(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108253
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】適応等化回路、受信機及び適応等化方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/61 20130101AFI20240805BHJP
H04B 3/10 20060101ALI20240805BHJP
H04L 27/01 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H04B10/61
H04B3/10 A
H04L27/01
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012522
(22)【出願日】2023-01-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTイノベーティブデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高椋 智大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光輝
(72)【発明者】
【氏名】仙北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】武井 和人
【テーマコード(参考)】
5K046
5K102
【Fターム(参考)】
5K046AA08
5K046BA06
5K046BB05
5K046EE04
5K046EE47
5K046EF02
5K046EF17
5K102AA01
5K102AD15
5K102AH26
5K102KA02
5K102KA39
5K102MH03
5K102MH20
5K102PH31
5K102RD26
(57)【要約】
【課題】補償性能を改善することができる適応等化回路、受信機及び適応等化方法を得る。
【解決手段】適応等化フィルタ3は、タップ係数の更新によって受信信号の偏波変動による波形歪みを適応的に補償する。第1のタップ係数更新量計算回路4は、受信信号に周期的に挿入され振幅が一定で既知のパイロット信号を用いてタップ係数を更新するための第1の更新量を計算する。第2のタップ係数更新量計算回路5は、受信信号のパイロット信号の間にある情報データを用いてタップ係数を更新するための第2の更新量を計算する。合成回路6は、所定の期間における1つ以上の第1の更新量と1つ以上の第2の更新量とを合成して合成更新量を出力する。タップ係数更新回路7は、合成更新量に基づいて更新タップ係数を計算し、適応等化フィルタ3、第1のタップ係数更新量計算回路4及び第2のタップ係数更新量計算回路5に設定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ係数の更新によって受信信号の偏波変動による波形歪みを適応的に補償する適応等化フィルタと、
前記受信信号に周期的に挿入され振幅が一定で既知のパイロット信号を用いて前記タップ係数を更新するための第1の更新量を計算する第1のタップ係数更新量計算回路と、
前記受信信号の前記パイロット信号の間にある情報データを用いて前記タップ係数を更新するための第2の更新量を計算する第2のタップ係数更新量計算回路と、
所定の期間における1つ以上の前記第1の更新量と1つ以上の前記第2の更新量とを合成して合成更新量を出力する合成回路と、
前記合成更新量に基づいて更新タップ係数を計算し、前記適応等化フィルタ、前記第1のタップ係数更新量計算回路及び前記第2のタップ係数更新量計算回路に設定するタップ係数更新回路とを備えることを特徴とする適応等化回路。
【請求項2】
前記第1のタップ係数更新量計算回路は、第1の係数更新用フィルタと、振幅一定の信号に対する逐次更新アルゴリズムによって前記第1の係数更新用フィルタの出力と所望値の差分が最小になるようなタップ係数更新量を計算する第1の更新量計算回路とを有し、
前記第2のタップ係数更新量計算回路は、第2の係数更新用フィルタと、振幅判定を伴う逐次更新アルゴリズムによって前記第2の係数更新用フィルタの出力と所望値の差分が最小になるようなタップ係数更新量を計算する第2の更新量計算回路とを有することを特徴とする請求項1に係る適応等化回路。
【請求項3】
前記第2の更新量計算回路の逐次更新アルゴリズムのステップサイズは、前記第1の更新量計算回路の逐次更新アルゴリズムのステップサイズに比べて小さいことを特徴とする請求項2に係る適応等化回路。
【請求項4】
前記第1の係数更新用フィルタと前記第2の係数更新用フィルタは共通のフィルタで構成され、
前記パイロット信号が入力された時の前記フィルタの出力は前記第1の更新量計算回路へ供給され、前記情報データが入力された時の前記フィルタの出力は前記第2の更新量計算回路へ供給されることを特徴とする請求項2又は3に係る適応等化回路。
【請求項5】
受信した光信号を前記受信信号に変換する受信光モジュールと、
前記受信信号の波長分散による歪を補償する波長分散補償回路と、
前記波長分散補償回路の出力信号の偏波変動を補償する請求項1から4の何れか1項に記載の適応等化回路とを備えることを特徴とする受信機。
【請求項6】
適応等化フィルタが、タップ係数の更新によって受信信号の偏波変動による波形歪みを適応的に補償する工程と、
第1のタップ係数更新量計算回路が、前記受信信号に周期的に挿入され振幅が一定で既知のパイロット信号を用いて、前記タップ係数を更新するための第1の更新量を計算する工程と、
第2のタップ係数更新量計算回路が、前記受信信号の前記パイロット信号の間にある情報データを用いて、前記タップ係数を更新するための第2の更新量を計算する工程と、
合成回路が、所定の期間における1つ以上の前記第1の更新量と1つ以上の前記第2の更新量とを合成して合成更新量を出力する工程と、
タップ係数更新回路が、前記合成更新量に基づいて更新タップ係数を計算し、前記適応等化フィルタ、前記第1のタップ係数更新量計算回路及び前記第2のタップ係数更新量計算回路に設定する工程とを備えることを特徴とする適応等化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ通信において光伝送路の特性を補償する適応等化回路、受信機及び適応等化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光通信では、受信側において伝送信号の歪をデジタル信号処理により補償することで、数十Gbit/s以上の大容量伝送を実現している。デジタル信号処理では、主に、波長分散補償、周波数制御・位相調整、偏波多重分離及び偏波分散補償等の処理を行っている。
【0003】
偏波多重分離及び偏波分散補償の処理は、主に適応等化器によって行われる。適応等化器をデジタル信号処理によって実現する場合、一般的にデジタルフィルタが使用される。伝送信号の歪が相殺されるように計算されたタップ係数をそのデジタルフィルタに設定することで、伝送信号の歪を補償できる。
