(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108185
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】イオン液体、及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4152 20060101AFI20240805BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240805BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240805BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240805BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
A61K31/4152
A61P9/10
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012408
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】308038613
【氏名又は名称】公立大学法人和歌山県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 達也
(72)【発明者】
【氏名】今福 真由美
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 康範
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC11
4C076DD49Q
4C076DD50Q
4C076DD60Q
4C076DD62Q
4C076FF33
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086NA03
4C086NA11
4C086ZA36
4C086ZA44
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本開示の目的は、水に対する溶解性に優れる、エダラボンアニオンを含むイオン液体を提供することである。
【解決手段】本実施形態の一つは、下記一般式(2-2)で表されるアニオンとカチオンを含む、イオン液体である。
R
19は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
20、R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアニオンを含む、イオン液体。
【化1】
【請求項2】
下記一般式(2-1)及び下記一般式(2-2)から選択される少なくとも一種を含む、イオン液体。
【化2】
(一般式(2-1)において、X
+は、下記一般式(3)、(4)、(5)、又は(6)で表される1価のカチオンである。)
【化3】
(一般式(3)において、R
1は、炭素数1~4のアルキル基であり、R
2は、炭素数2~10のアルキル基であり、
一般式(4)において、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立に、炭素数4~14のアルキル基、又は下記一般式(7)で表される基であり、
一般式(5)において、R
9、R
10、R
11及びR
12はそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基であり、R
9、R
10、R
11及びR
12の2つは、互いに結合してこれらが結合するN
+と共に環を形成してもよく、
一般式(6)において、R
13は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。)
【化4】
(一般式(7)において、R
7は、炭素数2~4のアルキレン基であり、R
8は、炭素数1~3のアルキル基であり、波線はリンカチオン(P
+)への結合部位である。)
【化5】
(一般式(2-2)において、R
19は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
20、R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。)
【請求項3】
前記X+は、前記一般式(3)又は(4)で表される1価のカチオンである、請求項2に記載のイオン液体。
【請求項4】
前記X
+は、式(3-1)~(3-5)、式(4-1)~(4-4)、式(5-1)~(5-5)及び式(6-1)~(6-2)から選択される1価のカチオンである、請求項2に記載のイオン液体。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項5】
前記X
+は、式(3-1)又は(4-1)で表される1価のカチオンである、請求項2に記載のイオン液体。
【化10】
【請求項6】
前記一般式(2-2)を構成する下記一般式(Z)で表されるカチオンが、式(Z-1)又は式(Z-2)で表されるカチオンである、請求項2に記載のイオン液体。
【化11】
(一般式(Z)において、R
19は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
20、R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。)
【請求項7】
