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特開2024-108155熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材及びその製造方法
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  • 特開-熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108155
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240802BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20240802BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20240802BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20240802BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/16
C08L23/04
C08K5/01
C08J5/00 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011142
(22)【出願日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2023011709
(32)【優先日】2023-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山内 庸詞
(72)【発明者】
【氏名】小座間 洋子
(72)【発明者】
【氏名】山岸 美結
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真由
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA15X
4F071AA19
4F071AA20
4F071AA20X
4F071AA21X
4F071AA39X
4F071AA88
4F071AB21
4F071AC02
4F071AC02A
4F071AC08A
4F071AE02A
4F071AE04
4F071AE17
4F071AF20
4F071AF26Y
4F071AF45
4F071AH07
4F071BB04
4F071BB05
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC16
4J002BB04X
4J002BB05X
4J002BB12W
4J002BB14W
4J002BB15X
4J002EA016
4J002FD026
4J002GF00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】成形性と表面平滑性に優れる熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材を提供する。
【解決手段】下記成分(A)~成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材。下記成分(A)~成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物を得る工程と、当該熱可塑性エラストマー組成物を押出成形またはカレンダー成形してシート状の自動車部材を得る工程とを有する自動車部材の製造方法。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):イソアルカンまたはイソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):イソアルカンまたはイソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー組成物のデュロ硬度Aが30~99、またはデュロ硬度Dが30~60である、請求項1に記載の自動車部材。
【請求項3】
前記成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体が、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムを含む、請求項1又は2に記載の自動車部材。
【請求項4】
前記成分(C)が、主鎖に末端イソメチル基以外の側鎖アルキル基を有するイソアルカンを含む、請求項1又は2に記載の自動車部材。
【請求項5】
前記末端イソメチル基以外の側鎖アルキル基が炭素数1~18のアルキル基である、請求項4に記載の自動車部材。
【請求項6】
前記末端イソメチル基以外の側鎖アルキル基がメチル基である、請求項5に記載の自動車部材。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマー組成物が架橋熱可塑性エラストマー組成物である、請求項1又は2に記載の自動車部材。
【請求項8】
前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される、以下に定義される主要な構成単位が、分子式C1634及びC1632の少なくとも一方で表される、請求項1又は2に記載の自動車部材。
<主要な構成単位の定義>
主要な構成単位とは、FD-MSで測定されるマススペクトルにおいて、水素原子数2
~118の炭化水素においてはm/zの一の位が偶数のピーク、水素原子数120~24
4の炭化水素においてはm/zの一の位が奇数のピーク、水素原子数246~370の炭
化水素においてはm/zの一の位が偶数のピークをそれぞれ抽出し、ピーク強度の強いも
のを順に複数抽出した場合に、抽出したピークが表すm/zの差から特定できる炭化水素
の分子式である。なお、炭素数が同じピークは主要な構成単位の計算に含めない。
【請求項9】
前記成分(C)が、主成分として、前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される分子式C4896及びC4898で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有する、請求項8に記載の自動車部材。
【請求項10】
前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される、以下に定義される主要な構成単位が、分子式C2n+2及びC2n(40≦n<60)で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有する、イソアルカン混合物である、請求項1又は2に記載の自動車部材。
<主要な構成単位の定義>
主要な構成単位とは、FD-MSで測定されるマススペクトルにおいて、水素原子数2
~118の炭化水素においてはm/zの一の位が偶数のピーク、水素原子数120~24
4の炭化水素においてはm/zの一の位が奇数のピーク、水素原子数246~370の炭
化水素においてはm/zの一の位が偶数のピークをそれぞれ抽出し、ピーク強度の強いも
のを順に複数抽出した場合に、抽出したピークが表すm/zの差から特定できる炭化水素
の分子式である。なお、炭素数が同じピークは主要な構成単位の計算に含めない。
【請求項11】
前記成分(C)が、更に、前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される分子式C2n+2及びC2n(30≦n<40)で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有する、請求項10に記載の自動車部材。
【請求項12】
前記成分(C)が、更に、前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される分子式C2n+2及びC2n(60≦n≦80)で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有する、請求項11に記載の自動車部材。
【請求項13】
下記成分(A)~成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物を得る工程と、当該熱可塑性エラストマー組成物を押出成形またはカレンダー成形してシート状の自動車部材を得る工程とを有する自動車部材の製造方法。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):イソアルカンまたはイソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材に関する。詳しくは、本発明は、成形性と表面平滑性に優れた熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材に関する。本発明はまた、この自動車部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビニルや加硫ゴム、金属が用いられてきた自動車部材の分野において、近年では、軽量化、リサイクル性、易焼却性等の環境問題や、シール性、耐熱性、耐寒性、耐熱老化性、耐候性、低臭気性、柔軟性、高級感等のニーズに対応するため、熱可塑エラストマーから成る自動車部材が実用に供されている。
【0003】
このような自動車部材に使用し得る熱可塑エラストマーの例として、エチレン系重合体とプロピレン系重合体からなる熱可塑エラストマー組成物が自動車部材の表面平滑性を良好にできることが記載されている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の熱可塑性エラストマー組成物では、エチレン系重合体としてパラフィン系鉱物油で油展したものを用いており、従って、パラフィン系鉱物油を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-27528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車内外装において、様々なデザインが提案されており、製品形状が複雑化している。自動車内外装においてはまた、より一層の高級感や快適さが求められている。
このような状況において、自動車部材の材料となる熱可塑性エラストマー組成物には、より良好な成形性が求められている。また、得られる成形体においては、自動車部材としての外観を損なわせないために、より良好な表面平滑性が求められている。
