(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108233
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】温度センサ装置
(51)【国際特許分類】
G01K 7/01 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
G01K7/01 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012491
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 勉
(72)【発明者】
【氏名】黒田 忠克
(72)【発明者】
【氏名】見谷 真
(72)【発明者】
【氏名】平岡 直洋
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056JT01
(57)【要約】
【課題】微小な温度変化の測定が可能でありながらも、高性能なICテスタを必要とせず低コストで製造が可能な温度センサ装置を提供する。
【解決手段】温度センサ装置は、温度センサ回路2と、検査用温度センサ1を備え、前記検査用温度センサ1は、感温素子であるPN接合素子15と、前記PN接合素子15に少なくとも2値の異なる順方向電流を供給する可変電流源と、前記PN接合素子15の順方向電圧と同じ温度特性を有する定電圧を出力する定電圧源16と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサ回路と、検査用温度センサを備え、
前記検査用温度センサは、
感温素子であるPN接合素子と、
前記PN接合素子に少なくとも2値の異なる順方向電流を供給する可変電流源と、
前記PN接合素子の順方向電圧と同じ温度特性を有する定電圧を出力する定電圧源と、
を備えることを特徴とする温度センサ装置。
【請求項2】
前記検査用温度センサは、
前記PN接合素子の少なくとも2値の異なる順方向電圧と、前記定電圧を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記定電圧は、前記PN接合素子の少なくとも2値の異なる順方向電圧と検査装置のアンプの増幅率及び電圧計の能力を考慮して設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の温度センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な用途で用いられる温度センサは、微小な温度変化を測定することが求められる。例えば、温度の検出精度が1℃よりも高いことが要求されることがある。
【0003】
図5は、従来の温度センサを示す回路図である。従来の温度センサは、感温素子であるダイオードに異なる電流値の電流を流した時の順方向電圧の差から温度を求める(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
温度センサが出力する電圧の差分ΔVo(Vo1-Vo2)は、A(kT/q)ln(N)で表される。ここで、Vo1はダイオードに順方向電流I1を流した時の順方向電圧Vf1をアンプで増幅した電圧、Vo2はダイオードに順方向電流I2を流した時の順方向電圧Vf2をアンプで増幅した電圧、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電子電荷、Aはアンプの増幅率、Nは順方向電流の比I1/I2、である。
【0005】
従って、温度TはqΔVo/{kAln(N)}、温度係数dΔVo/dTはdΔVo/dT=A(k/q) ln(N)で表される。
k=1.38×10^-23[J/K]、q=1.60×10^-19[C]であり、N=2とすると温度係数dΔVo/dTはおよそA×60[uV/K]となる。
【0006】
上述のような従来の温度センサは、ダイオードの順方向電圧の差は絶対温度に正比例するため、高精度に温度を測定することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、出荷検査に使用されるICテスタは、一般的に印加温度の分解能が1℃以上である。従って、温度センサは、微小な温度変化を測定する製品とした場合、検査工程において温度を高分解能で印加する高性能なICテスタが必要になるため製造コストが高くなる。
【0009】