請求項1に記載のイオン液体を含有する、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン液体、及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エダラボン(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン)は、フリーラジカルスカベンジャーとして作用する物質であり、例えば脳保護薬として使用されている。エダラボンは水への溶解度が約2mg/mLであり、やや難溶性の物質であり、且つ水溶液中で酸化を受けやすい等の課題が存在した。
【0003】
国際公開2019/073052号(特許文献1)には、エダラボンの塩として、ヘミナパジシル酸3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はナパジシル酸3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンである、塩が開示されている。特許文献1には、前記塩が、容易に製造され、遊離エダラボン塩基よりも水中でより急速に溶けること、前記塩が極めて安定であり、取り扱いやすいことが開示されている。
【0004】
国際公開2019/205700号(特許文献2)には、有効成分としてのエダラボン又はその塩、充填剤、結合剤及び崩壊剤を含む医薬組成物が開示されており、充填剤としてマンニトールが好ましいことが開示されている。特許文献2に開示された医薬組成物は舌下投与に適した製剤であり、舌下錠剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2019/073052号
【特許文献2】国際公開2019/205700号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エダラボン、その塩又はこれらを含む医薬組成物としては従来から様々な検討が行われていた。しかしながら、本発明者らの調査によると、従来の検討はエダラボン或いはその塩としては固体を前提とした検討のみが行われていた。一方で、本発明者らは、仮にエダラボンの塩等の誘導体を、液体として得ることができれば、溶解性の向上や、取り扱い性の向上が見込めるのではないかと推測した。
【0007】
そこで本開示の目的は、水に対する溶解性に優れる、エダラボンアニオンを含むイオン液体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、以下のイオン液体、及び医薬組成物を見出し、本開示に至った。
【0009】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
[1] 下記一般式(1)で表されるアニオンを含む、イオン液体。
【化1】
[2] 下記一般式(2-1)及び下記一般式(2-2)から選択される少なくとも一種を含む、イオン液体。
【化2】
(一般式(2-1)において、X
+は、下記一般式(3)、(4)、(5)、又は(6)で表される1価のカチオンである。)
【化3】
(一般式(3)において、R
1は、炭素数1~4のアルキル基であり、R
2は、炭素数2~10のアルキル基であり、
一般式(4)において、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立に、炭素数4~14のアルキル基、又は下記一般式(7)で表される基であり、
一般式(5)において、R
9、R
10、R
11及びR
12はそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基であり、R
9、R
10、R
11及びR
12の2つは、互いに結合してこれらが結合するN
+と共に環を形成してもよく、
一般式(6)において、R
13は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。)
【化4】
(一般式(7)において、R
7は、炭素数2~4のアルキレン基であり、R
8は、炭素数1~3のアルキル基であり、波線はリンカチオン(P
+)への結合部位である。)
【化5】
(一般式(2-2)において、R
19は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
20、R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。)
[3] 前記X
+は、前記一般式(3)又は(4)で表される1価のカチオンである、[2]に記載のイオン液体。
[4] 前記X
+は、式(3-1)~(3-5)、式(4-1)~(4-4)、式(5-1)~(5-5)及び式(6-1)~(6-2)から選択される1価のカチオンである、[2]に記載のイオン液体。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
[5] 前記X
+は、式(3-1)又は(4-1)で表される1価のカチオンである、[2]に記載のイオン液体。
【化10】
[6] 前記一般式(2-2)を構成する下記一般式(Z)で表されるカチオンが、式(Z-1)又は式(Z-2)で表されるカチオンである、[2]~[5]のいずれかに記載のイオン液体。
【化11】
(一般式(Z)において、R
19は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
20、R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。)
