(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108257
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】輪状ステータ構造
(51)【国際特許分類】
G01D 5/12 20060101AFI20240805BHJP
G01D 5/20 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G01D5/12 N
G01D5/20 110B
G01D5/20 110F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012526
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和之
(72)【発明者】
【氏名】村松 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】平栗 征一
(72)【発明者】
【氏名】原 慎一
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 信吾
(72)【発明者】
【氏名】坂井 寿成
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA20
2F077AA47
2F077CC02
2F077FF34
2F077NN03
2F077NN04
2F077NN19
2F077PP26
2F077QQ05
2F077TT42
2F077TT82
2F077UU07
2F077UU13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】1個の輪状ステータによってステータ偏芯に対応でき、省コスト/省スペースなクリアトラックステータ構造のレゾルバを提供する。
【解決手段】輪状ステータ1の内周面1A、又は外周面に交互に設けられ、軸方向Pに沿う厚さが異なる角度検出ティース1a及びオフセット電圧抑制用ティース1bと、輪状ステータ1の内側に回転軸を介して回転自在に設けられ、非磁性材部と軸方向幅が変わる帯状の磁性部と、よりなるロータとで構成され、角度検出ティース1aの第1巻線3から出力される回転検出電圧V1と、輪状ステータ1の偏心時にオフセット電圧抑制用ティース1bの第2巻線4に出力され、角度検出ティース1aに発生したオフセット電圧と同量かつ逆符号の0次電圧V2との合成により、輪状ステータ1のステータ取付偏芯の影響をキャンセルした最終出力電圧が得られる構造とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪状ステータ(1)の内周面(1A)に交互に設けられ、又は、輪状ステータ(1)の外周面(1C)に交互に設けられ、軸方向(P)に沿う厚さが異なる角度検出ティース(1a)及びオフセット電圧抑制用ティース(1b)と、前記輪状ステータ(1)の内側に回転軸を介して回転自在に設けられ非磁性材部(3a)からなるロータ(2)と、前記ロータ(2)の外周面(2a)、又は、前記ロータ(2)の内周面(2b)に設けられ、前記外周面(2a)又は前記内周面(2b)に沿って軸方向幅(PW)が変わる帯状の磁性部(2A)と、よりなり、
前記角度検出ティース(1a)の第1巻線(3)から出力される回転検出電圧(V1)と、前記輪状ステータ(1)の偏心時に前記オフセット電圧抑制用ティース(1b)の第2巻線(4)に出力され、前記角度検出ティース(1a)に発生したオフセット電圧と同量かつ逆符号の0次電圧(V2)と、を備え、
前記回転検出電圧(V1)と前記0次電圧(V2)との合成により、前記輪状ステータ(1)のステータ取付偏芯の影響をキャンセルした最終出力電圧が得られることを特徴とする輪状ステータ構造。
【請求項2】
前記磁性部(2A)は、磁性膜、磁性板、磁性箔のうちの何れか1個よりなることを特徴とする請求項1記載の輪状ステータ構造。
【請求項3】
前記輪状ステータ(1)は、1個のみよりなることを特徴とする請求項1または2に記載の輪状ステータ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪状ステータ構造に関し、特に、クリアトラックステータ、すなわち、ステータ偏芯により発生するオフセット電圧を抑制するステータ形状の輪状ステータのことで、1個の輪状ステータによってステータ偏芯に対応でき、省コスト/省スペースなクリアトラックステータ構造を得るための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種のオフセット電圧を抑制する構造の輪状ステータ構造としては、例えば、第1従来例として、特許文献1の回転角度検出装置を挙げることができる。
