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特開2024-108186ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる薄肉成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108186
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる薄肉成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20240805BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20240805BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20240805BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20240805BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240805BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20240805BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20240805BHJP
【FI】
C08J5/00 CEZ
C08L81/02
C08L91/06
C08K5/5415
C08L101/00
H01M50/193
H01M50/121
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012409
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 智大
(72)【発明者】
【氏名】井砂 宏之
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
5H011
【Fターム(参考)】
4F071AA15X
4F071AA42X
4F071AA62
4F071AC12
4F071AC16
4F071AE11
4F071AF21
4F071AF45
4F071AF54
4F071AH12
4F071AH15
4F071BB05
4F071BC03
4F071BC12
4J002AE032
4J002BB003
4J002BB043
4J002BB053
4J002BB063
4J002BB073
4J002BC023
4J002CN011
4J002EX036
4J002EX066
4J002EX076
4J002EX086
4J002FD206
4J002GQ00
4J002GQ01
5H011AA03
5H011CC02
5H011DD02
5H011FF03
5H011GG02
5H011HH02
5H011KK01
5H011KK02
5H011KK04
(57)【要約】
【課題】
優れた流動性、および靭性を兼ね備えたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いた、低反り性、および寸法安定性に基づく高い生産性、および信頼性を有する薄肉成形品を得ること。
【解決手段】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)シランカップリング剤0.1~0.5重量部、(c)高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックス1~5重量部、ならびに(d)熱可塑性エラストマー0.5重量部以下を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなり、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得られる試験片の引張破断伸度(ISO527-1,2(2012)に準拠して測定)が5%以上である、最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)シランカップリング剤0.1~0.5重量部、(c)高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックス1~5重量部、ならびに(d)熱可塑性エラストマー0.5重量部以下を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなり、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得られる試験片の引張破断伸度(ISO527-1,2(2012)に準拠して測定)が5%以上である、最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
【請求項2】
前記(c)高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックス中における、高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの生成物であって多塩基酸に由来する構造を含まない生成物の含有量が5~65重量%である、請求項1に記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
【請求項3】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得られる試験片の荷重たわみ温度(ISO75-1,2(2013)に準拠して測定、0.45MPa負荷)が180℃以上である、請求項1に記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
【請求項4】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で射出成形して得られる角板(W:80mm×D:80mm×H:1mm)の反り量が1.8mm以下である、請求項1に記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
【請求項5】
請求項1に記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の電池絶縁部材用薄肉成形品。
【請求項6】
請求項1に記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の車載リチウムイオン電池絶縁部材用薄肉成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた流動性、および靭性を兼ね備えたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いた、低反り性、および寸法安定性に基づく高い生産性、および信頼性を有する薄肉成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護の意識の高まりを背景に、走行時のCO排出を抑制可能な電気自動車や夜間の余剰電気の効率利用を目的とした家庭用の二次電池が広く普及しつつあり、車載用や住宅定置用に使用される二次電池は更なる効率化が求められている。
【0003】
電池絶縁部材には、従来より、樹脂材料からなる薄肉成形品が使用されているが、電池自体の発熱や周囲環境の熱影響に耐えうる材料として、耐熱性や耐薬品性に優れるポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂の適用検討がなされている。PPS樹脂は、これら優れた特性を兼ね備える一方で靭性が低い欠点を有しており、電池製造時のかしめや嵌合工程における電池絶縁部材の破損抑制のため、引張破断伸度に代表される靭性の改良が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、PPS樹脂と有機シラン化合物を含有するPPS樹脂組成物が、耐フッ化水素酸性、かしめ性に優れることを見出し、当該PPS樹脂組成物を電池用絶縁部材に適用している。
【0005】
また特許文献2では、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーを配合したPPS樹脂組成物からなるリチウムイオン電池用ガスケットが開示されている。当該PPS樹脂組成物は、PPS樹脂に対して柔軟な材料である熱可塑性エラストマーを配合することで、伸びや耐衝撃性等の靭性に優れることから、ガスケットとした際のシール性に優れるため、リチウムイオン電池用ガスケットに適用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-36538
【特許文献2】特開2022-165484