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のイオン液体を含有する、医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、水に対する溶解性に優れる、エダラボンアニオンを含むイオン液体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】エダラボンの
1H-NMR測定の結果を示す。
【
図3】テトラブチルホスホニウムクロリドの
1H-NMR測定の結果を示す。
【
図4】テトラブチルホスホニウムクロリドのFT-IR測定の結果を示す。
【
図5】1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロリドの
1H-NMR測定の結果を示す。
【
図6】1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロリドのFT-IR測定の結果を示す。
【
図7】1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリドの
1H-NMR測定の結果を示す。
【
図8】カチオンとしてテトラブチルホスホニウムクロリドを用いたイオン液体の
1H-NMR測定の結果を示す。
【
図9】カチオンとしてテトラブチルホスホニウムクロリドを用いたイオン液体のFT-IR測定の結果を示す。
【
図10】カチオンとして1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロリドを用いたイオン液体の
1H-NMR測定の結果を示す。
【
図11】カチオンとして1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロリドを用いたイオン液体のFT-IR測定の結果を示す。
【
図12】カチオンとして1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリドを用いたイオン液体の
1H-NMR測定の結果を示す。
【
図13】実施例の(4)エダラボンイオン液体のラジカルスカベンジ活性評価のラジカル消去率(%)を示す。
【
図14】実施例の(6)エダラボンイオン液体の安定性評価のラジカル消去率(%)を示す。
【
図15】実施例の(6)エダラボンイオン液体の安定性評価の残存エダラボン濃度を示す。
【
図16】実施例の(7)エダラボンイオン液体の体内分布評価の結果を示す。
【
図17】実施例の(8)エダラボンイオン液体の脳保護効果の評価のフローを示す。
【
図18】実施例の(8)エダラボンイオン液体の脳保護効果の評価の脳傷害領域(cm
3)を示す。
【
図19】実施例の(8)エダラボンイオン液体の脳保護効果の評価の運動機能試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の一態様は、一般式(1)で表されるアニオンを含む、イオン液体である。また、別の一態様は、一般式(2-1)及び一般式(2-2)から選択される少なくとも一種を含む、イオン液体である。一般式(2-1)を含むイオン液体及び一般式(2-2)を含むイオン液体は、一般式(1)で表されるアニオンを含むイオン液体に包含される概念である。また、別の一態様は、前述のイオン液体を含有する、医薬組成物である。
【0013】
以下、本実施形態の各態様について、詳細に説明する。
(イオン液体)
イオン液体は、下記一般式(1)で表されるアニオンを含む。また、ある態様において、イオン液体は、下記一般式(2-1)及び下記一般式(2-2)から選択される少なくとも一種を含む。一般式(1)で表されるアニオンを含むイオン液体は、そのカチオンとしては特に制限はないが、医薬組成物の構成成分としてイオン液体を使用する場合には、生体適合性に優れたカチオンであることが好ましい。一般式(1)で表されるアニオンを含むイオン液体としては、一般式(2-1)及び一般式(2-2)から選択される少なくとも一種を含むイオン液体が好ましい。なお、一般式(1)で表されるアニオンは、エダラボンアニオンである。
【0014】
【0015】
【化13】
(一般式(2-1)において、X
+は、下記一般式(3)、(4)、(5)、又は(6)で表される1価のカチオンである。)
【0016】
【化14】
(一般式(3)において、R
1は、炭素数1~4のアルキル基であり、R
2は、炭素数2~10のアルキル基であり、
一般式(4)において、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立に、炭素数4~14のアルキル基、又は下記一般式(7)で表される基であり、
一般式(5)において、R
9、R
10、R
11及びR
12はそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基であり、R
9、R
10、R
11及びR
12の2つは、互いに結合してこれらが結合するN
+と共に環を形成してもよく、
一般式(6)において、R
13は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。)
【0017】
【化15】
(一般式(7)において、R
7は、炭素数2~4のアルキレン基であり、R
8は、炭素数1~3のアルキル基であり、波線はリンカチオン(P
+)への結合部位である。)
【0018】
【化16】
(一般式(2-2)において、R
19は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基であり、R
20、R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基である。)
【0019】
