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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108248
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】吸油シート
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/24 20060101AFI20240805BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240805BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20240805BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20240805BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240805BHJP
   A47L 13/16 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B01J20/24 C
B01J20/28 Z
D21H27/30 B
D21H21/14 Z
B32B29/00
A47L13/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012517
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊弥
【テーマコード(参考)】
3B074
4F100
4G066
4L055
【Fターム(参考)】
3B074AA01
3B074AA04
3B074AB01
3B074AC03
4F100BA02
4F100DG10A
4F100DG10B
4F100EH46A
4F100EH46B
4F100JD14
4F100JD14A
4F100JD14B
4F100JK01
4F100YY00
4G066AC02B
4G066BA03
4G066BA05
4G066BA20
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA05
4G066DA07
4L055AA01
4L055BE08
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA10
4L055GA46
(57)【要約】
【課題】吸油性能があり、水と油の存在下で油を選択的に吸収しつつも、廃棄の際にダイオキシン等の有害ガスを発生せず、環境中に流出した場合の生態系への悪影響が少なく、かつ、適度な柔らかさを有し、隙間や細かな凹凸での使用に適することができるとともに、ちぎれた際の毛羽立ちが少なく、所定の大きさにカットして使用可能な吸油シートを提供する。
【解決手段】少なくとも木材パルプを含み、合成繊維を含まない紙シートを、1枚又は2枚以上積層したものである、吸油シートであって、紙シートの少なくとも一方の面には、塗布された疎水性物質を、吸油シートの坪量が90g/m以上400g/m以下、吸水速度が60秒以上、ギアオイルに対する単位重量当たりの吸油量が2g/g以上であることを特徴とする、吸油シートを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも木材パルプを含み、合成繊維を含まない紙シートを、1枚又は2枚以上積層したものである、吸油シートであって、
前記紙シートの少なくとも一方の面には疎水性物質が塗布され、
吸油シートの坪量が90g/m以上400g/m以下、吸水速度が60秒以上、ギアオイルに対する単位重量当たりの吸油量が2g/g以上であることを特徴とする、吸油シート。
【請求項2】
吸油シートのカンチレバー値が125mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の吸油シート。
【請求項3】
吸油シートのクレム法による吸油量が15.0mm/10分以上であることを特徴とする、請求項1に記載の吸油シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙シートの表面に疎水性物質を塗布した吸油シートに関する。
【背景技術】
【0002】
油漏れ対策等に使用される、主に合成繊維からなるオイル吸収マットが存在する。
【0003】
工場等において機械から漏れ出した漏油や、使用済みの廃油を廃棄する際に零れ出た油は、放置しておくと火災の危険や従業員の健康被害に繋がるため、速やかに採集した後に廃棄する必要がある。
【0004】