【0004】
受信光モジュール内では、送信側で合成されたX偏波信号(以後、X偏波と称する)とY偏波信号(以後、Y偏波と称する)を分離する。分離したX偏波にはY偏波の一部の信号が残り、分離したY偏波にはX偏波の一部の信号が残る。適応等化器のデジタルフィルタによってX偏波のデータとY偏波のデータとの分離をより完全に行う。但し、上述した偏波分散等は、偏波状態の変動に影響される。従って、デジタルフィルタのタップ係数は、偏波状態の変動に応じて逐次更新され、その変動に追従した補償が行われる。
【0005】
これらのデジタルフィルタのタップ係数更新には、一般的に、RLS(Recursive Least-Squares)又はLMS(Least Mean Square)等の逐次更新アルゴリズムが使用される。これは、送信側でトレーニング信号又はパイロット信号等の既知信号を光信号に挿入し、伝送されてきた既知信号とこの既知信号の真値(送信側で挿入した値)との誤差を最小化するようにタップ係数をステップサイズ毎に更新して求めるアルゴリズムである(以降、参照信号比較等化方式と称する)。
【0006】
上述の比較対象とする既知信号としては、フレーム同期用に設定した比較的長いトレーニング信号(TS)パタン(例えば、128、256、512シンボル等が、数万シンボルのデータ毎に挿入)や、位相同期用に設定した比較的短いパイロット信号(PS)(例えば、1~数シンボルが数十シンボル毎に挿入)が使用される。例えば、フレームの先頭を示すTSパタンを検出してこれを利用して初期のタップ係数を求める。それ以降は、そのTSパタンの位置から周期的に挿入されたPSを検出し、これを利用して逐次的なタップ係数を求める。
【0007】
しかし、TSパタンは比較的長いため、検出するための演算量が大きいこと、及びデータ量に対して僅かでも影響を与えるため、省略するか極力短くする方向で新たな通信システムの開発が行われている。
【0008】
このようなシステムに対応するため、逐次更新アルゴリズムとして、既知信号を使わないでタップ係数を求めるブラインド等化方式が適応等化器に使用されている。ブラインド等化方式には、定包絡線基準アルゴリズム(CMA: Constant Modulus Algorithm)や、CMAをQAM(Quadrature Amplitude Modulation)へ使用するために複数振幅のリングへ拡張したRDE(Radius directed equalization)がある(例えば、特許文献1,2参照)。これらでは、デジタルフィルタの出力と本来あるべき値(「あるべき値」は、定包絡線の場合、振幅の所望値として容易に推定できる)との誤差を最小化するようにタップ係数が更新される。タップ係数は、このアルゴリズムに従って制御され収束する。RDEでは、CMAに対して複数振幅の何れかを判定する機能が加えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-119641号公報
【特許文献2】特開2019-121998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、TSパタンを極力短くした送信信号が使用され、RDEモード等のブラインド等化方式で動作する適応等化器が多くなってきている。従来のブラインド等化方式では、QPSK変調方式の場合は、データによらず振幅が一定のため、タップ係数を求める逐次更新アルゴリズムとしてCMAを使用できる。一方、16QAMのようにデータによって複数の振幅が存在する場合、振幅判定を伴うRDEを使用する。しかし、RDE方式は、データの振幅判定を伴うため、ここで判定ミスが起こると適正なタップ係数が求められなくなる。それにより、RDE方式は、CMA方式に比べて、雑音耐力、偏波変動耐力、及びDGD(微分群遅延:Differential Group Delay)負荷に対する耐力等が劣化するという問題があった。DGD負荷とはX偏波信号とY偏波信号の遅延差である。
【0011】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は補償性能を改善することができる適応等化回路、受信機及び適応等化方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係る適応等化回路は、タップ係数の更新によって受信信号の偏波変動による波形歪みを適応的に補償する適応等化フィルタと、前記受信信号に周期的に挿入され振幅が一定で既知のパイロット信号を用いて前記タップ係数を更新するための第1の更新量を計算する第1のタップ係数更新量計算回路と、前記受信信号の前記パイロット信号の間にある情報データを用いて前記タップ係数を更新するための第2の更新量を計算する第2のタップ係数更新量計算回路と、所定の期間における1つ以上の前記第1の更新量と1つ以上の前記第2の更新量とを合成して合成更新量を出力する合成回路と、前記合成更新量に基づいて更新タップ係数を計算し、前記適応等化フィルタ、前記第1のタップ係数更新量計算回路及び前記第2のタップ係数更新量計算回路に設定するタップ係数更新回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示により、補償性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】光通信システムで使用する送信信号のデータフレームを示す図である。
【
図3】実施の形態に係る適応等化回路を示す図である。
【
図5】実施の形態に係る適応等化回路の具体的な構成例を示す図である。
【
図8】係数更新用フィルタの動作イメージを示す図である。
【
図9】合成回路及びタップ係数更新回路の動作を説明するための図である。
【
図10】実施の形態に係る適応等化方法を示すフローチャートである。
【
図11】本実施の形態を16QAM変調方式に適用した例を示す図である。
【
図12】本実施の形態を16QAM変調方式に適用した例を示す図である。
【
図13】本実施の形態を16QAM変調方式に適用した例を示す図である。
【
図14】本実施の形態を16QAM改の変調方式に適用した例を示す図である。
【
図15】本実施の形態を16QAM改の変調方式に適用した例を示す図である。
【
図16】本実施の形態を16QAM改の変調方式に適用した例を示す図である。
【
図17】本実施の形態を8QAM変調方式へ適用した例を示す図である。
【
図18】本実施の形態を8QAM変調方式へ適用した例を示す図である。
【
図19】本実施の形態を8QAM変調方式へ適用した例を示す図である。
【
図20】本実施の形態を8QAM改の変調方式に適用した例を示す図である。
【
図21】本実施の形態を8QAM改の変調方式に適用した例を示す図である。
【
図22】本実施の形態を8QAM改の変調方式に適用した例を示す図である。
【