前記R1は、炭素数1~4のアルキル基であり、炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。炭素数1~4のアルキル基は、炭素数1又は2のアルキル基であってもよく、炭素数1のアルキル基(メチル基)であってもよい。
【0020】
前記R2は、炭素数2~10のアルキル基であり、炭素数2~10のアルキル基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。炭素数2~10のアルキル基は、炭素数4~10のアルキル基であってもよく、炭素数8~10のアルキル基であってもよい。
【0021】
前記R3、R4、R5及びR6はそれぞれ独立に、炭素数4~14のアルキル基、又は下記一般式(7)で表される基である。炭素数4~14のアルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基が挙げられる。炭素数4~14のアルキル基は、炭素数4~10のアルキル基であってもよく、炭素数4~8のアルキル基であってもよい。R7は、炭素数2~4のアルキレン基であり、炭素数2~4のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。R8は、炭素数1~3のアルキル基であり、炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。
【0022】
前記R3、R4、R5及びR6はそれぞれ独立に、炭素数4~14のアルキル基、又は一般式(7)で表される基であるが、R3、R4、R5及びR6の全てが炭素数4~14のアルキル基であること、又はR3、R4、R5及びR6の三つが炭素数4~14のアルキル基であり、且つ一つが一般式(7)で表される基であることが好ましい態様の一つである。
【0023】
前記R9、R10、R11及びR12はそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基である。また、R9、R10、R11及びR12の2つは、互いに結合してこれらが結合するN+と共に環を形成してもよい。炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。炭素数1~10のアルキル基は、炭素数1~8のアルキル基であってもよく、炭素数1~6のアルキル基であってもよい。炭素数2~4のヒドロキシアルキル基としては、炭素数2~4のアルキル基の水素原子の一つをヒドロキシ基(-OH)で置換した基が挙げられ、エチル基の水素原子の一つをヒドロキシ基(-OH)で置換した基(ヒドロキシエチル基)であってもよい。ヒドロキシ基は、アルキル基の末端に存在することが好ましい態様の一つである。
【0024】
前記R13は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基である。炭素数2~6のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が挙げられる。1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基としては、例えば、-C2H4-NH-C2H4-、-C2H4-NH-C2H4-NH-C2H4-であってもよい。
【0025】
前記R14、R15、R16、R17及びR18はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基であり、水素原子又はメチル基であってもよく、水素原子であってもよい。前記R14、R15、R16、R17及びR18が、水素原子であると、イオン液体の合成が容易であるため好ましい。
【0026】
前記R19は、炭素数2~6のアルキレン基、又は1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基である。炭素数2~6のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が挙げられる。1若しくは2個の-NH-が挿入された炭素数2~6のアルキレン基としては、例えば、-C2H4-NH-C2H4-、-C2H4-NH-C2H4-NH-C2H4-であってもよい。
【0027】
前記R20、R21、R22、R23、R24及びR25はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1若しくは2のアルキル基であり、水素原子又はメチル基であってもよく、水素原子であってもよい。前記R20、R21、R22、R23、R24及びR25が、水素原子であると、イオン液体の合成が容易であるため好ましい。
【0028】
本開示において、炭素数が3以上のアルキル基、アルキレン基、ヒドロキシアルキル基としては、炭素骨格が直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。各基は、直鎖状の基であることが好ましい態様の一つである。
【0029】
前記X+は、前記一般式(3)又は(4)で表される1価のカチオンであることが好ましい態様の一つである。前記X+が、前記一般式(3)又は(4)で表される1価のカチオンであると、イオン液体の合成が容易であるため、また、イオン液体が室温付近において取り扱いやすい粘性を示す傾向があるため好ましい。
【0030】
前記X+のより具体的な例としては、式(3-1)~(3-5)、式(4-1)~(4-4)、式(5-1)~(5-5)及び式(6-1)~(6-2)から選択される1価のカチオンが挙げられる。前記X+としては、式(3-1)~(3-5)及び式(4-1)~(4-4)から選択される1価のカチオンであってもよく、式(3-1)又は(4-1)で表される1価のカチオンであってもよい。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
