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特開2024-108133炭酸カルシウムの製造方法及び炭酸カルシウム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108133
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法及び炭酸カルシウム
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
C01F11/18 B
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005798
(22)【出願日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2023011675
(32)【優先日】2023-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390036722
【氏名又は名称】神島化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 誠二
(72)【発明者】
【氏名】松村 徳之
(72)【発明者】
【氏名】竹中 大揮
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB24
4G076AB27
4G076BA34
4G076BD01
4G076CA02
4G076CA26
4G076CA27
4G076CA28
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の固定化に伴って得られる炭酸カルシウムの小粒径化、一次粒子径の均質化及び高分散性を達成し得る炭酸カルシウムの製造方法及び炭酸カルシウムを提供する。
【解決手段】海水、海水から水酸化マグネシウムを製造した後のカルシウムを含む利用水又はこれらの混合物と、アルカリ剤と、二酸化炭素を含むガスとをpH9以上11未満で接触させる工程を含む、炭酸カルシウムの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水、海水から水酸化マグネシウムを製造した後のカルシウムを含む利用水又はこれらの混合物と、アルカリ剤と、二酸化炭素を含むガスとをpH9以上11未満で接触させる工程を含む、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記海水、利用水又はこれらの混合物と、前記アルカリ剤と、前記ガスとを下記順序1)又は2)のいずれかで接触させる、請求項1に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
1)前記海水、利用水又はこれらの混合物と前記アルカリ剤とを接触させた後、さらに前記ガスを接触させる。
2)前記アルカリ剤と前記ガスとを接触させた後、さらに前記海水、利用水又はこれらの混合物を接触させる。
【請求項3】
前記アルカリ剤が、水酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムである、請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
前記接触工程の温度が50℃以下である、請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
前記海水、利用水又はこれらの混合物中のカルシウムの濃度が300ppm以上3000ppm以下である、請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
前記ガスは、燃焼機関からの排ガスである、請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
前記ガス中の二酸化炭素の濃度が1体積%以上20体積%以下である、請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項8】
前記炭酸カルシウムはカルサイトである、請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項9】
前記炭酸カルシウムのレーザー回折法による平均粒子径が5μm以下である、請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項10】
下記式で表される一次粒子径の変動係数が5%以上30%以下であり、レーザー回折法による平均粒子径が5μm以下であり、一次粒子の形状が球状多面体又は板状を有する、炭酸カルシウム。
変動係数=(σpri/dpri)×100
(式中、σpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の標準偏差(μm)であり、dpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値(μm)である。)
【請求項11】
下記式で表される単分散度が50%以上100%以下であり、レーザー回折法による平均粒子径が5μm以下であり、一次粒子の形状が球状多面体又は板状を有する、炭酸カルシウム。
単分散度=(dpri/dave)×100
(式中、dpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値(μm)であり、daveはレーザー回折法による平均粒子径(μm)である。)
【請求項12】
無機質成形体用である、請求項10又は11に記載の炭酸カルシウム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムの製造方法及び炭酸カルシウムに関する。
【背景技術】
【0002】
海水には、ミネラル成分が豊富に含まれており、例えば、マグネシウムは、約1300ppm含まれ、カルシウムは約400ppm含まれる。これらを有効に活用するために、海水に対してドロマイトなどを反応させることで水酸化マグネシウムを製造し、マグネシウムを分離回収する方法が知られている。
【0003】
上記のような方法によってマグネシウムを分離した後の海水(以下、「利用水」ともいう。)には、カルシウム成分が豊富に残留していることから、この残留したカルシウム成分を有効に利用する技術の開発が進められている。具体的には、利用水に含まれるカルシウム成分を利用して二酸化炭素を取り込むことで、カルシウム成分の工業的な応用を図るとともに、近年の地球温暖化などの問題に対し有効な手立てとされる二酸化炭素の排出量の削減に資する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7138256号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルシウム成分への二酸化炭素の取り込み(固定化)により得られる炭酸カルシウムの用途展開や高機能化を図るうえで、小粒径で一次粒子径のバラツキが少なく、かつ分散性の良好な炭酸カルシウムが求められる。
【0006】
本発明は、二酸化炭素の固定化に伴って得られる炭酸カルシウムの小粒径化、一次粒子径の均質化及び高分散性を達成し得る炭酸カルシウムの製造方法及び炭酸カルシウムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、以下の構成により、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、一実施形態において、海水、海水から水酸化マグネシウムを製造した後のカルシウムを含む利用水又はこれらの混合物(以下、海水、利用水及びこれらの混合物を合わせて「海水等」ともいう。)と、アルカリ剤と、二酸化炭素を含むガスとをpH9以上11未満で接触させる工程を含む、炭酸カルシウムの製造方法に関する。