そのような油の採集のときに、油を選択的に吸収し、かつ、吸収後に再度漏れ出ることのないようなオイル吸収マットは、素早くかつ確実に油を吸収することができるため、有用である。
【0005】
そのような吸油性能を有する物品の先行技術文献として、例えば、特許文献1には、坪量15g/m以上40g/m以下、密度0.1~0.3g/cmで、MD及びCDの引張強度がW×10/102(N/25mm)以上(W:下記吸油マットの全重量(g))、かつJIS K2219のギヤー油規格ISO VG100に相当し動粘度90mm/s以上110mm/s以下のギヤー油の通油速度が300秒以下の合成繊維不織布からなる外装袋と、吸水性物品の表面材の端材及び/又は廃材であって合成樹脂の不織布を主体とし、該吸水性物品に由来するパルプの混入割合が15質量%以下である吸油材と、を備え、吸油材を解繊せずに外装袋に該吸油材の密度が0.04~0.1g/cmとなるようにそのまま袋詰めしてなる吸油マットが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には真空状態の密封用袋3内に、吸油性不織繊維から成る吸油シート1を複数枚重ねた吸油シート積層体2が、重ねた厚さ方向に圧縮状態の扁平ブロック体2Bとして収納され、真空状態の密封用袋3内に収納された扁平ブロック体2Bの体積をV0とし、大気圧下での吸油シート積層体2の体積をV1とすると、V1×1/10≦V0≦V1×1/4に設定した吸油材収納構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5735766号公報
【特許文献2】特開2022-002970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のように合成樹脂を使用したものでは、吸油性能は高いが、廃棄時の焼却条件によっては、ダイオキシン等の有害ガスが発生する恐れがあり、また、廃棄物が環境中に流出することで生態系に被害を及ぼす可能性が高い。リサイクル木材パルプからなるシートの場合には、水分に対する吸収性が良い反面、水と油が混在する対象に対しては、水分を先に吸収し、シート強度が低下してしまう。
また、合成繊維の他に落綿を使用したオイル吸収マットでは、繊維の脱落が生じやすいためにカットして使用することに難があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、吸油性能があり、水と油の存在下で油を選択的に吸収しつつも、廃棄の際にダイオキシン等の有害ガスを発生せず、環境中に流出した場合の生態系への悪影響が少なく、かつ、適度な柔らかさを有し、隙間や細かな凹凸での使用に適することができるとともに、ちぎれた際の毛羽立ちが少なく、所定の大きさにカットして使用可能な吸油シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は鋭意検討を行い、少なくとも木材パルプを含み、合成繊維を含まない紙シートを、1枚又は2枚以上積層したものである、吸油シートにおいて、紙シートの少なくとも一方の面に、疎水性物質を塗布し、かつ、吸油シートの坪量、吸水速度及びギアオイルに対する単位重量当たりの吸油量をそれぞれ所定の数値範囲内とすることで、吸油性能があり、水と油の存在下で油を選択的に吸収しつつも、廃棄の際にダイオキシン等の有害ガスを発生せず、環境中に流出した場合の生態系への悪影響が少なく、かつ、適度な柔らかさを有し、隙間や細かな凹凸での使用に適することができるとともに、ちぎれた際の毛羽立ちが少なく、所定の大きさにカットして使用可能な吸油シートとすることができ、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明の第1の態様は、少なくとも木材パルプを含み、合成繊維を含まない紙シートを、1枚又は2枚以上積層したものである、吸油シートであって、前記紙シートの少なくとも一方の面には、疎水性物質が塗布され、吸油シートの坪量が90g/m以上400g/m以下、吸水速度が60秒以上、ギアオイルに対する単位重量当たりの吸油量が2g/g以上であることを特徴とする、吸油シートである。
【0012】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の吸油シートであって、吸油シートのカンチレバー値が125mm以下であることを特徴とするものである。
【0013】