前記一般式(2-1)及び一般式(2-2)から選択される少なくとも一種を含むイオン液体としては、一般式(2-1)で表されるイオン液体でも、一般式(2-2)で表されるイオン液体でも、一般式(2-1)で表される成分と、一般式(2-2)で表される成分とを含むイオン液体であってもよい。一般式(2-1)で表されるイオン液体が好ましい態様の一つである。また、一般式(2-1)において、X+が一般式(6)で表される1価のカチオンである場合には、その製造時、保存時、使用時の条件、例えば使用する試薬の種類や量、温度、pH等によって、一般式(6)で表される1価のカチオンの一部が2価のカチオンとなる場合がある。該2価のカチオンは、例えば前述の一般式(Z)で表すことができる。すなわち、このような場合にはイオン液体は、一般式(2-1)で表される成分(但し、X+が一般式(6)で表される1価のカチオンである)と、一般式(2-2)で表される成分(例えば一般式(Z)で表されるカチオンが、式(Z-1)又は式(Z-2)で表されるカチオンである)とを含むイオン液体である。
【0036】
本実施形態のイオン液体は、エダラボンアニオンをその一部として含むため、エダラボンと同様に医薬用途で使用することができる。具体的には、本実施形態のイオン液体は、脳保護薬、血栓溶解剤、抗血小板薬等の医薬組成物の有効成分として使用することができる。
【0037】
(イオン液体の製造方法)
本実施形態のイオン液体を製造する方法としては、特に制限はなく、例えば後述の実施例に記載の方法により製造することができる。前記イオン液体を製造する方法の一例としては、エダラボンは、例えば生理的条件下では、約50%がエダラボンアニオンとして存在し、約50%がエノール型のエダラボンとして存在するとの知見に基づき、エダラボン及び、特定のカチオン、例えば一般式(3)、(4)、(5)、(6)、又は(Z)で表されるカチオンを反応系中に供給することが可能な物質を、水、エタノール等の溶媒中に加え、溶液を調製し、反応させることによりエダラボンアニオンを前記カチオンで中和し、次いで、反応系中の溶媒、他の塩等を除去することにより、イオン液体を得ることができる。
【0038】
(医薬組成物)
医薬組成物は、前述のイオン液体を含有する。医薬組成物の用途としては、限定するものではないが、例えば脳保護薬、血栓溶解剤、抗血小板薬が挙げられる。
【0039】
医薬組成物は、前述のイオン液体と、他の成分とを含むが、他の成分としては特に制限はされず、投与形体に応じて、医薬分野で通常使用されている溶剤、担体、賦形剤、緩衝剤、安定化剤等を挙げることができる。医薬組成物の剤形としては、特に制限はないが、イオン液体を好適に体内に投与する観点から液体が好ましい。溶剤としては、水性溶剤、有機溶剤が挙げられるが、イオン液体を容易に溶解することが可能な水性溶剤が好ましい。水性溶剤としては、水(通常は蒸留水等の精製された水)、生理食塩水等が挙げられる。
【0040】
医薬組成物の投与方法としては、特に制限はないが、例えば従来のエダラボンと同様に静脈内投与が可能である。また、イオン液体の医薬成分の一般的特性として知られる高い粘膜透過性から、経口投与製剤として医薬組成物を使用してもよい。医薬組成物の投与量としては、投与方法等によっても異なるが、従来のエダラボンと同様の投与量、例えば、3mg/kgの投与量で十分な脳保護効果が発揮できる。
【実施例0041】
以下に本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(1)エダラボンイオン液体の創製
エダラボンは生理的条件下では約50%がアニオンとして存在し、電子を供与して種々のラジカルを消去するという知見に基づき、エダラボン(東京化成工業)をアニオンとして使用した。
【0043】
カチオンとしては、テトラブチルホスホニウムクロリド(Tetrabutylphosphonium chloride)(80%水溶物)(東京化成工業)、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(1-Decyl-3-methylimidazolium chloride)(東京化成工業)、又は1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリド(1-Butyl-1-methylpyrrolidinium chloride)(東京化成工業)を使用した。
【0044】
アニオン:カチオンがモル比として1:1となるように分取し、エタノールに溶解した。得られた溶液を、室温にて1時間撹拌した後、60℃の条件下で4時間エバポレーターにて溶媒を留去し、次いで残留溶媒を完全に除去するために60℃の条件下で48時間真空乾燥した。得られた液体を室温に戻すことにより、目的とするエダラボンイオン液体を得た。
【0045】
(2)エダラボンイオン液体の生成確認
エダラボンイオン液体の生成を化学的に確認するために、サンプル(得られたエダラボンイオン液体及び原料)を1H-NMR及びFT-IRにて測定した。1H-NMR測定は、サンプルをNMR管に任意の量を分取し、重クロロホルムに溶解することで行った。FT-IR(SHIMADZU、 FT-IR IRprestige-21)測定時は、試料テーブルにサンプルを必要量滴下することで行った。
【0046】
原料として使用したエダラボンの
1H-NMR測定の結果を
図1に示し、FT-IR測定の結果を
図2に示し、テトラブチルホスホニウムクロリドの
