(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108177
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ナノ粒子、ナノ粒子の製造方法、電子デバイス、及び機能性フィルム
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240805BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20240805BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20240805BHJP
H10K 50/816 20230101ALI20240805BHJP
H10K 50/828 20230101ALI20240805BHJP
H10K 59/125 20230101ALI20240805BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240805BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240805BHJP
H10K 10/46 20230101ALI20240805BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240805BHJP
H10K 102/10 20230101ALN20240805BHJP
【FI】
C07F5/02 A
C07F5/02 F
H10K50/12
H10K50/16
H10K50/816
H10K50/828
H10K59/125
H10K85/60
H01L29/06 601N
H10K10/46
H01L29/78 618B
H10K102:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012384
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 達夫
(72)【発明者】
【氏名】北 弘志
(72)【発明者】
【氏名】北本 雄一
(72)【発明者】
【氏名】服部 徹太郎
(72)【発明者】
【氏名】笠井 均
(72)【発明者】
【氏名】小関 良卓
【テーマコード(参考)】
3K107
4H048
5F110
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107AA03
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC22
3K107CC45
3K107DD22
3K107DD24
3K107DD27
3K107DD29
3K107DD42X
3K107DD42Y
3K107DD57
3K107DD66
3K107DD74
3K107DD78
3K107EE04
3K107FF15
4H048AA02
4H048AA03
4H048AD15
4H048BB22
4H048BB25
4H048BB31
4H048VA22
4H048VA77
5F110BB01
5F110CC07
5F110DD05
5F110EE01
5F110FF02
5F110GG05
5F110GG06
5F110HK01
(57)【要約】
【課題】プラナーボラン化合物を含有する新規なナノ粒子、その製造方法、並びに当該ナノ粒子を含有する電子デバイス及び機能性フィルムを提供することである。
【解決手段】本発明のナノ粒子は、下記一般式(1)で表される構造を有するプラナーボラン化合物を含有することを特徴とする。
【化1】
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有するプラナーボラン化合物を含有することを特徴とするナノ粒子。
【化1】
(式中、X
1~X
9は、それぞれ独立に、CW
m(mは1~9を表し、それぞれX
1~X
9のいずれかに対応した置換基CW
1~CW
9)又は窒素原子を表す。W
1~W
9は、それぞれ独立に、水素又は置換基を表す。L
1及びL
2は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基Wm
1(mは1又は2を表し、それぞれL
1及びL
2のいずれかに対応した置換基W
11又はW
21)を表す。または、L
1-及びL
2-は、それぞれ全体として、単結合を表す。その場合は、L
1-及びL
2-は、酸素、硫黄、炭素、及び窒素のいずれか一つの原子を介して互いに連結し、6員環を形成する。炭素の場合は、CS
1S
2を表す。窒素の場合は、NR
1を表す。L
3及びL
4は、それぞれ独立に、酸素、硫黄、CS
n1S
n2、又はNR
n3(nは3又は4を表し、それぞれL
3及びL
4のいずれかに対応した置換基CS
31S
32、NR
33、CS
41S
42、又はNR
43)を表す。S
1、S
2、S
31、S
32、S
41、S
42、R
1、R
33、R
43、W
11及びW
12はそれぞれ独立に置換基を表す。)
【請求項2】
平均粒径が5~500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記プラナーボラン化合物の溶液から、再結晶法によって、請求項1又は請求項2に記載のナノ粒子を製造する
ことを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記再結晶法において、分散安定剤を用いる
ことを特徴とする請求項3に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のナノ粒子を含有することを特徴とする電子デバイス。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のナノ粒子を含有することを特徴とする機能性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子、ナノ粒子の製造方法、電子デバイス、及び機能性フィルムに関する。より詳しくは、プラナーボラン化合物を含有する新規なナノ粒子等に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素原子は、元素周期表では原子番号5、IIIb属に属する、3価の価数を持つ原子である。ホウ素原子の原子状態での電子配置は、(1s)2、(2s)2、(2p)1となる。ホウ素原子は、2s軌道1つと2p軌道2つを使って、sp2混成軌道を3つ形成することができる。ホウ素原子は、この3つのsp2軌道に等価の電子がそれぞれ1つずつ(計3つ)配置されることで、炭素や酸素、窒素などの原子と共有結合を形成することが可能となる。そのため、ホウ素原子は、あたかも3価の置換基のように取り扱うこともできる原子である。また、ホウ素原子には1つ余った空の2p軌道があることから、当然、ホウ素含有化合物は、電子欠乏性の分子である。
【0003】
したがって、ホウ素原子と3つの芳香族基がホウ素-炭素結合を介して結合したπ共役系ホウ素化合物(トリアリールボラン)は、基本的にこのホウ素原子の電子欠乏性的な性質がそのまま残る。そのため、当該π共役系ホウ素化合物は、電子を受け入れやすい化合物、すなわちLUMO(最低空分子軌道)準位が真空準位から見て深い化合物となる。
【0004】
このような電子受容性化合物は、ラジカルアニオンを形成しやすいため、分子間においては電子をホッピング移動させやすい性質がある。このような電子受容性化合物は、この基本的な性質を活用することによって、後述するようなさまざまな産業上の利用価値が出てくる、興味深い化合物である。
【0005】
トリアリールボランの分子の安定性について、最も簡単なトリフェニルボランを例にとって考えてみる。トリフェニルボランのうち、sp2結合であるホウ素原子とフェニル基との3本の結合は、どれも120°の角度を保ち、平面構造を採る。このとき、トリフェニルボランの平面に直交する方向に、空の2p軌道があるため、トリフェニルボランは、ルイス酸の性質を持つ。すなわち、トリフェニルボランは、ルイス塩基や求核種から容易に攻撃を受けてボレートを形成することで、安定化する。このとき、ホウ素とフェニル基との結合は、sp3混成軌道となり、正四面体構造のボレートとなる。
【0006】
これが、トリフェニルボランが安定に存在できない根本的な理由である。そのため、分子内でホウ素に電子を供与できるものをスルーボンド又はスルースペースで置換することにより、トリフェニルボランを安定化させることができる(非特許文献1及び特許文献1参照。)。
【0007】