(3)本発明の第3の態様は、(1)に記載の吸油シートであって、吸油シートのクレム法による吸油量が15.0mm/10分以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸油性能があり、水と油の存在下で油を選択的に吸収しつつも、廃棄の際にダイオキシン等の有害ガスを発生せず、環境中に流出した場合の生態系への悪影響が少なく、かつ、適度な柔らかさを有し、隙間や細かな凹凸での使用に適することができるとともに、ちぎれた際の毛羽立ちが少なく、所定の大きさにカットして使用可能な吸油シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、各パラメータを測定するための試験は、いずれも温度:23℃、湿度:50%RHの室内で行う。
【0016】
<吸油シート>
本発明の一実施形態に係る吸油シートは、少なくとも木材パルプを含み、合成繊維を含まない紙シートを、1枚又は2枚以上積層したものである。なお、吸油シートは紙シートを2枚以上6枚以下の範囲で積層したものであることが好ましい。
【0017】
木材パルプとしては、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルース及びダグラスファーからなる群から選択された1種類以上の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を含むことが好ましい。
なお、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)以外に、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等、一般的なパルプも含んでいてもよいが、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)及び広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を含むことが好ましい。また、パルプにおけるNBKPとLBKPの含有割合は50:50以上100:0以下が好ましく、70:30以上100:0以下がより好ましく、90:10以上100:0以下が更に好ましく、100:0が最も好ましい。
また、吸油シートは廃棄の際におけるダイオキシン等の有害ガスの発生防止及び生態系保全の観点から合成繊維を含まず、好ましくは、木材パルプを100質量%含み、かつ、合成繊維を含まないものである。
【0018】
さらに、吸油シートにおける紙シートの少なくとも一方の面には、疎水性物質が塗布される。このとき、吸油シートの両面(すなわち、積層される紙シートの各面のうち、外気に触れる2つの面)に疎水性物質が塗布されることが好ましい。
疎水性物質としては、塩化パルミトイルや塩化ステアロイル等の脂肪酸塩等の他に、ロジンエマルジョンやアルキルケテンダイマー等のサイズ効果を有する薬剤を用いてもよいが、中でも塩化パルミトイルが好ましい。なお、塗布量は特に限定されないが、0.1g/m以上2.0g/m以下であることが好ましく、0.2g/m以上1.7g/m以下であることがより好ましく、0.4g/m以上1.5g/m以下であることが更に好ましい。
【0019】
(物性)
本発明の一実施形態に係る吸油シートの坪量は、90g/m以上400g/m以下である。坪量が90g/m未満であると、シートが吸油性能及び油選択的吸収性に劣り、400g/mを超えるとシートが硬くなって、柔らかさに劣る。
なお、吸油シートの坪量は、下限は好ましくは95g/m以上であり、より好ましくは100g/m以上である。また、上限は好ましくは390g/m以下であり、より好ましくは380g/m以下である。坪量はJIS P8124に準拠して測定する。
【0020】
吸油シートの厚さは特に限定されないが、吸油性能及び柔らかさの観点から、下限は好ましくは0.25mm以上であり、より好ましくは0.35mm以上であり、更に好ましくは0.50mm以上である。また、上限は好ましくは2.50mm以下であり、より好ましくは2.40mm以下であり、更に好ましくは2.30mm以下である。厚さはピーコック紙厚計にて、37.85gf/mにて測定する。
また、吸油シートの密度は吸油性能及び油選択的吸収性の観点から、下限は好ましくは0.10g/cm以上であり、より好ましくは0.13g/cm以上であり、更に好ましくは0.15g/cm以上である。また、上限は好ましくは0.35g/cm以下であり、より好ましくは0.30g/cm以下であり、更に好ましくは0.25g/cm以下である。密度は坪量を厚さで除することで算出する。
【0021】
また、吸油シートの吸水速度は60秒以上である。吸水速度が60秒未満であると、シートが油選択的吸収性に劣る。
なお、吸油シートの吸水速度は85秒以上であることが好ましく、100秒以上であることがより好ましい。吸水速度は点滴吸水度とも呼ばれ、吸液性、保液性の指標である。測定方法としては、JIS L1907に規定される滴下法に準拠し、0.1mLの水滴が試験片の表面に達したときから、試験片の鏡面反射が消えるまでの時間(秒)を測定する。