1H-NMR測定の結果を
図3に示し、FT-IR測定の結果を
図4に示し、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロリドの
1H-NMR測定の結果を
図5に示し、FT-IR測定の結果を
図6に示し、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリドの
1H-NMR測定の結果を
図7に示す。カチオンとしてテトラブチルホスホニウムクロリドを用いたイオン液体(以下、Phosphonium-ILとも記す)の
1H-NMR測定の結果を
図8に示し、FT-IR測定の結果を
図9に示す。カチオンとして1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロリドを用いたイオン液体(以下、Imidazolium-ILとも記す)の
1H-NMR測定の結果を
図10に示し、FT-IR測定の結果を
図11に示す。また、カチオンとして1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリドを用いたイオン液体(以下、Pyrrolidinium-ILとも記す)の
1H-NMR測定の結果を
図12に示す。Phosphonium-ILの化学式を下記式(A)に示し、Imidazolium-ILの化学式を下記式(B)に示し、Pyrrolidinium-ILの化学式を下記式(C)に示す。なお、各
1H-NMR測定の結果を示す図において、下線を付した数字は、各シグナルの積分値を意味する。
【0047】
【0048】
(3)エダラボンイオン液体の溶解性試験
過剰量のエダラボン粉末、又はエダラボンイオン液体を1.5mLエッペンドルフチューブに秤量し、1mLの超純水を加え、25℃の条件下で撹拌混合した。24時間後、0.22μmのメンブレンフィルターにて濾過したサンプル中のエダラボン濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC;Waters 2996)にて測定した。すなわち、本開示では、0.22μmのメンブレンフィルターを通過したエダラボン、及びエダラボンイオン液体を、溶解したものと定義した。HPLCの測定条件は以下の通りである。カラム:CAPCELL PAK C18 MGIII(5μm,4.6×150mm)(資生堂)、移動相組成:0.5%酢酸含有蒸留水/メタノール=50/50、流速:0.95mL/分、カラム温度:40℃、測定波長:240nm、サンプル注入量:20μL、測定時間:10分。なお、各サンプル中のエダラボン濃度は、既知濃度のエダラボン溶液のHPLC測定から得られた検量線を基に算出した。溶解性試験の結果を表1に示す。下記表1より、本実施形態のイオン液体は、エダラボンよりも溶解性に優れることが分かる。
【0049】
【0050】
(4)エダラボンイオン液体のラジカルスカベンジ活性評価
エダラボン粉末を任意の量測り取った後、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加え速やかに溶解させ、その後1Nの塩酸を加えることでpHを7.4付近に調整した。エダラボンイオン液体は超純水を加え10秒間撹拌混合することで溶解し、得られた懸濁液(pH≒3~4)のpHを1Nの水酸化ナトリウム水溶液にて7.4付近に調整した。それぞれのサンプルを、エダラボン濃度として125、250、500μMとなるように超純水にて希釈した。ラジカルスカベンジ活性の評価には、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)(DPPH)法を用いた。具体的には、125μMのDPPH溶液(エタノールに溶解)120μLに対し、10mMのTris-HCl(pH7.4)156μLを96-wellプレートに添加し、エダラボン濃度として最終濃度10、20、40μMとなるように各濃度(125、250、500μM)のサンプル溶液を24μL添加した。20分室温にて撹拌混合後、プレートリーダーにて吸光度(λ=517nm)を測定し、以下の式に従ってラジカル消去率を算出した。
ラジカル消去率(%)=(各サンプル添加群の吸光度÷エダラボン未添加群の吸光度)×100
【0051】
ラジカル消去率(%)(Radical scavenging activity)を
図13に示す。
図13より、本実施形態のイオン液体は、ラジカルスカベンジャーとして知られるエダラボンと同程度の、ラジカル消去率を有することが分かる。
【0052】
以降の検討では、室温における流動性、扱いやすさの観点から、Phosphonium-ILを用いた。
【0053】
(5)Phosphonium-ILのナノ粒子形成確認
Phosphonium-ILを超純水に任意の濃度(3.24mg/mL)となるように秤量し、10秒間撹拌混合することで溶解した後、1Nの水酸化ナトリウム水溶液にてpH=7.4に調整した。得られたエダラボンイオン液体懸濁液の粒子径、ゼータ電位を動的光散乱法にて測定した(Zetasizer PRO、Malvern)。
【0054】
【0055】
表2より、本実施形態のイオン液体は、水中で200nm程度のナノ粒子を形成していることが分かった。このため本実施形態のイオン液体は血中に投与した場合であっても、腎糸球体濾過を回避することが可能であり、腎移行性が低いことが示唆された。
【0056】
(6)エダラボンイオン液体の安定性評価