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、車載用や住宅定置用で使用されるリチウムイオン電池等の二次電池は更なる高容量化が検討されている。特に車載用二次電池においては、電気自動車の普及に必要な航続距離の延長に向け、電池の高容量化が求められており、電池絶縁部材は大型化する傾向にある。この大型化に伴って電池絶縁部材は、薄肉成形品であるが故に反りの発生が新たな課題となっている。この課題に対して絶縁部材の反り抑制(低反り性)は、部材の信頼性、ひいては電池の信頼性向上に繋がることから、改善の要望がある。また電気自動車は急激な需要拡大が予測され、電池絶縁部材には高い生産性が求められるため、反りのバラツキが小さく寸法安定性に優れることも期待されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1、2は反りの抑制やバラつきの低減に関して記載はなく、これら課題に対する検討はなされていない。また本発明者らが、特許文献1に記載のPPS樹脂と有機シラン化合物からなる樹脂組成物について成形品の反りを評価した結果、反り量とそのバラつきが大きいことがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するべく検討を行った結果、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)シランカップリング剤、(c)高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックスを特定の組成で配合し、(d)熱可塑性エラストマーの配合量は0.5重量部以下で実質的に含有しないポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、当該樹脂組成物を射出成形して得られる試験片の引張破断伸度が5%以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、流動性および靭性に優れ、係るポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる薄肉成形品が、優れた低反り性、寸法安定性により、高い生産性と信頼性を兼ね備えることを見出すに至った。すなわち、本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実施可能である。
(1)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)シランカップリング剤0.1~0.5重量部、(c)高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックス1~5重量部、ならびに(d)熱可塑性エラストマー0.5重量部以下を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなり、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得られる試験片の引張破断伸度(ISO527-1,2(2012)に準拠して測定)が5%以上である、最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
(2)前記(c)高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックス中における、高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの生成物であって多塩基酸に由来する構造を含まない生成物の含有量が5~65重量%である、(1)に記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
(3)前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得られる試験片の荷重たわみ温度(ISO75-1,2(2013)に準拠して測定、0.45MPa負荷)が180℃以上である、(1)または(2)に記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
(4)前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で射出成形して得られる角板(W:80mm×D:80mm×H:1mm)の反り量が1.8mm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の薄肉成形品。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の電池絶縁部材用薄肉成形品。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の最薄肉部の厚みが1mm以下の車載リチウムイオン電池絶縁部材用薄肉成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた流動性、および靭性を兼ね備えたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いることで、低反り性、および寸法安定性に基づく高い生産性、および信頼性を有する薄肉成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
(1)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明で用いられる(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0013】
【化1】
【0014】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(a)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0015】
【化2】
【0016】
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、PPSの一般的な融点である280℃に対して融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形加工性の点で有利となる。
【0017】
本発明で用いられる(a)PPS樹脂の重量平均分子量に特に制限はないが、引張破断伸度に代表される優れた機械物性と薄肉成形品成形時に求められる高い流動性をバランス良く得る観点で、重量平均分子量は40000~90000が好ましく、40000~80000が更に好ましく、50000~70000が特に好ましい。重量平均分子量が小さい場合は、PPS樹脂自体の機械物性が低下し、電池製造時のかしめや嵌合工程での部材破損が生じるため、40000以上が好ましい。一方、重量平均分子量が90000を超える場合には、溶融粘度が著しく大きくなるため、薄肉成形品の成形加工において好ましくない傾向である。また本発明では、重量平均分子量の異なる複数の(a)PPS樹脂を混合して使用してもよい。
【0018】
なお、本発明における重量平均分子量は、センシュー科学製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0019】
以下に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記特性を有する(a)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
【0020】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0021】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、カルボキシル基の導入を目的に、2,4-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロ安息香酸、2,6-ジクロロ安息香酸、3,5-ジクロロ安息香酸などのカルボキシル基含有ジハロゲン化芳香族化合物、およびそれらの混合物を共重合モノマーとして用いることも好ましい態様の1つである、また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0022】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(a)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0023】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0024】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0025】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0026】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0027】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0028】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0029】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0030】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95モルから1.20モル、好ましくは1.00モルから1.15モル、更に好ましくは1.005モルから1.100モルの範囲が例示できる。