図23】実施の形態に係る適応等化回路のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、実施の形態に係る受信機を示す図である。受信機100は、受信光モジュール10、A/D変換器20、波長分散補償回路30及び適応等化装置40を備える。適応等化装置40は、適応等化回路1及び復号回路2を有する。
【0016】
図には示していないが、送信機において、送信データはX偏波用送信データとY偏波用送信データに分けられ、それらがそれぞれX偏波光信号とY偏波光信号を変調する。変調されたX偏波光信号とY偏波光信号は合成されて光ファイバ200を介して受信機100に供給される。
【0017】
受信光モジュール10は、受信したX偏波光信号及びY偏波光信号に分離し、電気信号に変換する。A/D変換器20は、受信光モジュール10の出力信号をそれぞれX偏波データ及びY偏波データに変換する。波長分散補償回路30は、X偏波データ及びY偏波データの波長分散による歪を補償する。
【0018】
適応等化回路1は、波長分散補償回路30からのX偏波データ及びY偏波データを更に偏波分離し、それぞれ偏波変動を補償する。偏波分離や偏波分散の状況は、光ファイバ200の偏波変動によって逐次変化するため、偏波変動に追従するように、適応等化回路1内のデジタルフィルタのタップ係数が更新される。
【0019】
復号回路2は、適応等化回路1からのX偏波データ及びY偏波データのそれぞれについてフレーム同期を実施すると共に、X偏波データとY偏波データとを比較して偏波分離状態の適切性、IQ平面における受信位相関係等をチェックする。復号回路2は、誤り訂正処理を行った後、最終的には“0”、“1”のX偏波用復号データとY偏波用復号データを出力する。
【0020】
なお、受信機100の各回路間においてX偏波データ及びY偏波データが並列的に伝送される。ただし、実際には、各データを、IQ平面上の実数成分であるIデータと、虚数成分であるQデータに分けて処理が行われる。即ち、X偏波データは(X_I、X_Q)のセットで処理され、Y偏波データは(Y_I、Y_Q)のセットで処理される。なお、本明細書では、典型的な光通信の例として偏波データとしてX偏波及びY偏波の2つの偏波データの場合について説明するが、本実施の形態は必ずしも2つの偏波の場合に限定されず、X偏波とY偏波のどちらか一方のみの伝送の場合でも適用できる。
【0021】
図2は、光通信システムで使用する送信信号のデータフレームを示す図である。本データフレームは、上述したX偏波用送信データ及びY偏波用送信データのそれぞれにおいて構成される。各データフレームは、同期パタン部とデータ部を含む。本光通信システムでは、同期パタン部は数シンボルから数十シンボル程度で構成される。適応等化回路1の後段にある復号回路2が、この同期パタンを検出し、同期パタンに基づいてデータ部の先頭を示すフレーム信号を生成する。
【0022】
OTN(Optical Transport Network)等の典型的な光通信システム伝送パケットでは、OTU(Optical-channel Transport unit:数万シンボル)フレームに1回又は数回の割合で、既知の数百シンボル(例えば、128シンボル、256シンボル、512シンボル等)のトレーニングシーケンス(TS)パタンが付加されている。このTSパタンは、適応等化回路1の前段の回路で検出され、OTUフレームの同期や適応等化回路1のタップ係数更新に使用される。適応等化回路1のタップ係数更新アルゴリズムは、既知信号との比較によってタップ係数を求めるRLS(Recursive Least-Squares)又はLMS(Least Mean Square)等の参照信号比較等化方式の逐次更新アルゴリズムが用いられる。RLS及びLMSでは、受信した既知信号(TS信号)と既知信号の真値との差分が最小化するようにタップ係数が更新される。
【0023】
一方、本光通信システムでは、上述したTSパタンのような長いパタンは使用されず、数十シンボル程度(例えば16シンボル)の短い同期パタンのみが付加される。同期パタンはタップ係数更新には用いられない。少なくとも受信信号を受信した当初は、TSパタンのような比較できる長い参照信号が無いため、適応等化回路1のタップ係数更新アルゴリズムは、受信信号の振幅とその所望値との誤差を最小化するようにタップ係数を求めるブラインド等化方式が使用される。ブラインド等化方式には、定包絡線基準アルゴリズム(CMA:Constant Modulus Algorithm)や、CMAをQAM(Quadrature Amplitude Modulation)へ使用するために複数振幅のリングへ拡張したRDE(Radius directed equalization)がある。
【0024】
また、データ部では、データとして、X偏波用送信データのフレームにはX偏波用送信データが、Y偏波用送信データのフレームにはY偏波用送信データが、それぞれ複数のサブフレームに分割されて設定される。各サブフレームは、例えば数十シンボルから数百シンボルに設定できる。更に各サブフレームの先頭には、1から数シンボルのパイロット信号(PS)が挿入される。従って、PSは、一定のシンボル間隔(サブフレーム間隔)で受信信号に周期的に挿入され、振幅が一定で既知のパイロット信号である。PSは、通常全て同じ振幅に設定される。なお、上述した典型的な光通信システムにおいてもPSは周期的にデータに挿入される。
【0025】
なお、典型的な光通信システムでは、TSパタンによって適応等化回路1のタップ係数の初期値が参照信号比較等化方式によって求められ、定期的に挿入されたPSによって適応等化回路1のタップ係数が参照信号比較等化方式によって逐次的に更新される。
【0026】
同期パタン部及びPSのそれぞれは、X偏波用送信データのフレームとY偏波用送信データのフレームとの間で異なってもよいし同じでもよい。ただ、同期パタン部は、X偏波とY偏波を区別するために、一般的には異なるパタンが設定される。また、PSもタップ係数が同一偏波側に収束すること(例えばY偏波側用のタップもX偏波側に誤収束するなど)を防ぐため一般的には異なるパタンが設定される。
【0027】
図3は、実施の形態に係る適応等化回路を示す図である。適応等化回路1は、適応等化フィルタ3、第1のタップ係数更新量計算回路4、第2のタップ係数更新量計算回路5、合成回路6及びタップ係数更新回路7を有する。入力信号は、波長分散補償回路30からのX偏波データ及びY偏波データであるが、どちらか一方でもよい。
【0028】
適応等化フィルタ3は、FIRフィルタで構成でき、X偏波データとY偏波データを更に偏波分離すると共に、それぞれに偏波分散補償処理を施す。偏波分離や偏波分散の状況は光ファイバの偏波変動によって逐次変化するため、適応等化フィルタ3は、偏波変動に追従するタップ係数の更新によって受信信号の偏波変動による波形歪みを適応的に補償する。タップ係数更新回路7がFIRフィルタのタップ係数を設定する。
【0029】
