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特開2024-108143車両のトランスミッションのための潤滑組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108143
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】車両のトランスミッションのための潤滑組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240802BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20240802BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20240802BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240802BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240802BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240802BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M135/36
C10M137/02
C10N40:04
C10N30:12
C10N30:06
C10N40:02
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024008659
(22)【出願日】2024-01-24
(31)【優先権主張番号】63/482,166
(32)【優先日】2023-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カランサ、アルトゥーロ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ウェンジュン
(72)【発明者】
【氏名】フー、ルーシー
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BG19C
4H104BH02C
4H104BH03A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104LA03
4H104LA06
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】車両のトランスミッションにおける使用に好適な、良好な耐摩耗性及び銅腐食性能を有する潤滑組成物を提供する。
【解決手段】車両のトランスミッションにおける使用に好適な潤滑組成物であって、潤滑粘度の1つ以上の基油と、少なくとも約0.35重量パーセントのチアジアゾール添加剤と、約0.5~約2.0の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する1つ以上の置換トリスアリールホスファイトと、を含む潤滑組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のトランスミッションにおける使用に好適な潤滑組成物であって、
潤滑粘度の1つ以上の基油と、
少なくとも約0.35重量パーセントのチアジアゾール添加剤と、
約0.5~約2.0の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する1つ以上の置換トリスアリールホスファイトと、を含む潤滑組成物。
【請求項2】
前記1つ以上のトリスアリールホスファイトが、メタ位置換を含まず、及び/又は前記1つ以上のトリアリールホスファイトの前記パラ位及びオルト位置換が、独立して、C~C直鎖又は分岐鎖ヒドロカルビル基であり、及び/又は前記1つ以上のトリスアリールホスファイトが、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記ヒドロカルビル基が、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが、前記潤滑組成物中に約0.5重量%で存在する、請求項2に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
前記1つ以上の置換トリスアリールホスファイトが、約0.8~約1.2の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有し、及び/又は約0.2~約0.6重量パーセントの前記1つ以上の置換トリスアリールホスファイトを更に含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
前記1つ以上の置換トリスアリールホスファイトが、約0.9~約1.0の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する、請求項5に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
前記1つ以上の置換トリスアリールホスファイトが、約1.0のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する、請求項6に記載の潤滑組成物。
【請求項8】
150℃で168時間後にASTM D130に準拠する3B以下の銅変色等級を示し、150℃で168時間後にASTM D130に準拠する試験後に約20ppm以下の銅浸出を含み、CEC L-84-02(A10/16.6R/90C)のFZG試験に準拠する7以上の破壊荷重段階を示す、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項9】
前記チアジアゾール添加剤が、モノヒドロカルビルチオール置換チアジアゾール、ビスヒドロカルビルチオール置換チアジアゾール、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項10】
前記チアジアゾール添加剤が、2,5ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールを含み、及び/又は2,5ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールが、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール及び2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールを(例えば、約10~約25%にて)含み、及び/又は前記潤滑組成物が、最大約0.5重量パーセントの前記チアジアゾール添加剤を含み、及び/又は前記チアジアゾール添加剤が、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み、
【化1】
式中、
各Rが、独立して、水素又は硫黄であり、
各Rが、独立して、アルキル基であり、
nが、0又は1の整数であり、Rが、水素である場合、前記隣接のR部分の前記整数nが、0であり、Rが、硫黄である場合、前記隣接のR部分の前記nが、1であり、
少なくとも1つのRが、硫黄である、請求項9に記載の潤滑組成物。
【請求項11】
トランスミッションを潤滑する方法であって、
トランスミッションを潤滑組成物で潤滑することを含み、
前記潤滑組成物が、潤滑粘度の1つ以上の基油と、少なくとも約0.35重量パーセントのチアジアゾール添加剤と、約0.5~約2.0の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する1つ以上の置換トリスアリールホスファイトと、を含む、方法。
【請求項12】
前記1つ以上のトリスアリールホスファイトが、メタ置換を含まず、及び/又は前記1つ以上のトリアリールホスファイトの前記パラ位及びオルト位置換が、独立して、C~C直鎖又は分岐ヒドロカルビル基である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒドロカルビル基が、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上のトリスアリールホスファイトが、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
150℃で168時間後にASTM D130に準拠する3B以下の銅変色等級を示し、150℃で168時間後にASTM D130に準拠する試験後に約20ppm以下の銅浸出を含み、CEC L-84-02(A10/16.6R/90C)のFZG試験に準拠する7以上の破壊荷重段階を示す、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改善された銅腐食性能を達成しながら、所望の耐荷重能力を達成する、トランスミッション、アクスル、トラクター、又は産業用ギアのための潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスミッション、アクスル、トラクター、及び産業用ギアは、一般に、所望の用途に好適な特定の性能特性を提供する潤滑剤を必要とする。典型的には、そのような用途のための潤滑剤は、例えば、極圧、耐摩耗性、摩擦、及び/又は銅腐食のうちの1つ以上の性能特性を満たす流体を必要とし得えるが、流体の一般的な要件のうちのいくつかのみを示唆し得る。そのような性能を達成するために、各種の添加剤が潤滑剤に含まれ得る。例えば、潤滑剤は、しばしば、ギア及び他の構成要素を摩耗及びかじりから保護するために、チアジアゾール添加剤などの硫化添加剤を含む。多くの場合、CEC L-84-02(A10/16.6R/90C)に準拠するFZG摩耗傷跡試験において、許容可能な破壊荷重段階(failure load stage、FLS)に関して合格する耐摩耗性を達成するために、最小量のチアジアゾール添加剤が含まれる。しかしながら、硫化添加剤は、良好な耐荷重能力を提供し得るが、硫化添加剤、特にチアジアゾール添加剤は、銅及び銅合金に有害であり得、修正ASTM D130-19試験(150℃で168時間にわたって試験を延長することによって修正)において、許容できない銅腐食及び不十分な性能をもたらし得る。
【発明の概要】
【0003】
一アプローチ又は実施形態では、車両のトランスミッションにおける使用に好適な潤滑組成物が本明細書に記載されている。一アプローチ又は実施形態では、潤滑組成物は、潤滑粘度の1つ以上の基油と、少なくとも約0.35重量パーセントのチアジアゾール添加剤と、0.5~2.0の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する1つ以上の置換トリスアリールホスファイトと、を含む。好ましくは、1つ以上のトリスアリールホスファイトはメタ位置換を含まない。
【0004】
