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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108200
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/142 20140101AFI20240805BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240805BHJP
   H02K 15/04 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
B23K26/142
B23K26/21 N
H02K15/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012430
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】NITTOKU株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 利明
(72)【発明者】
【氏名】門脇 洸人
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 脩真
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 昌栄
(72)【発明者】
【氏名】村山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】繁松 孝
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
【テーマコード(参考)】
4E168
5H615
【Fターム(参考)】
4E168BA21
4E168EA17
4E168FB03
4E168FC01
4E168FC04
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP14
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS16
(57)【要約】
【課題】溶接時に生じる溶接箇所の酸化を防止し、発生する金属蒸気にレーザ光が照射されるようなことを回避する。
【解決手段】レーザ溶接装置は、被溶接物11を固定する固定手段22と、レーザヘッド31から照射されるレーザ光により被溶接物11の溶接必要箇所12aを溶融させるレーザ照射機30を備える。固定手段は、複数の溶接必要箇所が所定の間隔を開けて直線的に連続するように被溶接物を固定可能に構成され、レーザ照射機はレーザヘッド31から照射されるレーザ光の照射角度を変化させて直線的に連続する複数の溶接必要箇所を順次溶融させるように構成され、溶接必要箇所に不活性ガスを同時に吹き付ける不活性ガスノズル41が溶接必要箇所の両側にそれぞれ設けられ、その間に直線的に連続する複数の溶接必要箇所に沿って搬送ガスを吹き出す搬送ガスノズル43と、そこを通過した搬送ガスを吸引可能なガス吸引ダクト44とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物(11)を固定する固定手段(22)と、前記被溶接物(11)の上方にレーザヘッド(31)が取付けられ前記レーザヘッド(31)から照射されるレーザ光により前記被溶接物(11)の溶接必要箇所(12a)を溶融させるレーザ照射機(30)と、を備えたレーザ溶接装置において、
前記固定手段(22)は、複数の溶接必要箇所(12a)が所定の間隔を開けて直線的に連続するように前記被溶接物(11)を固定可能に構成され、
前記レーザ照射機(30)は前記レーザヘッド(31)から照射されるレーザ光の照射角度を変化させて直線的に連続する前記複数の溶接必要箇所(12a)を順次溶融させるように構成され、
直線的に連続する前記複数の溶接必要箇所(12a)の全てに不活性ガスを同時に吹き付ける不活性ガスノズル(41)が設けられた
ことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
直線的に連続する複数の溶接必要箇所(12a)の両側に不活性ガスノズル(41)がそれぞれ設けられた請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
直線的に連続する複数の溶接必要箇所(12a)の両側にそれぞれ設けられた不活性ガスノズル(41)の間に直線的に連続する前記複数の溶接必要箇所(12a)に沿って搬送ガスを吹き出す搬送ガスノズル(43)と、
前記搬送ガスノズル(43)から吹き出されて前記複数の溶接必要箇所(12a)を通過した搬送ガスを吸引可能なガス吸引ダクト(44)と