第1のタップ係数更新量計算回路4は、入力信号であるX偏波データ及びY偏波データのPSを受信し、CMAであるタップ係数更新アルゴリズムによって、タップ係数を更新するための更新量を求める。第2のタップ係数更新量計算回路5は、入力信号であるX偏波データ及びY偏波データのPS間にある情報データを受信し、RDEであるタップ係数更新アルゴリズムによって、タップ係数を更新するための更新量を求める。何れの更新量も、受信したPS又は情報データの振幅値とそれらの本来取りうる振幅値との誤差から計算される。計算式は後ほど説明する。
【0030】
PSの本来取りうるべき振幅は既知の一定値であるため、CMAによってタップ係数の更新量(以後CMA更新量と称する)を計算できる。また、各情報データの本来取りうるべき振幅は一定とは限らないため、RDEによって振幅を判定した後、タップ係数の更新量(以後RDE更新量と称する)が計算される。なお、後段の復号回路2においてフレーム信号を検出した後、そのフレーム信号に基づいてデータ部からPSの位置を検出することが可能である。
【0031】
PSは周期的に挿入されているため、CMA更新量も周期的に計算される。また、RDEでは典型的にはPS間の情報データが使用されるため、RDE更新量も周期的に計算できる。ただし、RDE更新に使用される情報データは、PS間で一つに限定されず、複数でもよい。以下では、簡単のため、PS間で一つの情報データをRDE更新に使用する場合を例にして説明を行う。
【0032】
合成回路6は、所定の期間における1つ以上のCMA更新量と1つ以上のRDE更新量とを合成して合成更新量を出力する。この合成は、実質的に平均とみなすことができる。次に、タップ係数更新回路7は、適応等化フィルタ3、第1のタップ係数更新量計算回路4内のフィルタ、及び第2のタップ係数更新量計算回路5内のフィルタに設定してあるタップ係数に、合成回路6からの合成更新量を加算して更新タップ係数を計算し、適応等化フィルタ3、第1のタップ係数更新量計算回路4内のフィルタ、及び第2のタップ係数更新量計算回路5内のフィルタに設定する。これにより各フィルタのタップ係数が更新される。
【0033】
上述したように、本実施の形態に係る適応等化回路1は、PSに基づいたCMA更新量と、情報データに基づいたRDE更新量との合成更新量によってタップ係数更新が行われる。
【0034】
PSの取りうるべき振幅は一つのみであるため、受信したPSとの誤差を高精度で検出できる。それに基づいて計算された更新タップ係数の精度も高くできる。PS間は偏波変動が発生するため、タップ係数の精度が劣化していく。そこで、本実施の形態では、その間をRDE方式で係数更新を行い劣化量の低減を図っている。RDEにて振幅判定を誤った場合、タップ係数の精度が更に劣化することも考えられるが、後にシミュレーションで示すように、その劣化よりも改善の方が大きくできることが分かった。これは、振幅判定を実施しないCMAによる推定精度の高い係数を用いることにより、RDE更新のみで係数を更新する場合に比べてRDE時の判定誤りが減るからである。また、仮にRDEの振幅判定の誤りが発生しても次のPSで元に戻すことができるからである。
【0035】
上述したように、本実施の形態に係る適応等化回路1は、偏波変動への追従性をPSだけに基づくタップ係数更新よりも高めることができる。従って、PSのみによるタップ係数更新や、情報データのみによるタップ係数更新に比べて高精度なタップ係数更新を行うことができ、より補償性能の高い適応等化性能を実現することができる。
【0036】
図4は、適応等化フィルタを示す図である。適応等化フィルタ3はデジタルフィルタで構成される。本構成例は入力信号がX偏波データ及びY偏波データの場合である。適応等化フィルタ3は、バタフライ型に構成されたFIR(Finite Impulse Response)フィルタFIR_A,FIR_B,FIR_C,FIR_Dを有する。各FIRフィルタはN個のタップを備える。ただし、FIRフィルタのタップ数は互いに異なっていてもよい。
【0037】
FIR_AはX偏波データに対するフィルタである。FIR_BはY偏波データからX偏波データへの影響に対するフィルタである。FIR_CはX偏波データからY偏波データへの影響に対するフィルタである。FIR_DはY偏波データに対するフィルタである。X偏波データに対するFIR_Aのフィルタリング結果とY偏波データに対するFIR_Bのフィルタリング結果との加算値をX偏波データの補償出力とする。X偏波データに対するFIR_Cのフィルタリング結果とY偏波データに対するFIR_Dのフィルタリング結果との加算値をY偏波データの補償出力とする。これらによって偏波分離をより確実に行うことができる。なお、一つの偏波データのみ伝送する場合は、そのデータに対するFIRフィルタのみ実装すればよい。
【0038】
入出力データと各フィルタのタップ係数との関係を以下に示す。
Xout1=WHH・Xin+WVH・Yin
Yout1=WHV・Xin+WVV・Yin
【0039】
ここで、XinはX偏波データの入力データである。YinはY偏波データの入力データである。Xout1はX偏波データの出力データである。Yout1はY偏波データの出力データである。W
HHはフィルタFIR_Aの一連のタップ係数である。W
VHはフィルタFIR_Bの一連のタップ係数である。W
HVはフィルタFIR_Cの一連のタップ係数である。W
VVはフィルタFIR_Dの一連のタップ係数である。各フィルタのタップ係数W
HH、W
VH、W
HV、W
VVは
図3に示すタップ係数更新回路7から供給される。
【0040】
図5は、実施の形態に係る適応等化回路の具体的な構成例を示す図である。本構成例は、入力信号がX偏波データ及びY偏波データの場合である。本構成では、第1のタップ係数更新量計算回路4は第1の係数更新用フィルタ4a及びCMA回路4bを有する。CMA回路4bには、表示していないが第1の参照信号d(n)及びCMAステップサイズμcが設定される。第2のタップ係数更新量計算回路5は、第2の係数更新用フィルタ5a及びRDE回路5bを有する。RDE回路5bには、表示していないが第2の参照信号d(n)及びRDEステップサイズμrが設定される。
【0041】
図6は、係数更新用フィルタを示す図である。第1の係数更新用フィルタ4aは、
図4で示した適応等化フィルタ3と同様に、バタフライ型のFIRフィルタで構成されている。第2の係数更新用フィルタ5aの構成も第1の係数更新用フィルタ4aと同様である。
【0042】
図5及び
図6に示す構成例では、X偏波データ及びY偏波データは共に第1の係数更新用フィルタ4a及び第2の係数更新用フィルタ5aに供給され、それらのフィルタ出力はそれぞれCMA回路4b及びRDE回路5bに供給される。CMA回路4bは、第1の係数更新用フィルタ4aの出力と所望値を比較し、その差分が最小になるようなタップ係数更新量を計算する。RDE回路5bは、第2の係数更新用フィルタ5aの出力と所望値を比較し、その差分が最小になるようなタップ係数更新量を計算する。
【0043】