トリアリールボランは、アリール基と単結合を形成するだけでπ共役系が構築でき、かつ、空のp軌道を使った効果的な電子吸引性を発揮し得る。このようなトリアリールボランの最大の問題点は、トリフェニルボランを例に説明したように、ルイス塩基や求核種に対する耐性が低いことである。これは、空気中の安定性や水や塩基の存在下での分解に繋がる。そのため、この問題点が、過酷な条件下での使用が余儀なくされる電子デバイスへの、トリアリールボランの実用的な適用を阻んでいた。
【0008】
これを解決するために、トリアリールボランのホウ素原子の回りをアルキル基やアリール基で立体的に嵩高くすることで、ルイス塩基や求核種の攻撃をくい止める方法が知られている。例えば、3つのアリール基(Ar)が置換したsp2軌道を有するボレートは、ルイス塩基(ここではNu-と表記)の攻撃を受けることができる。このとき、以下に示すように、アリール基が立体障害性の低いアリール基(Ar1)の場合は、ルイス塩基Nu-の攻撃を受けてsp3軌道を採る(反応B)ことができる。一方、アリール基が立体障害性の高いアリール基(Ar2)の場合は、sp3軌道を採る(反応A)ことが難しくなる。これは、トリアリールボラン特有の空のp軌道に起因した反応性の特徴である。
【0009】
【0010】
例えば、有機EL用の電子輸送材料や発光材料としては、木下らの立体障害性トリフェニルボラン類が知られている(非特許文献2参照。)。これらの化合物だけで形成された薄膜は、単に反応性が抑えられるだけでなく、ホウ素原子まわりの立体的な嵩高さにより、アモルファス性が高くなるという特徴も有する。そのため、当該薄膜は、全面に均一の電界強度を保ちたい有機EL素子では、好適な電荷移動性の薄膜になる。
【0011】
しかしながら、前記したような電子的及び立体的な安定化効果だけでは、トリアリールボラン類を電子デバイスに実用的に適用するには至らない。つまり、まだ安定性が足りないのである。
【0012】
これを改良する目的で、トリフェニルボランの3つのフェニル基を炭素原子で連結した平面トリフェニルボラン化合物が、山口らのグループにより、合成された(非特許文献3参照。)。この平面トリフェニルボラン化合物(プラナライズド トリフェニルボラン)の構造は、以下のB3aで表される。
【0013】
【0014】
この化合物は、X線による結晶構造解析の結果、下記したように、edge-to-herringbone構造をとる。トリフェニルボラン部分は完全に平面で、その平面の上下にメチル基が出ている構造となっている。したがって、この平面構造は頑強であるため、ホウ素が求核種等によりsp3になろうとしても、そう簡単には反応せず、結果として分子安定性が増強されている。
【0015】
【0016】
この平面トリフェニルボラン化合物B3aは、シンプルな化学構造ではあるが、その合成方法は、スキーム1のように工夫されており、また、高度な合成技術を要するものである。
【0017】
【0018】
スキーム1に示されるように、この化合物を合成するには複数同時分子内フリーデルクラフツ反応を経由する必要がある。また、3つ目のメチレン部位は、クロム酸酸化の後にジメチル亜鉛を用いたアルキル化反応が必要である。これらのことから、この類縁体の合成は、かなり難度の高いものとなってしまうことは否めず、合成設計及び化合物合成の観点からは、発展性に乏しいといわざるを得ない。
【0019】
これとは別に、ホウ素上にπ電子を供与しつつ、平面性を増強して、分子の安定化を図る取り組みがされている。
【0020】
畠山らのグループは、下記スキーム2に記載したような二重の分子内環化反応を用いてフェノキサボリン骨格が二重になったような分子B4aを開発した(非特許文献4及び5参照。)。
【0021】
【0022】
この二重フェノキサボリン化合物B4aは、完全平面ではないものの、共役した酸素原子からのπ電子注入により、分子の安定性が改善されている。B4aのエーテル酸素は、B3aのアルキレンとは異なり、連結基であるだけでなく、安定性を付与し得る基である。
【0023】
このB4aの類縁体は、フェノール誘導体から置換基導入できる。また、B4aは、ハロゲン化することもできる。これらのことから、B4aは、メチレン3つで平面化されたトリフェニルボランB3aよりは、分子設計の自由度がある。実際に、B4aに2つのフェニル基を置換した分子は、緑色リン光発光有機ELのホスト化合物に好適に使用できることが報じられている。
【0024】
以上に紹介したような、トリアリール部分が平面化されたトリアリールボラン(本発明において「プラナーボラン化合物」という。)は、特許文献2でも開示されている。
【0025】
プラナーボラン化合物は、前述のとおり、化学的に極めて安定性の高い化合物である。しかし、プラナーボラン化合物を含有する均一性の高いナノ粒子は、これまで、意識的に製造されることはなかった。
【0026】
また、ホウ素を含有するプラナーボラン化合物は、ナノ粒子状にすることで、がん治療法の1つであるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用の薬剤としての利用も期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2011-057990号公報
【特許文献2】国際公開第2019/163625号
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,2014,136(36),pp12580-12583.
【非特許文献2】Adv.Funct.Meter.,12(11_12),780(2002)
【非特許文献3】Z.Zhou,A.Wakamiya,T.Kushida,S.Yamaguchi;J.Am.Chem.Soc.,2012,134,4529.
【非特許文献4】畠山:日本化学会第95回春季年会,3D3-04.
【非特許文献5】畠山:Angew Chem Int Ed Engl 2015 Nov 18;54(46):13581-5.Epub 2015 Sep 18.
【非特許文献6】J.Phys.Chem.C 2013,117,14999-15008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものである。本発明の解決課題は、プラナーボラン化合物を含有する新規なナノ粒子、その製造方法、並びに当該ナノ粒子を含有する電子デバイス及び機能性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0031】
1.下記一般式(1)で表される構造を有するプラナーボラン化合物を含有することを特徴とするナノ粒子。
【0032】
【0033】
(式中、X1~X9は、それぞれ独立に、CWm(mは1~9を表し、それぞれX1~X9のいずれかに対応した置換基CW1~CW9)又は窒素原子を表す。W1~W9は、それぞれ独立に、水素又は置換基を表す。L1及びL2は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基Wm1(mは1又は2を表し、それぞれL1及びL2のいずれかに対応した置換基W11又はW21)を表す。または、L1-及びL2-は、それぞれ全体として、単結合を表す。その場合は、L1-及びL2-は、酸素、硫黄、炭素、及び窒素のいずれか一つの原子を介して互いに連結し、6員環を形成する。炭素の場合は、CS1S2を表す。窒素の場合は、NR1を表す。L3及びL4は、それぞれ独立に、酸素、硫黄、CSn1Sn2、又はNRn3(nは3又は4を表し、それぞれL3及びL4のいずれかに対応した置換基CS31S32、NR33、CS41S42、又はNR43)を表す。S1、S2、S31、S32、S41、S42、R1、R33、R43、W11及びW12はそれぞれ独立に置換基を表す。)
【0034】
2.平均粒径が5~500nmの範囲内であることを特徴とする第1項に記載のナノ粒子。
【0035】
3.前記プラナーボラン化合物の溶液から、再結晶法によって、第1項又は第2項に記載のナノ粒子を製造する
ことを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【0036】
4.前記再結晶法において、分散安定剤を用いる
ことを特徴とする第3項に記載のナノ粒子の製造方法。
【0037】
5.第1項又は第2項に記載のナノ粒子を含有することを特徴とする電子デバイス。
【0038】
6.第1項又は第2項に記載のナノ粒子を含有することを特徴とする機能性フィルム。
【発明の効果】
【0039】
本発明の上記手段により、プラナーボラン化合物を含有する新規なナノ粒子等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図2】有機EL素子中での電荷の流れと発光のメカニズム示す模式図