他のアプローチ又は実施形態では、潤滑組成物は、任意の組み合わせでの、任意選択の特徴又は任意選択の実施形態の1つ以上を含み得る。これらの任意選択の特徴又は実施形態は、以下の1つ以上を含み得る。1つ以上のトリアリールホスファイトのパラ位及びオルト位置換が、独立して、C~C直鎖又は分岐鎖ヒドロカルビル基であり、及び/又はヒドロカルビル基が、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、又はそれらの組み合わせから選択され、及び/又は1つ以上のトリスアリールホスファイトが、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを含むか、又はトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトであり、及び/又はトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが、潤滑組成物中に約0.5重量%で存在し、及び/又は1つ以上の置換トリスアリールホスファイトが、0.8~1.2の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有するか、又は1つ以上の置換トリスアリールホスファイトが、0.9~1.0の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有するか、又は1つ以上の置換トリスアリールホスファイトが、1.0のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する、及び/又は潤滑組成物が、150℃で168時間後にASTM D130に準拠する3B以下の銅変色等級を示し、150℃で168時間後にASTM D130に準拠する試験後に20ppm以下の銅浸出を含み、及び/又はCEC L-84-02(A10/16.6R/90C)のFZG試験に準拠する7以上の破壊荷重段階を示し、及び/又は約0.2~約0.6重量パーセントの1つ以上の置換トリスアリールホスファイトを更に含み、及び/又はチアジアゾール添加剤が、モノヒドロカルビルチオール置換チアジアゾール、ビスヒドロカルビルチオール置換チアジアゾール、又はそれらの組み合わせから選択され、及び/又はチアジアゾール添加剤が、2,5ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールを含み、又は2,5ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールであり、及び/又は2,5ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールが、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール及び2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールを(好ましくは、約10~約25%にて)含み、及び/又は潤滑組成物が、最大約0.5重量パーセントのチアジアゾール添加剤を含み、及び/又はチアジアゾール添加剤が、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み、
【0005】
【化1】
式中、各Rが、独立して、水素又は硫黄であり、各Rが、独立して、アルキル基であり、nが、0又は1の整数であり、Rが、水素である場合、隣接のR部分の整数nが、0であり、Rが、硫黄である場合、隣接のR部分のnが、1であり、少なくとも1つのRが、硫黄であり、及び/又はチアジアゾール添加剤と1つ以上の置換トリスアリールホスファイトとの間の硫化反応生成物を更に含み、及び/又は硫化反応生成物が、好ましくは置換硫化トリスアリールホスファイトである。
【0006】
他のアプローチ又は実施形態では、トランスミッションを潤滑する方法が本明細書に記載されている。各態様では、本方法は、トランスミッションを潤滑組成物で潤滑することを含み、潤滑組成物が、潤滑粘度の1つ以上の基油と、少なくとも約0.35重量パーセントのチアジアゾール添加剤と、0.5~2.0の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する1つ以上の置換トリスアリールホスファイトと、を含む。好ましくは、1つ以上のトリスアリールホスファイトはメタ位置換を含まない。
【0007】
他のアプローチ又は実施形態では、本明細書の方法は、任意の組み合わせでの、任意選択の特徴、工程、又は実施形態を含み得る。例えば、これらの任意選択のアプローチ又は実施形態は、以下の1つ以上を含み得る。1つ以上のトリアリールホスファイトのパラ位及びオルト位置換が、独立して、C~C直鎖又は分岐鎖ヒドロカルビル基であり、及び/又はヒドロカルビル基は、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、又はそれらの組み合わせから選択され、及び/又は1つ以上のトリスアリールホスファイトが、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを含み、及び/又は潤滑組成物が、150℃で168時間後にASTM D130に準拠する3B以下の銅変色等級を示し、150℃で168時間後にASTM D130に準拠する試験後に約20ppm以下の銅浸出を含み、CEC L-84-02(A10/16.6R/90C)のFZG試験に準拠する7以上の破壊荷重段階を示す。他の実施形態では、本明細書の方法は、本発明の概要に上述する潤滑組成物のいずれかの実施形態又はアプローチをいずれかの組み合わせで含み得る。
【0008】
更に他の実施形態又はアプローチでは、本明細書の開示は、
150℃で168時間後にASTM D130に準拠する3B以下の銅変色等級を達成し、150℃で168時間後にASTM D130に準拠する試験後に約20ppm以下の銅浸出を達成し、CEC L-84-02(A10/16.6R/90C)のFZG試験に準拠する7以上の破壊荷重段階を達成するために、潤滑粘度の1つ以上の基油と、少なくとも約0.35重量パーセントのチアジアゾール添加剤と、0.5~2.0の間のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有する1つ以上の置換トリスアリールホスファイトと、を含む潤滑組成物の使用を提供する。本明細書における使用は、本発明の概要に記載する潤滑組成物のいずれかの実施形態を含み得る。
【0009】
本開示の他の実施形態は、本明細書に開示した発明の明細書及び発明の実施を考慮すれば、当業者には明らかであろう。以下の用語の定義は、本明細書で使用される特定の用語の意味を明確にするために提供される。
【0010】
「ギア油」、「ギア流体」、「ギア潤滑剤」、「基ギア潤滑剤」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑剤」、及び「潤滑流体」という用語は、本明細書で考察されるような、主要量の基油と、少量の添加剤組成物と、を含む、最終潤滑生成物を指す。そのようなギア流体は、例えば、トランスミッション(手動又は自動)及び/又はギアディファレンシャルでは、金属と金属との接触状態を有するトランスミッション及びギア駆動構成要素などの極圧状態において使用するものである。
【0011】
本明細書で使用される場合、用語「ヒドロカルビル置換基」又は「ヒドロカルビル基」は、当業者に周知のその通常の意味で使用される。具体的には、それは、分子の残りの部分に直接結合した炭素原子を有し、かつ主に炭化水素の特徴を有する基を指す。各ヒドロカルビル基は、炭化水素置換基から独立して選択され、置換炭化水素置換基は、ハロ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、ピリジル基、フリル基、イミダゾリル基、酸素、及び窒素のうちの1つ以上を含有し、2個以下の非炭化水素置換基は、ヒドロカルビル基中の炭素原子10個ごとに存在する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「重量によるパーセント」又は「重量%」又は「重量パーセント」という用語は、明示的に別段の記載がない限り、列挙した成分の組成物全体の重量に対して表すパーセンテージを意味している。本明細書の全てのパーセント数は、別段の指定がない限り、重量パーセントである。本明細書で使用する場合、「含まない」とは、そのような成分の機能量が約0.1重量パーセント未満、0.05重量パーセント未満、0.01重量パーセント未満であるか、又は全くないことを意味している。
【0013】
本明細書で使用される用語「可溶性」、「油溶性」、又は「分散性」は、化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性、又は油中にあらゆる割合で懸濁可能であることを示し得るが、必ずしもそうではない。しかしながら、前述の用語は、それらが、例えば、油が用いられる環境においてそれらの意図された効果を発揮するのに十分な程度まで油中に可溶性、懸濁性、溶解性、又は安定して分散性であることを意味している。更に、所望ならば、他の添加剤を更に組み込むと、より高いレベルの特有な添加剤を組み込むことも可能になり得る。
【0014】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、約1~約200個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、及び/又は置換飽和鎖部分を指している。本明細書で使用される場合、「アルケニル」という用語は、約3~約30個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、及び/又は置換飽和鎖部分を指している。本明細書で使用される場合、「アリール」という用語は、アルキル、アルケニル、アルキルアリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロ置換基、及び/又はヘテロ原子、例えば、限定するものではないが窒素及び酸素を含み得る単環及び多環芳香族化合物を指している。
【0015】
本明細書で使用される場合、分子量は、市販のポリスチレン標準(較正基準として約180~約18,000のMnを有する)を使用してゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)によって測定される。本明細書の任意の実施形態の分子量(Mn)は、Watersから入手されるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)機器又は類似の機器、及びWaters Empower Software又は類似のソフトウェアで処理されたデータを用いて決定され得る。GPC機器には、Waters分離モジュール及びWaters屈折率検出器(又は同様の任意選択的な機器)が提供され得る。GPC操作条件は、ガードカラム、4つのAgilent PLゲルカラム(長さ300?7.5mm、粒径5μ、及び細孔径の範囲100~10000Å)、約40℃のカラム温度を含み得る。非安定化HPLCグレードのテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)は、1.0mL/分の流量で溶媒として使用され得る。GPC機器は、500~380,000g/モルの範囲の狭い分子量分布を有する市販のポリスチレン(polystyrene、PS)標準で較正され得る。較正曲線は、500g/モル未満の質量を有する試料について外挿することができる。試料及びPS標準は、THFに溶解し、0.1~0.5重量パーセントの濃度で調製することができ、濾過せずに使用することができる。GPC測定は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,266,223号にも記載されている。GPC法は、分子量分布情報を更に提供する。例えば、参照により本明細書に組み込まれるW.W.Yau,J.J.Kirkland and D.D.Bly,”Modern Size Exclusion Liquid Chromatography”,John Wiley and Sons,New York,1979も参照されたい。