CMA回路4bは、振幅一定の信号に対するCMAという逐次更新アルゴリズムによって、第1の係数更新用フィルタ4aのタップ係数WHH、WVH、WHV、WVVを求める。CMA回路4bは、データが順次的に第1の係数更新用フィルタ4aに入力される状況において、PSがフィルタの中心(出力の対象となる位置)に来た場合に更新アルゴリズムを実行する。
【0044】
CMAの逐次更新アルゴリズムは、一般的に以下の式で示される。
WHH(n+1)=WHH(n)+μc・ecH(n)・Xout2(n)・Xin*(n)=WHH(n)+EcHH(n)
WVH(n+1)=WVH(n)+μc・ecH(n)・Xout2(n)・Yin*(n)=WVH(n)+EcVH(n)
WHV(n+1)=WHV(n)+μc・ecV(n)・Yout2(n)・Xin*(n)=WHV(n)+EcHV(n)
WVV(n+1)=WVV(n)+μc・ecV(n)・Yout2(n)・Yin*(n)=WVV(n)+EcVV(n)
ここで、nは逐次更新アルゴリズムにおける更新順を示す値である。タップ係数WHH(n)は、更新順nの場合のFIR_Aのタップ係数群を示す。タップ係数WVH(n)は、更新順nの場合のFIR_Bのタップ係数群を示す。タップ係数WHV(n)は、更新順nの場合のFIR_Cのタップ係数群を示す。タップ係数WVV(n)は、更新順nの場合のFIR_Dのタップ係数群を示す。μcは更新アルゴリズムのステップサイズを示す。CMA回路4bには、CMA回路4b専用のCMAステップサイズが設定される。ecH(n)はX偏波データのフィルタ出力における所望値との誤差を示す。ecV(n)はY偏波データのフィルタ出力における所望値との誤差を示す。所望値は、第1の参照信号d(n)であり、CMA回路4bではPSの振幅レベルである。PSの振幅レベルは、原則的に1種類のみとするため、既知である。従って、CMA回路4bでは受信データの振幅レベル判定は不要である。
【0045】
Xout2(n)は更新順nの場合のX偏波データにおけるフィルタ出力を示す。Xin(n)は更新順nの場合のX偏波データにおけるフィルタ入力を示す。Yout2(n)は更新順nの場合のY偏波データにおけるフィルタ出力を示す。Yin(n)は更新順nの場合のY偏波データにおけるフィルタ入力を示す。*は共役又は複素共役を示す。なお、データ及びタップ係数は複素数で表される。
【0046】
上記の各式の第2項はCMA更新量EcHH(n)、EcVH(n)、EcHV(n)、EcVV(n)を示す。即ち、それまでのタップ係数WHH(n)、WVH(n)、WHV(n)、WVV(n)にそれぞれCMA更新量を加えると次の更新タップ係数WHH(n+1)、WVH(n+1)、WHV(n+1)、WVV(n+1)となる。なお、上記のCMA逐次更新アルゴリズムでは、フィルタ出力と所望値との誤差eX(n)及びeY(n)を最小化するようにタップ係数の更新が行われる。
【0047】
一方、RDE回路5bは、振幅判定を伴うRDEという逐次更新アルゴリズムにより第2の係数更新用フィルタ5aのタップ係数WHH、WVH、WHV、WVVを求める。データが順次的に第2の係数更新用フィルタ5aに入力される状況において、PS間の比較対象の情報データがフィルタの中心(出力の対象となる位置)に来た場合に、RDE回路5bは更新アルゴリズムを実行する。
【0048】
RDEの逐次更新アルゴリズムは以下の式で示され、一般的に上述したCMAの逐次アルゴリズムと同じ式である。
WHH(n+1)=WHH(n)+μr・erH(n)・Xout3(n)・Xin*(n)=WHH(n)+ErHH(n)
WVH(n+1)=WVH(n)+μr・erH(n)・Xout3(n)・Yin*(n)=WVH(n)+ErVH(n)
WHV(n+1)=WHV(n)+μr・erV(n)・Yout3(n)・Xin*(n)=WHV(n)+ErHV(n)
WVV(n+1)=WVV(n)+μr・erV(n)・Yout3(n)・Yin*(n)=WVV(n)+ErVV(n)
ここで、nは逐次更新アルゴリズムにおける更新順を示す値である。タップ係数WHH(n)は更新順nの場合のFIR_Aのタップ係数群を示す。タップ係数WVH(n)は更新順nの場合のFIR_Bのタップ係数群を示す。タップ係数WHV(n)は更新順nの場合のFIR_Cのタップ係数群を示す。タップ係数WVV(n)は更新順nの場合のFIR_Dのタップ係数群を示す。μrは更新アルゴリズムのステップサイズを示す。RDE回路5bにはRDE回路5b専用のRDEステップサイズが設定される。erH(n)はX偏波データのフィルタ出力における所望値との誤差を示す。erV(n)はY偏波データのフィルタ出力における所望値との誤差を示す。所望値は、第2の参照信号d(n)であり、データを受信するごとに振幅レベルの判定を行う。例えば、16QAMの場合はPS以外のデータの振幅レベルは3通りあり、8QAMの場合はPS以外のデータの振幅レベルは2通りある。従って、データによって、どの振幅レベルかを閾値判定し、判定した振幅レベルが所望値となる。
【0049】
Xout3(n)は更新順nの場合のX偏波データにおけるフィルタ出力を示す。Xin(n)は更新順nの場合のX偏波データにおけるフィルタ入力を示す。Yout3(n)は更新順nの場合のY偏波データにおけるフィルタ出力を示す。Yin(n)は更新順nの場合のY偏波データにおけるフィルタ入力を示す。*は共役又は複素共役を示す。なお、データ及びタップ係数は複素数で表される。
【0050】
上記の各式の第2項がRDE更新量ErHH(n)、ErVH(n)、ErHV(n)、ErVV(n)を示す。即ち、それまでのタップ係数WHH(n)、WVH(n)、WHV(n)、WVV(n)にそれぞれRDE更新量を加えると、次の更新タップ係数WHH(n+1)、WVH(n+1)、WHV(n+1)、WVV(n+1)となる。なお、上記のRDE逐次更新アルゴリズムでは、フィルタ出力と所望値との誤差eX(n)及びeY(n)を最小化するようにタップ係数の更新が行われていく。
【0051】
なお、上記のCMA回路4bとRDE回路5bでは、更新量の計算のためのステップサイズをそれぞれ独立に設定できる。例えば、CMA回路4bでは、レベルの判定エラーが無いため、精度の高い誤差を検出できる。従って、そのステップサイズμcを大きくできる。RDE回路5bでは、レベルの判定エラーが存在するため、誤差の精度は低くなる。従って、RDE回路5bの逐次更新アルゴリズムのステップサイズμrをCMA回路4bの逐次更新アルゴリズムのステップサイズμcに比べて小さくすることで、誤差精度の低さの影響を低減することができる。
【0052】
続いて、CMA回路4bで計算されたCMA更新量及びRDE回路5bで計算されたRDE更新量は合成回路6でそれぞれ所定の数、合成され、以下の合成更新量が出力される。
Σ(EcHH(n)+ErHH(n))
Σ(EcVH(n)+ErVH(n))
Σ(EcHV(n)+ErHV(n))
Σ(EcVV(n)+ErVV(n))
それぞれの合成更新量は、タップ係数更新回路7に保持されたそれまでのタップ係数WHH(n)、WVH(n)、WHV(n)、WVV(n)にそれぞれ加算され、次の更新タップ係数WHH(n+1)、WVH(n+1)、WHV(n+1)、WVV(n+1)が計算される。この合成は実質上平均化とみなすこともできる。