【
図3】光電変換素子からなる太陽電池の一例を示す断面模式図
【
図4】有機薄膜トランジスタ素子の一例を示す断面模式図
【
図5】ナノ粒子分散液1が含有するナノ粒子の粒径分布
【
図6】ナノ粒子分散液2が含有するナノ粒子の粒径分布
【
図7】ナノ粒子分散液3が含有するナノ粒子の粒径分布
【
図8】ナノ粒子分散液1が含有するナノ粒子の調製直後のSEM画像
【
図9】ナノ粒子分散液1が含有するナノ粒子の調製1週間後のSEM画像
【
図10】ナノ粒子分散液2が含有するナノ粒子の調製直後のSEM画像
【
図11】ナノ粒子分散液2が含有するナノ粒子の調製1週間後のSEM画像
【
図12】ナノ粒子分散液3が含有するナノ粒子の調製直後のSEM画像
【
図13】ナノ粒子分散液3が含有するナノ粒子の調製1週間後のSEM画像
【
図15】実施例における有機薄膜トランジスタ素子の断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明のナノ粒子は、上記一般式(1)で表される構造を有するプラナーボラン化合物を含有することを特徴とする。
この特徴は、下記実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0042】
本発明のナノ粒子の実施形態としては、平均粒径が5~500nmの範囲内であることが好ましい。これによって、ナノ粒子が均一に分散した分散液を作製しやすくなり、湿式プロセスによるプラナーボラン化合物含有層の形成がしやすくなる。
【0043】
本発明のナノ粒子の製造方法は、前記プラナーボラン化合物の溶液から、再結晶法によって、本発明のナノ粒子を製造することを特徴とする。
【0044】
本発明のナノ粒子の製造方法の実施形態としては、前記再結晶法において、分散安定剤を用いることが好ましい。分散安定剤を用いることで、製造したナノ粒子の粒径が均一になりやすくなる。また、分散安定剤を用いることで、ナノ粒子が凝集しにくくなり、長期保管時の粒径の安定性が向上する。
【0045】
本発明の電子デバイスは、本発明のナノ粒子を含有することを特徴とする。
【0046】
本発明の機能性フィルムは、本発明のナノ粒子を含有することを特徴とする。
【0047】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0048】
<ナノ粒子の概要>
本発明のナノ粒子は、下記一般式(1)で表される構造を有するプラナーボラン化合物を含有することを特徴とする。
【0049】
下記一般式(1)で表される構造を有するプラナーボラン化合物は、他のホウ素含有化合物と比べて、化合物自体の安定性や、耐溶剤性が高い。そのため、当該プラナーボラン化合物を含有する本発明のナノ粒子も、安定性や、耐溶剤性が高い。
【0050】
本発明のナノ粒子は、ナノ粒子状であることによって、ナノ粒子状でないプラナーボラン化合物含有材料と比べて、分散液にしやすく、湿式プロセスによる層形成に利用しやすい。そのため、本発明のナノ粒子は、電子デバイスや機能性フィルム製造時のプラナーボラン化合物含有層の形成を湿式プロセスで行いやすいという点で、従来材料よりも有利である。湿式プロセスは、蒸着等の乾式プロセスと比べて、材料使用効率がよく大量生産に適したプロセスである。
【0051】
<プラナーボラン化合物>
本発明に係るプラナーボラン化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0052】
【0053】
(式中、X1~X9は、それぞれ独立に、CWm(mは1~9を表し、それぞれX1~X9のいずれかに対応した置換基CW1~CW9)又は窒素原子を表す。W1~W9は、それぞれ独立に、水素又は置換基を表す。L1及びL2は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基Wm1(mは1又は2を表し、それぞれL1及びL2のいずれかに対応した置換基W11又はW21)を表す。または、L1-及びL2-は、それぞれ全体として、単結合を表す。その場合は、L1-及びL2-は、酸素、硫黄、炭素、及び窒素のいずれか一つの原子を介して互いに連結し、6員環を形成する。炭素の場合は、CS1S2を表す。窒素の場合は、NR1を表す。L3及びL4は、それぞれ独立に、酸素、硫黄、CSn1Sn2、又はNRn3(nは3又は4を表し、それぞれL3及びL4のいずれかに対応した置換基CS31S32、NR33、CS41S42、又はNR43)を表す。S1、S2、S31、S32、S41、S42、R1、R33、R43、W11及びW12はそれぞれ独立に置換基を表す。)
【0054】
一般式(1)において、X1~X9は、それぞれ独立に、CWm(mは1~9を表し、X1~X9のいずれかに対応した置換基CW1~CW9を表す。)又は窒素原子である。W1~W9は、それぞれ独立に、水素又は置換基である。X1~X9の内の少なくとも1つがCWmであることが好ましく、X1~X9の内の3~6つがCWmであることがより好ましく、X1~X9の全てがCWmであることがさらに好ましい。CWmの数が多いと熱力学的安定性が向上するため好ましい。
【0055】
L1及びL2は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基Wm1(mは1又は2を表し、それぞれL1及びL2のいずれかに対応した置換基W11又はW21)を表す。または、L1-及びL2-は、それぞれ全体として、単結合を表す。その場合は、L1-及びL2-は、酸素、硫黄、炭素、及び窒素のいずれか一つの原子を介して互いに連結し、6員環を形成する。炭素の場合はCS1S2となる。窒素の場合はNR1となる。
【0056】
W1~W9、W11及びW21で表される置換基としては、特に限定はないが、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族環基、芳香族複素環基などが挙げられる。なお、これらの置換基には、構造の一部に他の置換基を有する場合も含まれる。
【0057】
W1~W9、W11及びW21で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐状、及び、環状のいずれの構造であってもよい。アルキル基としては、例えば、炭素数1~20の、直鎖状のアルキル基、分岐状のアルキル基、及び環状のアルキル基が含まれる。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-ヘキシルオクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘキシルオクチル基等が挙げられる。これらのアルキル基が有する置換基としては、ハロゲン原子、後述の芳香族炭化水素環基、後述の芳香族複素環基、アミノ基等が挙げられる。
【0058】
W1~W9、W11及びW21で表されるアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、又は、環状のいずれの構造であってもよい。アルコキシ基の例には、炭素数1~20の、直鎖状のアルコキシ基、分岐状のアルコキシ基、及び環状のアルコキシ基が含まれる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、3,7-ジメチルオクチルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、2-n-ヘキシル-n-オクチルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、n-イコシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、又は2-ヘキシルオクチルオキシ基が好ましい。これらのアルコキシ基が有する置換基としては、ハロゲン原子、後述する芳香族炭化水素環基、後述する芳香族複素環基、アミノ基等が挙げられる。
【0059】
W1~W9、W11及びW21で表される芳香族炭化水素環基としては、例えば、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、クリセン環、ナフタセン環、ピレン環、ペンタレン環、アセアントリレン環、ヘプタレン環、トリフェニレン環、as-インダセン環、クリセン環、s-インダセン環、プレイアデン環、フェナレン環、フルオランテン環、ペリレン環、アセフェナントリレン環、ビフェニル環、ターフェニル環、テトラフェニル環等が挙げられる。これらの芳香族炭化水素環基が有する置換基としては、ハロゲン原子、上述のアルキル基、上述のアルコキシ基、後述する芳香族複素環基、アミノ基等が挙げられる。
【0060】