を更に備えた請求項2記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
搬送ガスノズル(43)から吹き出された搬送ガスを直線的に連続する複数の溶接必要箇所(12a)に沿うように案内する整流板(43a)が前記搬送ガスノズル(43)に設けられた請求項3記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
レーザヘッド(31)のレーザ光発射窓(31a)の近傍において、搬送ガスノズル(43)の吹き出す搬送ガスと平行にエアを吹き出すエアノズル(46)が更に設けられた請求項3記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
固定手段(22)が固定する被溶接物が、ステータコア(13)と、前記ステータコア(13)のスロットに装着されたコイルセグメント(12)を有するステータ(11)であって、溶接必要箇所が前記コイルセグメントの端部(12a)である請求項1ないし5いずれか1項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項7】
直線的に連続する複数の溶接必要箇所(12a)にレーザ光を順次照射して溶接するレーザ溶接方法において、
直線的に連続する前記複数の溶接必要箇所(12a)に沿ってガス流を生じさせ、
前記ガス流の下流側から上流側に向かって直線的に連続する前記複数の溶接必要箇所(12a)にレーザ光を順次照射する
ことを特徴とするレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を照射して溶接するレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被溶接物における溶接必要箇所を溶接する手段として、レーザ光を照射して溶接するレーザ溶接装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このレーザ溶接装置では、レーザヘッドにおけるレーザ射出口を外筒で覆い、その中に窒素ガスを供給して、その射出口の周囲から窒素ガスを溶接箇所に吹き付け、レーザが照射されて溶融した金属が空気と接触する事がないようにてその溶接部の酸化を防止すると共に、溶接時に生じる金属蒸気がレーザヘッドと溶接箇所の間に進入しないようにするとしている。
【0003】
また、このようなレーザ光を照射して溶接する溶接装置により溶接が成される被溶接物として、電気自動車等に用いるモータ、ジェネレータ、モータジェネレータ等の回転電機が知られている(例えば、特許文献2参照)。この回転電機のステータは、ステータコアにコイルを配置して製造されており、比較的大きなトルクを得る為に、略四角断面形状を有する角線を用いてコイルが形成されている。
【0004】
この回転電気の製造過程においてコイルの製造に溶接装置が用いられ、角線を予めステータコアに配置可能に波巻形状に形成し、その波形形状を成す複数のコイルセグメントをステータコアに予め配置し、そのステータコアに配置された状態で複数のコイルセグメントの端部を接続して電気的に導通させることにより単一のコイルとするとしており、そのコイルセグメントの端部の接続をレーザ光を用いた溶接により行うとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-171690号公報
【特許文献2】特開2022-36296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のレーザ溶接装置において、レーザ射出口を外筒で覆うようなことはいわゆるレーザヘッドが溶接しようとする溶接箇所に移動してレーザ光を照射するいわゆるXYレーザである場合に有効である。けれども、レーザヘッドを移動させずにレーザヘッドから照射されるレーザ光の照射角度を変化させる、いわゆるガルバノレーザであると、レーザ照射範囲が広いことから、そのレーザ光の照射範囲の全てを覆うような外筒を設けることは困難となり、そのレーザ光の周囲からシールドガスを吹き出させるようなことは困難となる不具合があった。
【0007】
特に、被溶接物が電気自動車等に用いる回転電機であるような場合には、比較的多くのコイルセグメントをステータコアに装着した状態で、そのコアの直径方向に連続するコイルセグメントの端部を順次溶接するため、迅速な溶接を繰り返す必要から、レーザ光の照射角度を変化させて溶接する、いわゆるガルバノレーザを用いる必要がある。
【0008】
このため、このガルバノレーザであっても、溶接時に生じる溶接箇所の酸化を防止するとともに、その溶接時に生じる金属蒸気がレーザヘッドと溶接箇所の間に進入しないようにする技術の開発が急がれていた。
【0009】