【0053】
図7は、典型的なFIRフィルタを示す図である。適応等化フィルタ3、第1の係数更新用フィルタ4a及び第2の係数更新用フィルタ5aのFIRフィルタとして、
図7に示される構成が典型的に使用できる。FIR_A、FIR_B、FIR_C及びFIR_Dがバタフライ型構成を形成している。各FIRフィルタにおいて、N段の遅延素子Z-1で遅延された入力データの各々がN個のタップ係数W
**_1~W
**_N(**=HH、VH、HV、VV)とそれぞれ乗算され、乗算結果の合計値が出力される。
【0054】
FIRフィルタにはデータが遅延素子毎に順次的に入力される。また、FIRフィルタに設定される一連のタップ係数は、FIRフィルタのインパルス応答を示す。仮に、インパルス応答が、その中心が最もデータに影響を与えるように設計された場合、フィルタリングの対象となるデータがFIRフィルタの中心部に来た時、その対象となるデータのフィルタリング結果がFIRフィルタから出力される。
【0055】
例えば、数シンボル毎に、PSが挿入されたデータを受信した場合、PSがFIRフィルタの中心に来た場合の出力はPSのフィルタリング結果である。PSの理想的な値は既知であるので、PS受信時のフィルタリング結果と理想的な値との差分をCMA回路4bにおけるecH(n)やecV(n)として求めることができる。
【0056】
なお、PS以外の情報データについては、比較対象となる情報データがFIRフィルタの中心に来た場合の出力と、該情報データのレベル判定結果との差分を、RDE回路5bにおけるerH(n)やerV(n)として求めることができる。
【0057】
図8は、係数更新用フィルタの動作イメージを示す図である。簡単のため、入力データはX偏波データのみで、6シンボルの情報データごとに1シンボルのPSが挿入されている場合について示す。
【0058】
CMA回路に接続される第1の係数更新用フィルタのFIR_Aの部分と、RDE回路に接続される第2の係数更新用フィルタのFIR_Aの部分を示している。それらに入力する入力データも示している。なお、ここでは1シンボルを1つのサンプリングデータとして扱った場合について示しているが、1シンボルを複数サンプリングデータで伝送する場合は、そのサンプリングデータの中心を1シンボルの中心とみなせる。また、FIRフィルタは7段(7個のタップ係数)と仮定する。
【0059】
入力データのうち、PS0が第1の係数更新用フィルタ4a及び第2の係数更新用フィルタ5aに入力され、PS0がフィルタの中心部に位置した場合、第1の係数更新用フィルタ4aの出力がCMA回路4bに供給される。CMA回路4bは、既知のPS0の振幅値と比較をして、CMAアルゴリズムに基づいてPS0によるCMA更新量を計算する。更に、7シンボル後に、PS1が入力された時、CMAアルゴリズムに基づいてPS1によるCMA更新量を計算する。以降、同様にPSによるCMA更新量が計算される。
【0060】
一方、入力データが第1の係数更新用フィルタ4a及び第2の係数更新用フィルタ5aに入力され、比較対象の情報データd5がフィルタの中心部に位置した場合、第2の係数更新用フィルタ5aの出力がRDE回路5bに供給される。RDE回路5bは、レベル判定を行い所望値を決定した後、RDEアルゴリズムに基づいて情報データd5によるRDE更新量を計算する。更に、7シンボル後に、情報データd11が入力された時、RDEアルゴリズムに基づいて情報データd11によるRDE更新量を計算する。以降、同様に情報データによるRDE更新量が計算される。
【0061】
なお、
図5及び
図6において第1の係数更新用フィルタ4a及び第2の係数更新用フィルタ5aを別々の回路として記載している。しかし、第1の係数更新用フィルタ4aと第2の係数更新用フィルタ5aは共通のフィルタで構成することができる。即ち、
図8に示すように、FIRの形状が同じで、タップ係数も同じであるため、PSが入力された時のFIRフィルタの出力はCMA回路4bへ供給され、情報データが入力された時のFIRフィルタの出力はRDE回路5bへ供給するように制御すれば、第1の係数更新用フィルタ4a及び第2の係数更新用フィルタ5aは共有(共通化)できる。また、
図5においてPSが入力された時の適応等化フィルタ3の出力Xout1及びYout1をCMA回路4bへ供給し、情報データが入力された時の上記フィルタ出力Xout1及びYout1をRDE回路5bへ供給するように制御すれば、適応等化フィルタ3も同様に共有(共通化)することができる。
【0062】
図9は、合成回路及びタップ係数更新回路の動作を説明するための図である。入力データは
図8に示した入力データの数を増やしたものである。CMA更新量及びRDE更新量が交互に計算される。PSは斜線パターンで示されている。比較対象の情報データは点パターンで示されている。
【0063】
合成回路6は、所定の期間におけるCMA更新量及びRDE更新量の合計値を計算する。
図9ではCMA更新量とRDE更新量が交互に計算されているが、これに限らず、CMA更新の合間に2つ以上の情報データによるRDE更新量を計算し合成することも可能である。逆に、RDE更新量計算の方をCMA計算より少なくすることも可能である。これらの割合は、実際の伝送状況に応じて偏波耐力が最適になるように選定できる。
【0064】
タップ係数更新回路7は、所定の期間において計算された合成更新量をそれまでのタップ係数にそれぞれ加算して新たな更新タップ係数を計算する。更新タップ係数は、適応等化フィルタ3、第1の係数更新用フィルタ4a、及び第2の係数更新用フィルタ5aに設定される。
【0065】
この時、合成回路6及びタップ係数更新回路7の計算を高速に行うことができれば、更新タップ係数を設定した直後のフィルタ出力を基に次のタップ係数更新を行うことができる。しかし、直後のタップ係数更新に間に合わない場合は、更新タップ係数の各フィルタへの設定は、その次のタップ係数更新に利用できるようなタイミングで行う。その場合は所定の期間の2倍の遅延が発生する。
【0066】
図10は、実施の形態に係る適応等化方法を示すフローチャートである。
ステップS1:データを適応等化フィルタ3、第1の係数更新用フィルタ4a及び第2の係数更新用フィルタ5aへ入力する。
ステップS2:CMA回路4bにおいてPSによるCMA更新量を計算する。
ステップS3:RDE回路5bにおいてPS間の比較対象の情報データによるRDE更新量を計算する。
ステップS4:所定期間のPSによるCMA更新量及び情報データによるRDE更新量を合成する。
ステップS5:合成した更新量に基づいてタップ係数を更新する。
ステップS6:更新したタップ係数を適応等化フィルタ3、第1の係数更新用フィルタ4a、及び第2の係数更新用フィルタ5aへ設定する。
【0067】
再び、ステップS1からステップS6を繰り返す。但し、ステップS6において、フィルタへのタップ係数の設定が、次の所定の期間の開始時期に間に合わない場合は、次の所定期間の開始時期に合わせて設定する。