W1~W9、W11及びW21で表される芳香族複素環基としては、例えば、カルバゾール環、インドロインドール環、9,10-ジヒドロアクリジン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾフリルインドール環、ベンゾチエノインドール環、インドロカルバゾール環、ベンゾフリルカルバゾール環、ベンゾチエノカルバゾール環、ベンゾチエノベンゾチオフェン環、ベンゾカルバゾール環、ジベンゾカルバゾール環、ジベンゾフラン環、ベンゾフリルベンゾフラン環、ジベンゾシロール環等が挙げられる。これらの芳香族複素環基が有する置換基としては、ハロゲン原子、上述のアルキル基、上述のアルコキシ基、上述の芳香族炭化水素環基、アミノ基等が挙げられる。
【0061】
W1~W9、W11及びW21で表されるアミノ基が有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、上述のアルキル基、上述の芳香族炭化水素環基、上述の芳香族複素環基等が挙げられる。
【0062】
L3及びL4は、それぞれ独立に酸素、硫黄、CSn1Sn2又は、NRn(nは3又は4を表し、それぞれL3及びL4のいずれかに対応した置換基CS31S32、NR33、CS41S42、又はNR43)である。
【0063】
NR1、NR33、NR43で表される上記構造において、R1、R33、R43は、独立に水素原子、鎖状アルキル基、環状アルキル基、芳香族炭化水素環基、又は、芳香族複素環基を表す。R1、R33、R43で表される鎖状アルキル基、及び、環状アルキル基としては、上述のW1~W9、W11、W21で表されるアルキル基から、鎖状又は環状のものが挙げられる。芳香族炭化水素環基、及び、芳香族複素環基としては、上述のW1~W9、W11、W21で表される芳香族炭化水素環基、及び、芳香族複素環基と同じものが挙げられる。
【0064】
S1、S2、S31、S32、S41、S42で表される置換基としては、鎖状アルキル基、環状アルキル基、芳香族炭化水素環基、又は、芳香族複素環基が挙げられる。S1、S2、S31、S32、S41、S42で表される鎖状アルキル基、及び、環状アルキル基としては、上述のW1~W9、W11及びW21で表されるアルキル基から、鎖状又は環状のものが挙げられる。芳香族炭化水素環基、及び、芳香族複素環基としては、上述のW1~W9、W11及びW21で表される芳香族炭化水素環基、及び、芳香族複素環基と同じものが挙げられる。
【0065】
一般式(1)で表される構造を有するプラナーボラン化合物は、下記一般式(2)で表される構造を有するプラナーボラン化合物であることが好ましい。
【0066】
【0067】
一般式(2)中、X1~X9は独立にCWm(mは1~9を表し、X1~X9のいずれかに対応した置換基CW1~CW9を表す。)か窒素であり、W1~W9は独立に水素又は置換基である。L1、L3、L4はそれぞれ独立に酸素、硫黄、又はNRnである(nは1、3又は4を表し、それぞれL1、L3、L4のいずれかに対応した置換基NR1、NR3、NR4)。R1、R3、及びR4は独立に置換基である。当該置換基としては、上記一般式(1)の説明で挙げたアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族環基、及び芳香族複素環基等の置換基であることが好ましい。
【0068】
さらに、前記一般式(2)で表される構造を有するプラナーボラン化合物は、下記一般式(3)で表される構造を有するプラナーボラン化合物であることが好ましい。
【0069】
【0070】
一般式(3)中、X1~X9は独立にCWm(mは1~9を表し、X1~X9のいずれかに対応した置換基CW1~CW9を表す。)であり、W1~W9は独立に水素又は置換基である。当該置換基としては、上記一般式(1)の説明で挙げたアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族環基、及び芳香族複素環基等の置換基であることが好ましい。
【0071】
本発明に係るプラナーボラン化合物は、1分子中に、一般式(1)で表される構造を1つだけ有してもよいし、2つ以上有してもよい。一般式(1)で表される構造が2つ以上含まれる場合、それらは互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
【0072】
以下に、本発明に係るプラナーボラン化合物の好ましい具体例を挙げる。これらの化合物はさらに置換基を有していてもよく、これらの構造異性体などであってもよく、本記述に限定されない。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
本発明に係るプラナーボラン化合物は、公知の方法により合成できる。
【0094】
本発明に係るプラナーボラン化合物のうち、例えば下記一般式(5)で表される構造を有するプラナーボラン化合物は、下記一般式(4)で表される構造を有するプラナーボラン化合物を用いて、合成できる。
【0095】
【0096】
(一般式(4)及び一般式(5)中、Y及びZは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はヒドロキシ基の保護基を表す。R11~R19は、それぞれ独立に、水素原子、鎖状アルキル基、環状アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。)
【0097】
R11~R19は、一般式(1)で記載したX1~X9と同義である。
【0098】
Y及びZで表されるヒドロキシ基の保護基としてはスルホニル基を好ましく用いることができる。中でもトリフルオロメタンスルホナート基が好ましく、Yが水素原子を表し、Zがトリフルオロメタンスルホナート基を表すことが好ましい。
【0099】
この合成方法は、まずフェノキサボリン骨格が二重になったような構造の化合物(一般式(4))を用いる。当該化合物の開環している部分を、分子内環化反応を利用して、酸素原子でブリッジさせることで、一般式(5)で表される化合物を得る。
【0100】
分子内環化反応は、求核置換反応を利用することが、高収率、合成の容易性の観点から好ましい。この場合、2つの酸素原子を含む置換基の内、一方をヒドロキシ基、他方をヒドロキシ基の保護基とする必要がある。
【0101】
また、例えば下記一般式(7)で表される構造を有するプラナーボラン化合物は、下記一般式(6)で表される構造を有する化合物を用いて、合成できる。
【0102】
【0103】
(一般式(6)及び一般式(7)中、T及びUは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はヒドロキシ基の保護基を表す。R20~R28は、水素原子、鎖状アルキル基、環状アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。)
【0104】
R20~R28は、一般式(1)で記載したX1~X9と同義である。
【0105】
T及びUで表される、ヒドロキシ基の保護基としては、メチル基かスルホニル基を好ましく用いることができる。なかでもT及びUが、ともにメチル基を表すことが好ましい。
【0106】
この合成方法は、3つのアリール基が酸素原子でブリッジされているエーテル化合物(一般式(6))を用いる。当該化合物を、ホウ素を有する試薬と反応させて、3つの炭素-ホウ素結合を形成することで、フェノキサボリン骨格が二重になったような構造の化合物(一般式(7))を得る。
【0107】
一般式(6)中の末端の酸素原子の置換基は、ともに当該反応に悪影響を与えることなく、高収率を実現できる置換基であることが好ましい。
【0108】
本発明に係るプラナーボラン化合物の合成は、国際公開第2017/018326号、国際公開第2015/102118号、特開2017-126606号公報、中国特許第106167553号、中国特許第106467554号等を参照して行うこともできる。
【0109】
<ナノ粒子の粒径>
本発明において、「ナノ粒子」とは、粒径が1~1000nmの範囲内である粒子のことをいう。
【0110】
ナノ粒子の粒径は、動的光散乱法(DLS:dynamic light scattering)で測定できる流体力学的直径を採用できる。
【0111】
本発明のナノ粒子は、平均粒径が、5~500nmの範囲内であることが好ましく、5~400nmの範囲内であることがより好ましく、5~200nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0112】
本発明のナノ粒子は、粒径分布の広がりを示す多分散指数(PDI:polydispersity index)が、0~0.4の範囲内であることが好ましく、理想的には0~0.1の範囲内にある単分散な状態がさらに好ましい。