【0016】
本開示全体を通して、用語「含む(comprises)」、「含む(includes)」、「含有する(contains)」などは、オープンエンドであると考えられ、明示的に列挙されていない任意の要素、工程、又は配合成分を含むことを理解すべきである。「から本質的になる」という句は、任意の明示的に列挙された要素、工程、又は配合成分、及び本発明の基本的及び新規の態様に実質的に影響を及ぼさない任意の追加の要素、工程、又は配合成分を含むことを意味している。本開示はまた、用語「含む(comprises)」、「含む(includes)」、「含有する(contains)」を使用して記載される任意の組成物は、具体的に列挙されたその成分「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」同じ組成物の開示を含むものとして解釈されるべきであることも企図している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一アプローチ又は実施形態において、少なくとも約0.35重量パーセントの硫化耐摩耗添加剤、特に少なくとも約0.3重量パーセントのチアジアゾール添加剤を有する、トランスミッション流体(手動、自動、又はデュアルクラッチ)、アクスル流体、ディファレンシャル流体、トラクター流体、産業用ギア流体、及び/又は他のギア型用途のための潤滑流体として好適な潤滑組成物が本明細書に開示される。潤滑剤はまた、パラ位アルキル化置換対オルト位アルキル化置換の特定の比を有する1つ以上の置換トリスアリールホスファイトを含む。31P-NMRを使用して、潤滑剤中のトリスアリールホスファイト化合物の数を決定することができ、13C-NMRを使用して、各ホスファイト化合物上のオルト及びパラ置換基の数を決定することができる。潤滑組成物中にチアジアゾール添加剤と選択されたホスファイトとの組み合わせを含めることにより、潤滑組成物が許容可能な耐荷重能力及び銅腐食性能を達成することが可能になる。
【0018】
チアジアゾール添加剤
【0019】
本明細書の潤滑組成物は、CEC L-84-02(A10/16.6R/90C)に準拠するFZG試験において7の破壊荷重段階の合格を達成するために、1つ以上のチアジアゾール化合物又はその誘導体を含む最小量のチアジアゾール添加剤を含む。各アプローチでは、潤滑組成物は、約0.3重量パーセント以上のチアジアゾール添加剤を含み得る。他のアプローチでは、潤滑組成物は、約0.35重量パーセント~約1重量パーセント、又は約0.35重量パーセント~約0.5重量パーセントのチアジアゾール添加剤を含み得る。いくつかのアプローチでは、潤滑組成物は、約0.4重量パーセントのチアジアゾール添加剤を含み得る。いくつかの実施形態では、チアジアゾール添加剤は、チアジアゾール化合物及び/又はそのヒドロカルビル置換誘導体の混合物であってよい。
【0020】
いくつかのアプローチでは、チアジアゾール添加剤は、少なくとも約1000ppmの硫黄を潤滑組成物に提供し、他のアプローチでは、少なくとも約1200ppmの硫黄、少なくとも約1400ppmの硫黄、又は少なくとも約1200ppm~約1500ppm以下の硫黄、又は少なくとも約1000ppm~約1500ppm以下の硫黄、又は少なくとも約1200ppmの硫黄~約1500ppm以下の硫黄を提供する。
【0021】
各アプローチでは、チアジアゾール添加剤又はその誘導体は、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み、
【0022】
【化2】
式中、各Rが、独立して、水素又は硫黄であり、各Rが、独立して、アルキル基であり、nが、0又は1の整数であり、Rが、水素である場合、隣接のR部分の整数nが、0であり、Rが、硫黄である場合、隣接のR部分のnが、1であり、ただし、少なくとも1つのRが硫黄であることを条件とする。他のアプローチでは、チアジアゾール添加剤は、以下に示される式Ia及び式Ibの化合物のブレンドであり、
【0023】
【化3】
式Ia中、各整数nが、1であり、各Rが、硫黄であり、各Rが、C~C15アルキル基、好ましくはC~C12アルキル基であり、
【0024】
【化4】
式Ib中、1つの整数nが、1であり、関連するR基が、C~C15アルキル基(好ましくは、C~C12アルキル基)であり、関連するR基が、硫黄であり、他の整数nが、0であり、関連するR基が、水素である。いくつかの実施形態では、チアジアゾール又はその誘導体は、式Ia及びIbのブレンドを含み、式Iaがブレンドの大部分であり、他のアプローチでは、Ia及びIbのブレンドは、約75~約90重量パーセントのIa及び約10~約25重量パーセントのIb(又はその中の他の範囲)である。別のアプローチでは、チアジアゾールは、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール(約75~約90%など)と、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール(約10~約25%など)とのブレンドを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールである。
【0025】
他のアプローチ又は実施形態では、本明細書の流体に使用され得るチアジアゾール添加剤の例としては、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルチオ-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(ヒドロカルビルチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(ヒドロカルビルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、それらの変種、又はそれらの組み合わせ、が挙げられる。1,3,4-チアジアゾールは、一般的にヒドラジンと二硫化炭素から既知の方法により合成される。例えば、以下を参照されたい。米国特許第2,765,289号、同第2,749,311号、同第2,760,933号、同第2,850,453号、同第2,910,439号、同第3,663,561号、同第3,862,798号、及び同第3,840,549号。これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0026】
トリスアリールホスファイト化合物
【0027】
本明細書の潤滑組成物はまた、アリール環のうちの1つ以上が二置換であるトリスアリールホスファイト化合物を含む。トリスアリールホスファイト化合物は、パラ位置換対オルト位置換の特定の重量比を有する。特に、トリスアリールホスファイト化合物は、約0.5~約2.0、他のアプローチでは、約0.8~約1.5、又は約0.8~約1.2、又は約0.9~約1.1、又は約1.0のパラ位置換対オルト位置換の重量比を有する。他のアプローチでは、トリスアリールホスファイト化合物は、メタ置換アルキル基を実質的に含まず(すなわち、メタ置換を有する化合物の約0.1重量パーセント未満又は約0.05重量パーセント未満)、他のアプローチでは、メタ置換アルキル基を有するトリスアリールホスファイト化合物を含まない。以下の実施例に示すように、潤滑化合物が、これらの選択されたオルト及びパラ置換ホスファイト化合物を上記のチアジアゾール添加剤と組み合わせて含む場合、本発明の潤滑剤は、適切なFZG破壊荷重段階性能を達成するとともに、銅腐食性能に合格する。
【0028】
一アプローチでは、好適な二置換トリスアリールホスファイト化合物は、式IIの構造を有する。
【0029】
【化5】
式中、R、R、及び/又はRの各々が、独立して、アルキル化アリール部分であり得、式IIの化合物が、約0.5~約2.0、他のアプローチでは、約0.8~約1.5、又は約0.8~約1.2、又は約0.9~約1.1、又は約1.0のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有するようになっている。R、R、及びR部分の各アリール基は、フェニル、ナフチル、フェナントリル、アントラシル、ビフェニル、又はターフェニル基などの6~18個の炭素原子を有する芳香族部分であり、好ましくは、R、R、及びRの各アリール基は、フェニル基である。芳香族基R、R、及び/又はRは、(化合物が上記の全体のパラ対オルト比を示すように)2つのアルキル基で二置換されていてもよく、任意の置換が本明細書のチアジアゾール添加剤と組み合わせたときにホスファイト化合物の特徴に実質的に悪影響を及ぼさない限り、特定の用途に必要な他の置換基で更に任意選択で置換されていてもよい。各芳香族基R、R及びRが、オルト及びパラ位で二置換されている必要はない。全体のパラ対オルト位置換比が、必要とされる比を満たす場合、1つ以上の芳香族基がオルト又はパラ位のいずれかで一置換されることが可能である。
【0030】
いくつかのアプローチでは、置換アリール基R、R、及び/又はRのアルキル置換基が、直鎖又は分岐鎖C~C10アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、若しくはデシル基、又はそれらの組み合わせから選択され得る。他のアプローチでは、アルキル置換は、1~6個の炭素原子、好ましくは、4~6個の炭素を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基を含む。更に他のアプローチでは、アリール基R、R、及びR上の置換基のそれぞれは、ブチル基、より好ましくは、tert-ブチル基である。一実施形態では、本明細書の組成物のトリスアリールホスファイトは、式IIaの構造を有する。
【0031】
【化6】
式中、R及びRのそれぞれが、独立して、直鎖若しくは分岐鎖C~Cアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖C~Cアルキル基であってもよく、好ましくは、R及びRのそれぞれが、tert-ブチル基であってもよく、式IIaの化合物は、芳香族基のパラ位置換対オルト位置換の総重量比が、約0.5~約2.0、他のアプローチでは、約0.8~約1.5、又は約0.8~約1.2、又は約0.9~約1.1、又は約1.0である。好ましいアプローチでは、本明細書の組成物の二置換トリスアリールホスファイトは、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを含み得る。
【0032】
二置換トリスアリールホスファイト化合物は、当業者に公知の多数の方法によって製造することができる。一例示的なアプローチでは、このようなホスファイト化合物は、フェノール性化合物をアルケンで、任意選択で好適な酸触媒の存在下でアルキル化し、次いで、この混合物をハロゲン化リン(例えば、PZ、ここで、Zはハロゲンである)と反応させることによって作製され得る。本明細書で使用される場合、フェノール性化合物は、フェニル化合物(すなわち、少なくとも1つのOH基を有する芳香族化合物)を含み、任意選択で、チアジアゾール添加剤と組み合わせた場合にその安定化特性に悪影響を及ぼさない基で更に置換されることが当業者によって理解される。したがって、置換トリスアリールホスファイト化合物を調製するための1つの例示的な方法は、三塩化リン又は三臭化リンなどの三ハロゲン化リンを適切なアルキル化フェノール混合物と反応させることによるものである。トリアリールホスファイトは、参照により本明細書に組み込まれる中国特許出願公開第103224529号明細書の方法に従って調製することもできる。
