(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108232
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】円筒研削盤のワーク保持センタ
(51)【国際特許分類】
B24B 41/06 20120101AFI20240805BHJP
B23B 23/04 20060101ALI20240805BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B24B41/06 J
B23B23/04
B24B5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012489
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】593127027
【氏名又は名称】株式会社シギヤ精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【弁理士】
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】岡田 修平
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
3C045
【Fターム(参考)】
3C034AA01
3C034BB74
3C034DD20
3C043AA03
3C043CC03
3C043DD01
3C043DD03
3C043DD04
3C043DD06
3C045FE07
3C045FE09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】剛性を適切に調整することが可能なワーク保持センタを提供すること。
【解決手段】円筒研削盤の心押しセンタ16の前方先端のカップ部18は、縁の外周にテーパ面18bが設けられている。カップ部18の内側のコマ20は、カップ部18の内側で回転中心cの線上で進退可能である。カップ部18の周壁には、等角度間隔にすり割りStが施されている。コマ20の位置を調整することで、心押しセンタ16の剛性を変化させることが可能になる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒研削盤のワーク保持センタにおいて、
前記ワーク保持センタの前方先端のカップ部は、後方に向かって回転中心に対して内壁が同心状かつ平行の調整孔が穿孔され、前記カップ部の縁の外周側には、後方に行くほど外径が拡大するテーパ面が設けられており、
前記カップ部の内側に挿入されたコマは、前記カップ部の内径と一致した円柱状であって、その周壁が前記回転中心に対して平行であり、かつ前記コマは、前記調整孔を前記回転中心の線上で進退可能であり、
前記カップ部の周壁には、等角度間隔に当該カップ部の先端から後方に向かって切断するすり割りが施されており、
前記テーパ面は、ワーク側に設けられたテーパ面と当接する角度のテーパになっていることを特徴とする円筒研削盤のワーク保持センタ。
【請求項2】
円筒研削盤のワーク保持センタにおいて、
前記ワーク保持センタの前方先端のカップ部は、後方に向かって回転中心に対して内壁が同心状かつ平行の調整孔が穿孔され、前記カップ部の縁の内周側には、後方に行くほど内径が縮径するテーパ面が設けられており、
前記カップ部の外周に外嵌されているリング状のコマは、前記カップ部の外径と一致した支持面を内周に有し、前記支持面が前記回転中心に対して平行であり、かつ前記コマは、前記カップ部の外側で前記回転中心の線上で進退可能であり、
前記カップ部の周壁には、等角度間隔に当該カップ部の先端から後方に向かって切断するすり割りが施されており、
前記テーパ面は、ワーク側に設けられたテーパ面と当接する角度のテーパになっていることを特徴とする円筒研削盤のワーク保持センタ。
【請求項3】
前記コマは、ネジ送りにより前記回転中心の線上で進退可能であることを特徴とする請求項1若しくは請求項2のいずれかの円筒研削盤のワーク保持センタ。
【請求項4】
前記コマは、アクチュエータにより前記回転中心の線上で進退可能であることを特徴とする請求項1若しくは請求項2のいずれかの円筒研削盤のワーク保持センタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒研削盤において使用されるワーク保持センタに関する。
【背景技術】
【0002】
円筒研削盤では、ワークを研削する場合、主軸側にワークを固定して研削する。長尺のワークを研削するときには、主軸側のチャックだけでは、片持ち梁の状態になるので、ワークの両端に設けられたセンタ穴にワーク保持センタを夫々押し当て、固定することが行われる。主軸側のワーク保持センタが主軸センタであり、心押し軸側のワーク保持センタが心押しセンタである。心押しセンタとしては、ライブセンタとも呼ばれ先端の傘のようなセンタ軸がベアリングによって回転する回転センタや、回転しないデッドセンタが使用されている。特許文献1には、先端のセンタ面にすり割りが形成された心押しセンタが開示されている。このすり割りが形成された心押しセンタは、ワーク側に穿孔されたセンタ穴の真円度が低い場合の加工などに利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の心押しセンタは、ワーク側に穿孔されたセンタ穴に押し当てられて、適度な剛性でワークを支持する。剛性が適正であれば、加工結果としての真円度幾何公差を高めることができる。
【0005】