本発明の目的は、このような問題点に着目してなされたもので、溶接時に生じる溶接箇所の酸化を効果的に防止するとともに、溶接箇所から発生する金属蒸気にレーザ光が照射されるようなことを回避し得るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、被溶接物を固定する固定手段と、被溶接物の上方にレーザヘッドが取付けられそのレーザヘッドから照射されるレーザ光により被溶接物の溶接必要箇所を溶融させるレーザ照射機と、を備えたレーザ溶接装置の改良である。
【0011】
その特徴ある構成は、固定手段は、複数の溶接必要箇所が所定の間隔を開けて直線的に連続するように被溶接物を固定可能に構成され、レーザ照射機はレーザヘッドから照射されるレーザ光の照射角度を変化させて直線的に連続する複数の溶接必要箇所を順次溶融させるように構成され、直線的に連続する複数の溶接必要箇所の全てに不活性ガスを同時に吹き付ける不活性ガスノズルが設けられたところにある。
【0012】
この場合、直線的に連続する複数の溶接必要箇所の両側に不活性ガスノズルをそれぞれ設けることが好ましく、直線的に連続する複数の溶接必要箇所の両側にそれぞれ設けられた不活性ガスノズルの間に直線的に連続する複数の溶接必要箇所に沿って搬送ガスを吹き出す搬送ガスノズルと、搬送ガスノズルから吹き出されて複数の溶接必要箇所を通過した搬送ガスを吸引可能なガス吸引ダクトとを更に備えることもできる。
【0013】
そして、搬送ガスノズルから吹き出された搬送ガスを直線的に連続する複数の溶接必要箇所に沿うように案内する整流板を搬送ガスノズルに設け、レーザヘッドのレーザ光発射窓の近傍において、搬送ガスノズルの吹き出す搬送ガスと平行にエアを吹き出すエアノズルを更に設けることも好ましい。
【0014】
また、固定手段が固定する被溶接物が、ステータコアと、そのステータコアのスロットに装着されたコイルセグメントを有するステータであると、溶接必要箇所はコイルセグメントの端部であることが好ましい。
【0015】
一方、別の本発明は、直線的に連続する複数の溶接必要箇所にレーザ光を順次照射して溶接するレーザ溶接方法の改良である。
【0016】
その特徴ある点は、直線的に連続する複数の溶接必要箇所に沿ってガス流を生じさせ、そのガス流の下流側から上流側に向かって直線的に連続する複数の溶接必要箇所にレーザ光を順次照射するところにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明のレーザ溶接装置では、直線的に連続する複数の溶接必要箇所の溶接に際して、不活性ガスノズルから不活性ガスを溶接必要箇所の全てに吹き付けることにより、レーザ光が照射されて溶融する溶接必要箇所が酸素に触れて酸化する様な事態を回避することができる。
【0018】
特に、直線的に連続する複数の溶接必要箇所の両側に不活性ガスノズルをそれぞれ設ければ、溶接必要箇所の両側から不活性ガスを吹き付けることにより、不活性ガスが吹き付けられないような部位の発生を回避して、レーザ光が照射されて溶融する溶接必要箇所の周囲を確実に不活性ガスで覆い、その酸化を確実に防止することが可能となる。
【0019】
また、溶接時には、溶接必要箇所から金属蒸気が生じるけれども、搬送ガスノズルにより、直線的に連続する複数の溶接必要箇所に沿ってガス流を生じさせれば、その溶接時に溶接必要箇所から生じる金属蒸気を速やかに排除して、レーザヘッドと溶接必要箇所の間に金属蒸気が進入する様なことを防止して、レーザ光を減衰させるようなことを防止することができる。
【0020】
そして、レーザヘッドのレーザ光が発射される発射窓の近傍において、エアノズルによりエア流を生じさせることにより、搬送ガス流を金属蒸気が通過したとしても、その金属蒸気が発射窓の近傍にまで達する様なことは防止される。
【0021】
このため、溶接の高速化が可能となり、被溶接物がステータコアのスロットにコイルセグメントが装着されたステータであると、溶接必要箇所は比較的多くのコイルセグメントの端部となるけれども、その比較的多くのコイルセグメントの端部の溶接をも速やかに行うことが可能となり、回転電気のステータにおける製造時間を著しく短縮させることが可能となる。
【0022】
更に、本発明のレーザ溶接方法では、複数の溶接必要箇所にレーザ光を順次照射して溶接する場合、直線的に連続する複数の溶接必要箇所に沿ってガス流を生じさせ、そのガス流の下流側から上流側に向かって直線的に連続する複数の溶接必要箇所にレーザ光を順次照射するので、その溶接時に溶接必要箇所から生じる金属蒸気がレーザヘッドと溶接必要箇所の間に進入して、レーザ光を減衰させるようなことを防止することができるので、溶接の信頼性は向上し、その溶接速度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明実施形態のレーザ溶接装置を示す図8のA-A線断面図である。