【0009】
当該炭酸カルシウムの製造方法によれば、二酸化炭素を固定化させながら、小粒径で、一次粒子径にバラツキがなく、分散性が良好な炭酸カルシウムを製造することができる。この理由は定かではないものの、次のように推測される。前記接触工程において、アルカリ剤と二酸化炭素との接触により炭酸イオンが生成し、これと海水等中のカルシウム(カルシウムイオン)とが接触することで炭酸カルシウムの粒子が生成される。その際、pH9以上11未満という比較的穏やかなアルカリ条件で接触させることで、粒子の成長速度も緩やかになり、その結果、小粒径で粒子形状が整った炭酸カルシウムが得られると推察される。
【0010】
一実施形態において、前記海水、利用水又はこれらの混合物と、前記アルカリ剤と、前記ガスとを下記順序1)又は2)のいずれかで接触させることが好ましい。
1)前記海水、利用水又はこれらの混合物と前記アルカリ剤とを接触させた後、さらに前記ガスを接触させる。
2)前記アルカリ剤と前記ガスとを接触させた後、さらに前記海水、利用水又はこれらの混合物を接触させる。
【0011】
海水等、アルカリ剤及び二酸化炭素を含むガスの3成分を前記特定の順序1)又は2)のいずれかで接触させることで、炭酸イオンの生成及び炭酸カルシウムの粒子の成長を促進させることができる。
【0012】
一実施形態において、前記アルカリ剤は、水酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムであることが好ましい。これにより炭酸カルシウムの小粒径化をより効率的に達成することができる。
【0013】
一実施形態において、前記接触工程の温度は50℃以下であることが好ましい。これにより炭酸カルシウムをカルサイトとして製造することができ、炭酸カルシウムの用途や機能に応じた利用態様を提供することができる。
【0014】
一実施形態において、前記海水、利用水又はこれらの混合物中のカルシウムの濃度は、炭酸カルシウムの生成効率の点から、300ppm以上3000ppm以下であることが好ましい。
【0015】
一実施形態において、前記ガスは、燃焼機関からの排ガスであってもよい。
【0016】
一実施形態において、前記ガス中の二酸化炭素の濃度は、炭酸カルシウムの生成効率の点から、1体積%以上20体積%以下であることが好ましい。
【0017】
一実施形態において、前記炭酸カルシウムはカルサイトであってもよい。
【0018】
一実施形態において、前記炭酸カルシウムのレーザー回折法による平均粒子径が5μm以下であることが好ましい。これにより、炭酸カルシウムを含む製品の物性を向上させることができ、用途展開や高機能化を図ることができる。
【0019】
本発明は、一実施形態において、
下記式で表される一次粒子径の変動係数が5%以上30%以下であり、レーザー回折法による平均粒子径が5μm以下であり、一次粒子の形状が球状多面体又は板状を有する、炭酸カルシウムに関する。
変動係数=(σpri/dpri)×100
(式中、σpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の標準偏差(μm)であり、dpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値(μm)である。)
【0020】
本発明は、一実施形態において、
下記式で表される単分散度が50%以上100%以下であり、レーザー回折法による平均粒子径が5μm以下であり、一次粒子の形状が球状多面体又は板状を有する、炭酸カルシウムに関する。
単分散度=(dpri/dave)×100
(式中、dpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値(μm)であり、daveはレーザー回折法による平均粒子径(μm)である。)
【0021】
当該炭酸カルシウムは、前記のような特性を有することにより、それ自体の安定化や活性化、高機能化を図ることができ、当該炭酸カルシウムを利用する製品の用途展開を拡大することができる。当該炭酸カルシウムは、無機質成形体用として好適である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、効率良く二酸化炭素を固定化することができるとともに、小粒径で一次粒子径のバラツキが少なく、かつ分散性の良好な炭酸カルシウムの製造方法及び炭酸カルシウムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例1の炭酸カルシウムのSEM写真である。
図2】本発明の実施例2の炭酸カルシウムのSEM写真である。
図3】本発明の実施例3の炭酸カルシウムのSEM写真である。
図4】本発明の実施例4の炭酸カルシウムのSEM写真である。
図5】本発明の実施例5の炭酸カルシウムのSEM写真である。
図6】本発明の比較例1の炭酸カルシウムのSEM写真である。
図7】本発明の比較例2の炭酸カルシウムのSEM写真である。
図8】加熱試験器を模式的に示す一部透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態に係る炭酸カルシウムの製造方法及び炭酸カルシウムについて、以下に説明する。本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0025】
《炭酸カルシウムの製造方法》
本実施形態に係る炭酸カルシウムの製造方法は、海水、海水から水酸化マグネシウムを製造した後のカルシウムを含む利用水又はこれらの混合物と、アルカリ剤と、二酸化炭素を含むガスとをpH9以上11未満で接触させる工程を含む。当該製造方法は、他の工程を含んでいてもよい。
【0026】
<接触工程>
接触工程での3成分の接触順序は炭酸カルシウムが得られる限り特に限定されないものの、前記海水、利用水又はこれらの混合物と、前記アルカリ剤と、前記ガスとを下記順序1)又は2)のいずれかで接触させることが好ましい。
1)前記海水、利用水又はこれらの混合物と前記アルカリ剤とを接触させた後、さらに前記ガスを接触させる。
2)前記アルカリ剤と前記ガスとを接触させた後、さらに前記海水、利用水又はこれらの混合物を接触させる。
【0027】
以下、順序1)で接触させる態様を直接法、順序2)で接触させる態様を間接法として説明する。
【0028】
(直接法)
直接法では、海水等とアルカリ剤とを接触させた後、さらにガスを接触させることで、直接的に炭酸カルシウムを生成させる方法である。ここでの反応式は下記式(1)のとおりである。
Ca2++2OH+CO→CaCO+HO (1)
【0029】
海水は、例えば水酸化マグネシウムの製造工場等の近辺の海からそのまま汲み取って用いてもよく、ろ過等の処理を行ってから用いてもよい。汲み取りは、近海に限らず、海水が得られる限り任意の場所で行えばよい。
【0030】
利用水は、海水から水酸化マグネシウム(Mg(OH))を製造した後に排出される成分である。利用水は、例えば、水酸化マグネシウム製造工場から排出される。水酸化マグネシウムの製造の際には、海水に対しドロマイト焼成後の水和物あるいは消石灰を反応させる。反応後の利用水には、海水に比してカルシウム成分が豊富に存在する。この点で、当該製造方法においては利用水を用いることが好ましい。なお、製造された水酸化マグネシウムは、例えば排煙脱硫用の中和剤等として用いられる。
【0031】