【0031】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0032】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25モルから6.0モル、より好ましくは2.5モルから5.5モルの範囲が選ばれる。
【0033】
[分子量調節剤]
生成する(a)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0034】
[重合助剤]
比較的高重合度の(a)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは、得られる(a)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、更に有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0035】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0036】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0037】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1モル~0.6モルの範囲が好ましく、0.2モル~0.5モルの範囲がより好ましい。
【0038】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~5モルの範囲がより好ましい。
【0039】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0040】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0041】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用する。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0042】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02~0.2モル、好ましくは0.03~0.1モル、より好ましくは0.04~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下したりする傾向となる。
【0043】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0044】
次に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
【0045】
[前工程]
(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0046】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0047】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3モル~10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0048】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(a)PPS樹脂を製造する。
【0049】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~240℃、好ましくは100℃~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0050】
かかる混合物を通常200℃~290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01~5℃/分の速度が選択され、0.1~3℃/分の範囲がより好ましい。
【0051】
一般に、最終的には250~290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25~50時間、好ましくは0.5~20時間反応させる。
【0052】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270℃~290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25時間~10時間の範囲が選ばれる。
【0053】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0054】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
【0055】
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)-PHA過剰量(モル)〕。
【0056】
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕。
【0057】
[回収工程]
(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を採用することが必須である。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全工程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
【0058】
[後処理工程]
(a)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
【0059】
酸処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(a)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(a)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0060】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80~200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上、例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施された(a)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0061】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0062】
熱水洗浄による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(a)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(a)PPS樹脂と水との割合は、水が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(a)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0063】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。更に、この熱水処理操作を終えた(a)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0064】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(a)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0065】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(a)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0066】