しかし、ワーク形状や加工条件等により、適正な剛性の条件が変わってしまうことが生じる。剛性が低い状態であると砥石の切り込みによりワークの撓みが生じ、一方、剛性が高い状態であると、ワークが変形された状態で研削され、何れの場合も予定通りの加工結果を得られないことがある。適正な剛性を見極めることは極めて難しく、よって、加工の現場では、予めすり割りの条件を変えた剛性の異なるいくつかのワーク保持センタを製作しておいて、トライアンドエラーにより最適なワーク保持センタを選出して製造ラインに投入することが行われている。
本発明は、剛性を適切に調整することが可能なワーク保持センタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、円筒研削盤のワーク保持センタにおいて、
前記ワーク保持センタの前方先端のカップ部は、後方に向かって回転中心に対して内壁が同心状かつ平行の調整孔が穿孔され、前記カップ部の縁の外周側には、後方に行くほど外径が拡大するテーパ面が設けられており、
前記カップ部の内側に挿入されたコマは、前記カップ部の内径と一致した円柱状であって、その周壁が前記回転中心に対して平行であり、かつ前記コマは、前記カップ部の内側で前記回転中心の線上で進退可能であり、
前記カップ部の周壁には、等角度間隔に当該カップ部の先端から後方に向かって切断するすり割りが施されており、
前記テーパ面は、ワーク側に設けられたテーパ面と当接する角度のテーパになっていることを特徴とする。
また、本発明は、円筒研削盤のワーク保持センタにおいて、
前記ワーク保持センタの前方先端のカップ部は、後方に向かって回転中心に対して内壁が同心状かつ平行の調整孔が穿孔され、前記カップ部の縁の内周側には、後方に行くほど内径が縮径するテーパ面が設けられており、
前記カップ部の外周に外嵌されているリング状のコマは、前記カップ部の外径と一致した支持面を内周に有し、前記支持面が前記回転中心に対して平行であり、かつ前記コマは、前記カップ部の外側で前記回転中心の線上で進退可能であり、
前記カップ部の周壁には、等角度間隔に当該カップ部の先端から後方に向かって切断するすり割りが施されており、
前記テーパ面は、ワーク側に設けられたテーパ面と当接する角度のテーパになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加工の現場では、予めすり割りの条件を変えた剛性の異なるいくつかのワーク保持センタを製作する必要がなく、かつ連続的に剛性の変形量を調整できるため、効率よくワークの加工精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】円筒研削盤を示す図であり、
図1Aはブロック図、
図1Bは主軸センタ、心押しセンタ及びワークの断面図である。
【
図2】心押しセンタの詳細を示す図であり、
図2Aは主軸センタ、ワーク、心押しセンタを分離した状態を示す図であり、
図2B、
図2Cはセンタ軸を取り出した図であり、
図2D、
図2Eはセンタ軸の正面図、側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1Aに本実施例に係る円筒研削盤のブロック図を示す。図面において、ベッド1上の左側には主軸台2が設けられ、ベッド1上の右側には心押し台3が主軸台2に対向して設けられている。主軸台2および心押し台3は夫々スライドテーブル4上に設けられており、両者の相対距離は可変である。ベッド1上の奥側には砥石台13が設けられ、回転砥石10をワークW方向に案内する。
【0010】
主軸台2は、主軸11、サーボモータ12を含んでいる。主軸11には、主軸センタ14が付設され、サーボモータ12により回転駆動される。主軸11はサーボモータ12に連絡されている。
【0011】
心押し台3は、心押し軸15を含んでいる。心押し軸15には、心押しセンタ16が付設されている。心押しセンタ16は、回転センタである。以下の説明においては、心押しセンタ16に対して本実施例を適用して説明するが、主軸センタ14に適用しても良いことは言うまでも無い。主軸センタ14、心押しセンタ16及びワークWの断面を
図1Bに示す。主軸センタ14、心押しセンタ16の回転中心cは、一致している。心押しセンタ16はライブセンタであり、主軸センタ14との間でワークを挟む。図には、ワークWを回転させるケレKを一点鎖線で示している。必要に応じてケレKが取り付けられる。以下、回転中心cの左方向を前方、右方向を後方と呼ぶことにする。
【0012】
図2Aに、主軸センタ14、ワークW、心押しセンタ16を分離した状態を示す。
ワークWは、ケレKにより回転する。ワークWは、円柱状であり、一端(図面右側)には、同心円状のセンタ穴Whが開口しており、センタ穴Whの入口(内周側)の縁には、外側に向かって内径が広がるテーパ面Wtが設けられている。心押しセンタ16は、センタ軸17を筒状部22内に同心状に配置し、回転中心cの周りに回転する。センタ軸17の右側の基体部19は心押し軸15に装着される。
【0013】
図2B、Cはセンタ軸17を取り出した図であり、
図2D、Eはセンタ軸17の正面図、側面図である。センタ軸17の前方先端は、後方に向かって回転中心cとして内壁が同心状かつ平行で深さL1の調整孔18aが穿孔されたカップ部18になっている。カップ部18の外周壁も、回転中心cと同心状かつ同一径である。カップ部18の縁の外周側には、後方(基体部側の方向)に行くほど外径が拡大するテーパ面18bが設けられている。テーパ面18bは、ワークのテーパ面Wtと当接する角度のテーパになっている。そして、カップ部18の内側には、カップ部18の内径と一致した円柱状のコマ20が挿入されている。コマ20の周壁は、回転中心cに対して平行である。コマ20は、カップ部18の調整孔18aを回転中心cの線上で進退可能である(