すなわち、前記第1従来例として、軸に連結されたロータの周囲に励磁コイル、第1出力コイル、及び、第2出力コイルが設けられたレゾルバと、正弦波信号に所定のオフセット電圧を加えた励磁信号を前記励磁コイルに与える励磁信号生成回路と、前記第1出力コイルおよび第2出力コイルの各出力信号の振幅を所定周期で検出し、当該検出値に基づいて前記軸の回転角度を算出する回転角度算出手段と、を備えた回転角度検出装置において、前記励磁コイルと前記励磁信号生成回路との間に異常が発生したことを検出する異常検出手段を更に備え、前記異常検出手段が異常を検出した場合に、前記正弦波信号に前記オフセット電圧を加えることを禁止して、前記励磁信号生成回路からオフセット電圧を含まない励磁信号を出力することを特徴とする回転角度検出装置の構造により、オフセット電圧を含まない励磁信号を得ていた。
【0003】
また、一般に、輪状ステータの偏芯によってオフセット電圧が発生し、角度検出データの精度に悪影響を与えることが知られているが、そのためには、従来、複数のレゾルバを組み合わせなければ(第2従来例:文献名、表記せず)、ステータ偏芯の影響を打ち消すことができないことが現実であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の輪状ステータは、以上のように構成されていたため、次のような課題がさらに存在していた。
すなわち、前述の第1従来例の構造においては、レゾルバから出力された一対のレゾルバ信号の後処理回路が極めて複雑で、かつ、コストがかかり、一般の民生品に使用することは好適ではなかった。
また、前述の第2従来例においては、複数のレゾルバを組み合わせなければ輪状ステータの偏芯の影響を打ち消すことは不可能であった。
また、第1従来例及び第2従来例共に、回路構成によるコストの増大及び大型化となっていた。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、特に、クリアトラックステータ、すなわち、ステータ取付偏芯により発生するオフセット電圧を抑制するステータ形状の輪状ステータのことで、1個の輪状ステータによって対応でき、省コスト/省スペースな輪状ステータ構造を提供することである。
【0007】
ここで、本発明の構造説明に入る前に、
図8を用いて従来の課題について説明する。
図8の(A)は、レゾルバ10の輪状ステータ1に対してロータ2が中心軸3を介して偏芯していない、輪状ステータ1の「ステータ取付偏芯Gなし」の状態を示し、
図8の(B)は、輪状ステータ1に対してロータ2が中心軸3を介して0.2mm偏芯している「0.2mmステータ取付偏芯Gあり」の状態を示しており、図示しない周知の検出装置によるそれぞれの検出精度の結果を示している。
前記レゾルバ10は、
図8の(B)のように、取付けの際に発生する「0.2mmステータ取付偏芯Gあり」により、精度が大幅に悪化していた。
図8のグラフは、特に、ステータ取付偏芯Gの影響を受けやすい1Xレゾルバの特性を示している。
【0008】
図9は、従来の精度悪化の原因について由来している。
9-1図に示すセンサ状態は、前記「ステータ取付偏芯Gなし」の場合であり、高精度の出力状態を示している。
一方、9-2図に示す「0.2mmステータ取付偏芯G」がある場合では、ステータが偏芯することで回転出力電圧にオフセット電圧が加わり、波形が理想から上下にずれてオフセットしてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による輪状ステータ構造は、輪状ステータの内周面に交互に設けられ、又は、輪状ステータの外周面に交互に設けられ、軸方向に沿う厚さが異なる角度検出ティース及びオフセット電圧抑制ティースと、前記輪状ステータの内側に回転軸を介して回転自在に設けられ非磁性材部からなるロータと、前記ロータの外周面、又は、前記ロータの内周面に設けられ、前記外周面又は前記内周面に沿って軸方向幅が変わる帯状の磁性部と、よりなり、前記角度検出ティースの第1巻線から出力される回転検出電圧と、前記輪状ステータの偏心時に前記オフセット電圧抑制ティースの第2巻線に出力され、前記角度検出ティースに発生したオフセット電圧と同量かつ逆符号の0次電圧と、を備え、前記回転検出電圧と前記0次電圧との合成により、前記輪状ステータのステータ取付偏芯の影響をキャンセルした最終出力電圧が得られる構造であり、また、前記磁性部は、磁性膜、磁性板、磁性箔のうちの何れか1個よりなる構造であり、また、前記輪状ステータは、1個のみよりなる構造である。