【0068】
図11から
図13は、本実施の形態を16QAM変調方式に適用した例を示す図である。
図11は、RDE更新に使用されるデータの信号点(白丸)を示す。
図12は、CMA更新に使用されるPSの信号点(黒丸)を示す。
図13は、その両者を同時に示す。また、実線は振幅レベルを示し、破線は振幅レベルを判定するための閾値を示す。
【0069】
16QAM変調方式ではIQ平面上に16点の信号点にマッピングされる。本例では、PSには最外殻の同じ振幅の4点(黒点)が割り当てられる。データには、全16点(白点)が割り当てられる。従って、外殻の4点はPS及びデータの両者に割り当てられる。図では、同じ個所にPSとデータとが存在することを示すために、便宜上少しずらして表示している。
【0070】
データの振幅は、
図11の実線で示すように、3つのレベル(外殻、中殻、内殻)に分類することができる。従って、3つのレベルの振幅の中間点に破線のように閾値を設定することで、受信したデータのレベルが3つのレベルの何れかに属することを判定することができる。判定されたレベルが、RDEにおける所望値となる。
【0071】
一方、PSを受信した場合は、
図12に示すように、PSの振幅は何れも同じなので、そのレベルをCMAの所望値として設定できる。この場合、雑音等の影響によって別の振幅レベルとして誤って判定することが無いので、レベルの判定処理があるRDEに比べてより適正なタップ係数を求めることができる。
【0072】
図14から
図16は、本実施の形態を16QAM改の変調方式に適用した例を示す図である。
【0073】
一般的な16QAM変調方式は、
図11から
図13に示す構成であるが、
図14から
図16に示すようにPSの振幅レベルを変更した変調方式(16QAM改と称する)にも本実施の形態を適用することができる。
【0074】
図14は、RDE更新に使用されるデータの信号点(白丸)を示す。
図15は、CMA更新に使用されるPSの信号点(黒丸)を示す。
図16は、その両者を同時に記載した信号点を示す。
【0075】
この16QAM改変調方式は、通常の16QAM変調方式に対し、中殻と内殻の信号点の間にPS専用の4つの信号点を設けている。データは、通常の16QAMの16つの信号点にマッピングされる。PSは、PS専用の信号点にマッピングされる。また、実線は振幅レベルを示し、破線は振幅レベルを判定するための閾値を示す。
【0076】
PSが、
図2に示したように連続したデータ列に対して定期的に挿入されるのは、これまでに示した例と同様である。従って、受信側において、同期パタン部の検出等からPSの受信タイミングが分かれば、そのタイミングにおける受信レベルは一定で既知となる。
【0077】
データの振幅は、
図14に示すように、3つのレベル(実線)に分類することができる。従って、3つのレベルの振幅の中間点に破線のように閾値を設定することで、受信したデータのレベルが3つのレベルの何れかに属することを判定することができる。判定されたレベルが、RDEにおける所望値となる。
【0078】
一方、PSを受信した場合は、
図15に示すように、PSの振幅は何れも同じなので、それをCMAの所望値として設定できる。この場合、雑音等の影響によって別の振幅レベルに判定を誤ることが無いので、レベルの判定処理があるRDEに比べてより適正なタップ係数を求めることができる。
【0079】
図17から
図19は、本実施の形態を8QAM変調方式へ適用した例を示す図である。
図17は、RDE更新に使用されるデータの信号点(白丸)を示す。
図18は、CMA更新に使用されるPSの信号点(黒丸)を示し、
図19は、その両者を同時に示す。また、実線は振幅レベルを示し、破線は振幅レベルを判定するための閾値を示す。
【0080】
8QAM変調方式では、IQ平面上に、8点の信号点にマッピングされる。8点の信号点として、外殻にはQPSKと同様に4点、内殻にはI軸及びQ軸上に4点存在する。本例では、PSには外殻の同じ振幅の4点(黒点)が割り当てられる。データには全8点(白点)が割り当てられる。従って、外殻の4点はPS及びデータの両者に割り当てられる。図では、同じ個所にPSとデータとが存在することを示すために、便宜上少しずらして表示している。
【0081】
PSは
図2に示したように連続したデータ列に対して定期的に挿入される。従って、受信側において、同期パタン部の検出等からPSの受信タイミングが分かれば、そのタイミングにおける受信レベルは一定で既知となる。
【0082】
データの振幅は、
図17に示すように、2つのレベル(実線)に分類することができる。従って、2つのレベルの振幅の中間点に破線のように閾値を設定することで、受信したデータのレベルが2つのレベルの何れかに属することを判定することができる。判定されたレベルが、RDEにおける所望値となる。
【0083】
一方、PSを受信した場合は、
図18に示すように、PSの振幅は何れも同じなので、それをCMAの所望値として設定できる。この場合、雑音等の影響によって別の振幅レベルに判定を誤ることが無いので、レベルの判定処理があるRDEに比べてより適正なタップ係数を求めることができる。
【0084】
図20から
図22は、本実施の形態を8QAM改の変調方式に適用した例を示す図である。
【0085】
一般的な8QAM変調方式は、
図17から
図19に示す構成であるが、
図20から
図22に示すようにPSの振幅レベルを変更した変調方式(8QAM改と称する)にも本実施の形態を適用することができる。
【0086】
図20は、RDE更新に使用されるデータの信号点(白丸)を示す。
図21は、CMA更新に使用されるPSの信号点(黒丸)を示す。
図22は、その両者を同時に記載した信号点を示す。
【0087】
この8QAM改変調方式は、通常の8QAM変調方式に対し、外殻と内殻の信号点の間にPS専用の4つの信号点を設けている。データは、通常の8QAMの8つの信号点にマッピングされる。PSは、PS専用の信号点にマッピングされる。また、実線は振幅レベルを示し、破線は振幅レベルを判定するための閾値を示す。
【0088】
PSが、
図2に示したように連続したデータ列に対して定期的に挿入されるのは、これまでに示した例と同様である。従って、受信側において、同期パタン部の検出等からPSの受信タイミングが分かれば、そのタイミングにおける受信レベルは一定で既知となる。
【0089】
データの振幅は、
図20に示すように、2つのレベル(実線)に分類することができる。従って、2つのレベルの振幅の中間点に破線のように閾値を設定することで、受信したデータのレベルが2つのレベルの何れかに属することを判定することができる。判定されたレベルが、RDEにおける所望値となる。
【0090】
一方、PSを受信した場合は、
図21に示すように、PSの振幅は何れも同じなので、それをCMAの所望値として設定できる。この場合、雑音等の影響によって別の振幅レベルに判定を誤ることが無いので、レベルの判定処理があるRDEに比べてより適正なタップ係数を求めることができる。
なお、
図11から