【0113】
上記粒径分布は、動的光散乱法で測定した、横軸を粒径[nm]とし、縦軸を散乱強度[%]としたもの指す。
【0114】
<ナノ粒子の製造方法>
本発明のナノ粒子は、製造方法について特に限定されないが、例えばプラナーボラン化合物の溶液から、再結晶法によって製造できる。
【0115】
再結晶法では、プラナーボラン化合物の溶液を、貧溶媒と混合させたり、温度を低下させたりすることで、溶液中のプラナーボラン化合物を、ナノ粒子状で再結晶させる。
【0116】
再結晶法の中でも、貧溶媒にプラナーボラン化合物の溶液を添加することでプラナーボラン化合物を即座に沈殿化させる再沈法が好ましい。なお、再沈法を含む再結晶法で得られるナノ粒子は、結晶状態であるとは限られず、結晶状態であってもアモルファス状態であってもよい。
【0117】
再沈法の場合、プラナーボラン化合物の溶液に対する貧溶媒の体積比率は、1~1000倍の範囲内が好ましく、1~500倍の範囲内がより好ましい。プラナーボラン化合物の溶液を添加するときの貧溶媒は、撹拌状態にあることが好ましい。貧溶媒の撹拌速度は、100rpm~3000rpmの範囲内が好ましく、500~1000rpmの範囲内がより好ましい。
【0118】
例えば、プラナーボラン化合物の溶液100μLを、500~750rpmの撹拌状態にある貧溶媒(例えば精製水)10mLに対してインジェクションすることによって、ナノ粒子を好適に製造できる。
【0119】
プラナーボラン化合物の溶液に用いる溶媒としては、プラナーボラン化合物を溶解できるものであれば特に限定されない。例えばテトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、n-プロパノール、エチレングリコール、シクロペンタン、o-キシレン、トルエン、ヘキサン、テトラリン、メシチレン、ベンゼン、メチルシクロヘキサン、エチルベンゼン、1,3-ジエチルベンゼン、イソホロン、2-ヘキサノール、トリエチルアミン、シクロヘキサノン、ジイソプロピルアミン、イソプロピルアルコール、ピリジン、アセトフェノン、2-ブトキシエタノール、1-ブタノール、トリエタノールアミン、アニリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGMBE)、トリブチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、1-ペンタノール、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、ホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、尿素、アセトニトリル、アセトン等を使用し得る。
【0120】
プラナーボラン化合物の溶液に用いる溶媒としては、上記の他、含フッ素溶媒も使用し得る。含フッ素溶媒の例としては、フッ素含有炭化水素、フッ素含有アルコール、フッ素含有芳香族化合物、フッ素含有エーテル、フッ素含有ケトン、フッ素含有エステル、フッ素含有アミド、フッ素含有カルボン酸等が挙げられる。
【0121】
含フッ素溶媒の中では、フッ素含有アルコールが好ましい。フッ素含有アルコールの具体例としては、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール、2-トリフオロメチル-2-プロパノール、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロブタノール、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2,2,2-トリフルオロ-1-エタノール、2,3-ジフルオロベンジルアルコール、2,2,2-トリフルオロエタノール、1,3-ジフルオロ-2-プロパノール、1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノール、3,3,3-トリフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-1-ブタノール、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1-ペンタノール、3,3,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-2-ペンタノール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフルオロ-1-オクタノール、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール、1H,1H,7H-ドデカフルオロ-1-ヘプタノール、1H,1H,9H-パーフルオロ-1-ノナノール、1H,1H,2H,3H,3H-パーフルオロノナン-1,2-ジオール、1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-デカノール、1H,1H,2H,3H,3H-パーフルオロウンデカン-1,2-ジオール等が挙げられる。
【0122】
プラナーボラン化合物の溶液に用いる好適な溶媒としては、上記の中でも、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、又はフッ素含有アルコールが好ましく、テトラヒドロフラン(THF)、又はジメチルスルホキシド(DMSO)が特に好ましい。
【0123】
プラナーボラン化合物を再結晶させるために用いる貧溶媒としては、プラナーボラン化合物の溶液に用いる溶媒と比べて相対的にプラナーボラン化合物を溶解させにくいものを用いることができる。当該貧溶媒としては、上記溶媒から選択することもできるが、水、メタノール、又はヘプタンが好適に用いられる。
【0124】
プラナーボラン化合物の溶液と貧溶媒との混合による方法の場合、例えば貧溶媒を撹拌しながら、そこにプラナーボラン化合物の溶液を添加することで、混合する。
【0125】
再結晶法においては、分散安定剤を用いることもできる。分散安定剤を用いることで、製造したナノ粒子の粒径が均一になりやすくなる。また、分散安定剤を用いることで、ナノ粒子が凝集しにくくなり、長期保管時の粒径の安定性が向上する。
【0126】
分散安定剤は、例えばプラナーボラン化合物の溶液と貧溶媒との混合の前に、貧溶媒に分散又は溶解させておくことで、好適に機能する。
【0127】
分散安定剤としては、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ウシ血清アルブミン(BSA:bovine serum albumin)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリソルベート80等が挙げられる。この中でも、ポリビニルピロリドン及びウシ血清アルブミンが好ましい。
【0128】
<有機EL素子>
本発明のナノ粒子は、その用途として、電子デバイスの一種である有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に含有され得る。
【0129】
具体的には、有機EL素子において、本発明のナノ粒子は、陽極と陰極の間に存在する、発光層を含む有機機能層の、少なくとも1層に含有され得る。本発明のナノ粒子以外の材料は特に限定されず、公知のものを使用できる。
【0130】
本発明に係る有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電子輸送層/電子注入層/陰極
【0131】
上記の中で、(7)の構成が好ましく用いられる。
【0132】
発光層は、単層又は複数層で構成され得る。発光層が複数の場合は、各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。
【0133】
必要に応じて、発光層と陰極との間に、正孔阻止層(正孔障壁層ともいう。)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう。)を設けてもよい。また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう。)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう。)を設けてもよい。
【0134】
「電子輸送層」とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は、複数層で構成されていてもよい。
【0135】