【0033】
各アプローチでは、本明細書の潤滑組成物は、約0.2重量パーセント以上のトリスアリールホスファイト化合物を含み得る。いくつかのアプローチでは、潤滑組成物は、約0.2重量パーセント~約0.6重量パーセント、又は約0.3重量パーセント~約0.5重量パーセントのトリスアリールホスファイト化合物を含み得る。一アプローチでは、置換トリスアリールホスファイト化合物は、少なくとも、上述のようなパラ位置換対オルト位置換の比、又は好ましくは約1.0の比を有するトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを含む。他のアプローチでは、本明細書のトリスアリールホスファイト化合物は、約90ppm~約300ppmのリンを潤滑組成物に提供することができ、他のアプローチでは、約100ppm~約250ppmのリン、又は約140ppm~約250ppmのリン、他のアプローチでは、約200~250ppmのリンを提供することができる。
【0034】
理論によって限定されることを望むものではないが、本明細書におけるチアジアゾール添加剤と1つ以上の置換トリスアリールホスファイト化合物との組み合わせは、反応して、許容可能な耐荷重能力及び改善された銅腐食性能を提供する硫化反応生成物などの生成物を形成し得る。いくつかのアプローチでは、チアジアゾール添加剤及び1つ以上の置換トリスアリールホスファイト化合物は、硫化トリスアリールホスファイトを形成する。このような硫化反応生成物は、流体が約150℃以上の温度に長時間暴露された場合に形成され得る。
【0035】
いくつかのアプローチでは、本明細書の潤滑剤の改善された銅腐食の達成を助けるためのチアジアゾール添加剤対置換トリスアリールホスファイト化合物のモル比は、約0.8:1~約1.3:1又は約0.9:1~約1.2:1又は約1.1:1~約1.2:1であってもよい。
【0036】
基油
【0037】
本開示に係る潤滑組成物において使用される好適な基油は、鉱物油、動物油、植物油、合成油、又はそれらの混合物であり得る。
【0038】
天然油は、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、並びに鉱物油、例えば、液体石油、及びパラフィン系、ナフテン系、又は混合パラフィン-ナフテン型の溶媒処理又は酸処理された鉱物潤滑油を含んでいてもよい。鉱物油は、掘削によって、又は植物及び動物から、又はそれらの任意の混合物から得られた油を含み得る。例えば、そのような油には、ヒマシ油、ラード油、オリーブ油、ピーナツ油、トウモロコシ油、大豆油、及び亜麻仁油、並びに鉱物潤滑油、例えば、液体石油、及びパラフィン系、ナフテン系、若しくは混合パラフィン-ナフテン型の溶媒処理又は酸処理された鉱物潤滑油が含まれてもよいが、それらに限定されない。そのような油は、所望であれば、部分的又は完全に水素化され得る。石炭又はシェールに由来する油もまた好適であり得る。更に、ガス液化プロセスから導かれる油もまた好適である。基油は、ASTM D2270-10によって測定される際、100℃において約2~約15cStの動粘度を有し得る。
【0039】
有用な合成潤滑油としては、炭化水素油、例えば、重合化、オリゴマー化、又はインターポリマー化オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー);ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、1-デセンの三量体若しくはオリゴマー、例えば、ポリ(1-デセン)(そのような材料はしばしばα-オレフィンと称される)、及びそれらの混合物;アルキル-ベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)-ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル);ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド、並びにそれらの誘導体、類似体、及び同族体、又はそれらの混合物が挙げられ得る。ポリアルファオレフィンは、典型的には水素化された材料である。
【0040】
他の合成潤滑油としては、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、及びデカンホスホン酸のジエチルエステル)、又はポリマーテトラヒドロフランが挙げられる。合成油は、フィッシャー・トロプシュ反応によって生成され得、典型的には、水素化異性化フィッシャー・トロプシュ炭化水素又はワックスであり得る。一実施形態では、油は、フィッシャー・トロプシュ気液合成手順、並びに他の気液油によって調製され得る。
【0041】
本明細書の組成物において使用される基油又は潤滑粘度の基油は、単一の基油であり得るか、又は2つ以上の基油の混合物であり得る。1つ以上の基油は、American Petroleum Institute(API)基油互換性ガイドラインに指定されているグループI~Vの基油のいずれかから選択され得る。これらの基油のグループは、以下のとおりである。
【0042】
【表1】
【0043】
グループI、グループII、及びグループIIIは、鉱物油プロセス原料である。グループIVの基油は、オレフィン性不飽和炭化水素の重合によって生成される合成分子種を含有している。APIグループIVの基油である、ポリアルファオレフィン(PAO)は、典型的には、4~30個、又は4~20個、又は6~16個の炭素原子を有するモノマーに由来する。本発明で使用され得るPAOの例としては、オクテン、デセン、それらの混合物などに由来するものが挙げられる。PAOは、ASTM D2270-10によって測定される際、100℃において、2~15、又は3~12、又は4~8cStの動粘度を有し得る。好適なPAO粘度の例としては、100℃で4cSt及び100℃で6cSt、並びにそれら双方が挙げられる。多くのグループVの基油もまた真の合成生成物であり、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキル化芳香族、ポリリン酸エステル、ポリビニルエーテル、及び/又はポリフェニルエーテルなどを含み得るが、植物油などの天然油であり得る。.グループIIIの基油は、鉱物油に由来するものであるが、これらの流体が受ける厳密な処理により、それらの物理的特性は、いくつかの真の合成油に非常に類似するものとなることに留意すべきである。したがって、グループIIIの基油に由来する油は、産業界において合成流体と称され得る。好適な油は、水素化分解、水素化、水素化仕上げ、未精製油、精製油、及び再精製油、並びにそれらの混合物に由来し得る。
【0044】
未精製油は、更なる精製処理を伴わない又はほとんど伴わない、天然、鉱物、又は合成の供給源に由来するものである。精製油は、1つ以上の特性の改善をもたらし得る1つ以上の精製工程で処理されていることを除いて未精製油と同様である。好適な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、濾過、浸透などである。食用に適する品質まで精製された油は、有用であり得るか、又は有用であり得ない。食用油は、ホワイト油とも呼ばれる場合がある。いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、食用油又はホワイト油を含まない。
【0045】
再精製油はまた、再生油又は再処理油としても知られている。これらの油は、同じ又は類似のプロセスを使用して精製油と同様に得られる。多くの場合、これらの油は、使用済み添加剤及び油分解生成物の除去を対象とする技術によって更に処理される。
【0046】
基油は、本明細書の実施形態に開示されるような添加剤組成物と組み合わせて、トランスミッション、アクスル、トラクター、又は産業用ギア用の潤滑流体を提供する。したがって、基油は、潤滑流体の総重量に基づいて、約80重量%を超える量で、潤滑流体中に存在し得る。いくつかの実施形態では、基油は、潤滑流体の総重量に基づいて約85重量%を超える量で潤滑流体中に存在してもよく、好適な潤滑粘度を有する好適な合成油若しくは天然油又はそれらの混合物のいずれかから選択されてもよい。
【0047】
本明細書の好適なトランスミッション、アクスル、ディファレンシャル、トラクター、又は産業用ギアの潤滑剤組成物は、以下の表2に列挙された範囲の添加剤成分を含み得る。
【0048】
【表2】
【0049】
上記各成分のパーセンテージは、合計潤滑油組成物の重量に基づく各成分の重量パーセントを表す。潤滑油組成物の残部は、1つ以上の基油からなる。本明細書に記載の組成物を配合する際に使用される添加剤は、個々に又は様々な部分的な組み合わせで基油にブレンドされ得る。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒などの希釈剤)を使用して、成分の全てを同時にブレンドすることが好適であり得る。
【0050】
本明細書に記載される潤滑組成物は、様々な用途のための潤滑、適切な耐荷重能力、及び改善された銅腐食を提供するように配合され得る。本開示に係る潤滑流体は、トランスミッション流体、アクスル流体、ディファレンシャル流体、トラクター流体、産業用ギア流体、及び固定ギアボックスにおいて使用することができる。ギアタイプとしては、スパー、スパイラル、ウォーム、ラックアンドピニオン、インボリュート、ベベル、ヘリカル、プラネタリ、及びハイポイドギア、並びに限定スリップ用途、及びディファレンシャルが挙げられ得るが、これらに限定されない。本明細書に開示されるドライブライン潤滑組成物はまた、ステップ自動トランスミッション、無段トランスミッション、半自動トランスミッション、自動化された手動トランスミッション、トロイダルトランスミッション、及びデュアルクラッチトランスミッションを含む、自動又は手動トランスミッションにも好適である。本明細書のドライブライン潤滑組成物は、アクスル、トランスファーケース、ディファレンシャル、例えば、直線ディファレンシャル、回転ディファレンシャル、制限スリップディファレンシャル、クラッチ型ディファレンシャル、及びロッキングディファレンシャルなどにおける使用に特に適している。
【0051】
任意選択の添加剤
【0052】
他のアプローチでは、上記のこのような添加剤を含む潤滑剤はまた、このような成分及びその量が上記の段落に記載されるような性能特性に影響を及ぼさない限り、1つ以上の任意選択の成分も含み得る。これらの任意選択の成分は、以下の段落において記載される。
【0053】
他のリン含有化合物
【0054】
本明細書の潤滑剤組成物は、流体に耐摩耗性の利点を付与し得る1つ以上のリン含有化合物を含み得る。1つ以上のリン含有化合物は、潤滑油組成物の約0重量%~約5重量%、又は約0.01重量%~約4重量%、又は約0.05重量%~約3重量%、又は約0.1重量%~約3重量%の範囲の量で、潤滑油組成物中に存在し得る。リン含有化合物は、最大500ppmのリン、又は約3~約100ppmのリン、又は約4~約20ppmのリン、又は最大50ppmのリン、又は最大20ppmのリンを潤滑剤組成物に提供し得る。