海水等中のカルシウムの濃度の下限は、300ppmが好ましく、350ppmがより好ましく、380ppmがさらに好ましい。前記カルシウムの濃度の上限は、3000ppmが好ましく、2800ppmがより好ましく、2600ppmがさらに好ましい。カルシウムの濃度の下限は、主に海水に由来し、カルシウムの濃度の上限は、主に利用水に由来する。海水単独でのカルシウムの濃度の下限は、前記のとおり、300ppmが好ましく、350ppmがより好ましく、380ppmがさらに好ましい。海水単独での前記カルシウムの濃度の上限は、500ppmが好ましく、480ppmがより好ましく、450ppmがさらに好ましい。利用水単独でのカルシウムの濃度の下限は、1500ppmが好ましく、1800ppmがより好ましく、2000ppmがさらに好ましい。利用水単独でのカルシウムの濃度の上限は、前記のとおり、3000ppmが好ましく、2800ppmがより好ましく、2600ppmがさらに好ましい。ただし、これに限らず、海水等にカルシウム源(例えば、塩化カルシウム、硫酸カルシウム等)を追加したり、海水等を濃縮又は希釈したりしてカルシウム濃度を調整してもよい。
【0032】
アルカリ剤としては、接触工程でのpHを所定範囲内に調整し得る限り特に限定されず、例えば、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ土類金属又はアルカリ金属の水酸化物;酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化ナトリウム(NaO)、水酸化カリウム(KO)等のアルカリ土類金属又はアルカリ金属の酸化物;中性炭酸マグネシウム(MgCO・3HO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(NaCO)等の炭酸塩;石灰残渣、セメントスラッジ水、生セメントプラントの洗浄廃水、残セメント、廃セメント等の工業廃材等が挙げられる。中でも、pHを所定範囲内に調整しやすいアルカリ剤の種類としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、中性炭酸マグネシウムが好ましく、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムがより好ましく、水酸化マグネシウムがさらに好ましい。
【0033】
アルカリ剤は、市販合成品を用いてもよく、市販天然鉱物品を用いてもよく、工業廃棄物を用いてもよい。中でも、市販天然鉱物品や工業廃棄物は原料採掘から製造完了までの二酸化炭素の排出量が極めて少ない点で好ましい。アルカリ剤としての天然鉱物品の一例として、ブルーサイト鉱石(Mg(OH))等の微粉砕品(10μm以下)等が挙げられる。アルカリ剤としての工業廃棄物は、水酸化マグネシウムや酸化マグネシウムの製造工程や銘柄切り替え工程等で不可避的に生じる廃棄水酸化マグネシウム、廃棄酸化マグネシウムであることが好ましい。廃棄水酸化マグネシウムは、ろ過工程でのろ布漏れ品、スラリー輸送ポンプのグランドパッキンからの漏れ品、銘柄切り替え時の洗い品等が挙げられる。廃棄酸化マグネシウムは、ロータリーキルンの焼成粉塵(集塵)品や銘柄切り替え時の洗い品等が挙げられる。これらの工業廃棄物は、従来では廃棄物として廃棄されるものの、BET比表面積が10~200m/g、平均粒子径も10μm以下であり、反応活性が比較的高いことから、当該製造方法のアルカリ剤として有効利用することができる。アルカリ剤には、反応性や取り扱い性の点から、粉砕や破砕等の処理を行ってもよい。この処理は湿式又は乾式のいずれでもよい。
【0034】
直接法では、まず海水等とアルカリ剤とを接触させる。接触は、海水等にアルカリ剤を直接投入して行ってもよく、アルカリ剤を予め水等の溶媒に分散させてスラリー状にしておき、これを海水等に投入して行ってもよい。投入は一度に行ってもよく、多段階で行ってもよい。アルカリ剤が酸化物である場合、反応性の点から、水等に溶解ないし分散して水和させ、スラリー状にしてから投入することが好ましい。スラリー中のアルカリ剤の濃度は特に限定されず、10g/L以上500g/L以下の範囲が挙げられる。
【0035】
アルカリ剤の投入量は、上記反応式(1)に従い、海水等中のカルシウムイオン量との反応に必要な水酸化物イオン量が得られ、かつ接触工程のpHが所定範囲となるように設定すれば特に限定されない。例えば、アルカリ剤が水酸化マグネシウム(Mg(OH))である場合、アルカリ剤中のMgの海水等中のCa2+に対するモル比(Mg/Ca2+)は、1.0以下が好ましく、0.9以上1.0以下がより好ましく、0.95以上1.0以下がさらに好ましい。前記モル比は1.0、すなわち等モル量であることが特に好ましい。モル比を前記範囲とすることで、アルカリ剤中のMgの反応物の共沈を抑制し、純度の高い炭酸カルシウムを製造することができる。Ca2+濃度が2500ppmである利用水10Lに対する水酸化マグネシウムの投入量としては、32.7g以上36.4g以下が好ましく、34.5g以上36.4g以下がより好ましい。また、アルカリ剤が酸化マグネシウム(MgO)である場合、アルカリ剤中のMgの海水等中のCa2+に対するモル比(Mg/Ca2+)は、水酸化マグネシウムの場合と同じ範囲を好適に採用することができる。Ca2+濃度が400ppmである海水10Lに対する酸化マグネシウムの投入量としては、3.6g以上4.0g以下が好ましく、3.8g以上4.0g以下がより好ましい。アルカリ剤が水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウム以外の場合であっても、同様の考えに基づき投入量を設定すればよい。
【0036】
当該製造方法においては、海水等とアルカリ剤とを接触させた際にpH9以上11未満となる。pHの下限は、9.2が好ましく、9.4がより好ましく、9.6がさらに好ましく、9.8が特に好ましい。pHの上限は、10.9が好ましく、10.8がより好ましく、10.6がさらに好ましく、10.4がなおさらに好ましく、10.2が特に好ましい。
【0037】
海水等とアルカリ剤とを接触させた際の温度は特に限定されず、汲み取った海水の温度のままでもよく、しばらく静置した常温でもよく、加温してもよい。前記温度は50℃以下が好ましく、0℃以上30℃以下の範囲が好ましい。前記温度を50℃以下とすることで、炭酸カルシウムを小粒径で分散性の良好なカルサイトとして製造することができる。反応性や効率性の点から常温前後が好ましく、10℃以上30℃以下がより好ましく、15℃以上28℃以下がさらに好ましい。
【0038】
直接法で接触させるガスとしては、二酸化炭素を含む限り特に限定されない。ガスとして、例えば、ボイラー、火力発電所(石油、石炭、液化天然ガス(LNG)などの化石燃料、あるいはバイオマス等の燃焼熱を利用する発電所)、高炉等の燃焼機関からの排ガス、乾燥機からの排ガス等を好適に用いることができる。二酸化炭素の濃度が高く、接触工程での炭酸カルシウムの生成効率が良好である点から、ガスとしては燃焼機関からの排ガスが好ましい。ガス中の二酸化炭素の濃度の下限は、1体積%が好ましく、2体積%が好ましく、5体積%がさらに好ましく、8体積%が特に好ましい。前記濃度の上限は高いほど好ましいものの、30体積%であってもよく、20体積%であってもよく、15体積%であってもく、12体積%であってもよい。当該製造方法によれば、二酸化炭素の固定化による排出量の削減のみならず、炭酸カルシウムの製造という工業的利用を促進することができる。
【0039】