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶媒洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
【0067】
本発明においては、滞留安定性の優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましく、特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が更に好ましい。
【0068】
その他、(a)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0069】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160~260℃が好ましく、170~250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましく、2~25時間が更に好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもよいし、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0070】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130~250℃が好ましく、160~250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5~50時間が好ましく、1~20時間がより好ましく、1~10時間が更に好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもよいし、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0071】
本発明の(a)PPS樹脂は、(b)シランカップリング剤との反応効率向上の観点から、カルボキシル基やアミノ基などの官能基がPPS樹脂末端や側鎖に導入されてもよい。官能基量は25~400μmol/gが好ましい態様として挙げられ、25~250μmol/gが更に好ましく、30~150μmol/gが更に好ましく、30~80μmol/gが更に好ましい。官能基量は25μmol/g以上とすることで、(b)シランカップリング剤やその他の添加剤との反応性が得られ好ましい。一方、PPS樹脂の官能基量は400μmol/g以下とすることで、揮発性成分量の増加に伴う加工性の低下や、難燃性および耐薬品性の低下を抑制でき好ましい。
【0072】
(a)PPS樹脂中に、カルボキシル基やアミノ基などの官能基を導入する方法としては、カルボキシル基やアミノ基を含むポリハロゲン化芳香族化合物およびスルフィド化剤を共重合する方法や、カルボキシル基やアミノ基を含む化合物、例えば無水マレイン酸、ソルビン酸などを添加して、(a)PPS樹脂と溶融混練しながら反応せしめることにより導入する方法などを例示できる。官能基の種類は、カルボキシル基またはアミノ基が好ましい。
【0073】
(2)(b)シランカップリング剤
本発明の実施形態の薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物に、PPS樹脂100重量部に対して(b)シランカップリング剤を0.1~0.5重量部配合することは、優れた生産性と信頼性を兼ね備えた薄肉成形品を得るために必須である。
【0074】
本発明に用いられる(b)シランカップリング剤の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して0.1~0.5重量部であることが必須であり、0.3~0.5重量部であることが好ましい。(b)シランカップリング剤の配合量が0.1重量部未満であると、PPS樹脂組成物の引張破断伸度が低いため、かしめや嵌合工程における薄肉成形品の破損が生じやすく生産性が低下する。また薄肉成形品の実使用時における信頼性も低下する。一方、(b)シランカップリング剤の配合量が0.5重量部を超えると、成形品の収縮異方性が高まって反りが発生しやすくなるため、薄肉成形品の信頼性が低下する。またPPS樹脂組成物の流動性が低下し、薄肉成形品の射出成形が困難になる。
【0075】
(b)シランカップリング剤の具体例としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、およびアルコキシ基から選択される少なくとも一つの官能基を有する(b)シランカップリング剤であることが好ましい。具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシメチル-3-ピペラジノプロピルシラン、3-ピペラジノプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトメチルジメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシランなどを好ましく例示することができる。
【0076】
上記した(b)シランカップリング剤の中で、反応性や取扱上の観点から、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランが好ましく、特に3-イソシアナトプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0077】
これら(b)シランカップリング剤はそれぞれ単独または2種以上の混合物の形で用いることができる。
【0078】
(3)(c)高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックス
本発明の実施形態の薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物に、PPS樹脂100重量部に対して(c)高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックス(以下、カルボン酸アミド系ワックスと略すことがある)を1~5重量部配合することは、優れた生産性と信頼性を兼ね備えた薄肉成形品を得るために必須である。従来、(c)カルボン酸アミド系ワックスは、PPS樹脂100重量部に対して0.1~1重量部程度配合することで、離型剤としての効果を発揮することが知られている。一方、本発明では更に高配合量とすることで、PPS樹脂組成物からなる成形品の収縮異方性が低減し、反り抑制および反りバラつきの低減効果を発揮することで、薄肉成形品に好適であることを新たに見出したものである。また流動性が向上する点や、荷重たわみ温度(以下DTULと略すことがある)に代表される高温剛性の低下が小さい点においても、薄肉成形品に好適である。
【0079】
本発明に用いられる(c)カルボン酸アミド系ワックスの配合量は、PPS樹脂100重量部に対して1重量部以上5重量部であることが必須であり、1重量部を超え5重量部以下であることが好ましく、1.5重量部以上5重量部以下であることがより好ましく、3重量部以上5重量部以下であることが特に好ましい。(c)カルボン酸アミド系ワックスの配合量が1重量部未満であると、反り抑制および反りバラつきの低減効果が十分に得られず、薄肉成形品の生産性と信頼性が低下する。一方、(c)カルボン酸アミド系ワックスの配合量が5重量部を超えると、(c)カルボン酸アミド系ワックス由来のガス量が増加し、流動性も過剰に増加するため、薄肉成形品の射出成形が困難になる。
【0080】
本発明に用いられる(c)カルボン酸アミド系ワックスは、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックスである。前記高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数10以上の脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましい。具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ベヘン酸、モンタン酸、および12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。中でも、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、および12-ヒドロキシステアリン酸などの炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸と、ヒドロキシカルボン酸が好ましい。また、これら高級脂肪族モノカルボン酸は、2種以上を併用しても良い。