【0055】
1つ以上のリン含有化合物は、無灰リン含有化合物を含み得る。好適なリン含有化合物の例としては、チオホスフェート、ジチオホスフェート、ホスフェート、リン酸エステル、ホスフェートエステル、ホスファイト、ホスホネート、リン含有カルボン酸エステル、エーテル、又はそれらのアミド塩、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。リン含有耐摩耗剤は、欧州特許第0612839号により完全に記載されている。
【0056】
ホスホネート及びホスファイトという用語は、潤滑剤業界ではしばしば互換的に使用されることに注意すべきである。例えば、ジブチル水素ホスホネートは、ジブチル水素ホスファイトと称されることがある。本発明の潤滑剤組成物が、ホスファイト又はホスホネートのいずれかと称されることがあるリン含有化合物を含むことは、本発明の範囲内である。
【0057】
上記のリン含有化合物のいずれかにおいて、化合物は、約4~約8重量パーセントのリン、又は約5~約6重量パーセントのリンを有し得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、無灰リン含有化合物は、ジアルキルジチオホスフェートエステル、アミル酸ホスフェート、ジアミル酸ホスフェート、ジブチル水素ホスフェート、ジメチルオクタデシルホスフェート、それらの塩、及びそれらの混合物であり得る。
【0059】
無灰リン含有化合物は、式:
【0060】
【化7】
を有し得、
式中、R1は、S又はOであり、R2は、-OR、-OH、又は-R”であり、R3は、-OR”、-OH、又はSR’’’C(O)OHであり、R4は、-OR”であり、R’’’は、C~C分岐又は直鎖アルキル鎖であり、R’’は、C~C18ヒドロカルビル鎖である。リン含有化合物が式XIVに示した構造を有するとき、化合物は、約8重量パーセント~約16重量パーセントのリンを有し得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、潤滑組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Oであり、R2は、Hであり、R3及びR4はそれぞれOR”であり、式中、R”はC18であり;リン含有化合物が、潤滑組成物に3~50ppmのリン又は3~20ppmのリンを供給する量で存在する。他の実施形態では、潤滑組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Oであり、R2は、Hであり、R3及びR4はそれぞれOR”であり、式中、R”はオレイルであり、リン含有化合物は、3~50ppmのリン又は3~20ppmのリンを潤滑組成物に供給する量で存在する。
【0062】
いくつかの実施形態では、潤滑剤組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Sであり、R2は、-OR”であり、R3は、SR’’’COOHであり、R4は、-OR”であり、R’’’は、C分岐アルキル鎖であり、R’’は、Cであり、リン含有化合物は、3~50ppmのリンを潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0063】
別の実施形態では、潤滑剤組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Oであり、R2は、-OHであり、R3は、-OR’’又は-OHであり、R4は、-OR”であり、R’’は、Cであり、リン含有化合物は、3~50ppmppmのリンを潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0064】
更に別の実施形態では、潤滑剤組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Oであり、R2は、OR”であり、R3は、Hであり、R4は、-OR”であり、R’’は、Cであり、1つ以上のリン含有化合物は、3~50ppmppmのリンを潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0065】
他の実施形態では、潤滑剤組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Oであり、R2は、-R”であり、R3は、-OCH又は-OHであり、R4は、-OCHであり、R’’は、C18であり、1つ以上のリン含有化合物は、3~50ppmのリンを潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0066】
他の耐摩耗剤
【0067】
潤滑剤組成物はまた、リン不含化合物である他の耐摩耗剤も含み得る。かかる耐摩耗剤の例としては、ホウ酸エステル、ホウ酸エポキシド、チオカルバメート化合物(例えば、チオカルバメートエステル、アルキレン結合チオカルバメート、及びビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィド、チオカルバメートアミド、チオカルバミン酸エーテル、アルキレン結合チオカルバメート、及びビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィド、及びそれらの混合物)、硫化オレフィン、アジピン酸トリデシル、チタン化合物、及びヒドロキシルカルボン酸の長鎖誘導体、例えば、タルトレート誘導体、タルトラミド、タルトリミド、シトレート、及びそれらの混合物が挙げられる。好適なチオカルバメート化合物は、モリブデンジチオカルバメートである。好適なタルトレート誘導体又はタルトリミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8個であり得る、アルキル-エステル基を含有し得る。タルトレート誘導体又はタルトリミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8個であり得る、アルキル-エステル基を含有し得る。耐摩耗剤は、一実施形態では、シトレートを含み得る。追加の耐摩耗剤は、潤滑油組成物の約0重量%~約5重量%、又は約0.01重量%~約4重量%、又は約0.05重量%~約3重量%、又は約0.1重量%~約3重量%を含む範囲において存在し得る。
【0068】
他の硫黄含有化合物
【0069】
本開示の潤滑剤組成物はまた、本明細書の潤滑組成物が本明細書に記載される記載の量及びプロファイルを含む限り、極圧性能のために提供される他の硫黄含有化合物を含有し得る。
多種多様な硫黄含有極圧剤が好適であり、硫化動物性又は植物性脂肪又は油、硫化動物性又は植物性脂肪酸エステル、リンの三価又は五価酸の完全又は部分エステル化エステル、硫化オレフィン(例えば、米国特許第2,995,569号、同第3,673,090号、同第3,703,504号、同第3,703,505号、同第3,796,661号、同第3,873,454号、同第4,119,549号、同第4,119,550号、同第4,147,640号、同第4,191,659号、同第4,240,958号、同第4,344,854号、同第4,472,306号、及び同第4,711,736号を参照されたい)、ジヒドロカルビルポリスルフィド(例えば、米国特許第2,237,625号、同第2,237,627号、同第2,527,948号、同第2,695,316号、同第3,022,351号、同第3,308,166号、同第3,392,201号、同第4,564,709号、及び英国特許第1,162,334号を参照されたい)、官能基置換ジヒドロカルビルポリスルフィド(例えば、米国特許第4,218,332号を参照されたい)、及びポリスルフィドオレフィン生成物(例えば、米国特許第4,795,576号を参照されたい)が挙げられる。
【0070】
極圧剤の1つの好適なクラスは、式:Ra-S-Rbによって表される1つ以上の化合物から構成されるポリスルフィドであり、式中、Ra及びRbは、ヒドロカルビル基であり、その各々は、1~18個、他のアプローチでは、3~18個の炭素原子を含有し得、xは、2~8、典型的には2~5、特に3であり得る。いくつかのアプローチでは、xは、3~5の整数であり、xの約30~約60パーセントは、3又は4の整数である。ヒドロカルビル基は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、又はアラルキルなどの多種多様なタイプであり得る。ジ-tert-ブチルトリスルフィドなどの三級アルキルポリスルフィド、及びジ-tert-ブチルトリスルフィドを含む混合物(例えば、主に又は完全にトリ-、テトラ-、及びペンタスルフィドから構成された混合物)を使用することができる。他の有用なジヒドロカルビルポリスルフィドの例としては、ジアミルポリスルフィド、ジノニルポリスルフィド、ジドデシルポリスルフィド、及びジベンジルポリスルフィドが挙げられる。
【0071】
極圧剤の別の好適なクラスは、イソブテンなどのオレフィンを硫黄と反応させることによって作製された硫化イソブテンである。硫化イソブテン(SIB)、特に硫化されたポリイソブチレンは、典型的には、約10~約55重量%、望ましくは約30~約50重量%の硫黄含有量を有する。多種多様な他のオレフィン又は不飽和炭化水素、例えばイソブテンダイマー又はトライマーを使用して、硫化オレフィン極圧剤を形成することができる。硫化オレフィンを調製するための様々な方法が先行技術において開示されてきた。例えば、Myersの米国特許第3,471,404号、Papayらの米国特許第4,204,969号、Zaweskiらの米国特許第4,954,274号、DeGoniaらの米国特許第4,966,720号、及びHorodyskyらの米国特許第3,703,504号を参照されたく、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
前述の特許に開示されている方法を含む硫化オレフィンを調製するための方法は、「付加物」と典型的には称される材料の形成を含み、オレフィンをハロゲン化硫黄と、例えば一塩化硫黄と、反応させる。次いで、その付加物を硫黄源と反応させて、硫化オレフィンを提供する。硫化オレフィンの品質は、一般に、例えば、粘度、硫黄含有量、ハロゲン含有量、銅腐食試験重量損失などの様々な物理的特性によって測定される。米国特許第4,966,720号は、潤滑油における極圧添加剤として有用な硫化オレフィンと、それらの調製のための2段階反応と、に関する。
【0073】
いくつかの実施形態では、極圧剤は、潤滑組成物において、最大約3.0重量%又は最大約5.0重量%の量で存在する。他の実施形態では、極圧剤は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約0.05重量%~約0.5重量%存在する。他の実施形態では、極圧剤は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約0.1重量%~約3.0重量%存在する。他の実施形態では、極圧剤は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約0.6重量%~約1重量%の量で存在する。
【0074】
酸化防止剤
【0075】