直接法でのガスの接触は、アルカリ剤と接触させた海水等に吹き込む(バブリングする)ことで行うことができる。ガスの流速及び吹き込み時間は、二酸化炭素の濃度や反応効率、反応式(1)の炭酸化反応の進行度を考慮して適宜設定することができる。例えば、海水等10Lに対し、ガスの流速としては、0.5L/min以上30.0L/min以下が好ましく、2.0L/min以上25.0L/min以下がより好ましく、3.0L/min以上20.0L/min以下がさらに好ましい。海水中のCa2+が炭酸カルシウムとして完全析出するまでの必要とする理論的なモル数以上のCOを導入すればよく、ガスの最低吹き込み時間は、海水等のCa2+濃度と使用量および排ガス中のCO濃度で決定される。例えば、Ca2+濃度が2500ppmである利用水10Lに対して排ガス中濃度が10体積%のCOを5.0L/minで吹き込む場合、0.5時間以上の吹き込み時間が必要とされる。さらに、1.0時間以上8.0時間以下がより好ましく、2.0時間以上6.0時間以下がさらに好ましい。
【0040】
以上の接触工程を経ることで、小粒径で一次粒子径のバラツキが少なく、かつ分散性の良好な炭酸カルシウムを製造することができる。得られた炭酸カルシウムには、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕、分級等を行ってもよい。
【0041】
(間接法)
間接法では、アルカリ剤とガスとを接触させることで、一旦、アルカリ剤の炭酸塩(炭酸イオン)を生成させた後、さらに海水等を接触させることで、間接的に炭酸カルシウムを生成させる方法である。ここでの反応式は下記式(2-1)及び(2-2)のとおりである。
2OH+CO→CO 2-+HO (2-1)
Ca2++CO 2-→CaCO (2-2)
【0042】
間接法では、アルカリ剤とガス(二酸化炭素)とを接触させて炭酸塩(炭酸イオン)を生成し、それと海水等のカルシウム(カルシウムイオン)とを接触させて塩交換を行うことで炭酸カルシウムを製造する。以下、間接法について直接法と異なる部分を説明する。
【0043】
アルカリ剤とガスとの接触(反応式(2-1))は、アルカリ剤を水等の溶媒に溶解又は分散させてスラリー又は溶液(以下、合わせて「スラリー等」ともいう。)にしておき、このスラリー等にガスを吹き込む(バブリング)することで行うことができる。スラリー等中のアルカリ剤の濃度は特に限定されず、10g/L以上100g/L以下の範囲から適宜設定することができる。
【0044】
ガスの流速及び吹き込み時間は、二酸化炭素の濃度や反応効率、反応式(2-1)の炭酸塩(炭酸イオン)生成反応の進行度を考慮して適宜設定することができる。例えば、スラリー等10Lに対し、ガスの流速としては、1.0L/min以上30.0L/min以下が好ましく、2.0L/min以上25.0L/min以下がより好ましく、3.0L/min以上20.0L/min以下がさらに好ましい。吹き込み時間は、0.5時間以上8.0時間以下が好ましく、1.0時間以上6.0時間以下がより好ましく、2.0時間以上4.0時間以下がさらに好ましい。
【0045】
例えば、アルカリ剤が水酸化マグネシウム(Mg(OH))である場合、反応式(2-1)の反応を経て炭酸塩として中性炭酸マグネシウム(MgCO・3HO)のスラリーが得られる。得られた中性炭酸マグネシウムのスラリーをそのまま反応式(2-2)の反応に供してもよいものの、反応活性を向上させるために湿式粉砕処理等の小径化処理を行ってから、反応式(2-2)の反応に供することが好ましい。湿式粉砕処理は、ボールミル等の従来公知の方法により行うことができる。小径化処理は反応式(2-1)を経て得られる炭酸塩の形状やサイズ等に応じて適宜行えばよい。
【0046】
次いで、炭酸塩と海水等とを接触させる(反応式(2-2))。接触は、海水等に炭酸塩のスラリー等を投入して行ってもよく、スラリー等に海水等を投入して行ってもよい。炭酸塩の投入量は、上記反応式(2-2)に従い、海水等中のカルシウムイオン量との反応に必要な炭酸イオン量が得られ、かつ投入後のpHが所定範囲となるように設定すれば特に限定されない。例えば、炭酸塩が中性炭酸マグネシウムである場合、炭酸塩中Mgの海水等中Ca2+に対するモル比(Mg/Ca2+)は、1.0以下が好ましく、0.9以上1.0以下がより好ましく、0.95以上1.0以下がさらに好ましい。前記モル比は1.0、すなわち等モル量であることが特に好ましい。モル比を前記範囲とすることで、炭酸塩中Mgの反応物共沈を抑制し、純度の高い炭酸カルシウムを製造することができる。Ca2+濃度が2500ppmである利用水10Lに対する中性炭酸マグネシウムの投入量としては、77.6g以上86.2g以下が好ましく、81.9g以上86.2g以下がより好ましい。
【0047】
炭酸塩と海水等との接触の際のpHは、接触直後においてpH9以上11未満となることが好ましい。pHの下限は、9.1が好ましく、9.2がより好ましい。pHの上限は、10.0が好ましく、9.8がより好ましく、9.6がさらに好ましく、9.4が特に好ましい。
【0048】
炭酸塩と海水等との接触による塩交換反応は比較的速やかに進行する。反応時間は、前記塩交換反応が十分進行する程度に設定すればよく、0.1時間以上に設定でき、0.5時間以上8.0時間以下が好ましく、1.0時間以上6.0時間以下がより好ましい。
【0049】
《炭酸カルシウム》
以下、炭酸カルシウムの各側面について説明する。以下のような特徴を有する炭酸カルシウムは、前記炭酸カルシウムの製造方法により効率良く製造することができる。なお、以下に示される電子顕微鏡画像による一次粒子径の標準偏差、電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値、レーザー回折法による平均粒子径及び一次粒子の形状の測定又は評価方法は、実施例の記載による。
【0050】
(第一態様)
当該炭酸カルシウムについて、下記式で表される一次粒子径の変動係数が5%以上30%以下であり、レーザー回折法による平均粒子径が5μm以下であり、一次粒子の形状が球状多面体又は板状を有する。
変動係数=(σpri/dpri)×100
(式中、σpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の標準偏差(μm)であり、dpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値(μm)である。)
【0051】
前記変動係数の下限は、6%が好ましく、7%がより好ましく、8%がさらに好ましい。前記変動係数の上限は、28%が好ましく、26%がより好ましく、25%がさらに好ましい。
【0052】
前記電子顕微鏡画像による一次粒子径の標準偏差の下限は、0.10μmが好ましく、0.12μmがより好ましく、0.14μmがさらに好ましい。前記一次粒子径の標準偏差の上限は、0.95μmが好ましく、0.90μmがより好ましく、0.85μmがさらに好ましい。
【0053】
前記電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値の下限は、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、0.8μmがさらに好ましい。前記一次粒子径の平均値の上限は、5.0μmが好ましく、4.5μmがより好ましく、4.0μmがさらに好ましい。
【0054】
前記レーザー回折法による平均粒子径の下限は、0.5μmが好ましく、1.0μmがより好ましく、1.5μmがさらに好ましい。前記レーザー回折法による平均粒子径の上限は、4.8μmが好ましく、4.6μmがより好ましく、4.0μmがさらに好ましい。
【0055】
前記一次粒子の形状は球状多面体又は板状である。球状多面体とは、全体としては球状であるものの、表面が球面ではなく、多角形平面が組み合わされて形成されたような形状をいう。
【0056】
(第二態様)
当該炭酸カルシウムについて、下記式で表される単分散度が50%以上100%以下であり、レーザー回折法による平均粒子径が5μm以下であり、一次粒子の形状が球状多面体又は板状を有する。