【0006】
特許文献1の熱可塑性エラストマー組成物は、パラフィン系鉱物油を含有しているが、パラフィン系鉱物油では、後掲の比較例1,2に示されるように、得られる成形体の表面平滑性には更なる改良の余地がある。また、複雑化する自動車部材の形状に対応できる成形性にも改良の余地がある。
【0007】
本発明の目的は、上記の従来品における課題を解決し、成形性と表面平滑性に優れる熱可塑エラストマーからなる自動車部材を提供することにある。
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭利検討を重ねた結果、プロピレン系重合体とエチレン・α-オレフィン共重合体とイソアルカン混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物が成形性と表面平滑性に優れることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] 下記成分(A)~成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる自動車部材。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):イソアルカンまたはイソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物
【0011】
[2] 前記熱可塑性エラストマー組成物のデュロ硬度Aが30~99、またはデュロ硬度Dが30~60である、[1]に記載の自動車部材。
【0012】
[3] 前記成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体が、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムを含む、[1]又は[2]に記載の自動車部材。
【0013】
[4] 前記成分(C)が、主鎖に末端イソメチル基以外の側鎖アルキル基を有するイソアルカンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の自動車部材。
【0014】
[5] 前記末端イソメチル基以外の側鎖アルキル基が炭素数1~18のアルキル基である、[4]に記載の自動車部材。
【0015】
[6] 前記末端イソメチル基以外の側鎖アルキル基がメチル基である、[5]に記載の自動車部材。
【0016】
[7] 前記熱可塑性エラストマー組成物が架橋熱可塑性エラストマー組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載の自動車部材。
【0017】
[8] 前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される、以下に定義される主要な構成単位が、分子式C1634及びC1632の少なくとも一方で表される、[1]~[7]のいずれかに記載の自動車部材。
<主要な構成単位の定義>
主要な構成単位とは、FD-MSで測定されるマススペクトルにおいて、水素原子数2
~118の炭化水素においてはm/zの一の位が偶数のピーク、水素原子数120~24
4の炭化水素においてはm/zの一の位が奇数のピーク、水素原子数246~370の炭
化水素においてはm/zの一の位が偶数のピークをそれぞれ抽出し、ピーク強度の強いも
のを順に複数抽出した場合に、抽出したピークが表すm/zの差から特定できる炭化水素
の分子式である。なお、炭素数が同じピークは主要な構成単位の計算に含めない。
【0018】
[9] 前記成分(C)が、主成分として、前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される分子式C4896及びC4898で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有する、[8]に記載の自動車部材。
【0019】
[10] 前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される、以下に定義される主要な構成単位が、分子式C2n+2及びC2n(40≦n<60)で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有する、イソアルカン混合物である、[1]~[9]のいずれかに記載の自動車部材。
<主要な構成単位の定義>
主要な構成単位とは、FD-MSで測定されるマススペクトルにおいて、水素原子数2
~118の炭化水素においてはm/zの一の位が偶数のピーク、水素原子数120~24
4の炭化水素においてはm/zの一の位が奇数のピーク、水素原子数246~370の炭
化水素においてはm/zの一の位が偶数のピークをそれぞれ抽出し、ピーク強度の強いも
のを順に複数抽出した場合に、抽出したピークが表すm/zの差から特定できる炭化水素
の分子式である。なお、炭素数が同じピークは主要な構成単位の計算に含めない。
【0020】
[11] 前記成分(C)が、更に、前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される分子式C2n+2及びC2n(30≦n<40)で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有する、[10]に記載の自動車部材。
【0021】
[12] 前記成分(C)が、更に、前記成分(C)をFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される分子式C2n+2及びC2n(60≦n≦80)で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有する、[10]又は[11]に記載の自動車部材。
【0022】
[13] 下記成分(A)~成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物を得る工程と、当該熱可塑性エラストマー組成物を押出成形またはカレンダー成形してシート状の自動車部材を得る工程とを有する自動車部材の製造方法。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):イソアルカンまたはイソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、成形性と表面平滑性に優れる熱可塑エラストマーからなる自動車部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の自動車部材の一実施形態に係る自動車用インストルメントパネルの模式的断面図である。
図2】FD-MSスペクトルの一例を示すチャートである。
図3】FD-MSスペクトルの他の例を示すチャートである。
図4】FD-MSスペクトルの別の例を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物性値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物性値は、その値を含む意味で用いることとする。
【0026】
[自動車部材]
本発明の自動車部材は、少なくとも下記の成分(A)と成分(B)と成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物(以下、「本発明の熱可塑性エラストマー組成物」と称す場合がある。)からなる。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):イソアルカンまたはイソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の各成分とその配合組成については後述する。
【0027】
本発明の自動車部材の形態は、特に限定されるものではないが、シート形態が好ましい。
本発明の自動車部材は、幅広い自動車部品の部材として用いることができる。本発明の自動車部材が適用できる自動車部品としては、ウェザーストリップ、天井材、ガーニッシュ、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、ホース、アームレスト、インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールリッド、マット等が挙げられる。
これらのうちでも、本発明の自動車部材は、自動車内装材として好適であり、インストルメントパネルやドアトリムの表皮材に特に好適である。
【0028】
インストルメントパネルやドアトリムの表皮材は、通常熱可塑性エラストマー組成物の層を含む積層体の構造を有しており、本発明の自動車部材は、当該熱可塑性エラストマー組成物の層を構成する部材として用いることができる。
【0029】
図1は、自動車用インストルメントパネル(10)の一例の模式的断面図であり、符号(1)はトップコート層、(2)は接着層、(3)は熱可塑性エラストマー層、(4)は加飾層、(5)は発泡体層を表す。
上記の自動車用インストルメントパネル(10)の熱可塑性エラストマー層(3)には本発明の熱可塑性エラストマー組成物が使用される。
【0030】
本発明の自動車部材は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、通常用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、カレンダー成形、中空成形、圧縮成形、真空成形の各種成形方法により、成形することにより得られる。これらの中でも押出成形やカレンダー成形が好適である。また、これらの成形を行った後に積層成形、熱成形の二次加工を行うこともできる。
【0031】
本発明の自動車部材は、下記成分(A)~成分(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物を得る工程と、当該熱可塑性エラストマー組成物を押出成形またはカレンダー成形を経て自動車部材を得る工程とを有する本発明の自動車部材の製造方法により製造することができるが、何らこの方法に限定されるものではない。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):イソアルカンまたはイソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物
【0032】