本明細書における潤滑油組成物はまた、任意選択的に、1つ以上の酸化防止剤を含有し得る。酸化防止剤化合物は既知であり、例えば、フェネート、フェネートスルフィド、硫化オレフィン、ホスホ硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ノニルジフェニルアミン、ジ-ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ-オクチルジフェニルアミン)、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-アルファ-ナフチルアミン、ヒンダード非芳香族アミン、フェノール、ヒンダードフェノール、油溶性モリブデン化合物、高分子酸化防止剤、又はそれらの混合物が挙げられる。酸化防止剤化合物は、単独で、又は組み合わせて使用され得る。
【0076】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、立体障害基として、二級ブチル基及び/又は三級ブチル基を含有し得る。フェノール基は、ヒドロカルビル基及び/又は第2の芳香族基に結合する架橋基で更に置換され得る。好適なヒンダードフェノール酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-エチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-プロピル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール又は4-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、又は4-ドデシル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールが挙げられる。一実施形態では、ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであり得、例えばBASFから入手可能なIrganox(登録商標)L-135又は2,6-ジ-tert-ブチルフェノール及びアルキルアクリレートに由来する付加生成物を含み得、アルキル基は、約1個~約18個、又は約2個~約12個、又は約2個~約8個、又は約2個~約6個、又は約4個の炭素原子を含有し得る。別の市販のヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであり得、Albemarle Corporationから入手可能なEthanox(登録商標)4716を含み得る。
【0077】
1つの特に有用な酸化防止剤としては、ノニルジフェニルアミン及びジノニルジフェニルアミンが挙げられる。一実施形態では、潤滑油組成物は、約1重量%までの量で存在するこれらのジフェニルアミンの1つ以上を含有し得る。
【0078】
1つ以上の酸化防止剤は、潤滑油組成物の約0重量%~約3重量%、又は約0.1重量%~約1重量%、又は約0.1重量%~約0.5重量%の範囲で存在し得る。
【0079】
分散剤
【0080】
潤滑剤組成物は、1つ以上の選択分散剤又はそれらの混合物を含み得る。分散剤は、潤滑油組成物に混合する前に灰分を形成する金属を含まず、潤滑剤に添加するとき通常いずれの灰分にも寄与しないため、しばしば無灰型分散剤と知られている。無灰型分散剤は、比較的高い分子又は重量の炭化水素鎖に結合した極性基を特徴とする。典型的な無灰分散剤には、N-置換長鎖アルケニルスクシンイミドが含まれる。N-置換長鎖アルケニルスクシンイミドは、(180~約18,000の数平均分子量を有する)ポリスチレンを較正基準として使用したゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatograph、GPC)によって決定されたとき、約800~約2500の範囲のポリイソブチレン置換基の数平均分子量を有するポリイソブチレン(polyisobutylene、PIB)置換基を含む。分散剤に使用されるPIB置換基は、典型的には、ASTM D445-18を使用して決定されるように、100℃で約2100~約2700cStの粘度を有する。スクシンイミド分散剤及びそれらの調製方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,897,696号及び米国特許第4,234,435号に開示されている。スクシンイミド分散剤は、典型的には、ポリアミン、典型的にはポリ(エチレンアミン)から形成されたイミドである。分散剤は、ポリアミンによって結合された2つのスクシンイミド部分を含み得る。ポリアミンは、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)、トリエチレンテトラアミン(TETA)、ペンタエチレンヘキサアミン(PEHA)、他の高級窒素エチレンジアミン種及び/又はそれらの混合物であり得る。ポリアミンは、直鎖、分岐、及び環状アミンの混合物であり得る。PIB置換基は各スクシンイミド部分に結合していてもよい。
【0081】
いくつかの実施形態では、潤滑剤組成物は、上述のGPC法によって測定されたとき、約350~約5000、又は約500~約3000の範囲の数平均分子量を有するポリイソブチレンに由来する少なくとも1つのポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含む。ポリイソブチレンスクシンイミドは、単独で、又は他の分散剤と組み合わせて使用され得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、PIBは、含まれる場合、末端二重結合の50モル%超、60モル%超、70モル%超、80モル%超、又は90モル%超の含有量を有し得る。そのようなPIBは、高反応性PIB(highly reactive PIB、「HR-PIB」)とも称される。約800~約5000の範囲にある数平均分子量を有するHR-PIBは、本開示の実施形態における使用に好適である。従来の非高反応性PIBは、典型的には、末端二重結合の50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、又は10モル%未満の含有量を有する。
【0083】
上記のGPC法により測定された、約900~約3000の範囲の数平均分子量を有するHR-PIBが、好適であり得る。そのようなHR-PIBは、市販されているか、又は米国特許第4,152,499号及び米国特許第5,739,355号に記載されているような、三フッ化ホウ素などの非塩素化触媒の存在下でのイソブテンの重合によって合成され得る。前述の熱エン反応に使用される場合、HR-PIBは、増加した反応性のために、反応におけるより高い変換率、及びより少ない量の沈殿物形成をもたらし得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、潤滑剤組成物は、ポリイソブチレン無水コハク酸に由来する少なくとも1つの分散剤を含む。いくつかの実施形態では、分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸に由来するものであってよい。
【0085】
好適な分散剤の1つのクラスは、マンニッヒ塩基であり得る。マンニッヒ塩基は、より高分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、及びホルムアルデヒドなどのアルデヒドの縮合によって形成される材料である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号に、より詳細に記載されている。
【0086】
好適なクラスの分散剤はまた、高分子量エステル又は半エステルアミドであってもよい。
【0087】
分散剤はまた、種々の薬剤のいずれかとの反応による従来の方法によって後処理することができる。これらの薬剤の中には、ホウ素、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、カーボネート、環状カーボネート、ヒンダードフェノールエステル、及びリン化合物がある。米国特許第7,645,726号、米国特許第7,214,649号、及び米国特許第8,048,831号には、いくつかの好適な後処理方法と後処理製品が記載されている。
【0088】
本明細書における分散剤を形成するのに有用な好適なホウ素化合物は、ホウ素含有種を無灰分散剤に導入することができるいずれかのホウ素化合物又はホウ素化合物の混合物を含む。かかる反応を受けることができる有機又は無機の任意のホウ素化合物を使用することができる。したがって、酸化ホウ素、酸化ホウ素水和物、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、HBFホウ素酸類、例えば、ボロン酸(例えば、アルキル-B(OH)、又はアリール-B(OH))、ホウ酸(すなわち、HBO)、四ホウ酸(すなわち、H)、メタホウ酸(すなわち、HBO)、そのようなホウ素酸類のアンモニウム塩、及びそのようなホウ素酸類のエステルを使用することができる。三ハロゲン化ホウ素とエーテル、有機酸、無機酸、又は炭化水素との錯体の使用は、ホウ素反応物質を反応混合物に導入する便利な手段である。このような錯体は知られており、三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素-フェノール、三フッ化ホウ素-リン酸、三塩化ホウ素-クロロ酢酸、三臭化ホウ素-ジオキサン及び三フッ化ホウ素-メチルエチルエーテルにより例示される。
【0089】
本明細書における分散剤を形成するための好適なリン化合物としては、リン含有種を無灰分散剤に導入することができるリン化合物又はリン化合物の混合物が挙げられる。このため、かかる反応を受けることができる有機又は無機の任意のリン化合物を使用することができる。したがって、かかる無機リン化合物を、無機リン酸、及びその水和物を含む無機酸化リンとして使用することができる。典型的な有機リン化合物としては、リン酸の完全エステル及び部分エステル、例えば、リン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、及びテトラチオリン酸のモノ-、ジ-、及びトリエステル;亜リン酸、チオ亜リン酸、チオ亜リン酸のモノ-、ジ-、及びトリエステル;ジチオ亜リン酸及びトリチオ亜リン酸;トリヒドロカルビルホスフィンオキシド類:トリヒドロカルビルホスフィンスルフィド類;モノ-及びジヒドロカルビルホスホネート類(RPO(OR’)(OR”)、式中、R及びR’は、ヒドロカルビルであり、R”は、水素原子又はヒドロカルビル基である)、及びそれらのモノ-、ジ-、並びにトリチオ類似体;モノ-及びジヒドロカルビルホスホナイト類(RP(OR’)(OR”)、式中、R及びR’は、ヒドロカルビルであり、R”は、水素原子又はヒドロカルビル基である)、及びそれらのモノ-並びにジチオ類似体など、が挙げられる。したがって、そのような化合物を、例えば、亜リン酸(HPO、H(HPO)と表されることもあり、オルト-亜リン酸又はホスホン酸と呼ばれることもある)、リン酸(HPO、オルトリン酸と呼ばれることもある)、次リン酸(H)、メタリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、次亜リン酸(HPO、ホスフィン酸と呼ばれることもある)、ピロ亜リン酸(H、ピロホスホン酸と呼ばれることもある)、亜ホスフィン酸(HPO)、トリポリリン酸(H10)、テトラポリリン酸(H13)、トリメタリン酸(H)、三酸化リン、四酸化リン、五酸化リンなどとして使用することができる。ホスホロテトラチオ酸(HPS)、ホスホロモノチオ酸(HPOS)、ホスホロジチオ酸(HPO)、ホスホロトリチオ酸(HPOS)、セスキ硫化リン、七硫化リン、及び五硫化リン(P、P10と称されることもある)などの部分又は全硫黄類似体も、本開示のための分散剤の形成に使用することができる。PCl、PBr、POCl、PSClなどのような無機ハロゲン化リン化合物も使用可能である。