単分散度=(dpri/dave)×100
(式中、dpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値(μm)であり、daveはレーザー回折法による平均粒子径(μm)である。)
【0057】
前記単分散度の下限は、55%が好ましく、60%がより好ましい。前記単分散度の上限は、100%が好ましく、98%がより好ましい。
【0058】
第二態様について、電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値、レーザー回折法による平均粒子径及び一次粒子の形状は、第一態様についての値や形状を好適に採用することができる。
【0059】
(第一態様及び第二態様の共通事項)
前記炭酸カルシウムの結晶構造としてはカルサイト、アラゴナイトが挙げられるものの、カルサイトであることが好ましい。
【0060】
炭酸カルシウムのBET比表面積は2m/g以上20m/g以下が好ましく、3m/g以上18m/g以下がより好ましく、4m/g以上15m/g以下がさらに好ましい。
【0061】
前記炭酸カルシウムについてのP漏斗流下時間は、7秒以上10秒以下であることが好ましく、7.5秒以上9.8秒以下であることがより好ましく、8秒以上9.5秒以下であることがさらに好ましい。当該炭酸カルシウムは分散性に優れていることから、特にコンクリート用途において優れた流動性を発揮することができる。
【0062】
炭酸カルシウムの用途は特に限定されず、樹脂用フィラー、無機質成形体用配合剤(コンクリート建造物用(セメント用)骨材、建材用配合剤)、シーリング材用増粘剤等が挙げられる。炭酸カルシウムを配合することで、これらの製品の用途展開や高機能化を図ることができる。
【0063】
前記樹脂として、特に制限されないものの、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。前記熱可塑性樹脂として、特に制限されないものの、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸メチル・メタクリル酸メチルコポリマー等の(メタ)アクリル酸エステル類の単独重合体又は共重合体等のアクリル樹脂;高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、EVA(エチレンビニルアセテート樹脂)、EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)、EMA(エチレンアクリル酸メチル共重合樹脂)、EAA(エチレンアクリル酸共重合樹脂)、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン樹脂(PE);ポリプロピレンホモポリマー、エチレンプロピレン共重合体等のポリプロピレン樹脂(PP);ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー);ポリスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフェニレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等の各種ナイロンを含むポリアミド樹脂が挙げられる。これら樹脂は単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0064】
(コンクリート建造物用(セメント用)骨材)
コンクリート建造物は、水硬性組成物の硬化体で構成されている。水硬性組成物は、炭酸カルシウムに加えて、高炉スラグ、膨張材、消石灰、生石灰、フライアッシュおよびポルトランドセメントのうちの少なくとも1種類とを含む粉体からなる。炭酸カルシウムとしては、前述の炭酸カルシウムを好適に採用することができる。
【0065】
上記水硬性組成物に加えて、砂や砂利等の骨材、コンクリート用化学混和剤等の薬剤、金属や高分子材料による繊維材料などを配合して水硬性組成物混合材料としてもよい。
【0066】
水硬性組成物の硬化体は、上記水硬性組成物に水を混練して得たペーストを硬化させたものである。また、水硬性組成物混合材料の硬化体は、上記水硬性組成物混合材料に水を混練して得た混練物(フレッシュモルタルやフレッシュコンクリートに相当)を硬化させたものであり、モルタルやコンクリートに相当するものである。
【0067】
炭酸カルシウムの前記粉体中の割合(セメントに対する炭酸カルシウムの割合)は、1質量%~60質量%の範囲内、好ましくは3質量%~50質量%、さらに好ましくは5質量%~40質量%の範囲内である。
【0068】
高炉スラグには、JIS(日本工業規格)R5211「高炉セメント」で使用される高炉スラグ微粉末またはJIS A6206「コンクリート用高炉スラグ」に適合する高炉スラグ微粉末を使用するのが望ましい。また、高炉スラグは、比表面積が2000~10000cm/gのもの、好ましくは3500~7000cm/gのものを使用するのが望ましい。
【0069】
膨張材には、例えば、JIS A6202「コンクリート用膨張材」に規定される膨張材を使用すればよい。膨張材は、水硬性組成物全体に対して2~9質量%割合で添加するのが望ましい。
【0070】
消石灰には、例えば、JIS R9001「工業用石灰」に規定されるものを使用すればよい。また、生石灰は水と接触すると消石灰になるため、例えば、JIS R9001「工業用石灰」に規定される生石灰を消石灰の代わりに使用することができる。なお、この場合には、生石灰が消石灰に変化する際に必要な水の量を補正しておくとよい。
フライアッシュには、例えばJIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に適合するものを使用すればよい。
【0071】
ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメントを使用するが、ポルトランドセメントには、この他、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等、JIS R5210「ポルトランドセメント」において規定されるもの、およびJIS R5214「エコセメント」も使用可能である。
【0072】
水硬性組成物中にポルトランドセメントを含む場合には、炭酸カルシウム以外の粉体中のポルトランドセメントの割合を70質量%以下とし、30質量%以下とすることが好ましい。
【0073】
また、ポルトランドセメントと、高炉スラグまたはフライアッシュを用いる場合には、当該成分を予め混合してある、例えばJIS R5211「高炉セメント」、または、例えばJIS R5213「フライアッシュセメント」をそれぞれ単独で、あるいは混合して用いてもよい。
【0074】
前記特徴を有する炭酸カルシウムを用いているので、水硬性組成物や水硬性組成物混合材料は良好な流動性を示すとともに、そのコンクリート硬化体は優れた圧縮強度を発揮することができる。
【0075】
前記コンクリート建造物の密度は、0.7g/cm以上2.0g/cm以下であることが好ましく、0.8g/cm以上1.8g/cm以下であることがより好ましく、0.9g/cm以上1.6g/cm以下であることがさらに好ましい。
【0076】
(建材用配合剤)
建材としては、建材用成形板が好ましい。成形板は、好ましくは、水硬性材料、珪酸質材料、補強繊維材料、炭酸カルシウムを含む。
【0077】
(水硬性材料)