[熱可塑性エラストマー組成物]
以下に本発明の熱可塑性エラストマー組成物について説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも下記成分(A)~成分(C)を含むものであり、必要に応じて、更に、下記成分(D)~成分(F)、その他の成分を含むものであってもよい。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):イソアルカンまたはイソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物
成分(D):ゴム用炭化水素系軟化剤
成分(E):架橋剤
成分(F):架橋助剤
【0033】
<メカニズム>
上記成分(A)~成分(C)を含む本発明の熱可塑性エラストマー組成物により、表面平滑性に優れる自動車部材を優れた成形性のもとに得ることができるメカニズムの詳細については明らかではないが、以下のように考えられる。
【0034】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)及び成分(B)と共に、成分(C)のイソアルカン混合物を含有することで、成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体と成分(C)のイソアルカン混合物との絡み合いにより、成分(B)と成分(C)との親和性が上がり、成分(B)の可塑化が促され、成形性、表面平滑性に優れた成形体を得ることができると推測される。また、成分(C)は、アルカン類なので、比重が軽く、熱可塑性エラストマー組成物の低比重化も可能となるという利点もある。成分(C)が、更に側鎖アルキル基、好ましくは炭素数1~18の側鎖アルキル基を有することで、上記した成分(B)と成分(C)の絡み合い効果を得やすくなり、安定した流動性を有し、耐熱性やその他機械的強度にも優れた自動車部材を得やすくなる。
特に、成分(C)がFD-MSで測定して得られるマススペクトルより特定される特定の特徴を有することは、低粘度成分の含有量が従来公知のゴム用炭化水素系軟化剤と比較して少ないことを意味しており、耐ブリードアウト性に優れた自動車部材を得やすくなると考えられる。同様に高粘度量成分も従来公知のゴム用炭化水素系軟化剤と比較して少ないことを意味しており、成分(B)と成分(C)の親和性向が上がり、成形性、ゴム弾性に優れた自動車部材を得ることができると推察できる。
【0035】
<成分(A):プロピレン系重合体>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(A)は成形性に寄与する。
本発明に用いる成分(A)のプロピレン系重合体を構成する全単量体単位に対するプロピレン単位の含有率は、好ましくは50質量%を超えるものであり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは75質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。プロピレン系重合体のプロピレン単位の含有率が上記下限値超であることにより、耐熱性及び剛性が良好となる傾向にある。一方、プロピレン単位の含有率の上限については特に制限されず、通常100質量%である。なお、プロピレン系重合体のプロピレン単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0036】
成分(A)のプロピレン系重合体としては、その種類は特に制限されず、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等のプロピレン共重合体等いずれも使用することができる。成分(A)のプロピレン系重合体は、これらの1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0037】
成分(A)がプロピレンランダム共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、エチレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンを例示することができる。また、成分(A)がプロピレンブロック共重合体である場合、多段階で重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられ、より具体的には、第一段階でポリプロピレンを重合し、第二段階でプロピレン・エチレン共重合体を重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられる。
【0038】
成分(A)についてJIS K7210に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトフローレート(MFR)は、通常0.05g/10分以上であり、流動性の観点から、好ましくは0.1g/10分以上であり、より好ましくは0.5g/10分以上である。一方、成分(A)のMFRは、通常200g/10分以下であり、成形性の観点から、好ましくは100g/10分以下であり、より好ましくは80g/10分以下である。メルトフローレートを上記範囲とすることで、成形性に優れ、得られる成形体の外観が良好となり、また機械的特性、特に引張破壊強さを所望の範囲に制御することができる。
【0039】
成分(A)のプロピレン系重合体の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法を挙げることができる。この多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせて製造してもよい。
【0040】
また、成分(A)のプロピレン系重合体は市販の該当品を用いることも可能である。市販のプロピレン系重合体としては下記に挙げる製造者等から調達可能であり、適宜選択することができる。入手可能な市販品としては、プライムポリマー社のPrimPolypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標)、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、ExxonMobil社のExxonMobilPP、FormosaPlastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealisPP、LGChemical社のSEETECPP、A.Schulman社のASIPOLYPROPYLENE、INEOSOlefins&Polymers社のINEOSPP、Braskem社のBraskemPP、SAMSUNGTOTALPETROCHEMICALS社のSumsungTotal、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTALPETROCHEMICALS社のTOTALPETROCHEMICALSPolypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)等がある。
【0041】
<成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(B)はゴム弾性や表面平滑性に寄与する。
成分(B)としては、エチレン・プロピレン・共重合体ゴム(EPR)、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、エチレン・ブテン共重合体ゴム(EBR)、エチレン・ブテン・非共役ジエン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体ゴム、エチレン・オクテン・共重合体ゴム(EOR)等を1種又は複数種含んだもの等が挙げられる。
【0042】
本発明に用いる成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体としては、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムが好適である。
エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムには、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムとゴム用炭化水素系軟化剤との混合物(以下、「油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム」と称することもある。)である油展タイプのものと、ゴム用炭化水素系軟化剤を含まない非油展タイプのものがあり、本実施形態では非油展タイプを含むことが好ましいが、油展タイプのものも好適に用いることができる。すなわち、本発明において、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムは、油展タイプと非油展タイプのいずれでも使用可能であり、非油展タイプのもの又は油展タイプのものの1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよく、油展タイプの1種又は2種以上と非油展タイプの1種又は2種以上とを任意の組み合わせ及び比率で用いることもできる。
油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムと非油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムとを、油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム:非油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム=1:10~10:1(質量比)の範囲で併用することで、成形性や表面平滑性をより高めることができる。
【0043】
成分(B)のエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムにおける非共役ジエン単位としては、ジシクロペンタジエン単位、1,4-ヘキサジエン単位、シクロオクタジエン単位、メチレンノルボルネン単位、エチリデンノルボルネン単位、ビニリデンノルボルネン単位等が挙げられる。これらの中でもエチリデンノルボルネン単位及び/又はビニリデンノルボルネン単位が含まれていると、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムに適度な架橋構造を与えることができるために好ましい。以上に挙げた非共役ジエン単位は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0044】
エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムにおけるエチレン単位の含有率は、特に限定されないが、成分(B)を構成する単量体単位の合計100質量%に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上である。一方、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下である。エチレン単位の含有率が上記範囲であると適度な柔軟性を付与し易くなる。
【0045】
また、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムにおけるプロピレン単位の含有率は、成分(B)を構成する単量体単位の合計100質量%に対し、好ましくは9質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上である。一方、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは37質量%以下である。プロピレン単位の含有率が上記範囲であると適度な柔軟性を付与し易くなる。
【0046】
更に、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムにおける非共役ジエン単位の含有率は、成分(B)を構成する単量体単位の合計100質量%に対し、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。一方、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下である。非共役ジエン単位の含有率が上記下限値以上であると熱可塑性エラストマー組成物の架橋度を高める観点から好ましく、また、上記上限値以下であると成形性の観点から好ましい。
【0047】
なお、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムにおける各構成単位の含有率は赤外分光法により求めることができる。
【0048】
非油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムのゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)によるポリプロピレン換算の重量平均分子量は、異物の発生を抑え、得られる成形体の外観を良好なものとする観点から、好ましくは300,000未満であり、より好ましくは280,000未満であり、更に好ましくは250,000未満である。また、得られる成形体の意匠性の観点から、好ましくは100,000以上であり、より好ましくは120,000以上であり、更に好ましくは150,000以上である。
一方で、油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムのGPC法によるポリプロピレン換算の重量平均分子量は、ゴム用炭化水素系軟化剤のブリードアウト防止の観点から、好ましくは300,000以上であり、より好ましくは350,000以上であり、更に好ましくは400,000以上である。また、得られる成形体の外観の観点から、好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは900,000以下であり、更に好ましくは800,000以下である。
【0049】
エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムのGPC法による重量平均分子量の測定条件は以下の通りである。
機器:Waters製液体クロマトグラム用RI検出器「WATERS150C」
カラム:ShodexAD806MS×3(8.0mm内径×300mm長さ)
検出器:IR(分散型、3.42μm)
溶媒:オルトジクロロベンゼン
温度:140℃
流速:1.0mL/分
注入量:200μL
濃度:10mg/mL
較正試料:多分散標準ポリエチレン
較正法:Mark-Houwink式を用いてポリプロピレン換算
【0050】
油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムに用いられるゴム用炭化水素系軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられるが、他の成分との親和性の観点から、鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中でも、パラフィン系オイルが好ましい。なお、ゴム用炭化水素系軟化剤は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0051】
油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムにおいて、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムとゴム用炭化水素系軟化剤の含有割合は、[エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムの質量]/[ゴム用炭化水素系軟化剤部の質量]が、通常100/10~150であり、好ましくは100/20~120である。
【0052】
エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムの製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた重合方法が挙げられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体の錯体系触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法で製造することができる。
【0053】
エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムのうち、非油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム、即ち、油展されていないエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムのムーニー粘度(ML1+4、125℃)は、通常10~100であり、好ましくは15~95である。
一方、油展エチレン・プロピレン・共役ジエン共重合体ゴムのムーニー粘度(ML1+4、125℃)は、通常20~100であり、好ましくは30~90である。
エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムのムーニー粘度が上記下限以上であれば、得られる成形体の外観が良好となり、上記上限以下であると成形性が良好となる。
【0054】
油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムを製造する方法(油展方法)としては公知の方法を用いることができる。例えば、ミキシングロールやバンバリーミキサーを用い、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムとゴム用炭化水素系軟化剤を機械的に混練して油展する方法、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムに所定量のゴム用炭化水素系軟化剤を添加し、その後スチームストリッピング等の方法により脱溶媒する方法、クラム状のエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムとゴム用炭化水素系軟化剤の混合物をヘンシェルミキサー等で撹拌して含浸させる方法が挙げられる。
【0055】
エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムは、市販品として入手することが可能である。
非油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムの例としては、ENEOS社製EPM・EPDM、三井化学社製三井EPT、住友化学社製エスプレン(登録商標)、LANXESS社製Keltan(登録商標)、Dow社製Engage(登録商標)、三井化学社製タフマー(登録商標)が挙げられる。
油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムの例としては、ENEOS社製のEPM・EPDM、三井化学社製の三井EPT、住友化学社製のエスプレン(登録商標)、ARLANXEO社製のKeltan(登録商標)、DOW CHEMICAL社製NORDEL(登録商標)、KUMHO POLYCHEM社製のKEPが挙げられる。
【0056】
<成分(C):イソアルカン混合物>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)として、イソアルカンまたはイソアルカン混合物を含む。
イソアルカンは、末端にイソメチル基を有するアルカンを意味し、二重結合や環状の置換基を含まない。
「イソアルカン混合物」とは、イソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物を意味する。
本発明に係る「イソアルカン」は、末端にイソメチル基を有するアルカンであればよく、末端イソメチル基以外に側鎖の存在しないイソアルカンであっても、アルカンの主鎖に末端イソメチル基以外の側鎖としてのアルキル基(本発明においては、このアルキル基を「側鎖アルキル基」と称す。)を有するものであってもよい。前述の通り、成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体とイソアルカンの絡み合い効果の観点から、側鎖アルキル基を有するイソアルカンが好ましい。
イソアルカンは、一般的にイソアルカン混合物として市販されているものが多いため、本発明において、成分(C)は主として「イソアルカン混合物」であるが、成分(C)は、イソアルカンの単一物質であってもよい。
【0057】