図2図1のB-B線断面図である。
図3図1のE-E線断面図である。
図4図8のC-C線断面図である。
図5】その溶接必要箇所の並びを示す図9のD-D線断面図である。
図6】その被溶接物であるステータが支持された支持具を示す正面図である。
図7】その被溶接物であるステータの斜視図である。
図8】そのレーザ溶接装置の正面図である。
図9】そのレーザ溶接装置の側面図である。
図10】連続する複数の溶接必要箇所の下流側にある溶接必要箇所にレーザ光を照射して溶接する状態を示す図1に対応する図である。
図11】その下流側のものの次にある溶接必要箇所にレーザ光を照射して溶接する状態を示す図10に対応する図である。
図12】その次にある溶接必要箇所にレーザ光を照射して溶接する状態を示す図11に対応する図である。
図13】最も上流側にある溶接必要箇所にレーザ光を照射して溶接する状態を示す図12に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図8及び図9に、本発明におけるレーザ溶接装置20を示す。このレーザ溶接装置20は、被溶接物11をハウジング21の内部において固定する固定手段となる固定具22を備える。この実施の形態における被溶接物は、電気自動車等に用いられる回転電機のステータ11である場合を示し、図7に、この実施の形態における被溶接物であるインナーロータ型のステータ11を示す。
【0026】
即ち、このステータ11は、複数のコイルセグメント12がステータコア13に配置されたものであって、この複数のコイルセグメント12は、略四角断面形状を有する角線をそのスロットに挿通可能に波型にそれぞれ形成される。そして、これら複数のコイルセグメント12は、端部12aが上方に来るように、ステータコア13の内周に軸方向に延びて形成されたスロット(図示せず)に挿通されて配置される。
【0027】
このように、複数のコイルセグメント12と、この複数のコイルセグメント12が装着されたステータコア13からなるステータ11を支持する固定具22を図6に示す。この固定具22は、そのステータ11を中心軸を鉛直にして支持する様に構成されたものであって、本発明の固定手段を構成するものである。
【0028】
具体的に、この実施の形態における固定具22は、台板22aと、その台板22aに短支柱22bを介して設けられてその上面にステータコア13の端面が載置されてそのステータコア13を下方から支持するコア支持板22cと、そのコア支持板22cに中支柱22dを介して設けられてコア支持板22cと共にステータコア13の周囲を挟むコア押さえ板22eと、そのコア押さえ板22eに上支柱22fを介して設けられた把持板23とを備える。
【0029】
そして、コア支持板22cに搭載されてコア押さえ板22eにステータコア13の周囲を挟むと、ステータコア13に配置されたコイルセグメント12の端部12aはステータコア13の上面から上方に突出し、把持板23はそのコイルセグメント12の端部12aの位置を決めて溶接し得るように、ステータコア13の上方から突出した複数のコイルセグメント12の溶接する端部12aを把持して固定する様に構成される。
【0030】
ここで、図7に示す様に、被溶接物であるステータ11において、コイルセグメント12は、ステータコア13に周方向に複数配置されるとともに径方向にも複数重なり合った状態で収容されるので、その溶接すべき端部12aは、図5に示す様に、径方向に複数連続するとともに、そのように径方向に複数連続するものが、周方向にも連続して形成されるものとし、把持板23はその溶接すべき端部12aの全てを固定するように構成される。
【0031】
具体的に、この把持板23は、重ね合わされた2枚の板23a,23bを備え(図6)、図5に示す様に、円周方向に向く台形状の孔23c,23dであって、溶接必要箇所となるコイルセグメント12の端部12aを重ねた状態で挿通させる孔23c,23dが双方にそれぞれ形成される。
【0032】
この台形状の孔23c,23dは上把持板23aと下把持板23bの双方に周方向に向いて互いに逆方向に向いて形成され、上把持板23aと下把持板23bを互いに逆方向に回転させることにより、その双方の孔23c,23dを貫通したコイルセグメント12の端部12aを密着させるように構成される(図2及び図3)。そして、2枚の板23a,23bからなる把持板23は、コイルセグメント12の端部12aを密着させた状態で、コア押さえ板22eに上支柱22fを介して取付けられる(図6)。
【0033】
図8及び図9に戻って、ハウジング21には、この固定具22が取付けられる回転台24が設けられる。ハウジング21は、取付脚26aが下部に取付けられて周囲が周壁26bにより包囲された下部本体26と、この下部本体26の上部に設けられた溶接領域部27と、この溶接領域部27の上部に更に設けられて操作パネル28aやディスプレイ28b等が前面に設けられた上部本体部28とを備える(図8)。