水硬性材料としては、セメント質材料、石膏、石灰、スラグ等が挙げられる。セメント質材料としては、一般的に使用されるセメント、例えば、普通ポルトランドセメント、早強セメント、中庸熱セメント、フライアッシュセメント、高炉スラグセメント及びアルミナセメントが挙げられる。石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏等が挙げられる。スラグとしては、高炉スラグ、転炉スラグ等が挙げられる。これらの水硬性材料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
水硬性材料の含有量は、成形板を構成する材料の全量を基準として、5質量%以上45質量%以下が好ましく、8質量%以上42質量%以下がより好ましく、10質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。水硬性材料の含有量を前記範囲内とすることで、成形板の曲げ強度や剥離強さ等の物性を向上させることができるとともに、成形板の高嵩比重化を抑制して施工時の作業性等を高めることができる。
【0079】
(珪酸質材料)
珪酸質材料としては、例えば、珪砂、珪石粉、シリカヒューム、フライアッシュ、珪藻土、層状ケイ酸塩(例えば、マイカ、タルク、カオリン、ベントナイト)、パーライト、ワラストナイト、軽量骨材(例えばフライアッシュバルーン、パーライト、シラスバルーン、ガラス発泡体等)、等のSiOを多く含む材料が挙げられる。これらの珪酸質材料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。タルクやマイカ、ワラストナイトは後述の補強繊維材料としても用いることができる。
【0080】
珪酸質材料の含有量は、成形板を構成する材料の全量を基準として、10質量%以上55質量%以下が好ましく、12質量%以上50質量%以下がより好ましく、15質量%以上45質量%以下がさらに好ましい。珪酸質材料の含有量が前記範囲にあれば、成形板の曲げ強さ、嵩比重、吸水率、寸法安定性等を目的の範囲に設定することが可能となる。なお、珪酸質材料として、パーライト、フライアッシュバルーン、シラスバルーン等の単位容積質量が0.5g/cm以下の軽量骨材を配合する場合、嵩比重が軽くなりすぎ、曲げ強さや剥離強さ等の強度が弱くなることを防ぐため、成形板を構成する材料の全量を基準として、軽量骨材の含有量が20質量%以下となるよう、他の珪酸質材料を併用することが好ましい。
【0081】
(補強繊維材料)
補強繊維材料としては、例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、これらをフィブリル化したパルプ、古紙を解繊したパルプ等のパルプ類、ビニロン繊維、アクリロニトリル繊維、ポリプロピレン繊維等の有機補強繊維材料、ロックウール、ガラス繊維等の無機補強繊維材料を使用することができる。これらの補強繊維材料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0082】
成形板の強度の向上、靭性の付与のため、補強繊維材料の含有量は、成形板を構成する材料の全量を基準として、2質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上26質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上22質量%以下であることがさらに好ましい。補強繊維材料の含有量を前記範囲内とすることで、十分な補強効果を発揮しつつ、成形板表面に繊維が突出することを抑制して平滑性を向上させることができる。平均長が1mm~50mmの無機補強繊維材料を補強繊維材料として配合する場合は、成形板の平滑性を良好にするために、成形板を構成する材料の全量を基準として、その含有量が10質量%以下となるように他の補強繊維材料を併用することが好ましい。
【0083】
(炭酸カルシウム)
炭酸カルシウムとしては、上述の炭酸カルシウムを好適に採用することができる。
【0084】
炭酸カルシウムの含有量は、成形板を構成する材料の全量を基準として、5質量%以上60質量%以下が好ましく、8質量%以上55質量%以下がより好ましく、12質量%以上50質量%以下がさらに好ましい。低熱伝導性の炭酸カルシウムを前記範囲の含有量で配合することにより、成形板の強度や耐火性を向上させることができる
【0085】
(任意成分)
成形板には、前記材料の他に、様々な機能を付与するために、樹脂中空体、木片、木粉、樹脂粉末、消泡剤、凝集剤、撥水剤、増粘剤(メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、分散剤等の材料を、目的に応じて種々配合することが可能である。また、成形板を加工する際に発生する端材等を粉砕したリサイクル材を適宜添加して使用することも可能である。
【0086】
前記成形板のかさ密度は、0.7g/cm以上2.0g/cm以下であることが好ましく、0.8g/cm以上1.8g/cm以下であることがより好ましく、0.9g/cm以上1.6g/cm以下であることがさらに好ましい。
【0087】
(成形板の製造方法)
本実施形態に係る成形板の製造方法については特に限定はされず、一般的に用いられている抄造法、押出成形法、フローオン成形法、流し込み成形法、プレス(圧縮)成形等を用いることができる。成形板は、これらの方法で成形したグリーンシートをプレス脱水またはエンボス等による柄付け加工した後、常温養生、蒸気養生、オートクレーブ養生等で養生して得ることが可能である。さらに、乾燥を行い、必要に応じて形状加工や塗装を行ってもよい。
【0088】
(成形板の用途)
成形板の用途は特に限定されず、築壁材、床材、屋根材、各種ボード、外部装飾部材、建具等の内外装仕上げ材、シール材、断熱材、吸音材、防水用材等の性能維持材として好適に用いることができる。成形板は、セメント質材料を含むセメント系成形板であることが好ましく、けい酸カルシウム成形体がより好ましい。
【実施例0089】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、物性等の測定と評価は、次のようにして行なった。
【0090】
[海水及び利用水の分析]
神島化学工業株式会社近郊の瀬戸内海で採取した海水、及び、同社の水酸化マグネシウムの製造工程から排出される利用水のそれぞれの成分およびpHを分析した結果を表1に示す。ここで利用水とは、海水中に約1300ppm含有するMg2+とアルカリ剤(水酸化カルシウム等)とを反応させて水酸化マグネシウム「Mg(OH)」を析出・回収した残りの上澄み液のことである。海水及び利用水中の成分分析は、Ca2+をICP-AES法(日立ハイテクサイエンス(株)製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPECTROBLUE FMS36型)で測定した。また、海水及び利用水のpHはpHメータ(東亜DKK(株)製、本体:マルチ水質計MM-43X、pH電極:GST5841C型)を用いて測定した。
【0091】
【表1】
【0092】
[原料、炭酸カルシウム(フィラー)、及び樹脂組成物の評価]
実施例及び比較例で得られた炭酸カルシウム等について、以下のような分析を行った。各分析結果を表2~3及び図1~7に示す。
【0093】
(1)BET比表面積
8連式プリヒートユニット(MOUNTECH社製)を用いて窒素ガス雰囲気下、約130℃、約30分間で前処理した試料粉末を、BET比表面積測定装置としてMacsorb HM Model-1208(MOUNTECH社製)を用いて、窒素ガス吸着法で、BET比表面積(m/g)を測定した。
【0094】
(2)レーザー回折法による平均粒子径