【0081】
前記多塩基酸とは、二塩基酸以上のカルボン酸である。具体例としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、およびアゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、およびイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキシルジカルボン酸およびシクロヘキシルコハク酸などの脂環式ジカルボン酸、などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよく、中でもコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、およびピメリン酸が好ましい。
【0082】
前記ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、トリレンジアミン、フェニレンジアミン、およびイソホロンジアミンなどが挙げられる。これらは2種以上併用してもよい。なかでもエチレンジアミンが好ましい。
【0083】
かかる高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対し、多塩基酸を0.18モル以上とすることが好ましく、0.2モル以上とすることがさらに好ましい。また、多塩基酸を、1.0モル以下とすることが好ましい。高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンの混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対し、ジアミンを1.0モル以上とすることが好ましく、1.2モル以上とすることがさらに好ましい。また、ジアミンを、2.2モル以下とすることが好ましく、2.0モル以下とすることがさらに好ましい。
【0084】
本発明の実施形態で用いるカルボン酸アミド系ワックスは、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを加熱することによる脱水縮合反応によって得られるが、かかる脱水縮合反応により得られる生成物は多くの場合、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸とジアミンの反応による生成物と、高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンの反応による生成物であって多塩基酸に由来する構造を含まない生成物との混合物となる。その生成比は、合成時の各成分の仕込みモル比など合成条件で変化する。本発明の実施形態においては、高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンの反応による生成物であって多塩基酸を含まない生成物の割合が、全カルボン酸アミド系ワックスに対し、5~65重量%であるカルボン酸アミド系ワックスが、靭性、反り抑制、流動性の観点で好ましく、15~65重量%がより好ましく、20~65重量%が更に好ましく、30~65重量%が特に好ましい。
【0085】
かかる高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの反応による生成物であって多塩基酸を含まない生成物の重量%は、示差走査熱量計を用いて求める。具体的には、カルボン酸アミド系ワックスをサンプルとして2回目走査時(一度、昇温、降温し、再度昇温した時)に現れる、高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの反応による生成物であって多塩基酸を含まない生成物に相当するピークの融解熱量と、別途入手し得る高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンの反応による生成物であって多塩基酸を含まない化合物純品をサンプルとして同様にして求めた融解熱量の比較から求めることができる。
【0086】
本発明に用いられる(c)カルボン酸アミド系ワックスには、酸化防止剤が配合されていてもよい。酸化防止剤を配合することで、(c)カルボン酸アミド系ワックスに由来する発生ガスや金型汚れを低減することができる。酸化防止剤としては、例えばリン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、およびアミン系酸化防止剤が用いられる。これらの酸化防止剤の2種以上を併用してもよい。より好ましくは、リン系酸化防止剤および/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が用いられる。酸化防止剤の配合量は(c)カルボン酸アミド系ワックス100重量部に対し、0.01~5重量部であることが好ましく、0.01~3重量部であることがより好ましい。
【0087】
(4)(d)熱可塑性エラストマー
本発明の実施形態の薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物は、PPS樹脂100重量部に対して(d)熱可塑性エラストマーの配合量が0.5重量部以下であることが必須である。(d)熱可塑性エラストマーの配合量は0.3重量部以下がより好ましく、0.1重量部以下が更に好ましい。最も好ましくは(d)熱可塑性エラストマーを含まないこと、すなわち0重量部である。
【0088】
熱可塑性エラストマーは高温では可塑化し、室温ではゴム状弾性を示す材料である。PPS樹脂組成物に熱可塑性エラストマーを配合した場合には、熱可塑性エラストマーの可塑化やゴム弾性が発現することで、薄肉成形品の機械特性低下や、DTULに代表される高温剛性の低下による寸法安定性の低下が生じる。つまり薄肉成形品の信頼性と生産性が低下する。また熱可塑性エラストマーの配合により流動性が低下するため、薄肉成形品の生産性が低下する。以上の理由から、本発明においては(d)熱可塑性エラストマーの配合量が0.5重量部以下であることが必須である。
【0089】
熱可塑性エラストマーの具体例としては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-スチレン共重合体、エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル-グリシジルメタアクリレート共重合体が挙げられる。
【0090】
(5)(e)その他の添加剤
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、(a)PPS樹脂、(d)熱可塑性エラストマー以外の樹脂を添加してもよい。その具体例としては、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルイミド-シロキサン共重合体、ポリケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE))、シリコーンエラストマーが例示できるが、これらに限定されるものではない。かかる樹脂の添加量は、PPS樹脂100重量部に対して、10重量部未満が好ましく、5重量部未満が好ましく、3重量部未満がより好ましい。なお、下限値としてはこれらの樹脂を含まない、すなわち0重量部であることが好ましい。
【0091】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物には、改質を目的として、以下の様な化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、シリコーン系化合物などの離型剤、水、滑剤、紫外線防止剤、着色防止剤、着色剤、発泡剤、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は、何れもPPS樹脂組成物の合計100重量部に対して10重量部を超えると本発明のPPS樹脂組成物本来の特性が損なわれるため好ましくなく、5重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の添加がよい。
【0092】
また、本発明においては、PPS樹脂組成物の靱性を高める目的でエポキシ樹脂の添加が可能である。
【0093】
エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ビフェニル骨格やナフタレン骨格等を有する特殊骨格2官能エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型やトリスフェノールメタン型、ジシクロペンタジエン型等の多官能エポキシ樹脂などに代表されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、芳香族アミン型やアミノフェノール型等に代表されるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型やダイマー酸型に代表されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂を挙げることができる。かかるエポキシ樹脂の添加量は、PPS樹脂組成物の合計100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、特に0.2~3重量部が好ましい。