【0034】
図9に示す様に、溶接領域部27にはその背面に背面板27bが設けられる。この背面板27bは、下部本体26の上部の背面に立設され、下部本体26の上部の前面の両側には支柱27aが立設される。この支柱27aには、透光性のある樹脂製扉27cが蝶番27dを介して取付けられ、その扉27cは支柱27aの間を開閉可能に構成される。そして、図4に示す様に、背面板27bの側面と支柱27aは透光性の側壁27eにより閉止され、内部を視認可能に構成される。
【0035】
図9に示す様に、この回転台24は鉛直軸24aの上端に水平に取付けられ、この鉛直軸24aが下部本体26の内部において鉛直に枢支される。回転台24は下部本体26と溶接領域部27の境に位置するように設けられ、その回転台24の上面は固定具22の台板22aを載置する様な平面に形成され、その位置決めの為のピン24bが上方に向かって設けられる。
【0036】
そして、図6に示す様に、固定具22における台板22aには、そのピン24bが挿通するピン孔22gが形成される。そして、台板22aのピン孔22gにピン24bを挿通させることにより、固定具22を回転台24の正規の位置に設置可能に構成される。
【0037】
図9に戻って、この実施の形態におけるレーザ溶接装置20は、このような固定具22と共に被溶接物11を回転させる移動手段29を備える。この移動手段は、下部本体26に回転台24に隣接して設けられたモータ29であって、このモータ29の回転軸29aと回転台24が上端に設けられた鉛直軸24aにはそれぞれスプロケット24c,29bが設けられて、これらのスプロケット24c,29bがチェーン29cにより連結されるものを示す。
【0038】
そして、モータ29が駆動してその回転軸29aを回転させると、その回転はチェーン29cを介して回転台24に伝達され、その回転台24に載置された固定具22を被溶接物であるステータ11と共にそれらを回転移動させるように構成される。
【0039】
ここで、回転台24に固定具22は同軸に設置され、これをモータ29により回転させることにより、固定具22の上面において円周方向に連続する被溶接物、この実施の形態では、コイルセグメント12の溶接すべき端部12aが円周方向に移動する様に構成される。
【0040】
また、このレーザ溶接装置20は、固定具22の上方にレーザヘッド31が取付けられて、そのレーザヘッド31から照射されるレーザ光により被溶接物の溶接必要箇所を溶融させるレーザ照射機30を備える。レーザ照射機30は図示しないレーザ発振器と、発生したレーザを伝送する光路となるファイバーと、そのファイバーを介して伝送されたレーザを集光して照射する集光系が内蔵されたレーザヘッド31とを備え、そのレーザヘッド31が固定具22の上方に取付けられる。
【0041】
図では、昇降手段32を介してレーザヘッド31が取付けられる場合を示し、図における昇降手段32を説明すると、ハウジング21における溶接領域部27の背面板27bには幅方向に所定の間隔を開けて一対の直線運動ガイドレール33が鉛直方向に伸びて取付けられ、このガイドレール33に昇降部材34が上下動可能に取付けられる。
【0042】
一対の直線運動ガイドレール33の間には、一対の直線運動ガイドレール33に平行に上下方向回転軸35が回転可能に設けられ、その回転軸35の表面に雄ねじが配されて、その上下方向回転軸35にボールねじにより螺合された上下方向移動部36が昇降部材34に取付けられる(図4)。
【0043】
そして、背面板27bには、上下方向回転軸35を回転駆動する上下方向駆動源37が配される。この駆動源37としては、例えば、高精度制御可能なサーボモータが用いられ、上下方向回転軸35を回転させることにより、それに螺合する上下方向移動部36を、それが取付けられた昇降部材34とともに昇降させるように構成される。
【0044】
レーザヘッド31は箱体を成していて昇降部材34に取付けられ、このレーザヘッド31は、その下面にレーザ光を通過させる発射窓31a(図1図3)が設けられた市販のものであって、その内部に集光系と共に反射器具が設けられる。
【0045】
このレーザ照射機30は、レーザヘッド31内部においてレーザ光を反射して照射方向を変更する様に構成されたものであって、このレーザ照射機30は、図1の点線矢印で示す様に、レーザヘッド31から繰り出されるレーザ光を固定具22の直径方向に移動させて、その直径方向に並んだ溶接必要箇所であるコイルセグメント12の端部12aを順次溶接可能に構成される。
【0046】