エタノール50mLを100mL容量のビーカーに採り、約0.2gの試料粉末を入れ、3分間の超音波処理(トミー精工社製 UD-201)を施して分散液を調製した。この調製液をレーザー回折法-粒度分布計(日機装株式会社製 Microtrac HRA Model 9320-X100)を用いて、体積基準のD50値を平均粒子径(μm)として、測定した。
【0095】
(3)XRD測定
所定の試料台に試料粉末をスパチュラのヘラで圧粉固着させた後、XRD装置(リガク株式会社製MiniFlex600-C)を用いて測定を行い、結晶物質としての同定解析を行った。
【0096】
(4)走査電子顕微鏡
アルミ試料台上に両面テープを貼り付け、その上から試料粉末をスパチュラのヘラでなぞるように塗布した。白金蒸着を行った後、試料粉末の粒子像を走査電子顕微鏡(FE-SEM:日立製作所株式会社製S-4700)を用いて5千倍の写真を撮った。図1図7にSEM写真を示す。
【0097】
(5)変動係数の測定
前記(4)で得られたSEM写真について、画像解析ソフト(Image J)を用いて、写真中の粒子20個を無作為に選択し、一次粒子径(一次粒子の最長径)の平均値(dpri)及び標準偏差(σpri)を求めた。ここで、一次粒子の最長径は、測定対象粒子の寸法を各方角から測定して、粒子の寸法が最も大きくなる方向の粒子の寸法(即ち、最長径)とした。さらに、下記式により、一次粒子径の変動係数を求めた。
変動係数=(σpri/dpri)×100
(式中、σpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の標準偏差(μm)であり、dpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値(μm)である。)
【0098】
(6)単分散度の測定
前記(4)で得られたSEM写真について、画像解析ソフト(Image J)を用いて、写真中の粒子20個を無作為に選択し、一次粒子径(一次粒子の最長径)の平均値を求めた。さらに、(2)レーザー回折法による平均粒子径とともに単分散度を下記式にて求めた。
単分散度=(dpri/dave)×100
(式中、dpriは電子顕微鏡画像による一次粒子径の平均値(μm)であり、daveはレーザー回折法による平均粒子径(μm)である。)
【0099】
(7)曲げ試験(曲げ応力、弾性率)
ポリオレフィン樹脂としてPP(ポリプロピレン)樹脂(商品名:BC-6D、メーカー:日本ポリプロ株式会社)を用いた。PP樹脂100質量部に対して、後述の炭酸カルシウム(フィラー)の粉末20質量部を、ラボプラストミル(東洋精機製)により、180℃で5分間溶融混練して得た混練物を180℃でプレス成型して、厚み3mmのシート成形体を作成した。このシート成形体から短冊状に打ち抜いた試験片(長さ120mm、幅13mm)を用いて、3点曲げ試験(JIS-K-7171)に準拠して、曲げ最大応力と弾性率を測定した。目標値は、曲げ応力で33N/mm以上、弾性率で1400N/mm以上とした。
【0100】
[実施例1]
神島化学工業株式会社内で排出される利用水6Lを、邪魔板付き8L容量SUS容器に入れ、室温25℃下で、タービン翼を1段備えた攪拌機を用いて回転速度350rpmで攪拌した。攪拌下に同社内で発生する廃棄水酸化マグネシウム「Mg(OH)」の粉末(BET比表面積:38m/g、平均粒子径:3.5μm)を21.8g添加し(Mg/Ca2+モル比:1.0)、その直後にpHメータで測定したところ、pH値は10.1を示した。LNGを燃料とする水蒸気製造用ボイラーの排気出口に排ガス取り出し用配管を繋げ、ラボ用ブロアーを用いて排気ガスを引き込みながら、CO濃度測定器(新コスモス電機株式会社製XP-3140)で測定したところ、CO濃度は10体積%を示した。前述した8L容量SUS容器内にラボ用ブロアーを用いて速度3.3L/minで排ガス導入して4時間反応させた。その後、ろ過、固形分の約5倍の水で洗浄し、110℃で12時間乾燥し、生成物の試料粉末を得た。
【0101】
[実施例2]
神島化学工業株式会社近郊の瀬戸内海で採取した海水38Lを邪魔板付き50L容量SUS容器に入れた後、同社内で発生する廃棄酸化マグネシウム「MgO」の集塵粉末(BET比表面積:75m/g、平均粒子径:3.3μm)15.0gを純水200mLに分散させたスラリーを添加し(Mg/Ca2+モル比:1.0)、その直後のpH値は10.0を示した。それ以外は、実施例1と同様な操作を行って生成物の試料粉末を得た。
【0102】
[実施例3]
LPGを燃料とする熱風乾燥機の排気出口に排ガス取り出し用配管を繋げ、ラボ用ブロアーを用いて排気ガスを引き込みながら、CO濃度検知管(株式会社ガステック製No.2H)で測定したところ、CO濃度は2体積%を示した。前述した8L容量SUS容器内にラボ用ブロアーを用いて速度15.3L/minで排ガス導入したこと以外は、実施例1と同様な操作を行って生成物の試料粉末を得た。
【0103】
[実施例4]
同社内で発生する廃棄水酸化マグネシウム「Mg(OH)」の粉末の165.3gを純水6Lに分散させたスラリーを邪魔板付き8L容量SUS容器に入れ、室温25℃下で、ラボ用ブロアーを用いて速度3.3L/minで排ガス導入し、120分間反応させて中性炭酸マグネシウム(MgCO・3HO)のスラリーを得た。このスラリー1Lを直径8mmφのジルコニアボールが1kg充填された4L容量ポットミルに投入し、回転数90rpmで24時間湿式粉砕した。湿式粉砕後のスラリーの一部をろ過、乾燥して得られた中性炭酸マグネシウムのBET比表面積は21m/g、平均粒子径は7.8μmであった。前記した8L容量SUS容器に利用水6Lと、前記した湿式粉砕後の中性炭酸マグネシウムのスラリーを「MgCO・3HO」分が51.7gとなるように添加した。その直後のpH値は9.3を示した。その後、撹拌を1時間行って反応を完了させたこと以外は、実施例1と同様な操作を行って生成物の試料粉末を得た。
【0104】
[実施例5]
天然鉱物であるブルーサイト鉱石の粗砕品(2mmアンダー品)を250gおよび純水1Lを、直径8mmφのジルコニアボールが1kg充填された4L容量ポットミルに投入し、回転数90rpmで24時間湿式粉砕した。湿式粉砕後のスラリーの一部をろ過、乾燥して得られたブルーサイトのBET比表面積は15m/g、平均粒子径は3.8μmであった。前記した8L容量SUS容器に利用水6Lと、前記した湿式粉砕後のブルーサイトのスラリーを「Mg(OH)」分が22.0gとなるように添加した。その直後のpH値は10.6を示した。それ以外は、実施例1と同様な操作を行って生成物の試料粉末を得た。
【0105】
[比較例1]
同社内で排出される利用水6Lを、邪魔板付き8L容量SUS容器に入れ、さらに同社内で発生する生石灰水和滓「Ca(OH)」(生石灰を水和した後の45μm篩別オーバーした滓、BET比表面積:14m/g、平均粒子径:50μm)を27.7g添加し混合した(Ca/Ca2+モル比:1.0)。その直後のpH値は12.6を示した。それ以外は、実施例1と同様な操作を行って生成物の試料粉末を得た。
【0106】
[比較例2]
消石灰粉末をCaO換算で6980g、アラゴナイトの種結晶粉末を630g、および、リン酸水素二ナトリウム・12水和物を500g準備し、それぞれ水180Lを予め張った邪魔板付き220L容量SUS容器内に撹拌下に投入して原料の混合スラリーを調製した。その後70℃まで昇温し、その温度下でタービン翼を1段備えた攪拌機を用いて回転速度150rpmで攪拌した。LNGを燃料とする水蒸気製造用ボイラーの排気出口に排ガス取り出し用配管を繋げ、試験用ブロアーを用いて排気ガスを引き込みながら、CO濃度測定器(新コスモス電機株式会社製XP-3140)で測定したところ、CO濃度は10体積%を示した。前述した220L容量SUS容器内に試験用ブロアーを用いて速度100L/minで排ガス導入して7時間反応させた。その後、ろ過し、固形分に対して約5倍の水で洗浄し、110℃で24時間乾燥、粉砕し、生成物の試料粉末を得た。