図2B、C)。具体的には、カップ部18の底面18cからセンタ軸17の肉部に設けられた雌螺子孔17aに、コマ20から続く螺子軸20aが螺合している。コマ20の頭頂面には、操作孔(六角孔)20bが設けられている。操作孔20bに、六角レンチを挿入してネジ送りする事によりコマ20の進退が操作されるようになっている。
【0014】
カップ部18の周壁には、等角度間隔にカップ部18の先端からカップ部18の底面18cに向かって切断する「すり割り(スリット)」Stが長さL2の範囲にだけ施されている。ここで、本実施例において深さL1は、長さL2以上である。カップ部18の周壁は、すり割りStにより、20度間隔で18個の梁部18dに分割されている。コマ20の周壁は、すり割りStが設けられた範囲を回転中心cの線上で進退して、梁部18dを内側からバックアップする。尚、
図2B、Cに示す状態の相違点は、カップ部18とコマ20との相対位置が違うことである。
【0015】
コマ20とカップ部18の内周面との間(すり割りStの開始位置から底面18cまでの間)には、コマ20が不用意に回らないように、回り止め(具体的には、Oリング)21が装着されている。
【0016】
図2Aに戻り、センタ軸17は、カップ部18を筒状部22の前方(図面左側)に突出している。カップ部18とセンタ軸17との間には、軸受23、24がスペーサ25を挟んで嵌め込まれ、ロックナット26をセンタ軸17の後方(図面右側)の雄螺子17bに螺合することにより、軸受23、24を固定している。筒状部22の後方(図面右側)には、蓋部27が固定されており、筒状部22の後方の空間を閉鎖している。蓋部27は基体部19に取り付けられている。筒状部22とセンタ軸17との間に、シール28が取り付けられている。
【0017】
図3は、本実施例の作用を示す図である。18本の梁部18dの中から1つだけ取り出して示してある。各梁部18dで見ると、ワークWの保持については片持ち構造になっている。すなわち、コマ20でバックアップされている位置を片持ち構造の固定位置とし、カップ部18のテーパ面18bがワークWのテーパ面Wt(
図2A)に当接している負荷位置までの距離Lhとすると、コマ20を回転させることにより、距離Lhを調整することができる。この結果、梁部18dの剛性が変化することになり、結果として心押しセンタ16自体の剛性を調整することが可能になる。
【0018】
本実施例によれば、加工の現場では、予めすり割りの条件を変えた剛性の異なるいくつかの心押しセンタを製作する必要がなく、かつ連続的に剛性の変形量を調整できるため、効率よくワークWの加工精度向上を図ることができる。また、従来の心押しセンタの製作にかかる材料低減、加工コスト低減、時間短縮を図ることができるという効果がある。
【0019】
図4は、他の実施例を示す図である。本実施例は、ワークWの外周側を支持する心押しセンタに本発明を適用した実施例である。他の構成は先の実施例と同じであるので、センタ軸37の一部のみを示している。ワークWは、円柱状であり、一端の外周側の縁には、ワークWの端に行くほど回転中心c側に向かって縮径するテーパ面Wtが設けられている。
【0020】
センタ軸37のカップ部38の外周壁は、回転中心cと同心状かつ同一径である。また、向かって回転中心cと同心状かつ同一径の箇所が深さLaの調整孔が穿孔されている。カップ部の縁の内周側には、後方(基体部側の方向)に行くほど外径が縮小するテーパ面が設けられている。ワークのテーパ面と当接する角度のテーパになっている。
【0021】
そして、カップ部38の外周には、カップ部38の外径と一致した支持面30aを内周に有するリング状のコマ30が外嵌されている。支持面30aは、回転中心cに対して平行である。コマ30は、カップ部38を外嵌して回転中心cの線上で進退可能である。具体的には、センタ軸37の外周に設けられた雄螺子37aに、コマ30の内周に設けられた雌螺子30bが螺合するようになっている。コマ30の外周を適当な治具により回転させることで、ネジ送りされてコマ30は回転中心c方向にカップ部38の外側を進退する。
【0022】
カップ部38の周壁には、等角度間隔にセンタ軸37の先端からカップ部38の底面38cに向かって切断する「すり割り(スリット)」が長さLbだけ施されている。ここで、本実施例において(La>Lb)である、カップ部38の周壁は、すり割りStにより、20度間隔で18個の梁部38dに分割されている。コマ30は、すり割りStが設けられた範囲を回転中心cの線上で進退して、コマ30の内周壁が梁部38dに当接して外側からバックアップする。
【0023】
上記した各実施例においては、カップ部18、38の周壁は、すり割りStにより、20度間隔で18個の梁部18d、38dに分割したが、他の等角度により分割してもよい。また、コマ20、30の進退も、雌螺子孔と螺子軸の螺合によるものではなく、例えば油圧、電力等の動力により直進移動するアクチュエータを用いてコマ20、30を移動させても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 ベッド
2 主軸台
3 心押し台
4 スライドテーブル
10 回転砥石
11 主軸
12 サーボモータ
13 砥石台
14 主軸センタ
15 心押し軸
16 心押しセンタ
17 センタ軸
17a 雌螺子孔
17b 雄螺子
18、38 カップ部
18a 調整孔
18b、38a テーパ面
18c 底面
18d、38d 梁部
19 基体部
20、30 コマ
20a 螺子軸
20b 操作孔
21 回り止め
22 筒状部
23、24 軸受
25 スペーサ
26 ロックナット
27 蓋部
28 シール
30a 支持面
30b 雌螺子
37 センタ軸
37a 雄螺子
38c 底面