【発明の効果】
【0010】
本発明による輪状ステータ構造は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、輪状ステータの内周面に交互に設けられ、又は、輪状ステータの外周面に交互に設けられ、軸方向に沿う厚さが異なる角度検出ティース及びオフセット電圧抑制ティースと、前記輪状ステータの内側に回転軸を介して回転自在に設けられ非磁性材部からなるロータと、前記ロータの外周面、又は、前記ロータの内周面に設けられ、前記外周面又は前記内周面に沿って軸方向幅が変わる帯状の磁性部と、よりなり、前記角度検出ティースの第1巻線から出力される回転検出電圧と、前記輪状ステータの偏心時に前記オフセット電圧抑用ティースの第2巻線に出力され、前記角度検出ティースに発生したオフセット電圧と同量かつ逆符号の0次電圧と、を備え、前記回転検出電圧と前記0次電圧との合成により、前記輪状ステータのステータ取付偏芯の影響をキャンセルした最終出力電圧が得られることにより、1個のみの輪状ステータで、ステータ取付偏芯に対応でき、省コストで省スペースなレゾルバを得ることができる。
また、前記磁性部は、磁性膜、磁性板、磁性箔のうちの何れか1個よりなるステータ構造により、従来構成も大幅に小型のレゾルバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態による輪状ステータ構造を示す斜視図である。
【
図2】
図1の輪状ステータ構造に用いられるロータを示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態と比較例の特性結果を示す説明図である。
【
図6】
図1の輪状ステータの他の形態を示す斜視図である。
【
図7】
図6の輪状ステータのロータを示す斜視図である。
【
図8】従来のレゾルバが持つ精度悪化の課題を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるステータ構造においては、ステータ偏芯により発生する出力電圧のオフセット電圧は精度に悪影響を及ぼすため、本発明の特徴であるオフセット電圧抑制ティースにより逆方向へのオフセット電圧(0次電圧)を発生させることにより、ステータ偏芯により発生するオフセット電圧を打ち消すと共に、その精度を1つのステータの中に組み込んでいるため、レゾルバの省スペース化及び軽量化を実現することができる。
【実施例0013】
以下、図面と共に本発明による輪状ステータ構造の好適な実施の形態について説明する。
図1において符号1で示されるものは、従来から用いられている輪状ステータであり、この輪状ステータ1の内周面1Aには、所定角度間隔毎に複数の角度検出ティース1a及びオフセット電圧抑制ティース1bが前記内周面1Aに沿って交互に設けられている。
【0014】
前記各ティース1a、1bは、前記輪状ステータ1をプレス成形して転積することにより形成され、前記各ティース1a、1bの軸方向Pに沿う第1、第2厚さM、Nは、
図3の3-1図に示されている。前記オフセット電圧抑制ティース1bの第2厚さNは、前記角度検出ティース1aの第1厚さMの数分の1(M>N)に形成されている。
【0015】
前記各角度検出ティース1aには、回転検出電圧V1を出力するための第1巻線3が巻回され、前記各オフセット電圧抑制ティース1bは、前記各角度検出ティース1a間に位置しており、オフセット電圧抑制ティース1bには、0次電圧V2を出力する第2巻線4が巻回されている。
【0016】
図1に示す前記輪状ステータ1は、各角度検出ティース1aが前記輪状ステータ1の内周面1Aにおいて所定の角度間隔毎に固定されており、前記オフセット電圧抑制ティース1bが前記各角度検出ティース1aと交互(すなわち、各角度検出ティース1a、1a間)に並んで配設されている。
前記輪状ステータ1の内孔1B内には、
図2で示すロータ2が図示しない周知の軸に軸支されて回転自在に設けられており、その主たる部分がアルミ等の非磁性材部3aで形成されている。
【0017】
磁性部2Aは、前記ロータ2を平板状に展開した状態からわかるように、