成分(C)に含まれるイソアルカンが有する側鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。これらの中でも炭素数1~18のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
なお、イソアルカンの側鎖アルキル基とは、最も長い直鎖状のアルキル鎖を主鎖とし、この主鎖から分岐するアルキル鎖であり、1分子中に側鎖アルキル基は1つに限らず、2つ以上であってもよい。イソアルカンが有する側鎖アルキル基の数は、2~16が好ましく、4~12がより好ましく、4~8が更に好ましい。
【0058】
成分(C)に含まれるイソアルカンは、分子中に1~80%の含有率で側鎖アルキル基を有することが好ましく、側鎖アルキル基の含有率は5~70%であることがより好ましく、10~60%であることが更に好ましく、15~50%であることが特に好ましい。側鎖アルキル基の含有率は、耐ブリードアウト性、ゴム弾性の観点では大きい方が好ましく、成形性の観点では、小さい方が好ましい。
ここで、側鎖アルキル基の含有率とは、イソアルカン全体の分子量に対する側鎖アルキル基の分子量(複数の側鎖アルキル基を有する場合はその合計の分子量)の割合(百分率)である。
【0059】
成分(C)の40℃における動粘度は、耐ブリードアウト性及びゴム弾性の観点から好ましくは20センチストークス(cSt)以上であり、25cSt以上であることがより好ましい。一方で、成分(C)の40℃における動粘度は、加工性及び成形性の観点から8000cSt以下であることが好ましく、3000cSt以下であることがより好ましく、1000cSt以下であることが更に好ましい。
成分(C)として、40℃における動粘度が20cSt以上8,000cSt以下のものを用いることにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物を軟化させ、柔軟性とゴム弾性を増加させるとともに、得られる熱可塑性エラストマー組成物の加工性、流動性及び耐ブリードアウト性を向上させることができる。
ここで、動粘度は、JIS K2283に準拠した方法によって測定した40℃における動粘度である。
【0060】
成分(C)の引火点(COC法)は、加工時の安全性の観点から、使用する成分(A)のプロピレン系重合体の融点以上、または加工温度以上であることが好ましく、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、250℃以上であることが特に好ましい。
【0061】
成分(C)の流動点(ASTM D97で測定される)は、低いほど分子運動性が高く、耐ブリードアウト性が劣るため、-60℃以上であることが好ましく、-50℃以上であることがより好ましく、-40℃以上であることが更に好ましい。一方で、加工時のハンドリング性の観点から、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましく、-20℃以下であることが更に好ましく、-25℃以下であることが特に好ましい。
【0062】
成分(C)の分子量分散度(PDI)は、耐ブリードアウト性の観点から1.30以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましく、1.1以下であることが更に好ましい。
【0063】
成分(C)の重量平均分子量は、耐ブリードアウト性及びゴム弾性の観点から、GPCにより測定したポリスチレン換算の値として200以上が好ましく、300以上がより好ましく、350以上が更に好ましい。一方で、加工性及び成形性の観点から5000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、1500以下が更に好ましい。
【0064】
ここで、分子量分散度及び重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により測定することができる。
【0065】
成分(C)は、環分析によるナフテン炭素の割合(%CN)は通常20%以下であり、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、更に好ましくは5%以下である。
また、環分析による芳香族炭素の割合(%CA)が5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
ここで、上記環分析は具体的にはASTM D2140またはASTM D3238に規定されるn-d-M法により実施することができる。
ナフテン炭素の割合及び芳香族炭素の割合を上記範囲とすることで、耐熱及び耐光変色に優れたものとなる。
【0066】
成分(C)はバイオマス由来の原料を用いて製造された化合物を含んでもよい。成分(C)のバイオマス度は14C含有量をもとにASTM D 6866により算出される。環境負荷低減の観点から、成分(C)のバイオマス度は40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。成分(C)のバイオマス度の上限は特に限定されず、100%以下である。
【0067】
本発明に係る成分(C)はまた、FD-MSで測定して得られるマススペクトルにより特定される主要な構成単位が分子式C1634及びC1632の少なくとも一方で表されるものであることが好ましい。このような成分(C)を用いることにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物を軟化させ、柔軟性とゴム弾性を増加させるとともに、得られる熱可塑性エラストマー組成物の加工性、流動性及び耐ブリードアウト性を向上させることができる。
【0068】
ここでいう主要な構成単位は以下のように定義する。
FD-MSで測定されるマススペクトルにおいて、ピークのm/zの値で表される炭化水素の分子式は、炭素の原子量:12、水素の原子量:1.00794をもとに特定される。m/zの値は、例えば、CHの場合16.0、C3060の場合420.5、C60120の場合841.0となる。
FD-MSで測定されるマススペクトルにおいて、分子そのものを表すピークを抽出する観点から、水素原子数2~118の炭化水素においてはm/zの一の位が偶数のピークを抽出する。水素原子数120~244の炭化水素においてはm/zの一の位が奇数のピークを、水素原子数246~370の炭化水素においてはm/zの一の位が偶数のピークを抽出する。
このようにして抽出されるピークの中からピーク強度の強いものを順に複数抽出する。ここで抽出したピークが表すm/zの差から特定できる炭化水素の分子式のことを主要な構成単位という。なお、炭素数が同じピークは主要な構成単位の計算に含めない。
【0069】
以下の具体例では、主要な構成単位を確認するために、ピーク強度の強い6つのピークを抽出し、m/zが小さい順に記載したが、主要な構成単位が見つかれば抽出数はこの方法に特定されない。
図2においてはm/z(分子式)=450.5(C3266)、672.8(C4896)、674.8(C4898)、897.0(C64128)、1121.3(C64128)、1345.5(C96192)のピークが抽出でき、主要な構成単位は分子式C1634及びC1632で表すことができる。
図3においてはm/z=460.5(C3364)、462.5(C3366)、474.5(C3466)、476.6(C3468)、488.6(C3568)、490.6(C3570)のピークが抽出でき、主要な構成単位は分子式CHで表すことができる。
図4においてはm/z=654.7(C4790)、668.8(C4892)、682.8(C4994)、694.8(C5094)、696.8(C5096)、708.8(C5196)のピークが抽出でき、主要な構成単位は分子式CHで表すことができる。
【0070】
成分(C)は、FD-MSで測定されるマススペクトルにおいて主成分として分子式C4896及びC4898で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有することが望ましい。ここでいう主成分とはFD-MSで測定されるマススペクトルにおいて、分子そのものを表すピークを抽出し、最も強度の強いピークをいう。
図2においてはm/z=674.8(C4898)のピークが該当する。図3においてはm/z=460.5(C3364)のピークが、図4においてはm/z=682.8(C4994)のピークがそれぞれ該当する。
【0071】
また、成分(C)として、FD-MSで測定して得られるマススペクトルにより特定される主成分として分子式C2n+2及びC2n(40≦n<60)で表される化合物のうち、少なくとも一方を主成分として含有するものを用いることにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物を軟化させ、柔軟性とゴム弾性を増加させるとともに、得られる熱可塑性エラストマー組成物の加工性、流動性及び耐ブリードアウト性を向上させることができる。
成分(C)は、さらに、分子式C2n+2及びC2n(30≦n<40)で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有することがより好ましく、分子式C2n+2及びC2n(60≦n≦80)で表される化合物のうち、少なくとも一方を含有することが更に好ましく、分子式C2n+2及びC2n(30≦n<40)で表される化合物のうちの少なくとも一方と、分子式C2n+2及びC2n(60≦n≦80)で表される化合物のうちの少なくとも一方とを含有することが特に好ましい。
【0072】
成分(C)は、以下に挙げる一般的なゴム用炭化水素系軟化剤(成分(D))と併用することもできる。ここで、成分(D)のゴム用炭化水素系軟化剤はイソアルカン構造を有する化合物を含まないものとする。
【0073】
<成分(D):ゴム用炭化水素系軟化剤>
一般的なゴム用炭化水素系軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられ、特に鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中でも、パラフィン系オイルが好ましい。
【0074】
ゴム用炭化水素系軟化剤の40℃における動粘度は、20センチストークス(cSt)以上であることが好ましく、50cSt以上であることがより好ましい。一方、800cSt以下であることが好ましく、600cSt以下であることがより好ましい。また、ゴム用炭化水素系軟化剤の引火点(COC法)は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上がより好ましい。