「正孔輸送層」とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は、複数層で構成されていてもよい。
【0136】
「有機機能層」とは、上記の代表的な素子構成において、陽極と陰極を除いた層をいう。
【0137】
図1は、上記(4)の構成に対応する有機EL素子の断面模式図である。
図1では、正孔輸送層5、発光層6及び電子輸送層7が、有機機能層Fである。
【0138】
図2は、有機EL素子中での電荷の流れと発光のメカニズム示す模式図である。有機EL素子1に電圧を印加すると、陰極9から電子注入層8に電子(e
-)が、陽極3から正孔注入層4に正孔(h
+)が注入される。次いで、電子は、電子輸送層7に輸送される。正孔は、正孔輸送層5に輸送される。次いで、発光層6において出会った電子と正孔が、再結合Rして、励起子が生じる。生じた励起子が励起状態から基底状態に戻るときに光(蛍光・リン光)Lが放出される。この光を利用した発光素子が、有機EL素子である。
図2では、正孔注入層4から電子注入層8までが、有機機能層である。
【0139】
<光電変換素子>
本発明のナノ粒子は、その用途として、電子デバイスの一種である光電変換素子に含有され得る。
【0140】
具体的には、光電変換素子において、本発明のナノ粒子は、陽極と陰極の間に存在する、光電変換層を含む有機機能層の、少なくとも1層に含有され得る。本発明のナノ粒子以外の材料は特に限定されず、公知のものを使用できる。
【0141】
図3は、バルクヘテロジャンクション型の光電変換素子からなるシングル構成(バルクヘテロジャンクション層が1層の構成)の太陽電池の一例を示す断面模式図である。
【0142】
図3に示す光電変換素子10では、基板11の一方面上に、透明電極(陽極)12、正孔輸送層17、バルクヘテロジャンクション層の光電変換層14、電子輸送層(又はバッファ層ともいう。)18、及び対極(陰極)13が、順次積層されている。
【0143】
基板11は、順次積層された透明電極12、光電変換部14及び対極13を保持する部材である。基板11側から光電変換される光が入射するので、基板11は、この光電変換される光を透過させることが可能な、すなわち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材であることが好ましい。基板11は、例えば、ガラス基板や樹脂基板などが用いられる。
【0144】
光電変換層14は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを一様に混合したバルクヘテロジャンクション層を有して構成される。p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能する。n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。ここで、電子供与体及び電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体”である。電子供与体及び電子受容体は、電極のように単に電子を供与あるいは受容するものではなく、光反応によって、電子を供与あるいは受容するものである。
【0145】
図3において、基板11を介して透明電極12から入射された光は、光電変換層14における電子受容体あるいは電子供与体で吸収される。電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。発生した電子と正孔は、内部電界(例えば、透明電極12と対極13の仕事関数が異なる場合では、透明電極12と対極13との電位差)によって、電子受容体間又は電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ光電流が検出される。例えば、透明電極12の仕事関数が対極13の仕事関数よりも大きい場合では、電子は透明電極12へ、正孔は対極13へ輸送される。なお、仕事関数の大小が逆転すれば、電子と正孔はこれとは逆方向に輸送される。また、透明電極12と対極13との間に電位をかけることにより、電子と正孔の輸送方向を制御することもできる。
【0146】
<有機薄膜トランジスタ素子>
本発明のナノ粒子は、その用途として、電子デバイスの一種である有機薄膜トランジスタ素子に含有され得る。
【0147】
具体的には、有機薄膜トランジスタ素子において、本発明のナノ粒子は、nチャンネル駆動型のトランジスタ材料として好適に使われる。本発明のナノ粒子以外の材料は特に限定されず、公知のものを使用できる。
【0148】
本発明に係るプラナーボラン化合物は、ホウ素原子の周辺に立体障害性置換基を持たなくても、熱的に安定に取り扱えることが特徴である。特に結晶状態となった場合は平面を採りやすいことから、結晶化させることによりさらに分子間での互助効果が発揮される。これによって、本発明のナノ粒子は、より安定な電子デバイス材料となる。このような観点から、本発明のナノ粒子を有機薄膜トランジスタ素子に適用する場合は、プラナーボラン化合物は、低分子であること、特に対称型の低分子であることが好ましい。
【0149】
図4は、有機薄膜トランジスタ素子の一例を示す断面模式図である。
図4に示す有機薄膜トランジスタ素子では、支持体26の上の一部に、ゲート電極24が形成され、ゲート電極24を覆うように絶縁層25が形成されている。また、絶縁層25の上に、本発明のナノ粒子を含有する活性層21が形成されている。さらに、活性層21の上に、ソース電極22及びドレイン電極23が形成されている。
【0150】
有機薄膜トランジスタ素子の構成は、
図4に示す構成に限定されない。有機薄膜トランジスタ素子は、例えば実施例である
図15に示すような構成を取ることもできる。
【0151】
<電極素子>
本発明のナノ粒子は、その用途として、電子デバイスの一種である電極素子に含有され得る。
【0152】
プラナーボラン化合物は、ホウ素原子の電子欠乏性に由来する電子ホッピング伝導が起こりやすい化合物であり、それ自体で薄膜を形成した場合には、基本的に電子を伝導する薄膜となる。また、プラナーボラン化合物は、強いsp2性から、平面性を保つことが特徴であり、平面上には電子不足のホウ素原子が存在する。そのため、プラナーボラン化合物は、ルイス塩基性の物質と親和性が高い。そのため、プラナーボラン化合物の中には、電子を放出しやすいアルカリ金属、アルカリ土類金属、銀、銅、ニッケル、鉄、コバルト等の金属との共存によって、導電性になるものもある。したがって、プラナーボラン化合物は、上記金属と共存させたり、上記金属からなる層と積層させたりすることにより、反射電極、透明電極、半透過性電極等の電極素子に適用し得る。
【0153】
<機能性フィルム>
本発明のナノ粒子は、その用途として、機能性フィルムに含有され得る。
【0154】
機能性フィルムの例としては、発光性フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、光吸収フィルム等の光学フィルムや、帯電防止フィルムが挙げられる。
【0155】
本発明のナノ粒子を含有する機能性フィルムは、例えば、本発明のナノ粒子を含有する分散液を用いて、公知の方法でフィルム状にすることで、製造できる。当該製造工程において、適宜、機能性を付与する添加剤の添加や、機能性を付与する加工を行う必要があるが、これも公知の方法を採用できる。
【0156】
<ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用の薬剤>
本発明のナノ粒子は、その用途として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用の薬剤に含有され得る。
【0157】
BNCTとは、ホウ素同位体10Bをがん細胞に導入し、そこに中性子線を照射して選択的にがん細胞を殺すことでがんを治療する方法である。
【0158】
本発明のナノ粒子は、ホウ素を有するプラナーボラン化合物を含有する。そのため、プラナーボラン化合物が有するホウ素に、ホウ素同位体10Bを用いることで、本発明のナノ粒子は、BNCT用の薬剤として利用が期待できる。
【0159】
<放射性トレーサー>
本発明のナノ粒子は、放射性トレーサーとして利用し得る。
【0160】
放射性トレーサーとは、PET(positron emission tomography:ポジトロン断層法)等のイメージング技術で用いられる放射性標識化合物のことをいう。
【0161】
本発明のナノ粒子を放射性トレーサーとして利用する場合、ナノ粒子が含有するプラナーボラン化合物にフッ素同位体18Fを配位させる。この配位は、ナノ粒子の分散液に、フッ素同位体18Fを含有するフッ化ナトリウムを添加することでできる。