そして、図1図4に示す様に、このレーザ溶接装置20は、その直線的に連続する溶接必要箇所12aの全てに不活性ガスを同時に吹き付ける不活性ガスノズル41が設けられる。この実施の形態では、直線的に連続する複数の溶接必要箇所12aの両側に不活性ガスノズル41,41が取付部材42を介してそれぞれ設けられる場合を示す。
【0047】
即ち、図4に示す様に、レーザヘッド31下方の昇降部材34には、レーザヘッド31の発射窓31aを包囲するような取付部材42が取付けられる。この取付部材42は、発射窓31aを挟むようにその両側にある側片42a,42bと、それら両側片42a,42bの突出端を連結する連結片42cとを有し、両側片42a,42bの基端が昇降部材34に取付けられる。
【0048】
図2及び図3に示す様に、不活性ガスノズル41は、両側片42a,42bにそれぞれ設けられ、この一対の不活性ガスノズル41は、被溶接物であるステータ11の直径方向に直線的に連続する溶接必要箇所12aの回転方向上流側と下流側の双方から、その複数の溶接必要箇所12aを両側から挟むように設けられて、その溶接必要箇所に12a斜め上方からそれぞれガスを噴射可能に吐出口が斜めに傾斜するように設けられる。
【0049】
この一対の不活性ガスノズル41は、その双方が直線的に連続する溶接必要箇所12aの全てにガスを同時に吹き付ける様に、その吐出口が長孔になるようにそれぞれ形成される(図1)。
【0050】
図1に示す様に、この取付部材42の突出端における連結片42cには、一対の不活性ガスノズル41,41の間において直線的に連続する複数の溶接必要箇所12aに沿って搬送ガスを吹き出す搬送ガスノズル43が設けられる。そして、その搬送ガスノズル43に対向する昇降部材34(図9)には、搬送ガスノズル43から吹き出されて複数の溶接必要箇所12aを通過した搬送ガスを吸引可能なガス吸引ダクト44が設けられる。
【0051】
図3に示す様に、この搬送ガスノズル43は、一対の不活性ガスノズル41,41の間においてその間を塞ぐような搬送ガスを吹き出すべく、その吐出口が横長の長円状を成して形成され、その下面には吹き出されたガスを案内する整流板43aが設けられる。
【0052】
図1に示す整流板43aは、その先端が搬送ガスノズル43の吐出口から突出するように、搬送ガスノズル43の水平な下面に平行に取付けられる板材であって、搬送ガスノズル43の吐出口から突出した先端は上側に向かって傾斜するように折り曲げられたものを示す。ここで、図における整流板43aの折り曲げられた先端の水平面に対する傾斜角度αは、20度から60度の間の任意の角度とされるものを示す。
【0053】
そして、この整流板43aは、搬送ガスノズル43から吹き出された搬送ガスが下方に向かうのを禁止して、直線的に連続する複数の溶接必要箇所12aに沿うように案内し、搬送ガスノズル43から吹き出されたガスが乱れることなく水平方向に真っ直ぐ流れて、ガス吸引ダクト44に直ちに吸引されるようにその流れを調節可能に構成される。
【0054】
また、この取付部材42の突出端における連結片42cには、レーザヘッド31のレーザ光を発射する発射窓31aの近傍において、搬送ガスノズル43の吹き出す搬送ガスと平行にエアを吹き出すエアノズル46が更に設けられる。このエアノズル46は搬送ガスノズル43と同一構造であるので繰り返しての説明を省略する。
【0055】
次に、このように構成されたレーザ溶接装置を用いた溶接方法を説明する。
【0056】
この実施の形態では、被溶接物が図7に示す様な回転電気のステータ11であるので、波形形状を成す複数のコイルセグメント12をステータコア13に予め配置し、そのステータコア13に配置された状態で複数のコイルセグメント12の端部12aを上記レーザ溶接装置20により溶接して電気的に導通させることになる。
【0057】
このため、先ず、コイルセグメント12が配置された被溶接物であるステータコア13を固定具22に取付ける。この取付けは、図6に示す様に、そのコア支持板22cにコア13を支持させ、その状態でコア押さえ板22eにてステータコア13の周囲を挟む。そして、ステータコア13の上方から突出した複数のコイルセグメント12の溶接必要箇所となる端部12aを把持板23により把持して固定させる。
【0058】
このように被溶接物である回転電気のステータ11が取付けられた固定具22を回転台24に取付ける。その取付けは、図8及び図9に示す様に、ハウジング21の溶接必要箇所における前扉27cを開いて、固定具22の台板22aを、そのハウジング21内にある回転台24に設置し、そのピン孔22gに回転台24に設けられた位置決めピン24bを挿通させることにより行う(図6)。その後扉27cを閉じて溶接作業を開始させる。その操作は上部本体28における操作パネル28aを操作することにより行うことになる(図8)。
【0059】