【0090】
同様に、そのような有機リン化合物を、リン酸のモノ-、ジ-、及びトリエステル(例えば、リン酸トリヒドロカルビル、リン酸ジヒドロカルビル一酸、リン酸モノヒドロカルビル二酸、及びそれらの混合物)、亜リン酸のモノ-、ジ、及びトリエステル(例えば、亜リン酸トリヒドロカルビル、亜リン酸ジヒドロカルビル水素、亜リン酸ヒドロカルビル二酸、及びそれらの混合物)、ホスホン酸のエステル(「一級」、RP(O)(OR)、及び「二級」、RP(O)(OR)の両方)、ホスフィン酸のエステル、ハロゲン化ホスホニル(例えば、RP(O)Cl及びRP(O)Cl)、ハロ亜リン酸塩(例えば、(RO)PCl及び(RO)PCl)、ハロリン酸塩(例えば、ROP(O)Cl及び(RO)P(O)Cl)、三級ピロリン酸エステル(例えば、(RO)P(O)-O-P(O)(OR))、並びに前述の有機リン化合物のいずれかの全硫黄類似体又は部分硫黄類似体などとして使用することができ、各ヒドロカルビル基は、最大約100個の炭素原子、又は最大約50個の炭素原子、又は最大約24個の炭素原子、又は最大約12個の炭素原子を含有する。ハロゲン化ハロホスフィン(例えば、四ハロゲン化ヒドロカルビルリン、三ハロゲン化ジヒドロカルビルリン、及び二ハロゲン化トリヒドロカルビルリン)、及びハロホスフィン(モノハロホスフィン及びジハロホスフィン)も使用可能である。
【0091】
本明細書における潤滑剤は、非ホウ素化及び非リン酸化分散剤と組み合わされた上記の1つ以上のホウ素化及びリン酸化分散剤の混合物を含み得る。
【0092】
一実施形態では、潤滑油組成物は、少なくとも1つのホウ酸化分散剤を含んでもよく、ここで、分散剤は、オレフィンコポリマーの反応生成物、又は無水コハク酸を有するオレフィンコポリマーと少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物である。PIBSA:ポリアミンの比は、1:1~10:1、又は1:1~5:1、又は4:3~3:1、又は4:3~2:1であり得る。特に有用な分散剤は、上述のGPC法により測定され約500~5000の範囲の数平均分子量(molecular weight、Mn)を有するPIBSAのポリイソブテニル基と、一般式HN(CH-[NH(CH-NHを有する(B)ポリアミンとを含有し、式中、mは、2~4の範囲であり、nは、1~2の範囲である。
【0093】
上記に加えて、分散剤は、芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、又は芳香族無水物で後処理されてもよく、全カルボン酸又は無水物基は、芳香環に直接結合される。そのようなカルボキシル含有芳香族化合物は、1,8-ナフタレン酸又は無水物及び1,2-ナフタレンジカルボン酸又は無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸又は無水物、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸無水物、ジフェン酸又は無水物、2,3-ピリジンジカルボン酸又は無水物、3,4-ピリジンジカルボン酸又は無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸又は無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物、ピレンジカルボン酸又は無水物などから選択され得る。ポリアミン1モル当たりに反応したこの後処理構成成分のモルは、約0.1:1~約2:1の範囲であってもよい。反応混合物中のこの後処理構成成分のポリアミンに対する典型的なモル比は、約0.2:1~約2:1の範囲であってもよい。この後処理構成成分の使用され得るポリアミンに対する別のモル比は、0.25:1~約1.5:1の範囲であってもよい。この後処理構成成分は、約140℃~約180℃の範囲にある温度で他の成分と反応させてもよい。
【0094】
代替的に、又は上述の後処理に加えて、分散剤は、非芳香族ジカルボン酸又は無水物で後処理されてもよい。非芳香族ジカルボン酸又はその無水物は、上記のGPC法により測定されたとき、500未満の数平均分子量を有し得る。好適なカルボン酸又はその無水物は、酢酸又は無水物、シュウ酸及び無水物、マロン酸及び無水物、コハク酸及び無水物、アルケニルコハク酸及び無水物、グルタル酸及び無水物、アジピン酸及び無水物、ピメリン酸及び無水物、スベリン酸及び無水物、アゼライン酸及び無水物、セバシン酸及び無水物、マレイン酸及び無水物、フマル酸及び無水物、酒石酸及び無水物、グリコール酸及び無水物、1,2,3,6-テトラヒドロナフタル酸及び無水物などを含み得るが、これらに限定されない。
【0095】
非芳香族カルボン酸又は無水物は、ポリアミン1モル当たり約0.1~約2.5モルの範囲であるポリアミンとのモル比で反応させる。典型的には、使用される非芳香族カルボン酸又は無水物の量は、ポリアミン中の二級アミノ基の数に比例するであろう。したがって、構成成分B中の二級アミノ基当たり約0.2~約2.0モルの非芳香族カルボン酸又は無水物を他の構成成分と反応させて、本開示の実施形態による分散剤を提供することができる。非芳香族カルボン酸又は無水物の使用され得るポリアミンに対する別のモル比は、ポリアミン1モル当たり0.25:1~約1.5:1モルの範囲であってもよい。非芳香族カルボン酸又は無水物は、約140℃~約180℃の範囲の温度で他の構成成分と反応し得る。
【0096】
アルケニル又はアルキル無水コハク酸の活性物質重量%は、クロマトグラフィー技術を使用して測定され得る。この方法は、米国特許第5,334,321号の第5欄及び第6欄に記載されている。ポリオレフィンの転化率は米国特許第5,334,321号の第5欄及び第6欄の式を使用して、有効成分%から算出される。
【0097】
好適なホウ酸化分散剤のTBNは、油を含まない場合約10~約65mg KOH/グラムであり得、これは、約50%の希釈油を含有する分散剤試料上で測定される場合の約5~約30mg KOH/グラムのTBNと同等である。
【0098】
典型的には、上述の分散剤は、潤滑剤中に約4.5~約10重量パーセント、及び他のアプローチでは、約4.5~約8重量パーセント、及び、更に他のアプローチでは、約4.5~約7.7重量パーセントで提供される。
【0099】
粘度指数改良剤
【0100】
本明細書の潤滑剤組成物はまた、任意選択で、1つ以上の粘度指数改良剤も含有し得る。好適な粘度指数改善剤には、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ-オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、又はそれらの混合物が含まれ得る。粘度指数改良剤は、星型ポリマーを含み得、好適な例は、米国特許出願公開第2012/0101017(A1)号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0101】
本明細書の潤滑油組成物は、任意選択的に、粘度指数改善剤に加えて、又は粘度指数改善剤の代わりに、1つ以上の分散剤粘度指数改善剤も含有し得る。好適な粘度指数改善剤としては、官能化ポリオレフィン、例えば、アシル化剤(無水マレイン酸など)とアミンとの反応生成物で官能化されたエチレン-プロピレンコポリマー、アミンで官能化されたポリメタクリレート、又はアミンと反応させたエステル化無水マレイン酸-スチレンコポリマーが挙げられ得る。
【0102】
粘度指数改善剤及び/又は分散剤粘度指数改善剤の総量は、潤滑油組成物の約0重量%~約10重量%、約0.1重量%~約8重量%、又は約0.1重量%~約6重量%であり得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、粘度指数改善剤は、約10,000~約500,000、約50,000~約200,000、又は約50,000~約150,000の数平均分子量を有するポリオレフィン又はオレフィンコポリマーである。いくつかの実施形態では、粘度指数改良剤は、約40,000~約500,000、約50,000~約200,000、又は約50,000~約150,000の数平均分子量を有する水素化スチレン/ブタジエンコポリマーである。いくつかの実施形態では、粘度指数改善剤は、約10,000~約500,000、約50,000~約200,000、又は約50,000~約150,000の数平均分子量を有するポリメタクリレートである。
【0104】
他の任意選択の添加剤
【0105】
他の添加剤は、潤滑剤組成物に要求される1つ以上の機能を実行するように選択することができる。更に、前述の添加剤のうちの1つ以上が、多官能性であり得、本明細書で記述される機能に追加して機能を提供し得るか、又はそれ以外の機能を提供し得る。他の添加剤は、本開示に指定される添加剤に加えられ得、及び/又は金属不活性化剤、粘度指数改善剤、無灰TBNブースタ、耐摩耗剤、腐食抑制剤、錆抑制剤、分散剤、分散剤粘度指数改善剤、極圧剤、酸化防止剤、泡抑制剤、解乳化剤、乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、及びそれらの混合物のうちの1つ以上を含み得る。典型的には、完全に配合された潤滑油は、これらの添加剤のうちの1つ以上を含有する。
【0106】
好適な金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾールの誘導体(典型的にはトリルトリアゾール)、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、1,2,4-トリアゾール、ベンゾイミダゾール、2-アルキルジチオベンゾイミダゾール、又は2-アルキルジチオベンゾチアゾール;アクリル酸エチルとアクリル酸2-エチルヘキシルと任意選択的に酢酸ビニルとのコポリマーを含む泡抑制剤;トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド及び(エチレンオキシド-プロピレンオキシド)ポリマーを含む解乳化剤;無水マレイン酸-スチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート又はポリアクリルアミドのエステルを含む流動点降下剤が挙げられ得る。
【0107】
好適な泡抑制剤としては、シロキサンなどのケイ素ベースの化合物が挙げられる。
【0108】
好適な流動点降下剤としては、ポリメチルメタクリレート又はそれらの混合物が挙げられ得る。流動点降下剤は、潤滑油組成物の最終重量に基づいて、約0重量%~約1重量%、約0.01重量%~約0.5重量%、又は約0.02重量%~約0.04重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。
【0109】