また、微小な温度変化、例えば0.1Kの温度変化の測定が必要な場合、温度係数dΔVo/dTはA×6[uV/0.1K]となる。この時、ICテスタ等の一般的な電圧計で測定可能な電圧変化(温度係数600uV/0.1K)とするためには、アンプの増幅率Aは100以上にする必要がある。一方、ダイオードの順方向電圧Vf1及びVf2がある温度で0.6V程度の場合、増幅率A=100以上のアンプの出力電圧は60V以上となる。即ち、このアンプが出力する電圧を測定するためには、高い電圧を高精度に測定する必要がある。
【0010】
従って、従来の温度センサは、検査工程に使用されるICテスタにおいて、高性能な電圧計を必要とするため製造コストが高くなる。
この課題を解決する手段として、従来の温度センサの出力電圧をデジタル処理して出力することが考えられる。
【0011】
しかしながら、従来の温度センサは、2値の順方向電圧から温度を求めて精度を高める方式のため、デジタル化に必要な温度データを格納するレジスタが大きくなり、製品コストが高くなるといった課題が新たに発生する。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、微小な温度変化の測定が可能でありながらも、高性能なICテスタを必要とせず低コストで製造が可能な温度センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の温度センサ装置は、温度センサ回路と、検査用温度センサを備え、検査用温度センサは、感温素子であるPN接合素子と、PN接合素子に少なくとも2値の異なる順方向電流を供給する可変電流源と、PN接合素子の順方向電圧と同じ温度特性を有する定電圧を出力する定電圧源を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微小な温度変化を測定可能でありながらも、高性能なICテスタを必要とせず低コストで製造が可能な温度センサ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の検査用温度センサを備えた温度センサ装置を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態の検査用温度センサの順方向電圧Vf1、Vf2及び定電圧Vbの温度特性を示すグラフである。
【
図3】本実施形態の温度センサ装置の温度センサ回路の一例を示す回路図である。
【
図4】本実施形態の温度センサの一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の検査用温度センサ1を備えた温度センサ装置100について、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る検査用温度センサ1を備えた温度センサ装置100を示すブロック図である。
温度センサ装置100は、検査用温度センサ1と、温度センサ回路2と、出力端子T1~T3を備えている。温度センサ装置100の製品としての温度センサは、温度センサ回路2に含まれている。
【0018】
検査用温度センサ1は、定電流源11、12と、スイッチ13、14と、感温素子であるダイオード15と、定電圧源16とを備えている。定電流源11、12とスイッチ13、14は、可変電流源を構成している。
【0019】
定電流源11は、一端が電源端子に接続され、他端がスイッチ13の一端に接続されている。定電流源12は、一端が電源端子に接続され、他端がスイッチ14の一端に接続されている。ダイオード15は、アノードがスイッチ13の他端、スイッチ14の他端、及び端子T1に接続され、カソードが接地端子に接続されている。定電圧源16は、一端が端子T2に接続され、他端が接地端子に接続されている。
温度センサ回路2は、出力端子が端子T3に接続されている。
【0020】
定電流源11は、定電流I1を出力する。定電流源12は、定電流I1と異なる電流値の定電流I2を出力する。ダイオード15は、定電流I1が供給されたときに順方向電圧Vf1を発生し、定電流I2が供給されたときに順方向電圧Vf2を発生し、端子T1へ出力する。
【0021】
定電圧源16は、ダイオード15の順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する定電圧Vbを端子T2へ出力する。定電圧源16は、例えば、ダイオード15と同種のダイオードに定電流I1、I2よりも少し小さい定電流を流した時に発生する順方向電圧を定電圧Vbとして出力するように構成する。定電圧Vbは、例えば、順方向電圧Vf1、Vf2よりも少しだけ低い値とする。
【0022】
検査装置は、一般的なICテスタであり、制御装置やアンプを備えている。制御装置は、電圧計などの計測器やメモリを備えている。アンプは、例えば、非反転入力端子に端子T1を介してダイオード15のアノードが接続され、反転入力端子に端子T2を介して定電圧源16の出力端子が接続され、出力端子が制御装置に接続されている。