【実施例0162】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0163】
[実施例1:ナノ粒子分散液の調製及び粒径測定]
【0164】
2.83gのプラナーボラン化合物A1(前述の例示化合物A1)を、10mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して、溶液1を調製した。
【0165】
2.83gのプラナーボラン化合物A1(前述の例示化合物A1)を、10mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解して、溶液2を調製した。
【0166】
分散安定剤として1.0mgのポリビニルピロリドン(PVP)を、10mLの純水(プラナーボラン化合物A1によっての貧溶媒)に溶解して、溶液11を調製した。
【0167】
分散安定剤として1.0mgのウシ血清アルブミン(BSA)を、10mLの純水(プラナーボラン化合物A1によっての貧溶媒)に溶解して、溶液12を調製した。
【0168】
調製した溶液11の全量をマグネットスターラーで撹拌しながら、その中に、1mLの溶液1をマイクロシリンジにて添加した。これにより、プラナーボラン化合物A1を再結晶化させ、ナノ粒子分散液1を調製した。
【0169】
調製した溶液12の全量をマグネットスターラーで撹拌しながら、その中に、1mLの溶液1をマイクロシリンジにて添加した。これにより、プラナーボラン化合物A1を再結晶化させ、ナノ粒子分散液2を調製した。
【0170】
調製した溶液12の全量をマグネットスターラーで撹拌しながら、その中に、1mLの溶液2をマイクロシリンジにて添加した。これにより、プラナーボラン化合物A1を再結晶化させ、ナノ粒子分散液3を調製した。
【0171】
以下、ナノ粒子分散液1をDMSO/PVP、ナノ粒子分散液2をDMSO/BSA、ナノ粒子分散液3をTHF/BSAとも表す。
【0172】
ナノ粒子分散液が含有するナノ粒子の平均粒径dav[nm]、多分散指数PDI、及び粒径分布を測定した。測定は、動的光散乱法(DLS)で行った。測定には、Malvern Zetasizer NanoZSを用いた。測定によって得られた自己相関関数を、キュムラント解析することで、多分散指数PDIと平均粒径davを得た。また、得られた自己相関関数を、Non-Negative Least Squares法により解析することで、粒径分布を得た。
【0173】
ナノ粒子分散液1~3が含有するナノ粒子の平均粒径dav[nm]及び多分散指数PDIについて、調製直後及び1週間後のデータを表Iに示す。
【0174】
【0175】
図5に、ナノ粒子分散液1(DMSO/PVP)が含有するナノ粒子の調製直後、1日後、3日後、及び1週間後の粒径分布を示す。
図6に、ナノ粒子分散液2(DMSO/BSA)が含有するナノ粒子の調製直後、1日後、3日後、及び1週間後の粒径分布を示す。
図7に、ナノ粒子分散液3(THF/BSA)が含有するナノ粒子の調製直後、1日後、3日後、及び1週間後の粒径分布を示す。
【0176】
粒径分布から、ナノ粒子分散液1~3が含有するナノ粒子は、いずれも、粒径のピークが100nm付近であることが確認できた。
【0177】
[実施例2:ナノ粒子のSEM画像観察]
実施例1で調製したナノ粒子分散液1~3を、それぞれ、メンブランフィルター(ニュークリポアメンブレン(PC MB 47 mm 0.05 μm)、cytiva社製)でろ過した。フィルター上に残ったナノ粒子のSEM(scanning electron microscope:走査電子顕微鏡)画像を撮影した。
【0178】
図8に、ナノ粒子分散液1(DMSO/PVP)が含有するナノ粒子の調製直後のSEM画像を示す。
図9に、ナノ粒子分散液1(DMSO/PVP)が含有するナノ粒子の調製1週間後のSEM画像を示す。
図10に、ナノ粒子分散液2(DMSO/BSA)が含有するナノ粒子の調製直後のSEM画像を示す。
図11に、ナノ粒子分散液2(DMSO/BSA)が含有するナノ粒子の調製1週間後のSEM画像を示す。
図12に、ナノ粒子分散液3(THF/BSA)が含有するナノ粒子の調製直後のSEM画像を示す。
図13に、ナノ粒子分散液3(THF/BSA)が含有するナノ粒子の調製1週間後のSEM画像を示す。
【0179】
これらのSEM画像に観察により、いずれのナノ粒子分散液においても、200nm以下である棒状粒子が形成されていることが確認できた。
【0180】
[実施例3:細胞毒性実験]
実施例1で調製したナノ粒子分散液1~3をサンプルとして、以下の条件で細胞毒性実験を行った。
【0181】
細胞株:HeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来)
細胞密度:2×105cells/mL
培地:DMEM10%FBS
サンプル濃度:0.04~10μM
インキュベート時間:48時間
【0182】
培地として用いたDMEM10%FBSとは、FBS(fetal bovine serum:ウシ胎児血清)を10%添加したDMEM(Dulbecco‘s modified Eagle medium:ダルベッコ改変イーグル培地)である。
【0183】
サンプル濃度[μM]とは、培地1Lに対する、プラナーボラン化合物のモル数[μmol]である。
【0184】
サンプル濃度[μM]を横軸、及び細胞生存率[%]を縦軸とした、細胞毒性実験の結果を示すグラフを
図14に示す。
【0185】
この実験の結果から、ナノ粒子分散液1~3のいずれも、サンプル濃度1μMまでは、HeLa細胞に対して毒性がないことが確認できた。
【0186】
[実施例4:有機EL素子]
ガラス基板上に、陽極としてITO(indium tin oxide)を厚さ100nmで製膜した。当該ガラス基板を、イソプロピルアルコールで超音波洗浄した。当該ガラス基板を、乾燥窒素ガスで乾燥させた。当該ガラス基板に対して、UVオゾン洗浄を行った。
【0187】
当該ガラス基板を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。真空蒸着装置内の真空度を1×10-4Paまで減圧した。
【0188】
陽極の上に、ヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンを蒸着させ、厚さ15nmの正孔注入層を形成した。
【0189】
正孔注入層の上に、α-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)を蒸着させ、厚さ30nmの正孔輸送層を形成した。
【0190】
正孔輸送層の上に、ホスト化合物である1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン1,3-Bis(N-carbazolyl)benzene(mCP)及び発光性ドーパントであるBis[2-(4,6-difluorophenyl)pyridinato-C2,N](picolinato)iridium(III)(FIrpic)を、mCP:FIrpic=100:6の割合で共蒸着させ、厚さ30nmの発光層を形成した。
【0191】
発光層の上に、実施例1で調製したナノ粒子分散液1を、スピンコート法(回転数3000rpm)によって、乾燥後の膜厚が15nmになるように塗設した。この塗膜を、120℃にて、1時間、加熱乾燥し、電子輸送層を形成した。
【0192】
電子輸送層の上に、フッ化リチウムを蒸着させ、厚さ1.0nmの電子注入層を形成した。
【0193】
電子注入層上に、アルミニウムを蒸着させ、厚さ100nmの陰極を形成した。
【0194】
以上の操作で有機EL素子1を作製した。
【0195】
得られた有機EL素子1に、室温下、2.5mA/cm2の定電流を流したところ、青色に発光した。この結果から、本発明のナノ粒子が有機EL素子における電子輸送材料として機能することが確認できた。
【0196】
また、ナノ粒子分散液1の調製において、化合物A1の代わりに、A7、A19、A20、A25、A38、A42、A47、A92、A155、A157、及びA159を用いて、各プラナーボラン化合物を含有するナノ粒子分散液をそれぞれ調製した。調整した各ナノ粒子分散液を用いて、有機EL素子1と同様に、有機EL素子2~12をそれぞれ作製した。有機EL素子2~12について、有機EL素子1と同様に、室温下、2.5mA/cm2の定電流を流したところ、いずれも発光することが確認できた。
【0197】
[実施例5:有機薄膜トランジスタ素子]
以下の操作で、
図15に示す層構成を有する有機薄膜トランジスタ素子を作製した。
【0198】