【0022】
さらに、吸油シートのギアオイルに対する単位重量当たりの吸油量は2g/g以上である。吸油量が2g/g未満であると、シートが吸油性能に劣る。
なお、吸油シートの吸油量は2.5g/g以上であることが好ましく、3g/g以上であることがより好ましい。吸油量の測定には工業用ギアオイル(粘度ISO VG 100)を使用し、7.62cm角の試験片に吸収されたギアオイルの重量と吸油シートの坪量から、単位重量当たりの吸油量を算出する。
【0023】
また、吸油性能の他の指標として、吸油シートのクレム法による吸油量が15.0mm/10分以上であることが好ましい。吸油量が15.0mm/10分未満であると、シートが吸油性能に劣る。
なお、クレム法による吸油量は16.0mm/10分以上であることがより好ましく、17.0mm/10分以上であることが更に好ましい。クレム法による吸油量は、JIS P8141の試験法に準拠し、水の代わりに工業用ギアオイル(粘度ISO VG 100)を用いて測定する。
【0024】
そして、吸油シートのカンチレバー値は125mm以下であることが好ましい。カンチレバー値が125mmを超えると、シートが硬くなって、柔らかさに劣る。
なお、カンチレバー値は120mm以下であることがより好ましく、115mm以下であることが更に好ましい。カンチレバー値は、JIS L1096カンチレバー法に準拠して、サンプルの縦及び横の双方を測定し、平均を算出する。
【0025】
<吸油シートの製造方法>
本発明の一実施形態に係る吸油シートの製造方法は、疎水性物質を塗布する以外は、通常のシート・ワイパーの製造方法と同じでかまわない。
そのような製造方法としては、例えば、(1)抄紙工程、(2)積層、(3)疎水性物質の塗布、(4)裁断、といった手順が挙げられるが、その他の手順が追加されてもかまわないし、(3)疎水性物質の塗布を最後に行ってもよい。なお、紙シートが1枚の場合は、(2)積層の工程は省略する。
【0026】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例0027】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
<オイル吸収シートの作製>
表1に示す実施例1~3及び比較例1~4のそれぞれのオイル吸収シートを作製し、上記の各パラメータを測定後、以下の評価を行った。なお、上記の各パラメータは、上述したそれぞれの測定方法に従って測定した。また、疎水性物質は各実施例のいずれにも塩化パルミトイルを用いた。
【0029】
(環境評価)
作製したオイル吸収シートに含まれる合成繊維の割合から、環境への影響を下記の3段階で評価した。具体的には、合成繊維の割合が0質量%以上5質量%未満の場合は「3」、合成繊維の割合が5質量%以上40質量%未満の場合は「2」、合成繊維の割合が40質量%以上100質量%以下の場合は「1」とした。
【0030】
(吸油性能)
作製したオイル吸収シートにおける吸油量から、吸油性能を下記の3段階で評価した。具体的には、吸油量が6g/g以上の場合は「3」、吸油量が3g/g以上6g/g未満の場合は「2」、吸油量が3g/g未満の場合は「1」とした。
【0031】
(油選択的吸収性)
作製したオイル吸収シートにおける吸油量及び吸水速度から、油選択的吸収性を下記の3段階で評価した。具体的には、吸油量が3g/g以上であり、かつ、吸水速度が100秒を超える場合は「3」、吸油量が3g/g以上であり、かつ、吸水速度が60秒以上85秒以下の場合は「2」、吸油量が3g/g以上であり、かつ、吸水速度が60秒未満の場合は「1」とした。
【0032】
(シート柔らかさ)
作製したオイル吸収シートにおけるカンチレバー値から、シート柔らかさを下記の3段階で評価した。具体的には、カンチレバー値が125mm未満の場合は「3」、カンチレバー値が125mm以上150mm未満の場合は「2」、カンチレバー値が150mm以上の場合は「1」とした。
【0033】
(毛羽立ち)
作製したオイル吸収シートを手でちぎったときの断面の毛羽立ちを、下記の3段階で評価した。具体的には、断面からの毛羽立ちが少ないときは「3」、毛羽立ちが多少あるときは「2」、毛羽立ちが多く使用できないときは「1」とした。
【0034】
【表1】
【0035】
以上より、本実施例によれば、吸油性能があり、水と油の存在下で油を選択的に吸収しつつも、廃棄の際にダイオキシン等の有害ガスを発生せず、環境中に流出した場合の生態系への悪影響が少なく、かつ、適度な柔らかさを有し、隙間や細かな凹凸での使用に適することができるとともに、ちぎれた際の毛羽立ちが少なく、所定の大きさにカットして使用可能な吸油シートを提供することができることが確認された。