【0023】
ここで、定電圧Vbは、ダイオード15の順方向電圧Vf1及びVf2との差をアンプで増幅したときの電圧が一般的なICテスタの電圧計で測定できる値に設定される。即ち、定電圧Vbは、ダイオード15の順方向電圧Vf1及びVf2とアンプの増幅率と検査装置の電圧計の能力などを考慮して設定される。
【0024】
上述のように構成された温度センサ装置100は、高精度に温度測定が可能な検査用温度センサ1が出力する温度データを元に製品としての温度センサである温度センサ回路2の精度の検査を実施することが出来る。
更に、検査装置のアンプは、検査用温度センサ1が出力する順方向電圧Vf1と定電圧Vbとの差、及び順方向電圧Vf2と定電圧Vbとの差を増幅するため、増幅率が小さくてよい。従って、検査装置の電圧計は、小さい電圧を高精度で測定すれば良く、高性能である必要はない。
【0025】
本実施形態に係る検査用温度センサ1の動作について説明する。
先ず、スイッチ13をオン、スイッチ14をオフして、定電流源11の定電流I1をダイオード15に供給する。ダイオード15に定電流I1が順方向電流として流れた時、ダイオード15に発生する順方向電圧をVf1とする。順方向電圧Vf1は、ダイオード15に定電流I1が流れた時の温度に対応している。
【0026】
次に、スイッチ13をオフ、スイッチ14をオンして、定電流源12の定電流I2をダイオード15に供給する。ダイオード15に定電流I2が順方向電流として流れた時、ダイオード15に発生する順方向電圧をVf2とする。順方向電圧Vf2は、ダイオード15に定電流I2が流れた時の温度に対応している。
【0027】
ダイオード15に発生する順方向電圧Vf1及びVf2は、端子T1に出力され、検査装置のアンプの非反転入力端子に入力される。定電圧源16が出力する電圧Vbは、端子T2に出力され、検査装置のアンプの反転入力端子に入力される。アンプは、順方向電圧Vf1と電圧Vbの差を増幅率Aで増幅し、また順方向電圧Vf2と電圧Vbの差を増幅率Aで増幅して、制御装置に出力する。
【0028】
図2は、本実施形態の検査用温度センサ1の順方向電圧Vf1、Vf2及び定電圧Vbの温度特性を示すグラフである。
本実施形態では、定電流I1と定電流I2の関係がI1>I2、即ち順方向電圧Vf1と順方向電圧Vf2の関係がVf1>Vf2とする。そして、順方向電圧Vf1と順方向電圧Vf2は、共にダイオード15に発生する順方向電圧であるため温度特性は等しい。
定電圧Vbは、後述する定電圧源16の回路で発生する、順方向電圧Vf1及びVf2と温度特性が同じで、少しだけ低い電圧である。
【0029】
以下に、上述のように構成した検査用温度センサ1の出力電圧から温度を求める方法について説明する。
検査用温度センサ1は、ダイオード15に順方向電流I1及びI2を流した時の順方向電圧Vf1及びVf2と定電圧Vbを出力する。検査装置は、これらの出力電圧の差をアンプで増幅した電圧から温度を求める。
【0030】
ダイオードに順方向電流Iを流した時の順方向電圧Vfは次式で表される。
Vf=(kT/q)×ln(I/Is) … (1)
(kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電子電荷、Isは飽和電流)
【0031】
式(1)よりダイオードの順方向電圧Vf1、順方向電圧Vf2は次式で表される。
Vf1=(kT/q)×ln(I1/Is) … (2)
Vf2=(kT/q)×ln(I2/Is) … (3)
【0032】
順方向電圧Vf1と定電圧Vbとの差、及び順方向電圧Vf2と定電圧Vbとの差は、それぞれ増幅率Aのアンプによって増幅される。アンプの出力電圧は、それぞれVo1、Vo2とすると、次式で表される。
Vo1=A{(kT/q)×ln(I1/Is)-Vb} … (4)
Vo2=A{(kT/q)×ln(I2/Is)-Vb} … (5)
【0033】
順方向電流I1及びI2の比をN:1とすると、アンプの出力電圧の差ΔVoは、次式で表される。
ΔVo=Vo1-Vo2=A(kT/q)×ln(N) … (6)
【0034】
式(6)より、アンプの出力電圧の差をとることで、ダイオードの飽和電流Isの項に加え、定電圧Vbの項も消去できることがわかる。
また、絶対温度Tは、次式で表される。
T=q×ΔVo/{A×k×ln(N)} … (7)
【0035】
よって、アンプの出力電圧Vo1及びVo2を電圧計で測定し、式(7)を用いれば温度を求めることができる。
また、式(7)の両辺を微分すると、温度係数dΔVo/dTが求められる。