まず、ゲート電極を兼ねる支持体27として、シリコンウエハーを用い、この上に、ゲート絶縁層25となる厚さ2000Åのシリコン熱酸化膜を形成した。以下、これを基板と呼ぶ。
【0199】
基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で加熱しながら、基板上に実施例1で調製したナノ粒子分散液1を滴下し、厚さ50nmの活性層21を形成した。活性層21の上に、マスクを用いて金を蒸着して、ソース電極22及びドレイン電極23を形成した。
【0200】
以上の操作で、有機薄膜トランジスタ素子を作製した。
【0201】
得られた有機薄膜トランジスタ素子について、nチャンネル駆動のトランジスタ特性を示すことが確認できた。
【0202】
[実施例6:透明電極]
以下の操作で、
図16に示す層構成を有する透明電極を作製した。
【0203】
透明な無アルカリガラス製の基板31上に、実施例1で調製したナノ粒子分散液1を、スピンコート法(回転数3000rpm)によって積層した後、120℃にて1時間乾燥させ、厚さ30nmの中間層32を形成した。
【0204】
次いで、銀の入った加熱ボートを通電して加熱し、蒸着速度0.1~0.2nm/秒の範囲内で、厚さ10nmの、銀からなる導電性層33を形成し、中間層32と導電性層33からなる透明電極34を作製した。
【0205】
得られた透明電極のシート抵抗値は、20Ω/□であった。また、得られた透明電極の波長550nmにおける光透過率は、60%であった。
【0206】
この結果から、本発明のナノ粒子が透明電極における中間層材料として機能することが確認できた。
【0207】
[実施例7:発光性フィルム]
実施例7では、本発明に係るナノ粒子を用いて作製した発光性フィルムの性能評価を行った。
【0208】
後述の化合物C1~C4は、以下に示す化合物である。化合物C1の重量平均分子量Mw=80000である。
【0209】
【0210】
(基材の準備)
まず、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、以下、PENと略記する。)の陽極を形成する側の全面に、特開2004-68143号公報に記載の構成の大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、SiOxからなる無機物のガスバリアー層を層厚500nmとなるように形成した。これにより、酸素透過度0.001mL/(m2・24h)以下、水蒸気透過度0.001g/(m2・24h)以下のガスバリアー性を有する可撓性の基材を作製した。
【0211】
(陽極の形成)
上記基材上に厚さ120nmのITO(インジウム・スズ酸化物)をスパッタ法により製膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、陽極を形成した。なお、パターンは発光領域の面積が5cm×5cmになるようなパターンとした。
【0212】
(正孔注入層の形成)
陽極を形成した積層体をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン処理を5分間行った。特許第4509787号公報の実施例16と同様にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)の分散液を調製した。当該分散液を、イソプロピルアルコールで希釈して、2質量%溶液を調整した。当該2質量%溶液を、積層体の陽極の上に、インクジェット印刷法にて塗布した。当該積層体を、80℃で5分乾燥し、厚さ40nmの正孔注入層を形成した。
【0213】
(正孔輸送層の形成)
正孔注入層を形成した積層体を、窒素ガス(グレードG1)を用いた窒素雰囲気下に移した。当該積層体の正孔注入層の上に、下記組成の正孔輸送層形成用塗布液を、インクジェット印刷法にて塗布した。当該積層体を、130℃で30分乾燥し、厚さ30nmの正孔輸送層を形成した。
【0214】
正孔輸送層形成用塗布液の組成:
正孔輸送材料 化合物C1 10質量部
クロロベンゼン 3000質量部
【0215】
(発光層の形成)
積層体の正孔輸送層の上に、下記組成の発光層形成用塗布液を、インクジェット印刷法にて塗布した。当該積層体を、120℃で30分間乾燥し、厚さ50nmの発光層を形成した。
【0216】
発光層形成用塗布液の組成:
ホスト化合物 化合物C2 10質量部
リン光発光材料 化合物C3 1質量部
蛍光発光材料 化合物C4 0.1質量部
酢酸ノルマルブチル 2200質量部
【0217】
(電子輸送層の形成)
積層体の発光層の上に、実施例1で調製したナノ粒子分散液1を、スピンコート法(回転数3000rpm)にて塗布した。当該積層体を、120℃で1時間、加熱乾燥し、厚さ30nmの電子輸送層を形成した。
【0218】
(電子注入層、陰極の形成)
電子輸送層を形成した積層体を、大気に曝露することなく真空蒸着装置へ取り付けた。モリブデン製抵抗加熱ボートにフッ化カリウムを入れたものとタングステンボートにAl(アルミニウム)を入れたものをそれぞれ用意し真空蒸着装置に取り付けた。次いで、真空槽を5.0×10-5Paまで減圧した。その後、ボートに通電して加熱し、フッ化カリウムを0.02nm/秒で電子輸送層上に蒸着し、厚さ1nmの電子注入層を形成した。引き続き、アルミニウムを蒸着して、厚さ100nmの陰極を形成した。
【0219】
(封止)
以上の工程により形成した積層体に対し、市販のロールラミネート装置を用いて、封止用接着剤が塗布された封止基材を接着した。
【0220】
封止基材として、可撓性を有する厚さ30μmのアルミニウム箔(東洋アルミニウム社製)に、ドライラミネーション用の2液反応型のウレタン系接着剤を用いて厚さ1.5μmの接着剤層を設け、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムをラミネートしたものを用いた。
【0221】
封止基材のアルミニウム箔の接着面(つや面)に沿って、下記の封止用接着剤を、ディスペンサーを使用して、厚さ20μmで均一に塗布した。これを100Pa以下の真空下で12時間乾燥させた。これを露点温度-80℃以下、酸素濃度0.8ppmの窒素雰囲気下へ移動して、12時間以上乾燥させ、封止用接着剤の含水率が100ppm以下となるように調整した。
【0222】
封止用接着剤としては、下記の(A)~(C)を混合した、熱硬化性のエポキシ系接着剤を用いた。
【0223】
(A)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)
(B)ジシアンジアミド(DICY)
(C)エポキシアダクト系硬化促進剤
【0224】
封止基材を接着させた積層体を、圧着ロールを用いて、圧着ロール温度100℃、圧力0.5MPa、装置速度0.3m/minの条件で圧着させ、密着封止した。
【0225】
以上のようにして、上述に示す有機EL素子の構成を持った発光性フィルム7-1を作製した。
【0226】
得られた発光性フィルム7-1に、室温下、2.5mA/cm2の定電流を流したところ、青色に発光した。
【0227】
以上の結果から、本発明に係るナノ粒子を含む発光性フィルムを提供することができることが確認できた。
【0228】
また、ナノ粒子分散液1の調製において、化合物A1の代わりに、A7、A19、A20、A25、A38、A42、A47、A92、A155、A157、及びA159を用いて、各プラナーボラン化合物を含有するナノ粒子分散液をそれぞれ調製した。調整した各ナノ粒子分散液を用いて、発光性フィルム7-1と同様に、発光性フィルム7-2~7-12をそれぞれ作製した。発光性フィルム7-2~7-12について、発光性フィルム7-1と同様に、室温下、2.5mA/cm2の定電流を流したところ、いずれも発光することが確認できた。
【0229】
[参考例1]
実施例1で調製したナノ粒子分散液1(10mL)に、フッ化ナトリウム(10mg)を添加することで、フッ素が配位したプラナーボラン化合物を含有するナノ粒子を得ることができる。また、添加するフッ化ナトリウムに、フッ素同位体18Fを含むフッ化ナトリウムを用いることで、フッ素同位体18Fが配位したプラナーボラン化合物を含有するナノ粒子を得ることができる。フッ素同位体18Fが配位したプラナーボラン化合物を含有するナノ粒子は、放射性トレーサーとしての利用が可能である。
【0230】
以下の化学反応式に、プラナーボラン化合物が有するホウ素に、フッ素同位体18Fが配位して、錯体を形成する反応を示す。フッ素同位体18Fを含むフッ化ナトリウムについては、「後藤祥子,他3名,“臨床供給のための[18F]フッ化ナトリウムの製剤化と品質”,NMCC共同利用研究成果報文集14,日本アイソトープ協会,2006年-2007年,p.260-264」を参照できる。
【0231】