好適な防錆剤は、フェラスメタル表面の腐食を抑制する特性を有する単一の化合物、又は化合物の混合物であり得る。本明細書で有用な防錆剤の非限定的な例としては、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、及びセロチン酸などの油溶性高分子量有機酸、並びにトール油脂肪酸、オレイン酸、及びリノール酸から生成されたものなどの二量体及び三量体酸を含む油溶性ポリカルボン酸が挙げられる。他の好適な腐食抑制剤には、約600~約3000の分子量範囲の長鎖アルファ、オメガ-ジカルボン酸、及びテトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、及びヘキサデセニルコハク酸などの、アルケニル基が約10個以上の炭素原子を含有するアルケニルコハク酸が含まれる。別の有用なタイプの酸性腐食抑制剤は、アルケニル基中に約8~約24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸と、ポリグリコールなどのアルコールとの半エステルである。そのようなアルケニルコハク酸の対応する半アミドもまた、有用である。有用な防錆剤は、高分子量の有機酸である。いくつかの実施形態では、エンジン油は、錆抑制剤を含まない。
【0110】
錆抑制剤は、存在する場合、潤滑油組成物の最終重量に基づいて、約0重量%~約5重量%、約0.01重量%~約3重量%、約0.1重量%~約2重量%を提供するのに十分な任意選択の量で使用され得る。
【0111】
潤滑剤組成物は、腐食抑制剤も含み得る(他の言及した成分のいくつかは銅腐食抑制特性も有し得ることに留意すべきである)。好適な銅腐食抑制剤としては、エーテルアミン、ポリエトキシル化化合物、例えば、エトキシル化アミン及びエトキシル化アルコール、イミダゾリン、モノアルキル、並びにジアルキルチアジアゾールなどが挙げられる。
【0112】
チアゾール、トリアゾール、及びチアジアゾールも、潤滑剤に使用され得る。例としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、オクチルトリアゾール、デシルトリアゾール、ドデシルトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルチオ-1,3,4-チアジアゾール、及び2-メルカプト-5-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾールが挙げられる。一実施形態では、潤滑剤組成物は、1,3,4-チアジアゾール、例えば、2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-ジチアジアゾールを含む。
【0113】
発泡防止剤/界面活性剤もまた、本発明による流体に含まれ得る。そのような用途のための様々な薬剤が知られている。エチルアクリレートとヘキシルエチルアクリレートとのコポリマー、例えば、Solutiaから入手可能なPC-1244を使用することができる。他の実施形態では、4%DCFなどのシリコーン流体が含まれ得る。発泡防止剤の混合物もまた、潤滑剤組成物に存在し得る。
【実施例0114】
以下の実施例は、本開示の例示的な実施形態を例解するものである。これらの実施例並びに本出願の他の箇所において、全ての比率、部、及び百分率は、別段の指示がない限り重量基準である。これらの実施例は、例解のみを目的として提示されており、本明細書で開示される発明の範囲を限定することは意図されないということが意図される。
【0115】
実施例1
【0116】
以下の表3の組成を有する比較用トランスミッション用潤滑流体及び本発明のトランスミッション用潤滑流体を調製した。ホスファイト成分のバリエーションにもかかわらず、以下の表3に示すように、潤滑剤は、極圧剤、消泡剤、摩擦調整剤、エステル、分散剤、流動点降下剤、清浄剤、酸化防止剤、及び粘度指数改善剤を含む同じ添加剤量を含んでいた。本発明1、比較例2、及び比較例3は、ホスファイトの変更を除いて同一であった。それらの違いを以下の表3に示す。全ての流体は、約4.5cStのkV100を達成するように配合された。(ASTM D425に従って測定されたkV100)。比較例1は、ホスファイトを全く含有せず、やや多い量の基油を含有する。
【0117】
【表3】
【0118】
上記表3の成分は以下のものを含んでいた。
● チアジアゾール添加剤は、2,5-ビス-(ヒドロカルビルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールと5-ヒドロカルビルジチオ-2-メルカプト-1,3,4-チアジアゾールとの85:15の混合物であって、ここで、ヒドロカルビル基は、C~C12のアルキル基であった。この化合物は、約35重量パーセントの硫黄及び約6.4重量パーセントの窒素を含んでいた。
● ホスファイトAは、約4.8重量パーセントのリンを有するトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトであった。したがって、ホスファイトAは、各アリール環上にジアルキル化を有し、各アルキル化がオルト位及びパラ位に位置するトリスフェニルホスファイトであった。したがって、ホスファイトAは、1.0のパラ位置換対オルト位置換の比を有していた。
● ホスファイトBは、オルト位置換のみ、したがって、0のパラ位置換対オルト位置換の比を有する、約4.5重量パーセントのリンを有するトリスノニルフェニルホスファイトであった。
● ホスファイトCは、分岐Cアルキル基のパラ位置換又はオルト位及びパラ位置換の組み合わせのいずれかを有するトリスアリールホスファイトのブレンドであった。ホスファイトCは約5.1重量パーセントのリンであった。トリスアリールホスファイトのブレンド中の全てのアリール環をパラ位でアルキル化した。トリスアリールホスファイトのブレンド中のアリール環の約24.4%のみがオルト位でアルキル化された。したがって、ホスファイトCは、4.1:1のパラ位置換対オルト位置換の全体比を有していた。ブレンドは、少なくとも、トリス(4-(tert-ペンチル)フェニル)ホスファイト、2,4-ジ-tert-ペンチルフェニルビス(4-(tert-ペンチル)フェニル)ホスファイト、及びビス(2,4-ジ-tert-ペンチルフェニル)(4-(tert-ペンチル)フェニル)ホスファイトを含んでいた。
【0119】
表3の潤滑剤を、修正ASTM D130浸出(150℃で168時間まで延長)に準拠する銅の変色について評価した。ASTM D130試験の後、潤滑剤を、ICPを使用して銅浸出について試験した。本発明1は、CEC L-84-02(A10/16.6R/90C)に準拠する耐荷重性能又はFZG破壊荷重段階の合格についても評価した。結果を、以下の表4に提供する。
【0120】
【表4】
【0121】
チアジアゾール添加剤を含むがホスファイトを含まないベースライン例である比較用潤滑剤1は、高レベルの銅浸出及び高い銅変色等級に関して劣った銅腐食を示した。チアジアゾール添加剤及びホスファイトAを含む本発明の潤滑剤1は、低い最終試験銅浸出を示し、改善された銅変色等級を有した。比較用潤滑剤2及び比較用潤滑剤3は、比較用潤滑剤1と比較してわずかに改善された銅性能を有したが、それらは、本発明の潤滑剤1と比較して依然として著しく劣った性能であった。パラ位対オルト位置換の記載される比を有するホスファイトを含む本発明の潤滑剤1のみが、チアジアゾール添加剤と組み合わされた場合、適切な耐荷重性能を維持しながら、(浸出及び変色に関する)銅腐食の合格を達成した。
【0122】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されているように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、明示的かつ明確に1つの指示対象に限定されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「酸化防止剤」への言及は、2つ以上の異なる酸化防止剤を含む。本明細書で使用される場合、「含む」という用語及びその文法的変形は、リスト内の項目の列挙がリストの項目に置換又は追加され得る他の類似の項目を排除するものではないように、非限定的であることを意図する。
【0123】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のために、別段の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される量、パーセンテージ、又は割合、及び他の数値を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、特許請求の範囲の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数の観点から及び通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。
【0124】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基、又はパラメータは、単独で、又は本明細書に開示されるありとあらゆる他の成分、化合物、置換基、若しくはパラメータのうちの1つ以上との組み合わせでの使用について開示されていると解釈されるべきであることを理解されたい。
【0125】
本明細書に開示される各範囲は、同じ有効数字の数を有する開示範囲内の各特定値の開示として解釈されるべきであることを更に理解されたい。したがって、例えば、1~4の範囲は、1、2、3、及び4の値だけでなく、そのような値の任意の範囲の明確な開示として解釈されるべきである。
【0126】
本明細書に開示される各範囲の各下限が、同じ成分、化合物、置換基、又はパラメータについて本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内の各特定値と組み合わせて開示されると解釈されるべきであることを更に理解されたい。したがって、本開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限と、若しくは各範囲内の各特定値と組み合わせることによって、又は各範囲の各上限を各範囲内の各特定値と組み合わせることによって導出される全ての範囲の開示として解釈されるべきである。すなわち、広い範囲内の終点値の間の任意の範囲も本明細書において考察されることもまた更に理解される。したがって、1~4の範囲は、1~3、1~2、2~4、2~3などの範囲をも意味する。
【0127】
更に、説明又は実施例において開示される成分、化合物、置換基、又はパラメータの特定量/値は、範囲の下限又は上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、したがって、本出願の他の箇所で開示される同じ成分、化合物、置換基、又はパラメータについての範囲の任意の他の下限若しくは上限又は特定量/値と組み合わせて、その成分、化合物、置換基、又はパラメータについての範囲を形成することができる。
【0128】
特定の実施形態について説明してきたが、出願人ら若しくは他の当業者にとって現在予想されていない、又は現在予想することができない代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物が現れ得る。したがって、出願された添付の特許請求の範囲、及び修正され得る添付の特許請求の範囲は、そのような全ての代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物を包含することを意図している。
【外国語明細書】