上記(4)と同様の方法でエダラボン粉末、及びエダラボンイオン液体を超純水に溶解させた。次いでラジカット(登録商標)注30mg(製造販売元:田辺三菱製薬株式会社)のインタビューフォームに従い、エダラボン濃度として最終濃度8.61mMとなるように混合し、1Nの塩酸又は水酸化ナトリウムでpH≒4とした。また、添加剤を用いた例では、エダラボン濃度として最終濃度8.61mMとなるように、酸化防止剤として亜硫酸水素ナトリウム、L-システイン(図中ではこれら酸化防止剤を添加剤と記している)をそれぞれ最終濃度9.61mM、2.85mMとなるように混合し、1Nの塩酸又は水酸化ナトリウムでpH≒4とした。作製した溶液20mLを25℃暗所にて静置し、その0、1、3、7、14、21、28日後、500μLを分取し、上記(4)と同様の方法でDPPH法によりラジカルスカベンジ活性を評価した。また0、7、14、21、28日静置させたサンプルについては、上記(3)の方法に従って、残存エダラボン濃度をHPLCにて測定した。
【0057】
ラジカル消去率(%)を
図14に示す。
図14より、本実施形態のイオン液体は、ラジカルスカベンジャーとして知られるエダラボンと同程度の、ラジカル消去率を有することが分かる。静置0日のサンプルのエダラボン濃度を100%とした、残存エダラボン濃度を
図15に示す。
【0058】
(7)エダラボンイオン液体の体内分布評価
上記(4)と同様の方法で、エダラボン溶液、及びエダラボンイオン液体懸濁液を調整し、BALB/cマウス(雄性、5週齢)に対して0.2mL尾静脈内投与した(投与量:エダラボンとして3mg/kg)。各サンプル投与5、10、30、60分後に、イソフルラン吸入麻酔下マウス下大静脈から血液を回収した後、腎臓を回収した。血液については、遠心分離(2,000×g、10分、4℃)することで血漿を回収し、その後、血漿に対して2倍量の除タンパク液(メタノール/アセトニトリル=1/1)と混合し、30分室温で放置することで除タンパク処理を行った。腎臓は、(組織重量(mg)×3)μLの50%メタノール含有超純水を加えホモジナイズした。得られた液を2倍量の除タンパク液(メタノール/アセトニトリル=1/1)と混合し、30分室温で放置することで除タンパク処理を行った。除タンパク処理を行った各サンプルを遠心分離(20,000×g、10分、4℃)し、得られた上清中のエダラボン濃度を、LC-MS/MS(SCIEX,Triple QuadTM 5500+)を用いてESI法により測定した。測定条件を以下に示す。また、内部標準としてフェナセチンを定量した。結果を
図16に示す。
図16より、本実施形態のイオン液体は、エダラボンと比べ、血中に長期間存在することが可能であり、且つ腎移行性が低いことが分かった。本結果より、エダラボン投与時の重篤な副作用として報告されている急性腎不全のリスクを軽減できる可能性が示唆された。
【0059】
測定条件
カラム:YMC Triart C18 (TA12S05-0502WT)(5μm、2.0×50mm)(YMC)、移動相組成:溶媒A 0.5%ギ酸含有蒸留水、溶媒B 0.5%ギ酸含有メタノール、流速:0.2mL/分、移動相プログラム:開始0分;溶媒A/溶媒B=90/10、0分-5分;溶媒A/溶媒B=90/10→20/80、5分-7分;溶媒A/溶媒B=20/80、7分-10分;溶媒A/溶媒B=20/80→90/10、カラム温度:40℃、サンプル注入量:5μL、測定時間:10分。ESIイオンモードはMRMモード下、ポジティブで行った(エダラボン:m/z:175.0→m/z:65.1、フェナセチン:m/z:180.0→m/z:110.1)。
【0060】
(8)エダラボンイオン液体の脳保護効果の評価
作製したエダラボンイオン液体の脳保護効果を、脳虚血/再灌流障害モデルラット(一過性中大脳動脈閉塞(Transient middle cerebral artery occlusion;t-MCAO)ラット)を用いて評価した。具体的には、イソフルラン吸入麻酔下、Wistarラット(雄性、8週齢)の右内頚動脈を露出、切り込みを入れた部位から、右中大脳動脈起始部に対してシリコンコーティングナイロンフィラメントを挿入することで、脳虚血を起こした。1時間後、中大脳動脈起始部よりナイロンフィラメントを引き抜くことで血流を再開通(再灌流)させ、t-MCAOラットを作製した。t-MCAOラットに対して、再灌流直後にエダラボン濃度として3mg/kgとなるようにエダラボン溶液あるいはエダラボンイオン液体溶液を尾静脈内投与した。なお、コントロールとしてPBSを尾静脈内投与した。サンプル投与24時間後、計21点の運動機能試験(Hunter AJ他,Neuropharmacology,39,806-816(2000))を実施することで運動機能評価を行った(正常ラットは21点を獲得する)。その後、イソフルラン麻酔下断頭し脳を摘出後、ブレインスライサーにて2mmスライスを作製し、2%の2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(2,3,5-triphenyltetrazolium chloride)含有リン酸緩衝生理食塩水中で37℃、20分間振盪させ、生細胞を染色した。画像解析ソフトImage Jにて脳傷害領域を算出した。本評価のフローを
図17に示し、脳傷害領域(cm
3)を
図18に示し、運動機能試験の結果を
図19に示す。本評価より本実施形態のイオン液体は、エダラボンと同等以上の効果を発揮することが分かる。
【0061】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。また、本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0062】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。