【0075】
ゴム用炭化水素系軟化剤は市販のものを用いてもよい。市販品としては、例えば、ENEOS社製「日石ポリブテン(登録商標)HV」シリーズ、出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW」シリーズが挙げられ、これらの中から適宜選択して使用することができる。
【0076】
ゴム用炭化水素系軟化剤は1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0077】
<成分(A)~成分(C)の配合割合>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(A)の含有率の下限は、安定した成形性、耐熱性、良好な表面平滑性及びその他機械特性の観点から、成分(A)~成分(C)と必要に応じて用いられる前述の成分(C)及び後述の成分(H)の合計100質量%に対し、5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましく、8質量%以上であることが特に好ましい。一方で、成分(A)の含有率の上限は、柔軟性の観点から、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、17質量%以下であることが更に好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(B)の含有率の下限は、柔軟性及び耐熱性の観点から、成分(A)~成分(C)と必要に応じて用いられる前述の成分(C)及び後述の成分(H)の合計100質量%に対し、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、25質量部以上であることが特に好ましい。
一方で、成分(B)の含有率の上限は、安定した加工性、成形性、良好な表面平滑性及びその他機械特性の観点から、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
なお、ここで、成分(B)として前述の油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムを用いた場合、油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム中のゴム用炭化水素系軟化剤の含有率は、成分(B)の含有率ではなく、前述の成分(D)の含有率に含まれる。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(C)の含有量の下限は、安定したゴム弾性及び良好な成形性の観点から、成分(B)100質量部に対し、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることが更に好ましく、50質量部以上であることが特に好ましい。
一方で、成分(C)の含有量の上限は、製造時のハンドリング性及び耐ブリードアウト性の観点から、成分(B)100質量部に対し、500質量部以下であることが好ましく、400質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることが更に好ましく、250質量部以下であることが特に好ましい。
【0080】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(C)と共に、前述の成分(D):炭化水素系ゴム用軟化剤を含有する場合、成分(D)の含有量は、軽量化及び安定したゴム弾性、良好な成形性の観点から成分(B)100質量部に対し、成分(C)と成分(D)の合計の含有量として、300質量部以下が好ましく、250質量部以下がより好ましく、成分(C)と成分(D)との合計の含有量として、上記成分(C)の含有量範囲となるように用いることが好ましい。
この場合において、成分(C)と成分(D)との合計量に対して、成分(C)の含有率は、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。成分(C)と成分(D)との合計量に対する成分(C)の含有率が上記下限以上であれば、成分(C)を用いることによる軽量化、成形性、表面平滑性の向上効果を有効に得ることができる。一方、成分(C)と成分(D)との合計量に対して、成分(C)の含有率は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましい。成分(C)と成分(D)との合計量に対する成分(C)の含有率が上記上限以下であれば、成分(C)と共にゴム用炭化水素系軟化剤を併用することによるゴム弾性、成形性の向上効果を有効に得ることができる。
前述の通り、成分(B)として、油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムを用いた場合、油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム中のゴム用炭化水素系軟化剤の含有量は、上記成分(D)の含有量に含まれる。
【0081】
<成分(E):架橋剤>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、架橋熱可塑性エラストマー組成物であることが好ましい。架橋熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)~(C)やその他任意成分を所定の含有割合で成分(E):架橋剤の存在下に動的熱処理することにより架橋させて得られる。
【0082】
架橋熱可塑性エラストマー組成物においては、成分(E)の架橋剤により、成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体が架橋されていることが好適である。成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体が架橋されることで、高温での引張特性が向上し、良好な成形性を発現することができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、架橋剤は動的熱処理において架橋剤として作用する。架橋剤としては、有機過酸化物、架橋助剤等を用いることができる。これらの架橋剤は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
有機過酸化物としては、芳香族系有機過酸化物及び脂肪族系有機過酸化物のいずれも使用することが可能である。具体的には、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)-3-ヘキシン等のパーオキシエステル類;アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド等のヒドロパーオキシド類が挙げられる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。なお、以上に挙げた有機過酸化物は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(E)の架橋剤を含む場合、成分(E)の含有量は、架橋反応を十分に進行させるため、成分(A)~成分(C)の合計或いは成分(D)を含む場合は成分(A)~成分(D)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上である。一方、架橋反応を制御する観点から、この割合は好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
【0085】
<成分(F):架橋助剤>
架橋熱可塑性エラストマー組成物である本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造する際には、前記有機過酸化物等の成分(E)の架橋剤と共に成分(F)の架橋助剤の存在下で動的熱処理を行うことが好ましい。
【0086】
架橋助剤としては、例えば、硫黄、p-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン、1,3-ジフェニルグアニジン等の過酸化物用助剤;ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
架橋助剤は、成分(A)~成分(C)の合計或いは成分(D)を含む場合は成分(A)~成分(D)の合計100質量部に対して、通常0.1~5質量部、特に0.3~2質量部の範囲で用いることが好ましい。架橋助剤が上記下限値以上であると架橋助剤の使用効果が得られ、上記上限以下であることがコスト面や成形性で好ましい。
【0088】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、上記した成分(A)~(F)以外に本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じてその他の成分を配合することができる。
【0089】
その他の成分としては例えば、充填材、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤等の各種添加物、成分(A)及び成分(B)以外の熱可塑性樹脂やエラストマー(以下、「その他の熱可塑性樹脂類」又は「成分(H)」と称す。)等を挙げることができる。これらは任意のものを単独又は併用して用いることができる。
【0090】
充填材としては、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、金属石鹸、二酸化チタン、カーボンブラック等を挙げることができる。充填材を用いる場合、充填材は、成分(A)~成分(C)の合計100質量部に対して通常0.1~50質量部で用いられる。
【0091】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤を用いる場合、酸化防止剤は、成分(A)~成分(C)の合計100質量部に対して通常0.01~3.0質量部で用いられる。
【0092】