【0094】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物には、必須成分ではないが、本発明の効果を損なわない範囲で無機フィラーを配合して使用することも可能である。かかる無機フィラーの具体例としてはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、なかでもマイカ、炭酸カルシウム、カーボンブラックが好ましい。マイカは、成形収縮異方性を低減し反りを抑制する効果の観点から特に好ましく、炭酸カルシウム、カーボンブラックは、防食材、滑材の効果の点から特に好ましい。またこれらの無機フィラーは中空であってもよく、更に2種類以上を併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
【0095】
かかる無機フィラーの配合量は、PPS樹脂組成物の合計100重量部に対して、10重量部未満の範囲が選択され、5重量部未満の範囲が好ましく、3重量部未満の範囲がより好ましく、1重量部以下の範囲が更に好ましい。下限は特に無いが0.0001重量部以上が好ましい。無機フィラーの配合は材料の強度向上に有効である反面、10重量部を超えるような配合は靱性の低下をもたらすため、好ましくない。
【0096】
本発明において、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状充填材の配合は、その他の無機フィラーと同様に靭性の低下をもたらすだけでなく、繊維状充填材の配向によって成形収縮異方性が高まり、反りが生じやすくなるため好ましくない。繊維状充填材の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して0.5重量部以下が好ましく、0.1重量部以下がより好ましく、実質的に含まれないこと、すなわち0重量部が最も好ましい。
【0097】
(6)樹脂組成物の製造方法
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物を製造する方法としては、溶融状態での製造や溶液状態での製造等が挙げられるが、簡便さの観点から、溶融状態での製造が好ましく用いられる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練や、ニーダーによる溶融混練等が使用できるが、生産性の観点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく用いられる。押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を少なくとも1台使用できるが、混練性、反応性、生産性向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく使用でき、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
【0098】
溶融混練する更に具体的な方法としては、必ずしもこれに限定されるものでは無いが、L/D(L:スクリュー長さ、D:スクリュー直径)が10以上、好ましくは20以上であり、ニーディング部を2箇所以上、好ましくは3箇所以上有する二軸押出機を使用することが好ましい。L/Dの上限については特に制限しないが、60以下が経済性の観点から好ましい。また、ニーディング部の数の上限についても特に制限しないが、生産性の観点から10箇所以下であることが好ましい。スクリュー全長に対するニーディング部の割合は、PPS樹脂中の(e)その他の樹脂の分散性の観点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましい。一方、スクリュー全長に対するニーディング部の割合の上限については、混練時の過剰な剪断発熱の発生による樹脂の劣化を防ぐ観点から、40%以下が好ましい。
【0099】
スクリュー回転数については150~1000回転/分、好ましくは300~1000回転/分、より好ましくは350~800回転/分の条件で混練する方法が好ましい。スクリュー回転数が150回転/分を上回る場合は、混練力が十分であるため、(e)その他の添加剤を添加する場合、その凝集が抑制され、所望の靭性の発現に繋がる。スクリュー回転数が1000回転/分を上回る場合は、混練時の過剰な剪断発熱による樹脂や添加剤の劣化が発生し、靭性の低下や金型汚れ性の低下、溶融粘度の低下によるバリの発生、分解物による薄肉成形品の生産性と信頼性の低下にも繋がるため好ましくない。
【0100】
好ましいシリンダー温度(℃)の範囲は、具体的には280~400℃の範囲であり、280~360℃の範囲がより好ましく、280~330℃の範囲が更に好ましい。
【0101】
溶融混練する際の原料の混合順序については特に制限されるものではないが、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
【0102】
(7)PPS樹脂組成物
本発明の実施形態の薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物は、材料の靱性を示す物性値の一つである引張破断伸度(ダンベル試験片(ISO527-2-1A)、引張速度50mm/min、23℃の条件、ISO527-1,2(2012)に準拠)が、5%以上が必須である。10%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましい。薄肉成形品のかしめや嵌合工程、および実使用時の破損抑制の観点から、樹脂組成物の引張破断伸度は5%以上であることが望ましい。引張破断伸度は、部材の破損防止による生産性と信頼性の観点から高い方が好ましく、特に上限は設けないが、実質的に500%以下であることが例示できる。このような特性を有するPPS樹脂組成物を得る方法は、特に限定はされないが、例えば(a)PPS樹脂100重量部に対する(b)シランカップリング剤の配合量を0.1~0.5重量部とすること、(c)カルボン酸アミド系ワックスの配合量を1~5重量部にすること、および(c)カルボン酸アミド系ワックス中に含まれる高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの反応物(ただし、多塩基酸を含まない)の含有量が5~65重量%であることが挙げられる。
【0103】
本発明の実施形態の薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物は、薄肉成形品の信頼性の観点から、PPS樹脂組成物を射出成形して得られる角板(W(幅):80mm×D(奥行):80mm×H(高さ):1mm)の反り量が1.8mm以下であることが好ましく、1.7mm以下であることがより好ましく、1.6mm以下であることがさらに好ましく、1.4mm以下であることが最も好ましい。反り量が1.8mm以下であると、前記PPS樹脂組成物を薄肉成形品とした時の反りが小さく、薄肉成形品の実使用時において本来期待される部材機能が十分に発揮され信頼性が高くなるため好ましい。薄肉成形品の信頼性の観点から反り量は0mmであることが最も好ましく、特に下限は設けないが、実質的に0.1mm以上であることが例示できる。また反り量の標準偏差は0.3mm以下が好ましく、0.25mm以下がより好ましく、0.2mm以下が特に好ましい。反り量の標準偏差が0.3mm以下であることは、反り量のバラツキが小さく寸法安定性に優れることを意味し、薄肉成形品の良品取得率が向上するため生産性に優れ、また薄肉成形品の実使用時においては安定した機能発現が達成でき信頼性に優れる。薄肉成形品の生産性と信頼性の観点から反り量の標準偏差は0mmであることが最も好ましく、特に下限は設けないが、実質的に0.05mm以上であることが例示できる。
【0104】
反り量とその標準偏差の評価は以下の通りの方法で行うことができる。薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物を、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で射出成形して角板(W:80mm×D:80mm×H:1mm)を得、これを室温で24時間以上静置する。基準台に載せた角板の中央に20gの分銅を置き、基準台の高さを0mmとし、最も高く反り上がった角の高さを反り量として、ハイトゲージで測定する。5枚の角板を用いて同様の測定を行い、その平均値と標準偏差をそれぞれ採用する。