ここで、被溶接物が回転電気のステータ11である場合、図5に示す様に、コイルセグメント12の溶接すべき端部12aは、径方向に複数連続するとともに、そのように径方向に複数連続するものが、周方向にも連続して形成されるので、上記レーザ溶接装置20による溶接は、径方向に連続する複数の溶接必要箇所12aを順次溶接した後に、その固定具22をステータ11とともに回転させて、溶接が成された部位に周方向に隣接する次の溶接必要箇所12aをレーザヘッド31の下方にまで移動させて、この隣接して径方向に連続するコイルセグメント12の溶接すべき端部12aを再び溶接することになる。
【0060】
図1に示す様に、径方向に連続する複数の溶接必要箇所12aは、レーザ照射機30によりレーザ光をそれぞれの溶接必要箇所12aに照射することにより行われるけれども、このレーザ照射機30は、図1の点線矢印で示す様に、レーザヘッド31を動かすことなく、そのレーザヘッド31から繰り出されるレーザ光を固定具22の直径方向に移動させて、その直径方向に並んだ溶接必要箇所であるコイルセグメント12の端部12aを順次溶接することになる。
【0061】
そして、この径方向に連続する複数の溶接必要箇所12aの溶接に際して、不活性ガスノズル41からは不活性ガスがステータ11の径方向に連続する溶接必要箇所12aの全てに吹き付けられる。この不活性ガスにより、レーザ光が照射されて溶融するコイルセグメント12の端部12aが酸素に触れて酸化しないようにする。
【0062】
特に、この実施の形態では、図2及び図3に示す様に、直線的に連続する複数の溶接必要箇所12aの両側に不活性ガスノズル41がそれぞれ設けられているので、溶接必要箇所12aの両側から不活性ガスを吹き付けることが可能となり、不活性ガスが吹き付けられないような部位の発生を回避して、レーザ光が照射されて溶融するコイルセグメント12の端部12aの周囲を確実に不活性ガスで覆い、その酸化を確実に防止することが可能となる。
【0063】
また、図1に示す様に、この溶接に際して、搬送ガスノズル43からは搬送ガスが吹き出され、その径方向に連続する溶接必要箇所12aに平行な二点鎖線矢印で示す様なガス流を生じさせる。そして、エアノズル46からは、レーザ光発射窓31aの近傍において、搬送ガスノズル43の吹き出す搬送ガスと平行になるようなエアを吹き出させる。
【0064】
この状態で、このステータ11の径方向に連続する複数の溶接必要箇所12aの溶接は、搬送ガスノズル43により生じるガスの流れの下流側から順次行われる。
【0065】
即ち、図10に示す様に、ガス流の最も下流側にある溶接必要箇所12aにレーザ光を照射して、そこを先ず溶接する。レーザ光が照射されてコイルセグメント12の端部12aが溶融する溶接時には、その溶融する端部から金属蒸気が生じるけれども、その溶接時に生じる金属蒸気は、不活性ガスノズル41から吹き出される不活性ガスとともに、搬送ガスノズル43から吹き出されるガス流により案内されて、速やかにガス吸引ダクト44に吸引されて外部に排出されることになる。
【0066】
このため、この最も下流側にある溶接必要箇所12aの溶接時に生じる金属蒸気がレーザヘッド31と溶接必要箇所12aの間に進入して、レーザ光を減衰させるようなことはない。
【0067】
この最も下流側にある溶接必要箇所12aに溶接が終了した後には、レーザヘッド31から照射されるレーザ光の照射角を変更して、図11に示す様に、その下流側のものの次にある溶接必要箇所12aにレーザ光を照射して、そこを次に溶接する。すると、レーザ光が照射されて溶融する次のコイルセグメント12の端部12aからは金属蒸気が新たに発生し、先に溶接された最も下流側にある溶接必要箇所12aからも冷却が完了していない場合、金属蒸気が発生する。
【0068】
けれども、最も下流側にある溶接必要箇所12aや新たにレーザ光が照射されたその次の溶接必要箇所12aからそれぞれ発生する金属蒸気は、不活性ガスノズル41から吹き出される不活性ガスとともに、搬送ガスノズル43から吹き出されるガス流により案内されて、速やかにガス吸引ダクト44に吸引されて外部に排出されることになる。
【0069】
このため、下流側のものの次にある溶接必要箇所12aの溶接時に生じる金属蒸気にあっても、レーザヘッド31と溶接必要箇所12aの間に進入することはなく、金属蒸気の侵入に起因するレーザ光の減衰は防止されることになる。
【0070】
この下流側から二番目にある溶接必要箇所12aに溶接が終了した後には、レーザヘッド31から照射されるレーザ光の照射角を更に変更して、図12に示す様に、その次にある溶接必要箇所12aにレーザ光を照射して、そこを溶接する。すると、レーザ光が新たに照射される三番目のコイルセグメント12の端部12aからは金属蒸気が新たに発生し、先に溶接された最も下流側にある溶接必要箇所12aやそこから二番目にある溶接必要箇所12aからも冷却が完了していない場合、金属蒸気が発生する。