dΔVo/dT=A×(k/q) ×ln(N) … (8)
【0036】
k=1.38×10^-23[J/K]、q=1.60×10^-19[C]、N=2とすると、式(8)から温度係数dΔVo/dTは次式で表される。
dΔVo/dT≒A×60[uV/K] … (9)
【0037】
今、微小な温度変化、例えば0.1Kの温度変化の測定が必要な場合、温度係数は式(9)からA×6[uV/0.1K]となる。この時、ICテスタ等の一般的な電圧計で測定可能な電圧変化(温度係数600uV/0.1K)とするために、アンプの増幅率Aは100以上に設定する。ここで、ダイオードの順方向電圧Vf1及びVf2がある温度で0.6V程度の場合、定電圧Vbを0.594Vに設定すると、増幅率Aが100のアンプの出力電圧は、順方向電圧Vf1及びVf2と定電圧Vbとの差0.006Vを増幅しているため0.6V程度となる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の検査用温度センサ1は、検査装置のアンプで増幅された電圧が0.6V程度でありながら微小な温度変化(温度係数600uV/0.1K)を精度よく測定することが可能である。
【0039】
従って、検査工程に使用される検査装置は、本実施形態の検査用温度センサ1の出力電圧から求めた温度を基準として、温度センサ回路2の検査をすることが可能となる。即ち、検査装置において温度を高分解能で印加する高性能なICテスタを必要としないため製造コストを低くすることが出来る。
更に、検査装置は、アンプで増幅された電圧が0.6V程度であるため、高性能な電圧計を必要とせず製造コストを低くすることが出来る。
【0040】
図3は、本実施形態の温度センサ装置100の温度センサ回路2の一例を示す回路図である。
温度センサ回路2は、温度センサ21と、ADコンバータ22と、発振回路23と、インターフェイス24と、レジスタ25と、制御回路26を備えている。温度センサ回路2は、デジタル温度センサとすることで、容易に検出精度を高く出来て、出力がデジタル信号のため検査も容易になる。
【0041】
図4は、本実施形態の温度センサ21の一例を示す回路図である。
温度センサ21は、定電流源と感温素子であるダイオードとアンプを備えている。
【0042】
温度センサ21は、温度センサ回路2をデジタル温度センサとするため、デジタル変換部のサイズが大きくなることが無いような回路構成にすることが望ましい。
図4に示した温度センサ21は、検査用温度センサ1のように2値の順方向電圧から温度を求める方式でないため、デジタル変換部のレジスタサイズを小さくすることが可能である。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の温度センサ装置100は、微小な温度変化を測定可能でありながら、製造コストを抑えることが可能である。
【0044】
温度センサ装置100は、高精度の検査用温度センサ1を備えたので、検査装置において温度を高分解能で印加する高性能なICテスタを必要としないため製造コストを低くすることが出来る。
また、検査装置のアンプは、検査用温度センサ1が出力する順方向電圧Vf1と定電圧Vbとの差、及び順方向電圧Vf2と定電圧Vbとの差を増幅するため、増幅率が小さくてよい。従って、検査装置は、高性能な電圧計を必要としないため製造コストを低くすることが出来る。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した実施形態以外にも様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、追加、置き換えまたは変更することができる。
【0046】
例えば、実施形態では感温素子であるダイオードと説明したが、これに限定されるものではなくPN接合素子であればよい。また、ダイオードの順方向電圧Vfを0.6V程度、ダイオードの順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する定電圧Vbを0.594Vとして説明したが、それに限定されるものではない。また、可変電流源がダイオードに供給する2値の異なる電流と説明したが、それに限定されるものではなく、3値以上の異なる電流を用いて温度測定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 検査用温度センサ
2 温度センサ回路
11、12 定電流源
13、14 スイッチ
15 ダイオード
16 定電圧源
21 温度センサ
22 AD変換器
23 発振回路
24 インターフェイス
25 レジスタ
26 制御回路