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
表2及び表3に示すように、実施例で得られた炭酸カルシウムは比較例より小粒径で、一次粒子径のバラツキが少なく、かつ分散性が良好であったことが分かる。また、炭酸カルシウムをフィラーとして配合した樹脂組成物の物性についても比較例より向上したことが分かる。
【0110】
≪コンクリート用途の評価≫
実施例1(球状多面体)及び比較例2(針状)の炭酸カルシウムを用い、P漏斗流下時間の測定、並びにセメント成形体の製造及び圧縮強度試験を行った。結果を表5に示す。なお、表5中、「-」は評価を行えなったことを示す。下表中、表5を除き、「-」は該当する成分を用いなかったことを示す。
【0111】
<P漏斗流下時間>
(調製例1)セメントミルク1の作製
セメント(トクヤマ社製、「普通ポルトランドセメント(N)」)2kgを水1600mLに20秒程度で投入し、投入開始から3分間撹拌機(ヤマト科学株式会社製、「ラボスターラ(LR500B)」)で混合した。撹拌を停止し3分間静置した後、人手で攪拌棒(アズワン株式会社製、「攪拌棒(POM製)φ10×300mm」)により10回かき混ぜてセメントミルク1を作製した。
【0112】
(調製例2~7)セメントミルク2~7の作製
下記表4に示す種類及び量の炭酸カルシウムを水1600mLに投入し、人手で前記攪拌棒により30秒程度撹拌した後、前記撹拌機を用いて400rpmで撹拌して混合物を得た。この混合物にセメント(トクヤマ社製、「普通ポルトランドセメント(N)」)2kgを20秒程度で投入し、投入開始から3分間前記撹拌機で混合した。撹拌を停止し3分間静置した後、人手で前記攪拌棒により10回かき混ぜてセメントミルク2~7を作製した。
【0113】
【表4】
【0114】
<P漏斗流下時間試験方法>
「プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)」(JSCE-F521-1999)に準拠して、P漏斗流下時間を測定した。P漏斗の排出口を指で押さえ、P漏斗の標線まで前記調製した各セメントミルクを注ぎ(1750ml)、タイムウォッチで指を離すと同時に測定を始め、P漏斗からセメントミルクが排出されるまでの時間を測定した。
【0115】
<セメント成形体の製造>
[実施例6-1]
円柱状のポリエチレン袋(直径約50mm×長さ約550mm×厚さ約0.05mm)の標線まで前記調製したセメントミルク1を400mL注ぎ込んだ。空気を可能な限り注入して封をした後、22℃に設定した恒温機内に吊り下げた。恒温機内に吊り下げたまま28日間放置し、内容物を硬化させることでセメント成形体を計3個製造した。得られたセメント成形体は円柱状であり、直径約5cm、長さ約20cmであった。
【0116】
[実施例6-2~6-3及び比較例6-1~6-4]
下記表5に示すセメントミルクを用いたこと以外は、実施例6-1と同様にしてセメント成形体を製造した。なお、比較例6-4では、セメントミルクがP漏斗から排出されなかったことから、評価を行うことができなかった。
【0117】
(密度)
JIS A 5430:2008(見掛け密度試験)に準拠して、密度を測定した。
【0118】
(圧縮強度試験)
JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮試験方法)に準拠して、得られたセメント成形体の圧縮強度を測定した。
【0119】
【表5】
【0120】
実施例のセメント成形体では、炭酸カルシウムの含有量を増加させたとしても、炭酸カルシウムを配合していない比較例6-1に対し、大幅なP漏斗流下時間の増加を招来することがなく、良好な流動性を有していた。一方、比較例6-2~6-4では、流動性が大幅に低下した。
【0121】
≪建材用途の評価≫
(成形板の製造)
以下の手順に沿って押出成形法により成形板を製造した。用いた成分の配合量は、特に示さない限り全て「質量部」を示す。下表中、「-」は該当する成分を用いなかったことを示す。
【0122】
[実施例7-1]押出成形法による成形板の製造
下記表6に示す材料をオムニミキサーに投入し原料を3分間乾式攪拌した。炭酸カルシウムとして実施例1の炭酸カルシウムを用いた。次に、水を加えて2分間湿式攪拌した。湿式攪拌後の原料を石川時押出機で混練し、その後、石川時押出機で押出成形した。これにより長辺600mm×短辺190mm×厚さ13mm)の成形体を作製した。成形体を得た後、60℃/98%に設定した恒温恒湿機に投入し一次養生を行い、さらに9kgfに昇圧して12時間オートクレーブ養生を行った。成形体の両面をサンダーで研磨し厚さを12mmとすることで、成形板を作製した。
【0123】
[比較例7-1]押出成形法による成形板の製造
下記表6に示す材料及び含有量を用い、炭酸カルシウムを配合しなかったこと以外は、実施例7-1と同様にして成形板を得た。
【0124】
<成形板の評価>
実施例及び比較例において押出成形法により作製した成形板について以下の評価を行った。結果を表4に示す。
【0125】
(かさ密度)
かさ密度は、JIS A 5430に準拠して測定した。
【0126】
(3点曲げ試験)
3点曲げ試験は、JIS A 5430に準拠して測定した。その結果を成形板の強度(N/mm)とした。
【0127】
(加熱試験)
加熱試験を次の装置及び手順で行った。図8は、加熱試験器を模式的に示す一部透視図である。図8に示すように、熱源として電熱器を使用して900℃前後で安定させることができるように、試験体と熱源との間を耐火材で組み上げ、熱電対で試験体の裏面の温度が測定できるようにした。具体的には、熱源設備として電熱器(1.2kwヒーター)を使用し,K熱電対及び温度調節器を接続した。また,各熱電対はデータロガーに接続した。試験体の加熱面側と熱源との距離は約70mmとなるように固定した。
【0128】
試験手順は次のとおりであった。
(1)捨て板を設置し、902℃まで予備加熱を行った後、加熱を一旦した。
(2)加熱面側が200℃以下になってから試験体に挿し換えた。
(3)試験体の裏面(図中、上面)中央に熱電対をのせ、けい酸カルシウム板(約30mm×70mm)及び錘を乗せて固定した。
(4)加熱を開始し,所定時間(45分)放置し,表面側・裏面側の温度をデータロガーで記録する。この間、電熱器の温度設定は加熱面側で902℃とし、900℃を下限として温調器で管理した。また、データロガーの温度測定間隔は10秒毎とし、この間隔でデータを記録した。
(5)試験終了後,試験体を取り出し,以下の項目を測定した(試験前にも各項目を測定しておいた)。
・寸法:裏面及び加熱面の縦横の長さをノギスで測定した。試験前後での加熱面の面積(mm)を算出し、下記式に基づいて加熱面収縮(%)を求めた。
加熱面収縮(%)={|S-S|/S}×100
(式中、Sは試験前の加熱面の面積であり、Sは試験後の加熱面の面積である。)
・反り:鉄製定盤に試験体を置き、試験体各辺中央部の鉄製定盤からの高さをシックネスゲージで測定し、平均値(mm)をとった。この平均値を加熱後反り(mm)とした。
・試験前後試料の写真撮影(加熱前後で亀裂の程度が分かる写真)
【0129】
【表6】
【0130】
実施例の成形板では、強度、加熱面収縮、加熱後反り及び加熱後反りのいずれも比較例に対して優れていた。また、実施例の成形板では、加熱後の亀裂は生じていなかった(図示せず)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8