成分(A)及び成分(B)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、プロピレン系重合体(だだし、成分(A)に該当するものを除く。);低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)もしくは高密度ポリエチレン(HDPE)等のエチレン系重合体(だだし、成分B)に該当するものを除く。);ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂を挙げることができる。また、エラストマーとしては、例えばスチレン・ブタジエン共重合体ゴム、スチレン・イソプレン共重合体ゴム等のスチレン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ポリブタジエンを挙げることができる。
【0093】
これらのその他の熱可塑性樹脂類(成分(H))を用いる場合、その配合量は、成分(A)~成分(C)の合計100質量部に対して30質量部以下、例えば5~15質量部とすることが、成分(A)~成分(C)を用いることによる本発明の効果を有効に得た上で、その他の熱可塑性樹脂類を配合することによる柔軟性、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐ブリード性等の効果を得る上で好ましい。
【0094】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)~成分(C)、更に必要に応じて用いられる成分(D)やその他の成分を所定の含有割合で架橋剤の存在下に動的熱処理することにより架橋させて得られるものが好ましい。
【0095】
本発明において「動的熱処理」とは溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。この動的熱処理は、溶融混練によって行うのが好ましく、そのための混合混練装置としては、例えば非開放型バンバリーミキサー、ミキシングロール、ニーダー、二軸押出機が用いられる。これらの中でも二軸押出機を用いることが好ましい。この二軸押出機を用いた製造方法の好ましい態様としては、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行うものである。
【0096】
動的熱処理を行う際の温度は、通常80~300℃、好ましくは100~250℃である。また、動的熱処理を行う時間は通常0.1~30分である。
【0097】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を二軸押出機により動的熱処理を行う場合においては、二軸押出機のバレル半径R(mm)、スクリュー回転数N(rpm)及び吐出量Q(kg/時間)の間に下記式の関係を保ちながら押出することが好ましく、下記式(2)の関係を保ちながら押出することがより好ましい。
2.6<NQ/R3<22.6(1)
3.0<NQ/R3<20.0(2)
【0098】
二軸押出機のバレル半径R(mm)、スクリュー回転数N(rpm)及び吐出量Q(kg/時間)との間の前記関係が上記下限値より大きいことが熱可塑性エラストマー組成物を効率的に製造するために好ましい。一方、前記関係が上記上限値より小さいことが、剪断による発熱を抑え、外観不良の原因となる異物が発生しにくくなるために好ましい。
【0099】
<熱可塑性エラストマー組成物の物性>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成形性に優れ、また、自動車部材として成形された際の表面平滑性に優れるものである。
【0100】
本発明においては、後掲の実施例に示す方法で測定した高温モジュラスの値を成形性の指標とする。高温モジュラスが高いほど、成形時の耐ドローダウン性が良好であるため成形性に優れている。良好な高温モジュラスの値は、熱可塑エラストマーのデュロ硬度によって異なる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のデュロ硬度Aは30~99であることが好ましく、40~99であることがより好ましい。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のデュロ硬度Dは30~60であることが好ましく、30~40であることがより好ましい。デュロ硬度が上記範囲内であれば、得られる自動車部材の触感が良好と評価できる。
デュロ硬度Aの測定方法は後掲の実施例に示す。
デュロ硬度Dは、後掲の実施例の項に記載されるデュロ硬度Aの測定におけると同様にして射出成形して得られた横120mm、縦80mm、肉厚2mmのシートについて、ISO 868を参考として測定される。
【0101】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K7210に準拠した温度230℃、測定荷重49Nでのメルトフローレート(MFR)が、成形性に優れたものとするため、0.1~100g/10分であることが好ましい。流動性の観点からは、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のMFRはより好ましくは0.5g/10分以上であり、更に好ましくは1g/10分以上である。一方、押出成形やカレンダー成形時の成形性の観点からは、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のMFRはより好ましくは50g/10分以下であり、更に好ましくは30g/10分以下である。
【0102】
[自動車部材の製造方法]
以下に、上述の方法で本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造して本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得る工程と、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を押出成形またはカレンダー成形してシート状の自動車部材を得る工程とを有する本発明の自動車部材の製造方法について、自動車部材の一実施形態としての図1に示す自動車用インストルメントパネル(10)を例示して、その構成と製造方法について説明する。
【0103】
図1に示す自動車用インストルメントパネル(10)は、トップコート層(1)と、接着層(2)と、本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層(3)と、発泡体層(4)と加飾層(5)とを有する。
なお、図1は自動車用インストルメントパネル(10)としての積層構造を示すものであるが、このような積層構造の自動車部材は、自動車用インストルメントパネルに限らず、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、ホース、アームレスト、ドアトリム、コンソールリッド、マット等の自動車部材であってもよい。
【0104】
<トップコート層(1)>
熱可塑性樹エラストマー層(3)は、表面における、接着性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性が、他の表皮材である塩化ビニル樹脂などに比べ劣るため、これらの性能向上を目的として塗装を施す必要がある。そのためトップコート層(1)は、自動車用インストルメントパネル(10)の耐傷付き性や耐油性を改善する目的で設けられるもので、表層として設けられる実施形態が好ましい。
トップコート層(1)の厚みは3~20μm程度であることが好ましい。
【0105】
トップコート層(1)に用いられるトップコート剤としては、公知の水性処理剤、油性処理剤が挙げられる。このうち、熱可塑性エラストマー層(3)との良好な接着性を示す油性処理剤が好適に使用される。
【0106】
<接着層(2)>
接着層(2)は、トップコート層(1)と熱可塑性エラストマー層(3)の間に設けられ、トップコート層(1)と熱可塑性エラストマー層(3)にそれぞれ接するように設けられるのが好適態様である。接着層(2)の厚みは3~20μm程度であることが好ましい。
【0107】
接着層(2)は接着剤を含んでいることが好ましい。
接着層(2)に用いられる接着剤としては、エマルジョン系接着剤、溶剤系接着剤が挙げられる。エマルジョン系接着剤としては、アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、合成ゴム(SBR、NBR)等が挙げられる。また、溶剤系接着剤としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、クロロプレン樹脂、合成ゴム(SBR、NBR)、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂などが挙げられる。これらのうち、工業部品の自動車用インストルメントパネル(10)には、良好な密着強度を有する溶剤系の2液硬化型が好ましく、ウレタン系接着剤が好適に使用される。
【0108】
<熱可塑性エラストマー層(3)>
熱可塑性エラストマー層(3)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形することにより形成される。
成形方法としては、上述の成形方法が適用できる。この際、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に、前述の通り、その他の熱可塑性樹脂類や各種添加剤、着色剤を加えた混合物を成形に供する場合があるが、当該混合物もまた本発明の熱可塑性エラストマー組成物に包含され、このような混合物から形成されたものも本発明に係る熱可塑性エラストマー層(3)に包含される。
【0109】
<発泡体層(4)>
本発明に係る発泡体層(4)は、自動車用インストルメントパネル(10)に柔軟性を付与する目的で設けられ、熱可塑性エラストマー層(3)に接するよう設けられるのが好適態様である。発泡体には連続気泡体と独立気泡体があるが、独立気泡体が好ましい。さらに独立気泡体の中でも1種または複数のポリオレフィンを含み、それらが電子線架橋されているものが好ましい。
架橋ポリオレフィン系発泡体は、優れた耐熱性及び断熱性を有しているので、従来から、断熱材、クッション材等として広範な分野で使用されている。特に、自動車用途では、天井、ドア、インストルメントパネル、クーラーカバー等の断熱材及び内装材として使用されている。具体的な例として、積水化学工業株式会社製のソフトロンや東レ株式会社製のトーレペフが挙げられる。
【0110】
<加飾層(5)>
図1の自動車用インストルメントパネル(10)は、加飾層(5)を有するものである。加飾層(5)は必要に応じて設けられる。