図22で示したPSは、一例であり、挿入タイミングが既知で、同じ振幅レベルのPSであれば、CMAに適用可能である。
【0091】
図23は、実施の形態に係る適応等化回路のシミュレーション結果を示す図である。横軸は、偏波変動の周波数を表す。縦軸は、Q値であり、ビット誤り率に関連付けられた値である。Q値が大きい程、ビット誤り率は小さくなる。即ち、同じ偏波変動の状況の場合、Q値が大きい方が、ビット誤り率が少なくなり適応等化回路1の補償性能が高いことを示す。
図23における“●”印のプロットは、適応等化フィルタ3のタップ係数をPSのみを使用してCMAで求める場合を示している。“▲”印のプロットは、適応等化フィルタ3のタップ係数をPS及び情報データの両者を利用して求める本実施の形態の場合を示している。タップ係数更新量は、PS使用時はCMAで計算し、情報データ使用時はRDEで計算している。
【0092】
具体的なシミュレーション条件として、32シンボル毎に挿入されたPSを使用しCMAでタップ係数の更新量を求め、そのほぼ中央にある情報データを使用してRDEでタップ係数の更新量を求めている。即ち、“●”は、32シンボル毎のPSを利用した場合の補償性能である。“▲”は、16シンボル毎に、PSと情報データを交互に利用した場合の補償性能を示している。なお、ここで言う補償性能とは、一般的に偏波変動耐力と同意である。
【0093】
図23に示すように、どの偏波変動の周波数においても、PSのみ使用する場合に比べてPS及び情報データを使用する場合の方がQ値が高い。即ち、適応等化回路1の補償性能が高い。PSを使用したCMAでは、PSが一定振幅のため、振幅判定の誤りによるタップ係数計算の精度劣化が無い。一方、情報データを使用したRDEでは、データの振幅判定の誤りによるタップ係数計算の精度劣化が存在する。そのため、PSに加えて情報データを使用したタップ係数計算では、更新量の情報量は増えるが、総合的なタップ係数計算の精度が劣化するとも考えられた。しかし、本シミュレーション結果により、データの振幅判定の誤りによるタップ係数計算の精度劣化よりも、データ使用による更新の頻度を上げた方が、タップ係数計算の精度が向上し補償性能も向上することが分かった。
【0094】
理由として、以下が考えられる。PSの使用によって係数精度が保持される。PS間に偏波変動が発生するが、PS間において情報データによるRDE方式で係数更新を行っている。ここで変動が大きく、振幅判定を誤った場合でも、次のPSで元に戻すことができる。また、PSの使用によって精度良く係数更新した後に情報データによるRDE更新を行うことで、情報データによるRDE更新した後の精度に欠ける係数更新から情報データによるRDE更新を行うよりも、振幅判定誤りが減り性能の劣化が抑えられると考えられる。従って、偏波変動への追従性をPSだけに基づくタップ係数更新よりも高めることができたと推定する。よって、本実施の形態に係る適応等化回路1は、PSのみを利用した適応等化回路と比べて、PS間のデータをタップ係数更新に使用することで、補償性能を改善することができる。なお、情報データのみを利用した適応等化回路は、PSのみを利用した適応等化回路よりも補償性能は劣ることは明らかなため、敢えて図には示していない。
【符号の説明】
【0095】
1 適応等化回路、3 適応等化フィルタ、4 第1のタップ係数更新量計算回路、4a 第1の係数更新用フィルタ、4b CMA回路(第1の更新量計算回路)、5 第2のタップ係数更新量計算回路、5a 第2の係数更新用フィルタ、5b RED回路(第2の更新量計算回路)、6 合成回路、7 タップ係数更新回路、10 受信光モジュール、30 波長分散補償回路、100 受信機
【手続補正書】
【提出日】2024-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ係数の更新によって受信信号の偏波変動による波形歪みを適応的に補償する適応等化フィルタと、
前記受信信号に周期的に挿入され振幅が一定で既知のパイロット信号を用いて前記タップ係数を更新するための第1の更新量を計算する第1のタップ係数更新量計算回路と、
前記受信信号の前記パイロット信号の間にある情報データを用いて前記タップ係数を更新するための第2の更新量を計算する第2のタップ係数更新量計算回路と、
所定の期間における1つ以上の前記第1の更新量と1つ以上の前記第2の更新量とを合成して合成更新量を出力する合成回路と、
前記合成更新量に基づいて更新タップ係数を計算し、前記適応等化フィルタ、前記第1のタップ係数更新量計算回路及び前記第2のタップ係数更新量計算回路に設定するタップ係数更新回路とを備えることを特徴とする適応等化回路。
【請求項2】
前記第1のタップ係数更新量計算回路は、第1の係数更新用フィルタと、振幅一定の信号に対する逐次更新アルゴリズムによって前記第1の係数更新用フィルタの出力と所望値の差分が最小になるようなタップ係数更新量を計算する第1の更新量計算回路とを有し、
前記第2のタップ係数更新量計算回路は、第2の係数更新用フィルタと、振幅判定を伴う逐次更新アルゴリズムによって前記第2の係数更新用フィルタの出力と所望値の差分が最小になるようなタップ係数更新量を計算する第2の更新量計算回路とを有することを特徴とする請求項1に係る適応等化回路。
【請求項3】
前記第2の更新量計算回路の逐次更新アルゴリズムのステップサイズは、前記第1の更新量計算回路の逐次更新アルゴリズムのステップサイズに比べて小さいことを特徴とする請求項2に係る適応等化回路。
【請求項4】
前記第1の係数更新用フィルタと前記第2の係数更新用フィルタは共通のフィルタで構成され、
前記パイロット信号が入力された時の前記フィルタの出力は前記第1の更新量計算回路へ供給され、前記情報データが入力された時の前記フィルタの出力は前記第2の更新量計算回路へ供給されることを特徴とする請求項2又は3に係る適応等化回路。
【請求項5】
受信した光信号を前記受信信号に変換する受信光モジュールと、
前記受信信号の波長分散による歪を補償する波長分散補償回路と、
前記波長分散補償回路の出力信号の偏波変動を補償する請求項1から3の何れか1項に記載の適応等化回路とを備えることを特徴とする受信機。
【請求項6】
適応等化フィルタが、タップ係数の更新によって受信信号の偏波変動による波形歪みを適応的に補償する工程と、
第1のタップ係数更新量計算回路が、前記受信信号に周期的に挿入され振幅が一定で既知のパイロット信号を用いて、前記タップ係数を更新するための第1の更新量を計算する工程と、
第2のタップ係数更新量計算回路が、前記受信信号の前記パイロット信号の間にある情報データを用いて、前記タップ係数を更新するための第2の更新量を計算する工程と、
合成回路が、所定の期間における1つ以上の前記第1の更新量と1つ以上の前記第2の更新量とを合成して合成更新量を出力する工程と、
タップ係数更新回路が、前記合成更新量に基づいて更新タップ係数を計算し、前記適応等化フィルタ、前記第1のタップ係数更新量計算回路及び前記第2のタップ係数更新量計算回路に設定する工程とを備えることを特徴とする適応等化方法。