【0105】
PPS樹脂組成物からなる成形品の反り量やその標準偏差を低減するには、成形品の成形収縮異方性を低減することや、DTULに代表される高温剛性を高く維持し射出成形における離型時の変形を抑制することにより実現可能である。このような特性を有するPPS樹脂組成物を得る方法は、特に限定はされないが、例えば(a)PPS樹脂100重量部に対する(b)シランカップリング剤の配合量を0.1~0.5重量部とすること、(c)カルボン酸アミド系ワックスの配合量を1~5重量部にすること、(c)カルボン酸アミド系ワックス中に含まれる高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの反応物(ただし、多塩基酸を含まない)の含有量が5~65重量%であること、および(d)熱可塑性エラストマーの配合量を0.5重量部以下とすることが挙げられる。
【0106】
なお、成形品の成形収縮異方性は成形収縮比により評価できる。具体的には、薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物を、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で射出成形して角板(W:80mm×D:80mm×H:1mm)を得、これを室温で24時間以上静置する。その後、ノギスを用いてMD方向の角板寸法を測定する。角板の中央と、両端からそれぞれ10mmの位置との3箇所で測定を行い、各箇所の当該位置におけるMD方向の金型寸法と角板寸法の差を求め、その差を金型寸法で除した値の平均値をMD方向の成形収縮率として求める。TD方向についても同様に成形収縮率を求め、MD方向の成形収縮率をTD方向の成形収縮率で除して成形収縮比を算出する。成形収縮比が1に近いほど成形収縮異方性が小さく、反りが発生しにくいことを意味する。成形収縮比は0.6以上が好ましく、0.63以上がより好ましく、0.65以上が特に好ましい。成形収縮比は1であることが最も好ましく、特に上限は設けないが、実質的に0.95以下であることが例示できる。
【0107】
本発明の実施形態の薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物は、ISO75-1,2(2013)に準拠して0.45MPaの負荷条件で測定したDTULが180℃以上であることが好ましい。DTULが180℃以上であると、薄肉成形品の射出成形における離型時の変形抑制と、また薄肉成形品の高温環境下での実使用時における変形抑制が期待でき、薄肉成形品の生産性と信頼性に優れるため好ましい。
【0108】
このような特性を有するPPS樹脂組成物を得る方法は、特に限定はされないが、例えば(a)PPS樹脂100重量部に対する(d)熱可塑性エラストマーの配合量を0.5重量部以下とすることが挙げられる。
【0109】
本発明の実施形態の薄肉成形品を構成するPPS樹脂組成物は、溶融粘度を指標とした流動性が300Pa・s以下であることが好ましく、200Pa・s以下であることがより好ましく、160Pa・s以下であることが更に好ましく、120Pa・s以下であることが特に好ましい。流動性が300Pa・s以下であると、薄肉成形品の射出成形時における充填不足が抑制でき、生産性が向上するため好ましい。また溶融粘度を指標とした流動性は30Pa・s以上が好ましく、50Pa・s以上がより好ましく、70Pa・s以上が特に好ましい。流動性が30Pa・s以上であると、射出成形時の鼻タレを抑制できたり、成形品のバリを抑制できたりするので好ましい。このような特性を有するPPS樹脂組成物を得る方法は、特に限定はされないが、例えば(a)PPS樹脂100重量部に対する(b)シランカップリング剤の配合量を0.1~0.5重量部とすること、(c)カルボン酸アミド系ワックスの配合量を1~5重量部にすること、(c)カルボン酸アミド系ワックス中に含まれる高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの反応物(ただし、多塩基酸を含まない)の含有量が5~65重量%であること、および(d)熱可塑性エラストマーの配合量を0.5重量部以下にすることが挙げられる。
【0110】
流動性の評価は以下の通りの方法で行うことができる。キャピログラフを用いて、320℃、オリフィス長さL(mm)/オリフィス直径D(mm)=10の条件下で測定した際の、剪断速度1216s-1におけるPPS樹脂組成物の溶融粘度を測定し、これを流動性の指標とする。
【0111】
(8)薄肉成形品
本発明の実施形態の薄肉成形品は、最薄肉部の厚みを1mm以下の薄肉成形品とした時に発生してしまう反りとそのバラつきを抑制したものであり、優れた生産性と信頼性を有するものである。薄肉成形品の最薄肉部の厚みがより薄くても、反り抑制効果を発揮するため、薄肉成形品の最薄肉部の厚みは0.8mm以下が好ましく、0.6mm以下がより好ましい。下限は特にないが、薄肉成形品の形状および機能保持の観点から0.1mm以上が好ましい範囲として例示できる。
【0112】
本発明の薄肉成形品は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種成形手法により成形可能であるが、中でも射出成形が生産性の観点で好ましい。射出成形のように成形品に配向が生じて成形収縮異方性が高まることで、反りが発生しやすい成形手法においても、反りとそのバラつきを抑制でき、薄肉成形品の生産性と信頼性に優れる。
【0113】
本発明の実施形態の薄肉成形品は、特に電池絶縁部材に好ましく用いることができる。電池絶縁部材とは1次または2次電池用の絶縁部材のことを指し、1次または2次電池における内部短絡および外部短絡を防止するために用いられるものである。
【0114】
1次または2次電池としては、アルカリマンガン乾電池、ガルバニ電池、ニッケル系1次電池、リチウム電池、マンガン乾電池、水銀電池、全固体電池等の1次電池、鉛蓄電池、リチウム・空気電池、リチウムイオン2次電池、リチウムイオンポリマー2次電池、リン酸鉄リチウムイオン電池、リチウム・硫黄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素充電池、ニッケル・リチウム電池、ニッケル・亜鉛電池、全固体電池等の2次電池が挙げられる。
【0115】
電池絶縁部材としては、絶縁板、ガスケット、端子ホルダー、ケース、絶縁リング、絶縁チューブ、電線被覆、バスバー被覆等が挙げられる。本発明のPPS樹脂組成物から構成される電池絶縁部材は、優れた靱性を有するため、かしめ工程で破損が発生するリスクを低減でき、また信頼性にも優れるため、電池の重要保安部材である絶縁板、ガスケット、端子ホルダー、ケースへの適用が好ましい。
【0116】
本発明の電池絶縁部材用薄肉成形品は、成形品を構成するPPS樹脂組成物の高い流動性により薄肉成形が可能であり、また高い靭性により電池絶縁部材用薄肉成形品のかしめや嵌合工程における破損が防止される。加えて、反りのバラつき抑制により電池絶縁部材用薄肉成形品の良品取得率が高い。これらの効果により生産性に優れる。更に、高い靭性により実使用時の破損が防止され、反りとそのバラつき抑制により電池の短絡防止機能の安定した発現が期待できるため、信頼性が高い。近年では環境保護意識の高まりを背景に、電気自動車の需要の急拡大が予測されるが、これに搭載される車載リチウムイオン電池絶縁部材として用いることで、その需要に対応しうる生産性を有しつつ、また信頼性の高い電池となり搭乗者の安全確保にも貢献するため、特に好適な用途として例示できる。
【実施例0117】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0118】
実施例および比較例において、(a)PPS樹脂、(b)シランカップリング剤、(c)カルボン酸アミド系ワックス、(d)熱可塑性エラストマー、(e)その他の添加剤として以下のものを用いた。
【0119】
[(a)PPS樹脂(a-1、a-2)]
[参考例1 PPS樹脂(a-1)]
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2923.88g(70.17モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム1894.20g(23.10モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら230℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.017モルであった。
【0120】