加飾層(5)は、自動車用インストルメントパネル(10)の意匠性や視認性を高める目的で設けられ、例えば、トップコート層(1)/接着層(2)/熱可塑性エラストマー層(3)/加飾層(5)/発泡体層(4)の積層構成で設けられる態様、図1に示すように、トップコート層(1)/接着層(2)/熱可塑性エラストマー層(3)/発泡体層(4)/加飾層(5)の積層構成で設けられる態様で用いることができる。これらの中でも熱可塑性エラストマー層(3)に接するように設けられる態様、即ち、トップコート層(1)/接着層(2)/熱可塑性エラストマー層(3)/加飾層(5)/発泡体層(4)の積層構成が好ましい。
加飾層(5)の形態としては、絵柄や機能、品番を付与したフィルムやシート状のものが挙げられる。
【0111】
<自動車用インストルメントパネル(10)の製造方法>
上記のような層構成の自動車用インストルメントパネルは、例えば、以下の工程を経て製造することができる。
【0112】
(熱可塑性エラストマー層を形成する工程)
熱可塑性エラストマー層を形成する工程は、例えば、押出成形やカレンダー成形が選定される。所望の硬度や色に調整するために、本発明の熱可塑性エラストマー組成物単独もしくは、別の熱可塑エラストマー、熱可塑性樹脂や各種添加剤、着色剤等を予め混合し成形に供す場合もある。
【0113】
このようにして得られた熱可塑性エラストマー層の表面を接着層等との密着性を向上させるために、必要に応じてコロナ処理してもよいが、工程削減によるコスト削減や、CO発生量の削減の観点から、コロナ処理をしないことが好ましい。
【0114】
(接着層を形成する工程)
接着層を形成する工程は、例えば、熱可塑性エラストマー層に前述の接着剤を塗布することにより行われる。接着剤の塗布には、ナイフコータ、ロールコータ、スプレー、刷毛、ローラー等を適宜採用することができる。
【0115】
(トップコート層を形成する工程)
トップコート層を形成する工程は、例えば、上述の接着層にトップコート剤を塗布することにより行われる。トップコート剤の塗布にも、ナイフコータ、ロールコータ、スプレー、刷毛、ローラー等を適宜採用することができる。
【0116】
(発泡体層を形成する工程)
発泡体層を形成する工程は、上記によって得られたトップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層を有する構造体と発泡体とを加熱や接着剤等とにより密着させることにより行われる。
【0117】
(加飾層を形成する工程)
加飾層を形成する工程は、例えば、上記によって得られたトップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層を有する構造体と、フィルムやシートなどの加飾層とを接するようにして行われる。
【実施例0118】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0119】
[原材料]
以下の実施例・比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0120】
<成分(A)>
A-1:プロピレン・エチレンランダム重合体
日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP EG8B」
MFR(JIS K7210、230℃、21.2N荷重):0.8g/10分
エチレン単位含有率:4.0質量%
A-2:プロピレン・エチレンランダム重合体
日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP MG03BD」
MFR(JIS K7210、230℃、21.2N荷重):30g/10分
エチレン単位含有率:4.3質量%
A-3:プロピレン単独重合体
日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP FY6」
MFR(JIS K7210、230℃、21.2N荷重):2.5g/10分
【0121】
<成分(B)>
(B-1)+(D)の混合物:エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体ゴム(油展タイプ)
ENEOS社製「EPR EP505EC」
B-1:エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体ゴム100質量部に対し、D:イソアルカン構造を有する化合物を含まないゴム用炭化水素系軟化剤として、パラフィン系オイルを100質量部含有するもの。
ムーニー粘度(ML1+4,125℃):65
プロピレン単位含有率:29.5質量%
エチレン単位含有率:66質量%
エチリデンノルボルネン単位含有率:4.5質量%
ポリプロピレン換算の重量平均分子量:647,000
B-2:エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体ゴム(非油展タイプ)
三井化学社製「三井EPT3092PM」
ムーニー粘度(ML1+4,125℃):57
プロピレン単位含有率:29.5質量%
エチレン単位含有率:66質量%
エチリデンノルボルネン単位含有率:4.5質量%
ポリプロピレン換算の重量平均分子量:223,000
B-3:エチレン・ブテン共重合体
DOW社製「ENGAGE(商標登録)7467」
【0122】
<成分(C)>
C:イソアルカン混合物
H&R社製「VIVA-B-FIX 10227」
40℃の動粘度:56cSt
引火点:280℃
流動点:-27℃
重量平均分子量:1110
分子量分散度:1.0
バイオマス度:100%
FD-MSスペクトル:図2に示す。
主要な構成単位:C1634及びC1632
主成分:C4898
【0123】
<その他成分>
成分(D):イソアルカン構造を有する化合物を含まないゴム用炭化水素系軟化剤
D-1:パラフィン系オイル
出光興産社製ダイアナ(登録商標)「プロセスオイルPW-90」
40℃の動粘度:95.54cSt
引火点:272℃
流動点:-17.5
重量平均分子量:728
分子量分散度:1.2
FD-MSスペクトル:図3に示す。
主要な構成単位:CH
主成分:C3364
D-2:パラフィン系オイル
出光興産社製ダイアナ(登録商標)「プロセスオイルPW-380」
40℃の動粘度:405.0cSt
引火点:306℃
流動点:-12.5
重量平均分子量:1230
分子量分散度:1.1
FD-MSスペクトル:図4に示す。
主要な構成単位:CH
主成分:C3364
【0124】
成分(E):架橋剤(有機過酸化物)
2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン40質量%と炭酸カルシウム60質量%の混合物/化薬ヌーリオン社製「トリゴノックス(登録商標)101-40C」
【0125】
成分(F):架橋助剤
ジビニルベンゼン/日鉄ケミカル&マテリアル社製「DVB570」
【0126】
成分(G):充填材
炭酸カルシウム/備北粉化工業社製「ソフトン1200」
【0127】
成分(H):その他の熱可塑性樹脂類
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)/SPDC社製「QAMAR FC18N」
MFR(JIS K7210、230℃、21.2N荷重):1g/10分
密度:0.921g/cm
【0128】
[評価方法]
以下の実施例・比較例の熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は以下の通りである。
【0129】
(1)流動性(メルトフローレート(MFR))
JIS K7210の規格を参考とした方法で測定温度230℃、測定荷重49Nで測定した。
【0130】
(2)柔軟性(デュロ硬度A)
インラインスクリュウタイプ射出成形機(東芝機械社製「IS130」)にて、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件で射出成形して横120mm、縦80mm、肉厚2mmのシートを得た。このシートについて、ISO 7619を参考として硬度を測定した。
【0131】
(3)表面平滑性(表面粗さ(Ra))
熱可塑性エラストマー組成物のペレットから、ラボプラストミル(東洋精機社製4C150)を用いて180℃の条件下、厚み0.5mmの押出シートを作成し、その表面に対して、株式会社東京精密社製「サーフコムタッチ550」を使用して表面粗さ(Ra)を測定した。表面粗さ(Ra)が小さいほど、表面平滑性に優れていることを示している。
【0132】
(4)成形性(130℃ 200%モジュラス)
上記表面平滑性の評価で作成した押出シートからJIS1号ダンベルを打ち抜き、島津製作所製「AG-X plus」を使用し、130℃の条件にて、引張速度200mm/minで200%モジュラスを測定した。モジュラスの値が高いほど、成形時の耐ドローダウン性が良好であるため、成形性が優れていることを示している。
【0133】
[実施例/比較例]
<実施例1>
表-1に示すように(A-1)を10質量部、(A-3)を2.5質量部、(B-1)+(D)を18質量部(内訳成分(B-1):9質量部、(D):9質量部)、(B-2)を22質量部、(C)を40質量部、(E)を0.75質量部、(F)を0.69質量部、(G)を6質量部、(H)を7.5質量部、混合し、得られた混合物を二軸混練機により溶融混練(シリンダー温度180~200℃)し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。得られた熱可塑性エラストマー組成物について、上記の方法にて評価し、評価結果を表-1に示した。
【0134】
<実施例2~6、比較例1~4>
表-1に示す配合にした以外は実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物について、実施例1と同様に評価し、評価結果を表-1に示した。
【0135】
【表1】
【0136】
<評価結果>
表-1に示す通り、実施例1~3の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)を含まず、成分(D)の配合量を増やした比較例1,2よりも良好な成形性と表面平滑性を示した。実施例4~6と比較例3,4の比較においても同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0137】
(1) トップコート層
(2) 接着層
(3) 熱可塑性エラストマー層
(4) 発泡体層
(5) 加飾層
(10) 自動車用インストルメントパネル
図1
図2
図3
図4