSI
Scan Length :5μm
Camera Mode :1024×1024
Filter :Band Pass
Cut Off :Short 20.000μm
:Long 100.000μm
測定ポイント
半径 :30.00mm
角度 :10°毎に36点
【0071】
(5-2)長波長うねり
実施例10及び比較例3の長波長うねりを測定した。基板の長波長うねりは、アメテック株式会社製3次元光学プロファイラー New View 8300を使用して測定した。数値は一回の研磨で使用した10枚の基板のうち1枚2面の平均値である。
(長波長うねり)
レンズ :1.4倍 ZWF型
ZOOM :2.0倍
Measurement Type :Surface
Measure Mode :CSI
Scan Length :5μm
Camera Mode :1024×1024
Filter :Band Pass
Cut Off :Short 325.000μm
:Long 1300.000μm
測定ポイント
半径 :30.00mm
角度 :10°毎に36点
【0072】
(5-3)スクラッチ(磁気ディスク基板の仕上げ研磨時:実施例1~9、比較例1,2)
基板全表面欠陥検査機(株式会社日立ハイテクファインシステムズ社製、NS2000H)にてLスクラッチを測定した。数値は一回の研磨で使用した10枚の基板のうち5枚10面の平均値である。
Hi-Light 1、2 :890V
Scan Pitch :3μm
Inner/Outer Radius :15.5-48.0mm
Positive Level :100mV
Long Scratch Length :≧3000μm
【0073】
(5-4)スクラッチ(磁気ディスク基板の粗研磨時:実施例10、比較例3)
基板全表面欠陥検査機(株式会社日立ハイテクファインシステムズ社製、NS2000H)にてLスクラッチを測定した。数値は一回の研磨で使用した10枚の基板のうち5枚10面の平均値である。
Hi-Light 1、2 :830V
Scan Pitch :15μm
Inner/Outer Radius :15.5-48.0mm
Positive Level :100mV
Scratch Length :≧100μm
【0074】
(5-5)研磨結果
実施例1~9及び比較例1、2の研磨後の基板表面の短波長うねりとスクラッチを下記の表1に示した。更に、実施例10及び比較例3の研磨後の基板表面の長波長うねりとスクラッチを下記の表2に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
(6)考察
実施例1~9は、ドレッシング後のパッド表面全面に均一な光沢があり、全面がムラなく開孔していることを表している。一方、比較例1及び2は全面の光沢にムラがあり、開孔の程度にバラツキがある。
【0078】
実施例1~9の研磨後の基板表面のうねりとスクラッチは1回目の研磨から良好で50回目の研磨まで安定して良好である。比較例1の1回目の研磨はうねり、スクラッチともに悪く、50回目の研磨でスクラッチは実施例1~9と同等になるが、短波長うねりは実施例1~9よりも悪いレベルとなっている。比較例2の1回目の研磨は、比較例1に対して短波長うねりは改善されず、スクラッチは悪化している。
【0079】
実施例10の研磨後の基板表面の長波長うねりとスクラッチは、10回目の研磨から50回目の研磨までいずれの場合においても、比較例3の研磨後の基板表面の長波長うねりとスクラッチよりも良好な結果となっている。
【0080】
以上から、本発明のドレッシング用組成物を用いてドレッシングを行うことにより、研磨の初期段階から基板表面のうねりとスクラッチの良好な基板が得られ、従来の純水を用いた場合に比べて生産性が向上していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のドレッシング用組成物は、シリコン半導体、化合物半導体、SAWデバイス、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品、酸化物材料等のセラミック部品、ガラスレンズ、或いはプラスチックレンズ等の光学部品等の研磨に用いる研磨パッドのドレッシングに使用することができ、研磨パッドのドレッシングの中でも新しい研磨パッドの使用開始時に行われる研磨パッドのドレッシングに好適に使用することができる。
【0082】
特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板等の磁気記録媒体用基板の表面研磨に用いる研磨パッドのドレッシングに好適に使用することができる。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨及び粗研磨に用いる研磨パッドのドレッシングに好適に使用することができる。