図3の3-1図のように、非磁性材部3aは、平面で見て帯状となり、その長手方向Lに沿って前記磁性部2Aが形成されている状態で示している。
前記ロータ2の外周側に同軸配置された輪状ステータ1は、3-2図に示されているように、プレス加工による多数のプレス片を回転させつつ積層させることによって転積され、3-2図に示される輪状ステータ1が完成する。前記磁性部2Aは、ロータ2の回転位置によって、その軸方向幅PWが変化するが、3-1図の輪状ステータ1の各ティース1a、1bと異なって変化し、角度検出ティース1aから回転検出電圧V1が出力され、オフセット電圧抑制ティース1bから0次電圧V2が出力される構造である。
【0018】
前記3-1図及び3-2図において述べたように、輪状ステータ1の内孔1B内には、角度検出ティース1aとオフセット電圧抑制ティース1bとが、前記内孔1Bの側壁に沿って交互に配設され、前記各オフセット電圧抑制用ティース1b間に1個の角度検出ティース1aが位置するように配設されている。尚、前記ロータ2の外周面2aに形成された磁性部2Aは、磁性膜、磁性板、磁性箔のうちの何れか1つで形成されている。また、従来では、前記輪状ステータ1を複数用いていたが、本発明では1個のみの輪状ステータ1を用いて十分効果を得ている。
【0019】
次に、本発明による輪状ステータ構造の原理について説明する。
図4において、4-1図の輪状ステータ1とロータ2は、中心軸Pに対して完全な同軸配置であるため、ステータ取付偏芯Gなしの正常時の状態であり、この状態で前記輪状ステータ1に対して前記ロータ2が同軸回転しても、2相出力の回転検出電圧V1と0次電圧V2が同じ位相で出力され、正常な2相出力が得られる。
【0020】
また、4-2図に示されるようにステータ取付偏芯Gありの場合、角度検出ティース1aからの出力はステータ取付偏芯により生じたオフセット電圧が加わった状態での回転検出電圧V1となるが、オフセット電圧抑制用ティース1bの第2巻線4に前記オフセット電圧と同量かつ逆符号の0次電圧V2が得られる。
このようにステータ取付偏芯Gにより生じたオフセット電圧にオフセット電圧抑制ティース1bにより発生する0次電圧V2を足し合わせることで、ステータ取付偏芯Gによるオフセットをキャンセルすることができる。
【0021】
ここで、
図5を用いて、ステータ取付偏芯Gが生じている状態における本発明の実施の形態と従来構成(比較例)との精度悪化量の違いを示す。
図5においては、5-1(比較例)は、オフセット電圧抑制ティースへの接続がない状態の特性を示しており、ステータ偏芯なしの状態に対する0.2mmステータ偏芯ありの状態における精度悪化量は1769’であるのに対して、5-2(本発明の実施の形態)は、オフセット電圧抑制ティースへの接続ありの状態の特性を示しており、ステータ偏芯なしの状態に対する0.2mmステータ偏芯ありの状態における精度悪化量は273’とされ、本発明の実施の形態によるクリアトラックステータの機能により、偏芯の影響を85%抑制することに成功した。
【0022】
次に
図6は、
図1のインナーロータ型の他の形態であるアウターロータ型のレゾルバを示す斜視図であり、各ティース1a、1bがその外周面1Cに設けられている。
前記輪状ステータ1の内孔1Bには、何ら形成されていない。さらに、
図7は、本発明の他の形態であるアウターロータ型のロータ2を示し、前記ロータ2の外周面2aは、何も形成されていない面であるが、その非磁性材部3aの内周面2bには、前記磁性部2Aが設けられている。
尚、前述の
図6及び
図7の輪状ステータ構造については、構造及び動作共に、
図1及び
図2の輪状ステータ構造と同一であるため、その説明は省略し、同一部分には同一符号を用いて説明した。このようなアウターロータ型のレゾルバでも、インナーロータ型のレゾルバと同様の効果を得ることができる。
本発明による輪状ステータ構造は、輪状ステータの内周又は外周に、角度検出ティースとオフセット電圧抑制用ティースを設け、ロータの内周又は外周に、前記各ティースと対面する磁性部を設け、このロータを回転させることにより、磁性部の軸方向幅が変化し、前記角度検出ティースの第1巻線から出力される回転検出電圧と、前記輪状ステータの偏芯時に前記オフセット電圧抑制用ティースの第2巻線に出力され、前記角度検出ティースに発生したオフセット電圧と同量かつ逆符号の0次電圧と、を備え、前記回転検出電圧と前記0次電圧との合成により、前記輪状ステータのステータ取付偏芯の影響をキャンセルした最終出力電圧が得られることにより、偏芯ありでも正常なレゾルバとして用いることができる。