次にp-ジクロロベンゼン10420g(70.89モル)、NMP9078.30g(91.70モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で240℃まで昇温し、240℃で40分反応を行った後、0.8℃/分の速度で275℃まで昇温した。その後、250℃まで1.3℃/分の速度で冷却しながら2394g(133モル)のイオン交換水をオートクレーブに圧入した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0121】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS樹脂(a-1)は、重量平均分子量:73000、融点:280℃、カルボキシル基量:35μmol/g、溶融粘度:177Pa・sであった。なお、溶融粘度は、キャピログラフを用いて、320℃、オリフィス長さL(mm)/オリフィス直径D(mm)=10の条件下で測定した際の、剪断速度1216s-1における値である。
【0122】
[参考例2 PPS樹脂(a-2)]
添加するp-ジクロロベンゼン量を10458.90g(71.15モル)とする以外は参考例1と同じ条件で、PPS樹脂(a-2)を得た。得られたPPS樹脂(a-2)は、重量平均分子量:54000、融点:280℃、カルボキシル基量:42μmol/g、溶融粘度:57Pa・sであった。なお、溶融粘度は参考例1と同様の手法で測定した。
【0123】
[(b)シランカップリング剤(b-1)]
b-1:3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製「KBE9007N」)
【0124】
[(c)カルボン酸アミド系ワックス(c-1、c-2)]
[参考例1 カルボン酸アミド系ワックス(c-1)]
反応器にステアリン酸2モルとセバシン酸1モルを仕込み、加熱溶解後、エチレンジアミン2モルを加え、窒素気流中160℃より脱水反応を開始し、250~260℃にてアミン価が5以下になるまで反応後、カルボン酸アミド系ワックス(c-1)を得た。このワックスをサンプルとして、示差走査熱量計にて、昇温速度および降温速度をともに20℃/分、走査範囲50~170℃、サンプル量約4mgの条件で測定を行った。2回連続して走査して2回目の融解ピーク値の測定を行うと、144℃に吸熱ピークが認められ、その熱量は40J/gであった。一方、エチレンビスステアリルアミド(上記原料を用いた場合の、高級脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの生成物であって多塩基酸を含まない生成物に相当)をサンプルとして同様に示差走査熱量計にて測定を行うと、145℃に吸熱ピークが認められ、その熱量は125J/gであった。吸熱ピークがほぼ一致することから、カルボン酸アミド系ワックス(c-1)の144℃の吸熱ピークはエチレンビスステアリルアミドに相当すると考えられ、熱量比から、カルボン酸アミド系ワックス(c-1)中のエチレンビスステアリルアミドは約32重量%であることが導出された。
【0125】
[参考例2 カルボン酸アミド系ワックス(c-2)]
反応器にステアリン酸1.97モルとセバシン酸0.32モルを仕込み、加熱溶解後、エチレンジアミン1.37モルを徐々に加え、窒素気流中160℃より脱水反応を開始し、250℃にてアミン価が5以下になるまで反応後、カルボン酸アミド系ワックス(c-2)を得た。上記と同様にして示差走査熱量計にて測定を行うと、145℃に吸熱ピークが認められ、その熱量は75J/gであった。熱量比から、カルボン酸アミド系ワックス(c-2)中のエチレンビスステアリルアミドは約60重量%であることが導出された。
【0126】
[(d)熱可塑性エラストマー(d-1)]
d-1:エチレン-グリシジルメタアクリレート共重合体(住友化学社製オレフィン樹脂、ボンドファーストBF-E、融点105℃、MFR:3g/10分(190℃、21.2N荷重)、反応性官能基量:12重量%
【0127】
[(e)その他の添加剤(e-1)]
e-1:ガラス繊維(日本電気硝子社製、T760H)
以下の実施例において、材料特性については次の方法により評価した。
【0128】
[引張試験]
実施例および比較例で得られたPPS樹脂組成物ペレットを、熱風乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度:310℃、金型温度:145℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75DUZ)に供給し、ISO 20753(2008)に規定されるタイプA1試験片形状の金型を用いて、中央平行部の断面積を通過する溶融樹脂の平均速度が400±50mm/sとなる条件で射出成形を行い、試験片を得た。この試験片を23℃、相対湿度50%の条件で16時間状態調節を行った後、ISO 527-1,2(2012)法に準拠し、チャック間114mm、試験速度:50mm/minの条件で引張破断伸度(よびひずみ)測定を行った。
【0129】
[DTUL]
引張試験に使用する試験片と同様の条件で成形したタイプA1試験片の中央平行部を切り出し、タイプB2試験片を得た。この試験片を用い、ISO75-1,2(2013)に準拠して、0.45MPaの負荷条件でDTULを測定した。
【0130】
[反り量とその標準偏差]
実施例および比較例で得られたPPS樹脂組成物を、熱風乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度320℃、金型温度150℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75DUZ)に供給し、角板金型を用いて成形品を得た(W:80mm×D:80mm×H:1mm)。この角板を室温で24時間以上静置した。基準台に載せた角板の中央に20gの分銅を置き、基準台の高さを0mmとし、最も高く反り上がった角の高さを反り量として、ハイトゲージで測定した。5枚の角板を用いて同様の測定を行い、その平均値と標準偏差をそれぞれ採用した。
【0131】
[成形収縮比]
反り量測定に使用する試験片と同様の条件で成形した角板(W:80mm×D:80mm×H:1mm)を室温で24時間以上静置した。その後、ノギスを用いてMD方向の角板寸法を測定した。角板の中央と、両端からそれぞれ10mmの位置との3箇所で測定を行い、各箇所の当該位置におけるMD方向の金型寸法と角板寸法の差を求め、その差を金型寸法で除した値の平均値をMD方向の成形収縮率として求めた。TD方向についても同様に成形収縮率を求め、MD方向の成形収縮率をTD方向の成形収縮率で除して成形収縮比を算出した。
【0132】
[流動性]
キャピログラフを用いて、320℃、オリフィス長さL(mm)/オリフィス直径D(mm)=10の条件下で測定した際の、剪断速度1216s-1におけるPPS樹脂組成物の溶融粘度を測定し、これを流動性の指標とした。
【0133】
[実施例1~6、比較例1~6]
PPS樹脂、シランカップリング剤、カルボン酸アミド系ワックス、熱可塑性エラストマー、その他の添加剤を表1に示す配合組成にてドライブレンドした後、(株)日本製鋼所社製TEX30α型二軸押出機(L/D=30、ニーディング部2箇所)に投入し、溶融混練した。混練条件は温度300℃、回転数300回転/分の条件で実施した。ストランドカッターによりペレット化した後、120℃にて3時間乾燥したペレットを射出成形に供した。評価結果は表1に示す通りであった。
【0134】
【表1】
【0135】
上記実施例と比較例の結果を比較して説明する。
【0136】
実施例1~6では、(a)PPS樹脂、(b)シランカップリング剤、(c)カルボン酸アミド系ワックスを特定の組成で配合し、(d)熱可塑性エラストマーを配合しないPPS樹脂組成物とすることで、引張破断伸度に代表される優れた靭性と流動性を有しつつ、成形収縮比が大きいこと、すなわち異方性が小さいことによって反り量が小さく、またそのバラツキも抑制できている。またDTULの低下も抑制できている。これら特性により、薄肉成形品に好適であることがわかる。
【0137】
一方で比較例1について、(c)カルボン酸アミド系ワックスを含まず、(a)PPS樹脂と(b)シランカップリング剤のみからなる組成物では、成形収縮比が小さく、すなわち異方性が大きいために反り量とそのバラつきが大きい。(c)カルボン酸アミド系ワックスの配合量が少ない比較例2でも同様の結果である。(c)カルボン酸アミド系ワックスの配合量が過剰である比較例4では、(c)カルボン酸アミド系ワックスに由来するガス発生や、過度な流動性の増加により、射出成形時に鼻タレが生じて特性評価ができない。
【0138】
比較例3は、(b)シランカップリング剤の配合量が多いために成形収縮比が小さく、すなわち異方性が大きいために反り量とそのバラつきが大きい。実施例1との比較から、成形収縮比の異方性はシランカップリング剤の反応により生じるものと推定する。
【0139】
比較例5は、(d)熱可塑性エラストマーの配合量が多く、DTULと流動性が低下する。
【0140】
比較例6は、繊維状充填材であるガラス繊維を含むため靭性が低い。またガラス繊維の配向により成形収縮比が著しく小さいため、反り量も大きい結果である。