【0071】
けれども、最も下流側や二番目にある溶接必要箇所12aや新たにレーザ光が照射された三番目の溶接必要箇所12aからそれぞれ発生する金属蒸気は、不活性ガスノズル41から吹き出される不活性ガスとともに、搬送ガスノズル43から吹き出されるガス流により案内されて、速やかにガス吸引ダクト44に吸引されて外部に排出されることになる。
【0072】
このため、三番目にある溶接必要箇所12aの溶接時に生じる金属蒸気にあっても、レーザヘッド31と溶接必要箇所12aの間に進入することはなく、金属蒸気の侵入に起因するレーザ光の減衰は防止されることになる。
【0073】
この下流側から三番目にある溶接必要箇所12aに溶接が終了した後には、レーザヘッド31から照射されるレーザ光の照射角を更に変更して、図13に示す様に、その次にある溶接必要箇所12a、この実施の形態では最も上流側にある溶接必要箇所12aにレーザ光を照射して、そこを溶接する。すると、レーザ光が新たに照射されるコイルセグメント12の端部12aからは金属蒸気が新たに発生し、先に溶接された溶接必要箇所12aからも冷却が完了していない場合、金属蒸気が発生する。
【0074】
けれども、先に溶接された溶接必要箇所12aや新たにレーザ光が照射された溶接必要箇所12aからそれぞれ発生する金属蒸気は、不活性ガスノズル41から吹き出される不活性ガスとともに、搬送ガスノズル43から吹き出されるガス流により案内されて、速やかにガス吸引ダクト44に吸引されて外部に排出されることになる。
【0075】
このため、上流側にある溶接必要箇所12aの溶接時に生じる金属蒸気にあっても、レーザヘッド31と溶接必要箇所12aの間に進入することはなく、金属蒸気の侵入に起因するレーザ光の減衰は防止されることになる。
【0076】
即ち、複数の溶接必要箇所12aにレーザ光を順次照射して溶接する場合、直線的に連続する複数の溶接必要箇所12aに沿ってガス流を生じさせ、そのガス流の下流側から上流側に向かって直線的に連続する複数の溶接必要箇所12aにレーザ光を順次照射することにより、その溶接時に溶接必要箇所12aから生じる金属蒸気がレーザヘッド31と溶接必要箇所12aの間に進入することを防止できるのである。
【0077】
これにより、溶接必要箇所12aから発生する金属蒸気にレーザ光が照射されるようなことは回避され、径方向に連続する複数の溶接必要箇所12a、即ち、コイルセグメント12の端部における溶接の信頼性を高めつつ、その溶接速度を高めることが可能となるのである。
【0078】
ここで、搬送ガスノズル43に整流板43aを設けているので、ガス流の流れる方向の調節が可能となり、その搬送ガスが溶接必要箇所12aに接触させないような乱れのないガス流を生じさせることにより、その搬送ガスノズル43から吹き出される搬送ガスとして、不活性ガスであることは必要とされず、炭酸ガスや、空気のような比較的安価なガスを用いるようなことも可能となる。
【0079】
そして、レーザヘッド31のレーザ光を発射する発射窓31aの近傍において、搬送ガスノズル43の吹き出す搬送ガスと平行にエアを吹き出すエアノズル46を設けているので、溶接時に発射窓31aの近傍においてエア流を生じさせることにより、搬送ガス流を金属蒸気が通過したとしても、その金属蒸気が発射窓31aの近傍にまで達する様なことは防止され、その発射窓31a近傍に金属蒸気が侵入することに起因するレーザ光の減衰を回避することが可能となる。
【0080】
なお、このような径方向に連続する複数の溶接必要箇所12a、即ち、コイルセグメント12の端部12aの溶接が終了した後には、その固定具22をステータ11とともに回転移動させて、溶接が成された部位に周方向に隣接する次の溶接必要箇所12aをレーザヘッド31の下方に位置させて、この隣接して径方向に連続するコイルセグメント12の溶接すべき端部12aを再び溶接することになる。
【0081】
このようなことを繰り返し、径方向及び周方向に連続する全ての溶接必要箇所12aに対して溶接を行うと、図7に示すように、ステータコア13に配置された状態で複数のコイルセグメント12の端部12aが電気的に導通されて単一のコイルとなり、その後には、ステータコア13を固定具22から取り外し、一連の溶接作業を終了させることになる。
【符号の説明】
【0082】
11 ステータ(被溶接物)
12 コイルセグメント
12a コイルセグメントの端部(溶接必要箇所)
13 ステータコア
20 レーザ溶接装置
22 固定具(固定手段)
30 レーザ照射機
31 レーザヘッド
31a 発射窓
41 不活性ガスノズル
43 搬送ガスノズル
43a 整流板
44 ガス吸引ダクト
46 エアノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13